説明

水溶性ポリマー添加グリース

【課題】この水溶性ポリマー添加グリースは,油圧ショベル等の各種機械装置の相対移動部材間や潤滑剤溜まりに充填され,水の存在によって増粘性をアップし,部材への付着性能を向上させる。
【解決手段】この水溶性ポリマー添加グリースは,油圧ショベル等の各種機械装置における相対移動部材間やそこに設けられた潤滑剤溜まり24に充填されて好ましい。この水溶性ポリマー添加グリースは,基油,増ちょう剤及び添加剤から成るグリースに増粘剤として少なくとも水溶性ポリマーを混合したものであり,水の存在によってグリースが増粘して摺動面等の表面への付着性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,例えば,油圧ショベル,フォークリフト,クレーン,運搬機械,建設機械,トンネル,海底等の掘削機械等の各種機械装置における歯車伝達装置,軸受,摺動部等の相対移動部材間に充填される潤滑剤として使用される水溶性ポリマー添加グリースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,潤滑用グリースは,その使用環境や使用条件によって,グリース中に水が混入する場合がある。一般的に,グリースの基本成分は,鉱油,合成油等の油であり,グリース中に水が混入すると,グリースが乳化し,グリースの種類によって挙動が種々に異なっているが,潤滑性能を発揮できずに様々な悪影響が発生することが多いのが現状である。
【0003】
従来,耐水性グリース組成物として,多量の水が存在する環境下でも付着性,シール性に優れ,漏洩が少なく,潤滑が長期間維持できるものが知られている。該耐水性グリース組成物は,R1 −NHCONH−R2 −NHCONH−R3 の一般式で表されるジウレア化合物を増ちょう剤としたグリースに,HLBが3〜14の界面活性剤を0.1〜10重量%含有させたものである。式中,R2 は炭素原子数6〜15の芳香族炭化水基,R1 とR3 は,炭素原子数6〜15の芳香族炭化水基又は炭素原子数8〜20のアルキル基を示し,R1 とR3 中に占める芳香族炭化水基の割合が40〜100モル%である(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,潤滑性,耐加水分解性等を持つ潤滑性組成物が知られている。該潤滑性組成物は,工業用潤滑油等として適したものであり,α−オレフィンオリゴマー又はエチレン−α−オレフィンコオリゴマーよりなる合成炭化水素系潤滑剤と,エステルとの重量比で95:5〜20:80の組成物からなるものである(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,グリース組成物として,高炉周りにおいても使用できるように高温物質と接触しても引火しない耐発火性に優れたものが知られている。該グリース組成物は,基油及び増ちょう剤を主材とし,吸水性ポリマーと水とを含有させ,該吸水性ポリマーを含有させることでなじみを良くしたものである。上記グリース組成物は,吸水性ポリマーをグリース組成物全量中に0.1〜3%配合させることが好ましく,水を5〜60%配合することが好ましい(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,潤滑剤として,構成成分であるグリースや潤滑油と,侵入する水分とのエマルジョン即ち水性エマルジョンの生成を防止するものが知られている。該潤滑剤は,水性エマルジョンに起因する被潤滑部品の腐食,摩耗を防止するものであり,グリース又は潤滑油に吸水性樹脂のパウダー包含してなる潤滑剤であり,樹脂パウダーにより,グリース又は潤滑油に侵入する水分を吸収して捕捉し,水性エマルジョンの生成を防止するものである(例えば,特許文献4参照)。
【0007】
また,転がり軸受として,多量の水と接触する環境下でも長期間安定して使用できるものが知られている。該転がり軸受は,軸受の本体内部に充填する潤滑剤として,潤滑グリースを超高分子量ポリエチレンに分散保持させて水分と接触しても乳化しないようにした固形潤滑剤を採用することにより,軸受に組み込んだバックアップロールに多量の水がかかって軸受本体の内部に水が侵入しても,潤滑剤の潤滑特性の低下や外部の漏れを生じることがなく,軸受本体の内部の潤滑状態を長期間にわたって保持できるようにしたものである(例えば,特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平9−87652号公報
【特許文献2】特開平8−209160号公報
【特許文献3】特開2002−146376号公報
【特許文献4】特開2002−3872号公報
【特許文献5】特開2005−172039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで,潤滑グリースは,油圧ショベル,運搬機械,建設機械等の各種機械装置における歯車列,歯車伝達装置,軸受,摺動部等の相対移動部材間及びその領域の潤滑剤溜まりに充填して使用されているが,それらの領域は,潤滑剤が充填されたり,潤滑油溜まりが設けられており,該領域は外部とは遮断された簡単な密封構造に形成されているのが一般的である。そのような密封構造であっても,密封構造の内部では結露が発生したり,装置自体が一時的に水没したり,風雨に晒されることによって密封構造の隙間から水が侵入することが発生する。そのときに,該領域に充填されているグリースに水が混入することになるが,グリースに水が混入すると,グリースが乳化して軟化し,部品へのグリースの付着性能が低下したり,グリースが外部へ漏洩することになる。
【0009】
潤滑グリースについて,グリースに水が混入した場合の挙動は,グリースの種類によって異なっており,例えば,例を挙げると次のとおりである。
1.リチウム石けんグリースは,グリース中に水が混入すると,乳化し,軟化する傾向があり,相対移動部材の摺動面や噛み合い面において,例えば,ギヤ歯面に対する付着性能が低下する。
2.カルシウム石けんグリースは,耐水性を有するので,グリース中に水が混入すると,リチウム石けんグリース程ではないが,やはり乳化し,軟化する傾向があり,相対移動部材の摺動面や噛み合い面において,例えば,ギヤ歯面に対する付着性能が低下する。
3.アルミニウム複合石けんグリースは,撥水性を有しており,グリース中に水が混入すると,グリースが乳化しない性質であり,粘度については余り変化が現れず,どちらかと言えば,グリースが硬化する傾向にあり,相対移動部材の摺動面や噛み合い面において,例えば,ギヤ歯面に対する付着性能には余り変化が現れず,撥水性のため水を巻き込まないが,水が残留するため部品の置き錆の問題が発生する。
4.ウレアグリースは,グリース中に水が混入すると,乳化し,軟化する傾向にあるが,相対移動部材の摺動面や噛み合い面において,例えば,ギヤ歯面に対する付着性能の低下が発生するが,その程度はリチウム石けんグリース等の低下ほどではない。
【0010】
各種のグリースに水が混入すると,上記のように,種々の性状の変化が現れるが,グリースに水が混入した場合に,問題になるのは,グリースが乳化することによるちょう度即ち硬さの低下が発生することである。グリースが軟化すると,部材の摺動面へのグリースの付着性が低下し,各種部品からのグリースの漏洩,その結果,潤滑剤の不足による潤滑性能の低下によって部品の異常摩耗等のトラブルが発生する場合が多いのが現状である。また,従来のグリースには,油溶性の増粘剤を添加しているものが存在しているが,その目的は,主として,相対移動部材の摺動面や噛み合い面へのグリースの付着性の向上であり,このようなグリースは,例えば,ギヤ歯面へのグリースの付着性を向上させることができ,歯車伝達装置に使用されていることが多い。しかしながら,油溶性の増粘剤を添加したグリースでも,水が混入すると,乳化し,摺動面や噛み合い面への付着性を著しく低下させるという問題を有していた。
【0011】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,使用環境や使用条件において,たとえグリースに水が混入しても,従来のグリースのように乳化して軟化傾向にならず,相対移動部材の摺動面,噛み合い面,係合面へのグリースの付着性を低下させることなく,グリースの粘度をアップさせて増粘させ,相対移動部材の摺動面,噛み合い面,係合面へのグリースの付着性を向上させ,グリースの外部への漏洩を防止することができる水溶性ポリマー添加グリースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は,基油,増ちょう剤及び添加剤から成るグリースに増粘剤として少なくとも水溶性ポリマーが混合されており,水の存在によって増粘して付着性を保有することを特徴とする水溶性ポリマー添加グリースに関する。
【0013】
この水溶性ポリマー添加グリースにおいて,前記水溶性ポリマーは,前記グリースに少なくとも0.01〜10重量%の範囲で混合されているものである。
【0014】
この水溶性ポリマー添加グリースにおいて,前記基油は,各種鉱油,合成油,植物油から選ばれる一種以上である。前記増ちょう剤は,リチウム石けん,カルシウム石けん,アルミニウム複合石けん,ウレアから選ばれる一種以上である。また,前記水溶性ポリマーは,アニオン性アクリル系樹脂,ポリビニルアルコール,ポリ酢酸ビニル,ポリアクリル酸ソーダから選ばれる一種以上である。更に,前記添加剤は,酸化防止剤,界面活性剤,極圧剤,錆止め剤,前記水溶性ポリマーとは別の増粘剤から選択される1種又は2種以上である。
【0015】
この水溶性ポリマー添加グリースは,油圧ショベル,フォークリフト,クレーン,運搬機械,建設機械,掘削機械等の各種機械装置における歯車伝達装置,軸受部,摺動部等の相対移動部材間及び/又は相対移動部材間に設けられた潤滑剤溜まりに充填される潤滑剤として使用されて好ましいものである。
【発明の効果】
【0016】
この水溶性ポリマー添加グリースは,上記のように,水溶性ポリマーがグリースに増粘剤として添加されているので,不用意に水が侵入した含水時にグリースが増粘し,結果として相対摺動部材の摺動面,噛み合い面,係合面へのグリースの付着性を向上させ,グリースの部品からの漏洩を防止し,潤滑機能を十分に発揮することができる。この水溶性ポリマー添加グリースは,例えば,油圧ショベルにおける旋回装置の歯車伝達装置,即ちピニオンと内歯車との噛み合い領域に設けた潤滑剤溜まりに充填されると,潤滑剤溜まりに水が侵入しても,水によるグリースの乳化によって軟化傾向になったとしても,粘着性が発現してピニオンと内歯車との歯面へのグリースの付着が良好になり,良好な潤滑性を維持でき,グリース軟化による外部への漏洩を防止できる。また,この水溶性ポリマー添加グリースは,増粘剤として水溶性ポリマーを添加しただけであり,従来の水影響防止用のグリースより安価に製造でき,潤滑剤に対するメンテナンス頻度も低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明による水溶性ポリマー添加グリースは,例えば,油圧ショベル,スクレーパ,ショベルローダ,ブルドーザ,フォークリフト,クレーン,運搬機械,建設機械,トンネル,海底等の掘削機械等の各種の機械装置における歯車列,歯車伝達装置,軸受,摺動部等の相対移動部材間及び/又はその領域の潤滑剤溜まりに充填される潤滑剤として使用して好ましいものである。この水溶性ポリマー添加グリースは,増粘剤として水溶性ポリマーを添加したものであり,水が混入することによって,水と水溶性ポリマーとが乳化状態になってグリース中に均等に分散し,グリースが増粘して相対移動部材の摺動面,噛み合い面,係合面への付着性が向上し,良好な潤滑機能を発揮することができる。
【0018】
この水溶性ポリマー添加グリースは,特に,基油,増ちょう剤及び添加剤から成るグリースに増粘剤として少なくとも水溶性ポリマーが混合されており,水の存在によって増粘して付着性を保有することを特徴とするものである。特に,前記水溶性ポリマーは,前記グリースに少なくとも0.01〜10重量%の範囲で混合されていることが好ましい。
【0019】
この水溶性ポリマー添加グリースにおいて,基油は,各種鉱油,合成油,植物油から選ばれる一種以上である。また,増ちょう剤は,リチウム石けん,カルシウム石けん,アルミニウム複合石けん,ウレア即ち尿素樹脂から選ばれる一種以上である。更に,水溶性ポリマーは,アニオン性アクリル系樹脂,ポリビニルアルコール,ポリ酢酸ビニル,ポリアクリル酸ソーダから選ばれる一種以上である。また,添加剤は,酸化防止剤,界面活性剤,極圧剤,錆止め剤,前記水溶性ポリマーとは別の増粘剤から選択される1種又は2種以上からなるものである。
【0020】
この水溶性ポリマー添加グリースについて,水溶性ポリマーは,グリースには基本的に溶けないものであるので,水溶性ポリマーをグリース中に良好に分散させるため,界面活性剤を添加する必要がある。また,水溶性ポリマーは,大半が若干酸性であるので,相対移動部材の摺動面,噛み合い面,係合面を構成する金属材への腐食性即ち錆の発生が問題になるので,それらを抑制するため,錆止め剤や酸化防止剤を添加することが好ましい。この他に,添加剤として,極圧剤や,水溶性ポリマーの他の増粘剤を使用目的に応じて添加することが好ましい。更に,この水溶性ポリマー添加グリースは,その成分として酸性成分が含まれているので,グリース中にアルカリ成分が存在すると反応する可能性があり,そのことを考慮して製造する必要がある。
【実施例】
【0021】
この水溶性ポリマー添加グリースを試作において,基油として,精製鉱油(40℃の動粘度143mm2 /s),又は合成炭化水素(40℃の動粘度28.8mm2 /s)を用いた。実施例1〜実施例9では,基油をリチウムヒドロキシステアレートでグリース化したものを,グリースAとした。グリースAに水溶性ポリマーを加えて攪拌し,混合したものを3本ロールで調製した。
【0022】
具体的には,実施例1〜実施例9はグリースAを使用した。グリースAの調製において,基油として,実施例1〜実施例8は精製鉱油を,実施例9は合成油を使用し,また,増ちょう剤として,実施例1〜実施例9はLiヒドロキシステアレートを使用し,更に,水溶性ポリマーとして,実施例1〜3,8,9はアニオン性アクリル系樹脂を,実施例4,5はポリビニルアルコールを,実施例6はポリ酢酸ビニルを,実施例7はポリアクリル酸ソーダを使用した。
【0023】
実施例10は,グリースAを使用した。グリースAの調製において,基油として精製鉱油を使用し,増ちょう剤としてLiヒドロキシステアレートの代わりにCaヒドロキシステアレート(カルシウム−12−ヒドロキシステアレート)を使用し,また,水溶性ポリマーとしてアニオン性アクリル系樹脂を使用した。
【0024】
実施例11は,グリースBを使用した。グリースBの調製において,基油として精製鉱油を使用し,増ちょう剤としてアルミニウム複合石けんを使用し,また,水溶性ポリマーとしてアニオン性アクリル系樹脂を使用した。実施例11では,基油,ステアリン酸及び安息香酸を秤取り,これらを攪拌しながら85℃に加温し,3分の1モルの環状アルミニウムオキサイドプロピレートを投入することによりこれらを反応させ,次いで190℃まで加温し冷却したものを,グリースBとした。グリースBに水溶性ポリマーを加えて攪拌し,混合したものを3本ロールで調製した。
【0025】
実施例12は,グリースCを使用した。グリースCの調製について,別の容器に基油の半量とシクロヘキシルアミンを秤取った。次いで,容器内の内容物を攪拌しながら50℃に加温してシクロヘキシルアミン溶液を作った。次に,イソシアネート溶液を入れている容器にシクロヘキシルアミン溶液を投入することにより両者を反応させた。容器内の反応させた内容物を攪拌しながら180℃まで加温した。攪拌しながら室温まで冷却し,グリースCを作った。グリースCに水溶性ポリマーを加えて攪拌し,混合したものを3本ロールで調製した。具体的には,実施例12では,基油として精製鉱油を使用し,増ちょう剤として脂環族ウレアを使用し,また,水溶性ポリマーとしてアニオン性アクリル系樹脂を使用した。実施例12では,容器に基油の半量とジフェニルメタン4,4’ジイソシアネートを秤取った。次いで,容器内の内容物を攪拌しながら55℃に加温してイソシアネート溶液を作った。
【0026】
また,本発明の水溶性ポリマー添加グリースの特性を,別の試料即ち比較例と比較するため,比較例1〜4の試料を作った。比較例1〜4の調製において,基油として精製鉱油を使用し,増ちょう剤としてLiヒドロキシステアレートを使用し,また,水溶性ポリマーとして,比較例1,2はアニオン性アクリル系樹脂を,比較例3,4はポリビニルアルコールを使用した。
【0027】
この水溶性ポリマー添加グリースの試験について,次のように行った。含水時の水溶性ポリマー添加グリースの付着性は,含水の有無で見掛けトルクが増加するか否かを測定した。この水溶性ポリマー添加グリースの見掛けトルク値は,雰囲気温度25℃の下で,30φ×10mmの外筒と内筒とに,実施例1〜実施例12及び比較例1〜比較例4の各試料及びこれらの10%含水試料をそれぞれ塗布し,内筒を10rpmで回転させ,ストレンジゲージで外筒の回転抵抗による引っ張り荷重(g)を測定することによって得たものである。この水溶性ポリマー添加グリースに10%含水することで,見掛けトルク値の増加が見られたものを○とし,同等又は減少が見られたものを×として評価をした。耐水性は,ASTM−D−1831に準拠した含水剪断安定性試験により評価した。試験条件は,試料50gを試験容器に入れ,試験温度80℃,回転数165rpm,及び試験時間24時間で行った。耐水性の評価は,試験前後のちょう度変化で行い,ちょう度変化率0〜5%を◎,5〜20%を○,及び20%以上を×とした。この水溶性ポリマー添加グリースについての見掛けトルク値及び耐水性評価の結果を表1〜表3に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
また,実施例1〜実施例12では,基油として,精製鉱油又は合成炭化水素を用いたが,植物油でも同様の結果を得ることができた。
【0032】
この水溶性ポリマー添加グリースは,例えば,図1及び図2に示すような油圧ショベルにおける旋回輪3に充填して好ましいものである。図示の油圧ショベルは,下部走行体1と上部旋回体2とを有し,下部走行体1と上部旋回体2との間には旋回輪3が組み込まれている。油圧ショベルにおける下部走行体1は,例えば,駆動輪11や従動輪30が組み込まれた履帯12を取り付けるための走行台車10を備えている。油圧ショベルは,運転室5の設けた操作装置(図示せず)を操作することによってエンジン6を始動して履帯12が駆動され,走行することになる。上部旋回体2には,カウンタウェイト7が設けられると共に,ブームシリンダ28で作動されるブーム4が取り付けられている。ブーム4にはアームシリンダ26で作動されるアーム8が取り付けられている。また,アーム8には,バケットシリンダ27で作動されるバケット9が取り付けられている。バケット9には,土砂等をすくい上げ又は掘削するため,爪29が取り付けられている。油圧ショベルは,運転室5の設けた操作装置を操作することによって,ブームシリンダ28,アームシリンダ26,バケットシリンダ27が作動され,バケット9が所定の動きに操作される。旋回輪3は,内輪16と外輪15,19とから構成されている。内輪16は,ボルト17によって下部走行体1の丸胴14に固定されている。また,外輪19は,ボルト20によって上部旋回体2の底板13に固定されている。内輪16には軌道溝31が形成され,また,外輪15には軌道溝32が形成されている。内輪16の軌道溝31と外輪19の軌道溝32とで形成される軌道路には,転動体である鋼球21が複数組み込まれている。また,上部旋回体2に取り付けられた旋回装置22の下端部には,ピニオン23が配置されている。ピニオン23は,内輪16の内径面に設けられた内歯車18に噛み合っており,旋回装置22がモータ等の駆動源で回転駆動されると回転する。旋回装置22が駆動してピニオン23が回転すると,内歯車18が回転し,それによって,外輪19を固定した上部旋回体2が内輪16を固定した下部走行体1に対して旋回運動するように構成されている。上記油圧ショベルは,ピニオン23と内歯車18との噛み合いを円滑にするため,下部走行体1の内輪16の取付け部材を構成する丸胴14には,内径面に潤滑剤溜まり24が設けられ,潤滑剤溜まり24には潤滑剤25が封入されている。また,外輪19の上側に取り付けられた上部旋回体2の底板13は,旋回装置22の下面と共働して潤滑剤溜まり24を蓋するように構成され,潤滑剤溜まり24は外部に対して遮断された密封構造に構成されている。
【0033】
図示の油圧ショベルでは,ピニオン23と内歯車18とが噛み合う領域即ち歯車箱内に形成された潤滑剤溜まり24は,旋回装置22を構成する上部旋回体2と底板13とによって封鎖された構造に形成されているが,潤滑剤溜まり24の壁面に結露が発生したり,油圧ショベルの車体自体が不用意に水没したり,不用意な作業によって一次的な水没状態になったり,或いは風雨に晒されたりした場合に,潤滑剤溜まり24の領域の不完全な密封構造により潤滑剤溜まり24に水が侵入することがある。潤滑剤溜まり24に水が侵入すると,水と潤滑剤25とがピニオン23と内歯車18との噛み合いによって混合され,潤滑剤25が水で乳化され,潤滑性能を維持できなくなり,ピニオン23と内歯車18との歯面が損傷する恐れがある。
【0034】
この水溶性ポリマー添加グリースは,上記のような油圧ショベルに使用して好ましいものであり,潤滑剤溜まり24に潤滑剤25として充填されることによって,上記の問題を克服することができる。即ち,この水溶性ポリマー添加グリースを潤滑剤25として潤滑剤溜まり24に充填しておけば,潤滑剤溜まり24の壁面への結露が発生したり,油圧ショベルの車体自体が水没したり,不用意な作業によって一次的な水没状態になったり,或いは風雨に晒されたりしたときに,潤滑剤溜まり24の領域の不完全な密封構造のため潤滑剤溜まり24に水が侵入した場合でも,水溶性ポリマー添加グリースに含まれる水溶性ポリマーが水分と反応して増粘し,グリースに適正な粘着性が発現し,グリースが乳化して軟化傾向が現れたとしても,発現した適正な粘着性によって部品への付着性を維持し,グリースが外部に漏洩したり,潤滑性能を低下させることがない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明による水溶性ポリマー添加グリースは,例えば,油圧ショベル,スクレーパ,ショベルローダ,ブルドーザ,フォークリフト,クレーン,運搬機械,建設機械,トンネル,海底等の掘削機械等の各種機械装置における軸受,摺動部,歯車伝達装置等の相対移動部材間及び/又は相対移動部材間に設けられた潤滑剤溜まりに充填される潤滑剤として使用して好ましいものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明による水溶性ポリマー添加グリースを使用できる油圧ショベルを示す概略図である。
【図2】図1の油圧ショベルにおける旋回輪を示す概略図である。
【符号の説明】
【0037】
24 潤滑剤溜まり
25 潤滑剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油,増ちょう剤及び添加剤から成るグリースに増粘剤として少なくとも水溶性ポリマーが混合されており,水の存在によって増粘して付着性を保有することを特徴とする水溶性ポリマー添加グリース。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーは前記グリースに少なくとも0.01〜10重量%が混合されることを特徴とする請求項1に記載の水溶性ポリマー添加グリース。
【請求項3】
前記基油は,各種鉱油,合成油,植物油から選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水溶性ポリマー添加グリース。
【請求項4】
前記増ちょう剤は,リチウム石けん,カルシウム石けん,アルミニウム複合石けん,ウレアから選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー添加グリース。
【請求項5】
前記水溶性ポリマーは,アニオン性アクリル系樹脂,ポリビニルアルコール,ポリ酢酸ビニル,ポリアクリル酸ソーダから選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー添加グリース。
【請求項6】
前記添加剤は,酸化防止剤,界面活性剤,極圧剤,錆止め剤,前記水溶性ポリマーとは別の増粘剤から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー添加グリース。
【請求項7】
油圧ショベル,フォークリフト,クレーン,運搬機械,建設機械,掘削機械等の各種機械装置における歯車伝達装置,軸受部,摺動部等の相対移動部材間及び/又は相対移動部材間に設けられた潤滑剤溜まりに充填される潤滑剤として使用されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の水溶性ポリマー添加グリース。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−177123(P2007−177123A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378511(P2005−378511)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(390022275)株式会社日本礦油 (25)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】