説明

樹脂組成物、樹脂成形体及びその製造方法

【課題】 リン系難燃剤を含有する場合であっても、機械的強度と難燃性とを高水準で両立することが可能な樹脂組成物、樹脂成形体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 脂肪族ポリエステルと、該脂肪族ポリエステル以外の第2の高分子化合物と、リン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物と、を含有することを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、バイオマス材料として脂肪族ポリエステルなどの生分解性樹脂が注目されている。
【0003】
生分解性樹脂を用いた樹脂成形体としては、難燃性の向上を目的として難燃剤が配合されたものが知られている。かかる難燃剤としては、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、窒素化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤などの様々な種類のものがある。さらに、例えばリン系難燃剤としては、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン、赤燐、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、含ハロゲン縮合有機リン酸エステル、メラミンリン酸塩などが挙げられる(例えば、下記特許文献1〜3を参照。)。
【特許文献1】特開2004−027079号公報
【特許文献2】特開2003−192929号公報
【特許文献3】特開2004−190025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、機械的強度と難燃性とを高水準で両立することが可能な樹脂組成物、樹脂成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、脂肪族ポリエステルと、該脂肪族ポリエステル以外の第2の高分子化合物と、リン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物と、を含有することを特徴とする樹脂組成物にある。
【0006】
請求項2に記載の発明は、有機リン酸化合物の分子量が80000以上150000以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物にある。
【0007】
請求項3に記載の発明は、有機リン酸化合物がポリリン酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物にある。
【0008】
請求項4に記載の発明は、ポリリン酸アンモニウムの繰り返し単位数が800以上であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物にある。
【0009】
請求項5に記載の発明は、エラストマーを更に含有することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物にある。
【0010】
請求項6に記載の発明は、エラストマーが、ブタジエンからなるコアと、アクリルからなるシェルとのコアシェル構造を有するものであることを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物にある。
【0011】
請求項7に記載の発明は、脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物にある。
【0012】
請求項8に記載の発明は、第2の高分子化合物がポリカーボネート及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物にある。
【0013】
請求項9に記載の発明は、下記一般式(I)で表される化合物を更に含有することを特徴とする請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物にある。
【0014】
【化1】



一般式(I)中、Arは、置換もしくは未置換のアリーレン基、置換もしくは未置換のビフェニレン基、又は、置換もしくは未置換のビスフェノール型アリーレン基を表し、Ar及びArはそれぞれ独立に、置換もしくは未置換のアリール基を表し、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10の置換もしくは未置換のアルキル基、又は、置換もしくは未置換のアリール基を表す。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有することを特徴とする樹脂成形体にある。
【0016】
請求項11に記載の発明は、樹脂成形体中における脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の分子量分布が下記式(1)で表される条件を満たすことを特徴とする請求項10に記載の樹脂成形体にある。
Mw(1)/Mn(1)≧Mw(2)/Mn(2) (1)
式(1)中、Mw(1)及びMn(1)はそれぞれ前記脂肪族ポリエステルの重量平均分子量及び数平均分子量を示し、Mw(2)及びMn(2)はそれぞれ前記第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量を示す。
【0017】
請求項12に記載の発明は、脂肪族ポリエステルと、該脂肪族ポリエステル以外の第2の高分子化合物と、リン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物と、を含有する樹脂組成物を、該樹脂組成物の温度が220℃以下となる条件下で混練する第1の工程と、第1の工程で得られた混練体を成形し、樹脂成形体を得る第2の工程と、を備えることを特徴とする樹脂成形体の製造方法にある。
【0018】
請求項13に記載の発明は、第2の工程が、樹脂成形体中における脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の分子量分布が下記式(1)で表される条件を満たす樹脂成形体を得る工程であることを特徴とする請求項12に記載の樹脂成形体の製造方法にある。
Mw(1)/Mn(1)≧Mw(2)/Mn(2) (1)
式(1)中、Mw(1)及びMn(1)はそれぞれ前記脂肪族ポリエステルの重量平均分子量及び数平均分子量を示し、Mw(2)及びMn(2)はそれぞれ前記第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量を示す。
【0019】
請求項14に記載の発明は、第2の工程は射出成形機内における混練体の温度が220℃以下となる条件下で射出成形する工程であることを特徴とする請求項12又は13に記載の樹脂成形体の製造方法にある。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂組成物と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立することが可能となるという効果を有する。特に、請求項1に記載の発明により機械的強度を高水準で達成できることは、リン系難燃剤が脂肪族ポリエステル樹脂の加水分解の原因となり得るため、機械的強度が求められる用途には必ずしも適していないと考えられていることを鑑みれば、極めて予想外の効果といえる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂組成物と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項1に記載の発明を有効に実現することができ、特に、難燃性を十分なものとしつつ耐衝撃強度を一層向上させることができるという効果を有する。
【0022】
請求項3に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂組成物と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項1に記載の発明を有効に実現することができるという効果を有する。
【0023】
請求項4に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂組成物と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項1に記載の発明を有効に実現することができ、特に、難燃性を十分なものとしつつ耐衝撃強度を一層向上させることができるという効果を有する。
【0024】
請求項5に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂組成物と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項1に記載の発明を有効に実現することができるという効果を有する。
【0025】
請求項6に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂組成物と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項1に記載の発明を有効に実現することができ、特に、耐衝撃強度を一層向上させることができるという効果を有する。
【0026】
請求項7に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、植物度を高水準に維持しつつ、本構成を有しない樹脂組成物と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項1に記載の発明を有効に実現することができるという効果を有する。
【0027】
請求項8に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂組成物と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項1に記載の発明を有効に実現することができ、特に、耐衝撃強度を一層向上させることができるという効果を有する。
【0028】
請求項9に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂組成物と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項1に記載の発明を有効に実現することができ、特に、耐溶剤性を一層向上させることができるという効果を有する。
【0029】
請求項10に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂成形体と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立することが可能となるという効果を有する。特に、請求項10に記載の発明により機械的強度を高水準で達成できることは、リン系難燃剤が脂肪族ポリエステル樹脂の加水分解の原因となり得るため、機械的強度が求められる用途には必ずしも適していないと考えられていることを鑑みれば、極めて予想外の効果といえる。
【0030】
請求項11に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂成形体と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立することが可能となるという効果を有する。特に、請求項11に記載の発明により機械的強度を高水準で達成できることは、ポリリン酸アンモニウムはポリエステル系樹脂の加水分解の原因となり得るため、機械的強度が求められる用途には必ずしも適していないと考えられていることを鑑みれば、極めて予想外の効果といえる。
【0031】
請求項12に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない場合と比較して、得られる樹脂成形体において、機械的強度と難燃性とを高水準で両立することが可能となるという効果を有する。特に、請求項12に記載の発明により機械的強度を高水準で達成できることは、リン系難燃剤が脂肪族ポリエステル樹脂の加水分解の原因となり得るため、機械的強度が求められる用途には必ずしも適していないと考えられていることを鑑みれば、極めて予想外の効果といえる。
【0032】
請求項13に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない場合と比較して、得られる樹脂成形体において、植物度を高水準に維持しつつ、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項12に記載の発明の効果を一層向上させることができる。
【0033】
請求項14に記載の発明は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない場合と比較して、得られる樹脂成形体において、植物度を高水準に維持しつつ、機械的強度と難燃性とを高水準で両立できるという請求項12又は13に記載の発明の効果を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0035】
(樹脂組成物)
本実施形態に係る樹脂組成物は、脂肪族ポリエステルと、該脂肪族ポリエステル以外の第2の高分子化合物と、リン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物とを含有する。ここで、有機リン酸化合物におけるリン含有量とは、有機リン酸化合物全体の質量に対して占めるリン元素の質量比を意味する。リン含有量は、例えば蛍光X線等を用いて測定することができる。
【0036】
脂肪族ポリエステルとしては、特に制限されないが、生分解性を有するものが好ましく、植物由来の脂肪族ポリエステルがより好ましい。具体的には、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンアジペート、ポリヘキシレンサクシネート、ポリヘキシレンアジペートなどが挙げられる。これらの脂肪族ポリエステルの中でも、難燃性と機械的強度(特に耐衝撃強度)とのバランスの観点から、ポリ乳酸が好ましい。これらの脂肪族ポリエステルは1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの脂肪族ポリエステルの2種以上の共重合体を用いてもよい。
【0037】
脂肪族ポリエステルの重量平均分子量は、好ましくは5000以上200000以下、より好ましくは10000以上120000以下である。また、脂肪族ポリエステルの数平均分子量は、好ましくは3000以上100000以下、より好ましくは5000以上70000以下である。脂肪族ポリエステルの重量平均分子量および数平均分子量がそれぞれ上記下限値未満であると耐衝撃強度が不十分となる傾向にあり、また、上記上限値を越えると成形性が不十分となる傾向にある。
【0038】
脂肪族ポリエステルの含有量は特に制限されないが、樹脂組成物全量を基準として、好ましくは20質量%以上80質量%以下、より好ましくは30質量%以上70質量%以下である。脂肪族ポリエステルの含有量が前記下限値未満であると植物度やリサイクル性が低下し、環境負荷が大きくなる傾向にあり、また、前記上限値を超えると機械的強度や耐熱性が不十分となる傾向にある。
【0039】
また、第2の高分子化合物としては、具体的には、ポリカーボネート、ポリアリレート、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンオキシド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルケトンなどが挙げられる。これらの中でも、より高い耐衝撃強度向上効果が得られることから、ポリカーボネートおよびABS樹脂が好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい。これらの第2の高分子化合物は1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの高分子化合物の2種以上の共重合体を第2の高分子化合物として用いることもできる。
【0040】
また、第2の高分子化合物は、溶融混練時の相溶性の向上、成形物の外観の観点から、ガラス転移点が80℃以上のものが好ましく、100℃以上のものがより好ましい。なお、第2の高分子化合物のガラス転移点とは、以下のようにして測定されるガラス転移点を意味する。即ち、示差熱量測定装置((株)島津製作所製、示唆差走査熱量計 DSC−60)にて毎分10℃の昇温速度条件で熱量スペクトルを測定し、ガラス転移に由来するピークから接線法により求めた2つのショルダー値の中間値(Tgm)をガラス転移点とした。
【0041】
また、第2の高分子化合物の重量平均分子量は、好ましくは5000以上100000以下、より好ましくは10000以上80000以下である。また、第2の高分子化合物の数平均分子量は、好ましくは2500以上40000以下、より好ましくは3000以上30000以下がより好ましい。第2の高分子化合物の重量平均分子量および数平均分子量がそれぞれ上記下限値未満であると耐衝撃強度が不十分となる傾向にあり、また、上記上限値を越えると成形性が不十分となる傾向にある。樹脂組成物中における第2の高分子化合物の重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフにて、第2の高分子化合物について測定した重量平均分子量および数平均分子量を意味する。ゲルパーミッションクロマトグラフとしては、東ソー社製HLC−8220GPCを用いることができる。また、樹脂組成物中の第2の高分子化合物について重量平均分子量および数平均分子量を求める場合には、測定用試料を重水素化クロロホルムに0.1質量%の濃度で溶解させ、ゲルパーミッションクロマトグラフにて、溶液から分離された第2の高分子化合物について重量平均分子量および数平均分子量を測定することができる。
【0042】
第2の高分子化合物の含有量は、樹脂組成物全量を基準として、好ましくは5質量%以上70質量%以下、より好ましくは20質量%以上50質量%以下である。第2の高分子化合物の含有量が前記下限値未満であると耐熱性が低下する傾向にあり、また、前記上限値を超えると成形温度が高くなり、得られる樹脂成形体の機械的強度が低下する傾向にある。
【0043】
リン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物(以下、単に「有機リン酸化合物」と表記する場合がある。)としては、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、ポリリン酸塩、赤リンなどが挙げられる。これらの中でも、より高い耐衝撃強度向上効果が得られることから、ポリリン酸塩が好ましく、具体的にはポリリン酸アンモニウムがより好ましい。これらの有機リン酸化合物は1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
また、有機リン酸化合物は、難燃性を十分なものとしつつ耐衝撃強度を一層向上させる観点から、分子量が80000以上150000以下であることが好ましい。なお、有機リン酸化合物の分子量は、構造単位の分子量に繰り返し単位数をかけたものを意味する。
【0045】
本実施形態の樹脂組成物が有機リン酸化合物としてポリリン酸アンモニウムを含有する場合、ポリリン酸アンモニウムの繰り返し単位数は800以上であることが好ましく、800以上1000以下がより好ましい。このようなポリリン酸アンモニウムを含有させることで、樹脂組成物の難燃性を十分なものとしつつ耐衝撃強度を一層向上させることができる。
【0046】
また、本実施形態で用いるポリリン酸アンモニウムは、リン含有量が20質量%以上であることが必要であるが、難燃性と機械的強度(特に耐衝撃強度)とをより高水準で両立する観点から、より好ましくは27質量%以上、さらに好ましくは29質量%以下である。また、ポリリン酸アンモニウムにおけるリンの含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。ポリリン酸アンモニウムにおけるリンの含有量が50質量%を超えると、混練や成形の際にリン酸が揮発して脂肪族ポリエステルや第2の高分子化合物の分解を促進し、機械的強度が低下しやすくなる傾向にある。
【0047】
有機リン酸化合物の含有量は、樹脂組成物全量を基準として、好ましくは3質量%以上20質量%以下、より好ましくは5質量%以上15質量%以下である。有機リン酸化合物の含有量が前記下限値未満であると難燃性と機械的強度(特に耐衝撃強度)との両立が困難となる傾向にあり、また、前記上限値を超えると成形する工程はもちろん、使用環境の温度が高くなった時に、リンを含有するガスが発生し、場合によっては樹脂組成物が過度に昇温してしまうことがある。
【0048】
本実施形態に係る樹脂組成物においては、脂肪族ポリエステルと、脂肪族ポリエステル以外の第2の高分子化合物と、リン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物とを必須成分として含有させることによって、機械的強度と難燃性とを高水準で両立させることができる。このような効果が上記構成により奏される理由としては、リン含有量が20%以上である有機リン酸化合物が、脂肪族ポリエステルと第2の高分子化合物の両者に化学的に作用し、両者の相溶性を向上させるためであると本発明者らは推察する。
【0049】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、上述のように優れた特性を有しているため、難燃性を高水準に維持しつつ難燃剤の含有量を低減できるという点においても有用である。例えば、上記構成を有しない樹脂組成物の場合には、難燃性テストにおいてUL−V2を達成するためには多量の難燃剤(例えば30質量%程度)を含有させる必要があるが、本実施形態においては有機リン酸化合物の含有量を3質量%程度にまで低減してもUL−V2を達成することができる。
【0050】
なお、本実施形態に係る樹脂組成物は、その効果が損なわれない限りにおいて、上記有機リン酸化合物以外の難燃剤(以下、便宜的に「その他の難燃剤」という。)をさらに含有してもよい。その他の難燃剤としては、例えば当該有機リン酸化合物以外のリン系難燃剤、臭素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機粒子系難燃剤などが挙げられる。これらの中でも、耐溶剤性向上の観点から、下記一般式(I)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0051】
【化2】



一般式(I)中、Arは、置換もしくは未置換のアリーレン基、置換もしくは未置換のビフェニレン基、又は、置換もしくは未置換のビスフェノール型アリーレン基を表し、Ar及びArはそれぞれ独立に、置換もしくは未置換のアリール基を表し、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10の置換もしくは未置換のアルキル基、又は、置換もしくは未置換のアリール基を表す。
【0052】
このような化合物の具体例としては、下記構造式(I−1)で表されるPX−200(大八化学(株)製)や下記構造式(I−2)で表されるCR−741(大八化学(株)製)が挙げられる。
【0053】
【化3】



【0054】
【化4】



【0055】
難燃性と機械的強度との両立の観点からは、その他の難燃剤の含有量は、樹脂組成物全量を基準として、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。また、その他の難燃剤の含有量は、有機リン酸化合物を基準として5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0056】
本実施形態に係る樹脂組成物は、脂肪族ポリエステルと第2の高分子化合物とリン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物とからなるものであってもよいが、機械的強度と難燃性とをより高水準で両立でき、特に、耐衝撃強度を一層向上させることができることから、コアとシェルとのコアシェル構造を有するエラストマー、シェルを有さない構造のエラストマー、側鎖を有する分岐構造のエラストマー等のエラストマー(以下、総称して単に「エラストマー」という場合もある。)をさらに含有することが好ましい。コアシェル構造を有するエラストマーのコアとしては、ブタジエン、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。またシェルとしては、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、ポリシロキサン等が挙げられる。これらは脂肪族ポリエステルおよび第2の高分子化合物の種類に応じて適宜選定することができる。コアシェル構造を有するエラストマーにおけるコアの修飾は、グラフト重合により行ってもよく、コアを、シェルの材料を溶剤に溶解させた溶液に浸漬させることにより行ってもよい。
【0057】
なお、本実施形態に係る樹脂組成物にエラストマーを配合することにより上記の効果が得られるのは、本発明に係るリン含有量の大きい有機リン酸化合物が分散助剤としても機能し、エラストマーがより均一に分散することでエラストマーによる耐衝撃強度の向上効果が有効に発現されたためと本発明者らは考えている。
【0058】
エラストマーの平均粒径は、好ましくは0.5μm以上50μm以下、より好ましくは2μm以上20μm以下である。エラストマーの平均粒径が0.5μ未満であると耐衝撃強度の向上効果が不十分となる傾向にあり、また、50μmを超えると樹脂組成物中でのエラストマーの分散性が低下する傾向にあり、エラストマーを樹脂組成物に含有させたことで却って耐衝撃強度が低下する場合がある。
【0059】
エラストマーは、例えば、シリコーン・アクリルゴム系である「METABLEN S−2001」、「METABLEN SRK200」、「METABLEN SX−005」(以上、三菱レイヨン社製、商品名)、アクリルゴム系である「METABLEN W−450A」(三菱レイヨン社製、商品名)、メタクリル酸ブタジエンスチレン系である「METABLEN C−223A」、「METABLEN C−215A」、「METABLEN C−202」、「METABLENE 901」(三菱レイヨン社製、商品名)、スチレン・ブタジエン系である「JSR SL552」、「JSR 574」(JSR社製、商品名)等として商業的に入手可能である。
【0060】
本実施形態に係る樹脂組成物においては、難燃性と機械的強度(特に耐衝撃強度)とをより高水準で両立させる観点から、ブタジエンからなるコアと、アクリルからなるシェルとのコアシェル構造を有するもの、シリコーンゴムからなるコアと、アクリルからなるシェルとのコアシェル構造を有するものが好ましく、樹脂組成物中における界面での剥がれ、それに由来する割れの抑制の点で、ブタジエンからなるコアと、アクリルからなるシェルとのコアシェル構造を有するものがより好ましく用いられる。ブタジエンからなるコアと、アクリルからなるシェルとのコアシェル構造を有するエラストマーとしては、脂肪族ポリエステル、第2の高分子化合物、リン含有量が20%以上である有機リン酸化合物のいずれとも化学的結合を形成しやすく、コアとシェルとの密着性が強い点で、アクリルグラフトブタジエンゴムが好ましい。
【0061】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤、酸化防止剤、強化剤、相溶化剤、耐候剤、強化剤、耐加水分解剤等の添加剤、触媒などをさらに含有することができる。これらの添加剤および触媒の含有量は、樹脂成形体全量を基準として、それぞれ10質量%以下であることが好ましい。
【0062】
上記充填剤のうち好ましいものとしては、アスペクト比が3以上20以下である充填剤が挙げられる。具体的にはアスペクト比が3以上20以下であるケナフ、竹繊維、マイカ、胡桃殻、コーヒー殻などの天然充填剤が好適である。アスペクト比が3以上20以下である充填剤を用いると、機械的強度と難燃性とを両立したまま、ロックウェル硬度、面衝撃強度を向上させることができる。これは、第2の高分子化合物の重量平均分子量が脂肪族ポリエステルの重量平均分子量よりも小さい場合に、アスペクト比が3以上20以下である充填剤が脂肪族ポリエステルを結晶化させ、針状の結晶化物を第2の高分子化合物が包み込むためであると本発明者らは推察する。
【0063】
上記充填剤のうち他の好ましいものとしては、カーボンナノチューブおよびフラーレンから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらカーボンナノチューブ、フラーレンを用いると、機械的強度と難燃性とを両立したまま、耐加水分解性を向上させることができる。これは、カーボンナノチューブ、フラーレンが脂肪族ポリエステル、第2の高分子化合物、有機リン酸化合物の末端基と反応するためではないかと本発明者らは推察する。
【0064】
本実施形態に係る樹脂組成物は、機械的強度と難燃性とをより高水準で両立し、特に耐衝撃強度を一層向上させる観点から、耐加水分解剤を含有することが好ましい。耐加水分解剤としては、樹脂組成物中の活性水素に対して反応性を有する化合物が挙げられ、具体的には、カルボジイミド化合物、ジイソシアネートやトリイソシアネートなどのイソシアネート化合物、ヒドロキシ化合物やジヒドロキシ化合物などの多官能ヒドロキシ化合物、ジカルボン酸、トリカルボン酸などの多官能カルボン酸及びそのエステル誘導体、ジアミンやトリアミンなどの多官能アミン化合物、並びにオキソゾリン系化合物などが挙げられる。これらの中でも、カルボジイミド化合物及びイソシアネート化合物が耐湿熱特性向上の点で好ましい。更に、カルボジイミド化合物は、脂肪族ポリエステルなどの樹脂と溶融混練が可能であり、少量の添加で十分な加水分解防止効果が得られるという点で好ましい。
【0065】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂成形体としたときにシャルピー耐衝撃強度が2.8kJ/m以上となるものが好ましく、6kJ/m以上となるものがより好ましい。なお、ここでいうシャルピー耐衝撃強度とは、ISO−179の規格に準拠した方法で求められたものを意味する。シャルピー耐衝撃強度が3kJ/m以上となる本実施形態に係る樹脂組成物は、特に、電子機器の筐体などに用いられる樹脂成形体を形成する場合に好適である。
【0066】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂成形体としたときに曲げ弾性率が1500MPa以上3000MPa以下となるものが好ましい。なお、ここでいう曲げ弾性率とは、ISO−178の規格に準拠した方法で求められたものを意味する。曲げ弾性率が上記範囲内となる本実施形態に係る樹脂組成物は、特に、スナップフィット部を有するカバーなどに用いられる樹脂成形体を形成する場合に好適である。
【0067】
(樹脂成形体)
本発明の第1実施形態に係る樹脂成形体は、上述した本実施形態に係る樹脂組成物を含有するものである。これにより、本実施形態の樹脂成形体は、リン系難燃剤を含有する場合であっても、本構成を有しない樹脂成形体と比較して、機械的強度と難燃性とを高水準で両立することが可能となる。このような効果が得られることは、リン系難燃剤が脂肪族ポリエステル樹脂の加水分解の原因となり得るため、機械的強度が求められる用途には必ずしも適していないと考えられていることを鑑みれば、極めて予想外の効果といえる。
【0068】
また、本発明の第2の実施形態に係る樹脂成形体は、樹脂成形体中における脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の分子量分布が下記式(1)で表される条件を満たすものである。
Mw(1)/Mn(1)≧Mw(2)/Mn(2) (1)
[式(1)中、Mw(1)及びMn(1)はそれぞれ前記脂肪族ポリエステルの重量平均分子量及び数平均分子量を示し、Mw(2)及びMn(2)はそれぞれ前記第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量を示す。]
【0069】
また、本発明の第2の実施形態に係る樹脂成形体は、樹脂成形体中における第2の高分子化合物の分子量分布が下記式(2)で表される条件を満たすものであることが好ましい。
Mw(2)/Mn(2)≦2.5 (2)
[式(2)中、Mw(2)及びMn(2)はそれぞれ前記第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量を示す。]
【0070】
脂肪族ポリエステルとしては、特に制限されないが、例えばポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリ乳酸、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸などが挙げられる。これらの脂肪族ポリエステルの中でも、難燃性と機械的強度(特に耐衝撃強度)とのバランスの観点から、ポリ乳酸が好ましい。これらの脂肪族ポリエステルは1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの脂肪族ポリエステルの2種以上の共重合体を用いてもよい。
【0071】
脂肪族ポリエステルの重量平均分子量Mw(1)と数平均分子量Mn(1)との比Mw(1)/Mn(1)は、上記式(1)を満たす限り特に制限されないが、好ましくは1.7以上4.0以下、より好ましくは2.1以上3.5以下である。また、脂肪族ポリエステルの重量平均分子量Mw(1)は、好ましくは5000以上200000以下、より好ましくは10000以上120000以下である。また、脂肪族ポリエステルの数平均分子量Mn(1)は、成形性と機械的強度の点から、好ましくは3000以上100000以下、より好ましくは5000以上70000以下である。脂肪族ポリエステルの重量平均分子量Mw(1)及び数平均分子量Mn(1)がそれぞれ上記下限値未満であると耐衝撃強度が不十分となる傾向にあり、また、上記上限値を越えると成形性が不十分となる傾向にある。
【0072】
脂肪族ポリエステルの含有量は特に制限されないが、樹脂成形体全量を基準として、好ましくは20質量%以上80質量%以下、より好ましくは30質量%以上70質量%以下である。脂肪族ポリエステルの含有量が20質量%未満であるとリサイクル性が低下し、環境負荷が大きくなる傾向にあり、また、前記上限値を超えると機械的強度や耐熱性が不十分となる傾向にある。
【0073】
また、脂肪族ポリエステル以外の第2の高分子化合物としては、その重量平均分子量及び数平均分子量が上記式(1)で表される条件を満たせば特に制限されないが、例えばポリカーボネート、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリポロピレン、ポリエチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)などが挙げられる。これらの中でも、より高い耐衝撃強度向上効果が得られることから、ポリカーボネート及びABS樹脂が好ましい。これらの第2の高分子化合物は1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの高分子化合物の2種以上の共重合体を第2の高分子化合物として用いることもできる。
【0074】
また、第2の高分子化合物の重量平均分子量Mw(2)と数平均分子量Mn(2)との比Mw(2)/Mn(2)は、難燃性と機械的強度(特に耐衝撃強度)とのバランスの観点から、上述の通り、樹脂成形体中において2.5以下であることが好ましく、より好ましくは1.5以上2.5以下、更により好ましくは1.7以上2.3以下である。なお、樹脂成形体が脂肪族ポリエステル以外の高分子化合物の2種以上を含有する場合、脂肪族ポリエステル以外の高分子化合物の少なくとも1種が上記式(1)、好ましくは上記式(1)及び(2)で表される条件を満たせば、残りの高分子化合物は必ずしも上記式(1)及び(2)で表される条件を満たさなくてもよい。しかしながら、難燃性と機械的強度(特に耐衝撃強度)とをより高水準でバランスよく両立できることから、脂肪族ポリエステル以外の高分子化合物の全てが上記式(1)で表される条件を満たすことが好ましく、上記式(1)及び(2)で表される条件を満たすことがより好ましい。
【0075】
また、第2の高分子化合物の重量平均分子量Mw(2)は、好ましくは5000以上100000以下、より好ましくは10000以上80000以下である。また、第2の高分子化合物の数平均分子量Mn(2)は、好ましくは2500以上40000以下、より好ましくは3000以上30000以下がより好ましい。第2の高分子化合物の重量平均分子量Mw(2)及び数平均分子量Mn(2)がそれぞれ上記下限値未満であると耐衝撃強度が不十分となる傾向にあり、また、上記上限値を越えると成形性が不十分となる傾向にある。
【0076】
第2の高分子化合物の含有量は、樹脂成形体全量を基準として、好ましくは10質量%以上70質量%以下、より好ましくは20質量%以上50質量%以下である。脂肪族ポリエステルの含有量が前記下限値未満であると耐熱性が低下する傾向にあり、また、前記上限値を超えると成形温度が高くなり、成形体の機械的強度が低下する傾向にある。
【0077】
また、本実施形態において、樹脂成形体中における脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量は、樹脂成形体を液体窒素雰囲気下で冷却してその表面から測定用試料を削り取り、測定用試料を重水素化クロロホルムに0.1質量%の濃度で溶解させ、ゲルパーミッションクロマトグラフにて、分離された脂肪族ポリエステル又は第2の高分子化合物それぞれについて測定した重量平均分子量及び数平均分子量を意味する。また、本発明では、ゲルパーミッションクロマトグラフとして、東ソー社製HLC−8220GPCを用いている。
【0078】
また、本実施形態に係る有機リン酸化合物におけるリンの含有量は、20質量%以上であることが必要であるが、好ましくは27質量%以上、より好ましくは29質量%以下である。有機リン酸化合物におけるリンの含有量が20質量%未満であると、難燃性と機械的強度(特に耐衝撃強度)との両立が困難となる傾向にある。また、有機リン酸化合物におけるリンの含有量は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。有機リン酸化合物におけるリンの含有量が50質量%を超えると、混練や成形の際にリン酸が揮発して脂肪族ポリエステルや第2の高分子化合物の分解を促進し、機械的強度が低下しやすくなる傾向にある。ここで、有機リン酸化合物におけるリンの含有量とは、有機リン酸化合物全体の質量に対して占めるリン元素の質量比を意味する。リンの含有量は、例えば蛍光X線等を用いて測定することができる。
【0079】
また、有機リン酸化合物の含有量は、樹脂成形体中のリンの含有量が、樹脂成形体全量を基準として、1質量%以上となるように選定することが好ましい。樹脂成形体中のリンの含有量が1質量%未満であると、難燃性と機械的強度(特に耐衝撃強度)との両立が困難となる傾向にある。また、樹脂成形体中のリンの含有量は20質量%以下となるように選定することが好ましい。樹脂成形体中のリンの含有量が20質量%を越えると、成形する工程はもちろん、使用環境の温度が高くなった時に、リンを含有するガスが発生し、場合によっては発火してしまうことがある。
【0080】
なお、本発明の第2の実施形態に係る樹脂成形体は、その効果が損なわれない限りにおいて、有機リン酸化合物以外の難燃剤(以下、便宜的に「その他の難燃剤」という。)を更に含有してもよい。その他の難燃剤としては、例えば当該有機リン酸化合物以外のリン系難燃剤、臭素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機粒子系難燃剤などが挙げられる。難燃性と機械的強度との両立の観点からは、その他の難燃剤の含有量は、樹脂成形体全量を基準として、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、その他の難燃剤を含有しないことが特に好ましい。
【0081】
本発明の第2の実施形態に係る樹脂成形体は、脂肪族ポリエステルと第2の高分子化合物とリン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物とのみからなるものであってもよいが、機械的強度と難燃性とをより高水準で両立でき、特に、耐衝撃強度を一層向上させることができることから、コアとシェルとのコアシェル構造を有するエラストマー、シェルを有さない構造のエラストマー、側鎖を有する分岐構造のエラストマー等のエラストマー(以下、総称して単に「エラストマー」という場合もある。)を更に含有することが好ましい。コアシェル構造を有するエラストマーのコアとしては、ブタジエン、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、酢酸ビニル等が挙げられる。またシェルとしては、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、ポリシロキサン等が挙げられる。これらは脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の種類に応じて適宜選定することができる。コアシェル構造を有するエラストマーにおけるコアの修飾は、グラフト重合により行ってもよく、コアを、シェルの材料を溶剤に溶解させた溶液に浸漬させることにより行ってもよい。エラストマーの平均粒径は、好ましくは0.5μm以上50μm以下、より好ましくは2μm以上20μm以下である。エラストマーの平均粒径が0.5μ未満であると耐衝撃強度の向上効果が不十分となる傾向にあり、また、50μmを超えると樹脂成形体中でのエラストマーの分散性が低下する傾向にあり、エラストマーを樹脂成形体に含有させたことで却って耐衝撃強度が低下する場合がある。
【0082】
また、本発明の第2の実施形態に係る樹脂成形体は、必要に応じて、充填剤、酸化防止剤、強化剤、相溶化剤、耐候剤、強化剤、加水分解防止剤等の添加剤、触媒などを更に含有することができる。これらの添加剤及び触媒の含有量は、樹脂成形体全量を基準として、それぞれ10質量%以下であることが好ましい。添加剤等の詳細については、樹脂組成物で説明した内容と同様である。
【0083】
本発明の第1及び第2の実施形態に係る樹脂成形体は、幅広い用途に適用することができる。本発明の樹脂成形体の用途としては、具体的には、電気・電子部品やその筐体、自動車部品、壁紙や外装材などの建材、食器、シート、緩衝材、繊維などが挙げられる。中でも、高い耐衝撃強度と難燃性、優れた耐加水分解性を要求され、使用量が多く低環境負荷効果も高い電子機器部品、筐体に好適である。ここで、筐体とは家電製品、容器、電子機器などの筐体を意味し、特に電子機器の筐体は優れた耐候性が要求されるため好適である。
【0084】
本実施形態に係る樹脂成形体を用いて筐体を構成する場合、筐体の全部が本実施形態に係る樹脂成形体で構成されていてもよいが、面衝撃強度等の性能が求められる部分が本実施形態に係る樹脂成形体によって構成されていることが好ましい。この場合、当該部分以外の部分は本実施形態に係る樹脂成形体以外の樹脂成形体で構成されていてもよい。具体的には、プリンター、複写機、ファックスなどの外装におけるフロントカバー、リアカバー、給紙トレイ、排紙トレイ、プラテンなどは本実施形態に係る樹脂成形体で構成されていることが好ましい。一方、内装カバー、トナーカートリッジ、プロセスカートリッジなどは、本実施形態に係る樹脂成形体又はそれ以外の樹脂成形体のいずれで構成されていてもよい。
【0085】
図1は、本実施形態に係る樹脂成形体を用いて構成された筐体及び部品を備える画像形成装置の一例を示す図であり、画像形成装置を前側から見た外観斜視図である。図1の画像形成装置100は、本体装置110の前面にフロントカバー120a,120bを備えている。これらのフロントカバー120a,120bは、操作者が装置内を操作できるよう開閉可能となっている。これにより、操作者は、トナーが消耗したときにトナーを補充したり、消耗したプロセスカートリッジを交換したり、装置内で紙詰まりが発生したときに詰まった用紙を取り除いたりすることができる。図1には、フロントカバー120a,120bが開かれた状態の装置が示されている。
【0086】
本体装置110の上面には、用紙サイズや部数等の画像形成に関わる諸条件が操作者からの操作によって入力される操作パネル130、及び、読み取られる原稿が配置されるコピーガラス132が設けられている。また、本体装置110は、その上部に、コピーガラス132上に原稿を自動的に搬送することができる自動原稿搬送装置134を備えている。更に、本体装置110は、コピーガラス132上に配置された原稿画像を走査して、その原稿画像を表わす画像データを得る画像読取装置を備えている。この画像読取装置によって得られた画像データは、制御部を介して画像形成ユニットに送られる。なお、画像読取装置及び制御部は、本体装置110の一部を構成する筐体150の内部に収容されている。また、画像形成ユニットは、着脱可能なプロセスカートリッジ142として筐体150に備えられている。プロセスカートリッジ142の着脱は、操作レバー144を回すことによって可能となる。
【0087】
本体装置110の筐体150には、トナー収容部146が取り付けられており、トナー供給口148からトナーを補充することができる。トナー収容部146に収容されたトナーは現像装置に供給されるようになっている。
【0088】
一方、本体装置110の下部には、用紙収納カセット140a,140b,140cが備えられている。また、本体装置110には、一対のローラで構成される搬送ローラが装置内に複数個配列されることによって、用紙収納カセットの用紙が上部にある画像形成ユニットまで搬送される搬送経路が形成されている。なお、各用紙収納カセットの用紙は、搬送経路の端部近傍に配置された用紙取出し機構によって1枚ずつ取り出されて、搬送経路へと送り出される。また、本体装置110の側面には、手差しの用紙トレイ136が備えられており、ここからも用紙を供給することができる。
【0089】
画像形成ユニットによって画像が形成された用紙は、本体装置110の一部を構成する筐体152によって支持された相互に当接する2個の定着ロールの間に順次移送された後、本体装置110の外部に排紙される。本体装置110には、用紙トレイ136が設けられている側と反対側に排出トレイ138が複数備えられており、これらのトレイに画像形成後の用紙が排出される。
【0090】
画像形成装置100において、フロントカバー120a,120bは、開閉時の応力及び衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、プロセスカートリッジ142は、着脱の衝撃、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。また、筐体150及び筐体152は、画像形成時の振動、画像形成装置内で発生する熱などの負荷を多く受ける。そのため、本実施形態に係る樹脂成形体は、画像形成装置100のフロントカバー120a,120b、プロセスカートリッジ142の外装、筐体150、及び筐体152として用いられるのが好適である。
【0091】
(樹脂成形体の製造方法)
本発明の第1の実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、脂肪族ポリエステルと、該脂肪族ポリエステル以外の第2の高分子化合物と、リン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物と、を含有する樹脂組成物を、該樹脂組成物の温度が220℃以下となる条件下で混練する第1の工程と、第1の工程で得られた混練体を成形し、樹脂成形体を得る第2の工程と、を備える
【0092】
また、本発明の第2の実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、前記第1の工程で得られた混練体を成形し、樹脂成形体中における脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の分子量分布が下記式(1)で表される条件を満たす樹脂成形体を得る第2の工程と、を備える。
Mw(1)/Mn(1)≧Mw(2)/Mn(2) (1)
[式(1)中、Mw(1)及びMn(1)はそれぞれ脂肪族ポリエステルの重量平均分子量及び数平均分子量を示し、Mw(2)及びMn(2)はそれぞれ第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量を示す。]
【0093】
また、本発明の第2の実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、前記第2の工程において、樹脂成形体中における第2の高分子化合物の分子量分布が下記式(2)で表される条件を満たすものであることが好ましい。
Mw(2)/Mn(2)≦2.5 (2)
[式(2)中、Mw(2)及びMn(2)はそれぞれ前記第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量を示す。]
【0094】
第2の実施形態に係る製造方法において、脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量は、第1の工程及び第2の工程を経ることで変化し得る。そのため、樹脂組成物に含まれる脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量は、第1の工程における混練条件及び第2の工程における成形条件等に応じて適宜選定することが好ましいが、混練前の樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量は必ずしも上記式(1)及び(2)で表される条件を満たしていなくてもよい。
【0095】
また、第1の実施形態及び第2の実施形態に係る製造方法において、混練前の樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物については、その平均粒径が1mm以上2mm以下の範囲となるように、混練の前に予め粗く粉砕しておくことが好ましい。脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の平均粒径が2mmを超えると混練機内でいわゆるスクリューの噛み込みが起こってトルクが増大する傾向にある。また、脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の平均粒径が1mm未満の場合には、増粘しやすくなる傾向にある。
【0096】
また、目的の樹脂成形体がブタジエンからなるコアとアクリルからなるシェルとのコアシェル構造を有するエラストマー、あるいは更に上述した添加剤等を含有するものである場合には、第1の工程において、混練に供される樹脂組成物にはこれらの成分を配合することができる。
【0097】
第1の工程において、混練時の該樹脂組成物の温度は、上述の通り220℃以下であり、好ましくは80℃以上100℃以下である。かかる温度条件下で樹脂組成物を混練すると、第2の工程における成形時の混練体の温度を220以下としても、混練体の成形機内での流動性を十分に向上させることができる。かかる混練体の流動性向上効果は、脂肪族ポリエステルの融点が第2の高分子化合物の融点よりも低いため、融解した脂肪族ポリエステルにより第2の高分子化合物の粒子表面が被覆されて複合粒子が形成されることに起因していると推察される。
【0098】
また、第2の工程における成形方法としては、射出成形、押し出し成形、ブロー成形、熱プレス成形などが挙げられるが、これらの中でも射出成形が好適である。
【0099】
本実施形態に係る樹脂成形体を射出成形により製造する場合、第1の工程で得られる混練体をコンパウンドとして射出成形機に投与してもよく、又は、第1の工程における混練後に混練体をそのまま射出成形してもよい。
【0100】
第2の実施形態に係る製造方法において、第2の工程における成形条件は、得られる樹脂成形体中の脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の分子量分布が上記式(1)、好ましくは上記式(1)及び(2)で表される条件を満たせば特に制限されないが、例えば射出成形の場合、射出成形機内における混練体の温度が220℃以下、より好ましくは170℃以上220℃以下となる条件下で射出成形することが好ましい。射出成形機内における混練体の温度を制御する際には、射出成形機の出口付近における温度を指標とすることが好ましい。また、シリンダ温度は150℃以上240℃以下、金型温度は20℃以上60℃以下、冷却時間は10秒以上120秒以下がそれぞれ好ましい。また、第1の実施形態に係る製造方法においても、第2の工程における成形条件は、上記条件が好ましい。
【0101】
ここで、混練体の温度が220℃以下となるように射出成形できること、並びにそのような射出成形によって得られる樹脂成形体において難燃性と機械的強度とを両立できることは、極めて予想外の効果であって樹脂成形体の製造上非常に有用なものである。
【0102】
すなわち、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルは、単独であれば220℃以下で射出成形することが可能であるが、脂肪族ポリエステルにポリカーボネート等を混合すると、流動性が著しく低下して成形機の回転トルクが急激に上昇し、また、流動性不足により樹脂材料が金型内に十分に行き渡らないのが通常である。そのため、樹脂材料の流動性を確保するために比較的高温(例えば240℃以上)で成形する必要があるが、樹脂組成物が有機リン酸化合物を更に含有するものである場合には、高温での射出成形によって有機リン酸化合物が分解し、脂肪族ポリエステルの加水分解が促進されてしまう。そのため、得られる樹脂成形体において難燃性と機械的強度を両立することは非常に困難である。
【0103】
これに対して本実施形態によれば、射出成形機内での混練体の流動性を十分に確保することができ、その一方で、有機リン酸化合物の分解及び脂肪族ポリエステルの加水分解を十分に抑制することができるため、得られる樹脂成形体において難燃性と機械的強度を両立することが可能となる。このような優れた効果が得られる理由としては、(i)第1の工程において樹脂組成物の温度が220℃以下となるように混練することによる混練体の流動性の向上効果、(ii)リンの含有量が20質量%以上50質量%以下の有機リン酸化合物の滑剤としての機能などが考えられる。また、上述したように、(iii)混練前の樹脂組成物中の脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物について、その平均粒径が1mm以上2mm以下の範囲となるように、混練の前に予め粗く粉砕する場合には、かかる粉砕の寄与も考えられる。
【実施例】
【0104】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0105】
(実施例A−1)
脂肪族ポリエステルとしてのポリ乳酸(レイシアH−100、三井化学社製、Mw/Mn=2.6)32.2質量部と、第2の高分子化合物としてのポリカーボネート(パンライトL1225Y、帝人化成社製、Mw/Mn=2.1)48.3質量部と、ポリリン酸アンモニウム(エクソリット AP422、クラリアント社製、リン含有量:28質量%、Mw=120000)10.0質量%と、ブタジエンからなるコアとアクリルからなるシェルとのコアシェル構造を有するエラストマー(メタブレンC233A、三菱レイヨン社製)7.5質量部と、耐候剤(アデカスタブLA−29、ADEKA社製)1.0質量部と、耐加水分解剤(カルボジライトLA−1、日東紡社製)1.0質量部と、を含む樹脂組成物を、2軸混練装置(ラボプラストミル、東洋精機社製)にて、樹脂組成物の温度が220℃となるようにして混練し、混練体のコンパウンドを調製した。次に、得られたコンパウンドを用い、射出成形装置(日精樹脂製、NEX150)にて、シリンダ温度200℃、金型温度60℃の条件にて射出成形を実施し、樹脂成形体として、ISO多目的ダンベル試験片(ISO527)及びUL94試験片(厚さ2mm)を得た。射出成形時の射出成形機出口付近における混練体の温度は220℃であった。得られた樹脂成形体中における脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の分子量分布を表1に示す。
【0106】
次に、得られたISO多目的ダンベル試験片を用いて、ノッチ付シャルピー耐衝撃強度を耐衝撃強度測定装置(東洋精機製、DG−C)にて、曲げ強度をインストロン(東洋精機製、ストログラフV50)にて、それぞれ測定した。また、得られたUL94試験片を用いて、UL−94に準拠した方法でUL−V燃焼テストを実施した。得られた結果を表1に示す。
【0107】
(実施例A−2〜A−16、比較例A−1〜A−2)
実施例A−2〜A−16及び比較例A−1〜A−2においては、それぞれ混練に供する樹脂組成物の組成を表1〜5に示す組成に変更したこと、又は、射出成形時の混練体の温度を表1〜5に示す温度に変更したこと以外は実施例A−1と同様にして、混練及び射出成形を実施し、樹脂成形体として、ISO多目的ダンベル試験片(ISO527)及びUL94試験片(厚さ2mm)を得た。得られた各樹脂成形体中における脂肪族ポリエステル及び第2の高分子化合物の分子量分布を表1〜5に示す。また、得られた各ISO多目的ダンベルを用いて、ノッチ付シャルピー耐衝撃強度を耐衝撃強度測定装置(東洋精機製、DG−C)にて測定した。また、得られた各UL94試験片を用いて、UL−94に準拠した方法でUL−V燃焼テストを実施した。得られた結果を表1〜5に示す。なお、実施例A−8で用いた脂肪族ポリエステルとしてのポリヒドロキシ酪酸(バイオポール、モンサント社製)のMw/Mnは、混練前において2.8であった。また、実施例A−9で用いた第2の高分子化合物としてのABS樹脂(クララスチックGA704、日本A&L社製)のMw/Mnは混練前において2.4であった。また、実施例A−13では、ポリリン酸アンモニウムとして、「ホストフラム AP422」(クラリアント社製、リン含有量:29質量%、Mw=45000)を用いた。
【0108】
【表1】



【0109】
【表2】



【0110】
【表3】



【0111】
【表4】



【0112】
【表5】



【0113】
また、実施例A−1と実施例A−16について、耐溶剤性のテストを実施した。具体的には、上記ISO多目的ダンベル試験片を用い、表6に示す3種類の溶剤及びオイルを塗布し、温度25℃、湿度55%の環境下において、試験片の両端を固定した上で試験片の中心部分を、溶剤を塗布した面とは反対の面から加圧して0.5%の歪みを与え、20時間後にひび割れの有無を評価した。結果を表6に示す。
【0114】
【表6】



【0115】
(実施例B−1)
脂肪族ポリエステルとしてのポリ乳酸(テラマックTE−4000、ユニチカ社製)35.5質量部と、第2の高分子化合物としてのポリカーボネート(パンライトL1225Y、帝人化成社製)54.0質量部と、有機リン酸化合物としての下記式(A)で表されるポリリン酸アンモニウム(繰り返し単位数n=800、Mw=90000、リン含有量:29質量%)10.0質量部と、耐加水分解剤(カルボジライトLA−1、日東紡社製)0.5質量部と、を含む樹脂組成物を、2軸混練装置(ラボプラストミル、東洋精機社製)にて、樹脂組成物の温度が210℃となるようにして混練し、混練体のコンパウンドを調製した。
−[(HPO)NH− …(A)
【0116】
次に、得られたコンパウンドを用い、射出成形装置(日精樹脂製、NEX150)にて、シリンダ温度210℃、金型温度40℃の条件にて射出成形を実施し、樹脂成形体として、ISO多目的ダンベル試験片(ISO527)及びUL94試験片(厚さ2mm)を得た。射出成形時の射出成形機出口付近における混練体の温度は210℃であった。
【0117】
次に、得られたISO多目的ダンベルを用いて、ノッチ付シャルピー耐衝撃強度を耐衝撃強度測定装置(東洋精機製、DG−C)にて、曲げ弾性率をインストロン(東洋精機製、ストログラフV50)にて、それぞれ測定した。また、得られたUL94試験片を用いて、UL−94に準拠した方法でUL−V燃焼テストを実施した。得られた結果を表7に示す。
【0118】
(実施例B−2〜B−12、比較例B−1〜B−3)
実施例B−2〜B−12及び比較例B−1〜B−3においては、それぞれ混練に供する樹脂組成物の組成を表7〜10に示す組成に変更したこと、又は、射出成形時の混練体の温度を表7〜10に示す温度に変更したこと以外は実施例B−1と同様にして、混練及び射出成形を実施し、樹脂成形体として、ISO多目的ダンベル試験片(ISO527)及びUL94試験片(厚さ2mm)を得た。得られた各ISO多目的ダンベルを用いて、ノッチ付シャルピー耐衝撃強度を耐衝撃強度測定装置(東洋精機製、DG−C)にて、曲げ強度をインストロン(東洋精機製、ストログラフV50)にて、それぞれ測定した。また、得られた各UL94試験片を用いて、UL−94に準拠した方法でUL−V燃焼テストを実施した。得られた結果を表7〜10に示す。
【0119】
なお、実施例B−2で用いられた有機リン酸化合物としてのポリリン酸アンモニウムは、上記式(A)における繰り返し単位数nが1500であり、分子量が145000、リン含有量が28質量%のものである。また、実施例B−3で用いられた有機リン酸化合物としてのポリリン酸アンモニウムは、下記式(B)で表わされ、繰り返し単位数m=1120、Mw=110000、リン含有量:27質量%のものである。
−[(CHPO)NH− …(B)
【0120】
また、実施例B−11で用いられた有機リン酸化合物としてのポリリン酸アンモニウムは、上記式(A)における繰り返し単位数nが720であり、分子量が70000、リン含有量が25質量%のものである。また、実施例B−12で用いられた有機リン酸化合物としてのポリリン酸アンモニウムは、上記式(A)における繰り返し単位数nが1500であり、分子量が160000、リン含有量が20質量%のものである。
【0121】
【表7】



【0122】
【表8】



【0123】
【表9】



【0124】
【表10】



【0125】
(実施例C−1)
カーボンナノチューブ(フロンティアカーボン社製)2.0質量部を更に添加した以外は実施例A−1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びUL94試験片を得た。
【0126】
次に、得られたISO多目的ダンベル試験片を用いて、ISO178に準拠した方法で曲げ試験機(東洋精機製作所社製、ストログラフVE)にて、温度25℃、湿度55%における曲げ破断歪みを測定した。また、温度65℃、湿度85%の環境下に1000時間ISO多目的ダンベル試験片を放置した後、上述したものと同様の方法にて曲げ破断歪みを測定した。
【0127】
また、得られたISO多目的ダンベル試験片を用いて、曲げ破断歪みの測定と同様の条件にて、直径50mm、重さ500gの硬球を1300mmの高さから試験片に落下させ、ひびの発生の有無を観察する鋼球落下試験を行った。さらに、この試験片を破砕、再ペレット化し、上述と同条件で再び試験片を作製し、温度25℃、湿度55%にて鋼球落下試験を行い、リサイクル性を評価した。
【0128】
また、得られたUL94試験片を用いて、UL−94に準拠した方法でUL−V燃焼テストを実施した。得られた結果を表11に示す。なお、表11には参考のため実施例A−1についての結果も合わせて示す。
【0129】
(実施例C−2)
実施例C−2においては、カーボンナノチューブ(フロンティアカーボン社製)5.0質量部を更に添加した以外は実施例A−1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びUL94試験片を得た。得られたISO多目的ダンベル試験片及びUL94試験片を用いて、実施例C−1と同様に評価を実施した。得られた結果を表11に示す。
【0130】
(実施例C−3)
実施例C−2においては、フラーレン(C60)(フロンティアカーボン社製)5.0質量部を更に添加した以外は実施例A−1と同様にして、ISO多目的ダンベル試験片及びUL94試験片を得た。得られたISO多目的ダンベル試験片及びUL94試験片を用いて、実施例C−1と同様に評価を実施した。得られた結果を表11に示す。
【0131】
【表11】



【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の樹脂成形体の一実施形態に係る筐体及び部品を備える画像形成装置を示す外観斜視図である。
【符号の説明】
【0133】
100…画像形成装置、110…本体装置、120a、120b…フロントカバー、130…操作パネル、132…コピーガラス、134…自動原稿搬送装置、136…用紙トレイ、140a〜140c…用紙収納カセット、142…プロセスカートリッジ、144…操作レバー、146…トナー収容部、148…トナー供給口、150、152…筐体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルと、該脂肪族ポリエステル以外の第2の高分子化合物と、リン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物と、を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機リン酸化合物の分子量が80000以上150000以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機リン酸化合物がポリリン酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリリン酸アンモニウムの繰り返し単位数が800以上であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
エラストマーを更に含有することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記エラストマーが、ブタジエンからなるコアと、アクリルからなるシェルとのコアシェル構造を有するものであることを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記第2の高分子化合物がポリカーボネート及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
下記一般式(I)で表される化合物を更に含有することを特徴とする請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【化1】



[一般式(I)中、Arは、置換もしくは未置換のアリーレン基、置換もしくは未置換のビフェニレン基、又は、置換もしくは未置換のビスフェノール型アリーレン基を表し、Ar及びArはそれぞれ独立に、置換もしくは未置換のアリール基を表し、R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜10の置換もしくは未置換のアルキル基、又は、置換もしくは未置換のアリール基を表す。]
【請求項10】
請求項1〜9のうちのいずれか1項に記載の樹脂組成物を含有することを特徴とする樹脂成形体。
【請求項11】
樹脂成形体中における前記脂肪族ポリエステル及び前記第2の高分子化合物の分子量分布が下記式(1)で表される条件を満たすことを特徴とする請求項10に記載の樹脂成形体。
Mw(1)/Mn(1)≧Mw(2)/Mn(2) (1)
[式(1)中、Mw(1)及びMn(1)はそれぞれ前記脂肪族ポリエステルの重量平均分子量及び数平均分子量を示し、Mw(2)及びMn(2)はそれぞれ前記第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量を示す。]
【請求項12】
脂肪族ポリエステルと、該脂肪族ポリエステル以外の第2の高分子化合物と、リン含有量が20質量%以上である有機リン酸化合物と、を含有する樹脂組成物を、該樹脂組成物の温度が220℃以下となる条件下で混練する第1の工程と、
前記第1の工程で得られた混練体を成形し、樹脂成形体を得る第2の工程と、
を備えることを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
【請求項13】
前記第2の工程は、樹脂成形体中における前記脂肪族ポリエステル及び前記第2の高分子化合物の分子量分布が下記式(1)で表される条件を満たす樹脂成形体を得る工程であることを特徴とする請求項12に記載の樹脂成形体の製造方法。
Mw(1)/Mn(1)≧Mw(2)/Mn(2) (1)
[式(1)中、Mw(1)及びMn(1)はそれぞれ前記脂肪族ポリエステルの重量平均分子量及び数平均分子量を示し、Mw(2)及びMn(2)はそれぞれ前記第2の高分子化合物の重量平均分子量及び数平均分子量を示す。]
【請求項14】
前記第2の工程は射出成形機内における前記混練体の温度が220℃以下となる条件下で射出成形する工程であることを特徴とする請求項12又は13に記載の樹脂成形体の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−208335(P2008−208335A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321068(P2007−321068)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】