説明

検査方法および装置

【課題】
電子線を応用した検査装置では、電子像を取得して欠陥の有無を判定していたため、画像の取得時間や画像データの転送速度、画像処理の速さなどで検査速度の向上に限界が生じていた。
【解決手段】
電子レンズ111の後焦点面に形成される回折スポットのうち、試料104から垂直に反射される電子が形成する部分を遮蔽物117で遮蔽し、その他の反射電子線を検出器112で検出し、その積分強度を入出力装置115でモニタすることにより異物や欠陥の判定を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,試料上の異物や欠陥の有無を検査する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの高密度化により,大規模集積回路におけるパターン形状の最小線幅や,磁気ディスクの記録単位の大きさは,100nm以下の極めて微細なサイズにまで縮小しており,今後も微細化,高密度化は続いていく。このような高密度パターンの形成過程においては,これまでは問題とならなかった様な10nm程度の小さな異物(粒子や,傷など)やパターン形成不良などの欠陥の存在が大きな不良の原因となる。たとえば,20nmの精度が要求されるパターンを形成する際,最初から10nm程度の異物が存在していれば,これが原因となって発生するパターン形成不良は,製品の品質に重大な影響を及ぼすレベルとなる。従って,生産の歩留まりを向上し維持するためには,パターン形成前にこのような極微小の異物や欠陥の有無を検査し,パターン形成工程前に選別する必要がある。
【0003】
これまで、表面上の異物やパターン形成不良などは、可視光や紫外光を用いた光学式検査装置を使って検出することができた。しかしながら上述のように、検出しなければならない異物や欠陥が20nmを下回るようなると、光学式では検出できないと考えられる。
【0004】
このような極微小異物や欠陥を検出できる方法としては,収束した電子線を走査する走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いる方法がある。あるいは原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)に代表されるプローブ顕微鏡も原子レベルに到達する程の高い空間分解能を有し,上記の極微細の異物や欠陥を観察することができる。
【0005】
しかしながら,SEMやAFMは上述のような異物や欠陥の観察には適するが、検査装置としては適さない。なぜならば、これらの顕微鏡は像を得るために必要な時間が長すぎ、Siウェハや磁気ディスクの検査にそのまま適用すると1枚の検査に要する時間が膨大になるからである。SEMを用いたウェハ検査装置は特許文献1に記載されているように,SEM式外観検査装置として実用化されているが、ウェハ1枚を検査するのにかかる時間は数時間以上となり、量産ラインへの本格的な導入はできなかった。
【0006】
極微細の異物や欠陥に感度を有し、かつ、高速検査が可能な新たな技術として、特許文献2や特許文献3に開示されている様な、電子線を応用した検査技術が開発された。これらの検査技術は,試料に照射する電子線の加速電圧に近い負電位を与えた上で,試料に検査視野全体に照射し,試料で反射される電子を結像することによって検査用の電子像を得る。但し,反射電子と言っても,特許文献2に開示された技術は,照射電子線の加速電圧より負の電位を試料に与え,照射電子線が試料に衝突する前に,負の電位によって反射された電子を結像する,ミラー電子顕微鏡(Mirror Electron Microscope:MEM)を応用した検査技術であり,一方,特許文献3に開示された技術は,照射電子線の加速電圧より例えば20V以下の正の電位を試料に与え,照射電子線が試料表面に低エネルギーで衝突し反射した電子を結像する,低エネルギー放出電子顕微鏡(Low Energy Emission Microscope:LEEM)を応用した検査技術である。
【0007】
また、ミラー電子顕微鏡を用いた検査装置については,対物レンズの回折像面(後焦点面)の回折像を後段の電子レンズで投影し,投影された回折像を制限絞りで選択することにより,ミラー電子像のコントラストを上げる技術が特許文献4に開示されている。
【0008】
なお、本明細書中で反射電子と言う場合、ミラー電子と低エネルギー反射電子の両者を含むものとする。
【0009】
【特許文献1】特開平05−258703号公報
【特許文献2】特開平11−108864号公報
【特許文献3】特開2005−228743号公報
【特許文献4】特開2006−156134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
磁気ディスク上やパターン形成前のSiウェハ上の極微細異物の有無を検査する場合、上記の反射電子を用いた検査技術を用いても検査速度に限界があった。特許文献2や3に開示されている検査技術は、いずれもウェハ表面の電子像を取得し、その像を隣接パターン像やメモリにある参照像と画像処理技術を用いて比較し、その差異から欠陥の存在を判定する。すなわち、検査動作には多量の画像データの取得と転送が必要であり、さらに、画像処理のための時間を要していた。なかでも、大量の画像を高速で取得する技術は、TDI(Time Delay Integration)カメラと呼ばれているある種のCCDカメラを用いることが開示されているが、現在の技術ではこのカメラの画像取得速度は、半導体パターンを形成したSiウェハ1枚の検査に1時間を要してしまうような速度である。
【0011】
すなわち、従来技術では、たとえばパターンのないSiウェハ上の微小な異物の有無を検査する場合、現状の光学検査技術で達成されている、1時間に数十枚の検査速度を達成することは全くできなかった。
【0012】
本発明の課題は、微細なパターンの中にある欠陥を高速に検査することが可能な検査方法、及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、本発明においては、試料に電子線を照射し、得られる反射電子を用いて試料を検査する検査方法として、電子光学系により電子線を略平行束にして試料に照射する工程と,試料に電圧を印加する工程と、試料からの反射電子を結像する工程と、反射電子線が結像する面より試料側で反射電子線の一部を遮蔽する工程と、遮蔽されない反射電子線に対応する信号強度を測定する工程と、試料を移動させる工程と、各試料移動位置における信号強度を移動位置とともに表示する工程を有する検査方法を提供する。
【0014】
好適には、結像する工程において、反射電子を電子レンズで結像し、遮蔽する工程において反射電子を遮蔽する位置が、この電子レンズの後焦点面であるようにする。更に好適には、反射電子を複数の電子レンズで結像し、これら複数の電子レンズの一つがその後焦点面に形成した像を、他の少なくとも一つの電子レンズで拡大し、反射電子を遮蔽する位置を拡大像が形成される位置とする。なお、反射電子を遮蔽する位置を、電子レンズの後焦点面等とする場合、同様な遮蔽効果が得られれば、後焦点面等の近傍であっても良い。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明においては、試料に電子線を照射し、得られる反射電子を用いて試料を検査する検査装置として、照射電子線を発生させる照射電子線発生部と、照射電子線を試料に略平行束として照射する電子光学系と,試料に電圧を印加する試料電圧制御部と、試料表面で反射された反射電子を結像する結像系と,反射電子の信号強度を検出する強度検出部と、強度検出部と結像系との間に設置され、反射電子の一部を遮蔽する遮蔽部と、試料を照射電子線に対して一定の速度で移動させる駆動部と、試料上の位置情報と検出した信号強度とを関連付けて表示する表示部とを備える検査装置を提供する。
【0016】
すなわち本発明においては、試料表面の電子像を取得してその比較を行うのではなく、対物レンズがその回折像面(後焦点面)に形成する回折像、或いはその回折像を第2のレンズで投影した像の中心部分を、設定された大きさで遮蔽し,遮蔽されない反射電子の総和に比例した信号強度(積分強度)を、被検査物である試料の移動と同期して計測し、あらかじめ設定した閾値と計測された信号強度との関係を基に、欠陥の判定を行う検査方法及びその検査装置を構成する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高速かつ高感度の異物検査を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の最良の形態である実施例を図面に基づき説明する。
【実施例1】
【0019】
図1に、検査装置のハードウェア構成の一実施例を示す。ただし、本図には、真空排気用のポンプやその制御装置、排気系配管などは略されている。また、図示上の都合により、寸法の割合は適宜変更してある。
【0020】
まず、本装置の電子光学系の主な要素を説明する。照射電子線発生部を構成する電子銃101から放出された照射電子線100aは、コンデンサレンズ102によって収束されながら、E×B偏向器103により偏向されて、試料104上に略平行束となって照射される。図中ではコンデンサレンズ102は1つの電子レンズとして描かれているが、より光学条件を最適化するために複数の電子レンズを組み合わせたシステムであっても良い。電子銃101には通常Zr/O/W型のショットキー電子源が用いられるが、大電流用にLaB6などの電子源を用いても良い。電子銃101への引出電圧、引き出された電子線への加速電圧、および電子源フィラメントの加熱電流などの、運転に必要な電圧と電流は電子銃制御部105により供給、制御されている。
【0021】
E×B偏向器103によって試料104に垂直な軸に沿うように偏向された照射電子線100aは、対物レンズ106により試料104表面に対し垂直な方向に入射する面状の電子線に形成される。対物レンズ106は、静電レンズや磁界レンズで構成される電子レンズである。照射電子線100aは、照射系コンデンサレンズ102により対物レンズ106焦点面上に収束されるので、平行性の良い電子線を試料104に照射できる。照射電子線100aが照射する試料104上の領域は、差し渡し100μm程度の広い面積を持つ。
【0022】
試料ステージ107に搭載された被検査試料104には、電子線の加速電圧に近い負電位が印加されている。照射電子線100aは、試料104表面あるいはその近傍で反射し、この負電位によって上方に引き戻され反射電子100bとなる。試料104に印加される電圧の供給と制御は、試料電圧制御部108が行う。試料ステージ107は駆動機構109によって駆動され、試料ステージ107の駆動信号の出力や駆動機構109からのステージ位置座標の入力はステージ駆動制御部110が行なう。なお、この駆動機構109とステージ駆動制御部110を併せて駆動部と呼ぶ場合がある。
【0023】
試料近傍で反射した反射電子100bは、対物レンズ106により収束作用を受け、E×B偏向器103は下方から進行した電子線に対しては偏向作用を持たないように制御されているので、そのまま垂直に上昇し、結像系である電子レンズ111によってレンズ作用を受け、強度検出部として機能する検出器112に入射する。
【0024】
本実施例においては、検出器112は特許文献2〜4に開示されているような画像検出素子ではなく、入射した電子線の総和が作る信号のみを出力するような、検出素子(例えばマイクロチャンネルプレートなど)である。電子線の強度を直接計測する場合もあるが、蛍光板を介して一度光に変換してから光強度を計測して信号として出力してもよい。その場合の光強度の検出器としては光電子増倍管、半導体検出器などを用いることができる。検出器112からの信号を基に欠陥の有無の判定の動作は、欠陥判定部113が行なう。欠陥判定部113では、後で説明するように、信号比較部において予め設定しておいた信号強度(閾値)と検出器112からの出力信号強度との大小を比較して欠陥の有無を判定し、判定信号出力部より判定結果信号を検査装置制御部114に出力する。また、検出器112からの時系列的な信号データは記憶部に保存され、後の欠陥分布解析などに使用することができる。データは検出器112からの信号と時間の2値のみで情報量は小さいので、長時間の検査データを保存できる。
【0025】
図13に検出器112からの信号出力の時系列変化の例を示す。検出器112からは,検出器112に入射する電子の総数に比例した信号(積分強度)が,検査中は連続的に出力されている。図13では,予め設定された判定基準値(閾値)を超えた出力があったときに,欠陥が有ると判定し判定信号を検査装置制御部114に出力する。比較部はソフトウェア処理、或いは比較器等を用いたハードウェア構成とすることができる。
【0026】
検査装置制御部114は、判定信号が出力された時点での、ステージ駆動制御部110からの試料ステージ107の位置情報を記憶し、試料表面上の欠陥分布を入出力装置115に出力する。また、検査装置制御部114は、電子線発生時の加速電圧、電子線偏向幅・偏向速度、試料ステージ移動速度、検出器信号の取り込みタイミング等々の諸条件をもとに、各制御部を制御している。またこれら検査装置動作に必要な諸条件は入出力装置115を介して入力される。入出力装置115は、ユーザーとのインターフェースとなる。検査装置制御部114は、入出力装置115と一体化される場合もあるし、役割を分担し通信回線で結合された複数の計算機から構成される場合もある。
【0027】
本実施例において、検出器112からの信号が、試料表面の異物などの欠陥の有無に関する情報を有していることを、図2を用いて説明する。図は反射電子100bが対物レンズ106と電子レンズ111によって、どのような作用を受けるかを説明している。図2では試料104表面上の電子線が照射される領域内の(1)、(2)、(3)の各3点から、試料104に垂直な方向をもつ反射電子100bC、これに対し図中右方向に傾いた方向をもつ反射電子100bR、左方向に傾いた方向を持つ反射電子100bLの各3本の反射電子が対物レンズ106へと向かっている。反射電子100bCについては点線で、反射電子100bRは太線で、反射電子100bLは細線で示している。
【0028】
対物レンズ106は各反射電子にレンズ作用を与え、対物レンズの回折像面(後焦点面)に反射電子の出射方向にのみ依存した像(回折像)を形成する。すなわち、点線で表した試料104に垂直に出た反射電子100bCは、回折像面(後焦点面)上中心に集束し、右側方向に出射した反射電子100bRは、回折像面(後焦点面)では右側に、左側方向に出射した反射電子100bLは、回折像面(後焦点面)では左側に、おのおの集束する。原理的には、対物レンズの回折像面(後焦点面)で電子光学的光軸上に収束する反射電子100bCを排除すれば、後焦点面(回折像面)を通過する反射電子は、全て異物または欠陥の存在により散乱された反射電子のみとなる。厳密には、試料104へ平行に電子線を照射するように、回折像面(後焦点面)上の光軸の中心に照射電子線を収束するので、この位置に電子線を透過しない物体を配置できないが、照射の平行度にある程度尤度が許される場合には、照射電子線の収束を回折像面(後焦点面)からずらすことも可能なので、電子線遮蔽物の回折像面(後焦点面)上光軸中心への配置は可能である。しかしながら、最も簡単な方法は、照射電子線と反射電子線とを分離するE×B偏向器103より後ろに存在する選択面に、電子レンズ111で回折像面上の像を投影する方法である。
【0029】
上述のように、試料表面104上に全く異物などの欠陥が無ければ、全ての反射電子は垂直に反射され、反射電子100bCとなる。この反射電子100bCが選択面上に収束する位置に遮蔽物117を設置して、検出器112に入射しないようにしておく。こうしておけば、欠陥の無い表面では常に信号は、ノイズ成分以外は、ゼロとなる。しかしながら、電子線を照射した領域の中のどこかに欠陥がある場合、反射電子は試料に垂直に跳ね返されることは無く、反射電子100bRおよび100bLのように欠陥の位置で出射角度が変化する。その場合、選択面においては、遮蔽物117が遮蔽する領域以外に収束し検出器112に出力が生ずる。すなわち、電子線の照射領域内(例えば差し渡し数十ミクロンなどの領域)に欠陥が存在することを判定できる。
【0030】
なお、遮蔽物117には反射された殆どの電子が衝突するため、コンタミネーションによる帯電の影響により、遮蔽が正しくできなくなる可能性がある。従って遮蔽物117にはコンタミネーション付着を予防する処理あるいは機構が加えられている。例えば使用中は常時加熱するなどである。
【0031】
図1において、遮蔽物117は、検出器112の前に設置されており、電子光学系光軸上に設置できるように駆動機構116によってその位置を調整できるようになっている。駆動機構116は制御部118によって制御されており、設置位置の調整時においては、検査装置制御部114が制御部118を制御する。
【0032】
本実施例によれば、反射電子の電子画像を画像処理することなく、異物や欠陥の有無を判別できるので、従来の電子線を用いた検査装置の高感度性を持ちつつ、より高速に試料を検査できる。
【0033】
続いて上述した遮蔽部、すなわち遮蔽物117の具体的構成と回折像と遮蔽物117の動作を、説明する。
【0034】
図3は、2種類の検査対象に対する、異物や欠陥の無い場合の回折像を模式的に表した図である。図2に示されているように、理想的に平坦な表面において完全な平行束の電子線が照射された場合は、欠陥が無い場合回折像面(後焦点面)に1点に収束する。しかし、実際の試料は完全には平坦ではなく、また、電子光学的な要因により、照射される電子線束は完全には平行ではない。図3(a)のように、表面が完全に平坦とみなせて欠陥が無い場合でも、照射電子線束の平行性からの乱れにより回折像面(後焦点面)では反射電子線はある広がりを伴ったスポット119となる。また、さらに試料表面に一定の粗さがある場合、異物が無くても図3(b)のように回折像面(後焦点面)での電子線のスポット119は広がる。
【0035】
上記の事情から、電子線の光学条件や試料の表面状態により、遮蔽すべき回折像面(後焦点面)上の電子の広がりは異なってくる。そこで、遮蔽物117は、適宜適切な面積を遮蔽できるような構造であることが求められる。
【0036】
図4に反射電子線遮蔽物117と遮蔽物駆動装置118の具体例の詳細を示す。反射電子線の遮蔽は、異物や欠陥の無い場合に生じる電子線スポットのみを遮蔽する必要がある。反射電子収束スポットの位置は図4に記載されているように、電子光学系の軸上であるが、実際には電子光学系の調整によりその位置は変動する。従って遮蔽物117の先端に設置された遮蔽ヘッド120を丁度良い位置に配置するには、遮蔽物駆動装置118は電子光学系光軸に垂直な平面内を微細に移動する機能を有している。
【0037】
図5に遮蔽ヘッド120の例を、反射電子収束スポットとともに示す。上述のように、試料の表面状態によって遮蔽すべき反射電子スポットの大きさは変動するため、遮蔽部分の面積を変えられる構成でなければならない。図5(a)と(b)は、いずれも検出器側から電子光学系光軸に沿って見下ろしたときの遮蔽ヘッド形状を示し、先端の幅を変化させた形状である。図5(a)では、遮蔽ヘッドの挿入距離を変えることにより、遮蔽面積を連続的に変化させることができる。しかし、遮蔽面積が反射電子の集束スポットに比べ大きくなる。検査の対象が決まっており、反射電子の集束スポットの大きさも数種類に限られる場合は、幅を数段変化させた遮蔽物を用いると、遮蔽物の位置の設定が容易である(図5(b))遮蔽ヘッド120の挿入位置も段階的に決めればよく、安定的に設置できる。あるいは、図5(c)に図示したように、遮蔽物を一定の幅の板とし、板の中心軸を中心として回転させる機構を追加すれば、回転角度によって電子光学系光軸に沿って見下ろしたときの板の実効幅が変化し、任意の大きさのスポットに対応して遮蔽面積を変化させることができる。
【0038】
このような構造を用いることにより、検査対象の試料の表面状態に応じて変化する反射電子の集束スポットの大きさに対応して、遮蔽物を設置できる。
【実施例2】
【0039】
次に、図6を用いて第2の実施例を説明する。
【0040】
本実施例では、図6に示したように、反射電子の結像系である電子レンズ111の後段にさらに電子レンズ121を設置し、遮蔽物117が設置される遮蔽位置における反射電子の集束スポットの大きさを、電子レンズ121の動作条件を調整することによって変化させる構成をとる。図6には電子レンズ121は1個として図示してあるが、複数の電子レンズを組み合わせた電子レンズ形でも良い。この様にすれば、遮蔽物117の大きさを変える必要がない。すなわち、試料の表面粗さが大きい場合は、電子レンズ121の条件を縮小条件に設定し、逆の場合は拡大条件に設定する。
【0041】
この様に構成することにより遮蔽物117の遮蔽ヘッド120の形状は、図7(a)に示すように、一定の面積をもつ円盤(あるいは球)とすることができるし、また、図7(b)のように、板122に十分大きな開口123を設け、開口部の中心に円盤又は球形の遮蔽物124を支持材125で保持したような形状とすることができる。遮蔽物ヘッドの電子線遮蔽部分の断面形状を円形にしたことで、異物や欠陥の存在によって偏向された電子線を遮蔽することなく、効率的に中心部分のみ遮蔽できる。
【0042】
また、本実施例では、偏向器126が設置されており、遮蔽物117の位置を微細に調整することなく、反射電子集束スポットの位置を偏向器126で移動させて、遮蔽されるように調整できる。
【0043】
本実施例によれば、電子光学条件の調整のみによって、反射電子集束スポットの遮蔽が効率よく行うことができる。
【0044】
続いて、上述した各実施例の欠陥判定部113、検査装置制御部114の動作の流れと検査結果の表示の一例を図8、図9を用いて説明する。
【0045】
図8に検査装置の動作フローチャートを示した。まず、検査の対象となる試料と同じ材質で、異物や欠陥の無い部分を持つ、調整用試料を装置に入れる(1)。次にこの試料を用いて反射電子収束スポットを適切に遮蔽する調整を行う(2)。具体的には、例えば、異物や欠陥の無い場所で電子線を導入して検出器の信号をモニタし、この信号がゼロあるいは既知のノイズ強度レベルに下がるまで、遮蔽物117の位置や大きさを調整するか、あるいは、電子光学系の条件を調整する。次に、検査条件の設定を行う(3)。検査動作は試料を移動しながら行うが、その移動速度によって決まる、検査視野あたりの測定時間を決定し、その条件下の異物や欠陥の無い場合の検出器のノイズレベルを決定する。欠陥判定の信号レベルは、ここで決めたノイズレベルを少し超えたレベルとする。これらの検査前の調整は、検査装置制御部114が自動で行うように、プログラムされていても良い。以上で検査の準備が終わったので、検査したい試料と調整用試料とを入れ替え、検査を開始する。
【0046】
検査が終了すると、先に決定した異物・欠陥判定のための信号レベルを超えた出力があった試料の位置座標を、例えば、図9にその一例を示すように入出力装置115の画面上に表示する。この位置座標は、厳密には実際に欠陥が存在する位置ではなく、欠陥が存在することが判定された電子線照射領域の位置を示しているだけであり、電子線照射領域の広さの不確定性がある。しかし,電子線照射領域は数10ミクロンなどの広さであり、試料表面全体の欠陥存在分布などを知るためには、十分な位置精度である。
【0047】
図9では、結果表示部127にディスク状の試料の表面を模した図が表示され、異物あるいは欠陥が検出された位置に相当する場所に×印で表示されている。具体的な座標の値については、座標表示部に表示される。異物あるいは欠陥の位置座標だけでなく、判定レベルからの信号強度の差を基に分類した結果を表示しても良い。また、その結果に基づいて、結果表示部の×印の色を変えても良い。そのようにすれば、ユーザーはどのような異物や欠陥が試料上に存在するかを一目で把握できる。
【0048】
ユーザーは予め決めた製品自体の良否判定基準(例えば、検出された欠陥の数など)をもとに、良否判定結果を表示部129に表示する。
【0049】
一つの試料の検査が終了すると、特にユーザーの指示が無い場合は、次の試料に交換して検査を続行する。再度光学系の調整が必要になる、一つのロットが終了する、などの理由により検査動作を終了するときは、終了ボタンを押す。試料が装置から排出され検査を終了する。
【0050】
続いて、上述した各実施例の照射電子線発生部の変形例として、さらに高感度の検査ができる構成を示す。前述したように、反射電子の回折像面(後焦点面)に形成されるスポットの大きさは、試料の表面粗さだけではなく、照射している電子線の平行度にも依存している。試料に照射される電子線束が平行になればなるほど、回折像面(後焦点面)における集束スポットは小さくなり、その分、異物や欠陥によって偏向された反射電子の回折像面(後焦点面)上における位置の差は大きくなり、より小さな異物や欠陥を分離検出できる。
【0051】
照射電子線の平行度を向上させる方法として、照射電子線のエネルギー幅を小さくすることがあげられる。電子光学的に色収差が小さくなるため、照射電子線の平行度が上がる。照射電子線のエネルギー幅を最も小さくするためには、電子源にタングステン冷陰極電子源を用いればよい。しかしながら、この電子源は、長時間にわたって安定して電子線を発生することができず、フラッシングと呼ばれる加熱動作を頻繁に繰り返す必要があり、検査装置への適用は行われなかった。
【0052】
そこで、ここでは、2個または複数のタングステン冷陰極電子源を搭載している。図10に照射電子線発生部の概略構成を示す。図は2個のタングステン冷陰極を搭載した場合の電子銃の主な構成を示している。2個のタングステン冷陰極は、検査装置の照射光学系光軸に向かって対向して搭載されている。偏向器130の条件により、どちらの電子源からの電子線を照射光学系光軸に導入するかを選択できる。
【0053】
この様な構成の電子銃を用いた動作では、まず冷陰極電子源1をある一定時間使用する。その間に冷陰極電子源2はフラッシングを済ませておき、いつでも電子線が供給できるように準備しておく。一定時間後、冷陰極電子源1と2とを入れ替え、冷陰極電子源2を使用中に冷陰極電子源1のフラッシングを済ませておく。以下これを繰り返せば、エネルギー幅の小さい電子線を安定に用いることができる。冷陰極電子源を3個以上用いる場合も同様である。
【0054】
本構成によれば、より高感度の検査を行うことができる。
【実施例3】
【0055】
次に、図11を用いて第3の実施例を説明する。
【0056】
実施例3では、検出器112の代わりに、位置敏感性を持つ2次元検出器を用いて、遮蔽物117の設置を不要とする構成を示す。図11に本実施例の構成を示す。本実施例では、検出器112の代わりに2次元検出器131を反射電子線の検出器として搭載した。2次元検出器131は、2次元検出器制御部132により制御される。さらに、遮蔽物117、遮蔽物駆動装置116、遮蔽物駆動制御部118を廃した。
【0057】
本実施例を用いた、異物あるいは欠陥判定方法を図12に示す。2次元検出器131は位置敏感性を持つので、その検出面は2次元的に配列した検出素子133で構成されている。この検出面に反射電子の集束スポット119が形成されるが、この集束スポットが存在する検出素子(図中太枠で示した)からの信号を出力せずに、他の検出素子からの信号の積分値、即ち総和に比例した信号強度を出力するようにすれば、電気的にこのスポットを遮蔽することができる。どの部分の検出素子からの信号を無視するかは、2次元検出器制御部132を通してユーザーの検査装置動作前の調整時に行う。
【0058】
本実施例によれば、電気的に容易に異物や欠陥からの反射電子の強度のみを選択することができ、調整が容易かつ安定な動作が可能となる。
【実施例4】
【0059】
続いて、第4の実施例を図14により説明する。
【0060】
以上説明してきた各実施例では、試料表面にほぼ垂直に反射される電子線を遮蔽し、異物や欠陥で散乱された電子線の積分強度をモニタすることによって、試料上の異物や欠陥の有無を判定していた。その際、照射電子線の大部分が遮蔽物に衝突することになり、遮蔽物の汚れや帯電その他の電子線による経時劣化を受けやすい。そこで、本実施例は、図14(a)に示すように、遮蔽物ヘッド120の替わりに、小さな開口134が設けられた金属板などの遮蔽物140を設置する。この開口の大きさを調整することにより、異物や欠陥で散乱されなかった電子のみを通過させ、散乱された電子のみを遮蔽することができる。照射電子線の総量は一定なので、異物や欠陥が存在する場合には照射電子は散乱され開口134を通過できなくなり、検出器112の出力が減少する。その際の検出器112の出力の時系列変化の例を図14(b)にしめした。出力信号がある一定の値を下回った時に、欠陥や異物が存在すると判定する。
【0061】
生産ラインが正常に稼動していれば、異物や欠陥は試料上に多くないので、遮蔽物ヘッドに衝突する電子は殆どないことになり、電子線照射による劣化を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】第1の実施例の基本構成を説明する図である。
【図2】第1の実施例の欠陥検出原理を説明する図である。
【図3】第1の実施例の回折像面(後焦点面)での電子線の広がりを示す図である。
【図4】第1の実施例の反射電子線遮蔽物を説明する図である。
【図5】第1の実施例の反射電子遮蔽物先端形状の例を示す図である。
【図6】第2の実施例を説明する構成図である。
【図7】第2の実施例の反射電子遮蔽物先端形状の例を示す図である。
【図8】各実施例における主な動作フローチャートを示す図である。
【図9】各実施例における、検査装置の検査結果表示を説明する図である。
【図10】各実施例におけるタングステン冷陰極を用いた電子銃を説明する図である。
【図11】第3の実施例を説明する構成図である。
【図12】第3の実施例の2次元検出器を用いた場合の欠陥判定を説明する図である。
【図13】第3の実施例における、検出器信号を用いた欠陥判定を説明する図である。
【図14】第4の実施例を説明する図である。
【符号の説明】
【0063】
100a…電子線、100b、100bC、100bR、100bL…反射電子、101…電子銃,102…コンデンサレンズ,103…E×B偏向器,104…試料,105…電子銃制御部,106…対物レンズ,107…試料ステージ,108…試料電圧制御部,109…ステージ駆動装置,110…ステージ駆動制御部,111…電子レンズ,112…検出器,113…欠陥判定部,114…検査装置制御部,115…入出力装置,116…遮蔽物駆動装置,117…遮蔽物,118…遮蔽物駆動制御部,100ba…反射電子、 100bb…反射電子、100bc…反射電子、119…回折像面(後焦点面)上の反射電子収束スポット、120…遮蔽ヘッド、121…電子レンズ、122…板、123…開口、124…遮蔽物、125…支持材、126…偏向器、127…結果表示部、128…座標表示部、129…表示部、130…偏向器、131…2次元検出器、132…2次元検出器制御部、133…検出素子、134…開口、140…遮蔽物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に電子線を照射し、得られる反射電子を用いて前記試料を検査する検査方法であって、
電子光学系により前記電子線を略平行束にして前記試料に照射する工程と,
前記試料に電圧を印加する工程と、
前記試料からの前記反射電子を結像する工程と、
前記電子線が結像する面より試料側で前記反射電子の一部を遮蔽する工程と,
遮蔽されない前記反射電子に対応する信号強度を測定する工程と、
前記試料を移動させる工程と、
各試料移動位置における前記信号強度を前記移動位置と関連付けて表示する工程を有する、
ことを特徴とする検査方法。
【請求項2】
請求項1記載の検査方法であって、
前記結像する工程において、前記反射電子を電子レンズで結像し、
前記遮蔽する工程において、前記反射電子を遮蔽する位置が前記電子レンズの後焦点面である、
ことを特徴とする検査方法。
【請求項3】
請求項1記載の検査方法であって、
前記結像する工程において、前記反射電子を複数の電子レンズで結像し、前記複数の電子レンズの一つがその後焦点面に形成した像を、前記複数の電子レンズの他の少なくとも一つで拡大し、
前記遮蔽する工程において、前記反射電子を遮蔽する位置が当該拡大像を形成する位置である、
ことを特徴とする検査方法。
【請求項4】
請求項1記載の検査方法であって、
前記反射電子を構成する主たる電子が、前記試料に印加された電圧のために試料表面に到達することなく反転させられた電子である、
ことを特徴とする検査方法。
【請求項5】
請求項1記載の検査方法であって、
前記遮蔽する工程において、前記電子光学系の中心軸上を中心とする所定範囲に存在する前記反射電子を遮蔽する、
ことを特徴とする検査方法。
【請求項6】
請求項5記載の検査方法であって、
前記反射電子を遮蔽する面積が可変である、
ことを特徴とする検査方法。
【請求項7】
請求項5記載の検査方法であって、
前記反射電子を遮蔽する位置における前記反射電子の分布を、予め電子レンズを用いて拡大あるいは縮小する工程を有する、
ことを特徴とする検査方法。
【請求項8】
試料に電子線を照射し、得られる反射電子を用いて前記試料を検査する検査装置であって、
照射電子線を発生させる照射電子線発生部と、
前記照射電子線を前記試料に略平行束として照射する電子光学系と,
前記試料に電圧を印加する試料電圧制御部と、
試料表面で反射された反射電子を結像する結像系と,
前記反射電子の信号強度を取得する強度検出部と,
前記強度検出部と前記結像系との間に設置され、前記反射電子の一部を遮蔽する遮蔽部と、
前記試料を前記照射電子線に対して移動させる駆動部と、
前記試料の位置情報と検出した前記信号強度とを関連付けて表示する表示部と、
を備えることを特徴とする検査装置。
【請求項9】
請求項8記載の検査装置であって、
前記試料電圧制御部は、
前記試料に負の電圧を印加することによって前記照射電子線の一部が試料表面に到達する直前に反射させる、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項10】
請求項8記載の検査装置であって、
前記結像系は、複数の電子レンズから構成されている、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項11】
請求項10記載の検査装置であって、
前記遮蔽部は、前記反射電子を遮蔽する領域の広さを調整可能である、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項12】
請求項10記載の検査装置であって、
前記遮蔽部で遮蔽される前記反射電子の量を調整するために、
前記複数の電子レンズの拡大率あるいは縮小率を制御する制御部を備えた、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項13】
請求項8記載の検査装置であって、
前記照射電子線発生部が、複数の電子源と、前記複数の電子源各々からの電子を選択するための偏向器とからなる、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項14】
請求項13記載の検査装置であって、
前記複数の電子源がタングステン冷陰極電子源である、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項15】
請求項8記載の検査装置であって、
前記強度検出部が、複数の検出素子が2次元上に配列された2次元検出器と、前記検出素子各々からの出力を選択する2次元検出器制御部を備えた、
ことを特徴とする検査装置。
【請求項16】
請求項8記載の検査装置であって、
前記遮蔽部は、前記試料上の欠陥等で散乱された電子を遮蔽する遮蔽物である、ことを特徴とする検査装置。
【請求項17】
請求項16記載の検査装置であって、
前記遮蔽物は、その大きさを調整可能な開口を有する、
ことを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−294022(P2009−294022A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146715(P2008−146715)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】