説明

樹脂封止型半導体装置とその製造方法

【課題】凹部を含む突起を有する構造において、凹部のエアー抜けを改善し、凹部にボイドを巻き込まない構造を備えた樹脂封止型半導体装置を提供することを第1の目的とする。また、凹部内にボイドを巻き込まない構造を備えた樹脂封止型半導体装置の製造方法を提供することを第2の目的とする。
【解決手段】ヒートシンク10は、当該ヒートシンク10の一面11のうち半導体素子30が実装される実装領域16において、一面11の面方向のうちの一方向に沿って形成された線状の凹部14と、凹部14の両側にそれぞれ位置する突起部15と、により構成された線状突起13を有している。これにより、接合層20は凹部14の延設方向である一方向に沿って濡れやすくなるので、凹部14に位置するエアーが抜けやすく、凹部14にボイドを巻き込まない構造とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシンクの一面に接合層を介して半導体素子を接合した樹脂封止型半導体装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂封止型半導体装置において、素子が接合層を介してヒートシンクに接合された構造が知られている。ここで、接合層の長期的な信頼性を確保するため、接合層の最低膜厚を確保することが必要になっている。
【0003】
そこで、特許文献1、2では、ヒートシンクの接合面にプレス加工で突起を形成した構造が提案されている。特許文献1では、中央部が窪んだリング状の突起が提案されている。また、特許文献2では、リング状窪みの中央部が隆起した突起が提案されている。これら各特許文献1、2で提案された突起の上に素子等が配置されるにより接合層の最低膜厚が確保されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4154793号公報
【特許文献2】特開2007−116080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の技術では、プレス加工によって形成された窪みがリング状になっているので、例えば接合層を溶融させてヒートシンクの上に流すと、リング状の窪みのうち窪みの延設方向がヒートシンク上の接合層の流れ方向に対して異なる部分では接合層が濡れにくい。このため、窪みのうち接合層が濡れにくい部分に位置する空気(エアー)が接合層で閉じこめられ、巻き込みボイドが形成されてしまう。この巻き込みボイドが熱伝達を阻害するため、素子の放熱性が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、凹部を含む突起を有する構造において、凹部のエアー抜けを改善し、凹部にボイドを巻き込まない構造を備えた樹脂封止型半導体装置を提供することを第1の目的とする。また、凹部内にボイドを巻き込まない構造を備えた樹脂封止型半導体装置の製造方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、一面(11)を有するヒートシンク(10)と、ヒートシンク(10)の一面(11)に接合層(20)を介して接合された半導体素子(30)と、ヒートシンク(10)および半導体素子(30)を封止するように成型された樹脂部(50)と、を備え、ヒートシンク(10)は、当該ヒートシンク(10)の一面(11)のうち半導体素子(30)が実装される実装領域(16)において、一面(11)の面方向のうちの一方向に沿って形成された線状の凹部(14)と、凹部(14)の両側にそれぞれ位置する突起部(15)と、により構成された線状突起(13)を有していることを特徴とする。
【0008】
これによると、接合層(20)は凹部(14)の延設方向である一方向に沿って濡れやすくなるので、凹部(14)に位置するエアーが抜けやすい構造とすることができる。したがって、凹部(14)のエアー抜けを改善することができ、凹部(14)にボイドを巻き込まない構造とすることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、線状突起(13)は、ヒートシンク(10)に少なくとも2本以上設けられていることを特徴とする。これによると、半導体素子(30)を2本以上の線状突起(13)で支持することができる。このため、半導体素子(30)を面で支えることができる。
【0010】
また、請求項3に記載の発明のように、請求項2に記載の発明において、線状突起(13)は、当該線状突起(13)の一端側が実装領域(16)の中央部で交わると共に、当該線状突起(13)の他端側が実装領域(16)の外縁部まで延びている構造とすることができる。
【0011】
また、請求項4に記載の発明のように、請求項3に記載の発明において、半導体素子(30)は接合層(20)に接触する面が四角形状になっており、線状突起(13)は実装領域(16)の対角線に沿って形成されている構造とすることができる。
【0012】
請求項5に記載の発明では、請求項2に記載の発明において、線状突起(13)は、当該線状突起(13)の一端側が実装領域(16)の中央部で互いに離間していると共に、当該線状突起(13)の他端側が実装領域(16)の外縁側まで延びていることを特徴とする。これにより、実装領域(16)の中央部に位置する凹部(14)にボイドが残らない構造とすることができる。
【0013】
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の発明において、線状突起(13)は、実装領域(16)の中心部から外縁部に向けて放射状に形成され、少なくとも3本以上設けられていることを特徴とする。これにより、半導体素子(30)の傾きを補正できる。
【0014】
請求項7に記載の発明では、線状突起(13)の他端側は、凹部(14)が実装領域(16)の外側に位置するように実装領域(16)からはみ出ていることを特徴とする。これにより、凹部(14)のうち実装領域(16)からはみ出た部分には半導体素子(30)を組み付ける圧力が掛からないので、溶融した接合層(20)を逃がしやすい構造となる。したがって、半導体素子(30)が高速に組み付けられた場合でも、凹部(14)にボイドが発生しにくい構造とすることができる。
【0015】
請求項8に記載の発明では、凹部(14)は、線状突起(13)の一端側および他端側に向かってヒートシンク(10)の一面(11)に近づくように一面(11)に対して傾斜した傾斜部(14a)を有していることを特徴とする。これにより、凹部(14)に入り込んだ接合層(20)が傾斜部(14a)で滑りやすくなるので、凹部(14)のエアー抜けを改善でき、凹部(14)にボイドを巻き込まないようにすることができる。
【0016】
請求項9に記載の発明では、ヒートシンク(10)の一面(11)において一方向に垂直な方向における凹部(14)の幅は1mm以上であることを特徴とする。これにより、接合層(20)が凹部(14)に入り込みやすくすることができる。
【0017】
請求項10に記載の発明では、線状突起(13)の凹部(14)の最大深さは、ヒートシンク(10)の厚みの10%以下の深さであることを特徴とする。これにより、プレス加工等による凹部(14)の形成により、ヒートシンク(10)のうち一面(11)とは反対側の他面(12)に凸部が形成されてしまうことを防止できる。したがって、ヒートシンク(10)の他面(12)の平面度を維持することができる。
【0018】
請求項11に記載の発明では、ヒートシンク(10)に対して一方向に垂直な方向にヒートシンク(10)の断面をとったときの凹部(14)の底部がR形状になっていることを特徴とする。これにより、凹部(14)の底部で接合層(20)が流れやすくなるので、凹部(14)の底部にエアーが残らない構造とすることができる。
【0019】
請求項12に記載の発明では、一面(11)を有するヒートシンク(10)と、ヒートシンク(10)の一面(11)に接合層(20)を介して接合された半導体素子(30)と、ヒートシンク(10)および半導体素子(30)を封止するように成型された樹脂部(50)と、を備え、ヒートシンク(10)は、当該ヒートシンク(10)の一面(11)のうち半導体素子(30)が実装される実装領域(16)において、一面(11)の面方向のうちの一方向に沿って形成された線状の凹部(14)と、凹部(14)の両側にそれぞれ位置する突起部(15)と、により構成された線状突起(13)を有し、凹部(14)は線状突起(13)の一端側および他端側に向かってヒートシンク(10)の一面(11)に近づくように一面(11)に対して傾斜した傾斜部(14a)を有する樹脂封止型半導体装置の製造方法であって、以下の点を特徴としている。
【0020】
すなわち、凹部(14)の形状に沿った曲面を有する圧子をヒートシンク(10)の一面(11)に対して打ち込むことにより、ヒートシンク(10)の一面(11)に線状突起(13)を形成する線状突起形成工程と、ヒートシンク(10)の一面(11)に溶融した接合層(20)を配置すると共に、半導体素子(30)を接合層(20)に押しつけて接合層(20)を固めることにより、接合層(20)を介して半導体素子(30)をヒートシンク(10)の一面(11)に接合する接合工程と、を含んでいることを特徴とする。
【0021】
これによると、接合層(20)は凹部(14)の延設方向である一方向に沿って濡れやすくなるので、凹部(14)に位置するエアーを抜けやすくすることができる。したがって、凹部(14)のエアー抜けを改善することができ、凹部(14)にボイドを巻き込まないようにすることができる。
【0022】
請求項13に記載の発明では、線状突起形成工程では、ヒートシンク(10)の一面(11)において一方向に垂直な方向おける凹部(14)の幅が1mm以上となるように線状突起(13)を形成することを特徴とする。これにより、接合工程において、溶融させた接合層(20)を凹部(14)に入り込みやすくすることができる。
【0023】
請求項14に記載の発明では、線状突起形成工程では、線状突起(13)の凹部(14)の最大深さがヒートシンク(10)の厚みの10%以下の深さとなるように線状突起(13)を形成することを特徴とする。
【0024】
これにより、ヒートシンク(10)の一面(11)に圧子を打ち込んだ際に、ヒートシンク(10)のうち一面(11)とは反対側の他面(12)に凸部が形成されてしまうことを防止できる。したがって、ヒートシンク(10)の他面(12)の平面度を維持することができる。
【0025】
請求項15に記載の発明では、線状突起形成工程では、ヒートシンク(10)に対して一方向に垂直な方向にヒートシンク(10)の断面をとったときの凹部(14)の底部がR形状となるように線状突起(13)を形成することを特徴とする。
【0026】
これにより、接合工程において、凹部(14)の底部に接合層(20)を流しやすくすることができるので、凹部(14)の底部にエアーが残らない構造とすることができる。
【0027】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態に係る樹脂封止型半導体装置の断面図である。
【図2】図1に示されるヒートシンクの一面の平面図である。
【図3】1本の線状突起の断面を示した図である。
【図4】銅板に対するパンチ加工前後の様子を示した図である。
【図5】銅板の凹部の深さと裏面平面度との関係を示した図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る樹脂封止型半導体装置の断面図である。
【図7】図6に示されるヒートシンクの一面の平面図である。
【図8】本発明の第3実施形態に係る樹脂封止型半導体装置の断面図である。
【図9】図8に示されるヒートシンクの一面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0030】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る樹脂封止型半導体装置の断面図である。この図に示されるように、樹脂封止型半導体装置は、ヒートシンク10と、接合層20と、半導体素子30と、電極端子40と、樹脂部50と、を備えて構成されている。
【0031】
ヒートシンク10は一面11とこの一面11に対して反対側の他面12とを有する板状をなしており、接合層20を介して半導体素子30の熱を受け取る役割を果たすものである。ヒートシンク10は、例えば□20mm、厚さ3mmの純銅板である。また、ヒートシンク10にはNiメッキが7μm程度施されている。
【0032】
接合層20は、ヒートシンク10の一面11と半導体素子30とを接合する役割を果たすものである。接合層20として、例えばはんだが採用される。
【0033】
半導体素子30は、IGBTやパワーMOSトランジスタ等のパワー素子が形成された半導体チップである。半導体素子30は接合層20に接触する面が四角形状になっており、例えば□10mm、厚さ0.2mmのサイズである。半導体素子30には図示しないゲートパッド、ソースパッド、ドレインパッドがそれぞれ形成されている。
【0034】
電極端子40は、半導体素子30と外部とを電気的に接続するための端子である。例えば、半導体素子30のゲートパッドやソースパッドに電気的に接続される電極端子40は、ボンディングワイヤ60を介してゲートパッドやソースパッドにそれぞれ電気的に接続されている。また、半導体素子30のドレインパッドに電気的に接続される電極端子40は、接合層20およびヒートシンク10を介して電気的に接続されている。
【0035】
樹脂部50は、電極端子40の一部が露出するようにヒートシンク10および半導体素子30を封止するように成型されたものである。樹脂部50として、例えばシリカを内在した樹脂が採用される。
【0036】
なお、図1では樹脂部50がヒートシンク10の他面12を覆っている断面となっているが、実際にはヒートシンク10の他面12は樹脂部50から露出しており、ヒートシンク10が半導体素子30から受け取った熱を樹脂封止型半導体装置の外部に放出できるようになっている。
【0037】
上記のような樹脂封止型半導体装置の構成において、ヒートシンク10は線状突起13を有している。これについて、図2および図3を参照して説明する。図2は、半導体素子30側からヒートシンク10の一面11を見た平面図である。この図に示されるように、線状突起13は一面11の面方向のうちの一方向に沿って形成されており、凹部14と突起部15とを有している。これら凹部14と突起部15とを含んだ構成を1本の線状突起13とする。なお、一方向が線状突起13の延設方向に対応する。
【0038】
凹部14は、一方向に沿って形成された線状の溝である。また、突起部15は、凹部14の両側にそれぞれ位置すると共にヒートシンク10の一面11から突出した部分である。突起部15は半導体素子30に接触している。なお、突起部15は半導体素子30に接合層20を介して接触する部分もある。このように、突起部15は半導体素子30に直接接触していても良いし、突起部15は接合層20を介して半導体素子30に接触していても良い。
【0039】
本実施形態では、図2に示されるように、ヒートシンク10の一面11のうち半導体素子30が実装される領域を実装領域16としている。そして、線状突起13は実装領域16の範囲内に形成されている。
【0040】
線状突起13はヒートシンク10に4本設けられている。線状突起13のうちの実装領域16の中央部側を一端側とし、実装領域16の外縁部側を他端側とすると、これら4本の線状突起13のうちの各一端側が実装領域16の中央部で交わると共に、各線状突起13の他端側が実装領域16の外縁部までそれぞれ延びている。ここで、「線状突起13の一端側が交わる」とは、各線状突起13の凹部14がそれぞれ繋がっていることを指す。
【0041】
また、各線状突起13は実装領域16の中心位置を中心として放射状に設けられている。具体的に、4本の線状突起13は、実装領域16の対角線に沿ってそれぞれ形成されている。このため、各凹部14が交わる実装領域16の中心部では各凹部14の接続部が十字状をなしている。このような線状突起13が設けられていることで、半導体素子30が2本以上の線状突起13で支持される。つまり、半導体素子30が面で支えられる。
【0042】
図3は、1本の線状突起13の断面を示した図である。図3(a)は線状突起13の延設方向に平行に突起部15の断面をとった図であり、図3(b)は線状突起13の延設方向に垂直な方向に線状突起13の断面をとった図である。
【0043】
図3(a)に示されるように、突起部15の上部は平坦面になっており、この平坦面に半導体素子30が接触する。また、接合層20の平均膜厚(100μm)、半導体素子30の傾きの保証、接合層20の最低膜厚の確保等の理由のために、ヒートシンク10の一面11を基準として40μmを超える高さとなるように突起部15が設けられている。例えば、突起部15は50μmの高さになっている。そして、図3(b)に示されるように、突起部15は凹部14の両側に位置している。
【0044】
一方、凹部14は、図3(a)に示されるように、線状突起13の延設方向の中間部が最も深くなっている。また、凹部14は、線状突起13の一端側および他端側に向かってヒートシンク10の一面11に近づくように一面11に対してなだらかに傾斜した傾斜部14aを有している。この傾斜部14aは、凹部14に入り込んだ溶融した接合層20の濡れ拡がりが阻害されないように設けられている。凹部14に入り込んだ溶融した接合層20がこの傾斜部14aを滑ることで凹部14のエアーが抜かれ、凹部14にボイドが巻き込まれないようになっている。
【0045】
そして、図3(b)に示されるように、ヒートシンク10の一面11において凹部14の幅方向(一方向に垂直な方向)における当該凹部14の横幅は1mm以上2mm以下になっている。このように、1mm以上の横幅を確保することで接合層20が凹部14に入り込みやすくなっている。また、横幅を2mm以下とすることでヒートシンク10の一面11の悪化を防止する。
【0046】
ここで、線状突起13の凹部14の最大深さは、ヒートシンク10の厚みの7%以上10%以下の深さである。7%以上としているのは、凹部14に位置していた部分を利用して突起部15の高さを確保するためである。また、10%以下としているのは、プレス加工等による凹部14の形成により、ヒートシンク10のうち一面11とは反対側の他面12に凸部が形成されることを防止し、ヒートシンク10の他面12の平面度を維持するためである。上述のように、ヒートシンク10の板厚を3mmとしているので、本実施形態では凹部14の最大深さは例えば0.3mm以下である。
【0047】
さらに、図3(b)に示されるように、幅方向にヒートシンク10の断面をとったときの凹部14の底部はR形状になっている。これは、凹部14の底部が尖っていると接合層20が入り込みにくくボイドが形成されやすいため、凹部14の底部をR形状とすることで凹部14の底部のエアーを抜けやすくしている。
【0048】
なお、線状突起13の凹部14は線状圧子(パンチ)をヒートシンク10に打ち付けて形成するので、線状突起13の延設方向の線長さや凹部14の深さは図3(a)に示されるように「成り行き」の値となる。もちろん、凹部14の横幅や深さは上記の条件を満たすように形成される。以上が、本実施形態に係る樹脂封止型半導体装置の構成である。
【0049】
次に、樹脂封止型半導体装置の製造方法について説明する。まず、半導体プロセスにより半導体素子30を製造しておく。
【0050】
そして、ヒートシンク10の一面11に線状突起13を形成する線状突起形成工程を行う。この場合、凹部14の形状に沿った曲面を有する線状圧子をヒートシンク10の一面11に対してプレスにて一括で打ち込むことにより、十字状の凹部14を形成する。これにより、凹部14となった部分に位置していた銅肉が凹部14の両側の突起部15となるように移動することで、突起部15が形成される。
【0051】
この際、凹部14の幅方向の幅を1mm以上とし、凹部14の深さをヒートシンク10の厚みの10%の0.3mm以下にする。これにより、ヒートシンク10の他面12側に凸部はほぼ形成されず、ヒートシンク10の他面12の平面度は良好となる。
【0052】
この後、接合工程を行う。具体的には、ヒートシンク10にNiメッキを7μm形成した後、ヒートシンク10を250℃程度まで加熱し、各線状突起13の凹部14の重なり部分である十字の中心(つまり実装領域16の中心部)に溶融させたはんだを必要量だけ滴下する。はんだとして例えば糸はんだ等を用いる。なお、ヒートシンク10に対するメッキ処理は線状突起形成工程後に行っても良い。
【0053】
ヒートシンク10の一面11に溶融させたはんだを滴下しただけでは、はんだは一面11上で丸い半球状になっているため、はんだに半導体素子30を押しつけることではんだを半導体素子30の中心部から外周側へと拡げながら組み付ける。このとき、各線状突起13の凹部14がヒートシンク10の一面11の実装領域16の中心部から外縁部側に向かって放射状にそれぞれ形成されているので、溶融したはんだが実装領域16の外縁部側に向かって凹部14を埋めるように流れる。すなわち、溶融したはんだが凹部14に位置するエアーを凹部14の外部に抜きながら広がる。このため、凹部14にボイドを巻き込まずに半導体素子30を組付けることができる。このように、凹部14に位置するエアーがはんだによって凹部14の外部にはき出されるのは、溶融したはんだの広がりの方向に沿って凹部14が延びているからである。また、凹部14に傾斜部14aが設けられているので、はんだをスムーズに凹部14に導入し、はんだの流れを阻害せずに凹部14からはんだを流し出すことができる。
【0054】
このようにして、溶融させたはんだをヒートシンク10の一面11に流すと共に、半導体素子30をはんだに押しつけてはんだを固めることにより、ヒートシンク10と半導体素子30との間に接合層20を形成し、接合層20を介して半導体素子30をヒートシンク10の一面11に接合する。
【0055】
続いて、半導体素子30のゲートパッド等と電極端子40とをボンディングワイヤ60で接合し、接合層20を介してヒートシンク10と電極端子40とを接合する接続工程を行う。
【0056】
この後、電極端子40の一部が露出するように、ヒートシンク10および半導体素子30を樹脂部50で封止する封止工程を行う。こうして、図1に示される樹脂封止型半導体装置が完成する。
【0057】
上記のように、ヒートシンク10に線状突起13を設けるが、凹部14の深さをヒートシンク10の厚みの10%以下としている。これは、ヒートシンク10の一面11に線状圧子を打ち込んだときに、ヒートシンク10の他面12の平面度を確保するためである。そこで、発明者らは、線状突起13の凹部14の深さとヒートシンク10の他面12の平面度との関係を調べた。これについて、図4および図5を参照して説明する。
【0058】
この試験では、線状圧子として図4に示される「パンチ」を用いている。また、ヒートシンク10と同じ銅板(Cu)を用いて試験を行った。そして、試験では、30mm×40mm×2.0mm(板厚)の銅板に加圧力を一定として押し込み深さに水準を設け、図4(a)に示されるようにパンチを押圧する。パンチ加圧力は例えば1tである。そして、押圧後、図4(b)に示されるように銅板の裏面平面度を測定する。
【0059】
なお、図4(b)の「突起」が図3(b)の突起部15に対応し、図4(b)の「凹部」が図3(b)の凹部14に対応する。また、図4(b)の「裏面」は図1のヒートシンク10の他面12に対応する。
【0060】
銅板の凹部の深さを変化させたときの裏面平面度を調べた結果を図5に示す。図5の横軸は銅板の板厚に対する凹部深さの割合(%)であり、縦軸は銅板の裏面平面度(mm)である。ここで、凹部の深さは銅板に形成された凹部の最大深さである。また、裏面平面度は触針にて測定した平均値である。
【0061】
図5を見てみると、裏面平面度が±0.05mm(3σ)を超える場合、図4(b)に示されるように裏面凸部が形成されて平面度が悪化していることがわかる。一方、裏面平面度が±0.05mm(3σ)を満たす凹部深さは板厚の10%以下の場合である。したがって、銅板の裏面平面度を維持するためには、凹部深さを板厚の10%以下とすれば良い。このような結果から、ヒートシンク10に設けられた線状突起13の凹部14の最大深さをヒートシンク10の板厚の10%以下としている。
【0062】
以上説明したように、本実施形態では、ヒートシンク10と半導体素子30との間の接合層20の膜厚を一定以上に保つための線状突起13をヒートシンク10の一面11に設けていることが特徴となっている。これにより、溶融した接合層20は凹部14の延設方向に沿って濡れやすくなるので、凹部14に位置するエアーが溶融した接合層20によってはき出されやすくすることができる。したがって、凹部14のエアー抜けを改善することができ、凹部14にボイドを巻き込まないようにすることができる。
【0063】
特に、凹部14には傾斜部14aが設けられているので、接合層20の濡れに逆らわずにエアーを抜けやすくすることができる。このため、巻き込みエアーによるボイドができにくい構造とすることができる。
【0064】
また、凹部14の深さおよび形状を最適化しているため、ヒートシンク10の他面12の平面度を維持することができる。これにより、ヒートシンク10が図示しない筐体に接触して冷却される際に、ヒートシンク10の他面12の平面度が悪化していないため、放熱性が悪化することはない。
【0065】
そして、本実施形態のようにパワー素子の実装では、ボイドの規格が厳しいため、上記の線状突起13が特に有効である。
【0066】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について説明する。上記第1実施形態では、4本の線状突起13の各凹部14が実装領域16の中央部で交差していたが、本実施形態では各線状突起13は互いに離間して設けられている。
【0067】
図6は、本実施形態に係る樹脂封止型半導体装置の断面図である。また、図7は、半導体素子30側からヒートシンク10の一面11を見た平面図である。図7に示されるように、4本の線状突起13は、各線状突起13の一端側が実装領域16の中央部で互いに離間していると共に、各線状突起13の他端側が実装領域16の外縁側まで延びている。つまり、各凹部14は互いに交差していない。また、本実施形態においても各線状突起13は実装領域16の対角線に沿って形成されており、実装領域16の中心部から外縁部に向かって放射状に形成されている。
【0068】
なお、図7に示される1つの線状突起13の「○」は線状圧子(パンチ)の中心位置を示している。つまり、この「○」の部分が凹部14のうち最も深い部分である。もちろん、他の3つの線状突起13についても同様である。
【0069】
上記の構造では、ヒートシンク10の一面11において実装領域16の中央部に線状突起13が位置していない。これは、以下のような場合に対する対策である。すなわち、はんだ吐出時間を短縮するために例えば太い線はんだを実装領域16の中央部に供給する場合がある。この場合、溶融させたはんだを滴下する位置に線状突起13の凹部14の交わりが存在していると、線はんだの径内の部分ではんだの広がりを制御することが難しくなる。このため、実装領域16の中央部において各凹部14が交差している部分にボイドを巻き込む可能性があり、放熱性が悪化する可能性がある。これに対し、図7に示されるように、はんだを供給する実装領域16の中央部には線状突起13を位置させないことで、実装領域16の中央部における凹部14の巻き込みボイドを回避できる。
【0070】
以上のように、各線状突起13の一端側が実装領域16の中央部で互いに離間するように各線状突起13を形成しても良い。
【0071】
(第3実施形態)
本実施形態では、第1、第2施形態と異なる部分について説明する。上記の第1、第2施形態では、線状突起13はヒートシンク10の一面11のうち実装領域16の範囲内に形成されていた。これにより、凹部14のエアーを抜きながらはんだが順次拡がることで凹部14のボイドをなくすことができるものの、半導体素子30の組み付け時間を短縮するためにはんだの拡がり時間を短縮させると、凹部14の最も深い部分にエアーを巻き込んでしまう可能性がある。
【0072】
そこで、本実施形態では、図8および図9に示されるように、線状突起13の他端側は、凹部14が半導体素子30の外側に位置するように、ヒートシンク10に線状突起13を設けたことが特徴となっている。すなわち、図8および図9に示されるように、凹部14が実装領域16の外側に位置するように、線状突起13の他端側が実装領域16からはみ出ている。
【0073】
これにより、凹部14のうち実装領域16からはみ出た部分には半導体素子30を組み付ける圧力が掛からないため、溶融したはんだが逃げやすくなる。このため、半導体素子30を高速に組み付けた場合でも、凹部14に発生しやすいボイドをなくすことができる。
【0074】
(他の実施形態)
上記各実施形態で示された樹脂封止型半導体装置の構成は一例であり、上記で示した構成に限定されることなく、本発明の特徴を含んだ他の構成とすることもできる。例えば、上記各実施形態では、各線状突起13を実装領域16の対角線上に配置させていたが、これは配置の一例である。したがって、例えば2本の線状突起13を平行またはハの字のように配置しても良い。この場合、第3実施形態のように線状突起13の他端側を実装領域16からはみ出しても良い。
【0075】
上記各実施形態では、4本の線状突起13がそれぞれ形成されているが、半導体素子30を支持するため、線状突起13は少なくとも3本以上設けられていれば良い。このように、最低3本の線状突起13が設けられていれば、半導体素子30の傾きを補正できる。
【0076】
上記各実施形態では、突起部15の上部は平坦面としているが、突起部15の上部は平坦面でなくとも、例えば曲面でも良い。
【0077】
また、接合層20を形成するため、溶融させたはんだを拡げるためには半導体素子30により拡げる方法以外にも、箱型の囲いをはんだに押し当てて拡げるようなスパンカと呼ばれる方法を採用することもできる。はんだ供給方法についても、線はんだだけでなく、溶融はんだを直接供給する方法でも良い。
【符号の説明】
【0078】
10 ヒートシンク
12 ヒートシンクの他面
11 ヒートシンクの一面
13 線状突起
14 凹部
14a 傾斜部
15 突起部
16 実装領域
20 接合層
30 半導体素子
50 樹脂部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面(11)を有するヒートシンク(10)と、
前記ヒートシンク(10)の一面(11)に接合層(20)を介して接合された半導体素子(30)と、
前記ヒートシンク(10)および前記半導体素子(30)を封止するように成型された樹脂部(50)と、を備え、
前記ヒートシンク(10)は、当該ヒートシンク(10)の一面(11)のうち前記半導体素子(30)が実装される実装領域(16)において、前記一面(11)の面方向のうちの一方向に沿って形成された線状の凹部(14)と、前記凹部(14)の両側にそれぞれ位置する突起部(15)と、により構成された線状突起(13)を有していることを特徴とする樹脂封止型半導体装置。
【請求項2】
前記線状突起(13)は、前記ヒートシンク(10)に少なくとも2本以上設けられていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項3】
前記線状突起(13)は、当該線状突起(13)の一端側が前記実装領域(16)の中央部で交わると共に、当該線状突起(13)の他端側が前記実装領域(16)の外縁部まで延びていることを特徴とする請求項2に記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項4】
前記半導体素子(30)は、前記接合層(20)に接触する面が四角形状になっており、
前記線状突起(13)は、前記実装領域(16)の対角線に沿って形成されていることを特徴とする請求項3に記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項5】
前記線状突起(13)は、当該線状突起(13)の一端側が前記実装領域(16)の中央部で互いに離間していると共に、当該線状突起(13)の他端側が前記実装領域(16)の外縁側まで延びていることを特徴とする請求項2に記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項6】
前記線状突起(13)は、前記実装領域(16)の中心部から外縁部に向けて放射状に形成され、少なくとも3本以上設けられていることを特徴とする請求項5に記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項7】
前記線状突起(13)の他端側は、前記凹部(14)が前記実装領域(16)の外側に位置するように前記実装領域(16)からはみ出ていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項8】
前記凹部(14)は、前記線状突起(13)の一端側および他端側に向かって前記ヒートシンク(10)の一面(11)に近づくように前記一面(11)に対して傾斜した傾斜部(14a)を有していることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項9】
前記ヒートシンク(10)の一面(11)において前記一方向に垂直な方向における前記凹部(14)の幅は1mm以上であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項10】
前記線状突起(13)の前記凹部(14)の最大深さは、前記ヒートシンク(10)の厚みの10%以下の深さであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項11】
前記ヒートシンク(10)に対して前記一方向に垂直な方向に前記ヒートシンク(10)の断面をとったときの前記凹部(14)の底部がR形状になっていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1つに記載の樹脂封止型半導体装置。
【請求項12】
一面(11)を有するヒートシンク(10)と、
前記ヒートシンク(10)の一面(11)に接合層(20)を介して接合された半導体素子(30)と、
前記ヒートシンク(10)および前記半導体素子(30)を封止するように成型された樹脂部(50)と、を備え、
前記ヒートシンク(10)は、当該ヒートシンク(10)の一面(11)のうち前記半導体素子(30)が実装される実装領域(16)において、前記一面(11)の面方向のうちの一方向に沿って形成された線状の凹部(14)と、前記凹部(14)の両側にそれぞれ位置する突起部(15)と、により構成された線状突起(13)を有し、前記凹部(14)は前記線状突起(13)の一端側および他端側に向かって前記ヒートシンク(10)の一面(11)に近づくように前記一面(11)に対して傾斜した傾斜部(14a)を有する樹脂封止型半導体装置の製造方法であって、
前記凹部(14)の形状に沿った曲面を有する圧子を前記ヒートシンク(10)の一面(11)に対して打ち込むことにより、前記ヒートシンク(10)の一面(11)に前記線状突起(13)を形成する線状突起形成工程と、
前記ヒートシンク(10)の一面(11)に溶融した前記接合層(20)を配置すると共に、前記半導体素子(30)を前記接合層(20)に押しつけて前記接合層(20)を固めることにより、前記接合層(20)を介して前記半導体素子(30)を前記ヒートシンク(10)の一面(11)に接合する接合工程と、を含んでいることを特徴とする樹脂封止型半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記線状突起形成工程では、前記ヒートシンク(10)の一面(11)において前記一方向に垂直な方向おける前記凹部(14)の幅が1mm以上となるように前記線状突起(13)を形成することを特徴とする請求項12に記載の樹脂封止型半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記線状突起形成工程では、前記線状突起(13)の前記凹部(14)の最大深さが前記ヒートシンク(10)の厚みの10%以下の深さとなるように前記線状突起(13)を形成することを特徴とする請求項12または13に記載の樹脂封止型半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記線状突起形成工程では、前記ヒートシンク(10)に対して前記一方向に垂直な方向に前記ヒートシンク(10)の断面をとったときの前記凹部(14)の底部がR形状となるように前記線状突起(13)を形成することを特徴とする請求項12ないし14のいずれか1つに記載の樹脂封止型半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−190958(P2012−190958A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52504(P2011−52504)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】