説明

気体圧アクチュエータシステム

【課題】気体圧アクチュエータシステムにおいて、アクチュエータ機能とダンパ機能とを有するようにすることである。
【解決手段】気体圧アクチュエータシステム220は、気体室238,240のそれぞれに制御気体圧を供給する供給ポート242,244を有する気体圧シリンダ230と、2つの制御気体圧を生成して出力ポート264,266から出力するサーボ弁250と、入力ポート28,30から入力される気体のそれぞれの気体圧の間の差圧に応じて流れを可変的に絞る可変絞り装置10と、供給ポート242,244と出力ポート264,266との間に設けられる導入弁280,282と、供給ポート242,244と入力ポート28,30との間に設けられる連通弁284,286と、導入弁280,282の開閉と連通弁284,286の開閉とを制御する制御装置310を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体圧アクチュエータシステムに係り、特に、気体圧シリンダを用いる気体圧アクチュエータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の都市交通あるいは高速大量輸送手段としての軌道車両においては、車体の軽量化ならびに振動の少ない良好な乗心地を確保するために、車体を空気ばねまたはコイルバネによって台車上に支持する構造が広く用いられている。このような車体支持装置においては、車体を支持する空気ばねまたはコイルばねに対して常時車体重量が加わるので、縦方向には常に最適剛性の支持力を発揮できる。
【0003】
一方で車両がカーブを通過する際等における横方向変位あるいは横方向動揺については、台車と車体との間に油圧アクチュエータまたは気体圧アクチュエータを横方向に配置し、横方向剛性を生じさせることが行われる。
【0004】
例えば、特許文献1には、車両がカーブを通過するときに車体を傾斜させる制御付き振子方式において、液圧シリンダにアクチュエータ機能とダンパ機能とを持たせることが開示されている。ここでは、液圧シリンダのボトム側とロッド側とを連通させる分流回路中に、この分流回路中を流れる作動液体の流量を絞りの開度によって可変可能な絞り弁を設けて、液圧シリンダへの作動液体の供給量と絞り弁への作動液体の供給量とを協調制御することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−247335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、液圧シリンダにアクチュエータ機能とダンパ機能とを持たせることで、通常時は液圧シリンダを振子制御のアクチュエータとして用い、振子制御ができない異常時には液圧シリンダをダンパとして用いることができるので、異常時においても適切な乗心地を確保することが期待できる。そのためには、液圧シリンダへの作動液体の供給量と絞り弁への作動液体の供給量とを協調制御することが必要で、新たな制御装置を要する。
【0007】
そこで、複雑な協調制御に代えて、アクチュエータである液圧シリンダに並列にダンパを別途設け、通常時はダンパを作用させず、異常時には液圧シリンダを作用させないようにすることが行われる。この場合には、通常時と異常時との間で切替を行うのみで済むが、液圧シリンダと同様な構成のダンパを別途設ける必要がある。
【0008】
本発明の目的は、複雑な制御を要せずに、アクチュエータ機能とダンパ機能とを有する気体圧アクチュエータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る気体圧アクチュエータシステムは、ピストンの両側の2つの気体室のそれぞれに制御気体圧を供給する2つの供給ポートを有する気体圧シリンダと、気体供給源からの供給気体圧から気体圧シリンダに供給する2つの制御気体圧を生成して2つの出力ポートから出力するサーボ弁と、2つの入力ポートから入力される気体のそれぞれの気体圧の間の差圧に応じて流れを可変的に絞る可変絞り装置と、2つの供給ポートと2つの出力ポートとの間に設けられる2つの導入弁と、2つの供給ポートと2つの入力ポートとの間に設けられる2つの連通弁と、切替指令に基づき、2つの導入弁の開閉と2つの連通弁の開閉とを制御し、気体圧シリンダがサーボ弁と接続され可変絞り装置とは遮断されるアクチュエータ機能作動状態と、気体圧シリンダが可変絞り装置と接続されサーボ弁とは遮断されるダンパ機能作動状態との間で作動状態を切り替える切替制御部と、を備え、可変絞り装置は、ダンパ機能作動状態において、気体圧シリンダの2つの供給ポートにおける気体圧のいずれか一方を第1気体圧とし他方を第2気体圧として、第1気体圧と第2気体圧との差である差圧に応じ、2つの入力ポートの間の連通量を差圧の符号に関わらず線形的にまたは非線形的に変更することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る気体圧アクチュエータシステムにおいて、可変絞り装置は、ステム上に左ランドと中央ランドと右ランドとが配置される揺動スプールと、揺動スプールの各ランドの外周を支持して揺動スプールをステムの軸方向に揺動自在に案内するスリーブと、揺動スプールの左ランド及び右ランドに対し、それぞれステムの軸方向に沿った復元力を与える左側復元バネと右側復元バネと、スリーブに設けられ第1気体圧を有する気体が揺動スプール側に供給されまたは揺動スプール側から排出される第1開口部と、スリーブに設けられ第2気体圧を有する気体が揺動スプール側から排出されまたは揺動スプール側に供給される第2開口部と、第1気体圧を有する気体を左側復元バネが収容される左側バネ室に導いて、左ランドの左側面に第1気体圧を与えるための第1接続流路と、第2気体圧を有する気体を右側復元バネが収容される右側バネ室に導いて、右ランドの右側面に第2気体圧を与えるための第2接続流路と、を含み、揺動スプールは、左ランドの左側面に与えられる第1気体圧と右ランドの右側面に与えられる第2気体圧との差である軸方向差圧によって揺動駆動力を受け、揺動スプールがスリーブに対し中立状態にあるときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係について、第1開口部と第2開口部との間の連通量がゼロあるいは予め定めた所定量の連通状態となるように設定され、あるいは中立状態から予め定めたオーバラップ量を超える移動によって初めて第1開口部と第2開口部との間が連通するように設定され、揺動駆動力によって揺動スプールがスリーブに対し中立状態から移動するときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係が可変的に変更されることで、気体の流れを可変的に絞るようにして、第1開口部と第2開口部との間の連通量が移動の方向に関わらず相対的位置関係の変更量に応じて線形的にまたは非線形的に変更されることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る気体圧アクチュエータシステムにおいて、第1接続流路に設けられ、左ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第1固定絞り部と、第2接続流路に設けられ、右ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第2固定絞り部と、を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記構成により、気体圧アクチュエータシステムは、2つの供給ポートを有する気体圧シリンダと、2つの出力ポートから出力するサーボ弁と、2つの入力ポートから入力される気体のそれぞれの気体圧の間の差圧に応じて流れを可変的に絞る可変絞り装置と、2つの供給ポートと2つの出力ポートとの間に設けられる2つの導入弁と、2つの供給ポートと2つの入力ポートとの間に設けられる2つの連通弁とを備え、切替指令に基づき、2つの導入弁の開閉と2つの連通弁の開閉とを制御し、気体圧シリンダがサーボ弁と接続され可変絞り装置とは遮断されるアクチュエータ機能作動状態と、気体圧シリンダが可変絞り装置と接続されサーボ弁とは遮断されるダンパ機能作動状態との間で作動状態を切り替える。
【0013】
ここで、可変絞り装置は、ダンパ機能作動状態においては、気体圧シリンダに接続され、気体圧シリンダの2つの供給ポートと可変絞り装置の2つの入力ポートがそれぞれ接続されるので、気体圧シリンダのピストンの両側の気体室の気体圧の間の差圧に応じて流れを可変的に絞る。このように、単に、気体圧シリンダの両気体室における気体圧の差圧のみに応じて絞りが可変されるので、例えばサーボ弁との複雑な制御等を要せずに、ダンパ機能を発揮できる。
【0014】
また、気体圧アクチュエータシステムにおいて、可変絞り装置は、揺動スプールの両端にそれぞれ左側復元バネと右側復元バネとを有するスプール・スリーブ機構であって、揺動スプールは、左ランドの左側面に与えられる気体圧と右ランドの右側面に与えられる気体圧との差である軸方向差圧によって揺動駆動力を受け、それによって中央ランドと第1開口部との間の相対位置関係が可変的に変更されることで、第1開口部と第2開口部との間の気体の流れを可変的に絞る。このように、軸方向差圧によって揺動スプールが軸方向に移動するので、揺動スプールの駆動のための外部駆動装置を特別に要することなく、流れの方向あるいは流量等を可変とすることができる。
【0015】
また、気体圧アクチュエータシステムにおいて、可変絞り装置は、第1接続流路に設けられ、左ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第1固定絞り部と、第2接続流路に設けられ、右ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第2固定絞り部とを備える。これによって、揺動駆動力の急変を抑制し、揺動駆動力の変化を滑らかなものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムが適用される車両の様子を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムの構成を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態において、可変絞り装置を示す図である。
【図4】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムにおいて、アクチュエータ機能作動状態のときの様子を説明する図である。
【図5】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムにおいて、ダンパ機能作動状態のときの様子を説明する図である。
【図6】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムにおいて、ダンパ機能作動状態のときの可変絞り装置の作用を説明する図である。
【図7】図6とともに、可変絞り装置の作用を説明する図である。
【図8】本発明に係る実施の形態において、可変絞り装置の作用を説明する図である。
【図9】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムにおいて、ダンパ機能作動状態のときの特性図である。
【図10】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムにおいて、ダンパ機能作動状態のときの特性図に対するチェック弁の作用を説明する図である。
【図11】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムにおいて、ダンパ機能作動状態のときの特性図に対する可変絞り装置の流路面積の効果を説明する図である。
【図12】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムにおいて、可変絞り装置に固定絞り装置を付加した構成を示す図である。
【図13】本発明に係る実施の形態の気体圧アクチュエータシステムが適用される他の車両の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、気体圧アクチュエータシステムが適用される対象として、鉄道車両を説明するが、流体圧シリンダによって車両の姿勢を制御するものであればよく、鉄道車両以外の車両であってもよい。また、流体圧シリンダは、振子制御に用いられる場合と、動揺防止制御に用いられる場合を説明するが、車両の姿勢を制御するものであればよい。
【0018】
以下では、気体圧アクチュエータシステムに適用される流体として空気を説明するが、空気以外の乾燥窒素、不活性ガス等であってもよい。
【0019】
また、以下では、可変絞り装置において、例えば、第1気体圧PAが2つの開口部に供給され、第2気体圧PBが1つの開口部に供給される等の説明を行うが、開口部の数はそれぞれ1つでも複数でも構わない。また、開口部とランドとの位置関係も、第1気体圧PAに関する開口部と第2気体圧PBに関する開口部とが、相互に連通しない遮断状態と、相互に連通し、その際に揺動駆動力に応じて流れの方向あるいは流量等を可変するものであれば、どのような配置関係であってもよい。
【0020】
また、以下で説明するバネ定数、固有振動数等は、説明のために一例であって、気体圧アクチュエータシステムが適用される車両システム等の性能仕様に応じて適宜変更することができる。
【0021】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0022】
図1は、振子制御を行う鉄道車両200における気体圧アクチュエータシステム220の構成を説明する図である。この気体圧アクチュエータシステム220は、通常時は気体圧シリンダを振子制御のアクチュエータ機能として用い、振子制御ができない異常時には気体圧シリンダをダンパ機能として用いることができるものである。
【0023】
図1に示される鉄道車両200は、車体202と、台車204と、台車204の上においてローラ210によって支持される振子梁206と、振子梁206と車体202との間に設けられた空気ばね208とを備える。また、鉄道車両200は、車輪214を支持する車軸と、車軸と台車204との間に設けられるコイルばね212を備え、車輪214はレール216の上を走行可能である。
【0024】
鉄道車両200に搭載される気体圧アクチュエータシステム220は、台車204と振子梁206との間に設けられる気体圧シリンダ230と、後に詳述する可変絞り装置10と、サーボ弁250と、車体202の傾斜状態等を検出するセンサ装置300と、制御装置310とを含んで構成される。
【0025】
制御装置310は、車両搭載に適したコンピュータで構成できる。制御装置310は、気体圧シリンダ230を振子制御のアクチュエータ機能として用いるときの制御を行うアクチュエータ制御処理部312と、気体圧シリンダ230と可変絞り装置10とサーボ弁250との間の接続関係を切り替えて、気体圧シリンダ230を可変絞り装置10と組み合わせることでダンパ機能を有するように切り替える切替制御処理部314を含む。これらの機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、気体圧アクチュエータシステム制御プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0026】
図2は、気体圧アクチュエータシステム220の詳細構成を示す図である。上記のように、気体圧アクチュエータシステム220は、気体圧シリンダ230と、可変絞り装置10と、サーボ弁250を含んで構成されるが、図2には、これらを接続する気体流路が気体供給源270と共に示されている。
【0027】
この気体流路は、気体圧シリンダ230の2つの供給ポート242,244と、可変絞り装置10の2つの入力ポート28,30と、サーボ弁250の1つのサーボ弁供給ポート262と2つの出力ポート264,266の合計7つのポートを相互に接続して配管される流路である。
【0028】
気体圧シリンダ230は、台車204に接続されるシリンダ筐体232と、振子梁206に接続されるシリンダロッド234と、シリンダロッド234の先端に設けられシリンダ筐体232の内壁を摺動するピストン236を含んで構成されるピストン・シリンダ機構である。
【0029】
気体圧シリンダ230は、シリンダ筐体232の内壁内に、ピストン236によって仕切られ、ピストン236の両側に形成される2つの気体室238,240を有する。気体室238は、供給ポート242に接続され、気体室240は、供給ポート244に接続される。
【0030】
気体圧シリンダ230は、このようにピストン・シリンダ機構であるので、外部から2つの気体室238,240にそれぞれ制御気体圧を有する気体を供給するときは、ピストン236をシリンダ筐体232に対して移動駆動し、これによって振子梁206を台車204に対して移動駆動するアクチュエータとして用いることができる。また、2つの気体室238,240に外部から気体を供給せず、2つの気体室238,240にある気体を利用して可変絞り装置10に接続することで、振子梁206と台車204との間の動揺等を吸収するダンパとして用いることができる。この2つの機能の切替の詳細については後述する。
【0031】
サーボ弁250は、サーボ弁スリーブ252と、サーボ弁スリーブ252の内部に収納されるサーボ弁サーボ弁スプール254と、サーボ弁スプール254をサーボ弁スリーブ252に対し相対的に移動駆動するフォースモータ256と、サーボ弁スプール254をサーボ弁スリーブ252に対し中立位置に引き戻す復元ばね258を含むフォースモータ駆動スリーブ・スプール機構である。
【0032】
サーボ弁250は、制御装置310からフォースモータ256に対する駆動指令信号を受け取る信号ポート260と、気体供給源270から供給気体圧PSが供給されるサーボ弁供給ポート262とを有し、駆動指令信号に応じてフォースモータ256が作動することでサーボ弁スプール254がサーボ弁スリーブ252に対し相対的に移動することで供給気体圧PSから2つの制御気体圧PA,PBを生成する機能を有する。サーボ弁250は、2つの出力ポート264,266を有し、これらには、それぞれ生成された制御気体圧PA,PBを有する気体が出力される。
【0033】
可変絞り装置10は、2つの入力ポート28,30を有し、この2つの入力ポート28,30から入力される気体のそれぞれの気体圧の間の差圧に応じて流れを可変的に絞る機能を有する装置である。
【0034】
可変絞り装置10は2つの入力ポート28,30を有するが、その詳細な内容の説明の前に、気体流路関係の説明を行う。
【0035】
2つの導入弁280,282は、サーボ弁の2つの出力ポート264,266と、気体圧シリンダ230の2つの供給ポート242,244との間に設けられ、制御装置310の制御の下で開閉制御が行われる開閉弁である。具体的には、気体圧シリンダ230をアクチュエータ機能を有するものとして利用するときには開状態とされ、気体圧シリンダ230を可変絞り装置10と共にダンパ機能を有するものとして利用するときには閉状態とされる。
【0036】
2つの連通弁284,286は、気体圧シリンダ230の2つの供給ポート242,244と、可変絞り装置10の2つの入力ポート28,30との間に設けられ、制御装置310の制御の下で開閉制御が行われる開閉弁である。具体的には、気体圧シリンダ230をアクチュエータ機能を有するものとして利用するときには閉状態とされ、気体圧シリンダ230を可変絞り装置10と共にダンパ機能を有するものとして利用するときには開状態とされる。このように、2つの導入弁280,282と2つの連通弁284,286とは、導入弁が開くときは連通弁が閉じ、導入弁が閉じるときは連通弁が開くというように、互いに逆の開閉状態となるように制御される。2種類の弁の開閉動作に時間差を設けるものとしてもよい。
【0037】
2つのチェック弁290,292は、可変絞り装置10の2つの入力ポート28,30の間に可変絞り装置10と並列接続されるように配置される気体圧上限リミッタである。チェック弁290,292は、開弁するときの圧力の方向が相互に逆向きである。すなわち、2つの入力ポート28,30におけるそれぞれの気体圧の差である差圧が予め定めた上限差圧より高くなると、チェック弁290またはチェック弁292が開弁し、それ以上の差圧とならない。
【0038】
2つの固定絞り294,296は、気体供給源270から気体圧シリンダ230および可変絞り装置10に向かって少量の気体を供給するときに、その供給量を制限するための流量リミッタである。すなわち、気体圧シリンダ230を可変絞り装置10と組み合わせてダンパ機能として用いるときは、気体が圧縮性流体であるので、適当に気体を補う必要があるが、その補給気体流量を調整するために用いられる。
【0039】
ここで、図1の制御装置310の内容について説明する。制御装置310は、気体圧アクチュエータシステム220における他の構成要素の作動を統一的に制御する装置で、車両搭載に適したコンピュータで構成できる。制御装置310は、気体圧シリンダ230を振子制御のアクチュエータ機能として用いるときの制御を行うアクチュエータ制御処理部312と、気体圧シリンダ230と可変絞り装置10とサーボ弁250との間の接続関係を切り替えて、気体圧シリンダ230を可変絞り装置10と組み合わせることでダンパ機能を有するように切り替える切替制御処理部314を含む。
【0040】
切替制御処理部314は、切替指令に基づき、2つの導入弁280,282の開閉と2つの連通弁284,286の開閉とを制御し、気体圧シリンダ230がサーボ弁250と接続され可変絞り装置10とは遮断されるアクチュエータ機能作動状態と、気体圧シリンダ230が可変絞り装置10と接続されサーボ弁250とは遮断されるダンパ機能作動状態との間で作動状態を切り替える機能を有する。
【0041】
具体的には、上記で述べたように、気体圧シリンダ230をアクチュエータ機能を有するものとして利用するときには、2つの導入弁280,282が開状態、2つの連通弁284,286が閉状態とされ、気体圧シリンダ230を可変絞り装置10と共にダンパ機能を有するものとして利用するときには、2つの導入弁280,282が閉状態、2つの連通弁284,286が開状態とされる。なお、切替指令は、気体圧シリンダ230の作動異常またはアクチュエータ制御処理部312における処理結果が異常となったことを制御装置310が判断したときに発行される。
【0042】
制御装置310のこれらの機能は、ソフトウェアで実現でき、具体的には、気体圧アクチュエータシステム制御プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0043】
次に、可変絞り装置10について説明する。図3は、可変絞り装置10の構成を説明する図である。この可変絞り装置10は、筐体20と、スリーブ40と、揺動スプール50とを備えるスプール・スリーブ機構の一種である。筐体20には、気体圧シリンダ230の気体室238に接続され第1気体圧PAを有する気体が供給または排出される第1接続口である入力ポート28と、気体圧シリンダ230の気体室240に接続され第2気体圧PBを有する気体が供給または排出される第2接続口である入力ポート30とが設けられる。
【0044】
ここで、第1気体圧PAと第2気体圧PBは、可変絞り装置10が気体圧シリンダ230と共に用いられて全体としてダンパ機能を発揮するときは、気体圧シリンダ230の供給ポート242,244における気体圧となるので、その気体圧PA,PBと同じ記号を用いている。
【0045】
そして、この可変絞り装置10は、揺動スプール50の左右両端に第1気体圧PAと第2気体圧PBとが与えられて、その気体圧の差である軸方向差圧によって揺動スプール50が揺動駆動力を受けるのに適した構成を有するものである。なお、左右とは、揺動スプール50の軸方向に沿った位置についてのもので、図3に示すように、揺動スプール50の軸方向をX軸方向として、+X側を右側とすれば−X側が左側である。
【0046】
図3において、筐体20は、中心部にスリーブ40と揺動スプール50とが配置される配置空間を有する筒状部材である。この配置空間において、揺動スプール50の左右両端側にそれぞれ設けられる左側バネ室22と右側バネ室24は、それぞれに左側復元バネ60と右側復元バネ62が軸方向に圧縮・伸長可能に収納される空間である。
【0047】
また、筐体20において、入力ポート28からスリーブ40側に延びる第1導入流路29は、スリーブ40に設けられる左開口部44と右開口部46を介して、第1気体圧PAを有する気体を揺動スプール50側に供給し、または、揺動スプール50側から第1気体圧PAを有する気体を排出するための流路である。ここでは、左開口部44と右開口部46とが筐体20の内部を通る第1導入流路29に共に接続されることで、左開口部44と右開口部46とが連通して、気体を導く開口部としては同じ機能を有するものとなっている。その意味で、互いに連通するように構成された左開口部44と右開口部46とを合わせて、第1開口部と呼ぶことができる。このように、第1開口部とは、入力ポート28に関する流路の開口部のことである。
【0048】
第1導入流路29と左側バネ室22とを接続する第1接続流路32は、第1気体圧PAを左側バネ室に供給することで、後述するように、左ランド54の左側面に第1気体圧PAに対応する軸方向力を与える機能を有する流路である。
【0049】
同様に、筐体20において、入力ポート30からスリーブ40側に延びる第2導入流路31は、スリーブ40に設けられる中央開口部42を介して、第2気体圧PBを有する気体を揺動スプール50側に供給し、または、揺動スプール50側から第2気体圧PBを有する気体を排出するための流路である。中央開口部42は1つであるが、これを上記の第1開口部と対比するために、第2開口部と呼ぶことができる。すなわち、第2開口部とは、入力ポート30に関する流路の開口部のことである。
【0050】
また、第2導入流路31と右側バネ室24とを接続する第2接続流路34は、第2気体圧PBを右側バネ室に供給することで、後述するように、右ランド56の右側面に第2気体圧PBに対応する力を与える機能を有する流路である。
【0051】
左側バネ室22に収納される左側復元バネ60と、右側バネ室24に収納される右側復元バネ62とは、揺動スプール50の軸方向移動に対し、中立位置に戻す機能を有する弾性体である。図3では、左側復元バネ60、右側復元バネ62はコイルバネとして示されているが、揺動スプール50の軸方向に圧縮・伸長して、揺動スプール50が軸方向に移動する場合に常に中立位置に引き戻す機能を有する弾性体であれば、プラスチックゴム、板バネ等であってもよい。
【0052】
左側復元バネ60は、上記のように弾性体であるが、その軸方向の両端にはそれぞれ円板が設けられる。左側の円板は、左側復元バネ60の軸方向位置を定め、復元力を設定するためのものである。筐体20にねじ込まれる左側調整ネジ70は、その先端がこの左側の円板に接触し、ねじ込み量に応じてその軸方向位置を調整する機能を有する。このようにして、左側調整ネジ70のねじ込み量調整によって左側復元バネ60の復元力が設定される。なお左側調整ネジ70と後述する右側調整ネジ72は、いずれか一方あるいは双方とも省略することができる。
【0053】
左側復元バネ60における右側の円板は、揺動スプール50の左端に復元力を伝達するものである。右側の円板と揺動スプール50の左端とは、摩擦が少なくなるように、ピボットと軸受の構成を取ることができる。すなわち、右側の円板の左端面にピボットを設け、揺動スプール50の左端にピボットを受ける軸受を配置して、線接触によって相互の支持を行うものとできる。ピボットを揺動スプール50に設け、軸受を右側円板に設けるものとしてもよい。なお、ピボット等は摩擦を少なくするためのものであるので、ピボット等がなくても、可変絞り装置10は絞りとして機能する。
【0054】
また、左側バネ室22には第1気体圧PAの気体が導かれる。そして、左側バネ室22における右側の円板の外周と、左側バネ室22の内壁との間を通って、第1気体圧PAの気体が揺動スプール50の左ランド54の左側面に導かれる。これによって、第1気体圧PAに応じた軸方向力が揺動スプール50の左ランド54の左側面に与えられる。
【0055】
同様に、右側復元バネ62においても、その軸方向の両端にはそれぞれ円板が設けられる。そして、右側の円板は、右側復元バネ62の軸方向位置を定め、復元力を設定するためのものであり、左側の円板は、揺動スプール50に復元力を伝達するものである。また、右側バネ室24には第2気体圧PBの気体が導かれる。そして、右側バネ室24における左側の円板の外周と、右側バネ室24の内壁との間を通って、第2気体圧PBの気体が揺動スプール50の右ランド56の右側面に導かれる。これによって、第2気体圧PBに応じた軸方向力が揺動スプール50の右ランド56の右側面に与えられることも同様である。また、筐体20にねじ込まれる右側調整ネジ72は、そのねじ込み量に応じて右側復元バネ62の軸方向位置を調整する機能を有することも同様である。その他、詳細な構成は、左側復元バネ60に関して説明したものと同様の内容である。
【0056】
このようにして、揺動スプール50の両端には、左側復元バネ60と右側復元バネ62とが設けられ、基本的には、揺動スプール50の軸方向位置が中立位置とされる。そして、上記のように、左側バネ室22の側から第1気体圧PAに応じた軸方向力が揺動スプール50の左端に与えられ、右側バネ室24の側から第2気体圧PBに応じた軸方向力が揺動スプール50の右端に与えられるので、その差圧である(PA−PB)に応じて、揺動スプール50は中立位置から移動する駆動力が与えられることになる。なお、第1気体圧PA=第2気体圧PBのときには、揺動スプール50は正しく中立位置に位置する。なお、図3は、揺動スプール50が正しく中立位置にある状態を示す図である。
【0057】
図3におけるスリーブ40は、筐体20の中心部におけるスリーブ40と揺動スプール50とが配置される配置空間に取り付け固定される円筒状の部材で、外周部は筐体20に固定される固定面とされ、内周面は揺動スプール50を軸方向移動可能に支持する摺動面とされる。摺動面としては、スリーブ40と揺動スプール50との金属接触によるもののほか、揺動スプール50の外周に樹脂等を設け、金属と樹脂との接触によるものとしてもよい。
【0058】
筐体20の構成の説明で述べたように、スリーブ40には、軸方向に沿って相互に離間して3つの開口部が設けられる。配置順序は、図3に示すように、−X側である左側から+X側である右側に向かって、左開口部44、中央開口部42、右開口部46である。これらの開口部に対応して筐体20にも3つの開口部が設けられ、既に述べたように、左開口部44と右開口部46とは第1導入流路29に接続され、中央開口部42は第2導入流路31に接続される。
【0059】
揺動スプール50は、ステム上に左ランド54と中央ランド52と右ランド56とが配置される軸体である。各ランドの配置順序は、図3に示すように、−X側である左側から+X側である右側に向かって、左ランド54、中央ランド52、右ランド56である。ラ各ランドの外周寸法は、スリーブ40の内周面の摺動面の内径寸法よりやや小さめに設定される。やや小さめとは、各ランドとスリーブ40とによって気密を保持しながら、揺動スプール50がスリーブ40に支持されて軸方向に滑らかに移動可能な隙間を保持する程度である。また、この隙間によってダンピング効果を積極的に働かせる場合には、この隙間量をある程度広くすることがよい。
【0060】
ステムは、各ランドの間を接続する細い軸部材であって、その外径は各ランドの外径に比べて十分小さい。したがって、各ランド間のステムと、スリーブ40との間には空間が形成され、この空間は気体を保持あるいは気体が流れる気体室となる。図3の例では、左ランド54と中央ランドとの間に左気体室、中央ランド52と右ランドとの間に右気体室が形成されている。
【0061】
揺動スプール50の各ランドの配置位置と、スリーブ40の各開口部の配置位置とは次のように設定される。すなわち、揺動スプール50が中立位置にあるとき、中央ランド52は、中央開口部42をちょうど閉じる位置である。そして、左ランド54は、左開口部44を完全に開くように、左開口部44の位置よりも−X方向にずれた位置とされる。また、右ランド56は、右開口部46を完全に開くように、右開口部46の位置よりも+X方向にずれた位置とされる。
【0062】
したがって、中立状態では、第1気体圧PAは、左側バネ室22に供給される他に、左開口部44と右開口部46を介して、揺動スプール50の側に供給される。一方、第2気体圧PBは、右側バネ室24に供給されるが、中央開口部42が中央ランド52で閉じられているので、そこで遮断されて揺動スプール50の側には供給されない。
【0063】
すなわち、図3に示されるように、揺動スプール50がスリーブ40に対し中立状態にあるときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係について第1開口部と第2開口部との間の連通量がゼロとなるように設定される。具体的には、図3のようにスプールが3つのランドを有し、スリーブが3つの開口部を有する場合、上記のように、中立状態では、中央ランド52が第2開口部である中央開口部42を完全に塞ぐことができるように、中央ランド52と中央開口部42の位置関係が設定される。このとき、左ランド54と右ランド56は、いずれも第2開口部である左開口部44と右開口部46を塞がないような位置関係とされる。このような位置関係にあるときの揺動スプール50の位置が揺動スプール50の中立位置である。
【0064】
なお、場合によっては、中立状態であっても、第1開口部と第2開口部との間の連通量について予め定めた所定量の連通状態としてもよい。具体的には、中央ランド52が第2開口部である中央開口部42を完全に塞がずに、予め定めた余裕隙間でもって第1開口部を揺動スプール50側に部分的に開くものとしてもよい。このように中央ランド52が第1開口部を部分的に開くようにすることで、第1開口部と第2開口部との間に、適当量の気体の連通を行わせることができる。これによって、可変絞り装置10の動作をより安定なものとできる。また、逆に、中央開口部42の両側に揺動スプール50のオーバラップを設け、中立状態およびオーバラップの範囲で揺動スプール50が移動しても第1開口部と第2開口部とが連通しないようにすることもできる。以下では、中立状態のときに第1開口部と第2開口部との間の連通量がゼロである場合について説明を続ける。
【0065】
また、軸方向差圧(PA−PB)が発生すると、揺動スプール50はその中立状態から移動する。この移動によって、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係が可変的に変更される。これによって、気体の流れを可変的に絞るようにして、第1開口部と第2開口部との間の連通量が移動の方向に関わらず位置関係の変更量に応じて変更されることになる。移動の方向に関わらずとは、移動の方向が右側方向であっても、左側方向であっても、揺動スプール50に対するスリーブ40の相対的移動量の絶対値が同じであれば、第1開口部と第2開口部との間の連通量が同じとなる、という意味である。その具体的内容については後述する。
【0066】
上記構成の作用を図4から図11を用いて詳細に説明する。図4は、気体圧シリンダ230をアクチュエータの機能として利用するときの気体流路の状態を示す図で、図5は、気体圧シリンダ230を可変絞り装置10と共にアクチュエータの機能として利用するときの気体流路の状態を示す図である。
【0067】
図4における状態は、振子制御を行う鉄道車両200が通常に走行等を行っている状態である。この状態では、気体圧シリンダ230がアクチュエータ機能を有するものとして利用される。したがって、制御装置310によって、2つの導入弁280,282が開状態、2つの連通弁284,286が閉状態とされる。これにより、可変絞り装置10は気体圧シリンダ230から切り離され、気体圧シリンダ230はサーボ弁250と接続状態とされる。
【0068】
すなわち、センサ装置300によって検出された車体202の傾斜状態等を判断して、制御装置310のアクチュエータ制御処理部312が適切な車体姿勢となるような駆動指令信号を発行し、これに基づいてサーボ弁250のフォースモータ256が作動し、サーボ弁スプール254をサーボ弁スリーブ252に対し相対的に移動させて、供給気体圧PSから2つの制御気体圧PA,PBが生成され、出力ポート264,266に出力される。
【0069】
出力ポート264からの制御気体圧PAを有する気体は、気体圧シリンダ230の供給ポート242を経由して気体室238に供給される。同様に、出力ポート266からの制御気体圧PBを有する気体は、気体圧シリンダ230の供給ポート244を経由して気体室240に供給される。このようにして気体圧シリンダ230の2つの気体室238,240にそれぞれ制御気体圧PA,PBを有する気体が供給されると、2つの制御気体圧PA,PBの差によって、ピストン236はシリンダ筐体232の内壁を摺動する。これによって、ピストンロッド234はシリンダ筐体232に対し相対的に移動し、したがって、台車204に対し振子梁206を相対的に移動することができる。これが気体圧シリンダ230のアクチュエータとしての機能である。
【0070】
図5における状態は、振子制御を行う鉄道車両200が異常状態となったときである。このときには、気体圧シリンダ230がアクチュエータ機能を有するものとして利用される。すなわち、制御装置310によってこの異常状態が生じていると判断されると、制御装置310の切替制御処理部314の機能によって、2つの導入弁280,282が閉状態、2つの連通弁284,286が開状態とされる。これにより、サーボ弁250は気体圧シリンダ230から切り離され、気体圧シリンダ230は可変絞り装置10と接続状態とされる。
【0071】
すなわち、気体圧シリンダ230の気体室238は供給ポート242を介して可変絞り装置10の入力ポート28と接続され、気体圧シリンダ230の気体室240供給ポート244を介して可変絞り装置10の入力ポート30と接続される。これによって、気体室238と気体室240が可変絞り装置10を介して循環する1つの閉鎖された気体流路が形成される。そして、この閉鎖された気体流路の中に、台車204と振子梁206の間の相対運動によってピストン236が移動するので、この閉鎖された気体流路は、全体として、台車204と振子梁206の間の相対運動に対するダンパとして働く。これが気体圧シリンダ230と可変絞り装置10のダンパ機能である。
【0072】
図6から図8は、可変絞り装置10の作用を説明する図である。可変絞り装置10は、2つの入力ポート28,30から入力される気体のそれぞれの気体圧の間の差圧に応じて流れを可変的に絞る機能を有する装置であり、この流れを可変に絞ることについて、特別の駆動装置も特別の制御駆動信号も要しない。2つの入力ポート28,30におけるそれぞれの気体圧の差圧によって自動的に作動して流れを絞る作用を有する。
【0073】
この作用は、気体圧アクチュエータシステム220についてみると、ダンパ機能作動状態において、気体圧シリンダ230の2つの供給ポート242,244における気体圧PA,PBのいずれか一方を第1気体圧とし他方を第2気体圧として、第1気体圧と第2気体圧との差である差圧に応じ、2つの入力ポート28,30の間の連通量を差圧の符号に関わらず線形的にまたは非線形的に変更するものである。
【0074】
図6、図7は、上記構成の可変絞り装置10の作用を説明する図である。図6は、第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも低圧である場合、図7は、第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも高圧である場合である。
【0075】
図6においては、第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも低圧である。すなわち、第2気体圧PBが第1気体圧PAよりも高圧であるので、右側バネ室24の側から揺動スプール50の右端に与えられる気体圧PBによる−X方向の駆動力が、左側バネ室22の側から揺動スプール50の左端に与えられる気体圧PAによる+X方向の駆動力よりも大きい。したがって、この軸方向差圧(PB−PA)による揺動駆動力によって、揺動スプール50は、中立位置よりも−X側に移動する。
【0076】
この揺動スプール50の中立位置から−X側への移動によって、中央ランド52は中央開口部42の右側を開く。開く量は、軸方向差圧(PB−PA)によって異なる。つまり、開く量である流路面積は、軸方向差圧(PB−PA)が大きければ大きく、軸方向差圧(PB−PA)が小さければ小さい。このように、流路面積は、軸方向差圧(PB−PA)によって可変的に変更される。
【0077】
このようにして、気体圧シリンダ230の気体室240からの第2気体圧PBを有する気体は、入力ポート30−第2導入流路31−中央開口部42−揺動スプール50の右気体室−右開口部46−第1導入流路29−入力ポート28を通り、気体圧シリンダ230の気体室238に導かれる。
【0078】
一方、図7においては、第1気体圧PAが第2気体圧PBよりも高圧であるので、左側バネ室22の側から揺動スプール50の左端に与えられる気体圧PAによる+X方向の駆動力が、右側バネ室24の側から揺動スプール50の右端に与えられる気体圧PBによる−X方向の駆動力よりも大きい。したがって、この軸方向差圧(PA−PB)による揺動駆動力によって、揺動スプール50は、中立位置よりも+X側に移動する。
【0079】
この揺動スプール50の中立位置から+X側への移動によって、中央ランド52は中央開口部42の左側を開く。開く量は、軸方向差圧(PA−PB)によって異なる。揺動スプール50の中立位置から−X側への移動の場合と同様に、開く量である流路面積は、軸方向差圧(PA−PB)によって可変的に変更される。
【0080】
したがって、気体圧シリンダ230の気体室238からの第1気体圧PAを有する気体は、入力ポート28−第1導入流路29−左開口部44−揺動スプール50の左気体室−中央開口部42−第2導入流路31−入力ポート30を通り、気体圧シリンダ230の気体室240に導かれる。
【0081】
このように、可変絞り装置10は、気体圧シリンダ230の気体室238の気体圧PAが気体圧シリンダ230の気体室240の気体圧PBよりも低圧のときは、高圧側の気体圧シリンダ230の気体室240の側から高圧気体の供給を受け、逆に、気体圧シリンダ230の気体室240の気体圧PBが気体圧シリンダ230の気体室238の気体圧PAよりも低圧のときは、高圧側の気体圧シリンダ230の気体室238の側から気体圧シリンダ230の気体室240に対し高圧気体の供給を行うものとできる。このような作用によって、可変絞り装置10を用いることで、気体圧シリンダ230の気体室238と気体室240との間の気圧差を抑制することができる。
【0082】
ここで、気体圧シリンダ230の気体室238と気体圧シリンダ230の気体室240との間の気圧差を抑制するための揺動スプール50の駆動は、第1気体圧PAと第2気体圧PBとの間の差である軸方向差圧を利用しており、特別な駆動装置を用いることなく、軸方向差圧が生じれば自動的に揺動駆動が行われる。また、軸方向差圧の大きさに応じて流路面積が可変され、軸方向差圧が大きいほど、流路面積が大きくなるので、気体圧シリンダ230の気体室238と気体圧シリンダ230の気体室240との間に気圧差が生じても、迅速にその気圧差を解消して平衡圧に戻すことができる。このように、揺動スプール50のX方向移動量と流路面積の変化量とが比例関係となるように開口部の形状を設定できる。そのほかに、X方向移動量と流路面積との関係を非線形とすることもでき、また2段階変化とすることもできる。
【0083】
図8は、可変絞り装置10の作用として、揺動スプール50とスリーブ40との間の相対的位置関係が変更されたときの第1開口部Aと第2開口部Bとの間の連通量の変化を説明する図である。図4には、横軸に時間をとり、揺動スプール50とスリーブ40との間の相対的位置の差である変位Xの変化と、これに対応する第1開口部Aと第2開口部Bとの間の連通量の変化が示されている。図4に示されるように、Xが中立状態からみてプラス側あるいはマイナス側に変化しても、第1開口部Aと第2開口部Bとの間の連通量は、Xの変化の方向に関わらず、Xの絶対値が同じであれば、同じとなる。第1開口部Aと第2開口部Bとの間の連通量の大きさは、Xの絶対値の大きさの変更に応じて変更される。つまり、可変絞り装置10は、Xの変化関数に対する一種の整流作用を有している。
【0084】
このように、可変絞り装置10は、入力ポート28,30のそれぞれにおける気体圧の差である差圧に応じて、揺動スプール50とスリーブ40との間の相対的位置関係が変化し、それによって第1開口部Aと第2開口部Bとの間の連通量が自動的に変化するので、絞り装置として用いることができる。
【0085】
そして、この可変絞り装置10を入力ポート28,30をそれぞれ気体圧シリンダ230の供給ポート242,244に接続することで、全体としてダンパ機能として利用することができる。すなわち、図5で説明した構成において、振子制御が働かないとき、振子梁206と台車204との間に相対的運動が生じるとき、気体圧シリンダ230と可変絞り装置10は、全体としてダンパ機能を発揮し、振子梁206と台車204との間の相対的速度V=dX/dtに対応する反力Fを生じる。
【0086】
図9は、気体圧シリンダ230と可変絞り装置10とを組み合わせたときのダンパ作用の特性線322の様子を示す図である。ここで横軸は振子梁206と台車204との間の相対的速度Vで、縦軸はピストンロッド234とシリンダ筐体232との間に生じる反力Fである。
【0087】
ここでは、参考のために、気体圧シリンダ230の特性に開口部の大きさを合わせこんだ固定絞りであるオリフィス絞りを用い場合の特性線320も示されている。図9に示されるように、オリフィス絞りを用いたときの特性線320はヒステリシス特性を有するのに対し、可変絞り装置10を用いる図5の場合は、線形性を有する特性線322となっている。
【0088】
図10は、図5に関連して説明したチェック弁290,292の作用を説明する図である。この図に示されるように、チェック弁290,292によって入力ポート28,30における気体圧の上限を適切に制限することで、可変絞り装置10のダンパ特性の特性線322において、反力Fのばらつきを小さくし、全体の大きさを変更した特性線324とすることが可能となる。
【0089】
可変絞り装置10は、上記のように、揺動スプール50のX方向移動量と流路面積の変化量とを比例関係とするほかに、開口部の形状を工夫することで、X方向移動量と流路面積との関係を非線形とすることができる。したがって、開口部の形状を工夫することで、速度V=dX/dtに対する反力Fの関係を比例関係のほかに非線形とすることができる。図11は模式的にその様子を説明する図で、比例関係の特性線322のほかに、速度Vが大きくと反力Fが急増する特性線326、速度Vが大きくなると反力Fが飽和する特性線328が可能となる。
【0090】
このように、可変絞り装置10を気体圧シリンダ230と組み合わせたダンパ機能は、可変絞り装置10の特性を利用して、ダンパ特性の特性線を柔軟に設計することができる。これによって、鉄道車両200における制御の設計自由度を向上させることができる。
【0091】
次に、可変絞り装置の変形例について説明する。図12は、図3の構成において、第1接続流路32と第2接続流路34とに、それぞれ固定絞り部80,81を設ける可変絞り装置12の構成を説明する図である。第1接続流路32、第2接続流路34、固定絞り部80,81以外の構成は図3と同じである。
【0092】
固定絞り部80は、第1接続流路32に設けられ、左側バネ室22に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞るためのものである。同様に固定絞り部81は、第2接続流路34に設けられ、右側バネ室24に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞るためのものである。これによって、揺動駆動力の急変を抑制し、揺動駆動力の変化を滑らかなものとすることができる。
【0093】
これら2つの固定絞り部80,81は同じものを用いることができるが、特にこれらを区別したいときは、第1固定絞り部80、第2固定絞り部81と呼ぶことができる。第1固定絞り部80、第2固定絞り部81としては、オリフィス絞り、ラジアルスリット方式絞り、多孔質物質の中に気体を流す多孔質絞り等を用いることができる。
【0094】
固定絞り部80の絞りの流路抵抗は、左側バネ室22の気体容量に応じて、気体流れの脈動周波数を抑制するように設定することができる。すなわち、一般的に、絞りの流路抵抗をRとし、気体が流れ込む気体室の気体容量をCとすると、気体の流れの固有振動数fは、f=ω/(2π)=1/(2πRC)で示される。これ以上速い周波数は応答しないので、ハイパスカットフィルタ、すなわちローパスフィルタとして用いることができる。
【0095】
上記では、スリーブ40に設けられる左開口部44と右開口部46において、第1気体圧PAを有する気体が揺動スプール50の側に供給されまたは揺動スプール50の側から排出され、そして、中央開口部42において、第2気体圧PBを有する気体が揺動スプール50の側に供給されまたは揺動スプール50の側から排出される。このような場合、上記のように、左開口部44と右開口部46とを第1開口部、中央開口部42を第2開口部と呼ぶことができる。このように、上記では、開口部は3つであったが、開口部を3つ以外とすることもできる。
【0096】
上記では、気体圧アクチュエータシステム220が振子制御を行う鉄道車両200に適用される場合を説明したが、図13は、動揺防止制御を行う鉄道車両201に適用される気体圧アクチュエータシステム221の例を示す図である。ここでは、車体202の梁と台車204との間に気体圧シリンダ230が設けられ、さらに可変絞り装置10とサーボ弁250を備える。
【0097】
気体圧アクチュエータシステム221における気体圧シリンダ230と可変絞り装置10とサーボ弁250の間の接続関係は、図2で説明した内容と同じである。この気体圧アクチュエータシステム221は、例えば、鉄道車両201が所定の速度以上となる通常走行条件のときには、車体202と台車204との間の相対的動揺を抑制するように、気体圧シリンダ230が動揺防止アクチュエータとして作用する。そして、動揺防止制御が働かない条件の下では、気体圧シリンダ230と可変絞り装置10とがダンパ機能として働く。
【0098】
前者のときの気体流れの様子は図4に関連して説明した内容と同様であり、後者のときの気体流れの様子は図5に関連して説明した内容と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る気体圧アクチュエータシステムは、振子制御を行う鉄道車両、動揺防止制御を行う鉄道車両等に利用できる。
【符号の説明】
【0100】
10,12 可変絞り装置、20,100 筐体、22 左側バネ室、24 右側バネ室、28,30 入力ポート、29,31 導入流路、32,34 接続流路、40,102 スリーブ、42,44,46 開口部、50 揺動スプール、52 中央ランド、54 左ランド、56 右ランド、60 左側復元バネ、62 右側復元バネ、70 左側調整ネジ、72 右側調整ネジ、80,81 固定絞り部、200,201 鉄道車両、202 車体、204 台車、206 振子梁、210 ローラ、214 車輪、216 レール、220,221 気体圧アクチュエータシステム、230 気体圧シリンダ、232 シリンダ筐体、234 シリンダロッド、234 ピストンロッド、236 ピストン、238,240 気体室、242,244 供給ポート、250 サーボ弁、252 サーボ弁スリーブ、254 サーボ弁スプール、256 フォースモータ、260 信号ポート、262 サーボ弁供給ポート、264,266 出力ポート、270 気体供給源、280,282 導入弁、284,286 連通弁、290,292 チェック弁、300 センサ装置、310 制御装置、312 アクチュエータ制御処理部、314 切替制御処理部、320,322,324,326,328 特性線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの両側の2つの気体室のそれぞれに制御気体圧を供給する2つの供給ポートを有する気体圧シリンダと、
気体供給源からの供給気体圧から気体圧シリンダに供給する2つの制御気体圧を生成して2つの出力ポートから出力するサーボ弁と、
2つの入力ポートから入力される気体のそれぞれの気体圧の間の差圧に応じて流れを可変的に絞る可変絞り装置と、
2つの供給ポートと2つの出力ポートとの間に設けられる2つの導入弁と、
2つの供給ポートと2つの入力ポートとの間に設けられる2つの連通弁と、
切替指令に基づき、2つの導入弁の開閉と2つの連通弁の開閉とを制御し、気体圧シリンダがサーボ弁と接続され可変絞り装置とは遮断されるアクチュエータ機能作動状態と、気体圧シリンダが可変絞り装置と接続されサーボ弁とは遮断されるダンパ機能作動状態との間で作動状態を切り替える切替制御部と、
を備え、
可変絞り装置は、
ダンパ機能作動状態において、気体圧シリンダの2つの供給ポートにおける気体圧のいずれか一方を第1気体圧とし他方を第2気体圧として、第1気体圧と第2気体圧との差である差圧に応じ、2つの入力ポートの間の連通量を差圧の符号に関わらず線形的にまたは非線形的に変更することを特徴とする気体圧アクチュエータシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の気体圧アクチュエータシステムにおいて、
可変絞り装置は、
ステム上に左ランドと中央ランドと右ランドとが配置される揺動スプールと、
揺動スプールの各ランドの外周を支持して揺動スプールをステムの軸方向に揺動自在に案内するスリーブと、
揺動スプールの左ランド及び右ランドに対し、それぞれステムの軸方向に沿った復元力を与える左側復元バネと右側復元バネと、
スリーブに設けられ第1気体圧を有する気体が揺動スプール側に供給されまたは揺動スプール側から排出される第1開口部と、
スリーブに設けられ第2気体圧を有する気体が揺動スプール側から排出されまたは揺動スプール側に供給される第2開口部と、
第1気体圧を有する気体を左側復元バネが収容される左側バネ室に導いて、左ランドの左側面に第1気体圧を与えるための第1接続流路と、
第2気体圧を有する気体を右側復元バネが収容される右側バネ室に導いて、右ランドの右側面に第2気体圧を与えるための第2接続流路と、
を含み、
揺動スプールは、
左ランドの左側面に与えられる第1気体圧と右ランドの右側面に与えられる第2気体圧との差である軸方向差圧によって揺動駆動力を受け、
揺動スプールがスリーブに対し中立状態にあるときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係について、第1開口部と第2開口部との間の連通量がゼロあるいは予め定めた所定量の連通状態となるように設定され、あるいは中立状態から予め定めたオーバラップ量を超える移動によって初めて第1開口部と第2開口部との間が連通するように設定され、
揺動駆動力によって揺動スプールがスリーブに対し中立状態から移動するときには、第1開口部と第2開口部に対する各ランドの相対位置関係が可変的に変更されることで、気体の流れを可変的に絞るようにして、第1開口部と第2開口部との間の連通量が移動の方向に関わらず相対的位置関係の変更量に応じて線形的にまたは非線形的に変更されることを特徴とする気体圧アクチュエータシステム。
【請求項3】
請求項2に記載の気体圧アクチュエータシステムにおいて、
第1接続流路に設けられ、左ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第1固定絞り部と、
第2接続流路に設けられ、右ランド側に導かれる気体の流れを予め定めた絞り量で絞る第2固定絞り部と、
を含むことを特徴とする気体圧アクチュエータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−163386(P2011−163386A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24374(P2010−24374)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(503094070)ピー・エス・シー株式会社 (36)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】