説明

機械式自動変速制御装置

【課題】 機械式自動変速機構5の発進時に、急登坂、重積載等により走行抵抗が大きい場合には変速マップによる変速を禁止し、変速ギヤ段を保持することにより、変速ギヤ段のハンチングを防止し、滑らかな発進を可能にする機械式自動変速装置を提供する。
【解決手段】 発進時の半クラッチ時に、変速機ECU41に装備した発進制御手段29により、クラッチにかかる負荷(クラッチ吸収エネルギー)を算出し、この負荷が大きい場合に、シフト信号生成手段33による変速マップ27を基にしたシフト信号の生成を禁止し、変速ギヤ段を保持する。クラッチ吸収エネルギーは、変速機ECU41に装備したクラッチ伝達トルク・マップによるクラッチ伝達トルクと、エンジン回転数およびクラッチ回転数の差の積を積分することにより求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用機械式自動変速制御装置に関し、車両の発進時の走行抵抗が大きい場合に、シフトアップを禁止して変速段を保持し、加速不良や、車速低下によるシフトダウンを防止する機械式自動変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の変速機として、マニュアル車と同様の変速ギヤ機構およびクラッチ機構にそれぞれアクチュエータを付設して自動変速を行えるようにした機械式自動変速機が開発、実用化され、主に、トラックやバス等の大型車を中心に適用されている。
このような機械式自動変速機においては、通常、図6に示すような変速マップを元に変速制御が行われる。すなわち、アクセル開度情報と車速情報を元に、シフトアップおよびシフトダウンが実施される(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−321386号公報 例えば、発進時には、図6の変速マップに示すように、車速が略10数km/hになると1から2に、略20数km/hに達すると2から3に、略40km/hに達すると3から4に自動的にシフトアップする。各車速において、アクセル開度が高いほど、自動的にシフトアップする際の車速は高速側にずれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような変速マップによる自動制御を行うと、急登坂や重積載等、走行抵抗の大きい状態で発進すると問題が生じる場合がある。すなわち、変速マップによる自動制御を行うと、急登坂や重積載の場合であっても、一定の車速、例えば10数km/hに達すると1から2、20数km/hに達すると2から3というように、自動的にシフトアップ制御が実行されるが、走行抵抗が大きいためにシフトアップ後の駆動力が不足し、加速が十分にできず、車速が低下して再びシフトダウン制御が行われ、車速の増加に伴い再度シフトアップするといった変速ギヤ段のハンチングという問題が生じるのである。
このような問題の解決手段として、走行中の加速度、エンジントルクから走行抵抗を推定し、発進後のシフトアップを禁止する方法が考えられるが、この方法によると、発進が完了し、ある程度以上走行しないと走行抵抗が算出できず、発進直後にシフトアップを禁止することが望ましい場合でも、走行抵抗の算出が間に合わずにシフトアップが実施され、先のような問題を生じてしまう場合がある。
【0004】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたもので、その目的は、発進直後の走行抵抗を推定することにより、発進後の走行抵抗が大きい場合にはシフトアップを禁止し、滑らかな発進を可能とする機械式自動変速制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述する課題を解決するための本発明は、車両の目標変速段を、予め設定された変速マップに基づいて、車両の運転状況に応じて自動的に変更しうる機械式自動変速装置であって、車両の発進時の走行抵抗が大きい場合に、変速マップに基づいた変速を禁止し、当初の変速段を保持する発進制御手段を有することを特徴とする機械式自動変速装置である。発進制御手段は、走行抵抗を、発進後の半クラッチ時にクラッチにかかる負荷から推定し、このクラッチにかかる負荷を、クラッチ伝達トルクと、エンジン回転数およびクラッチ回転数の差の積を積分することにより算出する。ここで、クラッチ伝達トルクは、クラッチストロークとクラッチ伝達トルク値の関係を示す所定のマップにより、クラッチストローク値から求める。
【0006】
クラッチストロークとクラッチ伝達トルクの関係を示すマップを機械式自動変速制御装置に持たせることで、クラッチストロークの値からクラッチ制御中におけるクラッチ伝達トルクを推定し、この値と、エンジン回転数およびクラッチ回転数の差を乗じて積分することにより、クラッチの吸収エネルギーを算出し、このクラッチの吸収エネルギーを走行抵抗とする。そして、クラッチ吸収エネルギーが所定の閾値を超えた場合に、走行抵抗が大きいと判断し、変速ギヤ段のシフトアップを禁止し、保持する。

【0007】
このように、クラッチの吸収エネルギーから走行抵抗を推定することにより、発進直後における走行抵抗の推定が可能となり、発進直後の走行抵抗が、急登坂や重積載により大きい場合には、シフトアップを禁止して、所定の期間、変速ギヤ段を保持することが可能になる。これにより、発進時の変速ギヤ段のハンチングを防止することが可能になる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の機械式自動変速制御装置により、急登坂や重積載による走行抵抗の大きい場合の発進時に、変速ギヤ段のハンチングを防止し、走行フィーリングの悪化やショックの発生の問題をなくすことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の形態を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる機械式自動変速機の構成を示す構成図、図2は、機械式自動変速機の機能構成図、図3は、発進時の変速制御の処理の流れを示すフローチャート、図4は、発進時の走行負荷の説明図、図5はクラッチストロークとクラッチ伝達トルクの関係を示す別の図、図6は、変速マップを示す図である。
【0010】
まず、本発明の形態に係る機械式自動変速機の構成について、図1に沿って説明する。エンジン1は、摩擦クラッチを有するクラッチ機構3と、そのクラッチ機構3を介してエンジン1の出力部に接続された機械式自動変速機構5を備える。クラッチ機構3には、クラッチ用アクチュエータとしてクラッチ用電動モータ(CCU)21が接続され、このクラッチ用電動モータ21が作動することによりクラッチ3が断接される。
【0011】
また、機械式自動変速機構5は、ギヤシフト用電動モータ(GSU)31によって駆動され、変速操作が行われる。このギヤシフト用電動モータ31は、機械式自動変速機構5内にあるセレクト方向およびシフト方向の各ギヤシフト部材を駆動するための2組の電動モータからなる。変速時には、ギヤシフト用電動モータ31によってギヤシフト部材を駆動して、機械式自動変速機構5の噛合状態を切り替えることにより、変速段を所望の状態にシフトする。
【0012】
エンジン1は、エンジン電子コントロールユニット(エンジンECU)43が出力するエンジン制御信号141により制御される。エンジンECU43は、制御プログラムに従って演算処理を実行する中央処理装置(CPU)431、制御プログラム等を格納するリードオンリーメモリ(ROM)435、演算結果等を格納するランダムアクセスメモリ(RAM)433、入出力インタフェース437、タイマ439等を有し、エンジン制御信号141や、エキゾーストブレーキ(エキブレ系)53を駆動するためのエキブレ駆動信号143を生成する。
【0013】
エンジンECU43に入力される信号は、機械式自動変速機構5の出力側に備えられた車速センサ信号により得られる車速信号135、エンジン1の回転数信号137、アクセルペダル9に取り付けられたアクセル踏込み量センサによるアクセル開度信号117、ニュートラル状態にあることを示す信号N位置信号139等であり、入出力インタフェース437を介して入力される。アクセル開度信号117は、例えば、運転者によるアクセルペダル9の踏込み量に応じた電圧値として検出され、A/D変換によりディジタル化された値として入力される。
【0014】
また、クラッチ用電動モータ21およびギヤシフト用電動モータ31は、変速機電子コントロールユニット(変速機ECU)41の制御信号を介して駆動される。変速機ECU41も、エンジンECU43と同様に、制御プログラムに従って演算処理を実行する中央処理装置(CPU)411、後述するエンジン出力制御プログラムを含む制御プログラムや、これも後述するエンジン出力マップ等を格納するリードオンリーメモリ(ROM)415、演算結果等を格納するランダムアクセスメモリ(RAM)413、入出力インタフェース417、タイマ419等を有する。
【0015】
入出力インタフェース417を介して、チェンジレバーユニット13の操作信号であるチェンジレバーユニット信号113、パーキングブレーキ11が引かれるとONとなりパーキングブレーキの作動を伝えるパーキングブレーキ操作信号115、アクセルペダル9に取り付けられたアクセル踏込み量センサによるアクセル開度信号117、ブレーキペダル7が踏込まれるとONになりブレーキの作動を伝えるブレーキペダル操作信号119、クラッチ用電動モータ21が出力するクラッチストローク信号121、ギヤシフト用電動モータ31が出力するシフト・セレクトストローク信号123、クラッチ機構3の出力側回転数であるクラッチ回転数信号125、クラッチ機構3で検出されるクラッチ磨耗・ストローク信号127、機械式自動変速機構5の出力側に備えられた車速センサにより得られる車速信号129、エンジン1の回転数信号131等が変速機ECU41に入力される。
【0016】
そして、変速機ECU41が、これらの入力信号を処理することにより、クラッチ用電動モータ21およびギヤシフト用電動モータ31を駆動するための駆動信号(それぞれ、CCUモータ駆動信号103およびGSUモータ駆動信号105)、電源信号101を、入出力インタフェース417を介して出力する。また、変速機ECU41は、機械式自動変速機構5のギヤ位置を示すギヤ位置信号111をインジケータ15に出力する。変速機ECU41が出力したCCUモータ駆動信号103およびGSUモータ駆動信号105、電源信号101は、パワー回路であるドライブユニット45に入力される。ドライブユニット45はバッテリ47に接続されており、前述のCCUモータ駆動信号103に従ってクラッチ用電動モータ21に電圧を印加し、GSUモータ駆動信号105に従ってギヤシフト用電動モータ31に電圧を印加する。
【0017】
また、変速機ECU41、エンジンECU43、およびその他の図示していない電子コントロールユニット類は、バス42に接続されており、互いに信号をやりとりする。
【0018】
運転者は、チェンジレバーユニット13により、自動シフトモードと手動シフトモードを切り替えて運転することができる。すなわち、運転者がチェンジレバーユニット13のレバーをドライブ“D”に入れている状態では、入力される車両の種々の走行状態(例えば、車速やエンジン負荷)を示す信号を基に、最適変速段へ変速段切り替えを行うよう、変速機ECU41がクラッチ用電動モータ21およびギヤシフト用電動モータ31を制御し、エンジンECU43も、変速機ECU41からバス42を介して送られるシフト信号や、エンジン回転数信号137等に応じてエンジン出力等を制御する(自動シフトモード)。
【0019】
一方、運転者が手動操作で変速段のシフト指令を行うことも可能で、運転者がチェンジレバーユニット13のレバーを“+”あるいは“−”に入れると、現在の変速段を1段上げる、あるいは1段下げるためのチェンジレバー操作信号113が変速機ECU41に入力される。この信号に基づいて変速機ECU41がクラッチ用電動モータ21およびギヤシフト用電動モータ31を制御し、エンジンECU43は、変速機ECU41からバスを介して送られるシフト信号等に応じてエンジン出力等を制御する(手動シフトモード)。
【0020】
すなわち、変速機ECU41は、自動シフトモードの場合、車速やエンジン負荷などの走行状態の情報を基に変速段の切り替えの必要性を判断し、また、手動シフトモードの場合、運転者のシフト指令に基づき、シフト信号を出力し、クラッチ切断−ギヤシフト−クラッチ接合の制御を行う。エンジンECU42は、自動シフトモードと手動シフトモードの如何に関わらず、変速機ECU41が出力したシフト信号を基に、クラッチ切断−ギヤシフト−クラッチ接合を行う間のエンジン1の出力を適切に制御する。
【0021】
図2は、機械式自動変速制御装置の機能構成図である。図2に示すように、機械式自動変速制御装置は、変速機ECU41とエンジンECU43からなる。
変速機ECU41は、シフト信号生成手段33、ギヤシフト制御手段35、クラッチ制御手段23、および、発進制御手段29を有し、これらの手段は、プログラムとして、変速機ECU41のROM415等の記憶装置に格納されている。これらのプログラムをCPU411が実行することにより、変速機ECU41は、自動変速を制御し、車両を走行させる。
すなわち、シフト信号生成手段33が変速ギヤ段を設定し、変速が必要な場合には、シフト信号生成手段33が変速要求を行うことによりクラッチ制御手段23がクラッチの断接の信号を生成し、クラッチ用電動モータ21を制御してクラッチ機構3を作動させる。一方、シフト信号生成手段33からの変速要求により、ギヤシフト制御手段35は、ギヤシフト用電動モータ31を制御して、機械式自動変速機構5を選択された変速ギヤ段へシフトさせる。また、シフト信号生成手段33からの変速要求信号は、バス42を介してエンジンECU43へも送られ、エンジンECU43内のエンジン出力制御手段25は、変速時のエンジン1の出力を、クラッチ制御手段23と連動して制御する。このエンジン出力制御手段25は、プログラムとして、エンジンECU43内のROM435に格納されており、CPU431がこのプログラムを実行することにより、エンジン1を制御する。
【0022】
図2を更に詳しく説明する。
車両の走行時に、運転者がチェンジレバーユニット13の操作により手動あるいは自動変速を選択することにより、手動/自動変速指令37がシフト信号生成手段33に入力される。手動シフトモードの場合には、運転者のチェンジレバーユニット13操作により生成されるシフトアップあるいはシフトダウン要求により、シフト段が決定される。
【0023】
一方、手動/自動変速指令37で自動シフトモードが選択されている場合、シフト信号生成手段33は、通常、変速機ECU41の入出力インタフェース417を介して入力される車速信号129、アクセル開度信号117等の信号を走行状態情報39として受け取り、これらの情報を元に変速ギヤ段を決定する。
すなわち、変速機ECU41のROM415に図6に示すような変速マップ27が例えばテーブルとして格納されており、シフト信号生成手段33は、走行状態情報39としてシフト信号生成手段33に入力される車速信号129およびアクセル開度信号117をキーにこのテーブルを参照することにより、その時点の走行状態に即した変速ギヤ段が選択される。変速ギヤ段が選択されると、シフト信号生成手段33は、クラッチ制御手段23およびギヤシフト制御手段35、エンジンECU43内のエンジン出力制御手段25に信号を送り、それぞれ、クラッチ機構3、機械式自動変速機構5、エンジン1を制御して、ギヤ段の変速を実行する。
【0024】
次に、本実施の形態における車両の発進時の変速制御について説明する。図3は、発進制御手段29の処理の流れを示すフローチャート、図4は、車両発進時の走行負荷の説明図であり、エンジンおよびクラッチの回転数、クラッチストローク、クラッチ吸収エネルギーの経時変化の例を示している。
発進制御手段29は、車両の発進時に、変速機ECU41に入力されるクラッチストローク信号121、クラッチ回転数信号125、エンジン回転数131を元に発進時の走行負荷を推定し、走行負荷が大きい場合には、変速ギヤ段のシフトアップを禁止して、発進時の変速ギヤ段を保持する制御を実行する。
【0025】
走行負荷は、発進時にクラッチ制御手段23により自動的に制御されるクラッチ機構3にかかる負荷から推定する。クラッチ機構3にかかる負荷(クラッチ吸収エネルギー)Eは、クラッチに伝達されるトルクT、エンジン回転数N、クラッチ回転数Nから、
E=∫T・|N−N| ・・・・(1)
で表される。すなわち、クラッチ伝達トルクTと、エンジン回転数Nおよびクラッチ回転数Nの差の積を、半クラッチ状態の時間帯において積分することにより求められる。
【0026】
また、半クラッチ状態におけるクラッチ伝達トルクTは、クラッチストロークにより推定することが可能である。図5は、クラッチストロークとクラッチ伝達トルクの関係を示す図である。すなわち、クラッチが接の場合、最大クラッチ伝達トルクの100%が伝達され、クラッチストロークが断になるほど、クラッチ伝達トルクは小さくなり、クラッチ断において0になる。変速機ECU41のROM415には、このクラッチストロークとクラッチ伝達トルクをテーブルとして表したクラッチ伝達トルク・マップ30が格納されている。
【0027】
図3のフローチャートに沿って、発進時の変速制御の処理の流れを説明する。
まず、クラッチの状態をクラッチストローク信号121により判断する(S201)。クラッチが断の場合(S201の断)は、発進の初動が開始されていないと判断し、S201の処理を繰り返す。すなわち、図4の時間tからtの間に相当する。
【0028】
S201でクラッチの状態が半クラッチになったと判断された場合(S201の半クラッチ)、走行抵抗を求める処理を行う(S202〜S203)。すなわち、まず、変速機ECU41のROM415に格納されているクラッチ伝達トルク・マップ30を、入出力インタフェース417を介して変速機ECU41に入力されるクラッチストローク信号121の値をキーに参照し、クラッチ伝達トルクを読み出しT(時間tのクラッチ伝達トルク)とする(S202)。次に、式(1)に従って、クラッチ吸収エネルギーEを算出する(S203)。すなわち、入出力インタフェース417を介して変速機ECU41に入力されるエンジン回転数信号131とクラッチ回転数信号125から、時間tにおけるエンジン回転数Nとクラッチ回転数Nの差を求め、クラッチ伝達トルクTとの積を求め、この値を半クラッチ状態になったt=tから現時点tまで積分する。これにより、時間tのクラッチ吸収エネルギーEが求まる。
【0029】
次に、クラッチ吸収エネルギーEが大きいか否か、すなわち、走行抵抗が大きいか否かを判定する(S204)。すなわち、クラッチ吸収エネルギーEが前もって定めた閾値α(例えば、α=40kJ)よりも大きいか否かを判定する。クラッチ吸収エネルギーEが閾値αよりも大きい場合(S204のyes)走行付加が大きいと判断する。
【0030】
図4に示すように、t=t以降、半クラッチ状態になると、クラッチ回転数は徐々に上昇し、最後にエンジン回転数に達する。このとき、走行抵抗が小さい場合には(図4の実線)、クラッチ回転数の上昇が早く、例えば、t=tでエンジン回転数に達する。一方、走行抵抗が大きい場合には(図4の点線)、クラッチ回転数の上昇は遅れ、例えば、t=tまでかかる。通常、クラッチ回転数がエンジン回転数に達すると(t=tまたはt=t)、クラッチを接状態にする。
【0031】
クラッチ吸収エネルギーEは、半クラッチ状態になった時点(t=t)を算出の開始点とし、閾値α以下の場合(S204のno)は、S201に戻り、処理を繰り返す。
すなわち、図4の下段に示すように、t=t以降、クラッチ吸収エネルギーEが徐々に増大するが、走行抵抗が大きい場合でも、クラッチ吸収エネルギーEはt=tまでは閾値αを超えない。よって、t=t〜tの間は、S201からS204の処理が繰り返し実行され、クラッチ吸収エネルギーEの値が徐々に増大する。
【0032】
クラッチ吸収エネルギーEが閾値αを越えた場合(S204のyes)、発進制御手段29は、シフト信号生成手段33に対して、変速を禁止する信号を送る。シフト信号生成手段33は、この信号を受信すると、変速マップ27による変速が行われるような場合、例えば、車速とアクセル開度がシフトアップを実行する値になった場合であっても、シフト信号の生成を行わない。これにより、発進時の変速ギヤ段が保持される。
変速ギヤ段の保持は、アクセル開度が10%未満、あるいは、エンジン回転数Nが4000rpm以上になるまで継続される(S206、207)。すなわち、アクセル開度が10%以下の場合(S206のno)、エンジン回転数Nの値を調べ、4000rpm未満の場合は(S207のno)S206に戻り、処理を繰り返す。
アクセル開度が10%未満(S206のyes)またはエンジン回転数Nが4000rpm以上(S207のyes)になった場合、発進制御手段29は、シフト信号生成手段33に制御を戻し(S208)、発進制御処理を終了する。シフト信号生成手段33は、これにより、変速ギヤ段の保持を解除し、変速マップ27に即した変速制御を実行する。
【0033】
一方、走行抵抗が小さい場合、クラッチ吸収エネルギーEの値は閾値αを越えることはなく(図4の下段の実線)、S204はnoを繰り返し、クラッチ回転数がエンジン回転数に達する(t=t)まで、S201からS204の処理が繰り返される。クラッチ回転数がエンジン回転数に達すると、クラッチ機構3は接に制御され、S201の接となり、シフト信号生成手段33に制御を戻し(S208)、発進制御処理を終了する。
【0034】
以上の発進制御処理により発進直後の走行抵抗が推定可能になり、変速マップ27の変速処理を行う車速に達した場合であっても、走行抵抗が大きい場合には、変速を禁止し、変速ギヤ段を発進時のギヤ段に保持することが可能になる。
【0035】
尚、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の改変が可能であり、それらも、本発明の技術範囲に含まれる。例えば、本実施の形態では、クラッチ吸収エネルギーEの閾値αを40kJとしたが、これは、この値に限るものではなく、前もって測定等により他の値に決定することも可能である。また、本実施の形態では、変速の制御をシフト信号生成手段33に戻す時点を判定するアクセル開度を例えば10%、エンジン回転数を例えば4000rpmとしたが、これらの値は例であり、この値に限るものではなく、前もって所定の値に定め、変速機ECU41のROM415に格納しておけばよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の機械式自動変速制御装置により、発進時に、急登坂あるいは重積載等により走行抵抗が大きい場合に、変速動作を禁止し、変速ギヤ段を保持することにより、ハンチングを防止し、滑らかな発進を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態にかかる機械式自動変速機の構成を示す構成図
【図2】機械式自動変速機の機能構成図
【図3】発進制御の処理の流れを示すフローチャート
【図4】発進時の走行負荷の説明図
【図5】クラッチ伝達トルク・マップの説明図
【図6】変速マップの説明図
【符号の説明】
【0038】
1………エンジン
3………クラッチ機構
5………機械式自動変速機構
21………クラッチ用電動モータ
23………クラッチ制御手段
25………エンジン出力制御手段
27………変速マップ
29………発進制御手段
30………クラッチ伝達トルク・マップ
33………シフト信号生成手段
35………ギヤシフト制御手段
41………変速機ECU
43………エンジンECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の目標変速段を、予め設定された変速マップに基づいて、前記車両の運転状況に応じて自動的に変更しうる機械式自動変速装置において、
車両の発進時の走行抵抗が大きい場合に、変速マップに基づいた変速を禁止し、当初の変速段を保持する発進制御手段を有し、
前記発進制御手段は、前記走行抵抗を、発進後の半クラッチ時にクラッチにかかる負荷から推定することを特徴とする請求項1記載の機械式自動変速装置。
【請求項2】
前記発進制御手段は、前記クラッチにかかる負荷を、クラッチ伝達トルクと、エンジン回転数およびクラッチ回転数の差の積を積分することにより算出することを特徴とする請求項2記載の機械式自動変速装置。
【請求項3】
前記発進制御手段は、前記クラッチ伝達トルクを、クラッチストロークとクラッチ伝達トルク値の関係を示す所定のマップにより、クラッチストローク値から求めることを特徴とする請求項3記載の機械式自動変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−132663(P2006−132663A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−322371(P2004−322371)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】