説明

水素センサー

【課題】非水素成分による有害な影響や水素による劣化を抑制でき、更に、高感度で水素ガスを検出できる水素センサーを提供する。
【解決手段】 セラミックス基板4と、該セラミックス基板4上に順次形成される下層セラミックス保護膜6及び上層セラミックス保護膜8と、前記上層セラミックス保護膜8及び下層セラミックス保護膜6の間に埋設される水素検知膜10と、前記上層セラミックス保護膜8の表面であって前記水素検知膜8の両縁部近傍に形成される一対の電極20a、20bとからなる水素センサー2であって、少なくとも前記上層セラミックス保護膜8がセラミックス材料16、18中に水素透過性金属粒子12、14を分散させてなる複合材料保護膜で形成されてなる水素センサーとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを検知するセンサー(以下、水素センサーと称す)に関する。詳しくは、燃料電池自動車、家庭用燃料電池等で用いられる水素ガスの漏れを検知するのに用いる水素センサー、或は水素濃度を制御する等の用途に好適な水素センサーに関する。更には、ハンディタイプの水素ガス警報機や定置タイプの水素ガス警報機等の水素ガス警報機への用途、若しくは水素ガス濃度計への用途などにも転用可能な水素センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
水素センサーに関しては、従来から種々の提案がされている。図11は、従来の水素センサーの一例(特許文献1)を示す概念図である。この水素センサー72は、電気絶縁性を有するガラス又はセラミックスからなる基板74上に希土類金属膜からなる水素検知膜76が形成してあり、その水素検知膜76上に保護膜78が形成してある。この保護膜78は、セラミックス材料80中に水素透過性金属粒子82を均一に分散してなる。
【特許文献1】特開2005−274559号公報 (特許請求の範囲、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
水素センサーにおいて、セラミックスのような多孔質材料を基板に用いる場合、酸素や水蒸気などの雰囲気ガスは基板を透過する。透過した雰囲気ガスは希土類金属等からなる水素検知膜の劣化に寄与する。他方、ガラスのような非孔質材料を基板に用いる場合は、基板は雰囲気ガスに対して不透過性を有しているため、雰囲気ガス透過については問題ない。
【0004】
基板に成膜される水素検知膜は、その厚さが小さいので基板の表面粗さが膜の表面粗さにそのまま反映される。そのため、ガラスのような表面の平滑な材料を基板に用いる場合、基板に成膜される膜は表面積が小さく、水素検知膜としての感度が低くなる。他方、セラミックスのような表面に適度な凹凸を有する材料を基板に用いる場合は、基板に成膜される膜は表面積が大きくなり、水素検知膜としての感度が高くなる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、その目的とするところは非水素成分による有害な影響や水素による劣化を抑制でき、更に、高感度で水素ガスを検出できる水素センサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に記載するものである。
【0007】
〔1〕 セラミックス基板と、該セラミックス基板上に順次形成される下層セラミックス保護膜及び上層セラミックス保護膜と、前記上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜の間に埋設される水素検知膜と、前記上層セラミックス保護膜の表面であって前記水素検知膜の両縁部近傍に形成される一対の電極とからなる水素センサーであって、少なくとも前記上層セラミックス保護膜がセラミックス材料中に水素透過性金属粒子を分散させてなる複合材料保護膜で形成されてなる水素センサー。
【0008】
〔2〕 上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜がセラミックス材料中に水素透過性金属粒子を分散させてなる複合材料保護膜で形成されてなる〔1〕に記載の水素センサー。
【0009】
〔3〕 上層セラミックス保護膜がセラミックス材料中に水素透過性金属粒子を分散させてなる複合材料保護膜で形成されてなり、下層セラミックス保護膜が水素透過性金属粒子を含まない〔1〕に記載の水素センサー。
【0010】
〔4〕 セラミックス材料が、AlNx1、AlOx2、SiNx3 及びSiOx4(但し、0.5≦x1≦1、0.8≦x2≦1.5、0.7≦x3≦1.3、1≦x4≦2)よりなる群から選ばれる少なくとも1種で構成される請求項1に記載の水素センサー。
【0011】
〔5〕 水素検知膜がイットリウム、セリウム及びランタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種で構成される〔1〕に記載の水素センサー。
【0012】
〔6〕 水素検知膜の厚さが50〜1000nmであり、上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜の厚さが5〜100nmである〔1〕に記載の水素センサー。
【0013】
〔7〕 セラミックス基板がAl23、AlN及びSi34よりなる群から選ばれる少なくとも1種で構成される〔1〕に記載の水素センサー。
【0014】
〔8〕 セラミックス基板の表面粗さRaが10〜750nmである〔1〕に記載の水素センサー。
【0015】
〔9〕 水素透過性金属粒子が、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びタンタル(Ta)よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる〔1〕に記載の水素センサー。
【0016】
〔10〕 複合材料中の水素透過性金属粒子の含有割合が20〜70質量%である〔1〕に記載の水素センサー。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水素センサーは、上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜の間に水素検知膜を埋設しているので、水素検知膜は直接外気と触れることがない。このため、非水素成分による有害な影響や水素による水素検知膜の劣化を抑制でき、水素センサーの耐久性を向上できる。また、本発明の水素センサーは、表面に適度な凹凸を有するセラミックス材料を基板に用いているので、高感度で水素ガスを検出できる。即ち、水素ガスに対する応答性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明につき、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の水素センサーの一例を示す概念図である。図1中、2は水素センサーで、4はセラミックス基板である。セラミックス基板4上に下層セラミックス保護膜6及び上層セラミックス保護膜8が順次形成してある。上層セラミックス保護膜8及び下層セラミックス保護膜6の間には、水素検知膜10が埋設してあり、水素検知膜は、上層及び下層セラミックス保護膜8、6で気密に被覆され、外気に直接曝されることはない。
【0020】
前記上層セラミックス保護膜8の両縁部には、一対の素子電極20a、20bが形成してある。
【0021】
前記上層セラミックス保護膜8及び下層セラミックス保護膜6は、それぞれ、多数の水素透過性金属粒子12、14をマトリックスであるセラミックス材料16、18の中にほぼ均一に分散してなる。
【0022】
水素透過性金属粒子12、14の粒子径は1〜10nmで、2〜6nmが好ましい。且つ、粒子径は、上層セラミックス保護膜8及び下層セラミックス保護膜6の厚さt8、t6よりも小さい。図1中の、t10は水素検知膜10の厚みを示す。
【0023】
図2は、本発明の水素センサーの他の例を示す概念図である。図2の例の水素センサー22は、下層セラミックス保護膜6のマトリックスであるセラミックス材料18中に水素透過性金属粒子を含んでいない以外は、図1の例の水素センサー2と同様に形成してある。図2中の水素センサー22以外の符号は図1と同様である。
【0024】
図3は本発明の水素センサーの一例を示す平面図である。図3中、32は水素センサーであり、34はセラミックス基板である。セラミックス基板34上には一対の素子電極36a、36bが互いに対向して形成してある。38a、38bはセンサー信号取り出し用ワイヤーで、前記素子電極36a、36bに接続している。40は水素検知膜である。42は上層セラミックス保護膜で、前記水素検知膜40を完全に覆って成膜してある。従って、水素検知膜40は、図3中には図示されていない。
【0025】
図4は、図3の水素センサーの背面図である。図4中44は金属抵抗体で形成したヒーター、46a、46bはヒーター電極で、前記ヒーター44と接続している。48a、48bは、前記ヒーター44に加熱用の電力を供給する配線である。
【0026】
図5は本発明の水素センサー52を組込んだセンサーユニットの一例を示す断面図である。図5中、54は水素が通過するフィルター、56はキャップ、56aはキャップ56に形成した通気口である。水素を含んだ外気等の雰囲気ガスがこの通気口56aを通り、更にフィルター54内を拡散して水素センサー52に到達して水素濃度が検出される。58はピン、60はプレート、62はグロメット、64はコード、66はコネクターである。これらコネクター66、コード64、ピン58を介して、水素センサー52のヒーターに加熱用電力が供給され、またこれらを介して水素センサーの出力が外部に取り出される。
【0027】
図6は、本発明の水素センサーの製造方法の一例を示す工程図である。先ず、基板にプラチナ等を含有する抵抗ペーストを用いてヒーターパターンを印刷し、これを焼成することにより薄膜ヒーターが形成される。次いで、ヒーター用の電極を形成するため、金ペースト等を用いて電極パターンを印刷し、これを焼成する。同様に、金ペースト等を用いて素子電極パターンを印刷し、これを焼成して水素センサー製造用基板を得る。この水素センサー用基板上に順次、下層セラミックス保護膜、水素検知膜、上層セラミックス保護膜を成膜する。最後に、前記上層セラミックス保護膜の表面であって前記水素検知膜の両縁部近傍に一対の電極を成膜して水素センサーを得る。
【0028】
水素検知膜の両縁部近傍に電極を形成させることにより、水素検知時の応答速度の向上を図ることができる。
【0029】
得られた水素センサーに、キャップ、プレート、コード等を組み込んで水素センサーユニットを製造する。得られた水素センサーユニットは必要に応じて品質検査に供し、品質に問題の無いものが水素センサーユニットとして製品化される。
【0030】
図7は、本発明の水素センサーの信号及びヒーター温度を制御する制御部の一例を示すブロック図である。制御部の基準電流発生回路で、電源から供給される電流が定電流に変換されてセンサー・ヒーター部に送られる。センサー・ヒーター部内の水素センサーが水素ガスを検知して生ずる水素センサーの抵抗変化や電圧変化は、変換/出力校正回路に送られ、更にセンサー信号処理回路で信号処理をされた後、信号処理回路からセンサー出力(水素ガス濃度測定値)として取出される。一方、水素センサーが所定の設定温度となるように、温度制御回路でヒーターの出力が制御される。
【0031】
図8は、水素センサーの信号及びヒーター温度を制御する制御部の一例を示す回路図である。この回路において、図7で説明した水素濃度測定値がセンサー出力として取出される。また、図7で説明した水素センサーの温度がヒーター出力調整回路により制御される。
【0032】
次いで、本発明の水素センサーの各構成部材について説明する。
【0033】
(セラミックス基板)
本発明の水素センサーの基板は、セラミックス材料で形成している。そのため、セラミックス基板の表面は適度の凹凸があり、そのセラミックス基板の表面粗さRaは10〜750nmが好ましい。即ち、水素検知膜はセラミックス基板の凹凸に倣って成膜されるため、水素検知膜の表面も凹凸になり、結果的に水素検知膜の表面積を大きく確保することができ、感度の増大を図ることが可能である。
【0034】
上記セラミックス基板は、Al23(アルミナ)、AlN及びSi34よりなる群から選ばれる少なくとも1種で構成されることが好ましく、特にアルミナで構成されることが以下の理由で好ましい。
・セラミックス基板がアルミナ基板の場合、アルミナ以外の多結晶基板に比べて安価で、コスト面に優れる。
・セラミックス基板がアルミナ基板の場合、アルミナは熱伝導性が良く、水素センサーを加熱して用いる場合、熱応答性の面で有利である。
・セラミックス基板がアルミナ基板の場合、アルミナは化学的に安定で、高濃度水素雰囲気などでも基板の機能が保たれる(水素脆化がない。酸素や水蒸気などの雰囲気ガスの影響を受けない。)という特長を有しており、水素センサーの基板として使用するメリットが大きい。
【0035】
(下層セラミックス保護膜、上層セラミックス保護膜)
本発明の水素センサーのセラミックス基板上に形成されてなる上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜は、少なくとも上層セラミックス保護膜がセラミックス材料中に水素透過性金属粒子が分散した複合材料からなる薄膜状の複合材料保護膜で構成される。
【0036】
複合材料中の水素透過性金属の含有割合は20〜70質量%であることが好ましく、40〜60質量%がより好ましい。この含有割合が20質量%未満であると、複合材料保護膜を透過する水素ガス量が減少し、上層セラミックス保護膜と下層セラミックス保護膜の間に埋設された水素検知膜に、水素ガスを供給する性能が不十分になる。一方、この含有割合が70質量%を超えると、複合材料保護膜の水素化に起因する複合材料保護膜の劣化が顕著となる。また、水素検知膜への水素透過性金属の拡散が顕著となり、その結果水素検知膜の水素検知性能の低下が著しくなる。
【0037】
更に、水素透過性金属粒子の含有割合が70質量%を超える複合材料保護膜は、その膜厚を薄くすると複合材料保護膜の機械的強度が不十分となる。このため、膜厚が5〜100nmの複合材料保護膜を製造することが困難となる。
【0038】
図1の例のように上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜の両者が複合材料保護膜で形成されてなる場合は、従来水素検知膜の表方向(基板とは反対側)のみであった水素ガスの導入経路が裏方向(基板側)からも形成される。このことにより、水素に対する応答性の向上も可能となる。
【0039】
即ち、上層の複合材料保護膜と下層の複合材料保護膜の間に水素検知膜を埋設する構造(サンドイッチ構造)を採用することにより、酸素や水蒸気などの雰囲気ガスによる希土類金属膜の劣化を回避できることに併せて、基板側からの水素ガス検知能を付与することで水素ガスに対する応答性の向上を図ることが可能となる。
【0040】
複合材料保護膜を構成する水素透過性金属粒子としては、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びタンタル(Ta)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなる粒子が好ましい。水素透過性金属粒子は上記金属の合金であっても良い。これらのうちPdの合金が特に好ましい。
【0041】
これらの水素透過性金属粒子は、単体金属元素粒子としてセラミックス材料中に分散させても良く、前記合金の粒子として分散させても良い。水素透過性金属の合金は、従来から水素透過膜に用いられている合金が使用できる。例えば、合金元素としては、カルシウム、鉄、銅、バナジウム、ニッケル、チタン、クロム、ジルコニウム等を挙げることができる。水素透過性金属粒子の粒径は1〜10nmが好ましく、2〜6nmがより好ましい。
【0042】
下層セラミックス保護膜が複合材料保護膜で構成される場合は、前記セラミックス基板の上にセラミックス材料と水素透過性金属とを同時に気相成長させる方法、或は、スパッタリングする方法により成膜することができる。上層セラミックス保護膜が複合材料保護膜で構成される場合は、水素検知膜の上にセラミックス材料と水素透過性金属とを同時に気相成長させる方法、或は、スパッタリングする方法により成膜することができる。
【0043】
セラミックス材料がAlNx1の場合は、成膜材料にAl金属を用い、水素透過性金属と共に窒素ガスの雰囲気下で成膜する。セラミックス材料がAlOx2の場合は、成膜材料にAl金属を用い、水素透過性金属と共に酸素ガスの雰囲気下で成膜する。セラミックス材料が、SiNx3、やSiOx4の場合は、Al金属に替えて珪素を用いる以外は上記AlNx1、AlOx2の場合と同様に成膜することができる。
【0044】
複合材料保護膜は、例えば、アルミニウムターゲットの上にアルミニウムターゲットよりも小面積のPdチップを載置した複合ターゲットを用い、前記ターゲットの上方に基板を取付けた状態で、複合ターゲットをスパッタすることにより成膜出来る。スパッタはアルゴンと窒素の混合ガス雰囲気で行う。この方法により、Pd(水素透過性金属)とAlNX1(セラミックス材料)との混合物(分散物)として、上記セラミックス基板又は水素検知膜の上に複合材料保護膜を製作することができる。
【0045】
上記複合材料保護膜の厚みは5〜100nmが好ましく、7〜25nmがより好ましい。この厚みが5nm未満の場合は、希土類金属膜に対する窒素、酸素、アンモニア、炭化水素等の非水素成分の有害な影響を十分抑止できないことがある。一方、厚みが100nmを超える場合は、水素透過能が不十分となる。その結果、水素ガス濃度の測定精度が不足することがある。或は、応答時間が長くなることがある。更に、製造コストの低減効果が少なくなる。
【0046】
尚、水素透過性金属としてPdを用いると、Pdは水素ガスと他のガスの分離能に優れるので保護膜の厚みを特に薄くすることができる。
【0047】
上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜は何れの膜も、1層であっても良く、2層以上設けられていても良い。保護膜が2層以上の場合、各層の厚みは2〜50nmが好ましく、4〜15nmがより好ましい。尚、保護膜が2層以上の場合、その組成が同一であっても良く、異なるものであっても良い。
【0048】
保護膜を2層設ける場合、1層目がPd+AlNx1、2層目がPd+AlOx2の構成の保護膜が例示できる。
【0049】
(セラミックス材料)
図1中の水素透過性金属粒子を分散しているマトリックス層を構成するセラミックス材料16、18(図2中ではセラミックス材料16)には、アルミニウム(Al)又は珪素(Si)の窒化物、及び/又は酸化物を用いることができる。或は希土類金属の珪化物を用いることができる。これらのセラミックス材料のうち、AlNx1、AlOx2、SiNx3、SiOx4(但し、0.5≦x1≦1、0.8≦x2≦1.5、0.7≦x3≦1.3、1≦x4≦2)が好ましい。
【0050】
また、希土類金属の珪化物として、イットリウム(Y)、ランタン(La)等の珪化物を挙げることができる。
【0051】
これらのセラミックス材料のうち、AlNx1は、硬度が高く、強度が大きいので、水素化による水素透過性金属の粉化を効果的に抑制できるので特に好ましい。
【0052】
(水素検知膜)
上記水素検知膜は、水素検知機能を有する希土類金属を主成分とする。希土類金属はイットリウム、セリウム及びランタンより成る群から選ばれる少なくとも1種であることが、水素検知能力に優れるので好ましい。希土類金属膜は、例えば、真空雰囲気下で基板上に希土類金属を気相成長法又はアルゴン雰囲気下でスパッタリング法で成膜することができる。
【0053】
水素検知膜の厚みは5〜1000nmが好ましい。この厚みが5nm未満の場合、水素検知膜の強度が不足することがある。一方、厚みが1000nmを超えると、製造コストが高くなる。
【0054】
本発明における水素検知膜の厚みは目的に応じて決めることが好ましい。測定する水素ガス濃度が、例えば1容量%以下、特に5000ppm未満のような比較的低濃度の場合は、好ましい厚みは100nm未満であり、50nm以下がより好ましい。
【0055】
このような低濃度の水素ガスを検出する用途としては、例えば水素ガス漏れ検知器を挙げることができる。測定する水素ガスが、例えば5容積%以上のような比較的高濃度の場合は、好ましい厚みは100nm以上、特に300nm以上である。このような高濃度の水素ガスを検出する用途としては、例えば装置内の水素ガス濃度の制御用の水素センサーを挙げることができる。
【0056】
水素検知膜は、例えばイットリウムやランタン等の希土類金属をアルゴン雰囲気でスパッタし、下層セラミックス保護膜上に成膜することにより得られる。
【0057】
(水素センサーの製造方法)
本発明の水素センサーは、基板の少なくとも片面に気相成長法又はスパッタリング法により下層セラミックス保護膜を形成させ、次いで該下層セラミックス保護膜の上に気相成長法又はスパッタリング法により希土類金属膜を形成させ、次いで該希土類金属膜の上に気相成長法又はスパッタリング法により上層セラミックス保護膜を成膜し、最後に気相成長法又はスパッタリング法によりAu等の電極を成膜することにより製造することができる。
【0058】
セラミックス基板には、加熱ヒーターを設けることが好ましい。加熱ヒーターは、プラチナ、酸化ルテニウム、銀−パラジウム合金等の薄膜で基板表面に所定のパターンを形成した薄膜抵抗体が好ましい。
【実施例】
【0059】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
高周波マグネトロンスパッタリング装置を用い、セラミックス基板上に、図1に示す水素センサーを作製した。
【0061】
先ず、高周波マグネトロンスパッタリング装置内にセラミックス基板と、パラジウムチップをその上面に載置したアルミニウムターゲットとを配置し、同装置内にアルゴンガスと窒素ガス(体積比85:15Pa)を導入し、圧力9.3×10-1Pa、室温でスパッタリングを1.5分間を行った。その結果、セラミックス基板の上に厚み10nmの下層セラミックス保護膜が成膜された。成膜された下層セラミックス保護膜は、AlNx1(x1=0.9)マトリックス内にPdが2〜6nmの粒子径で均一分散されたものであった。下層セラミックス保護膜内のPd含有量は40質量%であった。
【0062】
次に、装置内に下層セラミックス保護膜が成膜されたセラミックス基板と、イットリウムターゲットと、パラジウムチップをその上面に載置したアルミニウムターゲットとを配置し、装置内を4×10-5Pa程度まで減圧にした。次いで、装置内にアルゴンガスを導入し(9.3×10-1Pa)、室温でスパッタリングを1分間行った。その結果、下層セラミックス保護膜上に厚み30nmのY薄膜(水素検知膜)が成膜された。
【0063】
次に、装置内にアルゴンガスと窒素ガス(体積比85:15Pa)を導入し、圧力9.3×10-1Pa、室温でスパッタリングを1.5分間を行った。その結果、下層セラミックス保護膜上に水素検知膜を埋設して厚み10nmの上層セラミックス保護膜が成膜された水素センサーが得られた。成膜された上層セラミックス保護膜は、AlNx1(x1=0.9)マトリックス内にPdが2〜6nmの粒子径で均一分散されたものであった。上層セラミックス保護膜内のPd含有量は40質量%であった。
【0064】
[繰返し試験]
実施例1で得られた水素センサーについて、大気、並びに、大気中に水素濃度500、1000、2000、3000及び4000ppmの雰囲気で感度特性を測定した。感度特性測定は10回繰返し、初期の感度に対して変化が無いかを比較した。その結果、図9(A)に示すように、何れの水素濃度雰囲気においても、測定10回繰返し後も感度は初期値と殆ど同じで、変化は認められなかった。
【0065】
[センサー応答性比較試験]
実施例1で得られた水素センサーをデシケータ中に配置し、そのデシケータ中に濃度100%の水素を導入した際のセンサー応答性を測定した。その結果、図10に示すように、水素に対する応答速度が上昇していることが確認された。
【0066】
[比較例1]
セラミックス基板に直接水素検知膜を成膜し、下層セラミックス保護膜を成膜しなかった以外は実施例1と同様の製造方法で水素センサーを得、この水素センサーを用いて、実施例1と同様の試験を実施した。その結果、繰返し試験では、水素濃度1000ppm以上の雰囲気で感度特性が低下する変化が見られた。これは酸素等の非水素成分の影響と考えられた。
【0067】
センサー応答性比較試験では、水素導入後の水素に対する感度上昇は遅いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の水素センサーの一例を示す断面図である。
【図2】本発明の水素センサーの他の例を示す断面図である。
【図3】本発明の水素センサーの一例を示す平面図である。
【図4】図3の水素センサーの背面図である。
【図5】本発明の水素センサーを組込んだセンサーユニットの一例を示す断面図である。
【図6】本発明の水素センサーの製造フローの一例を示す工程図である。
【図7】本発明の水素センサーの信号及びヒーター温度を制御する制御部の一例を示すブロック図である。
【図8】本発明の水素センサーの信号及びヒーター温度を制御する制御部の一例を示す回路図である
【図9】繰返し試験の特性比較を示すグラフであり、(A)は実施例1の結果を示すグラフであり、(B)は比較例1の結果を示すグラフである。
【図10】実施例1と比較例1のセンサー応答性を比較した結果を示すグラフである。
【図11】従来の水素センサーの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
2、22、32、52、72 水素センサー
4、34 セラミックス基板
6 下層セラミックス保護膜
8、42 上層セラミックス保護膜
10、40、76 水素検知膜
12、14、82 水素透過性金属粒子
16、18、80 セラミックス材料
20a、20b、36a、36b 素子電極
6 下層セラミックス保護膜の厚さ
8 上層セラミックス保護膜の厚さ
10 水素検知膜の厚さ
38a、38b センサー信号取出し用ワイヤー
44 金属抵抗体で形成したヒーター
46a、46b ヒーター電極
48a、48b ヒーターに加熱用の電力を供給する配線
54 水素が通過するフィルター
56 キャップ
56a キャップに形成した通気口
58 ピン
60 プレート
62 グロメット
64 コード
66 コネクター
74 電気絶縁性を有するガラス又はセラミックスからなる基板
78 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板と、該セラミックス基板上に順次形成される下層セラミックス保護膜及び上層セラミックス保護膜と、前記上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜の間に埋設される水素検知膜と、前記上層セラミックス保護膜の表面であって前記水素検知膜の両縁部近傍に形成される一対の電極とからなる水素センサーであって、少なくとも前記上層セラミックス保護膜がセラミックス材料中に水素透過性金属粒子を分散させてなる複合材料保護膜で形成されてなる水素センサー。
【請求項2】
上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜がセラミックス材料中に水素透過性金属粒子を分散させてなる複合材料保護膜で形成されてなる請求項1に記載の水素センサー。
【請求項3】
上層セラミックス保護膜がセラミックス材料中に水素透過性金属粒子を分散させてなる複合材料保護膜で形成されてなり、下層セラミックス保護膜が水素透過性金属粒子を含まない請求項1に記載の水素センサー。
【請求項4】
セラミックス材料が、AlNx1、AlOx2、SiNx3 及びSiOx4(但し、0.5≦x1≦1、0.8≦x2≦1.5、0.7≦x3≦1.3、1≦x4≦2)よりなる群から選ばれる少なくとも1種で構成される請求項1に記載の水素センサー。
【請求項5】
水素検知膜がイットリウム、セリウム及びランタンよりなる群から選ばれる少なくとも1種で構成される請求項1に記載の水素センサー。
【請求項6】
水素検知膜の厚さが50〜1000nmであり、上層セラミックス保護膜及び下層セラミックス保護膜の厚さが5〜100nmである請求項1に記載の水素センサー。
【請求項7】
セラミックス基板がAl23、AlN及びSi34よりなる群から選ばれる少なくとも1種で構成される請求項1に記載の水素センサー。
【請求項8】
セラミックス基板の表面粗さRaが10〜750nmである請求項1に記載の水素センサー。
【請求項9】
水素透過性金属粒子が、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)及びタンタル(Ta)よりなる群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項1に記載の水素センサー。
【請求項10】
複合材料中の水素透過性金属粒子の含有割合が20〜70質量%である請求項1に記載の水素センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−82770(P2008−82770A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261022(P2006−261022)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000177612)株式会社ミクニ (332)
【Fターム(参考)】