説明

歩行者保護用エアバッグ装置

【課題】 衝突時の車速や歩行者の体格に関わらずに有効な衝撃吸収能力を発揮させることが可能な歩行者用エアバッグ装置を提供する。
【解決手段】 フロントピラー15の前部アウターパネル16および前部インナーパネル18をインフレータ26が発生する高圧ガスで膨張・展開させて閉断面のエアバッグ34を構成するので、歩行者の頭部をフロントピラー15との衝突による衝撃から保護することができる。また展開したエアバッグ34の塑性変形により衝撃吸収性能が発揮されるため、歩行者を拘束するまでにエアバッグ34の展開が完了しさえすれば、その後のエアバッグ34の内圧のコントロールが不要になり、インフレータ26の仕様を簡素化してコストダウンを図りながら、衝突時の車速や歩行者の体格に関わらずに常に有効な衝撃吸収性能を発揮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料で構成したエアバッグを用いて車両に衝突した歩行者を衝撃から保護する歩行者用エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両がボンネットフード上にはね上げた歩行者を衝撃から保護すべく、ボンネットフードの後端を僅かに持ち上げて衝撃吸収用の潰れ空間を形成し、更にエンジンルームの内部から左右のフロントピラーに沿ってピラーバッグを展開させるとともに、左右のピラーバッグ間にウインドシールドの前面を覆う裂傷防止膜を展開させるものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特開2000−264146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで車両がボンネットフード上にはね上げた歩行者の頭部がフロントピラーに衝突するまでの時間は、衝突時の車速や歩行者の体格によって変化するが、従来の布製のエアバッグは展開した後にガスがベントホールから抜けて収縮するため、衝撃吸収能力を発揮する時間は限られており、衝突時の車速や歩行者の体格に関わらずに有効な衝撃吸収能力を発揮させることは困難であった。
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、衝突時の車速や歩行者の体格に関わらずに有効な衝撃吸収能力を発揮させることが可能な歩行者用エアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、目視可能に露出する露出部と、目視不能に覆われて伸展可能に折り畳まれた伸展部とで閉断面を有する金属製のエアバッグを構成し、車両の衝突時にインフレータが発生する高圧ガスで前記エアバッグを膨張させて歩行者を衝突の衝撃から保護することを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0006】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記エアバッグの内部に前記インフレータの少なくも一部を収納したことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0007】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記エアバッグの露出部はフロントピラーの化粧面を構成することを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0008】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記エアバッグは展開状態で概ね円筒状を成すことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0009】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、前記露出部を構成する第1金属部材と、前記伸展部を構成する第2金属部材とを結合して前記エアバッグを構成したことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0010】
また請求項6に記載された発明によれば、請求項5の構成に加えて、前記第1金属部材の両側縁と前記インフレータとの間を、二つの前記第2金属部材で接続して前記エアバッグを構成したことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0011】
また請求項7に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、前記エアバッグの露出部および伸展部をロールフォーミング成形あるいは押出成形により一体に成形したことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0012】
また請求項8に記載された発明によれば、請求項7の構成に加えて、前記エアバッグはフロントピラーの一部を構成し、前記インフレータを前記伸展部の車幅方向中間部に配置し、前記インフレータよりも車幅方向内側の前記伸展部を相互に重なるように車体前後方向に折り返したことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0013】
また請求項9に記載された発明によれば、請求項7または請求項8のの構成に加えて、前記エアバッグはフロントピラーの一部を構成し、前記インフレータを前記伸展部の車幅方向中間部に配置し、前記インフレータよりも車幅方向外側の前記伸展部を前記露出部の後面に沿わせたことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0014】
また請求項10に記載された発明によれば、請求項7〜請求項9の何れか1項の構成に加えて、前記露出部はフロントウインドシールドの車幅方向外縁とフロントドアの前縁との間を覆うことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0015】
また請求項11に記載された発明によれば、請求項7の構成に加えて、フロントピラー本体はフロントウインドシールドと平行な前面と、前記前面から車体後方に向かって湾曲する側面とを備え、前記インフレータは前記前面に配置され、前記インフレータよりも車幅方向外側の前記伸展部は、前記インフレータから遠い位置で前記露出部の後面に沿って延びる第1部分と、前記インフレータに近い位置で車幅方向にジグザグに折り返される第2部分とを備えることを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0016】
また請求項12に記載された発明によれば、請求項11の構成に加えて、前記第1部分の中間部を後方に湾曲させて前記フロントピラー本体の側面に当接させたことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置が提案される。
【0017】
尚、実施の形態の前部アウターパネル16は本発明の第1金属部材に対応し、実施の形態の前部インナーパネル18および中間パネル32は本発明の第2金属部材に対応する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の構成によれば、目視可能に露出する露出部と、目視不能に覆われて伸展可能に折り畳まれた伸展部とで閉断面を有する金属製のエアバッグを構成したので、車両の衝突時にインフレータが発生する高圧ガスで前記エアバッグを膨張させて歩行者を衝突の衝撃から保護することができる。また展開したエアバッグの塑性変形により衝撃吸収性能が発揮されるため、歩行者を拘束するまでにエアバッグの展開が完了しさえすれば、その後のエアバッグの内圧のコントロールが不要になり、インフレータの仕様を簡素化してコストダウンを図りながら、衝突時の車速や歩行者の体格に関わらずに常に有効な衝撃吸収性能を発揮することができる。しかも目視可能な車体の外装部品となる露出部をエアバッグの一部として利用することで、部品点数を削減することができる。
【0019】
また請求項2の構成によれば、エアバッグの内部にインフレータの少なくとも一部を収納したので、エアバッグの外部にインフレータを配置する場合に比べてスペース効率が向上するだけでなく、インフレータとエアバッグとを接続する配管を不要にして構造を簡素化することができる。
【0020】
また請求項3の構成によれば、エアバッグの露出部はフロントピラーの化粧面を構成するので、ボンネットフード上にはね上げられてフロントピラーに衝突する歩行者の頭部をエアバッグで効果的に保護することができるだけでなく、フロントピラーにエアバッグ装置を組み込んだことによる外観の低下を無くすことができる。
【0021】
また請求項4の構成によれば、エアバッグは展開状態で概ね円筒状を成すので、そこに歩行者の頭部が衝突したときに最大限の衝撃吸収効果を発揮することができる。
【0022】
また請求項5の構成によれば、露出部を構成する第1金属部材と伸展部を構成する第2金属部材とを結合してエアバッグを構成したので、第1、第2金属部材の形状を簡素化して加工を容易化し、コストダウンに寄与することができる。
【0023】
また請求項6の構成によれば、第1金属部材の両側縁とインフレータとの間を二つの前記第2金属部材で接続してエアバッグを構成したので、二つの金属部材を伸展させることで展開状態のエアバッグの径を拡大して衝撃吸収効果を高めることができる。
【0024】
また請求項7の構成によれば、エアバッグの露出部および伸展部をロールフォーミング成形あるいは押出成形により一体に成形したので、閉断面を有する部材を一部材で構成して部品点数を削減できるだけでなく、エアバッグが展開した状態で乗員拘束面に部材の継ぎ目が形成されることがなくなり、乗員を柔らかく拘束することができる。
【0025】
また請求項8の構成によれば、エアバッグでフロントピラーの一部を構成したので、フロントピラーに衝突する乗員をエアバッグで拘束することができるだけでなく、インフレータを伸展部の車幅方向中間部に配置し、インフレータよりも車幅方向内側の伸展部を相互に重なるように車体前後方向に折り返したので、エアバッグをフロントピラーから車体前方に向けて充分に膨張させ、車体正面からフロントピラーに衝突する歩行者に対するエアバッグの衝撃吸収ストロークを充分に確保することができる。
【0026】
また請求項9の構成によれば、エアバッグでフロントピラーの一部を構成したので、フロントピラーに衝突する乗員をエアバッグで拘束することができるだけでなく、インフレータを伸展部の車幅方向中間部に配置し、インフレータよりも車幅方向外側の伸展部を露出部の後面に沿わせたので、インフレータよりも車幅方向外側の伸展部が車体後方に向けて長く延びていても、その伸展部が膨張し易くなってエアバッグをフロントピラーから車体前方に向けて充分に膨張させることができる。
【0027】
また請求項10の構成によれば、露出部がフロントウインドシールドの車幅方向外縁とフロントドアの前縁との間を覆うので、隙間の発生を防止して外観の低下を回避することができる。
【0028】
また請求項11の構成によれば、フロントピラー本体の前面にインフレータを配置し、インフレータよりも車幅方向外側の伸展部が、インフレータから遠い位置で露出部の後面に沿って延びる第1部分と、インフレータに近い位置で車幅方向にジグザグに折り返される第2部分とを備えるので、フロントピラーの前面側の伸展部の伸び代を大きく確保してエアバッグをフロントピラーから車体前方に向けて充分に膨張させることができる。
【0029】
また請求項12の構成によれば、伸展部の第1部分の中間部を後方に湾曲させてフロントピラー本体の側面に当接させたので、露出部に車体外側から加わる荷重を伸展部の湾曲部を介してフロントピラー本体に伝達することで、特別の補強部材を必要とせずに露出部の剛性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0031】
図1〜図4は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1は自動車の車体前部の平面図、図2は図1の2−2線拡大断面図、図3はエアバッグおよびインフレータの分解斜視図、図4は図2に対応するエアバッグの展開時の作用説明図である。
【0032】
図1に示すように、自動車はボンネットフード11の後方にフロントウインドシールド12を備えており、フロントウインドシールド12の左右両側縁およびフロントドア13,13のドアガラス14,14間に挟まれるように、フロントピラー15,15が配置される。
【0033】
図2に示すように、本実施の形態のフロントピラー15は、車体外側に位置する前部アウターパネル16および後部アウターパネル17と、車体内側に位置する前部インナーパネル18および後部インナーパネル19と、前記四つのパネル16〜19を接続して補強する前部スチフナ20および後部スチフナ21とを備える。
【0034】
後部インナーパネル19、後部スチフナ21および前部スチフナ20の車幅方向内端は3枚重ねでスポット溶接W1,W1される。前部アウターパネル16は、車体外面に露出する化粧面16bと、化粧面16bの前端から車幅方向内向きに延びる前部フランジ16aと、化粧面16bの後端から車幅方向内向きに延びる後部フランジ16cとを備える。前部インナーパネル18は、車幅方向内側に延びる前部フランジ18aおよび後部フランジ18cと、それらをジグザグに接続する屈曲部18bとを備える。前部アウターパネル16の化粧面16bは本発明の露出部41を構成し、前部アウターパネル16の前部フランジ16aおよび後部フランジ16cと、前部インナーパネル18とは本発明の伸展部42を構成する。
【0035】
図2および図3から明らかなように、前部アウターパネル16の前部フランジ16aの車幅方向内端と前部インナーパネル18の前部フランジ18aの車幅方向内端とは2枚重ねでスポット溶接W2され、前部アウターパネル16の後部フランジ16cおよび前部インナーパネル18の後部フランジ18cの車幅方向内端は2枚重ねでスポット溶接W3される。
【0036】
後部スチフナ21の車幅方向外側面に2個のブラケット22,22が各々ボルト23およびナット24で固定されており、これらのブラケット22,22に半割円筒状のインフレータ支持部材25,25が各々溶接されるとともに、これらのインフレータ支持部材25,25が概ね円柱状のインフレータ26の外周面の半周に跨がるように溶接される。前部アウターパネル16の後部フランジ16cに形成した長方形の開口16dに隙間なく嵌合するように位置決めされたインフレータ26は、各々のインフレータ支持部材25の両端と、前部アウターパネル16の後部フランジ16cとを貫通するボルト27,27およびナット28,28で固定される。この状態で前部アウターパネル16および後部アウターパネル17の内部空間に望むインフレータ26の片面に、複数のガス噴出孔26a…が形成される。
【0037】
前部アウターパネル16および前部インナーパネル18は溶接W2,W3で一体化され、後部アウターパネル17、後部インナーパネル19、前部スチフナ20および後部スチフナ21は溶接W1,W1および車体後方側の図示せぬ溶接で一体化されているが、前部アウターパネル16の後部フランジ16cは、後部アウターパネル17の前面および前部スチフナ20の前面に溶接されておらず、単に面接触しているだけであり、前部アウターパネル16の後部フランジ16cに固定されたインフレータ支持部材25,25と、後部スチフナ21に固定されたブラケット22,22を介して間接的に連結されている。
【0038】
前部スチフナ20の車幅方向の内側の前面にダムラバー29および接着剤30を介してフロントウインドシールド12が固定されており、このフロントウインドシールド12の前面と前部アウターパネル16の前部フランジ16aの前面との間にモール31が装着される。
【0039】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0040】
車両の前部に歩行者が衝突した衝撃が検出されると、左右のフロントピラー15,15の内部に収納されたインフレータ26,26のガス噴出孔26a…から、前部アウターパネル16および前部インナーパネル18の内部に高圧ガスを噴出する。その結果、フロントピラー15の伸展部42が大きく伸展し、かつ露出部41も若干伸展することで、つまりジグザクに折り畳まれた前部インナーパネル18が円弧状に伸展し、かつ前部アウターパネル16も円弧状に伸展することにより、略円筒状のエアバッグ34がフロントピラー15の後部アウターパネル17、後部インナーパネル19、前部スチフナ20および後部スチフナ21の前面に膨張・展開する。
【0041】
その結果、ボンネットフード11上にすくい上げられた歩行者の頭部がフロントピラー15に衝突したとき、その前面を覆う円筒状のエアバッグ34が容易に潰れて衝撃を吸収することで歩行者の頭部を保護することができる。
【0042】
衝突時の車速や歩行者の体格により、その頭部がフロントピラー15に衝突するまでのタイミングは種々に変化するが、本実施の形態の金属製のエアバッグ34は、その塑性変形により衝撃吸収性能が発揮されるため、歩行者の頭部が衝突するまでにエアバッグ34の展開が完了しさえすれば、衝突のタイミングに合わせてエアバッグ34の展開速度や内圧をコントロールする必要がなくなり、インフレータ26の仕様を簡素化してコストダウンを図りながら、常に有効な衝撃吸収能力を発揮することができる。
【0043】
尚、一般的な布製のエアバッグは、インフレータが発生する高圧ガスの圧力と、ベントホールから抜けるガスの量とのバランスで内圧をコントロールしているが、本実施の形態のエアバッグ34は薄肉の金属製であり、その金属板が潰れるように塑性変形することで衝撃を吸収する構造であるため、エアバッグ34の内圧のコントロールは不要である。従って、前部アウターパネル16および前部インナーパネル18を溶接W2,W3(スポット溶接)した継ぎ目や、前部アウターパネル16にインフレータ26を固定する開口16dの外周部から漏れるガスの量は、あまり問題にならない。要するに、歩行者の頭部が衝突するまでにエアバッグ34の展開が完了するように、インフレータ26の性能を決定すれば良い。
【0044】
また目視可能な車体の外装部品である前部アウターパネル16の化粧面16bをエアバッグ34の一部として利用することで、部品点数を削減することができるだけでなく、フロントピラー15にエアバッグ装置を組み込んだことによる外観の低下を回避することができる。
【0045】
またエアバッグ34を構成する前部アウターパネル16および前部インナーパネル18のうち、前部インナーパネル18をジグザグに屈曲した形状としたので、その前部インナーパネル18が円弧状に伸展することでエアバッグ34の直径を拡大し、衝撃吸収効果を高めることができる。しかもインフレータ26の一部をエアバッグ34の内部に収納したので、エアバッグ34の外部にインフレータ26を配置する場合に比べてスペース効率が向上するだけでなく、インフレータ26とエアバッグ34とを接続する配管を不要にして構造を簡素化することができる。
【0046】
図5および図6は本発明の第2の実施の形態を示すもので、図5はフロントピラーの横断面図、図6は図5に対応するエアバッグの展開時の作用説明図である。
【0047】
第2の実施の形態は、第1の実施の形態の前部アウターパネル16の後部フランジ16cを、化粧面16bとは別部材の中間パネル32で構成したものである。中間パネル32の車幅方向外端は前部アウターパネル16の化粧面16bの後端に重ね合わされて溶接W4される。そして溶接W4の近傍の中間パネル32は三角形状に折り曲げられて屈曲部32aが形成され、屈曲部32aから車幅方向内側に延びる平坦部32bの先端が前部インナーパネル18の後部フランジ18cに溶接W3され、平坦部32bの中間に形成した開口32cにインフレータ26が嵌合する。前部アウターパネル16の後端と中間パネル32の車幅方向外端との接続部には、ゴムリップ33が装着される。
【0048】
この第2の実施の形態によれば、エアバッグ34が前部アウターパネル16、前部インナーパネル18および中間パネル32の三つの部材で構成され、しかも前部インナーパネル18および中間パネル32は展開時に折り畳まれた状態から円弧状に伸展するため、展開後のエアバッグ34の直径を更に大型化し、その潰れ代を大きくすることで衝撃吸収効果の一層の向上を図ることができる。
【0049】
図7および図8は本発明の第3の実施の形態を示すもので、図7はフロントピラーの横断面図、図8はフロントピラーの下部の斜視図である。
【0050】
第3の実施の形態は、フロントピラー15の一部を構成するエアバッグ34をロールフォーミング成形により単一の金属部材として一体に形成したものである。エアバッグ34は端縁を溶接W5された閉断面を有しており、フロントウインドシールド12の車幅方向外縁とフロントドア13の前縁との間を覆うように車体外側に露出する露出部41と、露出部41の陰に目視不能に隠れて伸展可能に屈曲する伸展部42とで構成される。断面円弧状に形成された露出部41の表面は化粧面41aとなっており、フロントウインドシールド12の車幅方向外縁とフロントドア13の前縁との間を、モール31と協働して滑らかに接続するように配置される。一方、伸展部42は、その車幅方向中間部にインフレータ26が嵌合する開口42aが形成されており、開口42aの車幅方向外側には露出部41の後面に沿って延びる第1部分42bが形成されるとともに、開口42aの車幅方向内側には車幅方向に3層に重なるように折り返されて車体前後方向に延びる第2部分42cが形成される。
【0051】
フロントピラー15のエアバッグ34を除く部分であるフロントピラー本体43は、インナーパネル44、アウターパネル45およびスチフナ46を一体に溶接W6して構成されており、エアバッグ34はスチフナ46の前面とアウターパネル45の車幅方向側面とに跨がるように配置される。
【0052】
インナーパネル44の車幅方向外側面に2個のブラケット22,22が各々ボルト23およびナット24で固定されており、これらのブラケット22,22に半割円筒状のインフレータ支持部材25,25が各々溶接されるとともに、これらのインフレータ支持部材25,25が概ね円柱状のインフレータ26の外周面の半周に跨がるように溶接される。各インフレータ支持部材25は、スチフナ46に形成した長方形の開口46aに嵌合する。エアバッグ34の伸展部42の開口42aに隙間なく嵌合するように位置決めされたインフレータ26は、それと一体の各インフレータ支持部材25が、ボルト27,27およびナット28,28でエアバッグ34に固定される。
【0053】
図8から明らかなように、エアバッグ34の下端は段部34aを介して先細になるように成形されており、そこにキャップ47を溶接するこによりエアバッグ34の気密性が確保される。そしてフロントフェンダー48の端縁がエアバッグ34の段部34aに嵌合することにより、フロントピラー15の下部とフロントフェンダー48の上部とが滑らかに接続される。
【0054】
しかして、車両の前部に歩行者が衝突した衝撃が検出されると、左右のフロントピラー15,15の内部に収納されたインフレータ26,26のガス噴出孔26a…から、エアバッグ34の内部に高圧ガスを噴出する。その結果、折り畳まれたエアバッグ34の伸展部42が伸展することで、露出部41および伸展部42が協働してフロントピラー本体43の前面に円筒状に膨張・展開することで、第1、第2の実施の形態と同様にボンネットフード11上にすくい上げられた歩行者の頭部をフロントピラー15との衝突による衝撃から保護することができる。
【0055】
しかも本実施の形態によれば、第1、第2の実施の形態に作用効果に加えて、エアバッグ34がロールフォーミング成形された一部材で構成されているため、それらを複数の部材を溶接により一体化する場合に比べて、部品点数を減少させてコストを削減することができるだけでなく、硬くなりがちなエアバッグ34の継ぎ目を無くして乗員を柔らかく拘束することができる。
【0056】
またたエアバッグ34はロールフォーミング成形によって伸展部42の形状の設計自由度が大幅に高まるため、伸展部42の車幅方向中間部に配置されたインフレータ24よりも車幅方向外側(フロントドア13側)の第1部分42bを露出部41の後面に沿わせるとともに、伸展部42の車幅方向中間部に配置されたインフレータ24よりも車幅方向内側(フロントウインドシールド12側)の第2部分42cを車体前後方向に延びて車幅方向に3層に重なるように折り返すことで、展開代の大きい第2部分42cを車体前方に向けて大きく展開させて乗員が衝突したときの衝撃吸収ストロークを充分に大きく確保することができ、しかもこのときに第1部分42bが第2部分に引かれて車体前方へ伸展することによって、第2部分42cの車体前方への伸展が阻害されるのを防止することができる。
【0057】
図9および図10は本発明の第4の実施の形態を示すもので、図9はフロントピラーの横断面図、図10はフロントピラーの下部の斜視図である。
【0058】
第4の実施の形態は第3の実施の形態の変形であって、第3の実施の形態との相違点の一つは、エアバッグ34の伸展部42の第1部分42bの一部が後方に湾曲し、アウターパネル45の外面に接触していることである。その結果、洗車時やワックス掛け時に作業者のがフロントピラー15の露出面41を手で押したとき、伸展部42の第1部分42bがアウターパネル45の外面に対して突っ張ることで、露出面41の剛性を確保することができる。
【0059】
第2の相違点は、エアバッグ34の伸展部42の第1部分42bを露出部41の後面に沿うように複数回ジグザグに折り返したことである。これにより、伸展部42の展開代が大きくなって展開完了時のエアバッグ34の直径を更に拡大することができる。
【0060】
第3の相違点は、エアバッグ34の下端の開口をキャップ47の溶接により閉塞する代わりに、その下端を潰した後に折り返して閉塞する点である。このようにすると、キャップ47が不要になるために部品点数の削減が可能になる。
【0061】
この第4の実施の形態のその他の作用効果は、上述した第3の実施の形態の作用効果と同じである。
【0062】
図11および図12は本発明の第5の実施の形態を示すもので、図11はフロントピラーの横断面図、図12は図11の12−12線断面図である。
【0063】
第5の実施の形態は第3の実施の形態の変形であって、インフレータ26の取付部の構造だけが異なっている。即ち、インナーパネル44にボルト23,23およびナット24,24で固定された2個のブラケット22,22に溶接された2個のインフレータ支持部材25,25は、その一端側に係止爪25a,25aを備えており、これらの係止爪25a,25aがスチフナ46に形成した係止孔46b,46bに係合する。
【0064】
従って、膨張・展開したエアバッグ34が歩行者を拘束したとき、エアバッグ34が受ける後ろ向きの荷重は、2個のインフレータ支持部材25,25の係止爪25a,25aからスチフナ46に伝達されて支持されることで、エアバッグ34の後退を規制して位置を安定させることができる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0066】
例えば、実施の形態ではエアバッグ装置を自動車のフロントピラー15に適用しているが、その他の任意の場所に適用することができる。
【0067】
また第3および第4の実施の形態において、エアバッグ34をロールフォーミング成形により構成する代わりに、押出成形により構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】第1の実施の形態に係る自動車の車体前部の平面図
【図2】図1の2−2線拡大断面図
【図3】エアバッグおよびインフレータの分解斜視図
【図4】図2に対応するエアバッグの展開時の作用説明図
【図5】第2の実施の形態に係るフロントピラーの横断面図
【図6】図5に対応するエアバッグの展開時の作用説明図
【図7】第3の実施の形態に係るフロントピラーの横断面図
【図8】フロントピラーの下部の斜視図
【図9】第4の実施の形態に係るフロントピラーの横断面図
【図10】フロントピラーの下部の斜視図
【図11】第5の実施の形態に係るインフレータの取付部の構造を示す図
【図12】図11の12−12線断面図
【符号の説明】
【0069】
12 フロントウインドシールド
13 フロントドア
15 フロントピラー
16 前部アウターパネル(第1金属部材)
16b 化粧面
18 前部インナーパネル(第2金属部材)
26 インフレータ
32 中間パネル(第2金属部材)
34 エアバッグ
41 露出部
41a 化粧面
42 伸展部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目視可能に露出する露出部(41)と、目視不能に覆われて伸展可能に折り畳まれた伸展部(42)とで閉断面を有する金属製のエアバッグ(34)を構成し、車両の衝突時にインフレータ(26)が発生する高圧ガスで前記エアバッグ(34)を膨張させて歩行者を衝突の衝撃から保護することを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグ(34)の内部に前記インフレータ(26)の少なくも一部を収納したことを特徴とする、請求項1に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグ(34)の露出部(41)はフロントピラー(15)の化粧面(16b,41a)を構成することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグ(34)は展開状態で概ね円筒状を成すことを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記露出部(41)を構成する第1金属部材(16)と、前記伸展部(42)を構成する第2金属部材(18,32)とを結合して前記エアバッグ(34)を構成したことを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項6】
前記第1金属部材(16)の両側縁と前記インフレータ(26)との間を、二つの前記第2金属部材(18,32)で接続して前記エアバッグ(34)を構成したことを特徴とする、請求項5に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項7】
前記エアバッグ(34)の露出部(41)および伸展部(42)をロールフォーミング成形あるいは押出成形により一体に成形したことを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項8】
前記エアバッグ(34)はフロントピラー(15)の一部を構成し、前記インフレータ(26)を前記伸展部(42)の車幅方向中間部に配置し、前記インフレータ(26)よりも車幅方向内側の前記伸展部(42)を相互に重なるように車体前後方向に折り返したことを特徴とする、請求項7に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項9】
前記エアバッグ(34)はフロントピラー(15)の一部を構成し、前記インフレータ(26)を前記伸展部(42)の車幅方向中間部に配置し、前記インフレータ(26)よりも車幅方向外側の前記伸展部(42)を前記露出部(41)の後面に沿わせたことを特徴とする、請求項7または請求項8に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項10】
前記露出部(41)はフロントウインドシールド(12)の車幅方向外縁とフロントドア(13)の前縁との間を覆うことを特徴とする、請求項7〜請求項9の何れか1項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項11】
フロントピラー本体(43)はフロントウインドシールド(12)と平行な前面と、前記前面から車体後方に向かって湾曲する側面とを備え、前記インフレータ(26)は前記前面に配置され、前記インフレータ(26)よりも車幅方向外側の前記伸展部(42)は、前記インフレータ(26)から遠い位置で前記露出部(41)の後面に沿って延びる第1部分(41b)と、前記インフレータ(26)に近い位置で車幅方向にジグザグに折り返される第2部分(41c)とを備えることを特徴とする、請求項7に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項12】
前記第1部分(41b)の中間部を後方に湾曲させて前記フロントピラー本体(43)の側面に当接させたことを特徴とする、請求項11に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−143552(P2009−143552A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287095(P2008−287095)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】