説明

木製の柱部材およびその製造方法

【課題】 たとえば比較的大きいスパンの二方向ラーメン構造物を実現するのに好適で且つ効率的な断面形状を有する柱部材。
【解決手段】 第1の方向に細長い第1の断面形状を有する第1柱要素(1a)と、第1の方向と交差する第2の方向に細長い第2の断面形状を有する第2柱要素(1b,1c)とを備えている。第1柱要素および第2柱要素には、鉛直方向に沿って間隔を隔てた複数の高さ位置において、所定方向に沿って延びる孔(2)がそれぞれ形成されている。孔の中には、第1柱要素と第2柱要素との間に亘って延びるように棒状部材(3)が埋設されている。棒状部材を介して第1柱要素と第2柱要素とを接合するために、孔の中に接着剤が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木製の柱部材およびその製造方法に関し、特に比較的大きいスパンの二方向ラーメン構造物に好適な柱部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木造建築では、矩形状の断面を有する木製の柱部材、すなわち「角材」が用いられている。これは、天然木材を用いる場合においても、木質構造材料を用いる場合においても同様である。なお、木質構造材料とは、エンジニアリングウッドと総称される材料であり、合板や集成材やLVL(Laminated Veneer Lumber :構造用単板積層材)などの材料を示している。
【0003】
一方、本出願人は、たとえば異形鉄筋のような棒状部材を介して一対の木製部材を剛接合する構造を提案している(たとえば特許文献1を参照)。この棒状部材を用いる剛接合構造では、互いに接合すべき一対の木製部材の各々に孔または溝が形成され、この孔または溝の中に棒状部材が埋設される。そして、棒状部材が埋設された孔または溝の中に接着剤を充填して硬化させることによって、棒状部材を介して一対の木製部材を接合する。
【0004】
【特許文献1】特開2003−191212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術では、上述の剛接合構造を適用して比較的大きいスパンの二方向ラーメン構造物を構築しようとすると、非常に大きな矩形状の断面を有する角材からなる柱部材が必要になる。この場合、天然木材から大断面形状の角材を確保するには、幹の大きな樹木を確保しなければならず、その取得が困難であるという不都合があった。
【0006】
一方、木質構造材料からなる大断面形状の角材を製造するには、接着工程が多くなり、製造コスト、製造時間、要求精度などの点で実現が困難になるという不都合があった。また、天然木材の場合においても、木質構造材料の場合においても、大断面形状の角材からなる柱部材を運搬することが容易でないという不都合があった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであり、たとえば比較的大きいスパンの二方向ラーメン構造物を実現するのに好適で且つ効率的な断面形状を有する柱部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の第1形態では、木製の柱部材であって、
第1の方向に細長い第1の断面形状を有する第1柱要素と、前記第1の方向と交差する第2の方向に細長い第2の断面形状を有する第2柱要素とを備え、
前記第1柱要素および前記第2柱要素には、鉛直方向に沿って間隔を隔てた複数の高さ位置において、所定方向に沿って延びる孔または溝がそれぞれ形成され、
前記孔または前記溝の中には、前記第1柱要素と前記第2柱要素との間に亘って延びるように棒状部材が埋設され、
前記棒状部材を介して前記第1柱要素と前記第2柱要素とを接合するために、前記孔または前記溝の中に接着剤が充填されていることを特徴とする柱部材を提供する。
【0009】
第1形態の好ましい態様によれば、前記第1の断面形状および前記第2の断面形状はともに長方形状である。また、前記第1の方向と前記第2の方向とはほぼ直交していることが好ましい。また、前記棒状部材は、繊維強化プラスチックにより形成されていることが好ましい。あるいは、前記棒状部材は、異形鉄筋であることが好ましい。
【0010】
本発明の第2形態では、木製の柱部材の製造方法であって、
第1の方向に細長い第1の断面形状を有する第1柱要素および前記第1の方向と交差する第2の方向に細長い第2の断面形状を有する第2柱要素に、鉛直方向に沿って間隔を隔てた複数の高さ位置において、所定方向に沿って延びる孔または溝をそれぞれ形成し、
前記孔または前記溝の中に、前記第1柱要素と前記第2柱要素との間に亘って延びるように棒状部材を埋設し、
前記棒状部材を介して前記第1柱要素と前記第2柱要素とを接合するために、前記孔または前記溝の中に接着剤を充填することを特徴とする柱部材の製造方法を提供する。
【0011】
第2形態の好ましい態様によれば、前記棒状部材として、繊維強化プラスチックにより形成された棒状部材を用いる。この場合、前記繊維強化プラスチックは、アラミド繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、チタン繊維強化プラスチック、またはポリエステル繊維強化プラスチックであることが好ましい。あるいは、前記棒状部材として、異形鉄筋を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、第1の方向に細長い第1の断面形状を有する第1柱要素と、第1の方向と交差する第2の方向に細長い第2の断面形状を有する第2柱要素とにより柱部材を構成している。その結果、本発明では、一方の方向の曲げモーメントを第1柱要素が効率的に負担し、他方の方向の曲げモーメントを第2柱要素が効率的に負担することになり、たとえば比較的大きいスパンの二方向ラーメン構造物を実現するのに好適で且つ効率的な断面形状を有する柱部材が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる柱部材の構成を概略的に示す斜視図である。また、図2は、本実施形態にかかる柱部材の横断面図である。図1を参照すると、本実施形態の柱部材1は、細長い長方形状の断面を有する3つの柱要素、すなわち第1柱要素1aと第2柱要素1bと第3柱要素1cとにより構成されている。
【0014】
ここで、第2柱要素1bの長方形断面の長手方向と、第3柱要素1cの長方形断面の長手方向とがほぼ一致している。また、第2柱要素1bおよび第3柱要素1cの長方形断面の長手方向は、第1柱要素1aの長方形断面の長手方向と直交している。図2を参照すると、3つの柱要素1a〜1cには、たとえば水平方向に沿って延びる孔2が、柱部材1の鉛直方向に沿って間隔を隔てた複数の高さ位置に形成されている。
【0015】
孔2は、たとえば円形状断面を有し、第2柱要素1bおよび第3柱要素1cの長方形断面の長手方向に沿って、すなわち第1柱要素1aの長方形断面の短手方向に沿って形成されている。また、孔2は、第1柱要素1aを貫通しているが、第2柱要素1bおよび第3柱要素1cに対しては非貫通孔である。孔2の中には、3つの柱要素1a〜1cの間に亘って延びるように、たとえばアラミド繊維強化プラスチックで形成された棒状部材3が埋設されている。棒状部材3は、たとえば異形鉄筋と同様の外形形態を有するように形成されている。
【0016】
なお、棒状部材3の材料として、アラミド繊維強化プラスチックに代えて、炭素繊維などの高強度な強化繊維の単独の繊維強化プラスチックや、複合繊維からなるハイブリッドタイプの繊維強化プラスチックなどを用いることができる。具体的には、強化繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、チタン繊維などの金属繊維や、ポリエステル繊維などの有機繊維などを用いることができる。また、棒状部材3として、異形鉄筋などを用いることもできる。
【0017】
さらに、孔2の中には、棒状部材3を介して3つの柱要素1a〜1cを互いに接合するために、たとえば適当な充填器具を用いて接着剤(たとえばエポキシ樹脂系接着剤、あるいは適当な場合には無収縮モルタルなど)が充填されている。この場合、孔2と連通するように適当な位置に形成された注入孔を介して接着剤を注入してもよい。また、たとえば非貫通孔部分の底部近傍と連通するように形成されたエア抜き兼充填確認孔を利用して、非貫通孔の中に接着剤が完全に充填されたことを確認してもよい。
【0018】
また、棒状部材3が埋設された孔2の中に接着剤を充填する前に、第2柱要素1bと第1柱要素1aとの突き合わせ部および第3柱要素1cと第1柱要素1aとの突き合わせ部に所定のシールを形成することにより、充填すべき接着剤の突き合わせ部からの漏れを防止することができる。接着剤の注入、充填、漏れ防止などについては、たとえば特開2004−44182号公報などを参照することができる。
【0019】
こうして、柱部材1の鉛直方向に沿って間隔を隔てた複数の高さ位置に接着剤の作用により埋設固定された棒状部材3を介して、柱部材1を構成する3つの柱要素1a〜1cが互いに実質的に剛接合される。すなわち、3つの柱要素1a〜1cを用いて、いわゆる十字状の断面形状を有する柱部材1が構成される。なお、柱部材1の鉛直方向に間隔を隔てて形成される孔の数、断面形状、長さなどについては様々な変形例が可能である。
【0020】
本実施形態の柱部材1には、たとえば特開2003−191212号公報に開示された剛接合構造を用いて、図2において破線で示す4つの木製梁部材11a〜11dが剛接合される。すなわち、第1柱要素1aの2つの自由端側には、図中横方向に延びる梁部材11aおよび11bがそれぞれ接合される。また、第2柱要素1bおよび第3柱要素1cの自由端側には、図中縦方向に延びる梁部材11cおよび11dがそれぞれ接合される。
【0021】
この場合、図中横方向に延びる梁部材11aおよび11bから柱部材1に伝わる曲げモーメントは、この方向の曲げモーメントに対して効率的に抵抗可能な断面を有する第1柱要素1a、すなわち横方向に細長く延びる長方形状の断面を有する第1柱要素1aにより主として負担される。一方、図中縦方向に延びる梁部材11cおよび11dから柱部材1に伝わる曲げモーメントは、この方向の曲げモーメントに対して効率的に抵抗可能な断面を有する第2柱要素1bおよび第3柱要素1c、すなわち縦方向に細長く延びる長方形状の断面を有する第2柱要素1bおよび第3柱要素1cにより主として負担される。
【0022】
以上のように、本実施形態では、第1の方向に細長い第1の断面形状を有する第1柱要素1aと、第1の方向と交差する第2の方向に細長い第2の断面形状を有する第2柱要素(1b,1c)とにより柱部材1を構成している。その結果、一方の方向の曲げモーメントを第1柱要素1aが効率的に負担し、他方の方向の曲げモーメントを第2柱要素1bおよび第3柱要素1cが効率的に負担することになり、たとえば比較的大きいスパンの二方向ラーメン構造物を実現するのに好適で且つ効率的な断面形状を有する柱部材1が実現される。二方向ラーメン構造物に対して本実施形態の柱部材を適用した具体例については後述する。
【0023】
ところで、上述の実施形態では、3つの柱要素1a〜1cを二軸対称的に配置して十字状の断面形状を有する柱部材を構成している。しかしながら、これに限定されることなく、細長い断面形状を有する少なくとも2つの柱要素を、その断面の長手方向が互いに交差するように配置することにより様々な変形例にしたがう柱部材を実現することができる。以下、本実施形態にかかる柱部材の各変形例を説明する。
【0024】
図3(a)に示す第1変形例では、本実施形態と比較すると、第1柱要素1aが図中右側へ偏心している。この変形例は、たとえば梁部材11aが梁部材11bに比して極端に短い場合、梁部材11a側がバルコニー側である場合などに適用される。図3(b)に示す第2変形例では、本実施形態と比較すると、第3柱要素1cが省略されている。第2変形例の柱部材は、たとえば二方向ラーメン構造物の端部などに適用される。
【0025】
図4(a)に示す第3変形例では、図中横方向に細長い断面形状を有する2つの柱要素1dおよび1eを縦方向に間隔を隔てて配置し、縦方向に細長い断面形状を有する柱要素1fを2つの柱要素1dと1eとの間に配置している。この場合、柱要素1dおよび1eの2つの自由端側には、横方向に延びる梁部材11e,11fおよび11g,11hがそれぞれ接合される。また、柱要素1fの2つの自由端に対応して、縦方向に延びる梁部材11iおよび11jがそれぞれ接合される。
【0026】
図4(b)に示す第4変形例は、第3変形例に類似しているが、縦方向に細長い断面形状を有する2つの柱要素1fおよび1gを、2つの柱要素1dと1eとの間において横方向に間隔を隔てて配置している。この場合、柱要素1fおよび1gの2つの自由端に対応して、縦方向に延びる梁部材11i,11jおよび11k,11mがそれぞれ接合される。すなわち、第3変形例では一方向に二重梁構造となり、第4変形例では二方向に二重梁構造となる。
【0027】
図5(a)に示す第5変形例では、4つの柱要素1h,1i,1jおよび1kにより中央に矩形状の空間が形成されるように、図中横方向に細長い断面形状を有する2つの柱要素1hおよび1iを縦方向に間隔を隔てて配置し、縦方向に細長い断面形状を有する2つの柱要素1jおよび1kを横方向に間隔を隔てて配置している。この場合、柱要素1hおよび1iの2つの端部に対応して、横方向に延びる梁部材11n,11oおよび11p,11qがそれぞれ接合される。また、柱要素1jおよび1kの2つの端部に対応して、縦方向に延びる梁部材11r,11sおよび11t,11uがそれぞれ接合される。
【0028】
図5(b)に示す第6変形例は、第5変形例に類似しているが、柱要素1hに整列するように柱要素1h’を、柱要素1iに整列するように柱要素1i’を、柱要素1jに整列するように柱要素1j’を、柱要素1kに整列するように柱要素1k’をそれぞれ付加している。その結果、柱要素1h’の自由端側に梁部材11oが接続され、柱要素1i’の自由端側に梁部材11qが接続され、柱要素1j’の自由端側に梁部材11sが接続され、柱要素1k’の自由端側に梁部材11uが接続される。第5変形例および第6変形例では二方向に二重梁構造となる。
【0029】
図6に示す第7変形例では、中央に三角形状の空間が形成されるように、細長い断面形状を有する3つの柱要素1m,1nおよび1pを配置している。この場合、柱要素1mの自由端側に梁部材11vが接合され、柱要素1nの自由端側に梁部材11wが接合され、柱要素1pの自由端側に梁部材11xが接合される。なお、上述した第1変形例〜第7変形例は例示的であって、柱部材の断面構成については本発明の範囲内において様々な変形例が可能である。
【0030】
なお、上述の説明では、棒状部材3を埋設するための孔2を形成している。しかしながら、孔に代えて、棒状部材3を埋設するための溝、たとえば全体的にU字型の断面を有する溝を形成する変形例も可能である。この変形例の場合、棒状部材3が埋設された溝の中に、適当な充填器具を用いて接着剤を充填する。そして、必要に応じて、接合部の外観を良好に保つため、および棒状部材3を外部の環境からより完全に隔絶するために、棒状部材3が埋設された溝の中に接着剤を充填させた後に、所定の栓部材によって溝を覆う。
【0031】
以下、二方向ラーメン構造物に対して本実施形態の柱部材を適用した具体例について説明する。図7は、本実施形態の柱部材を適用した二方向ラーメン構造物における木製部材の接合構造を概略的に示す図である。図8は、図7に示す接合構造を用いて構成された二方向ラーメン構造物の一例を概略的に示す図である。図7を参照すると、下層階の柱部材を構成する木製の下層柱部材21の上端面と、木製の梁部材22の下側面とが当接している。
【0032】
また、上層階の柱部材を構成する木製の上層柱部材23の下端面と梁部材22の上側面とが当接している。下層柱部材21および上層柱部材23には、本実施形態または変形例にかかる柱部材が用いられている。そして、この状態において、下層柱部材21と梁部材22と上層柱部材23とが互いに接合される。ここで、一対の柱部材21および23には、その長手軸線方向(図中鉛直方向)に沿って複数(例えば4つ)の円形状断面の非貫通孔が形成されている。また、梁部材22には、柱部材21および23の非貫通孔と鉛直方向に沿って整列するように同断面の貫通孔が同数だけ形成されている。
【0033】
すなわち、下層柱部材21には、その接合端(上端)から所定距離だけ延びるように間隔を隔てた4つの非貫通孔21a〜21d(21cおよび21dは不図示)が形成されている。同様に、上層柱部材23には、その接合端(下端)から所定距離だけ延びるように間隔を隔てた4つの非貫通孔23a〜23d(23cおよび23dは不図示)が形成されている。そして、梁部材22には、4つの非貫通孔21a〜21dと4つの非貫通孔23a〜23dとの間で直線状に連通する4つの貫通孔22a〜22d(22cおよび22dは不図示)が形成されている。
【0034】
一対の柱部材21および23に形成された非貫通孔(21a,23a)および梁部材22に形成された貫通孔22aの中には、たとえばアラミド繊維強化プラスチックで形成された棒状部材24aが、下層柱部材21、梁部材22および上層柱部材23に亘って延びるように埋設される。同様に、アラミド繊維強化プラスチック棒状部材24b〜24d(24cおよび24dは不図示)が、一対の柱部材21および23に形成された非貫通孔(21b〜21d,23b〜23d)および梁部材22に形成された貫通孔(22b〜22d)の中において、下層柱部材21、梁部材22および上層柱部材23に亘って延びるようにそれぞれ埋設される。
【0035】
なお、棒状部材24(24a〜24d)の材料として、アラミド繊維強化プラスチックに代えて、炭素繊維などの高強度な強化繊維の単独の繊維強化プラスチックや、複合繊維からなるハイブリッドタイプの繊維強化プラスチックなどを用いることができる。具体的には、強化繊維として、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、チタン繊維などの金属繊維や、ポリエステル繊維などの有機繊維などを用いることができる。また、棒状部材24として、異形鉄筋などを用いることもできる。
【0036】
次に、棒状部材24a(24b〜24d)が埋設された孔21a,22a,23a(21b〜21d,22b〜22d,23b〜23d)の中に、適当な充填器具を用いて接着剤(たとえばエポキシ樹脂系接着剤、あるいは適当な場合には無収縮モルタルなど)を充填する。この場合、たとえば孔の入口近傍と連通するように形成された注入孔を介して接着剤を注入してもよい。また、たとえば各非貫通孔の底部近傍と連通するように形成されたエア抜き兼充填確認孔を利用して、非貫通孔の中に接着剤が完全に充填されたことを確認してもよい。
【0037】
また、棒状部材24が埋設された孔の中に接着剤を充填する前に、下層柱部材21と梁部材22との突き合わせ部および上層柱部材23と梁部材22との突き合わせ部に所定のシールを形成することにより、充填すべき接着剤の突き合わせ部からの漏れを防止することができる。こうして、接着剤の作用により埋設固定された棒状部材24を介して、下層柱部材21と梁部材22と上層柱部材23とが実質的に剛接合される。接着剤の注入・充填については、たとえば特開2004−44182号公報などを参照することができる。
【0038】
なお、上述の説明では、各木製部材21〜23に棒状部材24を埋設するための孔(非貫通孔または貫通孔)を形成している。しかしながら、孔に代えて、各木製部材21〜23のうちの少なくとも1つの部材に棒状部材24を埋設するための溝、たとえば全体的にU字型の断面を有する溝を形成する変形例も可能である。この変形例の場合、棒状部材24が埋設された溝の中に、適当な充填器具を用いて接着剤を充填する。そして、必要に応じて、接合部の外観を良好に保つため、および棒状部材24を外部の環境からより完全に隔絶するために、棒状部材24が埋設された溝の中に接着剤を充填させた後に、所定の栓部材によって溝を覆う。
【0039】
こうして、本実施形態や変形例にかかる柱部材および図7に示す接合構造を用いて、図8に示すような二方向ラーメン構造物(図8では一方向に沿ったラーメン構造だけを示す)を構築することができる。ただし、図8に例示する二方向ラーメン構造物では、1階の柱部材を構成する最下層柱部材31の下端面と基礎部材32の上端面とが当接した状態において、たとえば異形鉄筋と同様の外形形態を有するアラミド繊維強化プラスチック棒状部材24を介して、最下層柱部材31と基礎部材32とが実質的に剛接合されている。すなわち、基礎部材32には鉛直方向に沿って延びる複数の非貫通孔(不図示)が形成され、基礎部材32に形成された各非貫通孔の中には最下層柱部材31および基礎部材32の双方に亘って延びるように棒状部材24がそれぞれ埋設固定されている。
【0040】
また、4階の柱部材を構成する最上層柱部材33の上端面と4階の梁部材を構成する最上層梁部材34の下側面とが当接した状態において、たとえば異形鉄筋と同様の外形形態を有するアラミド繊維強化プラスチック棒状部材24を介して、最上層柱部材33と最上層梁部材34とが実質的に剛接合されている。すなわち、最上層梁部材34には鉛直方向に沿って延びる複数の孔(非貫通孔あるいは貫通孔)または溝が形成され、最上層梁部材34に形成された各孔または各溝の中には最上層柱部材33および最上層梁部材34の双方に亘って延びるように棒状部材24がそれぞれ埋設固定されている。
【0041】
図8に示す二方向ラーメン構造物では、木製柱部材の側面に木製梁部材の端面を当接させて接合する従来の通し柱方式とは異なり、木製の下層柱部材の上端面と木製の梁部材の下側面とを当接させ且つ上層柱部材の下端面と梁部材の上側面とを当接させて接合する「通し梁方式」を採用している。そして、各木製部材の孔または溝の中に埋設固定された棒状部材を介して各木製部材を互いに実質的に剛接合する接合方式を採用している。
【0042】
したがって、図8に示す二方向ラーメン構造物では、ある階の柱部材の上端面に当該階の梁部材を載置した状態、および当該階の梁部材の上側面にその上層階の柱部材を載置した状態で、各木製部材を互いに実質的に剛接合することになる。その結果、重力の作用に抗して木製梁部材の接合姿勢を保つことが困難な従来技術とは異なり、建て方に際して重力を利用して木製梁部材の接合姿勢を保つことが容易であり、その接合姿勢を保つための大掛かりな仮設部材が不要である。
【0043】
また、図8に示す二方向ラーメン構造物では、例えば1階分の骨組みがほぼ剛接合された時点で2階の床部材を敷設することができる。すなわち、各階分の骨組みがほぼ剛接合された時点でその上階分の床部材を敷設するような各階毎の作業工程が可能になる。その結果、林立する木製柱部材が床部材の敷設作業の障害物となる従来技術とは異なり、大型パネル版(PC版、ALC版など)のような床部材の敷設作業を各階毎に効率良く行うことができる。
【0044】
特に、図8に示す二方向ラーメン構造物では、アラミド繊維強化プラスチック棒状部材を用いて木製部材を接合しているので、木構造の一般的な現場においても鋸などを用いてアラミド繊維強化プラスチック棒状部材の加工(切断)を容易に行うことができる。その結果、異形鉄筋を用いる場合とは異なり鉄骨加工工場での下請け加工工程が不要になり、良好な施工性が得られるだけでなく、施工費用(時間的損失,費用的損失)の低減を図ることができる。
【0045】
また、アラミド繊維強化プラスチック棒状部材は、鉄筋よりも軽量であり、且つ鉄筋よりも大きな強度を有する。したがって、本実施形態では、鉄筋を用いる接合構造よりも大きな接合強度を確保することができ、且つ建物全体の軽量化を図ることができる。その結果、耐震性能を向上させることができるとともに、大スパン構造の実現が可能になる。
【0046】
また、鉄筋よりも軽量なアラミド繊維強化プラスチック棒状部材は現場への持込が容易であり、施工性を向上させることができる。さらに、鉄筋よりも大きな強度を有するアラミド繊維強化プラスチック棒状部材は鉄筋よりも短くすることができるので、木製部材のリユース率を向上させることができる。
【0047】
なお、図8に示す二方向ラーメン構造物では、水平方向に延びる梁部材において長手軸線方向に沿った継手接合が必要な場合がある。この場合、たとえば特開2004−44182号公報に開示されているように、一対の木製梁部材の端面同士を当接させ、双方の部材に亘って接着剤により埋設固定された棒状部材を介して、十分な接合強度を確保しつつ継手接合を行うことにより、所要の長さの梁部材を得ることができる。
【0048】
また、図8に示すような二方向ラーメン構造物では、木製部材として天然木材を使用してもよいし、木質構造材料からなる木製部材を用いることもできる。この点は、本実施形態や変形例にかかる柱部材についても同様である。すなわち、本実施形態や変形例にかかる柱部材を構成する各柱要素として天然木材を使用してもよいし、木質構造材料からなる木製部材を用いることもできる。
【0049】
ところで、図8に示す二方向ラーメン構造物では、1本の棒状部材が柱部材の一部分だけに埋設されている。しかしながら、これに限定されることなく、下層柱部材の下端から上層柱部材の上端まで延びるように棒状部材を埋設する変形例も可能である。図9に示す変形例にかかる二方向ラーメン構造物では、基礎部材32から最下層柱部材31および最上層柱部材33を経て最上層梁部材34まで延びるように、たとえば異形鉄筋と同様の外形形態を有するアラミド繊維強化プラスチック棒状部材25が埋設固定されている。
【0050】
ここで、棒状部材25は必ずしも継ぎ目の無い棒状部材である必要はなく、必要に応じてカプラーにより継手接合されていてもよいし、重ね継手接合されていてもよいし、棒状部材の定着が十分である場合には単に突き合わせ状態で継手接合されていてもよい。図9の変形例では、基礎部材32の所定位置から鉛直方向に長く延びる棒状部材25をガイドとして建て方を効率的に進めることができる。
【0051】
なお、上述の説明では、通し梁方式の二方向ラーメン構造物の柱部材に本発明を適用している。しかしながら、これに限定されることなく、従来の通し柱方式の二方向ラーメン構造物の柱部材に対しても同様に本発明を適用することができる。また、二方向ラーメン構造物の柱部材に限定されることなく、一般的な木造構造物の柱部材に対しても同様に本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態にかかる柱部材の構成を概略的に示す斜視図である。
【図2】本実施形態にかかる柱部材の横断面図である。
【図3】本実施形態の変形例にしたがう柱部材の横断面図である。
【図4】本実施形態の別の変形例にしたがう柱部材の横断面図である。
【図5】本実施形態のさらに別の変形例にしたがう柱部材の横断面図である。
【図6】本実施形態のさらに別の変形例にしたがう柱部材の横断面図である。
【図7】本実施形態の柱部材を適用した二方向ラーメン構造物における木製部材の接合構造を概略的に示す図である。
【図8】図7に示す接合構造を用いて構成された二方向ラーメン構造物の一例を概略的に示す図である。
【図9】図8に示す二方向ラーメン構造物の変形例を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 柱部材
1a〜1p 柱要素
2 孔
3 棒状部材
11a〜11x 梁部材
21 木製の下層柱部材
21a〜21d 下層柱部材に形成された非貫通孔
22 木製の梁部材
22a〜22d 梁部材に形成された貫通孔
23 木製の上層柱部材
23a〜23d 上層柱部材に形成された非貫通孔
24a〜24d,25 棒状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木製の柱部材であって、
第1の方向に細長い第1の断面形状を有する第1柱要素と、前記第1の方向と交差する第2の方向に細長い第2の断面形状を有する第2柱要素とを備え、
前記第1柱要素および前記第2柱要素には、鉛直方向に沿って間隔を隔てた複数の高さ位置において、所定方向に沿って延びる孔または溝がそれぞれ形成され、
前記孔または前記溝の中には、前記第1柱要素と前記第2柱要素との間に亘って延びるように棒状部材が埋設され、
前記棒状部材を介して前記第1柱要素と前記第2柱要素とを接合するために、前記孔または前記溝の中に接着剤が充填されていることを特徴とする柱部材。
【請求項2】
前記第1の断面形状および前記第2の断面形状はともに長方形状であることを特徴とする請求項1に記載の柱部材。
【請求項3】
前記第1の方向と前記第2の方向とはほぼ直交していることを特徴とする請求項1または2に記載の柱部材。
【請求項4】
前記棒状部材は、繊維強化プラスチックにより形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の柱部材。
【請求項5】
前記繊維強化プラスチックは、アラミド繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、チタン繊維強化プラスチック、またはポリエステル繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項4に記載の柱部材。
【請求項6】
前記棒状部材は、異形鉄筋であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の柱部材。
【請求項7】
木製の柱部材の製造方法であって、
第1の方向に細長い第1の断面形状を有する第1柱要素および前記第1の方向と交差する第2の方向に細長い第2の断面形状を有する第2柱要素に、鉛直方向に沿って間隔を隔てた複数の高さ位置において、所定方向に沿って延びる孔または溝をそれぞれ形成し、
前記孔または前記溝の中に、前記第1柱要素と前記第2柱要素との間に亘って延びるように棒状部材を埋設し、
前記棒状部材を介して前記第1柱要素と前記第2柱要素とを接合するために、前記孔または前記溝の中に接着剤を充填することを特徴とする柱部材の製造方法。
【請求項8】
前記棒状部材として、繊維強化プラスチックにより形成された棒状部材を用いることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記繊維強化プラスチックは、アラミド繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック、ガラス繊維強化プラスチック、ボロン繊維強化プラスチック、チタン繊維強化プラスチック、またはポリエステル繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記棒状部材として、異形鉄筋を用いることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−9484(P2006−9484A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190652(P2004−190652)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(393019137)株式会社市浦都市開発建築コンサルタンツ (2)
【Fターム(参考)】