説明

極低温用断熱材およびその製造方法

【課題】 LNGなどの極低温物質に使用できて、従来より断熱効果が大きく、かつ製作が容易な極低温用断熱材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 グラスウールを成型して得た板状の芯材3と、芯材を包む外皮材2で形成され、芯材は断熱材として使用するときの温度では固体状態になる充填ガスで内部まで置換したもので、外皮材はガスバリア性を有するラミネートフィルムにより形成されたもので、芯材を包んだ外皮材が形成する空間4には使用温度では固体状態になる充填ガスが充填されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器等の断熱材に関し、特に液化天然ガスなど極低温物質を保冷するために用いる極低温用断熱材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液化天然ガス(LNG)は、液化温度がほぼ−162℃と極低温であるため、輸送や貯蔵の間に蒸発ロスが生じ易い。蒸発ロスを低減するため、輸送タンクや貯蔵タンクには厳重に断熱材が施され、高い保冷性能を確保するようにされている。近年、LNGの需要拡大と輸送路の長大化に伴い、LNG輸送船やLNGタンクの大型化が進み、蒸発ロスの増大が生じて、断熱材の性能向上がますます要求されるようになってきた。
【0003】
従来、たとえば球形タンクを用いたMoss型LNG船では、ウレタンフォームやフェノールフォームなどの断熱パネルを使用しているが、これらの材料の断熱性能に基づく断熱材では、今後大幅な性能向上が期待できず、断熱性能向上の要求に応えるには、断熱厚みを増やすことになる。このため、コスト増、施工困難性の増大が問題とされていた。
【0004】
一方、家庭用冷蔵庫などの保冷に、簡易な真空断熱材が使用されるようになってきた。真空断熱材の断熱性能はポリウレタンフォームより1桁優れており、たとえば1/10の厚さで同じ断熱効果を発揮するので、断熱部容積を縮小して収納量を増大させることができる。
特許文献1には、家電製品や建築物に使用する断熱材として、無機粉末を充填し内部を減圧後密封して形成する真空断熱体が記載されている。
真空断熱材の使用温度が比較的高温であると外部侵入ガスおよび内部放出ガスが蓄積するため経時により断熱性能が劣化する。
【0005】
そこで、開示発明の真空断熱材は、ガスバリア性フィルムからなる外皮材で、無機質粉体を充填して形成した芯材とガス吸着剤を囲って、減圧封止することにより製造される。芯材には、非晶質シリカ、パーライト、珪酸カルシウムなどの無機質粉体を使い、13Pa以下に減圧して封止する。
ガス吸着剤には、常温から100℃で窒素、酸素、水、炭酸ガスなどをよく吸着する常温活性型のガス吸着剤を使う。100℃で6ヶ月エージングした後に熱伝導率を測定すると、ガス吸着剤のないものが30%悪化したのに対して、開示の真空断熱材ではガス吸着剤の作用で殆ど変化しなかったとされている。
しかし、耐用年数がせいぜい10年の家庭用冷蔵庫などに使用する場合はガス吸着剤の使用量も少なくて済むが、耐用年数40年が要求されるLNGなどの保冷には高価なガス吸着剤を大量に使用せざるを得ないため、経済的でない。
【0006】
特許文献2には、液化ガス等を輸送または収容する施設に使用する断熱壁について開示されている。開示の断熱壁は、発泡材料層に使用温度より高い沸点あるいは昇華点を有する気体を含浸させたことを特徴とする。
発泡させたポリエチレンを真空引きによる脱気処理後、加熱しながら高圧で炭酸ガスやフレオンを圧入する。すると、気泡内に液体または気体状態の流体が充填される。たとえば炭酸ガスを使ったときは、マイナス150℃付近に冷却すると、ポリエチレン気泡内の大部分の二酸化炭素は固体になって、気泡内はほぼ10−2Paの真空状態になり、発泡ポリエチレン層は極めて断熱性能のよい断熱材となる。
【0007】
開示発明の断熱壁は、発泡材料層を低温側隔壁と高温側隔壁に挟み、水の侵入を防止するため不透気性の封止体で側面を密封して形成される。低温側隔壁と発泡ポリエチレン層を密着させるか、両者の間に熱伝導性のよい材料を介在させて発泡ポリエチレン層を十分冷却するようにする。発泡ポリエチレンは独立気泡であるため、経時による断熱特性の劣化が少ない。
ただし、発泡体の内奥にある発泡気泡まで気泡内の気体を完全に脱気することは難しい上、これに二酸化炭素をしかるべき量だけ圧入することも難しい。したがって、気泡内の気体の固化によって真空状態になる気泡は限られることになり、断熱効果向上の効果は限定的である。
【0008】
さらに、特許文献3には、低温ガス等の輸送コンテナに使用する断熱パネルが開示されている。開示された断熱パネルは、ガス遮蔽能の高い複合フィルムで形成したフィルム容器に微少空胞を持つガラスボールを充填し、内部の空気を二酸化炭素で置換して減圧し、吸引開口を閉じてタイル状に形成したものである。
内部に充填するガラスボールは、軽量で耐圧性に富んだ平均粒径が70または177μmのものである。
このパネルを低温域で使用すると、内部に残っている二酸化炭素が凝固するため真空度がさらに高まり、−130℃で0.017W/mK、−170℃では0.01W/mK以下の熱伝導率が達成される。なお、発泡ガラスの熱伝導率は−130℃で約0.03W/mKであるから、開示発明の断熱パネルでは性能が大幅に改善されたことが分かる。
【0009】
開示された断熱パネルは、真空状態で使用するため外部の気体が侵入するのを防止するため、プラスチックの担体にアルミニウムあるいはVA−スチールの金属コーティング施したフィルムを利用して、気体の流通を遮断する必要がある。金属コーティングは、熱伝達を減少させるためできる限り薄く、0.1μm以下の厚みにしなければならない。
なお、パネル内部は真空状態になっていて、吸引しきれなかった二酸化炭素が残留するが、ガラスボール内の空胞に二酸化炭素が充填されるわけではない。
【0010】
開示された断熱パネルは、微少なガラス粒が充填された空間を真空化したことにより熱伝達率を低下させる効果を持たせたもので、空間を二酸化炭素で置換した上で真空化することにより、極低温領域では二酸化炭素が固体化してさらに真空度を上げるため、真空効果がより大きく発現することを特徴とするものである。
しかし、開示発明では芯材としてグラスウールに比べて熱伝導率の大きなガラスボールを使用しているため、またガラスボールの微少空胞内部まで炭酸ガスで置換できていないため、炭酸ガス固化による微少空胞ガラスボール製芯材の断熱性向上は期待できない。
したがって、LNGタンク保冷材として十分な断熱性を持たせることができない。
【特許文献1】特開平11−336991号公報
【特許文献2】特開昭52−154155号公報
【特許文献3】特開平09−264490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、より断熱効果が大きく、かつ製作が容易な断熱材、特にLNGなどの極低温物質に使用できる極低温用断熱材およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、液化天然ガス用貯糟など極低温領域で利用する本発明の極低温用断熱材は、グラスウールを成型して得た板状の芯材と、芯材を包む外皮材で形成され、芯材は断熱材として使用するときの温度では固体状態になる充填ガスで内部まで置換したもので、外皮材はガスバリア性を有するラミネートフィルムにより形成されたもので、芯材を包んだ外皮材が形成する空間には使用温度では固体状態になる充填ガスが充填されていることを特徴とする。
【0013】
充填ガスは、二酸化炭素ガスまたはアンモニアガスであることが好ましく、特に、液化天然ガス(LNG)に適用する場合は、二酸化炭素ガスであることが好ましい。
芯材は、グラスウールにバインダーを付着し加熱圧縮成型して板状に形成したものであることが好ましい。また、成型した芯材は、90%以上の空隙率を有することが好ましい。
【0014】
ラミネートフィルムは、融着可能な熱可塑性プラスチックフィルムにアルミニウムなどの金属をコーティングしてガス透過を抑制したフィルムであることが好ましい。融着可能な熱可塑性プラスチックフィルムとして、たとえば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリプロピレンなどのフィルムが利用できる。
なお、外皮材の融着部もポリエチレンフィルムなどの熱可塑性プラスチックフィルムで形成されることが好ましい。
【0015】
本発明の極低温用断熱材の製造方法は、グラスウールにバインダーを付着し加熱圧縮成型して板状の芯材を形成し、成型した芯材を少なくとも冷却中に充填ガス雰囲気中に置いて充填ガスを芯材中に含浸させ、外皮材で形成した1端に開口を有する袋に芯材を挿入して充填ガスを内部に供給しながら、開口を融着して閉止することにより、断熱材を製造することを特徴とする。
【0016】
芯材は、充填ガス雰囲気中でベーキングして冷却することにより芯材内部を充填ガスで置換することができる。また、ベーキングにより芯材に付着した水分を完全に放出させることができる。なお、ベーキングは加熱圧縮成型の工程で加熱時間を十分に確保することにより代替することも可能である。
【0017】
袋の開口を融着するときに、必要に応じて、袋内を真空に引いて所定の真空度にすることもできる。
また、芯材の加熱圧縮成型の工程、およびまたは、外皮材で形成した袋に芯材を封止する工程を充填ガス雰囲気中で行うことも可能である。
なお、ベーキング中に芯材を真空吸引して捕獲ガスの放出を促進するようにしてもよい。
【0018】
本発明の極低温用断熱材は、常温では外皮材内部空間に断熱材として使用中の温度では固体状態になる充填ガスが適当な圧力で存在するが、断熱する目的物であるLNGなどの極低温物質に冷却されることにより充填ガスが固化して、内部が真空状態になり、著しい断熱効果が生じる。
断熱材の内部圧力が100Pa以下になると、ガス分子の平均自由工程が芯材の内部空間と同程度になるため、ガス分子同士の熱伝達が著しく減少し、急激に断熱性能が向上して、ウレタンフォームの10倍にもなることが知られている。
【0019】
たとえば、1気圧で−79℃に昇華点を有する二酸化炭素ガスを充填した断熱材を気化温度が−162℃のLNGに使用する場合を考える。二酸化炭素の蒸気圧は、−135℃で約100Pa、−160℃で1Pa程度になる。したがって、二酸化炭素が充填された断熱材中の圧力も、LNGの断熱材として使用している間は容易に数10Paになり、断熱性が向上する。
【0020】
本発明の断熱材は、断熱材内部のガスを吸引して真空状態にするのではなく、ガスの凍結固化現象を利用して減圧するので、断熱材中に充填するガスの充填時における初期圧力はあまり問題にならない。
固化しないガス成分が残っていると真空度に影響を与えるので、充填されたガスの純度は重要であるが、高純度のガスで置換を行えば、初めに断熱材中に存在していた窒素、酸素、水などの不純物は容易にその分圧を低下させることができる。また必要があれば、高温状態で真空吸引することにより、芯材の内部空間に吸着していた水分なども効果的に排除することができる。
したがって、本発明の断熱材は、その製造方法が大きく簡易化される。
【0021】
たとえば、常温で1気圧の二酸化炭素ガスを充填した断熱材でも、極低温物体を保冷するときは、断熱材の内部圧力はガス温度に対応した蒸気圧と同じ圧力になるので、断熱効果は初めから真空状態まで吸引した断熱材と変わらない。
また、断熱材内部に高純度の二酸化炭素ガスを残留させることが肝要であり、到達真空があまり問題にならないことから、高純度の二酸化炭素ガスでする置換に注力すればよい。
【0022】
したがって、到達真空度が高くなると幾何級数的に高価になる真空装置に投資しなくても、数度の置換工程を繰り返すことで目標とする内部ガス純度を経済的に達成することができる。
また、ガス置換は、対象とする空間領域を真空吸引して置換ガスを充填する作業を繰り返すことにより行われる。このとき、真空吸引を高度な真空状態になるまで行う代わりに、置換回数を増やすことによっても効果的に高純度の置換が達成できる。
【0023】
なお、外部から外皮材を浸透してくるガスも内部ガスの純度を低下させる原因になる。外皮材を透過してくるガスの量は、外皮材の内外圧力差が大きいほど多くなる。
LNGタンカーなどでは、定期的にドック入りするなど、積荷を空にする場合があり、この間は断熱をする必要がない。従来の真空断熱材を用いるときは、内外差圧がほぼ1気圧になりかなりの量の外気が浸透してくる可能性があった。
これに対し、本発明の断熱材では、内部圧力を高くすれば断熱材として使用しない時には内外差圧が小さくなり浸透ガス量を抑制することができる。
【0024】
本発明の断熱材は内部真空化による断熱効果が主たる機能であり、芯材は、外皮材で形成する断熱材の外形を保持するための支持部材として機能させるものである。したがって、芯材は、それ自体の熱伝導率が小さいことは当然の要請であるが、真空状態で外皮材が受ける圧力に対向できる構造的強度を有することが求められる。断熱材は軽量であることが好ましい。
【0025】
また、断熱材中に充填されたガスが芯材の内部を含めてあらゆる部分に分散して、真空中のガス分子が直接壁に衝突する状態になって空間における熱伝導を減少させて、断熱材としての断熱効果を向上させるようにすることが要請される。
本発明では、断熱材の芯材は、グラスファイバに水ガラスや接着剤などのバインダーを加えたものを加熱圧縮して板状に成型することにより作成することができる。
【0026】
また、本発明における芯材は、ガラスボールやウレタンフォームで形成されたものと異なり、独立した空間を持たないので、芯材材料の表面付着ガスや表面含浸ガスを容易にガス置換することができる。
また、極めて細いグラスファイバーを適当に分散したバインダーで結合するので、空隙率は容易に90%以上にすることができる。空隙率が大きいほど、芯材材料自体の熱伝導率の寄与が小さくなり、真空化の効果が現れやすい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明について実施例に基づき図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の1実施例に係る断熱材の概念断面図、図2はその平面図、図3は二酸化炭素ガスの蒸気圧曲線を示す線図、図4は熱伝導度と真空度の関係を示す線図、図5は断熱材内部に侵入するガスの経時変化を概念的に示す線図、図6は断熱材の断熱性能を比較した線図、図7は本実施例の製造工程を示す流れ図である。
【0028】
本発明の1実施例に係る極低温用断熱材は、LNGなど極低温液体の運搬船や貯蔵基地に設置する貯槽自体の表面を覆うように貼り付け、さらに外側から防湿機能を有する外壁で覆って保護するもので、LNGの保冷を行うために使用する。
図1と図2に示すように、本実施例の極低温用断熱材1は、板状の芯材3を外皮材2で包んで内部4にガスを充填したタイル状のものである。外皮材2の外周5にはヒートシールを施して断熱材1の内部4を封止している。ヒートシールは、外皮材2の最内層に形成した融着可能な熱可塑性プラスチックフィルム同士で行われる。最内層フィルムとして、高密度あるいは低密度ポリエチレンフィルムの他、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリプロピレンなどが利用できる。
【0029】
芯材3は、グラスウールに水ガラスや有機接着剤などのバインダーを付着した上で、加熱圧縮成型して板状に形成したものである。芯材3は、内部圧力が絶対真空になったときにも、外皮材2を支えて断熱材1の形状を維持する支持材として機能する。
成型した芯材3は、バインダーの量を調節して空隙率を90%以上にして、熱伝導率が大きくならないようにする。空隙率を大きくすることにより、芯材3の内部に充填ガスが届かない空間をできるだけ作らないようにして、断熱材1の製作時において内部4のガス置換を十分に行い、芯材3に含浸していた空気成分や水分を容易に放出させるようにする効果もある。
【0030】
充填ガスは、常温で気体状態であり断熱材の使用温度では固体状態である物質であって、ここでは、液化天然ガス(LNG)の保冷などに適する二酸化炭素を採用する。二酸化炭素は、安価で入手しやすく、危険が少なく取り扱いも容易で、利用しやすい。
二酸化炭素は、1気圧において−79℃に昇華点を持ち、昇華点以下の温度では凝固して、極めて小さい蒸気圧を呈する。
【0031】
図3は、昇華点以下の温度範囲における二酸化炭素ガスの蒸気圧曲線である。二酸化炭素ガスの蒸気圧は温度が低下するほど減少し、−135℃で約100Pa、−160℃で1Pa程度になる。
断熱材の空間内圧力が減少して200Pa程度になると、ガス分子の平均自由行程が内部空間に対応するようになってガス分子同士の熱交換が著しく減少するため、熱伝導率が急激に低下する。
【0032】
図4は、ガラスウールを詰め物とした真空断熱材について、真空度を変化させたときの熱伝導率の変化をプロットした線図である。
熱伝導率は真空度が高くなるにつれて減少するが、200Paを超えるあたりから減少度合いが緩くなり、10Pa以下では真空化の困難の割には熱伝導率が減少しにくいことが分かる。
【0033】
真空断熱材は真空化による熱伝導率の低下現象を利用するもので、内部を数10Paの真空にすることにより、断熱性能は容易にウレタンフォームによる断熱材の10倍程度になる。
LNGをLNG温度−162℃で貯蔵するタンクの表面に、二酸化炭素ガスを充填した断熱材1が接して極低温に冷却されると、断熱材内部4の二酸化炭素はタンク壁に接する側の外皮材2の裏面に凍結して付着し、断熱材内部4は温度固有の極めて低い蒸気圧を呈し、内部4が真空状態になって熱伝導率が減少し、断熱材1は真空断熱材として機能する。
なお、断熱材1の温度を低温に維持して内部圧力を必要な真空水準にするため、断熱材1の外側から保護する外壁は、アルミシートを使って必要な防湿効果を持たせることが好ましい。
【0034】
真空断熱材は、内部に残存するガスの存在により断熱性能が大きく劣化する。図5は断熱材1内部空間に浸潤してくるガスの経時変化を概念的に示す線図である。真空吸引しても残るガスとして、芯材表面に吸着していたガスg1、芯材内部に含浸していたガスg2がある。
芯材3に吸着していたガスg1は真空状態で稼働する初期に大量に放出されて、徐々に減少する。また、芯材3内部に含浸していたガスg2は、表面近くまで滲出してくるまで時間が掛かるので、むしろ時間が経つほど放出量が増加し、内部のガスが枯れると放出が止まる。
また、これら断熱材1内部に残留していたガスの他に、外皮材2を透過して外部から浸透してくるガスg3がある。
【0035】
これらのガスg1,g2,g3は、経時により徐々に断熱材内部空間4に放出されて、真空度を劣化させる。従来の真空断熱材では、こうしたガス成分をできるだけ除去するため、超高真空装置を使用して、断熱材内部4を高真空状態にする必要があった。
本実施例の断熱材1では、芯材3が成型時にたとえば400℃程度に加熱され、さらに二酸化炭素ガスでガス置換するため、芯材3を形成するガラスウールや水ガラス、接着剤などの表面層はもちろん深奥に含浸していたガス成分も殆ど放出される。したがって、断熱材1になった後に芯材3の表面と内部に残留するガスg1,g2は極めて少なくなる。
また、ガス置換で使用する真空装置は、従来の真空断熱材を製造するときに芯材からガス成分を吸い尽くして高度の真空状態にするために使用する真空装置と比較すると、たとえば数10Pa程度まで引ける程度の低性能のもので十分である。したがって、製造の費用と作業の手間を大幅に節減することができる。
【0036】
さらに、真空断熱材は、窒素、酸素など、外部から外皮材を透過してくるガスg3のため、経時により真空度が落ち断熱性能が劣化する。
外気ガスは、外皮材2の内外圧力差が大きいほど、浸透しやすい。通常の真空断熱材は内部圧力がほぼ絶対真空になっていて、差圧が常時1気圧あるので、タンクの休止時にもガスの浸透が無視できない。
ところで、LNG運搬船がドック入りするときは空荷になり、LNGタンクも常温になる。また、LNG貯蔵基地におけるLNGタンクも休止中、あるいは空荷時には常温になっている。
【0037】
したがって、空荷時や休止中のLNGタンクでは、タンクに貼付された極低温用断熱材1も常温になり、充填された二酸化炭素は解凍してガスに戻り、断熱材内部4の圧力は充填時の圧力に戻る。
断熱材として機能するときの内部圧力はLNGにより冷却されたときの温度により決まるので、二酸化炭素ガスの充填圧力は必ずしも真空である必要はなく、たとえば、常圧であってもよい。
このように、本実施例の極低温用断熱材1は、タンクの休止時やタンクが空荷のときには、内部圧力が充填時の圧力になるので、たとえば常圧充填したときには、外皮材2の内外圧力差が殆ど無く、ガスg3の浸透が極めて少なくなる。
【0038】
図6は、真空断熱材の断熱性能を比較した線図である。図6は、時間の経過にしたがって断熱性能がどの様に変化するかを、ガス置換のない従来品をA、ガス置換した従来品をB、本実施例の断熱材をCとして、概念的に説明したものである。
従来品Aでは、吸着ガスg1も芯材内部に含浸したガスg2も外部から浸透してくるガスg3も全て真空度を低下させる原因となり、断熱性能を急速に悪化させる。なお、内部に吸着剤を仕込んだものは、初期においては空間に浸潤してくるガスを吸着して断熱性能を維持することができる。
【0039】
従来品Bの場合は、ガス置換のために芯材表面に付着していたガスg1は除去できるが、完全には除去できなかった芯材内奥に残存したガスg2の影響を受けて、断熱性能は経時と共に減衰する。
経時により断熱性能が劣化するのを防ぐため、内部に吸着剤を仕込んだり、真空度が低下したときに真空ポンプで内部を吸引したりする方法が用いることがある。しかし、こうした対策は、断熱材の維持コストを上昇させる原因にもなる。
【0040】
これに対して、本実施例の断熱材Cは、芯材3の内奥に残存するガスg2も低水準のため、断熱性能はなかなか減衰しない。また、外部から浸透してくるガスg3も、従来品と比較すると少ないので、やがては断熱材内部4に蓄積して劣化するとしても、他の製品と比べると十分後まで断熱性能が維持され、製品としての寿命が長い。
【0041】
図7は、本実施例の極低温用断熱材の製造方法について説明する流れ図である。
ガラス繊維フィラメントをウール状にしたガラスウール(m1)に水ガラスや接着剤などのバインダー(m2)をからませて、平らに延ばしマットを形成する(S1)。
【0042】
形成されたガラスウールのマットを型に入れて、加熱圧縮して成型し(S2)、芯材(m4)を得る。芯材(m4)は、表面と内部で適当な間隔でガラス繊維が結合して、内部に90%以上の空隙率を有する平板形状に形成されている。
ガラスウールとバインダーに含浸していた水分は、たとえば400℃など沸点以上に加熱されることによりこれら材料の内部から追い出されて、ほぼ全量が放出される。また、含有されていた窒素、酸素などのガス成分も材料の高温化のため溶存量が減少して外部に放出される。
【0043】
このとき、成型機械を囲った囲いの中に炭酸ガス(m3)を供給して、成型工程を炭酸ガス雰囲気下で実施させるようにしてもよい。このようにすると、特に成型後の冷却時に材料が再び空気中のガスを吸着する代わりに、炭酸ガスを吸着することになる。芯材(m4)が炭酸ガスだけを吸着していれば、断熱材として使用するときに芯材から炭酸ガスだけが放出されるので、断熱材内部を真空化する上で全く支障がない。
【0044】
外皮材(m5)により形成された、1端に開口を有する袋が準備され、この袋の中に芯材(m4)が挿入される。純度の高い炭酸ガス(m6)を使って袋の中を炭酸ガス置換する。ガス置換は、袋の内部を真空にしては炭酸ガスを充満することを繰り返すことにより実施される。その後、適当な真空まで吸引した状態で開口を熱シールして封止する(S3)。
このとき、炭酸ガス(m6)を吹き付けながら開口を溶着して、袋の内部圧力を常圧のまま封止するようにしてもよい。
【0045】
なお、外皮材m5の最内層表面は融着可能な熱可塑性プラスチックフィルムで構成されており、2枚を重ねて加熱することにより融着して封止される。
こうした製造工程を経て、本実施例の極低温用断熱材(m7)のパネルが製造される。
【0046】
本発明の極低温用断熱材パネルは、LNGタンクの表面に隙間無く貼り付け、上からポリウレタンフォームなどで形成する防湿断熱材を当てて保護することにより、高性能の保冷構造を形成する。本発明の断熱材により、LNGタンクの保冷構造の厚さも減少し、タンク全体の保冷施工性の向上や製作コストの節約を図ることができる。
本発明の極低温用断熱材は、断熱材内部を高度の真空に引く代わりに、二酸化炭素を充填し、保冷対象とするLNGを極低温冷熱源として利用して二酸化炭素を凍結させることにより断熱材の内部を極高真空状態にして断熱性能を高めるので、高度な真空装置を用いず、製造する場合のコストも低減し、また断熱性能を維持する期間も延長することができた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の1実施例に係る極低温用断熱材の概念断面図である。
【図2】本実施例の極低温用断熱材の平面図である。
【図3】二酸化炭素ガスの蒸気圧曲線を示す線図である。
【図4】真空断熱材における熱伝導度と内部の真空度の関係を示す線図である。
【図5】断熱材内部に侵入するガスの経時変化を概念的に示す線図である。
【図6】断熱材の断熱性能を比較した線図である。
【図7】本実施例の極低温用断熱材の製造工程を示す流れ図である。
【符号の説明】
【0048】
1 極低温用断熱材
2 外皮材
3 芯材
4 内部
5 ヒートシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラスウールを成型して得た板状の芯材と、該芯材を包む外皮材で形成され、前記芯材は断熱材として使用するときの温度で固体状態にある充填ガスで内部までガス置換したもので、前記外皮材はガスバリア性を有するラミネートフィルムにより形成され、前記外皮材が前記芯材を包んで封止することにより形成する空間には前記充填ガスが充填されていることを特徴とする極低温用断熱材。
【請求項2】
前記充填ガスは二酸化炭素ガスであることを特徴とする請求項1記載の極低温用断熱材。
【請求項3】
前記芯材は、グラスウールにバインダーを付着し加熱圧縮成型して板状にしたものであることを特徴とする請求項1または2記載の極低温用断熱材。
【請求項4】
前記ラミネートフィルムは、プラスチックフィルムに金属をコーティングしてガス透過を抑制したフィルムであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温断熱材。
【請求項5】
前記ラミネートフィルムの少なくとも最内層は融着可能な熱可塑性プラスチックフィルムで構成されて、前記空間は該熱可塑性プラスチックフィルムの融着により封止されていること特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の極低温用断熱材。
【請求項6】
グラスウールにバインダーを付着し加熱圧縮成型して板状の芯材を形成し、該成型工程の少なくとも冷却過程中は該形成された芯材を充填ガス雰囲気中に置いて充填ガスを芯材中に含浸させ、外皮材で形成した1端に開口を有する袋に前記芯材を挿入して該充填ガスを内部に供給しながら、該開口を融着して閉止することにより、芯材を外皮材で包んで形成され断熱材として使用するときの温度で固体状態にある充填ガスを該芯材を包む空間に充填した極低温用断熱材を製造することを特徴とする製造方法。
【請求項7】
前記成型工程と開口を閉止する工程を充填ガスの雰囲気中で行うことを特徴とする請求項6記載の極低温用断熱材の製造方法。
【請求項8】
前記開口を融着するときに前記空間を真空引きして減圧してから封止することを特徴とする請求項6または7記載の極低温用断熱材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−144929(P2008−144929A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335672(P2006−335672)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】