極端紫外光源装置用ドライバーレーザ及びLPP型極端紫外光源装置
【課題】短パルス化とマルチライン発振を同時に達成するEUV光源装置用ドライバーレーザを実現する。
【解決手段】このドライバーレーザは、(i)短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、レーザ装置から出力される短パルスレーザ光を光パラメトリック発振により広帯域化する光パラメトリック発振装置とを有するレーザ発振器と、(ii)レーザ発振器から出力されるレーザ光を入力し、該レーザ光を櫛状の利得スペクトルで増幅して出力する少なくとも1つのCO2レーザ増幅器とを具備し、レーザ発振器が、CO2レーザの再生増幅器を用いてレーザ光を櫛状のスペクトルを有する光パルスに変換することにより、光パラメトリック発振装置によって広帯域化されたレーザ光を少なくとも1つの増幅器の利得スペクトルに整合させるスペクトル整合器をさらに有する。
【解決手段】このドライバーレーザは、(i)短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、レーザ装置から出力される短パルスレーザ光を光パラメトリック発振により広帯域化する光パラメトリック発振装置とを有するレーザ発振器と、(ii)レーザ発振器から出力されるレーザ光を入力し、該レーザ光を櫛状の利得スペクトルで増幅して出力する少なくとも1つのCO2レーザ増幅器とを具備し、レーザ発振器が、CO2レーザの再生増幅器を用いてレーザ光を櫛状のスペクトルを有する光パルスに変換することにより、光パラメトリック発振装置によって広帯域化されたレーザ光を少なくとも1つの増幅器の利得スペクトルに整合させるスペクトル整合器をさらに有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等を露光するために用いられる極端紫外光を発生するLPP(Laser Produced Plasma)型EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光源装置に関し、特に、LPP型EUV光源装置においてターゲットに光を照射するドライバーレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴い、光リソグラフィの微細化も急速に進展しており、次世代においては、100nm〜70nmの微細加工、さらには50nm以下の微細加工が要求されるようになっている。そのため、例えば、50nm以下の微細加工に応じるべく、波長13nm程度の極端紫外光を発生するEUV光源と縮小投影反射光学系(catadioptric system)とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
そのようなEUV光源装置においては、一般に、駆動用光源(ドライバー)として短パルスレーザが用いられる。短パルスレーザは、LPP型EUV光源装置において高いCE(conversion efficiency:照射レーザ光からEUV光への変換効率)を得るのに適しているからである。
【0004】
図10は、ドライバーとして用いられる発振増幅型レーザの構成を示す概略図である。
図10に示す発振増幅型レーザ10は、短パルスCO2レーザによって構成される発振器11と、短パルスCO2レーザが発生したレーザ光を増幅する増幅器12とを含んでいる。ここで、増幅器12が光共振器を持たない場合に、そのような構成を有するレーザシステムは、MOPA(Master Oscillator Power Amplifier)システムと呼ばれる。増幅器12は、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、ヘリウム(He)、さらに、必要に応じて、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、キセノン(Xe)等を含むCO2レーザガスを放電によって励起する放電装置を有している。
なお、図10に示す増幅器12と異なり、増幅段に共振器を設ける場合には、増幅段単体によるレーザ発振が可能である。そのような構成を有するレーザシステムは、MOPO(Master Oscillator Power Oscillator)システムと呼ばれる。
【0005】
発振器11から出射したエネルギーAを有するレーザ光は、増幅器12において所望のエネルギーBを有するレーザ光に増幅される。このエネルギーBを有するレーザ光は、レーザ光伝播系を通して、又は、レンズによって集光されて、錫(Sn)やキセノン等から選択されるEUV発光ターゲット物質に照射される。
ここで、図10においては、レーザエネルギーAをレーザエネルギーBまで増幅するために、増幅器を1段しか設けていないが、所望のレーザエネルギーBが得られない場合には、複数段の増幅器を用いてもよい。
【0006】
次に、発振器である短パルスCO2レーザの構成例について説明する。特許文献1には、短パルスRF(Radio Frequency励起)−CO2レーザの構成が開示されている(特許文献1の図5)。このRF−CO2レーザにおいては、100kHz程度までレーザパルスの高繰り返し運転が可能である。実用上は、100W級のEUV発光を得る必要があるが、CO2レーザによるCEを0.5%と見積り、さらに伝播損失を70%と見積もると、CO2レーザに求められる出力は60kW程度になる。60kWの出力を短パルスレーザにおいて達成するためには、光学素子等の耐久性等を考慮すると、50kHz〜100kHz程度の繰り返し周波数が必要となる。
【0007】
その理由は次の通りである。CO2レーザの出力をEtotal、パルス発振の繰返し周波数をfi(i=1,2,3,…)、1つのパルスの光エネルギーをEpj(j=1,2,3,…)とすると、Etotal=f1×Ep1=f2×Ep2という関係がある。ここで、Epが大きい場合には、レーザ光が透過する光学素子に与えられるダメージも大きくなるので、光学素子の劣化が早くなる。そのため、Epは小さい方が望ましい。そこで、所望のEtotalを得るためにEpを小さくして、周波数fiを大きくすれば良い。
【0008】
このような高繰り返しを実現するためには、RF(Radio Frequency励起)−CO2レーザを用いることが適当である。その理由は、パルスCO2レーザとしては、この他にもTEA(Transverse Excitation Atmospheric)−CO2レーザがあるが、現状の技術では、2kHz程度の動作が限界だからである。
【0009】
特許文献1の図5を参照すると、このレーザ装置は、マルチパス導波管レーザ発振器(Multipass Waveguide Laser Oscillator)400とマルチパス導波管レーザ増幅器(Multipass Waveguide Laser Amplifier)400aとを含んでいる。発振器400の共振器は全反射ミラー408及び406によって構成されている。これらのミラー間に、Qスイッチ、RF放電部、及び、偏光薄膜(Thin Film Polarizer:TFP)が設けてある。Qスイッチがオフの時には、レーザ光がミラー408とミラー406との間を往復し、その際の誘導放出によって光強度が増加する。この光強度が十分に増加したところでQスイッチをオンにすると、ピークの立った短パルスがTFP404において反射され、ミラー409及びλ/2波長板を経由して、図5の下部に示されているマルチパス導波管レーザ増幅器(Multipass Waveguide Laser Amplifier)400aに導入される。そして、導入された光が増幅器(Amplifier)において増幅され、レーザ光が外部に出射する。このような構成を有するレーザは、Qスイッチ・キャビティダンプ・レーザ(Q-switched cavity-dumped laser)と呼ばれている。
また、非特許文献1〜5にも、関連する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許6,697,408(図5)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】神成文彦、「高気圧CO2レーザー媒質によるピコ秒パルスの増幅に関する計算機シミュレーション」、レーザー研究、1988年8月、第17号、第2号、p.45
【非特許文献2】遠藤(A. Endoh)他、「TEA CO2レーザのマルチライン発振における温度制御(Temperature control of multilane oscillation of a TEA CO2 laser)」、ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journal of Applied Physics)50(8)、1979年8月、p.5176
【非特許文献3】ポゴレルスキー(I. V. Pogorelsky)他、「サブナノ秒・マルチ−ギガワットCO2レーザ(Subnanosecond Multi-Gigawatt CO2 laser)、IEEE ジャーナル・オブ・カンタム・エレクトロニクス(IEEE Journal of quantum electronics)、1995年3月、第31巻、第3号、p.556
【非特許文献4】ロタームンド(F. Rotermund)他、「HgGa2S4及びAgGaS2を用いた中赤外(4−12μm)における極フェムト秒パルスの差周波生成(Difference-frequency generation of intense femtosecond pulses in the mid-IR (4-12μm) using HgGa2S4 and AgGaS2)、オプティクス・コミュニケーションズ(Optics Communications)185、2000年、p.177−183
【非特許文献5】ペトロフ(V. Petrov)他、「光学結晶における秒オーダーの非線形処理による3〜12μmの中赤外スペクトル域における1kHzの高出力フェムト秒光パルスの発生(Generation of high-power femtosecond light pulses at 1 kHz in the mid-infrared spectral range between 3 and 12 μm by second-order nonlinear processes in optical crystals)」、ジャーナル・オブ・オプティクスA:純粋光学及び応用光学3(Journal of Optics A: Pure and Applied Optics. 3)、2001年、R1−R19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術におけるように、Qスイッチを用いたRF−CO2短パルスレーザにおいては、レーザガス圧が低圧(一般的には、40Torr〜100Torr)であるために、各CO2レーザ遷移の広がりが十分でなく、利得スペクトルは櫛状に変調される。即ち、レーザガスが低圧化している場合には、図11に示すように、CO2レーザの発振スペクトルは連続的ではなく離散的になる。その結果、非特許文献1に記載されているように、誘導放出による増幅過程における利得、その飽和、及び、パルス波形は、利得スペクトルとレーザパルスのスペクトルとの整合度に依存する。
【0013】
ところで、先に述べたMOPA又はMOPO方式レーザのように、発振段レーザの出力光を後段の増幅器へ入力して増幅する場合には、発振段レーザの出力スペクトルが増幅効率に大きく影響する。例えば、発振段レーザが単一スペクトル、即ち、特定の狭い波長帯域内に光エネルギーが集中している場合には、増幅段において利得が飽和し易くなる。このような単一スペクトルレーザ光を、先に述べたMOPA又はMOPO方式レーザの増幅段に入力して増幅する場合には、増幅可能なスペクトルが1本に限られてしまうので、マルチスペクトル(マルチライン)増幅可能な増幅段における増幅効率が低下してしまう。即ち、増幅に寄与するスペクトルは1本であり、残りのスペクトルはレーザ発振しないため、増幅に寄与することなく、多くの利得が無駄になってしまう。これは、増幅段の増幅において高出力が得られないことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る極端紫外光源装置用ドライバーレーザは、(i)短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、レーザ装置から出力される短パルスレーザ光を光パラメトリック発振により広帯域化する光パラメトリック発振装置とを有し、短パルス・マルチライン発振を行う短パルス・マルチライン発振レーザ発振器と、(ii)該短パルス・マルチライン発振レーザ発振器から出力されるレーザ光を入力し、該レーザ光を櫛状の利得スペクトルで増幅して出力する少なくとも1つのCO2レーザ増幅器とを具備し、短パルス・マルチライン発振レーザ発振器が、CO2レーザの再生増幅器を用いてレーザ光を櫛状のスペクトルを有する光パルスに変換することにより、光パラメトリック発振装置によって広帯域化されたレーザ光を少なくとも1つの増幅器の利得スペクトルに整合させるスペクトル整合器をさらに有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、短パルス化されたレーザ光のエネルギーピーク値を示す発振スペクトルの発振を抑制するので、増幅器における増幅効率を上げて、短パルスレーザ光を高いレベルまで増幅することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る極端紫外光源用ドライバーレーザが適用されるLPP型EUV光源装置の概要を示す模式図である。
【図2】エタロンによる高強度発振スペクトルの抑制と発振スペクトル強度の平滑化の原理を示す。
【図3】第1の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図4】第2の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図5】第3の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図6】第4の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図7】第5の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる発振段レーザの構成を示す模式図である。
【図9】図8に示すスペクトル整合器の構成例を示す模式図である。
【図10】発振増幅型レーザの構成を示す概略図である。
【図11】CO2レーザの低ガス圧動作時における発振スペクトルと、その時のパルス波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明に係る極端紫外光源用ドライバーレーザ(以下において、単に「ドライバーレーザ」とも言う)が適用されるLPP型EUV光源装置の概要を示す模式図である。図1に示すように、このLPP型EUV光源装置は、ドライバーレーザ1と、EUV光発生チャンバ2と、ターゲット物質供給部3と、光学系4とを含んでいる。
【0018】
ドライバーレーザ1は、ターゲット物質を励起させるために用いられる駆動用のレーザ光を発生する発振増幅型レーザ装置である。ドライバーレーザ1の構成については、後で詳しく説明する。
EUV光発生チャンバ2は、EUV光の生成が行われる真空チャンバである。EUV光発生チャンバ2には、ドライバーレーザ1から発生したレーザ光6をEUV光発生チャンバ2内に透過させるための窓21が設けられている。また、EUV光発生チャンバ2の内部には、ターゲット噴射ノズル31と、ターゲット回収筒32と、集光ミラー8とが配置されている。
【0019】
ターゲット物質供給部3は、EUV光を発生するために用いられるターゲット物質を、ターゲット物質供給部3の一部であるターゲット噴射ノズル31を介して、EUV光発生チャンバ2内に供給する。供給されたターゲット物質の内、レーザ光が照射されずに不要となったものは、ターゲット回収筒32によって回収される。ターゲット物質としては、公知の様々な材料を用いることができる。また、ターゲット物質の状態は、固体、液体、気体のいずれでも良く、連続流れ(ターゲット噴流)や液滴(ドロップレット)等の公知のいずれの態様でEUV光発生チャンバ2内の空間に供給しても良い。例えば、ターゲット物質として液体のキセノン(Xe)液体ターゲットを用いる場合には、ターゲット物質供給部3は、高純度キセノンガスを供給するガスボンベ、マスフローコントローラ、キセノンガスを液化するための冷却装置、ターゲット噴射ノズル等によって構成される。また、ドロップレットを生成する場合には、それらを含む構成に、ピエゾ素子等の加振装置が追加される。
【0020】
光学系4は、例えば、集光レンズを含んでおり、ドライバーレーザ1から出射したレーザ光6を、ターゲット物質の軌道上に焦点を形成するように集光する。それにより、ターゲット物質5が励起してプラズマ化し、EUV光7が発生する。
集光ミラー8は、例えば、13.5nmの光を高反射率で反射するMo/Si膜がその表面に形成された凹面鏡であり、発生したEUV光7を反射することにより集光して伝送光学系に導く。さらに、このEUV光は、伝送光学系を介して露光装置等へ導かれる。なお、図1において、集光ミラー8は、紙面の手前方向にEUV光を集光する。
【0021】
次に、本発明の第1の実施形態に係るドライバーレーザについて説明する。本実施形態においては、図1に示すドライバーレーザ1(発振増幅型レーザ装置)における発振段レーザとして、短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザを使用することを特徴としている。この短パルス−マルチスペクトルCO2レーザを用いることにより、増幅段における増幅能力を高効率に活用することができるので、増幅段により高出力短パルスを得ることが可能となる。このような短パルス−マルチスペクトルCO2レーザを発振段とする発振増幅型レーザを、キセノン(Xe)や錫(Sn)等のターゲット物質にレーザ光を照射することによりEUV光を発生するLPP型EUV光源装置において、レーザ光照射源として用いる。それにより、高エネルギー短パルスのレーザ光がターゲット物質に照射されるので、照射レーザ光からEUV光への変換効率が高くなり、且つ、100W級のEUV光発生を実現するという先に述べた目的を達成するのに有用である。
【0022】
また、本実施形態においては、短パルスCO2レーザを用いてマルチライン発振を行うために、発振スペクトルの制御を行っている。図2は、短パルス−マルチスペクトルCO2レーザにおいて行われる高強度発振スペクトル成分の抑制と発振スペクトル強度の平滑化の原理を説明するための図である。
【0023】
ここで、レーザ光には、互いに異なる強度を有する複数の発振スペクトル成分が存在する。図2の(a)に示すように、CO2レーザ光においては、スペクトル成分P(20)に発振スペクトルのピークがある。このスペクトル成分P(20)の発振を押さえて、他のスペクトル成分P(18)、P(16)、P(14)等の発振を促すことができれば、マルチスペクトル(マルチライン)発振を実現することができる。そのためには、例えば、短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの共振器内に、スペクトルに依存する損失を有する光学素子を挿入することにより、他のスペクトル成分P(18)、P(16)、P(14)等の発振を促進すれば良い。スペクトルに依存する損失を有する素子としては、例えば、エタロンが用いられる。このエタロンを調整することにより、マルチライン発振が可能となる。エタロンの材質は、ZnSe、Irtran−2等のように、10.6μmの波長に対して高透過率を有するものを使用することが望ましい。
【0024】
そのような波長依存透過率を有するエタロンを共振器内に挿入し、ピーク強度の高いスペクトル成分の強度を抑制すると共に、ピーク強度の低いスペクトル成分の強度が低下しないようにエタロンを調整する。それにより、図2の(b)に示すように、発振スペクトルの強度を平滑化することができる。即ち、発振スペクトルの強度をほぼ揃えることになり、当初、発振強度が低かったスペクトル成分を増幅することが可能となる。
本実施形態においては、光軸に対するエタロンの傾斜又は温度を調整することにより、エタロンが図2の(a)の破線に示すような波長依存透過特性を示すように透過率を制御している。
【0025】
次に、短パルス−マルチスペクトルCO2レーザを実現するための具体的な構成について、図3〜図7を参照しながら説明する。
図3は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第1の実施例を示す模式図である。図3の(a)に示すように、本実施例に係る短パルス−マルチスペクトルCO2レーザは、レーザ媒質100と、共振器を構成するリアミラー101及びフロントミラー102と、エタロン103と、偏光ビームスプリッタ104及び106と、ポッケルスセル(PC)105とを含んでいる。
種レーザは、リアミラー101及びフロントミラー102間を往復しながらレーザ媒質100を通過することにより、CW(連続発振)励起又はパルス励起する。その際に、先に述べたように、レーザ光に含まれる複数のスペクトル成分について、発振強度の抑制及び増幅が行わせる。
【0026】
偏光ビームスプリッタ104及び106は、p偏光を入射光の進行方向と同じ方向に出射し、s偏光を入射光とほぼ直角を為す方向(図の上方)に出射することにより、入射光をp偏光とs偏光とに分離する。
また、ポッケルスセル(Qスイッチ)とは、結晶に電界を印加することにより結晶の屈折率や異方性が変化するというEO効果(electro optic:電気光学効果)を利用した光学素子である。このポッケルスセルに印加される電界を制御することにより、それを透過する光の偏光面を所望の角度だけ回転させることができる。本実施例においては、ポッケルスセル105により、光の偏光面をλ/2(90°)回転させる。即ち、活性化されたポッケルスセルを1回透過することにより、p偏光はs偏光となり、s偏光はp偏光となる。
【0027】
ポッケルスセル105を所定のタイミングで活性化及び非活性化させることにより、リアミラー101及びフロントミラー102によって構成される共振器の外部に出射するレーザ光を、所望のパルス幅に切り出す。これにより、図3の(b)に示すように、マルチライン発振したレーザ光を短パルス化することができる。
【0028】
図4は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第2の実施例を示す模式図である。本実施例においては、レーザ光を共振器内部において短パルス化している。
図4の(a)に示す短パルス−マルチスペクトルCO2レーザは、図3の(a)に示す構成に対して、リアミラー101及びアウトプットカップラー(カプラ)110によって共振器を構成しており、さらに、共振器の内部に偏光ビームスプリッタ104、ポッケルスセル105、及び、λ/4波長板111を配置している。本実施例においては、ポッケルスセル105により、光の偏光面をλ/4(45°)回転させる。即ち、活性化されたポッケルスセルを1回往復することにより、p偏光はs偏光となり、s偏光はp偏光となる。また、λ/4波長板111は、そこを通過する光の偏光面をλ/4(45°)回転させる。
【0029】
また、図4の(b)に示す短パルス−マルチスペクトルCO2レーザは、図4の(a)に示す構成に対して、アウトプットカップラー110の替わりに高反射(HR)ミラー112を配置することにより共振器を構成している。また、図4の(b)においては、ポッケルスセル105のスイッチングを制御することにより、レーザ光を図の上方に取り出しており、そのために、取り出されたレーザ光の方向を変化させるための反射ミラー113を配置している。なお、このような構成は、Qスイッチ・キャビティ・ダンプ・レーザ(Q-switched cavity-dumped laser)と呼ばれる。
【0030】
本実施例におけるように、エタロン103を通過することによってマルチライン発振したレーザ光を、ポッケルスセル105のスイッチング制御により共振器内部において短パルス化する場合には、次のような利点がある。即ち、短パルス化しつつレーザ光を発振することにより、共振器外部においてパルスを切り出す場合におけるような切り落とし分に対応するエネルギー低下がなくなるので、発振効率が高くなる。
【0031】
図5は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第3の実施例を示す模式図である。本実施例においては、レーザ光を短パルス化する手段として、光スイッチ素子を用いている。
図5の(a)に示す短パルス−マルチスペクトルCO2レーザにおいては、図3の(a)に示す偏光ビームスプリッタ104及び106並びにポッケルスセル105の替わりに、光スイッチ素子として、ゲルマニウム(Ge)ブリュースタープレート(ゲルマニウムミラー)120が配置されている。また、Geブリュースタープレート120に照射される短パルスレーザ光を出射する短パルスレーザ装置(例えば、Nd:YAGレーザ)121が設けられている。
【0032】
Geブリュースタープレート120は、通常、共振器から出射したレーザ光の光軸に対してブリュースター角を為すように配置されている。このGeブリュースタープレート120にレーザ光を照射すると、レーザ光が照射されている間だけプレート表面の屈折率が変化する。その結果、Geブリュースタープレート120のブリュースター角も変化するので、共振器から出射したレーザ光が反射するようになる。従って、Geブリュースタープレート120に、所望の幅を有する短パルスレーザ光を照射することにより、図5の(b)に示すように、マルチライン発振したレーザ光を短パルス化することができる。
【0033】
図6は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第4の実施例を示す模式図である。本実施形例においては、レーザー光を短パルス化する手段として、プラズマシャッターを用いている。
図6の(a)に示す短パルス−マルチスペクトルCO2レーザは、共振器を構成するリアミラー101及びアウトプットカップラー130と、共振器内に配置されたレーザ媒質100及びエタロン103と、レーザ光を集光する集光光学系(例えば、集光レンズ)131とを含んでいる。
【0034】
共振器内において発振したレーザ光を共振器外に出射し、集光光学系131によりレーザ光を集光して気体中にプラズマ132を発生させる。このプラズマ132はレーザ光を吸収するので、レーザパルスの後半が吸収されてしまい、その結果、図6の(b)に示すように、レーザパルスが切り出されて短パルス化される。この気体(プラズマガス)は空気であっても良いし、ヘリウム(He)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)等であっても良い。後者の場合には、それらのプラズマガスが封入されたガスセル内でプラズマを発生させてもよい。
【0035】
図7は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第5の実施例を示す模式図である。以上説明した第1〜第4の実施例においては、エタロンを用いてレーザ光のマルチライン発振を行っているが、エタロンの替わりに、グレーティング、プリズム等の光学素子やそれらの組み合わせを波長選択手段(マルチライン発振手段)として用いてもよい。
【0036】
例えば、図7の(a)に示すように、グレーティング140及びフロントミラー102を用いて共振器を構成する。このような構成において、グレーティングを回転させることにより、発振波長、即ち、発振スペクトルの強度を調整することができる。或いは、図7の(a)に示すグレーティング140の替わりに、プリズムを配置しても良い。
【0037】
また、図7の(b)に示すように、リアミラー150及びフロントミラー102を用いて共振器を構成すると共に、共振器内部にプリズム151を配置しても良い。この場合には、リアミラー150及びプリズム151の両方を回転させることにより、発振波長を調整することができる。
このような波長選択手段としてグレーティングやプリズムを用いる構成は、第1〜第4の実施例に適用することができる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施形態に係るドライバーレーザについて、図8及び図9を参照しながら説明する。本実施形態においては、図1に示すドライバーレーザにおける発振段レーザとして、固体レーザを用いることを特徴としている。また、増幅段レーザとしては、CO2レーザが用いられる。
【0039】
図8に示すように、本実施形態においては、10μm付近の波長域におけるマルチモード発振を実現するために、固体レーザ160と共に、光パラメトリック発振手段としての2種類の非線形結晶(非線形結晶A:161、及び、非線形結晶B:162)とが用いられる。また、望ましくは、光パラメトリック発振手段の後段に、スペクトル整合器163を設けるようにする。
【0040】
固体レーザ160としては、例えば、660nm〜900nm付近の波長域で発振するチタンサファイヤレーザが用いられる。また、非線形結晶A161の結晶としては、例えば、BBOが用いられる。この非線形結晶A161を、固体レーザ160の発振波長λ1に対して位相整合することにより、1/λ1=1/λ2+1/λ3の関係に従って、非線形結晶A:161から、波長λ2を有する波長成分(波長成分λ2)と波長λ3を有する波長成分(波長成分λ3)とが出力される。それらの波長成分λ2及びλ3に対して、非線形結晶B:162を位相整合することにより、波長成分λ2と波長成分λ3との差周波に相当する波長λ4が得られる。非線形結晶B:162としては、例えば、AgGaS2やHgGa2S2が用いられ、それにより差周波において、9μm〜12μm域の広帯域なレーザ光が得られる。これは、チタンサファイヤレーザのように、広帯域発振が可能なレーザ装置を用いる場合に実現することができる。例えば、非特許文献3及び非特許文献4には、λ1=950nmとした場合に、λ2=1400.88nm、λ3=1614.21nmとすることにより、λ4=10600nmを得ることが記載されている。
【0041】
このようにして得られた波長λ4の光パルスは、広帯域ではあるが、連続的なスペクトル波形を有している。スペクトル整合器163は、このような光パルスを、櫛状のスペクトル波形を有する光パルスに変換する。ここで、発振段レーザの後段に設けられるCO2レーザ増幅器の利得スペクトルは櫛状の波形を有しているので、連続的なスペクトル波形を有する光パルスをそのまま入射しても、効率良く増幅することができないからである。
【0042】
スペクトル整合器163としては、例えば、CO2レーザの再生増幅器を利用することができる。再生増幅器は、レーザ共振器の中に、ポッケルスセルと偏光ビームスプリッタとによって構成される光ゲートを挿入したものである。
【0043】
図9に示すスペクトル整合器163は、反射ミラー171及び177と、ポッケルスセル(PC)172及び176と、偏光ビームスプリッタ173及び175と、CO2レーザ媒質174とを有している。
反射ミラー171及び177、並びに、CO2レーザ媒質174は、共振器を構成している。
【0044】
ポッケルスセル172及び176は、活性化されることにより、そこを通過する光の偏光面をλ/4(45°)回転させる。即ち、活性化されたポッケルスセル172及び176を1回往復することにより、s偏光はp偏光となり、s偏光はp偏光となる。また、偏光ビームスプリッタ173及び175は、入射したs偏光を、入射方向とほぼ直角を為す角度の方向に反射すると共に、入射したp偏光をそのまま通過させる。これらのポッケルスセル172及び偏光ビームスプリッタ173が入力用光ゲートを構成し、ポッケルスセル176及び偏光ビームスプリッタ175が出力用光ゲートを構成する。
【0045】
共振器に光パルスを入力する場合には、ポッケルスセル172が活性化される。そして、光パルスを偏光ビームスプリッタ173に入射することにより、光パルスのs偏光成分が反射されて、ポッケルスセル172の方向に導かれる。さらに、そのs偏光成分は、反射ミラー171を介してポッケルスセル172を往復することにより、偏光面を90°回転させられる。その後に、ポッケルスセル172を非活性化することにより、光パルス(p偏光)は反射ミラー171と反射ミラー177との間を、CO2レーザ媒質174を介して往復する。
【0046】
CO2レーザ媒質174は、櫛状の利得スペクトルを有している。そのため、光パルスがCO2レーザ媒質174を通過する毎に、共振器への入力時に有していた連続的なスペクトル成分の内で、CO2の櫛状スペクトルと一致する波長成分のみが増幅される。従って、光パルスに共振器内を往復させて、レーザ媒質を何度も通過させることにより、連続的なスペクトルから、CO2の増幅スペクトルに完全に一致する櫛状のスペクトル(マルチスペクトル、マルチライン)を有する光パルスを生成することができる。
【0047】
また、共振器から光パルスを出力する場合には、ポッケルスセル176が活性化される。それにより、反射ミラー177を介してポッケルスセル176を往復した光パルスは、偏光面を90°回転させられる。その結果、光パルス(s偏光)は、偏光ビームスプリッタ175によって反射されて、共振器から出射する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、半導体ウエハ等を露光する極端紫外光を発生するLPP型EUV光源のターゲットへ光を照射するドライバーレーザにおいて利用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…ドライバーレーザ、2…EUV光発生チャンバ、3…ターゲット物質供給部3、4…光学系、5…ターゲット物質、6…レーザ光、7…レーザ光、8…集光ミラー、10…短パルスCO2(炭酸ガス)レーザドライバー、11…発振器、12…増幅器、21…窓、31…噴射ノズル、32…ターゲット回収筒、100、174…レーザ媒質、101、150…リアミラー、102…フロントミラー、103…エタロン、104、106、173、175…偏光ビームスプリッタ、105、172、176…ポッケルスセル(PC)、110、130…アウトプットカップラー、111…λ/4波長板、112…高反射(HR)ミラー、113、171、177…反射ミラー、120…光スイッチ素子、121…短パルスレーザ、131…集光光学系、132…プラズマ140…グレーティング、151…プリズム、160…チタンサファイヤレーザ、161…非線形結晶A、162…非線形結晶B
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等を露光するために用いられる極端紫外光を発生するLPP(Laser Produced Plasma)型EUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外)光源装置に関し、特に、LPP型EUV光源装置においてターゲットに光を照射するドライバーレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体プロセスの微細化に伴い、光リソグラフィの微細化も急速に進展しており、次世代においては、100nm〜70nmの微細加工、さらには50nm以下の微細加工が要求されるようになっている。そのため、例えば、50nm以下の微細加工に応じるべく、波長13nm程度の極端紫外光を発生するEUV光源と縮小投影反射光学系(catadioptric system)とを組み合わせた露光装置の開発が期待されている。
【0003】
そのようなEUV光源装置においては、一般に、駆動用光源(ドライバー)として短パルスレーザが用いられる。短パルスレーザは、LPP型EUV光源装置において高いCE(conversion efficiency:照射レーザ光からEUV光への変換効率)を得るのに適しているからである。
【0004】
図10は、ドライバーとして用いられる発振増幅型レーザの構成を示す概略図である。
図10に示す発振増幅型レーザ10は、短パルスCO2レーザによって構成される発振器11と、短パルスCO2レーザが発生したレーザ光を増幅する増幅器12とを含んでいる。ここで、増幅器12が光共振器を持たない場合に、そのような構成を有するレーザシステムは、MOPA(Master Oscillator Power Amplifier)システムと呼ばれる。増幅器12は、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、ヘリウム(He)、さらに、必要に応じて、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、キセノン(Xe)等を含むCO2レーザガスを放電によって励起する放電装置を有している。
なお、図10に示す増幅器12と異なり、増幅段に共振器を設ける場合には、増幅段単体によるレーザ発振が可能である。そのような構成を有するレーザシステムは、MOPO(Master Oscillator Power Oscillator)システムと呼ばれる。
【0005】
発振器11から出射したエネルギーAを有するレーザ光は、増幅器12において所望のエネルギーBを有するレーザ光に増幅される。このエネルギーBを有するレーザ光は、レーザ光伝播系を通して、又は、レンズによって集光されて、錫(Sn)やキセノン等から選択されるEUV発光ターゲット物質に照射される。
ここで、図10においては、レーザエネルギーAをレーザエネルギーBまで増幅するために、増幅器を1段しか設けていないが、所望のレーザエネルギーBが得られない場合には、複数段の増幅器を用いてもよい。
【0006】
次に、発振器である短パルスCO2レーザの構成例について説明する。特許文献1には、短パルスRF(Radio Frequency励起)−CO2レーザの構成が開示されている(特許文献1の図5)。このRF−CO2レーザにおいては、100kHz程度までレーザパルスの高繰り返し運転が可能である。実用上は、100W級のEUV発光を得る必要があるが、CO2レーザによるCEを0.5%と見積り、さらに伝播損失を70%と見積もると、CO2レーザに求められる出力は60kW程度になる。60kWの出力を短パルスレーザにおいて達成するためには、光学素子等の耐久性等を考慮すると、50kHz〜100kHz程度の繰り返し周波数が必要となる。
【0007】
その理由は次の通りである。CO2レーザの出力をEtotal、パルス発振の繰返し周波数をfi(i=1,2,3,…)、1つのパルスの光エネルギーをEpj(j=1,2,3,…)とすると、Etotal=f1×Ep1=f2×Ep2という関係がある。ここで、Epが大きい場合には、レーザ光が透過する光学素子に与えられるダメージも大きくなるので、光学素子の劣化が早くなる。そのため、Epは小さい方が望ましい。そこで、所望のEtotalを得るためにEpを小さくして、周波数fiを大きくすれば良い。
【0008】
このような高繰り返しを実現するためには、RF(Radio Frequency励起)−CO2レーザを用いることが適当である。その理由は、パルスCO2レーザとしては、この他にもTEA(Transverse Excitation Atmospheric)−CO2レーザがあるが、現状の技術では、2kHz程度の動作が限界だからである。
【0009】
特許文献1の図5を参照すると、このレーザ装置は、マルチパス導波管レーザ発振器(Multipass Waveguide Laser Oscillator)400とマルチパス導波管レーザ増幅器(Multipass Waveguide Laser Amplifier)400aとを含んでいる。発振器400の共振器は全反射ミラー408及び406によって構成されている。これらのミラー間に、Qスイッチ、RF放電部、及び、偏光薄膜(Thin Film Polarizer:TFP)が設けてある。Qスイッチがオフの時には、レーザ光がミラー408とミラー406との間を往復し、その際の誘導放出によって光強度が増加する。この光強度が十分に増加したところでQスイッチをオンにすると、ピークの立った短パルスがTFP404において反射され、ミラー409及びλ/2波長板を経由して、図5の下部に示されているマルチパス導波管レーザ増幅器(Multipass Waveguide Laser Amplifier)400aに導入される。そして、導入された光が増幅器(Amplifier)において増幅され、レーザ光が外部に出射する。このような構成を有するレーザは、Qスイッチ・キャビティダンプ・レーザ(Q-switched cavity-dumped laser)と呼ばれている。
また、非特許文献1〜5にも、関連する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許6,697,408(図5)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】神成文彦、「高気圧CO2レーザー媒質によるピコ秒パルスの増幅に関する計算機シミュレーション」、レーザー研究、1988年8月、第17号、第2号、p.45
【非特許文献2】遠藤(A. Endoh)他、「TEA CO2レーザのマルチライン発振における温度制御(Temperature control of multilane oscillation of a TEA CO2 laser)」、ジャーナル・オブ・アプライド・フィジックス(Journal of Applied Physics)50(8)、1979年8月、p.5176
【非特許文献3】ポゴレルスキー(I. V. Pogorelsky)他、「サブナノ秒・マルチ−ギガワットCO2レーザ(Subnanosecond Multi-Gigawatt CO2 laser)、IEEE ジャーナル・オブ・カンタム・エレクトロニクス(IEEE Journal of quantum electronics)、1995年3月、第31巻、第3号、p.556
【非特許文献4】ロタームンド(F. Rotermund)他、「HgGa2S4及びAgGaS2を用いた中赤外(4−12μm)における極フェムト秒パルスの差周波生成(Difference-frequency generation of intense femtosecond pulses in the mid-IR (4-12μm) using HgGa2S4 and AgGaS2)、オプティクス・コミュニケーションズ(Optics Communications)185、2000年、p.177−183
【非特許文献5】ペトロフ(V. Petrov)他、「光学結晶における秒オーダーの非線形処理による3〜12μmの中赤外スペクトル域における1kHzの高出力フェムト秒光パルスの発生(Generation of high-power femtosecond light pulses at 1 kHz in the mid-infrared spectral range between 3 and 12 μm by second-order nonlinear processes in optical crystals)」、ジャーナル・オブ・オプティクスA:純粋光学及び応用光学3(Journal of Optics A: Pure and Applied Optics. 3)、2001年、R1−R19
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術におけるように、Qスイッチを用いたRF−CO2短パルスレーザにおいては、レーザガス圧が低圧(一般的には、40Torr〜100Torr)であるために、各CO2レーザ遷移の広がりが十分でなく、利得スペクトルは櫛状に変調される。即ち、レーザガスが低圧化している場合には、図11に示すように、CO2レーザの発振スペクトルは連続的ではなく離散的になる。その結果、非特許文献1に記載されているように、誘導放出による増幅過程における利得、その飽和、及び、パルス波形は、利得スペクトルとレーザパルスのスペクトルとの整合度に依存する。
【0013】
ところで、先に述べたMOPA又はMOPO方式レーザのように、発振段レーザの出力光を後段の増幅器へ入力して増幅する場合には、発振段レーザの出力スペクトルが増幅効率に大きく影響する。例えば、発振段レーザが単一スペクトル、即ち、特定の狭い波長帯域内に光エネルギーが集中している場合には、増幅段において利得が飽和し易くなる。このような単一スペクトルレーザ光を、先に述べたMOPA又はMOPO方式レーザの増幅段に入力して増幅する場合には、増幅可能なスペクトルが1本に限られてしまうので、マルチスペクトル(マルチライン)増幅可能な増幅段における増幅効率が低下してしまう。即ち、増幅に寄与するスペクトルは1本であり、残りのスペクトルはレーザ発振しないため、増幅に寄与することなく、多くの利得が無駄になってしまう。これは、増幅段の増幅において高出力が得られないことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る極端紫外光源装置用ドライバーレーザは、(i)短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、レーザ装置から出力される短パルスレーザ光を光パラメトリック発振により広帯域化する光パラメトリック発振装置とを有し、短パルス・マルチライン発振を行う短パルス・マルチライン発振レーザ発振器と、(ii)該短パルス・マルチライン発振レーザ発振器から出力されるレーザ光を入力し、該レーザ光を櫛状の利得スペクトルで増幅して出力する少なくとも1つのCO2レーザ増幅器とを具備し、短パルス・マルチライン発振レーザ発振器が、CO2レーザの再生増幅器を用いてレーザ光を櫛状のスペクトルを有する光パルスに変換することにより、光パラメトリック発振装置によって広帯域化されたレーザ光を少なくとも1つの増幅器の利得スペクトルに整合させるスペクトル整合器をさらに有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、短パルス化されたレーザ光のエネルギーピーク値を示す発振スペクトルの発振を抑制するので、増幅器における増幅効率を上げて、短パルスレーザ光を高いレベルまで増幅することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る極端紫外光源用ドライバーレーザが適用されるLPP型EUV光源装置の概要を示す模式図である。
【図2】エタロンによる高強度発振スペクトルの抑制と発振スペクトル強度の平滑化の原理を示す。
【図3】第1の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図4】第2の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図5】第3の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図6】第4の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図7】第5の実施例に係る短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザの構成を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる発振段レーザの構成を示す模式図である。
【図9】図8に示すスペクトル整合器の構成例を示す模式図である。
【図10】発振増幅型レーザの構成を示す概略図である。
【図11】CO2レーザの低ガス圧動作時における発振スペクトルと、その時のパルス波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明に係る極端紫外光源用ドライバーレーザ(以下において、単に「ドライバーレーザ」とも言う)が適用されるLPP型EUV光源装置の概要を示す模式図である。図1に示すように、このLPP型EUV光源装置は、ドライバーレーザ1と、EUV光発生チャンバ2と、ターゲット物質供給部3と、光学系4とを含んでいる。
【0018】
ドライバーレーザ1は、ターゲット物質を励起させるために用いられる駆動用のレーザ光を発生する発振増幅型レーザ装置である。ドライバーレーザ1の構成については、後で詳しく説明する。
EUV光発生チャンバ2は、EUV光の生成が行われる真空チャンバである。EUV光発生チャンバ2には、ドライバーレーザ1から発生したレーザ光6をEUV光発生チャンバ2内に透過させるための窓21が設けられている。また、EUV光発生チャンバ2の内部には、ターゲット噴射ノズル31と、ターゲット回収筒32と、集光ミラー8とが配置されている。
【0019】
ターゲット物質供給部3は、EUV光を発生するために用いられるターゲット物質を、ターゲット物質供給部3の一部であるターゲット噴射ノズル31を介して、EUV光発生チャンバ2内に供給する。供給されたターゲット物質の内、レーザ光が照射されずに不要となったものは、ターゲット回収筒32によって回収される。ターゲット物質としては、公知の様々な材料を用いることができる。また、ターゲット物質の状態は、固体、液体、気体のいずれでも良く、連続流れ(ターゲット噴流)や液滴(ドロップレット)等の公知のいずれの態様でEUV光発生チャンバ2内の空間に供給しても良い。例えば、ターゲット物質として液体のキセノン(Xe)液体ターゲットを用いる場合には、ターゲット物質供給部3は、高純度キセノンガスを供給するガスボンベ、マスフローコントローラ、キセノンガスを液化するための冷却装置、ターゲット噴射ノズル等によって構成される。また、ドロップレットを生成する場合には、それらを含む構成に、ピエゾ素子等の加振装置が追加される。
【0020】
光学系4は、例えば、集光レンズを含んでおり、ドライバーレーザ1から出射したレーザ光6を、ターゲット物質の軌道上に焦点を形成するように集光する。それにより、ターゲット物質5が励起してプラズマ化し、EUV光7が発生する。
集光ミラー8は、例えば、13.5nmの光を高反射率で反射するMo/Si膜がその表面に形成された凹面鏡であり、発生したEUV光7を反射することにより集光して伝送光学系に導く。さらに、このEUV光は、伝送光学系を介して露光装置等へ導かれる。なお、図1において、集光ミラー8は、紙面の手前方向にEUV光を集光する。
【0021】
次に、本発明の第1の実施形態に係るドライバーレーザについて説明する。本実施形態においては、図1に示すドライバーレーザ1(発振増幅型レーザ装置)における発振段レーザとして、短パルス−マルチスペクトル(マルチライン)CO2レーザを使用することを特徴としている。この短パルス−マルチスペクトルCO2レーザを用いることにより、増幅段における増幅能力を高効率に活用することができるので、増幅段により高出力短パルスを得ることが可能となる。このような短パルス−マルチスペクトルCO2レーザを発振段とする発振増幅型レーザを、キセノン(Xe)や錫(Sn)等のターゲット物質にレーザ光を照射することによりEUV光を発生するLPP型EUV光源装置において、レーザ光照射源として用いる。それにより、高エネルギー短パルスのレーザ光がターゲット物質に照射されるので、照射レーザ光からEUV光への変換効率が高くなり、且つ、100W級のEUV光発生を実現するという先に述べた目的を達成するのに有用である。
【0022】
また、本実施形態においては、短パルスCO2レーザを用いてマルチライン発振を行うために、発振スペクトルの制御を行っている。図2は、短パルス−マルチスペクトルCO2レーザにおいて行われる高強度発振スペクトル成分の抑制と発振スペクトル強度の平滑化の原理を説明するための図である。
【0023】
ここで、レーザ光には、互いに異なる強度を有する複数の発振スペクトル成分が存在する。図2の(a)に示すように、CO2レーザ光においては、スペクトル成分P(20)に発振スペクトルのピークがある。このスペクトル成分P(20)の発振を押さえて、他のスペクトル成分P(18)、P(16)、P(14)等の発振を促すことができれば、マルチスペクトル(マルチライン)発振を実現することができる。そのためには、例えば、短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの共振器内に、スペクトルに依存する損失を有する光学素子を挿入することにより、他のスペクトル成分P(18)、P(16)、P(14)等の発振を促進すれば良い。スペクトルに依存する損失を有する素子としては、例えば、エタロンが用いられる。このエタロンを調整することにより、マルチライン発振が可能となる。エタロンの材質は、ZnSe、Irtran−2等のように、10.6μmの波長に対して高透過率を有するものを使用することが望ましい。
【0024】
そのような波長依存透過率を有するエタロンを共振器内に挿入し、ピーク強度の高いスペクトル成分の強度を抑制すると共に、ピーク強度の低いスペクトル成分の強度が低下しないようにエタロンを調整する。それにより、図2の(b)に示すように、発振スペクトルの強度を平滑化することができる。即ち、発振スペクトルの強度をほぼ揃えることになり、当初、発振強度が低かったスペクトル成分を増幅することが可能となる。
本実施形態においては、光軸に対するエタロンの傾斜又は温度を調整することにより、エタロンが図2の(a)の破線に示すような波長依存透過特性を示すように透過率を制御している。
【0025】
次に、短パルス−マルチスペクトルCO2レーザを実現するための具体的な構成について、図3〜図7を参照しながら説明する。
図3は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第1の実施例を示す模式図である。図3の(a)に示すように、本実施例に係る短パルス−マルチスペクトルCO2レーザは、レーザ媒質100と、共振器を構成するリアミラー101及びフロントミラー102と、エタロン103と、偏光ビームスプリッタ104及び106と、ポッケルスセル(PC)105とを含んでいる。
種レーザは、リアミラー101及びフロントミラー102間を往復しながらレーザ媒質100を通過することにより、CW(連続発振)励起又はパルス励起する。その際に、先に述べたように、レーザ光に含まれる複数のスペクトル成分について、発振強度の抑制及び増幅が行わせる。
【0026】
偏光ビームスプリッタ104及び106は、p偏光を入射光の進行方向と同じ方向に出射し、s偏光を入射光とほぼ直角を為す方向(図の上方)に出射することにより、入射光をp偏光とs偏光とに分離する。
また、ポッケルスセル(Qスイッチ)とは、結晶に電界を印加することにより結晶の屈折率や異方性が変化するというEO効果(electro optic:電気光学効果)を利用した光学素子である。このポッケルスセルに印加される電界を制御することにより、それを透過する光の偏光面を所望の角度だけ回転させることができる。本実施例においては、ポッケルスセル105により、光の偏光面をλ/2(90°)回転させる。即ち、活性化されたポッケルスセルを1回透過することにより、p偏光はs偏光となり、s偏光はp偏光となる。
【0027】
ポッケルスセル105を所定のタイミングで活性化及び非活性化させることにより、リアミラー101及びフロントミラー102によって構成される共振器の外部に出射するレーザ光を、所望のパルス幅に切り出す。これにより、図3の(b)に示すように、マルチライン発振したレーザ光を短パルス化することができる。
【0028】
図4は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第2の実施例を示す模式図である。本実施例においては、レーザ光を共振器内部において短パルス化している。
図4の(a)に示す短パルス−マルチスペクトルCO2レーザは、図3の(a)に示す構成に対して、リアミラー101及びアウトプットカップラー(カプラ)110によって共振器を構成しており、さらに、共振器の内部に偏光ビームスプリッタ104、ポッケルスセル105、及び、λ/4波長板111を配置している。本実施例においては、ポッケルスセル105により、光の偏光面をλ/4(45°)回転させる。即ち、活性化されたポッケルスセルを1回往復することにより、p偏光はs偏光となり、s偏光はp偏光となる。また、λ/4波長板111は、そこを通過する光の偏光面をλ/4(45°)回転させる。
【0029】
また、図4の(b)に示す短パルス−マルチスペクトルCO2レーザは、図4の(a)に示す構成に対して、アウトプットカップラー110の替わりに高反射(HR)ミラー112を配置することにより共振器を構成している。また、図4の(b)においては、ポッケルスセル105のスイッチングを制御することにより、レーザ光を図の上方に取り出しており、そのために、取り出されたレーザ光の方向を変化させるための反射ミラー113を配置している。なお、このような構成は、Qスイッチ・キャビティ・ダンプ・レーザ(Q-switched cavity-dumped laser)と呼ばれる。
【0030】
本実施例におけるように、エタロン103を通過することによってマルチライン発振したレーザ光を、ポッケルスセル105のスイッチング制御により共振器内部において短パルス化する場合には、次のような利点がある。即ち、短パルス化しつつレーザ光を発振することにより、共振器外部においてパルスを切り出す場合におけるような切り落とし分に対応するエネルギー低下がなくなるので、発振効率が高くなる。
【0031】
図5は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第3の実施例を示す模式図である。本実施例においては、レーザ光を短パルス化する手段として、光スイッチ素子を用いている。
図5の(a)に示す短パルス−マルチスペクトルCO2レーザにおいては、図3の(a)に示す偏光ビームスプリッタ104及び106並びにポッケルスセル105の替わりに、光スイッチ素子として、ゲルマニウム(Ge)ブリュースタープレート(ゲルマニウムミラー)120が配置されている。また、Geブリュースタープレート120に照射される短パルスレーザ光を出射する短パルスレーザ装置(例えば、Nd:YAGレーザ)121が設けられている。
【0032】
Geブリュースタープレート120は、通常、共振器から出射したレーザ光の光軸に対してブリュースター角を為すように配置されている。このGeブリュースタープレート120にレーザ光を照射すると、レーザ光が照射されている間だけプレート表面の屈折率が変化する。その結果、Geブリュースタープレート120のブリュースター角も変化するので、共振器から出射したレーザ光が反射するようになる。従って、Geブリュースタープレート120に、所望の幅を有する短パルスレーザ光を照射することにより、図5の(b)に示すように、マルチライン発振したレーザ光を短パルス化することができる。
【0033】
図6は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第4の実施例を示す模式図である。本実施形例においては、レーザー光を短パルス化する手段として、プラズマシャッターを用いている。
図6の(a)に示す短パルス−マルチスペクトルCO2レーザは、共振器を構成するリアミラー101及びアウトプットカップラー130と、共振器内に配置されたレーザ媒質100及びエタロン103と、レーザ光を集光する集光光学系(例えば、集光レンズ)131とを含んでいる。
【0034】
共振器内において発振したレーザ光を共振器外に出射し、集光光学系131によりレーザ光を集光して気体中にプラズマ132を発生させる。このプラズマ132はレーザ光を吸収するので、レーザパルスの後半が吸収されてしまい、その結果、図6の(b)に示すように、レーザパルスが切り出されて短パルス化される。この気体(プラズマガス)は空気であっても良いし、ヘリウム(He)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)等であっても良い。後者の場合には、それらのプラズマガスが封入されたガスセル内でプラズマを発生させてもよい。
【0035】
図7は、本実施形態に係るドライバーレーザにおいて用いられる短パルス−マルチスペクトルCO2レーザの第5の実施例を示す模式図である。以上説明した第1〜第4の実施例においては、エタロンを用いてレーザ光のマルチライン発振を行っているが、エタロンの替わりに、グレーティング、プリズム等の光学素子やそれらの組み合わせを波長選択手段(マルチライン発振手段)として用いてもよい。
【0036】
例えば、図7の(a)に示すように、グレーティング140及びフロントミラー102を用いて共振器を構成する。このような構成において、グレーティングを回転させることにより、発振波長、即ち、発振スペクトルの強度を調整することができる。或いは、図7の(a)に示すグレーティング140の替わりに、プリズムを配置しても良い。
【0037】
また、図7の(b)に示すように、リアミラー150及びフロントミラー102を用いて共振器を構成すると共に、共振器内部にプリズム151を配置しても良い。この場合には、リアミラー150及びプリズム151の両方を回転させることにより、発振波長を調整することができる。
このような波長選択手段としてグレーティングやプリズムを用いる構成は、第1〜第4の実施例に適用することができる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施形態に係るドライバーレーザについて、図8及び図9を参照しながら説明する。本実施形態においては、図1に示すドライバーレーザにおける発振段レーザとして、固体レーザを用いることを特徴としている。また、増幅段レーザとしては、CO2レーザが用いられる。
【0039】
図8に示すように、本実施形態においては、10μm付近の波長域におけるマルチモード発振を実現するために、固体レーザ160と共に、光パラメトリック発振手段としての2種類の非線形結晶(非線形結晶A:161、及び、非線形結晶B:162)とが用いられる。また、望ましくは、光パラメトリック発振手段の後段に、スペクトル整合器163を設けるようにする。
【0040】
固体レーザ160としては、例えば、660nm〜900nm付近の波長域で発振するチタンサファイヤレーザが用いられる。また、非線形結晶A161の結晶としては、例えば、BBOが用いられる。この非線形結晶A161を、固体レーザ160の発振波長λ1に対して位相整合することにより、1/λ1=1/λ2+1/λ3の関係に従って、非線形結晶A:161から、波長λ2を有する波長成分(波長成分λ2)と波長λ3を有する波長成分(波長成分λ3)とが出力される。それらの波長成分λ2及びλ3に対して、非線形結晶B:162を位相整合することにより、波長成分λ2と波長成分λ3との差周波に相当する波長λ4が得られる。非線形結晶B:162としては、例えば、AgGaS2やHgGa2S2が用いられ、それにより差周波において、9μm〜12μm域の広帯域なレーザ光が得られる。これは、チタンサファイヤレーザのように、広帯域発振が可能なレーザ装置を用いる場合に実現することができる。例えば、非特許文献3及び非特許文献4には、λ1=950nmとした場合に、λ2=1400.88nm、λ3=1614.21nmとすることにより、λ4=10600nmを得ることが記載されている。
【0041】
このようにして得られた波長λ4の光パルスは、広帯域ではあるが、連続的なスペクトル波形を有している。スペクトル整合器163は、このような光パルスを、櫛状のスペクトル波形を有する光パルスに変換する。ここで、発振段レーザの後段に設けられるCO2レーザ増幅器の利得スペクトルは櫛状の波形を有しているので、連続的なスペクトル波形を有する光パルスをそのまま入射しても、効率良く増幅することができないからである。
【0042】
スペクトル整合器163としては、例えば、CO2レーザの再生増幅器を利用することができる。再生増幅器は、レーザ共振器の中に、ポッケルスセルと偏光ビームスプリッタとによって構成される光ゲートを挿入したものである。
【0043】
図9に示すスペクトル整合器163は、反射ミラー171及び177と、ポッケルスセル(PC)172及び176と、偏光ビームスプリッタ173及び175と、CO2レーザ媒質174とを有している。
反射ミラー171及び177、並びに、CO2レーザ媒質174は、共振器を構成している。
【0044】
ポッケルスセル172及び176は、活性化されることにより、そこを通過する光の偏光面をλ/4(45°)回転させる。即ち、活性化されたポッケルスセル172及び176を1回往復することにより、s偏光はp偏光となり、s偏光はp偏光となる。また、偏光ビームスプリッタ173及び175は、入射したs偏光を、入射方向とほぼ直角を為す角度の方向に反射すると共に、入射したp偏光をそのまま通過させる。これらのポッケルスセル172及び偏光ビームスプリッタ173が入力用光ゲートを構成し、ポッケルスセル176及び偏光ビームスプリッタ175が出力用光ゲートを構成する。
【0045】
共振器に光パルスを入力する場合には、ポッケルスセル172が活性化される。そして、光パルスを偏光ビームスプリッタ173に入射することにより、光パルスのs偏光成分が反射されて、ポッケルスセル172の方向に導かれる。さらに、そのs偏光成分は、反射ミラー171を介してポッケルスセル172を往復することにより、偏光面を90°回転させられる。その後に、ポッケルスセル172を非活性化することにより、光パルス(p偏光)は反射ミラー171と反射ミラー177との間を、CO2レーザ媒質174を介して往復する。
【0046】
CO2レーザ媒質174は、櫛状の利得スペクトルを有している。そのため、光パルスがCO2レーザ媒質174を通過する毎に、共振器への入力時に有していた連続的なスペクトル成分の内で、CO2の櫛状スペクトルと一致する波長成分のみが増幅される。従って、光パルスに共振器内を往復させて、レーザ媒質を何度も通過させることにより、連続的なスペクトルから、CO2の増幅スペクトルに完全に一致する櫛状のスペクトル(マルチスペクトル、マルチライン)を有する光パルスを生成することができる。
【0047】
また、共振器から光パルスを出力する場合には、ポッケルスセル176が活性化される。それにより、反射ミラー177を介してポッケルスセル176を往復した光パルスは、偏光面を90°回転させられる。その結果、光パルス(s偏光)は、偏光ビームスプリッタ175によって反射されて、共振器から出射する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、半導体ウエハ等を露光する極端紫外光を発生するLPP型EUV光源のターゲットへ光を照射するドライバーレーザにおいて利用することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…ドライバーレーザ、2…EUV光発生チャンバ、3…ターゲット物質供給部3、4…光学系、5…ターゲット物質、6…レーザ光、7…レーザ光、8…集光ミラー、10…短パルスCO2(炭酸ガス)レーザドライバー、11…発振器、12…増幅器、21…窓、31…噴射ノズル、32…ターゲット回収筒、100、174…レーザ媒質、101、150…リアミラー、102…フロントミラー、103…エタロン、104、106、173、175…偏光ビームスプリッタ、105、172、176…ポッケルスセル(PC)、110、130…アウトプットカップラー、111…λ/4波長板、112…高反射(HR)ミラー、113、171、177…反射ミラー、120…光スイッチ素子、121…短パルスレーザ、131…集光光学系、132…プラズマ140…グレーティング、151…プリズム、160…チタンサファイヤレーザ、161…非線形結晶A、162…非線形結晶B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置から出力される短パルスレーザ光を光パラメトリック発振により広帯域化する光パラメトリック発振装置とを有し、短パルス・マルチライン発振を行う短パルス・マルチライン発振レーザ発振器と、
前記短パルス・マルチライン発振レーザ発振器から出力されるレーザ光を入力し、該レーザ光を櫛状の利得スペクトルで増幅して出力する少なくとも1つのCO2レーザ増幅器と、
を具備し、前記短パルス・マルチライン発振レーザ発振器が、CO2レーザの再生増幅器を用いてレーザ光を櫛状のスペクトルを有する光パルスに変換することにより、前記光パラメトリック発振装置によって広帯域化されたレーザ光を前記少なくとも1つの増幅器の利得スペクトルに整合させるスペクトル整合器をさらに有する、極端紫外光源装置用ドライバーレーザ。
【請求項2】
請求項1記載の極端紫外光源装置用ドライバーレーザと、
ターゲット物質供給手段と、
前記極端紫外光源装置用ドライバーレーザから出力されるレーザ光が、前記ターゲット物質供給手段から供給されるターゲット物質を照射するように、前記レーザ光を導光する光学系と、
を具備するLPP型極端紫外光源装置。
【請求項1】
短パルスレーザ光を出力するレーザ装置と、前記レーザ装置から出力される短パルスレーザ光を光パラメトリック発振により広帯域化する光パラメトリック発振装置とを有し、短パルス・マルチライン発振を行う短パルス・マルチライン発振レーザ発振器と、
前記短パルス・マルチライン発振レーザ発振器から出力されるレーザ光を入力し、該レーザ光を櫛状の利得スペクトルで増幅して出力する少なくとも1つのCO2レーザ増幅器と、
を具備し、前記短パルス・マルチライン発振レーザ発振器が、CO2レーザの再生増幅器を用いてレーザ光を櫛状のスペクトルを有する光パルスに変換することにより、前記光パラメトリック発振装置によって広帯域化されたレーザ光を前記少なくとも1つの増幅器の利得スペクトルに整合させるスペクトル整合器をさらに有する、極端紫外光源装置用ドライバーレーザ。
【請求項2】
請求項1記載の極端紫外光源装置用ドライバーレーザと、
ターゲット物質供給手段と、
前記極端紫外光源装置用ドライバーレーザから出力されるレーザ光が、前記ターゲット物質供給手段から供給されるターゲット物質を照射するように、前記レーザ光を導光する光学系と、
を具備するLPP型極端紫外光源装置。
【図1】
【図2】
【図8】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図2】
【図8】
【図10】
【図11】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【公開番号】特開2012−49564(P2012−49564A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253149(P2011−253149)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【分割の表示】特願2005−230619(P2005−230619)の分割
【原出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの基盤開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【分割の表示】特願2005−230619(P2005−230619)の分割
【原出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの基盤開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【Fターム(参考)】
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