説明

機械設備の異常診断装置及び異常診断方法

【課題】 実際の回転速度を直接取り込むことができない場合でも、診断精度を確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる機械設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供する。
【解決手段】 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品12を備えた、機械設備10の異常診断装置は、機械設備10から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部20と、電気信号の波形の周波数分析を行い、周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と部品12に起因した周波数成分とを可変な許容幅を持って比較照合し、その照合結果に基づき部品12の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部32と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械設備、例えば、減速機や電動機あるいは風車や鉄道車両等に用いられる回転或いは摺動する部品の異常診断装置及び異常診断方法に関し、特に、該部品の異常の有無や前兆、或いはその異常部位を特定する機械設備の異常診断装置及び異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両や発電用風車等の回転部品は、一定期間使用した後に、軸受やその他の回転部品について、損傷や摩耗等の異常の有無が定期的に検査される。この定期的な検査は、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することにより行われ、回転部品に発生した損傷や摩耗は、担当者が目視による検査により発見するようにしている。そして、検査で発見される主な欠陥としては、軸受の場合、異物の噛み込み等によって生ずる圧痕、転がり疲れによる剥離、その他の摩耗等、歯車の場合には、歯部の欠損や摩耗等、車輪の場合には、フラット等の摩耗があり、いずれの場合も新品にはない凹凸や摩耗等が発見されれば、新品に交換される。
【0003】
また、回転部品が組み込まれた機械装置を分解することなく、実稼動状態で回転部品の異常診断を行う様々な方法が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照。)。最も一般的なものとしては、特許文献1に記載されるように、軸受部に加速度計を設置し、軸受部の振動加速度を計測し、更に、この信号にFFT(高速フーリエ変換)処理を行って振動発生周波数成分の信号を抽出して診断を行う方法が知られている。
【0004】
特許文献4に記載の装置では、鉄道車両において軸受箱に温度センサを装着し、検出温度が基準値以上に上昇した時に異常信号を運転台に発するか、又は地上側から温度を計測して軸受の異常監視を行っている。また、特許文献5に記載の装置では、一般の機械装置において、軸受の状態を振動または温度センサで常時監視し、各値が基準値以上に上昇した場合に、異常警報を出力したり、装置の稼動を停止させたりする。
【特許文献1】特開2002−22617号公報
【特許文献2】特開2003−202276号公報
【特許文献3】特開2004−257836号公報
【特許文献4】特開平9−79915号公報
【特許文献5】特開平11−125244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記機械設備全体を分解して、担当者が目視で検査する方法では、装置から回転体や摺動部材を取り外す分解作業や、検査済みの回転体や摺動部材を再度装置に組込み直す組込み作業に多大な労力がかかり、装置の保守コストに大幅な増大を招くという問題があった。
【0006】
また、組立て直す際に検査前にはなかった打痕を回転体や摺動部材につけてしまう等、検査自体が回転体や摺動部材の欠陥を生む原因となる可能性があった。また、限られた時間内で多数の軸受を目視で検査するため、欠陥を見落とす可能性が残るという問題もあった。さらに、この欠陥の程度の判断も個人差があり実質的には欠陥がなくても部品交換が行われるため、無駄なコストがかかることにもなる。
【0007】
また、特許文献1に記載の異常診断方法では、回転速度に基づき振動発生周波数成分を算出しているが、実際の回転速度を直接取り込むことができない場合に、算出に用いた回転速度データが実際の回転速度とずれを生じていると、診断精度が悪くなるという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献4に記載の装置では、軸受の温度が基準値以上に上昇したか否かで異常の有無を判定しているため、異常が検知された場合には既に損傷の程度が酷く、継続して使用することが不可能なことが多く、機械装置を緊急に停止させなければならないという問題がある。
【0009】
また、特許文献5に記載の装置では、異常警報が発せられて機械装置の稼動が停止しても、異常の部位の特定をすることができないという問題があり、また、ノイズ等の影響で誤動作が生じて異常警報を発したりするなど、安定稼動が妨げられる問題がある。
【0010】
さらに、回転部品として多数の軸受を使用している機械設備では、軸受の内外径、幅寸法が同じであれば、内部の設計寸法諸元が異なっていても使用することがある。この場合、軸受の設計寸法諸元が異なると軸受の異常診断に使用される設定値も異なり、診断が複雑になる。このため、特定の部位に同じ設計寸法諸元の部品を組み込むようにすることもあり、組み立て時の作業効率が悪くなるという問題がある。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、実際の回転速度を直接取り込むことができない場合でも、診断精度を確保しつつ、異常の有無や異常の部位を特定することができる機械設備の異常診断装置及び異常診断方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、設計寸法諸元が互いに異なる複数の回転部品が任意の部位に組み込まれても異常の有無や異常の部位を特定することができる機械設備の異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、下記の構成により達成される。
(1) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを可変な許容幅を持って比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断装置。
(2) 回転部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記回転部品に起因した周波数成分とを許容幅を持って比較照合し、その照合結果に基づき前記回転部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備える機械設備の異常診断装置であって、
前記許容幅は、前記回転部品の回転速度と前記回転部品の設計寸法諸元とから算出される上限値と下限値を有する領域を少なくとも一つの領域に分割し、該各分割領域の中心値を求め、該中心値に対して与えられる任意の大きさの少なくとも一つの許容幅であり、
前記信号処理部は、前記実測スペクトルデータの周波数成分と前記回転部品に起因した周波数成分とを、前記少なくとも一つの許容幅毎に比較照合することを特徴とする機械設備の異常診断装置。
(3) 前記許容幅は、前記回転部品が互いに異なる設計寸法諸元を有する複数の回転部品を備える場合と、前記回転部品の回転速度が変動した場合の少なくとも一方において、与えられることを特徴とする(2)に記載の機械設備の異常診断装置。
(4) 前記許容幅は、前記周波数成分が高調波成分となるにつれて大きくなることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(5) 前記許容幅は、前記周波数成分の周波数帯域に応じて増減することを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(6) 前記許容幅は、回転速度に応じて増減することを特徴とする(1)または(2)に記載の機械設備の異常診断装置。
(7) 前記信号処理部は、前記検出された信号に増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方を施し、その処理された波形にエンベロープ処理を行うことを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(8) 前記検出部は、前記機械設備から発生する振動を検出するセンサに加えて、前記機械設備の温度を検出するセンサと前記回転部品の回転速度を検出する回転速度センサとの少なくとも一方が単一の筐体内に収容される一体型センサを有していることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(9) 前記機械設備は、前記回転部品である軸受と該軸受を固定する軸受箱を備え、
前記一体型センサは、前記軸受箱の平坦部に固定されることを特徴とする(8)に記載の機械設備の異常診断装置。
(10) 前記信号処理部による判定結果を伝送するデータ伝送手段を有することを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の異常診断装置。
(11) 前記信号処理部による処理、及び前記判定結果を制御系に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載の異常診断装置。
(12) 前記機械設備は鉄道車両用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(13) 前記機械設備は風車用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(14) 前記機械設備は工作機械主軸用軸受装置であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
(15) 回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
該分析工程で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを可変な許容幅を持って比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、を備えることを特徴とする機械設備の異常診断方法。
(16) 回転部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
前記回転部品に起因した周波数成分に対して、前記回転部品の回転速度と前記回転部品の設計寸法諸元とから算出される上限値と下限値を有する領域を少なくとも一つの領域に分割し、該各分割領域の中心値を求め、該中心値に対して与えられる任意の大きさを持った少なくとも一つの許容幅を設定する工程と、
該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記回転部品に起因した周波数成分とを前記少なくとも一つの許容幅毎に比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記回転部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断方法。
なお、前記回転部品の回転速度と前記回転部品の設計寸法諸元とから算出される上限値と下限値を有する領域を少なくとも一つの領域に分割するとは、分割しない場合を含むことを意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを可変な許容幅を持って比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定するようにしたので、実際の回転速度を直接取り込むことができない場合に、算出に用いた回転速度データが実際の回転速度とずれを生じているとしても、異常の有無や異常部位の特定を精度良く行うことができる。
【0014】
また、本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、簡単な構成で回転或いは摺動する部品が組み込まれている機械装置を分解することなく、異常の有無と異常の部位を特定することができ、装置の分解や組立にかかる手間を軽減できると共に、分解や組立に伴う該部品への損傷を防止することができる。
【0015】
また、本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、回転部品の回転速度と回転部品の設計寸法諸元とから算出される上限値と下限値を有する領域を少なくとも一つの領域に分割し、該各分割領域の中心値を求め、中心値に対して与えられる任意の大きさの少なくとも一つの許容幅を持って比較照合するので、設計寸法諸元が互いに異なる複数の回転部品が任意の部位に組み込まれる場合や回転部品の回転速度が変動した場合でも異常の有無や異常の部位を特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の各実施形態に係る機械設備の異常診断装置について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
(第1実施形態)
まず、図1〜4を参照して、第1実施形態の機械設備の異常診断装置について説明する。図1に示されるように、異常診断装置は、機械設備10から発生する信号を検出する検出部20と、検出部20の出力した電気信号から機械設備10の異常等の状態を判定するための信号処理部32及び機械設備10を駆動制御する制御部34とを備えた制御器30と、モニタや警報機等の出力装置40とを備える。
【0018】
機械設備10には、回転部品である転がり軸受12が設けられており、転がり軸受12は、回転軸(図示せず)に外嵌される回転輪である内輪14と、ハウジング(図示せず)に内嵌される固定輪である外輪16と、内輪14及び外輪16との間に配置された複数の転動体である玉18と、玉18を転動自在に保持する保持器(図示せず)とを備える。
【0019】
検出部20は、運転中に機械設備10から発生する振動を検出するセンサ22を備える。センサ22は、ボルト固定、接着、ボルト固定と接着、或いはモールド材による埋め込み等によってハウジングの外輪近傍に固定されている。なお、ボルト固定の場合には、回り止め機能を備えるようにしてもよい。また、センサ22をモールドする場合には、防水性が図られると共に、外部からの加振に対する防振性が向上するため、センサ22自体の信頼性を飛躍的に向上することができる。
【0020】
また、センサ22は、振動を検出可能なものであればよく、振動センサ、AE(acoustic emission)センサ、超音波センサ、及びショックパルスセンサ等や、加速度、速度、歪み、応力、変位型等、振動を電気信号化できるものであればよい。また、ノイズが多いような機械装置に取り付ける際には、絶縁型を使用する方がノイズの影響を受けることが少ないので好ましい。さらに、センサ22が、圧電素子等の振動検出素子を使用する場合には、この素子をプラスチック等にモールドして構成してもよい。加えて、本実施形態の機械設備10は、転がり軸受12の他に、歯車や車輪(共に図示せず)等の振動をセンサ22によって検出することができる。
【0021】
また、検出部20は、機械設備から発生する振動を検出するセンサ22と、機械設備の温度を検出する温度センサや回転速度センサが単一の筐体内に収容される一体型センサであってもよい。この場合、一体型センサは、転がり軸受12を固定する軸受箱の平坦部に固定されることが好ましい(図8参照。)。温度センサは、温度がある規定値になると、バイメタルの接点が離れるか、接点が溶断することで導通しなくなる方式の温度ヒューズであってもよい。これにより、ある規定値以上の温度が検出されると、温度ヒューズが導通しなくなるので、異常を検出することができる。
【0022】
信号処理部32及び制御部34とを備える制御器30は、マイクロコンピュータ(ICチップ,CPU,MPU,DSP等)によって構成されており、データ伝送手段24を介してセンサ22からの電気信号を受け取る。
【0023】
信号処理部32は、図2に示されるように、データ蓄積分配部50、回転分析部52、フィルタ処理部54、振動分析部56、比較判定部58、内部データ保存部60を備える。データ蓄積分配部50は、センサ22からの電気信号及び回転速度に関する電気信号を受け取り一時的に蓄積すると共に、信号の種類に応じて各分析部52,56の何れかに信号を振り分ける収集および分配機能を有している。各種信号は、データ蓄積分配部50に送られる以前に、図示しないA/Dコンバータによりデジタル信号にA/D変換され、図示しない増幅器によって増幅された後にデータ蓄積分配部50に送られる。なお、A/D変換と増幅は、順序が逆であっても構わない。
【0024】
回転分析部52は、回転速度を検出するセンサ(図示せず)からの出力信号を基に、内輪14、即ち回転軸の回転速度を算出し、算出した回転速度を比較判定部58に送信する。なお、上記検出素子が、内輪14に取り付けられたエンコーダと外輪16に取り付けられた磁石及び磁気検出素子で構成されている場合には、検出素子が出力する信号は、エンコーダの形状と回転速度に応じたパルス信号となる。回転分析部52は、エンコーダの形状に応じた所定の変換関数又は変換テーブルを有しており、関数またはテーブルに従って、パルス信号から内輪14及び回転軸の回転速度を算出する。
【0025】
フィルタ処理部54は、回転部品である転がり軸受12や歯車や車輪等の固有振動数に基づいて、振動信号からその固有振動数に対応する所定の周波数帯域のみを抽出し、不要な周波数帯域を除去する。この固有振動数は、回転部品を被測定物として、打撃法により加振し、被測定物に取付けた振動検出器又は打撃により発生した音響を周波数分析することにより容易に求めることができる。なお、被測定物が転がり軸受の場合には、内輪、外輪、転動体、保持器等のいずれかに起因する固有振動数が与えられる。一般的に、機械部品の固有振動数は複数存在し、また固有振動数での振幅レベルは高くなるため測定の感度がよい。
【0026】
振動分析部56は、センサ22からの出力信号を基に、軸受12、歯車、車輪に発生している振動の周波数分析を行う。具体的には、振動分析部56は、振動信号の周波数スペクトルを算出するFFT計算部であり、FFTのアルゴリズムに基づいて、振動の周波数スペクトルを算出する。算出された周波数スペクトルは、比較判定部58に送信される。また、振動分析部56は、FFTを行う前処理として、絶対値処理やエンベロープ処理を行い、診断に必要な周波数成分のみに変換してもよい。振動分析部56は、必要に応じて、エンベロープ処理後のエンベロープデータも併せて比較判定部58に出力する。
【0027】
比較判定部58は、転がり軸受12、歯車、車輪に起因した周波数成分と振動分析部56による振動の実測スペクトルデータの周波数成分とを可変な許容幅を持って比較照合する。本実施形態では、比較判定部58は、実測スペクトルデータから基準値(例えば、音圧レベル或いは電圧レベル)を算出する一方、図4及び図5に示す関係式を用いて転がり軸受や歯車の傷に起因する周波数(振動発生周波数)を計算し、実測スペクトルデータからこれら振動発生周波数に可変な許容幅を与えた範囲での音圧レベル(又は電圧レベル)を抽出して、基準値と比較している。さらに、比較判定部58は、判定結果に基づき、異常の有無及び異常部位の特定を行う。
【0028】
なお、振動発生周波数の演算は、これより前に行ってもよく、以前に同様の診断を行っている場合には、内部データ保存部60に記憶し、そのデータを用いてもよい。また、算出に用いる各回転部品の設計諸元データは事前に入力記憶させておく。
【0029】
また、比較照合における可変な許容幅は、周波数成分が高調波であるほど大きくなるように設定してもよく、対象とする周波数帯域や回転速度に連動させれば、実回転速度の変化(鉄道車両における車輪の摩耗の影響による変化等)に対応することが可能となる。
【0030】
そして、比較判定部58での判定結果は、メモリやHDD等の内部データ保存部60に保存されても良いし、データ伝送手段42を介して出力装置40へ伝送されてもよい。また、この判定結果を、機械設備10の駆動機構の動作を制御する制御部34へ出力し、この判定結果に応じた制御信号をフィードバックするようにしてもよい。
【0031】
また、出力装置40は、判定結果をモニタ等にリアルタイムに表示してもよいし、異常が検出された場合にはライトやブザー等の警報機を使って異常の通知を行なってもよい。なお、データ伝送手段24,42は、的確に信号を送受信可能であれば良く、有線でも良いし、ネットワークを考慮した無線を利用しても良い。
【0032】
次に、図3を参照して、振動信号を基にした異常診断の処理フローの具体例について説明する。
【0033】
まず、センサ31は各回転部品の振動を検出する(ステップS101)。検出された振動信号は、A/D変換器によりデジタル信号に変換され(ステップS102)、所定の増幅率で増幅された後(ステップS103)、フィルタ処理部54により回転部品の固有振動数に対応した所定の周波数帯域のみを抽出するフィルタ処理が行われる(ステップS104)。その後、振動分析部56では、フィルタ処理後のデジタル信号に対してエンベロープ処理を施し(ステップS105)、エンベロープ処理後のデジタル信号の周波数スペクトルを求める(ステップS106)。
【0034】
次に、図4及び図5に示す関係式から、回転速度信号に基づき各回転部品の異常に起因して発生する振動発生周波数を求め(ステップS107)、求めた周波数に対して可変な許容幅を持った各回転部品の異常周波数帯域の音圧レベル(転がり軸受12の場合には、軸受傷成分Sx、即ち、内輪傷成分Si、外輪傷成分So、転動体傷成分Sb及び保持器成分Sc、歯車の場合には、噛み合いに対応する歯車傷成分Sg、及び車輪等の回転体の場合には、回転体の摩耗やアンバランス成分Sr)を求める(ステップS108)。
【0035】
一方、振動分析部56で得られた周波数スペクトルから異常診断に用いられる基準値(例えば、音圧レベル或いは電圧レベル)を算出する(ステップS109)。ここで、この基準値は、任意の時間における実測スペクトルデータのデジタル信号の実効値やピーク値であってもよく、またこれらの値を基に算出したものであってもよい。
【0036】
次いで、ステップS108で算出された各回転部品の異常周波数帯域の音圧レベル(又は電圧レベル)とステップS109で計算された基準値との比較を設計諸元の異なる各回転部品毎に分けて順番に行う(ステップS110)。全ての成分が一致しない時は回転部品に異常なしとして判断する(ステップS111)。一方、いずれかの成分が一致する場合には、異常有りと判断してその異常部位を特定する(ステップS112)と共に、その照合結果を制御部34や、モニタや警報機等の出力装置40に出力する(ステップS113)。
【0037】
このように本実施形態では、周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と回転部品に起因した周波数成分とを可変な許容幅を持って比較照合し、その照合結果に基づき回転部品の異常の有無及び異常部位を判定するようにしたので、実際の回転速度を直接取り込むことができない場合に、算出に用いた回転速度データが実際の回転速度とずれを生じているとしても、異常の有無や異常部位の特定を精度良く行うことができる。
【0038】
また、本発明の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、簡単な構成で回転部品が組み込まれている機械装置を分解することなく、異常の有無と異常の部位を特定することができ、装置の分解や組立にかかる手間を軽減できると共に、分解や組立に伴う該部品への損傷を防止することができる。
【0039】
さらに、本実施形態の機械装置の異常診断装置及び異常診断方法によれば、信号処理部をマイクロコンピュータで構成するようにしたので、信号処理部がユニット化され、異常診断装置の小型化やモジュール化を図ることができる。
【0040】
次に、図6を参照して、本発明の第2実施形態に係る機械設備の異常診断装置及び異常診断方法について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略あるいは簡略化する。
【0041】
本実施形態では、信号処理部32の比較判定部58における処理において第1実施形態のものと異なる。図6の本実施形態の処理フローに示されるように、ステップS201〜ステップS206は、第1実施形態のステップS101〜ステップS106と同様に行われる。
【0042】
次に、図4及び図5に示す関係式から、回転速度信号に基づき各回転部品の異常に起因して発生する振動発生周波数を求める(ステップS207)。そして、回転部品の回転速度と回転部品の設計寸法諸元とから算出される各諸元での回転部品の損傷成分の上限周波数と下限周波数を有する領域である許容幅と、その幅の中心周波数を計算する(ステップS208)。また、ステップS208では、必要に応じて、許容幅を一つ以上の幅に分割し、該各幅に対する中心周波数を求め、該中心周波数に対して任意の大きさの幅を持った許容幅を与える。なお、この許容幅は、周波数帯域に対応して大きくなるように設定してもよい。
【0043】
その後、ステップS207で求めた周波数に対して許容幅を持った回転部品の異常周波数帯域の音圧レベル(転がり軸受12の場合には、軸受傷成分Sx、即ち、内輪傷成分Si、外輪傷成分So、転動体傷成分Sb及び保持器成分Sc、歯車の場合には、噛み合いに対応する歯車傷成分Sg、及び車輪等の回転体の場合には、回転体の摩耗やアンバランス成分Sr)を求める(ステップS209)。
【0044】
一方、第1実施形態と同様に、振動分析部56で得られた周波数スペクトルから異常診断に用いられる基準値(例えば、音圧レベル或いは電圧レベル)を算出し(ステップS210)、ステップS209で算出された各回転部品の異常周波数帯域の音圧レベル(又は電圧レベル)とステップS210で計算された基準値との比較を設計諸元の異なる各回転部品毎に分けて順番に行う(ステップS211)。そして、このステップS211では、周波数の許容幅を分割した回数分繰り返す。
【0045】
そして、全ての成分が一致しない時は回転部品に異常なしとして判断する(ステップS212)。一方、いずれかの成分が一致する場合には、異常有りと判断してその異常部位を特定する(ステップS213)と共に、その照合結果を制御部34や、モニタや警報機等の出力装置40に出力する(ステップS214)。
【0046】
なお、回転部品に異常がある場合、ステップS208にて許容幅を分割した際には、分割された許容幅のいずれかにおいて、異常有りと判定されることがある。このため、例えば、2つの許容幅数分の診断を行う場合、ステップS211では、第1の幅での診断の結果、異常有りと判定した時点で、第2の幅での診断を行わないことも可能であり、第1の幅で正常と診断した後に、第2の幅での診断を行っている。
【0047】
ステップS209における各回転部品の異常に起因して発生する振動発生周波数は、図4や図5の関係式に示すように、回転速度や設計寸法諸元によって与えられるため、回転変動や設計寸法諸元の違いは高精度な診断の妨げとなる。このため、ステップS208のように許容幅を設定することは、回転部品が互いに異なる設計寸法諸元を有する複数の回転部品を備える場合や、実際の回転速度信号が直接取り込めず、回転部品の回転速度が変動する場合において有効である。
【0048】
例えば、実際の回転速度信号が直接取り込めない場合でも、一定の回転速度で回転している際の回転速度の変動幅がわかっている場合がある。この場合、下限回転速度と上限回転速度をもとに、回転部品の損傷に起因した特徴周波数成分を算出して許容幅を求めるが、許容幅が大きいと該回転部品の損傷成分以外の周波数成分を多く含み、診断精度が悪くなる。このため、許容幅は必要に応じて分割され、各分割された幅に対する中心周波数を求め、該中心周波数に対して任意の大きさの幅を持った許容幅を設け、この分割された許容幅数分の比較照合を行って、回転速度変動の影響を受けることなく、高精度な診断を可能とする。
【0049】
従って、本実施形態の異常診断装置及び異常診断方法によれば、回転部品の回転速度と回転部品の設計寸法諸元とから算出される上限値と下限値を有する領域を少なくとも一つの領域に分割し、該各分割領域の中心値を求め、中心値に対して与えられる任意の大きさの少なくとも一つの許容幅を持って比較照合するので、設計寸法諸元が互いに異なる複数の回転部品が任意の部位に組み込まれる場合や回転部品の回転速度が変動した場合でも異常の有無や異常の部位を確実に特定することができ、高精度な診断が可能となる。また、これにより、従来のように同じ諸元の部品を組み込まなければならないという手間が省け、異なる諸元の部品を組み込んだ場合でも、診断が可能であるため作業効率が向上し、効果的なメンテナンスが可能となる。
【0050】
なお、本実施形態の異常診断は、回転部品が互いに異なる設計寸法諸元を有する複数の回転部品を備え、且つ、回転部品の回転速度が変動する機械装置の場合においても有効である。
また、軸受の異常診断において、図4に示す各周波数成分は回転周波数の逓倍であるため、予め軸受諸元が既知の場合には、回転速度変動に伴う下限と上限周波数を計算せずに中心周波数を求めることも可能である。
さらに、本実施形態の異常診断は、エンベロープ処理が行われた周波数スペクトルに対してのみ適用されるものでなく、回転速度情報から回転部品の損傷に起因した周波数成分の有無を診断するいずれの手法にも適用可能である。
【0051】
次に、図7を参照して、本発明の第3実施形態に係る機械設備の異常診断装置及び異常診断方法について詳細に説明する。なお、第1実施形態と同等部分については、同一符号を付して説明を省略あるいは簡略化する。
【0052】
本実施形態は、複数の転がり軸受12,12を備えた機械設備70の異常診断装置において、センサ22を含んだ検出部とマイクロコンピュータ50からなる信号処理部とを組み合わせた、単一の処理ユニット80を転がり軸受12の軸受装置内に組み込んでいる。これにより、異常診断装置は管理を集中して行えるため、効率的な監視が可能である。また、単一の処理ユニットを軸受装置内に組み込むことで、装置全体がコンパクトになるといったメリットがあり好ましい。なお、この単一の処理ユニットは、機械設備内に組み込んでコンパクト化を図っても良く、また、複数の転がり軸受に対して単一の処理ユニットを構成するようにしても良い。
その他の構成および作用については、第1,2実施形態のものと同様であり、信号処理部の処理フローは第1,2実施形態のいずれであってもよい。
【0053】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
本発明の機械設備は、異常診断対象である回転或いは摺動する部品を備えたものであればよく、鉄道車両用軸受装置、風車用軸受装置、工作機械主軸用軸受装置等を含む。
【0054】
例えば、鉄道車両用軸受装置90は、図8に示されるように、複列円錐ころ軸受12を介して車軸90を鉄道車両用台車の一部を構成する軸受箱92に対して回転自在に支持しており、検出部20,20を軸受箱92のラジアル荷重の負荷圏領域に固定して、軸受箱92の振動を検出することで異常診断を行っている。なお、軸受軌道面に損傷が発生した場合、その損傷部を転動体が通過する際に生じる衝突力は無負荷圏よりも負荷圏の方が大きいことから、検出部20を負荷圏側に固定することで、感度の良い振動検出を可能とする。
【0055】
また、回転或いは摺動する部品としては、転がり軸受、歯車、車軸、ボールねじ等の回転部品や、リニアガイド、リニアボールベアリング等の摺動部品であってもよく、損傷によって周期的な振動を発生する部品であれば良い。また、回転部品の損傷に起因する周波数成分を算出するための速度信号としては、回転速度信号が用いられたが、摺動部品の場合の速度信号としては、移動速度信号が用いられる。
【0056】
さらに、検出部によって検出される信号は、音、振動、超音波(AE)、応力、変位、歪み等を含み、これらの信号では、回転或いは摺動部品を含む機械設備に欠陥または異常がある場合に、その欠陥または異常を示す信号成分を含む。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の機械設備の異常診断装置及び方法を用いた回転部品の異常診断について具体例を示す。
【0058】
(試験1)
図9は、外輪軌道面に欠陥をつけた単列深溝軸受が2430min-1で実際に回転する場合のハウジングの振動をエンベロープ処理後に周波数分析を行った結果を示す。ただし、算出に用いる回転速度データが2400min-1で、実際の回転速度とズレを生じている。図において、実線は、実測した振動データに基づくエンベロープ周波数スペクトルを示し、点線は基準値を示している。さらに、各網掛範囲は回転速度2400min-1に基づく外輪損傷に起因した周波数成分とその高調波を示しており、周波数帯域に対応して比較照合の許容幅を大きくしている。この結果、基準値を越えるピークが可変な許容幅を持った外輪損傷に起因した周波数成分と一致していることから、軸受の外輪が損傷していると診断することができる。
【0059】
一方、図10は、図9の場合と同条件で比較照合の許容幅を固定(1Hz)にした場合を示している。この結果、基準値を越えるピークが外輪損傷に起因した周波数成分と一致していないため、異常なしと判断してしまう虞がある。つまり、実際の回転速度と診断に用いた回転速度の差異が大きいと発生周波数の高調波成分に大きなズレが生じ、診断精度に影響を与えることが分かる。
これらの結果より、第1実施形態に基づく異常診断を行うことで、回転部品の異常の有無や異常部位の特定を精度良く行うことができることがわかる。
【0060】
(試験2)
次に、回転部品として、内外径寸法が同一(軸受外径:220mm、軸受内径:120mm、軸受幅:150mm)であるが内部設計諸元が異なる3種類(A,B,C)の円すいころ軸受を用意し、これらの軸受の各外輪軌道面に欠陥をつけ、個々の軸受をハウジングに組み込んだ。そして、200min−1で内輪を回転させた時に発生する振動をハウジングに取り付けた圧電式絶縁型加速度センサにより検出し、増幅後の信号を周波数分析(エンベロープ分析)し、第2実施形態における処理フローをもとに比較した。
【0061】
図11は、3種類の軸受を回転させた時のハウジングの振動についてエンベロープ処理後周波数分析を行った結果である。ここで、実線は測定した振動データに基づくエンベロープ周波数スペクトルであり、点線は基準値を示している。
【0062】
さらに、各網掛範囲は回転速度200min−1と3種類(A,B,C)の軸受の内部諸元に基づく外輪損傷に起因した周波数成分の下限周波数と上限周波数との中心周波数に対する許容幅とその高調波幅を示しており、周波数帯域に対応して比較照合の許容幅を大きくしている。
【0063】
この試験では、軸受諸元に基づく外輪損傷に起因した周波数成分を図4より算出し、この下限周波数と上限周波数との中心周波数fCL1を求め、さらに、中心周波数fCL1に対する許容幅Δfを設ける。また、許容幅Δfを2Hzとし、この許容幅を周波数帯域に対応して大きく設定している。
【0064】
これらの結果より、いずれの軸受においても周波数は異なるが基準値を越えるピークが複数出現しており、また、それらのピークは網掛範囲で示した外輪損傷に起因した周波数に含まれていることから、諸元が異なるいずれの軸受も外輪が損傷していると診断することができる。
【0065】
一方、図12は、損傷がない正常な軸受に第2実施形態の異常診断を適用した場合を示している。なお、この軸受の諸元は、軸受Aと同様である。
この図12に示す結果から、正常な軸受においては、基準値を越える顕著なピークが網掛範囲で示した外輪損傷に起因した周波数に含まれていないため、外輪には損傷がないと診断することができる。
【0066】
(試験3)
次に、内部設計諸元が同一であるが回転速度が僅かに変動する場合に、第2実施形態の処理フローを用いて試験を行う。
【0067】
図13は、円すいころ軸受の外輪軌道面に欠陥をつけ、内輪を200min−1と170min−1で回転させた時に発生する振動をハウジングに取り付けた圧電式絶縁型加速度センサにより検出し、増幅後の信号を周波数分析(エンベロープ分析)し比較した結果である。また、図13において、各網掛範囲は回転速度変動の下限回転速度と上限回転速度に対応した軸受内部諸元に基づく外輪損傷に起因した周波数成分の中心周波数に対する許容幅とその高調波幅を示しており、周波数帯域に対応して比較照合の許容差を大きくしている。また、この網掛範囲は回転速度の変動幅に依存しており、回転変動幅が大きいと網掛範囲が広くなるように設定されている。
【0068】
この状態で網掛範囲に含まれる成分の有無により異常診断を行ってもよいが、網掛範囲が広くなると、軸受損傷成分以外の周波数成分も多く含まれるため、診断精度が悪くなる可能性がある。このため、本試験では、この対応した網掛範囲を2つの領域(A,B)に分割し、その領域幅に対応する中心周波数(fCLA,fCLB)を算出し、さらにその中心周波数に対する許容幅△fを設ける。
【0069】
具体的に、本試験では、170〜200min−1の回転速度の変動幅に基づいて、下限及び上限周波数とその中心周波数を求めており、許容幅△fは2Hzとし、この許容幅を周波数帯域に対応して大きく設定している。
【0070】
この結果、回転速度が200min−1の場合には、領域Aには損傷に起因したピークは出現していないが、領域Bにピークが出現しているため外輪損傷と判定することができる。一方、回転速度が170min−1の場合には、領域Aに損傷に起因したピークが出現しているため、領域Bにピークが出現していなくても外輪損傷と判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1実施形態である異常診断装置の概略図である。
【図2】図1の信号処理部のブロック図である。
【図3】本発明の第1実施形態である異常診断方法の処理フローを示すフローチャートである。
【図4】軸受の傷の部位と、傷に起因して発生する振動発生周波数の関係を示す図である。
【図5】歯車の噛み合いで発生する異常振動周波数の関係式を説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態である異常診断方法の処理フローを示すフローチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態である異常診断装置の概略図である。
【図8】異常診断装置の検出部が組み込まれた機械設備である鉄道車両用軸受装置の断面図である。
【図9】実施例の試験1の異常診断を説明するための図である。
【図10】従来の異常診断を説明するための図である。
【図11】実施例の試験2の異常診断を説明するための図である。
【図12】実施例の試験2の異常診断を説明するための他の図である。
【図13】実施例の試験3の異常診断を説明するための図である。
【符号の説明】
【0072】
10,70 機械設備
12 転がり軸受(回転部品)
20 検出部
22 センサ
30 制御器
32 信号処理部
34 制御部
40 出力装置
50 データ蓄積分配部
52 回転分析部
54 フィルタ処理部
56 振動分析部
58 比較判定部
60 内部データ保存部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを可変な許容幅を持って比較照合し、その照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断装置。
【請求項2】
回転部品を備えた、機械設備の異常診断装置であって、
前記機械設備から発生する信号を電気信号として出力する少なくとも一つの検出部と、
前記電気信号の波形の周波数分析を行い、該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記回転部品に起因した周波数成分とを許容幅を持って比較照合し、その照合結果に基づき前記回転部品の異常の有無及び異常部位を判定する信号処理部と、
を備える機械設備の異常診断装置であって、
前記許容幅は、前記回転部品の回転速度と前記回転部品の設計寸法諸元とから算出される上限値と下限値を有する領域を少なくとも一つの領域に分割し、該各分割領域の中心値を求め、該中心値に対して与えられる任意の大きさの少なくとも一つの許容幅であり、
前記信号処理部は、前記実測スペクトルデータの周波数成分と前記回転部品に起因した周波数成分とを、前記少なくとも一つの許容幅毎に比較照合することを特徴とする機械設備の異常診断装置。
【請求項3】
前記許容幅は、前記回転部品が互いに異なる設計寸法諸元を有する複数の回転部品を備える場合と、前記回転部品の回転速度が変動した場合の少なくとも一方において、与えられることを特徴とする請求項2に記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項4】
前記許容幅は、前記周波数成分が高調波成分となるにつれて大きくなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項5】
前記許容幅は、前記周波数成分の周波数帯域に応じて増減することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項6】
前記許容幅は、回転速度に応じて増減することを特徴とする請求項1または2に記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項7】
前記信号処理部は、前記検出された信号に増幅処理とフィルタ処理の少なくとも一方を施し、その処理された波形にエンベロープ処理を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記機械設備から発生する振動を検出するセンサに加えて、前記機械設備の温度を検出する温度センサと前記回転部品の回転速度を検出する回転速度センサとの少なくとも一方が単一の筐体内に収容される一体型センサを有していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項9】
前記機械設備は、前記回転部品である軸受と該軸受を固定する軸受箱を備え、
前記一体型センサは、前記軸受箱の平坦部に固定されることを特徴とする請求項8に記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項10】
前記信号処理部による判定結果を伝送するデータ伝送手段を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項11】
前記信号処理部による処理、及び前記判定結果を制御系に出力する処理を行なうマイクロコンピュータを具備したことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項12】
前記機械設備は鉄道車両用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項13】
前記機械設備は風車用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項14】
前記機械設備は工作機械主軸用軸受装置であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の機械設備の異常診断装置。
【請求項15】
回転或いは摺動する少なくとも一つの部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
該分析工程で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記部品に起因した周波数成分とを可変な許容幅を持って比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、を備えることを特徴とする機械設備の異常診断方法。
【請求項16】
回転部品を備えた、機械設備の異常診断方法であって、
前記機械設備から発生する信号を検出して電気信号として出力する工程と、
該検出された信号の波形の周波数を分析する工程と、
前記回転部品に起因した周波数成分に対して、前記回転部品の回転速度と前記回転部品の設計寸法諸元とから算出される上限値と下限値を有する領域を少なくとも一つの領域に分割し、該各分割領域の中心値を求め、該中心値に対して与えられる任意の大きさを持った少なくとも一つの許容幅を設定する工程と、
該周波数分析で得られた実測スペクトルデータの周波数成分と前記回転部品に起因した周波数成分とを前記少なくとも一つの許容幅毎に比較照合する工程と、
該比較工程での照合結果に基づき前記回転部品の異常の有無及び異常部位を判定する工程と、
を備えることを特徴とする機械設備の異常診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−234786(P2006−234786A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176507(P2005−176507)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】