説明

水性分散液の製造方法

【課題】環境面での負荷を低減し、かつ、エラストマー等の高粘度の合成樹脂を用いても、容易に水性分散液を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】下記の(1)〜(3)の工程を順次経てエラストマーを分散する、水性分散液の製造方法。
(1)固形状のエラストマーを、80℃以上150℃以下の温度で混練し、半溶融状態のエラストマーを得る工程、
(2)上記半溶融状態のエラストマーと、水及び高分子分散剤とを混合し、さらに混練して分散液を得る工程、
(3)上記分散液と水とを混合して水性分散液を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水性分散液の製造方法、詳しくは、エラストマーの水性分散液を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂の水性分散液を製造する方法としては、乳化剤の存在下で、重合性モノマーを乳化重合する方法や、溶融状態の合成樹脂を水中で撹拌剪断力によって、均質化処理(ホモジナイズ)する方法等が知られている。
【0003】
前者の方法は、重合可能なモノマーの種類が限定されるという問題を有する。また、後者の方法は、融点・粘度の低い合成樹脂であれば比較的容易であるが、融点や粘度の高い合成樹脂の場合は、分散工程での水の温度を高温にする必要があり、条件によっては、耐圧容器を用いる必要があることとなり、また、得られる水性分散液の分散粒子径が比較的大きくなりやすい。
【0004】
これに対し、合成樹脂に界面活性剤、有機溶剤及び水を用い、これらを混練することにより粒子径の小さい分散粒子が得られることが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、特定の合成樹脂に重合性不飽和単量体を混合し、ホモジナイザー等で均質化処理することにより、水性分散液を得る方法が知られている(特許文献2,3等参照)
【0006】
【特許文献1】特公平4−30970号公報
【特許文献2】特許第3403828号公報
【特許文献3】特開平11−269206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の有機溶剤を使用する方法は、多量の有機溶剤の使用が必要となり、水性分散液を得た後、脱溶剤工程を行っても、完全に有機溶剤を取り除くことは困難となりやすく、環境上の問題を残しやすい。また、上記の重合性不飽和単量体を使用する方法においては、合成樹脂と重合性不飽和単量体との混合物の粘度が低い場合は、水性分散液を得やすいが、合成樹脂としてエラストマー類等を用いた場合、これと重合性不飽和単量体との混合物の粘度が高くなり、分散が困難となる場合がある。
【0008】
そこで、この発明は、環境面での負荷を低減し、かつ、エラストマー等の粘度が高い合成樹脂を用いても、容易に水性分散液を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、下記の(1)〜(3)の工程を順次経てエラストマーを分散することにより、上記課題を解決したのである。
(1)固形状のエラストマーを、80℃以上150℃以下の温度で混練し、半溶融状態のエラストマーを得る工程、
(2)上記半溶融状態のエラストマーと、水及び高分子分散剤とを混合し、さらに混練して分散液を得る工程、
(3)上記分散液と水とを混合して水性分散液を得る工程。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、一般に均一分散が困難な、粘着性があるようなエラストマーを、特定の条件下で高分子分散剤を用いて水に分散させることにより、均一な分散液を得ることができ、有機溶剤を使用する必要がなく、従って、溶剤回収に要するエネルギーやコストが不要となり、環境への負荷を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明にかかる水性分散液の製造方法は、下記の(1)〜(3)の工程を順次経て、エラストマーを分散する方法である。
(1)固形状のエラストマーを、80℃以上150℃以下の温度で混練し、半溶融状態のエラストマーを得る工程、
(2)上記半溶融状態のエラストマーと、水及び高分子分散剤とを混合し、さらに混練して分散液を得る工程、
(3)上記分散液と水とを混合して水性分散液を得る工程。
【0012】
上記エラストマーとは、ゴム状弾性体をいい、天然ゴム、合成ゴム等があげられる。上記合成ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スチレン系熱可塑性エラストマー(SBS、SEBS)等があげられる。また、これらのエラストマーは、単独で用いてもよく、あるいは、その2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
上記エラストマーの粘度は、100℃の条件下でのムーニー粘度(ML1+4)で、10〜140が好ましく、15〜100がより好ましい。10より小さくてもよいが、通常、入手が困難である。一方、140より大きいと、分散液中での粒径が大きくなり、分離・沈降が生じ易くなる。
【0014】
<工程(1)>
上記工程(1)は、固形状の上記エラストマーに熱を加えて混練し、半溶融状態のエラストマーを得る方法である。上記エラストマーの固体形状としては、粉末状、粒子状(顆粒状を含む)、ペレット状、塊状(ベール状、ブロック状を含む)等があげられる。
【0015】
上記エラストマーの加熱温度は、80℃以上が必要で、90℃以上が好ましい。80℃より低いと、エラストマーの流動性が低下し、混練が不十分となりやすい。一方、加熱温度の上限は、150℃であり、100℃が好ましい。150℃を超えると、エラストマーが分解・着色するおそれがある。
【0016】
上記混練の時間は、1分間以上行うことが好ましく、2分間以上がより好ましい。1分間より短いと、混練が不十分で、良好な分散液を得にくくなる傾向がある。一方、混練時間の上限は、2時間以下が好ましく、1時間以下がより好ましい。2時間より長くすることは、生産効率の点で好ましくない。
【0017】
上記の混練は、通常の混練機を用いて行われる。この混練は、上記ペレット相互間の粒子境界が消滅するまで行われ、これにより、半溶融状態のエラストマーが得られる。この半溶融状態とは、エラストマーが熱や剪断力によって流動性を持つようになった状態をいい、例えば、ペレット状のエラストマーを用いた場合には、熱や剪断力を加えることにより、その境界が消えて高粘稠な液状となった状態をいう。
【0018】
上記の混練に使用される混練機は、特に限定されるものではないが、ロールミル、ニーダー、押出機、インクロール、及びバンバリーミキサーから選ばれる混練機を用いると、混練しやすく、より好ましい。
【0019】
ところで、この工程(1)において、必要に応じて、上記エラストマーを溶解又は膨潤することが可能な液状成分を用いてもよい。このような液状成分を用いることにより、工程(1)における混練をより効率よく行うことができ、次の工程(2)において、均一な分散液を得ることがより容易となる。
【0020】
上記液状成分としては、液状樹脂、鉱物油、重合性単量体等があげられる。上記液状樹脂としては、石油樹脂、テルペン系樹脂、低分子量ポリオレフィン等があげられる。また、上記重合性単量体としては、後述する(メタ)アクリル系単量体、ビニル芳香族系単量体やその他のラジカル重合性単量体等があげられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」の表記は、「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0021】
上記液状成分を使用する場合、その使用量は、上記エラストマー100重量部に対して、5重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましい。5重量部より少ないと、添加による効果を十分に得られない傾向がある。一方、使用量の上限は、50重量部以下が好ましく、30重量部以下がより好ましい。50重量部より多いと、エラストマーの特性が損なわれたり、エラストマーとの混合物の粘度が低くなり過ぎて、混練による剪断力がかかりにくくなり、分散性が悪化する傾向がある。
【0022】
<工程(2)>
上記工程(2)は、上記工程(1)で得られた半溶融状態のエラストマーと、水及び高分子分散剤とを混合して、さらに混練する工程である。これにより、安定性の良好な分散液が得られる。
【0023】
上記高分子分散剤とは、油水界面の界面張力を低下させることができる高分子物質をいい、好ましくは、側鎖の一部に中和されたアニオン基を有するアニオン系の高分子化合物や、カチオン基を有するカチオン系の高分子化合物があげられる。このようなアニオン基としては、カルボン酸基やスルホン酸基、硫酸エステル塩基等があげられ、また、カチオン基としては、4級アンモニウム塩基等があげられる。
【0024】
このような高分子化合物としては、(メタ)アクリル系単量体と、側鎖にアニオン基又はカチオン基を有するラジカル重合性単量体との共重合した構造を有する、(メタ)アクリル系のカチオン系分散剤やアニオン系分散剤があげられる。
【0025】
上記高分子分散剤は、種々の方法で得ることができるが、ラジカル重合法を用いると、側鎖の一部に中和されたアニオン基又はカチオン基を導入しやすく好ましい。
【0026】
上記のアニオン基を有するラジカル重合性単量体としては、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸や、α,β−エチレン性不飽和スルホン酸等があげられる。上記α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の具体例としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシブチルコハク酸、β−カルボキシエチルアクリレート、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等があげられる。上記α,β−エチレン性不飽和スルホン酸の具体例としては、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸等があげられる。
【0027】
上記のカチオン基を有するラジカル重合性単量体としては、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン等をカチオン化した構造の単量体があげられる。なお、カチオン化は、単量体の段階で行っても、また、共重合終了後のポリマーについて行ってもよい。
【0028】
上記(メタ)アクリル系単量体とは、上記した側鎖にアニオン基又はカチオン基を有するラジカル重合性単量体以外の(メタ)アクリル系の単量体をいう。この(メタ)アクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等があげられる。また、これらは、単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記の(メタ)アクリル系単量体に加えて、必要に応じて、この発明の効果を阻害しない範囲内で、ビニル芳香族系単量体やその他のラジカル重合性単量体等を用いてもよい。上記ビニル芳香族系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等があげられる。また、上記のその他のラジカル重合性単量体等としては、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸アミド、N−メチロールアクリルアミド等があげられる。
【0030】
上記高分子分散剤は、上記の各単量体を混合し、重合させることにより得られる。この重合法としては、溶液重合法、乳化重合法等が用いられるが、溶液重合法を用いることが、他種の分散剤の混入等がなく、高純度のものが得られるので好ましい。
【0031】
上記重合をする際、上記の(メタ)アクリル系単量体と、側鎖にアニオン基又はカチオン基を有するラジカル重合性単量体との混合比は、重量比で、(メタ)アクリル系単量体/側鎖にアニオン基又はカチオン基を有するラジカル重合性単量体=90/10〜40/60が好ましく、80/20〜40/60がより好ましく、70/30〜50/50がさらに好ましい。90/10より大きいと、水溶性が低下して、分散力が不足することがある。一方、40/60より小さいと、疎水性部分の割合が不足して、やはり分散力が低下することがある。
【0032】
上記重合に使用するラジカル重合開始剤としては、一般のラジカル重合に使用されているものを特に限定なく使用することが可能であり、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、アゾイソビスブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤、過酸化物等の酸化性物質とアスコルビン酸やロンガリット(商品名、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート二水塩)等の還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤などがあげられる。ラジカル重合開始剤の使用量は、単量体の合計量を基準にして、通常0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%である。
【0033】
上記重合において、必要に応じて、重合体の重量平均分子量を調節するために、アルキルメルカプタン、チオグリコール酸エステル等の連鎖移動剤を重合系に適宜添加してもよい。連鎖移動剤を用いる場合の添加量はラジカル重合性単量体100重量部に対し、0.5〜10重量部が好ましく、1〜5重量部がより好ましい。
【0034】
上記重合で得られた共重合体は、イオン性を付与させるために中和処理がされる。側鎖にアニオン基を有するラジカル重合性単量体を用いた共重合体は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等で中和される。また、側鎖にカチオン基を有するラジカル重合性単量体を用いた共重合体は、塩酸、硫酸、酢酸、ギ酸、シュウ酸等で中和される。
【0035】
溶液重合法で得られた共重合体の場合、中和された共重合体の溶剤を留去して水を加えて水溶液又は水分散液として用いるのが好ましい。
【0036】
このようにして得られる高分子分散剤の重量平均分子量は、特に限定されないが、1,000〜100,000が好ましく、5,000〜50,000がより好ましい。1,000より小さいと、分散力が不足する傾向がある。なお、100,000より大きいものは製造が一般に困難である。
【0037】
この工程(2)においては、高分子分散剤と水を添加する。水の添加は、個別に行ってもよいが、高分子分散剤を水に溶解・分散して添加するのが、分散が良好となり、手間がかからない。
【0038】
このような高分子分散剤の溶液又は分散液中の固形分の含有量は、15重量%以上が好ましく、25重量%以上がより好ましい。15重量%より少ないと、半溶融状態のエラストマーに加えた際、水が分離して良好な分散状態が得られないことがある。一方、上記含有量の上限は、65重量%が好ましく、50重量%がより好ましい。65重量%より多いものは、製造に困難を伴うことが多い。
【0039】
上記高分子分散剤の溶液又は分散液の粘度は、固形分含有量が15重量%、50℃の条件下で、2,000〜100,000mPa・sが好ましく、10,000〜50,000mPa・sがより好ましい。2,000mPa・sより小さいと、エラストマーとの混合性が低下する傾向がある。一方、100,000mPa・sより大きいと、添加しにくく、また、混練の作業性が悪化する傾向がある。
【0040】
上記高分子分散剤の上記エラストマーに対する添加量は、固形分量として、上記エラストマー100重量部に対して、1重量部以上が好ましく、3重量部以上がより好ましい。1重量部より少ないと、分散力が不足して、分散粒子が粗大化し、分散液が得られなかったり、得られても、分離・沈降しやすくなる。一方、添加量の上限は、50重量部が好ましく、10重量部がより好ましい。50重量部より多いと、エラストマー本来の特徴が十分に発揮されなくなる傾向がある。
【0041】
上記高分子分散剤及び水を上記半溶融状態のエラストマーに加える方法は、特に限定されず、一括に添加しても、分割添加しても、連続添加しても構わない。又は高分子分散剤を水溶液又は水分散液として添加する方法でもよい。これらの中でも、高分子分散剤を水溶液又は水分散液として添加する方法が、分散・乳化の面で好ましい。この添加の際、上記半溶融状態のエラストマーを、90〜100℃の温度で維持すると、エラストマーの混練がより容易となり、好ましい。また、この工程の混練は、工程(1)における混練方法を、必要に応じて、条件を変更して適用することができる。
【0042】
すなわち、上記混練温度は、90℃以上が好ましい。90℃より低いと、エラストマー分散液の流動性が低下し、高分子分散剤による分散安定化効果が不十分となりやすい。一方、混練温度の上限は、100℃が好ましい。100℃を超えると、分散媒である水が沸騰するおそれがある。
【0043】
さらに、上記混練の時間は、1分間以上行うことが好ましく、2分間以上がより好ましい。1分間より短いと、混練が不十分で、良好な分散液を得にくくなる傾向がある。一方、混練時間の上限は、2時間以下が好ましく、1時間以下がより好ましい。2時間より長くすることは、生産効率の点で好ましくない。
【0044】
また、上記の混練は、通常の混練機を用いて行えばよい。この混練により、工程(1)で半溶融状態となったエラストマーを水によって分散させ、この分散状態を高分子分散剤により安定化することができる。上記混練機は、特に限定されるものではないが、ロールミル、ニーダー、押出機、インクロール、及びバンバリーミキサーから選ばれる混練機を用いると、混練しやすく、より好ましい。
【0045】
工程(2)で用いる水の量は、この水とエラストマーとが、重量比率が、水/エラストマー=50/100以下がよく、35/100以下が好ましい。50/100より多いと、分散粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が低下するおそれがある。一方、重量比率の下限は、1/100がよく、5/100が好ましく、10/100がより好ましい。1/100より少ないと、次の工程(3)で水を加えたときに、分散粒子の粒子径が大きくなったり、粒子径分布が広くなったりし、分散安定性が低下する傾向がある。なお、この水の量は、上記高分子分散剤を水溶液として用いる場合においては、この高分子分散剤を溶解する溶媒として用いられる水の量を含む値である。
【0046】
<工程(3)>
上記工程(3)は、上記工程(2)で得られた均一な分散液と水とを混合して、上記エラストマーを分散させ、水性分散液を得る工程である。
【0047】
上記水の温度は、70〜100℃が好ましく、80〜95℃がより好ましい。70℃より低いと、エラストマーが硬くなり、分散状態が悪化する傾向がある。一方、100℃より高いと、水や中和剤が揮散して、分散粒径にバラツキを生じることがある。
【0048】
上記水の添加量は、得られる分散液の所望の固形分濃度に応じて調整すればよいが、例えば、固形分量100重量部に対し、30重量部以上、中でも、80重量部以上を用いるのが一般的である。30重量部より少ないと、粒子径が変動したり、分散液が不安定となる傾向がある。一方、添加量の上限は、特に制限はないが、例えば、200重量部程度である。200重量部より多いと、エラストマーの含有割合が下がって、次の工程での作業が煩雑なったり、水を蒸発させる際に多くのエネルギーが必要となる傾向がある。
【0049】
<水性分散液の複合化>
上記の方法で得られた水性分散液のうち、工程(1)において、液状成分として、重合性単量体を用いた場合、この水性分散液中の重合性単量体は、そのまま重合させてもよく、また、これに上記重合性単量体と同一又は異なる重合性単量体を加えた上で、重合を行ってもよい。このうち、上記重合性単量体と同一又は異なる重合性単量体を加えた上で、重合を行う方が好ましい。これにより、用いた単量体から生成する重合体と複合化させることができ、この重合体の例えば凝集力向上等の性質を併せ持つエラストマーの複合水性分散液が得られる。
【0050】
上記の追加する重合性単量体の種類としては、上記した重合性単量体と同様のものを例としてあげることができる。追加する重合性単量体の添加量は、上記水性分散液の固形分100重量部に対し、5重量部以上が好ましく、10重量部以上がより好ましく、30重量部以上がさらに好ましい。5重量部より少ないと、添加による改質効果が不十分となる傾向がある。一方、添加量の上限は、90重量部が好ましく、70重量部がより好ましい。90重量部より多いと、エラストマーの特性を十分に生かすことができないことがある。
【0051】
この重合は、上記したラジカル重合開始剤を用いて行うことができる。このラジカル重合開始剤の使用量は、特に限定されないが、上記水性分散液に含有される単量体の合計量を基準にして、通常0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%である。
【0052】
<水性分散液等>
上記の方法で得られた水性分散液や、この分散液を上記の方法で重合処理して得られた分散液(以下、「複合水性分散液」と称する。)の粒子径は、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。0.05μmより小さいものは、この方法で製造するのは難しい傾向がある。一方、粒子径の上限は5μmが好ましく、2μmがより好ましい。5μmより大きいと、分離・沈降のおそれがある。この粒子径は、レーザー回折法により測定され、例えば(株)島津製作所製:SALD−2100等の機器が用いられる。なお、以下において、上記の水性分散液及び複合水性分散液をあわせて、「水性分散液等」と称する。)
【0053】
<用途>
上記の水性分散液等は、その目的に応じて、接着剤、コーティング剤、塗料、各種グリップ、ハンドル、シール材、ガスケット等の成形体等のエラストマー製品の原材料として使用することができる。
【0054】
上記成形体等のエラストマー製品の製造方法としては、無機塩や酸等を用いた凝固法等の一般に知られている方法で、上記の水性分散液等から重合体を分離回収し、乾燥した後、成形に供することにより製造する方法があげられる。この成形方法としては、射出成形、プレス成形等、通常、重合体を成形する方法を採用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。まず、実施例及び比較例で行った試験及び評価方法並びに使用した原材料について説明する。
【0056】
[試験及び評価方法]
<エラストマーの溶融状態>
実体顕微鏡で観察し、下記の基準で評価した。
○:ペレット相互間の境界が判別できず、樹脂が連続していることが観察された。
×:ペレット相互間の境界が判別された。
【0057】
<水性分散液の粒子径>
得られた水性分散液をレーザー回折式粒径分布測定器(SALD2100、(株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0058】
<安定性試験>
得られた水性分散液100重量部(固形分を45重量%に調整したもの)をスクリュー管に入れて、5℃、23℃、50℃の3つの温度条件下で7日間静置した後、樹脂の沈降や浮上の有無を確認し、下記の基準で評価した。
○:変化は見られなかった。
×:大部分が沈降又は浮上した。
【0059】
[使用原材料]
(1)エラストマー成分
・エチレン−プロピレンゴム…JSR(株)製:EP01P、ムーニー粘度(ML1+4):19、MFR:3.6g/10min、以下「EPM」と称する。
【0060】
(2)乳化剤
・ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム…花王(株)製:ネオペレックスG65、固形分:65重量%(但し、使用時は30重量%となるように、水を用いて調整する。)、以下、「DBS」と称する。
【0061】
(3)重合性単量体
・スチレン…三菱化学(株)製、以下、「SM」と称する。
【0062】
[高分子分散剤水溶液の製造]
<アニオン性高分子分散剤の製造>
アクリル酸(大阪有機化学工業(株)製:98%アクリル酸)21.6重量部(0.3モル)、エチルアクリレート(三菱化学(株)製)30重量部(0.3モル)、ブチルメタクリレート(三菱レイヨン(株)製:アクリエステルB(商品名))56.8重量部(0.4モル)、及びイソプロピルアルコール((株)トクヤマ製:トクソーIPA(商品名))150重量部とを攪拌機、還流冷却管、温度計及び滴下ロートを装着した4つ口フラスコ内に仕込み、窒素ガス置換後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学(株)製:AIBN)0.6重量部を添加し、80℃にて3時間重合した。次に、重合体中のカルボキシル基を28重量%アンモニア水溶液18.2重量部(0.3モル)で中和した後、イソプロピルアルコールを留去しながら水を添加して置換し、固形分30重量%の粘稠なアニオン性のアクリル系共重合体を得た。
【0063】
<カチオン性高分子分散剤の製造>
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(三洋化成工業(株)製:メタクリレートDMA(商品名))62.9重量部(0.4モル)、ブチルメタクリレート71重量部(0.5モル)、ラウリルメタクリレート(三菱レイヨン(株)製:アクリエステルSL(商品名))25.4重量部(0.1モル)、及びイソプロピルアルコール200重量部とを攪拌機、還流冷却管、温度計及び滴下ロートを装着した4つ口フラスコ内に仕込み、窒素ガス置換後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.9重量部を添加し、80℃にて3時間重合した。次に、重合体中のジメチルアミノエチル基を酢酸24重量部(0.4モル)で中和した後、イソプロピルアルコールを留去しながら水を添加して置換し、固形分35重量%の粘稠なカチオン性のアクリル系共重合体を得た。
【0064】
(実施例1〜3)
表1に示す量の上記EPM及び必要に応じて重合性単量体を95℃に加温した2軸スクリュー型ニーダー(Irie Shoukai Co,Ltd.社製:PBV−03型)に仕込み12rpmで撹拌しながら半溶融状態とした。表1に示す水及び高分子分散剤を、表1に示す量となるように、高分子分散剤水溶液濃度を調整して投入し、95℃、50rpmで30分間混練した。その後、95℃の温水を添加して固形分45重量%の乳白色の水性分散液を得た。得られた水性分散液を用いて上記評価を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
(比較例1)
表1に示す量の上記EPMを、半溶融状態にすることなく、100重量部/時間の割合で、同方向回転噛合型二軸スクリュー押出機(池貝鉄工(株)製:PCM45(商品名)、三条ネジ浅溝型、L/D=30)のホッパーに連続的に供給した。また、同押出機のベント部に設けた供給口より、表1に示す水及び高分子分散剤を30重量部(固形分6重量部)/時間の割合でギヤーポンプ(吐出圧力:3kg/cm・G)で加圧して連続的に供給しながら、加熱温度100℃、スクリュー回転数100rpmで連続的に押し出して、上記EPMと高分子分散剤との混練物を取り出した。
得られた混練物を95℃の温水中に添加したが、EPMと水が分離して、水性分散液は得られなかった。
【0066】
(比較例2)
表1に示す通り、工程(2)において、アニオン系高分子分散剤のみを使用し、水を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、混練、水分散を試みた。しかし、混練されたエラストマーと水とが分離して、水性分散液は得られなかった。
【0067】
(比較例3)
工程(1)における混練温度を70℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、混練、水分散を試みた。しかし、エラストマーが半溶融状態とならず、また、水分散液も得られなかった。
【0068】
(比較例4)
高分子分散剤のかわりに、DBSを用いた以外は、実施例1と同様にし、混練物を得た。得られた混練物を95℃の温水中に添加したが、EPMと水が分離して、水性分散液は得られなかった。
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(1)〜(3)の工程を順次経てエラストマーを分散する、水性分散液の製造方法。
(1)固形状のエラストマーを、80℃以上150℃以下の温度で混練し、半溶融状態のエラストマーを得る工程、
(2)上記半溶融状態のエラストマーと、水及び高分子分散剤とを混合し、さらに混練して分散液を得る工程、
(3)上記分散液と水とを混合して水性分散液を得る工程。
【請求項2】
上記工程(2)での混練を、90℃以上100℃以下の温度で1分間〜2時間行う請求項1に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項3】
上記工程(2)で用いる高分子分散剤が、カチオン系又はアニオン系の(メタ)アクリル系分散剤であり、かつ、この高分子分散剤の使用量が、上記エラストマー100重量部に対して、固形分で1〜50重量部である請求項1又は2に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項4】
上記工程(2)における水とエラストマーとの重量比率が、水/エラストマー=1/100〜50/100である請求項1乃至3のいずれかに記載の水性分散液の製造方法。
【請求項5】
上記工程(1)での混練を行う混練機が、ロールミル、ニーダー、押出機、インクロール、及びバンバリーミキサーから選ばれる混練機である請求項1乃至4のいずれかに記載の水性分散液の製造方法。
【請求項6】
上記工程(1)で、上記エラストマーを溶解又は膨潤することが可能な液状成分を用いる、請求項1乃至5のいずれかに記載の水性分散液の製造方法。
【請求項7】
上記液状成分が重合性単量体を主成分とする成分である請求項6に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項8】
上記液状成分が液状樹脂又は鉱物油である請求項6に記載の水性分散液の製造方法。
【請求項9】
請求項7で得られる水性分散液をそのまま重合するか、又はこれに上記重合性単量体と同一又は異なる重合性単量体を加えた上で重合する、複合水性分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至8に記載の製造方法で得られる水性分散液、及び請求項9に記載の製造方法で得られる複合水性分散液のいずれかを用いてなる接着剤、コーティング剤、塗料及び成形体から選ばれるエラストマー製品。

【公開番号】特開2007−16204(P2007−16204A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−65784(P2006−65784)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】