説明

有機機能性素子蒸気乾燥装置

【課題】蒸気乾燥法においては、枚様基板上の有機皮膜中の残存溶媒を除去するには、該基板の温度を蒸気より低く設定する必要があるが、蒸気温度を高く維持したまま基板温度との温度差を十分にとることが難しいという問題がある。
【解決手段】装置内において複数の基板を並列に離間して固定し移動させるための基板ホルダーと該基板ホルダーを搬送する手段、超音波発振装置を備え液体の溶媒を保持する洗浄槽、液体の溶媒を保持するリンス槽、前記液体の溶媒の蒸気を生じさせる手段を備えた蒸気槽、を具備する有機機能性素子蒸気乾燥装置であって、前記蒸気槽は、前記液体の溶媒の蒸気温度よりも低温の前記液体の溶媒を基板表面に間欠的に射出する基板冷却装置を備えた有機機能性素子蒸気乾燥装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に塗布された有機膜を乾燥する装置に係わる。特には、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とする)、有機太陽電池および有機機能層トランジスタ等、有機溶剤の除去と乾燥を必要とする有機機能性素子の蒸気乾燥装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部材の薄型軽量化やフレキシブル化を目標として、有機機能性材料を用いた有機EL素子、有機太陽電池、有機機能層トランジスタ等の有機機能性素子の開発が盛んに行われている。これらの有機機能性素子は一般に数十から数千nm程度の膜厚を有する有機機能層を基板上にパターン形成する必要がある。
【0003】
有機機能性材料には低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、この際微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化するほどパターニング精度が出にくいという問題がある。また、蒸着法では蒸着源が通常ボートのピンホールや坩堝のような点形状であるため、大型化した基板に対し膜厚が均一になるように層を形成するのは困難である。また、蒸着法は高真空下で行われることが多く、そのために大掛かりな真空装置が必要になる。
【0004】
一方、有機機能性材料を溶媒に溶解もしくは分散させた塗工液(インキ)にし、これをウェットプロセスにて薄膜形成する方法が試みられつつある。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法・バーコート法・ディップコート法等がある。特に高精細パターニングするためには、塗り分けやパターニングが比較的容易な印刷法による薄膜形成が最も有効と考えられる。
【0005】
印刷法は有機機能性素子を製造する方法として非常に有力である。特に高分子材料を用いた場合には、容易に平坦で均一な有機機能性層を基板上にパターン形成することが可能である。しかしながら、基板上に印刷された有機機能層は溶媒を含むために、その溶媒を除去するための乾燥工程が必要となり、その方法として、減圧乾燥法(例えば特許文献1)、加熱乾燥法(例えば特許文献2)、加圧加熱乾燥法(例えば特許文献3)等の技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、通常、凸版印刷法、凹版オフセット印刷法、インクジェット印刷法、等といった印刷法により基板上に有機機能性層を形成する場合には、印刷工程中のインキの乾燥を防ぐために、大気圧下で150℃以上の高い沸点を有する溶媒を用いることが多く、大気圧もしくは減圧・加圧条件下における加熱乾燥では有機機能性層から溶媒を充分に除去することが出来ないという問題がある。そして、有機機能性層にこのような高沸点溶媒が残留すると、有機機能性素子の特性が期待される値より低下もしくは素子の劣化が加速するという問題があった。
【0007】
また、有機機能層に残留する高沸点溶媒(以下、残留溶媒とも記す)の除去を目的として高温で加熱を行うと、有機機能性素子を構成する材料の劣化を招く恐れがあり、更に基板が樹脂フィルムであると基板そのものが変色、劣化、形状変化を起こすので十分な加熱ができないという問題があった。加えて、加熱時に酸素や水が共存すると、それらが有機機能層と化学反応を起こし素子特性の劣化を加速させるという問題もある。特に酸素は、有機機能性材料として多用されるπ電子系分子の二重結合部位と反応を起こしやすいため、それらの有機機能層を高温過熱する場合には窒素やアルゴンのような不活性雰囲気下で行う必要がある。
【0008】
そこで、有機機能層を劣化させずに、塗着した有機機能層から残留溶媒を充分に除去するために、乾燥温度の低い純粋な乾燥溶媒によって先ず残留溶媒を置換し、その後乾燥溶媒を有機機能層から低温で揮発除去することによって塗工膜を乾燥させ、有機機能層を形成する方法がある。残留溶媒と乾燥溶媒を置換する方式としては、有機機能層を形成した基板を乾燥溶媒中に浸漬させる浸漬乾燥法、基板上に形成された有機機能層にスプレーにて乾燥溶媒を噴霧するスプレー乾燥法、乾燥溶媒の蒸気中に有機機能層を形成した基板を暴露し基板表面で乾燥溶媒を結露させる蒸気洗浄法等がある。
【0009】
なかでも蒸気乾燥法は、基板表面に満遍なく純粋な乾燥溶媒が結露し、且つ結露した乾燥溶媒は直ぐに流れ落ちて、また新たに乾燥溶媒の結露が生じるという過程が繰り返されるため、均一で効率的な洗浄と乾燥が容易である。
【0010】
しかしながら、蒸気乾燥法では、蒸気が基板表面に接触するため、基板の温度が徐々に上昇し、やがて基板の表面温度が蒸気温度と等しくなって、洗浄溶媒の結露が停止し、それ以上蒸気乾燥が進行しなくなり乾燥不足になる場合がある。
【0011】
基板の表面温度の上昇を防ぐためには、基板を冷却し、蒸気温度よりも常に低く保つ必要がある。これを装置的に解決する方法が、蒸気乾燥装置とほぼ同様の構成であるが主な目的を機械部品等の洗浄とする蒸気洗浄装置において開示されている(特許文献4、5)。しかしながら、この技術は、被洗浄体として機械部品等を対象としているため、有機機能層を形成した基板、特に複数枚の基板を備える基板ホルダーに適用することは困難であった。
【特許文献1】特開平9−97679号公報
【特許文献2】特開2002−313567号公報
【特許文献3】特開2005−26000号公報
【特許文献4】特開平7−116616号公報
【特許文献5】特開平9−327669号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
一般に蒸気化した洗浄液を機械部品表面に結露させて、機械部品を覆う異物・切削屑等とともに流れ落とすための蒸気洗浄装置においては、洗浄されるべき機械部品の温度は洗浄液の純粋な蒸気が結露するように蒸気温度よりも一定程度低温に保つ必要がある。ところが冷却手段として、冷媒が流過する中空状のパイプを格子状に配置した冷却ジャケットに被冷却物体を当接するものでは(特許文献5)、有機機能層が形成された枚様基板の表面にて均一な結露を維持し続ける必要がある蒸気乾燥装置の冷却手段としては好ましくない。装置として複雑で大掛かりとなるという問題、乾燥溶媒蒸気と冷却ジャケットが共存する中で、蒸気に晒された被冷却物体の温度を適切な値に維持するには、ひとつには後述するように冷媒の温度をあるサイクルで変化させる必要があるが、冷却ジャケット方式では適切なサイクルで冷媒の温度を切り替え、熱伝導で枚様基板に伝達することが難しいという問題がある。冷媒の温度を切り替えず一定にする場合には、冷却ジャケットの設定温度と蒸気の温度等で決まる平衡状態で蒸気の結露が基板上で進行することになるが、蒸気温度を高く維持したまま基板温度との温度差を十分にとることが難しいという問題がある。
そこで本発明の課題を、できるだけ蒸気乾燥効率が上がるように蒸気の温度を高く維持したまま枚様基板と温度差が十分とれるような、しかも構造的に簡単な基板冷却装置を備える蒸気乾燥装置を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するするための請求項1に記載の発明は、
装置内において複数の基板を並列に離間して固定し移動させるための基板ホルダーと該基板ホルダーを搬送する手段、
超音波発振装置を備え、液体の溶媒を保持する洗浄槽、
液体の溶媒を保持するリンス槽、
前記液体の溶媒の蒸気を生じさせる手段を備えた蒸気槽、
を具備する有機機能性素子蒸気乾燥装置において、
前記蒸気槽は、前記液体の溶媒の蒸気温度よりも低温の前記液体の溶媒を基板表面に間欠的に射出する基板冷却装置を備えることを特徴とする有機機能性素子蒸気乾燥装置としたものである。
【0014】
請求項2に記載の発明は、上記基板冷却装置が、スプレーノズルから前記液体の溶媒を霧状にして基板表面に噴霧する基板冷却装置であることを特徴とする請求項1に記載の有機機能性素子蒸気乾燥装置としたものである。
【0015】
請求項3に記載の発明は、上記基板冷却装置が、スリット状のノズルからカーテン状にした前記液体の溶媒を基板表面にかけ流しにする基板冷却装置であることを特徴とする請求項1に記載の有機機能性素子蒸気乾燥装置としたものである。
【0016】
請求項4に記載の発明は、前記液体の溶媒を基板表面に間欠的に射出するサイクルが5秒〜10秒であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機機能性素子蒸気乾燥装置としたものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、蒸気槽に保持した基板に対し、基板冷却装置から、冷却用溶媒として低温の洗浄溶媒を間欠的に供給することにより、蒸気温度を限界ぎりぎりに維持したまま、基板温度との間に一定の温度差を保ち続けることが可能になり、所望の乾燥時間にて、充分に残留溶媒を除去することが可能になった。特に洗浄溶媒の供給条件を請求項4に記載の通り、5秒〜10秒のサイクルで供給と停止を繰り返す場合に、乾燥条件が良好な状態で基板温度と蒸気温度を保持することが可能になった。
【0018】
さらに、請求項2の記載のスプレーノズル、もしくは、請求項3に記載のスリット状のノズルから低温の洗浄溶媒を供給するという極めて簡単な構成で、複数枚を並列に並べて基板を同時に処理する場合にも、基板面内及び基板間での温度バラツキを抑えて均一で効率的な乾燥処理を行うことが可能になった。このようにして残留溶媒を除去して製造した有機機能性素子、例えば有機EL素子は高輝度で寿命の長いものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0020】
印刷法は、量産性に優れ、製造コストを低く抑えることが可能であり、具体的な方式としては、フレキソ印刷、オフセット印刷やグラビア印刷等が挙げられる。
【0021】
フレキソ印刷は、ゴム又は樹脂からなるフレキシブルな凸版が設置されたシリンダ状の版胴と、アニロックスロールと呼ばれる表面に細かい凹部(セル)が彫刻されたインキロールと、溶剤乾燥型のインキとを用いた印刷方式であり、従来、包装紙等の簡単な印刷物に広く使用されている。
このフレキソ印刷は、膜厚0.01〜0.2μm程度の薄くて安定した印刷層の形成に特に適している。また、フレキソ印刷は印圧がかかる凸版部に柔軟性があり、更に、キスタ
ッチと呼ばれるごく低印圧での印刷であることから、硬いガラス基板や高圧をかけることによって組織が破壊され得る透明電極等が成膜された基板に対する印刷にも適しているため、有機機能性素子の製造に特に適した印刷方法である。
【0022】
有機機能層を印刷法により形成する場合には高沸点溶媒を用いる必要がある。このため単純な加熱乾燥では高沸点溶媒を有機機能層の塗工膜から除去するために長時間を要し、また必ずしも充分に除去することは出来ない。さらには、有機機能層を高温下に長時間晒すことになると、有機機能層の損傷・劣化、ひいては有機機能性素子の特性の低下につながってしまう。
【0023】
そこで、有機機能層を劣化させず、かつ塗工液の溶媒を充分に除去するために、高沸点溶媒より低温側に沸点を有する乾燥溶媒によって残留溶媒を置換し、次にこの乾燥溶媒を低温にて有機機能層から揮発除去することによって塗工膜を乾燥させ、有機機能層を形成する方法がある。
乾燥溶媒としては、溶媒置換させるために、残留溶媒と混合可能な溶媒である必要があり、かつ有機機能層には溶解しない不活性な溶媒である必要がある。
【0024】
ところで、有機機能性材料として使用されている材料の多くは芳香環の構造を有するπ電子系の材料である。そのような化合物はトルエンやキシレン等の芳香族系の溶媒に溶けやすい。また、π電子系の材料にイオン性の置換基やドーパントを混合して用いる場合もあるが、これらの材料はアルコール等の極性が高い溶媒に溶けやすい。
【0025】
上述のように、有機機能性材料は、トルエン、キシレン、アセトン、メチルアニソール、ジメチルアニソール、安息香酸エチル、安息香酸メチル、メシチレン、テトラリン、アミルベンゼン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル等の単独又は混合溶媒に溶解又は分散させて塗布液(インキ)として用いることができる。
π電子系の有機機能性材料からなる膜はフッ素原子を多く含む溶媒に対しては非常に低い溶解性を示すが、芳香族系溶媒やアルコール等の溶媒とフッ素原子を多く含む溶媒は混合する。したがって、フッ素系溶媒は乾燥溶媒として必要とされる前記の条件を満たすものであり、有機機能層を溶解させることなく、その中に含まれる残留溶媒だけを乾燥溶媒と置換することができる。更にフッ素原子を多く含む溶媒は、同程度の分子量を有する炭化水素溶媒と比較して、揮発性が高く、塗れ性も良好である。
【0026】
また、乾燥溶媒と有機機能層内部の残留溶媒を効率的に置換するには、乾燥溶媒を有機機能層内部まで浸透させる必要があり、そのためには乾燥溶媒の表面張力は低い方が好ましく、具体的には乾燥溶媒の表面張力は25mN/m以下とすることが好ましい。
【0027】
このような乾燥溶媒としては、特に一分子中にフッ素原子を5個以上含む化合物を好適に用いることが出来る。具体的には、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、トリデカフルオロヘキシルメチルエーテル等のフルオロエーテル類1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、オクタフルオロ−2−ブテン等のフルオロアルカン類並びにフルオロアルケン類、ヘキサフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、オクタフルオロトルエン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のフルオロアルコール類、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール等のフルオロアルコール類等を好適に用いることが出来る。即ち本発明にあっては洗浄溶媒として、一分子中にフルオロ基(フッ素基)を置換基として5つ以上含むエーテル類、アルカン類、アルケン類、アリール類、アルコール類等を好適に使用することが出来る。
【0028】
本発明の有機機能層の製造装置の具体例を図1及び図2を用いて説明する。
【0029】
本製造装置は、少なくとも基板を固定するための基板ホルダー2、乾燥溶媒3aが満たされた洗浄槽4、同じく乾燥溶媒3aで満たされたリンス槽5、基板冷却装置7(以下、冷却装置とも記す)、乾燥溶媒の蒸気を発生させる手段を有する蒸気槽6を備えている。まず、有機機能層が塗布された基板1を基板ホルダー2に設置する。基板ホルダーは、液体や蒸気の流通が可能な構造となっており、基板表面に乾燥溶媒の蒸気が直に接することができる。このとき、基板表面の蒸気の流通性を高め、且つ基板表面に結露した乾燥溶媒を流れ落ちやすくするため、基板を縦置きに設置するのが好ましい態様である。また、基板ホルダーに、複数枚の基板を並列で設置すれば、同時に複数枚の基板を処理できる。
なお、基板は予め、加熱乾燥などの予備過熱を行っても良い。
【0030】
次に、基板ホルダー2を乾燥溶媒3aで満たされた洗浄槽4に浸漬して超音波洗浄を施す。より均一な洗浄・乾燥効果を得るために洗浄槽内で基板ホルダーを揺動させても良い。ただし、基板上に塗布された有機機能層が剥離しやすい場合には、超音波の発振は不要である。
【0031】
次に、乾燥溶媒で満たされたリンス槽5まで基板ホルダーを搬送した後浸漬させる。リンス槽内の乾燥溶媒は攪拌しても良いし、リンス槽内で基板ホルダーを揺動させても良い。リンス槽内の乾燥溶媒の温度は低いことが好ましい。乾燥溶媒の温度が低いと浸漬された基板の温度もそれに応じて低く、次の蒸気槽6で処理をする際に基板温度上昇が抑えられ、洗浄乾燥の効率が良くなる。ただし、あまり低すぎると、リンス槽から基板ホルダーを引き上げた際、基板表面に水等の乾燥溶媒以外の液体が結露する恐れがあるため、10〜25℃程度が好ましい。
【0032】
続いて、蒸気槽6内に基板ホルダー2を設置する。蒸気槽は下部に乾燥溶媒3aを溜める槽が設けられており、更に乾燥溶媒中にヒータ6aが浸漬して設置されている(蒸気槽6の拡大図である図2を参照のこと)。乾燥溶媒3aはヒータ6aによって加熱され、基板ホルダー2が設置されている蒸気槽上部は、乾燥溶媒の蒸気3bで充満している。この蒸気3bは蒸気槽の上部に設置された冷却部8により冷却され、下部に流れ落ちる。
【0033】
乾燥溶媒の蒸気は、該乾燥溶媒より低温の基板ホルダー内の基板表面に吸着し、基板に熱を奪われて結露し、蒸気槽下部に流れ落ちる。その際、乾燥溶媒と置換され乾燥溶媒中に溶出した有機機能層内の残留溶媒も乾燥溶媒と共に流れ落ちる。
【0034】
しかしながら、蒸気槽内に充満した乾燥溶媒の中に基板ホルダー2を設置し続けることにより、基板ホルダー内の基板の温度が上昇し、乾燥溶媒の蒸気と同じ温度になった時点で、基板表面の乾燥溶媒の結露が止まってしまう。そこで、基板温度を常に乾燥溶媒の蒸気の温度よりも低く保持することが必要で、そのための冷却機構として、蒸気槽内に設置した基板冷却装置7から、基板1の有機機能層が形成されていない側の面に、冷却液を供給する機構を設ける。このとき、冷却液として、常温の乾燥溶媒を使用すれば、基板冷却装置から供給された乾燥溶媒は蒸気槽の下部の槽に溜まり、ヒータで加熱され再び蒸気となって蒸気槽内に送られることとなる。冷却液と乾燥溶媒が同じであるので、相違する場合に必要となる特別な仕組みや装置は必要がない。
【0035】
このとき、冷却液となる乾燥溶媒の射出方法としては、スプレーノズルから乾燥溶媒を霧状にして基板表面に噴霧する方法や、スリットノズルから乾燥溶媒をカーテン状にして基板表面にかけ流す方法が考えられる。なお、スプレーノズルを使用する場合には、複数枚並列で並べられた基板間の間隙を利用して、基板の片面にのみ乾燥溶媒を噴霧するために、乾燥溶媒を扇状に噴霧するフラットノズルを使用するのが好ましい。
【0036】
例えば、基板冷却装置7の蒸気層6では、図2に示すような形態で、蒸気槽内に基板ホルダーが設置される位置に対し、基板の隙間に乾燥溶媒を射出可能な位置及び角度にてスプレーノズルもしくはスリットノズルを設置しておくことにより、複数枚の基板に対し、同時に均一に乾燥溶媒にて冷却することが可能である。
【0037】
しかしながら、基板冷却装置7から、常温の乾燥溶媒を供給し続けた場合、基板温度だけでなく基板の周りの雰囲気温度も徐々に低下していき、いずれ乾燥溶媒の純粋な蒸気が基板ホルダーの位置まで上昇してこなくなる。複数枚を並列に設置した基板の隙間の蒸気雰囲気に常温の乾燥溶媒を供給した場合には、特に温度低下の傾向が強くなる。このことは乾燥能力の著しい低下となる。
そこで、基板冷却装置は、乾燥溶媒の射出供給と停止を所定のサイクルで繰り返す機構とする必要がある。例えば、基板冷却装置の乾燥溶媒を供給する配管の途中に設定したタイマー等により一定間隔で開/閉を繰り返す電磁弁を設ける機構等が考えられる。
すると、基板が、常温の乾燥溶媒に触れると直ぐに基板温度が低下するが、常温の乾燥溶媒の供給を停止すると蒸気によって徐々に温度上昇するのに対し、雰囲気温度は、常温の乾燥溶媒によって徐々に温度低下しても、常温の乾燥溶媒の供給を停止すると新しい蒸気が供給され直ぐに温度上昇するため、基板温度と該基板を覆う雰囲気温度に一定の温度差が保たれることになる。図3に基板冷却装置を間欠動作させたときの基板温度と雰囲気温度の測定結果を示し、図4に基板冷却装置を非間欠的に連続動作させたときの基板温度と雰囲気温度を示す。基板冷却装置を間欠動作させた方は、雰囲気温度の低下が殆ど無く、基板温度との差が大きく14,5℃程度であった。
一方連続運転では、雰囲気温度が低下し差も8℃程度しかなかった。
【0038】
基板冷却装置を間欠運転する間隔であるが、間隔が短すぎると、基板冷却装置を連続運転した場合と同じような効果となり、逆に間隔が長すぎると、雰囲気温度の温度落差が大きくなってしまい蒸気の供給が不安定になる。基板冷却装置からの乾燥溶媒の供給と停止は5秒〜10秒のサイクルで繰り返すのが最も適当であった。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を具体的な有機機能性素子の乾燥に適用した例について説明する。
【0040】
(実施例1:有機EL素子)
ITO付ガラス基板を用意し、そのITOを所定のパターンにエッチングした。次いで、エッチングしたITO上に、電子輸送層の塗工液としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物を水に分散させた液を、フレキソ印刷法にて基板上にパターン状に塗布した。この基板を200℃にて3分、大気下で乾燥させた。乾燥後の厚さは50nmであった。
【0041】
また、発光層の塗工液としてポリアリーレンビニレン系高分子発光体であるポリ(2−(2−エチルヘキシロキシメトキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン)(ガラス転移温度196℃)とトルエン50%とジエチルベンゼン50%の混合溶媒に溶解し、基板上にフレキソ印刷法によりパターン状に塗布した。
【0042】
さらに、乾燥工程において、有機機能層である発光層を塗布した基板20枚を縦に並列に設置した基板ホルダーを、図1に示した装置を用いてトルエンとジエチルベンゼンからなる残留溶媒の除去を行った。乾燥溶媒としてエチルノナフルオロブチルエーテルを使用した。洗浄槽では25℃の乾燥溶媒中で26Hz、45Hz、100Hzの3周波の超音波洗浄を5min行い、リンス槽では15℃の乾燥溶媒に10分浸漬させた。次いで、蒸気槽では、基板ホルダーごと蒸気に10分間晒しながら、蒸気槽内に設けられた基板冷却
装置のスプレーノズルから23℃の乾燥溶媒を霧状にして、基板の有機機能層が形成されていない側の面に10秒周期で5秒ずつ噴射を繰返した。
【0043】
次に、有機機能層を形成した基板上に、リチウム及びアルミニウムを真空蒸着によりそれぞれ0.5nm、200nm設けて有機EL素子を得た。
【0044】
得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は3000hrであった。
【0045】
同様な工程で有機機能層基板を形成し、乾燥工程を終えた後、有機機能層中の各溶媒の残留濃度をガスクロマトグラフ質量分析計にて測定したところ、トルエン、ジエチルベンゼン共に濃度が<0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0046】
(比較例)
実施例1と同様の発光層の塗工液を塗布後の基板を、130℃、30Paの減圧オーブンに3時間入れることで乾燥し、本発明による蒸気乾燥装置を用いなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、有機EL素子を作製した。
【0047】
得られた有機EL素子に10Vの電圧を印可したところ、100cd/m2のパターン化された発光を示した。また、初期輝度100cd/m2にて定電流駆動時の輝度半減時間を測定したところ、輝度半減寿命は1500hrであった。また、乾燥させた有機機構層中のトルエン濃度は0.1ppm(検出限界以下)であったが、ジエチルベンゼンの濃度は20ppmであった。
【0048】
(実施例2:有機太陽電池)
有機機能性材料のインキとして、ポリ(2−(2−エチルヘキシロキシメトキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン)とトルエン50%とジエチルベンゼン50%の混合溶媒の代わりに、ポリ(2−メトキシ−5−(3,7−ジメチルオクチロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)(MDMO−PPV)と[6,6]−フェニルC61−酢酸メチルエステル(PCBM)を1:4に混合したものをパラジクロロベンゼン(沸点180−183℃)に溶解させたものとした点と、乾燥溶媒を1,1,2,2,3,3,4−ヘプタフルオロシクロペンタンに変更した点、洗浄槽・リンス槽の温度をそれぞれ30℃・25℃とした点以外は、実施例1と同様な工程を用いて有機太陽電池を作製した。
【0049】
得られた有機太陽電池はAM1.5にて効率2.0%を得た。また、乾燥させた有機機能層中に残留したパラジクロロベンゼンの濃度は、<0.1ppm(検出限界以下)であった。
【0050】
(実施例3:有機薄膜トランジスタ)
基板としてポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用い、無機絶縁層としてSiO2を30nm成膜した。そして、フレキソ印刷法にてAgナノインクのインキを基板上に塗布し、ソース電極、ドレイン電極を形成し、形成後180℃で1分の乾燥を行った。さらに有機半導体層としてポリチオフェンのジエチルベンゼン溶液フレキソ印刷にてソース電極、ドレイン電極間に塗布した。
【0051】
さらに、乾燥工程において、有機半導体層を塗布した基板20枚を縦に並列に設置した基板ホルダーを、図1に示された装置を用いて残留溶媒の除去を行った。乾燥溶媒として1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンを使用した。洗浄槽では25℃の乾燥溶媒中で26Hz、45Hz、100Hzの3周波の超音波洗浄を5分間行い、リンス槽では1
5℃の乾燥溶媒に10分浸漬させた。次いで、蒸気槽では、基板ホルダーごと蒸気に10min晒しながら、蒸気槽内に設けられた基板冷却装置のスプレーノズルから23℃の乾燥溶媒を霧状にして、基板の有機機能層が形成されていない側の面に10秒周期で5秒ずつ噴射を繰返した。
【0052】
乾燥後の基板にゲート絶縁層としてポリビニルフェノールのイソプロピルアルコール溶液をスピンコートし、100℃30分間の乾燥を行った。最後に、マスク蒸着によって、Alを30nm蒸着し、トップゲート型の薄膜トランジスタとした。
【0053】
作製した有機薄膜トランジスタは、良好なVd−Id特性やVg−Ig特性を示した。移動度は5×10−4cm2/Vs程度であった。有機機能層中のジエチルベンゼンの濃度は<0.1ppm(検出限界以下)であった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】・・・本発明になる有機機能性素子製造装置の概略図
【図2】・・・本発明による有機機能性素子製造装置の基板冷却装置のノズル配置の概略図
【図3】・・・基板冷却装置を間欠動作させたときの基板温度と雰囲気温度の測定結果
【図4】・・・基板冷却装置を連続動作させたときの基板温度と雰囲気温度の測定結果
【符号の説明】
【0055】
1 ・・・基板
1a・・・有機機能層
2 ・・・基板ホルダー
3a・・・乾燥溶媒
3b・・・乾燥溶媒の蒸気
3c・・・低温の乾燥溶媒
4 ・・・洗浄槽
4a・・・超音波発振器
5 ・・・リンス槽
6 ・・・蒸気槽
6a・・・ヒータ
7 ・・・基板冷却装置
7a・・・ノズル
8 ・・・蒸気冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
装置内において複数の基板を並列に離間して固定し移動させるための基板ホルダーと該基板ホルダーを搬送する手段、
超音波発振装置を備え液体の溶媒を保持する洗浄槽、
前記液体の溶媒を保持するリンス槽、
前記液体の溶媒の蒸気を生じさせる手段を備えた蒸気槽、とを具備する有機機能性素子製造装置において、前記蒸気槽は、前記液体の溶媒の蒸気温度よりも低温の前記液体の溶媒を基板表面に間欠的に射出する基板冷却装置を備えることを特徴とする有機機能性素子蒸気乾燥装置。
【請求項2】
上記基板冷却装置が、スプレーノズルから前記液体の溶媒を霧状にして基板表面に噴霧する基板冷却装置であることを特徴とする請求項1に記載の有機機能性素子蒸気乾燥装置。
【請求項3】
上記基板冷却装置が、スリット状のノズルからカーテン状にした前記液体の溶媒を基板表面にかけ流しにする基板冷却装置であることを特徴とする請求項1に記載の有機機能性素子蒸気乾燥装置。
【請求項4】
前記液体の溶媒を基板表面に間欠的に射出するサイクルが5秒〜10秒であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の有機機能性素子蒸気乾燥装置。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−51912(P2010−51912A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221192(P2008−221192)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】