説明

検査線発生装置並びに非破壊検査装置及び方法

【課題】コンクリート構造物の内部状態を効率良く非破壊検査する検査線発生装置を提供する。
【解決手段】フェムト秒レーザパルスを発生するフェムト秒レーザ発生装置1aと、該フェムト秒レーザ発生装置1aから入射したフェムト秒レーザパルスを第1の方向あるいは第2の方向に択一的に出射する可動ミラー1bと、該可動ミラー1bによって第1の方向に出射したフェムト秒レーザパルスをテラヘルツ光に変換し、検査線として外部に出射する光伝導アンテナ1jと、上記可動ミラー1bによって第2の方向に出射したフェムト秒レーザパルスに基づいて所定元素のイオン線を発生するイオン線発生器1nと、該電子線発生器1nから入射したイオン線に基づいて中性子線を発生し、検査線として外部に出射する中性子線発生器1sとを具備する検査線発生装置により、効率的な非破壊検査が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査線発生装置並びに非破壊検査装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1にはPC鋼材のグラウト欠陥を検査する装置(グラウト欠陥検査装置)が開示されている。このグラウト欠陥検査装置は、中性子線の散乱状態がコンクリートの構成物質(骨材や鉄等)とグラウト欠陥のある空洞部分とで異なることを利用するものであり、中性子線がコンクリート構造物を透過して得られる熱中性子を検知することによりグラウト欠陥を判別するものである。すなわち、このグラウト欠陥検査装置は、中性子線源と反対側で検出される熱中性子の線量に基づいてPC鋼材中のグラウト欠陥を判別する。
なお、中性子線を用いる非破壊検査技術として、このような特許文献1の技術の他に特許文献2に示す3次元動体可視化計測装置及び方法があるが、この3次元動体可視化計測装置及び方法も中性子の散乱現象を利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−041908号公報
【特許文献2】特開2007−333663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記グラウト欠陥検査装置は、中性子線を用いた非破壊検査装置の一種であるが、中性子線の散乱状態がコンクリートの構成物質(骨材や鉄等)とグラウト欠陥のある空洞部分とで異なることを利用するものなので、コンクリートの構成物質である鉄筋の状態を非破壊検査することはできない。
【0005】
また、中性子線を用いた非破壊検査は検査時間が比較的長いので、コンクリート構造物の複数個所について非破壊検査しようとした場合に作業効率が悪いという問題がある。例えば、高速道路の高架橋は典型的なコンクリート構造物であるが、長距離に亘るコンクリート構造物であるために、膨大な要検査箇所があり、このような高架橋を中性子線を用いて非破壊検査使用とした場合には、膨大な時間が掛かるので、中性子線を用いた効率の良い非破壊検査手法の開発が切望される。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、コンクリート構造物の内部状態を効率良く非破壊検査することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、検査線発生装置に係る第1の解決部として、フェムト秒のパルス幅を有するフェムト秒レーザパルスを発生するフェムト秒レーザ発生装置と、該フェムト秒レーザ発生装置から入射したフェムト秒レーザパルスを第1の方向あるいは第2の方向に択一的に出射する可変出射手段と、該可変出射手段によって第1の方向に出射したフェムト秒レーザパルスをテラヘルツ光に変換し、検査線として外部に出射する光変換手段と、可変出射手段によって第2の方向に出射したフェムト秒レーザパルスに基づいて所定元素のイオン線を発生するイオン線発生器と、該イオン線発生器から入射したイオン線に基づいて中性子線を発生し、検査線として外部に出射する中性子線発生器とを具備する、という手段を採用する。
【0008】
検査線発生装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、テラヘルツ光の出射軸と中性子線の出射軸とを同軸化する同軸化手段をさらに備える、という手段を採用する。
【0009】
検査線発生装置に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、同軸化手段は、テラヘルツ光を複数の反射板で反射することによりラヘルツ光の出射軸を中性子線の出射軸に同軸化する、という手段を採用する。
【0010】
検査線発生装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、光変換手段は、フェムト秒レーザパルスをテラヘルツ光に変換することなくガイド光として通過させる選択機能を備える、という手段を採用する。
【0011】
また、本発明では、非破壊検査装置に係る第1の解決手段として、上記第1〜第4のいずれかの解決手段の検査線発生装置と、該検査線発生装置から供給されたテラヘルツ光あるいは中性子線を検査対象物に対して走査状に照射する照射手段と、テラヘルツ光が検査対象物によって反射して得られる反射光あるいは中性子線が検査対象物によって回折されて得られる回折中性子線を照射部の走査位置に応じて検出する検出手段と、該検出手段から入力される反射光あるいは回折中性子線の検出信号のうち、反射光の検出信号に基づいて検査対象物の走査位置における表面状態を判定し、回折中性子線の検出信号に基づいて検査対象物の走査位置における物質の格子定数を算出するデータ処理手段と、各走査位置における検査対象物の表面状態あるいは物質の格子定数に基づいて検査対象物の表面状態あるいは内部状態を可視化する可視化手段とを具備する、という手段を採用する。
【0012】
さらに、本発明では、非破壊検査方法に係る第1の解決手段として、テラヘルツ光を用いて検査対象物の表面状態を非破壊検査する光検査工程と、該光検査工程の検査結果に基づいて損傷の疑いがあると認定された箇所に中性子線を走査状に照射し、該中性子線が検査対象物で回折して得られる回折中性子線を検出することにより、検査対象物の各走査位置における物質の格子定数を算出する中性子検査工程と、該中性子検査工程で得られた物質の格子定数に基づいて検査対象物の内部状態を可視化する可視化工程とを有する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る検査線発生装置によれば、単一の線源であるフェムト秒レーザパルスを用いて異なる2つの検査線、つまりテラヘルツ光あるいは中性子線を検査線として発生するので、2つの検査線を個別の発生装置で発生させて非破壊検査装置を構成する場合に比較して、非破壊検査装置の装置構成をコンパクトにすることが可能である。したがって、本検査線発生装置によれば、取り扱い性が良い非破壊検査装置を構成することができるので、コンクリート構造物の内部状態を効率良く非破壊検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド検査線発生装置1の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るコンクリート検査装置Aの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係るハイブリッド検査線発生装置1は、図1に示すように、フェムト秒レーザ発生装置1a、可動ミラー1b(可変出射手段)、固定ミラー1c〜1f、中性子導管1g、シャッタ1h、1i、光伝導アンテナ1j(光変換手段)、光増幅器1k、集光レンズ1m、イオン線発生器1n、偏向磁石1r及び中性子線発生器1sによって構成されている。なお、固定ミラー1c〜1e及びシャッタ1h、1iは、同軸化手段を構成している。
【0016】
詳細は後述するが、ハイブリッド検査線発生装置1には2つの動作モードがある。第1の動作モードは、テラヘルツ光を検査線として外部に出射する光出射モードであり、第2の動作モードは中性子パルスを検査線として外部に出射する中性子出射モードである。図1は、ハイブリッド検査線発生装置1が光出射モードの状態を示しており、この状態から固定ミラー1e及びシャッタ1h、1iが移動して光路から除去されることにより動作モードが光出射モードから中性子出射モードに切り替えられる。
【0017】
上記テラヘルツ光は、コンクリートに対する透過性能が中性子パルスよりも弱いので、検査対象物であるコンクリート構造物の表面状態(より正確には表面近傍)を検査することが可能な検査線である。これに対して、中性子パルスは、X線に比べるとコンクリートに対する透過性能が高く、例えば10cm程度の深さまで透過するので、コンクリート構造物の内部状態を検査することが可能な検査線である。一方、コンクリートの診断においては、鉄筋付近の腐食状況を評価することが重要であるが、鉄筋は表面から高々10cmの深さに位置するため、中性子線による非破壊検査が現実的である。
【0018】
フェムト秒レーザ発生装置1aは、フェムト秒(10−15秒)オーダー、例えば数フェムト秒〜数百フェムト秒のパルス幅を有するフェムト秒レーザパルスを発生するレーザ発生装置である。上記フェムト秒レーザパルスは、周知のように短時間に光エネルギーが圧縮されているので、極めて強い強度のレーザ光である。フェムト秒レーザ発生装置1aは、自らが発生したフェムト秒レーザパルスを可動ミラー1bに向けて出射する。
【0019】
可動ミラー1bは、上記フェムト秒レーザ発生装置1aから入射したフェムト秒レーザパルスを第1の方向あるいは第2の方向に択一的に出射する可変出射手段である。この可動ミラー1bは、例えば円形平板状の反射鏡であり、中心軸線の延長線上に設けられた回転軸周りに回動することにより、フェムト秒レーザ発生装置1aから入射したフェムト秒レーザパルスを入射方向に対して直交する方向である固定ミラー1cの方向(第1の方向)あるいは当該第1の方向とは反対方向である固定ミラー1fの方向(第2の方向)に反射する。
【0020】
固定ミラー1cは、上記可動ミラー1bから入射したフェムト秒レーザパルスを固定ミラー1dに向けて反射する反射鏡である。固定ミラー1dは、上記固定ミラー1cから入射したフェムト秒レーザパルスを固定ミラー1eに向けて反射する反射鏡である。固定ミラー1eは、上記可動ミラー1cから入射したフェムト秒レーザパルスをシャッタ1hの開口中心に向けて反射する反射鏡である。この固定ミラー1eは、光出射モードでは、図1に示すように中性子線発生器1sとシャッタ1hとの間に設けられるが、中性子出射モードでは移動してテラヘルツ光の光路から除去される。固定ミラー1fは、可動ミラー1bから入射したフェムト秒レーザパルスを光増幅器1kの入力端に向けて反射する反射鏡である。
【0021】
中性子導管1gは、中性子線発生器1sから入射する中性子線を通過させる通路である。この中性子導管1gは、中性子が光と同様に微小な入射角度では全反射する原理を応用したものであり、例えば表面を研磨し高い平滑度を持ったガラス上にニッケルなど中性子に対して干渉性散乱断面積が大きく、吸収の小さい金属膜を所定厚に成膜してなる反射境を用いて中性子線を所望の方向に導く。このような中性子導管1gは、上述したように中性子線を導くためのものであり、固定ミラー1eによって反射されることによりシャッタ1hを通過して入射したフェムト秒レーザパルスを何の作用をも与えることなく通過させる。
【0022】
シャッタ1hは、このような中性子導管1gの入射端に設けられており、フェムト秒レーザパルスの通過をON/OFFするものである。シャッタ1iは、中性子導管1gの出射端に設けられており、上記シャッタ1hと同様に、フェムト秒レーザパルスの通過をON/OFFするものである。これらシャッタ1h,1iは、周知のロータリー型であり、フェムト秒レーザパルスが通過する開口が中心から同心円状に広がるタイプのものである。
【0023】
このようなシャッタ1h,1iは、開口中心が中性子導管1gの中心と一致するように、中性子導管1gの入射端及び出射端に設けられており、フェムト秒レーザパルスの光軸を中性子線発生器1sから中性子導管1gに入射する中性子パルスの中心線と一致させるためのものである。このようなシャッタ1h,1iは、光出射モードでは、図1に示すように中性子線発生器1sと中性子導管1gとの間に設けられるが、中性子出射モードでは上述した固定ミラー1eと同様に移動してテラヘルツ光の光路から除去される。
【0024】
光伝導アンテナ1jは、第1の方向に出射したフェムト秒レーザパルスをパルス状のテラヘルツ光に変換し、検査線として外部に出射する光変換手段である。この光伝導アンテナ1jは、平衡対峙すると共に所定のバイアス電圧が印加された2枚の電極間にフェムト秒レーザパルスを通過させることにより、当該フェムト秒レーザパルスをパルス状のテラヘルツ光に変換する。なお、フェムト秒レーザパルスをパルス状のテラヘルツ光に変換する光変換手段としては、光伝導アンテナ1j以外の方式のものであっても良い。
【0025】
光増幅器1kは、固定ミラー1fから入射したフェムト秒レーザパルスを光増幅するものであり、例えば光ファイバを用いた光増幅器あるいは半導体光増幅器である。この光増幅器1kは、光増幅したフェムト秒レーザパルスを集光レンズ1mの光軸に向けて出射する。集光レンズ1mは、イオン線発生器1n内に設けられたターゲットの表面で焦点を結ぶようにフェムト秒レーザパルスを集光させる凸レンズである。
【0026】
イオン線発生器1nは、上記光増幅器1kから入射したフェムト秒レーザパルスがターゲットに照射されることにより所定元素(水素HやヘリウムHe等)のイオン線(イオンパルス)を発生する。このイオン線発生器1nは、自らが発生したイオンパルスを中性子線発生器1sに向けて出射する。偏向磁石1rは、上記イオン線発生器1nと中性子線発生器1sとの間におけるイオンパルスの通過経路に設けられ、イオンパルスに磁界を作用させることにより偏向させる。すなわち、この偏向磁石1rは、中性子線発生器1s内に備えられたターゲットの所定位置に照射されるようにイオンパルスを偏向させる。
【0027】
中性子線発生器1sは、イオン線発生器1nから入射したイオンパルスが所定のターゲットに照射されることによりパルス状の熱中性子あるいは熱外中性子(中性子パルス)を発生するものである。この中性子線発生器1sは、自らが発生した中性子パルスを検査線として上記中性子導管1gの入射端に向けて出射する。
【0028】
次に、本実施形態に係るコンクリート検査装置Aについて、図2を参照して説明する。
本コンクリート検査装置Aは、図2に示すように、上述したハイブリッド検査線発生装置1、検査線照射部2(照射手段)、検査線検出部3(検出手段)及びデータ処理部4(データ処理手段、可視化手段)によって構成されている。
【0029】
このようなコンクリート検査装置Aは、ハイブリッド検査線発生装置1を光出射モードとする光検査モード(第1検査モード)とハイブリッド検査線発生装置1を中性子出射モードとする中性子検査モード(第2検査モード)との2つの動作モードを備える。
【0030】
すなわち、コンクリート検査装置Aは、光出射モード時にハイブリッド検査線発生装置1が検査線として発生するテラヘルツ光(パルス光)の反射、また中性子出射モード時にハイブリッド検査線発生装置1が検査線として発生する中性子パルスの回折を利用するものであり、テラヘルツ光によってコンクリート構造物(検査対象物)の表面状態を、また中性子パルスによってコンクリート構造物の内部状態をそれぞれ非破壊検査する。コンクリート構造物の内部状態とは、例えばコンクリート構造物を構成する複数の物質(骨材、鉄筋及びコンクリート等)の中の特定物質、例えば鉄筋の状態である。
【0031】
上記コンクリート構造物は、例えばコンクリート製の橋、ビル、タンクである。このようなコンクリート構造物として、例えば図示する高速道路用の高架橋R(道路橋)がある。高架橋Rは、床版r1及び当該床版r1を地上から数メートルの高さに支承する橋脚r2等から構成されたコンクリート構造物である。このような高架橋Rでは、床版r1の上に施工される道路に凍結防止剤や融雪剤等の散布材を撒くことが行われており、このような散布材の影響による床版r1の劣化、例えば床版r1内に埋設される鉄筋r3の腐食(サビの発生)が懸念される。
【0032】
ハイブリッド検査線発生装置1は上記テラヘルツ光あるいは中性子パルスを検査線照射部2に出射する。検査線照射部2は、上記ハイブリッド検査線発生装置1から入射したテラヘルツ光あるいは中性子パルスを床版r1の下面(平面)に対して所定の角度で照射する。また、検査線照射部2は、中性子パルスの出射タイミングt1を検出し、該出射タイミングt1を示す出射検出信号をデータ処理部4に出力する。例えば、検査線照射部2は、所定部材を中性子パルスが透過することによって発生するガンマ線(γ線)を捉えることにより中性子パルスの出射タイミングt1を検出する。
【0033】
検査線検出部3は、図示するように一定間隔で配列する複数(図1では一例として4個)の検出器から構成されている。検査線検出部3は、上記テラヘルツ光が床版r1で反射した反射テラヘルツ光を各検出器で受光すると共に、上記中性子パルスが床版r1で回折された回折中性子パルスを各検出器で検出する。また、この検査線検出部3は、反射テラヘルツ光の受光信号をデータ処理部4に出力すると共に、回折中性子パルスの検出タイミングt2を示す入射検出信号をデータ処理部4に出力する。
【0034】
データ処理部4は、上記反射テラヘルツ光の受光信号、検査線照射部2から入力される出射検出信号及び検査線検出部3から入力される入射検出信号に基づいて床版r1の表面状態及び内部状態を評価する。すなわち、データ処理部4は、受光信号に基づいて床版r1の表面状態を評価すると共に、出射検出信号及び入射検出信号に基づいて床版r1の内部状態を評価する。
【0035】
この内部状態の評価は、上記出射タイミングt1と入射タイミングt2との時間差ΔTを格子定数計算式に導入することにより、床版r1の各回折部位における物質の格子定数dをそれぞれ計算することによって行われる。上記格子定数計算式は、回折現象に関する周知のブラッグの式等に基づくものである。データ処理部4は、このようにして求めた各回折部位における格子定数dに基づいて床版r1の内部状態を2次元的に可視化した検査画像を生成する。
【0036】
次に、このようなコンクリート検査装置Aを用いた非破壊検査方法について詳しく説明する。
【0037】
上記コンクリート検査装置Aを用いた床版r1の非破壊検査では、コンクリート検査装置Aを光検査モードに設定した状態でテラヘルツ光を用いて床版r1の表面状態を非破壊検査する光検査工程と、この光検査工程の検査結果に基づいて損傷の疑いがあると認定された床版r1の箇所について、コンクリート検査装置Aを中性子検査モードに設定した状態で中性子パルスを照射して内部状態を非破壊検査する中性子検査工程とが行われる。そして、中性子検査工程が終了すると、コンクリート検査装置Aは、中性子検査工程で得られた検査結果(物質の格子定数)に基づいて床版r1の内部状態(鉄筋r3等の配置や腐食状態)を検査画像として可視化する可視化工程を行う。
【0038】
上記光検査工程において、検査作業者は、最初にコンクリート検査装置Aを光検査モードに設定する。この光検査モードでは、ハイブリッド検査線発生装置1が光出射モードに設定される。すなわち、ハイブリッド検査線発生装置1では、可動ミラー1bの回動状態がフェムト秒レーザ発生装置1aから入射したフェムト秒レーザを固定ミラー1cの方向(第1の方向)に反射するように設定され、この結果、テラヘルツ光が検査線として検査線照射部2に出射される。
【0039】
そして、検査線照射部2は、テラヘルツ光を検査線として床版r1の表面に走査状に照射する。この結果、テラヘルツ光の照射領域で反射した反射テラヘルツ光が検査線検出部3で順次受光される。そして、検査線検出部3は、上記反射テラヘルツの光受光信号をデータ処理部4に順次出力するので、床版r1の表面状態を示す光検査画像が検査結果としてデータ処理部4で生成される。
【0040】
検査作業者は、上記光検査工程でコンクリート検査装置A(データ処理部4)から出力された光検査画像から床版r1の表面における傷や変色等、損傷の疑いがある個所を確認する。そして、上記中性子検査工程において、検査作業者は、コンクリート検査装置Aを光検査モードから中性子検査モードに切り替えると共に、損傷の疑いがある個所が含まれる限定された領域に中性子パルスが照射されるように検査線照射部2の向きを調整する。
【0041】
そして、中性子検査モードでは、ハイブリッド検査線発生装置1が中性子出射モードに設定される。すなわち、ハイブリッド検査線発生装置1では、可動ミラー1bの回動状態がフェムト秒レーザ発生装置1aから入射したフェムト秒レーザを固定ミラー1fの方向(第2の方向)に反射するように設定され、この結果、中性子パルスが検査線として検査線照射部2に出射される。検査線照射部2は、中性子パルスを検査線として床版r1の損傷の疑いがある個所の近傍領域に走査状に照射する。この結果、中性子パルスの照射領域(床版r1の表面及び内部)で発生した回折中性子パルスが検査線検出部3で検出される。
【0042】
そして、データ処理部4は、検査線照射部2から入力される出射検出信号及び検査線検出部3から入力される入射検出信号に基づいて出射タイミングt1と入射タイミングt2との時間差ΔTを計算し、この時間差ΔTを格子定数計算式に導入することにより床版r1の各回折部位における物質の格子定数dをそれぞれ計算し、当該各回折部位の格子定数d(格子定数群)を中性子検査工程の検査結果として外部に出力する。
【0043】
さらに、データ処理部4は、上記格子定数d(格子定数群)に基づいて床版r1の内部状態を示す中性子検査画像を上記可視化工程の結果として生成する。なお、上記格子定数計算式は、周知のものなので詳細な説明を割愛するが、回折現象を示すブラッグの式に基づくものであり、当該ブラッグの式における中性子の波長を周知のドブロイの式によって与えると共に、当該ドブロイの式における中性子の運動量を時間差ΔTから幾何学的に求められる中性子の速度、また質量及び光速によって与えるものである。
【0044】
例えば、中性子パルスの照射領域内に鉄筋r3が存在する場合、当該鉄筋r3と周囲のセメントや骨材とは結晶構造が異なるので、鉄筋r3と周囲部分とでは格子定数dが当然に異なる。また、上記鉄筋r3が腐食して鉄筋r3の周囲にサビが発生している場合、このサビは、鉄の酸化物なので、鉄筋r3とは異なる結晶構造であり、よって格子定数dが鉄筋s1とは異なる。したがって、上記格子定数d(格子定数群)は、床版r1の内部状態を示す情報である。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド検査線発生装置1は、光出射モードと中性子出射モードとの2つの動作モードを備えている。すなわち、ハイブリッド検査線発生装置1は、動作モードに応じて可動ミラー1bの回動状態を切り替えることにより、テラヘルツ光あるいは中性子パルスを検査線として検査線照射部2に択一的に出射する。
【0046】
したがって、本実施形態に係るハイブリッド検査線発生装置1によれば、単一の線源であるフェムト秒レーザを用いて異なる2つの検査線を発生することができるので、2つの検査線を個別の発生装置で発生させる場合に比較してコンクリート検査装置Aの装置構成をコンパクトにすることが可能である。したがって、このハイブリッド検査線発生装置1によれば、コンクリート検査装置Aの取り扱い性が良いので、床版r1の内部状態を効率良く非破壊検査することができる。
【0047】
また、ハイブリッド検査線発生装置1によれば、2種類の検査線(テラヘルツ光及び中性子パルス)が同軸手段によって同一の出射軸になっているので、個別の出射軸に構成する場合に比較してコンクリート検査装置Aの取り扱い性が良好であり、よって床版r1の内部状態を効率良く非破壊検査することができる。
【0048】
また、このようなハイブリッド検査線発生装置1を備えるコンクリート検査装置Aによれば、光検査工程の後に中性子検査工程を行うことが可能であり、よって床版r1の下面全体を対象に中性子検査工程を行う場合よりも、床版r1の内部状態を効率良く非破壊検査することができる。
【0049】
また、このようなコンクリート検査装置Aを用いた非破壊検査方法によれば、光検査工程の後に中性子検査工程を行うので、損傷の疑いがある個所近傍のみについて光検査工程を行えば良く、よって床版r1の下面全体を対象に中性子検査工程を行う場合よりも、床版r1の内部状態を効率良く非破壊検査することができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、コンクリート構造物の1つである高架橋Rを検査対象物としたが、本発明はこれに限定されない。検査対象物は、テラヘルツ光を反射させると共に中性子を回折させる物体であれば、如何なるいかなる物体であっても良い。
【0051】
(2)上記コンクリート検査装置Aでは、テラヘルツ光あるいは中性子パルスを検査光として床版r1に照射するが、これら検査線は検査作業者が視認可能なものではない。このような検査状況に鑑みて、例えば光伝導アンテナ1jを構成する2枚の電極間に印加するバイアス電圧を一時的に印加停止することにより、光伝導アンテナ1jの機能を一時的に停止させ、以て検査作業者が視認可能なフェムト秒レーザをガイド光として検査線照射部2から床版r1に照射することにより、光検査工程あるいは/及び中性子検査工程において床版r1の表面上における検査線の照射位置を事前確認できるようにすることが考えられる。
【0052】
(3)上記ハイブリッド検査線発生装置1では、光伝導アンテナ1jを際後段に設けるようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、可動ミラー1b〜固定ミラー1c〜固定ミラー1d〜固定ミラー1fまでのフェムト秒レーザの光路のいずれかの位置あるいは固定ミラーeと中性子導管1gとの間に光伝導アンテナ1jを設けても良い。
【0053】
(4)上記ハイブリッド検査線発生装置1では、同軸化手段を固定ミラー1c〜1e及びシャッタ1h、1iによって構成したが、本発明はこれに限定されない。例えば固定ミラー1c,1dに代えて他の光導波路を採用しても良い。他の光導波路として、例えば光ファイバが考えられる。
【符号の説明】
【0054】
A…コンクリート検査装置(非破壊検査装置)、R…高架橋、r1…床版、r2…橋脚、r3…鉄筋、1…ハイブリッド検査線発生装置、1a…フェムト秒レーザ発生装置、1b…可動ミラー(可変出射手段)、1c〜1e…固定ミラー(同軸化手段)、1f…固定ミラー、1g…中性子導管、1h,1i…シャッタ(同軸化手段)、1j…光伝導アンテナ(光変換手段)、1k…光増幅器、1m…集光レンズ、1n…イオン線発生器、1r…偏向磁石、1s…中性子線発生器、2…検査線照射部(照射手段)、3…検査線検出部(検出手段)、4…データ処理部(データ処理手段、可視化手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェムト秒のパルス幅を有するフェムト秒レーザパルスを発生するフェムト秒レーザ発生装置と、
該フェムト秒レーザ発生装置から入射したフェムト秒レーザパルスを第1の方向あるいは第2の方向に択一的に出射する可変出射手段と、
該可変出射手段によって第1の方向に出射したフェムト秒レーザパルスをテラヘルツ光に変換し、検査線として外部に出射する光変換手段と、
可変出射手段によって第2の方向に出射したフェムト秒レーザパルスに基づいて所定元素のイオン線を発生するイオン線発生器と、
該イオン線発生器から入射したイオン線に基づいて中性子線を発生し、検査線として外部に出射する中性子線発生器と
を具備することを特徴とする検査線発生装置。
【請求項2】
テラヘルツ光の出射軸と中性子線の出射軸とを同軸化する同軸化手段をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の検査線発生装置。
【請求項3】
同軸化手段は、テラヘルツ光を複数の反射板で反射することによりラヘルツ光の出射軸を中性子線の出射軸に同軸化することを特徴とする請求項1または2記載の検査線発生装置。
【請求項4】
光変換手段は、フェムト秒レーザパルスをテラヘルツ光に変換することなくガイド光として通過させる選択機能を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の検査線発生装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の検査線発生装置と、
該検査線発生装置から供給されたテラヘルツ光あるいは中性子線を検査対象物に対して走査状に照射する照射手段と、
テラヘルツ光が検査対象物によって反射して得られる反射光あるいは中性子線が検査対象物によって回折されて得られる回折中性子線を照射部の走査位置に応じて検出する検出手段と、
該検出手段から入力される反射光あるいは回折中性子線の検出信号のうち、反射光の検出信号に基づいて検査対象物の走査位置における表面状態を判定し、回折中性子線の検出信号に基づいて検査対象物の走査位置における物質の格子定数を算出するデータ処理手段と、
各走査位置における検査対象物の表面状態あるいは物質の格子定数に基づいて検査対象物の表面状態あるいは内部状態を可視化する可視化手段と
を具備することを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項6】
テラヘルツ光を用いて検査対象物の表面状態を非破壊検査する光検査工程と、
該光検査工程の検査結果に基づいて損傷の疑いがあると認定された箇所に中性子線を走査状に照射し、該中性子線が検査対象物で回折して得られる回折中性子線を検出することにより、検査対象物の各走査位置における物質の格子定数を算出する中性子検査工程と、
該中性子検査工程で得られた物質の格子定数に基づいて検査対象物の内部状態を可視化する可視化工程と
を有することを特徴とする非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−185674(P2011−185674A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49526(P2010−49526)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】