説明

水系無機塗料の塗装方法

【課題】 水系無機塗料の塗装方法において、塗装前処理方法を確立することによって、薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜を得られること。
【解決手段】 水系無機塗料製造工程S1で水系無機塗料が製造され、強アルカリ浸漬工程S2で、ワークをpH12に調整した強アルカリ水溶液を60℃〜70℃に加熱したものに5分間〜10分間浸漬して、温純水洗浄工程S3で温純水で十分に洗浄して強アルカリ水溶液を完全に洗い流し、強酸浸漬工程S4でワークをpH4に調整した強酸水溶液に5分間〜10分間浸漬して、温純水洗浄工程S5で温純水で十分に洗浄して強酸水溶液を完全に洗い流し、乾燥工程S6でワークを水跡が残らないようにしながら十分に乾燥させ、遠心塗装装置で水系無機塗料がワークに塗装され(S7)、熱風乾燥機に入れて250℃で10分以上加熱して(S8)、塗膜厚さ約2μmの平滑で強靭な気泡のない無機塗膜を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミホイール、カーブミラー、ガラス板、ステンレス鋼板、等に塗布してごく薄く、クラックや凹凸がなく平滑性に優れた、強固な塗膜を得ることができる水系無機塗料の塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球的規模で環境問題が深刻化している近年、揮発性有機化合物(VOC)からの脱却を目的として水系無機塗料の開発が進められている。その中でも、水ガラス等のケイ酸アルカリ水溶液を結合剤とした水系無機塗料の開発が盛んである。しかし、ケイ酸アルカリ水溶液を結合剤とした水系無機塗料は、被塗装物に熱的影響で歪みが起こると、ガラス質である塗膜には微細なクラックが生ずるため、インキ、ソース等が沁み込んでその汚れが落ちなくなり、或いは薬品の滴下で品質が不良になる等の問題点があった。
【0003】
そこで、特許文献1に開示された特許発明にかかる水系無機塗料においては、ケイ酸アルカリにケイ酸カルシウムまたはリン酸亜鉛を添加し、コレマナイト或いはウレキサイトを主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを配合することによって、塗膜に靭性を持たせて、被塗装物に熱的影響で歪みが起こっても塗膜にはクラックが生ずることがない水系無機塗料を完成している。
【0004】
さらに、特許文献2に開示された発明にかかる水系無機塗料においては、ケイ酸アルカリにホウ酸塩を添加し、さらに無機充填材として鱗片状で透明な微細シリカを添加することによって、特許文献1にかかる水系無機塗料からなる塗膜が不透明であったのに対して、十分な透光性を有するとともに靭性をも有する無機塗膜を形成することができ、受光により特性を発揮する太陽光発電システムのソーラーパネルや光反射により特性を発揮するミラー等の表面保護にも適する水系無機塗料としている。
【特許文献1】特許第3140611号公報
【特許文献2】特開2005−015728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1、特許文献2に開示された水系無機塗料の塗膜は、多孔質(巣穴)となっている、スプレーガンで塗装した時に、たとえ微粒スプレーガンを使用したとしても、速乾性が高いため塗料の粒子がそのまま残り、完成塗膜に凹凸として表れる、前処理をしないで塗装すると気泡が生じる、といった問題点があった。そこで、多孔質となることを防ぐために膜厚(10μm)をかせぐ必要があり、現在の塗装方法で薄膜化(厚さ5μm以下)を達成することは困難であり、塗膜表面のザラつきをなくすことも現在の塗装方法では困難で、さらに気泡の発生を確実に防ぐためには、塗装前処理方法を確立する必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、遠心塗装方法または延伸塗装方法を用いるとともに、塗装前処理方法を確立することによって、薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、前記ワーク表面に水系無機塗料を塗布する工程とを具備するものである。
【0008】
請求項2の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分としたB23成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合した水系無機塗料の塗装方法であって、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程とを具備するものである。
【0009】
請求項3の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合した水系無機塗料の塗装方法であって、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程とを具備するものである。
【0010】
請求項4の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合し、厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークを1重量部〜20重量部配合した水系無機塗料の塗装方法であって、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程とを具備するものである。
【0011】
請求項5の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリにホウ酸塩を添加し、さらに無機充填材として厚さ0.01μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを混合した水系無機塗料の塗装方法であって、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程とを具備するものである。
【0012】
請求項6の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリ100重量部に、ホウ酸塩を0.5重量部〜35重量部添加し、さらに無機充填材として厚さ0.01μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを0.5重量部〜50重量部混合した水系無機塗料の塗装方法であって、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程とを具備するものである。
【0013】
請求項7の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、請求項1乃至請求項6のいずれか1つの構成において、前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程は、前記ワークを回転させて遠心力を掛けながら前記水系無機塗料を前記ワーク表面に噴射または滴下するものである。
【0014】
請求項8の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、請求項1乃至請求項6のいずれか1つの構成において、前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程は、前記水系無機塗料を前記ワーク表面に噴射または滴下させながら前記ワーク表面に高圧エアを前記ワーク表面に平行な方向に吹き付けるものである。
【0015】
請求項9の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、請求項1乃至請求項8のいずれか1つの構成において、前記強アルカリ性水溶液はpH12〜pH14の範囲内に調整されているものである。
【0016】
請求項10の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、請求項1乃至請求項9のいずれか1つの構成において、前記強酸性水溶液はpH4前後に調整されているものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流し、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬してワーク表面に酸化皮膜を生成させて、ワークを温純水で洗浄して強酸性水溶液を完全に洗い流し、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させて、ワーク表面に水系無機塗料を塗布する。
【0018】
ここで、水系無機塗料を塗布するワークの材質としては、アルミニウム、ステンレス鋼、SP鋼(通常のスチール)、SG鋼、SE鋼(ボンデ鋼)、チタン、ガラス、等の耐アルカリ性、耐酸性を有し、親水性のあるものが好ましい。また、水系無機塗料を塗布する方法としては、刷毛塗り、スプレー塗装、ディッピング塗装、等の従来の塗装方法によることもできるが、より確実に薄膜の塗膜を得るためには、遠心塗装、延伸塗装、等の方法によることが好ましい。
【0019】
このように、本発明にかかる水系無機塗料の塗装方法においては、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬してワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、ワークを温純水で洗浄して強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程とを経た後に、ワーク表面に水系無機塗料を塗布することによって、塗装前にワーク表面の不純物を完全に除去することができるとともに、ワーク表面に酸化皮膜が生成して水系無機塗料との密着性が向上するために、表面に微細な凹凸が生ずることもなく、気泡が発生することもなく、水跡に沿った欠陥が生ずることもなく、膜厚5μm以下で極めて平滑に塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一な欠陥の無い塗膜となる。
【0020】
このようにして、塗装前処理方法を確立することによって、薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【0021】
請求項2の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分としたB23成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合した水系無機塗料の塗装方法で、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流し、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬してワーク表面に酸化皮膜を生成させて、ワークを温純水で洗浄して強酸性水溶液を完全に洗い流し、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させて、ワーク表面に水系無機塗料を塗布する。
【0022】
ここで、「ケイ酸アルカリ」としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等を用いることができ、また無機充填材として、コレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分とした天然ガラスを用いるのは、コレマナイト及びウレキサイトに含有されるB23成分のガラス化により強固な塗膜が形成されるためである。なお、他の天然ガラスにコレマナイト及び/またはウレキサイトを混合させてもよいが、コレマナイト及び/またはウレキサイトの混合量は少なくとも無機充填材総量の約10重量%を必要とし、最適量は30重量%以上である。
【0023】
このように、コレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分としたB23成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合することによって、ワーク表面に膜厚5μm以下で塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一・平滑な欠陥の無い塗膜となる。
【0024】
そして、本発明にかかる水系無機塗料の塗装方法においては、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬してワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、ワークを温純水で洗浄して強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程とを経た後に、ワーク表面に水系無機塗料を塗布することによって、塗装前にワーク表面の不純物を完全に除去することができるとともにワーク表面に酸化皮膜が生成して密着性が向上するために、表面に微細な凹凸が生ずることもなく、気泡が発生することもなく、水跡に沿った欠陥が生ずることもなく、膜厚5μm以下で極めて平滑に塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一な欠陥の無い塗膜となる。
【0025】
このようにして、塗装前処理方法を確立することによって、薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【0026】
請求項3の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合した水系無機塗料の塗装方法であって、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流し、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬してワーク表面に酸化皮膜を生成させて、ワークを温純水で洗浄して強酸性水溶液を完全に洗い流し、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させて、ワーク表面に水系無機塗料を塗布する。
【0027】
ここで、「ケイ酸アルカリ」としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム等を用いることができ、また無機充填材としてコレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分とした天然ガラスを用いるのは、コレマナイト及びウレキサイトに含有されるB23成分のガラス化により強固な塗膜が形成されるためである。
【0028】
ケイ酸アルカリ100重量部に対して、硬化剤としてのケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛の合計添加量としては約10重量部が最適量であり、5重量部〜20重量部の範囲内で添加することによって、長時間放置しても安定な状態が保たれる。また、無機充填材としてのコレマナイト及び/またはウレキサイトの鱗片状天然ガラスの合計添加量としては約50重量部が最適量であり、20重量部〜80重量部の範囲内で添加することによって、長時間放置しても安定な状態が保たれる。したがって、通常の工場の稼動時間である8時間程度では、塗料としての特性が安定して保たれ、ワークに膜厚5μm以下で塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一・平滑な欠陥の無い塗膜となる。
【0029】
そして、本発明にかかる水系無機塗料の塗装方法においては、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬する工程と、ワークを温純水で洗浄して強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程とを経た後に、ワーク表面に水系無機塗料を塗布することによって、塗装前にワーク表面の不純物を完全に除去することができるとともにワーク表面に酸化皮膜が生成して密着性が向上するために、表面に微細な凹凸が生ずることもなく、気泡が発生することもなく、水跡に沿った欠陥が生ずることもなく、膜厚5μm以下で極めて平滑に塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一な欠陥の無い塗膜となる。
【0030】
このようにして、塗装前処理方法を確立することによって、薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【0031】
請求項4の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト及び/またはウレキサイトを主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合し、厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークを1重量部〜20重量部配合した水系無機塗料の塗装方法であって、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流し、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄し、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させて、ワーク表面に水系無機塗料を塗布する。
【0032】
このように、厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークをケイ酸アルカリ100重量部に対して1重量部〜20重量部配合するのは、ケイカル板のように軽量で吸水率が高く熱歪みの大きい被塗装物に対して、被覆力をより強くして安定した強固な塗膜を厚さ5μm以下の薄膜に形成するためである。
【0033】
そして、塗装前処理として塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流し、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄し、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させ、ワーク表面に水系無機塗料を塗布することによって、塗装前にワーク表面の不純物を完全に除去することができるとともにワーク表面に酸化皮膜が生成して密着性が向上するために、表面に微細な凹凸が生ずることもなく、気泡が発生することもなく、水跡に沿った欠陥が生ずることもなく、膜厚5μm以下で極めて平滑に塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一な欠陥の無い塗膜となる。
【0034】
このようにして、塗装前処理方法を確立することによって、薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【0035】
請求項5の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリにホウ酸塩を添加し、さらに無機充填材として厚さ0.01μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを混合した水系無機塗料の塗装方法であって、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流し、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬してワーク表面に酸化皮膜を生成させて、ワークを温純水で洗浄して強酸性水溶液を完全に洗い流し、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させて、ワーク表面に水系無機塗料を塗布する。
【0036】
無機充填材として鱗片状で透明なシリカを混合することによって、透明な塗膜が形成されて、十分な透光性を有するとともに靭性をも有する無機塗膜となり、受光により特性を発揮する太陽光発電システムのソーラーパネルや光反射により特性を発揮するミラー等の表面保護にも適する水系無機塗料となる。
【0037】
そして、塗装前処理として塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流し、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄し、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させ、ワーク表面に水系無機塗料を塗布することによって、塗装前にワーク表面の不純物を完全に除去することができるとともにワーク表面に酸化皮膜が生成して密着性が向上するために、表面に微細な凹凸が生ずることもなく、気泡が発生することもなく、水跡に沿った欠陥が生ずることもなく、膜厚5μm以下で極めて平滑に塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一な欠陥の無い塗膜となる。
【0038】
このようにして、塗装前処理方法を確立することによって、薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない透明な塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【0039】
請求項6の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ケイ酸アルカリ100重量部に、ホウ酸塩を0.5重量部〜35重量部添加し、さらに無機充填材として厚さ0.01μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを0.5重量部〜50重量部混合した水系無機塗料の塗装方法であって、塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流し、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬してワーク表面に酸化皮膜を生成させて、ワークを温純水で洗浄して強酸性水溶液を完全に洗い流し、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させて、ワーク表面に水系無機塗料を塗布する。
【0040】
無機充填材として鱗片状で透明なシリカを混合することによって、透明な塗膜が形成されて、十分な透光性を有するとともに靭性をも有する無機塗膜となり、受光により特性を発揮する太陽光発電システムのソーラーパネルや光反射により特性を発揮するミラー等の表面保護にも適する水系無機塗料となる。なお、シリカの混合量が0.5重量部未満の場合には塗膜の被覆力が不十分となり、また50重量部を超えると塗膜の透明性が低下するとともに塗料が高粘度になって均一に塗装するのが困難になるため、シリカの混合量は0.5重量部〜50重量部の範囲内が好ましい。
【0041】
そして、塗装前処理として塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄して強アルカリ性水溶液を完全に洗い流し、ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬し、ワークを温純水で洗浄し、ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させ、ワーク表面に水系無機塗料を塗布することによって、塗装前にワーク表面の不純物を完全に除去することができるとともにワーク表面に酸化皮膜が生成して密着性が向上するために、表面に微細な凹凸が生ずることもなく、気泡が発生することもなく、水跡に沿った欠陥が生ずることもなく、膜厚5μm以下で極めて平滑に塗布することができ、かかる薄膜としても強固かつ均一な欠陥の無い塗膜となる。
【0042】
このようにして、塗装前処理方法を確立することによって、薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない透明な塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【0043】
請求項7の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ワーク表面に水系無機塗料を塗布する工程が、ワークを回転させて遠心力を掛けながら水系無機塗料をワーク表面に噴射または滴下するものである。これによって、塗装前処理工程によって不純物が完全に除去されるとともに酸化皮膜が生成して密着性が向上したワーク表面に、遠心力によって余分な水系無機塗料を除去することにより確実に厚さ5μm以下の薄膜の無機塗膜を形成することができる。
【0044】
このようにして、遠心塗装方法を用いるとともに、塗装前処理方法を確立することによって、より確実に薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【0045】
請求項8の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、ワーク表面に水系無機塗料を塗布する工程が、水系無機塗料をワーク表面に噴射または滴下させながらワーク表面に高圧エアをワーク表面に平行な方向に吹き付けるものである。塗装前処理工程によって不純物が完全に除去されるとともに酸化皮膜が生成して密着性が向上したワーク表面に、高圧エアによって余分な水系無機塗料を吹き飛ばして除去することにより、確実に厚さ5μm以下の薄膜の無機塗膜を形成することができる。
【0046】
このようにして、延伸塗装方法を用いるとともに、塗装前処理方法を確立することによって、より確実に薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【0047】
請求項9の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法においては、強アルカリ性水溶液がpH12〜pH14の範囲内に調整されている。本発明者が鋭意実験研究を積み重ねた結果、pH10以上に調整される強アルカリ性水溶液がpH12〜pH14の範囲内である場合に最も優れた塗膜を得ることができることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0048】
このようにして、塗装前処理方法を確立することによって、より確実に薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【0049】
請求項10の発明にかかる水系無機塗料の塗装方法は、強酸性水溶液がpH4前後に調整されている。本発明者が鋭意実験研究を積み重ねた結果、pH5以下に調整される強酸性水溶液がpH4前後である場合に最も優れた塗膜を得ることができることを見出し、この知見に基いて本発明を完成したものである。
【0050】
このようにして、塗装前処理方法を確立することによって、より確実に薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜が得られる水系無機塗料の塗装方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0052】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1にかかる水系無機塗料の塗装方法について、図1及び図2を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態1にかかる水系無機塗料の塗装方法の各工程を示すフローチャートである。図2は本発明の実施の形態1にかかる水系無機塗料の塗装方法に用いられる遠心塗装装置の全体構造を示す斜視図である。
【0053】
図1に示されるように、本実施の形態1にかかる水系無機塗料の塗装方法は、まず水系無機塗料製造工程S1において、水系無機塗料を製造することから始まる。本実施の形態1にかかる水系無機塗料の製造方法は、ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム50重量部及びケイ酸リチウム50重量部、硬化剤としてケイ酸カルシウム5重量部及びリン酸亜鉛10重量部、無機充填材として平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト115重量部、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレーク10重量部を、水50重量部とともにボールミルで3時間粉砕混合して、本実施の形態1にかかる水系無機塗料を得た。
【0054】
次に、ワークとしてのアルミホイールについて、ステップS2〜ステップS6までの前処理工程において塗装表面の前処理を実施する。まず、強アルカリ浸漬工程S2においては、ワークとしてのアルミホイールを、pH12に調整したケイ酸ナトリウムを主成分とする強アルカリ水溶液を60℃〜70℃に加熱したものに5分間〜10分間浸漬して、引き上げたアルミホイールを温純水洗浄工程S3において温純水で十分に洗浄して、強アルカリ水溶液を完全に洗い流す。続いて、強酸浸漬工程S4において、アルミホイールをpH4に調整したリン酸を主成分とする強酸水溶液に5分間〜10分間浸漬して、引き上げたアルミホイールを温純水洗浄工程S5において温純水で十分に洗浄して、強酸水溶液を完全に洗い流す。
【0055】
その後、乾燥工程S6においてアルミホイール表面に残った純水を、水跡が残らないようにしながら十分に乾燥させる。こうして前処理を終了したワークとしてのアルミホイールは、直ちに図2に示される遠心塗装装置1において、図1のステップS1で製造された水系無機塗料をアルミホイールW1の両側面Waに塗装される(遠心塗層工程S7)。
【0056】
図2に示されるように、本実施の形態1にかかる遠心塗装装置1は、回転制御ボックス2Aと塗装ボックス2Bを有しており、回転制御ボックス2Aから塗装ボックス2Bを貫通して、回転シャフト3が回転自在かつ塗装ボックス2Bから回転制御ボックス2Aへ水系無機塗料が入らないようにシールした状態で、支持されている。この回転シャフト3の下方にはプーリー3aが固定されており、回転制御ボックス2A内に設けられた回転モータ5の回転軸先端に固定されたプーリー5aと、ベルト4によって回転力伝達可能に接続されている。
【0057】
一方、回転シャフト3の上端には塗装ボックス2B内においてワーク固定部3bが設けられており、このワーク固定部3bにワークとしてのアルミホイールW1が回転シャフト3と一体に回転可能に固定されている。回転シャフト3の回転開始・回転速度・回転停止の制御は、回転制御ボックス2A内に設けられたインバータ内蔵の回転制御盤6によって行われる。
【0058】
さらに、塗装ボックス2B内の上部には塗料噴射供給装置8が設けられており、回転制御ボックス2Aの外側に設けられた操作盤7のスイッチを操作することによって、回転制御盤6に制御されて回転モータ5が稼動してアルミホイールW1が回転シャフト3と一体に回転し、塗料噴射供給装置8の底面全体から水系無機塗料がアルミホイールW1の側面Waに噴射される。
【0059】
このようにして、回転シャフト3を回転モータ5で回転制御盤6により制御される所定の回転数で高速回転させながら、回転シャフト3と一体に高速回転するアルミホイールW1の側面Waに塗料噴射供給装置8で水系無機塗料を噴射することによって、余分な水系無機塗料は遠心力で除去されて5μm以下の薄膜の塗膜が形成される。アルミホイールW1の一方の側面Waの遠心塗装が終了したら、アルミホイールW1をワーク固定部3bから外して他方の側面Waを上面として固定し直して、同様にして遠心塗装を実施する。
【0060】
アルミホイールW1の両側面Waの塗装が終了したら、アルミホイールW1をワーク固定部3bから外し塗装ボックス2Bから取出して、図1に示される塗膜乾燥工程S8を実施する。即ち、塗装済みアルミホイールW1を熱風乾燥機に入れて、まず100℃で5分間加熱し、続いて15分かけて250℃まで昇温し、250℃で10分以上加熱する。このようにゆっくり昇温することによって、気泡の発生を確実に防止することができ、塗膜厚さ約2μmの平滑で強靭な、かつ欠陥のない無機塗膜を得ることができた。
【0061】
本実施の形態1にかかる水系無機塗料の塗装方法による塗膜の特性として、塗膜硬度(9H以上)、超親水性(水接触角10度以下)、耐熱性(500℃)、耐摩耗性(スポンジタワシ10000回)、耐候性(5年以上)と、他の有機塗料・無機系塗料に対し、比類するものがない性能を持っている。
【0062】
このようにして、本実施の形態1にかかる水系無機塗料の塗装方法においては、遠心塗装方法を用いるとともに、塗装前処理方法及び塗膜乾燥方法を確立することによって、より確実に薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜を得ることができる。
【0063】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2にかかる水系無機塗料の塗装方法について、図1乃至図3を参照して説明する。図3は本発明の実施の形態2にかかる水系無機塗料の塗装方法における遠心塗装装置のワーク保持具の構造を示す斜視図である。
【0064】
本実施の形態2にかかる水系無機塗料の塗装方法も、図1に示される手順に従って実施される。まず、水系無機塗料製造工程S1において、水系無機塗料が製造される。本実施の形態2にかかる水系無機塗料の製造方法は、配合が実施の形態1とは異なる。即ち、ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム100重量部に対して、ホウ酸カルシウム11重量部、厚さ0.1μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカ7.2重量部を、水50重量部とともにボールミルで30分間粉砕混合して、本実施の形態2にかかる水系無機塗料を得た。
【0065】
次に、ワークとしての無色透明ガラス板について、図1のステップS2〜ステップS6までの前処理工程において塗装表面の前処理が実施される。これらの前処理工程における処理条件は、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。前処理を終了したワークとしての透明ガラス板は、直ちに図2に示される遠心塗装装置1によって、図1のステップS1で製造された水系無機塗料が透明ガラス板の片面に塗装される(遠心塗層工程S7)。
【0066】
ここで、図3に示されるように、ワークとしての正方形板形状の透明ガラス板W2に遠心塗装を実施するためには、回転シャフト3の上端のワーク固定部3bに専用のワーク保持具9を取付ける必要がある。かかる専用のワーク保持具9によって正方形板形状の透明ガラス板W2を確実に固定することができ、高速回転による遠心力に耐えることができる。そこで、実施の形態1と同様にして透明ガラス板W2の片面に遠心塗装を行った後、図1に示される塗膜乾燥工程S8を実施した。
【0067】
即ち、塗装済み透明ガラス板W2を熱風乾燥機に入れて、まず100℃で5分間加熱し、続いて15分かけて250℃まで昇温し、250℃で10分以上加熱した。これによって、塗膜厚さ約2μmの透明で平滑で強靭な、かつ欠陥のない無機塗膜を得ることができた。本実施の形態2においては、透明ガラス板W2の透光性を損なうことなく表面硬度等の特性を向上させるため、塗膜が透明になる鱗片状で透明なシリカを配合した水系無機塗料を使用した。
【0068】
このようにして、本実施の形態2にかかる水系無機塗料の塗装方法においては、遠心塗装方法を用いるとともに、塗装前処理方法及び塗膜乾燥方法を確立し、透明水系無機塗料を用いることによって、より確実に薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない透明な塗膜を得ることができる。
【0069】
実施の形態3
次に、本発明の実施の形態3にかかる水系無機塗料の塗装方法について、図1及び図4を参照して説明する。図4(a)は本発明の実施の形態3にかかる水系無機塗料の塗装方法における延伸塗装装置の全体構造を示す斜視図、(b)は延伸塗装装置による塗装方法を示す説明図である。
【0070】
本実施の形態3にかかる水系無機塗料の塗装方法も、図1に示される手順に従って実施される。但し、ステップS7の遠心塗装装置1を用いた遠心塗装工程が、延伸塗装装置11を用いた延伸塗装工程S7となる点が異なる。まず、水系無機塗料製造工程S1において、水系無機塗料が製造される。本実施の形態3にかかる水系無機塗料の製造方法は、配合が実施の形態1及び実施の形態2とは異なる。
【0071】
即ち、ケイ酸アルカリとしてケイ酸ナトリウム70重量部及びケイ酸リチウム30重量部、硬化剤としてケイ酸カルシウム12重量部及びリン酸亜鉛7重量部、無機充填材として平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の鱗片状としたコレマナイト14重量部及びウレキサイト3重量部、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレーク1重量部を、水150重量部とともにボールミルで3時間粉砕混合して、本実施の形態3にかかる水系無機塗料を得た。
【0072】
次に、ワークとしてのステンレス板について、図1のステップS2〜ステップS6までの前処理工程において塗装表面の前処理が実施される。これらの前処理工程における処理条件は、実施の形態1,2と同様であるので説明を省略する。前処理を終了したワークとしてのステンレス板は、直ちに図4に示される延伸塗装装置11によって、図1のステップS1で製造された水系無機塗料がワークとしてのステンレス板W3の片面に塗装される(延伸塗層工程S7)。
【0073】
図4(a)に示されるように、本実施の形態3にかかる延伸塗装装置11はステンレス製の塗装ボックス12を有しており、塗装ボックス12の底面に平行に固定されたステンレス金網からなるワーク支持台13に、ワークとしてのステンレス板W3が載置される。塗装ボックス12の両側面内側にはガイドレール12A,12Bが固定されており、これらのガイドレール12A,12Bに移動式塗装装置14の図示しない複数のガイドローラが嵌合しており、これらの複数のガイドローラが移動式塗装装置14に内蔵された図示しない駆動モータで回転することによって、移動式塗装装置14が矢印のように塗装ボックス12内を移動する。
【0074】
移動式塗装装置14内には、図4(a)に破線で示されるように、無機塗料滴下器15及び高圧エア噴出器16が備えられており、図4(b)に示されるように、移動式塗装装置14が矢印のように塗装ボックス12内を移動しながら、無機塗料滴下器15からワークとしてのステンレス板W3上に上述の水系無機塗料が滴下され、高圧エア噴出器16の先端からステンレス板W3の表面に平行な方向に高圧エアが吹き付けられることによって、水系無機塗料がステンレス板W3の表面全体に拡げられるとともに、余分な水系無機塗料が高圧エアで吹き飛ばされて除去される。除去された余分な水系無機塗料は、ステンレス金網からなるワーク支持台13の網目から下方へ流れ落ちる。
【0075】
このように、塗装前処理工程(ステップS2〜ステップS6)によって不純物が完全に除去されるとともに酸化皮膜が生成して密着性が向上したステンレス板W3の表面に、水系無機塗料を滴下しながら高圧エアによって余分な水系無機塗料を吹き飛ばして除去することによって、確実に厚さ5μm以下の薄膜の無機塗膜を形成することができる。
【0076】
かかる延伸塗装装置11による延伸塗装工程S7を行った後に、図1に示される塗膜乾燥工程S8を実施した。即ち、塗装済みステンレス板W3を熱風乾燥機に入れて、まず100℃で5分間加熱し、続いて15分かけて250℃まで昇温し、250℃で10分以上加熱した。これによって、塗膜厚さ約3μmの平滑で強靭な、かつ欠陥のない無機塗膜を得ることができた。
【0077】
このようにして、本実施の形態3にかかる水系無機塗料の塗装方法においては、延伸塗装方法を用いるとともに、塗装前処理方法及び塗膜乾燥方法を確立することによって、より確実に薄膜(厚さ5μm以下)で平滑であり強靭で気泡のない塗膜を得ることができる。
【0078】
上記各実施の形態においては、塗装する水系無機塗料として、ケイ酸アルカリ、ケイ酸カルシウム及びリン酸亜鉛、鱗片状としたコレマナイト及びウレキサイト、さらに極薄厚み0.5μm以下のガラスフレークを含有する水系無機塗料、或いはケイ酸アルカリ、ホウ酸カルシウム、鱗片状で透明なシリカを含有する水系無機塗料を用いた場合について説明したが、これらに限られるものではなく、本発明の水系無機塗料の塗装方法は、その他の種々の水系無機塗料について適用することができる。
【0079】
本発明を実施するに際しては、水系無機塗料の塗装方法のその他の工程についても、水系無機塗料の構成、成分、配合、形状、数量、材質、大きさ、製造方法等についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は本発明の実施の形態1にかかる水系無機塗料の塗装方法の各工程を示すフローチャートである。
【図2】図2は本発明の実施の形態1にかかる水系無機塗料の塗装方法に用いられる遠心塗装装置の全体構造を示す斜視図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態2にかかる水系無機塗料の塗装方法における遠心塗装装置のワーク保持具の構造を示す斜視図である。
【図4】図4(a)は本発明の実施の形態3にかかる水系無機塗料の塗装方法における延伸塗装装置の全体構造を示す斜視図、(b)は延伸塗装装置による塗装方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0081】
1 遠心塗装装置
11 延伸塗装装置
W1,W2,W3 ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、
前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、
前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、
前記ワーク表面に水系無機塗料を塗布する工程と
を具備することを特徴とする水系無機塗料の塗装方法。
【請求項2】
ケイ酸アルカリに、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を添加し、無機充填材として、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分としたB23成分溶出作用を有する天然ガラスを平均粒径30μmで厚み1.0μm以下の微細な鱗片状として混合した水系無機塗料の塗装方法であって、
塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、
前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、
前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、
前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程と
を具備することを特徴とする水系無機塗料の塗装方法。
【請求項3】
ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合した水系無機塗料の塗装方法であって、
塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、
前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、
前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、
前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程と
を具備することを特徴とする水系無機塗料の塗装方法。
【請求項4】
ケイ酸アルカリ100重量部に、硬化剤としてケイ酸カルシウム及び/またはリン酸亜鉛を合計5重量部〜20重量部添加し、コレマナイト(2CaO,3B23,5H2O)及び/またはウレキサイト(Na2O,2CaO,5B23,16H2O)を主成分としたB23成分溶出作用を有する鱗片状天然ガラスを合計20重量部〜80重量部混合し、厚み0.5μm以下の極薄状のガラスフレークを1重量部〜20重量部配合した水系無機塗料の塗装方法であって、
塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、
前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、
前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、
前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程と
を具備することを特徴とする水系無機塗料の塗装方法。
【請求項5】
ケイ酸アルカリにホウ酸塩を添加し、さらに無機充填材として厚さ0.01μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを混合した水系無機塗料の塗装方法であって、
塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、
前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、
前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、
前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程と
を具備することを特徴とする水系無機塗料の塗装方法。
【請求項6】
ケイ酸アルカリ100重量部に、ホウ酸塩を0.5重量部〜35重量部添加し、さらに無機充填材として厚さ0.01μm〜0.5μm、径2μm〜5μmの鱗片状で透明なシリカを0.5重量部〜50重量部混合した水系無機塗料の塗装方法であって、
塗装されるワークをpH10以上の強アルカリ性水溶液に浸漬する工程と、
前記強アルカリ性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強アルカリ性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワークをpH5以下の強酸性水溶液に浸漬して前記ワーク表面に酸化皮膜を生成させる工程と、
前記強酸性水溶液から引き上げた前記ワークを温純水で洗浄して前記強酸性水溶液を完全に洗い流す工程と、
前記ワーク表面に水跡が残らないようにしながら乾燥させる工程と、
前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程と
を具備することを特徴とする水系無機塗料の塗装方法。
【請求項7】
前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程は、前記ワークを回転させて遠心力を掛けながら前記水系無機塗料を前記ワーク表面に噴射または滴下するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の水系無機塗料の塗装方法。
【請求項8】
前記ワーク表面に前記水系無機塗料を塗布する工程は、前記水系無機塗料を前記ワーク表面に噴射または滴下させながら前記ワーク表面に高圧エアを前記ワーク表面に平行な方向に吹き付けるものであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の水系無機塗料の塗装方法。
【請求項9】
前記強アルカリ性水溶液はpH12〜pH14の範囲内に調整されていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1つに記載の水系無機塗料の塗装方法。
【請求項10】
前記強酸性水溶液はpH4前後に調整されていることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1つに記載の水系無機塗料の塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−326543(P2006−326543A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−156853(P2005−156853)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(505199739)株式会社五合 (11)
【Fターム(参考)】