説明

樹脂製容器、及び樹脂製容器の成形方法

【課題】底部のクレーズの発生が抑えられ、商品価値を維持することができる樹脂製容器、及び樹脂製容器の成形方法を提供する。
【解決手段】容器軸方向上端に位置する口部2と、この口部2から拡径された筒状の胴部4と、この胴部4の容器軸方向下端を閉塞する底部5とを備え、底部5に容器内方へ隆起する隆起部7が形成され、この隆起部7の外周側に起立状態で載置面Gに接触する環状の接地部8が形成された樹脂製容器1であり、この樹脂製容器1を構成するPETの固有粘度(IV)値を0.82(dl/g)以上とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸飲料を内容物とするペットボトル等の樹脂製容器、及び樹脂製容器の成形方法に関し、特に、底部のクレーズの発生を抑えることができる樹脂製容器、及び樹脂製容器の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂で成形された樹脂製容器が、内圧を上昇させる炭酸飲料等を充填するための飲料用容器として広く用いられるようになっている。PETで成形された同樹脂製容器は、優れたガスバリア性、高い透明性及び強靱性を有し、さらに内容物の匂いを転移させない性質も有するなどの数々の利点を持っている。このような樹脂製容器は、容器軸方向上端に位置する口部と、この口部から拡径された筒状の胴部と、この胴部の容器軸方向下端を閉塞する底部とを備えるのが一般となっている。
【0003】
樹脂製容器の底部形状に関して、容器内方へ隆起する隆起部が形成されたシャンパン底状のものがあり、この底形状により、炭酸ガスによる容器の内圧に耐え得る耐圧性、及び自立性を向上させている。かかる底形状を有する樹脂製容器として、例えば、特許文献1では、底部の接地部以外の胴部等を超薄肉に形成し、底部壁に補強リブを形成することで超薄肉の容器としつつ、補強リブで落下時の衝撃力を吸収して破裂を防いでいる。また、特許文献2では、底部の接地部の平均結晶化度の範囲を限定することで、高温の内容物を充填する際における底部の変形を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−139029号公報
【特許文献2】特開2005−104500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内容物が充填されて出荷された後の樹脂製容器は、搬送され、場合によっては保管庫で保管され、店頭で陳列販売或いは自動販売機で販売されるなど、所要の期間、様々な温度環境に晒される。出荷後のこのような状態においては、シャンパン底状の底部を有する樹脂製容器であっても、内容物の内圧によって底部が容器軸方向下方へ押され、当該底部にクレーズが生じるおそれがある。底部にクレーズが生じると、外観が低下するだけでなく、クラックへと進行することもあり、樹脂製容器の商品価値を著しく落としてしまう。上記特許文献1や特許文献2の樹脂製容器のように、底部壁に補強リブを形成することや、底部の接地部の平均結晶化度の範囲を限定することだけでは、上記のような状態に晒された場合のクレーズの発生を防ぐことはできない。
【0006】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、底部のクレーズの発生が抑えられ、商品価値を維持することができる樹脂製容器、及び樹脂製容器の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、次の技術的手段を講じた。
即ち、本発明の樹脂製容器は、容器軸方向上端に位置する口部と、この口部から拡径された筒状の胴部と、この胴部の容器軸方向下端を閉塞する底部とを備え、前記底部に容器内方へ隆起する隆起部が形成されて、この隆起部の外周側に起立状態で載置面に接触する環状の接地部が形成された樹脂製容器であって、ポリエステル樹脂によって一体的に成形され、密封された状態で内圧を上昇させる内容物が充填される樹脂製容器において、前記ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)値が、0.82(dl/g)以上とされていることを特徴とするものである。
【0008】
上記本発明の樹脂製容器とすれば、固有粘度(IV)値が0.82(dl/g)以上とされる高分子量のポリエステル樹脂によって成形されているため、耐変形性が向上し、内容物が充填されて出荷された後、搬送され、場合によっては保管庫で保管され、店頭で陳列販売或いは自動販売機で販売されるなど、所要の期間、様々な温度環境に晒されても、底部のクレーズの発生を抑えることができる。従って、樹脂製容器の外観が低下せず、底部のクラックも引き起こさない。これにより、樹脂製容器の商品価値を維持することができる
【0009】
前記底部が1.2mm以上の肉厚で形成されていることが好ましい。この場合、底部の耐変形性が高まり、クレーズの発生を抑えることができる。それに加え、底部の変形が抑えられることで、高い直立性を保つことができる。
【0010】
上記のように底部を1.2mm以上の肉厚で形成する場合、当該底部には各種の形状を採用することができ、例えば、底部が略均一な肉厚で容器軸方向下方へ向かうに従って縮径する断面円形の碗状に形成されていると共に、当該底部の容器軸方向高さ寸法が33mm以下、当該底部の容器軸方向上端の外径寸法が83mm以下、前記接地部の直径寸法が40mm以下、当該接地部から前記隆起部の頂部までの高さ寸法が11mm以下とされ、かつ当該底部の重量が7.5g以上とされているものが挙げられる。このような条件を満たす形状を採用することにより、底部のクレーズの発生が抑えられると共に、優れた外観を有する樹脂製容器とすることができる。
【0011】
当該樹脂製容器は、ポリエステル樹脂を成形装置の金型に供給することによって成形されるものであり、前記接地部から前記隆起部の頂部までの高さ寸法と、当該高さ寸法に対応する金型高さ寸法と、の寸法差が3mm以内となる条件で成形されていることが好ましい。
このような条件で成形することにより、底部における、耐変形性を考慮した設計寸法からの寸法ずれが小さくなるので、耐変形性が保たれ、底部のクレーズの発生を抑えることができる。
【0012】
前記接地部には、各種の環形状を採用することができ、例えば、容器軸芯を中心とする円環状に形成されているものが挙げられる。接地部を円環状とすれば、内容物の内圧による接地部における各部位の変形が均等となり、樹脂製容器の直立性を向上させることができる。
【0013】
上記のように、接地部を円環状とした場合、当該接地部における内周側を構成する内接地部分が容器外方へ向かう片断面R形状とされており、当該内接地部分のR寸法が当該接地部の直径寸法の0%〜45%の範囲内とされていることが好ましい。内接地部分のR寸法が接地部の直径寸法の当該範囲内とされる底形状を採用することで、内容物の内圧による隆起部の変形が抑えられ、底部の形状を保つことができる。これにより、底部のクレーズの発生を抑えることができる。
【0014】
前記胴部を断面円形状に形成した場合、前記接地部の直径寸法が当該胴部の最外径寸法の40%〜85%の範囲内とされていることが好ましい。接地部の直径寸法を、胴部の最外径寸法の当該範囲内とする形状を採用することで、転倒し難く、かつ意匠性に優れた樹脂製容器とすることができる。
【0015】
本発明の樹脂製容器の成形方法は、ポリエステル樹脂を成形装置の金型に供給し、容器本体を一体的に成形する樹脂製容器の成形方法であって、前記容器本体は、容器軸方向上端に位置する口部と、この口部から拡径された筒状の胴部と、この胴部の容器軸方向下端を閉塞する底部とを備え、前記底部に容器内方へ隆起する隆起部が設けられて、この隆起部の外周側に起立状態で載置面に接触する環状の接地部が形成され、密封された状態で内圧を上昇させる内容物が充填される樹脂製容器の成形方法において、固有粘度(IV)値が0.82(dl/g)以上とされたポリエステル樹脂を成形装置の金型に供給し、前記接地部から前記隆起部の頂部までの高さ寸法と、当該高さ寸法に対応する金型高さ寸法と、の寸法差が3mm以内となる条件で成形することを特徴とするものである。
【0016】
上記本発明の樹脂製容器の成形方法とすれば、樹脂製容器が固有粘度(IV)値を0.82(dl/g)以上とする高分子量のポリエステル樹脂で成形され、それと共に、底部における耐変形性を考慮した設計寸法からの寸法ずれが小さくなるので、耐変形性が向上し、所要の期間、様々な温度環境に晒されても、底部のクレーズの発生を抑えることができる。従って、樹脂製容器の外観が低下せず、底部のクラックも引き起こさない。これにより、樹脂製容器の商品価値を維持することができる
【発明の効果】
【0017】
上記の通り、本発明によれば、樹脂製容器の耐変形性が向上し、所要の期間、様々な温度環境に晒されても、底部のクレーズの発生が抑えられるため、外観が低下せず、底部のクラックも引き起こさない。これにより、樹脂製容器の商品価値を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る樹脂製容器の側面図である。
【図2】樹脂製容器の底部とその近傍を下方から見た斜視図である。
【図3】樹脂製容器の底部とその近傍の断面図である。
【図4】底部の形状を説明するための説明図である。
【図5】プリフォーム成形工程を説明するためのプリフォーム成形用金型の断面図である。
【図6】ブロー成形工程を説明するためのブロー成形用金型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る樹脂製容器1の側面図である。図1に示す樹脂製容器1(容器本体)は、容器軸方向(図1紙面上下方向)上端に位置する口部2と、この口部2に連続して形成された肩部3と、この肩部3に連続して形成された胴部4と、この胴部4の一方側に形成された底部5とを備え、当該口部2から底部5に渡って筒状に形成されている。この樹脂製容器1は、熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレートにより一体的に成形された樹脂製容器であって、内容物としての炭酸飲料を充填した後、図示しない蓋体で密封できるようになっている。なお、以下の説明において、容器軸方向下方を単に下方、容器軸方向上方を単に上方という。
【0020】
口部2は、全体に断面円形状に形成されており、当該口部2には、図示しない蓋体を取り付けるためのねじ山6と、このねじ山6の下側のネックリング7が設けられている。この口部2に蓋体をねじ込むことによって、充填された内容物が密封される。肩部3は、口部2から次第に拡径するように形成されており、当該肩部3の下端3aには胴部4が連続して形成されている。胴部4は、その上端4aから下端4bに至るまで同径の断面円形状に形成されている。
【0021】
図2は、樹脂製容器1の底部5とその近傍を下方から見た斜視図であり、図3は、樹脂製容器1の底部5とその近傍の断面図であり、図4は、底部5の形状を説明するための説明図である。底部5は、胴部4の下端4bを閉塞すると共に、下方へ向かうに従って縮径する断面円形の碗状に形成されている。また、この底部5は、底部中央部分に形成された容器内方へ隆起する隆起部7と、この隆起部7の外周側に形成され起立状態で載置面Gに接触する接地部8と、この接地部8の外周側に形成された外周部9とで構成されており、シャンパン底状とされている。
【0022】
図3にも示すように、外周部9の上端(底部5の上端)9aは、胴部4の下端4bに連続しており、当該外周部9は、下方へ向かうに従って縮径する断面円形状に形成されている。図4にも示すように、外周部9の片断面は容器外方へ向かうR状とされており、樹脂製容器1の下部分が下方へ向かうに従ってなだらかに窄むようになっている。
【0023】
接地部8は、全体として容器軸芯10を中心とする円環状に形成されており(図2参照)、かつ当該接地部8の片断面は容器外方へ向かって湾曲している。この接地部8は、コーナー部11を介して外周部9に連続する外周側の外接地部分12と、この外接地部分12に連続する内周側の内接地部分13とからなる(図4参照)。これら外接地部分12と内接地部分13とは、互いに同じR寸法で片断面R状に形成されている。
【0024】
このように形成された接地部8は、樹脂製容器1を自立させた際に、載置面Gに接触する部位であり、その片断面が容器外方へ向かって湾曲していることから、載置面Gと円環状に線接触するようになっている。外接地部分12と内接地部分13の境目は、接地部8の下端であり、実際に当該接地部8が載置面Gに接触する接触部分Sである。なお、接地部8とは、載置面Gに接触する接触部分Sとその近傍のことであり、本実施形態の樹脂製容器1では、接触部分Sの径方向外側へ4.5mm(外接地部分)、径方向内方へ8.5mm(内接地部分)の領域をいう。
【0025】
接地部8に連続する隆起部7は、当該接地部8から容器軸芯10へ向かうに従って、上方へ隆起しており、当該隆起部7の片断面はR状とされている。
【0026】
上記各部位の寸法は次のとおりである(図1参照)。口部2の外径寸法D1は26mm、胴部4の外径寸法(外周部9の上端9aの外径寸法)D2は80mm、接触部分Sの直径寸法D3は40mm、胴部4の高さ寸法H1は70mm、底部5の高さ寸法H2は30mm、接触部分S(接地部8)から隆起部7の頂部7aまでの高さ寸法(接地部8の内接地部分13と、隆起部7とを合わせた高さ寸法)H3は11mmである。なお、本発明でいう接地部8の直径寸法とは、接触部分Sの直径寸法D3をいうものとする。以下の説明において、接触部分Sの直径寸法D3を接地部8の直径寸法D3といい、接触部分S(接地部8)から隆起部7の頂部7aまでの高さ寸法H3を隆起寸法H3という。
【0027】
底部5の各部位のR寸法は次のとおりである(図4参照)。外周部9のR寸法R1は65mm、コーナー部11のR寸法R2は5mm、接地部8の外接地部分12と内接地部分13のR寸法R3は10mm、隆起部7のR寸法R4は14mmである。
【0028】
接地部8を含む底部5の全体が均一な肉厚T1で形成されており(図3参照)、上記形状を有する外周部9、接地部8、及び隆起部7で構成された当該底部5の重量は8.2gとなっている。このような形状及び重量を有する底部5の肉厚T1(成形品の厚み)は、1.5mmとされており、その他の胴部4等の肉厚T2は、底部5の肉厚T1よりも小さい1.0mm以下とされている。
【0029】
上記のように接地部8の直径寸法D3は40mm、接地部8の内接地部分13のR寸法R3は10mmとされ、当該内接地部分13のR寸法R3が、当該接地部8の直径寸法D3の25%となっている。内接地部分13のR寸法R3、接地部8の直径寸法D3は、樹脂製容器1の仕様によって変更されるものであるが、当該内接地部分13のR寸法R3は、当該接地部8の直径寸法D3の0%〜45%の範囲内とされていることが好ましい。
【0030】
さらに、上記のように接地部8の直径寸法D3は40mm、胴部4の外径寸法D2は83mmとされ、接地部8の直径寸法D3が、胴部4の外径寸法D2の48%となっている。接地部8の直径寸法D3、胴部4の外径寸法D2は、樹脂製容器1の仕様によって変更されるものであるが、当該接地部8の直径寸法D3は、胴部4の外径寸法D2の40%〜85%の範囲内であることが好ましい。ここで胴部4の外径寸法D2とは、胴部4が断面円形の筒状で、長手方向において外径寸法が変化する場合には、最も大きい部分の外径寸法(最外径寸法)をいうものとする。
【0031】
上記の樹脂製容器1は、プリフォーム成形工程とブロー成形工程とからなる二軸延伸ブロー成形法で成形される。プリフォーム成形工程では、予備成形体である未延伸のプリフォームを成形し、ブロー成形工程では、得られたプリフォームを延伸ブロー成形する。
【0032】
図5は、プリフォーム成形工程を説明するためのプリフォーム成形用金型100の断面図であり、図6は、ブロー成形工程を説明するためのブロー成形用金型110の断面図である。樹脂製容器1の成形方法を、図5及び図6を参照して説明する。まず、プリフォーム成形工程において、プリフォームを射出成形する。成形装置に備えられたプリフォーム成形用金型100は、第1キャビティ型101、ネック型102、及びインコア型103で主構成されている。これら第1キャビティ型101、ネック型102、及びインコア型103の温度を、PETのガラス転移点以下に設定しておく。第1キャビティ型101、ネック型102を所定の位置で型閉めし、それらで形成された空間へインコア型103を挿入し、第1キャビティ104を形成する。その後、射出成形機105のノズル106を、第1キャビティ104の下部に形成されたランナ部107に突き合わせ、同ノズル106から溶融させたPET30を第1キャビティ104へ射出(供給)する。
【0033】
第1キャビティ104へ射出された溶融状態のPET30は、急冷され、そのまま所要時間、冷却され、口部フォーム31、中空の筒状部フォーム32、及び底部フォーム33で構成されたプリフォーム34となる。このプリフォーム34を、第1キャビティ型101、インコア型103から離型し、ブロー成形工程へ移送する。成形装置に備えられたブロー成形用金型110は、第2キャビティ型111、ネック型102で主構成されている。まず、得られたプリフォーム34の口部フォーム31を挟持した状態で、当該プリフォーム34に第2キャビティ型111を装着し、第2キャビティ112を形成する。プリフォーム34の筒状部フォーム32にストレッチロッド113を挿入し、プリフォーム34を所要の温度まで加熱した状態で、同ストレッチロッド113を軸方向下方(図6紙面下方)に延ばす。これにより、プリフォーム34を軸方向下方に延伸する。
【0034】
その一方で、ストレッチロッド113に気体を導入し、この気体によりプリフォーム34をブローし、径方向(図6左右方向)に延伸する。以上の操作によりプリフォーム34を二軸延伸し、第2キャビティ112の形状に沿って上記本実施形態の樹脂製容器1が成形される。
【0035】
上記ブロー成形金型110の第2キャビティ112は、肩部分112a、胴部分112b、及び底部分112cで構成されており、さらに、当該底部分112cは、外周部分g、接地部分s、隆起部分rからなり、さらに、当該接地部分sは、外接地部分s1と内接地部分s2からなる。本実施形態では、隆起寸法H3と、当該隆起寸法H3に対応する第2キャビティ112の内接地部分s2と隆起部分rとを合わせた高さ(金型高さ)寸法H10と、の寸法差H10−H3が3mm以内となる条件で成形している。
【0036】
底部5は通常よりも厚肉で形成するため、成形時、当該底部5に蓄熱し易く、ブロー成形用金型110から成形品を離型し、これが固化するまでに隆起部7となる部分が垂れてきて、底部5における設計寸法との寸法ずれが生じる。この垂れは、すなわち上記寸法差H10−H3として表れる。寸法差H10−H3を3mm以内とする条件としては、温度条件、隆起部の形状、接地部の形状等の他、特にPETの固有粘度が挙げられる。なお、寸法差H10−H3としては、本実施形態のように3mm以内が好ましく、1mm以内がさらに好ましい。
【0037】
本実施形態の成形方法で用いられるPET原料の固有粘度(IV)値は、0.82(dl/g)以上とされている。このようなPET原料が用いられていることで、樹脂製容器1は、固有粘度(IV)値を0.82(dl/g)以上とするPETで成形されて、通常使用されるものよりも高分子量のPETで構成されている。これにより、樹脂製容器1の機械的特性(例えば、耐変形性、耐衝撃性)、化学的特性(例えば、耐熱性)が向上されている。
【0038】
以上のように構成された本実施形態の樹脂製容器1は、密封された状態で内圧を上昇させる内容物を充填する樹脂製容器として用いられ、容器形状を維持するのに十分な耐圧性、自立性を有している。具体的には、樹脂製容器1は、高ガスボリュームの各種の炭酸飲料を充填する場合に好適に用いられる。なお、ガスボリュームとは、標準状態において、飲料に溶けているガスの体積を飲料の体積で割った数値のことであり、飲料中の炭酸ガスの含有量を表す単位とされている。
【0039】
上記本実施形態の樹脂製容器1とすれば、固有粘度値が0.82(dl/g)以上とされる高分子量のPETで成形されているため、上記のように当該樹脂製容器1の耐変形性、耐熱性が向上されている。樹脂製容器1の耐変形性、耐熱性が向上されていることで、内容物が充填されて出荷された後の当該樹脂製容器1が、搬送され、場合によっては保管庫で保管され、店頭で陳列販売或いは自動販売機で販売されるなど、所要の期間、様々な温度環境に晒されても、底部5のクレーズの発生を抑えることができる。従って、樹脂製容器1の外観が低下せず、底部5のクラックも引き起こさない。これにより、樹脂製容器1の商品価値を維持することができる。
【0040】
底部5が1.5mmの肉厚で形成されていることで、底部5の耐変形性が高まり、クレーズの発生を抑えることができる。それに加え、底部5の変形が抑えられることで、高い直立性を保つことができる。上記の形状においては底部5の重量を変更することにより、当該底部5の肉厚T1を変更することができ、その重量は7.5g以上であることが好ましく、本実施形態のように8.0g以上であることがさらに好ましい。底部の肉厚T1は1.2mm以上であることが好ましく、本実施形態のように1.5mm以上であることがさらに好ましい。底部の肉厚が1.2mm未満であると、底部5のクレーズの発生を抑え難くなる。
【0041】
本実施形態では、底部5を1.2mm以上の均一な肉厚T1で下方へ向かうに従って縮径する断面円形の碗状に形成すると共に、当該底部5の高さ寸法H2を33mm以下、当該底部5の上端の外径寸法(胴部の外径寸法)D2を83mm以下、接地部8の直径寸法D3を40mm以下、隆起寸法H3を11mm以下とし、当該底部5の重量を7.5g以上としていることにより、底部5のクレーズの発生が抑えられ、それと共に優れた外観を有する樹脂製容器1とすることができる。
【0042】
樹脂製容器1を成形するPET原料として、固有粘度値が0.82(dl/g)以上のものが用いられ、隆起寸法H3と、当該隆起寸法H3に対応する第2キャビティ112の内接地部分s2と隆起部分rとを合わせた高さ(金型高さ)寸法H10と、の寸法差H10−H3が3mm以内とされ、底部5における耐変形性を考慮した設計寸法からの寸法ずれが小さくなっているので、底部5の耐変形性が保たれ、底部5のクレーズの発生を抑えることができる。
【0043】
接地部8が円環状となっているので、内容物の内圧による接地部8における各部位の変形が均等となり、樹脂製容器1の直立性を向上させることができる。接地部8における内周側を構成する内接地部分13のR寸法R3が、接地部8の直径寸法D3の0%〜45%の範囲内とされる底形状を採用しているので、内容物の内圧による隆起部7の変形が抑えられ、底部5の形状を保つことができる。これにより、底部5のクレーズの発生を抑えることができる。内接地部分13のR寸法R3が、接地部8の直径寸法D3の45%を超える底形状とすれば、隆起部7が変形し易くなり、底部5の形状を保ち難くなる。
【0044】
接地部8における内周側を構成する内接地部分13のR寸法R3を、接地部8の直径寸法D3の0%〜45%の範囲内とする樹脂製容器の変形例として次の寸法を有するものが好適である。カッコ内は、内接地部分13のR寸法R3を、接地部8の直径寸法D3で除した数値。
D3を35mmとした場合、R3は0mm(0%)、3.0mm(9%)、4.0mm(11%)、5.0mm(14%)、10mm(29%)、15mm(43%)。
D3を40mmとした場合、R3は0mm(0%)、3.0mm(8%)、4.0mm(10%)、5.0mm(13%)、10mm(25%)、15mm(38%)。
D3を44mmとした場合、R3は0mm(0%)、3.0mm(7%)、4.0mm(9%)、5.0mm(11%)、10mm(23%)、15mm(34%)。
【0045】
接地部8の直径寸法D3が、胴部4の外径寸法D2の40%〜85%の範囲内とされる形状を採用しているので、転倒し難く、かつ意匠性に優れた樹脂製容器1とすることができる。接地部8の直径寸法D3が、胴部4の外径寸法D2の40%未満であれば、樹脂製容器1が転倒し易くなり、当該直径寸法D3が当該外径寸法D2の85%を超えれば、良好な意匠性を得ることができない。
【0046】
接地部8の直径寸法D3を、胴部4の外径寸法D2の40%〜85%の範囲内とする樹脂製容器の変形例として次の寸法を有するものが好適である。カッコ内は、接地部8の直径寸法D3を、胴部4の外径寸法D2で除した数値。
D2を84mmとした場合、D3は35mm(42%)、40mm(48%)、44mm(53%)。
D2を55mmとした場合、D3は35mm(63%)、40mm(73%)、44mm(80%)。
【0047】
本実施形態の樹脂製容器の成形方法によれば、上述のように、固有粘度(IV)値が0.82(dl/g)以上とされたPET原料からなるプリフォーム34を、ブロー成形金型110に供給し、隆起寸法H3と、当該隆起寸法H3に対応する第2キャビティ112の内接地部分s2と隆起部分rとを合わせた高さ(金型高さ)寸法H10と、の寸法差H10−H3が3mm以内となる条件で成形するため、樹脂製容器1が固有粘度(IV)値を0.82(dl/g)以上とする高分子量のポリエステル樹脂で成形され、それと共に底部5における耐変形性を考慮した設計寸法からの寸法ずれが小さくなる。
【0048】
そのため、樹脂製容器1の耐変形性が向上し、所要の期間、様々な温度環境に晒されても、底部5のクレーズの発生が抑えられ、樹脂製容器1の外観が低下せず、底部5のクラックも引き起こさない。これにより、樹脂製容器1の商品価値を維持することができる
【実施例】
【0049】
以下、実施例、比較例を挙げて発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
製作した樹脂製容器に4.0ガスボリュームの炭酸水を充填して密封し、これを30℃に調整された恒温槽に入れて、2週間経過した後、恒温槽から取り出す。放冷後の樹脂製容器の底部におけるクレーズの有無を目視で観察した。各実施例、各比較例の樹脂製容器についてそれぞれ20本行った。
【0051】
[実施例]
(実施例1)固有粘度値が0.82(dl/g)のPET原料で、寸法差H10−H3が3mmで上記実施形態と同じ形状、及び寸法(隆起寸法H3は除く)の樹脂製容器を製作した。
(実施例2)固有粘度値が0.85(dl/g)のPET原料で、寸法差H10−H3が1mmで上記実施形態と同じ形状、及び寸法(隆起寸法H3は除く)の樹脂製容器を製作した。
【0052】
[比較例]
(比較例1)固有粘度値が0.78(dl/g)のPET原料で、寸法差H10−H3が5mmで上記実施形態と同じ形状、及び寸法(隆起寸法H3は除く)の樹脂製容器を製作した。
(比較例2)固有粘度値が0.80(dl/g)のPET原料で、寸法差H10−H3が4mmで上記実施形態と同じ形状、及び寸法(隆起寸法H3は除く)の樹脂製容器を製作した。
【0053】
実施例の樹脂製容器と比較例の樹脂製容器の底部におけるクレーズの有無の観察結果は次のとおりである。結果を、[クレーズ有りの本数/20本]で示す。
実施例1:0本/20本、実施例2:0本/20本
比較例1:11本/20本、比較例2:8本/20本
【0054】
固有粘度値が0.82(dl/g)以上のPET原料で、寸法差H10−H3が3mm以内とされた各実施例の樹脂製容器は、固有粘度値が0.82(dl/g)未満のPET原料で、寸法差H10−H3が3mmを超えるものとされた各比較例の樹脂製容器よりもクレーズの発生が抑えられていることが認められる。
【0055】
上記で開示した実施形態、実施例の樹脂製容器は、本発明に係る樹脂製容器の一例を示したものであり、各部の形状、寸法、R寸法は適宜変更される。樹脂製容器を構成するポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート等の熱可塑性樹脂、又はこれらの樹脂同士、これらの樹脂と他の樹脂とのブレンド物を用いることができる。その中でも、特に、本実施形態で用いたポリエチレンテレフタレートが好適である。
【0056】
上記の樹脂には、樹脂製容器としての品質を損なわない範囲で、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、滑剤、核剤、帯電防止剤等の種々の樹脂添加剤を配合することができる。さらに、本実施形態のように単層の樹脂で樹脂製容器を構成する場合の他、2層以上の樹脂により樹脂製容器を構成することもできる。例えば、外層、内層の2層とすることや、外層、単数又は複数の中間層、及び内層とする2層を超える複数層とするものが挙げられる。
【0057】
この場合の中間層には、樹脂製容器の機能性を向上させるものを採用することができる。この中間層を、例えば、ガスバリア層とすることで、容器内への外部からの酸素の透過を抑制して内容物の変質を防ぐものとすればよい。また、単層、複数層の外面、或いは内面に、コーティングを施してもよい。本発明の範囲は、上記した実施形態、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内の全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 樹脂製容器
4 胴部
5 底部
7 隆起部
8 接地部
9 外周部
10 容器軸芯
12 外接地部分
13 内接地部分
S 接触部分
G 載置面
30 PET
34 プリフォーム
100 プリフォーム成形用金型
101 第1キャビティ型
102 ネック型
103 インコア型
104 第1キャビティ
105 射出成形機
110 ブロー成形用金型
111 第2キャビティ型
112 第2キャビティ
113 ストレッチロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器軸方向上端に位置する口部と、この口部から拡径された筒状の胴部と、この胴部の容器軸方向下端を閉塞する底部とを備え、前記底部に容器内方へ隆起する隆起部が形成されて、この隆起部の外周側に起立状態で載置面に接触する環状の接地部が形成された樹脂製容器であって、
ポリエステル樹脂によって一体的に成形され、密封された状態で内圧を上昇させる内容物が充填される樹脂製容器において、
前記ポリエステル樹脂の固有粘度(IV)値が、0.82(dl/g)以上とされていることを特徴とする樹脂製容器。
【請求項2】
前記底部が、1.2mm以上の肉厚で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製容器。
【請求項3】
前記底部が略均一な肉厚で容器軸方向下方へ向かうに従って縮径する断面円形の碗状に形成されていると共に、当該底部の容器軸方向高さ寸法が33mm以下、当該底部の容器軸方向上端の外径寸法が83mm以下、前記接地部の直径寸法が40mm以下、当該接地部から前記隆起部の頂部までの高さ寸法が11mm以下とされ、かつ当該底部の重量が7.5g以上とされていることを特徴とする請求項2に記載の樹脂製容器。
【請求項4】
当該樹脂製容器は、ポリエステル樹脂を成形装置の金型に供給することによって成形されるものであり、前記接地部から前記隆起部の頂部までの高さ寸法と、当該高さ寸法に対応する金型高さ寸法と、の寸法差が3mm以内となる条件で成形されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂製容器。
【請求項5】
前記接地部は、容器軸芯を中心とする円環状に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂製容器。
【請求項6】
前記接地部における内周側を構成する内接地部分が容器外方へ向かう片断面R状に形成されており、当該内接地部分のR寸法が当該接地部の直径寸法の0%〜45%の範囲内とされていることを特徴とする請求項5に記載の樹脂製容器。
【請求項7】
前記胴部は断面円形状に形成されており、前記接地部の直径寸法が当該胴部の最外径寸法の40%〜85%の範囲内とされていることを特徴とする請求項5又は6に記載の樹脂製容器。
【請求項8】
ポリエステル樹脂を成形装置の金型に供給し、容器本体を一体的に成形する樹脂製容器の成形方法であって、
前記容器本体は、容器軸方向上端に位置する口部と、この口部から拡径された筒状の胴部と、この胴部の容器軸方向下端を閉塞する底部とを備え、前記底部に容器内方へ隆起する隆起部が形成されて、この隆起部の外周側に起立状態で載置面に接触する環状の接地部が形成され、密封された状態で内圧を上昇させる内容物が充填される樹脂製容器の成形方法において、
固有粘度(IV)値が0.82(dl/g)以上とされたポリエステル樹脂を成形装置の金型に供給し、前記接地部から前記隆起部の頂部までの高さ寸法と、当該高さ寸法に対応する金型高さ寸法と、の寸法差が3mm以内となる条件で成形することを特徴とする樹脂製容器の成形方法。
























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−143954(P2011−143954A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7903(P2010−7903)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000178826)日本山村硝子株式会社 (140)
【Fターム(参考)】