説明

杭施工機

【課題】杭径や地盤性状が多様に変化する場合においても、その構成機器や杭を損傷させることなく品質に優れた杭基礎施工を実現できる杭施工機を提供すること。
【解決手段】その回転数とトルクの組合せを2パターン以上有した可変容量型の油圧モータ10,20を2基備え、かつ該油圧モータ10,20の回転を減速する減速機30を備えたオーガ駆動装置4をベースマシン1のリーダに沿って昇降自在に装備してなる杭施工機100であって、油圧モータ10,20は、トルク性能および回転性能からなる出力性能がそれぞれに異なる油圧モータであり、各油圧モータ10,20の有する出力性能と、各油圧モータ10,20の駆動の有無と、から規定されるオーガ駆動装置4の出力パターンを格納する格納手段と、該格納手段における出力パターンを自動選択してオーガ駆動装置4を駆動させる選択手段と、を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭基礎施工に際し、既製杭の地盤内圧入やスクリューロッドによる地盤掘削等に使用される杭施工機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
杭基礎の施工において、鋼管杭等の既製杭を地盤に回転圧入したりスクリューロッドで地盤を掘削する場合には、油圧モータと、この油圧モータの回転を減速する減速機とからなるオーガ駆動装置をベースマシンのリーダに沿って昇降自在に装備してなる杭施工機が使用される。
【0003】
1本の杭基礎を対象地盤に圧入する場合、対象地盤の地盤性状、例えば地盤の硬さや礫分の有無、砂質地盤、粘性地盤等の地質の相違などに応じて、施工深度レベルで圧入時のトルクや回転数を調整する必要がある。これは、杭先端を支持地盤に定着させる先端支持杭であっても同様であり、支持地盤以浅の比較的軟弱な地盤においてはオーガ駆動装置の設定トルクを低く抑え、回転数を高く設定した姿勢で杭を圧入し、支持地盤に到達した時点でトルクを増大させ、回転数を減じて杭の最終圧入をおこなうことになる。
【0004】
杭の圧入に要するトルクや回転数はその杭径によっても相違するため、上記する地盤性状の相違と相俟って、そのトルク管理や回転管理には入念な事前設計と施工管理が要求される。仮に対象地盤において、想定地盤よりも硬質な地盤が存在する場合(このようなケースは杭基礎施工において往々にして出現するケースである)、実際のトルク値が設定トルクを上回り、その結果としてオーガ駆動装置の破損や、杭と減速機を繋ぐ把持装置の破損、さらには杭自体の破損が招来される。従来は、上記する地盤性状の変化に臨機に対応すべく、作業員がトルク計を常時監視しながら、必要に応じて設定トルク値を高めたり、あるいは油圧モータの駆動を停止させていた。
【0005】
上記する施工管理方法では、作業員が常時トルク管理をおこなう必要があり、その操作タイミングの遅れによって機器や杭の破損が招来されるなど、多くの課題があった。
【0006】
ところで、油圧モータの設定トルクを容易に知ることを可能とした従来技術として、特許文献1に開示の杭施工機のトルク管理装置を挙げることができる。これは、パイロット圧を指令信号に応じて制御する電磁制御弁によって該パイロット圧を設定し、パイロット圧とリリーフ弁の設定圧とに基づいて油圧モータの設定トルクを算出し、表示するものである。
【0007】
この特許文献1の装置を適用したとしても、多様に変化する地盤性状に臨機に対応しながらオーガ駆動装置の出力調整をおこなうことは極めて困難である。特許文献1の装置では、その明細書に開示の従来技術を前提とすれば、油圧モータの発生トルクは数段程度の切換えが可能ではあるものの、1台の油圧モータのみからなるオーガ駆動装置ではトルクのバリエーションに限界があり、多様な杭径および地盤性状変化に対応しきれない。
【0008】
なお、2基の同性能な油圧モータと減速機とからなるオーガ駆動装置も従来製造されているが、かかるオーガ駆動装置においてもトルクのバリエーションに限界があることに変わりはない。
【0009】
【特許文献1】特許第3129986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の杭施工機は上記する問題に鑑みてなされたものであり、杭径や地盤性状が多様に変化する場合においても、その構成機器や杭を損傷させることなく品質に優れた杭基礎施工を実現することのできる杭施工機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による杭施工機は、その回転数とトルクの組合せを2パターン以上有した可変容量型の油圧モータを少なくとも2基備え、かつ該油圧モータの回転を減速する減速機を備えたオーガ駆動装置をベースマシンのリーダに沿って昇降自在に装備してなる杭施工機であって、少なくとも2基の前記油圧モータは、トルク性能および回転性能からなる出力性能がそれぞれに異なる2以上の油圧モータ、または、同一仕様の油圧モータであってギヤ比が相違することにより前記出力性能がそれぞれに異なる2以上の油圧モータ、のいずれか一方からなり、各油圧モータの有する前記出力性能と、各油圧モータの駆動の有無と、から規定されるオーガ駆動装置の出力パターンを格納する格納手段と、該格納手段における出力パターンを選択してオーガ駆動装置を駆動させる選択手段と、を具備していることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の杭施工機は、鋼管杭やPHC杭などの既製杭を回転圧入することによって杭基礎を地盤内に立て込んだり、スクリューロッドを回転圧入しながらその先端付近からセメントミルクを吐出し、切削地盤とセメントミルクを混合攪拌することによってセメント杭を造成する杭基礎施工に適用される。
【0013】
例えば走行手段であるクローラと、その上方において、バックステーにて支持されたリーダを旋回可能に備えた旋回部とからなるベースマシンから杭施工機は構成される。
【0014】
このリーダに昇降自在に装着されたオーガ駆動装置は、2以上(例えば2基)の可変容量型の油圧モータとこの油圧モータの回転速度を減速する減速機とから構成されており、この油圧モータはそれぞれに出力性能が異なるものから構成されている。ここで、出力性能の異なる複数の油圧モータは、トルク性能および回転性能からなる出力性能がそれぞれに異なり、仕様の異なる複数の油圧モータであってもよいし、同一仕様の油圧モータであるが、それぞれのギヤ比が相違することによって出力性能がそれぞれに異なる複数の油圧モータであってもよい。減速機から下方に突出した出力軸には適宜の把持装置が装着されており、該把持装置に既製杭やスクリューロッドが連結され、油圧モータの駆動によって減速機が同期駆動し、この駆動力によって地盤内に杭等が回転圧入される。
【0015】
可変容量型の油圧モータは、外接式または内接式の歯車モータ、円筒状のロータに装着され、円周方向へ可変するベーン(板)にて区切られたロータおよびカムリング間に作動油を流入させて回転するベーンモータ、斜軸式および斜板式を含むアキシャル式、またはラジアル式のピストンモータの中から適宜選定することができる。このラジアル式のピストンモータは、ピストンが回転軸に対して直角方向に配列されており、ロータの円筒部に対して円周方向にシリンダが取り付けられ、作動圧油を順次流し込むことによってロータを回転させるものである。これらの各種油圧モータの中から任意形態の油圧モータを選定し、例えば、大容量(トルク大)で低速回転と、小容量(トルク小)で高速回転の2パターンの出力性能を選択可能とすることができる。ここで、本発明の杭施工機のオーガ駆動装置においては、ピストンモータ、中でもラジアル式のピストンモータを使用するのが好ましい。油圧制御に際し、本発明では必要に応じてフリーホイールを作動させてモータの空回りを実行させるが、ラジアル式のピストンモータの場合には、空回り時において循環する圧油によってもモータ損傷がないためである。
【0016】
本発明の杭施工機におけるオーガ駆動装置においては、複数の可変容量型油圧モータがそれぞれに異なる出力性能(回転性能およびトルク性能)を有している。例えば大容量と小容量の2パターンの可変容量型の油圧モータであってそれぞれに出力性能が異なるものからオーガ駆動装置が構成される場合には、トルク大で低速回転〜トルク小で高速回転までの8つの出力パターンの選択が可能となる。出力性能の異なる3以上の油圧モータを使用する場合にはさらに多数の出力パターンの選択肢を有することも可能になる。
【0017】
各油圧モータが2以上の回転数とトルクのパターンを有しており、さらに出力性能が異なる2以上の油圧モータを備えていることで、それらの組み合わせ(パターンの選択と油圧モータの選択からなる組み合わせ)に応じたオーガ駆動装置の出力パターンのバリエーションが従来のオーガ駆動装置に比して格段に増加する。その結果、多様な地盤性状の変化に対してより最適な出力パターンの選択が可能となることから、杭施工機の省電力化を図ることができ、より効率的な杭基礎施工を実現することができる。なお、2以上の油圧モータの少なくとも1つの油圧モータが、出力性能が同一もしくは異なる2以上のサブ油圧モータが直列に繋がれて構成されるものであってもよく、この繋がれたサブ油圧モータの出力性能によって前記1つの油圧モータの出力性能が規定される形態であってもよい。たとえば、2つの大容量の油圧モータ(だとえば、第1の油圧モータと第2の油圧モータとする)が併設されてオーガ駆動装置が構成される実施形態において、第2の油圧モータには、直列(鉛直方向)に小容量の油圧モータ(第3の油圧モータとする)が接続されていて、第2の油圧モータの出力性能と第3の油圧モータの出力性能が合算されて第4の油圧モータ(実際は第2の油圧モータと第3の油圧モータが存在し、第4の油圧モータとは称呼上の定義に過ぎない)が形成されるものである。この場合、2つの油圧モータの出力性能が合算された第4の油圧モータに対し、第2の油圧モータ、第3の油圧モータをそれぞれサブ油圧モータと位置づけたものである。
【0018】
これら出力パターンの組み合わせは、例えば油圧モータを駆動制御する中央制御装置内の格納手段内にデータとして格納されており、この格納手段内から地盤性状や杭径などに応じて最適な出力パターンを選択手段によって選択するものである。例えば、任意の杭径と地盤性状に基づいて該杭の回転圧入に必要な設定トルクまたはトルクレンジ(および設定回転数または回転数レンジ)が経験則もしくは設計計算から予め決定されており、各出力パターンが自動的に選択されるように制御機構内の格納手段にデータ入力されており、この出力パターンデータに基づいて適宜の油圧モータやその出力性能(大容量か小容量か)が自動選択される。また、杭の現在の施工深度を作業員が判断しながら、あるいは、現在のトルク値や回転数値と現在選択されている出力パターンとを作業員が比較判断しながら、杭の施工状況に応じて作業員が出力パターンを手動で切換えることもできる。
【0019】
ここで、前記格納手段においては、前記出力パターンごとに電磁弁が設けられており、該電磁弁が切替えられることで、選択された1または2以上の油圧モータが油圧モータごとに選択された出力性能(大容量または小容量)で駆動する実施の形態であってもよい。各出力パターンに固有の公知の電磁(切換)弁が設けられていることで、適切な出力パターンの選定が実行される。また、各出力パターンがさらに固有の減圧弁(少なくとも出力パターンごとに設定トルクの上限値が認識されている)を有していることで、設定トルク以上のトルクが作用した際に圧油を効果的に逃がすことができ、トルクの増大に起因する油圧モータ、把持装置等の破損を確実に回避することができる。
【0020】
さらに好ましい実施の形態として、前記オーガ駆動装置の現在の出力トルクを検知するトルクセンサと、検知された出力トルクと現在選択されている前記出力パターンのトルクレンジ(トルク範囲)とを比較する識別手段と、をさらに備えており、前記出力トルクが前記トルクレンジを外れる場合には、該出力トルクが包含されるトルクレンジを有する別途の出力パターンが前記選択手段によって自動選択される実施の形態であってもよい。
【0021】
地盤性状の変化に対応しながら出力パターンの自動選択をより確実に実行できる実施の形態として、現在の出力トルクを常時センシングしながら、現在選択されている出力パターンの例えばトルクレンジの上限値および下限値をセンシングされたトルクが外れた段階で、該出力トルクを包含するトルクレンジを具備する別途の出力パターンが自動選択される制御機構を備えたものである。
【0022】
また、前記オーガ駆動装置の現在の回転数を検知する回転センサを備え、検知された出力回転数と現在選択されている前記出力パターンの回転数レンジとを比較する識別手段と、をさらに備えており、前記出力回転数が前記回転数レンジを外れる場合には、該出力回転数が包含される回転数レンジを有する別途の出力パターンが前記選択手段によって自動選択される実施の形態であってもよい。この実施の形態によっても、トルク値による管理と同様に出力回転数の変動に臨機に応じた高い精度のオーガ管理を実行することが可能となる。
【0023】
さらに、前記オーガ駆動装置の現在の出力トルクを検知するトルクセンサと、前記オーガ駆動装置の現在の回転数を検知する回転センサと、をさらに具備するとともに、トルクセンサおよび回転センサのいずれか一方を選択的にON制御自在となっており、検知された出力トルクまたは出力回転数と現在選択されている前記出力パターンのトルクレンジまたは回転数レンジとを比較する識別手段を備えており、前記出力トルクまたは前記出力回転数が前記トルクレンジまたは前記回転数レンジを外れる場合には、該出力トルクが包含されるトルクレンジを有する別途の出力パターンまたは該出力回転数が包含される回転数レンジを有する別途の出力パターンが前記選択手段によって自動選択される実施の形態であってもよい。
【0024】
トルク値と回転数のいずれか一方を選択可能とすることで、地盤性状によっては例えばトルク値、回転数のいずれかで管理する方が管理精度を高めることができるような場合に臨機に適した管理方法を選択することが可能となる。
【0025】
本実施の形態によれば、杭径と表層地盤の設定トルクのみを操作者が設定してしまえば、以後の杭施工段階におけるトルク管理または回転数管理とそれに応じた出力パターン選択の全てを本発明の杭施工機が自動で実行することができる。これにより、操作者の労力を大幅に低減することができ、杭施工機や杭の破損等の危険性を格段に低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上の説明から理解できるように、本発明の杭施工機によれば、杭径や地盤性状が多様に変化する場合においても、その構成機器や杭を損傷させることなく品質に優れた杭基礎を効率的に施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の杭施工機の側面図であり、図2はオーガ駆動装置とリーダの拡大図である。図3はオーガ駆動装置の縦断面図であり、図4はオーガ駆動装置の横断面図であり、図5は油圧モータの一実施の形態の縦断面図であり、図6はオーガ駆動装置の他の実施の形態の縦断面図である。図7は油圧回路図の一実施の形態であり、図8は出力パターンの実施の形態の説明図である。なお、図示する実施の形態は、油圧モータ10,20の仕様が異なることで双方の出力性能が相違する形態であるが、同一仕様の油圧モータを使用し、各油圧モータのギヤ比を相違させることによって双方の出力性能が相違する形態であってもよいことは勿論のことである。
【0028】
図1に示すように、本発明の杭施工機100は、クローラとその上方においてバックステー11にて支持されたリーダ2を旋回可能に備えた旋回部とからなるベースマシン1と、このリーダ2のガイドレール22に昇降自在に装着されたオーガ駆動装置4とから大略構成されている。
【0029】
オーガ駆動装置4を図2〜4をもとに詳細に説明する。このオーガ駆動装置4は図3,4に示すように、出力性能の異なる2つの油圧モータ10,20の各出力軸(の歯車)が減速機30の歯車と噛み合い係合しており、減速機30の下方に突出した出力軸30aに既製杭(図示する鋼管S)やスクリューロッドと連結される把持装置40が装着されて構成される。この油圧モータ10,20、減速機30は鋼製桁51と鋼製プレート52とからなるユニット50にて一体とされ、このユニット50が昇降台3に連結固着されている。昇降台3は鋼製プレートを矩形中空断面形状に組み付けてなるリーダ2の側部プレートに固着された2つの角鋼管ガイドレール22,22に係合している。図1に示すようにリーダ2の上下端には一組のスプロケット21,21が装着され、昇降台3の昇降機器(図示略)は該スプロケット21内に内蔵されている。
【0030】
出力性能(トルク性能、回転性能)の異なる油圧モータは公知の可変容量型の油圧モータを使用でき、例えば、斜板の傾きを調整することで押しのけ容積が変化する斜板式や、カムリングの移動によって押しのけ容積が変化するベーン式、さらには斜軸の傾きによって押しのけ容積が変化する斜軸式などを使用できる。その一例として、例えばラジアル式のピストンモータである油圧モータ10(20)の縦断面図を図5に示す。図示する油圧モータ10(20)は、フロントユニット10a、トルクモジュール10b、バルブアッセンブリ10c、ブレーキ10dから大略構成されており、大容量(低速回転でトルク大)と小容量(高速回転でトルク小)の2速切換えが可能である。
【0031】
図2〜4で示すオーガ駆動装置4は、出力性能の異なる2つの油圧モータ10,20から構成されており、さらに各油圧モータは上記する2つの出力切換えが可能となっていることから、例えば5〜8つの出力パターンを適宜選択することが可能である。すなわち、油圧モータ10,20の双方を駆動させるのか、いずれか一方のみを駆動させるのかといった選択と、選択された油圧モータが大容量にて駆動するのか小容量にて駆動するのかといった選択の双方の組み合わせによって出力パターンが決定される。本発明の杭施工機100は、使用される油圧モータの性能に応じて操作者が入力することにより、複数の出力パターンが制御機構の格納部に記憶される。
【0032】
上記する杭施工機100は現在の出力トルクを検知するトルクセンサまたは現在の出力回転数を検知する回転センサなどをさらに搭載しており、例えばトルクセンサにてリアルタイムに現在のトルク値がセンシングされるようになっている。ここで、トルクセンサと回転センサのいずれか一方を具備する形態であってもよいし、双方のセンサを具備し、地盤性状、施工方法ごと(杭の圧入の場合にはトルクセンサを選定し、セメントミルク杭を造成する場合には回転センサを選定する等)に選択可能な形態であってもよい。
【0033】
操作者は杭施工に際し、地盤調査資料に基づいて表層地盤の掘削もしくは回転圧入時に必要なトルク値を杭施工機100の制御盤に入力すると、制御盤内の制御機構が少なくともこのトルク値を包含するトルクレンジの出力パターンを制御盤内の格納部から割り出し、選定された出力パターンに基づいてオーガ駆動装置4(の油圧モータ10,20)が駆動する。なお、オーガ駆動装置4の各出力パターンは、それぞれに固有の電磁弁が切換えられることで自動選択される。
【0034】
例えば、すべての電磁弁が閉制御の状態では、オーガ駆動装置4の出力パターンの中で最大トルク(最小回転数)が自動的に選定されるようになっており(すなわち、油圧モータ10,20双方がともに大容量で選択される)、トルクセンサで検知された現在の出力トルク値がA/D変換されて制御機構内に電気信号としてリアルタイムに送られる。
【0035】
杭またはスクリューロッドの回転圧入時においては、地盤性状の相違に応じてオーガ駆動装置が杭等から受ける現在のトルク値が刻々変化する。制御機構ではセンシングされた出力トルク値に応じて所定の電磁弁を開制御する指令信号を該電磁弁に送信することで、一方のモータを小容量に変更したり、フリーホイールをON制御して一方のモータを空回りさせるといった制御をおこなう。かかる制御により、オーガ駆動装置4の出力パターン(のトルクレンジ)の中で、現在の出力トルクに適応した出力パターンが随時選定される。
【0036】
図6は、オーガ駆動装置の他の実施の形態の縦断面図である。このオーガ駆動装置は、2つの併設する油圧モータ10A,20からなり、油圧モータ10Aは、大容量のサブ油圧モータ10’と小容量のサブ油圧モータ10”が直列に接続されており、この2つのサブ油圧モータ10’、10”の出力性能が合算されて油圧モータ10Aの出力性能が規定されるものである。
【0037】
上記する制御機構の一連の流れを図7の油圧回路図、および選択される油圧モータとその容量ごとに変速段が設定された図8のテーブルに基づいて概説する。
【0038】
2つの油圧モータ10,20にはそれぞれタンク62から送られる圧力油が主流路をX1方向およびX2方向に流れており、フリーホイール70がONされると、駆動モータ10の駆動力は減速機に伝達されないようになっている。
【0039】
この回路図における変速段は図8のテーブルに示すように、各出力パターンが選択されるように割り当てられた電磁弁によって出力パターンの切換えが随時おこなわれるようになっている。具体的には、最も大トルクかつ低速回転にて杭を回転圧入する場合(1速段階)には、電磁弁63のみが開状態となり、それによって油圧モータ10,20の双方がともに大容量の状態で駆動する。以後、設定トルクの減少および設定回転数の増加に応じて、2速段階(電磁弁63,64が開状態となることで、油圧モータ10は大容量で、油圧モータ20は小容量で駆動)、3段変速、・・・と出力パターンの切換えがおこなわれる。
【0040】
ここで、図7の回路図に戻り、電磁弁64と電磁弁65が開制御されると、パイロットポンプ61からの圧力油(ルートX6)はそれぞれX4、X5のルートで流れ、各油圧モータ10,20の容量を小容量側に切換えられるようになっている。また、7段変速の場合には、電磁弁63が閉制御されることでフリーホイールはONされ、油圧モータ10は空回りするのみとなって油圧モータ20の駆動力のみが杭に伝達されることになる。
【0041】
例えば各油圧モータ10,20に圧油を供給する不図示の配管にトルクセンサ80(例えば圧力センサ)が装着されており、センシング圧力に比例した電気信号をトルク値に換算することで現在のトルク値が随時特定される。トルクセンサにおけるセンシング結果は電気制御盤81に電気信号として送られ、信号値に基づいて現在選択されている出力パターンが最適であるか否か、すなわち、選択されている変速段における設定トルクレンジが現在のトルク値を包含しているか否かが制御機構内の識別部にて識別され、識別結果が選択部に送信されると、選択部から所定の電磁弁に開制御信号が送信される。また、不図示の油圧ポンプの流れ方向に応じて可動するシャトル弁82からは、現在の圧力油の圧力値がトルクセンサ80にてセンシングされている。
【0042】
識別の結果、選択されている変速段が最適な状態の場合には現在の変速段状態が維持され、選択されている変速段が例えば現在のトルク値よりも小さな場合にはより設定トルクレンジが大きな別途の出力パターンに対応した電磁弁に開制御信号が送信される(図中のX7またはX8またはX9)。なお、識別部、選択部の実行は公知の中央処理装置(CPU)にておこなわれるものであり、例えば電気制御盤81内に内蔵されている。
【0043】
上記するように、出力性能の異なる2以上の可変容量型の油圧モータからオーガ駆動装置を構成し、複数の出力パターンが格納部に格納され、各出力パターンが固有の電磁弁の開制御によって選択されるようになっており、かつ、センシングされた現在のトルク値と選択されている出力パターンとの大小識別が随時おこなわれ、必要に応じて出力パターンの選択切換えがおこなわれる制御機構を有することで、杭径の相違は勿論のこと、地盤性状の変化に臨機に対応しながら、最適な設定トルクのもとで杭等の回転圧入を実行することができる。
【0044】
上記する複数の出力パターンを具備する回路の再構成は、公知の電磁弁および減圧弁を回路に組み込むとともに格納部への出力パターンの再入力(追加入力)をおこなうだけの簡易な操作によるものであることから、施工場所の相違、地盤性状の変化の多少等に応じてその設定を簡易に変更することができるものである。
【0045】
本発明による上記杭施工機によれば、杭径および表層地盤に対応した出力パターンを操作者が入力した後は、地盤性状の変化に応じて自動で杭等の回転圧入を所定延長実行することが可能となる。この自動回転圧入においては、地盤の硬軟の変化に対してもオーガ駆動装置や把持装置、被圧入体である杭等を損傷させる危険性が一切ないことから、作業員の削減や管理手間の削減を図りながら品質に優れた基礎杭施工を実現することができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の杭施工機の側面図である。
【図2】オーガ駆動装置とリーダの拡大図である。
【図3】オーガ駆動装置の縦断面図である。
【図4】オーガ駆動装置の横断面図である。
【図5】油圧モータの一実施の形態の縦断面図である。
【図6】オーガ駆動装置の他の実施の形態の縦断面図である。
【図7】油圧回路図の一実施の形態である。
【図8】出力パターンの一実施の形態の説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1…ベースマシン、11…バックステー、2…リーダ、21…スプロケット、22…ガイドレール、3…昇降台、4…オーガ駆動装置、10,10A…油圧モータA、10’,10”…サブ油圧モータ、20…油圧モータB、30…減速機、30a…出力軸、40…把持装置、100…杭施工機、S…鋼管杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その回転数とトルクの組合せを2パターン以上有した可変容量型の油圧モータを少なくとも2基備え、かつ該油圧モータの回転を減速する減速機を備えたオーガ駆動装置をベースマシンのリーダに沿って昇降自在に装備してなる杭施工機であって、
少なくとも2基の前記油圧モータは、トルク性能および回転性能からなる出力性能がそれぞれに異なる2以上の油圧モータ、または、同一仕様の油圧モータであってギヤ比が相違することにより前記出力性能がそれぞれに異なる2以上の油圧モータ、のいずれか一方からなり、
各油圧モータの有する前記出力性能と、各油圧モータの駆動の有無と、から規定されるオーガ駆動装置の出力パターンを格納する格納手段と、該格納手段における出力パターンを選択してオーガ駆動装置を駆動させる選択手段と、を具備していることを特徴とする杭施工機。
【請求項2】
前記2以上の油圧モータの少なくとも1つの油圧モータは、出力性能が同一もしくは異なる2以上のサブ油圧モータが直列に繋がれて構成されるものであり、繋がれた該サブ油圧モータの出力性能によって前記1つの油圧モータの出力性能が規定されることを特徴とする請求項1に記載の杭施工機。
【請求項3】
前記格納手段において、前記出力パターンごとに電磁弁が設けられており、該電磁弁が切替えられることで、選択された1または2以上の油圧モータが油圧モータごとに選択された出力性能で駆動することを特徴とする請求項1または2に記載の杭施工機。
【請求項4】
前記オーガ駆動装置の現在の出力トルクを検知するトルクセンサと、検知された出力トルクと現在選択されている前記出力パターンのトルクレンジとを比較する識別手段と、をさらに備えており、
前記出力トルクが前記トルクレンジを外れる場合には、該出力トルクが包含されるトルクレンジを有する別途の出力パターンが前記選択手段によって自動選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の杭施工機。
【請求項5】
前記オーガ駆動装置の現在の回転数を検知する回転センサと、検知された出力回転数と現在選択されている前記出力パターンの回転数レンジとを比較する識別手段と、をさらに備えており、
前記出力回転数が前記回転数レンジを外れる場合には、該出力回転数が包含される回転数レンジを有する別途の出力パターンが前記選択手段によって自動選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の杭施工機。
【請求項6】
前記オーガ駆動装置の現在の出力トルクを検知するトルクセンサと、前記オーガ駆動装置の現在の回転数を検知する回転センサと、をさらに具備するとともに、トルクセンサおよび回転センサのいずれか一方を選択的にON制御自在となっており、
検知された出力トルクまたは出力回転数と現在選択されている前記出力パターンのトルクレンジまたは回転数レンジとを比較する識別手段を備えており、
前記出力トルクまたは前記出力回転数が前記トルクレンジまたは前記回転数レンジを外れる場合には、該出力トルクが包含されるトルクレンジを有する別途の出力パターンまたは該出力回転数が包含される回転数レンジを有する別途の出力パターンが前記選択手段によって自動選択されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の杭施工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−240503(P2008−240503A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143140(P2007−143140)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(593157758)株式会社エーコー (8)
【出願人】(595018916)株式会社シロタ (5)
【Fターム(参考)】