説明

架橋性樹脂成形体および架橋樹脂成形体、ならびにそれらの製造方法

【課題】 加熱溶融時の流動性に優れ、基板と積層した時に、内部に空隙が生じたり平坦性が損なわれることがない架橋性樹脂成形体、この架橋性樹脂成形体を架橋してなる架橋樹脂成形体、及び、溶媒の残留がなく、繊維材料への含浸性に優れる該架橋性樹脂成形体を生産性よく製造する方法を提供する。
【解決手段】 重合性単量体を塊状重合して得られる樹脂、および架橋剤を含有する架橋性樹脂成形体であって、前記樹脂の重量平均分子量が5,000〜10,000であり、かつ分子量分布が3.5以下である架橋性樹脂成形体、これを架橋してなる架橋樹脂成形体、並びに、重合性単量体、重合触媒および架橋剤を含有する重合性組成物を50℃以上に加熱することにより塊状重合して前記架橋性樹脂成形体を製造する方法であって、前記加熱前の重合性組成物の温度が−10℃〜+20℃であることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱溶融時の流動性に優れる架橋性樹脂成形体、およびこの架橋性樹脂成形体を架橋してなる架橋樹脂成形体、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層プリント配線板などの回路基板の電気絶縁層には、電気絶縁性の樹脂材料が用いられている。電気絶縁層の形成方法としては、(a)樹脂および硬化剤を溶媒に溶解または分散させてワニスとし、これを基材に塗布し、乾燥した後に樹脂を硬化する方法が知られている。また、(b)熱硬化性の樹脂を半硬化の状態でフィルムやプリプレグに成形し、基材と積層した後、加熱加圧成形して樹脂を完全に硬化する方法も知られている。
【0003】
しかし、上記(a)の方法では、溶媒を乾燥により除去する工程を含むため工程数が多く煩雑で、生産性が低く、また作業環境上も問題があった。さらに、得られる電気絶縁層に溶媒が残留したり、気泡を生じたりする場合があった。
【0004】
一方、(b)の方法では、得られる電気絶縁層と基材との密着性が不足して剥離などの問題を生じる場合があった。また、プリプレグを製造する際に、樹脂の粘度が高いために、繊維材料への含浸が不十分となる場合があった。そのため、熱硬化性樹脂を溶媒に溶解させて粘度を下げ、これを繊維材料に含浸させた後に溶媒を乾燥除去し、半硬化させることが行われているが、この方法はやはり溶媒の残留や生産性の低下を伴う。
【0005】
溶媒の残留がなく、含浸性に優れるプリプレグを連続的に製造する方法として、繊維材料の片面から溶融状態の熱硬化性樹脂を塗布し、加熱して含浸させ、次いで該繊維材料の反対側の面から熱硬化性樹脂を塗布し、加熱して半硬化のプリプレグとする方法が開示されている(特許文献1)。また、繊維材料が含浸されるに足る量の溶融状態の熱硬化性樹脂を塗布し、加熱して含浸させる第一の塗工工程と、そこにさらに溶融状態の熱硬化性樹脂を塗布し、加熱して半硬化のプリプレグとする第二の塗工工程とを有する方法が開示されている(特許文献2)。
【0006】
しかしこれらの方法では二段階で樹脂を塗布、含浸させるため、やはり工程が煩雑であった。また、得られるプリプレグを表面に配線パターンが形成された基板と積層して配線基板を製造する場合において、該プリプレグの基板への密着性が不十分となり、内部に空隙(カスレ)が生じたり、平坦性が損なわれる場合があった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−281645号公報
【特許文献2】特開平10−67014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、加熱溶融時の流動性に優れ、基板と積層した場合であっても、内部に空隙(カスレ)が生じたり、平坦性が損なわれることがない架橋性樹脂成形体、及びこの架橋性樹脂成形体を架橋してなる架橋樹脂成形体を提供することを課題とする。さらに、溶媒の残留がなく、繊維材料への含浸性に優れる該架橋性樹脂成形体を生産性よく連続的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、樹脂の分子量分布に着目した。これまで、塊状重合では重合反応の制御が困難で、得られる樹脂の分子量分布については検討されていなかった。そして、本発明者らがさらに検討した結果、従来の方法で得られる樹脂は分子量分布が広く、加熱溶融時の流動性が低いため、基板との密着性、パターン埋め込み性が不十分であったことを見出した。これに対し、塊状重合により製造される、分子量分布(Mw/Mn)が小さい樹脂を含有する架橋性樹脂成形体用いた場合には、加熱溶融時の流動性に優れ、基板と積層した場合であっても、内部に空隙が生じたり、平坦性が損なわれることがないことを見出した。
【0010】
そして、このような特徴を有する架橋性樹脂成形体を効率よく製造する方法について、さらに鋭意研究した結果、重合性単量体および架橋剤を含有する重合性組成物を加熱して塊状重合する場合において、加熱前の重合性組成物の温度を−10℃〜+20℃とすることにより、上述のような特徴を有する架橋性樹脂成形体を効率よく製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明の第一によれば、重合性単量体を塊状重合して得られる樹脂、および架橋剤を含有する架橋性樹脂成形体であって、前記樹脂の重量平均分子量(Mw)が5,000〜10,000であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下であることを特徴とする架橋性樹脂成形体が提供される。
前記架橋性樹脂成形体は、重合性単量体および架橋剤を含有する重合性組成物を塊状重合して得られるものであることが好ましい。また、厚さ0.2mm以下のシート状物であることが好ましい。
前記樹脂としては、芳香族化合物およびジオレフィンを含有する重合性単量体混合物を塊状フリーデル・クラフツ重合して得られるもの、ならびに、エポキシ基を含有する重合性単量体を塊状開環重合して得られるものが好ましい。
【0012】
本発明の第二によれば、前記の架橋性樹脂成形体を架橋してなる架橋樹脂成形体が提供される。
【0013】
本発明の第三によれば、重合性単量体、重合触媒および架橋剤を含有する重合性組成物を、50℃以上に加熱することにより塊状重合して架橋性樹脂成形体を製造する方法であって、前記加熱前の重合性組成物の温度が−10℃〜+20℃であることを特徴とする前記の架橋性樹脂成形体の製造方法が提供される。
前記製造方法は、重合性単量体、重合触媒および架橋剤を混合して重合性組成物を調製する工程(I)、該重合性組成物を支持体に塗布または含浸する工程(II)、ならびに、前記重合性組成物を50℃以上に加熱することにより塊状重合する工程(III)を有する架橋性樹脂成形体の製造方法であって、前記重合性組成物の調製から加熱までの重合性組成物の温度が−10℃〜+20℃であることが好ましく、前記支持体として長尺の支持体を用い、該支持体を一定方向に搬送しながら、前記工程(I)〜(III)を連続的に実施することがより好ましい。
【0014】
前記支持体は、繊維材料であることが好ましい。
前記加熱は、内部の最高温度と最低温度との温度差が10℃以内である熱風加温装置を用いて行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加熱溶融時の流動性に優れ、基板と積層した場合であっても、内部に空隙(カスレ)が生じたり、平坦性が損なわれることがない架橋性樹脂成形体、及びこの架橋性樹脂成形体を架橋してなる架橋樹脂成形体、ならびに該架橋性樹脂成形体を効率よく製造する方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(架橋性樹脂成形体)
本発明の架橋性樹脂成形体は、重合性単量体を塊状重合して得られる樹脂、および架橋剤を含有する架橋性樹脂成形体であって、前記樹脂の重量平均分子量(Mw)が5,000〜10,000であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明の架橋性樹脂成形体に用いられる樹脂は、塊状重合で得られ、架橋可能なものであれば特に限定されない。塊状重合の様式も特に限定されず、付加重合や開環重合などのいずれでもよい。
【0018】
付加重合で得られる樹脂としては、例えば、芳香族化合物およびジオレフィンを含有する重合性単量体混合物を塊状フリーデル・クラフツ重合して得られる樹脂や、ポリオールとポリイソシアネートとの付加反応で得られるウレタン樹脂などが挙げられる。開環重合で得られる樹脂としては、エポキシ基を含有する重合性単量体を塊状開環重合して得られる樹脂、ラクタムの塊状開環重合で得られるポリアミド樹脂、および環状オレフィンを塊状開環重合して得られる樹脂などが挙げられる。中でも、加熱時の流動性が良好なので、芳香族化合物およびジオレフィンを含有する重合性単量体混合物を塊状フリーデル・クラフツ重合して得られる樹脂(以下、単に「フリーデル・クラフツ樹脂」ということがある)、およびエポキシ基を含有する重合性単量体を塊状開環重合して得られる樹脂(以下、単に「エポキシ開環樹脂」ということがある)が好ましい。
【0019】
(フリーデル・クラフツ樹脂)
フリーデル・クラフツ樹脂では、重合性単量体として芳香族化合物およびジオレフィンを含有する重合性単量体混合物を用いる。芳香族化合物としては、芳香族炭化水素類、ハロゲン化芳香族炭化水素類、および極性基を有する芳香族化合物などが挙げられ、かかる極性基としては、ヒドロキシル基、アルコキシル基、アルデヒド基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、ニトロ基、およびアミノ基などが挙げられる。中でも、重合反応性に優れ、かつ得られる樹脂の電気絶縁性に優れるなどの理由から、ヒドロキシル基を有する芳香族化合物であるフェノール類が好ましい。なお、本発明において、後述の芳香族ジビニル化合物はここでいう芳香族化合物には含まないものとする。
【0020】
フェノール類としては、公知のものがいずれも使用できるが、その具体例としては、フェノール;クレゾール類やp−t−ブチルフェノールなどのアルキル置換フェノール類;ブロモフェノール等のハロゲン化フェノール類;勝てコール、ヒドロキノン、レゾルシン等のフェノール性水酸基を2個以上含有するフェノール類;1−ナフトール、2−ナフトール、1,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類;ビスフェノールF、ビスフェノールA、ビフェノール、ジヒドロキシジフェニルエーテル等のビスフェノール類;などが挙げられる。これらのフェノール性化合物は単独で用いてもよいが、2種類以上を混合して使用してもよい。中でも、得られる架橋樹脂成形体が高耐熱性と低吸水性を実現できる点から、フェノール、クレゾール類、フェノール性水酸基を2個以上含有するフェノール類、ナフトール類、ビスフェノールAおよびこれらの混合物の使用が好ましく、フェノール性水酸基を2個以上含有するフェノール類およびナフトール類がより好ましい。
【0021】
ジオレフィンとしては、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、1,5−ヘプタジエン、1,6−ヘプタジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、1,7−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどの脂肪族非共役ジエン、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの脂肪族共役ジエン、およびジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ジビニル化合物が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を混合して用いられる。中でも、得られる架橋樹脂成形体の耐熱性に優れるなどの理由から、芳香族ジビニル化合物が好ましく、重合反応性や作業性等に優れる点でジビニルベンゼンが特に好ましい。
【0022】
ジオレフィンの量は特に制限されず、用いる芳香族化合物の種類によって適宜選択されるが、芳香族化合物1モルに対して好ましくは0.2〜1.0モル、より好ましくは0.4〜0.9モルである。ジオレフィンの量が多いほど得られる樹脂の分子量が高くなるので、ジオレフィンの量を調節することにより得られる樹脂の分子量を調節することができる。
【0023】
本発明に用いられるフリーデル・クラフツ樹脂は、上記の重合性単量体混合物、重合触媒および架橋剤を含有する重合性組成物を塊状重合して得ることが好ましい。
【0024】
重合性組成物は、さらに、脂肪族モノオレフィン類や、式:CH=CH−Qで表される化合物(式中、Qはメタクリロイル基、アクリロイル基、ビニルシリル基、アミノ基およびエポキシ基から選ばれる基を少なくとも一つ有する基を示す。)を含有していてもよい。これらの化合物を含有する重合性組成物を重合すると、芳香族化合物とジオレフィンとのフリーデル・クラフツ重合と同時に、芳香族化合物とこれらの化合物とのフリーデル・クラフツ付加反応も起こり、これらの化合物が得られる樹脂の側鎖に導入されるので、その量を調節することにより、得られる樹脂の分子量を調節することができる。
【0025】
中でも、式:CH=CH−Qで表される化合物を用いると、Qが架橋性樹脂中に導入され、架橋時にQが架橋に寄与するため、架橋密度を上げることができるので好ましい。前記Qとしては、架橋時の反応性に優れる点から、メタクリロイル基およびアクリロイル基から選ばれる基を少なくとも一つ有する基が好ましい。
【0026】
式:CH=CH−Qで表される化合物の具体例としては、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−1−イル、メタクリル酸3−ブテン−2−イル、メタクリル酸スチリル等の、Qがメタクリロイル基を有する基である化合物;アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イル、アクリル酸3−ブテン−2−イル、アクリル酸1−メチル−3−ブテン−2−イル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレート等の、Qがアクリロイル基を有する基である化合物;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン等の、Qがビニルシリル基を有する基である化合物;アリルアミン、2−(ジエチルアミノ)エタノールビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリン等のQがアミノ基を有する基である化合物;アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等の、Qがエポキシ基を有する基である化合物;等が挙げられる。
【0027】
式:CH=CH−Qで表される化合物の添加量は、芳香族化合物およびジオレフィンの合計量を100重量部としたとき、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。式:CH=CH−Qで表される化合物の添加量がこの範囲であるときに、重合反応率が高く、しかも後架橋可能な樹脂を効率よく得ることができる。
【0028】
フリーデル・クラフツ樹脂の製造に用いられる重合触媒としては、通常、酸が用いられる。具体的には、例えば塩化アルミニウム、塩化第二錫、三弗化ホウ素エーテル錯体などのルイス酸類;硫酸、塩酸、リン酸などの無機酸;ベンゼンスルフォン酸、パラトルエンスルフォン酸などの有機スルフォン酸類およびその塩;酢酸、シュウ酸、マレイン酸などの有機カルボン酸;などが使用できる。これらの酸触媒は2種類以上混合して使用することもできる。中でも、短時間で反応を終了できるとともに分子量分布が小さいフリーデル・クラフツ樹脂を得ることができる点で、ルイス酸類、無機強酸、ならびに有機スルフォン酸類およびその塩が好ましい。酸触媒の量は特に限定されず、その種類によっても異なるが、短時間で反応が完了でき、しかもその反応が穏和で反応制御が容易な点で、芳香族化合物100重量部に対し0.1〜5.0重量部であることが好ましい。
【0029】
(エポキシ開環樹脂)
エポキシ開環樹脂では、重合性単量体としてエポキシ基を含有する重合性単量体を用いる。エポキシ基を含有する重合性単量体としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシ−イソブタン、2,3−エポキシブタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシエイコサンなどのアルキレンオキシド;1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロドデカンなどの脂環式エポキシド;メチルグリシジルエーテル、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル;エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどのエピハロヒドリン;などが挙げられる。
【0030】
さらに、炭素−炭素二重結合およびエポキシ基を有する単量体も用いることができる。このような単量体を用いると、得られる樹脂に炭素−炭素二重結合を導入できるので、架橋時に該二重結合が架橋に寄与するため、架橋密度を上げることができるので好ましい。かかる単量体の具体例としては、例えば、ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテンなどの、鎖状のジエンまたはポリエンのモノエポキシド;4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどの脂環構造と炭素−炭素二重結合とを有するエポキシド;ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどの、不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;が挙げられる。
【0031】
これらのエポキシ基を含有する重合性単量体の中でも、得られる架橋樹脂成形体が高耐熱性と低吸水性を実現できる点から、脂環式エポキシドや、脂環構造と炭素−炭素二重結合とを有するエポキシドなどの、脂環構造を含む重合性単量体が好ましい。
【0032】
本発明に用いられるエポキシ開環樹脂は、上記の重合性単量体、重合触媒および架橋剤を含有する重合性組成物を塊状重合して得ることが好ましい。エポキシ開環樹脂の製造に用いられる重合触媒および重合法は特に限定されず、塩基触媒によるアニオン開環重合、酸触媒によるカチオン開環重合、および配位アニオン重合などのいずれでもよい。塩基触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、および水酸化バリウムなどの、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。酸触媒としては、四塩化スズ、五塩化アンチモン、三塩化鉄、および三フッ化ホウ素などの、ルイス酸;過ハロゲン酸、硫酸、リン酸、および硝酸などの、無機酸ならびにそれらの塩;有機スルホン酸および有機リン酸などの、有機酸ならびにそれらの塩;が挙げられる。中でも、有機酸およびその塩が好ましい。
【0033】
本発明の架橋性樹脂成形体における、樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜10,000、好ましくは7,000〜9,000である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、3.5以下、好ましくは3.0〜3.3である。
【0034】
本発明の架橋性樹脂成形体の形状は特に制約されず、例えば、シート状(フィルム状)、柱状、円柱状、多角柱状等、任意の形状が挙げられる。これらの中でも、本発明の架橋性樹脂成形体を、プリプレグや回路基板用途に使用する場合には、シート状(フィルム状)であるもの、又は繊維材料に含浸されてなるものが好ましく、厚みが0.2mm以下のシート状(フィルム状)であるものが特に好ましい。
【0035】
本発明の架橋性樹脂成形体は、例えば、前記重合性単量体、重合触媒、および架橋剤を含有する重合性組成物を加熱して、塊状重合することで得られる。塊状重合時の重合反応温度は、通常50℃以上、好ましくは80〜200℃、より好ましくは100〜150℃である。
【0036】
架橋剤としては、例えば、ラジカル発生剤、エポキシ化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、酸無水物基含有化合物、およびアミノ基含有化合物等が挙げられる。これらの架橋剤は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
これらの架橋剤は、得られる樹脂の架橋部位に応じて使い分けることができる。例えば、炭素−炭素二重結合部分で架橋させる場合にはラジカル発生剤を使用することができる。また、カルボキシル基や酸無水物基を有する架橋性樹脂を架橋させる場合にはエポキシ化合物を使用することができ、水酸基を有する架橋性樹脂を架橋させる場合には、イソシアネート基を含有する化合物を使用でき、エポキシ基を含有する架橋性樹脂を架橋させる場合には、カルボキシル基含有化合物や酸無水物基含有化合物を使用することができる。
【0038】
これらの中でも、ラジカル発生剤が好ましい。ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物やジアゾ化合物等が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド等のケトンペルオキシド類;プロピオニルペルオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルデカノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド等のアシルペルオキシド類;tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類;ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキサイド等のジアルキルペルオキシド類;1,4−ビス(t−ブチルペルオキシジイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ブタン等のペルオキシケタール類;tert−ブチルペルオキシアセテート、tert−ブチルペルオキシイソブチレート、tert−ブチルペルオキシオクトエート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルペルオキシヘキサン等のアルキルペルエステル類;ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシカーボネート類;コハク酸ペルオキシド等の水溶性ペルオキシド類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシド等のアルキルシリルペルオキシド類;等が挙げられる。これらの中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類が好ましい。
【0039】
ジアゾ化合物としては、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、4,4’−ジアジドカルコン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4'−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、4,4’−ジアジドジフェニルスルホン、4,4’−ジアジドジフェニルメタン、2,2'−ジアジドスチルベン等が挙げられる。
【0040】
架橋剤の使用量は特に限定されず、用いる架橋剤の種類に応じて、適宜設定することができる。例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合には、架橋剤の使用量は、全重合性単量体の量を100重量部としたとき、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜5重量部である。
【0041】
また本発明においては、架橋剤の効果を向上させるために、架橋助剤を併用することができる。用いる架橋助剤としては、公知の架橋助剤、例えば、p−キノンジオキシム等のジオキシム化合物;ラウリルメタクリレート等のメタクリレート化合物;ジアリルフマレート、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート等の二以上のアリル基を有する化合物;マレイミド等のイミド化合物;等が挙げられる。架橋助剤の使用量は特に制限されないが、全重合性単量体の量を100重量部としたとき、通常0〜100重量部、好ましくは0〜50重量部である。
【0042】
架橋剤としてラジカル発生剤を用いる場合には、重合性組成物にラジカル架橋遅延剤を含有させるのが好ましい。ラジカル架橋遅延剤は、一般的にラジカル捕捉機能を有する化合物であり、ラジカル発生剤によるラジカル架橋反応を遅らせる効果を有するものである。重合性組成物にラジカル架橋遅延剤を添加することにより、架橋性樹脂成形体を積層する場合の流動性及び架橋性樹脂の保存安定性を向上させることができる。
【0043】
ラジカル架橋遅延剤としては、例えば、4−メトキシフェノール、4−エトキシフェノール、4−メトキシ−2−t−ブチルフェノール、4−メトキシ3−t−ブチルフェノール、4−メトキシ−2,6−ジ−t−ブチルフェノール等のアルコキシフェノール類;ベンゾキノン、ナフトキノン、メチルベンゾキノン等のベンゾキノン類;等が挙げられる。これらの中でも、アルコキシフェノール類が好ましい。
【0044】
また重合性組成物には、所望に応じて、強化材、改質剤、酸化防止剤、難燃剤、充填材、着色剤、光安定剤等のその他の添加剤を含有させていてもよい。強化材としては、ガラス繊維、ガラス布、紙基材、ガラス不織布等が挙げられる。これらの添加剤はそれぞれ1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらその他の添加剤の使用量は、全重合性単量体の量を100重量部としたとき、通常0.001〜500重量部である。
【0045】
重合性組成物を調製する方法は、特に限定されない。例えば、重合性単量体(以下、「モノマー液」という場合がある。)と、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた溶液(触媒液)とを別々に調製し、反応させる直前に混合して調製する方法が挙げられる。この場合、架橋剤及びその他の任意成分はモノマー液にそれぞれ添加してもよいし、触媒液にそれぞれ添加してもよい。また、これらをモノマー液と触媒液とを混合して得られる混合溶液に添加することもできる。メタセシス重合触媒を溶解又は分散させる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限されず、公知の溶媒から適宜選択される。
【0046】
モノマー液と触媒液とを混合するときの温度は、通常−10〜+20℃、好ましくは0〜+10℃である。
【0047】
本発明の製造方法においては、モノマー液と触媒液を連続的に混合して重合性組成物を連続的に調製するのが生産効率及び品質安定化の点で好ましい。重合性組成物を連続的に調製するには、モノマー液と触媒液とをそれぞれ計量ポンプでミキサーに送液して行う。
【0048】
用いる計量ポンプは計量可能なものであれば特に制限されない。例えば、ギヤーポンプ、ダイアフラム式ポンプ、チューブポンプ、ロータリーポンプ、アキシャルプランジャーポンプ、シリンダーポンプ等が挙げられる。
【0049】
ミキサーとしては特に制限されず、例えば、スタティックミキサー、ダイナミックミキサー、衝突混合式ミキサー等を使用することができる。また、通常の撹拌装置もミキサーとして使用することができる。このうち、高生産性である点で、衝突混合式ミキサーが好ましい。衝突混合式ミキサーを使用する場合は、モノマー液を2つに分けて衝突させ、その衝突エネルギーで触媒液を混合する、3液以上を混合する方式が好ましい。
【0050】
塊状重合法は、前記重合性組成物を調製し、該組成物を所定温度に加熱することにより重合するものである。加熱前の重合性組成物の温度は、特に限定されないが、−10〜+20℃とするのが、重合初期段階における分子量増大を抑制することができ、結果として、分子量分布が3.5以下の樹脂を効率よく製造することができるため好ましい。また、重合性組成物の調製から加熱までの間、重合性組成物の温度を−10〜+20℃の範囲に保つことがより好ましい。
【0051】
加熱前の重合性組成物の温度を−10〜+20℃とする方法としては、特に限定されず、例えば、重合性組成物を貯蔵するタンクを所定温度に冷却する方法、調製された重合性組成物を送液する配管を冷却する方法等の、従来公知の液体の冷却方法が採用できる。
【0052】
次いで、重合性組成物を所定温度に加熱することにより、重合性単量体を塊状重合して、樹脂を得ることができる。重合性組成物を塊状重合する方法としては、例えば、(a)重合性組成物を支持体に塗布又は含浸させ、塊状重合する方法、(b)重合性組成物を型内で塊状重合する方法が挙げられる。
【0053】
(a)の方法によれば、フィルム状の架橋性樹脂成形体が得られる。用いる支持体としては、金属箔、樹脂製支持フィルム、繊維材料、金属ドラム、スチールベルト、フッ素樹脂系ベルト等が挙げられる。これらの中でも、本発明においては、金属箔、樹脂製支持フィルム又は繊維材料の使用が好ましい。
【0054】
金属箔の具体例としては、銅箔、アルミ箔、ニッケル箔、クロム箔、金箔、銀箔等が挙げられ、銅箔が特に好ましい。用いる銅箔としては、通常の銅張積層板に使用されるものであれば特に制限されず、その厚みや粗化状態は使用目的に応じて適宜選定することができる。また金属箔は、その表面がシランカップリング剤、チオール系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、各種接着剤等で処理されていてもよい。
【0055】
樹脂製支持フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ナイロンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム等が挙げられる。
【0056】
これらの金属箔及び樹脂製支持フィルムの厚さは特に制限されないが、作業性等の観点から、通常1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。
【0057】
支持体として繊維材料を用いると、架橋性樹脂含浸プリプレグを得ることができる。繊維材料としては特に制限されず、公知の有機及び/又は無機の繊維材料を用いることができる。繊維材料の具体例としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アミド繊維、金属繊維、セラミック繊維等が挙げられる。これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。繊維材料の形状としては、マット、クロス、不織布等が挙げられる。
【0058】
重合性組成物は従来の樹脂ワニスや熱硬化性樹脂と比較して低粘度であり、繊維材料に対して含浸性に優れるので、得られるプリプレグは繊維材料に架橋性樹脂が均一に含浸してなるものである。また、このプリプレグは、重合性組成物を含浸させた後、所定温度に加熱して塊状重合することにより得られるものであるため、従来のように、樹脂ワニスを含浸させた後、溶剤を除去する工程が不要であって、生産性に優れ、残存溶媒による臭気やフクレ等の問題も生じない。さらに、本発明の架橋性樹脂成形体は保存安定性に優れるので、得られるプリプレグも保存安定性に優れる。
【0059】
重合性組成物を支持体へ塗布または含浸させる方法は特に制限されない。例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法、超音波による噴霧等の公知の塗布方法を用いることができ、これにより厚み精度が良く、平滑なフィルムを得ることができる。なかでも、塗布量の定量性が高く、厚みの精度が高くできるので、ダイコート法が好ましい。また、重合性組成物は支持体の片面のみに塗布してもよいし、支持体の両面に塗布してもよい。
【0060】
塗工装置としては、支持体に重合性組成物を塗工できるものであれば特に制限されず、公知のものを使用できる。具体的には、特開平1−198639号公報、特開平8−134235号公報、特開平8−174549号公報に記載されている塗工装置が挙げられる。
【0061】
また、前記支持体として繊維材料を用いる場合には、重合性組成物の所定量を前記の方法により繊維材料に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラー等で押圧することにより含浸させてもよい。支持体に塗布するときの重合性組成物の使用量は特に制限されず、目的とする樹脂フィルムの厚みに応じて適宜設定することができる。
【0062】
また、前記支持体として繊維材料を用いる場合には、含浸物をさらに他の支持体上に設置して加熱してもよく、予め型内に繊維材料を設置しておき、重合性組成物を含浸させてから、後述する前記(b)の方法に従い塊状重合してもよい。
【0063】
重合性組成物が塗布または含浸された支持体を加熱する方法は特に制限されないが、加熱ロール、加熱プレート又は加熱炉を用いる方法が好ましい。これらの方法によれば、重合性組成物を塊状重合して、平滑性及び厚み精度に優れた架橋性樹脂フィルムを連続的に効率よく得ることができる。
【0064】
加熱ロールを用いる方法は、具体的には、重合性組成物が塗布又は含浸された支持体表面に、所望により該表面上に保護フィルムを重ね合わせ、上部から加熱ロールにより熱プレスするものである。加熱ロールにより熱プレスすることで、重合性組成物が塊状重合して架橋性樹脂が得られる。
【0065】
用いる保護フィルムとしては、架橋性樹脂と剥離性を有するフィルムであれば特に制約されない。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアリレートフィルム、ナイロンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム等が挙げられる。
【0066】
加熱プレートを用いる方法は、具体的には、重合性組成物が塗布又は含浸された支持体を、所望により保護フィルムを重ね合わせた後、加熱プレート上に載せ、加熱プレートにより加熱して、重合性組成物を塊状重合させて架橋性樹脂を得るものである。用いる保護フィルムとしては、前記加熱ロールを用いる方法において用いることができるものとして列記したものと同様のものが挙げられる。
【0067】
加熱炉を用いる方法は、具体的には、重合性組成物が塗布又は含浸された支持体を、所望により保護フィルムを重ね合わせた後、加熱炉内に入れ、全体を加熱炉により加熱して、重合性組成物を塊状重合させて架橋性樹脂を得るものである。加熱炉としては、熱風を用いて加熱する熱風加温装置や、赤外線を用いて加熱する赤外線加温装置等が挙げられる。なかでも、内部の温度調節が容易であることから、熱風加温装置が好ましい。用いる保護フィルムとしては、前記加熱ロールを用いる方法において用いることができるものとして列記したものと同様のものが挙げられる。
【0068】
以上のようにして得られる、フィルム状の架橋性樹脂成形体の厚みは、通常1mm以下、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.2mm以下である。
【0069】
(b)の型内で重合する方法によれば、任意の形状の架橋性樹脂成形体を得ることができる。その形状は、例えば、シート状(フィルム状)、板状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。
【0070】
成形型の形状、材質、大きさ等は特に制限されず、従来公知の成形型、例えば、割型構造すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができる。コア型とキャビティー型は、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。
【0071】
また、ガラス板や金属板等の板状成形型と所定の厚みのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入することにより、シート状(フィルム状)の架橋性樹脂成形体を得ることもできる。
【0072】
重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(射出圧)は、通常0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にあり、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならず経済的ではない。型締圧力は通常0.01〜10MPaの範囲内である。
【0073】
上記(a)及び(b)のいずれの方法においても、重合反応温度(ピーク温度)は、通常50℃以上、好ましくは80〜200℃、より好ましくは100〜150℃である。特に、エポキシ開環樹脂においては、重合反応温度が高いほど分子量が小さくなる傾向にあるので、重合反応温度によっても、得られる樹脂の分子量を調節することができる。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒から20分、好ましくは5分以内である。
【0074】
重合性組成物を所定温度に加熱することにより重合反応が開始する。この重合反応は発熱反応であり、一旦塊状重合が開始すると、重合性組成物の温度が急激に上昇し、短時間(例えば、10秒から5分程度)でピーク温度に到達する。重合反応時のピーク温度があまりに高くなると、重合反応のみならず架橋反応も進行して、架橋性樹脂が得られないおそれがある。
【0075】
塊状重合時のピーク温度は、用いる架橋剤の1分間半減期温度以下とするのがより好ましい。ここで、1分間半減期温度は、架橋剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルパーオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
【0076】
また、重合性組成物を所定温度まで昇温する速度は、好ましくは20℃/分以上、より好ましくは50℃/分以上である。高い昇温速度で加熱して塊状重合を行うことにより、分子量分布の小さい架橋性樹脂を得ることができる。
【0077】
上記(a)の方法による場合には、支持体として長尺のものを使用すれば、長尺の支持体付き架橋性樹脂フィルムを連続的に製造することができる。得られた長尺の支持体付き架橋性樹脂フィルムは、ロール状に巻き取り、保存・運搬することができる。
【0078】
すなわち、重合性組成物を調製する工程(I)、該重合性組成物を支持体に塗布または含浸する工程(II)、ならびに、前記重合性組成物を50℃以上に加熱することにより塊状重合する工程(III)を連続的に行うことにより、本発明の架橋性樹脂成形体を高い生産性で製造することができる。この場合において、重合性組成物の調製から加熱までの重合性組成物の温度が−10℃〜+20℃の範囲に保たれることが好ましい。
【0079】
この方法は、例えば、図1に示す連続成形装置を使用して実施することができる。図1に示す連続成形装置において、(11)は重合性単量体を含有するモノマー液を貯蔵するモノマー液タンク、(12)は重合触媒を含有する触媒液を貯蔵する触媒液タンクである。各タンクは、加熱前の重合性組成物(A)の温度が−10〜+20℃となるように予め冷却されている。
【0080】
モノマー液タンク(11)及び触媒液タンク(12)には、それぞれ小型チューブポンプ(13)、(14)が連結され、それぞれのタンクからモノマー液及び触媒液を小型スタティックミキサー(15)に所定の流速で送液し、両者を混合して重合性組成物を調製する。そして、調製した重合性組成物を塗工部(16a)、(16b)に送液する。
【0081】
一方、支持体送り出し部(17)から長尺の支持体(18)を所定の速度で送り出し、塗工部(16a)、(16b)の塗工装置を用いて、この支持体の両面に重合性組成物を連続的に塗工する。
【0082】
次いで、保護フィルム送り出し部(19a)、(19b)から長尺の保護フィルム(20)を送り出し、支持体の塗工面(両面)と重ね合わせ、間隙を一定に調整した一対の金属ロール(21a)、(21b)の間を通して、所定の塗膜厚さとなるように調節する。
【0083】
次に、このものを、入口及び出口にそれぞれ設けたエアカーテン(22)によって内部が均一に所定温度に保たれた熱風加温装置(23)に連続的に送り込む。熱風加温装置(23)で、上記重合性組成物を所定温度に加熱し、塊状重合して、両面保護フィルム付きの架橋性樹脂シート(24)を得ることができる。
【0084】
以上のようにして得られる架橋性樹脂シート(24)は、保護フィルムごとフィルム巻き取り部(25)で巻き取って、保管・運搬することができる。
【0085】
また、重合性組成物が塗布又は含浸された支持体を加熱する方法として、内部の最高温度と最低温度の温度差が10℃以内である熱風加温装置内において、重合性組成物を、ピーク温度で50℃以上、好ましくは80〜200℃、より好ましくは100〜150℃に加熱する方法がより好ましい。この方法によれば、塊状重合反応が均一になり、分子量分布がより小さな樹脂を得ることができる。
【0086】
熱風加温装置内の最高温度と最低温度の温度差を10℃以内にする方法としては、特に制限されないが、例えば、上述のごとく、支持体として長尺のものを使用して、重合性組成物が塗布又は含浸された長尺の支持体を、熱風加温装置内を一定速度で一定方向に搬送しながら、長尺の支持体の重合性組成物が塗布又は含浸された支持体を加熱する場合には、熱風加温装置の搬送口と搬出口とをエアーカーテンで仕切る方法が挙げられる。
【0087】
以上のようにして得られる架橋性樹脂成形体は塊状重合がほぼ完全に進行しているため、重合性単量体の残留が少ない。すなわち、重合反応率が高いので、重合性単量体に由来する臭気により、作業環境が悪化することがなく、また、保存中に塊状重合が進行することがないため保存安定性に優れている。
【0088】
本発明の架橋性樹脂成形体に含まれる樹脂の重合反応率は、通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。重合反応率は、例えば、樹脂を溶媒に溶解して得られた溶液を、ガスクロマトグラフィー等の公知の分析手段により分析することで求めることができる。
【0089】
本発明の架橋性樹脂成形体は流動性に優れるため、これを基材と積層し、加熱溶融して架橋させることで、基材と架橋樹脂とが強固に接着し、かつ良好な密着性を有する架橋樹脂成形体を得ることができる。
【0090】
(架橋樹脂成形体)
本発明の架橋樹脂成形体は、上記本発明の架橋性樹脂成形体を架橋してなるものである。具体的には、本発明の架橋性樹脂成形体を加熱溶融し、さらに加熱を継続することで架橋反応を進行させて得ることができる。
【0091】
架橋性樹脂成形体を加熱溶融し、架橋させるときの温度は、通常150〜250℃、好ましくは170〜250℃、より好ましくは180〜220℃である。また、ラジカル架橋剤の10分間半減期温度以上とするのが好ましい。ここで、10分間半減期温度は、ラジカル架橋剤の半量が10分間で分解する温度である。例えばジ−t−ブチルペルオキシドでは162℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは170℃である。また、加熱溶融・架橋する時間は特に制約されないが、通常数分から数時間である。
【0092】
架橋性樹脂成形体を加熱溶融し、架橋させる方法は特に制約されない。架橋性樹脂成形体がフィルム状である場合には、該フィルムを必要に応じて基材と積層し、熱プレスする方法が好ましい。熱プレスするときの圧力は、通常0.5〜20MPa、好ましくは1〜10MPa、より好ましくは2〜10MPa、特に好ましくは3〜10MPaである。熱プレスする方法は、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)等のプレス成形機を用いて行なうことができる。これらの方法によれば、生産性に優れるので好ましい。
【0093】
前記支持体として樹脂製支持フィルムを用いた場合には、該樹脂製支持フィルムを剥離した後に基材と積層してもよい。ここで用いる基材としては、金属箔、導電性ポリマーフィルム、他の熱可塑性樹脂フィルム、基板等が挙げられる。
【0094】
前記基材として金属箔あるいは外層用金属張積層板、内層用金属張積層板を用い、これらをステンレス板の間に順に積み重ね、加圧加熱プレスすることで、架橋性樹脂部分を架橋させて架橋樹脂金属張積層板や配線基板を製造することができる。
【0095】
また、前記支持体として金属箔を用いる場合には、得られた樹脂付き金属箔の架橋性樹脂部分を架橋させることで架橋樹脂金属張積層板を得ることができる。
【0096】
また、本発明のフィルム状の架橋性樹脂成形体をプリント配線板と積層し、架橋性樹脂部分を架橋することにより、多層プリント配線板を得ることができる。
【0097】
用いるプリント配線板としては、通常の内層用プリント配線板であれば特に制限されず、公知のものを使用できる。本発明によれば、電気絶縁性、機械的強度に優れる環状オレフィン系架橋樹脂が内層用プリント配線板と良好に密着し、強固に接着された多層プリント配線板を効率よく製造することができる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定した。
【0099】
(1)分子量および分子量分布
架橋性樹脂の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、ポリスチレン換算値として求めた。
【0100】
(2)平坦性および埋込性
IPC基板サンプルの平坦性と埋込性の評価は、各サンプルを図2に示すA−B方向に切断し、その断面を目視観察することにより行った。平坦性と埋込性の評価は、図3に示すように、カスレの有無、凹みの有無、及び平坦性の評価の3項目で行い、評価結果を以下のA、B、C、及びNGで判定した。そして、上記3項目の中で最も評価の低い項目を基準に総合的にIPC基板としての評価を行い、下記の基準で判定した。
【0101】
(カスレの有無)
A:カスレが無い場合
B:カスレはあるが、カスレの大きさが1mm角より小さい場合
C:カスレはあるが、カスレの大きさが1〜3mm角である場合
NG:カスレがあり、カスレの大きさが3mm角より大きい場合
(凹みの有無)
A:凹みが無い場合
B:凹みはあるが、凹みの大きさが1mm角より小さい場合
C:凹みはあるが、凹み大きさが1〜3mm角である場合
NG:凹みがあり、凹みの大きさが3mm角より大きい場合
(平坦性の評価)
A:配線跡が認められない場合
B:配線跡が薄く認められる場合
C:配線跡が濃く認められる場合
NG:表面に凹凸が認められる場合
(総合評価)
A:平坦性、埋込性良好
B:薄い配線痕あり
C:濃い配線痕あり
NG:表面凹凸あり
【0102】
(実施例1)
重合性単量体として2.7−ジヒドロキシナフタレン60部およびジビニルベンゼン40部(純度80%)、メタクリル酸アリル3.5部、ならびに架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)1.5部を攪拌しながら混合して、モノマー液を調製した。
【0103】
これとは別に、重合触媒として1.8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7−p−トルエンスルホン酸塩15部を、メタノール40部に溶解させて触媒液を調製した。
【0104】
前記図1に示す連続成形装置のモノマー液タンク(11)及び触媒液タンク(12)に、上記で得たモノマー液及び触媒液を入れ、各タンクを10℃に冷却した。モノマー液タンク(11)及び触媒液タンク(12)にそれぞれ小型チューブポンプ(13)、(14)をつなぎ、それぞれ15ml/分、0.15ml/分の流速で小型スタティックミキサー15(スパイラルタイプ、エレメント長3.18mm、エレメント数24)に送って混合し、得られる温度10℃の重合性組成物を塗工部(16a)、(16b)に送液した。
【0105】
一方、支持体送り出し部(17)から、厚さ75μm、幅630mmの帯状に連続したガラスクロス(18)(2112/630/AS891AW:旭シュエーベル社製)を、50mm/秒の速度で送り出し、塗工部(16a)、(16b)で両面ダイコーターを用いて、このガラスクロスに、塗膜後の厚さが110μmとなるように上記重合性組成物を連続塗工し、ガラスクロスに含浸させた。
【0106】
次いで、保護フィルム送り出し部(19a)、(19b)から、厚さ25μm、幅500mmの帯状に連続したポリエチレンナフタレートフィルム(20)(Q51:帝人デュポンフィルム社製)を送り出し、ガラスクロスの両面に重ね合わせ、間隙を150μmに調整した一対の金属ロール(21a)、(21b)の間を通して、塗膜厚さが100μmになるようにした。
【0107】
これを、入口及び出口にそれぞれ設けたエアカーテン(22)によって内部が均一に150±5℃に保たれた、長さ3,000mmの熱風加温装置(23)に連続的に送った。熱風加温装置(23)で上記重合性組成物を昇温速度50℃/分で150℃まで昇温し、塊状重合して、保護フィルム付きの樹脂シート(24)を得た。得られた樹脂シート(24)を保護フィルムごとフィルム巻き取り部(25)で巻き取った。樹脂シート(24)の樹脂の重量平均分子量は6,000、分子量分布は3.1であった。
【0108】
得られた樹脂シート(24)から保護フィルムを剥がし、これを100mm×100mmの正方形に切り出し、その片面に、厚さ12μmの電解銅箔(F00−WS:古河サーキットフォイル社製)を貼り付け、次いでレジストを塗布した。この上に図2に示す形状のIPC多目的基板の型紙を介して、電解銅箔に露光して形状を現像した。その後、エッチング処理を行い現像部分以外の銅箔を剥離液にて除去した。
【0109】
さらに、その上に樹脂シート(24)を重ね、熱プレスして板厚み200μmのサンプル1を得た。熱プレスの条件は、プレス温度200℃×15分、プレス圧3MPaとした。
【0110】
(比較例1,2)
実施例1において、図1に示す連続成形装置タンク温度(重合前の重合性組成物温度)10℃、及び塊状重合温度150℃を、表1に示す温度に変えた他は、実施例1と同様にして、比較例1,2の、樹脂シート及びそのサンプル2,3を得た。
【0111】
(実施例2)
実施例1において、重合性単量体として、2.7−ジヒドロキシナフタレン60部およびジビニルベンゼン40部に代えて、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド100部を用いた他は、実施例1と同様にして、実施例2の、樹脂シート及びそのサンプル4を得た。
【0112】
(比較例3,4)
実施例2において、図1に示す連続成形装置タンク温度(重合前の重合性組成物温度)10℃、及び塊状重合温度150℃を、表1に示す温度に変えた他は、実施例2と同様にして、比較例3,4の、樹脂シート及びそのサンプル5,6を得た。
【0113】
実施例1,2、及び比較例1〜4における、樹脂の種類、重合温度、重合前の反応液(重合性組成物)の温度、得られた樹脂の重量平均分子量及び分子量分布、並びに、各サンプルの評価結果を表1にまとめて示す。
【0114】
【表1】

【0115】
表1から、重量平均分子量(Mw)が5,000〜10,000であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下である樹脂を含む本発明の架橋性樹脂成形体を用いると、IPC基板を用いた評価において、平坦性および埋め込み性に優れた架橋樹脂成形体を得ることができる(実施例1,2)。一方、MwまたはMw/Mnが大きすぎる樹脂を含む架橋性樹脂成形体を用いると、平坦性および埋め込み性に劣る結果となった(比較例1〜4)。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施例1,2で用いたシート状の架橋性樹脂成形体(架橋性樹脂シート)と支持フィルムとの積層フィルムの連続成形装置の概略図である。
【図2】実施例で使用したIPC多目的基板の型紙の上部平面図である。
【図3】IPC基板を用いる平坦性及び埋込性の評価方法を示す図である。
【符号の説明】
【0117】
11:モノマー液タンク
12:触媒液タンク
3,4:小型チューブポンプ
15:スタティックミキサー
16a,16b:塗工部
17:支持体送り出し部
18:支持体(ガラスクロス)
19a,19b:保護フィルム送り出し部
20:保護フィルム(ポリエチレンナフタレートフィルム)
21a,21b:金属ロール
22:エアカーテン
23:熱風加温装置(フローティングドライヤー)
24:架橋性樹脂シート(樹脂シート)
25:フィルム巻き取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体を塊状重合して得られる樹脂、および架橋剤を含有する架橋性樹脂成形体であって、前記樹脂の重量平均分子量(Mw)が5,000〜10,000であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が3.5以下であることを特徴とする架橋性樹脂成形体。
【請求項2】
重合性単量体および架橋剤を含有する重合性組成物を塊状重合して得られるものである、請求項1記載の架橋性樹脂成形体。
【請求項3】
前記樹脂が、芳香族化合物およびジオレフィンを含有する重合性単量体混合物を塊状フリーデル・クラフツ重合して得られるものである、請求項1または2記載の架橋性樹脂成形体。
【請求項4】
前記樹脂が、エポキシ基を含有する重合性単量体を塊状開環重合して得られるものである、請求項1または2記載の架橋性樹脂成形体。
【請求項5】
厚さ0.2mm以下のシート状物である請求項1〜4のいずれかに記載の架橋性樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の架橋性樹脂成形体を架橋してなる架橋樹脂成形体。
【請求項7】
重合性単量体、重合触媒および架橋剤を含有する重合性組成物を、50℃以上に加熱することにより塊状重合して架橋性樹脂成形体を製造する方法であって、前記加熱前の重合性組成物の温度が−10℃〜+20℃であることを特徴とする請求項1記載の架橋性樹脂成形体の製造方法。
【請求項8】
重合性単量体、重合触媒および架橋剤を混合して重合性組成物を調製する工程(I)、該重合性組成物を支持体に塗布または含浸する工程(II)、ならびに、前記重合性組成物を50℃以上に加熱することにより塊状重合する工程(III)を有する架橋性樹脂成形体の製造方法であって、前記重合性組成物の調製から加熱までの重合性組成物の温度が−10℃〜+20℃であることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記支持体として長尺の支持体を用い、該支持体を一定方向に搬送しながら、前記工程(I)〜(III)を連続的に実施することを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記支持体が繊維材料である請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記加熱を、内部の最高温度と最低温度との温度差が10℃以内である熱風加温装置を用いて行うことを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−270083(P2007−270083A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100772(P2006−100772)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】