説明

樹脂歯車およびその製造方法とその製造装置

【解決手段】 歯車状のシート状樹脂Saを歯部2bが軸方向に整列するように積層して、平歯歯車状の素形体4を作成し、該素形体を平歯歯車状の保持空間14aを備えた素形体ホルダ14に収容する。
上型15に設けた平歯歯車状の押圧部材15aを下降させて素形体4を加熱圧縮するとともに、下型12に形成した上記樹脂歯車の歯部がはす歯状の成形空間に圧入して、上記素形体4の歯部4aを軸方向に対して傾斜したはす歯に変形させて、成形された樹脂歯車1の歯部2bにおける強化繊維の方向を軸方向に対して傾斜させる。
【効果】 歯面に作用する荷重によって樹脂のはく離が生じにくい樹脂歯車を得ることができ、また該樹脂歯車の製造に好適な製造装置を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂歯車およびその製造方法とその製造装置に関し、詳しくは抄造により製造したシート状樹脂を歯車状に切断するとともに、該歯車状のシート状樹脂を軸方向に複数枚積層させて歯車状の素形体を作成し、該素形体を加熱圧縮して成形する樹脂歯車およびその製造方法とその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抄造により製造したシート状樹脂を歯車状に切断するとともに、該歯車状のシート状樹脂を軸方向に複数枚積層させて歯車状の素形体を作成し、その後該素形体を加熱圧縮して樹脂歯車を成形する、樹脂歯車の製造方法が知られている(特許文献1)。
この特許文献1によれば、上記樹脂歯車をはす歯歯車状に形成する場合、上記歯車状のシート状樹脂の歯を徐々にずらしながら積層させて、はす歯歯車状の素形体を作成し、その後該はす歯歯車状の素形体を加熱圧縮して樹脂歯車を成形するようになっている(段落0037参照)。
また上記特許文献1における樹脂歯車の製造装置は上型および下型からなるいわゆる凹凸金型となっており、樹脂歯車をはす歯歯車状に形成する場合、下型に上記歯車状のシート状樹脂の歯を徐々にずらしながら積層させて加熱圧縮する必要がある(段落0031、0037参照)。
一方、抄造により製造したシート状樹脂を軸方向に複数枚積層させて樹脂歯車を作成すると、強化繊維の方向における繊維同士の絡み合いが無いことから、この強化繊維の方向に沿って樹脂がはく離してしまうという問題が指摘されている(特許文献2の従来技術)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−227061号公報
【特許文献2】特開2009−154338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、特許文献1の方法で製造した樹脂歯車の場合、素形体を作成した際における強化繊維の方向が軸方向に対して直交しているため、各歯における強化繊維の方向も軸方向に対して直交することとなる。
これに対し、はす歯歯車における各歯に作用する荷重は、各歯の歯面に直交する方向に作用するため、強化繊維の方向に対して該荷重が傾斜した方向に作用することとなり、特許文献2で指摘されているように、該強化繊維の方向に沿って樹脂がはく離してしまうという問題があった。
また特許文献1における樹脂歯車の製造装置の場合、下型に歯車状のシート状樹脂の歯を徐々にずらしながら積層させなければならず、製造工程が煩雑になるという問題があった。
このような問題に鑑み、本発明ははす歯状の歯部における樹脂のはく離を防止可能な樹脂歯車およびその製造方法を提供するとともに、該樹脂歯車の製造に好適な樹脂歯車の製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる樹脂歯車は、熱硬化性樹脂と強化繊維とを液中に分散させて抄造した歯車状のシート状樹脂を軸方向に複数枚積層させて加熱圧縮した樹脂歯車において、
該樹脂歯車の歯部は軸方向に対して傾斜したはす歯となっており、かつ各歯部における上記強化繊維の方向が上記軸方向に対して傾斜していることを特徴としている。
【0006】
また請求項4の発明にかかる樹脂歯車の製造方法は、熱硬化性樹脂と強化繊維とを液中に分散させてシート状樹脂を抄造して該シート状樹脂を歯車状に切断し、該該歯車状のシート状樹脂を軸方向に複数枚積層させて歯車状の素形体を作成し、さらに該歯車状の素形体を加熱圧縮して樹脂歯車を成形する樹脂歯車の製造方法において、
上記歯車状のシート状樹脂を歯部が軸方向に整列するように積層して、上記素形体を平歯歯車状に作成し、
該素形体を加熱圧縮する際、各歯部を軸方向に対して傾斜したはす歯に変形させながら、各歯部における上記強化繊維の方向を上記軸方向に対して傾斜させることを特徴としている。
【0007】
そして請求項8の発明にかかる樹脂歯車の製造装置は、歯車状のシート状樹脂を軸方向に複数枚積層させて作成した歯車状の素形体を、加熱しながら軸方向に圧縮して樹脂歯車を成形する下型および上型を備えた樹脂歯車の製造装置において、
該素形体を収容する平歯歯車状の保持空間の形成された素形体ホルダを上記下型と上型との間に設け、
上記下型に、上記樹脂歯車の歯部がはす歯状となるように形成した成形空間を形成するとともに、上記上型は上記素形体ホルダにおける上記保持空間に挿入されて上記素形体を上方から押圧する平歯歯車状の押圧部材を備え、
上記素形体ホルダが上記素形体を上記下型の成形空間の一方の端面に隣接した位置に設置すると、上記上型の押圧部材が上記素形体ホルダの保持空間に挿入されて該素形体を軸方向に押圧し、上記成形空間に圧入しながら素形体の歯部を平歯からはす歯へと変形させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
上記請求項1および請求項4の発明によれば、樹脂歯車の歯を軸方向に対して傾斜したはす歯とした場合であっても、各はす歯における強化繊維の方向を上記軸方向に対して傾斜させることができる。
この結果、荷重が歯面に対して直交した方向に作用しても、上記強化繊維の方向に沿ってはく離させようとする荷重を減少させることができ、はす歯状の歯部における樹脂のはく離を防止することができる。
【0009】
そして請求項8の発明によれば、上記素形体ホルダには平歯歯車状の素形体を収容すればよいため、素形体を容易に製造装置にセットすることができ、その後素形体を加熱圧縮すれば、素形体を下型の成形空間に圧入される際にはす歯歯車状の樹脂歯車へと成形することができる。
この製造装置によって上記請求項1の樹脂歯車を製造すれば、上記素形体の歯部が上記はす歯状の成形空間に斜めに変形しながら圧入されることとなるため、強化繊維の方向が軸方向に対して傾斜することとなり、上記請求項1の樹脂歯車の製造に好適なものといえ、また上記請求項4にかかる樹脂歯車の製造方法を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施例にかかる樹脂歯車の斜視図
【図2】樹脂歯車の周方向断面図
【図3】樹脂歯車の軸方向断面図
【図4】製造装置の断面図
【図5】樹脂歯車の製造方法を説明する図
【図6】本発明にかかる樹脂歯車の樹脂の方向を示す図
【図7】従来技術にかかる樹脂歯車の樹脂の方向を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図示実施例について説明すると、図1ないし図3はエンジンのバランサーシャフトギア等に用いる樹脂歯車1を示し、図1は樹脂歯車1の斜視図を、図2は樹脂歯車1の中心軸に対して直交する平面で切断した周方向断面図を、図3は軸方向に平行な平面で切断した軸方向断面図をそれぞれ示している。
上記樹脂歯車1は、リング状の樹脂リング2と、上記樹脂リング2の内周面2aに嵌合した金属ブッシュ3とから構成され、上記樹脂リング2の外周には軸方向に対して傾斜するように形成されたはす歯状の歯部2bが等間隔に形成されている。
上記金属ブッシュ3は、焼結合金や炭素系鋼からなり、図2に示すように金属ブッシュ3の外周面には周り止め手段としての突起3aが形成され、上記樹脂リング2が各突起3aを囲繞することで、上記樹脂リング2と金属ブッシュ3とが相互に回転しないように結合されるものとなっている。
上記突起3aは金属ブッシュ3の外周面に沿って放射状に一列設けられており、金属ブッシュ3の外周面から外側に向けて広くなる逆テーパ状に形成されている。そして本実施例の突起3aは、金属ブッシュ3の軸方向中央に対して該金属ブッシュ3の一方の端面に偏倚した位置に設けられている。
後に詳述するが、図4を用いて上記構成を有する樹脂歯車1の製造方法を簡単に説明すると、最初にフェノール樹脂粉末、アラミド繊維等を水に分散し、抄造して得られたシート状樹脂Sを歯車状に切断し(図4(a))、該歯車状のシート状樹脂Sを軸方向に複数枚積層して平歯歯車状の素形体4を成形する(図4(b))。
その後、この素形体4を以下に説明する製造装置11を用いて加熱しながらはす歯歯車状の樹脂リング2へと圧縮成形し、その際該樹脂リング2を上記金属ブッシュ3に圧入するようになっている(図4(c))。
【0012】
図5は上記樹脂歯車1の製造装置11を示しており、該製造装置11は、上記樹脂歯車1を成形する成形空間12aの形成された下型12と、上記金属ブッシュ3を保持する金属ブッシュホルダ13と、上記素形体4を保持する素形体ホルダ14と、上記素形体4を上方より押圧して上記下型12の成形空間12aに圧入する上型15とを備え、また上記素形体4を加熱するための図示しないヒーターを備えている。
上記下型12は本体部に固定されており、その上面には素形体4が圧入されて樹脂歯車1が成形される成形空間12aが開口し、上記金属ブッシュホルダ13はこの成形空間12aの中央に上記金属ブッシュ3を保持するようになっている。
上記成形空間12aにおける外周部分(図示破線部より外側)には、樹脂歯車1の歯部2bがはす歯状となるよう斜めの空間が形成されており、上記素形体4の歯部4aはこの空間に沿って斜めに流入するようになっている。
また成形した樹脂歯車1が下型12より容易に離型するよう、成形空間12aの内周面には金属メッキ加工が施されている。
そして上記下型12における成形空間12aより離隔した位置には、上記素形体ホルダ14をガイドするためのピン16が上方に向けて設けられ、また上記上型15より下方に向けて設けられたピン17が挿入される貫通孔とが形成されている。
【0013】
上記金属ブッシュホルダ13は略円筒状を有しており、上記金属ブッシュ3を上記下型12の成形空間12aの位置に保持するため、その上端部には金属ブッシュ3の下面に当接するとともに該金属ブッシュ3の内周面に嵌合する段差形状が形成されている。
また金属ブッシュホルダ13の外周の径は、上記金属ブッシュ3における上記突起3aの位置よりも大径で、かつ上記樹脂リング2における歯部2bの基部(図示破線)よりも小径となっている。
上記金属ブッシュホルダ13は昇降手段18によって下型12に対して回転しながら昇降するように設けられており、図4に示す下降位置より回転しながら上昇すると、上記樹脂歯車1における金属ブッシュ3および樹脂リング2の歯部2bよりも内側を下方より押圧して、樹脂歯車1を上記はす歯歯車状に形成された成形空間12aより離脱させるようになっている。
次に、上記金属ブッシュホルダ13の上部には上記円筒状のガイド部材19がボルト20により着脱可能に設けられており、該ガイド部材19は上記金属ブッシュ3を金属ブッシュホルダ13に装着してから、該金属ブッシュホルダ13に連結されるようになっている。
そしてガイド部材19は上記金属ブッシュ3の外周面と同径、すなわち上記素形体4の内周面4bと同径に成形されており、上記ガイド部材19を上記金属ブッシュホルダ13に装着すると、上記金属ブッシュ3の上方の端面がガイド部材19によって覆われるようになっている。
このため、上記素形体4が下型12の成形空間12aに圧入される際、樹脂がガイド部材19と金属ブッシュ3との間に入り込まないようになっている。
【0014】
上記素形体ホルダ14は、中央に上記素形体4を収容する保持空間14aを備え、図示しない昇降手段18によって昇降するようになっている。
上記保持空間14aは上記素形体4を収容するために平歯歯車状の空間となっており、収容した素形体4の歯部4aの位置が、上記下型12に形成した成形空間12aの上面に露出した歯車状の開口部の形状と一致するようになっている。
また上記素形体ホルダ14を下降させると、上記保持空間14aの中央には上記ガイド部材19が位置するようになっており、これにより上記保持空間14aは上記素形体4と略同形状の空間を有することとなる。
また、素形体ホルダ14には、上記下型12に設けたピン16の挿通される貫通孔と、上記上型15に設けたピン17の挿通される貫通孔とが形成されており、上記下型12、素形体ホルダ14、上型15の位置ズレが防止されるようになっている。
【0015】
上記上型15は図示しない昇降手段によって昇降するとともに、上記素形体ホルダ14とガイド部材19とによって形成された上記保持空間14a内に挿入される押圧部材15aを備えている。
上記押圧部材15aの外周面には、上記素形体4と同様、平歯状の歯部が形成されており、押圧部材15aを上記素形体ホルダ14に形成された保持空間14aに挿入すると、押圧部材15aの下面によって素形体4を上方から押圧するようになっている。
そして、上記素形体ホルダ14および上型15を下降端まで下降させると、上記押圧部材15aの下端部は上記下型12の上面の位置で停止するようになっており、これにより上記素形体4は上記下型12の成形空間12aに圧入されるようになっている。
【0016】
次に、図4を用いて上記樹脂歯車1の製造方法を説明する。
まず、図4(a)は、シート状樹脂Sを抄造により製造するとともに、該シート状樹脂Sを歯車形状に切断する工程を示している。
最初に、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂粉末と強化繊維としてのアラミド繊維とアラミドパルプとをそれぞれ水に分散させ、これを抄造することで長方形のシート状樹脂Sを製造し、これを加圧プレス機に投入して脱水を行う。
ここで得られたシート状樹脂Sからは、複数枚の歯車形状を得ることが可能であり、上記長方形のシート状樹脂Sを抜きプレス機に投入することで、複数の歯車型のシート状樹脂Saを得ることができ、このとき各シート状樹脂Saには上記内周面2aを構成する円形の孔Sbも穿設しておく。
なお、このとき発生する残材については、リサイクルにより再度上記シート状樹脂Sを抄造する際に用いることが可能となっている。
その後、得られた上記歯車形状のシート状樹脂Saからは、乾燥等の手段により水分を除去する。
【0017】
次に、図4(b)は上記歯車形状のシート状樹脂Saを複数枚積層させて上記素形体4を成形する工程を示している。
本実施例では8枚のシート状樹脂Sを積層させるようになっており、このとき各シート状樹脂Sにおける歯の位置を一致させた状態で積層させたら、これを内周および外周の形状を拘束する図示しない金型へ投入し、フェノール樹脂が軟化する温度で加熱しながら軸方向、すなわち積層方向に圧縮する。
すると、上記シート状樹脂Sに含まれるアラミド繊維が圧縮により水平方向を向くとともに、フェノール粉末が一部軟化して隣接するシート状樹脂S同士が接着し、その結果、外周に平歯状の歯部4aが形成されるとともに円形の内周面4bの形成された平歯歯車状の素形体4が得られる事となる。
この素形体4は、軸方向の厚みは上記金属ブッシュ3の軸方向の厚みより厚く形成されているが、直径方向の寸法は成形後の樹脂歯車1とほとんど変わらず、特に上記内周面2aの径は上記金属ブッシュ3の外周面と同径となっている。
【0018】
そして、図4(c)は、上記図4に示す製造装置11を用いて、上記素形体4を加熱加圧しながら金属ブッシュ3に圧入して、樹脂リング2と金属ブッシュ3とを結合する工程を示している。
最初に上記金属ブッシュホルダ13に金属ブッシュ3を装着し、その後金属ブッシュホルダ13に上記ガイド部材19を連結して、金属ブッシュ3の上下の端面を覆うように挟持する。
また上記金属ブッシュホルダ13は金属ブッシュ3の下方の端面を下型12に形成された成形空間12aの高さに保持し、金属ブッシュ3の上方の端面を下型12の上面と同じ高さに位置させる。このとき、金属ブッシュ3の突起3aは、中心線に対して上方に偏倚するようになっている。
一方、上記素形体ホルダ14に上記素形体4がセットされると、該素形体ホルダ14は上記下型12に当接する位置まで下降して、素形体4が下型12の成形空間12aの上方の端面に隣接した位置に設置され、ガイド部材19が素形体4の内周面4bに挿入される。
このとき、素形体4には平歯状の歯部2bが形成されていることから、はす歯歯車状に形成された成形空間12aには入り込まないようになっている。
【0019】
続いて、上記素形体ホルダ14に保持された素形体4をヒーターにより加熱すると、素形体4が所定温度まで加熱されることで素形体4に含まれるフェノール粉末が一旦軟化することとなる。
この状態で上記上型15を下降させると、上記素形体ホルダ14と上記ガイド部材19との間に形成された保持空間14aに上記押圧部材15aが挿入され、素形体4が該押圧部材15aによって下方に押圧される。
その結果、軟化した素形体4は下型12の成形空間12aに圧入されることとなり、素形体4の厚さから樹脂リング2の厚さまで圧縮される。また、平歯状だった歯部2bは成形空間12aに沿って変形し、はす歯状の歯部2bが成形されることとなる。
また、素形体4を押圧部材15aによって下方に押圧すると、素形体4の内周面2aに金属ブッシュ3が下方より圧入され、その際上記金属ブッシュ3に形成した突起3aは、軟化した素形体4の樹脂を押し分け、この樹脂は突起3aが通過した後に形成される空間に回り込むようになっている。
このようにして素形体4が圧縮されて上記成形空間12aに圧入されると、この下型12に充填された素形体4の樹脂は架橋反応により固化して上記樹脂リング2となり、該樹脂リング2の内周に金属ブッシュ3が装着された樹脂歯車1が得られることとなる。
その後、上記下型12から上型15および素形体ホルダ14が上昇して離脱すると、その後さらに上記金属ブッシュホルダ13が昇降手段18によって回転しながら上昇し、樹脂歯車1を下型12より離型させる。
そして図4(d)では、上記工程によって得られた樹脂歯車1を再度加熱してアニールを行うとともにバリ取りなどの仕上げを行い、上記樹脂歯車1が得られる。
【0020】
本実施例における樹脂歯車1の製造方法によれば、上記歯車状のシート状樹脂Saを軸方向に積層させた平歯歯車状の素形体4を、上記製造装置11によってはす歯歯車状に形成することで、歯部2bにおけるアラミド繊維の方向を軸方向に対して傾斜させることが可能となっている。
具体的に説明すると、図6に示すように、樹脂リング2におけるリング状部2cは、上記製造装置11によって成形される際に、上方から下方へと横方向への圧力を受けることなく上記素形体4ガイドから下型12の成形空間12aへと圧入されるため、アラミド繊維の方向は軸方向に対して直交した方向を維持することとなる。
これに対し、樹脂リング2における歯部2bは、上記成形空間12aに圧入される際に、平歯からはす歯へとねじれながら変形するため、上記アラミド繊維の方向ははす歯状の成形空間12aに沿って変形する際に軸方向に対して傾斜し、はす歯状の歯部2bの歯面に対して略歯直角を向くこととなる。
ここで、はす歯歯車において各歯部2bに作用する荷重は歯面に対して直角となり、上記アラミド繊維の方向と略同方向に作用することから、上記アラミド繊維の方向に樹脂をはく離させる分力が作用せず、歯部2bにおける樹脂のはく離が防止されるようになっている。
【0021】
これに対し、図7は上記特許文献1にかかる製造方法で製造した樹脂歯車1を示し、素形体4をはす歯歯車状に形成するとともに、該素形体4をそのままはす歯歯車状に成形した樹脂歯車1となっている。
このような製造方法によると、上記はす歯状の歯部2bを有する素形体4はそのままはす歯状の空間に沿って圧入されるため、上記歯部2bにおける繊維の方向は軸方向に対して直交したままとなる。
その結果、各歯部2bに作用する荷重は繊維の方向に対して傾斜した方向に作用することとなり、上記繊維の方向に対して斜めに分力が作用することから、繊維の絡み合いがほとんど無い繊維の方向に沿ってはく離が生じるおそれがある。
【0022】
そして、本発明にかかる製造方法によって製造した樹脂歯車1と、上記特許文献1の製造方法によって製造した樹脂歯車1とについて、上記歯部2bのねじり強度を測定した。
具体的には、上記該歯部2bの歯面に直交する方向に作用する荷重への耐久性を測定することでねじり強度を評価し、発明品は従来品よりも耐荷重性が高いことが確認でき、歯部2bに作用する荷重によって繊維の方向に沿ってはく離が生じにくいことが理解できた。
【符号の説明】
【0023】
1 樹脂回転体 2 樹脂リング
2a 内周面 3 金属ブッシュ
3a 突起 4 素形体
11 製造装置 12 下型
12a 成形空間 13 金属ブッシュホルダ
14 素形体ホルダ 14a 保持空間
15 上型 15a 押圧部材
19 ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と強化繊維とを液中に分散させて抄造した歯車状のシート状樹脂を軸方向に複数枚積層させて加熱圧縮した樹脂歯車において、
該樹脂歯車の歯部は軸方向に対して傾斜したはす歯となっており、かつ各歯部における上記強化繊維の方向が上記軸方向に対して傾斜していることを特徴とする樹脂歯車。
【請求項2】
上記強化繊維の方向は、歯部の歯面に対してほぼ直角となるように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の樹脂歯車。
【請求項3】
上記樹脂歯車は、外周に上記歯部の形成されたリング状の樹脂リングと、該樹脂リングの内周面に嵌合する金属製の金属ブッシュとから構成され、
上記金属ブッシュの外周に、上記樹脂歯車と金属ブッシュとを相互に回転しないように結合する周り止め手段を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の樹脂歯車。
【請求項4】
熱硬化性樹脂と強化繊維とを液中に分散させてシート状樹脂を抄造した該シート状樹脂を歯車状に切断し、該歯車状のシート状樹脂を軸方向に複数枚積層させて歯車状の素形体を作成し、さらに該歯車状の素形体を加熱圧縮して樹脂歯車を成形する樹脂歯車の製造方法において、
上記歯車状のシート状樹脂を歯部が軸方向に整列するように積層して、上記素形体を平歯歯車状に作成し、
該素形体を加熱圧縮する際、各歯部を軸方向に対して傾斜したはす歯に変形させながら、各歯部における上記強化繊維の方向を上記軸方向に対して傾斜させることを特徴とする樹脂歯車の製造方法。
【請求項5】
上記強化繊維の方向がはす歯状の歯部の歯面に対してほぼ直角となるように傾斜させることを特徴とする請求項4に記載の樹脂歯車の製造方法。
【請求項6】
樹脂歯車の歯部がはす歯状となるように形成した成形空間を設けるとともに、該成形空間の一方の端面に隣接した位置に上記素形体を設置し、該素形体を軸方向に押圧して上記成形空間に圧入しながら、素形体の歯部を平歯からはす歯へと変形させることを特徴とする請求項4または請求項5のいずれかに記載の樹脂歯車の製造方法。
【請求項7】
上記素形体をリング状に作成し、
上記素形体を加熱圧縮する際、該素形体の内周面に該内周面と略同径の金属ブッシュを軸方向に圧入すると同時に、上記金属ブッシュの外周に設けた周り止め手段を上記素形体に圧入することを特徴とする請求項4ないし請求項5のいずれかに記載の樹脂歯車の製造方法。
【請求項8】
歯車状のシート状樹脂を軸方向に複数枚積層させて作成した歯車状の素形体を、加熱しながら軸方向に圧縮して樹脂歯車を成形する下型および上型を備えた樹脂歯車の製造装置において、
該素形体を収容する平歯歯車状の保持空間の形成された素形体ホルダを上記下型と上型との間に設け、
上記下型に、上記樹脂歯車の歯部がはす歯状となるように形成した成形空間を形成するとともに、上記上型は上記素形体ホルダにおける上記保持空間に挿入されて上記素形体を上方から押圧する平歯歯車状の押圧部材を備え、
上記素形体ホルダが上記素形体を上記下型の成形空間の一方の端面に隣接した位置に設置すると、上記上型の押圧部材が上記素形体ホルダの保持空間に挿入されて該素形体を軸方向に押圧し、上記成形空間に圧入しながら素形体の歯部を平歯からはす歯へと変形させることを特徴とする樹脂歯車の製造装置。
【請求項9】
上記樹脂歯車は、外周に上記歯部の形成されたリング状の樹脂リングと、該樹脂リングの内周面に嵌合する外周に周り止め手段の形成された金属製の金属ブッシュとから構成され、
上記樹脂歯車の製造装置は、上記下型における成形空間の位置に上記金属ブッシュを保持する金属ブッシュホルダを備え、
該金属ブッシュホルダの上部に上記素形体ホルダに保持される素形体の内周面に挿入される該素形体の内周面と略同径のガイド部材を設けて、
上記上型の押圧部材は上記素形体と同形状に形成されて、上記素形体ホルダの内周面と上記ガイド部材の外周面とによって形成される保持空間内部に挿入されながら上記素形体を押圧することを特徴とする請求項8に記載の樹脂歯車の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−52650(P2012−52650A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198123(P2010−198123)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000228383)日本ガスケット株式会社 (43)
【Fターム(参考)】