説明

有機薄膜トランジスタとその製造方法、及びそれを用いたアクティブマトリクス型のディスプレイと無線識別タグ

本発明の有機薄膜トランジスタは、基板(11)と、基板(11)上に設けられた有機半導体からなる半導体層(14)とを有し、半導体層(14)は、前記有機半導体の結晶から構成され、前記結晶の結晶相は、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一である。また、本発明の有機薄膜トランジスタの製造方法は、基板(11)上に有機半導体を蒸着して半導体層(14)を形成する有機薄膜トランジスタの製造方法であって、前記有機半導体を蒸着する際、基板(11)の温度を40〜150℃の範囲に保持し、0.1〜1nm/分の蒸着速度で蒸着することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、有機半導体からなる半導体層を含む有機薄膜トランジスタとその製造方法、及びそれを用いたアクティブマトリクス型のディスプレイと無線識別タグに関する。
【背景技術】
現在、薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という)はアクティブマトリクス型の液晶ディスプレイ等の駆動素子として使用されている。TFTの構成は、一般的には半導体層に接触して設けられたソース電極とドレーン電極との間に流れる電流を、半導体層に対して絶縁層を介して設けられたゲート電極から印加される電界により制御できるように構成されている。
現在実用化されているTFTの半導体層の構成材料としては、結晶シリコンに特性面では劣るものの、安価であるアモルファスシリコンや低温ポリシリコン等が使用されている。また、現在実用化されているTFTの絶縁層の構成材料としては、酸化シリコンや窒化シリコン等が使用されている。これらの構成材料を用いたTFTの製造プロセスは、プラズマ化学蒸着法(プラズマCVD法)等に使用される大規模な装置や、精密加工のための薄膜制御装置を必要とするため、高コストプロセスであり、また、一般に350℃を越える処理温度のプロセスを含むため、使用できる材料には制限がある。
他方、近年TFT用の半導体材料として有機半導体が注目されており、この有機半導体を用いた様々な構成のTFT(以下、「有機TFT」という)が提案されている。有機半導体は、前述の無機系の半導体に比べて、スピンコーティング法、インクジェット印刷法、浸漬コーティング法等の低コストプロセスで成膜できる可能性があり、低温プロセスでの成膜も期待できる。また、前述した低コストプロセスや低温プロセスが適用可能であることにより、フレキシブルな基板上や大面積の基板上へのTFTの形成が可能となり、これによって、シートライク又はペーパーライクなディスプレイや、大画面ディスプレイ等への用途拡大が期待されている。また、有機TFTは、薄型化及び軽量化が可能であることから、Radio Frequency Identification(RFID)タグ等の無線識別タグへの応用も期待されている。
更に、前記有機半導体として、動作電圧が低く、かつキャリア移動度の向上が可能なペンタセンを使用した有機TFTが報告されている(例えば、特開2000−269515号公報(以下、特許文献1という)や「C.D.Dimitrakopoulos、他1名、“Organic thinfilm transistors:A review of recent advances”、IBM J.RES.& DEV.、VOL.45、NO.1、JAN 2001、p19、Fig.7」(以下、非特許文献1という)参照)。
図7は、従来の有機TFTの構成を示す断面図である。図7に示すように、有機TFT100は、基板101と、基板101上に設けられたゲート電極102と、基板101及びゲート電極102上に順次積層されたゲート絶縁層103及び半導体層104と、半導体層104上に分離して設けられたソース電極105及びドレーン電極106とを備えている。そして、ゲート電極102は、半導体層104の電界効果チャネル104aに面して配置されている。
有機TFT100の製造方法は、まず、基板101上にゲート電極102として、例えば蒸着法等により金属電極を設ける。次に、ゲート電極102上にゲート絶縁層103として、例えばスパッタリング法等により無機酸化物層を設ける。続いて、ゲート絶縁層103上に半導体層104として、例えば蒸着法等により有機半導体層を設ける。そして、半導体層104上にソース電極105及びドレーン電極106として、例えば蒸着法等により金属電極を設けて、有機TFT100が得られる。
非特許文献1では、基板101の温度を室温(27℃)に保持し、ゲート絶縁層103上に、6nm/分の蒸着速度でペンタセンを蒸着して半導体層104を形成した有機TFT100が提案されている。前記有機TFT100では、電界効果チャネル104aのキャリア移動度が0.6cm/Vsとなり、高い値が得られた。
しかし、前記有機TFT100の半導体層104を構成するペンタセン結晶は、その結晶構造が熱的に不安定であるため、高温下で長時間放置すると結晶構造が変化し、キャリア移動度が経時劣化するおそれがある。
図8は、前記有機TFT100の半導体層104を構成するペンタセン結晶の結晶構造が熱により変化する現象を説明するための概念図で、図8Aは加熱前、図8Bは60℃で100時間加熱した後の状態を示す。加熱前のペンタセンPの結晶構造(図8A参照)は、単一の結晶相110を有していたが、加熱後において一部がより安定な結晶相111(図8B参照)へと変化することが、本発明者らによってX線回折法を用いて確認された。その結果、結晶相110と結晶相111との間113に生ずる多くの粒界により、キャリア移動度が、0.6cm/Vsから、0.001cm/Vs以下まで劣化した。
また、特許文献1では、上記非特許文献1と知見を同じくする有機TFT及びその製造方法が提案されているが、特許文献1の有機TFTについても、半導体層を構成する有機半導体の結晶構造が熱的に不安定であるため、非特許文献1と同様にキャリア移動度が経時劣化するおそれがある。
【発明の開示】
このような状況に鑑み、本発明は、キャリア移動度の経時劣化を抑制することができる有機TFTとその製造方法、及びそれを用いたアクティブマトリクス型のディスプレイと無線識別タグを提供する。
本発明の有機TFTは、基板と、前記基板上に設けられた有機半導体からなる半導体層とを有し、前記半導体層は、前記有機半導体の結晶から構成され、前記結晶の結晶相は、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一であることを特徴とする。
ここで、「有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶」とは、有機半導体を気化させ、所定の析出温度で徐冷させながら析出させたバルク結晶であって、27℃と180℃との間において、結晶相が実質的に変化しないものをいう。具体的には、結晶の27℃におけるX線回折パターンの回折線のピーク強度を基準とした際、27℃と180℃との間において、同じピーク位置の回折線強度が90〜110%の範囲内に維持される場合に、前記結晶をエネルギー的に最安定なバルク結晶という。ただし、結晶が、27℃から180℃までの間で液体または気体に変化する場合は、27℃から、液体または気体に変化する温度よりも20℃低い温度までの範囲で、同じピーク位置の回折線強度が90〜110%の範囲内に維持される場合に、前記結晶をエネルギー的に最安定なバルク結晶という。
また、「有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶と同一」とは、エネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同じ結晶相が、前記有機半導体からなる結晶の90%以上を占めていることをいう。
本発明の有機TFTの製造方法は、基板上に有機半導体を蒸着して半導体層を形成する有機TFTの製造方法であって、前記有機半導体を蒸着する際、前記基板の温度を40〜150℃の範囲に保持し、0.1〜1nm/分の蒸着速度で蒸着することを特徴とする。
本発明のアクティブマトリクス型のディスプレイは、画素のスイッチング素子として、本発明の有機TFTが複数個配置されている。
本発明の無線識別タグは、集積回路部を備えた無線識別タグであって、前記集積回路部には、本発明の有機TFTが設けられていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の第1実施形態に係る有機TFTの構成を示す断面図である。
図2は、本発明の第1実施形態に係る有機TFTの製造方法を示すフローチャートである。
図3は、本発明の第2実施形態に係る有機TFTの構成を示す断面図である。
図4は、本発明の第3実施形態に係るアクティブマトリクス型のディスプレイの一部破断斜視図である。
図5は、本発明の第4実施形態に係る無線識別タグの斜視図である。
図6は、ペンタセン結晶のX線回折パターンを示す図であり、図6Aは、ペンタセンのエネルギー的に最安定なバルク結晶のX線回折パターンを示し、図6Bは、本発明の実施例1の半導体層を構成するペンタセン結晶のX線回折パターンを示し、図6Cは、比較例1の半導体層を構成するペンタセン結晶のX線回折パターンを示し、図6Dは、比較例2の半導体層を構成するペンタセン結晶のX線回折パターンを示す。
図7は、従来の有機TFTの構成を示す断面図である。
図8は、従来の有機TFTの半導体層を構成する有機半導体の結晶構造が熱により変化する現象を説明するための概念図であり、図8Aは加熱前、図8Bは60℃で100時間加熱した後の状態を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の有機TFTは、基板と、前記基板上に設けられた有機半導体からなる半導体層とを有する。前記基板は、特に限定されないが、薄膜化及び軽量化が可能なプラスチック板や、機械的柔軟性及び耐衝撃性を向上させることができるプラスチックフィルムが好適である。前記プラスチック板や前記プラスチックフィルムの材料としては、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリ尿素、ポリフェニルスルホン、ポリカーボネート等が好ましい。また、前記基板の好ましい厚みは、0.02〜2mmである。
前記有機半導体としては、π共役系オリゴマー等の低分子系有機半導体材料や、π共役系ポリマー等の高分子系有機半導体材料等が好適に使用できる。特に、アセン系材料、フタロシアニン系材料及びチオフェン系材料のうち少なくとも1つの材料を含む有機半導体が好ましい。前記アセン系材料としては、ペンタセンが好ましい。また、前記フタロシアニン系材料としては、中心に金属を配位させたフタロシアニン錯体が好ましく、中心金属としては、電気特性と保存安定性の観点から、銅、鉄、ニッケル、コバルト、亜鉛等の単一の金属や、チタニル、バナジル等の金属複合体等が好ましい。また、前記チオフェン系材料としては、オリゴチオフェンやポリチオフェンが利用でき、結晶性や保存性の観点から、側鎖や末端にアルキル基等の官能基が導入されたものも好適に利用できる。さらに、チオフェン系モノマーと他のモノマーとの共重合体も利用できる。具体的には、ポリ(フルオレン−co−ビチオフェン)、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)等が挙げられる。なお、前記有機半導体からなる前記半導体層の厚みは、0.03〜1μmが好ましい。特に、トップゲート構造の有機TFTの場合は、前記半導体層の厚みが0.03〜0.3μmであることが好ましい。
そして、本発明の有機TFTは、前記半導体層が、前記有機半導体の結晶から構成され、前記結晶の結晶相が、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一であることを特徴とする。これにより、前記半導体層を構成する前記結晶の結晶相の変化を防止し、キャリア移動度の経時劣化を抑制することができる。その結果、有機TFTの長寿命化が可能となる。なお、結晶相の確認方法としては、例えば、X線回折法や吸光分析法等の分析手段により行うことができる。
また、本発明の有機TFTは、前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおける最大ピーク強度値を示す回折線のピーク位置が、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶のX線回折パターンにおけるいずれか1つの回折線のピーク位置と一致することが好ましい。これにより、前記半導体層を構成する前記結晶と前記バルク結晶との結晶相の同一性が明確なものとなり、キャリア移動度の経時劣化を確実に抑制できる。更に、前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおいて、前記最大ピーク強度値を示す結晶相に由来する回折線の合計強度値は、全回折線の合計強度値の90〜100%であることがより好ましい。これにより、前記半導体層を構成する前記結晶と前記バルク結晶との結晶相の同一性がより明確なものとなり、キャリア移動度の経時劣化をより確実に抑制できる。
また、本発明の有機TFTは、前記有機半導体としてペンタセンを使用し、前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおいて、前記結晶の結晶面の面間隔をdとした場合に、d=1.43nmの位置に最大ピーク強度値を示す回折線のピークを有する構成としてもよい。これにより、キャリア移動度の経時劣化を抑制する効果を向上させることができる。また、本発明の有機TFTは、前記有機半導体として銅フタロシアニンを使用し、前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおいて、d=1.25nmの位置に最大ピーク強度値を示す回折線のピークを有する構成としてもよい。これによっても、キャリア移動度の経時劣化を抑制する効果を向上させることができる。また、本発明の有機TFTは、前記有機半導体としてセキシチオフェンを使用し、前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおいて、d=2.24nmの位置に最大ピーク強度値を示す回折線のピークを有する構成としてもよい。これによっても、キャリア移動度の経時劣化を抑制する効果を向上させることができる。
また、本発明の有機TFTは、前記半導体層に対して電荷の授受を行う電極を更に備え、前記電極が、金属及び導電性高分子のうち少なくともいずれか一方で形成されていることが好ましい。電極材料として金属及び導電性高分子のうち少なくともいずれか一方を用いると、前記半導体層と前記電極との間の電荷の授受がより円滑に行われる。なお、前記電極は、例えば、前記半導体層に接触し、かつ互いに分離して形成されたソース電極及びドレーン電極である。また、前記電極に使用できる好適な金属材料は、例えば金、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、モリブデン等が例示できる。また、前記電極に使用できる好適な導電性高分子材料は、例えばポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン等が例示できる。また、前記電極の厚みは、0.03〜0.3μmが好ましい。
本発明の有機TFTの製造方法は、基板上に有機半導体を蒸着して半導体層を形成する有機TFTの製造方法であって、前記有機半導体を蒸着する際、前記基板の温度を40〜150℃、好ましくは50〜90℃の範囲に保持し、0.1〜1nm/分、好ましくは0.1〜0.5nm/分の蒸着速度で蒸着することを特徴とする。この製造方法によれば、半導体層を構成する有機半導体の結晶が、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶と同一の結晶相を有する有機TFTを容易に形成することができる。なお、前記基板及び前記有機半導体の材料は、前述した本発明の有機TFTの構成材料と同一のものが使用できる。
また、本発明の有機TFTの製造方法は、前記有機半導体を蒸着して前記半導体層を形成した後、前記半導体層を徐冷してもよい。これにより、前記半導体層を構成する有機半導体の結晶を安定化させ、前記結晶の結晶相の変化を効果的に抑制することができる。また、前記製造方法において、前記半導体層を徐冷する際、前記半導体層の周囲の雰囲気温度を1℃/分以下の速度で降温させることが好ましく、0.2℃/分以下の速度で降温させることがより好ましい。これにより、前記結晶をより容易に安定化させることができる。
また、本発明の有機TFTの製造方法は、前記有機半導体を蒸着して前記半導体層を形成した後、前記基板の温度を50〜150℃の範囲に保持し、前記半導体層を熱処理してもよい。これによっても、前記半導体層を構成する有機半導体の結晶を安定化させることができる。
また、本発明の有機TFTの製造方法は、前記有機半導体を蒸着して前記半導体層を形成した後、前記基板の温度を45℃以下に保持し、前記半導体層上に電極材料を蒸着して電極を形成してもよい。これにより、電極材料の被着時における有機半導体の損傷を抑制し、より特性の安定した有機TFTを形成できる。なお、前記電極材料としては、前述した本発明の有機TFTの構成材料と同一のものが使用できる。
本発明のアクティブマトリクス型のディスプレイは、画素のスイッチング素子として、本発明の有機TFTが複数個配置されている。また、本発明の無線識別タグは、集積回路部を備えた無線識別タグであって、前記集積回路部には、本発明の有機TFTが設けられていることを特徴とする。本発明のアクティブマトリクス型のディスプレイ及び無線識別タグは、いずれも前述した本発明の有機TFTを備えている。これにより、有機TFTの長寿命化が可能となり、その結果、製品自体の長寿命化が可能となる。なお、本発明のアクティブマトリクス型のディスプレイとしては、液晶表示方式、電気泳動表示方式、有機EL方式、エレクトロクロミック表示(ECD)方式、電解析出方式、電子粉流体方式、干渉型変調(MEMS)方式等が例示できる。また、本発明の無線識別タグとしては、Radio Frequency Identification(RFID)タグ等が例示できる。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態に係る有機TFTについて説明する。参照する図1は、第1実施形態に係る有機TFTの構成を示す断面図である。
図1に示すように、有機TFT1は、基板11と、基板11上に設けられたゲート電極12と、基板11及びゲート電極12上に順次積層されたゲート絶縁層13及び有機半導体からなる半導体層14と、半導体層14上に分離して設けられたソース電極15及びドレーン電極16とを備えている。また、ゲート電極12は、半導体層14の電界効果チャネル14aに面して配置されている。そして、半導体層14は、前記有機半導体の結晶から構成され、前記結晶の結晶相は、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一である。これにより、半導体層14を構成する前記結晶の結晶相の変化を防止し、電界効果チャネル14aにおけるキャリア移動度の経時劣化を抑制することができる。
ゲート電極12、ソース電極15及びドレーン電極16に使用できる物質は、導電性材料であって、基板材料や有機半導体材料と反応しないものならば特に限定されない。例えば、金、白金、パラジウム等の貴金属、リチウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、モリブデン等の金属、それらの合金等が使用できる。また、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン等の導電性高分子や、特定の不純物がドープされたシリコンも使用できる。特に、ゲート電極12は、他の電極より電気抵抗が大きい材料でも動作可能であるため、例えば製造を容易にする目的で、ソース電極15及びドレーン電極16とは異なる材料を使用することも可能である。
ゲート絶縁層13の材料としては、バリウムジルコネートチタネート(BZT)等の無機酸化物等が使用できる。BZTは、誘電率が大きいため、キャリア移動度の向上が可能となる。無機酸化物を用いたゲート絶縁層13の形成手段としては、低温でのスパッタリング法、スピニング法、蒸着法、レーザ・アブレーション法等の手段を用いることができる。これらの方法は、250℃以下の低温プロセスでゲート絶縁層13を形成できるため、プラスチック板やプラスチックフィルム等を基板として使用する場合には、特に好ましい。
また、ゲート絶縁層13の材料として、高分子材料等の有機絶縁材料を使用することもできる。この場合は、ゲート絶縁層13の形成手段として、スピンコート法、インクジェット印刷法、電着法等の低温プロセスが好適である。
なお、ゲート絶縁層13の材料は、上記材料以外でも、基板材料、電極材料及び有機半導体材料と反応しない電気絶縁材料であれば使用可能である。また、有機TFT1のゲート電圧を下げるために、誘電率の高い物質をゲート絶縁層13の材料として用いることも可能である。例えば、米国特許5981970号に例示されているような、強誘電性化合物を用いてもよい。更に、無機物に限らず、ポリフッ化ビニリデン系やポリシアン化ビニリデン系等の誘電率の大きな有機物を用いてもよい。
次に、本発明の第1実施形態に係る有機TFT1の製造方法の一例について図1及び図2を参照して説明する。図2は、第1実施形態に係る有機TFT1の製造方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、まず、基板11(図1参照)上に、例えば金等の金属をマスク蒸着してゲート電極12(図1参照)を形成する(ステップS1)。次に、基板11及びゲート電極12上に、例えばBZT等の無機酸化物をスパッタリング法等により積層させてゲート絶縁層13(図1参照)を形成する(ステップS2)。そして、基板11の温度を40〜150℃の範囲に保持し、ゲート絶縁層13上にペンタセン等の有機半導体を0.1〜1nm/分の蒸着速度で蒸着して半導体層14(図1参照)を形成する(ステップS3)。次に、半導体層14の周囲の雰囲気温度を1℃/分以下の速度で降温させて半導体層14を徐冷する(ステップS4)。これにより、半導体層14を構成する有機半導体の結晶が安定化する。続いて、基板11の温度を50〜150℃の範囲に保持し、半導体層14を熱処理する(ステップS5)。これにより、前記結晶が更に安定化する。最後に、半導体層14上に、例えば金等の金属をマスク蒸着して、ソース電極15及びドレーン電極16(図1参照)を形成し(ステップS6)、有機TFT1を得る。なお、ソース電極15及びドレーン電極16の電極材料を蒸着する際、基板11の温度を45℃以下に保持した状態で行うと、電極材料の被着時における有機半導体の損傷を抑制し、より特性の安定した有機TFT1を形成できる。
以上、本発明の第1実施形態に係る有機TFT1の製造方法の一例について説明したが、本発明は前記方法に限定されず、前記ステップS4及び前記ステップS5が省略された製造方法としてもよい。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る有機TFTについて説明する。参照する図3は、第2実施形態に係る有機TFTの構成を示す断面図である。なお、前述した第1実施形態に係る有機TFT(図1参照)と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
図3に示すように、有機TFT2は、基板11と、基板11上に設けられたゲート電極12と、基板11及びゲート電極12上に積層されたゲート絶縁層13と、ゲート絶縁層13上に分離して設けられたソース電極15及びドレーン電極16と、ゲート絶縁層13、ソース電極15及びドレーン電極16上に積層された有機半導体からなる半導体層14とを備えている。また、ゲート電極12は、半導体層14の電界効果チャネル14aに面して配置されている。そして、半導体層14は、前記有機半導体の結晶から構成され、前記結晶の結晶相は、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一である。これにより、半導体層14を構成する前記結晶の結晶相の変化を防止し、電界効果チャネル14aにおけるキャリア移動度の経時劣化を抑制することができる。なお、第2実施形態に係る有機TFT2は、第1実施形態に係る有機TFT1に対し各層の配置が異なるだけなので、前述した有機TFT1の製造方法と同様の方法により製造することができるため、有機TFT2の製造方法については説明を省略する。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図面を参照して説明する。参照する図4は、第3実施形態に係るアクティブマトリクス型のディスプレイ(有機ELディスプレイ)の一部破断斜視図である。
図4に示すように、アクティブマトリクス型のディスプレイ(以下、単に「ディスプレイ」という)3は、プラスチック基板31と、プラスチック基板31上にマトリクス状に複数配置された画素電極32と、画素電極32に接続され、プラスチック基板31上にアレイ状に複数配置された有機TFT駆動回路33と、画素電極32及び有機TFT駆動回路33上に順次積層された有機EL層34、透明電極35及び保護フィルム36と、各有機TFT駆動回路33と制御回路(図示せず)とを接続する複数本のソース電極線37及びゲート電極線38とを備えている。ここで、有機EL層34は、電子輸送層、発光層、正孔輸送層等の各層が積層されて構成されている。そして、ディスプレイ3は、各有機TFT駆動回路33に、画素のスイッチング素子として、前述した第1及び第2実施形態のいずれか一方に係る有機TFTが設けられている。このように、ディスプレイ3は、画素のスイッチング素子として、キャリア移動度の経時劣化が抑制された本発明の有機TFTが設けられているため、有機TFTの長寿命化が可能となり、その結果、ディスプレイ自体の長寿命化が可能となる。
以上、本発明の一実施形態に係るディスプレイについて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、前記実施形態では有機ELを用いたディスプレイについて説明したが、液晶表示素子等の他の表示素子を備えたディスプレイであってもよい。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について図面を参照して説明する。参照する図5は、第4実施形態に係る無線識別タグの斜視図である。
図5に示すように、無線識別タグ4は、フィルム状のプラスチック基板41と、プラスチック基板41上に設けられたアンテナ部42及び集積回路部43とを備えている。そして、集積回路部43には、前述した第1及び第2実施形態のいずれか一方に係る有機TFTが設けられている。このように、無線識別タグ4は、集積回路部43に、キャリア移動度の経時劣化が抑制された本発明の有機TFTが設けられているため、有機TFTの長寿命化が可能となり、その結果、無線識別タグ自体の長寿命化が可能となる。なお、無線識別タグ4は、表面に保護膜を更に備えていてもよい。
以上、本発明の一実施形態に係る無線識別タグについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、アンテナ部及び集積回路部の配置や構成は任意に設定できる。また、論理回路部を更に組み込むことも可能である。
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されない。
【実施例1】
まず、前述した本発明の第1実施形態の実施例である実施例1について、図1を参照して説明する。使用した材料については、基板11として厚みが0.25mmのポリイミド、ゲート絶縁層13を構成する有機絶縁材料としてポリイミド、半導体層14を構成する有機半導体材料としてペンタセン(アルドリッチ社製)、ゲート電極12、ソース電極15及びドレーン電極16を構成する導電材料として金を用いた。
実施例1の作製方法は、まず、基板11上に、マスク蒸着により金を蒸着して、ゲート電極12を形成した(厚み50nm)。次に、基板11及びゲート電極12上に、ポリイミド前駆体(京セラケミカル製CT4112)をスピンコートした。これを60℃で15分間乾燥し、次いで180℃で1時間加熱して硬化させ、ゲート絶縁層13を形成した。得られたゲート絶縁層13の厚さは、0.75μmであった。そして、基板11の温度を70℃に保持し、ゲート絶縁層13上にペンタセンを0.1nm/分の蒸着速度で蒸着して半導体層14(厚み70nm)を形成した。続いて、半導体層14上に、マスク蒸着により金を蒸着して、ソース電極15(厚み50nm)及びドレーン電極16(厚み50nm)を形成し、実施例1の有機TFT1を得た。なお、ソース電極15とドレーン電極16との距離(チャネル長)は、100μmとし、ソース電極15とドレーン電極16とが対向する幅(チャネル幅)は、2mmとした。
(比較例1及び比較例2)
比較例として、基板の温度を27℃(比較例1)及び50℃(比較例2)に保持し、ゲート絶縁層上にペンタセンを6nm/分の蒸着速度で蒸着して半導体層を形成したこと以外は、前述した実施例1と同様の方法により、比較例1及び比較例2の有機TFTを作製した。
(X線回折法による結晶相の確認)
実施例1、比較例1及び比較例2について、半導体層を構成するペンタセン結晶のX線回折パターンを測定した。X線回折パターンの測定は、リガクRU200(リガク社製、型番RU200)を使用し、CuKα線(波長λ=0.15418nm)にて行った。また、参照例として、ペンタセンのエネルギー的に最安定なバルク結晶を作製し、X線回折パターンの測定を行った。結果を図6に示す。図6において、図6Aは、前記バルク結晶のX線回折パターンを示し、図6Bは、実施例1の半導体層を構成するペンタセン結晶のX線回折パターンを示し、図6Cは、比較例1の半導体層を構成するペンタセン結晶のX線回折パターンを示し、図6Dは、比較例2の半導体層を構成するペンタセン結晶のX線回折パターンを示す(いずれも27℃におけるデータ)。
なお、前記ペンタセンのバルク結晶は、以下の方法により作製した。
(前記ペンタセンのバルク結晶の製法)
ペンタセンの粉末を石英ガラス管に入れ、真空ポンプで減圧しながら石英ガラス管のペンタセンが入っている側の端部を200℃に加熱し、他方の端部を60℃に加熱して、析出させる石英ガラス管壁に温度勾配を持たせ、石英ガラス管壁にペンタセン結晶を0.1mm以上の厚みで昇華析出させた。ここで、0.1mm以上の厚みで析出させたのは、石英ガラス管表面等の影響を受け難くなるため、比較的容易にエネルギー的に最安定な結晶を得ることができるからである。続いて、0.15℃/分で徐冷した。なお、石英ガラス管内の圧力は、1.3×10−2Paとした。
また、前記ペンタセンのバルク結晶の結晶相の確認は、以下のとおりに行った。
(前記ペンタセンのバルク結晶の結晶相の確認方法)
温度可変型のX線試料ホルダーに、得られたペンタセンのバルク結晶粉末を入れ、θ−2θ法により27℃及び180℃における粉末X線回折パターンを測定した。得られたX線回折パターンのうち、実施例1で作製された有機TFTの半導体層のX線回折パターンにおいて強く見られる回折線に当たるものは、d=1.43nmの位置の回折線であった。なお、前記バルク結晶の場合には、d=0.44nmの位置の回折線など、前記d=1.43nmの位置よりも強い回折線が見られるが、有機TFTの半導体層の場合には、結晶方位が基板に対して特定の方向となるように結晶が配列するので、限られた方位以外の回折線は観測されなくなる。このため、結晶相の判断には、特定方位のdの値(実施例1では、d=1.43nm)を比較するものとした。なお、測定雰囲気は、窒素中で大気圧(1.0×10Pa)とした。
また、作製した前記バルク結晶のX線回折パターンにおいて、d=1.43nmの27℃における回折線強度を基準とした場合に、昇温速度0.15℃/分で180℃まで雰囲気温度を上げた後の同じピーク位置における回折線強度比率(昇温後の回折線強度/初期の回折線強度×100)は98%であり、180℃から降温速度0.15℃/分で27℃まで雰囲気温度を下げた後の同じピーク位置にける回折線強度比率(降温後の回折線強度/初期の回折線強度×100)は98%であった。
図6Bに示すように、実施例1の半導体層を構成するペンタセン結晶は、d=1.43nmの位置に最大ピーク強度値を示す回折線のピークが観測された。また、図6A示すように、ペンタセンのエネルギー的に最安定なバルク結晶のX線回折パターンにおいても、同じd=1.43nmの位置に回折線のピークが観測された。更に、図6Bに示すように、実施例1の半導体層を構成するペンタセン結晶のX線回折パターンにおいて、d=1.43nmの位置に回折線が観測される結晶相以外の結晶相に由来するその他の回折線は観測されなかった。また、d=1.43nmの位置に回折線が観測される結晶相に由来する回折線の合計強度値は、実施例1のX線回折パターンにおける全回折線の合計強度値の90%以上であった。この結果から、実施例1の半導体層を構成するペンタセン結晶の結晶相は、ペンタセンのエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一であることが確認された。
一方、図6Cに示すように、比較例1の半導体層を構成するペンタセン結晶は、d=1.55nmの位置に最大ピーク強度値を示す回折線のピークが観測され、このピーク位置の回折線は、ペンタセンのエネルギー的に最安定なバルク結晶のX線回折パターン(図6A参照)では観測されなかった。この結果から、比較例1の半導体層を構成するペンタセン結晶の結晶相は、ペンタセンのエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相とは異なる結晶相であることが確認された。
また、図6Dに示すように、比較例2の半導体層を構成するペンタセン結晶は、d=1.55nm及びd=1.43nmの位置にピークが観測された。この結果から、比較例2の半導体層を構成するペンタセン結晶は、ペンタセンのエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と、比較例1の半導体層を構成するペンタセン結晶の結晶相とからなることが確認された。なお、d=1.43nmの位置に回折線が観測される結晶相に由来する回折線の合計強度値は、比較例2のX線回折パターンにおける全回折線の合計強度値の45%であった。
(高温加速テスト前後の結晶相の変化)
次に、実施例1、比較例1及び比較例2について、高温加速テスト(60℃×100時間)を行った。更に、テスト前後においてX線回折パターンを測定し、それぞれについて、テスト前の最大ピーク強度値を基準とした場合の同じピーク位置の回折線強度比率(テスト後の回折線強度/テスト前の回折線強度×100、以下同じ)を算出した。また、テスト前後において、電界効果チャネルのキャリア移動度を、アジレント4155C(アジレント社製、型番4155C)にて測定した。結果を表1に示す。

表1に示すように、比較例1は、回折線強度比率が60%となり、テスト後において、d=1.55nmの回折線強度が低下した。また、表1には示していないが、前記回折線強度の低下に伴い、d=1.43nmの回折線強度が増大した。この結果から、テスト前における結晶相の一部が、より安定な結晶相(エネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相)へと変化したことがわかる。これにより、結晶相間に多くの粒界が生じ、キャリア移動度が、0.6cm/Vsから、0.001cm/Vs以下まで劣化した。また、比較例2は、テスト前の段階で複数の結晶相を有していたため、そのキャリア移動度が、テスト前後ともに0.001cm/Vs以下となった。
一方、実施例1は、回折線強度比率が99%であり、テスト前後において結晶相がほとんど変化しなかった。また、キャリア移動度は、テスト前後で0.4cm/Vsから0.06cm/Vsへと低下したが、比較例1に比べ、キャリア移動度の劣化の程度を抑えることができた。このように、本発明によれば、半導体層を構成する有機半導体(ペンタセン)の結晶の結晶相を、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一の結晶相とすることにより、キャリア移動度の経時劣化を抑制することができることがわかった。
【実施例2】
次に、前述した実施例1に対し、半導体層を構成する有機半導体が異なる実施例2について説明する。実施例2の有機TFTは、基板の温度を60℃に保持し、ゲート絶縁層上に銅フタロシアニン(アルドリッチ社製)を0.1nm/分の蒸着速度で蒸着して半導体層を形成したこと以外は、前述した実施例1と同様の方法により作製した。
(比較例3)
比較例として、基板の温度を30℃に保持し、ゲート絶縁層上に銅フタロシアニンを6nm/分の蒸着速度で蒸着して半導体層を形成したこと以外は、前述した実施例2と同様の方法により、比較例3の有機TFTを作製した。
(高温加速テスト前後の結晶相の変化)
次に、実施例2及び比較例3について、高温加速テスト(60℃×100時間)を行い、前述した実施例1と同様に、回折線強度比率及びキャリア移動度を測定した。結果を表2に示す。

表2に示すように、比較例3は、回折線強度比率が63%となり、テスト後において、d=1.30nmの回折線強度が低下した。また、表2には示していないが、前記回折線強度の低下に伴い、d=1.25nmの回折線強度が増大した。この結果から、テスト前における結晶相の一部が、より安定な結晶相へと変化したことがわかる。これにより、結晶相間に多くの粒界が生じ、キャリア移動度が、0.01cm/Vsから、0.001cm/Vs以下まで劣化した。一方、実施例2は、回折線強度比率が99%であり、テスト前後において結晶相がほとんど変化しなかった。また、図示はしないが、テスト前の実施例2のX線回折パターンにおいて、d=1.25nmの位置に回折線が観測される結晶相以外の結晶相に由来するその他の回折線は観測されなかった。また、d=1.25nmの位置に回折線が観測される結晶相に由来する回折線の合計強度値は、実施例2のX線回折パターンにおける全回折線の合計強度値の90%以上であった。更に、前記d=1.25nmの位置の回折線ピークは、銅フタロシアニンのエネルギー的に最安定なバルク結晶のX線回折パターンにおいても観測された(図示せず)。即ち、実施例2の半導体層を構成する銅フタロシアニン結晶の結晶相は、銅フタロシアニンのエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一であることが確認された。また、キャリア移動度は、テスト前後で0.02cm/Vsから0.01cm/Vsへと低下したが、比較例3に比べ、キャリア移動度の劣化の程度を抑えることができた。このように、実施例2においても、実施例1と同様に、半導体層を構成する有機半導体(銅フタロシアニン)の結晶の結晶相を、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一の結晶相とすることにより、キャリア移動度の経時劣化を抑制することができた。
なお、前記銅フタロシアニンのバルク結晶は、以下の製法により作製した。
(前記銅フタロシアニンのバルク結晶の製法)
銅フタロシアニンの粉末を石英ガラス管に入れ、石英ガラス管の銅フタロシアニンが入っている側の端部を320℃に加熱し、石英ガラス管内の圧力を2.3×10−2Paとしたこと以外は、前述したペンタセンのバルク結晶を作製した方法と同条件で操作を行った。
また、作製した前記バルク結晶のX線回折パターンにおいて、d=1.25nmの27℃における回折線強度を基準とした場合に、昇温速度0.15℃/分で180℃まで雰囲気温度を上げた後の同じピーク位置における回折線強度比率(昇温後の回折線強度/初期の回折線強度×100)は99%であり、180℃から降温速度0.15℃/分で27℃まで雰囲気温度を下げた後の同じピーク位置にける回折線強度比率(降温後の回折線強度/初期の回折線強度×100)は99%であった。
【実施例3】
次に、前述した実施例1及び実施例2に対し、半導体層を構成する有機半導体が異なる実施例3について説明する。実施例3の有機TFTは、基板の温度を60℃に保持し、ゲート絶縁層上にセキシチオフェン(アルドリッチ社製)を0.1nm/分の蒸着速度で蒸着して半導体層を形成したこと以外は、前述した実施例1と同様の方法により作製した。
(高温加速テスト前後の結晶相の変化)
次に、実施例3について、高温加速テスト(60℃×100時間)を行い、前述した実施例1と同様に、回折線強度比率及びキャリア移動度を測定した。結果を表3に示す。

実施例3は、回折線強度比率が99%であり、テスト前後において結晶相がほとんど変化しなかった。また、図示はしないが、テスト前の実施例3のX線回折パターンにおいて、d=2.24nmの位置に回折線が観測される結晶相以外の結晶相に由来するその他の回折線は観測されなかった。また、d=2.24nmの位置に回折線が観測される結晶相に由来する回折線の合計強度値は、実施例3のX線回折パターンにおける全回折線の合計強度値の90%以上であった。更に、前記d=2.24nmの回折線ピークは、セキシチオフェンのエネルギー的に最安定なバルク結晶のX線回折パターンにおいても観測された(図示せず)。即ち、実施例3の半導体層を構成するセキシチオフェン結晶の結晶相は、セキシチオフェンのエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一であることが確認された。また、キャリア移動度は、テスト前後で0.02cm/Vsから0.01cm/Vsへと低下したが、キャリア移動度の劣化の程度を抑えることができた。このように、実施例3においても、実施例1及び実施例2と同様に、半導体層を構成する有機半導体(セキシチオフェン)の結晶の結晶相を、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一の結晶相とすることにより、キャリア移動度の経時劣化を抑制することができた。
なお、前記セキシチオフェンのバルク結晶は、以下の製法により作製した。
(前記セキシチオフェンのバルク結晶の製法)
セキシチオフェンのフレークを石英ガラス管に入れ、石英ガラス管のセキシチオフェンが入っている側の端部を240℃に加熱し、石英ガラス管内の圧力を1.6×10−2Paとしたこと以外は、前述したペンタセンのバルク結晶を作製した方法と同条件で操作を行った。
また、作製した前記バルク結晶のX線回折パターンにおいて、d=2.24nmの27℃における回折線強度を基準とした場合に、昇温速度0.15℃/分で180℃まで雰囲気温度を上げた後の同じピーク位置における回折線強度比率(昇温後の回折線強度/初期の回折線強度×100)は99%であり、180℃から降温速度0.15℃/分で27℃まで雰囲気温度を下げた後の同じピーク位置にける回折線強度比率(降温後の回折線強度/初期の回折線強度×100)は99%であった。
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、前記実施例に限定されない。例えば、前記実施例においては、結晶相の確認方法としてX線回折法を用いたが、吸光分析法等の他の分析手段により確認してもよい。また、前記実施例では、ゲート電極を基板上に設ける、所謂ボトムゲート構造の有機TFTを例に挙げて説明したが、基板上に、ソース電極及びドレーン電極を設け、更に、その上に、半導体層、ゲート絶縁層及びゲート電極を順次設ける、所謂トップゲート構造の有機TFTでも、同様に実施可能である。
【産業上の利用可能性】
以上説明したように、本発明は、有機TFTのキャリア移動度の経時劣化を抑制できるので、長寿命化が要求される電子機器に好適に利用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【図7】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に設けられた有機半導体からなる半導体層とを有する有機薄膜トランジスタであって、
前記半導体層は、前記有機半導体の結晶から構成され、
前記結晶の結晶相は、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶の結晶相と同一であることを特徴とする有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおける最大ピーク強度値を示す回折線のピーク位置は、前記有機半導体のエネルギー的に最安定なバルク結晶のX線回折パターンにおけるいずれか1つの回折線のピーク位置と一致する請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおいて、前記最大ピーク強度値を示す結晶相に由来する回折線の合計強度値は、全回折線の合計強度値の90〜100%である請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記有機半導体は、アセン系材料、フタロシアニン系材料及びチオフェン系材料のうち少なくとも1つの材料を含む請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記有機半導体は、ペンタセンであり、
前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおいて、前記結晶の結晶面の面間隔をdとした場合に、d=1.43nmの位置に最大ピーク強度値を示す回折線のピークを有する請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記有機半導体は、銅フタロシアニンであり、
前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおいて、前記結晶の結晶面の面間隔をdとした場合に、d=1.25nmの位置に最大ピーク強度値を示す回折線のピークを有する請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
前記有機半導体は、セキシチオフェンであり、
前記半導体層を構成する前記結晶のX線回折パターンにおいて、前記結晶の結晶面の面間隔をdとした場合に、d=2.24nmの位置に最大ピーク強度値を示す回折線のピークを有する請求項2に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
前記基板は、プラスチック板である請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項9】
前記プラスチック板は、ポリイミド、芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリ尿素及びポリフェニルスルホンのうちいずれか1つの材料からなる請求項8に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項10】
前記基板は、プラスチックフィルムである請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項11】
前記プラスチックフィルムは、ポリイミド、芳香族ポリエステル、ポリアセタール、ポリ尿素及びポリフェニルスルホンのうちいずれか1つの材料からなる請求項10に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項12】
前記有機薄膜トランジスタは、前記半導体層に対して電荷の授受を行う電極を更に備え、
前記電極は、金属及び導電性高分子のうち少なくともいずれか一方で形成されている請求項1に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項13】
前記電極は、金、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、モリブデン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン及びポリフェニレンビニレンのうち少なくともいずれか1つの材料で形成されている請求項12に記載の有機薄膜トランジスタ。
【請求項14】
基板上に有機半導体を蒸着して半導体層を形成する有機薄膜トランジスタの製造方法であって、
前記有機半導体を蒸着する際、前記基板の温度を40〜150℃の範囲に保持し、0.1〜1nm/分の蒸着速度で蒸着することを特徴とする有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項15】
前記有機半導体を蒸着して前記半導体層を形成した後、前記半導体層を徐冷する請求項14に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項16】
前記半導体層を徐冷する際、前記半導体層の周囲の雰囲気温度を1℃/分以下の速度で降温させる請求項15に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項17】
前記有機半導体を蒸着して前記半導体層を形成した後、前記基板の温度を50〜150℃の範囲に保持し、前記半導体層を熱処理する請求項14に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項18】
前記有機半導体を蒸着して前記半導体層を形成した後、前記基板の温度を45℃以下に保持し、前記半導体層上に電極材料を蒸着して電極を形成する請求項14に記載の有機薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項19】
画素のスイッチング素子として、請求項1に記載の有機薄膜トランジスタが複数個配置されているアクティブマトリクス型のディスプレイ。
【請求項20】
集積回路部を備えた無線識別タグであって、
前記集積回路部には、請求項1に記載の有機薄膜トランジスタが設けられていることを特徴とする無線識別タグ。

【国際公開番号】WO2005/006449
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511584(P2005−511584)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010066
【国際出願日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】