説明

格子構造の検査装置および格子構造の検査方法

【課題】 個々の凹部や凸部の一部に形成されている小さな欠陥と、凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな欠陥とを両方一緒に検出する。
【解決手段】 検査対象物OBを固定した固定治具10を回転させながら回転軸方向に移動させるとともに、検査対象物OBの微細格子構造Gにレーザ光を照射し、その反射光の強度と偏光状態とを検出する。反射光の強度が基準レベルより低下している場合には、その照射位置に、凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな欠陥が存在すると判断する。また、上記大きな欠陥が存在していると判断した部位を除く領域において、反射光の偏光状態が理想の偏光状態に対して許容値を超える差を生じている場合には、その照射位置に、個々の凹部や凸部の一部に形成されている小さな欠陥が存在すると判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に微細な格子構造を有する検査対象物にレーザ光を照射し、その反射光あるいは透過光の状態を検出することにより、格子構造の状態を検査する検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、微細化された半導体や光学部品の製造工程において、光の波長以下の幅の凹部と凸部との繰り返しからなる微細格子構造が形成されることがある。このような微細格子構造が正しく形成されたか否かを検査する方法として、電子顕微鏡のような高倍率の顕微鏡により観察する方法が知られている。しかし、この方法では、観察するまでの試料準備に時間がかかるとともに、微細格子構造の全領域の観察は実質的に不可能といえる。
【0003】
これに対して、特許文献1においては、微細格子構造が複屈折特性を有することを利用して、微細格子構造に照射した光の反射光の偏光特性の変化から凹部と凸部の線幅を測定する方法が示されている。しかしながら、この方法では、格子構造が微細になるほど凹部と凸部の線幅に対する光源の照射スポット径が大きくなるため、個々の凹部や凸部の一部に欠陥がある場合には、その欠陥の検出が難しくなる。一方、特許文献2に示されているように、光源をレンズにより集光して集光位置の微細格子構造を検査する方法も知られている。この特許文献2に示された検査装置においては、微細格子構造を形成した試料を載置したステージを移動させることにより、微細格子構造の全域にわたって検査可能となっている。
【特許文献1】特開平11−211421号公報
【特許文献2】特開2007−255959号公報
【発明の開示】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示された検査方法に特許文献2に示された集光技術を適用しても、微細格子構造の検査を良好に行うことができない。つまり、微細格子構造にゴミが付着したりピットや傷などが発生している場合のように、個々の凹部や凸部よりも大きな欠陥(凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥)が形成されている場合には、反射光の偏光状態を検出しても、そうした欠陥を良好に検出することができない。従って、個々の凹部や凸部の一部に形成されている小さな欠陥と、個々の凹部や凸部よりも大きな欠陥とを両方一緒に検出することができない。
【0005】
また、検査にあたっては光源の集光位置(焦点位置)を微細格子構造に常に合わせる必要があるが、微細格子構造を有する試料の高さのばらつきやステージの精度などの影響で、ステージ駆動により照射位置を移動させたときに集光位置(焦点位置)が微細格子構造の位置に対して光軸方向に変化してしまい、精度の良い検査ができないことがある。
【0006】
また、微細格子構造の凹部や凸部の線幅は、凹部の深さ(凸部の高さでもある)および格子ピッチ(凹部と凸部の幅の計)が既知であれば測定することができるが、レーザ加工により微細格子構造を形成する場合、凹部の深さが設定値からずれることが多く、凹部の深さを設定値通りとして凹部や凸部の幅を測定すると、実際より測定値がずれてしまうことがある。
【0007】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、微細格子構造の検査において、個々の凹部や凸部の一部に形成されている小さな欠陥と、凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥とを両方一緒に検出すること、集光位置(焦点位置)を常に微細格子構造の近傍に合わせること、凹部や凸部の幅および凹部の深さを精度良く測定することを目的とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、表面に凹部と凸部とを交互に形成した格子構造を有する検査対象物にレーザ光を対物レンズにより集光して照射し、前記照射したレーザ光の反射光または透過光に基づいて前記格子構造の状態を検査する格子構造の検査装置において、前記レーザ光を照射する照射ヘッドに対して前記検査対象物を固定する固定治具を相対移動させることにより、前記検査対象物におけるレーザ光の照射位置を移動させるレーザ光照射位置移動手段と、前記レーザ光照射位置移動手段により前記検査対象物におけるレーザ光の照射位置を移動させながら、前記照射したレーザ光の反射光または透過光の、強度および偏光状態を検出する光検出手段と、前記光検出手段により検出された反射光または透過光の強度に基づいて、前記格子構造における凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥を検出する第1欠陥検出手段と、前記光検出手段により検出された反射光または透過光の偏光状態に基づいて、前記格子構造における個々の凹部および凸部の欠陥を検出する第2欠陥検出手段とを備えたことにある。
【0009】
この発明においては、格子構造を有する検査対象物を固定治具に固定した状態で、レーザ光照射位置移動手段が固定治具を照射ヘッドに対して相対移動させる。これにより、検査対象物の格子構造におけるレーザ光の照射位置が移動する。このとき、光検出手段は、レーザ光の反射光または透過光の、強度および偏光状態を検出する。そして、第1欠陥検出手段は、レーザ光の反射光または透過光の強度に基づいて、格子構造における凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥を検出する。また、第2欠陥検出手段は、レーザ光の反射光または透過光の偏光状態に基づいて、格子構造における個々の凹部および凸部の欠陥を検出する。
【0010】
この発明は、非常に微細な格子構造、例えば、凸部、凹部の幅が数百ナノメートルといった1マイクロメートル以下の微細格子構造の検査に適している。レーザ光は、格子構造を形成する複数の凸部と凹部とを含む領域に照射される。格子構造にレーザ光を照射した場合、その格子構造にゴミ付着、傷、ピットなどのような個々の凸部、凹部より大きな欠陥が形成されていると、散乱する光の割合が多くなり、また、ピットが形成された光ディスクのように反射光同士が干渉するため、反射光または透過光の強度が小さくなる。そこで、第1欠陥検出手段は、反射光または透過光の強度に基づいて、凹部と凸部とにまたがって形成されている大きな幅の欠陥を検出する。例えば、光検出手段により検出した反射光または透過光の強度が予め設定した基準強度を下回っている状態を検出することにより前記欠陥の検出を行う。
【0011】
格子構造に入射した光は、格子構造のライン方向の軸(以下、遅相軸と呼ぶ)に対して、この遅相軸に垂直な方向の軸(以下、進相軸と呼ぶ)の方が速く進む。従って、入射光における遅相軸の位相と進相軸の位相との差は、格子構造を透過した後では遅相軸の位相が進相軸の位相より遅れる分だけ変わる。このため、入射光と反射光(または透過光)とで偏光状態が変わる。格子構造の凸部の幅、凹部の幅、凹部の深さが設定通りであれば、設定通りの偏光状態が検出されるが、個々の凸部や凹部の一部が設定された幅や深さからずれていると、検出される偏光状態は設定通りの偏光状態と異なってくる。そこで、第2欠陥検出手段は、こうした偏光状態に基づいて、格子構造における個々の凹部および凸部の欠陥を検出する。例えば、光検出手段により検出した反射光または透過光の偏光状態と、予め設定した理想偏光状態とを比較し、その差が許容差を超える状態であるときに前記欠陥が形成されていると判断する。
【0012】
この結果、本発明によれば、個々の凹部や凸部の一部に形成されている小さな欠陥と、凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥とを両方一緒に検出することができる。また、個々の凹部や凸部の一部に形成されている小さな欠陥と、凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥とを区別して検出することも可能となる。
【0013】
尚、例えば、第2欠陥検出手段は、第1欠陥検出手段により前記欠陥が検出された部位を除いた格子構造の形成領域において、前記偏光状態に基づいて格子構造における個々の凹部および凸部の欠陥を検出するように構成するとよい。この場合は、さらに欠陥の大きさを区別する精度が高くなる。
【0014】
本発明において「照射ヘッドに対して前記検査対象物を固定する固定治具を相対移動させる」とは、照射ヘッドと固定治具との相対位置関係を変更することを意味し、照射ヘッドを移動させる構成、固定治具を移動させる構成、照射ヘッドと固定治具との両方を移動させる構成のいずれであっても良い。例えば、検査対象物がシート状であれば、円筒状の固定治具の表面に検査対象物を巻いて固定し、固定治具をその中心軸周りに回転させるとともに、照射ヘッドまたは固定治具を固定治具の軸線方向に移動させる構成を採用することができる。また、円盤状の検査対象物であれば、円盤状の固定治具の上に検査対象物を固定し、固定治具をその中心軸周りに回転させるとともに、照射ヘッドまたは固定治具を検査対象物の径方向に移動させる構成を採用することができる。
【0015】
本発明の他の特徴は、前記検査対象物におけるレーザ光の照射位置を検出するレーザ光照射位置検出手段と、前記第1欠陥検出手段および前記第2欠陥検出手段により欠陥が検出されたときの前記レーザ光照射位置検出手段により検出されるレーザ光の照射位置を前記検査対象物における欠陥位置情報として取得する欠陥位置情報取得手段とを備えたことにある。
【0016】
この発明においては、レーザ光照射位置検出手段が検査対象物におけるレーザ光の照射位置を検出する。そして、欠陥位置情報取得手段が、第1欠陥検出手段および第2欠陥検出手段により欠陥が検出されたときのレーザ光照射位置検出手段により検出されるレーザ光の照射位置を検査対象物における欠陥位置情報として取得する。従って、検査対象物に形成されている欠陥の位置を把握することができる。例えば、欠陥位置情報を出力する表示手段を設け、この表示手段に欠陥位置をイメージ画像等で表示することができる。また、例えば、第1欠陥検出手段により検出された欠陥の位置と、第2欠陥検出手段により検出された欠陥の位置とを、表示態様を異ならせて同一画面に表示する表示手段を設けることもできる。この場合には、凹部と凸部とにまたがって形成されている大きな欠陥と、個々の凹部および凸部の一部に形成されている欠陥とを同一の画面上で区別して確認することができる。
【0017】
本発明の他の特徴は、前記レーザ光を集光する対物レンズを前記レーザ光の光軸方向に駆動するフォーカスアクチュエータと、前記検査対象物に照射されたレーザ光の反射光に基づいて、前記レーザ光の焦点位置の前記検査対象物の反射面からのずれに相当する信号を生成し、前記ずれに相当する信号に基づいて前記フォーカスアクチュエータを駆動し前記レーザ光の焦点位置が前記検査対象物の格子構造の位置に対して一定になるように制御するフォーカスサーボ手段とを備えたことにある。
【0018】
この発明においては、フォーカスサーボ手段が、レーザ光の焦点位置が検査対象物の格子構造の位置に対して一定になるようフォーカスアクチュエータを駆動制御する。従って、検査精度を向上させることができる。尚、格子構造が微細であれば、反射光における回折光の割合が低くなるため、通常の光ディスクの記録再生の場合と同様にフォーカスサーボを行うことができる。
【0019】
本発明の他の特徴は、照射ヘッドから照射されるレーザ光の強度を、前記検査対象物を検査するためのレーザ加工不能な検査用強度と、レーザ加工可能な加工用強度とに切り替えるレーザ光強度切替手段と、前記固定治具に加工対象物を固定し、前記レーザ光照射位置移動手段により前記固定治具を前記照射ヘッドに対して相対移動させながら、前記加工用強度のレーザ光を前記加工対象物に照射して、前記加工対象物の表面に格子構造を形成するレーザ加工手段とを備えたことにある。
【0020】
この発明においては、レーザ光強度切替手段により、レーザ光の強度をレーザ加工不能な検査用強度とレーザ加工可能な加工用強度とに切り替えることができる。従って、格子構造を検査するときに用いるレーザ光の光路と同じ光路を使って加工対象物に加工用強度のレーザ光を照射することができる。レーザ加工手段は、加工対象物を固定した固定治具を照射ヘッドに対して相対移動させながら、加工対象物に加工用強度のレーザ光を照射する。これにより、加工対象物の表面に格子構造を形成することができる。従って、検査装置を加工装置として利用することができる。しかも、レーザ加工が終了した後は、レーザ光強度を検査用強度に切り替えることで、格子構造が形成された加工対象物に対して、光検出手段によるレーザ光の反射光または透過光の強度および偏光状態の検出を行うことができる。従って、レーザ加工と、レーザ加工により形成された格子構造の検査とを連続して行うことができる。この結果、生産効率が向上する。
【0021】
本発明の他の特徴は、前記レーザ加工手段は、前記加工対象物の表面に第1格子ピッチの格子構造と、前記第1格子ピッチとは異なる第2格子ピッチの格子構造とを形成する格子ピッチ切替手段を備え、前記第1格子ピッチの格子構造と前記第2格子ピッチの格子構造とが形成された前記加工対象物を検査対象物とし、前記第1格子ピッチの格子構造に照射した検査用強度のレーザ光の反射光または透過光の偏光状態と、前記第2格子ピッチの格子構造に照射した検査用強度のレーザ光の反射光または透過光の偏光状態とに基づいて、前記格子構造における凸部の幅または凹部の幅または凹部の深さの少なくとも1つを測定する測定手段を備えたことにある。
【0022】
この発明においては、レーザ加工手段が格子ピッチ切替手段を備えている。レーザ加工手段は、レーザ加工中に、格子ピッチ切替手段により格子構造の格子ピッチを第1格子ピッチから第2格子ピッチに切り替えることで、加工対象物の表面に第1格子ピッチの格子構造と第2格子ピッチの格子構造とを形成する。格子ピッチとは、凸部と凹部とが繰り返される最小単位の寸法で、1つの凸部の幅と凹部の幅との合計寸法で表される。レーザ加工により形成される格子構造は、固定治具を照射ヘッドに対して相対移動させながらレーザ光を加工対象物に照射して形成するものであるため、格子ピッチは加工ピッチに相当する。また、レーザ光照射により加工された部分となる凹部の幅と深さとは、加工ピッチ(格子ピッチ)が変化しても一定となる。また、凹部の幅と凸部の幅との合計値は加工ピッチであるため、レーザ光照射位置移動手段に移動精度のよい装置を使用すれば設定値と見なすことができ既知となる。
【0023】
こうした関係から、格子ピッチの異なる2箇所の格子構造における反射光または透過光の偏光状態を検出することにより、凸部の幅、凹部の幅、凹部の深さを測定することができる。例えば、偏光状態を、格子構造の反射光または透過光における進相軸に対する遅相軸の位相の遅れとして捉えた場合、この位相の遅れを凸部の幅、凹部の幅、凹部の深さを用いた関数として計算することができる。従って、凹部の幅と深さとが格子ピッチに関係なく一定、凹部の幅と凸部の幅との合計値が既知(格子ピッチ=加工ピッチ)であるという条件から、格子ピッチの異なる2箇所で位相遅れを検出することにより、凸部の幅、凹部の幅、凹部の深さを計算により測定することができる。
【0024】
この結果、この発明によれば、格子構造の凸部の幅、凹部の幅、凹部の深さといった寸法まで精度良く測定することができる。
【0025】
更に、本発明の実施にあたっては、格子構造を検査する検査装置の発明に限定されることなく、格子構造を検査する検査方法の発明としても実施し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について図面を用いて説明する。図1は、第1実施形態に係る微細格子構造の検査装置のシステム構成図である。この微細格子構造の検査装置(以下、単に検査装置と呼ぶ)は、検査対象物OBの表面に形成されている微細な格子構造Gを検査する装置である。検査装置は、検査対象物OBを固定支持する固定治具10と、固定治具10をその中心軸周りに回転させるスピンドルモータ20とを備えている。固定治具10は、ドラム状に形成されており、移動ステージ30に回転可能に軸支されている。移動ステージ30は、固定治具10を軸支する1対の支持フレーム31,32と、2つの支持フレーム31,32の下端を連結する基台フレーム33とを備えている。移動ステージ30の一方の支持フレーム32の外側には、スピンドルモータ20が固定して設けられている。固定治具10は、一端がスピンドルモータ20の回転軸41に連結され、他端が支持フレーム31に回転可能に軸支された回転軸42に連結されている。従って、スピンドルモータ20の駆動により、固定治具10がその中心軸周りに回転するようになっている。
【0027】
検査対象物OBは、表面に格子構造Gが形成された薄い樹脂のシート体であって、裏面が固定治具10の円筒外周面に密着して巻かれて固定される。検査対象物OBの表面に形成されている格子構造Gは、図9に示すように、線状に延びた凹部G2を所定の間隔をあけて複数形成したものである。つまり、線状の凹部G2と線状の凸部G1とを所定のピッチで交互に形成した構造である。検査対象物OBが固定治具10に固定された状態においては、凹部G2(凸部G1)は、固定治具10の周方向に沿って長く延び、固定治具10の軸線方向に所定のピッチで形成されている。凸部G1の線幅W1と凹部G2の線幅W2との合計値(W1+W2)が格子ピッチとなる。以下、凹部G2あるいは凸部G1の線状に延びた方向をライン方向と呼ぶ。
【0028】
検査対象物OBが密着固定される固定治具10の円筒外周面は、高反射率を有し、後述する照射ヘッド80から照射され検査対象物OBを透過したレーザ光を入射光路と同じ光路で戻す反射面となっている。
【0029】
検査対象物OBの円筒面に向かい合って照射ヘッド80が設けられる。照射ヘッド80は、装置本体に固定されたヘッド支持フレーム(図示略)により固定される。
【0030】
固定治具10は、ねじ送り機構60により、照射ヘッド80に対して固定治具10の軸線方向(以下、単に軸線方向と呼ぶ)に相対移動できるようになっている。ねじ送り機構60は、スクリューロッド61と、スクリューロッド61を回転させるフィードモータ62とを備えている。スクリューロッド61は、移動ステージ30の基台フレーム33内に挿通して設けられ、その一端側がフィードモータ62の出力軸と連結され、他方端側が装置本体に固定された軸受部(図示略)に回転可能に軸支される。フィードモータ62は、装置本体のフレーム(図示略)に固定される。
【0031】
スクリューロッド61は、固定治具10の軸線と平行に設けられ、基台フレーム33内に固定されたナット(図示略)と螺合している。また、基台フレーム33には、移動ステージ30の回転を規制して移動ステージ30を軸線方向にのみ移動可能に案内するガイド(図示略)が設けられている。従って、フィードモータ62の回転動作によりスクリューロッド61が回転すると、その回転運動がナットの直線運動に変換され、移動ステージ30が軸線方向に移動するようになっている。
【0032】
検査対象物OBの検査時においては、フィードモータ62およびスピンドルモータ20を回転駆動することにより、固定治具10が中心軸周りに回転しながら照射ヘッド80に対して軸線方向に相対移動する。これにより、照射ヘッド80から照射されるレーザ光の照射位置が検査対象物OBの円筒表面を螺旋状に移動する。検査対象物OBの格子構造Gの検査は、このようにレーザ光の照射位置を移動させながら、照射したレーザ光の反射光に基づいて行う。
【0033】
スピンドルモータ20内には、同モータすなわち固定治具10の回転を検出して、その回転を表す回転検出信号を出力するエンコーダ21が組み込まれている。この回転検出信号は、固定治具10の回転位置が一つの基準回転位置に来るごとに発生されるインデックス信号と、所定の微少な回転角度ずつハイレベルとローレベルを繰り返すパルス列信号とからなる。エンコーダ21から出力される回転検出信号のうちインデックス信号は、回転角度検出回路22とデータ取込信号発生回路70とに入力され、パルス列信号は、回転角度検出回路22とデータ取込信号発生回路70とスピンドルモータ制御回路23とに入力される。
【0034】
スピンドルモータ制御回路23は、コントローラ100からの回転速度指示により作動開始し、エンコーダ21から出力されるパルス列信号の単位時間あたりのパルス数がコントローラ100から指示された回転速度に相当する単位時間あたりのパルス数に等しくなるようにスピンドルモータ20の回転を制御する。
【0035】
回転角度検出回路22は、コントローラ100からの指示により作動を開始し、スピンドルモータ20内に組み込まれたエンコーダ21から出力されるパルス列信号のパルス数をカウントして、カウント値から固定治具10の回転角度を計算し、回転角度に相当するデジタル信号を第2データ保存回路72に出力する。また、回転角度検出回路22は、エンコーダ21からインデックス信号を入力したときにパルス数のカウント値をゼロクリアする。つまり、インデックス信号が入力した時点の回転治具10の回転角度を0°とする。
【0036】
フィードモータ62内にも、フィードモータ62の回転を検出して、前記エンコーダ21と同様なパルス列信号(回転検出信号)を出力するエンコーダ63が組み込まれている。エンコーダ63から出力されるパルス列信号は、移動量検出回路74と移動ステージ制御回路75に入力される。移動量検出回路74は、検査装置の電源が投入されると作動開始し、エンコーダ63から出力されるパルス列信号を入力し、パルス列信号が入力されなくなると駆動限界位置を表す信号を移動ステージ制御回路75に出力し、カウント値を「0」として、以後、エンコーダ63が出力するパルス列信号のパルス数をカウントする。そして積算したカウント数から移動ステージ30の移動量を計算し、移動量を表す信号を出力する。このカウント値が「0」となる駆動限界位置が、移動ステージ30の移動量検出における原点位置となる。
【0037】
移動ステージ制御回路75は、電源が投入されると作動開始し、フィードモータ62を駆動して移動ステージ30を駆動限界位置(移動量ゼロの位置)方向に移動させ、移動量検出回路74から駆動限界位置を表す信号を入力すると駆動信号の出力を停止する。そして、コントローラ100から移動量の設定値が入力すると、移動量検出回路74から所定時間間隔で出力される移動量を入力し、入力した移動量がコントローラ100から入力した設定値になるまでフィードモータ62を駆動して移動ステージ30を移動させる。また、移動ステージ制御回路75は、コントローラ100から定速移動指令を入力すると、エンコーダ63から入力したパルス列信号の単位時間あたりのパルス数が、コントローラ100から指示された送り速度に相当する単位時間あたりのパルス数になるようにフィードモータ62の回転を制御する。
【0038】
次に、照射ヘッド80について説明する。照射ヘッド80は、検査対象物OBに対してレーザ光を照射するとともに、その反射光を受光する構造となっている。照射ヘッド80は、検査対象物OBに対してレーザ光を照射する構成として、レーザ光源80a、コリメートレンズ80b、偏光子80c、ビームスプリッタ80d、対物レンズ80e、フォーカスアクチュエータ80fを備えている。レーザ光源80aは、レーザ駆動回路76から供給される電流および電圧により駆動されてレーザ光を照射する。レーザ駆動回路76は、コントローラ100からの指令に基づいて、レーザ光源80aに対して検査用強度(弱い強度)のレーザ光を出射するための電流および電圧を供給する。従って、レーザ光の照射に対して検査対象物OBが変化しない(加工されない)ようになっている。
【0039】
レーザ光源80aから出射されたレーザ光は、コリメートレンズ80bにより平行光となり、偏光子80cに入射する。偏光子80cは、透過軸に平行な偏光成分のレーザ光のみを透過する。この偏光子80cの透過軸の方向(即ち、検査対象物OBに照射されるレーザ光の偏光方向)が検査対象物OBの微細格子構造Gのライン方向となす角度は任意でよいが、後述するように微細格子構造Gの欠陥検出に加えて、微細格子構造Gの凹部G2や凸部G1の幅および凹部G2の深さ(凸部G1の高さ)を測定するときには、その計算処理を簡単にするために45°にするとよい。
【0040】
尚、レーザ光源80aから照射されるレーザ光は、偏光子80cの透過軸方向に偏光方向がある直線偏光であるが、長時間の使用により偏光方向が変化するおそれがあるため、本実施形態においては、検査対象物OBの微細格子構造Gのラインに対する偏光方向が常に一定になるように偏光子80cを設けている。
【0041】
偏光子80cを透過したレーザ光は、ビームスプリッタ80dに入射する。ビームスプリッタ80dは、入射した光の半分を透過し、残りの半分を入射方向に対して直角方向に反射する。ビームスプリッタ80dを透過したレーザ光は、対物レンズ80eに入射する。対物レンズ80eは、入射したレーザ光を集光するとともに、反射して戻ってきたレーザ光を平行光にする。この対物レンズ80eは、フォーカスアクチュエータ80fにより光軸方向に駆動される。フォーカスアクチュエータ80fは、ドライブ回路84からの駆動信号により作動して、レーザ光の焦点位置が固定治具10の円筒表面にあうように対物レンズ80eを光軸方向に駆動させる。この場合、検査対象物OBは薄いシート状であるため、検査対象物OBの表面(微細格子構造Gの形成部分)にレーザ光の焦点位置が合うと言える。
【0042】
尚、検査対象物OBに照射されるレーザ光の照射スポット径は、微細格子構造Gの格子ピッチよりも大きく、照射スポット内に複数の凹部G2と凸部G1とが存在するように設定されている。例えば、照射スポット径を格子ピッチと関係付けて、照射スポット径が格子ピッチの適正倍率範囲内に入るように設定するとよい。
【0043】
照射ヘッド80は、レーザ光の反射光を受光する構成として、ビームスプリッタ80g、偏光ビームスプリッタ80h、集光レンズ80i,80j,80k、シリンドリカルレンズ80l、受光素子80m,80n,80oを備えている。ビームスプリッタ80gは、検査対象物OBで反射して戻ってきたレーザ光を2つに分割する。分割された一方の反射光は、集光レンズ80i、シリンドリカルレンズ80lを通過して受光素子80mで受光される。受光素子80mは、分割線で区切られた4つの同一正方形状の受光素子からなり、時計回りに配置された受光領域A,B,C,Dに入射した光の強度に比例した検出信号を受光信号(a,b,c,d)として出力する。この受光素子80mは、4つの受光素子が配置された中央に反射光が集光するように固定されている。
【0044】
ビームスプリッタ80gで分割されたもう一方の反射光は、偏光ビームスプリッタ80hで透過軸に平行な偏光方向の光と、透過軸に垂直な偏光方向の光とに分割され、分割されたそれぞれの光は集光レンズ80j,80kを介して受光素子80n,80oで受光される。受光素子80n,80oは、光の強度を表す検出信号を受光信号として出力する。
【0045】
尚、図1においては、偏光ビームスプリッタ80hで反射したレーザ光は、紙面と平行な方向に反射するように描かれているが、偏光ビームスプリッタ80hでの反射光の方向(透過軸の方向)は任意であって良く、受光素子80nが配置される位置は偏光ビームスプリッタ80hでの反射光の方向(透過軸の方向)により定まる。また、後述するように、微細格子構造Gの凹部G2や凸部G1の幅および凹部G2の深さの測定時における計算処理を簡単にするために、偏光子80cの透過軸の方向が検査対象物OBの微細格子構造Gのライン方向となす角度を45°にしたときには、同様に計算処理を簡単にするために偏光ビームスプリッタ80hの透過軸の方向を偏光子80cの透過軸の方向と同一方向にするとよい。
【0046】
受光素子80mから出力される受光信号(a,b,c,d)は、信号増幅回路81に入力される。信号増幅回路81は、受光信号(a,b,c,d)をそれぞれ増幅してフォーカスエラー信号生成回路82および反射光信号生成回路85に出力する。フォーカスエラー信号生成回路82は、増幅された受光信号(a’,b’,c’,d’)を使って演算によりフォーカスエラー信号を生成する。本実施形態においては、非点収差法を用いて、(a’+c’)−(b’+d’)の演算を行い、この演算結果をフォーカスエラー信号としてフォーカスサーボ信号生成回路83に出力する。フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)は、レーザ光の焦点位置の固定治具10表面からのずれ量(検査対象物OBの微細格子構造Gからのずれ量といえる)を表している。
【0047】
フォーカスサーボ信号生成回路83は、フォーカスエラー信号に基づいて、フォーカスサーボ信号を生成してドライブ回路84に出力する。この場合、フォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)となるようにドライブ回路84を駆動することにより、レーザ光の焦点位置を検査対象物OBの微細格子構造Gの位置に対して一定にすることができる。つまり、レーザ光の焦点位置と検査対象物OBの微細格子構造Gとの光軸方向における相対位置関係を常に一定にすることができる。ドライブ回路84は、フォーカスサーボ信号に基づいてフォーカスアクチュエータ80fを駆動することにより対物レンズ80eを光軸方向に変位させてフォーカスサーボを行う。
【0048】
尚、本実施形態においては非点収差法を用いてフォーカスサーボを行っているが、例えば、シリンドリカルレンズ80lに代えて遮光用ナイフエッジを設けてナイフエッジ法によるフォーカスサーボを行っても良い。また、シリンドリカルレンズ80lに代えてビームスプリッタを設けるとともに、受光素子を2つにしてSSD法によるフォーカスサーボを行っても良い。
【0049】
信号増幅回路81から出力される受光信号(a’,b’,c’,d’)は、反射光信号生成回路85にも出力される。反射光信号生成回路85は、受光信号(a’,b’,c’,d’)の各強度を合計した値(a’+b’+c’+d’)に対応した信号(以下、SUM信号と呼ぶ)をA/D変換器87およびエラー判定回路86に出力する。
【0050】
A/D変換器87は、反射光信号生成回路85から出力されたSUM信号を入力し、クロック信号発生回路88から出力されるクロック信号に基づく所定のサンプリング周期でSUM信号の波高値(光の強度に相当する信号の値)をデジタルデータに変換し第1データ保存回路71に出力する。従って、第1データ保存回路71には、反射光の強度を表すデジタルデータが所定のサンプリング周期で入力される。クロック信号発生回路88は、コントローラ100からの指示を受けて作動開始し、所定周期のパルス信号をA/D変換器87に出力する。
【0051】
エラー判定回路86は、コントローラ100からの指示を受けると作動開始する。エラー判定回路86は、コンパレータと時間計測回路から構成されており、反射光信号生成回路85から入力したSUM信号の波高値が基準レベルをクロスし、再度、基準レベルをクロスした際、最初のクロスを検出した時点から次のクロスを検出した時点までの経過時間を計測する。そして、経過時間が基準時間より長い場合には、エラー検出を表す信号(以下、エラー検出信号と呼ぶ)を第1データ保存回路71、第2データ保存回路72、第3データ保存回路73に出力する。つまり、図3に示すように、反射光信号生成回路85から入力したSUM信号の波高値が低下して基準レベルLsを下回った時刻t1から、SUM信号の波高値が増大して基準レベルLsを上回った時刻t2までの経過時間Txを計測し、この経過時間Txが基準時間T0より長い場合にはエラー検出信号を出力する。
【0052】
図4(b)は、微細格子構造GにゴミXが付着している状態(断面図)を表し、図4(c)は、微細格子構造Gに凸部G1、凹部G2の幅より大きな傷Yが形成されている状態(断面図)を表す。このように、微細格子構造Gにゴミ付着、傷、ピットなどのような個々の凸部G1、凹部G2の幅より大きな欠陥が形成されていると、散乱する光の割合が多くなり、また、ピットが形成された光ディスクのように反射光同士が干渉するため、反射光の強度が小さくなる。従って、このような欠陥がある箇所では、反射光信号生成回路85の出力するSUM信号の波高値が小さくなり基準レベルLsを下回る。そして、レーザ光の照射位置が欠陥のある部位から外れると、反射光信号生成回路85の出力するSUM信号の波高値が大きくなって基準レベルLsを上回る。エラー判定回路86は、SUM信号の波高値が基準レベルLsを上回ったときにエラー検出信号を出力する。尚、基準時間T0より経過時間Txが長いことをエラー検出の要件としているのは、瞬時的な信号ノイズの影響を除外するためである。
【0053】
第1データ保存回路71は、コントローラ100からの指示を受けると作動開始する。第1データ保存回路71は、内部にメモリを備え、A/D変換器87から出力される反射光の強度(波高値に相当する)を表すデジタルデータをメモリに逐次記憶していき、記憶したデジタルデータのデータ数が設定数N(例えば、10万個)に達すると、再び、その先頭の記憶領域(最も古いデータの記憶されている記憶領域)から順番に最新のデジタルデータを記憶していく(上書き)。第1データ保存回路71は、N個のデジタルデータを記憶する記憶領域を1つの記憶ブロックとして、複数の記憶ブロックを備えている。そして、エラー判定回路86からエラー検出信号が出力されていないあいだは、第1記憶ブロックのみを使って、最新のN個分の反射光の強度を表すデジタルデータを記憶し、エラー判定回路86からエラー検出信号が入力すると、その記憶ブロックのなかの最も新しいデジタルデータが記憶されている記憶領域、つまり、最後に記憶したデジタルデータの記憶領域の次の記憶領域(あるいは所定数あとの記憶領域)に識別フラグデータを記憶し、それ以降、第1記憶ブロックにはデータ記憶を行わないようにする。
【0054】
第1データ保存回路71は、第1記憶ブロックに識別フラグデータを記憶すると、以降、第2記憶ブロックを使って、A/D変換器87から出力されるデジタルデータを、その先頭の記憶領域から逐次記憶していく。そして、エラー判定回路86からエラー検出信号が入力するたびに、識別フラグデータを、最後に記憶したデジタルデータの記憶領域の次の記憶領域に記憶し、データ記憶するための記憶ブロックを変更する。
【0055】
このようにして、第1データ保存回路71は、エラー検出信号を入力するたびに、エラー検出信号入力直前の最大で(N−1)個のデジタルデータを記憶する。従って、各記憶ブロックに記憶されたデジタルデータから、反射光の強度の推移(エラー検出信号を入力するまでの所定期間の履歴)がわかるようになっており、この反射光の強度の推移からSUM信号の波高値が基準レベルLsを下回った時点(図3の時刻t1)も検出することができる。第1データ保存回路71は、コントローラ100からデータ出力指令が入力すると、各記憶ブロックに記憶したデジタルデータをコントローラ100へ出力する。以下、第1データ保存回路71に記憶されたデジタルデータを波高値データと呼ぶ。
【0056】
第2データ保存回路72は、コントローラ100からの指示を受けると作動開始する。第2データ保存回路72は、内部にメモリを備え、回転角度検出回路22から出力される回転角度に相当するデジタルデータを、エラー判定回路86からエラー検出信号が入力するたびに記憶する。そして、コントローラ100からデータ出力指令が入力すると、メモリに記憶したデジタルデータをコントローラ100へ出力する。以下、第2データ保存回路72に記憶されたデジタルデータを回転角度データと呼ぶ。
【0057】
第3データ保存回路73は、コントローラ100からの指示を受けると作動開始する。第3データ保存回路73は、内部にメモリを備え、移動量検出回路74から出力される移動ステージ30の移動量に相当するデジタルデータを、エラー判定回路86からエラー検出信号が入力するたびに記憶する。そして、コントローラ100からデータ出力指令が入力すると、メモリに記憶したデジタルデータをコントローラ100へ出力する。以下、第3データ保存回路73に記憶されたデジタルデータを移動量データと呼ぶ。
【0058】
このように、第1,第2,第3データ保存回路71,72,73を設けたことにより、微細格子構造Gの欠陥の位置を特定することができる。つまり、検査対象物OBに形成された欠陥の回転方向位置(固定治具10の回転方向における位置)を第2データ保存回路72に記憶した回転角度データから特定でき、移動方向位置(移動ステージ30の移動方向における位置)を第3データ保存回路73に記憶した移動量データから特定できる。この位置は、エラー判定回路86からエラー検出信号が出力された時点におけるレーザ光の照射位置となるため、欠陥の終了位置を特定するものである。
【0059】
一方、第1データ保存回路71には、エラー検出信号が出力される直前の波高値データの履歴が記憶されているため、この履歴から、欠陥領域の回転方向における長さを特定することができる。つまり、記憶されている波高値データのうち、波高値が基準レベルLsよりも下回っている期間が、欠陥領域の回転方向における長さに対応したものとなる。具体的には、波高値が基準レベルLsより下回っているデータの数をu、第1データ保存回路71に波高値データが記憶されるサンプリング間隔をt(秒)、固定治具10の円筒半径をr、固定治具10の回転速度ω(回転/秒)とすれば、欠陥領域の回転方向における長さは、(u×t×2π×r×ω)として計算することができる。
【0060】
従って、第1,第2,第3データ保存回路71,72,73に記憶された波高値データ,回転角度データ,移動量データに基づいて、微細格子構造Gにおける凹部G2と凸部G1とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥の位置、領域を求めることができる。
【0061】
コントローラ100は、第1,第2,第3データ保存回路71,72,73に記憶された波高値データ,回転角度データ,移動量データを取り込み、上述したような演算処理を行うことにより、微細格子構造Gの上記大きな欠陥の位置、領域を求める。このコントローラ100は、CPU、ROM、RAMを備えたマイクロコンピュータと、ハードディスクや不揮発性メモリなどの記憶装置と、入出力インタフェース等から構成される電子制御装置である。コントローラ100には、作業者が各種パラメータや処理等を指示するための入力装置101と、作業者に対して検査結果や作動状況等を視覚的に知らせるための表示装置102とが接続されている。尚、コントローラ100は、後述する偏光特性データを取り込んで、微細格子構造Gの個々の凹部G2または凸部G1の一部に形成されている欠陥の検出も行う。
【0062】
次に、レーザ光の偏光状態を検出して、微細格子構造Gの個々の凸部G1、凹部G2の一部に形成された欠陥を検出する構成について説明する。レーザ光の偏光状態は、照射ヘッド80の受光素子80n,80oにて検出される光の強度を使って検出される。受光素子80n,80oは、光の強度に相当する検出信号をそれぞれ信号増幅回路91,92に出力する。各信号増幅回路91,92は、入力した検出信号を増幅してA/D変換器93,94に出力する。各A/D変換器93,94は、後述するデータ取込信号発生回路70から信号が入力したときに、信号増幅回路91,92の出力する信号の波高値を取り込んでデジタルデータに変換し、そのデジタルデータを偏光特性計算回路95に出力する。
【0063】
データ取込信号発生回路70は、スピンドルモータ20に設けられたエンコーダ21から出力されるパルス列信号とインデックス信号とを入力するように構成されており、コントローラ100の指示を受けると作動開始する。データ取込信号発生回路70は、パルス列信号のパルス数をカウントしてカウント値がコントローラ100により指定されたカウント値になるたびに、および、インデックス信号の入力を検出するたびに、A/D変換器93,94にデータ取込を指示する信号を出力するとともにカウント値をゼロクリアする。つまり、固定治具10が所定角度回転するたびに、また、固定治具10が基準回転位置に達するたびに、A/D変換器93,94にデータ取込を指示する信号を出力する。
【0064】
偏光特性計算回路95は、コントローラ100からの指示を受けると作動開始する。偏光特性計算回路95は、内部にメモリを備え、各A/D変換器93,94から入力した波高値を表すデジタルデータをF1(n),F2(n)としてメモリに順番に記憶し、記憶したF1(n),F2(n)から偏光特性として強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n)を計算する。尚、nは、記憶したデジタルデータごとに0から順番に付けられる番号である。
【0065】
ここで、強度比Ra(n)および位相の遅れRe(n)の計算について説明する。微細格子構造Gは、複屈折構造となる。従って、微細格子構造Gのライン方向の屈折率をnp、ライン方向と垂直な方向の屈折率をnvとすると、屈折率np,nvは次式(1)、(2)のように表すことができる。
【数1】

この式において、n,n,tは、以下の通りである。
:微細格子構造Gが形成された物体(検査対象物OB)の屈折率
:凹部G2を埋める物質の屈折率(物質が無ければ空気の屈折率)
t:(凸部G1の幅W1)/(凸部G1の幅W1+凹部G2の幅W2)
尚、(1−t)は、(凹部G2の幅W2)/(凸部G1の幅W1+凹部G2の幅W2)である。
【0066】
微細格子構造Gに入射した光は、微細格子構造Gのライン方向の軸(以下、遅相軸と呼ぶ)に対して、この遅相軸に垂直な方向の軸(以下、進相軸と呼ぶ)のほうが速く進む。このため、入射光における遅相軸の位相と進相軸の位相との差は、微細格子構造Gを透過した後では遅相軸の位相が進相軸の位相より遅れる分だけ変わることになる。
【0067】
微細格子構造Gを透過した光の進相軸に対する遅相軸の位相の遅れReは、凹部G2の深さ(=凸部G1の高さ)をdとし、レーザ光の波長をλとするとラジアン単位では以下の式で表すことができる
Re=2π・(np−nv)・d/λ
また、本実施形態においては、固定治具10の円筒表面でレーザ光が反射するため、レーザ光が微細格子構造Gを2回透過することになり、上記式は次のようになる。
Re=4π・(np−nv)・d/λ ……(3)
【0068】
入射光と反射光とで遅相軸と進相軸との位相差が変わるということは、入射光と反射光とで偏光状態が変わることを意味する。そして、本実施形態のように直線偏光で微細格子構造Gに光を入射させた場合、反射光は、直線偏光の方向が遅相軸または進相軸と平行であれば直線偏光のままであるが、それ以外のときでは楕円偏光になる。
【0069】
微細格子構造Gの凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdが設定通りのときの反射光の偏光状態は、上記式(1),(2)および微細格子構造Gのライン方向に対する入射光の偏光方向から定まる。そして、偏光状態が定まれば、光の強度を検出する2方向(偏光ビームスプリッタ80hの透過軸の方向)を定めることにより、2方向の光の強度に相当するF1,F2の比である強度比Raも定まる。
【0070】
従って、微細格子構造Gの凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdが設定通りとなっている時の強度比Raは理論的に算出できる。そこで、実際に強度比Ra(n)を測定し、この測定された強度比Ra(n)と理論計算上の強度比である理論強度比Ra’との差が大きい場合には、個々の凹部G2または凸部G1の一部に、設定された凸部G1の幅W1または凹部G2の幅W2または凹部G2の深さdから大きくずれている欠陥があることを意味する。例えば、図4(a)において、符号Zにて示す部分が、この欠陥に相当する。従って、実際に測定された強度比Ra(n)と理論強度比Ra’との許容差を予め適切に設定しておき、この許容差を超える差を検出したとき、その時点のレーザ光の照射位置において、個々の凹部G2または凸部G1の一部に欠陥が存在していると判断することができる。これにより、個々の凹部G2または凸部G1の一部に存在する欠陥の検出を行うことができる。
【0071】
尚、こうした欠陥の検出は、強度比Ra(n)に基づいて行ってもよいが、欠陥位置検出とともに後述する凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの計算を行う場合には、強度比Ra(n)から偏光特性の位相遅れRe(n)を計算するとよい。その際、微細格子構造Gのライン方向に対する入射角の偏光方向は任意でも計算は可能であるが、計算を簡単にするためには、入射光の偏光方向を検査対象物OBの微細格子構造Gのライン方向と45°の角度となるようにするとよい。
【0072】
この場合、入射光の偏光方向は、検査対象物OBを上方から見ると図5のAの方向となる。この状態では、遅相軸の位相と進相軸の位相との差はゼロである。そして、反射光は、遅相軸の位相が進相軸の位相より遅れる。位相の遅れが15°であると、図5のBのような楕円偏光になり、位相の遅れが30°であると図5のCのような楕円偏光になる。以下、位相の遅れが45°であるとD、位相の遅れが60°であるとE、位相の遅れが90°であるとF、位相の遅れが120°であるとG、位相の遅れが150°であるとHのような楕円偏光になる(Fは円偏光)。図5からわかるように、位相の遅れによらず楕円偏光の長軸および短軸方向は検査対象物OBの微細格子構造Gのライン方向と45°の角度にあり、長軸方向と短軸方向との比(楕円率)は位相の遅れによって異なる値をとることになる。
【0073】
従って、検査対象物OBでの反射光を微細格子構造Gのライン方向(遅相軸)に対して45°の角度をなす透過軸を有する偏光ビームスプリッタ80hで2つに分割すれば、楕円偏光の長軸方向の光と楕円偏光の短軸方向の光とに分割でき、分割した光の強度を検出すれば、楕円偏光の長軸方向と短軸方向との比が検出できる。そして、この比から位相の遅れRe(n)を求めることができる。
【0074】
偏光特性計算回路95には、楕円偏光の長軸方向と短軸方向との比(楕円率)と、位相の遅れとを関係づけるテーブルあるいは関数が記憶されており、強度比Ra(n)からテーブルあるいは関数を用いて位相の遅れRe(n)を計算する。
【0075】
微細格子構造Gの凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdが設定通りに形成されているとすれば、上記式(1),(2),(3)から位相の遅れReを計算することができる。そこで実際に位相の遅れRe(n)を測定し、この測定された位相の遅れRe(n)と計算上の位相の遅れRe’との差が大きいものは、図4(a)に示すように、個々の凹部G2または凸部G1の一部に、設定された凸部G1の幅W1または凹部G2の幅W2または凹部G2の深さdから大きくずれている欠陥Zがあることを意味する。従って、実際に測定された位相の遅れRe(n)と計算上の位相の遅れRe’との許容差を予め設定しておき、この許容差を超える差を検出したとき、その時点のレーザ光の照射位置において、個々の凹部G2または凸部G1の一部に欠陥が存在していると判断することができる。つまり、個々の凹部G2または凸部G1の一部に存在する欠陥の検出を行うことができる。
【0076】
偏光特性計算回路95は、計算した強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n)をメモリに逐次記憶し、コントローラ100からの出力指示が入力されると、メモリに記憶したデジタルデータ(強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n))をコントローラ100に出力する。コントローラ100は、強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n)を取り込んでデータ処理することにより、個々の凹部G2または凸部G1の一部に欠陥が存在している位置を求める。
【0077】
強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n)における「n」は、0から順番に付けられた数値である。従って、許容差を超える差が検出されているデータ(強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n))の「n」の値がわかれば、固定治具10の1回転におけるデータ取り込み数と、固定治具10の1回転における移動ステージ30の移動量とから欠陥位置を求めることができる。
【0078】
次に、本実施形態の検査装置による微細格子構造Gの検査処理について説明する。作業者は、微細格子構造Gの検査を行うにあたって、まず、検査装置の電源を投入し、駆動限界位置にある固定治具10の円筒表面にシート状の検査対象物OBを密着固定する。そして、入力装置101を使って以下のデータを入力する。
・微細格子構造Gの理想とする凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凸部G1の深さ(=凹部G2の高さ)d
・スピンドルモータ20の回転速度
・固定治具10の1回転における波高値データ取り込み数
・固定治具10の1回転における移動ステージ30の移動量
・検査開始時の移動ステージ30の位置
・検査終了時の移動ステージ30の位置
尚、作業者は、これらのデータのうちコントローラ100内のメモリに記憶されているデータがあれば、その入力操作を省略する。
【0079】
データ取込信号発生回路70は、上述したように、スピンドルモータ20に設けたエンコーダ21の出力するパルス列信号のパルス数をカウントし、そのカウント値が所定値に達するたびに、A/D変換器93,94に対して波高値データの取り込みを指示するものである。従って、作業者が入力した固定治具10の1回転における波高値データ取り込み数と、固定治具10が1回転する間にエンコーダから出力されるパルス信号の数(既知)とに基づいて、この所定値を計算することができる。コントローラ100は、この所定値を計算してデータ取込信号発生回路70に出力する。また、コントローラ100は、作業者が入力したスピンドルモータ20の回転速度と、固定治具10の1回転における移動ステージ30の移動量とから、移動ステージ30の移動速度を計算し、この移動速度を移動ステージ制御回路75に出力する。
【0080】
コントローラ100は、こうした処理が完了すると、図2に示す検査ルーチンを開始する。この検査ルーチンは、コントローラ100のROM内に制御プログラムとして記憶されている。本検査ルーチンは、ステップS100にて起動する。この検査ルーチンが起動すると、コントローラ100は、まず、ステップS102において、移動ステージ制御回路75に対して検査開始位置の出力と移動指令を出力する。これにより、移動ステージ制御回路75は、フィードモータ62を駆動して移動ステージ30を駆動限界位置から、作業者が入力設定した検査開始位置に移動させる。続いて、コントローラ100は、ステップS104において、スピンドルモータ制御回路23に対して設定回転速度の出力と回転開始指令を出力する。これにより、スピンドルモータ制御回路23は、作業者が入力設定した回転速度でスピンドルモータ20を駆動して固定治具10の回転を開始させる。
【0081】
続いて、コントローラ100は、ステップS106において、レーザ駆動回路76に対してレーザ光照射開始指令を出力する。これにより照射ヘッド80から検査対象物OBへのレーザ光照射が開始される。尚、このレーザ光の強度は、検査用強度に設定されているため、検査対象物OBはレーザ光によって加工されない。
【0082】
続いて、コントローラ100は、ステップS108において、フォーカスサーボ信号生成回路83に対してフォーカスサーボの開始指令を出力する。これにより、フォーカスサーボ信号生成回路83は、フォーカスエラー信号生成回路82から出力されるフォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)になるように、ドライブ回路84に制御信号を出力してフォーカスアクチュエータ80fの駆動制御を開始する。
【0083】
続いて、コントローラ100は、ステップS110において、データ取込信号発生回路70、クロック信号発生回路88、エラー判定回路86、回転角度検出回路22、第1,第2,第3データ保存回路71,72,73、偏光特性計算回路95に作動開始指令を出力する。また、移動ステージ制御回路75に定速移動指令を出力して移動ステージ30の移動を開始させる。こうして、微細格子構造Gの検査が開始される。つまり、照射ヘッド80から照射されるレーザ光の照射位置を検査対象物OBの円筒表面で螺旋状に移動させながら、この照射位置における反射光の強度および偏光状態の検出が開始される。
【0084】
この微細格子構造Gの検査が開始されると、偏光特性計算回路95において、偏光特性をあらわす強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n)が逐次計算され、その計算結果のデータがメモリに記憶される。一方、レーザ光の反射光の強度に関しては、エラー判定回路86において反射光の強度の低下が検出される。そして、エラー判定回路86からエラー検出信号が出力されるたびに、その直近となる所定サンプリング数の波高値データD(m)が第1データ保存回路71に記憶保存されるとともに、回転角度データθ(m)、移動量データP(m)がそれぞれ第2データ保存回路72、第3データ保存回路73に記憶されていく。
【0085】
コントローラ100は、微細格子構造Gの検査を行っているあいだ、ステップS112において、移動ステージ30が検査終了位置にまで到達したか否かを所定の短い周期で判定する。つまり、移動量検出回路74により検出される移動量を取り込み、検出される移動量が、入力装置101にて設定された検査終了時の移動ステージ30の位置に相当するか否かを繰り返し判定する。移動ステージ30が検査終了位置に到達しないあいだは、微細格子構造Gの検査が継続される。
【0086】
コントローラ100は、移動ステージ30が検査終了位置に到達したと判定すると(S112:Yes)、ステップS114において、フォーカスサーボ信号生成回路83に対してフォーカスサーボの終了指令を出力する。これにより、フォーカスサーボが停止する。次に、ステップS116において、レーザ駆動回路76に対してレーザ光照射停止指令を出力する。これにより、照射ヘッド80からの検査対象物OBへのレーザ光の照射が停止する。次に、ステップS118において、スピンドルモータ制御回路23および移動ステージ制御回路75に対して回転停止指令を出力する。これにより、固定治具10の回転、および、移動ステージ30の移動が停止する。
【0087】
続いて、コントローラ100は、ステップS120において、偏光特性計算回路95に記憶されている偏光特性データ(強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n)のデータ)を取り込むとともに、第1データ保存回路71に記憶されている波高値データD(m)、第2データ保存回路72に記憶されている回転角度データθ(m)、第3データ保存回路73に記憶されている移動量データP(m)を取り込む。
【0088】
続いて、コントローラ100は、ステップS122において、取り込んだ波高値データD(m)から欠陥領域の長さL(m)を計算する。具体的には、第1データ保存回路71に記憶されている波高値データD(m)のうち、波高値が基準レベルLsより下回っているデータの数uを各記憶ブロック毎に求め、求めた各記憶ブロックごとの上記データの数uと、第1データ保存回路71に波高値データが記憶されるサンプリング間隔t(秒)、固定治具10の円筒半径r、固定治具10の回転速度ω(回転数/秒)とに基づいて、欠陥領域の回転方向における長さL(m)を下記式により計算する。
L(m)=u×t×2π×r×ω
尚、上記式においては、正確にはuに代えて(u−1)とすべきであるが、波高値データの数uが大きな値となるので、uと(u−1)とを同一の値として扱っている。
【0089】
続いて、コントローラ100は、ステップS124において、検査対象物OBにおける偏光状態に異常がみられる位置を計算する。具体的には、強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n)のデータの中から、理想の強度比Ra’または理想の位相の遅れRe’に対する差が許容差を超えるデータを強度比Ra(k)または位相の遅れRe(k)として抽出する。そして、そのkの値(上記許容差を超えるデータが何番目のデータかを特定する番号)を、固定治具10の1回転におけるデータ取込数で除算したときの小数点以下の数値に360°を乗じて回転位置θ(k)を算出し、整数値に固定治具10の1回転における移動ステージ30の移動量を乗じて移動量P(k)を求める。そして、回転位置θ(k)と移動量P(k)が、第2データ保存回路72に記憶された回転角度データθ(m)と第3データ保存回路73に記憶された移動量データP(m)と欠陥領域の長さL(m)とから定まる範囲内に存在するものは、個々の凸部G1や凹部G2より大きい欠陥により偏光状態が変化したものとみなして除外する。
【0090】
続いて、コントローラ100は、ステップS126において、微細格子構造Gの欠陥位置を表示装置102に表示する。この場合、図6に示すように、円筒状に巻かれた検査対象物OBを平面状に展開した展開面に欠陥位置を表示する。反射光の強度に基づいて検出された欠陥は、ゴミ付着、傷、ピットなどのような個々の凸部G1、凹部G2より大きな欠陥として判別され、欠陥の生じている位置と大きさを表示する。例えば、欠陥領域を塗りつぶして表示する。また、偏光状態のみに基づいて検出された欠陥は、個々の凸部G1や凹部G2の一部にある欠陥として判別され、欠陥の生じている位置のみを×印等のマークにて表示する。尚、強度比Ra(n)または位相の遅れRe(n)と、理想の強度比Ra’または位相の遅れRe’との差の大きさに応じて、マークの色を変えて表示するようにしてもよい。これによれば、表示色により欠陥の程度を容易に把握することができる。
【0091】
続いて、コントローラ100は、ステップS128において、移動ステージ制御回路75に対して駆動限界位置付近にある初期移動位置の出力と移動指令を出力する。これにより移動ステージ制御回路75は、フィードモータ62を駆動して移動ステージ30を初期移動位置にまで移動させる。こうして、移動ステージ30が初期移動位置にまで移動すると、本検査ルーチンは、ステップS130にて終了する。
【0092】
作業者は、検査ルーチンが終了すると固定治具10から検査対象物OBを取り外す。そして、次の検査対象物OBの検査を行う場合には、その検査対象物OBを固定治具10に固定して、上述した入力操作を行う。
【0093】
以上説明した本実施形態の格子構造の検査装置および検査方法によれば、微細格子構造Gに照射したレーザ光の反射光の強度を受光素子80mにより検出し、その強度(波高値)が基準レベルLsより下回っている状態が基準時間T0以上継続したときには、微細格子構造Gにゴミ付着、傷、ピットなどのような個々の凸部G1、凹部G2より大きな欠陥(凹部G2と凸部G1とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥)が存在していると判断して、その欠陥の位置と大きさ、つまり領域を表示装置102に表示する。
【0094】
また、微細格子構造Gに照射したレーザ光の反射光の偏光状態と理想の偏光状態との差が許容値を超えている場合には、上記大きな欠陥が検出された部分を除いて、個々の凹部G2や凸部G1の一部に小さな欠陥が存在していると判断して、その欠陥の位置を×印で表示する。
【0095】
この結果、本実施形態によれば、個々の凹部G2や凸部G1の一部に形成されている小さな欠陥と、凹部G2と凸部G1とにまたがって形成されている大きな欠陥とを両方一緒に検出することができる。また、作業者は、表示装置102に表示された画面から、個々の凹部G2や凸部G1の一部に形成されている小さな欠陥と、凹部G2と凸部G1とにまたがって形成されている大きな欠陥とを区別して把握することができる。従って、微細格子構造Gの良好な検査を行うことができる。
【0096】
また、検査中においては、レーザ光の焦点位置が検査対象物OBの微細格子構造Gの位置に対して一定となるようにフォーカスアクチュエータ80fを駆動するため、検査精度が一層向上する。
【0097】
尚、本実施形態においては、検査対象物OBに照射されるレーザ光の照射スポット径を微細格子構造Gの格子ピッチよりもかなり大きく設定することにより、レーザ光の反射光に基づいて、凹部G2と凸部G1とにまたがって形成されている大きな幅の欠陥を検出するが、格子ピッチが大きい検査対象物OBの場合には、レーザ光の反射光に基づいて、個々の凹部G2や凸部G1の一部に形成されている小さな欠陥をも検出することができる。
【0098】
次に、第2実施形態の微細格子構造の検査装置および検査方法について説明する。上述した第1実施形態の検査装置は、検査対象物OBの微細格子構造Gの検査のみを行うものであるが、この第2実施形態の検査装置は、第1実施形態の検査装置に、更に、加工対象物OBに微細格子構造Gを形成するレーザ加工機能、および、微細格子構造Gの寸法を測定する寸法測定機能を備えたものである。第2実施形態の微細格子装置の検査装置は、第1実施形態の検査装置のレーザ駆動回路76と信号増幅回路81の内部構成、および、コントローラ100の処理を変更したもので、他の構成は第1実施形態のものと同一である。
【0099】
上述したレーザ駆動回路76は、レーザ光源80aに電流および電圧を供給する回路であるが、この第2実施形態のレーザ駆動回路76は、レーザ加工が施される加工用強度(強い強度)のレーザ光を照射するための電流・電圧供給回路と、レーザ加工が施されない検査用強度(弱い強度)のレーザ光を照射するための電流・電圧供給回路とを切り替え可能に備えており、コントローラ100からの指示にしたがってレーザ光源80aへ電流および電圧供給する電流・電圧供給回路を切り替える。従って、検査時と同じ光路を使って加工対象物OBにレーザ光を照射して加工対象物OBをレーザ加工することができる。
【0100】
また、第2実施形態の信号増幅回路81は、レーザ加工時と検査時とで信号増幅率を切り替える切替回路を内部に備えており、レーザ光が加工用強度で照射されるレーザ加工時においては、レーザ光が検査用強度で照射される検査時に比べて信号増幅率を低く設定する。これにより、フォーカスサーボ系の構成をそのまま使用してフォーカスサーボを行うことができる。この信号増幅率の切替は、コントローラ100からの指示により行われる。尚、図1においては、コントローラ100から信号増幅回路81への切替指令信号線を破線にて示している。
【0101】
第2実施形態の検査装置は、こうしたレーザ光の強度を切り替える構成と信号増幅率を切り替える構成とを第1実施形態の検査装置に追加することにより、微細格子構造Gの検査だけでなく、微細格子構造Gを形成するレーザ加工が可能となっている。従って、固定治具10にシート状の加工対象物OBをセットし、固定治具10を回転させながら移動ステージ30を軸方向に移動させるとともに加工用強度のレーザ光を照射することにより、加工対象物OBの円筒表面に螺旋状の凹部G2を形成することができる。これにより、加工対象物OBの表面に微細格子構造Gを形成することができる。また、レーザ加工により微細格子構造Gを形成した後は、そのまま加工対象物OBを検査対象物OBとして扱って、微細格子構造Gの検査を行うことができる。
【0102】
第1実施形態においては、微細格子構造Gの欠陥を検出することはできるが、凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さ(=凸部G1の高さ)dを測定することができない。しかし、レーザ加工の際、一部分でも微細格子構造Gの格子ピッチを他の部分と異ならせておけば、後述する理由により、凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdを計算により測定することができる。そこで、第2実施形態の検査装置においては、レーザ加工の際に、第1格子ピッチの微細格子構造Gと、第1格子ピッチとは異なる第2格子ピッチの微細格子構造Gとを同一の加工対象物OBに形成する。そして、第1格子ピッチの微細格子構造Gにレーザ光を照射したときの反射光の偏光状態と、第2格子ピッチの微細格子構造Gにレーザ光を照射したときの反射光の偏光状態とに基づいて、計算により凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdを求める。尚、格子ピッチは、固定治具10が1回転するあいだに移動ステージが移動する移動量である加工ピッチに等しい。従って、レーザ加工の加工ピッチを変化させることにより格子ピッチを変化させることができる。
【0103】
上記式(3)に式(1)、(2)を代入し、さらに、t=W1/(W1+W2)を代入した式を想定すると、この式における未知数は、W1,W2,dである。ただし、固定治具10が1回転するあいだに移動ステージ30が移動する移動量(加工ピッチ=格子ピッチ)は、移動ステージ30の移動精度がよければ予め設定された値と見なすことができ既知であり、(W1+W2)として表される。従って、未知数は、W1とd、または、W2とdとすることができる。また、W2とdとは、加工ピッチを異ならせても変化することはない。そこで、加工ピッチを異ならせた2箇所の格子構造の位相の遅れRe1,Re2を測定し、これにより成立する連立方程式を解くことによりW2とdを求め、設定した加工ピッチからW2を減算することによりW1を求めることができる。
【0104】
次に、第2実施形態の検査装置によるレーザ加工処理について説明する。作業者は、レーザ加工により加工対象物OBに微細格子構造Gを形成するにあたって、まず、検査装置の電源を投入し、駆動限界位置にある固定治具10の円筒表面にシート状の加工対象物OBを密着固定する。そして、入力装置101を使って以下のデータを入力する。
・第1加工ピッチP1(凸部G1の幅W1+凹部G2の幅W2)
・スピンドルモータ20の回転速度
・レーザ光強度
・加工開始時の移動ステージ30の位置St
・加工長さA
・第2加工ピッチP2で加工する微少長さS
作業者は、微細格子構造Gにおける凸部G1の希望高さと凹部G2の希望幅とを基にレーザ光強度を設定する。また、これらのデータのうちコントローラ100内のメモリに記憶されているデータがあれば、その入力操作を省略する。
【0105】
データ入力が完了すると、コントローラ100は、図7に示すレーザ加工ルーチンを開始する。このレーザ加工ルーチンは、コントローラ100のROM内に制御プログラムとして記憶されている。レーザ加工ルーチンは、ステップS200にて起動する。レーザ加工ルーチンが起動すると、コントローラ100は、まず、ステップS202において、移動ステージ制御回路75に対して加工開始位置Stの出力と移動指令を出力する。これにより、移動ステージ制御回路75は、フィードモータ62を駆動して移動ステージ30を駆動限界位置から、作業者が入力設定した加工開始位置Stに移動させる。続いて、コントローラ100は、ステップS204において、スピンドルモータ制御回路23に対して設定回転速度の出力と回転開始指令を出力する。これにより、スピンドルモータ制御回路23は、作業者が入力設定した回転速度でスピンドルモータ20を駆動して固定治具10の回転を開始させる。
【0106】
続いて、コントローラ100は、ステップS206において、レーザ駆動回路76に対して検査用強度でのレーザ光照射開始指令を出力する。これにより照射ヘッド80から加工対象物OBへ検査用強度のレーザ光照射が開始される。続いて、コントローラ100は、ステップS208において、フォーカスサーボ信号生成回路83に対してフォーカスサーボの開始指令を出力する。これにより、フォーカスサーボ信号生成回路83は、フォーカスエラー信号生成回路82から出力されるフォーカスエラー信号(a’+c’)−(b’+d’)の値が常に一定値(例えば、ゼロ)になるように、ドライブ回路84に制御信号を出力してフォーカスアクチュエータ80fの駆動制御を開始する。尚、このフォーカスサーボを開始するにあたって、コントローラ100は、信号増幅回路81に対して、検査用強度のレーザ光をフォーカスサーボするときの信号増幅率を指定する。
【0107】
続いて、コントローラ100は、ステップS210において、移動ステージ制御回路75に対して移動速度設定値を出力する。この移動速度設定値は、作業者が入力した第1加工ピッチP1を固定治具10の回転速度で除算して求めた値となる。次に、ステップS212において、移動ステージ制御回路75に対して移動開始指令を出力する。これにより、移動ステージ制御回路75は、移動ステージ30が移動速度設定値にて定速移動するように、フィードモータ62の駆動制御を開始する。
【0108】
続いて、コントローラ100は、ステップS214において、レーザ駆動回路76に対して加工用強度でのレーザ光照射開始指令を出力する。これによりレーザ駆動回路76は、レーザ光源80aへ電流および電圧供給する電流・電圧供給回路を検査用のものからレーザ加工用のものに切り替える。従って、照射ヘッド80から加工用強度のレーザ光が加工対象物OBの表面に照射されレーザ加工が開始される。尚、このとき、コントローラ100は、信号増幅回路81に対して、加工用強度のレーザ光をフォーカスサーボするときの信号増幅率を指定する。従って、レーザ光の強度切替にかかわらず、フォーカスサーボを適切に続行することができる。
【0109】
加工対象物OBの表面に照射されるレーザ光のスポット位置は、加工対象物OBの回転と軸線方向移動とにより、加工対象物OBの円筒表面を螺旋状に移動する。これにより、加工対象物OBの円筒表面には、レーザ光照射跡として螺旋状の凹部G2が形成される。従って、加工対象物OBの表面には、線状に延びた凹部G2と凸部G1とが交互に繰り返される微細格子構造Gが形成される。本実施形態における微細格子構造Gは、凸部G1の幅W1と凹部G2の幅W2とがそれぞれ数百ナノメートルといった1マイクロメートル以下に設定される微細な格子構造である。
【0110】
コントローラ100は、レーザ加工を開始すると、ステップS216において、移動量検出回路74が出力する移動ステージ30の移動量F(原点位置からの移動量)を表すデータを取り込む。続いて、ステップS218において、その移動量Fから加工開始位置Stを減算した値(F−St)が、全体の加工長さAから第2加工ピッチで加工する長さSを減算した値(A−S)に達したか否かを判定する。移動量Fから加工開始位置Stを減算した値(F−St)は、移動ステージ30が加工開始位置Stから移動した距離を表す。また、全体の加工長さAから第2加工ピッチで加工する長さSを減算した値(A−S)は、第1加工ピッチでレーザ加工する軸線方向の長さを表す。従って、このステップS218においては、第1加工ピッチP1でのレーザ加工の終了タイミングを判定している。
【0111】
コントローラ100は、所定の周期で移動量検出回路74から移動ステージ30の移動量Fを取り込みつつ上記判定を繰り返す(S216〜S218)。そして、値(F−St)が値(A−S)に達したと判定すると、その処理をステップS220に進める。
【0112】
コントローラ100は、ステップS220において、移動ステージ制御回路75に対して新たな移動速度設定値を出力する。この移動速度設定値は、第2加工ピッチP2でレーザ加工する場合の移動ステージ30の移動速度を設定する値であり、第2加工ピッチP2を固定治具10の回転速度で除算して求めた値となる。本実施形態において、この第2加工ピッチP2は、第1加工ピッチP1に係数aを乗じた値に設定される(P2=a・P1)。係数aは、1.5〜3程度の値であり、凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの測定精度が良好となる値に予め設定されている。
【0113】
移動ステージ制御回路75は、コントローラ100から出力された移動速度設定値にしたがってフィードモータ62を駆動制御する。こうして、第1加工ピッチP1でのレーザ加工から第2加工ピッチP2でのレーザ加工に切り替わる。
【0114】
続いて、コントローラ100は、ステップS222において、移動量検出回路74から移動ステージ30の移動量F(原点位置からの移動量)を表すデータを取り込む。続いて、ステップS224において、その移動量Fから加工開始位置Stを減算した値(F−St)が、加工長さAに達したか否かを判定する。移動量Fから加工開始位置Stを減算した値(F−St)は、移動ステージ30が加工開始位置Stから移動した距離を表す。従って、このステップS224においては、レーザ加工の終了タイミングを判定している。
【0115】
コントローラ100は、所定の周期で移動量検出回路74から移動ステージ30の移動量Fを取り込みつつ上記判定を繰り返す(S222〜S224)。そして、値(F−St)がAに達したと判定すると、その処理をステップS226に進める。コントローラ100は、ステップS226において、フォーカスサーボ信号生成回路83に対してフォーカスサーボの停止指令を出力し、ステップS228において、レーザ駆動回路76に対してレーザ光の照射停止指令を出力し、ステップS230において、移動ステージ制御回路75に対して移動ステージ30の停止指令を出力し、ステップS232において、スピンドルモータ制御回路23に対してスピンドルモータ20の回転停止指令を出力する。コントローラ100は、これらの停止指令を出力すると、ステップS234にて、レーザ加工ルーチンを終了する。
【0116】
こうして、加工対象物OBの表面には、第1加工ピッチPでレーザ加工された第1格子ピッチの微細格子構造(以下、第1格子構造と呼ぶ)と、第2加工ピッチP2でレーザ加工された第2格子ピッチの微細格子構造(以下、第2格子構造と呼ぶ)とが隣接して形成される。第2格子構造は、製品としての所望の格子構造を形成するものではなく、凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdを計算により測定するために形成したものである。従って、第2格子構造の形成領域は、第1格子構造の形成領域に比べて狭いものとなっている。
【0117】
微細格子構造Gが形成された加工対象物OBは、所定のサイズに切断されて、例えば、半導体製造用の基板として使用されるため、本来の格子ピッチと異なる第2格子構造が形成されていても何ら問題はない。尚、第2格子構造も、製品として規定された別の格子ピッチにて形成するようにしてもよい。
【0118】
作業者は、上述のレーザ加工処理により形成された微細格子構造Gの検査を行いたい場合には、上述の加工対象物OBを固定治具10から取り外すことなく、そのまま固定治具10にセットした状態で、第1実施形態と同様にして入力装置101に所定のデータを入力したのち、検査ルーチンを開始させる。この場合、上述の加工対象物OBは、検査対象物OBとして扱われる。
【0119】
第2実施形態の検査装置の実行する検査ルーチンは、第1実施形態の検査ルーチン(図2)に、凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの計算処理と、その計算結果の表示処理とを加えたものである。図8は、第2実施形態における検査ルーチンの追加処理部分を表す。第2実施形態の検査ルーチンは、第1実施形態の検査ルーチンのステップS124とステップS126との間にステップS125の処理を追加し、ステップS126とステップS128との間にステップS127の処理を追加したものであり、他のステップの処理については第1実施形態と同一である。尚、偏光特性データとしては、位相の遅れRe(n)を使用する。
【0120】
コントローラ100は、上述したステップS102〜S124の処理により微細格子構造Gに形成された欠陥の位置を計算すると、ステップS125において、凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの計算を行う。このステップS125においては、第1格子構造が形成されている領域内での欠陥が検出されていない部位における位相遅れデータRe(n)の平均値Re1と、第2格子構造が形成されている領域内での欠陥が検出されていない部位における位相遅れデータRe(n)の平均値Re2とを算出する。そして、この2つの平均値Re1,Re2を式(3)に代入した連立方程式を解くことにより凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdを算出する。また、加工ピッチP1から凹部G2の幅W2を減算することにより凸部G1の幅W1を算出する。
【0121】
このように算出された凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの寸法値は、ステップS127において表示装置102の画面に表示される。この場合、コントローラ100は、ステップS126において表示した欠陥位置画面を消すことなく、その画面上に凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの寸法値を重ねて表示してもよいし、あるいは、入力装置101からの選択操作により、欠陥位置画面と寸法値表示画面とを切り替えて表示するようにしてもよい。
【0122】
コントローラ100は、凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの寸法値を表示すると、ステップS128の処理を行った後、本検査ルーチンを終了する。
【0123】
以上説明した第2実施形態の検査装置および検査方法によれば、第1実施形態の作用効果に加えて、以下の作用効果を奏する。
レーザ光の強度を切り替える構成と、信号増幅回路81の信号増幅率を切り替える構成とを追加するだけで、加工対象物OBに微細格子構造Gを形成するレーザ加工機能を付与することができる。従って、検査装置を加工装置としても利用することができる。また、加工対象物OBに微細格子構造Gを形成した後は、加工対象物OBを固定治具10から取り外すことなく、そのまま加工対象物OBを検査対象物OBとして扱って、その微細格子構造Gの検査を行うことができる。従って、生産効率が向上する。
【0124】
また、微細格子構造Gの凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの寸法値を算出して表示装置102に表示するため、一層精度の高い検査を行うことができる。しかも、寸法値の算出は、微細格子構造Gの欠陥検出のために求めた偏光特性(位相の遅れRe)を利用して行っているため、特別な測定装置を必要としなくコストアップを招かない。
【0125】
尚、ステップS125における凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの寸法値の算出にあたっては、第1格子構造を複数の領域に区分し、区分された各領域毎に行うようにしてもよい。つまり、第1格子構造を区分にした各領域毎に、欠陥が検出されていない部位における位相遅れデータRe(n)の平均値Re1を計算し、この領域毎の平均値Re1と、第2格子構造が形成されている領域内での欠陥が検出されていない部位における位相遅れデータRe(n)の平均値Re2とを用いて、第1格子構造の各領域における凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdを算出するようにしてもよい。
【0126】
また、第1格子構造の領域において欠陥が検出されていない部位を除いたデータ取込位置毎の位相遅れデータRe(n)をそれぞれRe1とし、各Re1と上記Re2とを用いて、データ取込位置毎の凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdを算出するようにしてもよい。この場合、凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdを複数の範囲に分けて分類し、各測定項目毎に、測定値が属する範囲に応じた色分けにより表示装置102にマップ表示するようにすると、測定値の分布が一目でわかるようになる。
【0127】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形も可能である。
【0128】
例えば、本実施形態においては、ドラム状の固定治具10にシート状の検査対象物OBをセットし、固定治具10を中心軸周りに回転させながら軸線方向に送ることで、レーザ光の照射位置を検査対象物OBの表面全体にわたって移動させる構成を採用しているが、レーザ光の照射位置を移動させる構成(レーザ光照射位置移動手段)は種々のものを採用することができる。例えば、X−Yステージに平板状の固定治具を取り付け、この固定治具に平板状の検査対象物OBをセットし、固定治具をX方向、Y方向に移動させることにより、レーザ光の照射位置を検査対象物OBの表面全体にわたって移動させる構成であってもよい。
【0129】
また、例えば、光ディスク装置のように、中心軸周りに回転する円盤状のステージに円盤状の固定治具を取り付け、この固定治具に円盤状の検査対象物OBをセットし、固定治具を回転させながら半径方向へ送ることにより、レーザ光の照射位置を検査対象物OBの表面全体にわたって移動させる構成であってもよい。この場合、微細格子構造は、光ディスクのトラックのように螺旋状に形成されているとよい。このような、レーザ光照射位置移動手段であっても、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0130】
また、レーザ光照射位置移動手段は、固定治具を移動させる構成に限るものではない。つまり、レーザ光を照射する照射ヘッド80を移動させる構成であってもよい。また、固定治具10と照射ヘッド80との両方を関連させて移動させるようにすることもできる。例えば、本実施形態の変形例として、移動ステージ30に代えて、照射ヘッド80を固定治具10の軸線方向に移動させる照射ヘッド移動機構を設けるようにしてもよい。照射ヘッド移動機構としては、モータの回転運動を直線方向運動に変換するねじ送り機構などを採用することができる。この構成においては、固定治具10をスピンドルモータ20により回転させながら、照射ヘッド80を上述した移動ステージ30と同じ速度(移動方向は反対方向となる)で軸線方向に移動させればよい。このような、レーザ光照射位置移動手段であっても、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0131】
また、本実施形態においては、ドラム状の固定治具10の表面の反射率を高くしてレーザ光を固定治具10の表面で反射させ、その反射光の強度および偏光状態を検出したが、固定治具を光が透過できる材料で形成するとともに、レーザ光を照射する照射部とレーザ光を受光する受光部とを固定治具を挟んで向かい合うように設けて、固定治具および検査対象物OBを透過した透過光の強度および偏光状態を検出するようにしてもよい。この場合は、固定治具を平板状あるいは円盤状にすると簡単に構成することができる。これによっても、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0132】
また、本実施形態においては、スピンドルモータ20内に設けたエンコーダ21から出力されるパルス列信号のパルスのカウント数が固定治具10の1回転におけるデータ取込数から設定されるカウント数になるごとに波高値データの取り込みを行っているが、クロック信号発生回路88の出力するクロック信号のパルス数をカウントしてカウント数が固定治具10の回転速度と1回転におけるデータ取込数から設定されるカウント数になるごとに波高値データを取り込むようにしてもよい。これによっても、上述した実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0133】
また、本実施形態においては、ゴミ付着、傷、ピットなどのような個々の凸部G1、凹部G2より大きな欠陥については、その位置と大きさとを検出しているが、大きさを問題にしなければ欠陥の位置のみを検出して表示するようにしてもよい。この場合には、クロック信号発生回路88、A/D変換器87、第1データ保存回路71が不要となり検査装置のコストを抑えることができる。
【0134】
また、本実施形態においては、フォーカスサーボ機構を備えているが、省略することもできる。また、第2実施形態においては、凸部G1の幅W1、凹部G2の幅W2、凹部G2の深さdの全てを測定しているが、そのうちの1つあるいは2つを測定する構成であってもよい。
【0135】
また、本実施形態においては、反射光の偏光状態を、強度比Ra(n)あるい位相の遅れRe(n)として検出しているが、他の数値で検出してもよい。
【0136】
尚、本実施形態のスピンドルモータ20、スピンドルモータ制御回路23、フィードモータ62、移動ステージ制御回路75、および、コントローラ100の処理(S102,S104,S110,S116,S118)が本発明のレーザ光照射位置移動手段に相当する。また、本実施形態の照射ヘッド80、信号増幅回路81、反射光信号生成回路85、A/D変換器87、クロック信号発生回路88、第1データ保存回路71、データ取込信号発生回路70、信号増幅回路91,92、A/D変換器93,94、偏光特性計算回路95、および、コントローラ100の処理(S110)が本発明の光検出手段に相当する。また、本実施形態のエラー判定回路86、第1データ保存回路71、および、コントローラ100の処理(S120,S122)が本発明の第1欠陥検出手段に相当する。また、本実施形態の偏光特性計算回路95、および、コントローラ100の処理(S120,S124)が本発明の第2欠陥検出手段に相当する。
【0137】
また、本実施形態のエンコーダ21,63、回転角度検出回路22、移動量検出回路74、および、コントローラ100の処理(S120)が本発明のレーザ光照射位置検出手段に相当する。また、本実施形態の第1データ保存回路71、第2データ保存回路72、第3データ保存回路73、偏光特性計算回路95、および、コントローラ100の処理(S120〜S124)が本発明の欠陥位置情報取得手段に相当する。
【0138】
また、本実施形態のフォーカスエラー信号生成回路82、フォーカスサーボ信号生成回路83、および、ドライブ回路84が本発明のフォーカスサーボ手段に相当する。また、本第2実施形態におけるレーザ駆動回路76、および、コントローラ100の処理(S206,S214)が本発明のレーザ光強度切替手段に相当する。また、本第2実施形態のレーザ駆動回路76、照射ヘッド80、および、コントローラ100の処理(S214)が本発明のレーザ加工手段に相当する。
【0139】
また、本第2実施形態の移動ステージ制御回路75、および、コントローラ100の処理(S210,S220)が本発明の格子ピッチ切替手段に相当する。また、本第2実施形態のコントローラ100の処理(S125)が本発明の測定手段に相当する。
【0140】
尚、本発明における第1欠陥検出手段は、格子構造における格子ピッチよりも大きな幅の欠陥だけでなく、格子ピッチよりも小さな個々の凹部および凸部の欠陥をも検出できる場合もある。例えば、検査対象物OBの格子ピッチが大きい場合には、照射スポット径に対する凹部あるいは凸部の幅の比率が大きくなり、光検出手段により検出される反射光または透過光の強度が変化する。このため、反射光または透過光の強度に基づいて、個々の凹部および凸部の欠陥をも検出できる。従って、第1欠陥検出手段が格子ピッチよりも大きな幅の欠陥のみを検出する構成とする場合には、照射スポット径が格子ピッチの適正倍率範囲内に入るように設定するとよい。適正倍率は、予め実験等により設定した値を用いればよい。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】本発明の第1実施形態に係る微細格子構造の検査装置のシステム構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る検査ルーチンを表すフローチャートである。
【図3】光強度の推移を表すグラフである。
【図4】欠陥が形成されている微細格子構造の断面図である。
【図5】反射光の偏光状態を表す説明図である。
【図6】検査結果の画面表示状態を表す図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係るレーザ加工ルーチンを表すフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る検査ルーチンの一部(変更部分)を表すフローチャートである。
【図9】微細格子構造の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0142】
10…固定治具、20…スピンドルモータ、21,63…エンコーダ、22…回転角度検出回路、23…スピンドルモータ制御回路、30…移動ステージ、60…ねじ送り機構、62…フィードモータ、70…データ取込信号発生回路、71…第1データ保存回路、72…第2データ保存回路、73…第3データ保存回路、74…移動量検出回路、75…移動ステージ制御回路、76…レーザ駆動回路、80…照射ヘッド、80a…レーザ光源、80b…コリメートレンズ、80c…偏光子、80d…ビームスプリッタ、80e…対物レンズ、80f…フォーカスアクチュエータ、80g…ビームスプリッタ、80h…偏光ビームスプリッタ、80i,80j,80k…集光レンズ、80l…シリンドリカルレンズ、80m,80n,80o…受光素子、81,91,92…信号増幅回路、82…フォーカスエラー信号生成回路、83…フォーカスサーボ信号生成回路、84…ドライブ回路
85…反射光信号生成回路、86…エラー判定回路、87,93,94…A/D変換器、88…クロック信号発生回路、95…偏光特性計算回路、100…コントローラ、101…入力装置、102…表示装置、G…微細格子構造、G1…凸部、G2…凹部、OB…検査対象物(加工対象物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部と凸部とを交互に形成した格子構造を有する検査対象物にレーザ光を対物レンズにより集光して照射し、前記照射したレーザ光の反射光または透過光に基づいて前記格子構造の状態を検査する格子構造の検査装置において、
前記レーザ光を照射する照射ヘッドに対して前記検査対象物を固定する固定治具を相対移動させることにより、前記検査対象物におけるレーザ光の照射位置を移動させるレーザ光照射位置移動手段と、
前記レーザ光照射位置移動手段により前記検査対象物におけるレーザ光の照射位置を移動させながら、前記照射したレーザ光の反射光または透過光の強度および偏光状態を検出する光検出手段と、
前記光検出手段により検出された反射光または透過光の強度に基づいて、前記格子構造における凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥を検出する第1欠陥検出手段と、
前記光検出手段により検出された反射光または透過光の偏光状態に基づいて、前記格子構造における個々の凹部および凸部の欠陥を検出する第2欠陥検出手段と
を備えたことを特徴とする格子構造の検査装置。
【請求項2】
前記検査対象物におけるレーザ光の照射位置を検出するレーザ光照射位置検出手段と、
前記第1欠陥検出手段および前記第2欠陥検出手段により欠陥が検出されたときの前記レーザ光照射位置検出手段により検出されるレーザ光の照射位置を前記検査対象物における欠陥位置情報として取得する欠陥位置情報取得手段と
を備えたことを特徴とする請求項1記載の格子構造の検査装置。
【請求項3】
前記レーザ光を集光する対物レンズを前記レーザ光の光軸方向に駆動するフォーカスアクチュエータと、
前記検査対象物に照射されたレーザ光の反射光に基づいて、前記レーザ光の焦点位置の前記検査対象物の反射面からのずれに相当する信号を生成し、前記ずれに相当する信号に基づいて前記フォーカスアクチュエータを駆動し前記レーザ光の焦点位置が前記検査対象物の格子構造の位置に対して一定になるように制御するフォーカスサーボ手段と
を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の格子構造の検査装置。
【請求項4】
照射ヘッドから照射されるレーザ光の強度を、前記検査対象物を検査するためのレーザ加工不能な検査用強度と、レーザ加工可能な加工用強度とに切り替えるレーザ光強度切替手段と、
前記固定治具に加工対象物を固定し、前記レーザ光照射位置移動手段により前記固定治具を前記照射ヘッドに対して相対移動させながら、前記加工用強度のレーザ光を前記加工対象物に照射して、前記加工対象物の表面に格子構造を形成するレーザ加工手段と
を備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか一項記載の格子構造の検査装置。
【請求項5】
前記レーザ加工手段は、前記加工対象物の表面に第1格子ピッチの格子構造と、前記第1格子ピッチとは異なる第2格子ピッチの格子構造とを形成する格子ピッチ切替手段を備え、
前記第1格子ピッチの格子構造と前記第2格子ピッチの格子構造とが形成された前記加工対象物を検査対象物とし、前記第1格子ピッチの格子構造に照射した検査用強度のレーザ光の反射光または透過光の偏光状態と、前記第2格子ピッチの格子構造に照射した検査用強度のレーザ光の反射光または透過光の偏光状態とに基づいて、前記格子構造における凸部の幅または凹部の幅または凹部の深さの少なくとも1つを測定する測定手段を備えたことを特徴とする請求項4記載の格子構造の検査装置。
【請求項6】
表面に凹部と凸部とを交互に形成した格子構造を有する検査対象物にレーザ光を対物レンズにより集光して照射し、前記照射したレーザ光の反射光または透過光に基づいて前記格子構造の状態を検査する格子構造の検査方法において、
前記レーザ光を照射する照射ヘッドに対して前記検査対象物を固定する固定治具を相対移動させながら、前記照射したレーザ光の反射光または透過光の強度および偏光状態を検出する光検出ステップと、
前記光検出ステップにより検出された反射光または透過光の強度に基づいて、前記格子構造における凹部と凸部とにまたがって形成されている格子ピッチよりも大きな幅の欠陥を検出する第1欠陥検出ステップと、
前記光検出ステップにより検出された反射光または透過光の偏光状態に基づいて、前記格子構造における個々の凹部および凸部の欠陥を検出する第2欠陥検出ステップと
を含むことを特徴とする格子構造の検査方法。
【請求項7】
前記第1欠陥検出ステップおよび前記第2欠陥検出ステップにより欠陥が検出されたときの前記検査対象物におけるレーザ光の照射位置を検出し、前記検出したレーザ光の照射位置を前記検査対象物における欠陥位置情報として取得する欠陥位置情報取得ステップを含むことを特徴とする請求項6記載の格子構造の検査方法
【請求項8】
前記固定治具に加工対象物を固定し、前記固定治具を前記照射ヘッドに対して相対移動させながら、加工用強度のレーザ光を前記加工対象物に照射して、前記加工対象物の表面に格子構造を形成するレーザ加工ステップと、
前記レーザ加工ステップの終了後、前記レーザ光の強度を前記加工用強度からレーザ加工不能な検査用強度に切り替えるレーザ強度切替ステップと
を含み、
前記光検出ステップは、前記レーザ強度切替ステップの終了後に実行することを特徴とする請求項6または7記載の格子構造の検査方法
【請求項9】
前記レーザ加工ステップは、前記加工対象物の表面に第1格子ピッチの格子構造を形成する第1格子構造形成ステップと、前記第1格子ピッチとは異なる第2格子ピッチの格子構造を形成する第2格子構造形成ステップとを含み、
前記第1格子ピッチの格子構造と前記第2格子ピッチの格子構造とが形成された前記加工対象物を検査対象物とし、前記第1格子ピッチの格子構造に照射した検査用強度のレーザ光の反射光または透過光の偏光状態と、前記第2格子ピッチの格子構造に照射した検査用強度のレーザ光の反射光または透過光の偏光状態とに基づいて、前記格子構造における凸部の幅または凹部の幅または凹部の深さの少なくとも1つを測定する測定ステップと
を含むことを特徴とする請求項8記載の格子構造の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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