説明

気体成分の分析方法及び気体成分の分離装置並びに判別方法

【課題】一酸化炭素処理が施されたものを区分判別する事により、流通および消費においてより正確な情報を提供可能な気体成分の分析方法及び気体成分の分離装置並びに判別方法の提供。
【解決手段】検体に含まれる気体成分の定量分析を行う方法であって、所定重量の検体を前処理することなく固体のまま溶液が収納された密閉容器内に収納し、この密閉容器内で前記検体をホモジナイズして、この検体中に含まれる気体成分を定量分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体成分の分析方法及び気体成分の分離装置並びに判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば特許文献1に開示される方法等を用いて魚肉に一酸化炭素処理(CO処理)を施すことは日本国内においては禁止されており、外国から輸入される鮮魚は、公的検査機関において、鮮魚に含まれる一酸化炭素が一酸化炭素分析法(以下「A法」という。)を用いて定量分析され、鮮魚に一酸化炭素処理が施されているか否かが判断される。
【0003】
具体的には、A法は、魚肉を細切りにしたもの300gに2倍量の水を加え、ホモジナイザーを用いて氷冷下で1分間ホモジナイズして試料液とし、この試料液200gを遠心管に取り、10℃で遠心分離し、上澄みを試料溶液とし、続いて、試料溶液50mlをヘッドスペースボトルに取り、消泡剤としてオクチルアルコール5滴、水5ml、20%硫酸20mlを加え、シリコンゴム栓付きの蓋をした後、2分間強く振とうし、続いて、10分間の静置後、再び1分間振とうし、直ちにボトル中の気相をガスタイトシリンジで採取し、ガスクロマトグラフに注入して別途作成した検量線により試料中の一酸化炭素濃度を求めることで、魚肉に含まれる一酸化炭素を定量分析する方法である。
【0004】
そして、検査開始日の定量値が200μg/kg以上であり、その2日後の定量値が検査開始日の定量値より明らかに減量した場合、または、検査開始日の定量値が500μg/kg以上である場合には、マグロ等の鮮魚に一酸化炭素処理を施したものと判断している。
【0005】
富山大学の熊沢英博教授らは、A法の妥当性を確認するため、同一試料から複数の均一検体を作製し、以下の公的検査機関で魚肉中の一酸化炭素の分析を依頼し、表1に示す測定結果を得た。
【0006】
【表1】

【0007】
表1に示すように最低75μg/kgから最高1100μg/kgまで約1400%もの大きな測定誤差があり、熊沢英博教授らの試験によってA法の再現性に大きな問題があることが明らかとなった。
【0008】
この測定誤差の原因としては、以下の3点が挙げられる。
【0009】
1)ホモジナイズの段階における誤差
氷冷下で1分間ホモジナイズする際、一酸化炭素の全てが試料液中に閉じ込められ
ることが前提であるが、特に密閉された空間でホモジナイズしている訳ではなく、魚
肉中のミオグロビン(以下、「Mb」という。)に配位した一酸化炭素が気相中に放
散することは避けられない。
【0010】
2)遠心分離の段階における誤差
遠心分離を行い、上澄みを試料液とするが、このとき一酸化炭素は全て上澄みに移
る必要がある。しかし、一酸化炭素の水溶液に対する溶解度は極めて小さいので、一
酸化炭素の全てが上澄みに溶解しているかは疑わしい。溶解しきれなかった一酸化炭
素は気相中に散逸する。
【0011】
3)ガスクロマトグラフィ注入試料の作製段階における誤差
所定量の試料溶液等を入れたヘッドスペースボトルを振とうして静置した後には、
一酸化炭素の全てが気相に移ることを前提としているが、少なくとも気相中の一酸化
炭素濃度と平行になる濃度の一酸化炭素が液相に残ってしまう。
【0012】
そこで、熊沢教授によって閉鎖回路内で魚肉に含有する気体成分を分析するというA法の問題点を解決し、且つ再現性も秀れた熊沢法(以下、「KH法」という。)が公開された。上記表1と同一試料を用いて分析を行った結果を表2に示す。
【0013】
【表2】

※検:検知管によるCO濃度測定,G:クロマトグラフィによるCO濃度測定
【0014】
KH法による魚肉に含まれる一酸化炭素の分析法について以下に具体的に説明する。
【0015】
KH法の測定装置を図1に示す。所定重量の魚肉を量りとり、5mm角に切ったものを試料とする。フラスコ31中で沸騰する水中32に試料を入れ、試料中から脱離、放散してくる気体成分を圧力調整弁33、流量計34を介し接続された注入口35から注入される窒素ガスに同伴させテドラーバック36に採取する。沸騰水から蒸発する水蒸気はコンデンサー37で凝縮されフラスコに戻される。テドラーバック36に回収した気体成分をガスクロマトグラフィ,各種気体センサー若しくは各種検知管を用いて定量する。
【0016】
しかしながら、KH法には以下の問題点がある。
【0017】
魚肉に含有する気体成分が大気中へ放散することを確認するために、既知の表面積を有する燻煙処理マグロを容体内に窒素1Lと共に注入し、容体内の一酸化炭素濃度の経時変化を測定した結果を図2に示す。法定検査法であるB法の測定原理でもあるように、気体成分は気相へ放散していくことが確認できる。また放散量は魚肉の表面積に比例していることが確認できる。したがって、KH法では試料作成時の気体成分の大気中への放散を許容していることになる。また、KH法では試料から気体成分を回収する際、窒素ガスに同伴させて回収するため、気体成分が窒素ガスにより希釈されてしまい、低含有量の気体成分の定量が困難となっている。さらに、試料が5mm角であるため、試料の中心部の気体成分を分離するには長時間を要するため手間の掛かる方法であった。
【0018】
【特許文献1】特開2004−129627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記KH法における課題点を改善し、例えば魚肉や畜肉に含有する気体成分を迅速に分離でき、且つ高い感度と優れた再現性があり、燻煙および合成一酸化炭素をそのまま、又は希釈し魚肉や畜肉に接触吸収させたものや無処理の各々の製品が一緒くたとされている市場において、一酸化炭素処理が施されたものを区分判別する事により、流通および消費においてより正確な情報を提供可能な気体成分の分析方法及び気体成分の分離装置並びに判別方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0021】
検体に含まれる気体成分の定量分析を行う方法であって、所定重量の検体を前処理することなく固体のまま溶液が収納された密閉容器内に収納し、この密閉容器内で前記検体をホモジナイズして、この検体中に含まれる気体成分を定量分析することを特徴とする気体成分の分析方法に係るものである。
【0022】
また、前記密閉容器内に前記溶液として飽和水溶液を収納するかまたは前記密閉容器内を加熱若しくは減圧した状態で、前記検体をホモジナイズすることを特徴とする請求項1記載の気体成分の分析方法に係るものである。
【0023】
また、前記検体としての魚肉や畜肉が、CO処理されたものか若しくは燻煙処理されたものかまたは無処理のものかを判別し得るように、前記検体に含まれる気体成分を定量分析することを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法に係るものである。
【0024】
また、前記検体に含まれる気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析することで、前記判別を行なえるようにしたことを特徴とする請求項3記載の気体成分の分析方法に係るものである。
【0025】
また、前記密閉容器内に前記溶液としてpH2.77以下の水溶液を収納した状態で、前記検体をホモジナイズすることを特徴とする請求項3,4のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法に係るものである。
【0026】
また、前記検体をホモジナイズした後、前記密閉容器内の気相成分の温度,圧力及び体積を補正することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法に係るものである。
【0027】
また、前記検体をホモジナイズした後、前記密閉容器内に飽和水溶液を注入することでこの密閉容器内の気体を抽出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法に係るものである。
【0028】
また、前記検体をホモジナイズした後、前記密閉容器内で分離された気体成分を、ガスクロマトグラフィ、各種気体センサー若しくは各種検知管を用いて定量することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法に係るものである。
【0029】
また、請求項1〜8のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法を用いて検体中に含有する気体成分を分離する気体成分の分離装置であって、前記検体を収納し得る密閉容器と、この密閉容器内の検体を密閉状態を保持したままホモジナイズし得るホモジナイザーとを備えたことを特徴とする気体成分の分離装置に係るものである。
【0030】
また、魚肉や畜肉等の検体に含まれる気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析して、この検体がCO処理されたものか若しくは燻煙処理されたものかまたは無処理のものかを判別する方法であって、密閉容器にpH2.77以下の飽和水溶液を収納し、この密閉容器内の液相及び気相をホモジナイズしながら前記気相を不活性雰囲気に置換した後、所定重量の検体を前処理することなく固体のまま前記気相が不活性雰囲気に置換された密閉容器内に収納し、この密閉容器内の気相を不活性雰囲気に置換して、この密閉容器内で前記検体並びに前記液相及び前記気相をホモジナイズすることでこの検体中に含有される気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を気相に放出させ、この気相に放出された前記一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析することを特徴とする判別方法に係るものである。
【0031】
また、魚肉や畜肉等の検体に含まれる気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析して、この検体がCO処理されたものか若しくは燻煙処理されたものかまたは無処理のものかを判別する方法であって、密閉容器にpH2.77以下の水溶液を収納し、この密閉容器内の液相及び気相をホモジナイズしながら前記気相を不活性雰囲気に置換した後、所定重量の検体を前処理することなく固体のまま前記気相が不活性雰囲気に置換された密閉容器内に収納し、この密閉容器内の気相を不活性雰囲気に置換して、この密閉容器内を加熱若しくは減圧した状態で、この密閉容器内で前記検体並びに前記液相及び前記気相をホモジナイズすることでこの検体中に含有される気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を気相に放出させ、この気相に放出された前記一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析することを特徴とする判別方法に係るものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明は、上述のように構成したから、例えば魚肉や畜肉に含有する気体成分を迅速に分離でき、且つ高い感度と優れた再現性があり、燻煙および合成一酸化炭素をそのまま、又は希釈し魚肉や畜肉に接触吸収させたものや無処理の各々の製品が一緒くたとされている市場において、一酸化炭素処理が施されたものを区分判別する事により、流通および消費においてより正確な情報を提供可能な気体成分の分析方法及び気体成分の分離装置並びに判別方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
好適と考える本発明の実施形態(発明をどのように実施するか)を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0034】
所定重量の検体を、密閉容器内でホモジナイズすることで、この検体に含まれる気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群等の気体成分が気相へと移動しても、これらの気体成分が散逸することなく閉鎖空間内に保持される。
【0035】
即ち、前記検体に、ホモジナイズや細断等の前処理を施すことなく可及的に表面積が小さい状態で密閉容器内に収納した後、この密閉容器内でホモジナイズすることで、この密閉容器外で基体成分が散逸することを可及的に阻止でき、密閉容器収納前に検体から気体成分が散逸することによる誤差を低減できることになる。
【0036】
従って、より正確に検体に含まれる気体成分を分析可能となり、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析して、前記検体としての魚肉や畜肉が、CO処理されたものか若しくは燻煙処理されたものかまたは無処理のものかをより正確に判別可能となる。
【0037】
また、例えば、ホモジナイズの際、液相から気相への気体成分の移動を促進させるために密閉容器内の溶液に例えば塩類を飽和させたり、密閉容器内を加熱若しくは減圧したりして、気体の溶解度を低下させることで、気体成分の液相への残留を阻止できることになる。
【0038】
即ち、気体の溶解度を低下させることにより、気体成分が気相に移動しやすい環境とすることができ、気体成分が液相に残留してしまうことによる誤差を低減できる。
【0039】
更に、例えば、密閉容器内のpH2.77以下の水溶液とすることで、Hb及びMbに配位した気体成分が解離し易くなり、Hb及びMbに配位した気体成分が離脱しないことによる誤差を低減できることになる。
【0040】
従って、本発明は、KH法における問題点を解決して、より正確で再現性良く検体に含まれる気体成分を検出可能となり、例えば魚肉や畜肉に含まれる例えば、一酸化炭素、低級炭化水素群等の気体成分を定量分析してこの魚肉や畜肉が、CO処理品なのか若しくは燻煙処理品なのかまたは無処理品なのかをより確実に判別可能となる。
【実施例】
【0041】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0042】
本実施例は、魚肉や畜肉等の検体に含まれる気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析して、この検体がCO処理されたものか若しくは燻煙処理されたものかまたは無処理のものかを判別する方法であって、密閉容器にpH2.77以下飽和水溶液を収納し、この密閉容器内の液相及び気相をホモジナイズしながら前記気相を不活性雰囲気に置換した後、所定重量の検体を前処理することなく固体のまま前記気相が不活性雰囲気に置換された密閉容器内に収納し、この密閉容器内の気相を不活性雰囲気に置換して、この密閉容器内で前記検体並びに前記液相及び前記気相をホモジナイズすることでこの検体中に含有される気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を気相に放出させ、この気相に放出された前記一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析するものである。
【0043】
各部を具体的に説明する。
【0044】
本実施例は、前記密閉容器内に前記溶液として塩類の飽和水溶液を収納した状態で、前記検体をホモジナイズする。尚、塩類に限らず、他の飽和水溶液を採用しても良いし、ホモジナイズする際、密閉容器内を加熱若しくは減圧しても良い。要は、水溶液の溶解度を可及的に低くして、検体に含まれる気体成分が液相から気相に移動し易い環境とすれば良い。
【0045】
前記溶液には硫酸を混入してpH2.77以下としている。尚、他の酸を混入することでpH2.77以下としても良いが、種類によってはホモジナイズ中に気体が発生し、再現性が損なわれる可能性があるため、硫酸を採用するのが望ましい。
【0046】
また、本実施例においては、前記検体をホモジナイズした後、前記密閉容器内の気相成分の温度,圧力及び体積を補正するようにしている。従って、気体成分の定量分析を同一条件化で行うことができ、分析場所の相違に起因する測定誤差をなくすことができる。
【0047】
更に、本実施例においては、前記検体をホモジナイズする際及び前記検体をホモジナイズした後、前記密閉容器内の気相を容易に取り出せ、テドラーバックに回収出来るようにしている。具体的には、注水口より塩類の飽和水溶液を容器内に注入することで、密閉容器内の気相(分離ガス)を容易に取り出せるようにしている。
【0048】
従って、検知管および各種気体成分センサー等の定量において一定量の分離ガスを必要とする場合でも、気体成分の定量が可能である。
【0049】
前記検体をホモジナイズした後、前記密閉容器内で分離された気体成分を、公知のガスクロマトグラフィ、各種気体センサー若しくは各種検知管を用いて定量する。
【0050】
尚、本実施例において、ホモジナイズとは、ホモジナイザー(カッターやミル等)を用いて、検体を破砕・細断すると共に溶液と攪拌して均一化せしめることをいう。
【0051】
上述のような構成を選定した理由について以下に具体的に説明する。
【0052】
本実施例は、A法およびKH法では非閉鎖空間中で行なわれていた、試料作成段階でのホモジナイズや細かく切り刻む等の作業(密閉容器収納前の前処理)を非閉鎖空間では行わず、所定重量の検体を閉鎖回路(密閉容器)内に入れホモジナイズするものである。
【0053】
さらに、本実施例は、ホモジナイズの際に液相から気相への気体成分の移動を促進させるために容器内の溶液に塩類を飽和させ、気体の溶解度を低下させている。
【0054】
即ち、A法の問題点とされている気体成分の液相への残留については、本実施例においても同様の問題が起こり得る。しかし、密閉容器に魚肉と共に飽和食塩水を入れホモジナイズしたときの気相の一酸化炭素濃度変化を観測した結果を示す図3で見られるように、塩類を飽和させ溶解度を低下させることにより気体成分が気相に移動しやすい環境を作ることで解決できた。本実施例では、測定中の温度上昇に伴う溶解度の変化を考慮し、溶解度の温度依存性が弱いNaClを採用している。
【0055】
さらに、本実施例は、魚肉および畜肉のHb及びMbに配位結合した気体の解離を促進するため閉鎖回路内の水溶液をpH2.77以下としている。
【0056】
食肉の色は鮮赤色であれば良質の食肉と判断され、褐色であれば古く見なされるなど、色調は消費者の購買意欲や評価に大きく影響を及ぼす。色調に直接関与する主な色素は魚肉および畜肉中に存在するHb及びMbである。
【0057】
図4は3種の血液で同じ圧力の大気と酸素とに平衡させたときのpHと飽和度(%)との関係である。魚肉、畜肉中のHbは、pHを減ずるにつれて魚肉、畜肉のHbの酸素の飽和%は次第に減じているのが分かる。
【0058】
また、魚肉及び畜肉のMbはHbと化学的性質並びに色に関与する反応機構はほぼ同一と考えられ、pHの低下に伴いO2Mbは酸素が解離しやすくなり自動酸化を促進し、一定期間貯蔵後にメトミオグロビンの生成量が増大し変色を起こすとされている。
【0059】
そこで本実施例では、閉鎖回路内の水溶液をpH2.77以下にする事によりHb及びMbに配位した気体成分を解離しやすくした。
【0060】
マグロに2倍量の水を加えてホモジナイズし、得られた溶液に硫酸を少量ずつ加え、各々のpHにおけるLabの測定を行った結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
上記表3よりpHが低くなるにつれて色調の変化が小さくなり、一定のpH以下では色調が変化しなくなることから、溶液をpH2.77以下にすることでMb及びHbに配位結合していた気体成分が完全に解離すると考えられる。したがって、化学的に結合している気体成分も回収でき、それだけ精度の良い分析が可能となる。
【0063】
また、ホモジナイズの際、粘性が増加する事による気泡の発生を抑制する為に、溶液に消泡材を適量加えている。
【0064】
表4に燻煙処理品に含有するCO,CH4,C22、C24,C26,C36,C38,及びn-C410の低級炭化水素群を分析した結果及び回収率を示す。
【0065】
【表4】

【0066】
上記表4の一酸化炭素の分析にはメタナイザー(Shimazu MTN-1)付きガスクロマトグラフィ(GC-14B)を用い、分離カラム(SUS I.D 3m)にMolecular Sieve 13Xを充填し、キャリアーガスにHe、CO還元用に水素を用いてFIDで検出し濃度を決定する。
【0067】
上記表4のCH4,C22、C24,C26,C36,C38,及びn−C410の低級炭化水素群の分析には、分離カラム(SUS I.D 3m)にUnipak Sを2m充填したガスクロマトグラフを用いて昇温条件下(40〜120℃、昇温速度5℃/min)で分離後、FIDで検出し、濃度を決定する。キャリアーガスにはHeを用いる。
【0068】
上記表4より本実施例は再現性及び検体に含有する気体成分の回収率において従来の測定方法より優れた結果が得られると共に、魚肉に含有する気体成分の分離も短時間で完了できることが確認できた。
【0069】
また、分離ガスの濃度はKH法の回収ガス濃度と比べて約6倍の濃度であるため、KH法で不可能であったアセチレン(C22)、ノルマルブンタン(n−C410)が検出できるようになっている。実際に測定した熊沢法により分離した気体成分及び本実施例により分離した気体成分のクロマトグラムを図8に示す。左が熊沢法、右が本実施例のクロマトグラムである。本実施例においては、低級炭化水素群7種類を一酸化炭素処理品と燻煙処理品の判別の指標としたが、図8に示すように、本実施例に係る分離装置を用いれば、燻煙に含まれる気体成分で、且つ検出が可能な成分が増えるため、判別の指標を更に増やすことも可能である。
【0070】
無処理品および一酸化炭素処理品に含まれる気体成分を分析した結果を表5に示す。
【0071】
【表5】

【0072】
表4及び表5を比較すると、無処理品、燻煙処理品及び一酸化炭素処理品には各々特有の気体成分が含まれているため、上記低級炭化水素群を定量分析することで、これらの区分判別が可能であると言える。
【0073】
さらに、分離装置には窒素ガス用配管を設け、セパラブルフラスコ内を窒素置換した後に、生若しくは冷凍の検体を入れ、再度窒素置換する事により空気成分による測定誤差を無くすと共に、各種気体センサーへの妨害ガスによる影響を抑制することができる。
【0074】
さらに、魚肉若しくは畜肉を閉鎖回路内でホモジナイズ後、ガスシリンジにより気相を採取する採取部を設けると共に、温度補正部,体積補正部,窒素ガス用配管及び恒温機を設置することにより、測定環境の違いによる測定誤差をなくすことができる。
【0075】
さらに、ホモジナイズ終了後セパラブルフラスコ下部に取り付けられた配管から塩類の飽和水溶液を注入する事により、気相を本体上部に設置された配管を介してテドラーバックに収集でき、各種気体センサー又は検知管で気体成分濃度の測定が可能である。
【0076】
さらに、検出感度はセパラブルフラスコの容積、溶液の量によって決めることができ、例えば1,000mlのセパラブルフラスコを使用し500mlの塩類飽和水溶液を用いてホモジナイズする場合は約500mlの分離ガスを収集する事となり、KH法の約6倍の検出感度となる。
【0077】
具体的な分離装置の例を用いて更に本実施例の具体的な手順を以下に説明する。
【0078】
本実施例の試料(検体)は、冷凍されたものは解凍した直後、生鮮品については皮を剥いで節状にした後、真空パック凍結し、切り身については皮を剥いだ後、真空パックし凍結し、各々凍結状態のまま節状若しくは切り身から30gから60g程度採取して試料Aとする。
【0079】
[分析方法1]
図5に分離装置の一例を示す。密閉可能な容器1(ジャマ板2付きが望ましい)に、硫酸,消泡材及び塩類を定量混合した水溶液3を入れる。
【0080】
上蓋4で容器1を密閉した後、圧力調整部5、流量計6を介して接続された注入口7より窒素ガスを容器1内に定量注入し排出口8より排出するとともに、タイマー制御されたホモジナイザー9を稼働し、水溶液3および容器1内の気相部10を一定時間窒素置換する。
【0081】
上記窒素置換が終了したら上蓋4を外し、試料Aを容器1内に入れ、再び上蓋4で容器1を密閉した後、容器1内の気相部10を一定時間窒素置換する。気相部の窒素置換が終了した後、タイマー制御されたホモジナイザー9を一定時間稼働し試料Aをホモジナイズして気相部10に分離ガスを得る。
【0082】
上記気相部10に収集された分離ガスを採取口11からガスタイトシリンジで分離ガスを採取しクロマトグラフに注入し気体成分を定量分析する。
【0083】
尚、採取口11から分離ガスを採取する際、上記気相部10に得られた分離ガスの検出濃度を、例えば温度センサー12、圧力センサー13若しくは体積補正器14を使用して補正しても良い。
【0084】
[分析方法2]
溶解度が高い気体成分が残留する試料を分析する場合、または各種気体センサーや検知管を用いて定量する場合は、図6に示すような分離装置を用いても良い。
【0085】
具体的には、上記試料Aを上記分析方法1同様にホモジナイズすると同時に、容器15に窒素ガスを送り込みながら容器1をヒーター16で加熱し、排出口17から冷却器18を介してテドラーバック19に分離ガスを得、この分離ガスを各種気体センサーや検知管を用いて定量分析する。
【0086】
[分析方法3]
更に、分析方法2の別例として、図7に示すような分離装置を用いても良い。
【0087】
具体的には、上記試料Aを上記分離方法1同様にホモジナイズ完了後、容器20の下部若しくは上部に設置された注水口21より塩類の飽和水溶液を容器20内に注入し、排出口22からテドラーバック23に分離ガスを得、この分離ガスを各種気体センサーや検知管を用いて定量分析する。
【0088】
本実施例は上述のようにしたから、所定重量の検体を、密閉容器内でホモジナイズすることで、この検体に含まれる例えば一酸化炭素および低級炭化水素群等の気体成分が気相へと移動しても、これらの気体成分が散逸することなく閉鎖空間内に保持される。
【0089】
即ち、前記検体に、ホモジナイズや細断等の前処理を施すことなく可及的に表面積が小さい状態で密閉容器内に収納した後、この密閉容器内でホモジナイズすることで、この密閉容器外で基体成分が散逸することを可及的に阻止でき、密閉容器収納前に検体から気体成分が散逸することによる誤差を低減できることになる。
【0090】
従って、より正確に検体に含まれる気体成分を分析可能となり、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析して、前記検体としての魚肉や畜肉が、CO処理されたものか若しくは燻煙処理されたものかまたは無処理のものかをより正確に判別可能となる。
【0091】
また、ホモジナイズの際、液相から気相への気体成分の移動を促進させるために密閉容器内の溶液に塩類を飽和させて、気体の溶解度を低下させることで、気体成分の液相への残留を阻止できることになる。
【0092】
即ち、気体の溶解度を低下させることにより、気体成分が気相に移動しやすい環境とすることができ、気体成分が液相に残留してしまうことによる誤差を低減できる。
【0093】
更に、密閉容器内の水溶液をpH2.77以下とすることで、Hb及びMbに配位した気体成分が解離し易くなり、Hb及びMbに配位した気体成分が離脱しないことによる誤差を低減できることになる。
【0094】
従って、本実施例は、KH法における問題点を解決して、より正確で再現性良く検体に含まれる気体成分を検出可能となり、魚肉や畜肉に含まれる気体成分、例えば一酸化炭素、低級炭化水素群等の気体成分を定量分析してこの魚肉や畜肉が、CO処理品なのか若しくは燻煙処理品なのかまたは無処理品なのかをより確実に判別可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】従来例の概略説明断面図である。
【図2】容体内の一酸化炭素濃度の経時変化の観測結果を示すグラフである。
【図3】密閉容器に魚肉と共に飽和食塩水を入れホモジナイズしたときの気相の一酸化炭素濃度変化の観測結果を示すグラフである。
【図4】3種の血液で同じ圧力の大気と酸素とに平衡させたときのpHと飽和度(%)との関係を示すグラフである。
【図5】本実施例に係る分離装置の一例を示す概略説明断面図である。
【図6】本実施例に係る分離装置の一例を示す概略説明断面図である。
【図7】本実施例に係る分離装置の一例を示す概略説明断面図である。
【図8】分離した気体成分のクロマトグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる気体成分の定量分析を行う方法であって、所定重量の検体を前処理することなく固体のまま溶液が収納された密閉容器内に収納し、この密閉容器内で前記検体をホモジナイズして、この検体中に含まれる気体成分を定量分析することを特徴とする気体成分の分析方法。
【請求項2】
前記密閉容器内に前記溶液として飽和水溶液を収納するかまたは前記密閉容器内を加熱若しくは減圧した状態で、前記検体をホモジナイズすることを特徴とする請求項1記載の気体成分の分析方法。
【請求項3】
前記検体としての魚肉や畜肉が、CO処理されたものか若しくは燻煙処理されたものかまたは無処理のものかを判別し得るように、前記検体に含まれる気体成分を定量分析することを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法。
【請求項4】
前記検体に含まれる気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析することで、前記判別を行なえるようにしたことを特徴とする請求項3記載の気体成分の分析方法。
【請求項5】
前記密閉容器内に前記溶液としてpH2.77以下の水溶液を収納した状態で、前記検体をホモジナイズすることを特徴とする請求項3,4のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法。
【請求項6】
前記検体をホモジナイズした後、前記密閉容器内の気相成分の温度,圧力及び体積を補正することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法。
【請求項7】
前記検体をホモジナイズした後、前記密閉容器内に飽和水溶液を注入することでこの密閉容器内の気体を抽出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法。
【請求項8】
前記検体をホモジナイズした後、前記密閉容器内で分離された気体成分を、ガスクロマトグラフィ、各種気体センサー若しくは各種検知管を用いて定量することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の気体成分の分析方法を用いて検体中に含有する気体成分を分離する気体成分の分離装置であって、前記検体を収納し得る密閉容器と、この密閉容器内の検体を密閉状態を保持したままホモジナイズし得るホモジナイザーとを備えたことを特徴とする気体成分の分離装置。
【請求項10】
魚肉や畜肉等の検体に含まれる気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析して、この検体がCO処理されたものか若しくは燻煙処理されたものかまたは無処理のものかを判別する方法であって、密閉容器にpH2.77以下の飽和水溶液を収納し、この密閉容器内の液相及び気相をホモジナイズしながら前記気相を不活性雰囲気に置換した後、所定重量の検体を前処理することなく固体のまま前記気相が不活性雰囲気に置換された密閉容器内に収納し、この密閉容器内の気相を不活性雰囲気に置換して、この密閉容器内で前記検体並びに前記液相及び前記気相をホモジナイズすることでこの検体中に含有される気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を気相に放出させ、この気相に放出された前記一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析することを特徴とする判別方法。
【請求項11】
魚肉や畜肉等の検体に含まれる気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析して、この検体がCO処理されたものか若しくは燻煙処理されたものかまたは無処理のものかを判別する方法であって、密閉容器にpH2.77以下の水溶液を収納し、この密閉容器内の液相及び気相をホモジナイズしながら前記気相を不活性雰囲気に置換した後、所定重量の検体を前処理することなく固体のまま前記気相が不活性雰囲気に置換された密閉容器内に収納し、この密閉容器内の気相を不活性雰囲気に置換して、この密閉容器内を加熱若しくは減圧した状態で、この密閉容器内で前記検体並びに前記液相及び前記気相をホモジナイズすることでこの検体中に含有される気体成分、例えば一酸化炭素および低級炭化水素群を気相に放出させ、この気相に放出された前記一酸化炭素および低級炭化水素群を定量分析することを特徴とする判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−96256(P2008−96256A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−277660(P2006−277660)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(594179801)株式会社オンスイ (3)
【Fターム(参考)】