説明

機械要素部品の潤滑方法

【課題】 低速・高荷重、高温下の境界潤滑条件で使用される転がり軸受や継手等の機械要素部品の潤滑方法を提供する。
【解決手段】 転がり軸受の転動面や継手の合わせ面等の機械要素部品の接触面に予め、あるいは使用中にシリカ被膜を形成する。これにより、潤滑膜が厚く形成でき、安定してメタル接触を防止し、十分な潤滑状態が維持でき、 転動面や合わせ面等の接触面の摩耗、 疲労損傷を防止して、転がり軸受や継手の長寿命化が達成できる。シリカ被膜は、 予め転動面や合わせ面等の接触面にシリカを蒸着または塗布焼結して形成するか、あるいは基油または基グリース中に、平均粒径40nm以下の超微細シリカ粒子、あるいはさらにポリマーを含有する潤滑剤を用いて、形成することが好ましい。また、基油または基グリースを構成する潤滑油の粘度を低粘度としてもよい。これにより、潤滑剤の供給性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
 本発明は、機械要素部品の潤滑方法に係り、とくに低速・高荷重、あるいはさらに高温といった環境の、境界潤滑条件下で使用される機械要素部品の潤滑方法に関する。なお、本発明でいう、「機械要素部品」とは、転がり軸受や、ギヤカップリング等の継手を含むものとする。
【背景技術】
【0002】
 一般に、産業機械設備の回転運動部分には、機械要素部品として多数の転がり軸受、継手が使用されている。なかでも、圧延機、連続鋳造設備等の製鉄関連設備の使用環境は苛酷であり、そこで使用される転がり軸受は、低速、高荷重、高温といった、軸受の潤滑には不利な環境下で、しかも粉塵、水等の外来性異物の影響により、一般に短寿命となっている。
【0003】
転がり軸受の潤滑界面には、一般に潤滑油膜が形成され、金属同士の接触(メタル接触)を回避して、軸受の摩擦・摩耗を低減している。しかし、低速、高荷重、あるいはさらに高温といった条件下では、いわゆる境界潤滑領域となりやすく、通常の潤滑剤(鉱油、グリース)では潤滑界面に形成される潤滑油膜の厚さが極めて薄くなり、メタル接触が生じやすくなる。このため、発熱、摩耗、摩耗粉による圧痕の生成、局部的疲労剥離損傷等が生じ、軸受寿命が通常の1 /2〜1/100 に低下する。
【0004】
 このような問題に対し、潤滑剤に油性向上剤、極圧添加剤や固体潤滑剤を添加して、軸受の潤滑性を向上させようとする方法が従来から考えられている。油性向上剤は、極性を有する分子を主とし、金属表面に吸着して金属表面に吸着膜を形成し、また、極圧添加剤は、金属表面と反応し、金属表面に反応被膜や付着膜を生成し、いずれもメタル接触を防止しようとするものである。また、固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、グラファイト等のように金属表面に付着してすべりやすい層を形成し、境界潤滑条件下での滑り抵抗を低減しようとするものである。
【0005】
 しかしながら、潤滑剤に油性向上剤、極圧添加剤や固体潤滑剤を添加することにより、転がり軸受の潤滑性向上に対しある程度の効果は認められるものの、潤滑条件のある範囲までに限定されるものであり、さらに厳しい潤滑条件下では顕著な効果は認められなかった。厳しい潤滑条件下では依然として、強いメタル接触が生じて軸受寿命が短寿命となっていた。
【0006】
 また、継手、とくにギヤカップリングでは、2本の軸に取り付けられた雄および雌のギヤが噛み合い動力を伝達している。雄、雌のギヤの噛み合いに僅かの隙間が存在することにより、2本の軸のずれを吸収している。このようなギヤカップリングにおけるギヤの合わせ面には、潤滑剤として油やグリースが密封されている。このようなギヤカップリングでは、雄、雌のギアの相対速度は極めて小さく、境界潤滑状態となりやすい。しかも、ギヤカップリングの合わせ面隙間が非常に狭く、潤滑剤を補給しても合わせ面に潤滑剤が入り込みにくく、潤滑不足になりやすく、摩耗、疲労剥離が起こりやすいという問題があった。
【0007】
 このような問題に対し、例えば特許文献1には、基油と、金属石けん系化合物またはウレア化合物から選択される増ちょう剤と、粒径2μm以下の無機系化合物充填剤とを含有するグリース組成物が提案されている。無機系化合物充填剤をグリース組成物に配合することにより、増ちょう剤が形成するゲル構造が強化され、グリース膜の形成能力が大きくなり、衝撃荷重に対するダンピング効果が増大し、剥離防止効果が増大するとしている。
【0008】
 また、特許文献2には、界面凹部に介在しメタル接触部の面圧を低下させ、微小ころとして作用し、メタル接触の凝着部を研摩する等の作用を有する超微細シリカ粒子および/または微細シリカ粒子を基油または基グリース中に含有させ、転がり軸受での高潤滑性を維持する、転がり軸受用潤滑剤が提案されている。
【特許文献1】特開平9−169989号公報
【特許文献2】特開2000-105473 号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
 しかしながら、特許文献1に記載された技術によっても、低速・高荷重、高温下という厳しい環境下では、十分な潤滑状態を維持できないという問題があった。
【0010】
 また、特許文献2に記載された技術では、基油の粘度や基グリースの見掛けの粘度によっては、上記したシリカ粒子の作用を十分に発揮できない場合があるという問題が残されていた。
【0011】
 本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、低速・高荷重、高温下さらには揺動下という厳しい環境である境界潤滑条件下で使用される機械要素部品、例えば、転がり軸受、ギヤカップリング等の継手、が優れた潤滑状態を維持できる潤滑方法を提案することを目的とする。なお、本発明でいう潤滑剤は、潤滑油およびグリースを含むものとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
 本発明者らは、上記した課題を達成するために、転がり軸受の潤滑に及ぼす各種要因について鋭意研究した。その結果、転がり軸受の転動面に予めおよび/または使用中にシリカ被膜を形成することにより、低速・高荷重、高温下、あるいは揺動運動下という、境界潤滑条件下の厳しい環境でも、メタル接触を防止でき、十分な潤滑状態が維持でき、 転動面の摩耗、疲労損傷を防止して、転がり軸受の長寿命化が図れることを見いだした。
【0013】
 本発明は、上記した知見に基づいて、さらに検討して完成されたものである。
【0014】
 すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)潤滑剤を封入および/または供給する機械要素部品の潤滑方法において、前記機械要素部品の接触面にシリカ被膜を形成することを特徴とする機械要素部品の潤滑方法。
(2)(1)において、前記シリカ被膜を、使用中に形成することを特徴とする機械要素部品の潤滑方法。
(3)(1)または(2)において、前記シリカ被膜を、予め形成することを特徴とする機械要素部品の潤滑方法。
(4)(2)または(3)において、前記封入および/または供給する潤滑剤を、基油または基グリース中に、表面に水酸基を有する平均粒径40nm以下の超微細シリカ粒子を潤滑剤全量に対し1〜20質量%含有する潤滑剤として、前記シリカ被膜を形成することを特徴とする機械要素部品の潤滑方法。
(5)(3)において、前記機械要素部品の接触面にシリカを蒸着または塗布焼結して、前記シリカ被膜を形成することを特徴とする機械要素部品の潤滑方法。
(6)(4)において、前記封入および/または供給する潤滑剤が、さらにポリマーを潤滑剤全量に対し、5〜40質量%含有することを特徴とする機械要素部品の潤滑方法。(7)(4)において、前記封入および/または供給する潤滑剤が、基油、または基グリースの主構成成分である基油を、40℃での動粘度が200mm/s以下である潤滑油とする潤滑剤であることを特徴とする機械要素部品の潤滑方法。
(8)(1)ないし(7)のいずれかにおいて、前記機械要素部品が、次(1)式
  λ=h/√(σ1+σ22) ………(1)
(ここで、λ:油膜パラメータ、h:油膜厚さ(μm)、σ1,σ2 : 機械要素部品の2物体の表面粗さ(μm))
で定義される油膜パラメータλが1未満の領域となる機械要素部品であることを特徴とする機械要素部品の潤滑方法。
(9)(1)ないし(8)のいずれかにおいて、前記機械要素部品が転がり軸受または継手であり、前記機械要素部品の接触面が転がり軸受の転動面または継手の合わせ面である機械要素部品の潤滑方法。
【0015】
 なお、本発明でいう、平均粒径は、光学顕微鏡または電子顕微鏡観察により、数百個の粒子について一次粒子径を測定して得られた値の平均値を使用するものとする。
【発明の効果】
【0016】
 本発明によれば、低速・高荷重・高温、あるいは揺動運動下という厳しい使用環境下においても、転がり軸受、継手等の機械要素部品の長寿命化が期待でき、機械部品の保守の頻度が低減し、さらに生産性が向上するなど、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
 一般に、機械要素部品の潤滑は、潤滑剤を機械要素部品に封入および/または供給して行なう。例えば転がり軸受であれば、潤滑剤を軸受に封入および/または供給して行なう。本発明では、さらに機械要素部品の接触面、例えば、転がり軸受であれば転動面、継手であるギアカップリングであればギアの合わせ面に、シリカ被膜を形成して行なう。例えば、転がり軸受の転動面にシリカ被膜を形成することにより、強固で厚い潤滑膜を形成でき、安定してメタル接触を防止し、十分な潤滑状態が維持でき、 転動面の摩耗、疲労損傷を防止して、転がり軸受の長寿命化が達成できる。また、例えば継手の合わせ面にシリカ被膜を形成することにより、強固で厚い潤滑膜を形成でき、安定してメタル接触を軽減して、潤滑剤の流入不足を補って損傷の軽減ができる。
【0018】
 なお、シリカ被膜は、機械要素部品の接触面に予め形成してもよく、また機械要素部品の使用中に形成してもよく、また両方を併用してもよい。
【0019】
 シリカ被膜を予め形成する方法としては、軸受の転動面等の機械要素部品の接触面にシリカ(SiO2) を蒸着または塗布焼結する方法が好ましい。蒸着方法としては、通常公知のPVD、CVD法がいずれも好適である。また、塗布焼結する方法としては、好ましくはペースト状としたシリカ粉末を、軸受の転動面や継手の合わせ面等の、機械要素部品の接触面に刷毛等で塗布したのち、焼結して所望厚さのシリカ被膜とすることが好ましい。なお、本発明において、予めシリカ被膜を形成する方法はこれに限定されないことは言うまでもない。また、予め形成するシリカ被膜の厚さは10〜100 nmとすることが好ましい。被膜の厚さが10nm未満では十分な潤滑膜とならず、一方、100nm を超えて厚くなると被膜が剥離しやすいという問題がある。
【0020】
 シリカ被膜を機械要素部品、例えば軸受の転動面、に運転(使用)途中で形成する方法としては、軸受、継手等の機械要素部品に封入および/または供給する潤滑剤中に、表面に水酸基を有する超微細シリカ粒子を含有させて行なうことが好ましい。表面に水酸基を有する超微細シリカ粒子は、耐熱性を有し、 硬く耐摩耗性を有した吸着被膜を、軸受の転動面や継手の合わせ面等の、機械要素部品の接触面に形成しやすいという有利な特性を有している。このようなシリカ被膜が形成されることにより軸受、継手等の機械要素部品の耐摩耗性、 耐疲労性が顕著に向上する。
【0021】
 基油または基グリース中に、表面に水酸基を有する平均粒径40nm以下の超微細シリカ粒子を含有させた潤滑剤を、予め軸受、継手等の機械要素部品中に封入しておくか、および/または運転中に連続的あるいは間歇的に供給すると、軸受、継手等の機械要素部品の稼動に伴い軸受の転動面、継手合わせ面等の機械要素部品の接触面にシリカ被膜が形成される。
【0022】
 基油または基グリース中に含有するシリカ粒子の平均粒径が40nmを超えて大きくなると、吸着力が弱く転動面に十分なシリカ被膜が形成されない。なお、使用するシリカ粒子の好ましい平均粒径は30nm以下であり、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm未満である。なお、超微細シリカ粒子の粒径が4nm 未満では、均一な粒子が得にくいため好適な潤滑効果が得にくくなるという問題がある。
【0023】
 また、含有する超微細シリカ粒子は、潤滑剤中に潤滑剤全量に対し1〜20質量%含有することが好ましい。超微細シリカ粒子の含有量が1質量%未満では、シリカ被膜の形成が認められない。一方、20質量%を超えると、増粘効果が大きくなり、潤滑剤が均一に供給できなくなるという問題がある。なお、より好ましくは2〜15質量%であり、さらに好ましくは3〜10質量%である。
【0024】
 上記したように、本発明で使用する潤滑剤は、基油中または基グリース中に、好ましくは上記したような平均粒径を有する超微細シリカ粒子を含有する。
【0025】
 使用する基油または基グリースは、その使用環境に応じ、潤滑剤に要求される動粘度、粘性指数等の潤滑剤特性に合致したものを適用すればよく、とくに限定されない。基油としては、鉱物油系、合成油系、天然油系、シリコンオイル等が好ましい。また、基グリースとしては、基油、好ましくは上記した基油にリチウム石鹸、カルシウム石鹸、アルミニウム複合石鹸、リチウム複合石鹸、ウレア等の増ちょう剤を添加したものが好ましい。
【0026】
 基油または基グリース中にナノオーダーの超微細シリカ粒子を混合することにより、潤滑油としての粘度が増加し、また増ちょう効果がある。基油または基グリースの選定に当たっては、超微細シリカ粒子の増粘効果、増ちょう効果を考慮する必要がある。
【0027】
 鉱物油系基油としては、鉱油を減圧蒸留し、溶剤精製、水素精製、硫酸洗浄、白土処理、溶剤脱ろうなどを適宜組み合わせて不安定成分、ワックス分を取り除いたものを用いることができる。
【0028】
 合成油系基油としては、ポリαオレフィン、ポリブテン等の脂肪族系炭化水素油、アルキルベンゼン等の芳香族系炭化水素油、ポリオールエステル、リン酸エステル等のエステル系油、ポリフェニルエーテル、ポリグリコール等のエーテル系油などが挙げられる。
【0029】
 なお、本発明で使用する潤滑剤は、基油または基グリース中に上記した粒径の超微細シリカ粒子を添加し、例えば、ホモジナイザー等による機械的攪拌、あるいは3本ロール処理で、均一に混合して製造されるのが好ましい。
【0030】
 上記したように軸受の転動面や、継手の合わせ面等の機械要素部品の接触面に、予めおよび/または使用中にシリカ被膜を形成する潤滑方法は、低速・高荷重、あるいは高温の環境下で、あるいはさらに異物の侵入が多い環境下で使用される、例えば、連続鋳造機のガイドロール用転がり軸受、揺動する転がり軸受、回転方向が逆転するロールを支持する転がり軸受や、ギヤカップリングに適用することが好ましく、また、滑りが発生しやすい軸受、例えば、玉軸受、自動調芯軸受等に適用することが好ましい。
【0031】
 また、高荷重でかつ揺動運動のため接触面へ潤滑剤が導入されにくいユニバーサルジョイント用転がり軸受の場合には、上記したように、基油または基グリース中に超微細シリカ粒子を含有することに加えて、さらに転動面への超微細シリカ粒子の付着性向上と、潤滑剤への高粘性付与による油膜形成維持を考慮して、ポリマーを含有させた潤滑剤を使用することが好ましい。すなわち、ユニバーサルジョイントに使用される転がり軸受用として好適な潤滑剤は、基油または基グリース中に、平均粒径40nm以下の超微細シリカ粒子を潤滑剤全量に対し合計で1〜20質量%含有し、さらにポリマーを5〜40質量%含有させた潤滑剤である。
【0032】
 潤滑剤に含有されるポリマーとしては、ポリブデン、イソプレンポリマー、オレフィンコポリマー、ポリエチレン、酸化ポリエチレン、スチレンイソプレンポリマー等が好適である。
【0033】
 潤滑剤中に、超微細シリカ粒子に加えて、ポリマーを含有することにより、転動面等の接触面に超微細シリカ粒子により形成されるシリカ被膜の付着性が向上するとともに、さらに、潤滑剤の見掛け粘度が大きくなることより所定厚さの油膜形成が維持されやすくなるという効果が期待できる。潤滑剤中に含有されるポリマーは、潤滑剤全量に対し、5〜40質量%とすることが好ましい。ポリマーの含有量が、5質量%未満では、上記した効果が認められない。一方、40質量%を超えると、見掛け粘度が大きくなりすぎて、潤滑剤の供給が困難となるという問題がある。
【0034】
 また、自動給脂系、集中給脂系で用いられる転がり軸受に好適な潤滑剤としては、基油、または基グリースの主構成成分である基油を、40℃での動粘度が200mm2/s以下である潤滑油とし、かつ平均粒径40nm以下の超微細シリカ粒子を潤滑剤全量に対し合計で1〜20質量%含有する潤滑剤とすることが好ましい。潤滑剤の基油を、40℃での動粘度が200mm2/s以下の潤滑油とすることにより、潤滑剤の見掛け粘度が小さくなり、自動給脂系および/または集中給脂系システムにおける配管圧損を低減でき、潤滑剤の供給性が向上する。また、潤滑剤の見掛け粘度を小さくすることにより、油膜の形成性および超微細シリカ粒子により形成されるシリカ被膜の付着性の向上効果は小さくなるが、転動面へのシリカの導入、シリカ被膜の更新が促進されるという効果が顕著となる。
【0035】
 本発明で好適に使用できる潤滑剤は、上記したように基油または基グリース中に超微細シリカ粒子と、あるいはさらにポリマーとを所定量含有したうえ、さらに従来公知の油性向上剤、極圧添加剤、固体潤滑剤、防錆剤、増ちょう剤、界面活性剤等の各種添加剤を、必要に応じ添加してもよいことはいうまでもない。
【0036】
 例えば、油性向上剤としては、オレイン酸、ステアリン酸のほか、高級アルコール、エステル、アミン等が、また、極圧添加剤としては、硫化油脂等の硫黄系化合物、リン酸トリクレジル等のリン系化合物が、固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、グラファイト、有機モリブデン、窒化ホウ素等が例示できる。
【0037】
 また、本発明では、潤滑剤の供給は、例えば、自動給脂系および/または集中給脂系、あるいはグリースガン等による手動給脂系、あるいは密閉系がいずれも適用できる。
【0038】
 なお、上記した本発明の潤滑方法は、転がり軸受や継手等の機械要素部品が、次(1)式
  λ=h/√(σ12+σ22) ………(1)
(ここで、λ:油膜パラメータ、h:油膜厚さ(μm)、σ1,σ2 :機械要素部品の2物体、例えば転がり軸受の2物体(コロまたは玉と内輪または外輪)、の表面粗さ(μm))
で定義される油膜パラメータλが1未満の領域となる転がり軸受等の機械要素部品に、適用することが好ましい。油膜パラメータλが1以上の領域となる転がり軸受等の機械要素部品では、従来の潤滑剤を用いても、油膜が十分に形成され金属接触が生じにくい状態であり、本発明の潤滑方法を適用しても潤滑剤コストの上昇を招くだけである。なお、油膜パラメータλが1未満の領域となる転がり軸受としては、連続鋳造機のガイドロール用転がり軸受、ユニバーサルジョイント用転がり軸受、揺動する転がり軸受、回転方向が逆転するロールを支持する転がり軸受等が例示できる。
【実施例1】
【0039】
(実施例1)
 本発明の効果を確認するため、転がり軸受の回転摩耗試験を実施した。
【0040】
 自動調芯ころ軸受に静定格荷重の1/4 のラジアル荷重を負荷し、80℃の高温雰囲気中で潤滑剤を封入し、回転数10rpm の速度で、所定時間運転した。運転後、軸受を解体し、外輪軌道面について摩耗プロフィルを測定するとともに、被膜の形成の有無をオージェ電子分光法で調査した。軸受に封入する潤滑剤は、耐熱ウレアグリースおよびパラフィン系鉱物油(動粘度400 mm2/sec 、at40℃)に平均粒径20nmの超微細シリカ粒子を12質量%含有したグリースとした。なお、本使用条件においては、基油粘度から計算される油膜厚さh:0.05μm、ころおよび内外輪の表面粗さ:0.2 μmであり、(1)式の油膜パラメータλは1未満の0.18となる。
【0041】
 その結果、潤滑剤として超微細シリカ粒子を含有した潤滑剤を用いた場合 (本発明例)には、転動面表面にシリカ被膜が40nm程度形成され、超微細シリカ粒子を含まない潤滑剤を用いた場合 (比較例)に比べ、外輪軌道面の摩耗量が1/10以下となり、転がり軸受の長寿命化が達成できる。
【0042】
(実施例2)
 転動面に予め厚み:70nmのシリカ被膜をPVDにより蒸着した自動調芯ころ軸受を用意し、実施例1と同様の条件で回転摩耗試験を実施した。その結果、潤滑剤として超微細シリカ粒子を含有した潤滑剤を用いた場合 (本発明例)には、摩耗量がさらに少なくなり、実施例1における超微細シリカ粒子を含まない潤滑剤を用いた場合 (比較例)に比べ、外輪軌道面の摩耗量が1/15以下となり、さら転がり軸受の長寿命化が達成できる。
【0043】
(実施例3)
 軸受に封入する潤滑剤を、基油としてパラフィン系鉱物油(動粘度400 mm2/sec 、at40℃)を、増ちょう剤としてウレアを含み、さらに潤滑剤全量に対する質量%で、平均粒径20nmの超微細シリカ粒子を12質量%含有し、さらにポリマーとしてポリブデンを潤滑剤全量に対し、30質量%含有したグリースとし、実施例1と同様に、自動調芯ころ軸受に静定格荷重の1/2 のラジアル荷重を負荷し、80℃の高温雰囲気中で潤滑剤を封入し、回転数10rpm の速度で、所定時間運転した。運転後、軸受を解体し、外輪軌道面について摩耗プロフィルを測定するとともに、被膜の形成の有無をオージェ電子分光法で調査した。その結果、転動面表面にシリカ被膜が50nm程度形成され、実施例1における超微細シリカ粒子を含まない潤滑剤を用いた場合 (比較例)に比べ、負荷条件が厳しくなったにも係らず、外輪軌道面の摩耗量が1/5以下となり、転がり軸受の長寿命化が達成できることがわかる。
(実施例4)
 連鋳機のロール駆動用モータと減速機間のギアカップリングに、潤滑剤を封入し、回転数60rpm の速度で、連続運転し、破損に至るまでの所要時間を測定した。ギアカップリングに封入する潤滑剤は、耐熱ウレアグリースおよびパラフィン系鉱物油(動粘度400mm2/sec 、at40℃)に平均粒径20nmの超微細シリカ粒子を12質量%含有したグリースと(本発明例)した。なお、比較例では、潤滑剤に市販の耐熱ウレアグリースを用いた。本発明例は、比較例に比べ1.5倍のギアカップリングの寿命延長が実現できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤を封入および/または供給する機械要素部品の潤滑方法において、前記機械要素部品の接触面にシリカ被膜を形成することを特徴とする機械要素部品の潤滑方法。
【請求項2】
前記シリカ被膜を、使用中に形成することを特徴とする請求項1に記載の機械要素部品の潤滑方法。
【請求項3】
前記シリカ被膜を、予め形成することを特徴とする請求項1または2に記載の機械要素部品の潤滑方法。
【請求項4】
前記封入および/または供給する潤滑剤を、基油または基グリース中に、表面に水酸基を有する平均粒径40nm以下の超微細シリカ粒子を潤滑剤全量に対し1〜20質量%含有する潤滑剤として、前記シリカ被膜を形成することを特徴とする請求項2または3に記載の機械要素部品の潤滑方法。
【請求項5】
前記機械要素部品の接触面にシリカを蒸着または塗布焼結して、前記シリカ被膜を形成することを特徴とする請求項3に記載の機械要素部品の潤滑方法。
【請求項6】
前記封入および/または供給する潤滑剤が、さらにポリマーを潤滑剤全量に対し、5〜40質量%含有することを特徴とする請求項4に記載の機械要素部品の潤滑方法。
【請求項7】
前記封入および/または供給する潤滑剤が、基油、または基グリースの主構成成分である基油を、40℃での動粘度が200mm/s以下である潤滑油とする潤滑剤であることを特徴とする請求項4に記載の機械要素部品の潤滑方法。
【請求項8】
前記機械要素部品が、下記(1)式で定義される油膜パラメータλが1未満の領域となる機械要素部品であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の機械要素部品の潤滑方法。
                 記
  λ=h/√(σ1+σ22) ………(1)
   ここで、λ:油膜パラメータ
       h:油膜厚さ(μm)
  σ1,σ2 : 機械要素部品の2物体の表面粗さ(μm)
【請求項9】
前記機械要素部品が転がり軸受または継手であり、前記機械要素部品の接触面が転がり軸受の転動面または継手の合わせ面である請求項1ないし8のいずれかに記載の機械要素部品の潤滑方法。

【公開番号】特開2004−76003(P2004−76003A)
【公開日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−279033(P2003−279033)
【出願日】平成15年7月24日(2003.7.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(390022275)株式会社日本礦油 (25)
【Fターム(参考)】