説明

木材接合用ねじ部材及びこれを用いた木材接合構造

【課題】 解体時の取り外しが容易で、大きな変形に耐える靱性に富んだ接合部を構成できるようにすること。
【解決手段】 ねじ溝Nが形成されている軸部2の一端に回転工具を係合可能な係合部3Aを有する頭部3が形成されて成る接合用ねじ部材1において、軸部2の他端にドリル刃部4を形成し、木材へのねじ込み時にドリル刃部4によってあけられた先導孔にねじ軸部2Aを螺入させるようにして、接合用ねじ部材1を木材に結合させるようにした。軸部2は、変形による折損を生じない材料から作られるのが好ましい。また、軸部2は25度の曲げ変形に至るまで折損を生じない耐折損特性を有するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築施工に用いる木材接合用ねじ部材及びこれを用いた木材接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
枠組壁工法又は軸組工法による木造建築物又はその他の各種建築物において、板材を柱や梁に接合する等木材同士を接合する場合、一般に釘を打ち付ける方法が採用されている。釘を用いた木質構造の釘接合部は、粘りのある鉄の特性と木材のめり込み特性のそれぞれの長所を生かして、靱性に富む性能を有する接合構造を得ることができ、適切に施工されることにより、大地震における大変形時に粘りのある耐震上優れた性能を発揮することができる。釘接合部の破壊性状は、図9の(A)に示す釘の引き抜け、同図(B)に示す板材の厚さの方向のパンチングシア、同図(C)に示す釘頭部破断の3種類がある。このうち引き抜けで破壊する場合が最も靱性に富んだ性能を発揮し、木質系面材耐力壁が大地震時に優れた性能を発揮するためには、この破壊性状が必要とされる。
【0003】
しかし、釘を用いて木材同士を接合しようとする場合、エアー式釘打ち機は打ち込み力の調節が難しく、釘を打ち込んだときに釘頭が木材にめり込み過ぎて板材のパンチングシア破壊が生じ易くなり、靱性に富んだ接合部の形成を阻害する傾向がある上に、解体時の釘の抜き取りが煩雑であるという問題点を有している。
【0004】
特許文献1、2には、解体時における釘の抜き取りを簡単にするため、頭部にドライバ等の回転工具を接合させるための係合部を設けると共に、軸部の一部にねじ山を形成した打ち込み用釘が提案されている。
【特許文献1】特開2000−154813号公報
【特許文献2】特開2003−322122号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2に開示されているねじ山付の釘は、いずれも、板材を所要の箇所に接合する場合には打ち込みにより施工するものであり、解体時においては頭部の係合部にドライバ等の回転工具を係合させ、釘を回転させることにより機材から抜き取る構成のものである。
【0006】
したがって、板材を接合するための施工時には、やはり釘打ち機等を用いて釘を木材に打ち込むことになるため、板材のパンチングシア破壊を生じ易いという問題点を解決することはできない。また、従来のねじ釘は、素材・加工の影響により釘よりも脆いため、図9の(C)に示した頭部破断が生じ易く、靱性に富んだ接合部を得ることが難しい。さらに、ねじ山の引き抜け抵抗により図9の(A)に示した引き抜けが生じ難く、板材のパンチングシア破壊も生じ易いという問題点を有している。このため、従来のねじ山付の釘を用いた木材の接合構造は、釘を用いた木材の接合構造に比べて変形追随性が低いという問題点を有している。
【0007】
本発明の目的は、従来技術における上述の問題点を解決することができる木材接合用ねじ部材及びこれを用いた木材接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明によれば、ねじ山が形成されている軸部の一端に回転工具を係合可能な係合部を有する頭部が形成されて成る木材接合用ねじ部材であって、前記軸部の他端にはドリル刃部が形成されていることを特徴とする木材接合用ねじ部材が提案される。
【0009】
請求項2の発明によれば、請求項1の発明において、前記ねじ山が前記軸部の一部分にのみ形成されている木材接合用ねじ部材が提案される。
【0010】
請求項3の発明によれば、請求項2の発明において、前記ねじ山が前記ドリル刃部に隣接して形成されている木材接合用ねじ部材が提案される。
【0011】
請求項4の発明によれば、請求項1、2又は3の発明において、前記軸部が変形による折損を生じない材料から成っている木材接合用ねじ部材が提案される。
【0012】
請求項5の発明によれば、請求項1、2又は3の発明において、前記軸部が25度の曲げ変形に至るまで折損を生じない耐折損特性を有している木材接合用ねじ部材が提案される。
【0013】
請求項6の発明によれば、木材から成る軸材に板材を請求項1、2、3、4又は5に記載の木材接合用ねじ部材を用いて接合したことを特徴とする木材接合構造が提案される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、解体時に木材接合用ねじ部材を容易に外すことができ、且つ大きな変形に耐える靱性に富んだ接合部を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例につき詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明による接合用ねじ部材の正面図、図2はその右側面図である。接合用ねじ部材1は、ねじ山Nがその一部に形成されている軸部2を有し、軸部2の一端には頭部3が形成されている木材同士を接合するために用いられる部材である。頭部3には、ドライバその他の回転工具を係合させるための係合部3Aが形成されている。本実施の形態では、ドライバの刃先を挿入させるための矩形の溝が係合部3Aとして形成されている。
【0017】
一方、軸部2の他端にはドリル刃部4が形成されており、接合用ねじ部材1を木材にねじ込む場合、ドリル刃部4によって木材にまず先導孔が形成され、引き続きこの先導孔内にねじ山Nが形成されているねじ軸部2Aが螺入することによって、木材と接合用ねじ部材1との結合が達成されるようになっている。
【0018】
なお、図1に示した接合用ねじ部材1にあっては、ねじ山Nがドリル刃部4と軸部2の略中央部との間にのみ形成されてねじ軸部2Aとなっている。そして、ねじ軸部2Aと頭部3との間には、軸部表面にねじ山のない平滑面を有する平滑軸部2Bが設けられている。
【0019】
このように、頭部3に接して平滑軸部2Bを設けることにより、接合用ねじ部材1の耐荷重特性を向上させると共に、木材からの引き抜き抵抗を緩和している。しかし、平滑軸部2Bは必ずしも必要ではなく、軸部2の全体に亘ってねじ山Nを形成し、軸部2の略全体をねじ軸部2Aとすることもできる。
【0020】
接合用ねじ部材1を用いて、木材同士を接合する場合、例えば木造住宅において軸材に面材耐力壁を接合する場合、接合用ねじ部材1を面材耐力壁の表面からねじ込むと、そのドリル刃部4によって軸材に先導孔が形成され、この先導孔内にねじ軸部2Aが螺入し、これにより接合用ねじ部材1が軸材に定着され、軸材と面材耐力壁との接合が達成される。
【0021】
このように、接合用ねじ部材1によると、軸材に先ず先導孔があけられ、この先導孔内にねじ軸部2Aが螺入することになるので、接合用ねじ部材1と軸材との間の結合力は、通常のねじ釘を軸材に打ち込み、あるいはねじ込んだ場合のねじ釘と木材との結合力よりも若干小さくなる。特に、接合用ねじ部材1のように、平滑軸部2Bを設けた場合には、平滑軸部2Bと軸材との間の結合力はねじ軸部2Aと軸材との間の結合力より小さくなる傾向を有するので、軸部2を全てねじ軸部2Aとした場合に比べ、結合力を低めにすることができる。
【0022】
この結果、大きな地震等により、接合用ねじ部材1を用いた軸材と面材耐力壁との接合部に変形が生じた場合、接合用ねじ部材1は図9の(A)に示されるように軸材から抜け出やすく、接合用ねじ部材1に過大な剪断力が与えられるのを避けることができる。このため、接合部を靱性に富んだものにすることができ、該接合部の耐震性を従来に比べて大幅に向上させることができる。接合用ねじ部材1には、ねじ軸部2A及び係合部3Aを有する頭部3が設けられているので、解体時には接合用ねじ部材1を木材から容易に外すことができる。
【0023】
接合用ねじ部材1において、通常の釘に近い柔軟性(粘り性)を確保するため、接合用ねじ部材1には熱処理が施されており、接合用ねじ部材1それ自体の靱性の向上が図られている。
【0024】
接合用ねじ部材1にはこのような熱処理が施されているので、接合用ねじ部材1には粘り性が付与され、接合用ねじ部材1に対しその軸方向と直角な方向に荷重が印加された場合、接合用ねじ部材1はその粘り性のために変形し、すぐに折損することはない。この結果、接合用ねじ部材1を用いた木材の接合構造によれば、図9の(A)に示すような引き抜け状態による破壊性状となる。
【0025】
図1に示す構成の接合用ねじ部材を複数製作し、熱処理により柔軟性において異なる複数種類の接合用ねじ部材を得た。これらの接合用ねじ部材についてその接合性能につき実験を行った。その結果、図9の(A)に示すような引き抜け状態による破壊性状を呈することによって接合部の良好な耐震性を得るためには、接合用ねじ部材1はその軸部2が25度の曲げ変形に至るまで折損を生じない耐折損特性を有しているのが望ましいことが確認された。
【0026】
図3には、本発明による木材接合構造の一実施形態が示されている。図3において、11は上枠、12は下枠、13はたて枠、14は面材耐力壁である。面材耐力壁14内には断熱材14Aが設けられている。なお、図3ではたて枠13が1つだけ見えているが、たて枠13は面材耐力壁14の左右に一対設けられている。そして、面材耐力壁14には接合用ねじ部材1が所定間隔で多数ねじ込まれ、これにより面材耐力壁14が上枠11、下枠12、たて枠13に接合されている。
【0027】
図4は図3の要部断面図であり、接合用ねじ部材1によりたて枠13と面材耐力壁14とが接合されている状態を示す。接合用ねじ部材1は回転工具を用いてねじ込まれるので、接合用ねじ部材1のドリル刃部4が面材耐力壁14を通過した後、たて枠13内においてドリル刃部4により先導孔が削孔され、この先導孔内に接合用ねじ部材1のねじ軸部2Aが回転しながら進入し、接合用ねじ部材1は図4に示すようにねじ込まれ、これによりたて枠13と面材耐力壁14とが接合される。
【0028】
接合用ねじ部材1は面材耐力壁14及びたて枠13にねじ込まれるので、接合用ねじ部材1の頭部3を面材耐力壁14内にめり込ませることなく、頭部3の表面と面材耐力壁14の表面とが同一面にあるように接合作業を行うことは容易である。この結果、接合用ねじ部材1を用いることにより図9の(B)に示す板材のパンチングシアが生じるのを有効に防止できる。
【0029】
地震等の発生により接合部が変形し、たて枠13と面材耐力壁14とが逆方向の荷重を受けると接合用ねじ部材1にこれを変形させるような力が作用する。しかし、接合用ねじ部材1は熱処理によって靱性に富む材質となっているため、接合用ねじ部材1は曲げ変形を生じ易いが折損しにくいので、この場合曲げ変形を生じ、且つ上述の如く接合用ねじ部材1とたて枠13との間の結合力が適切な状態にあるので、結局、図9(A)に示すような引き抜けの状態となる。
【0030】
以上、たて枠13と面材耐力壁14との間の接合状態について説明したが、上枠11と面材耐力壁14、下枠12と面材耐力壁14との接合状態も同様である。
【0031】
このように、図3に示した接合構造は靱性に富み、耐震性に優れている。したがって、例えば釘の打ち込みの場合に比べて、接合用ねじ部材1のねじ込み間隔を2倍程度に広げてもそれと同等の耐震性能を持たせることができる。
【実施例1】
【0032】
次に、図1に示す構成の接合用ねじ部材を作製し、その性能を測定した。接合用ねじ部材の材質は冷間圧造用炭素鋼線またはクロムモリブデン鋼鋼材で、軸部の外径がφ4.19、谷径がφ3.67、頭部径をφ8.24、長さを40.3mmとした。熱処理は行わなかった。
【0033】
この接合用ねじ部材を用いて図5に示す単調載荷試験体20を作製し、変位量(mm)と荷重(KN)との関係を測定した。単調載荷試験体20において、21は乾燥材、22は試験片、23は実施例1の接合用ねじ部材である。
【0034】
その結果を図6に示す。比較例として、外径φ2.88、頭部径φ6.80、長さを49.7mmのCN50釘を用いて同様の単調載荷試験を行った。この比較例についてのデータを図6に示した。図6から、本発明による接合用ねじ部材が従来の打ち込み釘に比べて明らかに良好な耐荷重特性を有していることが判る。
【実施例2】
【0035】
寸法は実施例1の場合と同じで、熱処理を施した接合用ねじ部材を作製し、実施例1の場合と同様の単調載荷試験を行った結果を図7に示す。図7中の比較例は図6に示した比較例と同じである。
【0036】
図7に示す測定結果より、熱処理を行って接合用ねじ部材自身に靱性を付与した場合には、より一層耐震性のある接合構造を実現できることが確認された。
【実施例3】
【0037】
図8に示す曲げ試験装置を用いて、実施例2の接合用ねじ、JIS B 1125で規定するドリリングタッピンねじについて曲げ実験を行った。
【0038】
図8(a)は曲げ試験装置の正面図、図8(b)は曲げ試験装置の左側面図を示すもので、治具101に被試験体である本発明による接合用ねじ部材1の先端部(頭部3と反対側の端部)をしっかりと固定しておき、接合用ねじ部材1の頭部3に、チャック102によって把持された曲げ治具103の先端103Aをその上方からあて、図示しない押し下げ装置により曲げ治具103を押し下げることにより、接合用ねじ部材1に荷重を掛けた。
【0039】
このようにして接合用ねじ部材1に荷重を掛けると、接合用ねじ部材1が曲がり、破断することになる。この破断時における接合用ねじ部材1の頭部3の変位距離xと接合用ねじ部材1の突出距離yとから破断角度を計算した。JIS B 1125で規定するドリリングタッピンねじについても同様にして破断角度を計算した。
【0040】
JIS B 1125で規定するドリリングタッピンねじは10.6°〜13.4°で破断、実施例2の接合用ねじにおいては、45°以上で破断しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明による接合用ねじ部材の一実施形態を示す正面図。
【図2】図1の接合用ねじ部材の右側面図。
【図3】本発明による木材接合構造の一実施形態を示す斜視図。
【図4】図3の要部断面図。
【図5】単調載荷試験体の斜視図。
【図6】本発明の実施例1の特性を示すグラフ。
【図7】本発明の実施例2の特性を示すグラフ。
【図8】曲げ試験方法を説明するための図。
【図9】釘接合部の破壊性状を説明するための図。
【符号の説明】
【0042】
1 接合用ねじ部材
2 軸部
2A ねじ軸部
2B 平滑軸部
3 頭部
3A 係合部
4 ドリル刃部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ山が形成されている軸部の一端に回転工具を係合可能な係合部を有する頭部が形成されて成る木材接合用ねじ部材であって、前記軸部の他端にはドリル刃部が形成されていることを特徴とする木材接合用ねじ部材。
【請求項2】
前記ねじ山が前記軸部の一部分にのみ形成されている請求項1記載の木材接合用ねじ部材。
【請求項3】
前記ねじ山が前記ドリル刃部に隣接して形成されている請求項2記載の木材接合用ねじ部材。
【請求項4】
前記軸部が変形による折損を生じない材料から成っている請求項1、2又は3記載の木材接合用ねじ部材。
【請求項5】
前記軸部が25度の曲げ変形に至るまで折損を生じない耐折損特性を有している請求項1、2又は3記載の木材接合用ねじ部材。
【請求項6】
木材から成る軸材に板材を請求項1、2、3、4又は5に記載の木材接合用ねじ部材を用いて接合したことを特徴とする木材接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−57729(P2006−57729A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240226(P2004−240226)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000110789)日本パワーファスニング株式会社 (30)
【Fターム(参考)】