説明

水と有機溶媒とに可溶または少なくとも分散可能な傾斜コポリマー

【課題】水中および有機溶媒中に可溶または少なくとも分散可能な両親媒性コポリマー、特に制御されたフリーラジカル溶液重合または塊状重合で得られる両親媒性傾斜コポリマーと、この傾斜コポリマーを水へ溶解する方法。この傾斜コポリマーは表面処理技術、特に塗料、接着剤、膠剤および化粧品用配合物で使用できる。
【解決手段】ポリマー鎖上の任意の規格化位置xにモノマー(Mi)が存在する確率がゼロではないような少なくとも一つのモノマー(Mi)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は両親媒性コポリマー(copolymers amphiphiles)に関するものである。
本発明は特に、両親媒性の傾斜コポリマー(copolymers a gradient)に関するものである。
本発明は特に、有機溶媒中と同様に水中にも可溶または分散可能な傾斜コポリマーに関するものである。
本発明はさらに、上記傾斜コポリマーの合成方法と、傾斜ポリマーを水中または水/アルコール混合物中に5%以上の濃度で含む溶液の製造方法に関するものである。
本発明はさらに、各種用途で使用可能な配合物、例えば化粧品、水性塗料や、水に対する親和力が本来ほとんどない表面への接着、無機充填材の分散での上記溶液の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマー材料は一般に3つの量すなわち数平均分子量(以下、Mn)、重量平均分子量(以下、Mw)および多分散度指数PIで説明できる。化学組成が分かっている場合には上記の3つの量だけでホモポリマーまたはコポリマーは十分に説明できる。
下記の定義から証明されるように、傾斜コポリマーをより正確に説明する必要があり、それを正確に説明するにはその合成パラメータが決定因子となる。
【0003】
以下、Tgはポリマーのガラス転移温度を示す。
本発明では「親水性モノマー」とはそのホモポリマーが水に可溶または水に分散可能であるか、そのイオンの形が水に可溶または水に分散可能である全てのモノマーを意味する。
ホモポリマーが水に可溶であるとは25℃の水に5重量%の濃度で溶かしたときにホモポリマーが澄んだ溶液となることを意味する。
ホモポリマーが水に分散可能であるとは25℃の水に5重量%の濃度で溶かしたときにホモポリマーが微粒子、一般には球形粒子の安定な懸濁液となることを意味する。この分散粒子の平均粒径は1μm以下、より一般的には5〜400nm、好ましくは10〜250nmである。これらの粒径は光散乱法で測定する。
【0004】
傾斜コポリマーを他のコポリマーおよびポリマーと区別するために、本発明で用いる用語を下記のように定義する。
制御されたラジカル重合
「制御されたラジカル重合」とは下記を意味する:
(1)ニトロオキシドによって制御されるラジカル重合
この重合方法および装置は下記文献に記載されている。
【特許文献1】国際特許第96/24620号公報
【特許文献2】国際特許第00/71501号公報
【0005】
この制御方法の学術的解説は例えば下記文献に記載されている。
【非特許文献1】Fischer(Chemical Reviews 2001、101、3581)
【非特許文献2】Tordo、Gnanou(J.Am.Chem.Soc.、2000、122、5929)
【非特許文献3】Hawker(J.Am.Chem.Soc.、1999、121、3904)
【0006】
(2)ラジカル原子の移動による重合
この重合法は下記文献に記載されており、炭素−ハロゲンタイプの結合での有機金属錯体への可逆的インサートによって進行する。
【特許文献3】国際特許第96/30421号公報
【0007】
(3)キサンテート(wanthate)、ジチオエステル、トリチオカーボネートまたはトリチオカルバメートタイプの硫黄誘導体で制御されるラジカル重合
この重合方法に関しては下記文献を参照することができる:
【特許文献4】フランス国特許第01/02848号公報
【特許文献5】国際特許第02/068550号公報
【特許文献6】国際特許第98/01478号公報
【特許文献7】国際特許第99/35177号公報
【特許文献8】国際特許第98/58974号公報
【特許文献9】国際特許第99/31144号公報
【特許文献10】国際特許第97/01478号公報
【非特許文献4】Rizzardo達(Macromolecules、1998、31、5559)
【0008】
「制御されたラジカル重合」とは、フリーラジカルの制御剤を用いることによって副反応(これは一般に生長種を消失させ(停止反応または移動反応)に至らせる)の生長反応(reaction propagation)に対する確率が極めて低い重合を意味する。この重合法の欠点はフリーラジカルの濃度がモノマー濃度に比べて高くなると、副反応が再び決定的になり、分子量分布がばらつくことにある。
【0009】
傾斜(gradient)
傾斜コポリマー(polymere a gradient):
「傾斜コポリマー」は一般にリビング重合または疑似リビング重合で得られる少なくとも2種のモノマーのコポリマーである。この重合法を用いることによってポリマー鎖が同時に生長し、各瞬間に同じコモノマー比で取り込まれる。従って、コモノマーのポリマー鎖中での分布は合成中のコモノマーの相対濃度の変化に依存する。傾斜コポリマーの理論的説明に関しては下記刊行物を参照されたい。
【非特許文献5】T.Pakula達(Macromol.Theory Simul.、5、987-1006、(1996))
【非特許文献6】A.Aksimetiev達(J.of Chem.Physics、111、No.5)
【非特許文献7】M.Janco(J.Polym.、Sci.、PartA:Polym.Chem.(2000)、38(15)、2767-2778)
【非特許文献8】M.Zaremski達(Macromolecules(2000)、33(12)、4365-4372)
【非特許文献9】K.Matyjaszewski達(J.Phys.Org.Chem.(2000)、13(12)、775-786)
【非特許文献10】Gray(Polym.Prepr.(Am.Chem.Soc.、Div.Polym.Chem.)(2001)、42(2)、337-338
【非特許文献11】K.Matyjaszewski(Chem.Rev.(Washington、D.C.)(2001)、101(9)、2921-2990
【0010】
自然な傾斜
「自然な傾斜」とはコモノマーの出発材料混合物から回分条件下で合成された傾斜コポリマーをいう。従って、鎖中での各モノマーの分布は相対反応性とモノマーの出発濃度から演繹される法則に従う。最終生成物の性質を規定するのは出発混合物であるので、このポリマーは傾斜コポリマーの最も単純なクラスを構成する。
人工的な傾斜
「人工的な傾斜」とは合成中にモノマー濃度を人工的なプロセスで変えたコポリマーに対して用いる用語である。
組成勾配
「組成勾配」は下記G(x)関数で定義される:
【数1】

【0011】
(ここで、
xはポリマー鎖上での規格化された位置(la position normalisee)を示し、
[Mi](x)は上記位置と関係付けたモノマーMiの相対濃度を示す(molで表す)。アイソな反応性モノマー(monomeres iso reactives)の場合には[Mi](x)=1/2。
【0012】
このG(x)関数は傾斜ポリマーの組成を局地的に表している。全体組成が同じである2つのコポリマーでも互いに全く異なるG(x)関数を有することができる。G(x)関数を決定する因子はモノマーの相対的な反応性係数(モノマーMiに対してri)〔これは主として合成法の形式(均一、分散)、溶媒等に依存する〕、モノマーの出発濃度、合成中のモノマーの添加状態である。教科書的な例としては均質重合系のスチレン(M1)とメタクリル酸(M2)との傾斜コポリマーが挙げられ、文献からr1=0.418、r2=0.6である。
【0013】
スチレンおよびメタクリル酸の出発濃度を変えることによって互いに全く異なる構造の鎖を有する種々の傾斜コポリマーを得ることができる。メタクリル酸が10重量%の場合には極めてわずかに傾斜した傾斜コポリマーが得られ、ナノ構造化は期待できない。20%では親水性の「ヘッド」と疎水性の「テール」とを有するコポリマーが得られ、ナノ構造化可能な十分に大きい勾配になる。一方、50%になると、この条件下ではモノマーがアイソ反応性になり、得られたコポリマーは交互型コポリマーになる。
【0014】
上記の各ポリマーは全てスチレンとメタクリル酸との傾斜ポリマーであるが、モノマーの出発濃度の違いによって全く異なる構造を有する鎖となり、コポリマーは全く異なる特性を示す。上記の例は鎖上での各モノマーの配置に対する出発モノマー濃度の重要性を示している。
【0015】
ブロックコポリマー
ブロックコポリマーは人工的な傾斜コポリマーのファミリーの亜類である。この場合、[Mi](x)は少なくとも一つのディラック関数(founction Dirac)と単調関数との積である。これは反応媒体中モノマーが受ける変化(第1混合物の除去または少なくとも一種の新しいモノマーの添加)によって鎖中のモノマー混合物が一方から他方へ変化することを反映している。いくつかのブロックコポリマーは2つのブロックの間にランダムヒンジを有する点で区別される。
【0016】
特許文献5(国際特許第02/068550号公報)は(AB)n−コア型のブロックポリマーを開示・請求している(nは2以上)。AブロックとBブロックとの間にヒンジ(charniere)を有することもある。この構造は下記GA(x)曲線に対応する。
【表1】

【0017】
従って、この鎖の構造は下記の特徴を有することがわかる:
(1)対称であり、
(2)ブロックの概念は鎖の少なくとも一つの領域でAの組成が1で、Bの組成が0で表され、
(3)この構造はモノマーの第1混合物を重合した後に第2混合物を重合し、必要な場合にはこれらの2つの重合段階の間にポリマーを精製してヒンジブロックを除く合成方法に対応している。
【0018】
この化合物はナノ構造化された構造を有し、このナノ構造化に起因する物理的・流動学的性質を有し、規則/不規則温度が高い。この温度以下ではポリマーの粘度が極めて高く、その結果、このポリマーを水溶液中または溶媒中に溶かすことが困難になり、実際には不可能である。
上記の例および定義から、G(x)関数と、数平均分子量と、多分散度指数との3つの情報が傾斜コポリマーを互いに区別するのに必要かつ十分なものであることが明らかである。また、G(x)関数は合成方法によって直接決定されることも明らである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明者は、少なくとも一種の親水性モノマーと、ホモポリマーにした場合のTg1が20℃以下となる少なくとも一種のモノマーM1とを有する両親媒性傾斜ポリマーは、塗料、ワニス、接着剤、充填材の分散での用途、さらには医学用途、皮膚科学または化粧用の配合物の用途で重要な流動学的特性を維持したまま、ブロックコポリマーと比べて水中または溶媒中での取り扱いが容易になる、ということを偶然に見い出した。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の対象は、ホモポリマーにした時のTg1が20℃以下である、コポリマー全重量の少なくとも50重量%を占める第1モノマー(M1)と、ホモポリマーにした時のTg2が20℃以上、好ましくは50℃以上である、コポリマー全重量の50重量%以下を占める第2モノマー(M2)との少なくとも2種のモノマーを含み、これらモノマーの少なくとも一方が親水性で且つコポリマー全重量の少なくとも5重量%を占める、傾斜コポリマーにおいて、
ポリマー鎖上の任意の規格化位置xにモノマー(Mi)が存在する確率がゼロではないような少なくとも一つのモノマー(Mi)を有することを特徴とする傾斜コポリマーにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
Tg1は−150〜20℃、好ましくは−120〜15℃であるのが好ましい。
本発明の好ましい形態では、親水性モノマーはコポリマー重量の少なくとも10重量%である。
本発明の傾斜ポリマーは平均分子量が5000g/mol〜1,000,000g/molで、多分散度指数が1.1〜2.5、好ましくは1.1〜2である。
【0022】
親水性モノマーは下記(1)〜(8)の中から選択できる:
(1)エチレン性カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸またはフマル酸、
(2)ポリエチレングリコールまたは末端官能基がアルキル基、燐酸基、ホスホネートまたはスルホネート基で置換されていてもよいグリコールのアクリレートおよびメタクリレート、
(3)不飽和カルボン酸のアミド、例えばアクリルアミドまたはメタクリルアミドおよびこれらのN−置換誘導体、
(4)アミノアルキルアクリレートおよびメタクリレート、アミノアルキルメタクリルアミド、
(5)ビニル結合を有するカルボン酸無水物、例えば、無水マレイン酸または無水フマル酸、
(6)ビニルアミド、例えばビニルピロリドンまたはビニルアセトアミド、
(7)ビニルアミン、例えばビニルモルホリンまたはビニルアミン、
(8)ビニルピリジン、
これらのモノマーは本来的に親水性であるか、簡単な変換(アミンの第四級化または酸の中和)によって親水性にすることができる。
【0023】
モノマーM1は下記モノマーの中から選択するのが好ましい:
(1) 直鎖または分岐鎖のC1〜C12アルキルアクリレート、
(2) ポリエチレングリコールアクリレートまたは(メタ)アクリレート、
(3) ジエン、例えばブタジエンまたはイソプレン。
本発明の傾斜コポリマーに入れることができる他のモノマーは下記モノマーの中から選択される:
(1) スチレン誘導体、
(2) 高Tgポリマーにするための(メタ)アクリル誘導体、例えばノルボルニルアクリレートまたはメチルメタクリレート、
(3) アクリロニトリルおよびメタクリロニトリル
【0024】
本発明の傾斜コポリマーは制御されたラジカル重合、特に下記の手順で得ることができる:
(1)重合すべきモノマーと、ラジカル重合開始剤と、重合制御剤との混合物を、攪拌しながら、溶媒を入れた(または入れない)反応器中に導入する。混合物はラジカル重合に不活性なガス、例えば窒素またはアルゴン雰囲気下に置く。必要に応じて用いる重合溶媒としては酢酸ブチルまたは酢酸エチル等の酢酸アルキル、芳香族溶媒、ケトン溶媒またはアルコール溶媒を選択するのが有利である。モノマー混合物が水溶性である場合には溶媒として水を用いるのが有利である。
(2)上記混合物を攪拌しながら所望の重合温度に加熱する。この温度は10〜160℃、好ましくは25〜130℃の範囲で選択する。重合温度の選択はモノマー混合物の化学組成に従って最適化する。特に、生長反応速度定数が極めて高く、制御剤に対する親和力が低いモノマーの場合には低温で重合しなければならない(例えば、大部分がメタクリル誘導体である場合、25℃〜80℃の温度での重合が好ましい)。
【0025】
(3)必要な場合には、重合中(出発モノマーの転化率が90%に達する前)に、出発混合物の一つまたは複数のモノマーを添加して重合媒体を変える。この添加は一度に添加する方法から全重合時間にわたって連続的に添加する方法まで種々の方法で行うことができる。
(4)所望の転化率に達したときに重合を停止する。転化率はポリマーの全体組成とG(x)関数とに依存する。50%以上の転化率を達成するのが好ましく、90%以上の転化率を達成するのがさらに好ましい。
(5)残留モノマーを蒸発するか、過酸化物またはアゾ誘導体等の通常の重合開始剤を添加して除去する。
【0026】
本発明では重合制御剤はニトロオキシド(I)である。
本発明方法はニトロオキシド(I)の存在下でコポリマーを合成する:
【化1】

【0027】
(ここで、
R'およびRはヒドロキシル、アルコキシまたはアミノ基で置換されていてもよい1〜40個の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはt−ブチル基で、互いに同一でも異なっていてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよく、
Lはモル質量が16g/mol以上である一価の基で、燐を含む基または芳香族基にすることもでき、特に下記式のホスホネート基にすることもできる:
【化2】

【0028】
(ここで、
R''およびR'''はヒドロキシル、アルコキシまたはアミノ基で置換されていてもよい1〜40個の炭素原子を有するアルキル基、特にエチル基で、互いに同一でも異なっていてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい)
【0029】
従来の重合開始剤(アゾまたは過酸化物)も用いることができるが、これらの重合開始剤は1molで2molのポリマー鎖を生じると考えられる場合には、ニトロオキシド/重合開始剤のモル比を2〜2.5にし、一官能性開始剤の場合には1〜1.25にする。
【0030】
重合の開始と同時に重合を制御するニトロオキシドを放出することができる下記一般式(II)のアルコキシアミンを選択するのが有利である:
【化3】

【0031】
(ここで、
nは8以下の整数、好ましくは1〜3であり、
Zはスチリル、アクリロイルまたはメタクリロイル型の一価または多価のラジカルであり、
他の基は上記と同じ意味を有する)
重合の制御の質はニトロオキシド(I)をアルコキシアミン(II)に、アルコキシアミン官能基のモル数に対して0〜20mol%の比率で、添加することによって向上できる(多価のアルコキシアミン1molはその価に比例したアルコキシアミン官能基の数を有する)。
【0032】
重合開始剤の選択は用途に依存する:
(1)一官能性開始剤の場合には非対称の鎖となり、
(2)多官能性開始剤の場合にはコアから対称な高分子ができる。
【0033】
親水性/疎水性モノマーは鎖上のどの位置に親水性モノマーを正確に位置させるかによっての選択される。すなわち、親水性単位をポリマー鎖のコアに位置させたい場合には親水性モノマーの反応性が疎水性モノマーの反応性よりも高くなるような二官能性の開始剤とモノマー混合物とを選択する。これは例えばアクリレートモノマーに対するメタクリル酸の場合である。また、親水性単位を外側に位置させたい場合には、例えば逆にアクリレート/ビニルピロリドンのペアーを選択する。
本発明の傾斜コポリマーは水溶性または水分散性で、塗料、接着剤、膠剤、化粧品用配合物に用いられ、さらに、顔料の分散にも用いられる。
【0034】
本発明の他の対象は、下記の工程からなる本発明の傾斜コポリマーを水に溶解する方法にある:
(1)ケトン溶液中にポリマーを20〜90重量%、好ましくは20〜50重量%の固体含有量で溶かす。アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)を選択するのが好ましい。
(2)酸型の親水性モノマーの場合には、少なくとも1Mの塩基の溶液、例えばヒドロニウムイオン(OH-)の塩、アミン、アンモニア、カーボネート(CO32-)または炭酸水素(HCO3-)の塩を激しく攪拌しながら溶液に添加する。アミン型の親水性モノマーの場合には、少なくとも1Mの酸の溶液、例えば塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、酢酸、プロピオン酸、硫酸、燐酸またはヒドロ硼酸を添加する。中性の親水性モノマー、例えばジメチルアクリルアミドまたはビニルピロリドンの場合は(1)で得られた溶液をそのまま使用する。
(3)次に、(1)で得られた溶液または必要に応じて(2)の処理をした溶液に、固体含有量が1〜80重量%となる比率で水を激しく攪拌しながら添加する。必要な場合には水の代わりに水/アルコール混合物を99/1〜50/50の比率で用いることもできる。
(4)通常の蒸発法、特に100℃で溶液を攪拌してケトンを蒸発させる。所望の固体含有量が得られるまで濃縮を続ける。
【0035】
本発明者は、上記ポリマーを水に溶解させるにはポリマーを最初に有機溶液に溶かすのが好ましいことを見出した。
本発明の他の対象は、上記ポリマーを水中または水/アルコール混合物中に5%以上の濃度で溶解する方法にある。本発明ポリマーの水溶液または有機溶液も本発明の一部を成す。
本発明はさらに、種々の用途、例えば化粧品、水性塗料で使用可能な配合物や、水に対する本来の親和力がほとんどない表面への接着または無機充填材の分散での上記溶液の使用にも関するものである。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
ポリマーの特徴付け
ポリマーのモル質量とその分布は立体排除クロマトグラフィ(SEC)で求め、その較正は標準品のポリスチレンとPMMAのMark-Houwink係数とを用いて行った。
コポリマーの化学組成はプロトンNMR、UV分光法または赤外分光で求めることができる。
【0037】
傾斜を実験的に特徴付けるために重合中にポリマーの化学組成を測定する。すなわち、リビング重合または疑似リビング重合で作られたポリマーの場合には鎖長は転化率に対してリニアーになる。換言すれば、重合のある瞬間に添加されるモノマーM1の比率が分かれば、重合のその瞬間の鎖長が分かり、従って、[M2](x)を求めることができる(xは鎖の全長に対する位置である)。すなわち、重合の複数の瞬間にサンプルを抜き出し、各モノマーの含有率の差を求めることによって傾斜が分かる。
【0038】
傾斜関数を求めるための別の方法はモノマーが転化するのにあわせてポリマーのTgを測定することである。すなわち、Tgは一次近似で下記関係式から推定できる:
【0039】
【数2】

【0040】
(ここで、TgiはモノマーiのホモポリマーのTgを示し、xiはその質量分率を示す)
この方法は重合で得られた材料の平均化学組成を反映する。さらに、全てのポリマー鎖が類似の組成を有することを証明することが重要である。そのためには液体吸着クロマトグラフィーを用いることができ、それによってポリマーの分子量ではなくその極性に従ってポリマー鎖を分けることができる。この極性は材料を構成するポリマーの化学組成を反映する。
【0041】
用いる開始剤および制御剤
実施例で重合制御剤として用いる安定なフリーラジカル(SG1とよぶ)は下記式に対応する:
【0042】
【化4】

【0043】
実施例に記載のアルコキシアミン DIAMSおよびMONAMSは下記式に対応する:
【0044】
【化5】

【0045】
用いたモノマーの相対的反応性係数
実施例で用いた相対的反応性係数の一部を〔表2〕に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
実施例1
傾斜コポリマーの塊状合成
下記の反応物混合を使用した:
MONAMS: 3.0g、
SG1: 0.18g、
エチルアクリレート(EA):480g(=80重量%/モノマー全重量)、
スチレン(S): 60g(=10重量%/モノマー全重量)、
メタクリル酸(MAA): 60g(10重量%/モノマー全重量)
【0048】
全ての成分を窒素雰囲気下で溶媒の非存在下に混合した後、110〜115℃の温度で198分間加熱した。
化学シミュレーションでの傾斜計算から下記曲線が与えられる。
【0049】
【表3】

【0050】
このモデルはガスクロマトグラフィで3種類のモノマーの相対濃度をモニターし、ポリマーをNMR分析して得た。
60%の転化率でのコポリマーの化学組成は68.4%のエチルアクリレート、16.1%のスチレン、15.5%のメタクリル酸であることがわかる(計算曲線上のNMR(69%))。
コポリマーの最終組成は下記の通り:
エチルアクリレート: 68.4重量%、
スチレン(S): 16.1重量%、
メタクリル酸(MAA):15.5重量%。
【0051】
このポリマーの鎖の化学組成は多分散度指数が低いことはLACからわかる。
立体排除クロマトグラフィによる分子量の測定結果は下記の通り:
Mn=32,140g/mol
Mw=51,700g/mol、
多分散度指数PI=1.6
得られたコポリマーは下記の概念図で表すことができる:
【0052】
【化6】

【0053】
(ここで、黒い球はスチレン/メタクリル酸単位を表し、白い球はエチルアクリレート単位を表す)
【0054】
実施例2
傾斜コポリマーの塊状合成
実施例1の操作に従って下記の反応物混合物から各種のコポリマーを製造した:
MONAMS: 3.0g、
SG1: 0.18g、
スチレン: 60g、
メタクリル酸:60g、
アクリレート(またはアクリレートの混合物):480g
【0055】
【表4】

【0056】
実施例3
溶媒存在下での合成
溶媒の存在下で実施例1と同様に合成した。反応物混合物は下記の通り:
MONAMS: 3.43g、
SG1: 0.2g、
エチルアクリレート:336g、
スチレン: 42g、
メタクリル酸: 42g、
トルエン: 180g
【0057】
全ての成分を窒素雰囲気下でトルエンの存在下に混合した後、110〜115℃の温度で198分間加熱した。最終転化率は82%で、固体含有量は57.2重量%である。
分析結果は下記の通り:
Mn=30,570g/mol
Mw=50,500g/mol、
多分散度指数PI=1.65
コポリマーの最終組成は液体吸着クロマトグラフィ(LAC)で求めた。その結果、実施例1で製造したコポリマーと組成が似ていることと、材料中にホモポリマーが存在しないことが示された。これは実施例1に示す曲線1で示される。
【0058】
実施例4
溶媒存在下での合成
実施例3のプロセスに従って別のコポリマーを合成する。また、別の溶媒すなわちメチルエチルケトンの存在下で行う。
混合物の出発組成は下記の通り:
MONAMS: 4.893g、
SG1: 0.2881g、
エチルアクリレート: 293.8g、
メチルアクリレート: 32.66g、
スチレン: 76.8g、
メタクリル酸: 76.8g、
メチルエチルケトン: 120g
【0059】
最終転化率は99%で、固体含有量は79.9重量%である。
分析結果は下記の通り:
Mn=30,500g/mol、
Mw=58,000g/mol、
PI=1.9
残留モノマー濃度を時間の経過とともにガスクロマトグラフィでモニターすることによって時間の経過とともに取り込まれたモノマー量を測定した。
【0060】
【表5】

【0061】
各モノマーは全反応期間を通じて存在していることは注目される。
コポリマーの最終組成は下記の通り:
エチルアクリレート:34重量%、
メチルアクリレート:34重量%、
スチレン: 16重量%、
メタクリル酸: 16重量%。
【0062】
実施例5
実施例2aで調製したコポリマーの固体含有量が10%の水溶液を調製した。
ポリマーを乾燥炉で予備乾燥した後、1.6gのAMP(2−アミノ−2−メチルプロパノール)を含む90mlの水に10gのポリマーを溶かす。流動性が高い澄んだ水性分散体が得られる。光散乱(Coulter 4NW 装置)で測定した粒径は33nmである。
【0063】
実施例6
実施例1で製造したコポリマーの水溶液を調製した。
40gのテトラヒドロフランに10gのポリマーを溶かし、1.41gのAMP(2−アミノ−2−メチルプロパノール)を10mlの水に溶かしたものを添加する。溶液は濁る。次に、90mlの脱イオン水を激しく攪拌しながら徐々に添加すると溶液は澄み、流動性を取り戻す。
溶媒を蒸発させると、流動性のある澄んだ水性分散体が得られる。光散乱(Coulter 4NW 装置)で測定した粒径は199nmである。
【0064】
実施例7
溶媒ゲルまたは水性ゲルの製造で用いる傾斜コポリマー溶液の利用例
実施例2bのコポリマー10gを90gのメチルエチルケトンに希釈する。この媒体に0.8gのプロピルジアミンを攪拌しながら添加すると、瞬時にゲルが得られる。
実施例7のコポリマー10gを90mlのメチルエチルケトンに希釈する。この媒体に2gのエタノールジイソプロピルアミンを添加する。この媒体は流動性を維持する。この溶液に180gの水を添加すると水性ゲルが得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホモポリマーでのTg1が20℃以下である、コポリマー全重量の少なくとも50重量%を占める第1モノマー(M1)と、ホモポリマーでのTg2が20℃以上、好ましくは50℃以上である、コポリマー全重量の50重量%以下を占める第2モノマー(M2)との少なくとも2種のモノマーを含み、これらモノマーの少なくとも一方が親水性で且つコポリマー全重量の少なくとも5重量%を占める、傾斜コポリマー(polymere a gradient)において、
ポリマー鎖上の任意の規格化位置xにモノマー(Mi)が存在する確率がゼロではないような少なくとも一つのモノマー(Mi)を有することを特徴とする傾斜コポリマー。
【請求項2】
Tg1が−150〜20℃、好ましくは−120〜15℃である請求項1に記載の傾斜コポリマー。
【請求項3】
平均分子量が5000g/mol〜1,000,000g/molで、多分散度指数が1.1〜2.5、好ましくは1.1〜2である請求項1または2に記載の傾斜コポリマー。
【請求項4】
親水性モノマーがコポリマー全重量の少なくとも10重量%である請求項1〜3のいずれか一項に記載の傾斜コポリマー。
【請求項5】
親水性モノマーが下記(1)〜(8)からなる群の中から選択される請求項1〜4のいずれか一項に記載の傾斜コポリマー:
(1)エチレン性カルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸またはフマル酸、
(2)ポリエチレングリコールまたは末端官能基がアルキル基、燐酸基、ホスホネートまたはスルホネート基で置換されていてもよいグリコールのアクリレートおよびメタクリレート、
(3)不飽和カルボン酸のアミド、例えばアクリルアミドまたはメタクリルアミドおよびこれらのN−置換誘導体、
(4)アミノアルキルアクリレートおよびメタクリレート、アミノアルキルメタクリルアミド、
(5)ビニル結合を有するカルボン酸無水物、例えば無水マレイン酸または無水フマル酸、
(6)ビニルアミド、例えばビニルピロリドンまたはビニルアセトアミド、
(7)ビニルアミン、例えばビニルモルホリンまたはビニルアミン、
(8)ビニルピリジン。
【請求項6】
モノマーM1を下記モノマーの中から選択する請求項1〜5のいずれか一項に記載の傾斜コポリマー:
直鎖または分岐鎖のC1〜C12アルキルアクリレート、
ポリエチレングリコールアクリレートまたはメタアクリレート、
ジエン、例えばブタジエンまたはイソプレン。
【請求項7】
コポリマー全重量の少なくとも50重量%を占めるホモポリマーでのTg1が20℃以下に対応する第1モノマー(M1)と、コポリマー全重量の50重量%以下を占めるホモポリマーでのTg2が20℃以上、好ましくは50℃以上である第2モノマー(M2)とを含み、これらモノマーの少なくとも一方が親水性で且つコポリマー全重量の少なくとも5重量%を占める少なくとも2種のモノマー混合物を、10〜160℃、好ましくは25〜130℃の温度でラジカル重合開始剤および重合制御剤の存在下で、制御されたラジカル溶液重合または塊状重合によって重合することを特徴とする傾斜コポリマーの製造方法。
【請求項8】
重合制御剤が下記一般式のニトロオキシドである請求項7に記載の方法:
【化1】

(ここで、
R'およびRはヒドロキシル、アルコキシまたはアミノ基で置換されていてもよい1〜40個の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはt−ブチル基で、互いに同一でも異なっていてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよく、
Lはモル質量が16g/mol以上である一価の基で、燐を含む基または芳香族基にすることもできる)
【請求項9】
重合開始剤および制御剤の代わりに下記一般式(II)に対応するアルコキシアミンと一般式(I)に対応するニトロオキシドとの混合物:
【化2】

(ここで、
nは8以下の整数、好ましくは1〜3、
Zはスチリル、アクリロイルまたはメタクリロイル型の一価または多価ラジカルであり、
R'およびRはヒドロキシル、アルコキシまたはアミノ基で置換されていてもよい1〜40個の炭素原子を有するアルキル基、好ましくはt−ブチル基で、互いに同一でも異なっていてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよく、
Lはモル質量が16g/mol以上である一価の基で、燐を含む基または芳香族基にすることもできる)
を用い、ニトロオキシド(I)が混合物全体重量の0〜20重量%を占める、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
Lが燐を含む基、特に下記式のホスホネート基:
【化3】

(ここで、
R''およびR'''はヒドロキシル、アルコキシまたはアミノ基で置換されていてもよい1〜40個の炭素原子を有するアルキル基、特にエチル基で、互いに同一でも異なっていてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい)
で、ニトロオキシド(I)が混合物全重量の0〜20重量%である請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
下記段階を有することを特徴とする請求項1〜6に記載の傾斜コポリマーまたは請求項7〜10の方法で得られる傾斜コポリマーを水に溶解する方法:
1)傾斜コポリマーをケトン溶液、例えばアセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)に固体含有量が20〜90重量%、好ましくは20〜50重量%となるように溶かし、
2)1)で得られた溶液を中和し、必要な場合には酸または塩基のいずれかのモル溶液を添加し、この酸または塩基の選択は親水性モノマーの化学的性質によって条件付けられ、
3)1)または2)で得られた溶液に激しく攪拌しながら固体含有量が1〜80重量%となる比率で水を添加し、必要な場合には水の代わりに水/アルコールの99/1〜50/50混合物を用い、
4)所望の固体含有量となるまでケトンを蒸発させる。
【請求項12】
請求項11に記載の方法に従って得られる水溶液。
【請求項13】
請求項1〜6の傾斜コポリマーまたは請求項7〜10の方法で得られる傾斜コポリマーの塗料、接着剤または膠剤用の配合物および化粧用配合物での使用。
【請求項14】
請求項1〜6の傾斜コポリマーまたは請求項7〜10の方法で得られる傾斜コポリマーの顔料分散での使用。
【請求項15】
請求項12に記載の水溶液の塗料、接着剤または膠剤用配合物および化粧用配合物での使用。
【請求項16】
請求項12に記載の水溶液の顔料分散での使用。

【公表番号】特表2006−509882(P2006−509882A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560552(P2004−560552)
【出願日】平成15年12月11日(2003.12.11)
【国際出願番号】PCT/FR2003/003669
【国際公開番号】WO2004/055071
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(591004685)アルケマ (112)
【Fターム(参考)】