説明

水溶液からアンモニア及び二酸化炭素を分離する方法

本発明は、尿素の合成工程において、アンモニア及び二酸化炭素を、場合によりこれらの凝縮物を含むこれらの水溶液から同時に回収する方法に関し、この方法は、疎水性微孔質膜上でのアンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩類化合物又は凝縮物を含む水溶液の蒸留フェーズを含み、この蒸留を、温度50〜250℃及び圧力50KPa〜20MPa(絶対)で行うことで、場合により尿素を含む残留水溶液と、アンモニア、二酸化炭素及び水を含むガス状透過流とが生成されることを特徴とする。本発明は、上記の方法を実施するための装置及び上記の方法を含む尿素の製造工程にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液からアンモニア及び二酸化炭素を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特に、本発明は、アンモニア(NH3)及び二酸化炭素(CO2)を、アンモニア、二酸化炭素、アンモニア及び二酸化炭素の塩類化合物又は凝縮物並びに場合により尿素を含む水溶液から同時に回収するための方法に関する。
【0003】
NH3の高い商業的価値を考慮すると、使用するNH3及びCO2を、特には尿素の合成工程において分離及び回収するための方法を改善すること、またNH3及びCO2を原材料として使用する製造サイクルを最適化することが必要とされている。
【0004】
尿素の合成は、アンモニアと二酸化炭素とを高圧及び高温で反応させ、続いて尿素を未反応物を含有する混合物から分離し、この未反応物を合成反応器に再循環させることによって行われる。
【0005】
尿素を調製するための工業的な工程は全て、以下の反応:
2NH3+CO2⇔CO(NH22+H2O (A)
に従った直接合成に基づく。
【0006】
この合成は、2つの別個の反応ステップ:
NH3+CO2⇔(NH2)COONH4 (A’)
(NH2)COONH4⇔CO(NH22+H2O (A”)
で起きる。
【0007】
第1ステップ(A’)では室温で高反応速度を有する発熱平衡反応が起きるが、この発熱平衡反応は、ステップ(A”)で必要とされる高温では、好適な平衡に到達するために高圧を必要とする。
【0008】
第2ステップ(A”)では吸熱反応が起き、この反応は高温(>150℃)でしか妥当な反応速度に到達せず、185℃の平衡状態では、化学量論比の反応物の混合物から始まって、約50%よりわずかに高いCO2転化率が得られる。この不十分な転化は、NH3/CO2比を上げることによって簡単に上昇させることができる。
【0009】
アンモニア及び二酸化炭素から始める直接合成による尿素の製造工程は、当該分野の特定の文献において広範囲に亘って例示及び記載されている。尿素の製造に関して最も一般的な工程の広範囲に亘る概説を、例えば、Kirk−Othmer編集のEncyclopedia of Chemical Technology(Wiley Interscience社、第4版(1998)、増補版、597〜621頁)に見ることができる。
【0010】
尿素製造の工業的工程では通常、合成を、NH3、CO2、未転化の反応物の再循環流から来る炭酸アンモニウム及び/又はカルバミン酸アンモニウムの水溶液を供給した反応器内で、温度150〜215℃、圧力少なくとも13MPa、供給流の合計に対して計算されたNH3/CO2モル比2.5〜5(アンモニウム塩の形態のアンモニアを含む)で行なう。生成された水及び供給された過剰なNH3に加えて、反応器流出液は依然としてかなりの量のCO2を、主に未転化のカルバミン酸アンモニウムの形態で含有する。
【0011】
尿素の合成工程の収率を最大にするために、以下でより詳細に説明するように、合成反応器を後にした流出液に含まれる遊離アンモニア、水及びカルバミン酸アンモニウムを後続の一連の精製工程で分離することによって、考えられる最小量の反応副生成物、特にはカルバミン酸アンモニウム及び水を含有する尿素を得る。最後に、適切な精製度のこの尿素を顆粒形態に固化させる。
【0012】
カルバミン酸アンモニウムは、適切な温度及び圧力条件下で分解することによって、合成反応器を後にした流出液から除去される。このカルバミン酸アンモニウムは、典型的には、反応流出液を、合成反応器と実質的に同じ圧力及びわずかに高い温度で動作する高圧分解器(ストリッパとも称される)に送り込むことによって、アンモニアと二酸化炭素とに分解される。ストリッパは垂直に配置された多管式交換器から成り、反応器を後にした、尿素に加えて未反応のカルバメート及び過剰なアンモニアを含有する流出液を、管の内側に沿った薄層(膜)に通す。約23MPaの圧力で飽和させた蒸気をチューブバンドルの外側のチャンバ内で循環、凝縮させることによって、カルバメートの分解及び過剰なアンモニアの除去に必要なエネルギーを供給する。最新技術において、ストリッパは、流下薄膜式多管熱交換器(falling film tube−bundle heat exchanger)とも称される。
【0013】
ストリッパで尿素溶液から分離されたガス状アンモニアは、分解生成物と共にストリッパを後にする(いわゆる自己ストリッピング)。あるいは、分解生成物のストリッピングを、それを目的としてストリッパに導入される、不活性ガス又はアンモニア、二酸化炭素若しくはこれらの混合物を使用して行うことができる。
【0014】
高圧分解器を後にした液体流出物は尿素の水溶液であるが、依然としてかなりの量のカルバメート及び溶解したアンモニアを含有する。これらの化合物を工程内で尿素から分離し、回収するために、高圧分解器を後にした水溶液は、約2MPa及び約160℃で動作する第2分解器(中圧分解器)に送られる。このステップにおけるカルバメートの分解に必要な熱は、中圧の蒸気(4〜5MPa)によって、又は高圧分解器を後にしたアンモニア及びカルバミン酸アンモニウムを含有するガス流を再循環させることによって供給される。
【0015】
中圧分解器を後にした尿素の水溶液は更なる精製ステップに供され、尿素の水溶液は、約4バール及び約140℃で動作する第3分解器(低圧分解器)に送られる。高圧及び中圧分解器のケースと同様に、この場合でも、必要な熱は、中圧の蒸気によって、又は工程の別のステップから来る1種以上の熱いガス流を再循環させることによって供給される。
【0016】
製造プラントの、分解セクションの下流の最終セクションにおいて、最後の分解器で得られた精製尿素の水溶液を、適切な製粒機又はプリル化タワー(prilling tower)において、空冷によって顆粒形態に固化させる。
【0017】
様々な分解ステップ(高圧、中圧、低圧)を終えた、アンモニア及び二酸化炭素を含有するガス流を、適切な設備で凝縮すると、アンモニア、二酸化炭素(主にカルバミン酸アンモニアの形態)及び水を含有する液体流が生成され、この液体流は合成反応器に再循環させられる。
【0018】
これらの流れを再循環させると、アンモニアと二酸化炭素とから成る原材料の転化率が上昇する一方、これは工程への水の再導入を意味し、合成反応(A)全体の化学量論を考慮すると、尿素合成反応の収率を著しく低下させてしまう。
【0019】
したがって、上記のタイプの工程において、尿素合成反応の収率を最大にするためには、考えられる最小量の水を含有する流れを工程(特には合成反応器に)に再循環させるために、アンモニア及び二酸化炭素をこれらを含有する水溶液から効果的且つ選択的に分離できることが根本的に重要であることは明らかである。
【0020】
上記の分解器の使用によって、最新技術で使用されている他の分離システム(例えば、蒸留カラム)の使用と同様に、アンモニア及び二酸化炭素を高純度で別々に回収することが可能になる。しかしながら、純粋な化合物の製造は高いエネルギー消費につながり、これは尿素製造の総コストに大きく影響する。
【0021】
尿素製造プラント内を循環する液体流の蒸留によるアンモニア及び二酸化炭素の分離が蒸留ユニット内での固体結晶の形成に影響され得ることも既知であり、この結晶の除去には水又は別の溶媒でのユニットの洗浄が必要であり、結果的に蒸留効率が低下する。
【発明の概要】
【0022】
本発明の目的は、既知の技術の欠点を克服することである。
【0023】
本発明の第1の目的は、尿素の合成工程において、アンモニア及び二酸化炭素を、場合により(possibly)これらの凝縮物を含むこれらの水溶液から同時に回収する方法に関し、この方法は、疎水性微孔質膜上でのアンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩類化合物又は凝縮物を含む水溶液の蒸留フェーズを含み、この蒸留を、温度50〜250℃及び圧力50KPa〜20MPa(絶対)で行うことで、場合により尿素を含む残留水溶液と、アンモニア、二酸化炭素及び水を含むガス状透過流とが生成されることを特徴とする。
【0024】
本発明の目的は、上記の方法を実施するための装置にも関し、
アンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩類化合物又は凝縮物を含む水溶液を疎水性微孔質膜上での蒸留に供することで、残留水溶液と、アンモニア、二酸化炭素及び水を含むガス状透過流とを生成するためのユニットと、
アンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩類化合物又は凝縮物を含む水溶液の加熱手段と、を含む。
【0025】
本発明の更なる目的は、尿素を製造する工程に関し、この工程は、アンモニア及び二酸化炭素を、場合によりこれらの凝縮物を含むこれらの水溶液から、疎水性微孔質膜上でのアンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩類化合物又は凝縮物を含む水溶液の蒸留によって同時に回収するフェーズを含み、残留水溶液と、アンモニア、二酸化炭素及び水を含むガス状透過流とが生成される。
【0026】
本特許出願の目的である本発明の説明において、以下の図を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の目的である方法の実施に使用することができる疎水性微孔質膜上での蒸留のための装置の概略図である。
【図2】最新技術に従った尿素製造工程の概略図である。
【図3】第1の好ましい実施形態に従った、本発明の目的である方法を利用した尿素製造工程の概略図である。
【図4】第2の好ましい実施形態に従った、本発明の目的である方法を利用した尿素製造工程の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
出願人は驚くべきことに、微孔質膜上での蒸留の利用に基づいた本発明の目的である工程によって、尿素の合成工程の総転化収率をそのエネルギー消費を削減しながら改善可能であることを発見した。実際、微孔質膜上での蒸留によって、アンモニア、二酸化炭素及び少量の水(蒸気の形態)を含むガス流を、固形物の望ましくない生成を伴うことなく、全体としてより少ないエネルギー消費で、この工程を循環する水溶液から効果的に回収することが可能になる。
【0029】
微孔質膜上での蒸留は、水又は有機溶媒の溶液からガス状化合物を分離するために最新技術で利用される技法である。しかしながら、この技法を、尿素の合成工程において発生する溶液の処理に利用することは知られていない。
【0030】
膜上での蒸留において、液相及び気相を、疎水性微孔質膜を挟んで接触させる。膜の細孔を通じた2つの相の接触によって、これらの相中に存在する化学種を制御下で物質移動させ、一方の相のもう一方の相内での分散を回避することが可能になる。
【0031】
膜の片側を流れる流体(供給流)から反対側を流れる流体(ガス状透過流又はキャリア流)へと化学種を拡散させる推進力は、この2種類の流体間に存在する温度、濃度及び圧力勾配である。
【0032】
膜の空隙率が高い結果、このタイプの蒸留工程は従来の蒸留のものよりずっと広い2種類の流体間の接触面で行われるため、生産性及び使用する設備の嵩張りの軽減という観点から有利なのは明らかである。
【0033】
本発明の目的である方法では、尿素製造工程において、アンモニア及び二酸化炭素を水溶液から同時に回収するために疎水性微孔質膜上で蒸留する技法を利用する。これらの溶液は、水に加えて、溶解したガスの形態又は塩類化合物若しくは凝縮物(例えば、カルバミン酸アンモニウム及び/若しくは炭酸アンモニウム)の形態でアンモニア及び二酸化炭素を含有する。
【0034】
本発明の目的である方法は好ましくは、尿素製造工程における、再循環水溶液からのアンモニア及び二酸化炭素の同時回収に適用される。この再循環水溶液は尿素製造工程の様々なステップで発生する液体流であり、アンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩又は凝縮物を含み、有利には、収率を最大にするために合成反応器に又は同工程の別のステップに再度送ることができる。
【0035】
第2の好ましい実施形態において、本発明の目的である方法を、アンモニア、二酸化炭素、水及び尿素を含む溶液(例えば、尿素製造工程の合成反応器を後にした反応流出液、又は同工程内の様々なカルバメート分解ステップを後にした尿素の溶液など)を処理するために利用することもできる。
【0036】
尿素の製造工程で採用される動作温度及び圧力条件を考慮すると、本発明の目的である方法に関連して使用される用語「残留水溶液(residual aqueous solution)」とは、含まれる種の一部の蒸発による除去後、膜蒸留の最後に残る主に液体の相のことである。一方、用語「ガス状透過流(gaseous permeate stream)」とは、蒸留に供された水溶液中に存在する種の一部が、蒸発によって有効な物理的状態に関係なく除去されるため、液相が実質的に存在しない流れ又は混合物のことである。
【0037】
このケースにおいて、疎水性微孔質膜ユニット上での蒸留は、高圧ストリッピングステップで典型的に使用される多管式分解器の有効な代替物となる。
【0038】
本発明に従って処理することができる上記の水溶液は、アンモニア、二酸化炭素、水及び場合により尿素を、尿素製造工程のステップに応じて様々な比で含む。上記の溶液は好ましくは20〜70質量%のアンモニア、10〜60質量%の二酸化炭素、10〜70質量%の水及び場合により0〜60質量%の尿素を含む。
【0039】
より好ましくは、上記の溶液は好ましくは20〜60質量%のアンモニア、10〜50質量%の二酸化炭素、10〜60質量%の水及び場合により0〜50質量%の尿素を含む。
【0040】
上記の質量%とは、遊離形態、塩又は凝縮物の形態で溶液中に存在するアンモニア又は二酸化炭素の総質量のことである。
【0041】
本発明の目的である方法は、膜の材料に対して90°以上、好ましくは120°より大きい接触角(静的)を形成する水溶液に適用された場合に最良の結果をもたらす。接触角の測定は既知の液滴法で行われ、また通常、固形物(膜)の表面に置かれたマイクロ液滴(数μL)によって形成される角度を測定する市販の自動光学機器(ゴニオメータ)を使用して行われる。液滴を置いてから20秒後の角度の値を、静的接触角の測定値と見なす。
【0042】
本発明において、疎水性微孔質膜上での蒸留は、好ましくは温度50〜250℃及び圧力50KPa〜20MPa(絶対)で行われる。これらの条件下において、水溶液中に存在する種CO2及びNH3並びに水蒸気が蒸気の形態で膜の細孔を通過する。ガス状透過流中の水蒸気の量は、いかなるケースでも、従来の蒸留システムで得られる流れ中に存在するものより少ない。NH3及びCO2が膜を通過するため、膜の水溶液側の反対側を流れるガス状透過流は漸進的に富化され、また同時に後者(精製された水溶液)中に存在する種の濃度は漸進的に低下する。
【0043】
蒸留の温度及び圧力条件は、処理対象である水溶液の特徴と関連して選択される。
【0044】
蒸留は、好ましくは温度80〜220℃、より好ましくは110〜190℃で行われ、圧力は好ましくは0.15〜18MPa(絶対)、より好ましくは0.5〜16MPa(絶対)である。
【0045】
膜蒸留中、膜の片側(蒸気側)を流れるNH3及びCO2を含むガス流の圧力は、反対側(液体側)を流れる処理対象の溶液の圧力以下の値に維持されなくてはならない。更に、液体側の圧力と蒸気側の圧力との差は好ましくは可能な限り大きく、それでいて液相中の溶媒による膜の細孔の通過(フラッディング)、並びにそれに続く溶媒とNH3及びCO2を含むガス流との混合につながる最小圧力差より小さくなくてはならない。この最小圧力差は臨界圧として定義され、また当業者は、この最小圧力差を、処理流体(process fluid)及び膜を形成している材料の特徴に基づいて、場合により幾つかの試験及び予備的な実験的測定を行うことで容易に求めることができる。
【0046】
蒸留に供される溶液の臨界圧は可変であり、また処理溶液の濡れ性(膜を形成している材料との接触角)だけではなく、膜の構造特性及び膜を構成している材料のタイプにも左右される。本発明に従って膜蒸留ステップを行うのに適した臨界圧は、好ましくは50KPaより高い。
【0047】
微孔質膜蒸留工程は好ましくは「メンブレンコンタクタ(membrane contactor」として最新技術で知られる装置を使用して行われる。メンブレンコンタクタ(以下、省略形であるMCで記載する)は任意の形態の疎水性微孔質膜を備え、これは例えば中空糸、平膜、スパイラル膜等である。
【0048】
MC装置の考えられる好ましい実施形態を図1に示す。
【0049】
図1を参照すると、本発明の目的に使用することができるMC装置11は、円筒形マントル12から成るアウターケーシングを含む器具から成り、蒸留工程中、円筒形マントル12は好ましくは水平位置に配置され、マントルの内部には、円筒形の疎水性微孔質膜(中空糸)から成り、端部で分配チャンバ及び回収チャンバ(チャンバは図1に示さず)に接続されている一連の管状要素13が並んでいる。その中に含まれるアンモニア及び二酸化炭素を回収するために処理する水溶液を、矢印15で示される流動方向に沿って、好ましくは管状要素13の外側、すなわち管状要素13と円筒形マントル12との間の空間に通す。この好ましいケースにおいて、アンモニア及び二酸化炭素の蒸気並びに水蒸気は、膜を通って管状要素内側の空間に放出され、次に矢印14によって示される流動方向に沿って単一の流出口を通って回収される。
【0050】
管状要素13の外側を流れる水溶液と、管状要素13の内側を反対方向に流れる蒸気との間の圧力差は、便利には40〜150KPaの値に維持され、いかなるケースでも、細孔の濡れ現象を回避するために、細孔の濡れ性限界を表す臨界圧より低い。上述したように、臨界圧の値は、膜を構成する材料及び溶液の種類に左右される。圧力差により耐えるように、微孔質膜を蒸気透過性の剛性材料で支持することもでき(図1に示さず)、この剛性材料は上記の好ましいケースにおいては中空管から成り、その上に膜が巻かれるが、水溶液をMC装置11の管状要素13の内側に通す場合は、膜をその内側に備えた管であってもよい。
【0051】
図1に示す実施形態において、水溶液の流れは、ガス状透過流の流れに対して向流である。しかしながら、本発明の方法において、この2つの流れは並流することもできる。更に、この方法をバッチモードで適用することもできる。
【0052】
熱は、例えば中圧又は高圧の蒸気を使用して装置11に供給することができ、この蒸気はチューブバンドル又は加熱チャンバ(図示せず)を通過し、続いて凝縮物相で装置11から外に出る。しかしながら、より便利には、必要な熱を、微孔質膜と接触している水溶液にマイクロ波ビーム16を2300〜2700MHz、好ましくは2400〜2600MHzの周波数で適切に照射することで供給することができる。処理溶液中に存在する極性分子の最適な吸収に最も適した周波数を、当業者は、溶液の組成及び温度との関連で、文献に記載の吸収特性又は簡単な予備スキャンテストに基づいて容易に選択することができる。このケースにおいて、器具(蒸気透過性材料から成る円筒形マントル12及び考えられる円筒形支持体)を構成している剛性材料は、使用する周波数範囲内のマイクロ波を透過するものから選択されなくてはならない。
【0053】
微孔質膜蒸留は好ましくは自己ストリッピング条件下、すなわち追加のキャリア流の不在下で行われる。CO2及びNH3をより多く抽出するために、CO2及び/又はNH3の流れ並びに場合により不活性ガス流を好ましくはキャリア流として使用することができ、これらの流れは、処理水溶液(供給流)の圧力に近いがそれより低い圧力に維持される。
【0054】
本発明の目的のために使用する膜は、典型的には、上述したように、処理溶液に対して≧90°、好ましくは≧120°の接触角を形成する疎水性ポリマーをベースとした材料から成る。本発明の目的のために、最初の概算において、膜の疎水性を、処理溶液(process solution)とではなく水との接触角の測定に適用される判定基準に基づいて評価することができる。
【0055】
膜の形成に適した材料の例は、フッ素化ポリマー及びコポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニリデンフルオライド又はNafion(登録商標)、高結晶性を有する特定のポリオレフィン、例えばアイソタクチックポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホンである。これらの材料によって、高い耐熱性(最高220〜250℃)、耐薬品性及び機械的耐性が得られる。これらの膜が耐えられる最大圧力差は約100KPaである。この種の膜は市販されている。
【0056】
好ましい実施形態において、膜上での蒸留は、異なる温度及び圧力条件下で動作することができる、2つ以上の上記のタイプのMC装置を備えた蒸留ユニットで行われる。
【0057】
本発明の工程において、蒸留温度は、好ましくは、マイクロ波範囲内の周波数を有する電磁放射線の照射によって50〜250℃に維持される。より一層好ましくは、水溶液への照射は、水溶液の温度が供給流の流動方向に沿って上昇するように、すなわち膜を備えたMC装置の流入口で低く、流出口で高くなるように行われる。蒸留工程が進むにつれて、水溶液中のNH3及びCO2の量が減り、液体・蒸気平衡条件は、これらの種の水溶液からの分離及び膜の通過にとって好ましくないものになっていく。膜と接触しながら流れる際に、温度が上昇するよう水溶液を加熱すると、アンモニア及び二酸化炭素が水溶液から分離する傾向の低下が相殺され、またアンモニア、二酸化炭素及び水を含有するガス状透過流の蒸気側での蒸気の凝縮が回避される。
【0058】
この加熱は、最新技術で既知のマイクロ波発生装置を使用して行うことができる。マイクロ波を使用する利点は、液体状態の水、NH3、CO2の分子及びその他の極性分子だけを選択的に加熱することができ、蒸気の形態で存在する分子の著しい加熱が回避されることである。これが供給流への熱エネルギーの供給を可能にし、続くガス状NH3及びCO2の膜の透過を促進する。
【0059】
更に、マイクロ波の使用は、膜の細孔のフラッディング、すなわち液体形態の水溶液の溶媒(水)の細孔への浸入も防止する。処理対象の溶液が流れる側の膜への過剰圧力によって細孔のフラッディングが起きても、マイクロ波側にある液体の水の分子が選択的に加熱されて細孔内部に浸入した液体の水が蒸発してしまうため、設備の機能を中断させることなく、また逆圧の印加を回避しながらインシチュで膜を再生することができる。
【0060】
更に、液体を加熱するためのマイクロ波の使用には、考えられるガス状キャリア流におけるアンモニア及び二酸化炭素の拡散を、その望ましくない加熱を引き起こしたりエネルギー消費を上昇させたりすることなく促進するという、更なる利点があることが判明している。
【0061】
マイクロ波の照射によって熱を供給するために、アウターケーシングがマイクロ波透過性材料(例えば、PTFE、ガラス、パイレックス(登録商標)等の材料)から成るMC装置を使用しなくてはならない。
【0062】
マイクロ波による加熱は利用しやすいだけでなく、膜蒸留装置に供給する熱エネルギーの正確な調節も可能にする。更に、電気エネルギーからマイクロ波への変換効率が約70%オーダーのマイクロ波加熱装置は、アンモニア及び二酸化炭素の回収工程においてより高い総エネルギー収率を得るのに貢献する。
【0063】
上記の利点によりマイクロ波の使用による加熱が好ましいものの、水溶液の加熱を、慣用の技法、例えば膜上での蒸留に供する前に水溶液を熱交換器に通すことによって行うこともできる。
【0064】
本発明の目的である方法に従った膜上での蒸留に影響する主な動作パラメータは、膜と接触している水溶液の流量及び圧力、ガス状透過流及び考えられる追加のキャリア流の流量及び圧力、並びにマイクロ波の照射によって得られる水溶液における温度勾配である。本方法の有効性への上記の動作パラメータのそれぞれの影響の程度は、実験によって評価することができる。最適な動作条件は、水溶液の流量及び膜表面へのその圧力が、ガス状種が水溶液から流出して膜を通過することによる圧力低下を相殺するようなものであるときに得られる。
【0065】
本発明の目的である方法に従った、アンモニア、二酸化炭素及び水を含有する水溶液の膜上での蒸留によって、処理される溶液の組成及び膜上蒸留を行う動作条件との関係で変動する特性を有するガス状透過流及び精製水溶液が得られる。温度100〜220℃及び圧力10〜18MPaで行われる、例えば5〜40質量%、好ましくは10〜40質量%のアンモニア、2.5〜20質量%、好ましくは5〜20質量%の二酸化炭素及び10〜60質量%、好ましくは20〜40質量%の尿素を含む溶液の蒸留によって、1〜30質量%の残留アンモニア含有量、1〜10質量%の二酸化炭素及び20〜60質量%、好ましくは30〜60質量%の尿素を有する精製水溶液が生成される。
【0066】
本発明の工程の異なる態様において、尿素を含有せず且つ5〜70質量%、好ましくは20〜70質量%のアンモニア、2.5〜30質量%、好ましくは10〜30質量%の二酸化炭素を含む再循環溶液の濃度に関し、蒸留は、温度60〜200℃、好ましくは80〜180℃及び圧力1〜10MPaで行われ、それぞれ最高20質量%のNH3及び最高10質量%、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満のCO2の、最初の溶液より大幅に低いアンモニア及び二酸化炭素含有量を有する精製水溶液が得られる。
【0067】
本発明の目的である方法で得られるガス状透過流は実質的にNH3、CO2及び低含有量の水から成るため、このガス状透過流を、場合により残留熱の回収後又は尿素合成反応器の別の製造工程(例えば、アンモニアの合成工程)に再循環させることができる。
【0068】
ガス状透過流を更なる分離工程に供して、NH3及びCO2を別々に高純度で回収することもできる。
【0069】
本発明の方法により、尿素製造工程において、水溶液に含まれるNH3及びCO2の同時回収が可能になり、上記の化合物を回収することができる。
【0070】
したがって、本方法は高エネルギー効率を特徴とし、また最新技術の技法で起きる固形不純物の不本意な生成の問題を有さない。
【0071】
本発明の方法はまた、膜蒸留装置を加熱するために好ましくはマイクロ波を使用するケースにおいて特に顕著に高エネルギー効率を有し、またアンモニア及び二酸化炭素を、単一の再循環可能なガス流(そのまま又は凝縮後の炭酸アンモニウム若しくはカルバミン酸アンモニウムの濃縮溶液として)で同時に尿素合成反応器に回収することができる事実を特徴とする。
【0072】
最後に、本発明の工程は、最新技術で使用される技法と比較すると、膜蒸留の利用に由来する以下の更なる利点を有する。
・希釈溶液においても高いアンモニア及び二酸化炭素分離効率。これは、界面が膜の細孔から成ることから、分離効率がキャリア流及び供給流のフロー条件の変動に伴って変化しないからである。
・流体間での分散現象がないことから、エマルションが生成されない。
・膜及びMC装置のケーシングに使用する特定のタイプの材料のおかげで、膜上蒸留に使用する装置の腐食現象が起きない。
・膜に接触する流体が異なる密度を有することを必要としない。
・膜蒸留工程のスケールアップ手順が簡略化される。これは処理対象である供給流の体積の増加が、モジュールの数(MC装置)における線形増加に対応しているからである。
・処理対象である又は処理済みの溶液の一部の、場合により尿素プラントに供給されたアンモニア及び二酸化炭素を含有するガス流における蒸発による移動がない。これによって、尿素プラントが、この工程に関係のない物質で汚染されない。
・摩耗又は考えられる破損を起こす可動性の機械部品がない。
・蒸留に必要な設備の嵩張りの減少。
【0073】
以下、本発明の方法の特徴及び利点を概説するために、尿素製造工程の幾つかの応用例について説明する。これらの実施例は純粋に本発明を説明する目的で挙げたものであり、同封の請求項によって定義される保護範囲を限定すると見なされるべきではない。
【実施例】
【0074】
実施例1(比較例)
図2は、最新技術による尿素製造のための工程の概略図である。図式化された工程の完全な理解にとって重要ではない、ポンプ、バルブ及びその他の装備品等の特定の機能は、上の図2に示していない。
【0075】
最新技術で既知の工程では、1564トン/日のアンモニア、498トン/日の二酸化炭素及び304トン/日の水から成る、2366トン/日のアンモニア及びアンモニアカルバメートの流れ1が、反応器Rに送られる。この供給流1は、高圧凝縮器/分離器C1を後にしたカルバミン酸アンモニウムの水溶液から成る再循環流2(1575トン/日)と、凝縮/貯蔵セクションCSを後にした実質的に純粋な(99.91%のアンモニア、0.09%の水)アンモニアである液体アンモニアの流れ3(790.6トン/日)とを混合することによって得られる。736.3トン/日の二酸化炭素の流れ4も反応器Rに送られる。この反応器Rは、温度187℃及び圧力15.8MPa(絶対)で動作する。
【0076】
尿素、二酸化炭素、水及び未反応のアンモニアを含む液体流5(反応流出液)が、反応器Rを後にする。この反応流出液(流れ5)は、995トン/日のアンモニア、498トン/日の二酸化炭素(主にカルバミン酸アンモニウムの形態)、605トン/日の水及び1004トン/日の尿素から成る、3102トン/日の流れである。この反応流出液(流れ5)は、流下薄膜式多管熱交換器から成り、温度204℃及び圧力14.7Mpa(絶対)で動作する第1高圧分解器D1(ストリッパ)に送られる。分解器D1は、飽和蒸気(644トン/日)の流れをマントルに圧力約2.3MPa(絶対)で送ることによって加熱される。
【0077】
分解器D1において、カルバミン酸アンモニウムは、第1分解器D1が動作する特定の温度及び圧力条件下で確立される熱力学的平衡に従って、アンモニアと二酸化炭素とに分解される。アンモニア(432トン/日)、二酸化炭素(337トン/日)及び水蒸気(42トン/日)を含有するガス流6(811トン/日)は第1分解器D1のヘッドを後にし、それ自身の残留熱を放出させるために、分解器D1の条件に対して実質的に等圧条件で動作する凝縮器/分離器C1(高圧凝縮器/分離器)に送られる。アンモニア(563トン/日)、二酸化炭素(161トン/日)、水(563トン/日)及び尿素(1004トン/日)を含有する尿素の水溶液7(2291トン/日)は、分解器D1のボトムを後にする。一方、高圧凝縮器/分離器C1に送られたガス流6の非凝縮画分は分離され(流れ8)、第2分解器D2に送られる。第2分解器D2に送られる流れ8(14トン/日)はアンモニア(13トン/日)、二酸化炭素(1トン/日)から成り、また実質的に水を含有しない。
【0078】
第1分解器D1を後にした尿素の溶液7は、後続の、約160℃及び圧力約2MPa(絶対)で動作する第2分解器D2(中圧分解器)におけるカルバメートの分解ステップに送られ、アンモニア(475トン/日)、二酸化炭素(131トン/日)及び水蒸気(135トン/日)を含有するガス流9(741トン/日)が分離され、このガス流9は、凝縮及び残留熱の同時回収のために凝縮器/吸収器C2(中圧凝縮器/吸収器)に送られる。
【0079】
第2分解器D2を後にした尿素を含む溶液(流れ10、1564トン/日)は、アンモニア(101トン/日)、二酸化炭素(31トン/日)、水蒸気(428トン/日)及び尿素(1004トン/日)から成る。上記の流れ10はブロックPG、すなわち後続の加工セクションに送られ、そこで残留カルバメートの更なる分解フェーズ及びガス状生成物の凝縮/分離が、顆粒状の尿素から成る最終固形生成物を得るための精製及び固化フェーズ並びに廃水の処理フェーズと共に行われる。図2のブロックPGで表わされる加工フェーズにおいて、更なるガス流及び液体流が発生し、これらはアンモニア、二酸化炭素及び水を含み、反応器Rに再循環させられる。ブロックPGから来る再循環流は、図1において流れ11(252トン/日)で表わされ、この流れ11はブロックPGをセクションC2に接続している。上記の再循環流11は、アンモニア(101トン/日)、二酸化炭素(31トン/日)及び水蒸気(120トン/日)を含有する。
【0080】
セクションC2において、第2分解器D2を後にしたガス流9は部分的に凝縮され、ブロックPGから来る再循環流11と合流し、アンモニア(355トン/日)、二酸化炭素(162トン/日)及び水(261.1トン/日)を含有する流れ12(778.1トン/日)が生成される。セクションC2において、ガス状アンモニアの流れ13も分離され、アンモニアの凝縮/貯蔵セクションCSに送られる。
【0081】
セクションC1の高圧凝縮器/分離器において、分解器D1から来るガス流6は部分的に凝縮され、セクションC2を後にした流れ12と合流し、アンモニア(774トン/日)、二酸化炭素(498トン/日)及び水蒸気(303トン/日)から成る流れ2(1575トン/日)が生成される。
【0082】
上記の工程において、1004トン/日の尿素を製造するために、644トンに等しい2.3MPa(絶対)の飽和蒸気が分解器D1に導入された。この尿素合成反応は、実収率60%を有していた。
【0083】
実施例2
尿素の合成工程を実施例1に記載のものと同じプラントで行い、アンモニア及び二酸化炭素を合成反応器を後にした流出液から回収するために、本発明の目的である工程を適用した。特に記載がない場合、工程の動作条件は、実施例1に記載のものと同じである。
【0084】
変形工程を図3に概略的に示すが、ここで使用される符号は、図1のものと一致する場合、実施例1で示したものと同じ意味を有する。
【0085】
図3の尿素合成工程において、1518トン/日のアンモニア、404トン/日の二酸化炭素及び214トン/日の水から成る、2136トン/日のアンモニア及びアンモニアカルバメートの流れ1が反応器Rに送られる。この流れ1は、高圧凝縮器/分離器C1を後にしたカルバミン酸アンモニウムの水溶液から成る再循環流2(1345トン/日)と、凝縮/貯蔵セクションCSを後にした実質的に純粋な(99.91%のアンモニア、0.09%の水)アンモニアである液体アンモニアの流れ3(790.6トン/日)とを混合することによって得られる。736.3トン/日の二酸化炭素の流れ4も反応器Rに送られる。
【0086】
反応器Rを後にした反応流出液5(2872トン/日)は、アンモニア(949トン/日)、二酸化炭素(404トン/日)、水蒸気(515トン/日)及び尿素(1004トン/日)の流れから成る。この流出液5は、実施例1の分解器D1と同じ温度及び圧力条件下で動作する疎水性微孔質膜ユニットUDM上での蒸留に送られる。UDMユニットの加熱は、マイクロ波照射装置によって行われる。蒸留は、自己ストリッピング条件下で行われる。
【0087】
アンモニア(353トン/日)、二酸化炭素(270トン/日)及び水蒸気(22トン/日)を含有する第1ガス流6(645トン/日)はUDMユニットを後にし、高圧凝縮器/分離器C1に送られる。アンモニア(596トン/日)、二酸化炭素(134トン/日)、水(515トン/日)及び尿素(1004トン/日)を含有する尿素の水溶液7(2227トン/日)が、UDMユニットのボトムを後にする。
【0088】
ガス流6の非凝縮画分は分離され(流れ8)、第2分解器D2に送られる。この流れ8(12トン/日)は、アンモニア、二酸化炭素(1トン/日)から成り、また実質的に水を含有しない。
【0089】
第1分解器UDMを後にした尿素の溶液7は、後続の、分解器D2(中圧分解器)におけるカルバメートの分解ステップに送られ、アンモニア(512トン/日)、二酸化炭素(110トン/日)及び水蒸気(83トン/日)を含有する更なるガス流9(705トン/日)が分離され、このガス流9は、凝縮器/吸収器C2(中圧凝縮器)に送られる。
【0090】
分解器D2を後にした尿素を含む溶液である流れ10(1534トン/日)は、アンモニア(95トン/日)、二酸化炭素(25トン/日)、水蒸気(410トン/日)及び尿素(1004トン/日)から成る。この流れ10はブロックPGで概略的に表わされる後続の処理フェーズに送られる。流れ11(222トン/日)はブロックPGから再循環させられ、セクションC2に送られ、またアンモニア(95トン/日)、二酸化炭素(25トン/日)及び水蒸気(102トン/日)を含有する。
【0091】
セクションC2において、分解器D2を後にしたガス流9は部分的に凝縮され、ブロックPGから来る再循環流11と合流し、アンモニア(386トン/日)、二酸化炭素(135トン/日)及び水(191.1トン/日)を含有する流れ12(712.1トン/日)が生成される。セクションC2において、ガス状アンモニアの流れ13も分離され、アンモニアの凝縮/貯蔵セクションCSに送られる。
【0092】
セクションC1の高圧凝縮器/分離器において、第1分解器UDMから来るガス流6は部分的に凝縮され、セクションC2を後にした流れ12と合流し、アンモニア(728トン/日)、二酸化炭素(404トン/日)及び水蒸気(213トン/日)から成る流れ2(1345トン/日)が生成される。
【0093】
本発明の目的である方法の利用によってアンモニアと二酸化炭素との選択的な分離、固形生成物の生成の回避、また、蒸気の形態での水の望ましくない移動の大幅な軽減が可能になった。これらの工程条件下において、1004トンの尿素を製造するために2.3MPa(絶対)で590トンの飽和蒸気に等しいエネルギーがマイクロ波放射線の形態でUDMユニットに供給され、実施例1の工程と比較して54等価トンの節約となった。この尿素合成反応において、実収率は65%に達した。
【0094】
実施例3
尿素の合成工程を実施例1に記載のものと同じプラントで行い、アンモニア及び二酸化炭素を中圧凝縮器を後にした再循環流から回収するために、本発明の目的である方法を適用した。特に記載がない場合、工程の動作条件は、実施例1に記載のものと同じである。
【0095】
変形工程を図4に概略的に示すが、ここで使用される符号は、図1のものと一致する場合、実施例1で示したものと同じ意味を有する。
【0096】
図4の尿素合成工程において、1520トン/日のアンモニア、350トン/日の二酸化炭素及び129トン/日の水から成る、1999トン/日のアンモニア及びアンモニアカルバメートの流れ1が反応器Rに送られる。この流れ1は、高圧凝縮器/分離器C1を後にしたカルバミン酸アンモニウムの水溶液から成る再循環流2(774トン/日)と、凝縮/貯蔵セクションCSを後にした実質的に純粋な(99.91%のアンモニア、0.09%の水)アンモニアである液体アンモニアの流れ3(1225トン/日)とを混合することによって得られる。二酸化炭素の流れ4(736.3トン/日)も反応器Rに送られる。
【0097】
反応器Rを後にした反応流出液5は、951トン/日のアンモニア、350トン/日の二酸化炭素、430トン/日の水及び1004トン/日の尿素から成る、2735トン/日の流れである。この反応流出液5は、流下薄膜式多管熱交換器から成る第1高圧分解器D1に送られる。分解器D1において、カルバミン酸アンモニウムはアンモニアと二酸化炭素とに分解され、ガス流6(504トン/日)が作り出され、このガス流6は分解器D1のヘッドを後にする。アンモニア(281トン/日)、二酸化炭素(205トン/日)及び水蒸気(18トン/日)を含有する上記のガス流6は、その残留熱を放出するために、第1分解器D1の条件に対して実質的に等圧条件で動作する高圧凝縮器/分離器C1に送られる。アンモニア(670トン/日)、二酸化炭素(145トン/日)、水(412トン/日)及び尿素(1004トン/日)を含有する尿素の水溶液7(2231トン/日)は、第1分解器D1のボトムを後にする。ガス流6の非凝縮画分(流れ8)は、第2分解器D2に送られる。流れ8(17トン/日)は、アンモニア(2トン/日)、二酸化炭素(15トン/日)から成り、また実質的に水を含有しない。
【0098】
第1分解器D1を後にした尿素の溶液7は、第2分解器D2(中圧分解器)におけるカルバメートの次の分解ステップに送られる。この分解器D2において、アンモニア(529トン/日)、二酸化炭素(130トン/日)及び水蒸気(91トン/日)を含有するガス流9(750トン/日)の分離が行われ、このガス流9は、凝縮器/吸収器C2(中圧凝縮器)に送られる。
【0099】
分解器D2を後にした尿素を含む溶液の流れ10(1498トン/日)は、アンモニア(143トン/日)、二酸化炭素(30トン/日)、水蒸気(321トン/日)及び尿素(1004トン/日)から成る。上記の流れ10はブロックPGで概略的に表わされる後続の加工フェーズに送られる。流れ11(275トン/日)はブロックPGから再循環させられ、中圧凝縮器C2に送られ、またアンモニア(146トン/日)、二酸化炭素(34トン/日)及び水蒸気(95トン/日)を含有する。
【0100】
中圧凝縮器C2において、第2分解器D2を後にしたガス流9は部分的に凝縮され、ブロックPGから来る再循環流11と合流し、アンモニア(480トン/日)、二酸化炭素(164トン/日)及び水(192トン/日)を含有する水溶液から成る流れ12(836トン/日)が生成される。セクションC2において、ガス状アンモニアの流れ13も分離され、アンモニアの凝縮/貯蔵セクションCSに送られる。
【0101】
中圧凝縮器C2を後にした流れ12は、圧力約2MPaで動作する第1セクションS1と圧力約3MPaで動作する第2セクションS2とから成る疎水性微孔質膜ユニットUDM上での蒸留に送られる。蒸留ユニットUDMの加熱が、マイクロ波照射装置によって、両方のセクションにおいて行われる。蒸留は、両方のセクションにおいて自己ストリッピング条件下で行われる。
【0102】
第1セクションS1において、主にアンモニアから成るガス状透過流(流れ16。460トン/日、凝縮/貯蔵セクションCSに送られる)と、アンモニア、二酸化炭素及び水を含有する溶液から成る流れ17とが分離される。UDMユニットの第1セクションS1を後にした流れ17は、ブロックPGから来る水の流れ18(200トン/日)との混合後、第2セクションS2において微孔質膜上での蒸留に供される。アンモニア、二酸化炭素及び水の3成分から成る混合物の挙動を考慮すると、第1セクションS1を後にした流れ17から成る特定の水溶液への更なる水の添加によって、この水溶液の組成は、第2セクションS2において、主に水(282トン/日)、少量のアンモニア(3トン/日)及び二酸化炭素(4トン/日)を含有する液体流19(残留水溶液、289トン/日)と、アンモニア(17トン/日)及び水(110トン/日)に加えて二酸化炭素の殆ど(160トン/日)を含有する流れ20(ガス状透過流、287トン/日)が分離されるようなものになる。
【0103】
第2セクションS2を後にした液体流19は、ブロックPGで表わされる尿素加工フェーズに再循環させられ、UDMユニットの第2セクションS2を後にした流れ20は高圧凝縮器/分離器C1に送られる。上記の凝縮器/分離器C1において、分解器D1から来るガス流6は部分的に凝縮され、上記の流れ20と合流し、アンモニア(296トン/日)、二酸化炭素(350トン/日)及び水蒸気(128トン/日)から成る流れ2(774トン/日)が生成されて反応器Rに送られる。
【0104】
本発明の目的である方法の利用によってアンモニアと二酸化炭素との選択的な分離、固形生成物の生成の回避、また、蒸気の形態での水の望ましくない移動の大幅な軽減が可能になった。これらの工程条件下において、1004トンの尿素を製造するために2.3MPa(絶対)で550に等しい飽和水蒸気が第1分解器D1に供給され、実施例1の工程と比較して94トンの節約となった。尿素合成反応において、実収率は68%に達した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素合成工程において、アンモニア及び二酸化炭素を、場合によりこれらの凝縮物を含むこれらの水溶液から同時に回収する方法であって、
疎水性微孔質膜上での、アンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩類化合物又は凝縮物を含む水溶液の蒸留フェーズを含み、前記蒸留を、温度50〜250℃及び圧力50KPa〜20MPa(絶対)で行い、場合により尿素を含む残留水溶液と、アンモニア、二酸化炭素及び水を含む透過ガス流とを生成することを特徴とする、方法。
【請求項2】
蒸留に供される前記水溶液が、尿素製造工程に由来する再循環溶液、又は尿素合成反応器から由来する流出液である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸留に供される前記水溶液が、20〜70質量%のアンモニア、10〜60質量%の二酸化炭素及び10〜70質量%の水を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
蒸留に供される前記水溶液が、0〜60質量%の尿素もまた含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸留が、温度80〜220℃、より好ましくは110〜190℃、好ましくは圧力が0.15〜18MPa(絶対)、より好ましくは0.5〜16MPa(絶対)で行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶液が、5〜40質量%のアンモニア、2.5〜20質量%の二酸化炭素及び10〜60質量%の尿素を含む場合、前記蒸留は、温度100〜220℃及び圧力10〜18MPaで行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記溶液が尿素を含有せず且つ5〜70質量%のアンモニア及び2.5〜30質量%の二酸化炭素を含む場合、前記蒸留は、温度60〜200℃及び圧力1〜10MPaで行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
蒸留に供される前記水溶液が、マイクロ波の照射によって加熱される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
水溶液への前記照射は、前記水溶液の温度が前記水溶液の流れの方向に沿って上昇するように行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記水溶液が、膜材料と90°以上、好ましくは120°より大きい接触角を形成する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記透過ガス流が、同尿素製造工程内で再循環させられる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記蒸留が、追加のキャリア流、好ましくはCO2及び/又はNH3の流れの存在下で行われる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法を実施するための装置であって、
アンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩類化合物又は凝縮物を含む水溶液を疎水性微孔質膜上での蒸留に供することで、残留水溶液と、アンモニア、二酸化炭素及び水を含む透過ガス流とを生成するためのユニットと、
アンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩類化合物又は凝縮物を含む水溶液の加熱手段と
を含むことを特徴とする装置。
【請求項14】
疎水性微孔質膜上での蒸留に供される水溶液の前記加熱手段が、マイクロ波を発生させるための1種以上の装置を含む、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記蒸留ユニットが、異なる温度及び圧力条件下で動作し得る2種以上のセクションを含むことを特徴とする、請求項13又は14に記載の装置。
【請求項16】
尿素製造プロセスであって、
アンモニア及び二酸化炭素を、場合によりこれらの凝縮物を含むこれらの水溶液から、疎水性微孔質膜上でのアンモニア、二酸化炭素及びこれらの塩類化合物又は凝縮物を含む水溶液の蒸留によって同時に回収する工程を含み、残留水溶液と、アンモニア、二酸化炭素及び水を含む透過ガス流とが生成されることを特徴とする、尿素製造プロセス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−503913(P2013−503913A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528281(P2012−528281)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/005609
【国際公開番号】WO2011/029625
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(593182347)サイペム・ソシエタ・ペル・アチオニ (5)
【氏名又は名称原語表記】SAIPEM S.P.A.
【Fターム(参考)】