説明

標識剤及び核酸検出方法

【課題】 目的核酸サンプルを高感度に検出できる標識剤及びそれを用いた核酸検出方法を提供する。
【解決手段】 ヌクレオシドと電気化学発光部位とを連結するリンカーに不飽和炭化水素及び環式化合物を持たせた標識剤を提供する。電気化学発光部位と基質とを結合するリンカーを剛直な構造にすることで、屈曲がなくなり、基質と電気化学発光部位との静電吸着による分子内会合が抑制され、核酸合成における基質間の反応を阻害しなくなる。また、酵素との立体障害も緩和され、生成した核酸サンプルへの標識剤の修飾量が増加し、高感度な検出が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中に存在する特定の核酸を用いて、核酸伸長反応を行い、核酸サンプルを高感度に検出するための標識剤及び核酸検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に存在する特定の核酸を検出する手法として、核酸伸長反応を用いて、標識化を行う手法が提案されている。これは、標識剤を結合させた基質を用いて、核酸伸長反応を行い、生成した核酸に標識剤を取り込ませることで、核酸サンプルの標識化を行う手法である。核酸に取り込む標識剤の典型的な物質として、放射性同位元素が挙げられる。この放射性同位元素は、感度面で優れているが、放射能固有の危険性から、取り扱いが煩雑で使用が限定される。そのため、危険性の低い標識剤として、蛍光色素や酵素が用いられている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、前述した蛍光標識剤は、検出時に励起光を必要とし、標識剤以外からの蛍光が生じるため、バックグラウンドノイズが高くなり、高感度化に限界があった。また、酵素を使用する場合も、反応中に酵素が失活し、感度を低下させていた。
【0004】
そこで、基質に電気化学発光を標識した核酸検出法が提案されている(特許文献4)。電気化学発光は、蛍光色素のように励起光を必要とせず、還元剤の存在下で電圧を印加することにより発光が生じるため、バックグラウンドノイズが低く高感度な検出が期待できる。
【特許文献1】特開平6−234787号公報
【特許文献2】特開2003−34696号公報
【特許文献3】特表2001−519354号公報
【特許文献4】特開2002−34561号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、基質に電気化学発光部位を修飾した標識剤は、バックグラウンドノイズが低いため、高感度な検出に期待できる。しかしながら、この標識剤は、電気化学発光部位は正電荷に帯電し、また、リン酸を含む基質は負電荷に帯電しているため、反応溶液中では、基質と電気化学発光部位とが静電吸着し分子内会合を形成してしまう。そのため、核酸増幅を行う際、静電吸着した電気化学発光部位が立体障害として働き、基質の反応部位を阻害するだけでなく、酵素反応も阻害するため、修飾量が低下し、高感度な検出が出来ないという課題を有していた。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためにされたものであって、核酸合成により生成した核酸サンプルへの標識剤結合量を向上させる構造を持つ標識剤及びそれを使用した核酸検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の標識剤は、下記(化2)の一般式で表される標識剤である。
【0008】
【化2】

(但し、式中、Pはリン酸残基、Nはヌクレオシド、Lは飽和炭化水素、不飽和炭化水素、アミド、環式化合物の組み合わせから構成されるリンカー部位、リンカー部位、Eは電気化学発光部位を示す化合物である。)
また、本発明の核酸検出方法は、標識剤を含む基質が、酵素反応を利用した核酸伸長反応によって核酸合成される核酸合成工程と、合成された核酸サンプルを抽出する核酸抽出工程と、抽出した前記核酸サンプルを電極に固定させる固定化工程と、前記電極に固定させた前記核酸サンプルに含まれる前記標識剤由来の電気化学発光を検出する、検出工程とを含む、核酸検出方法において、前記標識剤が上記(化2)の一般式で表されるものである。
【0009】
さらに、本発明の核酸検出方法は、標識剤を含む基質が、酵素反応を利用した核酸伸長反応によって核酸合成される核酸合成工程と、合成された核酸サンプルを抽出する核酸抽出工程と、前記検出すべき核酸の塩基配列に対して相補的な配列を有する一本鎖の捕捉プローブを作製し、該捕捉プローブを固相に固定化する固定化工程と、前記核酸サンプルと前記捕捉プローブとをハイブリダイズさせ、二本鎖を形成させて、前記核酸サンプルを前記固相に捕捉させる核酸サンプル捕捉工程と、前記核酸サンプルに含まれる前記標識剤由来の電気化学発光を検出する検出工程と、を含む核酸検出方法において、前記標識剤は、上記(化2)で示される一般式を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の標識剤によれば、電気化学発光部位と基質とを結合するリンカーを剛直な構造にすることで、屈曲がなくなり、基質と電気化学発光部位との静電吸着による分子内会合が抑制され、核酸合成における基質間の反応を阻害しなくなる。また、酵素との立体障害も緩和され、生成した核酸サンプルへの標識剤の修飾量が増加し、高感度な検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の標識剤及びその使用方法について詳細に説明する。
【0012】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1における標識剤について説明する。本実施の形態における標識剤は、下記(化3)の一般式で表されるものである。
【0013】
【化3】

(但し、式中、Pはリン酸残基、Nはヌクレオシド、Lは飽和炭化水素、不飽和炭化水素、アミド、環式化合物の組み合わせから構成されるリンカー部位、Eは電気化学発光部位を示す化合物である。)
このように、リンカー部位に不飽和炭化水素及び環式化合物を持たせたことにより、リンカー部位が剛直な構造となるため、屈曲しなくなり、基質と電気化学発光部位との静電吸着による分子内会合が抑制され、電気化学発光部位の立体障害による反応阻害がなくなる。
【0014】
さらに、前記リンカーは、4から50の整数であるものである。これは、リンカー長が3以下では、核酸に本発明の標識剤を導入させる際、基質と発光部位の距離が近いため、電気化学発光部位が立体障害となり、核酸反応を阻害し、51以上ではリンカー自体が立体障害の対象となり、核酸反応を阻害してしまう。
【0015】
さらに、ヌクレオシドとリンカーが結合する部位は、特に限定されないが、好ましくは、アデニン及びグアニンの場合では、C7もしくはC8の部位、より好ましくはC8の部位でリンカーと結合されるのが望ましい。ヌクレオシドがシトシンの場合は、C5若しくはC6の部位、より好ましくは、C5の部位でリンカーと結合されるのが望ましい。ヌクレオシドがチミン及びウラシルの場合は、C5若しくはC6の部位、より好ましくはC6の部位でリンカーと結合されるのが望ましい。これは、核酸サンプルが二本鎖核酸を形成するのに必要な水素結合を阻害しないためである。
【0016】
電気化学発光部位であるEは、電気化学発光物質であれば、特に制限されずに用いられ、例えば、配位子に複素環系化合物を有する金属錯体、ルブレン、アントラセン、コロネン、ピレン、フルオランテン、クリセン、フェナントレン、ペリレン、ビナフチル、オクタテトラエンを挙げることができる。
【0017】
さらに、前述の配位子に複素環系化合物を有する金属錯体としては、酸素や窒素等を含む複素環系化合物、例えば、ピリジン部位、ピラン部位等を配位子に有する金属錯体があり、特にピリジン部位を配位子に有する金属錯体が好ましい。
【0018】
さらに、前述のピリジン部位を配位子に有する金属錯体としては、例えば、金属ビピリジン錯体、金属フェナントロリン錯体等がある。
【0019】
さらに、前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体において、中心金属としては、例えば、ルテニウム、オスニウム、亜鉛、コバルト、白金、クロム、モリブデン、タングステン、テクネチウム、レニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、銅、インジウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、サマリウム等を挙げることができる。
【0020】
そして特に、中心金属がルテニウム、オスニウムである錯体は良好な電気化学発光特性を有し、このような良好な電気化学発光特性を有する物質としては、例えば、ルテニウムビピリジン錯体、ルテニウムフェナントロリン錯体、オスニウムビピリジン錯体、オスニウムフェナントロリン錯体等を挙げることができる。
【0021】
以下、前述した本実施の形態1の標識剤の具体例を下記(化4)から(化8)に示す。
【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
【化6】

【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

(実施の形態2)
以下に、実施の形態1で説明した標識剤を用いた核酸検出方法について詳細に説明する。なお、ここでは、例としてDNAポリメラーゼを用いた核酸増幅について記述するが、これに限定されない。
【0027】
また、以下の実施の形態における核酸サンプルとは、例えば、血液、白血球、血清、尿、糞便、精液、唾液、培養細胞、各種臓器細胞のような組織細胞、その他遺伝子を含有する任意の試料から、該試料中の細胞を破壊して二本鎖核酸を遊離させたものである。また、本実施の形態における核酸サンプルは、制限酵素で切断して電気泳動による分離等で精製した核酸断片でもよい。
【0028】
(ステップ1)
まず、上述した核酸サンプルと、任意のプライマー、任意のpHに調整したバッファー、ポリメラーゼ、dNTP、本発明の標識剤をサンプルチューブに加える。
【0029】
(ステップ2)
次に、上述したサンプルを数分間98度の熱を加え、核酸サンプルを一本鎖に変性させる。その後、任意の温度でプライマーと核酸サンプルをハイブリダイズさせ、ポリメラーゼにより核酸サンプルを3’末端から増幅させる。増幅後、核酸サンプルを再度数分間98度の熱を加え、一本鎖に変性させる。この操作を数回繰り返すことにより、標識剤結合核酸サンプルを増幅させることが出来る。なお、この操作は用いる核酸や目的によって異なる。また、標識剤は、(実施の形態1)で示したように、リンカー部位を剛直にした構造であるので、基質間の核酸伸長反応を阻害することなく、酵素に取り込まれ、核酸サンプルへの標識剤導入量が増加する。
【0030】
(ステップ3)
上述した操作によって増幅した前記標識剤結合核酸サンプルを抽出する。抽出手法は、エタノールやアセトニトリルなどで前記標識剤結合核酸サンプルのみを沈殿させ、遠心分離にかけた後、上澄み液を除去する。この作業を2,3回繰り返し、最後に滅菌水等に置換することで前記標識剤結合核酸サンプルが得られる。他の手法としては、HPLCで精製したり、ゲルろ過で分取したりする手段がある。また、市販されているDNA抽出キットを用いると迅速に抽出できる。
【0031】
(ステップ4)
次に、電極に前記標識剤結合核酸サンプルを固定させる。本発明で用いる電極は、特に限定されず、例えば、金、白金、白金黒、パラジウム、ロジウムのような貴金属や、グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバーのような炭化物や、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化鉛のような酸化物や、Si、Ge、ZnO、CdS、TiO、GaAsのような半導体等が挙げられる。
【0032】
この電極に、標識剤結合核酸サンプル溶液を滴下し、固定させる。固定化手法は特に限定されず、電極上で乾燥させる手法や、電極上にカチオン若しくはアニオン性の樹脂を電極に塗布し、静電的に吸着させる手法、電極に正若しくは負電荷を帯びさせて、電気的に吸引させる手法等が挙げられる。
【0033】
(ステップ5)
この結果、電極に固定した前記標識剤結合核酸サンプルに含まれる複数の標識剤由来の電気化学発光をフォトマル等で測定する。
【0034】
核酸サンプルへの導入効率が向上するように改良した本発明の標識剤を用いることで、目的の核酸の存在を高感度に検出することができる。
【0035】
また、ここではPCRの手法について記述したが、他の手法として、ターミナルトランスフェラーゼ酵素を用い、一本鎖若しくは二本鎖核酸の3’末端を伸長させる際に、本標識剤を導入させる手法や、任意の塩基の組み合わせからなるオリゴヌクレオチドをプライマーとし、DNAポリメラーゼによって本標識剤を導入させるランダムプライマー法、遺伝子サンプルをDNアーゼIによってランダムに切断し、DNAポリメラーゼで修復させる際に本標識剤を導入させるニックトランスレーション法、また、逆転写酵素を用いて、RNAからcDNAを合成し、そのcDNAを鋳型として遺伝子サンプルを増幅させる際に、本標識剤を導入させる手法にも展開できる。
【0036】
(実施の形態3)
以下に、本発明の核酸検出方法における実施の形態について詳細に説明する。なお、ここでは、例としてDNAポリメラーゼを用いた核酸増幅について記述するが、これに限定されない。
【0037】
(ステップ1)
液体培地で培養した大腸菌を、遠心分離機にて採取した後、タンパク質分解溶液を添加し、ホモジェナイズする。その後、フェノール/クロロホルム抽出を行い、DNA及びRNAを抽出する。RNAの抽出は、市販されているRNA抽出キットを用いれば容易かつ高収率に抽出できる。
【0038】
(ステップ2)
次に、上述した核酸サンプルの前記RNAと、逆転写酵素、任意のプライマー、任意のpHに調整したバッファー、ポリメラーゼ(好ましくは好熱菌由来)、dNTP、本発明の標識剤をサンプルチューブに加える。任意の温度で任意の時間インキュベートさせることにより、標識剤結合cDNAを得ることが出来る。
【0039】
標識剤は、(実施の形態1)で示したように、リンカー部位を剛直にした構造であるので、基質との核酸反応を阻害することなく、逆転写酵素に取り込まれ、核酸サンプルへの標識剤導入量が増加する。
【0040】
(ステップ3)
標識剤結合cDNAを抽出する。詳細は(実施の形態2)で記述したので、ここでは省略する。
【0041】
(ステップ4)
次に、前記標識剤結合cDNAと相補な核酸配列を有する捕捉プローブを作製する。この捕捉プローブは、化学合成で得られた一本鎖の核酸あるいは、生物試料から抽出した核酸を制限酵素で切断し、電気泳動による分離等で精製した核酸を用いることができる。生物試料から抽出した核酸の場合には、熱処理あるいはアルカリ処理によって、一本鎖の核酸に解離させておくことが好ましい。
【0042】
(ステップ5)
そしてこの後、前述のようにして得られた捕捉プローブを固相に固定する。本発明で用いる固相は、特に限定されず、例えば、金、白金、白金黒、パラジウム、ロジウムのような貴金属や、グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバーのような炭化物や、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化鉛のような酸化物や、Si、Ge、ZnO、CdS、TiO、GaAsのような半導体等が挙げられる。なお、以上の物質は電極として利用することができる。その場合、これらの電極は、導電性高分子によって被覆しても良く、このように被覆することによって、より安定な捕捉プローブ固定化電極を調製することができる。
【0043】
なお、前記捕捉プローブを前記固相に固定化する方法としては、公知の方法が用いられる。一例をあげると、例えば前記固相が金電極である場合、固定する捕捉プローブの5’−もしくは3’−末端(好ましくは、5’−末端)にチオール基を導入し、金とイオウとの共有結合を介して、前記捕捉プローブが該金電極に固定される。この捕捉プローブにチオール基を導入する方法は、文献(M.Maeda et al.,Chem.Lett.,1805〜1808(1994)及びB.A.Connolly,Nucleic Acids Res.,13,4484(1985))に記載されているものが挙げられる。
【0044】
即ち、前記方法によって得られたチオール基を有する捕捉プローブを、金電極に滴下し、低温下で数時間放置することにより、該捕捉プローブが電極に固定され、捕捉プローブが作製される。
【0045】
また固相で別の例をあげると、一般的に磁気ビーズと呼ばれる磁性を有する粒子を挙げることができる。磁気ビーズの場合、捕捉プローブの固定は、アビジンービオチンの結合手法が挙げられる。まず、アビジンを磁気ビーズの表面にコーティングする。一方、捕捉プローブの末端には、ビオチンを結合させる。この捕捉プローブを磁気ビーズに添加することにより、抗原―抗体反応が生じ、磁気ビーズに捕捉プローブが結合できる。この手法は周知であるため、詳細は省略する。
【0046】
(ステップ6)
上述した固相に固定化した捕捉プローブに、前記標識剤結合cDNAを含む溶液を添加する。これにより、前記捕捉プローブと前記標識剤結合cDNAとがハイブリダイズし前記標識剤結合cDNAが固相に固定される。このハイブリダイズさせる手法は周知であるため、ここでは説明を省略する。
【0047】
(ステップ7)
前記捕捉プローブと前記標識剤結合cDNAとで二本鎖DNAを形成させた後、リン酸バッファーなどで洗浄処理をして、未反応の前記標識剤結合cDNAなどを除去する。
【0048】
(ステップ8)
洗浄後、固相に固定した前記標識剤結合核酸サンプル由来の電気化学発光をフォトマル等で測定することにより、目的の核酸の存在を高感度に検出することができる。これは、核酸サンプルへの導入効率が向上するように改良した本発明の標識剤を逆転写時に用いたためである。
【0049】
なお、ここでは、逆転写により得られた標識剤結合核酸サンプルを、ダイレクトに検出する手法について記述したが、他の手法として、PCR法、ターミナルトランスフェラーゼ酵素を用い、一本鎖若しくは二本鎖核酸の3’末端を伸長させる際に、本標識剤を導入させる手法や、任意の塩基の組み合わせからなるオリゴヌクレオチドをプライマーとし、DNAポリメラーゼによって本標識剤を導入させるランダムプライマー法、遺伝子サンプルをDNアーゼIによってランダムに切断し、DNAポリメラーゼで修復させる際に本標識剤を導入させるニックトランスレーション法、また、逆転写酵素を用いて、RNAからcDNAを合成し、そのcDNAを鋳型として遺伝子サンプルを増幅させる際に、本標識剤を導入させる手法にも展開できる。
【実施例1】
【0050】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
(1)グアニン修飾ルテニウム錯体の合成
下記(化9)で示される標識剤は、以下のようにして得た。
【0052】
【化9】

まず、THF60.0mLに溶解させた4,4’−ジメチル−2,2’ビピリジン2.50g(13.5mmol)溶液を窒素雰囲気の容器に注入した後、リチウムジイソプロピルアミド2M溶液16.9mL(27.0mmol)を滴下し、30分撹拌した。一方、同様に窒素気流中で乾燥させた容器に、1,3−ジブロモプロパン4.2mL(41.1mmol)とTHF10mLとを加え、撹拌させた。この容器に、先程の反応液を30分かけて滴下させて2.5時間反応させた。反応溶液は2Nの塩酸で中和し、THFを留去した後、クロロホルムで抽出した。溶媒を留去して得た粗生成物をシリカゲルカラムで精製し、生成物Cを得た(収率47%)。
【0053】
窒素雰囲気の容器に、前記生成物C1.0g(3.28mmol)、フタルイミドカリウム0.67g(3.61mmol)、及びジメチルホルムアミド(脱水)30.0mLを加え、オイルバスで18時間還流した。反応後、クロロホルムで抽出し、0.2N水酸化ナトリウム50mLで蒸留水洗浄した。溶媒を留去して酢酸エチルとヘキサンから再結晶を行い、生成物Dを得た(収率61・5%) 。
【0054】
塩化ルテニウム(III)(2.98g、0.01mol)、及び2,2’−ビピリジン(3.44g、0.022mol)をジメチルホルムアミド(80.0mL)中で6時間還流した後、溶媒を留去した。その後、アセトンを加え、8時間冷却することで得られた黒色沈殿物を採取し、エタノール水溶液170mL(エタノール:水=1:1)を加え1時間加熱還流を行った。ろ過後、塩化リチウムを20g加え、エタノールを留去し、さらに8時間4℃で冷却した。析出した黒色物質は吸引ろ過で採取し、生成物Eを得た(収率68.2%)。
【0055】
窒素置換した容器に、前記生成物D0.50g(1.35mmol)、前記生成物E0.78g(1.61mmol)、及びエタノール50mLを加えた。9時間窒素雰囲気で還流した後、溶媒を留去し、蒸留水で溶解させ、1.0Mの過塩素酸水溶液で沈殿させた。この沈殿物を採取し、メタノールで再結晶を行い、生成物Fを得た(収率81.6%)。
【0056】
さらに、前記生成物F1.0g(1.02mmol)、及びメタノール70.0mLを1時間還流した。室温まで冷却した後、ヒドラジン一水和物0.21mL(4.21mmol)を加え再び13時間還流した。反応後、蒸留水を15mL加え、メタノールを留去した。
【0057】
次に、濃塩酸を5.0mL加え、2時間還流して得られた反応液を8時間,4℃で冷却し、不純物を自然ろ過で除去した。
【0058】
これを炭酸水素ナトリウムで中和した後、水を留去し、無機物をアセトニトリルで除去した。溶媒を留去して得た粗生成物をシリカゲルカラムで精製し、生成物Gを得た(収率71.4%)。
【0059】
生成物G0.28g(0.33mmol)をアセトニトリルに溶解し、トリエチルアミン96.8mg(0.96mmol)添加した。次に、無水コハク酸0.32g(3.3mmol)をアセトニトリル5mLに溶解した溶液を、生成物Gの溶液に滴下し、室温で2時間撹拌した。アセトニトリルを留去し、シリカゲルカラムで精製して生成物Hを得た(収率63.4%)。
【0060】
生成物H0.20g(0.22mmol)をアセトニトリル10mLに溶解させ、トリエチルアミン0.43g(4.26mmol)、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)0.30g(2.13mmol)、ジシクロヘキシルカルボジイミド0.13g(0.63mmol)を加え、室温で48時間撹拌した。
【0061】
反応後、白色沈殿物を除去し、エバポレータで濃縮してから、シリカゲルカラムで精製することにより、下記(化10)に示す生成物Iを得た(収率57.4%)。
【0062】
【化10】

下記の表1は、前述のようにして得た生成物Iに示す物質のH-NMR結果である。
【0063】
H-NMR(300MHz、DMSO d−6)
σ:
1.40 (8H,m)
1.55 (2H,m)
1.62〜1.67 (3H,m)
2.02〜2.06 (3H,m)
2.56 (3H,s)
2.61 (2H,q)
2.75 (2H,t)
2.92 (2H,d)
3.06 (2H,q)
7.36 (2H,d)
7.42 (2H,d)
7.56 (6H,m)
7.78 (4H,m)
8.12 (2H,t)
8.76 (4H,t)
8.82 (6H,m)
次に、2’−デオキシグアノシンー5’−三リン酸30.0mg(52.3μmol)を炭酸バッファ9.0mLに溶解し、そこにN−ブロモスクシンイミドを93.2mg(0.52mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、生成物Iを13.8mg(13.1μmol)滴下し、50℃で6時間撹拌した。反応溶液をHPLCで精製し、上記(化9)で示される化合物を得た(収率26.8%)。
【実施例2】
【0064】
以下、本発明の他の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0065】
(1)核酸増幅
まず、口腔スワブサンプルを、キアゲン社のDNA抽出キット(QIAamp DNA Mini Kit)を用いて精製した。ここで使用した核酸サンプルは、染色体6番であり、その塩基配列は下記の通りである。
【0066】
5´−TAACATTCAGAATGTGTTCCAGTGATAGTTCTGTTCTCAGATTTGCTTTCTTCTCTTATACCTCCTGATCAGCAGGTGGAAATTAAAAGAGCATTGTGAGATGCTGGAGAGATCCAGAACCACTTGCCATCAACAGCTGGGGAATCCTAGCCAGTAGCTCGCAGGAGTTAGAGCAGCTTTTTCAGTTAGAGCAGTTAGAGCCTCTG−3´
また、プライマーの配列は5´−CACTGGAACACATTCTGAATGTTA−3´(プライマー1)及び5´−CAGAGGCTCTAACTGCTCTAACTG−3´(プライマー2)である。
【0067】
この核酸サンプル2μLに、10×EX Taqバッファー5μL、25mMの塩化マグネシウム溶液5μL、2.5mMdNTP溶液4.2μL、10μMプライマー2.5μL、蒸留水30.2μL、EX Taq(5U/μL)0.5μL、及び、実施例1で合成した標識剤(2.5mM)0.6μLをサンプルチューブに添加した。このサンプルを下記のように加熱し、核酸の増幅を行った。
【0068】
まず、サーマルサイクラーを用いて、5分間98℃で加熱し一本鎖に変性させた後、30秒間50℃でプライマー結合、3分間72℃で伸長、10秒間98℃で再度変性させるサイクルを30回繰り返し行った。
【0069】
増幅後、キアゲン社のPCR産物精製キット(MinElute PCR Purification Kit)にて標識剤結合核酸サンプルを抽出した。
【0070】
(2)固相への捕捉プローブの固定化
固相には磁気ビーズを使用した。磁気ビーズは、Bangs Laboratories社製のCM01N/5896ストレプトアビジン磁気ビーズを用いた(粒径0.35μm)。なお、捕捉プローブには前記プライマー2の配列を有し、5’末端のリン酸基を介してビオチンを修飾したプローブを使用した。
【0071】
まず、磁気ビーズを1mg採取し、TTLバッファー(500mM Tris−HCl(pH8.0):Tween20:2M塩化リチウム:超純水=2:10:5:3の体積比になるよう調製)で洗浄後、20μLのTTLバッファーに置換した。その後、100nMの補足プローブを5μL添加し、室温で15分振とうした。
【0072】
溶液をデカントし、残留した磁気ビーズを0.15Mの水酸化ナトリウム水溶液で洗浄後、TTバッファー(500mM Tris−HCl(pH8.0):Tween20:超純水=1:2:1の体積比になるよう調製)で洗浄した。
【0073】
洗浄後、TTEバッファーに溶液を置換し、80℃で10分間静置することにより、不安定な結合を除去した。これにより、捕捉プローブが固定化された磁気ビーズを得た。

さらに、本実施例2においては、比較対象として、核酸サンプルと非相補的な配列を有する捕捉プローブ(以下、「対照プローブ」と称す。)を使用して、前記核酸プローブと同様の処理を行った。なお、ここでは、対照プローブとして、30merのPoly−A、5´−AAAAAAAAAA AAAAAAAAAA AAAAAAAAAA−3´の配列を有する5’末端のリン酸基を介してビオチンを修飾したプローブを使用した。
【0074】
(3)ハイブリダイゼーション
まず、前記捕捉プローブを固定した磁気ビーズ10μLをマイクロチューブに移し、4XSSCバッファーに置換した。
【0075】
次に、前述した標識剤結合核酸サンプルを5分間、98℃で加熱させた後、氷水で冷却した。この核酸サンプルを10μL採取し、前記マイクロチューブに添加し、60℃で振とうさせた。1時間後、溶液をデカントし、2XSSCで洗浄して、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズαを得た。
【0076】
なお、対照プローブを固定した磁気ビーズについても、上記と同様の処理を行い、二本鎖核酸が形成されない磁気ビーズβを得た。
【0077】
(3)電気化学測定
以上の工程の後、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズα,二本鎖核酸が形成されない磁気ビーズβをそれぞれ5μLずつ電極に滴下した。
【0078】
ここで使用した電極は、金電極を使用した。この金電極は、ガラス基板上にスパッタ装置(アルバック製SH−350)によりチタン10nmを下地に金200nmを形成し、フォトリソグラフィ工程により電極パターンを形成することで準備した。また、電極の下には永久磁石のシートを取り付けており、作用極のみに磁気ビーズが集約するようにした。
【0079】
5分静置後、前記磁気ビーズαが集約した電極x及び、前記磁気ビーズβが集約した電極yそれぞれに、0.1MのPBS、及び0.1Mのトリエチルアミンを混合した電解液を75μL滴下した。その後、それぞれの磁気ビーズが集約した電極に電圧を印加し、この時に生じた電気化学発光の測定を行った。なお、電圧の印加は、1.3Vで、5秒間電気化学測定を行った。電気化学発光量の測定は、光電子増倍管(浜松ホトニクス製H7360−01)を用いて行い、最大発光量を測定した。
【0080】
また、比較対象として、リンカー部位が柔軟である従来の標識剤を準備し、上述した工程を同様に行い、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズ電極x2及び二本鎖核酸が形成されていない磁気ビーズ電極y2を得た。なお、従来の標識剤の合成は公知であるので、省略する。
【0081】
図1は、本実施例2における、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズ電極x、及び二本鎖核酸が形成されない磁気ビーズ電極yにおいて検出された最大電気化学発光量を示したものである。
【0082】
図2は、本実施例2における、従来の標識剤を用いた、二本鎖核酸が形成された磁気ビーズ電極x2、及び二本鎖核酸が形成されない磁気ビーズ電極y2において検出された最大電気化学発光量を示したものである。
【0083】
図1から明らかなように、電極xでの発光量は、電極yでの発光量と比較して著しく高い値となっており、さらに、図2と比較すると、本発明の標識剤を用いた手法は、従来の標識剤より、核酸生成物からの発光量が大きいことから、核酸サンプルへの導入量が多いことが分かる。このように、本発明の手法を用いれば、高感度に二本鎖核酸、すなわち目的遺伝子サンプルを検出できる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明にかかる標識剤及びその使用方法は、特定の配列を有する核酸を高感度に検出することができ、遺伝子診断、感染症診断、ゲノム創薬等の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の実施例2における最大電気化学発光量を測定した図
【図2】本発明の実施例2における従来の標識剤の最大電気化学発光量を測定した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(化1)の一般式で表される標識剤。
【化1】

(但し、式中、Pはリン酸残基、Nはヌクレオシド、Lは飽和炭化水素、不飽和炭化水素、アミド、環式化合物の組み合わせから構成されるリンカー部位、Eは電気化学発光部位を示す化合物である。)
【請求項2】
請求項1に記載の標識剤において、
前記mは、4から50の整数である、
ことを特徴とする標識剤。
【請求項3】
請求項1に記載の標識剤において、
前記電気化学発光部位Eは、配位子に複素環式化合物を有する金属錯体、ルブレン、アントラセン、コロネン、ピレン、フルオランテン、クリセン、フェナントレン、ペリレン、ビナフチル、あるいはオクタテトラエンのいずれかである、
ことを特徴とする標識剤。
【請求項4】
請求項3に記載の標識剤において、
前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体は、配位子にピリジン部位を有する金属錯体である、
ことを特徴とする標識剤。
【請求項5】
請求項4に記載の標識剤において、
前記配位子にピリジン部位を有する金属錯体は、金属ビピリジン錯体、あるいは金属フェナントロリン錯体のいずれかである、
ことを特徴とする標識剤。
【請求項6】
請求項5に記載の標識剤において、
前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体の中心金属は、ルテニウム、オスニウム、レニウム、イリジウムのいずれかである、
ことを特徴とする標識剤。
【請求項7】
標識剤を含む基質を用いた核酸伸長反応によって核酸合成される核酸合成工程と、合成された核酸サンプルを抽出する核酸抽出工程と、抽出した前記核酸サンプルを電極に固定させる固定化工程と、前記電極に固定させた前記核酸サンプルに含まれる前記標識剤由来の電気化学発光を検出する検出工程と、を含む核酸検出方法において、
前記標識剤として、(化1)の一般式で示されるものを使用する、
ことを特徴とする核酸検出方法。
【請求項8】
標識剤を含む基質を用いた核酸伸長反応によって核酸合成される核酸合成工程と、合成された核酸サンプルを抽出する核酸抽出工程と、前記検出すべき核酸の塩基配列に対して相補的な配列を有する一本鎖の捕捉プローブを作製し、該捕捉プローブを固相に固定化する、固定化工程と、前記核酸サンプルと前記捕捉プローブとをハイブリダイズさせ、二本鎖を形成させて、前記核酸サンプルを前記固相に捕捉させる、核酸サンプル捕捉工程と、前記核酸サンプルに含まれる前記標識剤由来の電気化学発光を検出する、検出工程と、を含む核酸検出方法において、
前記標識剤として、(化1)の一般式で示されるものを使用する、
ことを特徴とする核酸検出方法。
【請求項9】
請求項7及び8に記載の核酸検出方法において、
前記mは、4から50の整数である、
ことを特徴とする核酸検出方法。
【請求項10】
請求項7及び8に記載の核酸検出方法において、
前記電気化学発光部位Eは、配位子に複素環式化合物を有する金属錯体、ルブレン、アントラセン、コロネン、ピレン、フルオランテン、クリセン、フェナントレン、ペリレン、ビナフチル、あるいはオクタテトラエンのいずれかである、
ことを特徴とする核酸検出方法。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸検出方法において、
前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体は、配位子にピリジン部位を有する金属錯体である、
ことを特徴とする核酸検出方法。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸検出方法において、
前記配位子にピリジン部位を有する金属錯体は、金属ビピリジン錯体、あるいは金属フェナントロリン錯体のいずれかである、
ことを特徴とする核酸検出方法。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸検出方法において、
前記配位子に複素環系化合物を有する金属錯体の中心金属は、ルテニウム、オスニウム、レニウム、イリジウムのいずれかである、
ことを特徴とする核酸検出方法。
【請求項14】
請求項7及び8に記載の核酸検出方法において、
核酸合成が、PCR反応、逆転写反応、リガーゼ連鎖反応、TMA法、ターミナルトランスフェラーゼ反応、ランダムプライム法、ニックトランスレーション法、の何れかを含むことを特徴とする核酸検出方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−256494(P2008−256494A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98169(P2007−98169)
【出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】