説明

樹脂製回転体の製造方法および成形金型

【課題】成形金型にリング状補強繊維基材を配置して樹脂製回転体を製造するにあたり、ボイド、カスレのない樹脂製回転体の製造を可能とする。
【解決手段】金属製ブッシュ3とリング状補強繊維基材2とを成形金型1に収容し、センタピン13で金属製ブッシュ3の位置決めをした状態で成形金型1を型締めし、減圧状態にした成形金型に液状樹脂を注入してリング状補強繊維基材2に浸透させ、液状樹脂を加熱硬化させて樹脂製回転体を製造する。このとき、上方から成形金型に注入した液状樹脂を金属製ブッシュとセンタピンとの間隙131を通して成形金型底面に誘導し、次いで、前記液状樹脂を金属製ブッシュと成形金型底面との間隙132において、センタピンを中心として放射状に流す。そして、リング状補強繊維基材に達した液状樹脂を、リング状補強繊維基材に下方から上方へ浸透させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形金型にリング状補強繊維基材を配置して樹脂製回転体を製造する方法に関する。また、前記方法を実施するための成形金型に関する。前記方法により得られた樹脂製回転体は、車輌用部品、産業機器用部品等に用いられる樹脂製歯車に適したものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製歯車として、リング状補強繊維基材に樹脂を含浸した樹脂製回転体に歯を加工したものが提案されている。例えば、特許文献1に開示される次のような技術である。補強繊維を束ねた糸を織った、又は編んだ筒状体を準備する。この筒状体を端部から軸方向に巻き上げてリング状補強繊維基材とする。そして、リング状補強繊維基材とその中央に位置する金属製ブッシュとを成形金型に収容する。成形金型はリング状補強繊維基材の厚み方向に開閉動作するものであり、型締めの動作によりリング状補強繊維基材を圧縮し、これにより径方向に広がったリング状補強繊維基材を金属製ブッシュの周囲に圧接してその形状になじませる。次に、液状樹脂を、全区間に亘って一様な断面積をもったランナを通過させて、型締めした成形金型に注入し、上方から下方に向かってリング状補強繊維基材に浸透させる。そして、リング状補強繊維基材に浸透させた液状樹脂を加熱硬化して金属製ブッシュをインサートとする樹脂製回転体を成形する。そして、成形した樹脂製回転体の周囲に切削加工により歯を形成する。
【0003】
また、上記の技術において、液状樹脂をリング状補強繊維基材に浸透させる際の含浸性を向上させた製造法が提案されている。例えば、特許文献2に開示される次のような技術である。液状樹脂を、ランナからゲートを経て成形空間に注入し加熱硬化させる成形金型であって、ランナに相対的に断面積の小さい絞りランナの区間を設ける。そして、当該絞りランナをゲートに開口させる。絞りランナにより液状樹脂の注入速度が速くなりすぎないように制御し、リング状補強繊維基材への含浸性を向上させ、ボイド、カスレのない樹脂製回転体を製造しようとするものである。
【0004】
【特許文献1】特開平8−156124号公報
【特許文献2】特開2004−136530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、型締めした成形金型内を減圧状態にし、ランナを通して成形金型に注入した液状樹脂を金型のパーティングラインからリング状補強繊維基材の上方に至らしめ、成形金型底面に向ってリング状補強繊維基材に浸透させている。すなわち、液状樹脂を、リング状補強繊維基材に上方から下方へ浸透させている。この方法では液状樹脂の最終到達箇所に空間がないため、行き場を失った成形空間の残存空気は、製造した樹脂製回転体の内部にボイド、カスレとして残る心配がある。
本発明が解決しようとする課題は、成形金型にリング状補強繊維基材を配置して樹脂製回転体を製造するにあたり、ボイド、カスレのない樹脂製回転体の製造を可能とすることである。また、前記方法を実施するための成形金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る方法は、次のようにして樹脂製回転体を製造する。すなわち、中央に貫通穴をあけた金属製ブッシュと金属製ブッシュの周囲に配置したリング状補強繊維基材とを成形金型に収容し、成形金型底面から突出するセンタピンを前記貫通穴に挿通して金属製ブッシュの位置決めをした状態で成形金型を型締めし、減圧状態にした成形金型に液状樹脂を注入してリング状補強繊維基材に浸透させ、液状樹脂を加熱硬化させて金属製ブッシュと樹脂を浸透させたリング状補強繊維基材とを一体化する。このとき、上方から成形金型に注入した液状樹脂を金属製ブッシュとセンタピンとの間隙を通して成形金型底面に誘導し、次いで、前記液状樹脂を金属製ブッシュと成形金型底面との間隙において、センタピンを中心として放射状に流す。そして、リング状補強繊維基材に達した液状樹脂を、リング状補強繊維基材に下方から上方へ浸透させることを特徴とする(請求項1)。
【0007】
また、本発明に係る成形金型は、中央に貫通穴をあけた金属製ブッシュと金属製ブッシュの周囲に配置したリング状補強繊維基材とを収容して、前記リング状補強繊維基材に浸透させた液状樹脂を加熱硬化させることにより、金属製ブッシュと樹脂を浸透させたリング状補強繊維基材とを一体に成形するための成形金型であって、次の(a)(b)の構成を備えることを特徴とする(請求項2)。
(a)金属製ブッシュを成形金型内に位置決めするために、金属製ブッシュの貫通穴に挿通するセンタピンを金型底面から突出させ、当該センタピンの周面に上方から金型底面に達する縦溝を複数本設ける。
(b)金型底面には、前記縦溝に繋がったランナ溝を、センタピンを中心にして放射状に複数本配置し、ランナ溝の先端は成形金型に収容されたリング状補強繊維基材に到達させる。
このとき、ランナ溝の先端の溝幅は、広がっていることが好ましい(請求項3)。また、隣り合うランナ溝の先端は、繋がっていることが好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る製造法においては、上方から成形金型に注入した液状樹脂を金属製ブッシュとセンタピンとの間隙を通して成形金型底面に誘導し、リング状補強繊維基材に達した液状樹脂をリング状補強繊維基材に下方から上方へ浸透させるようにしたので、液状樹脂の最終到達箇所は成形金型のパーティングラインとなる。これにより、成形空間の残存空気は、成形金型底面からパーティングラインへ押し遣られ、製造した樹脂製回転体の内部にボイド、カスレとして残る心配が殆どない。
【0009】
また、液状樹脂を金属製ブッシュと成形金型底面との間隙において、センタピンを中心として放射状に流すようにしたので、液状樹脂の流れのばらつきが小さくなり、リング状補強繊維基材の内部に空気が取り残される心配が殆どない。このとき、ランナ溝の先端の溝幅が広がっている形状、また、隣り合うランナ溝の先端が繋がっている形状とすることにより、各ランナ溝の液状樹脂の流れが合流し、整流された状態でリング状補強繊維基材に浸透させることができるため、液状樹脂の流れのばらつきに起因するボイド、カスレの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る製造法の説明図であり、注入成形工程の概要を示したものである。成形金型1は、上型11、下型12、センタピン13とポット14、スプルー15で構成されている。
先ず、中央に貫通穴をあけた金属製ブッシュ3と金属製ブッシュの周囲に配置したリング状補強繊維基材2とを成形金型1に収容し、成形金型底面から突出するセンタピン13を前記貫通穴に挿通して金属製ブッシュ3の位置決めをした状態で成形金型1を型締めする。この状態で成形金型1内を減圧状態にした後に液状樹脂をポット14に投入し、スプルー15を通過させて成形金型内に注入する。
【0011】
減圧状態にする手段は、まず、第1シール部材16が、上型11と下型12の摺り合せ面に当接するまで型締めをする。この時、スプルー15は閉じてあるので液状樹脂(架橋ポリアミノアミド樹脂、エポキシ樹脂等)は流入せず、第1シール部材16で取囲まれた空間が密閉される。第2シール部材17が未だ上型11と下型12のパーティングラインPLに当接していない状態で、空気吸引用通路18から成形金型1内の空気を吸引して、減圧状態にする。
その後さらに型締めを進め、第2シール部材17を上型11と下型12のパーティングラインPLに当接させ、弾性変形により密着させる。この操作により、第1シール部材16で取囲まれた内側に、第2シール部材17で取囲まれた空間がもう一つできる。この状態を保ちながら、スプルー15を開いて液状樹脂を成形金型1内に注入する。
【0012】
次に、本発明では、上方から成形金型1に注入した液状樹脂を金属製ブッシュ3とセンタピン13との間隙を通して成形金型底面に誘導し、次いで、前記液状樹脂を金属製ブッシュ3と成形金型底面との間隙において、センタピンを中心として放射状に流す。そして、リング状補強繊維基材に達した液状樹脂を、リング状補強繊維基材2に下方から上方へ浸透させる。
具体的には、例えば、センタピン13を図2に示すような形状とする。図2は、本発明の実施の形態に係る成形金型の説明図であり、(a)はセンタピンを上方からみた平面図、(b)はA−A部の断面図、(c)はB−B部の断面図を示したものである。なお、図2(b)および(c)において、金属製ブッシュ3を位置決めした状態での位置関係を破線で示してある。センタピン13には、当該センタピンの周面に上方から金型底面に達する縦溝131を複数本設ける。また、金型底面には、前記縦溝131に繋がったランナ溝132を、センタピンを中心にして放射状に複数本配置し、ランナ溝の先端は成形金型に収容されたリング状補強繊維基材2に到達させる。図2では、各ランナ溝132の先端が独立している例を示したが、このランナ溝132の先端の幅を広くしてもよい。前記先端の幅をさらに広くした結果として、図3に示すように、隣り合うランナ溝132の先端が繋がっている形状としてもよい。また、図2において、ランナ溝132の溝幅を基部から先端に向かって次第に広くしてもよく、当該先端の幅をさらに広くした結果として、図4に示すように、隣り合うランナ溝132の先端が繋がっている形状としてもよい。さらに、センタピン13の先端部を、図1に示すように、中央が高く周辺部が低い形状とすることが好ましい。これにより、スプルー15を通過した液状樹脂を成形金型1内で放射状に流れやすくでき、液状樹脂の流れのばらつきを小さくすることができる。
【0013】
そして、上方から成形金型1に注入した液状樹脂をセンタピン13の周面に上方から金型底面に達する縦溝131を通して成形金型底面に誘導し、次いで、前記縦溝131に繋がったランナ溝132において、センタピンを中心として放射状に流す。そして、リング状補強繊維基材2に達した液状樹脂を、リング状補強繊維基材2に下方から上方へ浸透させる。
【0014】
上記のように液状樹脂をリング状補強繊維基材2に下方から上方へ浸透させるようにしたので、液状樹脂の最終到達箇所は成形金型1のパーティングラインPLとなる(図1参照)。これにより、成形空間の残存空気は、成形金型底面からパーティングラインPLへ押し遣られ、製造した樹脂製回転体の内部にボイド、カスレとして残る心配が殆どない。ここで、上型11又は下型12に、リング状補強繊維基材2の位置より上方の位置で、樹脂溜り121を形成しておくことが好ましい。これにより、成形空間の残存空気を、液状樹脂とともに樹脂溜りまで確実に押し遣ることができる。
【0015】
また、液状樹脂を金属製ブッシュと成形金型底面との間隙において、センタピンを中心として放射状に流すようにしたので、液状樹脂の流れのばらつきが小さくなり、リング状補強繊維基材2の内部に空気が取り残される心配が殆どない。ここで、図3(a)に示すように、隣り合うランナ溝132の先端は、繋がっていることが好ましい。さらに、図4(a)に示すように、ランナ溝132の先端の溝幅は、広がっていることが好ましい。これにより、液状樹脂の流れが合流し、整流された状態でリング状補強繊維基材に浸透させることができるため、液状樹脂の流れのばらつきに起因するボイド、カスレの発生をさらに抑制することができる。
【実施例】
【0016】
実施例1
図1に示す構造の成形金型を用意した。このとき、センタピン13は、図3(a)に示すように、隣り合うランナ溝の先端が繋がった形状とした。ランナ溝は、等角度で8箇所に設けた。
先ず、金属製ブッシュ3と金属製ブッシュの周囲に配置したリング状補強繊維基材2とを成形金型1に収容し、金属製ブッシュ3の位置決めをした状態で成形金型1を型締めする。この状態で成形金型1内を減圧状態にした後、溶融させたポリアミノアミド樹脂をポット14に投入し、スプルー15を通過させて成形金型内に注入する。
【0017】
次に、上方から成形金型1に注入した液状樹脂を縦溝131を通して成形金型底面に誘導し、次いで、前記液状樹脂をランナ溝132において、センタピンを中心として放射状に流す。そして、リング状補強繊維基材に達した液状樹脂を、リング状補強繊維基材2に下方から上方へ浸透させ、加熱加圧成形して樹脂製回転体を得た。
【0018】
センタピン13を、図3(a)に示す形状とすることにより、センタピン上で液状樹脂の流れが合流し、整流された後にリング状補強繊維基材に浸透させることができるため、液状樹脂の流れのばらつきに起因するボイド、カスレの発生を抑制することができる。
【0019】
実施例2
実施例1において、センタピン13を、図4(a)に示すように、ランナ溝の先端の溝幅が広がっており、かつ、隣り合うランナ溝の先端が繋がった形状とする以外は、実施例1と同様にして、樹脂製回転体を得た。
【0020】
センタピン13を、図4(a)に示す形状とすることにより、センタピン上での液状樹脂の整流効果は更に向上し、液状樹脂の流れのばらつきに起因するボイド、カスレの発生をさらに抑制することができる。
【0021】
従来例1
実施例1において、図5に示す構造の成形金型を使用する以外は、実施例1と同様にして、樹脂製回転体を得た。
図5に示す構造の成形金型は、(1)センタピン13’に縦溝131およびランナ溝132が形成されていない点、(2)センタピン13’の先端部が平坦である(中央が高く周辺部が低い形状となっていない)点、および(3)樹脂溜り121が形成されていない点で図1に示す成形金型と異なる。すなわち、成形金型内に注入された液状樹脂を、金属製ブッシュ3と上型11’との間隙を通して、リング状補強繊維基材2に上方から下方へ浸透させている。
【0022】
実施例1〜2および従来例1で得られた樹脂製回転体の断面観察を行って、0.5mmφ以上のボイド、カスレの有無を調査した結果(試料数n=100個)を表1に示す。
【0023】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る製造法の説明図であり、注入成形工程の概要を示したものである。
【図2】本発明の実施の形態に係る成形金型の説明図であり、(a)はセンタピンを上方からみた平面図、(b)はA−A部の断面図、(c)はB−B部の断面図を示したものである。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る成形金型の説明図であり、(a)はセンタピンを上方からみた平面図、(b)はC−C部の断面図、(c)はD−D部の断面図を示したものである。
【図4】本発明のさらに他の実施の形態に係る成形金型の説明図であり、(a)はセンタピンを上方からみた平面図、(b)はE−E部の断面図、(c)はF−F部の断面図を示したものである。
【図5】従来の製造法の説明図であり、注入成形工程の概要を示したものである。
【符号の説明】
【0025】
1、1’は成形金型
11、11’は上型
12、12’は下型
121は樹脂溜り
13、13’はセンタピン
131は縦溝
132はランナ溝
14はポット
15はスプルー
16は第1シール部材
17は第2シール部材
18は空気吸引用通路
2はリング状補強繊維基材
3は金属製ブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に貫通穴をあけた金属製ブッシュと金属製ブッシュの周囲に配置したリング状補強繊維基材とを成形金型に収容し、成形金型底面から突出するセンタピンを前記貫通穴に挿通して金属製ブッシュの位置決めをした状態で成形金型を型締めし、減圧状態にした成形金型に液状樹脂を注入してリング状補強繊維基材に浸透させ、液状樹脂を加熱硬化させて金属製ブッシュと樹脂を浸透させたリング状補強繊維基材とを一体化する樹脂製回転体の製造において、
上方から成形金型に注入した液状樹脂を金属製ブッシュとセンタピンとの間隙を通して成形金型底面に誘導し、
次いで、前記液状樹脂を金属製ブッシュと成形金型底面との間隙において、センタピンを中心として放射状に流し、
リング状補強繊維基材に達した液状樹脂を、リング状補強繊維基材に下方から上方へ浸透させることを特徴とする樹脂製回転体の製造方法。
【請求項2】
中央に貫通穴をあけた金属製ブッシュと金属製ブッシュの周囲に配置したリング状補強繊維基材とを収容して、前記リング状補強繊維基材に浸透させた液状樹脂を加熱硬化させることにより、金属製ブッシュと樹脂を浸透させたリング状補強繊維基材とを一体に成形するための成形金型であって、次の(a)(b)の構成を備えることを特徴とする成形金型。
(a)金属製ブッシュを成形金型内に位置決めするために、金属製ブッシュの貫通穴に挿通するセンタピンを金型底面から突出させ、当該センタピンの周面に上方から金型底面に達する縦溝を複数本設ける。
(b)金型底面には、前記縦溝に繋がったランナ溝を、センタピンを中心にして放射状に複数本配置し、ランナ溝の先端は成形金型に収容されたリング状補強繊維基材に到達させる。
【請求項3】
ランナ溝の先端の溝幅が広がっている請求項2記載の成形金型。
【請求項4】
隣り合うランナ溝の先端が繋がっている請求項2又は3記載の成形金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−241352(P2009−241352A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89450(P2008−89450)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】