説明

樹脂部品並びにそれを用いたリニアガイド装置、直動ねじ装置および転がり軸受装置

【課題】ボールねじ装置等の転がり装置の樹脂製品に形成された凹部にボールが入り込むことによる組立効率の低下を防止する手段を提供する。
【解決手段】ボール37が転動するボールねじ装置31に用いられるエンドデフレクタ40等の樹脂部品において、ボール37が装填される部位を除く部位に肉盗み部21等の凹部を設ける場合に、この凹部の口元の形状の内接円22の直径をボール37の直径より小さく、またはこの凹部の深さをボール37の半径より浅く形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアガイド装置や直動ねじ装置、転がり軸受装置等の転動体が転動して直線運動または回転運動をする転がり装置に用いられ樹脂部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の転がり装置としてのリニアガイド装置は、転動体としてころを用い、そのころが転動する4本の負荷路にグリース等の潤滑剤を供給する場合に、樹脂製のエンドキャップのスライダとの当接面に潤滑油供給路となる矩形断面の油路形成溝を設け、これをエンドキャップに設ける内側方向転換路を形成するインナーガイドに導き、インナーガイドのスライダとの当接面に設けた油路形成溝により内側方向転換路に潤滑剤を供給し、立体交差となっている外側方向転換路には、そのアウターガイドのスライダとの当接面に設けた油路形成溝を経由して潤滑剤を供給し、インナーガイドのスライダとの当接面の油路形成溝の周囲に樹脂成形時における引けを抑制するための肉盗み部を設けて潤滑剤の洩れを防止している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2005−83500号公報(第4頁段落0010−第5頁段落0015、第5図、第7図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に、樹脂部品は金型を用いた射出成形により成形されるが、溶融した樹脂の流動性の改善や固化時の樹脂の収縮に伴う引けやボイドの防止、固化時間の短縮等のために肉盗み部を設けることが行われ、成形後の樹脂部品の型からの抜取りを容易にするために抜き方向に広がる抜き勾配が形成されている。
しかしながら、上述した従来の技術においては、樹脂成形時における引けの抑制のみを目的として肉盗み部を形成しているため、肉盗み部とした凹部の口元(端面への開口をいう。)の形状が転動体としてのころの直径より大きくなった場合には、凹部が抜き勾配により底に向かって狭くなっているので、凹部に入り込んだころが挟まると樹脂の弾性によりころが凹部の側面に挟持されてしまい、凹部から取出すことが難しくリニアガイド装置等の転がり装置の組立効率が低下するという問題がある。
【0004】
このことは、転動体が転動する転がり装置の樹脂部品に共通する課題であり、転動体としてボールを用いた転がり装置の場合に特に顕著になる。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、樹脂製品に形成された凹部に転動体が入り込むことによる組立効率の低下を防止する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、ボールが転動する転がり装置に用いられる樹脂部品において、前記ボールが装填される部位を除く部位に凹部を設ける場合に、該凹部の口元の形状の内接円の直径を、前記ボールの直径より小さく形成したことを特徴とする。
また、ボールが転動する転がり装置に用いられる樹脂部品において、前記ボールが装填される部位を除く部位に凹部を設ける場合に、該凹部の深さを、前記ボールの半径より浅く形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
このように、本発明は、転がり装置に用いられる樹脂部品のボールが装填される部位を除く部位に設ける凹部の口元の形状の内接円の直径を、ボールの直径より小さく形成したことによって、転動体としてのボールが凹部に入り込むことを防止することができ、転がり装置の組立効率を向上させることができるという効果が得られる。
また、ボールが装填される部位を除く部位に設ける凹部の深さを、ボールの半径より浅く形成したことによって、例え転動体としてのボールが凹部に入り込んだとしても、ころが凹部の側面に挟持されることを防止することができ、転がり装置の組立効率を向上させることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、図面を参照して本発明による樹脂部品の実施例について説明する。
【実施例1】
【0008】
図1は実施例1のリニアガイド装置を示す斜視図、図2は実施例1のサイドキャップの裏面を示す説明図、図3は実施例1のインナーガイドの裏面を示す説明図、図4は図3のA−A断面線に沿った断面を示す説明図である。
図1において、1は転がり装置としてのリニアガイド装置である。本実施例では転動体としてころを用いたリニアガイド装置である。
【0009】
2はリニアガイド装置1のレールであり、合金鋼等の鋼材で製作された長尺の棒状部材であって、そのレール上面2aには機械装置の基台等にレール2を固定するための段付ボルト穴であるレール取付穴3が所定のピッチで複数設けられている。
4はレール転動体ガイド面としてのレール軌道面であり、レール2の両方のレール側面の長手方向に沿って略V字状に形成された一対の傾斜面である。
【0010】
5はスライダであり、合金鋼等の鋼材で製作された略コの字状の断面形状を有する鞍状部材であって、そのスライダ上面には取付ねじ穴5aが設けられており、この取付ねじ穴5aを用いて機械装置の移動台等がボルト等により締結される。
6はスライダ転動体ガイド面としてのスライダ軌道面であり、スライダ5の両方の袖壁5bの内側にレール軌道面4に対向する一対の傾斜面として形成される。
【0011】
7は転動体としてのころであり、合金鋼等の鋼材で製作された円柱体である。
8は戻り路であり、スライダ5の袖壁5bの厚肉部に形成されたころ7を循環させるための略長方形断面を有し、スライダ5の移動方向にスライダ5を貫通する貫通穴であって、それぞれのスライダ軌道面6に対応して設けられている。
10はエンドキャップであり、樹脂材料等で製作され、スライダ移動方向の前後端に配置される。
【0012】
11はエンドキャップ10に設けられた外側方向転換路11aおよび内側方向転換路11bからなる方向転換路であり、対向配置されたレール軌道面4とスライダ軌道面6とにより形成される負荷路と戻り路8とをそれぞれ接続するための略長方形断面を有する湾曲した通路であって、外側方向転換路11aと内側方向転換路11bとが互いの交差を避けるために襷掛けに立体交差となるように形成されており、ころ7を案内してその循環方向を転向させる機能を有している。
【0013】
12はグリースニップルであり、エンドキャップ10に設けられた潤滑剤供給穴15(図2参照)のスライダ5と反対側の面(おもて面という。)の開口部に形成されたねじ部に取付けられ、潤滑剤としてのグリースを方向転換路11に供給するときに用いられる。
図2に示すエンドキャップ10のスライダ5側の面(裏面)には、潤滑剤供給穴15から両側の内側方向転換路11bのスライダ5側のガイド面16a(図4参照)が設けられた樹脂製のインナーガイド16へ潤滑剤を導く凹部としての油路形成溝17aが形成されている。
【0014】
インナーガイド16の裏面には、内側方向転換路11bへ潤滑油を導く凹部としての油路形成溝17bおよび外側方向転換路11aへ潤滑油を導く油路形成溝17cが十字型に形成され、油路形成溝17bとエンドキャップ10の油路形成溝17aとは接続溝18で接続されている。
また、油路形成溝17cから供給される潤滑剤は、外側方向転換路11aのスライダ5側のガイド面19aが設けられた樹脂製のアウターガイド19の裏面に形成された油路形成溝17dを経由して外側方向転換路11aに供給される。
【0015】
上記の対向配置されたレール軌道面4とスライダ軌道面6とにより形成される負荷路の両端部はエンドキャップ10の方向転換路11とスライダ5の戻り路8とによりそれぞれ連通されて循環路が形成され、この循環路18には複数のころ7が装填され、グリースニップル12から油路形成溝17を経由して供給された所定の量の潤滑剤により潤滑されながらスライダ5の移動に伴ってころ7が循環路18を循環し、負荷路12を転動するころ7がスライダ5に加えられた荷重を往復動自在に支持し、スライダ5がレール2の長手方向に沿った直線往復移動可能に支持される。これによりリニアガイド装置1が直動装置として機能する。
【0016】
本実施例のインナーガイド16の裏面には、図3に示すようにその油路形成溝17b、17cおよび接続路18により分離される厚肉部に、それぞれ射出成形時の樹脂の引けやボイドの防止のための凹部としての肉盗み部21が設けられ、図3、図4に示すように、肉盗み部21により残された樹脂の厚さは、樹脂の流動性の改善や固化時間の短縮のために極力一様な厚さとした薄肉に形成される。
【0017】
肉盗み部21の口元の形状は、図3に示すようにそれぞれの肉盗み部21の内接円22a〜22eがころ7の外周面の直径Dkより小さくなるように形成される。
また、十字型に配置された油路形成溝17b、17cの交差部の内接円22fも、ころ7の直径Dkより小さくなるように形成される。
ここに、内接円22は、内接円22d、22eのように3角形の口元形状を有する肉盗み部21(凹部)の場合には、その3辺の内接円22をいい、内接円22a、22bのように4角形以上の多角形の口元形状を有する凹部の場合には、その3辺の内接円22の中で最も大きい直径を有する内接円22をいう。
【0018】
この場合において、内接円22がころ7の直径Dk以上となる肉盗み部21のときはその肉盗み部21に厚さを薄肉にしたリブ45(後述する図7参照)を設けて口元形状を分割し、分割後の肉盗み部21の口元形状をころ7の直径Dkより小さくなるように形成する。
また、内接円22は、油路形成溝17aや17b、17c、17dおよび接続溝18のような溝(凹部)の場合には、その口元形状である溝幅を構成する2辺の内接円22をいい、油路形成溝17bと17cとの交差部や油路形成溝17bと接続溝18との合流部を形成する必要のある溝においては、交差部に形成される内接円22fのようにその溝において最も大きい直径を有する内接円22をいう。
【0019】
この場合において、内接円22がころ7の直径Dk以上となる溝のときは、通路断面積を同等にして溝の深さをころ7の直径Dkの1/2、つまり半径より浅く形成する。このようにすれば、例えころ7が溝に入り込んでも、抜き勾配が形成されている溝の側面でころ7が挟持されることを防止することができるからである。このことは上記の肉盗み部21においても同様である。
【0020】
更に、樹脂製の部品、例えばエンドキャップ10等に取付ボルトを挿通する段付ボルト穴の大径部のように、一部に底を有する凹部の場合においてもその大径部の口元形状、つまり円形状に内接する内接円22(口元形状の直径に等しい。)の直径をころ7の直径Dkより小さく、または大径部の深さをころ7の半径より浅く形成する。
このように、本実施例では樹脂製のエンドキャップ10に形成される方向転換路11のように、ころが装填される部位、つまり負荷路を転動したころが循環する部位を除く部位に設ける肉盗み部21や油路形成溝17等の全ての凹部の口元形状の内接円22をころ7の直径Dkより小さく、またはその深さをころ7の半径より浅く形成する。このようにすればころ7が凹部に入り込むことはなく、ころ7が凹部の側面に挟持されてしまうこともない。
【0021】
以上説明したように、本実施例では、リニアガイド装置に用いられる樹脂部品のころが装填される部位を除く部位に設ける凹部の口元の形状の内接円の直径を、ころの外周面の直径Dkより小さく形成したことによって、転動体としてのころが凹部に入り込むことを防止することができ、リニアガイド装置の組立効率を向上させることができる。
また、ころが装填される部位を除く部位に設ける凹部の深さを、ころの外周面の半径より浅く形成したことによって、例えころが凹部に入り込んだとしても、ころが凹部の側面に挟持されることを防止することができ、リニアガイド装置の組立効率を向上させることができる。
【0022】
また、本実施例においては、転動体としてころを用いたリニアガイド装置を例に説明したが、転動体としてボールを用いたリニアガイド装置においても同様である。この場合に負荷路を形成するレール転動体ガイド面とスライダ転動体ガイド面はボールが転動するレール軌道溝とスライダ軌道溝とで構成される。
【実施例2】
【0023】
図5は実施例2のボールねじ装置の断面を示す説明図、図6は実施例2のエンドデフレクタの取付状態を示す説明図、図7は実施例1のエンドデフレクタの正面を示す説明、図8は図7のB方向矢視図である。
なお、上記実施例1と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
図1において、31は転がり装置としての直動ねじ装置であるデフレクタ式のボールねじ装置である。
【0024】
32はボールねじ装置31のねじ軸であり、合金鋼等の鋼材で製作された棒状部材であって、その外周面には略半円弧形状の軸軌道溝33が所定のリードで螺旋状に形成されている。
34はボールねじ装置31のナットであり、合金鋼等の鋼材で製作された円筒状部材であって、その内周面には軸軌道溝33と対向する略半円弧形状のナット軌道溝35が軸軌道溝33と同じリードで形成されている。
【0025】
また、ナット34の外周部の一方の端部にはフランジ部36が設けられ、フランジ部36に設けたボルト穴36aにより図示しない機械装置の移動台にボルト等で固定される。
37は転動体としてのボールであり、合金鋼等の鋼材等で製作された球体である。
本実施例のボール37は、対向配置された軸軌道溝33とナット軌道溝35とにより形成される負荷路に複数装填されてねじ軸32とナット34を螺合させる。
【0026】
38は戻り路であり、ナット34の側壁の厚肉部34aに形成されたボール37を循環させるためのボール37の直径より大きい直径を有し、ナット34の厚肉部34aを軸方向に貫通する貫通穴であって、ナット34に形成されたナット軌道溝35に対応して設けられている。
40はエンドデフレクタであり、樹脂材料等で製作され、ナット34の厚肉部34aに形成された戻り路38の軸方向の両方の端部に形成された嵌着穴41に嵌め込まれて取付けられ、そのナット34側には対向配置されたナット軌道溝35と軸軌道溝33とにより形成される負荷路とナット34の戻り路38とをそれぞれ接続する湾曲した通路である方向転換路42が形成されている。
【0027】
上記の負荷路の両端部はエンドデフレクタ40の方向転換路42とナット34の戻り路38とにより形成される連通路により連通されて循環路が形成され、この循環路には複数のボール37が装填され、循環路に封入された所定の量の潤滑剤により潤滑されながら負荷路を転動したボール37が連通路により連通された循環路を循環してナット34を軸方向に移動させ、ねじ軸32の回転運動がナット4の直線運動に変換され、ボールねじ装置31が直動装置として機能する。
【0028】
上記のエンドデフレクタ40のねじ軸32の軸方向の外側の端面には、図7に示すように射出成形時の樹脂の引けやボイドの防止のために、リブ45により2つに分割された凹部としての肉盗み部21が設けられ、図7、図8に示すように、肉盗み部21により残された樹脂の厚さやリブ45の厚さは、樹脂の流動性の改善や固化時間の短縮のために薄肉に形成される。
【0029】
肉盗み部21の口元の形状は、図7に示すようにリブ45を設けて分割することによりそれぞれの肉盗み部21の内接円22g、22hがボール37の球体の直径Dbより小さくなるように形成される。
ここに、内接円22は、内接円22gのように少なくとも1辺に円弧を含む3角形の口元形状を有する肉盗み部21(凹部)の場合においても、上記実施例1と同様に3辺(この辺には円弧により形成された辺を含む。)の内接円22をいい、内接円22hのように少なくとも1辺に円弧を含む4角形以上の多角形の口元形状を有する凹部の場合には、その3辺(この辺には円弧により形成された辺を含む。)の内接円22の中で最も大きい直径を有する内接円22をいう。
【0030】
また、内接円22がボール37の直径Db以上となる場合に、肉盗み部21の深さをボール37の直径Dbの1/2、つまり半径より浅く形成するようにしてもよい。このようにすれば、例えボール37が溝に入り込んでも、抜き勾配が形成されている凹部の側面でボール37が挟持されることを防止することができるからである。
更に、ボールねじ装置31に設けられた樹脂製の部品に凹部としての溝や段付ボルト穴の大径部を形成する場合は、上記実施例1と同様に、溝幅等の内接円22や円形状に内接する内接円22の直径をボール37の直径Dbより小さく、またはそれらの深さをボール37の半径より浅く形成する。
【0031】
このように、本実施例では樹脂製のエンドデフレクタ40に形成される方向転換路42のように、ボールが装填される部位、つまり負荷路を転動したボールが循環する部位を除く部位に設ける肉盗み部21等の全ての凹部の口元形状の内接円22をボール37の直径Dbより小さく、またはその深さをボール37の半径より浅く形成する。このようにすればボール37が凹部に入り込むことはなく、ボール37が凹部の側面に挟持されてしまうこともない。
【0032】
上記のことは、本実施例のエンドデフレクタ40に形成された肉盗み部21のように組立後に外から見える部位に凹部が形成される場合に、特に有効である。
以上説明したように、本実施例では、ボールねじ装置に用いられる樹脂部品のボールが装填される部位を除く部位に設ける凹部の口元の形状の内接円の直径を、ボールの直径Dbより小さく形成したことによって、上記実施例1と同様に、転動体としてのボールが凹部に入り込むことを防止することができ、ボールねじ装置の組立効率を向上させることができる。
【0033】
また、ボールが装填される部位を除く部位に設ける凹部の深さを、ボールの半径より浅く形成したことによって、上記実施例1と同様に、例えボールが凹部に入り込んだとしても、ボールが凹部の側面に挟持されることを防止することができ、ボールねじ装置の組立効率を向上させることができる。
なお、本実施例においては、エンドデフレクタを用いて連通路を形成したエンドデフレクタ式の循環方式を用いたボールねじ装置に本発明を適用した場合を例に説明したが、連通路は前記に限らず、連通路をリターンチューブを用いたチューブ式やこま式、エンドキャップ式等とした循環方式のボールねじ装置の樹脂部品に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
【0034】
また、本実施例においては、ボールねじ装置のねじ軸を回転させてナットを軸方向に移動させるとして説明したが、ナットを回転させてねじ軸を軸方向に移動させる形式のボールねじ装置に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
更に、本実施例においては、転動体をボールとした直動ねじ装置としてのボールねじ装置を例に説明したが、直動ねじ装置は前記に限らず、転動体としてころを用いたころねじ装置においても同様である。この場合に負荷路を形成する軸軌道溝とナット軌道溝は直角3角形断面形状で形成される。
【実施例3】
【0035】
図9は実施例3の玉軸受の半断面を示す説明図、図10は実施例3の保持器を示す斜視図である。
なお、上記実施例1および実施例2と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
図9において、51は転がり装置としての転がり軸受装置である深溝型の玉軸受であり、グリース等の潤滑剤により潤滑される。
【0036】
52は外輪であり、合金鋼等の鋼材で製作され、その内周面には略半円弧形状の外輪軌道溝53が形成され、その外周面は円筒面に成形されて図示しないハウジング等に嵌合して固定される。
54は内輪であり、合金鋼等の鋼材で製作され、その外周面に略半円弧形状の内輪軌道溝55が形成され、その内周面は円筒面に成形されて図示しない軸等に嵌合し、連動して回転する。
【0037】
上記の外輪52の外輪軌道溝53とこれに対向する内輪54の内輪軌道溝55との間には複数のボール37が配設されている。
57は保持器であり、樹脂材料や鋼板等で製作され、転動体としてのボール37を所定のピッチで保持してボール37の互いの接触を防止する。本実施例の保持器57は樹脂材料等により形成された図2に示す一体の冠型形状に成形された冠型保持器である。
【0038】
58はシールド板であり、バネ鋼等の鋼板で製作されてボール37の両側に配置され、その外周端は外輪52の内周面に嵌合して係止され、その内周端は内輪54の外周面に近接して非接触式のシールを構成しており、外部からの塵芥や泥水等の浸入を防止すると共に、潤滑剤としてグリースをボール37の周囲の空間に封止する機能を有している。
図10において、61はポケットであり、冠型の保持器57の円周方向に所定のピッチで複数設けられ、一つの球面である球状凹面からなるポケット面が形成されており、これによってボール37を転動自在に保持する。
【0039】
62は基体部であり、円環状の形状に成形され、そのポケット61の両側には対向配置された複数対の爪部63が設けられている。
爪部63は、その先端部にボール37の直径Dbより小さい開口径を有する開口部が設けられており、開口部からボール37をポケット61に装填する際に樹脂材料の弾性を利用しやすいように肉薄に成形され、ボール37の装填後はポケット61からのボール37の脱落を防止するためのストッパとして機能する。
【0040】
本実施例の基体部62の爪部63の軸方向の反対側の端面62aには、射出成形時の樹脂の引けやボイドの防止のために、半径方向の溝として形成された凹部としての肉盗み部21が形成されている。
肉盗み部21の口元の形状は、それぞれの肉盗み部21の内接円22が実施例1および実施例2と同様にボール37の球体の直径Dbより小さくなるように形成される。
【0041】
また、内接円22がボール37の直径Db以上となる場合に、実施例1および実施例2と同様に肉盗み部21の深さをボール37の直径Dbの1/2、つまり半径より浅く形成するようにしてもよい。
更に、玉軸受51に設けられた樹脂製の部品に凹部としての溝や段付ボルト穴の大径部を形成する場合は、上記実施例1および実施例2と同様に、溝幅等の内接円22や円形状に内接する内接円22の直径をボール37の直径Dbより小さく、またはそれらの深さをボール37の半径より浅く形成する。
【0042】
このように、本実施例では樹脂製の保持器57に形成されるポケット62のように、外輪軌道溝53と内輪軌道溝55との間を転動するボールが装填される部位除く部位に設ける肉盗み部21等の全ての凹部の口元形状の内接円22をボール37の直径Dbより小さく、またはその深さをボール37の半径より浅く形成する。このようにすればボール37が凹部に入り込むことはなく、ボール37が凹部の側面に挟持されてしまうこともない。
【0043】
上記のことは、本実施例の保持器57に形成された肉盗み部21のように組立後に外から見える部位に凹部が形成される場合に、特に有効である。
以上説明したように、本実施例では、玉軸受に用いられる樹脂部品のボールが装填される部位を除く部位に設ける凹部の口元の形状の内接円の直径を、ボールの直径Dbより小さく形成したことによって、上記実施例1および実施例2と同様に、転動体としてのボールが凹部に入り込むことを防止することができ、玉軸受の組立効率を向上させることができる。
【0044】
また、ボールが装填される部位を除く部位に設ける凹部の深さを、ボールの半径より浅く形成したことによって、上記実施例1および実施例2と同様に、例えボールが凹部に入り込んだとしても、ボールが凹部の側面に挟持されることを防止することができ、玉軸受の組立効率を向上させることができる。
なお、本実施例においては、転がり軸受装置は、深溝玉軸受であるとして説明したが、転がり軸受装置は前記に限らず、アンギュラ玉軸受や円筒ころ軸受、円錐ころ軸受等の樹脂部品に本発明を適用しても同様の効果を得ることができる。
【0045】
この場合に、転動体としてのころが円錐台形状である円錐ころを用いる円錐ころ軸受においては、肉盗み部等の凹部の口元形状の内接円の直径を、円錐ころの外周面の最小直径、つまり円錐台形状の小径の直径より小さく形成する、または凹部の深さを、円錐台形状の小径の半径より浅く形成する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は実施例1のリニアガイド装置を示す斜視図
【図2】実施例1のサイドキャップの裏面を示す説明図
【図3】実施例1のインナーガイドの裏面を示す説明図
【図4】図3のA−A断面線に沿った断面を示す説明図
【図5】実施例2の玉軸受の断面を示す説明図
【図6】実施例2のエンドデフレクタの取付状態を示す説明図
【図7】実施例2のエンドデフレクタの正面を示す説明
【図8】図7のB方向矢視図である。
【図9】実施例3の玉軸受の半断面を示す説明図
【図10】実施例3の保持器を示す斜視図
【符号の説明】
【0047】
1 リニアガイド装置
2 レール
2a レール上面
3 レール取付穴
3a 設置穴大径部
4 レール軌道面
5 スライダ
5a ねじ穴
5b 袖壁
6 スライダ軌道面
7 ころ
8、38 戻り路
10 エンドキャップ
11、42 方向転換路
11a 外側方向転換路
11b 内側方向転換路
12 グリースニップル
15 潤滑剤供給穴
16 インナーガイド
16a、19a ガイド面
17、17a、17b、17c、17d 油路形成溝
18 接続溝
19 アウターガイド
21 肉盗み部
22、22a〜22h 内接円
31 ボールねじ装置
32 ねじ軸
33 軸軌道溝
34 ナット
34a 厚肉部
35 ナット軌道溝
36 フランジ部
36a ボルト穴
37 ボール
40 エンドデフレクタ
41 嵌着穴
45 リブ
51 玉軸受
52 外輪
53 外輪軌道溝
54 内輪
55 内輪軌道溝
57 保持器
58 シールド板
61 ポケット
62 基体部
62a 端面
63 爪部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールが転動する転がり装置に用いられる樹脂部品において、
前記ボールが装填される部位を除く部位に凹部を設ける場合に、該凹部の口元の形状の内接円の直径を、前記ボールの直径より小さく形成したことを特徴とする樹脂部品。
【請求項2】
ボールが転動する転がり装置に用いられる樹脂部品において、
前記ボールが装填される部位を除く部位に凹部を設ける場合に、該凹部の深さを、前記ボールの半径より浅く形成したことを特徴とする樹脂部品。
【請求項3】
ころが転動する転がり装置に用いられる樹脂部品において、
前記ころが装填される部位を除く部位に凹部を設ける場合に、該凹部の口元の形状の内接円の直径を、前記ころの外周面の最小直径より小さく形成したことを特徴とする樹脂部品。
【請求項4】
ころが転動する転がり装置に用いられる樹脂部品において、
前記ころが装填される部位を除く部位に凹部を設ける場合に、該凹部の深さを、前記ころの外周面の最小半径より浅く形成したことを特徴とする樹脂部品。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の樹脂部品を用いたことを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の樹脂部品を用いたことを特徴とする直動ねじ装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の樹脂部品を用いたことを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−278356(P2007−278356A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103460(P2006−103460)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】