説明

気体フィルター用濾材

【課題】 空気などの気体中に含まれるダストなどの微粒子を高効率で捕集することができ、優れた濾過性能が長期にわたって維持でき、強度および耐久性に優れ、濾材寿命の長いエアフィルター用濾材の提供。
【解決手段】 平均繊維径が10〜1000nmの有機重合体ナノ繊維の集合体よりなるナノ繊維層(A)と平均繊維径が5μmを超える非ナノ繊維よりなる非ナノ繊維層(B)が積層した積層構造体であって、ナノ繊維層(A)部分の目付が0.1〜10g/m2である積層構造体から本発明のエアフィルター用濾材によって上記した目的が達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気などの気体中に含まれるダストなどの微粒子を高効率で捕集することができ、しかも優れた濾過性能が長期にわたって維持され、破損が生じず強度および耐久性にも優れる気体フィルター用濾材およびそれを用いた気体フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
気体や液体に含まれる微粒子を除去するための濾材として、膜状濾材、不織布などの布帛状濾材、フィラメント状濾材などが従来から使用されている。
これらの中で、膜状濾材は、均一な微小孔径を持ち、精密なろ過が可能であるが、気体中に含まれるダストなどの微粒子の付着によって圧力損失が急激に上昇するため、濾材寿命が短く、濾材の交換を頻繁に行う必要がある。
【0003】
一方、不織布などの布帛状濾材は布帛内空間が多いため、捕捉したダストなどによる圧力損失の上昇が緩やかであり、濾材寿命が長いというメリットがあるが、均一で微小な孔径を有する布帛状濾材が得られにくいという欠点がある。
かかる点から、布帛状濾材を構成する繊維の繊維径を細くすることで孔径の微細化や均一化を図って高性能化することが試みられており、例えばメルトブローン不織布やガラス繊維不織布などが濾材として用いられている。
【0004】
しかしながら、メルトブローン不織布は、通常2μm程度の繊維径の繊維から構成されているため、そのままでは微粒子を捕捉しにくく、カレンダー加工などにより高密度化して捕集率を高める工夫がされているが、高密度化により気体や液体の通過性が阻害されるといった問題がある。
一方、ガラス繊維製不織布よりなる濾材では、不織布を構成するガラス繊維の繊維径を1μm以下にすることが可能で、高い捕集性能を示すが、一般にガラス繊維製濾材にはバインダー成分が含まれるため、フィルターの使用条件によってはバインダーが溶出するという問題があり、しかもガラス繊維が濾材から脱落し易いという問題がある。
【0005】
また、静電紡糸法により製造された平均繊維径が0.01μm以上、0.5μm未満の極細繊維集合体層と平均繊維径が0.5〜5μmの細繊維集合体層を有する濾過材(特許文献1を参照)、および静電紡糸法により製造された平均繊維径が170nm以下の極細繊維集合体層と平均繊維径が200〜800nm程度の細繊維集合体層を有する滅菌濾過材(特許文献2を参照)が提案されている。これらの特許文献1および2の技術では、前記濾過材を液体の濾過に用いることが意図されていて、濾過材における極細繊維集合体層の目付は15〜25g/m2が好ましいとされていて(特許文献2の段落0031)、極細繊維集合体層の目付が15g/m2以上である濾過材が専ら製造されている(特許文献2の実施例1では21g/m2以、実施例2では16g/m2)。
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に記載されている液体濾過用の濾過材を気体用の濾材として転用した場合には、通気抵抗が高くて、良好な通気性を維持しながら気体中に含まれる微粒子を捕捉することが困難であり、しかも濾材の強度や耐久性が不十分で、早期に濾過性能の低下や、破損を生じ易く、実用性に乏しいことが判明した。
【0007】
【特許文献1】特開2005−218909号公報
【特許文献2】特開2006−341233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、気体中に含まれるダストなどの微粒子を高効率で除去することができ、微粒子が濾材中に捕捉されても圧力損失が急激に上昇せず、その優れた気体濾過性能を長期にわたって維持することのできる濾材寿命の長い気体フィルター用濾材を提供することである。
本発明の目的は、高圧気体の濾過に用いた際にも、濾材の濾過性能の低下や変形、破損などが生じず、耐久性に優れる気体フィルター用濾材を提供することである。
本発明の目的は、化学物質などの溶出や濾材を構成する繊維の脱落などのない、安定性、安全性、衛生性に優れる気体フィルター用濾材を提供することである。
そして、本発明の目的は、前記した優れた特性を備える気体フィルター用濾材を用いた気体フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく検討を重ねてきた。その結果、気体フィルター用濾材を、平均繊維径が10〜1000nmの有機重合体ナノ繊維の集合体からなるナノ繊維層と、平均繊維径が5μmを超える繊維よりなる非ナノ繊維層が積層した積層構造体から形成し、しかもその際に当該積層構造体におけるナノ繊維層部分の目付を0.1〜10g/m2にすると、当該気体フィルター用濾材が、気体中に含まれるダストなどの微粒子の捕集能に優れていて微粒子を高効率で除去できること、しかも微粒子が濾材中に捕捉されても圧力損失が急激に上昇せず、濾材寿命が長く、優れた気体濾過性能を長期にわたって維持すること、更に高圧気体の濾過に用いた際にも、濾材の濾過性能の低下や変形、破損などが生じず、耐久性に優れること、その上化学物質などの溶出や濾材を構成する繊維の脱落などがなく、安定性、安全性、衛生性などに優れることを見出した。
【0010】
さらに、本発明者らは、上記特定のナノ繊維層と非ナノ繊維層とが積層した積層構造体からなる前記気体フィルター用濾材において、濾材を形成する積層構造体の平均ポアサイズを0.1〜10μmにすると、気体の通過抵抗の上昇およびそれに伴う濾材寿命の低下を防ぎながら、気体中に含まれる微粒子を高効率で濾過できることを見出した。
また、本発明者らは、当該エアフィルター用濾材を構成する積層構造体の目付に対する引張強力を特定以上の値にすると、エアフィルター用濾材の耐久性、エアフィルター用濾材を用いてエアフィルターを作製する際の加工性などが良好になることを見出した。
更に、本発明者らは、当該エアフィルター用濾材の通気度を0.1〜100cc/cm2/secにすると、気体の通過抵抗の上昇およびそれに伴う濾材寿命の低下を防ぎながら、気体中に含まれる微粒子を高効率で長期にわたって濾過できることを見出した。
【0011】
また、本発明者らは、前記エアフィルター用濾材におけるナノ繊維層は、有機重合体の有機溶媒溶液または溶融液を用いて静電紡糸を行なうことによって円滑に形成できることを見出した。
さらに、本発明者らは、前記エアフィルター用濾材を形成する積層構造体におけるナノ繊維層および/または非ナノ繊維層は、ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維およびポリオレフィン繊維から選ばれる1種または2種以上の繊維から形成するのが好ましく、特にポリアミド繊維、そのうちでも、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位からなり、ジアミン単位の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミン単位からなるポリアミドよりなる繊維から形成すると、エアフィルター用濾材の耐熱性および耐薬品性がより優れたものになることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) 平均繊維径が10〜1000nmの有機重合体ナノ繊維の集合体よりなるナノ繊維層(A)と平均繊維径が5μmを超える非ナノ繊維よりなる非ナノ繊維層(B)が積層した積層構造体であって、ナノ繊維層(A)部分の目付が0.1〜10g/m2である積層構造体からなることを特徴とする気体フィルター用濾材である。
【0013】
そして、本発明は、
(2) 気体フィルター用濾材をなす積層構造体における平均ポアサイズが0.1〜10μmである前記(1)の気体フィルター用濾材であり;
(3) 気体フィルター用濾材をなす積層構造体が、下記の数式(1)を満足する引張強力を有する前記(1)または(2)の気体フィルター用濾材である。

(100×Ts)/W≧1.0 (1)

[式中、Tsは気体フィルター用濾材をなす積層構造体の縦方向の引張強力(kgf/15mm)と横方向の引張強力(kgf/15mm)の平均値、Wは積層構造体全体の目付(g/m2)である。]
である。
【0014】
さらに、本発明は、
(4) 通気度が0.1〜100cc/cm2/secである前記(1)〜(3)のいずれかの気体フィルター用濾材;
(5) 平均粒径が1μmの石英粒子の捕集率が90質量%以上である前記(1)〜(4)のいずれかの気体フィルター用濾材;および、
(6) 気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)が、有機重合体の有機溶媒溶液または溶融液を用いて静電紡糸によって形成されたものである前記(1)〜(5)のいずれかの気体フィルター用濾材;
である。
【0015】
そして、本発明は、
(7) 気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)および/または非ナノ繊維層(B)が、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリオレフィンから選ばれる1種または2種以上の有機重合体より形成された繊維からなる前記(1)〜(6)のいずれかの気体フィルター用濾材;および、
(8) 気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)および/または繊維層(B)がポリアミド繊維からなる前記(7)の気体フィルター用濾材;および、
(9) 気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)および/または非ナノ繊維層(B)が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位からなり、ジアミン単位の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミン単位からなるポリアミドよりなるポリアミド繊維から形成されている前記(8)の気体フィルター用濾材;
である。
さらに、本発明は、
(10) 前記(1)〜(9)のいずれかの気体フィルター用濾材を用いた気体フィルターである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の気体フィルター用濾材は、気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)が、平均繊維径10〜1000nmの有機重合体ナノ繊維の集合体よりなり且つ目付が0.1〜10g/m2であることにより、気体中に含まれるダストなどの微粒子を高効率で除去することができ、しかも通気抵抗が小さく、気体中に含まれる微粒子が濾過によって濾材中に捕捉されても圧力損失が急激に上昇せず、長期にわたって優れた気体濾過性能を維持することができ、濾材寿命が長い。
本発明のエアフィルター用濾材は、エアフィルター用濾材をなす積層構造体における非ナノ繊維層(B)が、平均繊維径が5μmを超える非ナノ繊維から形成されているために、強度および耐久性に優れており、高圧気体の濾過に用いた際にも、濾材の濾過性能の低下や変形、破損などが生じない。
本発明のエアフィルター用濾材は、化学物質などの溶出や濾材を構成する繊維の脱落などがなく、安定性、安全性、衛生性に優れている。
【0017】
本発明の気体フィルター用濾材において、濾材を形成する積層構造体の平均ポアサイズが0.1〜10μmの範囲のものは、気体の通過抵抗の上昇およびそれに伴う濾材の寿命の低下がより少なく、気体中に含まれる微粒子を高効率で濾過することができる。
本発明の気体フィルター用濾材において、気体フィルター用濾材を構成する積層構造体の目付に対する引張強力が上記の数式(1)[(100×Ts)/W≧1.0]を満足するものは、耐久性により優れ、しかも当該エアフィルター用濾材を用いてエアフィルターを作製する際の加工性により優れている。
本発明の気体フィルター用濾材において、通気度が0.1〜100cc/cm2/secのものは、気体の通過抵抗の上昇およびそれに伴う濾材の寿命の低下がより少なく、気体中に含まれる微粒子をより高い効率で長期にわたって濾過することができる。
【0018】
本発明の気体フィルター用濾材において、ナノ繊維層(A)および/または非ナノ繊維層(B)をポリアミド繊維、特にジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位からなり、ジアミン単位の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミン単位からなるポリアミドよりなる繊維から形成したものは、耐熱性および耐薬品性により優れており、耐熱性および/または耐薬品性が要求される用途に有効に使用することができる。
本発明の気体フィルター用濾材において、気体フィルター用濾材をなす積層構造体のナノ繊維層(A)を静電紡糸で形成したものでは、ナノ繊維層(A)の形成に当たって空気などによる加圧処理や吸引による減圧処理などを施すことなく、高電圧のみをドライビングフォースとしてナノ繊維層(A)を形成していることから、ナノ繊維層(A)は高い空隙率を有し、通気性により優れている。
本発明の気体フィルター用濾材は、前記した種々の優れた特性を活かして、様々な用途の有効に使用することができ、例えばビル空調用、産業空調用(クリーンルーム、塗装ブース他)、自動車工業用、一般家電用などの気体フィルター用の濾材として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の気体フィルター用濾材は、平均繊維径が10〜1000nmの有機重合体ナノ繊維の集合体よりなるナノ繊維層(A)と、平均繊維径が5μmを超える非ナノ繊維よりなる非ナノ繊維層(B)が積層した積層構造体から形成されている。
【0020】
気体フィルター用濾材をなす積層構造体において、ナノ繊維層(A)を構成する有機重合体ナノ繊維(以下単に「ナノ繊維」ということがある)の平均繊維径が10nm未満であると、ナノ繊維が円滑に製造できなくなり、ナノ繊維層(A)の安定な形成が困難になる。一方、気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)を構成するナノ繊維の平均繊維径が1000nmを超えると、極細化が不十分で、繊維表面積が低下し、気体フィルター用濾材の微粒子捕集効率が著しく低下する。
気体フィルター用濾材の生産性および微粒子などの捕集効率の点から、ナノ繊維層(A)を構成するナノ繊維の平均繊維径は40〜800nmであることが好ましく、50〜600nmであることがより好ましく、100〜500nmであることが更に好ましい。
【0021】
また、気体フィルター用濾材をなす積層構造体において、非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維の平均繊維径が5μm以下であると、積層構造体の引張強力が低くなり、気体フィルター用濾材を用いて気体フィルターを製造する際の加工性が悪くなるばかりか、気体フィルターとしての耐久性も低下する。非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維の平均繊維径は6〜200μmであることが好ましく、7〜180μmであることがより好ましく、7〜50μmであることが更に好ましい。
なお、本明細書におけるナノ繊維層(A)を構成するナノ繊維および非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維の平均繊維径は、以下の実施例に記載した方法で求められる平均繊維径をいう。
本発明の気体フィルター用濾材では、気体中に含まれる微粒子の捕集性能は主としてナノ繊維層(A)によって確保され、気体フィルター用濾材から気体フィルターを作製する際の加工性や耐久性は主として非ナノ繊維層(B)で確保される。
【0022】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体は、ナノ繊維層(A)を少なくとも1層および非ナノ繊維層(B)を少なくとも1層有し、ナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)が積層接着している層構造を有している。本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体の層構造の具体例としては、ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる2層構造、非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる3層構造、ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)からなる3層構造、非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)からなる4層構造、非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる5層構造、非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)からなる6層構造などを挙げることができる。
気体フィルター用濾材をなす積層構造体における合計層数が多くなり過ぎると、積層構造体を製造する際の生産性の低下、気体フィルター用濾材肉厚化、気体フィルター用濾材を気体フィルターに加工する際の加工性の低下、通気抵抗の上昇などが生じ易くなる。かかる点から、気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)の合計層数は、2〜5層であることが好ましい。
また、1つのナノ繊維層(A)には、その同一層中に、異なる繊維径のナノ繊維が混合または積層されていてもよい。同様に、非ナノ繊維層(B)においても、その同一層中に、異なる繊維径の非ナノ繊維が混合または積層されていてもよい。
【0023】
そのうちでも、本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体は、両方の表面に非ナノ繊維層(B)が位置する構造、特に図1に示すような非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる3層構造、図2に示すような非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる5層構造を有していることが好ましい。積層構造体が両方の表面に非ナノ繊維層(B)が位置する前記した3層構造または5層構造を有していると、ナノ繊維層(A)が、強度および耐久性に優れる非ナノ繊維層(B)によって両面で保護されることになり、気体フィルター用濾材を用いて気体フィルターを製造する際の加工性、得られる気体フィルターの強度および耐久性が優れたものになる。
【0024】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体が、2層以上のナノ繊維層(A)を有している場合および/または2層以上の非ナノ繊維層(B)を有している場合には、2層以上のナノ繊維層(A)は互いに同じであってもまたは異なっていてもよく、また2層以上の非ナノ繊維層(B)は互いに同じであってもまたは異なっていてもよい。
【0025】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体では、ナノ繊維層(A)部分の目付が0.1〜10g/m2であり、それによって通気抵抗の上昇を防ぎながら、気体中に含まれる微粒子の捕集を高効率で行なうことができる。ナノ繊維層(A)部分の目付が0.1g/m2未満であると気体中の微粒子の濾過効率が低下し、一方ナノ繊維層(A)部分の目付が10g/m2を超えると通気抵抗が大きくなって気体の濾過処理が円滑に行なわれなくなると共に濾材寿命が低下する。
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体では、ナノ繊維層(A)部分の目付が0.3〜8g/m2であることが好ましく、0.5〜6g/m2であることがより好ましい。
気体フィルター用濾材をなす積層構造体が、2層以上のナノ繊維層(A)を有している場合には、本発明における「ナノ繊維層(A)部分の目付」とは、全ナノ繊維層(A)の合計目付をいう。具体的には、積層構造体が2つのナノ繊維層(A)を有する場合[例えば図2に示すような非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる5層構造を有し場合など]は、第1のナノ繊維層(A)の目付と第2のナノ繊維層(A)の目付の合計を、「ナノ繊維層(A)部分の目付」とし、2つのナノ繊維層(A)の合計目付を0.1〜10g/m2の範囲にする。また、積層構造体が3つのナノ繊維層(A)を有する場合は、第1のナノ繊維層(A)の目付と第2のナノ繊維層(A)の目付と第3のナノ繊維層(A)の目付の合計を「ナノ繊維層(A)部分の目付」とし、3つのナノ繊維層(A)の合計目付を0.1〜10g/m2にする。
【0026】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体では、非ナノ繊維層(B)部分の目付は特に制限されないが、非ナノ繊維層(B)は気体フィルター用濾材をなす積層構造体の製造時にナノ繊維層(A)を支持するための支持体としての役割やナノ繊維層(A)の保護層としての役割を持つことから、また積層構造体から形成される気体フィルター用濾材の強度、耐久性、通気性、寿命などの点から、非ナノ繊維層(B)の目付は、10〜500g/m2であることが好ましく、12〜450g/m2であることがより好ましい。積層構造体が2層以上の非ナノ繊維層(B)を有している場合は、全非ナノ繊維層(B)の合計目付が前記した好ましい範囲またはより好ましい範囲になるようにするとよい。非ナノ繊維層(B)の目付が小さすぎると、積層構造体の生産工程に耐えうる強力を確保することが困難になったり、積層構造体の強度が低くなり易く、一方非ナノ繊維層(B)の目付が大きすぎると、気体フィルター用濾材の加工性や取り扱い性が悪くなったり、通気性が悪くなり、好ましくない。
【0027】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体の全体の目付は、積層構造体から形成される気体フィルター用濾材の取り扱い性、強度、耐久性、通気性、気体フィルター用濾材を用いて気体フィルターを製造する際の加工性、取り扱い性などの点から、10.1〜510g/m2であることが好ましく、12〜460g/m2であることがより好ましい。
【0028】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体では、ナノ繊維層(A)の形成容易性、気体中に含まれる微粒子などの捕集性、気体フィルター用濾材の通気性、寿命などの点から、1つのナノ繊維層(A)の厚さが0.1〜100μmであることが好ましく、0.2〜90μmであることがより好ましく、0.3〜80μmであることが更に好ましい。
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体では、気体フィルター用濾材の強度、気体フィルター用濾材を用いて気体フィルターを製造する際の加工性や取り扱い性、通気性、寿命などの点から、1つの非ナノ繊維層(B)の厚さが0.05〜1mmであることが好ましく、0.08〜0.8mmであることがより好ましく、0.1〜0.7mmであることが更に好ましい。
また、気体フィルター用濾材を用いて気体フィルターを製造する際の加工性や取り扱い性、通気性、気体に含まれる微粒子などの捕集性、寿命などの点から、本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体の全体の厚さは、0.05〜5mmであることが好ましく、0.08〜4.5mmであることがより好ましく、0.1〜4mmであることが更に好ましい。
【0029】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体は、気体に含まれる微粒子の除去効率を高く維持すると共に通気抵抗を低く維持して濾過速度を速くし且つ濾材寿命を長くするという観点から、気体フィルター用濾材をなす積層構造体全体での平均ポアサイズが0.1〜10μmであることが好ましく、0.2〜9μmであることがより好ましく、0.3〜8μmであることが更に好ましい。積層構造体全体での平均ポアサイズが前記よりも小さすぎると、通気抵抗が大きくなり過ぎて気体の濾過が円滑に行なわれにくくなり、一方積層構造体全体での平均ポアサイズが大きすぎると、気体に含まれている微粒子の捕集能が低下したものになり易い。
【0030】
また、本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体では、ナノ繊維層(A)の平均ポアサイズが0.1〜10μm、更には0.2〜9μm、特に0.3〜8μmで、非ナノ繊維層(B)の平均ポアサイズが10〜200μm、更には11〜180μm、特に12〜160μmであることが、積層構造体の製造の容易性、気体に含まれる微粒子の除去率、通気性、濾過速度、フィルター寿命、均一性などの点から好ましい。
ここで、本明細書における積層構造体全体での平均ポアサイズ、ナノ繊維層(A)の平均ポアサイズおよび非ナノ繊維層(B)の平均ポアサイズとは、積層構造体全体、積層構造体を構成するナノ繊維層(A)部分または非ナノ繊維層(B)部分について、Porous Materials社製の「Automated Perm Porometer」を用いて、バブルポイント法によって孔径分布を測定し、その平均値を採ったものであり、その具体的な測定方法は以下の実施例に記載するとおりである。
ナノ繊維層(A)を構成するナノ繊維の平均繊維径、ナノ繊維層(A)の目付や厚さ、非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維の平均繊維径、非ナノ繊維層(B)の目付や厚さなどを調整することにより、ナノ繊維層(A)における平均ポアサイズ、非ナノ繊維層(B)の平均ポアサイズおよび積層構造体全体での平均ポアサイズを上記した好ましい範囲に調整することができる。
【0031】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体は、下記の数式(1)を満足する引張強力を有することが、気体フィルター用濾材の強度、耐久性などの点から好ましい。

(100×Ts)/W≧1.0 (1)

[式中、Tsは気体フィルター用濾材をなす積層構造体の縦方向の引張強力(kgf/15mm)と横方向の引張強力(kgf/15mm)の平均値、Wは積層構造体全体の目付(g/m2)である。]
【0032】
気体フィルター用濾材をなす積層構造体の引張強力が、上記の数式(1)を満足しない場合[(100×Ts)/W<1.0の場合]には、気体フィルター用濾材を用いて気体フィルターを製造する際の加工性が悪くなり、得られる気体フィルターの耐久性が低下したものになり易い。
本発明の気体フィルター用濾材では、気体フィルター用濾材をなす積層構造体が、(100×Ts)/W≧1.2を満足する引張強力を有することがより好ましく、(100×Ts)/W≧1.4を満足する引張強力を有することが更に好ましい。
ここで、Tsは、縦方向の引張強力(kgf/15mm)と横方向の引張強力(kgf/15mm)を合計し、その合計値を2で割ることによって求めることができる。
【0033】
一方で、本発明のエアフィルター用濾材を構成する積層構造体は、「(100×Ts)/W≦5000」という数式を満足することが好ましい。(100×Ts)/W>5000の場合には、積層構造体の柔軟性が低下する場合がある。
【0034】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体は、縦方向の引張強力Tsaが下記の数式(1a)を満足し且つ横方向の引張強力Tsbが下記の数式(1b)を満足することがより好ましい。

(100×Tsa)/W≧1.0 (1a)
(100×Tsb)/W≧1.0 (1b)

[式中、Tsaは気体フィルター用濾材をなす積層構造体の縦方向の引張強力(kgf/15mm)、Tsbは積層構造体の横方向の引張強力(kgf/15mm)、Wは積層構造体全体の目付(g/m2)である。]
【0035】
積層構造体における(100×Ts)/Wの値、(100×Tsa)/Wの値および(100×Tsb)/Wの値は、非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維の繊維径、繊維強度、繊維の絡合・熱圧着条件、ナノ繊維層(A)の目付などを変えることによって調整することができる。例えば、非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維の繊維径を大きくしたり、強度の高い非ナノ繊維を用いたり、非ナノ繊維層(B)における繊維の絡合・熱圧着条件を強化したりすることによって、(100×Ts)/Wの値、(100×Tsa)/Wの値、(100×Tsb)/Wの値を大きくすることができる。
【0036】
また、本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体の通気度は0.1〜100cc/cm2/secであることが好ましく、0.5〜80cc/cm2/secであることがより好ましく、1.0〜60cc/cm2/secであることが更に好ましい。
積層構造体の通気度が前記範囲から外れて小さ過ぎると、通気抵抗が高くなり、濾材寿命が短くなり、一方積層構造体の通気度が前記範囲から外れて大きすぎると、気体中に含まれる微粒子などを十分に捕集できにくくなる。
【0037】
気体に含まれる微粒子などを高効率で捕集して分離できるようにするために、本発明の気体フィルター用濾材は、以下の実施例で具体的に記載する「粒径1μmの石英粒子の捕集効率」が90%であることが好ましく、92%以上であることがより好ましく、94%以上であることが更に好ましい。
【0038】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体のナノ繊維層(A)を構成する有機重合体ナノ繊維は、有機重合体よりなる平均繊維径が10〜1000nmの繊維であれば、フィラメント繊維(長繊維)、短繊維、それらの混合物であってもいずれでもよいが、フィラメント繊維であることが、ナノ繊維層(A)の形成の容易性、気体フィルター用濾材からのナノ繊維の脱落防止、ナノ繊維層(A)におけるポアサイズの均一性、緻密性などの点から好ましい。特に、ナノ繊維層(A)は、静電紡糸法で製造された、平均繊維径が10〜1000nmのフィラメント状ナノ繊維(ナノフィラメント)の集合体であることがより好ましい。
【0039】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体における非ナノ繊維層(B)の形態は、不織布、織布、編布などのいずれであってもよく、通気性、機械的特性などの点から不織布であることが好ましい。
非ナノ繊維層(B)が不織布からなる場合は、湿式抄造不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布、スパンレース不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、エアレイド不織布、ニードルパンチ不織布などのいずれであってもよい。そのうちでも、スパンボンド不織布、湿式抄造不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布であることが、強力の点から好ましい。
【0040】
ナノ繊維層(A)を構成する有機重合体ナノ繊維の種類は特に制限されず、有機重合体から形成された平均繊維径が10〜1000nmのナノ繊維であればいずれでもよい。
また、非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維の種類は特に制限されないが、繊維形成性の有機重合体からなる非ナノ繊維であることが、非ナノ繊維層(B)の製造の容易性、ナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)の接着性、強力などの点から好ましい。
【0041】
ナノ繊維層(A)を構成する有機重合体ナノ繊維および非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維としては、例えば、ポリアミド(芳香族ジカルボン酸単位と脂肪族ジアミン単位から主としてなるポリアミド、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン6−12などの脂肪族ポリアミドおよびその共重合体など);ポリエステル[ポリエチレンテレフタレート系、ポリトリメチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系、ポリヘキサメチレンテレフタレート系などの芳香族ポリエステル系(共)重合体、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体、ポリカプロラクトンなどの脂肪族ポリエステルおよびその共重合体など];ポリオレフィン(プロピレン、エチレン、ブテン、メチルペンテンなどのオレフィンの単独重合体や共重合体など);ポリビニルアルコール系重合体;エチレン−ビニルアルコール共重合体;熱可塑性エラストマー(スチレン系熱可塑性エラストマー、ジエン系熱可塑性エラストマー、塩素系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、芳香族ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマーなど)などの熱可塑性重合体の1種または2種以上からなるナノ繊維および非ナノ繊維を挙げることができる。
【0042】
そのうちでも、ナノ繊維層(A)を構成するナノ繊維は、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリオレフィンから選ばれる1種または2種以上の有機重合体より形成されたナノ繊維であることが、気体フィルター用濾材から気体フィルターを作製する際の加工性が良好であり、しかも均一である点から好ましい。
また、非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維も、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリオレフィンから選ばれる1種または2種以上の有機重合体より形成された非ナノ繊維であることが、気体フィルター用濾材から気体フィルターを製造する際の加工性が良好であり、しかも高強力である点から好ましい。
【0043】
ナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)との接着強度を高くして、層間剥離のない、力学的特性、加工性および取り扱い性に優れる気体フィルター用濾材を得るという観点からは、ナノ繊維層(A)を構成するナノ繊維と非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維を同じ有機重合体または同系統の有機重合体から形成することが好ましい。
【0044】
そのうちでも、ナノ繊維層(A)をナイロンなどのポリアミドナノ繊維から構成し、非ナノ繊維層(B)をポリアミド非ナノ繊維から構成すると、ナノ繊維層(A)を構成するナノ繊維の平均繊維径が微小化でき、微粒子などの捕集効率に優れるエアフィルター用濾材用の積層構造体を得ることができる。
また、ナノ繊維層(A)および非ナノ繊維層(B)を「ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上、更には80モル%以上、特に90〜100モル%が芳香族ジカルボン酸単位からなり、ジアミン単位の60モル%以上、更には75モル%以上、特に90モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミン単位からなるポリアミド」[以下これを「ポリアミド(α)」という]から形成したナノ繊維および非ナノ繊維のそれぞれから構成すると、耐熱性および耐薬品性に優れる気体フィルター用濾材を得ることができ、当該気体フィルター用濾材を用いて作製された気体フィルターは耐熱性や耐薬品性の要求される用途に用いることができる。
【0045】
前記したポリアミド(α)において、当該ポリアミド(α)を構成する芳香族ジカルボン酸単位としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジ安息香酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸の1種または2種以上からなる芳香族ジカルボン酸単位を挙げることができ、そのうちでも、耐熱性、耐薬品性などの点から、ポリアミド(α)を構成する芳香族ジカルボン酸単位に対して、テレフタル酸単位の割合が60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90〜100モル%であることが更に好ましい。ポリアミド(α)を構成する全ジカルボン酸単位に対しては、テレフタル酸単位の割合が、40モル%以上、更には60モル%以上、特に80〜100モル%であることが好ましい。
【0046】
ポリアミド(α)は、ジカルボン酸単位の40モル%以下、好ましくは20モル%以下の割合で、必要に応じて、例えば、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、3,3−ジエチルコハク酸、グルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;などの芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸の1種または2種以上に由来するジカルボン酸単位を有してもよい。
また、ポリアミド(α)は、必要に応じて、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸に由来する構造単位を、上記したポリアミドナノ繊維の形成が可能な範囲で有していてもよい。
【0047】
また、前記ポリアミド(α)において、当該ポリアミド(α)を構成する炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミン単位としては、例えば、1,6−ヘキサンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミンの1種または2種以上からなる脂肪族アルキレンジアミン単位を挙げることができる。
【0048】
そのうちでも、ポリアミド(α)では、ジアミン単位の60モル%以上、更には80モル%以上、特に90〜100モル%が、1,9−ノナンジアミン単位からなるか、または1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアンミン単位の併用からなることが耐熱性、耐薬品性などの点から好ましい。1,9−ノナンジアミン単位と2−メチル−1,8−オクタンジアンミン単位の併用の場合は、1,9−ノナンジアミン単位:2−メチル−1,8−オクタンジアンミン単位のモル比(質量比)が30:70〜99:1、特に40:60〜95:5であることが好ましい。
【0049】
ポリアミド(α)は、ジアミン単位の40モル%以下、好ましくは20モル%以下の割合で、必要に応じて炭素数6〜12の脂肪族ジアミン単位以外のジアミン単位、例えば、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルジアミン、トリシクロデカンジメチルジアミンなどの脂環式ジアミン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、キシレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテルなどの芳香族ジアミンの1種または2種以上に由来するジアミン単位を有していてもよい。
【0050】
また、ポリアミド(α)は、その分子鎖の末端基の10%以上、更には40%以上、特に70%以上が末端封止剤により封止されていることが好ましい。ポリアミド(α)の分子鎖の末端が前記割合で封止されていると、当該ポリアミド(α)からなるナノ繊維および非ナノ繊維から構成される積層構造体よりなる気体フィルター用濾材の強度、耐薬品性、耐熱性等が優れたものとなる。
末端封止剤としては、ポリアミド末端のアミノ基またはカルボキシル基と反応性を有する単官能性の化合物であればとくに制限はないが、反応性および封止末端の安定性などの点からモノカルボン酸、モノアミンが好ましい。取り扱いの容易さ、反応性、封止末端の安定性、価格の点でモノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸などを挙げることができる。なお、末端の封止率は1H−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値より求めることができる。
【0051】
ナノ繊維層(A)を構成するナノ繊維および/または非ナノ繊維層(B)を構成する非ナノ繊維は、本発明の目的や効果を損なわない範囲で、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤、着色剤などを含有していてもよい。
【0052】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体の製法は特に制限されないが、当該積層構造体は、静電紡糸法を採用することによって円滑に製造することができる。
静電紡糸によって本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体を製造する方法としては、例えば、
(1) 非ナノ繊維から構成される非ナノ繊維層(B)用の繊維シート(布帛)に向けて、有機重合体の有機溶媒溶液または溶融液を用いて静電紡糸して、非ナノ繊維層(B)用の繊維シート(布帛など)上に、平均繊維径が10〜1000nmのナノ繊維よりなるナノ繊維層(A)をナノ繊維層(A)部分の目付が0.1〜10g/m2となるように堆積(積層)する方法[ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)よりなる2層構造の積層構造体を製造する場合];
(2) 前記(1)で得られたナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)よりなる2層構造の積層構造体におけるナノ繊維層(A)の上面に非ナノ繊維層(B)用の繊維シート(布帛など)を更に積層する方法[非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)よりなる3層構造の積層構造体を製造する場合];
(3) 上記(2)で得られた非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)よりなる3層構造の積層構造体における非ナノ繊維層(B)の上面に、上記(1)と同様にして有機重合体の有機溶媒溶液または溶融液を用いて静電紡糸して、平均繊維径が10〜1000nmのナノ繊維よりなるナノ繊維層(A)を堆積(積層)する方法[ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)よりなる4層構造の積層構造体を製造する場合];
製造する場合];
(4) 前記(3)で得られたナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)よりなる4層構造の積層構造体におけるナノ繊維層(A)の上面に非ナノ繊維層(B)用の繊維シート(布帛など)を更に積層する方法[非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)よりなる5層構造の積層構造体を製造する場合];
などを挙げることができる。
【0053】
上記(1)〜(4)の方法などによって、ナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)が積層した積層構造体を製造する際に、必要に応じて、ナノ繊維層(A)および非ナノ繊維層(B)を構成する繊維の繊維形状が維持されるような温度条件下で熱プレスすることによって、ナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)を良好に接着・積層させることができる。ナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)の接着・接着が良好に行なわれるように、非ナノ繊維層(B)用の繊維シート(不織布)として、主体をなす非ナノ繊維に熱バインダー繊維を配合して製造した繊維シート(不織布などの布帛)を用いてもよい。
【0054】
静電紡糸に当たって、有機重合体を溶媒に溶解して調製した溶液を紡糸原液として用いる場合は、ナノ繊維の製造に使用する有機重合体の種類に応じてそれぞれ適した溶媒(有機溶媒、水、無機溶媒など)を用いればよい。
例えば、ポリアミドからナノ繊維層(A)を形成する場合の溶媒としては、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、フェノール、クレゾール、濃硫酸、蟻酸などのプロトン性極性溶媒、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などの非プロトン性極性溶媒などを挙げることができる。そのうちでも、ポリアミドの溶媒としては、ヘキサフルオロイソプロパノール、蟻酸が紡糸原液の安定性の点から好ましく用いられる。
ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからナノ繊維層(A)を形成する場合の溶媒としては、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ジクロロメタンとトリフルオロ酢酸の混合溶媒、フェノールとテトラクロロエタンの混合溶媒などを挙げることができる。そのうちでも、ポリエステルの溶媒としては、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジクロロメタンとトリフルオロ酢酸の混合溶媒が紡糸原液の安定性の点から好ましく用いられる。
ポリオレフィンからナノ繊維層(A)を形成する場合の溶媒としては、ヘプタン、ノナン、デカン、デカリンなどの沸点の高い脂肪族炭化水素、キシレン、トルエンなどの芳香族炭化水素、オルトジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素のハロゲン化物などを挙げることができる。そのうちでも、ポリオレフィンの溶媒としては、60〜130℃程度に過熱された上記した脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が紡糸原液の安定性の点から好ましく用いられる。
ポリビニルアルコールからナノ繊維層(A)を形成する場合の溶媒としては、水、特に温度が10〜90℃の水が、紡糸原液の安定性の点から好ましく用いられる。
ポリウレタンからナノ繊維層(A)を形成する場合は、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどを挙げることができる。そのうちでも、ポリウレタンの溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドが紡糸原液の安定性の点から好ましく用いられる。
【0055】
ナノ繊維層(A)を形成するための紡糸原液における有機重合体の濃度は、有機重合体の種類、製造しようとするナノ繊維の平均繊維径などによって異なり得るが、一般的には2〜20質量%が好ましく、3〜17質量%であることがより好ましい。紡糸原液における有機重合体の濃度が低すぎると、静電紡糸したときにビーズ状の塊になり易く、一方濃度が高すぎるとナノ繊維の平均繊維径が1000nmよりも大きくなり易い。
【0056】
また、有機重合体を加熱溶融して調製した溶融液を紡糸原液として用いて静電紡糸を行なう場合には、有機重合体の種類に応じて、溶融液の粘度が高くなり過ぎず且つ有機重合体の熱分解が生じないような温度を採用して溶融液を調製するのがよい。有機重合体の加熱溶融は、押出機などを用いて行なうことができる。
一般的には、有機重合体の融点よりも10〜150℃程度高い温度に押出機などを用いて加熱溶融して溶融液を調製し、その溶融液を紡糸原液として用いて静電紡糸を行なうとよい。
具体的には、例えば、ナイロン6、ナイロン66などの汎用のポリアミドの場合は、260〜410℃、特に270〜400℃の溶融温度が好ましく採用され、上記したポリアミド(α)の場合は260〜450℃、特に270〜440℃の溶融温度が好ましく採用され、ポリエチレンテレフタレートの場合は280〜430℃、特に290〜420℃の溶融温度が好ましく採用され、ポリプロピレンの場合は170〜310℃、特に180〜300℃の溶融温度が好ましく採用され、熱可塑性ポリウレタンの場合は140〜290℃、特に150〜280℃の溶融温度が好ましく採用される。
溶融温度が低すぎると、溶融液の粘度が高くなり過ぎて、得られるナノ繊維の平均繊維径が大きくなり、平均繊維径10〜1000nmのナノ繊維が形成されにくくなる。一方、溶融温度が高すぎると有機重合体の熱分解による劣化が生じ易い。
【0057】
静電紡糸方法には特に制限はなく、有機重合体を溶媒に溶解するかまたは加熱溶融して調製した紡糸原液を供給できる導電性部材に高電圧を印加することで、接地した対極側にナノ繊維を堆積させる方法であればいずれの方法を採用してもよい。その際に対極側に非ナノ繊維層(B)用の繊維シート(布帛など)を配置しておくことにより、非ナノ繊維層(B)にナノ繊維からなるナノ繊維層(A)が不織布状に堆積・積層した積層構造体が形成される。
紡糸原液の供給部から吐出された紡糸原液は、高電圧の印加によって帯電分割され、次いで電場により液滴の一点から繊維(ナノフィラメント)が連続的に引き出され、分割された繊維が多数拡散する。紡糸原液中の溶媒は、繊維形成と細化の段階で蒸発して除かれて、また溶融液を紡糸原液として用いた場合には溶融温度以下に冷却されて、紡糸原液の供給部より数cm〜数十cm離れて設置された捕集ベルトまたは捕集シート上に配置した非ナノ繊維層(B)用の繊維シート(布帛など)上に堆積する。堆積と共に半乾燥状態にあるナノ繊維同士が微膠着し、ナノ繊維間の移動が阻止され、新たなナノ繊維が逐次堆積し、ナノ繊維よりなるナノ繊維層(A)が形成されて、ナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)が積層接着した2層構造の積層構造体が得られる。
【0058】
非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる3層構造の積層構造体を製造する場合は、上記で製造した2層構造の積層構造体において、ナノ繊維層(A)が未だ半乾燥状態にある間に、ナノ繊維層(A)上に非ナノ繊維層(B)用の第2の繊維シート(布帛)を積層することによって、第2の繊維シートと、ナノ繊維層(A)との接着が強固になされて、非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる3層構造の気体フィルター用濾材用の積層構造体が形成される。
4層以上の積層構造体を製造する場合は、上記した静電紡糸操作と積層操作を繰り返すことによって、目的とする積層構造体を製造することができる。
【0059】
何ら限定されるものではないが、本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体の製造に好ましく用いられる製造装置の一例として、図3に示す静電紡糸装置を挙げることができる。
図3において、1は紡糸原液を供給するためのポンプ、2は分配整流ブロック、3は口金部、4は突出した口金、5は電気絶縁部、6は直流高電圧発生電源、7は無端コンベアからなる移送装置、8は導電性部材を示す。
図3の装置を使用して、本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体のうちで、非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる3層構造を有する積層構造体を製造する方法を例に挙げて説明する。
有機重合体を溶媒に溶解した溶液または有機重合体を溶融した溶融液よりなる紡糸原液は、定量ポンプ1により計量されて、分配整流ブロック2により均一な圧力と液量となるように分配されて口金部3に送られる。口金部3には中空針状の1ホール毎に突出させた口金4が取り付けられ、電気絶縁部5によって電気が口金部3全体に洩れるのを防止している。導電材料で作られた突出した口金4は無端コンベアからなる移送装置7の進行方向に直角方向に多数並列に垂直下向きに取り付けられ、直流高電圧発生電源6の一方の出力端子を該突出した口金4に取り付け、各突出口金4は導線により印加を可能にしている。
【0060】
移送装置7の無端コンベアにはアースをとった導電性部材8が取り付けられ、印加された電位が中和できるようになっている。図3には示してないが、非ナノ繊維層(B)用の第1の繊維シートを移送装置7の無端コンベアに取り付けた導電性部材上に無端コンベアを包囲するようにして巻き付けるか、または移送装置7の無端コンベアに取り付けた導電性部材8上に長尺または短尺の非ナノ繊維層(B)用の第1の繊維シートを載置して、繊維シートを無端コンベアによって図1の右側から左側へと移送させる。口金部3より突出口金4に圧送された紡糸原液は帯電分裂され、次いで電場により液滴の1点からファイバーが連続的に引き出され分割されたナノ繊維(ナノフィラメント)が多数拡散し、半乾燥の状態で移送装置7に取り付けられた導電性部材8の上に巻き付けられているかまたは導電性部材8上に載置されている非ナノ繊維層(B)用の繊維シート上に堆積し、微膠着が進み、移送装置7により移動され、その移動と共に次の突出口金からのナノ繊維(ナノフィラメント)の堆積を受け、次々と堆積を繰り返しながら均一なシート状のナノ繊維層(A)が非ナノ繊維層(B)(第1の繊維シート)上に形成される。
【0061】
次いで、ナノ繊維層(A)上に、好ましくはナノ繊維層(A)を構成しているナノ繊維(ナノフィラメント)が未だ半乾燥状態にあるときに、非ナノ繊維層(B)用の第2の繊維シートを積層して、ナノ繊維層(A)を内側に有し、両方の表面に非ナノ繊維層(B)を有する、非ナノ繊維層(B)/ナノ繊維層(A)/非ナノ繊維層(B)からなる層構造を有する気体フィルター用濾材用の積層構造体が形成される。
このときに、製造されるナノ繊維層(A)を構成するナノ繊維の平均繊維径は、紡糸原液をなす有機重合体の溶液中での有機重合体の濃度または有機重合体の溶融液の粘度、口金4と移送装置7との間の距離、口金4に印加される電圧などの条件を調整することによって、所定の平均繊維径に制御することができる。
【0062】
上記したナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)を有する気体フィルター用濾材用の積層構造体では、必要に応じて、エンボス処理やカレンダー処理による熱圧融着(サーマルボンド)、各種接着剤によるケミカルボンドなどによってナノ繊維層(A)と非ナノ繊維層(B)との接着を行なってもよい。
また、上記により得られる気体フィルター用濾材用の積層構造体は、必要に応じて熱プレスまたは冷間プレスを行って、目的とする厚さに調整してもよい。
【0063】
本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体は、その使用目的や用途などに応じて、必要により、エレクトレット加工による帯電処理、プラズマ放電処理やコロナ放電処理による親水化処理などの後加工処理を行ってもよい。
特に、ポリアミド(a)やポリプロピレンといった、分極性の高い重合体では、静電紡糸時に負荷される高電圧によって形成された分極状態が維持されて、あたかもエレクトレット加工を施したような性質を示すものもあり、その場合には追加のエレクトレット加工が不要になることがある。
【0064】
本発明の気体フィルター用濾材は、気体中に含まれる微小ダストなどの微粒子に対する捕集性能が高い。しかも、本発明の気体フィルター用濾材用の積層構造体において、ナノ繊維層(A)を静電紡糸で形成したものでは、ナノ繊維層(A)の形成に当たって空気などによる加圧処理や吸引による減圧処理などを施すことなく、高電圧のみをドライビングフォースとしてナノ繊維層(A)を形成していることから、ナノ繊維層(A)は高い空隙率を有し、通気性に優れており、その上ナノ繊維層(A)と積層している非ナノ繊維層(B)が有する高い強度によって、気体フィルター用濾材をなす積層構造体に優れた加工性および耐久性が付与されている。そのため、本発明の気体フィルター用濾材は、高寿命な気体フィルター用濾材として種々の用途の有効に使用することができ、例えばビル空調用、産業空調用(クリーンルーム、塗装ブース他)、自動車工業用、一般家電用などの気体フィルター用の濾材として有用である。
【実施例】
【0065】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下の例において、各物性値は以下のようにして測定した。
【0066】
(1)気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層および非ナノ繊維層(不織布)を構成する繊維の平均繊維径:
下記の実施例および比較例で得られた気体フィルター用濾材をなす積層構造体(ナノ繊維層と非ナノ繊維層からなる積層構造体、または不織布)を、厚さ方向に切断し、その切断断面を走査型電子顕微鏡(日立製作所製「S−510」)により倍率5000倍で写真撮影し、その写真の縦×横=20mm×20mmの正方形の面積部分に含まれる全ての繊維横断面について、繊維径を測定し、その平均値を採って平均繊維径とした。なお、ナノ繊維層と非ナノ繊維層からなる積層構造体については、各層ごとに層を構成する繊維の平均繊維径を求めた。
平均繊維径は、ナノ繊維層では約50個の繊維横断面の平均値であり、非ナノ繊維層および不織布では約50個の繊維横断面の平均値である。
その際に個々の繊維の繊維径は、繊維横断面の面積と同じ面積を有する円の直径をもって繊維径とした。
【0067】
(2)気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層および非ナノ繊維層(不織布)の目付並びに積層構造体全体の目付:
下記の実施例および比較例で得られた気体フィルター用濾材をなす積層構造体(ナノ繊維層と非ナノ繊維層からなる積層構造体、または不織布)について、ナノ繊維層の目付、非ナノ繊維層(不織布)の目付を、JIS L 1906「一般長繊維不織布試験方法」の「5.2 単位面積あたりの質量」に準拠して測定した。ナノ繊維層と非ナノ繊維層からなる積層構造体においては、ナノ繊維層の目付と非ナノ繊維層の目付の合計値を積層構造体全体の目付とした。
【0068】
(3)気体フィルター用濾材をなす積層構造体の厚さ:
下記の実施例および比較例で得られた気体フィルター用濾材をなす積層構造体(ナノ繊維層と非ナノ繊維層からなる積層構造体、または不織布)の厚さを、JIS L 1906「一般長繊維不織布試験方法」の「5.1 厚さ」に準拠して測定した。
【0069】
(4)気体フィルター用濾材をなす積層構造体における平均ポアサイズ:
下記の実施例および比較例で得られた気体フィルター用濾材をなす積層構造体について、Porous Materials社製の「Autometed Perm Porometer」を用いて、バブルポイント法により積層構造体の孔径分布を測定し、その平均値を平均ポアサイズ(μm)とした。
より具体的には、気体フィルター用濾材をなす積層構造体を厚さ方向に切断して縦×横=5cm×5cmの試験片3枚を採取し、当該試験片を23℃の液体(パーフルオロポリエステル溶媒;Porous Materials社製「Galwick」)中に3分間浸漬して試験片の全ての細孔が溶媒で満たされた状態にし、その状態でPorous Materials社製の「Autometed Perm Porometer」を用いて、バブルポイントまでの最低流量を2cc/分、平衡時間を30秒に設定し、圧力を増大させながら、先にウエットフローの測定を行なった後、同じ試験片でドライフローの測定を行なった。
このウエットフロー曲線と、ドライフロー曲線の1/2の傾きの曲線(ハーフドライ曲線)が交わる点(交点)の圧力を求め、これを用いて、下記の数式(2)から平均ポアサイズを求めた。

d=2860×γ/P (2)

[式中、d=平均ポアサイズ(μm)、γ=液体の表面張力(dynes/cm)、P=交点の圧力(Pa)である。]

3枚の試験片について同じ操作を行なって、その平均値を最終的な平均ポアサイズとした。
【0070】
(5)気体フィルター用濾材をなす積層構造体の縦方向および横方向の引張強力並びに(100×Ts)/Wの値:
下記の実施例および比較例で得られた気体フィルター用濾材をなす積層構造体を厚さ方向に切断して、縦×横=250mm×15mmの試験片(縦方向の引張強力測定用)および縦×横=15mm×250mmの試験片(横方向の引張強力測定用)を切り取り、JIS P8113「紙及び板紙−引張特性の試験方法」に準拠して、縦方向の引張強力(Tsa)(kgf/15mm)および横方向の引張強度(Tsb)(kgf/15mm)を測定した。
測定された縦方向の引張強力(Tsa)(kgf/15mm)および横方向の引張強度(Tsb)(kgf/15mm)の合計値を2で除した値を引張強力Ts(kgf/15mm)とし、上記した数式(1)から、(100×Ts)/Wを求めた。Wとしては、上記(3)で得られた積層構造体全体の目付の値を用いた。
【0071】
(6)気体フィルター用濾材をなす積層構造体の通気度:
下記の実施例および比較例で得られた気体フィルター用濾材をなす積層構造体を厚さ方向に切断して、縦×横=20mm×20mmの試験片を切り取り、当該試験片を用いて、JIS L 1906「一般織物試験方法」の「8.27.1 A法(フラジール形法)」に準拠して通気度を測定した。
【0072】
(7)1μmの石英粒子の捕集率:
下記の実施例および比較例で得られた気体フィルター用濾材(積層構造体)から直径9cmの円形の試験片を切り取り、当該試験片を用いて、柴田科学製「マスクテスターAP−6310FP」を使用して、JIS T 8151「防塵マスク」の「8.1.1 粒子捕集効率試験」に準拠して1μm石英粒子の捕集率を求めた。その際に、「1μmの石英粒子」としては、粉塵源として(株)モリテック製「BCR準拠石英粒子」を使用し、平均粒径1μm、粉塵濃度3mg/m3に調整したものを使用した。
【0073】
《実施例1》
(1) 非ナノ繊維層用の布帛として、目付30.0g/m2、厚さ0.15mmのナイロンスパンボンド不織布[ユニチカ(株)製「ナイエース」]を用意した。
(2)(i) 6,6ナイロン[宇部興産(株)製「UBEナイロン66」]を10質量%となるように蟻酸に投入後、25℃で静置溶解して紡糸原液を調製した。
(ii) 上記(i)で得られた紡糸原液を使用して、図3に示す紡糸装置にて静電紡糸を行った。
具体的には、口金4として内径が0.9mmのニードルを使用し、口金4と移送装置7との間の距離を12cmとし、移送装置7に設けた導電性部材8の上面全体に上記(1)で用意した非ナノ繊維層(B)用のナイロンスパンボンド不織布を巻き付けた。次いで移送速度0.1m/分で移送しながら、上記(i)で調製した紡糸原液を所定の供給量で口金4から紡出し、口金4に25kV印加電圧を与えて、導電性部材8の上面に配置したナイロンスパンボンド不織布上に6,6ナイロンからなる平均繊維径51nmのナノ繊維を目付が1.0g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させてナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)を製造した。
(3) 次に、上記(2)で得られたナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)のナノ繊維層上に上記(1)で用意したナイロンスパンボンド不織布を重ね、カレンダー処理(カレンダー条件;温度150℃、接圧0.1MPa、処理速度5m/分)を行なって貼り合わせて、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表1に示す。
【0074】
《実施例2》
実施例1の(2)の(ii)において、非ナノ繊維層(ナイロンスパンボンド不織布)上へのナノ繊維層の積層量(目付)を0.5g/m2に変更した以外は、実施例1と同じ操作を行なって、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表1に示す。
【0075】
《実施例3》
(1)非ナノ繊維層用の湿式不織布の製造:
(i) ジカルボン酸単位の100モル%がテレフタル酸単位からなり、ジアミン単位の50モル%が1,9−ノナンジアミン単位および50モル%が2−メチル−1,8−オクタンジアミン単位からなるポリアミド(極限粘度0.8dl/g、末端封止率91%、融点265℃)(以下「ポリアミド9T」という)を300℃で溶融紡糸して、単繊維繊度2.9dtexのポリアミド9T繊維を製造した。この繊維をホットプレート温度200℃で延伸して単繊維繊度0.7dtexのポリアミド9T繊維を製造し、繊維長10mmの短繊維(主体繊維)にした。
(ii) 上記(i)の前段で製造した、延伸を行なう前の単繊維繊度2.9dtexのポリアミド9T繊維(未延伸繊維)を繊維長10mmの短繊維に切断したバインダー繊維を製造した。
(iii) 上記(i)で得られた主体繊維70質量部および上記(ii)で得られたバインダー繊維30質量部を水に分散させて抄造原料を調製し、当該抄造原料を用いて長網抄造機にて抄造し、次いでヤンキー型乾燥機にて140℃で乾燥して、目付28.5g/m2、厚さ0.13mmの非ナノ繊維層用の湿式不織布を製造した。
【0076】
(2)気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)の製造:
(i) 上記(1)の(i)で使用したのと同じポリアミド9Tをヘキサフルオロイソプロパノール溶媒に投入し、25℃で静置溶解して濃度4質量%の紡糸原液を調製した。
(ii) 上記(i)で得られた紡糸原液を使用して、図3に示す紡糸装置にて静電紡糸を行って、非ナノ繊維層上にナノ繊維層が積層した積層構造体を製造した。
具体的には、口金4として内径が0.9mmのニードルを使用し、口金4と移送装置7との間の距離を8cmとし、移送装置7に設けた導電性部材8の上面全体に上記(1)で得られた非ナノ繊維層用の湿式不織布を巻き付けて配置した。次いで、移送速度0.1m/分で移送装置7を移送しながら、紡糸原液を所定の供給量で口金4から紡出し、口金4に15kVの印加電圧を与えて、導電性部材8の上面に配置した湿式不織布上にポリアミド9Tよりなる平均繊維径260nmのナノ繊維を積層量(目付)が1.0g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させてナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)を製造した。
(iii) 次いで、上記(ii)で得られた積層シート(積層構造体)のナノ繊維層の上に、上記(1)で得られた非ナノ繊維層用の湿式不織布を重ね、カレンダー処理(カレンダー条件;温度160℃、接圧0.1MPa、処理速度5m/分)を行なって貼り合わせて、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表1に示す。
【0077】
《実施例4》
(1)非ナノ繊維層用のフォームボンド不織布の製造:
(i) ポリビニルアルコール繊維[(株)クラレ製「WN7」]を単独で使用して、目付28g/m2のランダムウェブを製造した。
(ii) ポリビニルアルコール樹脂[(株)クラレ製「PVA−117」]の10質量%水溶液をつくり、この水溶液を市販の泡立て機で泡立ててフォームを調製し、このフォームを上記(i)で積層したランダムウェブ上に施し、マングルで搾液してポリビニルアルコール樹脂をランダムウェブに均一に含浸させた後、130℃で乾燥して、目付30.0g/m2、厚さ0.16mmのフォームボンド不織布を製造した。
【0078】
(2)気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)の製造:
(i) ポリビニルアルコール樹脂[(株)クラレ製「PVA−117」]を濃度が10質量%となるように90℃の熱水で完全に溶解した後、常温まで冷却して紡糸原液を調製した。
(ii) 上記(i)で得られた紡糸原液を使用して、図3に示す紡糸装置にて静電紡糸を行って、非ナノ繊維層上にナノ繊維層が積層した積層構造体を製造した。
具体的には、口金4として内径が0.9mmのニードルを使用し、口金4と移送装置7との間の距離を8cmとし、移送装置7に設けた導電性部材8の上面全体に上記(1)で得られた非ナノ繊維層用のフォームボンド不織布を巻き付けて配置した。次いで、移送速度0.1m/分で移送装置7を移送しながら、紡糸原液を所定の供給量で口金4から紡出し、口金4に20kVの印加電圧を与えて、導電性部材8の上面に配置したフォームボンド不織布上にポリビニルアルコールよりなる平均繊維径250nmのナノ繊維を積層量(目付)が1.0g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させてナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)を製造した。
(iii) 次いで、上記(ii)で得られた積層シート(積層構造体)のナノ繊維層の上に、上記(1)で得られた非ナノ繊維層用のフォームボンド不織布を重ね、カレンダー処理(カレンダー条件;温度170℃、接圧0.1MPa、処理速度5m/分)を行なって貼り合わせて、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表1に示す。
【0079】
《実施例5》
(1) 非ナノ繊維層用の布帛として、実施例1で使用したのと同じナイロンスパンボンド不織布[ユニチカ(株)製「ナイエース」、目付30.0g/m2、厚さ0.15mm]を用意した。
(2)(i) 熱可塑性ポリウレタン[(株)クラレ製「クラミロン1195」]を濃度が16質量%となるようにジメチルホルムアミドに投入し、90℃で攪拌溶解し、完全溶解したものを常温まで冷却して紡糸原液を調製した。
(ii) 上記(i)で得られた紡糸原液を使用して、図3に示す紡糸装置にて静電紡糸を行った。
具体的には、口金4として内径が0.9mmのニードルを使用し、口金4と移送装置7との間の距離を10cmとし、移送装置7に設けた導電性部材8の上面全体に上記(1)で用意した非ナノ繊維層(B)用のナイロンスパンボンド不織布を巻き付けた。次いで移送速度0.1m/分で移送しながら、上記(i)で調製した紡糸原液を所定の供給量で口金4から紡出し、口金4に23kV印加電圧を与えて、導電性部材8の上面に配置したナイロンスパンボンド不織布上に平均繊維径が267nmの熱可塑性ポリウレタンナノ繊維を目付が1.0g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させてナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)を製造した。
(3) 次に、上記(2)で得られたナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)のナノ繊維層上に上記(1)で用意したナイロンスパンボンド不織布を重ね、カレンダー処理(カレンダー条件;温度140℃、接圧0.1MPa、処理速度5m/分)を行なって貼り合わせて、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表2に示す。
【0080】
《実施例6》
(1) 非ナノ繊維層用の布帛として、ポリエステルスパンボンド不織布[東洋紡(株)製「エクーレ」、目付30.0g/m2、厚さ0.16mm]を用意した。
(2)(i) ポリエステル樹脂〔(株)クラレ製「クラペットKS760K」〕を濃度が10質量%となるようにヘキサフルオロイソプロパノールに投入し、30℃で静置して完全に溶解させて紡糸原液を調製した。
(ii) 上記(i)で得られた紡糸原液を使用して、図3に示す紡糸装置にて静電紡糸を行った。
具体的には、口金4として内径が0.9mmのニードルを使用し、口金4と移送装置7との間の距離を10cmとし、移送装置7に設けた導電性部材8の上面全体に上記(1)で用意した非ナノ繊維層(B)用のポリエステルスパンボンド不織布を巻き付けた。次いで移送速度0.1m/分で移送しながら、上記(i)で調製した紡糸原液を所定の供給量で口金4から紡出し、口金4に19kV印加電圧を与えて、導電性部材8の上面に配置したポリエステルスパンボンド不織布上にポリエステルよりなる平均繊維径297nmのナノ繊維を目付が1.0g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させてナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)を製造した。
(3) 次に、上記(2)で得られたナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)のナノ繊維層上に上記(1)で用意したポリエステルスパンボンド不織布を重ね、カレンダー処理(カレンダー条件;温度180℃、接圧0.1MPa、処理速度5m/分)を行なって貼り合わせて、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表2に示す。
【0081】
《実施例7》
(1) 非ナノ繊維層用の布帛として、ポリプロピレンスパンボンド不織布[出光ユニテック(株)製「ストラテックPP」、目付30.0g/m2、厚さ0.16mm]を用意した。
(2) ポリプロピレン樹脂[Exxon社製「ACHIEVE6931G1」]を二軸押出機により300℃で溶融混練して得られる溶融液を紡糸原液として使用して、図3に示す紡糸装置にて静電紡糸を行った。
具体的には、口金4として内径が0.3mmのニードルを使用し、口金4と移送装置7との間の距離を6cmとし、移送装置7に設けた導電性部材8の上面全体に上記(1)で用意した非ナノ繊維層(B)用のポリプロピレンスパンボンド不織布を巻き付けた。次いで移送速度0.1m/分で移送しながら、上記で調製した紡糸原液(ポリプロピレン樹脂の溶融液)を所定の供給量で口金4から紡出し、口金4に40kV印加電圧を与えて、導電性部材8の上面に配置したポリプロピレンスパンボンド不織布上にポリプロピレンよりなる平均繊維径883nmのナノ繊維を目付が5.0g/m2になるように均一な厚さに積層(堆積)させてナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)を製造した。
(3) 次に、上記(2)で得られたナノ繊維層と非ナノ繊維層が積層した積層シート(積層構造体)のナノ繊維層上に上記(1)で用意したポリプロピレンスパンボンド不織布を重ね、カレンダー処理(カレンダー条件;温度130℃、接圧0.1MPa、処理速度5m/分)を行なって貼り合わせて、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表2に示す。
【0082】
《比較例1》
実施例1の(1)で用意したのと同じナイロンスパンボンド不織布[ユニチカ(株)製「ナイエース」、目付30.0g/m2、厚さ0.15mm]を2枚重ねてカレンダー処理(カレンダー条件;温度150℃、接圧0.1MPa、処理速度5m/分)を行なって貼り合わせて、ナノ繊維層を持たない積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表3に示す。
【0083】
《比較例2》
平均繊維径が2872nm(2.9μm)のナイロンフィラメントからなるナイロンメルトブロー不織布[(株)クラレ製、目付5.0g/m2、厚さ0.03mm]の両面に、実施例1の(1)で用意したのと同じナイロンスパンボンド不織布[ユニチカ(株)製「ナイエース」、目付30.0g/m2、厚さ0.15mm]を積層して、カレンダー処理(カレンダー条件;温度180℃、接圧0.1MPa、処理速度5m/分)を行なって貼り合わせて、ナイロンスパンボンド不織布/ナイロンメルトブロー不織布/ナイロンスパンボンド不織布からなる積層構造を有する積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表3に示す。
【0084】
《比較例3》
実施例1の(2)の(ii)において、非ナノ繊維層(ナイロンスパンボンド不織布)上へのナノ繊維層の積層量(目付)を0.05g/m2に変更した以外は、実施例1と同じ操作を行なって、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表3に示す。
【0085】
《比較例4》
実施例1において、非ナノ繊維層用の布帛として、ナイロンスパンボンド不織布[ユニチカ(株)製「ナイエース」、目付30.0g/m2、厚さ0.15mm]の代わりに、比較例2で使用したのと同じ平均繊維径が2.9μmのナイロンフィラメントからなるナイロンメルトブロー不織布[(株)クラレ製、目付5.0g/m2、厚さ0.03mm]を用いた以外は、実施例1と同じ操作を行なって、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表3に示す。
【0086】
《比較例5》
実施例1の(2)の(ii)において、非ナノ繊維層(ナイロンスパンボンド不織布)上へのナノ繊維層の積層量(目付)を12g/m2に変更した以外は、実施例1と同じ操作を行なって、図1に示す層構造(非ナノ繊維層/ナノ繊維層/非ナノ繊維層)を有する、気体フィルター用濾材用の積層シート(積層構造体)を製造した。
得られた積層シート(積層構造体)の構造および物性を下記の表3に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の気体フィルター用濾材は、気体中に含まれるダストなどの微粒子を高効率で除去することができ、しかも通気抵抗が小さく、気体中に含まれる微粒子が濾過によって濾材中に捕捉されても圧力損失が急激に上昇せず、長期にわたって優れた気体濾過性能を維持することができ、濾材寿命が長く、更に強度および耐久性に優れていて、高圧気体の濾過に用いた際にも濾材の濾過性能の低下や変形、破損などが生じないため、本発明の気体フィルター用濾材は、前記した特性を活かして、例えばビル空調用、産業空調用(クリーンルーム、塗装ブース他)、自動車工業用、一般家電用などの種々の分野における気体フィルター用の濾材として有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体における積層構造の一例を示す図である。
【図2】本発明の気体フィルター用濾材をなす積層構造体における積層構造の他の例を示す図である。
【図3】本発明のキャパシタ用気体フィルター用濾材をなす、ナノ繊維層と非ナノ繊維層を有する積層構造体の製造に好適に用いられる静電紡糸装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0092】
1 紡糸原液を供給するためのポンプ
2 分配整流ブロック
3 口金部
4 突出した口金
5 電気絶縁部
6 直流高電圧発生電源
7 無端コンベアからなる移送装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が10〜1000nmの有機重合体ナノ繊維の集合体よりなるナノ繊維層(A)と平均繊維径が5μmを超える非ナノ繊維よりなる非ナノ繊維層(B)が積層した積層構造体であって、ナノ繊維層(A)部分の目付が0.1〜10g/m2である積層構造体からなることを特徴とする気体フィルター用濾材。
【請求項2】
気体フィルター用濾材をなす積層構造体における平均ポアサイズが0.1〜10μmである請求項1に記載の気体フィルター用濾材。
【請求項3】
気体フィルター用濾材をなす積層構造体が、下記の数式(1)を満足する引張強力を有する請求項1または2に記載の気体フィルター用濾材。

(100×Ts)/W≧1.0 (1)

[式中、Tsは気体フィルター用濾材をなす積層構造体の縦方向の引張強力(kgf/15mm)と横方向の引張強力(kgf/15mm)の平均値、Wは積層構造体全体の目付(g/m2)である。]
【請求項4】
通気度が0.1〜100cc/cm2/secである請求項1〜3のいずれか1項に記載の気体フィルター用濾材。
【請求項5】
平均粒径が1μmの石英粒子の捕集率が90質量%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の気体フィルター用濾材。
【請求項6】
気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)が、有機重合体の有機溶媒溶液または溶融液を用いて静電紡糸によって形成されたものである請求項1〜5のいずれか1項に記載の気体フィルター用濾材。
【請求項7】
気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)および/または非ナノ繊維層(B)が、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタンおよびポリオレフィンから選ばれる1種または2種以上の有機重合体より形成された繊維からなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の気体フィルター用濾材。
【請求項8】
気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)および/または繊維層(B)が、ポリアミド繊維からなる請求項7に記載の気体フィルター用濾材。
【請求項9】
気体フィルター用濾材をなす積層構造体におけるナノ繊維層(A)および/または非ナノ繊維層(B)が、ジカルボン酸単位とジアミン単位よりなるポリアミドであって、ジカルボン酸単位の60モル%以上が芳香族ジカルボン酸単位からなり、ジアミン単位の60モル%以上が炭素数6〜12の脂肪族アルキレンジアミン単位からなるポリアミドよりなるポリアミド繊維から形成されている請求項8に記載の気体フィルター用濾材。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の気体フィルター用濾材を用いた気体フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−233550(P2009−233550A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81659(P2008−81659)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】