説明

椅子用クッションの成形方法及び椅子

【課題】表皮と弾性フォームと基板で構成される椅子用クッションにおいて、基板を予め成形する必要がなく、全体の成形が容易で、約5〜25mm程度の厚さに成形できる椅子用クッションの成形方法及びその成形方法により製造されたクッションを備えた椅子を提供する。
【解決手段】表皮材5と弾性フォーム材6を接着する。この弾性フォーム材6の裏面に基板材7を接着する。得られた表皮材5と弾性フォーム材6と基板材7の貼り合わせ体8を、基板材7が軟化する温度まで加熱する。その後、この貼り合わせ体8を真空成形装置の型9にセットする。この型内に、真空作用を作用させ、貼り合わせ体を型内に引き込み、基板材7を基板4の形に賦形するとともに表皮2と弾性フォーム3と基板4が一体となった椅子用クッションを作る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、折りたたみ椅子、スタッキングチェア、会議用チェアその他の椅子の座部や背部のクッションとして好適に使用できる椅子用クッションの成形方法及び椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
椅子の座部等のクッションは、表皮と、その内方に形成されているウレタンフォーム等の弾性フォームと、弾性フォームを支持する基板(芯材)で構成されている。このような椅子用クッションは種々の方法で製造されている。例えば、表皮とウレタンフォームを一体成形するモールドウレタン表皮一体製法では、型内に予め成形した基板を配置しておき、基板と表皮との間に形成された空所にウレタンを注入して発泡させて一体化している(例えば特許文献1参照)。しかし、この製法では、ウレタンを発泡させるためにある程度の厚さ、一般的には約30mm以上の厚みを設ける必要があるので、クッションが全体として厚く、重くなり、事務用回転椅子のような執務用の椅子には都合よいが、不使用時に保管場所に収納されるような収納性が要求される椅子では好ましくない。そのため、スタッキングチェア、会議用チェア、折りたたみ椅子等のように、多数積層したり折りたたんだりして片付けられるような椅子では、重量が重くなって取り扱いが面倒であり、収納場所も広い場所が必要となり、そのようなモールドウレタン表皮一体製法によるクッションは採用されないことが多かった。
【0003】
また、上記の製法では成形時間がウレタンの発泡速度に依存しているので、通常の生産タクトは数分から10分単位で長時間を要し、効率よく得られない。さらに、量産するためには金型面数も多数必要とされ、表皮となる部分の裏面に発泡ウレタンが染み出さないよう非通気性のフィルムを貼ったり、基板を予め成形しておく必要があるから、全体としてコストがかかるものであった。
【0004】
上記の如きモールドウレタン表皮一体製法によらないで一体成形する方法として、成形型内にポリプロピレン樹脂製の表皮と発泡体を配置しておき、型内にポリプロピレン樹脂を射出して射出成形で基板を成形する表皮クッション一体成形方法も知られているが、この方法では射出成形時の成形圧力がクッション部分に作用し、耐圧性に劣るポリプロピレン発泡体にダメージを与えてへたってしまうので、厚さの厚いクッションは成形がむずかしく、通常厚さ3mm程度のきわめて薄いクッションしか得ることができなかった。
【0005】
さらに、一体成形法を用いない従来の製法では、ウレタンフォームと基板を重ね合わせ、ウレタンフォームに表皮をかぶせ、この表皮の周囲を基板の背面等にまわしてステープルで止めたり、表皮の周縁に挿通した紐を基板の裏面側で巾着のように絞り込んで止着する構成が知られている。しかし、この方法はクッション端面が絞り込みによってへこまされ、きれいな形状に仕上げられなかったり、手作業によるため熟練を要し、経済的に得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−160893号公報(請求項2、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の解決課題は、折りたたみ椅子、スタッキングチェア、会議用チェア等の椅子のように軽量で嵩張らずかつ適度の弾性作用が要求される椅子のクッションとして好適に使用できるようクッションの厚さを約5〜25mm程度に形成でき、一体成形に先立って基板(芯材)を予め成形する必要がなく、製造が簡単で短時間に経済的に得られる表皮クッション一体成形の椅子用クッションの成形方法及びそのクッションを備えた椅子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、椅子用クッションの表皮となる表皮材の裏面に弾性フォーム材を接着し、該弾性フォーム材の裏面に基板材を接着し、該表皮材と弾性フォーム材と基板材を接着した貼り合わせた体を加熱し、該貼り合わせ体を椅子用クッションの輪郭形状の型面を有する型にセットし、該型面に真空作用により上記貼り合わせ体を引き込むことにより表皮材と弾性フォーム材と基板材を一体的に成形して椅子用クッションを製造することを特徴とする椅子用クッションの成形方法及びそのクッションを備えた椅子が提供され、上記課題が解決される。
【0009】
また、本発明によれば、上記貼り合わせ体は、基板材側若しくは表皮材側を型に対向させて成形され、上記貼り合わせ体の周縁部には椅子フレームに掛けとめるための折り返し部が成形される上記椅子用クッションの成形方法及びそのクッションを備えた椅子が提供され、上記課題が解決される。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上記のように構成され、椅子用クッションの表皮となる表皮材の裏面に弾性フォーム材を接着し、該弾性フォーム材の裏面に基板材を接着し、該表皮材と弾性フォーム材と基板材を接着した貼り合わせた体を加熱し、該貼り合わせ体を椅子用クッションの輪郭形状の型面を有する型にセットし、該型面に真空作用により上記貼り合わせ体を引き込むことにより表皮材と弾性クッション材と基板材を一体的に成形するようにしたから、基板を予め成形する必要がなく、表皮材と弾性フォーム材と基板材を接着した貼り合わせ体を加熱し真空成形により全体を一気に形成できるので、製造装置も簡単で経済的であり、成形時間も短時間となり、基板はクッションの輪郭形状に合わせて成形されるから立体的な構成になって十分な強度が得られ、クッションがつぶれるおそれもなく、5〜25mm程度の椅子用クッションを容易に製造することができる。したがって、得られたクッションは折りたたみ椅子やスタッキングチェア、会議用チェア等の椅子の座や背の椅子用クッションとして最適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例の貼り合わせ体を示す説明図。
【図2】製造工程を示す説明図。
【図3】成形方向を示す説明図。
【図4】他の成形方法を示す説明図。
【図5】周縁部の構成を示し、(A)は成形前、(B)は成形後、(C)は一部の拡大図の各説明図。
【図6】周縁部の構成を示し、(A)、(B)は成形前、(C)は成形後、(D)は一部の拡大図、(E)は巻き込む工程の各説明図。
【図7】椅子用クッションの取付状態の一部を示す断面図。
【図8】他の実施例の椅子用クッションの取付状態の一部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
椅子用クッション1は、公知のように表皮2と弾性フォーム3と基板(芯材)4で構成されるが、本発明による椅子用クッションは、図1、図2に示すように表皮材5と弾性フォーム材6と基板材7の貼り合わせ体8を作成し、この貼り合わせ体8を真空成形することにより成形される。
【0013】
上記表皮材5としては、従来より使用されているような織編布、レザー等を用いることができ、適度の伸びに優れた材料が選定される。この表皮材の裏面に接着される弾性フォーム材6としては、ウレタンフォームが好適に使用でき、好ましくは比重0.024程度で厚さ約5〜25mm程度、好ましくは約10〜15mm程度のウレタンフォームが風合いや座り心地がよく、コスト的にも好ましい。なお、弾性フォーム材の厚さは、椅子用クッションとして出来上がった際、周縁部等がスッキリするよう部位により適宜肉厚を変化させて設けてもよい。
【0014】
また、上記弾性フォーム材の裏面に接着される基板材7としては、ポリプロピレン樹脂、塩化ビニール樹脂(PVC)、ポリエステル樹脂(PET)等の材料を用いることができ、その厚みは、真空成形で加工可能でかつ立体構造に成形して椅子用クッションとして使用した際に十分な強度が得られるよう約0.3mm〜5mm程度、好ましくは約0.5〜1mm程度が好ましい。
【0015】
上記表皮材5と弾性フォーム材6と基板材7を接着する接着剤としては上記表皮材、弾性フォーム材、基板材の各材質に応じて溶剤系、水溶性、ホットメルト等の適宜の接着剤を使用することができる。また、接着剤を塗布方法は接着剤の種類に応じてハンドガンその他適宜の方法を用いることができる。
【0016】
周辺部の処理としては、図5(A)に示すように表皮材5と弾性フォーム材6と基板材7をホットメルト接着剤等で周縁部まで接着し、同図(B)のように成形後、周縁部15をカットして同図(C)のように成形することもできる。また、後に不要となる部分を独立して処理することができるよう不要部分にマスキング等して接着しないようにすることもできるし、図6(A)、(B)に示すように、周縁部の弾性フォーム材を除いて表皮材5と基板材7を直接接着させ、同図(C)のように成形後、同図(D)のように周縁部15の表皮材5を所望長さ残して基板材7だけをカットし、その後該表皮材5を基板材7の裏面に巻き込んでホットメルト接着剤等で接着することもできる。
【0017】
真空成形に際しては、上記のようにして接着された表皮材5と弾性フォーム材6と基板材7の貼り合わせ体8は、上記基板材7が軟化する温度まで加熱される。上記基板材が軟化する温度まで加熱されたら、上記表皮材と弾性フォーム材と基板材の貼り合わせ体8を真空成形装置の型9にセットする。この型9は、椅子用クッションの輪郭形状に応じた型面10を有し、図3に示すように上記貼り合わせ体8は基板材側を型9に対向させた状態でセットされているが、図4に示すように表皮側を型9に面してセットすることもできる。そして、貼り合わせ体8の周囲をクランプし、型内の空気を型に設けた真空孔(図示略)から排気すると、上記貼り合わせ体8は型面10に沿って引き込まれ、型面に応じた形状に賦形される。このような成形操作は2〜3分程度で終了する。
【0018】
その後、上述したように上記クランプ部分から周縁部の不要部分をカットするためのトリム処理を行うと、表皮2、弾性フォーム3、基板(芯材)4を一体的に有する所望の椅子用クッション1が得られる。なお、上記椅子用クッションはスタッキングチェア等の椅子フレーム11に直接的に取り付けられることが好ましいから、型面10に椅子フレーム11に応じた折り返し部12を形成するための突出部13(図3)若しくは凹部14(図4)を形成しておくとよい。そのようにすれば、図7に示すように椅子フレーム11に容易に嵌着して取り付けることができ、椅子の組立作業を簡単にすることができる。また、図8に示すように射出成形等により基板とほぼ同形状の支持板16を成形し若しくは金属材料で帯状のステー(図示略)を設けてこれらをフレームに固定し、この支持板等の上に上記基板をホットメルト等で接着することもできる。
【実施例】
【0019】
表皮材として、ポリエステル布、アクリル布、PVCレザー、ウレタンレザー等現在椅子の表皮の素材として使用されている各種の材料から適宜のものを用意し、弾性フォーム材としては厚み15mmのウレタンフォームを用い、基材としては厚さ0.5mmのポリエステルシートを用い、それぞれオレフィン系ホットメルトで接着して貼り合わせ体8を得た。そして、この貼り合わせ体を雰囲気温度約230度の加熱装置で冬場は17秒程度、夏場は約10秒程度加熱して軟化させ、基板側を真空成形装置の型面に沿わせてセットして真空成形し、成形後に周縁部をカットして椅子用クッションを得た。得られた椅子用クッションは全体として厚さ約16mm程度であり、このクッションを折りたたみ椅子、スタッキングチェア、会議用チェア等の椅子の座部や背部のクッションとして用いたところ、適度のクッション作用が得られ、軽く、嵩張らず、取り扱いも簡単で好適に使用することができた。
【符号の説明】
【0020】
1 椅子用クッション
2 表皮
3 弾性フォーム
4 基板(芯材)
5 表皮材
6 弾性フォーム材
7 基板材
8 貼り合わせ体
9 型
10 型面
11 椅子フレーム
12 折り返し部
13 突出部
14 凹部
15 周縁部
16 支持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子用クッションの表皮となる表皮材の裏面に弾性フォーム材を接着し、該弾性フォーム材の裏面に基板材を接着し、該表皮材と弾性フォーム材と基板材を接着した貼り合わせた体を加熱し、該貼り合わせ体を椅子用クッションの輪郭形状の型面を有する型にセットし、該型面に真空作用により上記貼り合わせ体を引き込むことにより表皮材と弾性フォーム材と基板材を一体的に成形して椅子用クッションを製造することを特徴とする椅子用クッションの成形方法。
【請求項2】
上記貼り合わせ体は、基板材側を型面に対向させてセットされる請求項1に記載の椅子用クッションの成形方法。
【請求項3】
上記貼り合わせ体は、表皮材側を型面に対向させてセットされる請求項1に記載の椅子用クッションの成形方法。
【請求項4】
上記貼り合わせ体の周縁部には椅子フレームに掛け止めるための折り返し部が成形されている上記請求項1から請求項3のいずれかに記載の椅子用クッションの成形方法。
【請求項5】
上記弾性フォーム材の厚さは5〜25mmである請求項1から4のいずれかに記載の椅子用クッションの成形方法。
【請求項6】
上記基板材の厚さは0.3mm〜5mmである請求項1から5のいずれかに記載の椅子用クッションの成形方法。
【請求項7】
上記請求項1から6のいずれかに記載の成形方法により成形したクッションを具備する椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−227330(P2010−227330A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78905(P2009−78905)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(391014114)三惠工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】