説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】環境負荷の大きなエッチング液を用いることなく、密着性に優れる金属膜が形成されたポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品を安価に製造する。
【解決手段】少なくとも一面側に多孔質層を有する熱可塑性樹脂からなる多孔質シートに導電性材料を付与する導電性材料付与工程と、多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを電気化学的手法により表面処理する表面処理工程とを有する樹脂成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の製造方法に関する。特に、本発明は、熱可塑性樹脂からなる多孔質シートの表面に電解めっきや電着塗装が施された樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
装飾や機能性付与を目的とする樹脂成形品へのめっき処理や電着塗装処理のニーズは極めて多岐の分野に渡る。例えば、自動車部品の分野においては、美観向上や軽量化のために熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品にめっき処理や電着塗装処理を行って、金属膜を表面に形成した樹脂成形品が使用されている。このような金属膜を形成する場合、一般に無電解めっき法により下地めっき膜を形成して、不導体である樹脂成形品を導電化し、その後、電解めっき処理や電着塗装処理などの電気化学的手法による表面処理が行われている。
【0003】
無電解めっき法は、清浄工程(脱脂等)、エッチング工程、中和工程、触媒付与工程、触媒活性化工程、及び無電解めっき工程の各工程からなるが、上記触媒付与工程で付与される触媒を被めっき物である樹脂成形品の表面内部に安定、且つ均一に付着させ、めっき膜が樹脂成形品に根付くような構造を形成することが、最終的に得られる金属膜の密着性を確保するために必要となる。そのため、上記エッチング工程においては、六価クロム酸や過マンガン酸などの環境負荷の大きな酸化剤を含有するエッチング液を用いて樹脂成形品の表面を粗化し、樹脂成形品の表面に凹凸を形成している。また、このようなエッチング液で浸食される樹脂成形品、すなわち、無電解めっき法を適用可能な樹脂成形品としては、ABS系樹脂を含有する樹脂成形品に限定されている。これは、ABS系樹脂がエッチング液に選択的に浸食されるブタジエンゴム成分を含んでいるのに対して、他の樹脂はこのようなエッチング液に選択的に浸食される成分が少なく、表面に凹凸が形成され難いためである。それゆえ、ABS系樹脂以外のポリカーボネート樹脂などを樹脂成分として含む樹脂成形品を無電解めっき処理するにあたっては、無電解めっきを可能にするためにABS系樹脂やエラストマーを含むめっきグレード品が使用されている。しかしながら、そのようなめっきグレード品では、主材料の耐熱性などの物性の劣化を避けることができない。また、自動車部品においては、省エネルギーの観点からさらなる軽量化を図るため、ABS系樹脂よりも軽量の樹脂(例えば、ポリプロピレン系樹脂等)からなる樹脂成形品を表面処理する方法が求められている。従って、従来の無電解めっき法とは異なる方法により樹脂成形品に表面処理を行うことができる代替技術が要望されている。
【0004】
一方、最近では無電解めっきを行わない直接電解めっき法(ダイレクトプレーティング法)も提案されている(例えば、特許文献1)。この直接電解めっき法は、エッチング工程において樹脂成形品の表面を粗化した後、触媒付与工程及び活性化工程において樹脂成形品の表面にパラジウムなどの触媒を高濃度で吸着させることにより樹脂成形品を導電化し、無電解めっき工程を行うことなく、電解めっき工程を行う方法である。このため、工程数を大幅に簡略化でき、また無電解めっき工程で樹脂成形品の表面に発生するブツやざらつきに起因した歩留まりの低下を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−31536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の直接電解めっき法では、樹脂成形品の導電化のために高価なレアメタルであるパラジウムを多量に使用しなければならないという問題がある。また、直接電解めっき法でも、触媒を付与するためにエッチング液を用いて表面を粗化する必要があり、環境負荷の問題や、樹脂の種類が制限されるという問題については本質的な解決になっていない。特に、ABS系樹脂以外の熱可塑性樹脂はエッチング処理により表面が粗化され難いため、金属膜と樹脂部分との物理的なアンカリング効果が低くなる。その結果、このような密着力の弱い金属膜が形成された樹脂成形品を、例えば自動車部品で要求される熱変化を伴うヒートサイクル試験に供した場合、金属膜と樹脂部分との熱膨張係数の相違から、界面で剥離が生じるという問題がある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、環境負荷の大きなエッチング液を用いることなく、密着性に優れる金属膜が形成されたポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品を安価に製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも一面側に多孔質層を有する熱可塑性樹脂製の多孔質シートに導電性材料を付与する導電性材料付与工程と、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを電気化学的手法により表面処理する表面処理工程とを有する樹脂成形品の製造方法である。
【0009】
上記樹脂成形品の製造方法によれば、多孔質層を有する多孔質シートに導電性材料が付与されるため、環境負荷の大きなエッチング液や触媒として高価なパラジウムを使用することなく、多孔質シートを導電化することができる。このため、エッチング工程や無電解めっき工程を行うことなく、導電性材料が付与された多孔質シートを、直接、電気化学的手法により表面処理することができる。また、上記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを電気化学的手法により表面処理すれば、多孔質層の内部から金属膜が成長するため、優れた密着性を有する金属膜を形成できるだけでなく、多孔質層が緩衝層としても機能するため、ヒートサイクル試験において金属膜と樹脂部分との界面での剥離を抑制することができる。
【0010】
上記樹脂成形品の製造方法においては、前記導電性材料付与工程後、前記表面処理工程前に、前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを成形加工する成形工程をさらに設け、前記表面処理工程における多孔質シートが、前記成形工程において成形されたシートであってもよい。
【0011】
本発明の多孔質シートは熱可塑性樹脂からなるため、成形工程により任意の形状に成形加工することができる。これにより樹脂成形品の美観や機能性を向上させることができる。
【0012】
上記成形工程は、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを射出成形機の金型上に配置し、前記金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、前記多孔質シートと前記溶融樹脂とを一面側に前記多孔質層が露出するように一体成形するインサート成形工程を含んでもよい。
【0013】
導電性材料付与工程後、表面処理工程前に、上記インサート成形工程を行えば、多孔質シートと溶融樹脂とを強固に一体成形することができ、樹脂成形品の強度や機能性を向上することができる。
【0014】
上記インサート成形工程においては、前記多孔質層が保護シートを介して前記射出成形機の金型面と対向するように、前記多孔質シートを前記金型上に配置することが好ましい。
【0015】
インサート成形工程においては多孔質シートと溶融樹脂とを一体成形するために金型内に圧力が加わる。このため、多孔質層と金型面とが直接接触するように多孔質シートを金型上に配置すると、多孔質層の破損を招く虞がある。これに対して、多孔質層が保護シートを介して射出成形機の金型面と対向するように、多孔質シートを金型上に配置すれば、そのようなインサート成形工程における多孔質層の破損を防止することができる。
【0016】
また、上記成形工程は、
前記多孔質シートを金型上に配置し、前記多孔質シートを真空圧空成形する真空圧空成形工程を含んでもよい。
【0017】
導電性材料付与工程後、表面処理工程前に、上記真空圧空成形工程を行えば、例えば薄い多孔質シートを容易に所定の形状に成形することができる。
【0018】
また、上記成形工程を有する樹脂成形品の製造方法は、
前記導電性材料付与工程後、前記成形工程前に、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートと樹脂シートとを、少なくとも一面側に前記多孔質層が露出するようにラミネートするラミネート工程をさらに有し、
前記成形工程における多孔質シートが、前記ラミネート工程においてラミネートされたシートであってもよい。
【0019】
インサート成形工程や真空圧空成形工程を設けた場合、溶融樹脂や加圧エアの圧力に起因して多孔質シートの変形が生じやすいが、導電性材料付与工程後、これらの成形工程前に、多孔質シートと樹脂シートとをラミネートすれば、そのような圧力による変形を防止することができる。また、ラミネート工程においては、多孔質シートの表面にも圧力が加えられながら樹脂シートが多孔質シートに溶着されるため、多孔質層の表面に形成されている開口を小さくすることができるとともに、多孔質の表面を平坦化することができる。このため、表面処理工程において、導電性材料が多孔質層から脱離し難くなり、よりアンカリング効果の高い金属膜を形成できるだけでなく、得られる金属膜の表面を平坦化することができる。
【0020】
上記多孔質層は、表面と連通した連続多孔体を有することが好ましい。表面と連通した連続多孔体を有する多孔質層であれば、多孔質シートの表面内部に導電性材料を容易に導入することができるだけでなく、連続多孔体に導入された導電性材料同士が導通しやすくなる。その結果、多孔質シートを高導電化することができ、後の表面処理工程で金属膜が成長しやすくなるとともに、多孔質層の内部から成長した金属膜を形成することができ、高い密着性を有する金属膜を均一に形成することができる。
【0021】
上記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂を含有してもよい。ポリプロピレン系樹脂は、一般にめっき処理が困難な樹脂材料として知られているが、本発明の樹脂成形品の製造方法によれば、多孔質層に導電性材料を付与するだけで多孔質シートを導電化することができる。そのため、このようなめっき処理が困難な樹脂材料からなる多孔質シートであっても、表面をエッチング処理することなく、簡易な方法で優れた密着性を有する金属膜を電気化学的手法により直接形成することができる。
【0022】
上記導電性材料は、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンブラック、アセチレンブラック、及びグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。これらの導電性材料はパラジウムよりも安価であり、また電気化学的手法により表面処理する場合の多孔質シートの導電性を十分に確保することができる。
【0023】
上記導電性材料は、ハロゲン原子含有官能基で化学修飾されていることが好ましい。導電性材料をハロゲン原子含有官能基で化学修飾することにより、導電性材料に負電荷を帯電させることができる。これにより、導電性材料の引っかかりなどの物理的な作用だけでなく、多孔質層と導電性材料との静電的な相互作用によっても導電性材料を多孔質層の最表面や内部に吸着させることができる。その結果、表面処理工程においてめっき膜のつきまわり性を向上させることができる。
【0024】
また、上記樹脂成形品の製造方法においては、前記導電性材料付与工程前に、前記多孔質層に正電荷を帯電させる正帯電処理工程をさらに設けてもよい。多孔質層を正帯電させれば、多孔質層と導電性材料との静電的な相互作用によっても導電性材料を多孔質層の最表面や内部に吸着させることができる。特に、ハロゲン原子含有官能基で化学修飾された導電性材料を用いれば、多孔質層と導電性材料との静電的な相互作用が強くなり、さらに多孔質層の最表面や内部に導電性材料を吸着させることができる。
【0025】
上記電気化学的手法による表面処理は、電解めっき処理または電着塗装処理を使用することができる。上記樹脂成形品の製造方法によれば、多孔質層に導電性材料を付与することにより多孔質シートに導電性を持たせることができるため、無電解めっき処理を行うことなく、直接、電解めっき処理または電着塗装処理を行うことにより、多孔質シートの表面に金属膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、環境負荷の大きなエッチング液を用いることなく、優れた密着性を有する金属膜が形成されたポリプロピレン系樹脂等の熱可塑性樹脂からなる樹脂成形品を安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の実施例1に係る製造方法の各製造工程におけるシートの状態を示す要部拡大断面概略図であり、図1(A)は導電性材料付与工程により導電性材料が付与された多孔質シートを、図1(B)はラミネート工程によりラミネートしたシートを、図1(C)はインサート成形工程によりインサート成形したシートを、図1(D)は表面処理工程により金属膜を形成したシートを示す。
【図2】図2は、本発明の実施例1に係るインサート成形工程の状態を示す要部拡大断面概略図であり、図2(A)はシートを金型上に配置させた状態を、図2(B)は金型のキャビティ内に溶融樹脂が射出充填された状態を示す。
【図3】図3は、本発明の実施例3に係る製造方法の各製造工程におけるシートの状態を示す要部拡大断面概略図であり、図3(A)は導電性材料付与工程により導電性材料が付与された多孔質シートを、図3(B)はラミネート工程によりラミネートしたシートを、図3(C)は表面処理工程により金属膜を形成したシートを示す。
【図4】図4は、本発明の実施例3に係る真空圧空成形工程の状態を示す要部拡大断面概略図であり、図4(A)はシートを金型上に配置させた状態を、図4(B)はシートを金型で真空圧空成形する状態を、図4(C)は成形されたシートを示す。
【図5】図5は、本発明の実施例4に係る製造方法の各製造工程におけるシートの状態を示す要部拡大断面概略図であり、図5(A)は導電性材料付与工程により導電性材料が付与された多孔質シートを、図5(B)はラミネート工程によりラミネートしたシートを、図5(C)はインサート成形工程によりインサート成形したシートを、図5(D)は表面処理工程により金属膜を形成したシートを示す。
【図6】図6は、本発明の実施例4に係る導電性材料が付与された多孔質シートの表面を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施の形態に係る樹脂成形品の製造方法は、少なくとも一面側に多孔質層を有する熱可塑性樹脂製の多孔質シートと、導電性材料とを接触させて、多孔質層に導電性材料を付与する導電性材料付与工程を有する。多孔質層を有する多孔質シートと導電性材料とを接触させることにより、多孔質層に導電性材料を付与することができる。このため、環境負荷の大きなエッチング液や触媒として高価なパラジウムを使用することなく、多孔質シートを導電化することができる。これにより、エッチング工程や無電解めっき工程を行うことなく、導電性材料が付与された多孔質シートを、直接、電気化学的手法により表面処理することができる。また、上記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを電気化学的手法により表面処理すれば、多孔質層の内部から金属膜が成長するため、高い密着力を有する金属膜を形成できるだけでなく、多孔質層が緩衝層としても機能するため、ヒートサイクル試験においても金属膜と樹脂部分との界面での剥離を抑制することができる。
【0029】
多孔質シートは、一面側に多孔質層を有していてもよいし、両面側に多孔質層を有していてもよい。また、多孔質シートは多孔質層のみから構成されていてもよい。さらに、一面側に多孔質層を有する多孔質シートの場合、多孔質層の下に、両面側に多孔質層を有する多孔質シートの場合、多孔質層間に、無多孔層を有していてもよい。無多孔層を設けることにより、多孔質シートの強度を上げることができ、それによって成形工程を含む製造方法において、多孔質シートの変形を抑えることができる。また、多孔質層は表面と連通した連続多孔体を有することが好ましい。このような表面と連通した連続多孔体を有する多孔質層であれば、多孔質シートと導電性材料とを接触させた際に、導電性材料が多孔質層の内部まで浸入しやすくなり、また連続多孔体に浸入した導電性材料同士が導通しやすくなる。その結果、多孔質シートを高導電化することができ、後の表面処理工程で金属膜が成長しやすくなるとともに、多孔質層の内部から成長した金属膜を形成することができ、高い密着性を有する金属膜を均一に形成することができる。多孔質層の厚みは、目的とする表面処理に応じて適宜選択することができるが、導電性材料を多孔質層の内部に導入するためにも、好ましくは0.1〜200μmであり、より好ましくは50〜200μmである。多孔質シートの厚みは、多孔質層や無多孔層の厚みにもよるため、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1〜500μmであり、より好ましくは50〜500μmである。多孔質層の孔径は、付与する導電性材料の種類やサイズによって適宜選択できるが、好ましくは10μm〜1mmである。
【0030】
このような多孔質シートは、例えば、特開2009−126881号に開示されている製造方法により製造することができる。具体的には、熱可塑性樹脂組成物とノニオン系界面活性剤とを混合し、該混合物に超臨界流体を含浸させ、圧力を開放し、発泡倍率を10倍以上とすることにより、連続多孔体を有する多孔質シートを得ることができる。なお、最表面近傍に連続多孔体を有する多孔質層を得るために、さらに得られた多孔質シートに切削処理や研削処理を施してもよい。
【0031】
多孔質シートの樹脂材料としては、非晶性あるいは結晶性の熱可塑性樹脂を使用できる。このような熱可塑性樹脂としては、具体的には、例えば、ポリプロピレン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリエーテルイミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート系樹脂;液晶ポリマー;ABS系樹脂;ポリアミドイミド系樹脂;ポリフタルアミド系樹脂;ポリフェニレンサルファイド系樹脂;ポリ乳酸等の生分解性プラスチックなどが挙げられる。また、これらの樹脂の複合材料を用いてもよい。さらに、これらの樹脂に、各種無機フィラー等を混練した樹脂材料を用いることもできる。これらの中でも、低コスト化及び軽量化のために汎用プラスチックであるポリプロピレン系樹脂を含有する熱可塑性樹脂からなる多孔質シートが好ましい。特に、ポリプロピレン系樹脂は、一般にめっき処理が困難な樹脂材料として知られているが、本実施の形態の樹脂成形品の製造方法によれば、多孔質層に導電性材料を付与するだけで多孔質シートを導電化できるため、このようなめっき処理が困難な樹脂材料からなる多孔質シートであっても、表面をエッチング処理することなく、簡易な方法で優れた密着性を有する金属膜を電気化学的手法により直接形成することができる。
【0032】
また、本実施の形態の製造方法においては、上記導電性材料付与工程前に予め多孔質層に正電荷を帯電させる正帯電処理工程を行なってもよい。このような正電荷を多孔質層に帯電させることにより、多孔質層と導電性材料との間で静電的な相互作用が生じ、導電性材料の吸着性を向上することができる。特に、後述するハロゲン原子含有官能基で化学修飾された導電性材料を用いた場合、多孔質層と導電性材料との間で強い静電的な相互作用が生じ、多孔質層の最表面や内部に導電性材料を良好に吸着させることができる。
【0033】
上記正帯電処理工程は、多孔質シートと表面処理剤を含有する溶液とを接触させる溶液処理工程を含んでもよい。溶液処理工程によれば、表面処理剤を含有する溶液が多孔質層の内部に浸透するため、多孔質層の内部深くまで正電荷を帯電させることができる。このような溶液処理工程に用いられる表面処理剤としては、具体的には、例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンとその部分加水分解物、3−トリメトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミンとその部分加水分解物、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩などのアミノ基を有するシランカップリング剤が挙げられる。これらは単独でまたは複数使用してもよい。これらのアミノ基を有するシランカップリング剤を使用すれば、シランカップリング剤が多孔質層の親水性官能基と反応し、それによって正電荷を有するアミノ基を多孔質層に付与することができる。溶液処理に用いられる溶剤としては、使用する表面処理剤の種類にもよるが、熱可塑性樹脂からなる多孔質層を溶解させない水系あるいはアルコール系溶剤が好ましい。また、表面処理剤の濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1〜10質量%である。なお、上記溶液処理工程により、多孔質層に正電荷を付与する場合、正帯電処理工程は、溶液処理工程前にさらに多孔質シートに親水性基を付与する親水化処理工程を含んでもよい。多孔質層を親水化処理することにより、付与された親水性官能基と表面処理剤とを反応させて、効率的に多孔質層に正電荷を帯電させることができる。このような親水化処理工程としては、多孔質シートを紫外線やプラズマで処理する方法を好ましく用いることができる。また、多孔質シートを酸やアルカリで処理してもよい。
【0034】
導電性材料としては、多孔質層に付与されることにより、多孔質シートを導電化させることができるものであれば特に限定されないが、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンブラック、アセチレンブラック、及びグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの導電性材料はパラジウムよりも安価なため、低コスト化を図ることができる。また、これらの導電性材料は優れた導電性を有するため、多孔質シートを高導電化することができる。これらの中でも、カーボンナノチューブがより好ましい。カーボンナノチューブは、アスペクト比が大きな繊維形状を有しているため、カーボンナノチューブ同士が多孔質層の内部で接触しやすい。また、カーボンナノチューブを用いた場合、ナノチューブ同士が物理的に接触していなくても、隣接するナノチューブ間を電子がホッピングするホッピング伝導が生じる。そのため、少量のカーボンナノチューブを用いても、優れた導電性を得ることができる。また、カーボンナノチューブは多層構造のカーボンナノチューブであってもよいし、カーボンナノチューブを切断した開口を有する筒状のカーボンナノチューブであってもよい。導電性材料を付与する量は、表面処理の種類に応じて、適宜変更することができる。
【0035】
上記導電性材料は、極性基により化学修飾されていてもよい。中でも、ハロゲン原子含有官能基で化学修飾された導電性材料が好ましい。ハロゲン原子は高い電気陰性度を有するため、導電性材料をハロゲン原子含有官能基で化学修飾することにより、導電性材料に負電荷を帯電させることができる。そのため、導電性材料の引っかかりによる物理的な作用だけでなく、多孔質層と導電性材料との間で静電的な相互作用が生じ、多孔質層の最表面や内部に導電性材料をより吸着させることができる。また、物理的な作用による吸着だけでは、多孔質層に導電性材料を付与した後に、多孔質層の最表面の導電性材料が脱落しやすく、多孔質層の最表面における導電性材料の量が低下しやすい。そのため、例えば、表面処理工程で電解めっき処理を行った場合、多孔質層に接触する電極近傍からめっき膜が成長し、不均一な厚さのめっき膜が形成されやすい。これに対して、ハロゲン原子含有官能基で化学修飾された導電性材料を用いれば、静電的な相互作用により多孔質層の最表面により多くの導電性材料を吸着させることができ、最表面の導電性を向上させることができる。その結果、表面処理工程でめっき膜を形成する際に、電極から多孔質層の最表面全体に電流が流れやすくなり、めっき膜のつきまわり性が良好となって、多孔質層の表面全体に均一なめっき膜を形成できる。特に、既述した正電荷を帯電させた多孔質層とハロゲン原子含有官能基で化学修飾された導電性材料とを接触させれば、多孔質層と導電性材料との間で強い静電的な相互作用が生じるため、好ましい。
【0036】
ハロゲン原子含有官能基としては、具体的には、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子、これらのハロゲン原子を有するアルキル基、アリール基、アリールアルキル基などの有機基が挙げられる。これらの中でも、高い電気陰性度を有するフッ素原子あるいは塩素原子を含有する官能基が好ましい。ハロゲン原子含有官能基で化学修飾された導電性材料の製造方法としては、従来公知の製造方法を使用することができる。例えば、特開2005−263607号公報に記載されている、超臨界水中でカーボンナノチューブと塩酸あるいは臭化水素酸とを接触させることにより塩素原子あるいは臭素原子でカーボンナノチューブを化学修飾する方法や、特開2005−200272号公報に記載されている、紫外線照射下で、カーボンナノチューブとパーフルオロアゾアルカンとを反応させることによりパーフルオロアルキル基でカーボンナノチューブを化学修飾する方法が挙げられる。
【0037】
多孔質シートと導電性材料とを接触させる方法は、特に限定されるものでなく、任意の方法を使用することができる。例えば、導電性材料を溶剤に分散させた分散液中で超音波処理しながら多孔質層に導電性材料を付与する超音波処理方法が挙げられる。分散に用いられる溶剤としては、使用する導電性材料の種類にもよるが、熱可塑性樹脂からなる多孔質層を溶解させない水系あるいはアルコール系溶剤が好ましい。
【0038】
このような導電性材料付与工程により、例えば、ポリプロピレン系樹脂からなる多孔質シートの表面電気抵抗を電気化学的手法により表面処理するに適した10Ω・cm−1オーダ以下まで低下させることができる。
【0039】
本実施の形態の樹脂成形品の製造方法においては、上記の導電性材料付与工程後、直接、電気化学的処理による表面処理工程を行なってもよいが、装飾や機能性付与のために表面処理工程前に多孔質シートを成形加工する成形工程を設けてもよい。本実施の形態の多孔質シートは熱可塑性樹脂からなるため、容易に任意の形状に多孔質シートを成形することができる。
【0040】
上記成形工程は、多孔質シートを射出成形機の金型上に配置し、金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、多孔質シートと溶融樹脂とを一面側に多孔質層が露出するように一体成形するインサート成形工程や、多孔質シートを金型上に配置し、多孔質シートを真空圧空成形する真空圧空成形工程を含んでもよい。表面処理工程前に、上記インサート成形工程を行えば、多孔質シートと溶融樹脂とを強固に一体成形することができ、最終的に得られる樹脂成形品の強度を向上できるだけでなく、種々の形状の樹脂成形品を製造することができ、機能性を向上することができる。また、表面処理工程前に、上記真空圧空成形することにより、例えば薄い多孔質シートを容易に所定の形状に成形することができる。さらにこれらの成形工程の前に、多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートと樹脂シートとを、一面側に多孔質層が露出するようにラミネートするラミネート工程をさらに設けてもよい。インサート成形工程や真空圧空成形工程を行った場合、溶融樹脂や加圧エアの圧力に起因して多孔質シートの変形が生じやすいが、導電性材料付与工程後、これらの成形工程前に、多孔質シートと樹脂シートとをラミネートすれば、そのような圧力による変形を防止することができる。また、ラミネート工程においては、多孔質シートの表面にも圧力が加えられながら樹脂シートが多孔質シートに溶着されるため、多孔質層の表面に形成されている開口を小さくすることができるとともに、多孔質の表面を平坦化することができる。このため、表面処理工程において、導電性材料が多孔質層から脱離し難くなり、よりアンカリング効果の高い金属膜を形成できるだけでなく、得られる金属膜の表面を平坦化することができる。
【0041】
ラミネート工程で使用される樹脂シートとしては、ラミネート工程において多孔質シートに溶着可能なものであれば特に制限されるものではないが、接着強度の観点から上記した多孔質シートと同様に熱可塑性樹脂からなる樹脂シートが好ましい。また、樹脂シートは、多孔質層を有していてもよいし、無多孔層のみを有していてもよい。
【0042】
ラミネート工程後に、インサート成形工程を行う場合、上記熱可塑性樹脂からなる樹脂シートの中でも、溶融樹脂によって溶融する性質を有する樹脂シートが好ましい。樹脂シートが溶融樹脂により溶融されれば、樹脂シートと溶融樹脂との間で溶融接合部が形成されるため、高い接着強度を有する樹脂成形品を得ることができる。樹脂シートに用いられる熱可塑性樹脂は、多孔質シートに用いられる熱可塑性樹脂と同種のものであってもよいし、異種のものであってもよい。ただし、同種の熱可塑性樹脂を用いれば、より接着強度を高めることができる。樹脂シートの厚さは、目的とする樹脂成形品の種類によるため特に限定されるものではないが、通常50〜500μmである。樹脂シートの厚さが余りに薄いと、成形工程において、樹脂シートが部分的に破れやすくなり、量産性が損なわれる。一方、樹脂シートの厚さが余りに厚いと、成形工程において、樹脂シートをラミネートしたシートを金型形状に沿って配置し難くなり、金型表面からシートが浮く場合がある。その結果、圧力によりシートが破れやすくなる。
【0043】
多孔質シートと樹脂シートとをラミネートする方法としては、従来公知のラミネート加工方法を使用することができる。例えば、多孔質シートと樹脂シートを重ね合わせ、これを圧延ロールなどの加圧手段で加熱加圧しながらラミネートする方法が挙げられる。ラミネート時の圧力及び温度は、多孔質シート及び樹脂シートの種類や厚さによって、適宜変更することができる。なお、多孔質層のみからなる多孔質シートを用いる場合、無多孔層のみを有する樹脂シートを2枚の多孔質シートでサンドイッチしてラミネートしてもよい。
【0044】
インサート成形工程において、例えば、150μm以下の薄い多孔質シート(インサート成形工程前に、ラミネート工程を行なった場合、樹脂シートがラミネートされたシート)を射出成形機の金型上に配置する場合、金型のキャビティ内に溶融樹脂を充填する前に、金型上に配置した多孔質シートを加熱、加圧、及び真空吸引からなる群から選ばれる少なくとも1つの方法により金型に密着させてもよい。例えば、金型上に配置した多孔質シートの加熱は、多孔質シートが金型上に配置された状態で多孔質シートに対して熱風を当てることにより行ってもよい。また、金型温度がある程度高いか、加圧力が高ければ、加圧エア、N等の加圧ガスを多孔質シートに吹き付けることで、多孔質シートを金型表面にトレースさせてもよい。さらに、吸引溝を有する金型を用い、多孔質シートが金型上に配置された状態で、短時間、吸引溝から多孔質シートを真空吸引することで、多孔質シートを金型に密着させてもよい。
【0045】
また、薄い多孔質シートは熱で軟化しやすいので、金型上に多孔質シートを配置した後、多孔質シートに熱風を当てることで、ブロー成形のように多孔質シートを金型表面に薄い皮膜として固着させることができる。その結果、多孔質シートが金型に隙間無く密着した状態でキャビティ内へ溶融樹脂を充填できるので、多孔質シートの破損などを防止しつつ、金型の表面形状を多孔質シートに転写させることできる。しかも、多孔質シートは熱風を用いて金型上で成形されるので、金型上に多孔質シートを配置する前に多孔質シートを成形する必要が無く(すなわち、プリフォームの必要が無く)、多孔質シートを金型の形状に合わせて精度良く成形できる。なお、多孔質シートの厚さが厚くなると、金型内で多孔質シートに熱風を当てたとしても、複雑な表面形状を有する金型に対して多孔質シートが隙間無く密着し難くなる。従って、厚い多孔質シートを使用する場合には、金型上に多孔質シートを配置する前に多孔質シートを金型の形状に合わせて所望の形状に成形(すなわち、プリフォーム成形)した後、プリフォームされた多孔質シートを射出成形機の金型上に配置することが好ましい。
【0046】
インサート成形工程において、多孔質シートと一体化させるために用いられる溶融樹脂の樹脂材料は、熱可塑性樹脂であればその種類は任意であり、具体的には、例えば、ポリエステル系等の合成繊維;ポリプロピレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;アモルファスポリオレフィン系樹脂;ポリエーテルイミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート系樹脂;液晶ポリマー;ABS系樹脂;ポリアミドイミド系樹脂;ポリ乳酸等の生分解性プラスチック;これらの複合材料などが挙げられる。また、これらの樹脂に、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボンなどの各種無機フィラーを混練した樹脂材料を用いてもよい。また、溶融樹脂に用いられる熱可塑性樹脂は、多孔質シートに用いられる熱可塑性樹脂と同種のものであってもよいし、異種のものであってもよい。ただし、同種の熱可塑性樹脂を用いれば、より接着強度を高めることができる。
【0047】
また、インサート成形工程においては、多孔質層と金型面との間に保護シートを配設することが好ましい。少なくとも多孔質層の一面側は表面処理工程で表面処理するために露出している必要があることから、金型内で多孔質層を保護できないため、溶融樹脂が充填される際の充填圧力により多孔質層と金型面とが接触し、多孔質層が破損する虞がある。このため、多孔質層と金型面との間に保護シートを予め配設させておくことにより、そのような多孔質層の破損を防止することができる。このような保護シートとしては、インサート成形工程において圧力及び温度が付与されても、多孔質シートと溶着し難い樹脂からなる保護シートを用いることができる。
【0048】
インサート成形工程において、多孔質シートと溶融樹脂とを一体化させるにあたっては、従来公知の射出成形機及び成形方法を使用することができる。例えば、上記のようにして多孔質シートを配置した金型のキャビティと連通した可塑化シリンダで樹脂を溶融し、溶融された樹脂をキャビティ内に射出充填することにより、多孔質シートと溶融樹脂とを一体化させることができる。特に、溶融樹脂をインサート成形すれば、溶融樹脂と接触する多孔質シートが溶融して溶融接合部が形成されて多孔質シートと溶融樹脂とが一体化するため、高い接着強度を得ることができる。
【0049】
真空圧空成形工程において、多孔質シート(真空圧空成形工程前に、ラミネート工程を行なった場合、樹脂シートがラミネートされたシート)を成形するにあたっては、従来公知の成形機及び成形方法を使用することができる。例えば、真空引き用の溝を有する金型上に赤外線を照射して半溶融させた多孔質シートを配置し、真空引き用の溝から真空吸引しながら、反対側から加圧エアを多孔質シートに加えることにより、金型表面の形状に多孔質シートをトレースさせることができる。
【0050】
本実施の形態において、電気化学的手法による表面処理としては、従来公知の電解めっき処理や電着塗装処理などを用いることができる。本実施の形態の多孔質シートは、多孔質層に導電性材料を付与することにより、優れた導電性を有するため、無電解めっき工程を行うことなく、該多孔質シート(表面処理工程前に、成形工程を行なった場合、成形されたシート)に電解めっき膜や電着塗膜などの金属膜が形成された樹脂成形品を製造することができる。これらの電解めっき処理及び電着塗装処理は複数回行ってもよい。例えば、電解銅めっき処理を行った後、さらに電解ニッケルめっき処理や電解クロムめっき処理を行うこともできる。電着塗料としては、従来公知のカチオン電着塗料やアニオン電着塗料を使用することができる。
【0051】
上記のようにして得られる樹脂成形品は、多孔質層に付与された導電性材料を基に金属膜が形成されるため、金属膜が多孔質層の内部から成長し、優れた密着性を有する金属膜を得ることができる。このため、例えば、ヒートサイクル試験に金属膜を形成した樹脂成形品を供した場合、金属膜と樹脂部分との界面で生じる剥離を抑えることができる。
【0052】
以下、本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0053】
[実施例1]
本実施例では、導電性材料付与工程、ラミネート工程、インサート成形工程、及び電解めっき工程からなる製造方法を使用した。図1は、本実施例の各製造工程におけるシートの状態を示す要部拡大断面概略図であり、図2はインサート成形工程の状態を示す要部拡大断面概略図である。以下、図面を参照しながら、本実施例の製造方法について説明する。
【0054】
<導電性材料付与工程>
表面と連通した連続多孔体21を有する多孔質層2のみからなるポリプロピレン樹脂製の多孔質シート1(イノアックコーポレーション社製,FOLEC−OP,厚み:300μm,表面電気抵抗:3×10Ω・cm−1)を、多層構造のカーボンナノチューブ3(昭和電工社製,VGCF−H)を分散させたエタノール溶液中に浸漬し、1時間、超音波処理を行いながら、カーボンナノチューブ3を多孔質シート1の多孔質層2に付与した(図1(A))。
【0055】
超音波処理後、エタノール溶液から多孔質シートを取り出し、乾燥させた後、多孔質シートの表面電気抵抗を測定したところ、表面電気抵抗が9×10Ω・cm−1まで低下していることが確認された。
【0056】
<ラミネート工程>
カーボンナノチューブ3を付与した多孔質シートの一面側に、ポリプロピレン樹脂からなる無多孔の樹脂シート4(厚み:200μm)を重ね合わせ、圧延ロールを用いて、多孔質シートと樹脂シートをラミネートしたシート10(総厚:400μm)を作製した(図1(B))。
【0057】
<インサート成形工程>
次に、上記のようにして多孔質シートと樹脂シートとをラミネートしたシート10を用いて、インサート成形法により溶融樹脂を樹脂シート面に一体化するインサート成形を行った。具体的には、まず、ラミネートしたシートを、図2に示す可動金型を模したプリフォーム金型(図示せず)上に配置し、赤外線加熱によりシートを軟化させた後、加圧して箱型形状にプリフォームした。
【0058】
次いで、図2(A)に示すように、プリフォームしたシート10を、多孔質層(図示せず)が可動金型201面と対向するように、可動金型201上に配置し、真空引き用の溝203から真空吸引して、シート10を固定した。このとき、可動金型201面とシート10との間に、ナイロン樹脂製の保護シートPを介在させた。その後、図2(B)に示すように、可動金型201と固定金型202とを当接させ、可塑化シリンダ204内で溶融したポリプロピレン樹脂205をスクリュSの前進によりキャビティ210内に射出充填した。これにより、溶融接合部5を介して、ポリプロピレン樹脂からなる成形樹脂層6をインサート成形したシート11を作製した(図1(C))。なお、射出成形時の溶融樹脂によりラミネートした樹脂シートはインサート成形時に溶融、薄膜化してもよいので、金型面にシートがある程度密着していれば、深絞り等の屈曲した形状を有する金型を用いても、金型形状が転写された樹脂成形品を得ることができる。上記のようにして得られたシート11の多孔質層2の表面を目視により観察したところ、破損は確認されなかった。
【0059】
<電解めっき工程>
次に、上記のカーボンナノチューブ3が付与された多孔質層2を有する成形されたシート11を電解めっき処理し、電解めっき膜7を有するシート12を作製した(図1(D))。本実施例においては、まず銅めっき膜を成膜した。硫酸銅めっき液には、添加剤(光沢剤)として、上村工業製レブコ300を用いた。シート11の多孔質層2が形成されている側の表面両端外周部に電極を接触させ、厚さが約20μmの銅めっき膜が形成されるように、処理温度25℃、電流密度3A/dm、めっき時間30分でシート11を電解めっき処理した。次いで、上記で形成した銅めっき膜上に、自動車部品用めっき規格に準じる電解めっき膜(電解ニッケルめっき膜及び電解クロムめっき膜)を形成した。電解ニッケルめっき液にはワット浴を用い、半光沢ニッケルめっき液の添加剤(光沢剤)として上村工業製アサヒベースSB−1Hを、光沢ニッケルめっき液の添加剤として上村工業製アサヒライトN−11,N−22を用いた。上記の電解ニッケルめっき液を用い、厚さが各約10μmの半光沢ニッケル膜及び光沢ニッケル膜が形成されるように、処理温度55℃、電流密度3A/dm、めっき時間15分で銅めっき膜を形成したシートを電解めっき処理した。
【0060】
次いで、電解クロムめっき液に上村工業製アサヒクロムNCを用い、厚さが約0.3μmの電解クロムめっき膜が形成されるように、処理温度40℃、電流密度10A/dmm、めっき時間1分30秒でニッケルめっき膜を形成したシートを電解めっき処理した。
【0061】
上記のようにして、電解めっき膜7を形成したシート12の密着性評価を、ヒートサイクル試験により行った。試験は、ABS系樹脂を用いた樹脂成形品のめっき膜の密着性を評価する自動車部品用めっき規格に準じ、試験槽中でシートを−40℃で1時間保持した後、80℃で1時間保持するサイクルを3サイクル繰り返した。試験後、目視による外観検査を行ったところ、電解めっき膜に膨れや剥離は見られず、良好な密着性が得られていることが確認された。
【0062】
[実施例2]
実施例1において、電解めっきの代わりに、電着塗装を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、電着塗膜を有するシートを作製した。電着塗料には、カチオン電着塗料(関西ペイント社製,エレクロン9600)を用い、電着浴温28℃、電圧250V、全没通電時間2分間の条件でインサート成形したシートに電着塗装した。水洗後、170℃で30分間加熱して電着塗膜を硬化し、平面部の膜厚が20μmとなるように電着塗膜を形成した。得られたシートの密着性評価を実施例1と同様のヒートサイクル試験により行ったところ、電着塗膜に膨れや剥離は見られず、良好な密着性が得られていることが確認された。
【0063】
[実施例3]
本実施例では、導電性材料付与工程、ラミネート工程、真空圧空成形工程、及び電解めっき工程からなる製造方法を使用した。図3は、本実施例の各製造工程におけるシートの状態を示す要部拡大断面概略図であり、図4は真空圧空成形工程の状態を示す要部拡大断面概略図である。以下、図面を参照しながら、本実施例の製造方法について説明する。
【0064】
<導電性材料付与工程>
実施例1と同様にして、表面と連通した連続多孔体321を有する多孔質層32のみからなるポリプロピレン樹脂製の多孔質シート31(イノアックコーポレーション社製,FOLEC−OP,厚み:300μm,表面電気抵抗:3×10Ω・cm−1)に、多層構造のカーボンナノチューブ33を付与した(図3(A))。
【0065】
<ラミネート工程>
次に、上記のようにしてカーボンナノチューブを付与した2枚の多孔質シートを用い、多孔質層32間にポリプロピレン樹脂からなる無多孔の樹脂シート34をサンドイッチし、加熱加圧しながらシート同士を熱溶着させることで、3層構造のラミネートしたシート310(総厚:500μm)を作製した(図3(B))。
【0066】
<真空圧空成形工程>
次に、上記のラミネートしたシート310を用いて、真空圧空成形によりシートを腑形する真空圧空成形工程を行った。具体的には、まず、図4(A)に示す表面に凹凸を有するアルミ製の金型41上に、赤外線を両面から照射して半溶融させたシート310を配置し、真空引き用の溝42から真空吸引しながら、金型41の上方から加圧エアをシートに加えた。これにより、図4(B)に示すように、金型41表面の形状にシート310をトレースさせた。そして、図4(C)に示すように、金型41から塑性変形させたシート310を取り出し、凹凸形状に腑形させたシート310を作製した。
【0067】
<電解めっき工程>
次に、上記のようにして成形したシート310を用い、このシート310の両面に実施例1と同様にして、厚さが約20μmとなるように銅めっき膜37を形成した(図3(C))。得られた銅めっき膜とシートの複合シート311は、放熱性が付与され、ヒートシンク機能を有することが確認された。本実施例の樹脂成形品の製造方法は、金属の薄肉板をプレス成形するよりも、深絞りした際における成形性に優れており、また複数の金型を用いる必要がないので形状が複雑で薄肉の金属調部品を得ることができる。
【0068】
[実施例4]
本実施例では、正帯電処理工程、導電性材料付与工程、ラミネート工程、インサート成形工程、及び電解めっき工程からなる製造方法を使用した。図5は、本実施例の各製造工程におけるシートの状態を示す要部拡大断面概略図であり、図6は導電性材料が付与された多孔質シートの表面をレーザ顕微鏡(キーエンス社製,VK−9700)により観察した写真である。以下、図面を参照しながら、本実施例の製造方法について説明する。
【0069】
<正帯電処理工程>
実施例1と同様の多孔質シートを準備した。この多孔質シートを、低圧水銀ランプ(主波長:254nm,照射距離:50mm)を用いて5分間紫外線処理し、親水化処理した。この親水化処理された多孔質シートを、アミノ基を有するシランカップリング剤(信越シリコーン製,KBM−903)を1質量%の濃度で水に溶解させた溶液に、50℃で5分間浸漬して、溶液処理を行ない、多孔質層に正電荷を帯電させた。
【0070】
<導電性材料付与工程>
上記のようにして正電荷を帯電させた多孔質シートと、塩素原子で化学修飾された開口を有する多層構造のカーボンナノチューブ(長軸長:約1μm)とを用いた以外は、実施例1と同様にして、多孔質シート51の多孔質層52に、カーボンナノチューブ53を付与した(図5(A))。
【0071】
得られた多孔質シート51の表面をレーザ顕微鏡で観察したところ、図6に示すように、多孔質層52の内部だけでなく、最表面にも髭状のカーボンナノチューブ53が吸着していることが観察された。
【0072】
<ラミネート工程>
上記で得られたカーボンナノチューブ53を付与した多孔質シートを用いた以外は、実施例1と同様にして、多孔質シートと樹脂シートとをラミネートしたシート510(総厚:400μm)を作製した(図5(B))。
【0073】
<インサート成形工程>
上記で得られたラミネートしたシート510を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂シート面に溶融接合部55を介して成形樹脂層56がインサート成形されたシート511を作製した(図5(C))。
【0074】
<電解めっき工程>
上記の成形されたシート511を用いた以外は、実施例1と同様にして、電解めっき処理を行い、電解めっき膜57を有するシート512を作製した(図5(D))。得られたシートの密着性評価を実施例1と同様のヒートサイクル試験により行ったところ、電解めっき膜57に膨れや剥離は見られず、良好な密着性が得られていることが確認された。
【0075】
なお、上記の電解めっき処理で、銅めっき膜を形成後、銅めっき膜の膜厚を電解式膜厚計(中央製作所社製,TH−11)で測定したところ、電極と接触していた外周部の銅めっき膜の膜厚は25.5μm、電極から離れた中央部の銅めっき膜の膜厚は19.4μmであり、外周部の銅めっき膜の膜厚は中央部のそれに対して1.3倍程度であった。
【0076】
これに対して、実施例1で作製したシート12の銅めっき膜の膜厚を、同様にして測定したところ、電極と接触していた外周部の銅めっき膜の膜厚は29.9μm、電極から離れた中央部の銅めっき膜の膜厚は16.6μmであり、外周部の銅めっき膜の膜厚は中央部のそれに対して1.8倍程度であった。これは、多孔質層に正電荷を帯電させた多孔質シートを用いるとともに、ハロゲン原子含有官能基で化学修飾された導電性材料を用いた場合、図6に示すように、多孔質層の内部だけでなく、最表面に導電性材料が吸着し、電解めっき処理時に多孔質層の最表面全体に電流が流れやすくなり、めっき膜のつきまわり性が向上したためと考えられる。
【0077】
以上詳細に本発明の樹脂成形品の製造方法を説明したが、本発明の好ましい態様について説明すれば以下の通りである。
【0078】
(1)本発明の一態様においては、少なくとも一面側に多孔質層を有する熱可塑性樹脂製の多孔質シートに導電性材料を付与する導電性材料付与工程と、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを電気化学的手法により表面処理する表面処理工程とを有する樹脂成形品の製造方法を使用することができる。上記導電性材料は、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンブラック、アセチレンブラック、及びグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。特に、ハロゲン原子含有官能基で化学修飾された導電性材料が好ましく用いられる。
【0079】
(2)本発明において、装飾や機能性の付与を目的としてインサート成形工程を行う態様においては、
少なくとも一面側に多孔質層を有する熱可塑性樹脂製の多孔質シートに導電性材料を付与する導電性材料付与工程と、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを射出成形機の金型上に配置し、前記金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填し、前記多孔質シートと前記溶融樹脂とを一面側に前記多孔質層が露出するように一体成形して、成形されたシートを得るインサート成形工程と、
前記導電性材料が付与された多孔質層を有する成形されたシートを電気化学的手法により表面処理する表面処理工程とを有する樹脂成形品の製造方法が好ましい。
【0080】
(3)また、上記インサート成形工程においては、多孔質シートを、多孔質層が保護シートを介して金型面と対向するように配置することが好ましい。
【0081】
(4)本発明において、装飾や機能性の付与を目的として真空圧空成形工程を行う態様では、
少なくとも一面側に多孔質層を有する熱可塑性樹脂製の多孔質シートに導電性材料を付与する導電性材料付与工程と、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを金型上に配置し、前記多孔質シートを真空圧空成形して、成形されたシートを得る真空圧空成形工程と、
前記導電性材料が付与された多孔質層を有する成形されたシートを電気化学的手法により表面処理する表面処理工程とを有する樹脂成形品の製造方法が好ましい。
【0082】
(5)さらに、本発明において、インサート成形工程前に、多孔質シートと樹脂シートをラミネートするラミネート工程を行なう態様では、
少なくとも一面側に多孔質層を有する熱可塑性樹脂製の多孔質シートに導電性材料を付与する導電性材料付与工程と、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートと樹脂シートとを、一面側に前記多孔質層が露出するようにラミネートして、ラミネートされたシートを得るラミネート工程と、
前記導電性材料が付与された多孔質層を有するラミネートされたシートを射出成形機の金型上に配置し、前記金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填し、前記多孔質シートと前記溶融樹脂とを一面側に前記多孔質層が露出するように一体成形して、成形されたシートを得るインサート成形工程と、
前記導電性材料が付与された多孔質層を有する成形されたシートを電気化学的手法により表面処理する表面処理工程とを有する樹脂成形品の製造方法が好ましい。
【0083】
(6)また、本発明において、真空圧空成形工程前に、多孔質シートと樹脂シートをラミネートするラミネート工程を行なう態様では、
少なくとも一面側に多孔質層を有する熱可塑性樹脂製の多孔質シートに導電性材料を付与する導電性材料付与工程と、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートと樹脂シートとを、少なくとも一面側に前記多孔質層が露出するようにラミネートして、ラミネートされたシートを得るラミネート工程と、
前記導電性材料が付与された多孔質層を有するラミネートされたシートを金型上に配置し、前記ラミネートされたシートを真空圧空成形して、成形されたシートを得る真空圧空成形工程と、
前記導電性材料が付与された多孔質層を有する成形されたシートを電気化学的手法により表面処理する表面処理工程とを有する樹脂成形品の製造方法が好ましい。
【0084】
(7)上記ラミネート工程と、真空圧空成形工程とを有する製造方法においては、前記ラミネート工程が、前記多孔質層に導電性材料が付与された2枚の多孔質シートを、両面側に前記多孔質層が露出するように前記樹脂シートを介してラミネートして、ラミネートされたシートを得るラミネート工程を含んでもよい。
【0085】
(8)上記(1)〜(7)の製造方法においては、導電性材料付与工程前に、多孔質層に正電荷を帯電させる正帯電処理工程をさらに設けてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1,31,51 多孔質シート
2,32,52 多孔質層
21,321 連続多孔体
3,33,53 カーボンナノチューブ(導電性材料)
4,34,54 樹脂シート
7,37,57 電解めっき膜
201 金型
204 シリンダ
205 溶融樹脂
210 キャビティ
P 保護シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一面側に多孔質層を有する熱可塑性樹脂製の多孔質シートに導電性材料を付与する導電性材料付与工程と、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを電気化学的手法により表面処理する表面処理工程とを有する樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記導電性材料付与工程後、前記表面処理工程前に、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを成形加工する成形工程をさらに有し、
前記表面処理工程における多孔質シートは、前記成形工程において成形されたシートである請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記成形工程は、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを射出成形機の金型上に配置し、前記金型のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、前記多孔質シートと前記溶融樹脂とを一面側に前記多孔質層が露出するように一体成形するインサート成形工程を含む請求項2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記インサート成形工程において、
前記多孔質シートを、前記多孔質層が保護シートを介して前記金型面と対向するように、前記金型上に配置する請求項3に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記成形工程は、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートを金型上に配置し、前記多孔質シートを真空圧空成形する真空圧空成形工程を含む請求項2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記導電性材料付与工程後、前記成形工程前に、
前記多孔質層に導電性材料が付与された多孔質シートと樹脂シートとを、少なくとも一面側に前記多孔質層が露出するようにラミネートするラミネート工程をさらに有し、
前記成形工程における多孔質シートは、前記ラミネート工程においてラミネートされたシートである請求項2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質層は、表面と連通した連続多孔体を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
前記導電性材料は、カーボンナノチューブ、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンブラック、アセチレンブラック、及びグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記導電性材料は、ハロゲン原子含有官能基で化学修飾されている請求項9に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
前記導電性材料付与工程前に、
前記多孔質層に正電荷を帯電させる正帯電処理工程をさらに有する請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項12】
前記電気化学的手法による表面処理は、電解めっき処理または電着塗装処理である請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂成形品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−132595(P2011−132595A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157536(P2010−157536)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】