説明

樹脂−反磁性物質複合構造体、その製造方法、およびそれを用いた半導体装置

【課題】熱伝導性および/または導電性に優れた物質と樹脂とからなる複合構造体であって、両者が良好に接合され、かつ樹脂からなる層の厚さを小さくすることが可能な複合構造体を提供する。
【解決手段】反磁性物質22の粒子と樹脂24とを金型30内に配置し、金型30内に配置された反磁性物質22に磁場を印加して、反磁性物質22を金型30の内側表面の少なくとも一部から遠ざかる方向に移動させた後、金型30内で樹脂24を硬化させて樹脂−反磁性物質複合構造体を製造することを含む方法によって、反磁性物質層12と樹脂層14とからなる樹脂−反磁性物質の複合構造体10を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂−反磁性物質複合構造体に関し、特に半導体装置の放熱部材として有用な樹脂−反磁性物質複合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーの有効利用を担う部品として、電源の電力を制御する機能を有するパワー素子およびこれを組み込んだパワーモジュールがある。パワー素子の開発における重要な要素の一つとして、それを構成する半導体材料が挙げられる。パワー素子においては、従来のSi系の材料に代えて、更に高い周波数に対応可能なGaN、および更に高い耐圧を有するSiCなどの材料を使用することが提案され、実用化されている。
【0003】
これらの材料の使用に際しては、パワー素子から発生する熱を効率よく周囲に分散させることが、求められる。そこで、例えば、パワー素子を実装する基板を放熱性の高い材料で形成すること、または放熱板もしくは放熱フィン(あわせて、「放熱部材」と呼ぶ)を基板またはパワー素子に隣接して設けること等が行われている。
【0004】
基板を、放熱性(熱伝導性)の高い材料(例えば、金属)で形成すると、その基板は、熱伝導性とともに導電性を有することが多い。そこで、基板表面において絶縁性を確保するために、基板表面に絶縁性の樹脂層(絶縁性材料の層)を配置すること、または絶縁性を有する樹脂に熱伝導性の高い材料を混練した材料を用いて基板を形成することが、行われている。
【0005】
また、放熱板には、銅(Cu)等の金属材料からなる板(金属板)が用いられる。金属材料は一般に導電性を有するため、金属板(放熱板)をそのまま基板またはパワー素子に隣接させると、導通が生じ、パワー素子またはパワーモジュールの作動に影響を及ぼす。そのため、金属板(放熱板)は、絶縁性の材料から成る層を介して、基板またはパワー素子に隣接させて用いられる。
【0006】
すなわち、パワーモジュールの放熱性の基板または放熱板は、いずれも絶縁性材料(具体的には樹脂)の使用を伴う必要がある。絶縁性材料からなる層を有する基板および放熱板は、絶縁性材料からなる層によって放熱が阻害され、放熱特性が低下する傾向にある。また、樹脂に熱伝導性の高い材料を混合した基板においては、樹脂中で熱伝導性の高い材料が結合して、導通経路を生じさせ、所望の絶縁性が確保されないことがある。
【0007】
これらの不都合を回避するため、更に高い熱伝導性を有する材料を使用して、放熱特性を向上させ、それにより、絶縁性樹脂を使用することによる放熱特性の低下を補填しようとすることが考えられる。例えば、銅(Cu)よりも高い熱伝導性を有する材料として、グラファイトが注目され、これを放熱対策に用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
図6は、特許文献1に記載の熱伝導シートの部分断面図である。特許文献1では、図6に示すように、熱伝導シート1を、樹脂からなる絶縁シート5内にグラファイトシートからなる複数の小片6を混入した構成とすることが記載されている。特許文献1によれば、この構成により、絶縁シート内で個々のグラファイトシートの小片が独立配置されるので、グラファイトシートが持つ高い熱伝導性を活用しながら電気絶縁性を確保できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−165153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の放熱部材の構成において、熱伝導性を有する部材(例えば、特許文献1に記載の熱伝導シートにおけるグラファイトシートからなる小片)が、絶縁性の材料からなる層から露出して、電気絶縁性が低下することがある。そのような問題を回避するために、例えば、熱伝導性を有する部材を樹脂シートで被覆して、複合構造体とすることが考えられる。
【0011】
しかしながら、本発明者らが検討した結果、このような樹脂シートで被覆した複合構造体は、熱伝導性を有する部材の樹脂シートへの接着性は概して良好ではない場合があることが分かった。そのため、両者の一体性を向上させるためには、樹脂シートを熱伝導性の部材に接着させる接着剤の材料を、適切に選択する必要があることが分かった。接着剤の材料の選択は、放熱部材の用途を制限することがある。
【0012】
本発明は、熱伝導性および/または導電性に優れた物質と樹脂とからなる複合構造体であって、両者が良好に固定された複合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体は、反磁性物質層と、前記反磁性物質層の表面の少なくとも一部を覆う樹脂層とを含み、前記反磁性物質層が反磁性物質の粒子が集合してなる層であることを特徴とする。
また、上記課題を解決するために、本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体の製造方法は、反磁性物質の粒子と樹脂とを金型内に配置し、前記金型内に配置された前記反磁性物質に磁場を印加して、前記反磁性物質を前記金型の内側表面の少なくとも一部から遠ざかる方向に移動させた後、前記金型内で樹脂を硬化させて樹脂−反磁性物質複合構造体を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱伝導性および/または導電性に優れた物質と樹脂とからなる複合構造体であって、両者が良好に固定された複合構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体の一例を示す断面図、(b)本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体の一例を示す斜視図
【図2】(a)本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体の別の一例を示す断面図、(b)本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体の別の一例を示す斜視図
【図3】本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体の製造方法のフローチャート
【図4】(a)〜(d)本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体の製造方法の一例における工程断面図
【図5】本発明のパワーモジュールの一例を示す断面図
【図6】特許文献1のグラファイトシートの部分断面図
【図7】(a)〜(d)本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体の製造方法の別の一例における工程断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体(以下の説明を含む本明細書において、単に「複合構造体」とも呼ぶ)は、反磁性物質層と樹脂層とを含む。まず、これらの層を構成する反磁性物質と樹脂について、説明する。
【0017】
(反磁性物質)
反磁性物質は、磁場をかけたときに、磁場の逆向きに磁化されて、磁場とその勾配の積に比例する力が磁石に反発する方向に生じる磁性を有する物質である。具体的には、反磁性物質として、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、ビスマス(Bi)、グラファイトおよびグラフェンが挙げられる。反磁性物質は、異なる種類のものを2以上組み合わせて使用してよい。
【0018】
複合構造体の放熱特性を重視する場合においては、反磁性物質として、特にグラファイトおよびグラフェンが好ましく用いられる。これは、グラファイトおよびグラフェンは、高い熱伝導性を有し、良好な放熱特性を有する放熱部材を構成することができるためである。
【0019】
また、複合構造体のノイズ特性を重視する場合においては、反磁性物質として、特にビスマス(Bi)が好ましく用いられる。これは、ビスマスが更に高い反磁性を示し、反磁性物質により電磁ノイズを更に低減することができるためである。ビスマスは熱伝導性が他の反磁性物質よりも低い。そのため、例えば、更に熱伝導性の高い反磁性物質(例えば、銅)の表面をビスマスのメッキ等によりビスマスで被覆した粒子またはシート状物を、反磁性物質として使用してよい。そこで、例えば、ビスマスでメッキされた反磁性物質(例えば、銅)を使用すると、高い電磁ノイズ低減効果と高い放熱効果とを有する複合構造体を実現することができる。
【0020】
複合構造体における反磁性物質の形態は、特に限定されない。反磁性物質は、例えば、シート状であってよく、あるいは粒子状であってよい。反磁性物質が粒子状であるとき、複合構造体における反磁性物質層は、粒子が集合した形態をとる。後述するように、本発明の複合構造体は、反磁性を利用して反磁性物質層を形成する方法で製造されるので、反磁性物質が予めシート状でなくても、積層構造を形成することができる。すなわち、本発明は、粒子状の反磁性物質を用いて複合構造体を構成することを可能とするものである。粒子状の反磁性物質を用いるときには、粒子の寸法および成形の際に用いる金型の寸法を調節することにより、反磁性物質層の厚さを非常に薄くすることも可能である。
【0021】
反磁性物質がいずれの形態をとる場合にも、その寸法は特に限定されない。例えば、シート状の反磁性物質を用いる場合、厚さが0.5μm以上かつ150μm以下のシートを用いてよい。特に、反磁性物質がグラファイトまたはグラフェンである場合には、厚さが0.5μm以上かつ150μm以下のシートを用いてよく、好ましくは0.1μm以上かつ100μm以下のシートを用いる。グラファイトまたはグラフェンからなるシートは、この範囲内の厚さの薄いシートであっても、良好な放熱特性を有する。
【0022】
粒子状の反磁性物質を用いる場合、例えば、粒径が0.01μm以上かつ250μm以下の粒子を用いてよい。ここでいう粒径とは、マイクロスコープ等によって測定されるものであり、粒子の最大外径(マイクロスコープ等で観察した粒子の輪郭の任意の2点を結んで得られる線分のうち最大の線分の長さ)を指す。粒径の異なる粒子状の反磁性物質を用いる場合、各粒子の粒径が上記範囲内にあることが好ましい。特に、反磁性物質がグラファイトである場合には、粒径が0.01μm以上かつ250μm以下の粒子を用いることが好ましく、0.01μm以上かつ100μm以下の粒子を用いることがさらに好ましい。粒径がこの範囲内にあるグラファイトからなる粒子は、後述する方法で、成形前に樹脂と混合するときに良好に分散する。また、粒径がこの範囲内にあるグラファイトからなる粒子は、粒径分布が更に均一である。
【0023】
グラファイトからなる粒子を用いる場合、粒子はいずれの方法で製造されたものであってよい。また、グラファイトからなる粒子の形状は特に限定されず、鱗片状、球状、ロッド状、フレーク状、または針状であってよい。
【0024】
グラファイトからなる粒子を用いて反磁性物質層を形成する場合、反磁性物質層の熱伝導性および導電性の異方性は、シート状のグラファイトまたはグラフェンを用いて形成した反磁性物質層よりも小さくなる。したがって、粒子状のグラファイトは、反磁性物質層の熱伝導性および導電性の異方性が小さい特性、ならびに複合構造体の厚さ方向において熱伝導性および導電性を有する特性が望まれる場合に、好ましく用いられる。なお、シート状のグラファイトまたはグラフェンは、一般に面方向において高い熱伝導性等を有する。
【0025】
粒子状の反磁性物質は、一方向の寸法が他の寸法よりも有意に大きい柱状粒子であってよい。あるいは、粒子状の反磁性物質は、広い面(主表面)を有し、当該広い面に対して垂直な方向における寸法が有意に小さい粒子、即ち、板状粒子であってよい。反磁性物質が柱状または板状粒子である場合には、後述するように、柱状粒子の長軸(寸法が最も大きい方向に相当する軸)または板状粒子の広い面(主表面)の配向を制御することによって、複合構造体の熱伝導性の方向を制御することができる。柱状粒子は、断面が円形、楕円形、三角形、矩形または他の形状(不定形)を有するものであってよい。柱状粒子は、断面の面積が比較的小さい場合には針状粒子とも呼ばれ得る。板状粒子は、広い面が、例えば、長方形、円形、楕円形、または三角形を有するものであってよく、あるいは不定形であってよい。
【0026】
柱状粒子の反磁性物質において、断面の直径(断面の輪郭の任意の2点を結んで得られる線分のうち最大の線分の長さ)に対する長さ(長軸方向の寸法)の比(アスペクト比)は、1.01以上かつ20以下であることが好ましい。板状粒状の反磁性物質において、広い面に対して垂直な方向の寸法に対する、広い面の輪郭の任意の2点を結んで得られる線分のうち最大の線分の長さの比(アスペクト比)は、1.01以上かつ20以下であることが好ましい。これらのアスペクト比を有する粒子状の反磁性物質は、複合構造体の所定の方向において更に高い熱伝導性を付与し得る。
【0027】
柱状粒子または板状粒子の反磁性物質は、具体的には、グラファイトからなる粒子である。これらの粒子は、元来、柱状粒子または板状粒子として提供されるため、複合構造体において所望の方向に熱伝導異方性を付与するときには、好適に用いられる。あるいは、柱状粒子または板状粒子の反磁性物質は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)、またはビスマス(Bi)を、そのような形状に加工したものであってよい。
【0028】
(樹脂)
樹脂は、複合構造体において、反磁性物質層の表面の少なくとも一部を被覆して、当該一部において絶縁性を確保する役割を有する。樹脂は、所望の絶縁性を有するものであれば、公知のものを任意に使用することができる。具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアセタール(PVA)、ポリウレタン(PU)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリサルフォン(PSF)、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、またはジアリルフタレート樹脂を使用して、樹脂層を形成することができる。
【0029】
樹脂層は、熱硬化性樹脂が硬化してなる層であることが好ましい。熱硬化性樹脂は、熱により硬化するまで流動性を有しているので、後述する方法で複合構造体を製造するときに、反磁性物質が金型内で磁場により移動および/または再配置させ易いためである。加えて、熱硬化性樹脂は、一般に高い耐熱性と優れた放熱性を有し、また、高い電気絶縁性を示すからである。熱硬化性樹脂は、具体的には、エポキシ樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン(PU)、およびジアリルフタレート樹脂である。特に、エポキシ樹脂は、流動性、絶縁性および耐薬品性に優れていることから、熱硬化性樹脂として好ましく用いられる。
【0030】
(樹脂−反磁性物質複合構造体)
本発明の複合構造体は、前述の反磁性物質と樹脂とを用いて、後述する方法により製造される。本発明の複合構造体は、例えば、図1(a)に示すような断面、または図2(a)に示すような断面を有し、図1(b)に示すような外観、または図2(b)に示すような外観を有するものである。図1(a)(b)および図2(a)(b)の複合構造体10、20は、ともに、広い主表面と主表面の寸法に比較して有意に小さい寸法を有する側面とを有するシート状であり、2つの主表面が樹脂層14で覆われている。ここで、2つの主表面とは、反磁性物質層12の2つの平行な対向する表面である。図1(a)(b)の複合構造体10においては、反磁性物質層12の側面がすべて樹脂層14で覆われている。図2(a)(b)の複合構造体20においては、反磁性物質層12の2つの主表面に加えて、主表面に垂直な4つの側面のうちの3つの側面が樹脂層14で被覆され(即ち、5つの表面が被覆され)、1つの側面(第1側面)が露出している。ここで、反磁性物質層12が前述の反磁性物質であり、樹脂層14が前述の樹脂である。
【0031】
図1(a)(b)および図2(a)(b)に示すように、本発明の複合構造体10、20は、反磁性物質層12の全て又は一部の側面が樹脂層14で被覆された構成を有するものである。一般に、シート状の積層構造体は、その側面において、各層が露出した構成を有する。それに対し、本発明の複合構造体は、後述する方法で製造することにより、その側面を樹脂で形成することができる。そのため、本発明の複合構造体は、側面においても絶縁性を確保することが可能である。
【0032】
図1(a)(b)および図2(a)(b)に示すシート状の複合構造体で10、20は、反磁性物質層12の主表面および側面を明確に規定し、また、複合構造体10、20の主表面および側面を明確に規定している。しかしながら、実際に得られるシート状の複合構造体10、20において各層の輪郭は必ずしも直線ではなく、全体として湾曲していること、あるいは角が丸みを帯びていることがある。そのようなシート状の複合構造体も、反磁性物質層が全体として2つの主表面と4つの側面とみなし得る面を有するとともに、複合構造体10、20が全体としてシート状であるとみなし得る場合には、図1(a)(b)および図2(a)(b)に示されるシート状の複合構造体10、20に含まれる。
【0033】
シート状の複合構造体10、20において、シート状の複合構造体10、20の全体の厚さTは、例えば、10μm以上かつ250μm以下である。反磁性物質層12の厚さt1は、例えば、0.5μm以上かつ150μm以下である。樹脂層14の厚さt2(反磁性物質層12の1つの面を覆う層の厚さ)は、例えば、4.5μm以上かつ100μm以下である。シート状の複合構造体10、20の全体の厚さT、および各層の厚さ(t1、t2)は、後述する製造方法において金型の寸法を調節することにより、調節することができる。したがって、粒子状の反磁性物質を用いる場合には、反磁性物質層12の厚さt1を0.1μm未満とすることもできる。また、同様に、樹脂層14の厚さt2を10μm未満とすることもできる。なお、シート状の樹脂を用いる場合は、樹脂の取り扱いの観点から、シート状の樹脂の厚さを10μm未満とすることは困難である。
【0034】
図1(a)および図2(a)においては、樹脂層14がいずれの箇所においても同じ厚さt2を有する形態を記載したが、本発明のシート状の複合構造体は、一つの形態において、樹脂層の厚さが異なるものであってよい。例えば、2つの主表面のうち、一方の側(例えば、図1(a)において上側)の樹脂層の厚さを、他方の側(例えば、図1(a)において下側)の樹脂層の厚さより大きくしてもよい。両側で樹脂層の厚さが異なる複合構造体は、例えば、樹脂層の厚さが大きい側を、絶縁耐圧が更に高い側として半導体装置において素子に近い側に位置させることで、素子に近い側の絶縁耐圧が高くすることができる。
【0035】
あるいは、図7(c)に示すように、後述する方法で複合構造体を製造する際に、金型内の磁場の強弱を変化させることにより、樹脂層の厚さを変化させてよい。例えば、素子に近い側における金型内の磁場を弱くすることで、素子に近い側の絶縁耐圧を高くすることができる。
【0036】
反磁性物質層12と樹脂層14は一体に成形されているので、複合構造体において、反磁性物質層12と樹脂層14の界面は、隙間無く密着している。反磁性物質層12が粒子からなる場合、粒子は集合して層を形成している。後述する方法で複合構造体を製造する場合には、粒子が集合する過程において、樹脂が完全に粒子とは分離せず、反磁性物質層12の内部に樹脂が入り込んでいて、粒子と粒子との間で薄い膜を形成していることもある。反磁性物質層12が粒子からなる場合、粒子が凝集して、1つの大きな粒子を構成し、この大きな粒子と粒子との間に、樹脂の膜が形成されることもある。本発明においては、そのような膜を含む層も、反磁性物質層12に含まれる。
【0037】
反磁性物質層12が、柱状粒子または板状粒子からなる場合、後述する方法で複合構造体を製造する際に、磁場をかける方向を制御することにより、柱状粒子の長軸または板状粒子の広い面を、磁場の方向に整列させることができる。反磁性物質からなる柱状粒子および板状粒子は、それぞれ、長軸方向および面方向において更に高い熱伝導性を示す。したがって、それらの方向を、例えば、シート状の複合構造体の厚さ方向と平行にすれば、厚さ方向の熱伝導性が高い熱伝導異方性を有する複合構造体を得ることができる。
【0038】
2種類以上の物質からなると共にそれらの比重が異なる反磁性物質を用いた場合、比重の大きい反磁性物質は鉛直下側に位置し易い。そのため、例えば、反磁性物質としてビスマスとグラファイトを組み合わせて用いると、ビスマスの比重がグラファイトの比重よりも大きいので、一方の表面と他方の表面で反磁性物質の組成が異なる積層構造の反磁性物質層12を得ることができると考えられる。
【0039】
次に、本発明の複合構造体の製造方法について、複合構造体10を製造する方法を例として、図3及び図4(a)〜(c)を用いて説明する。ここでは、反磁性物質層12として粒子状のグラファイトを用い、樹脂層14として熱硬化性樹脂を用いて形成する方法を説明する。図4(a)は、トランスファー成形で用いる金型30を示す。まず、図4(a)に示すように金型30を配置する(図3のステップS01)。図4(a)では、金型30は閉じており、内部に形成されるキャビティ(空間)の形状および寸法が、製造される複合構造体の形状および寸法を決定する。金型30は、閉じた状態において、2つの平行な対向する内側表面(図において、上下方向の面)を規定している。ここで、2つの平行な対向する内側表面は、成型される複合構造体の2つの主表面を形成する表面である。金型30は、磁性体で形成され、図示しない電源からの電流を印加することで、金型30のキャビティ内に磁場をかけることが可能である。金型30を形成する磁性体としては、例えば、酸化鉄、酸化クロム、コバルトフェライトまたはアモルファス合金を用いることができる。
【0040】
金型30のキャビティ内に、熱硬化性の樹脂24および反磁性物質22の混合物25を、注入口30aから導入する(図4(b)、図3のステップS02)。なお、樹脂24は、硬化前の物質であり、樹脂24と反磁性物質22の混合物25は、流動性を有する。混合物25においては、反磁性物質22の粒子が、液状の樹脂24中に分散している。金型30への混合物25の導入は、適当なプランジャ(図示せず)を用いて、圧力を加えながら実施される。金型30のキャビティを混合物25で満たした後、さらに所定の圧力を例えば90〜180秒間保持して(保圧)、金型30内の混合物25に圧力を加える。所定の圧力は、例えば、100kgf(9.8MPa)である。
【0041】
金型30のキャビティ内への混合物25の注入および保圧の間に、金型30に電流を印加して、キャビティ内の反磁性物質22に磁場を印加する(図3のステップS03)。反磁性物質22に磁場が印加された結果、反磁性物質22は金型30の内側表面から遠ざかる方向に均等に移動し(図3のステップS04)、それに伴い、樹脂24は金型30の内側表面に近づく方向に押し出される。その結果、図4(c)に示すように、層状の反磁性物質22を樹脂24が内包した構造が得られる。磁場を印加している間の磁束密度は、例えば0.5T以上であり、好ましくは10T以上である。
【0042】
次いで、混合物25に熱を与えることで熱硬化性樹脂である樹脂24を硬化させて、樹脂層14に変化させる(図3のステップS05)。また、反磁性物質22は反磁性物質層12となる。その後、金型30への電流の印加を止めて(図3のステップS06)、キャビティ内に磁場を印加することを止める。以上により、図4(d)に示すように、反磁性物質層12の表面が樹脂層14で覆われた本発明の複合構造体10を製造し、金型30を開いて、複合構造体10を離型して取り出す(図3のステップS07)。
【0043】
ここでは、金型30の内側表面全体が磁性体で構成されるため、反磁性物質22が金型30の内側表面全体から遠ざかるように移動し、その結果、反磁性物質層12の表面全体が樹脂層14で覆われた複合構造体10を製造することができる。なお、図2(a)(b)のように、第1側面において反磁性物質層12が露出している複合構造体20を製造する場合には、第1側面と接する金型30の部分を磁性体以外の材料で形成し、当該第1側面に磁場が印加されないようにする。反磁性物質層12をシート状の反磁性物質22で形成する場合には、例えば、図4(a)に示す金型30のキャビティ内に予め反磁性物質22を配置し、それから樹脂24をキャビティ内に注入する。すなわち、図3のステップS02を、2つのフローに分けて行う。
【0044】
ここでは、磁性体からなる金型30を用いる製造方法の例を説明した。しかしながら、本発明で目的とする金型内への磁場が形成可能であれば、磁性体からなる金型30を使用せずに、磁場を印加する別の手段を用いてよい。その場合には、樹脂層で被覆すべき反磁性物質層の表面に対応する箇所にて、金型の内側表面から反磁性物質が遠ざかるように、磁場を印加する。磁場を印加する手段は、磁場を発生する装置であってよく、あるいは、金型に内蔵される又は取り付けられる磁石であってよい。
【0045】
金型30内で形成される磁場の強度は均一でなくてもよく、例えば、一部において他の部分より強くしてよい。その場合、他の部分より強い磁場が形成された領域においては、反磁性物質22が強い磁場から更に遠ざかるように移動するため、樹脂層14の厚さは厚くなる。例えば、図7(a)に示すように、金型30により形成されるキャビティを3つの部分(30b、30c、30d)にわけたときに、図7(b)に示すように、中央部分30cに更に強い磁場が印加され、両端部分30b、30dに更に弱い磁場が印加されるように電流を印加すると、混合物25は、図7(c)に示すように、中央部分30cにおいて、反磁性物質22の厚さが薄くなると共に樹脂24の厚さが厚くなる。そのため、樹脂24を硬化させて形成した複合構造体11では、図7(d)に示すように、中央部分30cで樹脂層14の厚さが厚くなり、両端部分30b、30dで反磁性物質層12の厚さが厚くなる。磁場の強弱は、例えば、金型30の所望部位に電気配線を設け、磁界を発生させるためにこの電気配線に印加する電流値を強弱させることにより制御される。
【0046】
前述のように、反磁性物質層12は柱状または板状粒子で形成してよい。その場合、金型30内への磁場の形成に際しては、柱状粒子の長軸または板状粒子の広い面が所望の方向と平行となるように、磁場の方向を制御することが好ましい。例えば、磁場の方向が複合構造体10、11の厚さ方向と平行となるように磁場を印加すると、柱状粒子の長軸または板状粒子の広い面は、複合構造体10、11の厚さ方向と平行となる。複合構造体10、11の厚さ方向と平行な方向の磁場は、所望の磁場が発生するように金型30に配置した電気配線に電流を印加することで形成される。例えば、図4において、金型30が規定する2つの平行な対向する内側表面(上下方向の面)からそれぞれ磁場を印加するときに、金型30の内側表面にそれぞれ平行な電気配線を設け、この電気配線に電流印加して磁界を発生させることにより、複合構造体10、11の厚さ方向と平行な方向の磁場が形成される。
【0047】
複合構造体の成形方法は、トランスファー成形に限定されず、射出成形または圧縮成形など、他の成形方法であってよい。例えば、樹脂24が熱可塑性樹脂である場合には、射出成形法で成形してよい。あるいは、複合構造体の成形方法は、圧縮成形法であってよい。いずれの成形方法を用いる場合にも、反磁性物質層12を粒子で形成する場合には、磁場が印加されるときに、粒子状の反磁性物質22が移動できるように、樹脂24は流動性を有する必要がある。また、熱可塑性樹脂を射出成形した場合、その周囲にバリが発生するため、金型30の上下のクリアランスを5μm以下にする必要がある。
【0048】
以上において、シート状の複合構造体およびその製造方法を説明した。シート状の複合構造体は、積層構造体と呼んでもよい。シート状の複合構造体は、特に半導体装置において利用しやすい。なお、シート状の複合構造体は図示した構成に限定されず、例えば、反磁性物質層12の少なくとも1つの主表面と、少なくとも2つの側面が樹脂層で被覆された構成であってよい。本発明の製造方法によれば、反磁性物質層12の少なくとも3つの表面が樹脂層14で覆われた構成を容易に得ることができる。複合構造体は、シート状のものに限定されず、例えば、厚さの寸法が比較的大きい直方体または立方体の形状を有していてよい。
【0049】
あるいは、本発明を適用して、内部に反磁性物質層12を有する他の形状(例えば、球状、円柱状、または他の立体形状)を有する構造体を得ることもできる。磁場を印加しながら金型30を用いて成形することにより、反磁性物質層12の表面の一部または全部が樹脂層14で覆われた、任意の形状の樹脂成形体を得ることができる。例えば、球状体を成形する金型を用いれば、球状の反磁性物質層12が内包された、球状の複合構造体を得ることができる。シート状でない複合構造体においては、反磁性物質層12は矩形または薄い膜の形態のものではないこともあるが、そのような形状または形態のものも便宜的に本明細書でいう「反磁性物質層」に含まれる。
【0050】
(半導体装置)
このようにして得られる複合構造体は、絶縁層である樹脂層14で、反磁性物質層12の表面の少なくとも一部が被覆されているため、半導体装置における部品として使用することができる。反磁性物質層12がグラファイトからなる場合、反磁性物質層12は優れた熱伝導性を有するので、複合構造体は放熱部材(例えば、放熱ブロックまたは放熱フィン)として好ましく用いられる。また、反磁性物質22は、電磁波を反射する性質を有し、それが所定の方向の磁界におかれたときに、当該磁界を打ち消す方向に磁界を発生させる。よって、複合構造体は、半導体装置を構成する素子または部品から発生する電磁波を低減する役割をも果たす。
【0051】
本発明の複合構造体を組み込んだパワーモジュールの一例の断面を、図5に示す。図5に示すパワーモジュール40は、パワー素子42および駆動素子44を含み、それらは金属製リードフレームのダイパッド46に取り付けられている。パワー素子42および駆動素子44は、ワイヤによって接続されている。パワー素子42が取り付けられたダイパッド46には、本発明のシート状の複合構造体50が、導電性ペースト48によって取り付けられている。導電性ペースト48は、導電性粒子を樹脂に分散させたものであり、パワー素子42から放出された熱を複合構造体50に移行させる役割をする。パワーモジュール40およびこれを組み込んだパワー半導体は、半導体装置の一例である。
【0052】
複合構造体50は、熱伝導性が高い金属またはグラファイトである、反磁性物質層52を含むので、放熱部材として機能し、パワー素子42が発生した熱を外部に放出させて、熱による半導体装置の劣化および故障等を低減し、信頼性および寿命を向上させる。複合構造体50の樹脂層54は絶縁層として機能し、反磁性物質層52に電流が流れるのを防止する。
【0053】
複合構造体50はまた、電磁波を反射するので、パワー素子42が発生する磁界とは逆向きの磁界を生じさせ、パワー素子42の駆動に由来して発生する磁界の強さを減少させる。パワー素子42とともに用いられる駆動素子44においては、電磁波による影響を受けて不必要な電気信号(即ち、電磁ノイズ)が発生しやすい。電磁ノイズは、パワーモジュール40の誤作動等を招き、望ましくない。複合構造体50は、そのような電磁ノイズを低減させる役割を果たす可能性がある。特に、複合構造体50において、反磁性物質層52が、反磁性の高いビスマス、またはビスマスで表面が被覆された他の反磁性物質からなる場合には、電磁ノイズが更に低減される可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の樹脂−反磁性物質複合構造体は、例えば、高い熱伝導性等を有するグラファイト等の反磁性物質からなる層を、その表面を絶縁性にして用いることを可能にし、半導体装置の放熱部材として有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 熱伝導シート
5 絶縁シート
6 小片
10、20、50 複合構造体
12、52 反磁性物質層
14、54 樹脂層
22 反磁性物質
24 樹脂
25 混合物
30 金型
40 パワーモジュール
42 パワー素子
44 駆動素子
46 ダイパッド
48 導電性ペースト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反磁性物質層と、前記反磁性物質層の表面の少なくとも一部を覆う樹脂層とを含み、
前記反磁性物質層が反磁性物質の粒子が集合してなる層である、
樹脂−反磁性物質複合構造体。
【請求項2】
前記反磁性物質層は、平行な2つの表面および前記2つの表面に垂直である1つまたは複数の側面を有し、
前記樹脂層が、前記2つの表面と、前記1つまたは前記複数の側面のうち少なくとも1つの側面とを覆う、
請求項1に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体。
【請求項3】
前記反射物質層は、樹脂−反磁性物質複合構造体の厚さ方向と垂直な方向において中央部の厚みが薄く、
前記樹脂層は、樹脂−反磁性物質複合構造体の厚さ方向と垂直な方向において中央部の厚みが厚い
請求項1または2に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体。
【請求項4】
前記樹脂層は、10μm未満の厚さを有している、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体。
【請求項5】
前記反磁性物質の粒子は、柱状粒子または板状粒子であり、
前記反磁性物質層において、前記柱状粒子の長軸または前記板状粒子の広い面が、樹脂−反磁性物質複合構造体の厚さ方向と平行な方向に配向している、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体。
【請求項6】
前記反磁性物質が、グラファイトである、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体。
【請求項7】
前記反磁性物質が、ビスマス、または表面がビスマスで被覆された物質である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体。
【請求項8】
前記樹脂層は、熱硬化性樹脂が硬化してなる層である、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体を放熱部材として含む、
半導体装置。
【請求項10】
反磁性物質の粒子と樹脂とを金型内に配置し、前記金型内に配置された前記反磁性物質に磁場を印加して、前記反磁性物質を前記金型の内側表面の少なくとも一部から遠ざかる方向に移動させた後、
前記金型内で前記樹脂を硬化させて複合構造体を製造する、
樹脂−反磁性物質複合構造体の製造方法。
【請求項11】
前記反磁性物質が柱状粒子または板状粒子であり、前記反磁性物質を移動させて前記柱状粒子の長軸または前記板状粒子の広い面を前記磁場の方向と平行な方向に配向させる、
請求項10に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体の製造方法。
【請求項12】
前記金型が磁性体であり、
前記金型に電流を印加することで発生した磁場を、前記金型内に配置された前記反磁性物質に印加する、
請求項10または11に記載の樹脂−反磁性物質複合構造体の製造方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の製造方法で樹脂−反磁性物質複合構造体を製造し、前記樹脂−反磁性物質複合構造体を放熱部材として封止して半導体装置を製造する、
半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−62486(P2013−62486A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−161701(P2012−161701)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】