説明

水素製造装置、水素製造システム及び水素製造方法

【課題】ジメチルエーテル(DME)のような酸素含有水素化合物の水蒸気改質により水素を含む改質ガスを製造する水素製造装置において、触媒の改質効率を向上させるとともに、高効率の水素製造システムを提供すること。
【解決手段】改質器に用いる母材触媒のAlやCuに、格子欠陥を導入したり他の原子や化合物を添加する。この改質器の熱源として各種の廃熱を利用するとともに、改質ガスを利用したガスタービンと、ガスタービン排熱を利用した蒸気タービンと連結する。
DME生焚のコンバインドシステムに比較してエネルギー効率が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造装置、水素製造システム及び水素製造方法に係り、特に、酸素含有炭化水素をAl及び/又はCuを母材触媒として含む改質触媒の存在下で水蒸気改質して水素を製造する水素製造装置、この水素製造装置を用いた水素製造システム及び水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀になって人類のエネルギー消費量は歴史的に例を見ない程加速され、原子力発電や天然ガスその他の発電の比率を上げたり、エネルギー節約が行われて今日の大量に消費されるエネルギーがまかなわれている。また、エネルギーセキュリティー確保や地球温暖化抑制のためのCO削減の観点から、エネルギー源の一部を水素エネルギーに転換したりエネルギー利用効率を上げることが地球規模で実施され始めている。
【0003】
水素エネルギーの利用システムとしては、燃料電池や水素タービン等が検討され、すでに一部は実用化が始まっている。燃料電池は水素と酸素を電気化学的に反応させ、このとき発生する電気エネルギーを取り出すシステムであり、従来のガソリンを燃焼させる自動車を燃料電池を利用した電気自動車で代替することが考えられている。また、タービンを利用した発電では、これまで石油、石炭、天然ガスを燃焼させていたのを、水素を燃焼させてCOの排出をなくすることが考えられている。
【0004】
これらの水素エネルギー利用システムは、利用生成物が無害の水であり、水素は発生エネルギーが多く、エネルギー利用効率を向上させることができることもあって21世紀のエネルギー機器の一翼を担うものと期待されている。特に、2020年頃からは燃料電池自動車や定置用燃料電池が広く普及することが予想され、大量の水素需要が見込まれており、大規模で高い効率の水素製造システムの出現が待たれている。
【0005】
さらに、このような地球規模の水素エネルギー利用システムにおいては、単に燃料として水素を利用するだけではなく、水素の製造に要するエネルギー源として、発電所から出される廃蒸気、ごみ焼却施設等の産業廃熱を利用するなどの総合的なシステムの構築が望まれている。
【特許文献1】特開2002−263504
【特許文献2】特開2003−165704
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素エネルギー利用システムに用いられる水素の製造方法としては、水の電気分解や天然ガスの成分であるメタンを水蒸気改質する方法が知られている。
【0007】
しかし、水の電気分解による方法では、エネルギー利用効率を従来の発電システムのエネルギー利用効率以上には上げることはできず、したがって水の電気分解による水素の利用はトータル的にエネルギーコストが高くなるという問題がある。また、メタンの水蒸気改質による方法では、約900℃の温度でメタンの改質が行われるため高価な耐熱材料等を必要とし、生産コストが高くなるという問題がある。
【0008】
また、特許文献1や特許文献2に記載されるように、ジメチルエーテル(DME)等の酸素含有水素化合物を、Al3、Cu、Zn等の改質触媒を用いて水蒸気改質する装置も知られており、これらの装置によれば約300℃の低温で水素を製造することができる。
【0009】
しかし、この方法に用いる公知の改質触媒は、改質率が低いという問題がある。
【0010】
さらにまた、このような水素製造装置とガスタービンとを連結させて、ガスタービンの廃熱を利用して酸素含有水素化合物改質を行い、生成した改質ガスによってガスタービン発電を行うシステムが考えられるが、このシステムでは改質に必要な熱が内部システムで充分供給されて他からの熱供給が不要であるため、他のシステムの廃熱を利用する総合的なシステムを構築することはできない。
【0011】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたもので、本発明の第1の目的は、酸素含有炭化水素を、Al及び/又はCuを母材触媒として含む改質触媒の存在下で水蒸気改質して水素を製造する水素製造装置において、改質触媒の改質効率の高められた水素製造装置を提供することにある。
【0012】
また、本発明の第2の目的は、他のシステムの廃熱を効率的に利用可能な大規模の水素製造システムを提供することにある。
【0013】
本発明の第3の目的は、かかる水素製造装置と発電装置が効率的に連結された大規模の水素製造システム及び水素製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の目的は、酸素含有炭化水素を、Al及び/又はCuを母材触媒として含む改質触媒の存在下で水蒸気改質して水素を製造する水素製造装置において、前記母材触媒のAl及び/又はCuに、格子欠陥、特に酸素欠陥を導入してなることを特徴とする水素製造装置により達成される。
【0015】
さらに、本発明の第1の目的は、酸素含有炭化水素をAl及び/又はCuを母材触媒として含む改質触媒の存在下で水蒸気改質して水素を製造する水素製造装置において、母材触媒として、Alを少なくとも含み、該AlはMg,Si,N,F及びこれらの1種以上を含む化合物から選ばれた原子及び/又は化合物を含むことを特徴とする水素製造装置によっても達成される。
【0016】
本発明の第2の目的は、上述した各水素製造装置が、水蒸気改質に用いる熱源の少なくとも一部として、発電所で発生する蒸気熱や燃焼排ガスの熱、ごみ焼却施設で発生する廃熱又はその他の産業廃熱を利用することを特徴とする大規模の水素製造システムによって達成される。
【0017】
本発明の第3の目的は、上述した水素製造装置と、前記水素製造装置で製造された水素を含む改質ガスを燃料として運転されるガスタービン発電装置と、前記ガスタービン発電装置の廃熱により運転される蒸気タービン発電装置とを有することを特徴とする水素製造システムである。また上述した水素製造装置により水素を含む改質ガスを製造する改質ガス製造工程と、前記水素製造装置で製造された水素を含む改質ガスを燃料としてガスタービン発電装置に供給して発電する第1の発電工程と、前記ガスタービン発電装置で発生した廃熱を熱源として蒸気タービン発電装置に供給して発電する第2の発電工程とを有することを特徴とする水素製造方法により達成される。
【0018】
なお、本発明に使用される酸素含有炭化水素としては、ジメチルエーテル(DME)、メタノール及びエタノールが例示される。これらは、1種又は複数の混合物として用いられる。DMEは300℃前後の低温で水蒸気改質することができ、水素等の製造に必要なエネルギーの大半は熱エネルギーで供給されるため、ごみ焼却炉等の産業廃熱エネルギーも効率よく利用することができる。なお、酸素含有炭化水素の熱源となる発電所としては火力発電所の他、沸騰水型原子炉、加圧水方原子炉、超臨界圧原子炉のような軽水炉や高速増殖炉などが例示される。一般に、DMEは、石炭層から産出されるメタン含有の炭層ガスや中小ガス田、または、CO含有量の多い大規模ガス田から産出される天然ガスから製造される。大規模ガス田では、天然ガスを圧縮・冷却して液化天然ガス(LNG)船で輸送されるが、DMEは常圧でLNG船より高温のLPG船や改良されたLPG船で輸送することができ、一定圧にすれば常温の通常タンカーでも輸送することができる。したがって、天然ガス液化用の大規模設備が利用できない中小ガス田等では、天然ガス液化よりDME化の方が経済的に有利である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来の装置に比べて外部熱の利用効率エネルギーの利用効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施例であるDMEを用いた酸素含有水素化合物によるガスタービンコンバインドサイクルシステム構成図である。
【0022】
このシステムでは、ごみ焼却炉等の産業排熱で例示される熱源11で発生した約300℃の水蒸気は、熱供給系12から水蒸気改質器13へ供給される。また、水素製造用燃料となるDMEと水蒸気は、燃料供給装置14から熱交換器15を通して水蒸気改質器13へ供給され、約300℃まで昇温される。
【0023】
水蒸気改質器13には、AlやCu系触媒で例示される改質触媒が充填されている。さらに、Alに格子欠陥、特に酸素欠陥を導入したり、Mg、Mg化合物、Si、Si化合物、N、N化合物、F、F化合物等を添加し、または、CuにZn等他の元素を添加したり格子欠陥を導入することにより、改質率を向上して外部熱の利用率を向上させることもできる。Alへの格子欠陥導入や、元素・化合物の添加は水蒸気改質反応においてHOを不安定化し、HOのHはDMEで例示される酸素含有炭化水素CHOCHのCHOと反応してメタノールCHOHを形成しやすくなり、また、HOのOHはCHOCHのCHと反応してメタノールCHOHを形成しやすくなる。
【0024】
また、Cuに他元素を添加すると添加元素からCuに電荷が供給され、さらにCuからCHOHに電荷が供給され、CHOHからHが乖離されやすくなる。このようにしてAlやCu系触媒で例示される改質触媒に格子欠陥を導入したり、他の元素や化合物を添加することにより改質率を高めることができる。さらに、改質率の向上により、外部熱の利用効率を向上させることができる。
【0025】
このように構成されたシステムにおいては、DMEは低圧にすることにより気化しやすくなり、次式で表される水蒸気改質反応
CHOCH + 3HO → 6H + 2CO
で高い改質が起こり、水素が生成される。
【0026】
水蒸気改質器13で生成した改質ガスはガスタービン16の燃料として供給され、ガスタービン16の廃熱は蒸気タービン17で発電に利用される。
【0027】
また、水蒸気改質器13で生成した改質ガスは、さらに、都市ガスへの供給装置18や水素ステーション19への供給装置へも送られ、都市ガスや燃料電池/燃料電池自動車用の水素原料として利用される。このような構成であれば、化学再生コジェネ(ガスタービン廃熱を利用した酸素含有水素化合物改質+改質ガスによるガスタービン)と異なり、外部廃熱利用が可能で、DMEを生焚するよりも発電効率を上げ、DME燃料を節約し、もってエネルギー利用効率を高めることができる。
【0028】
このような水素製造システムは、DMEを燃料とする生焚きガスタービンと廃熱を利用した蒸気タービンで構成されるコンバインドサイクルに比較して、例えば1万kW級で7%程度発電効率が向上し、燃料消費量が17%程度向上する。換言すると、発電量は約20%向上する。これはジメチルエーテルの燃焼エネルギーは1460kJ/mol(HHV)、ジメチルエーテルの100%改質で得られる水素の燃焼エネルギーは1714.98kJ/mol(HHV)であることによる。
【0029】
なお、図1の水素製造システムの熱源として、火力発電所の熱を利用する場合には、利用する熱はタービンから抽気した蒸気の熱であってもよいし、燃焼排ガスの熱であってもよい。また、改質器を加熱する熱媒体は蒸気や燃焼排ガスであってもよいし、熱交換した蒸気、ガスや熱媒体油等であってもよい。
【0030】
このように、本実施例によれば、廃熱等を利用可能な水素製造装置と、ガスタービン発電装置と、蒸気発電装置とを連結して、水素製造装置が生成した改質ガスでガスタービン発電装置を運転し、このガスタービン発電装置の廃熱により蒸気タービン発電装置を運転するようにしたので、他のシステムも含めて総合的にエネルギー効率を高めるとともにCOの排出を抑制することができる。
【0031】
なお、以上の実施例では、酸素含有炭化水素として、DMEを用いた例について説明したが、本発明はかかる実施例に限定されるものではなく、メタノールやエタノールのような他の酸素含有炭化水素も同様に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】酸素含有炭化水素を、外部熱を利用して水蒸気改質し、得られた改質ガスをコンバインドサイクルで利用するように構成された水素製造システムの構成を概略的に示した図
【符号の説明】
【0033】
1…電解質、2…陽極、3…陰極、4…酸素捕集部、5…酸素取り出し口、6…水素捕集部、7…水素取り出し口、11…熱源、12…熱供給系、13…水蒸気改質器、14…燃料供給装置、15…熱交換器、16…ガスタービン、17…蒸気タービン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有炭化水素を、Al及び/又はCuを母材触媒として含む改質触媒の存在下で水蒸気改質して水素を製造する水素製造装置において、
前記母材触媒のAl及び/又はCuに、格子欠陥を導入してなることを特徴とする水素製造装置。
【請求項2】
格子欠陥が、酸素欠陥であることを特徴とする請求項1記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記母材触媒は、Alを少なくとも含み、該AlはMg,Si,N,F及びこれらの1種以上を含む化合物から選ばれた原子及び/又は化合物を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記化合物が、酸化物であることを特徴とする請求項3記載の水素製造装置。
【請求項5】
水蒸気改質に用いる熱源の少なくとも一部として、発電所で発生する熱、ごみ焼却施設で発生する廃熱又はその他の産業廃熱を利用することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の水素製造装置。
【請求項6】
前記酸素含有炭化水素が、ジメチルエーテル、メタノール及びエタノールから選ばれた少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の水素製造装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の水素製造装置と、
前記水素製造装置で製造された水素を含む改質ガスを燃料として運転されるガスタービン発電装置と、
前記ガスタービン発電装置の廃熱により運転される蒸気タービン発電装置と
を有することを特徴とする水素製造システム。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項記載の水素製造装置により水素を含む改質ガスを製造する改質ガス製造工程と、
前記水素製造装置で製造された水素を含む改質ガスを燃料としてガスタービン発電装置に供給して発電する第1の発電工程と、
前記第1の発電工程で発生した廃熱を熱源として蒸気タービン発電装置に供給して発電する第2の発電工程と
を有することを特徴とする水素製造方法。
【請求項9】
前記改質ガス製造工程で製造され、前記第1の発電工程へ供給された残余の改質ガスを、都市ガス供給システム又は水素製造システムへ供給する工程を有することを特徴とする請求項8記載の水素製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−246369(P2007−246369A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75330(P2006−75330)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】