説明

板状成形品及びその製造方法

【課題】板厚精度及び曲げ弾性率に優れ、寸法収縮率が小さく、カスレ、ボイド残り、及び板厚ダレがなく、反り及びねじれが少なく、生産性のよい板状成形品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたのち加熱金型により硬化して得られた引き抜き成形品の複数を、接着剤、接着シート、及びプリプレグのいずれか1種以上で接着して製造された板状成形品及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状成形品及びその製造方法に関し、詳しくは板厚精度及び曲げ弾性率に優れ、カスレ、ボイド残り等がない板状成形品であり、特に厚物板状成形品、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板状成形品は、電気絶縁用スペーサー、隔壁、半導体搬送装置、反応槽外壁、構造材、電子部品の固定板、搬送板等に幅広く使われている。特に電気絶縁用スペーサーや各種隔壁、半導体搬送装置等に使用される板状成形品は板厚精度が高く、反り、ねじれ、寸法変化の少ないものが求められている。
従来から板状成形品は、織布や不織布に樹脂を含浸させたプリプレグを複数枚重ね合わせて加熱加圧成形し、1〜3mm程度の厚さの積層板(1次成形品)として製造されている。また、この積層板を複数枚さらに重ね合わせて、各層間にプリプレグや接着シートを介し、加熱加圧成形して10〜100mm程度の厚さとする厚物成形品(2次成形品)が製造されている。厚物成形品を製造する際、薄物成形品と同様の成形圧力(4〜8MPa)ではズレ出しや、端面からの樹脂流れによる板厚ダレ等が発生しやすいため、成形圧力を低圧(4MPa以下)にするが、層間の気泡の残存(ボイド)及び空隙(カスレ)が発生しやすいという問題があり、このため使用するプリプレグや成形条件には充分な注意を払わなければならない。
【0003】
プリプレグ複数枚を積層した積層体を、真空状態で樹脂のフロー温度で加圧して複合シートを作り、さらにこの複合シートを所定枚数積層した積層体を、真空状態で加熱加圧して硬化し厚物積層体を作る等の提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。しかし、板厚精度や寸法変化、カスレ、ボイド、反り等について充分といえる厚物積層体は得られていない。
【0004】
【特許文献1】特開平2−162017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の厚物成形品の製造方法では、多数の積層板やプリプレグ、積層シートを重ね合わせるため、材料ロスが多く、重ね合わせに多くの手間がかかっていた。特に、厚さ10mm以上の厚物成形品は、ズレダレ防止のため成形圧力を低圧で行わなければならず、カスレ、ボイド残り、板厚ダレ等が発生しやすくなり、高精度の製品を得ることが難しかった。
本発明は、上記の問題に鑑み、板厚精度及び曲げ弾性率に優れ、寸法収縮率が小さく、カスレ、ボイド残り、及び板厚ダレがなく、反り及びねじれが少なく、生産性のよい板状成形品、特に厚物板状成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたのち加熱金型を通過させながら硬化して得られる引き抜き成形品を用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
1.複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたのち加熱金型により硬化して得られた引き抜き成形品の複数を、接着剤、接着シート、及びプリプレグのいずれか1種以上で接着して製造された板状成形品、
2.上記1に記載の板状成形品の表裏面に、さらに1対のプリプレグ又は補強板を接着して製造された板状成形品、
3.引き抜き成形品が中空構造を有する上記1又は2に記載の板状成形品、
4.引き抜き成形品の繊維方向が一方向となるように重ね合わせて製造された上記1〜3のいずれかに記載の板状成形品、
5.引き抜き成形品の繊維方向が異なるように重ね合わせて製造された上記1〜3のいずれかに記載の板状成形品、
6.厚さが10〜150mmである上記1〜5のいずれかに記載の板状成形品、及び
7.複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたのち加熱金型により硬化して得られた引き抜き成形品の複数を、接着剤、接着シート、及びプリプレグのいずれか1種以上で接着する板状成形品の製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の板状成形品は、板厚精度に優れ、寸法収縮率が小さく、カスレ、ボイド残り、及び板厚ダレがなく、かつ反り、ねじれがほとんどない。また、本発明の製造方法は、引き抜き成形品を用いることにより、簡便なものとなるため生産性に優れている。特に、本発明は、従来製造が困難であった、100mm以上の高板厚の厚物板状成形品を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の板状成形品は、あらかじめ製造した複数の引き抜き成形品を接着剤、接着シート、及びプリプレグのいずれか1種以上で接着して製造する。
【0010】
[引き抜き成形品]
本発明における引き抜き成形品は、複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたのち加熱金型を通過させながら硬化させるという、一般的な引き抜き成形品の製造と同様に行うことができる。
以下に、引き抜き成形品の製造ついて詳しく説明する。
【0011】
(繊維糸)
繊維糸は、繊維を収束して得られたものであって、従来、引き抜き成形品の製造に用いられてきた繊維糸であれば特に限定されるものではない。繊維としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ザイロン繊維、全芳香族ポリエステル繊維、耐薬品性の有機繊維等が挙げられ、一般に市販されているものを用いることができる。
【0012】
ガラス繊維としては、例えば、E−ガラス繊維、T−ガラス繊維、D−ガラス繊維等が挙げられ、カーボン繊維としては、例えば、PAN系、ピッチ系等が挙げられ、アラミド繊維としては、例えば、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミド等のパラ系やメタ系の繊維等が挙げられる。
本発明の繊維糸に用いる繊維、特にガラス繊維及びカーボン繊維は、表面にサイジング処理を行い、耐薬品性を維持するようにしたものが好ましい。このサイジング処理を行うサイジング剤としては、アルカリ成分との反応性が低く、マトリックス樹脂に対するぬれ性がよい薬剤が挙げられ、具体的には、メタクリルシランやウレイドシラン等のシランカップリング剤又はこれらの混合品等であることが好ましい。
また、上記の繊維を単独で又は複数種を混合してもよく、特に、ガラス繊維、カーボン繊維をそれぞれ単独で、又はガラス繊維とカーボン繊維との複合系を繊維糸として用いることが好ましい。
この繊維糸の含有量は、引き抜き成形品中の繊維基材の平均体積含有率(体積比率)で、通常、50〜80体積%とすることが好ましい。50体積%以上であれば成形品の剛性を充分なものとすることができ、80体積%以下であれば繊維基材全体に熱硬化性樹脂組成物を含浸させることができ、引き抜き成形品の物性を優れたものとすることができる。
【0013】
(熱硬化性樹脂組成物)
繊維糸に含浸させる熱硬化性樹脂組成物は、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂をベース樹脂として用いることができる。
例えば、ビニルエステル樹脂組成物を繊維糸に含浸させる熱硬化性樹脂組成物として用いる場合、(A)ビニルエステル樹脂、(B)架橋剤、(C)低収縮剤、(D)無機充填剤、(E)離型剤、及び(F)有機過酸化物を必須成分として含有するものを使用することが好ましい。
【0014】
(A)ビニルエステル樹脂は、成形材料として一般に使用されているものであれば特に限定されず使用することができ、例えば、D−953(商品名、大日本インキ化学工業株式会社製)等が挙げられる。このような(A)ビニルエステル樹脂は、(a−1)酸成分と(a−2)エポキシ樹脂成分を反応させて得られるものである。
(a−1)酸成分としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ソルビン酸等の不飽和一塩基酸が挙げられ、さらに必要に応じてフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸等の二塩基酸や酸無水物を2種以上混合して使用することもできる。
(a−2)エポキシ樹脂成分としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量等に制限されることなく広く用いることができ、具体的には、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型の芳香族基を有するエポキシ樹脂、ポリカルボン酸がグリシジルエーテル化したエポキシキ樹脂、シクロヘキサン誘導体にエポキシ基が縮合した脂環式の基を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、必要に応じて液状のモノエポキシ樹脂と併用して使用することができる。
(A)ビニルエステル樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に、通常、70〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0015】
(B)架橋剤としては、(A)ビニルエステル樹脂と重合可能な二重結合を有するものであれば使用可能であり、例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、メタクリル酸メチル、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
(B)架橋剤の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に、通常、1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0016】
(C)低収縮材としては、熱可塑性樹脂であるポリエチレン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ゴム等が使用可能であるが、耐薬品性、軽量性、低収縮性の観点からポリエチレン樹脂であることが好ましい。このうちガラス転移点が70〜120℃のポリエチレン樹脂粉末を使用することは、耐薬品性、軽量性、及び成形収縮率を満足し、サポート製品としての長期信頼性を満足することができ、さらに安価な引き抜き成形品を製造することができるため特に好ましい。これはビニルエステル樹脂以外の不飽和ポリエステル樹脂をベース樹脂とした場合にも同様のことがいえる。
(C)低収縮材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に、通常、0.5〜1.5質量%の範囲であることが好ましい。
【0017】
(D)無機充填材としては、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ガラスバルーン等の通常用いられるものが挙げられ、特に限定されない。
(D)無機充填材の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に、通常、10〜28質量%の範囲であることが好ましい。
【0018】
(E)離型剤としては、成形材料として通常用いられる離型剤であればよく、例えば、市販のシリコーンオイルが挙げられ、中でもエポキシ変性シリコーンオイルが好ましい。
(E)離型剤の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に、通常、0.01〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0019】
(F)有機過酸化物としては、ビニルエステル樹脂の硬化剤として通常用いられる化合物であれば、特に制限されるものではなく、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−t−ブチル、過酸化イソブチリル等が挙げられる。
(F)有機過酸化物の配合量は、熱硬化性樹脂組成物中に、通常、0.1〜2質量%の範囲であることが好ましい。
【0020】
(引き抜き成形品の製造)
引き抜き成形品の製造方法としては、まず、繊維糸の複数本、例えば、50〜500本程度の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させ、熱硬化性樹脂組成物が繊維糸に付着した状態とする。このとき、繊維糸が引き抜き成形時の引き抜き力に耐え得ることが必要であるので、繊維の方向を引き抜き方向に配向させて使用することが好ましい。
次に、上記の熱硬化性樹脂組成物を含浸した繊維糸を加熱金型内に通すことによって熱硬化性樹脂組成物を加熱硬化させながら所定の形状に外形を整えて引き抜き、成形品を成形する。
【0021】
このとき用いる金型としては、引き抜き成形に用いられる金型であれば特に限定されるものではなく、樹脂の硬化により引き抜き成形品を得るためにヒーター等で加熱制御できるものであればよい。金型の温度は、用いる樹脂組成物に応じて適宜選択することができるが、通常、70〜170℃であることが好ましい。金型温度が70℃以上であると、熱硬化性樹脂組成物を含浸した繊維糸が完全に硬化した状態となって引き抜くことができ、170℃以下であると、硬化反応の速度を適度なものとすることができ、成形品にクラックや反りの不良が生じない。
また、引き抜き時間(金型中を通過する時間)は、用いる樹脂組成物に応じて適宜選択することができるが、通常、0.5〜3分の範囲内となるようにすることが好ましい。このような引き抜き時間となる引き抜き速度は、通常、10〜120cm/分の範囲であることが好ましく、20〜35cm/分であることがより好ましい。引き抜き速度が10cm/分以上であれば、成形金型中での硬化を適度な時間で完了させることができ、引き抜く際に抵抗なく安定的に連続成形できる。また、引き抜き速度が120cm/分以下であれば、熱硬化性樹脂組成物を含浸した繊維糸の硬化状態を充分なものとすることができる。
すなわち、引き抜き成形では、熱硬化性樹脂組成物を含浸した繊維糸を加熱された金型内に連続的に引き込み、金型内通過中に樹脂を所定の温度に付して硬化させると共に、金型出口から所定の時間で引き抜くことが重要である。
【0022】
この引き抜き成形で用いられる装置は、通常用いられている引き抜き成形品の製造装置と同様のものであればよく、特に限定されずに使用することができる。また、金型部分は上記で説明した温度等であることが好ましい。
これによって、熱硬化樹脂組成物を効率的に硬化させることができ、引き抜き成形品を操作性よく成形することができる。
上記の製造方法により製造された本発明の引き抜き成形品の切断面の断面形状は、例えば、図1に示すような角形の断面を有するもの、図2に示すような中空の断面を有するもの等とすることができる。
【0023】
[引き抜き成形品の接着]
本発明における板状成形品は、複数本の引き抜き成形品を接着して製造することができる。
接着は、接着剤、接着シート又はプリプレグのいずれを用いてもよく、単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に、板状成形品を適当な厚さになるまで積層させた厚物板状成形品は、曲げ弾性率等の強度を強めるためにプリプレグを用いて接着することが好ましい。また、板状成形品の表裏面に1対の接着シート、プリプレグ、又は補強板を接着することができ、特に補強板を接着することにより強度を強めることができる。
【0024】
(接着剤及び接着シート)
本発明に用いる接着剤及び接着シートの接着剤組成物は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等をベース樹脂として用いることができる。
例えば、エポキシ樹脂としては、引き抜き成形品用の樹脂で用いられるエポキシ樹脂と同様に1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量等に制限されることなく広く用いることができる。具体的には、ビスフェノール型、ノボラック型、ビフェニル型の芳香族基を有するエポキシ樹脂、ポリカルボン酸がグリシジルエステル化したエポキシ樹脂、シクロヘキサン誘導体にエポキシ基が縮合した脂環式の基を有するエポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独又は2種以上を混合して使用することができる。さらに、上記のエポキシ樹脂の他に、必要に応じて液状のモノエポキシ樹脂を併用して使用することができる。
【0025】
エポキシ樹脂を硬化する際に用いることができる硬化剤としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤等が挙げられる。
アミン系硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−キシリレンジアミン等の芳香族ジアミン等が挙げられる。フェノール系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、トリアジン変性フェノールノボラック樹脂等が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、無水ナジック酸、無水グルタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
これらの硬化剤は、単独又は2種以上を混合して使用してもよい。
この硬化剤の使用量は、硬化性及び硬化性樹脂物性のバランス等の点から、上記エポキシ樹脂に対して、通常、0.4〜1.5質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜1.3質量%の範囲である。
【0026】
酸無水物を用いる場合、その硬化を促進する目的で硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、特に制限はなく、従来の硬化促進剤として使用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、三フッ化ホウ素錯体、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン類及びトリフェニルホスフィン等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、単独又は2種以上を混合して使用してもよい。
この硬化促進剤の使用量は、硬化促進剤及び硬化樹脂物性のバランス等の点から、エポキシ樹脂に対して、通常、0.05〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%の範囲である。
【0027】
接着剤組成物には、硬化接着剤層に柔軟性を付与させるため、必要に応じて、上記の樹脂の他にエラストマーを加えることができる。エラストマーとしては、例えば、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、カルボキシル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム及びビニル基含有アクリロニトリルブタジエンゴム等の各種合成ゴム、ゴム変性の高分子量化合物、高分子エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、変性ポリイミド及び変性ポリアミド等が挙げられる。これらのエラストマーは、単独又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、接着剤組成物には、公知のフェノール系老化防止剤、フィラー等を適宜加えることができる。
【0028】
(プリプレグ)
本発明に用いるプリプレグは、定法に従って繊維基材を樹脂組成物に含浸、乾燥、硬化して製造することができる。含浸装置は、横型乾燥塔、縦型乾燥塔等いずれでもよい。また、樹脂シートに繊維基材を圧着してプリプレグを製造してもよい。
繊維基材に用いる繊維は、織布、不織布、一方向繊維(ロービング)等のシート状に製造されるものであれば、特に限定されるものではない。繊維としては、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、ザイロン繊維、全芳香族ポリエステル繊維、耐薬品性の有機繊維等からなる繊維糸が挙げられる。具体的には、前記の引き抜き成形品の製造で例示した繊維と同様である。
【0029】
次に、本発明に用いるプリプレグに使用する樹脂組成物は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等をベース樹脂として用いることができる。
例えば、エポキシ樹脂は、前記の接着剤組成物と同様に1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば、分子構造、分子量等に制限されることなく広く用いることができる。具体的には、前記の接着剤組成物で例示したエポキシ樹脂と同様である。さらに、エポキシ樹脂は、必要に応じてポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、液状のモノエポキシ樹脂を併用して使用することができる。
【0030】
エポキシ樹脂を硬化させる硬化剤としてはアミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤等が使用でき、具体的には、前記の接着剤組成物で例示した硬化剤と同様である。
硬化剤の使用量は、硬化性及び硬化性樹脂物性のバランス等の点から、上記エポキシ樹脂に対して、通常、0.4〜1.5質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜1.3質量%の範囲である。
また、酸無水物を用いる場合、その硬化を促進する目的で硬化促進剤を配合してもよい。硬化促進剤としては、特に制限はなく、従来エポキシ樹脂の硬化促進剤として使用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができ、具体的には、前記の接着剤組成物で例示した硬化促進剤と同様である。
硬化促進剤の使用量は、硬化促進剤及び硬化樹脂物性のバランス等の点から、エポキシ樹脂に対して、通常、0.05〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%の範囲である。
【0031】
[板状成形品の製造]
本発明における板状成形品は、上記のようにして製造された接着剤、接着シート、及びプリプレグのいずれか1種以上を用いて引き抜き成形品の接着を行うことにより得ることができる。
まず、所定本数の引き抜き成形品の縦横を揃えてから、その上下面及び側面を接着剤、接着シート、及びプリプレグのいずれか1種以上を用いて接着する。このとき、接着剤等で接着された複数本の引き抜き成形品の表裏面に、必要に応じてプリプレグ及び補強板等を重ね合わせることができる。次に、接着剤等で接着された複数本の引き抜き成形品を成形プレスにて0〜10MPa程度の圧力下で加熱成形する。このとき、同時に減圧を行うことにより、ボイドのない成形板を得ることができる。
また、引き抜き成形品を接着剤等で接着する際、引き抜き成形品の繊維の方向をずらし上下に重ね合わせることによって、板状成形品の短手及び長手の両方向とも曲げ強度の強い成形品を得ることができる。繊維の方向をずらす際、板状成形品の強度をより強くさせる観点から、上下の繊維方向が90度の角度で異なるように重ね合わせることが好ましい。
【0032】
さらに、複数の引き抜き成形品を重ね合わせ、上記と同様に接着、加熱成形を行うことにより、厚さ10〜150mm程度の厚物板状成形品とすることができる。厚さが150mm以下であればズレや板厚ダレを発生させずに製造することができる。このとき重ね合わせる引き抜き成形品の本数は、目的とする厚物板状成形品の厚さによって適宜決めればよい。厚物板状成形品は、ズレや板厚ダレ防止、製造のし易さ、成形品の強度の観点から、厚さ10〜150mmであることが好ましく、厚さ10〜100mmであることがより好ましい。また、厚物板状成形品を製造する際には、曲げ弾性率等の強度を強めるためにプリプレグを用いて接着することが好ましい。
【0033】
本発明はまた、複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたのち加熱金型により硬化して得られた引き抜き成形品の複数を、接着剤、接着シート、及びプリプレグのいずれか1種以上で接着する板状成形品の製造方法をも提供する。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
実施例1
熱硬化性樹脂成分として、ビニルエステル樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製、商品名:UE3505)22質量部、スチレンモノマー(日本ユピカ株式会社製、商品名:スチレンモノマー)0.35質量部、ポリエチレン(住友精化株式会社製、商品名:フロ−センUF−1.5)0.25質量部、硫酸バリウム(堺化学工業株式会社製、商品名:沈降性硫酸バリウム−100)3.7質量部、離型剤(小桜商会株式会社製、商品名:INT−1850HT〔有機酸、グリセリド、合成樹脂縮合体〕)0.35質量部、有機過酸化物(日本油脂株式会社製、商品名:パーヘキサHC)0.35質量部を混練機(ディスパー)にいれ、約20分間混練し、熱硬化性樹脂組成物を得た。
次に、繊維基材としてカーボン繊維(東邦テナックス株式会社製、商品名:UT−500−24K)60本を、得られた熱硬化性樹脂組成物の入った樹脂槽に含浸させ、該カーボン繊維を、押し出し成形治具に通した後、連続的に160℃に加熱し、成形金型(長さ:800mm、内寸法:19mm×50.3mm)に送り込み十分に硬化させ、20cm/分のスピードで引き抜いて引き抜き成形品を得た。断面の寸法は18.8mm×50mmであった。
次に、図3に示すように、得られた引き抜き成形品を各段10本となるよう2段に並べ、エポキシ樹脂・酸無水物系2液接着剤(京セラケミカル株式会社製、商品名:TVB2620/TVB2625)を塗布し、さらに表裏面に厚さ1mmのガラスエポキシ補強板(京セラケミカル株式会社製、商品名:TLB551)を重ね合わせて、成形プレスに仕込み、成形圧力0.5MPaで、180℃、60分加熱を行い、縦1010mm、横1008mm、厚さ41.3−41.8mmの板状成形品を得た。
【0035】
実施例2
図4に示すように、実施例1で得られた引き抜き成形品の層間接着に厚さ0.1mmのエポキシ樹脂系接着シート(京セラケミカル株式会社製、商品名:TFA−880)を使用した他は実施例1と同様に成形を行い、縦1010mm、横1008mm、厚さ40−41.7mmの板状成形品を得た。
【0036】
実施例3
図5に示すように、補強板は使用せず、実施例1で得られた引き抜き成形品の表裏面及び層間の接着に、厚さ0.19mmのガラスエポキシプリプレグ(京セラケミカル株式会社製、商品名:TLP−551)を使用した他は実施例1と同様に成形を行い、縦1010mm、横1008mm、厚さ39.9−40.7mmの板状成形品を得た。
【0037】
実施例4
実施例1の熱硬化性樹脂組成物を含浸させたカーボン繊維を、中子付き金型(長さ:800mm、内寸法:8.8mm×40mm)に送り込み、十分に硬化させ、20cm/分のスピードで引き抜いて中空引き抜き成形品を連続的に得た。このとき、中子治具(長さ:500mm、外形:10mm、設定温度:140℃)は、金型の10cm手前から繊維に接触するように設置した。
得られた中空引き抜き成形品を切断装置で長さ1010mmに切断し、カーボン繊維の体積比率が70%の中空引き抜き成形品を得た。断面寸法は18.8mm×50mmであった。
次に、図6に示すように、得られた中空引き抜き成形品を各段10本となるよう2段に並べ、エポキシ樹脂・酸無水物系2液接着剤(京セラケミカル株式会社製、商品名:TVB2620/TVB2625)を塗布し、成形プレスに仕込み、成形圧力0.5MPaで、180℃、60分加熱を行い、縦1010mm、横1008mm、厚さ38.6−39.8mmの中空板状成形品を得た。
【0038】
比較例1
縦1020mm、横1020mm、厚さ0.19mmのガラスエポキシプリプレグ(京セラケミカル株式会社製、商品名:TLP551)を21枚重ね合わせ、離型フィルムとしてOPPフィルムを介して、成形プレスに仕込み、成形圧力4MPaで180℃、90分加熱を行い、厚さ3.9mmのガラスエポキシ積層板を得た。さらに、この積層板10枚と前記のガラスエポキシプリプレグ9枚を交互に重ね合わせ、2MPaで、180℃、60分加熱を行い、成形品を得た。成形品の端面からはみ出た樹脂硬化物を切断した縦1010mm、横1008mm、厚さ37−39.2mmの板状成形品とした。
【0039】
実施例1〜4及び比較例1で得られた板状成形品の厚さ、カスレ、ボイドの発生状況、反りを測定し、結果を表1に示す。
なお、カスレは、コーナーから白化部分を測定したものであり、目視によりカスレがないものを「なし」とした。ボイドの発生状況は、目視によりボイドが発生していないものを「なし」とし、発生しているものを「あり」とした。反りは、定盤上に静置し、高さゲーツにより測定した。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から、実施例1〜4で得られた板状成形品は、カスレ及びボイドの発生がなく、比較例1と比べて反りがほとんどないものであることがわかる。
【0042】
実施例5
図7に示すように、引き抜き成形品の繊維を長手方向に一方向となるよう接着剤を介して3段に積層し、厚物板状成形品を得た。
実施例6
図8に示すように、引き抜き成形品の中央を上下のものと90度の角度で方向を変えて組み合わせ、接着剤を介し3段に積層し、厚物板状成形品を得た。
【0043】
実施例5及び6で得られた厚物板状成形品の短手方向8と長手方向9の曲げ弾性率(GPa)を測定した。結果を表2に示す。
なお、曲げ弾性率は、JIS K 6911に準拠して測定した。
【0044】
【表2】

【0045】
表2より、実施例5で得られた厚物板状成形品は、引き抜き成形品の繊維が一方向に揃っているため、長手方向の曲げ弾性率に優れていることが分かる。また、実施例6で得られた厚物板状成形品は、上下の引き抜き成形品の繊維方向が、90度の角度で異なるように重ね合わされているため、短手及び長手の両方向の曲げ弾性率に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の板状成形品は、板厚精度及び曲げ弾性率に優れ、寸法収縮率が小さく、カスレ、ボイド残り、及び板厚ダレがなく、反り及びねじれが少なく、さらに厚物板状成形品とした場合でも、曲げ弾性率等の強度に優れているため、これらの特性が要求される製品に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】引き抜き成形品の断面図である。
【図2】空中引き抜き成形品の断面図である。
【図3】実施例1の板状成形品の構成を示した断面図である。
【図4】実施例2の板状成形品の構成を示した断面図である。
【図5】実施例3の板状成形品の構成を示した断面図である。
【図6】実施例4の中空板状成形品の構成を示した断面図である。
【図7】実施例5の厚物板状成形品の構成を示した図である。
【図8】実施例6の厚物板状成形品の構成を示した図である。
【符号の説明】
【0048】
1:引き抜き成形品
2:接着剤
3:補強板
4:接着シート
5:プリプレグ
6:中空引き抜き成形品
7:繊維方向
8:短手方向
9:長手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたのち加熱金型により硬化して得られた引き抜き成形品の複数を、接着剤、接着シート、及びプリプレグのいずれか1種以上で接着して製造された板状成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の板状成形品の表裏面に、さらに1対のプリプレグ又は補強板を接着して製造された板状成形品。
【請求項3】
引き抜き成形品が中空構造を有する請求項1又は2に記載の板状成形品。
【請求項4】
引き抜き成形品の繊維方向が一方向となるように重ね合わせて製造された請求項1〜3のいずれかに記載の板状成形品。
【請求項5】
引き抜き成形品の繊維方向が異なるように重ね合わせて製造された請求項1〜3のいずれかに記載の板状成形品。
【請求項6】
厚さが10〜150mmである請求項1〜5のいずれかに記載の板状成形品。
【請求項7】
複数本の繊維糸に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたのち加熱金型により硬化して得られた引き抜き成形品の複数を、接着剤、接着シート、及びプリプレグのいずれか1種以上で接着する板状成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−172919(P2009−172919A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15396(P2008−15396)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(390022415)京セラケミカル株式会社 (424)
【Fターム(参考)】