説明

樹脂中空成型品の製造方法

【課題】外周面を有し、金型の外型と内型とで囲繞されるキャビティから取り出したあとの半径方向熱収縮量が前記外周面の周方向に沿って変化する樹脂中空成型品を製造するに際し、樹脂中空成型品の周方向の外径寸法のばらつきを大幅に抑えることのできる製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂成型品の半径方向熱収縮量が大きい周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凸に、半径方向熱収縮量が小さい周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凹にした金型10を用いて成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周面を有し、金型の外型と内型とで囲繞されるキャビティから取り出したあとの半径方向熱収縮量が前記外周面の周方向に沿って変化する樹脂中空成型品の製造方法に関し、特に、樹脂中空成型品の外径を周方向に均一にすることができるものに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンタ等の電子写真方式を用いた画像形成装置においては、画像形成の各工程で、転写ローラ、現像ローラ、トナー供給ローラ、帯電ローラ、クリーニングローラ、中間転写ローラ、ベルト駆動ローラ等の、導電性を付与した導電性ローラが用いられている。
【0003】
このような導電性ローラは、シャフト部材の外側に導電性の被覆層を形成して構成されているが、このような導電性ローラを軽量にするため、図1にシャフト部材軸線を含む断面図で、そして、図2にこの軸線に垂直な断面図で示すように、シャフト部材90を、芯金91と、その外側に配置された導電性樹脂よりなる筒状中空部材92とで構成し、筒状中空部材92として、外周円筒部93と、この外周円筒部93を芯金91に対して支持する導電性の円筒支持部94とを一体的に射出成形したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。そして、円筒支持部94として、半径方向内外に延在するリブ95の複数本を周方向に配列したものが用いられる。また、樹脂の熱収縮による長さ方向外径の変化を抑えるため、筒状中空部材92として、図1に示すように、これを長さ方向に分割した短い部材を成形し、これらの部材を芯金91上にローラ軸方向に繋ぎ合わせて、所定の長さの筒状中空部材92とするものも提案されている。
【0004】
なお、図2は、図1のA−A矢視に対応し、図1は、図2のB−B矢視に対応している。
【特許文献1】特開2004−150610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、導電性ローラの外径寸法に対する要求精度はますます高まっており、シャフト部材90の外径のバラツキを小さくすることが求められている現状にあって、外周円筒部93と円筒支持部93を構成するリブ95とは一体的に射出成形されるので、成形後の冷却過程における熱収縮の影響によって、筒状中空部材92の外周面の半径は、リブ95が配置されている周方向位置では大きく、リブ95の配置されていない周方向位置では小さくなる傾向があり、このことによって、金型内では真円であった外周円筒部93は、多角形状に変形し、周方向の外径精度が悪くなるという問題があった。すなわち、製品の導電性ローラにおける筒状中空部材92では、図3に示すように、リブが存在しない周方向位置における外周面の半径r1は、リブが存在する周方向位置における外周面の半径r2より小さくなってしまう。
【0006】
本発明は、上記のシャフト部材のような、外周面を有し、金型の外型と内型とで囲繞されるキャビティから取り出したあとの半径方向熱収縮量が前記外周面の周方向に沿って変化する樹脂中空成型品を製造するに際し、樹脂中空成型品の周方向の外径寸法のばらつきを大幅に抑えることのできる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>は、外周面を有し、金型の外型と内型とで囲繞されるキャビティから取り出したあとの半径方向熱収縮量が前記外周面の周方向に沿って変化する樹脂中空成型品を形成する製造方法において、
この樹脂成型品の半径方向熱収縮量が大きい周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凸に、半径方向熱収縮量が小さい周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凹にした金型を用いて成形する樹脂中空成型品の製造方法である。
【0008】
<2>は、<1>において、前記樹脂成型品を、芯金の周囲に配置された円筒部と、半径方向内外に向いて前記円筒部の内周面に一体的に取り付けられ、前記円筒部を芯金に対して支持する複数のリブとよりなるOAローラ用筒状中空部材とし、これらのリブが配置された周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凹にした金型を用いる樹脂中空成型品の製造方法である。
【0009】
<3>は、<2>において、前記内型のリブに対応する周方向位置と、前記外型の、凹にしたキャビティ部分に対応する周方向位置とを一致させる位置決め手段を具えた金型を用いる樹脂中空成型品の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
<1>によれば、この樹脂成型品の半径方向熱収縮量が大きい周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凸に、半径方向熱収縮量が小さい周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凹にした金型を用いて成形するので、この樹脂成型品を冷却させたあとは、外周面までの半径方向距離を周方向に均一にすることができる。
【0011】
<2>によれば、リブが配置された周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凹にした金型を用いるので、OAローラ用筒状中空部材の外周面までの半径方向距離を均一なものにすることができる。
【0012】
<3>によれば、前記内型のリブに対応する周方向位置と、前記外型の、凹にしたキャビティ部分に対応する周方向位置とを一致させる位置決め手段を具えるので、金型キャビティの凹部分を、製品の収縮率の小さな周方向部分に確実に一致させることができ、このことによって、OAローラ用シャフト部材の外周面までの半径方向距離の均一化を間違いのないものにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る製造方法によって形成される樹脂中空成型品を、OAローラ用筒状中空部材とした場合の実施形態について、図に基づいて説明する。図4は、本発明の製造方法によって形成されるOAローラ用筒状中空部材を、中心軸線を含む面における断面図であり、図5は、中心軸線に直交する面における断面図であり、図5は、図4のC−C断面に対応し、図4は、図5のD−D断面に対応する。
【0014】
OAローラ用筒状中空部材20は、芯金の周囲に、一個だけ、もしくは複数個を軸方向に繋ぎ合わせた状態で複数個が配置される。OAローラ用筒状中空部材20は、外側円筒部13と、半径方向内外に向いて延在し外側円筒部13の内周面に一体的に取り付けられ周方向に間隔をおいて配設された複数個のリブ15と、それらのリブ15の半径方向内側端を繋ぐとともに芯金に外嵌される内側円筒部14とで構成される。
【0015】
ここで、筒状中空部材20に用いる樹脂材料としては、適度の強度を有するとともに、射出成型等により成形可能なものであればよく、汎用樹脂やエンジニアリングプラスチックの中から適宜選定することができ、特に制限されるものではない。具体的には、エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリアセタール、ポリアミド樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド12、ポリアミド4・6、ポリアミド6・10、ポリアミド6・12、ポリアミド11、ポリアミドMXD6(メタキシレンジアミンとアジピン酸とから得られるポリアミド)等)、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレンなどを挙げることができる。また、汎用樹脂としては、ポリプロピレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンなどが挙げられる。その他、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、筒状中空部材20に導電性が必要とされる場合には、樹脂に導電剤を添加するが、その導電剤としては、樹脂材料中に均一に分散することができるものであれば各種のものを使用することが可能であり、カーボンブラック粉末、グラファイト粉末、カーボンファイバーやアルミニウム、銅、ニッケルなどの金属粉末、酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛などの金属酸化物粉末、導電性ガラス粉末などの粉末状導電剤が好ましく用いられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
筒状中空部材20の材料中には、必要に応じ補強や増量等を目的として各種導電性または非導電性の繊維状物やウィスカー、フェライトなどを配合することができる。繊維状物としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維などの繊維を挙げることができ、また、ウィスカーとしては、チタン酸カリウムなどの無機ウィスカーを挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
筒状中空部材20は、これを成形する金型キャビティから取り出したあとの冷却過程で熱収縮するが、上記のような周方向に不均一な構造に起因して、その半径方向熱収縮量は周方向位置によって変化し、リブ15の存在する周方向位置では小さく、リブ15の存在しない周方向位置では大きい。しかし、それにもかかわらず、最終製品における筒状中空部材20では、リブ15のない周方向位置での外側円筒部13の外周面上の点における半径r1と、リブ15のある周方向位置での半径r2とを等しくなるようにできるのが本発明によってもたらされる大きな効果であり、それは、以下に説明する製造方法によって実現することができる。
【0019】
図6は、本発明の製造方法において、筒状中空部材20を成形する金型の、キャビティの中心軸線を含む面における断面図であり、図7は、キャビティ中心軸線と直交する面における断面図であり、図7は、図6のE−E断面に対応し、図6は、図7のF−F断面に対応する。
【0020】
金型10は、外側円筒部13の外周面に対応するキャビティ面を有する外型1と、外側円筒部13の内周面およびリブ15の側面に対応するキャビティ面を有する内型2とよりなり、これらを軸線方向に接近させる方向に相対変位させることにより金型10を閉止し、これらを離隔させる方向に相対変位させることにより開放するよう構成される。そして、筒状中空部材20を形成するキャビティ11は、金型10を閉止した状態において外型1と内型2とに囲繞された空間として形成される。
【0021】
外型1の、外側円筒部13の外周面を形成するキャビティ面1Aは、筒状中空部材20における隣接するリブ15相互の周方向中央に対応する点における半径が、R1と最も大きこの点で凸になり、リブ15の周方向位置に対応する点における半径が、R2と最も小さく、この点で凹となるよう形成されている。そして、筒状中空部材20の金型10から取り出したあとの冷却過程における半径方向の熱収縮量をΔR(θ)とき、ΔR(θ)は周方向角度θに依存して変化するが、キャビティ面1A上の各点における半径R(θ)は、R(θ)+ΔR(θ)が、周方向角度θに依存しない一定の値となるよう設定されおり、このことによって、冷却後の筒状中空部材20の外側円筒部13の外周面の半径を周方向に依存しない一定なものとすることができる。
【0022】
ここで、外型1は、外筒ブロック3と、端板ブロック9と、心棒ブロック4とで構成され、端板ブロック9には、キャビティ11に樹脂材料を注入するためのスプルー6、ランナ7、および、ゲート8が設けられる。
【0023】
一方、内型2は、リブ15を形成する断面扇形の扇形ブロック5を配設して構成され、扇形ブロック5の先端には突起5Aが設けられる。図8は、外型1の、図6におけるG−G矢視に対応する断面図であり、外型1の端板ブロック9の中空部側の面の、前記突起5Aに対応する位置には、穴9Aが形成され、金型10を閉止したとき、突起5Aと穴9Aとを係合することにより、外型1と内型2との周方向相対位置の位置決めができるよう構成されている。
【0024】
もし、この位置決めが不十分である場合には、外型1のキャビティ面1Aにおける最小半径部分と、内型2のリブ形成部分との周方向位置とを一致させることができず、その結果、R(θ)+ΔR(θ)を、全θに対して一定にすることができなくなってしまうため、上に例示したような位置決め手段を具える金型を用いるが好ましい。
【0025】
そして、本発明の製造方法によれば、上記に示したような金型10を用いて筒状中空部材20を形成するので、外周面半径が均一な最終製品を製造することができる。
【0026】
以上、OAローラ用筒状中空部材20を例として説明したが、上記に説明したことは、OAローラ用筒状中空部材20に限定されるものではなく、外周面を有し、金型の外型と内型とで囲繞されるキャビティから取り出したあとの半径方向熱収縮量が前記外周面の周方向に沿って変化する樹脂中空成型品であれば、これらのすべてに適用することができる。
【実施例】
【0027】
図6、図7に示した、外型1のキャビティ面1Aが周方向に凹凸を有する金型10を用いて形成した筒状中空部材20を実施例とし、実施例の真円度を測定した。また、従来例として、外型のキャビティ面を真円に仕上げた金型を用いて筒状中空部材を形成し、この従来例についても真円度を測定し、実施例と比較した。
【0028】
表1にその結果を示す。なお、ここでいう真円度とは、シャフト部材を、その外周面にダイヤルゲージを直角にあてた状態で、1回転したときの最大の振れとした。
【0029】
実験に用いた各例は、いずれも、筒状中空部材の外径が17.4mmであり、また、実施例に用いた金型10における外型1のキャビティ面1Aの凹凸差の最大値は0.03mmであった。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、実施例の導電性ローラは、従来例に対比して、外径のばらつきを顕著に減少させることができた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来の導電性ローラのシャフト部材を示す断面図である。
【図2】図1のA―A断面における断面図である。
【図3】従来の導電性ローラのシャフト部材における金型から取り出したあとの冷却過程での変形を示す模式図である。
【図4】本発明に係る実施形態の製造方法で形成された筒状中空部材の、軸線を含む断面における断面図である。
【図5】本発明に係る実施形態の製造方法で形成された筒状中空部材の、軸線と直角な断面における断面図である。
【図6】本発明に係る実施形態の製造方法に用いられる金型の、キャビティ軸線を含む断面における断面図である。
【図7】本発明に係る実施形態の製造方法に用いられる金型の、キャビティ軸線と直角な断面における断面図である。
【図8】外型の、図6のG−G矢視に対応する断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 外型
2 内型
3 外筒ブロック
4 心棒ブロック
5 扇型ブロック
5A 扇型ブロックの突起
6 スプルー
7 ランナ
8 ゲート
9 端板ブロック
9A 端板ブロックの穴
10 金型
11 キャビティ
13 外側円筒部
14 内側円筒部
15 リブ
20 OAローラ用筒状中空部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面を有し、金型の外型と内型とで囲繞されるキャビティから取り出したあとの半径方向熱収縮量が前記外周面の周方向に沿って変化する樹脂中空成型品を形成する製造方法において、
この樹脂成型品の半径方向熱収縮量が大きい周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凸に、半径方向熱収縮量が小さい周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凹にした金型を用いて成形する樹脂中空成型品の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂成型品を、芯金の周囲に配置された円筒部と、半径方向内外に向いて前記円筒部の内周面に一体的に取り付けられ、前記円筒部を芯金に対して支持する複数のリブとよりなるOAローラ用筒状中空部材とし、これらのリブが配置された周方向位置の前記外周面部分に対応するキャビティ部分を凹にした金型を用いる請求項1に記載の樹脂中空成型品の製造方法。
【請求項3】
前記内型のリブに対応する周方向位置と、前記外型の、凹にしたキャビティ部分に対応する周方向位置とを一致させる位置決め手段を具えた金型を用いる請求項2に記載の樹脂中空成型品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−119849(P2008−119849A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303001(P2006−303001)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】