説明

永久磁石型電動機

【課題】
永久磁石型電動機の固定子のコア強度を向上させ音、振動を低減し、品質的に優れ高性能な固定子を提供する。
【解決手段】
固定子のヨーク部から回転子と対向する方向に突出する複数のティース部が設けられている永久磁石型電動機において、磁束密度の低い箇所に設けられた切欠部において、固定子外径側より内側に位置する継鉄部により閉路を形成することによって音、振動を低減することができる。また、予め巻型等により巻いた巻線輪を巻線挿入機により固定子ティース部の1つを跨ぐようにスロットに挿入させた固定子とし、前記巻線輪の固定子端面からの飛び出し長さが、固定子スロットに最初に挿入された巻線輪より順次段階的に挿入される巻線輪を短くすることによって品質的に優れた高性能な永久磁石型電動機とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用機器、事務用機器、家電用機器に使用される永久磁石電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用機器、事務用機器、家電用機器に使用する電動機においては、永久磁石型電動機の冷却を目的として、固定子外径のヨーク部に切欠部を設けて、この切欠部に冷風等を流通させて冷却している。また、エアコン及び冷蔵庫等の圧縮機の駆動装置においては永久磁石型電動機の固定子のヨーク部に切欠部を設け冷媒ガス通路として流用している。
【0003】
例えば、図10に従来の固定子の横断面図を示す。図10の固定子1は、電磁鋼板を積層して構成されヨーク部3から回転子と対向配置する方向に突出したティース部2を有する固定子であり、固定子外周には、冷却用通路または冷媒用通路として切欠部4が設けられている。固定子のスロット数は24スロットあり、極数は4極を形成している。
前記固定子1の内径側には、回転子コアに永久磁石6を収容する永久磁石収容孔7を有した永久磁石型回転子5を備えている。
【0004】
また、巻線9(斜線部及びクロス斜線部参照)は外部の巻線機により環状に巻き上げられた巻線9を巻線挿入装置によりスロット絶縁10が施された固定子1のスロット8に挿入されている。この場合、通常、巻線9は極毎に巻線束を形成し各固定子1のスロット8へ挿入される。従って、各巻線束は其々複数のティース部2を大きく跨ぐことに成り、固定子端面から飛び出る巻線9の周長は長くなっている。このような巻線9の巻き方を分布巻と称している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような永久磁石型電動機では、近年の電動機の小型化が進み固定子の外径も非常に小径になってきている。これに伴い、固定子外径に設けた電動機の冷却用切欠部や、エアコン及び冷蔵庫等の圧縮機に搭載される電動機の固定子外径に冷媒ガス通路の切欠部を設けることが困難になってきている。特に、回転子に有する磁石が希土類等の高磁束密度材を有する永久磁石電動機においては固定子コア内での磁束密度が非常に高くなり、切欠部自体を設けることが非常に困難になってきている。また、適切な位置に切欠部を設けたとしても、固定子外径にかなり大きな切欠部を形成しなくてはならない。そのため、固定子全体の強度を保つことができなくなり音、振動が発生することになる。
【0006】
また、別の永久磁石型電動機においては、先に述べたように小型化が進み、環境問題の観点より電動機の性能を向上させなくてはならない。このような永久磁石型電動機において性能問題を解決するために、従来のような外部の巻線機により環状に巻いた巻線を巻線挿入装置により前記固定子1のスロット8に挿入する分布巻から、固定子のティース部に直接巻線を巻き付ける集中巻方式により巻線を装着している。(これにより、固定子端部の各スロットから飛び出している複数の巻線の周長部を減らし巻線の使用量を低減し銅損を減らすことが可能となった。)
【0007】
例えば、図11に固定子1のティース部2に直接巻線9を巻き付けた集中巻方式による固定子を説明する。尚、図10と構造上同じ意味するものは、同じ符号を付している。
図11は図10と同様の固定子1の横断面図である。図11の固定子1は電磁鋼板を積層して構成されヨーク部3から永久磁石型回転子5と対向配置する方向に突出したティース部2を有する固定子である。固定子1の外周には、冷却用通路または冷媒用通路として切欠部4が設けられている。固定子1のスロット数は6スロットあり極数が4極である。固定子1のスロット8にはスロット絶縁10が施され、ティース部2毎に巻線9(斜線部及びクロス斜線部参照)を直接巻き付けた集中巻方式の永久磁石型電動機である。この場合においても前記切欠部4は、最低限の冷却用通路または冷媒用通路を確保するために固定子1の外径側に大きく切欠き、尚且つ、固定子1の円周方向に幅広く形成することになる。このため固定子1の強度を保つことができず音、振動が大きくなっている。
【0008】
また、図11の固定子1のティース部2に直接巻線9を巻きつける集中巻方式では、固定子1の内径側に面した開口部13よりノズルを挿入させ固定子1のティース部2に直接巻線9を巻き付けるため、固定子1のスロット8の内部はノズルが挿入できる隙間を設けなくてはならない。この隙間が、更なる電動機の性能向上の妨げになっている。
【0009】
また、永久磁石型回転子5を有した電動機においては、回転子に装着した永久磁石6に着磁を施す場合、塵や作業性の関係から固定子1の巻線9を着磁巻線として回転子に有した永久磁石6を着磁している。固定子1の巻線9には、着磁電流として非常に大きな直流電流を印加し着磁することになる。特に、回転子に有する磁石が希土類磁石であれば、更に強力な磁界が必要となる。
【0010】
これにより着磁時、図11の固定子1のスロット8内の巻線9に、大きな電流が流れると、固定子1の内径側には磁性材である回転子が存在するため固定子1に巻いた巻線9が、この磁性材の回転子に吸引され固定子1の内径側に倒れ込み運転中の回転子に接触し焼損事故の原因となっている。
【0011】
また、前記着磁作業において1つのスロット8内で隣り合うティース部2に巻かれた巻線9に流れる着磁電流の向きは、同じ向きとなるためスロット8内で隣同士となる巻線9が着磁と同時に強く引き付けあい瞬間的にぶつかることにより巻線9の被膜を傷つけレアー不良となり、品質上の大きな問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
永久磁石を有する回転子を備えた永久磁石電動機の固定子外径のヨーク部に設けられた冷却用通路の切欠部や、エアコン及び冷蔵庫等の圧縮機に搭載される電動機の固定子外径のヨーク部に設けられた冷媒用通路の切欠部を、固定子ヨーク部の磁束密度の低い箇所に設け、更に、前記切欠部は固定子外径側より内側に位置する継鉄部により閉路となる橋状の継鉄部を設ける。これにより固定子の強度を保つことができ音、振動を低減することが可能となる。
【0013】
また、永久磁石を有する回転子を備える永久磁石電動機の固定子の巻線は、予め巻型等により巻いた巻線輪であり、前記巻線輪を巻線挿入機により固定子ティース部の1つを跨ぐようにスロットに挿入させた固定子において、巻線輪の固定子端面からの飛び出し長さが、巻線挿入機により最初に固定子のスロットに挿入させた巻線輪より順次段階的に挿入される巻線輪を短くすることで永久磁石電動機の回転子に着磁を施す場合、固定子の内径側に面する巻線輪の固定子内径側への倒れ込みを極力少なくすることができる。また、巻線挿入機により固定子のスロットに最初に挿入させた巻線輪より順次挿入させる巻線輪の長さを段階的に短くすることによってスロットへの巻線の挿入性も上がる。
【0014】
また、前記固定子のヨーク部の幅をY、ティース部の幅をTとしたとき、0.4≦Y/T≦0.6とすることにより固定子巻線に供給された交流電流や回転子に埋め込まれた永久磁石により発生した磁束による固定子ティース部及びヨーク部における磁束密度を低くすることができ、固定子コアを磁気飽和しない領域で使用することができる。従って、鉄損が少なくなり効率を向上させることができる。磁束を飽和しない領域で使用することによって音、振動も低減することができる。
【0015】
更に、固定子のティース部先端部の根元寸法をBとしたとき、0.2≦B/T≦0.5とした永久磁石電動機とすることによりマグネットトルクとリラクタンストルクとの和である総合トルクを上げることができ永久磁石型電動機の性能を一層向上させる。
【0016】
特に、固定子のスロット数が3n(nは自然数)であり極数が2nである永久磁石電動機のヨーク部に切欠部を構成する場合、固定子の強度を保つことができなくなるため前記方法を用いることにより固定子の強度を上げ、音、振動を低減でき永久磁石電動機の性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、永久磁石を備えた回転子と、固定子ヨーク部から回転子と対向する方向に突出するティース部を有する固定子とを備える永久磁石電動機において、固定子外径のヨーク部に冷却用通路または冷媒用通路として切欠部を固定子の磁束密度の低い箇所に設けた場合、固定子の強度が低下し音、振動を発生する。従って、切欠部が固定子外径側より内側に位置する継鉄部により切欠部を塞ぐように橋状の閉路を形成することにより固定子コア強度を上げることができ音、振動を低減することができる。
【0018】
また、固定子の巻線を、予め巻型等により巻いた巻線輪として、巻線挿入機により固定子ティース部の1つを跨ぐようにスロットに挿入させ、最初にスロットに挿入させた巻線輪の長さより、順次挿入した巻線輪の長さを段階的に短くすることにより、固定子を着磁ヨークとして、永久磁石型回転子を着磁する場合、固定子内径に面した巻線輪の固定子内径側への倒れ込もうとする動きを極力少なくすることができる。また、固定子外径側から順次、固定子内径側に向かい巻線輪の固定子端部からの飛び出しを段階的に短くするため、電工作業時の巻線輪の挿入性が上がりレア−不良を低減でき、更にスロットに多くの巻線を挿入することができ永久磁石型電動機の性能を向上させることができる。
【0019】
固定子外径のヨーク部に冷却用通路または冷媒用通路として切欠部を固定子の磁束密度の低い箇所に設ける場合、固定子のヨーク部の幅をY、ティース部の幅をTとしたとき、0.4≦Y/T≦0.6とすることにより磁束密度の低い箇所に切欠部を設けることができ良好な永久磁石型電動機とし、音、振動も低減することができる。
【0020】
また、固定子のティース部先端部の根元寸法をBとしたとき、0.2≦B/T≦0.5とすることによりリラクタンストルクとマグネットトルクの最適位置での永久磁石型電動機とすることができ総合トルクを上げることができる。
【0021】
また、固定子のスロット数が3n(nは自然数)であり極数が2nにおいて、本実施を用いることによりより良い効果を得ることができ音、振動を低減し性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例を示す固定子の横断面図。
【図2】図1の切欠部の部分拡大図。
【図3】図1及び図2に示した切欠部の継鉄部による閉路と音の関係図
【図4】図1で示したA−A’横断面図。
【図5】別の実施例を示す固定子の横断面図。
【図6】[ヨーク部の幅/ティース部の幅]と磁束密度との関係図。
【図7】[ティース部先端部の根元寸法/ティース部の幅]とマグネットトルク及びリラクタンストルクとの関係図。
【図8】[ティース部先端部の根元寸法/ティース部の幅]が大きい場合の磁束の状態を示す図である。
【図9】[ティース部先端部の根元寸法/ティース部の幅]が小さい場合の磁束の状態を示す図である。
【図10】従来の固定子の横断面図。
【図11】従来の固定子の横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施例について図面を用いて説明する。図1は、固定子1aのヨーク部3aから回転子と対向する方向に突出したティース部2aを有する永久磁石型電動機の固定子である。固定子1aには、ヨーク部3aとティース部2aにより6つのスロット8aが設けてある。各スロット8aにはスロット絶縁10aが施され、予め巻型等により巻いた巻線輪9a、9bを巻線挿入機により固定子1aのティース部2aの1つを跨ぐようにスロット8aに挿入され三相4極の永久磁石型電動機が構成されている。
【0024】
固定子1aの外周には、切欠部4aが設けられている。この切欠部4aは電動機の発熱時の冷却や、エアコン及び冷蔵庫等の圧縮機の冷媒ガス通路の切欠部4aとして設けられている。
【0025】
また、各ティース部2aに直接巻線を巻き付ける集中巻方式の場合も同様であり切欠部4aを設ける場合、電動機性能に影響しないように磁束密度の低い箇所に切欠部4aを設けることになる。
【0026】
磁束密度の影響しない箇所としては、図1に示したように固定子1aのヨーク部3aから回転子と対向する方向に突出したティース部2aの固定子1aの外径側に面した部分に切欠部4aを設けることが好ましい。しかしながら、前記したように永久磁石型電動機が小型化されたものでは固定子1aの外径が小径であり磁束密度に影響されない位置に切欠部4aを持ってくる場合、前記切欠部4aの形状は、固定子1aの内径方向に向けて浅く、且つ、固定子1aの外周方向に大きな形状とすることが好ましい。尚、固定子1aの外径寸法の小径とは、φ80〜φ150である。但し、これに限定するものではない。
【0027】
このように固定子1aの外周に切欠部4aが大きく存在する場合、固定子1aのコア強度を保つことが非常に困難となり、特に、永久磁石6a等を備えた永久磁石型回転子5aが電動機運転時、固定子1aのヨーク部3aやティース部2aと回転子との間に発生する磁力の吸引、反発によりヨーク部3aやティース部2a自体が振動し音を発生している。
【0028】
このことに鑑みて、切欠部4a分の固定子1aの外周側に、固定子1aの外径側より内側に位置する継鉄部11により切欠部4aの通路を囲む様に橋状の閉路を形成している。この閉路を形成した継鉄部11は、固定子1aが嵌め込まれるケーシング等に倣うような形状でなく、この継鉄部11は固定子1aの外径側より内側に位置させている。これは、この閉路を形成した切欠部4aの継鉄部11が、固定子1aの外径の円周方向に細長い形状となるため、固定子1aのコアを打ち抜く際、コアが歪、寸法通りの継鉄部11の寸法を得ることができないためである。また、固定子1aの外径側より内径側の位置に細長い継鉄部11とすることにより固定子1aの電工作業時及び固定子1aをケーシングに組み付ける際の取り扱い作業においてコアが多少変形しても容易にケーシングに組み付けることができるようにしている。この橋状の閉路を形成している継鉄部11の幅は、コアの強度から好ましくは0.35mm〜3.0mmが良い。
【0029】
また、この継鉄部11の切欠部4aに対する位置を図2及び図3で説明する。図2は図1の固定子1aの外径の磁束密度の低い位置に設けられた切欠部4aであり、この切欠部4aのヨーク部3aとヨーク部3aを結ぶ橋状の閉路とした継鉄部11の部分拡大図である。図3は、切欠部4aにおける閉路を形成する継鉄部11の位置を、縦軸を音(dB)、横軸を切欠部分に対する継鉄部の位置を、割り合いで示している。
【0030】
図2中の各部の寸法は、固定子1aの軸中心から固定子1aの外径までの寸法をD、固定子1aの軸中心から切欠部4aの底部までの寸法をE、切欠部4aの底部から継鉄部11の外径側までの寸法をCとして表している。図3の関係図よりわかる様に切欠部4aの閉路を形成している継鉄部11は、切欠部4aの底部から継鉄部11の外径側までの寸法Cを、特に約1/2(D−E)以上とすることで効果は絶大であり、音、振動を約10dB低減できていることがわかる。但し、前述したように各寸法の関係においては、C<(D−E)である。
従って、これにより固定子1aのコア強度を上げて音、振動の低減を防ぐことができる。
【0031】
本発明によれば、図1の固定子1aの巻線は先に説明したように、予め巻型等により巻いた巻線輪9a、9bであり、前記巻線輪9a、9bを巻線挿入機により固定子1aのティース部2aの1つを跨ぐようにスロット8aに挿入させている。
【0032】
これにより、従来の電動機のように相毎に外部の巻線機により巻線を巻き巻線挿入装置により複数のティース部を跨ぎ極を形成する分布巻と比べた場合、固定子1aのティース部2aの1つを跨ぐように極を形成しているため、固定子1a端部の各スロット8aから飛び出している複数の巻線輪9a、9bの周長部分を減らし巻線の使用量を低減し銅損を減らすことが可能となる。その結果、電動機の効率を上げることができる。
【0033】
また、従来の実施形態である図11よりもわかる様に固定子1のティース部2に直接巻線9を巻きつける集中巻方式では、固定子1の内径側に面した開口部13よりノズルをスロット内部へ挿入させティース部2に直接巻線9を巻き付けていくため、固定子1のスロット8の内部には必ずノズルが挿入できる隙間を設けなくてはならず、この隙間には巻線を巻き付けることができなかった。本発明の図1の実施形態では、集中巻方式等で使用するノズルを必要としないためスロットにノズルを挿入する隙間を設ける必要がなくなり、隙間なく巻線を巻きつけることができる。これにより、電動機の性能を上げることができる。
【0034】
また、固定子のティースに直接巻線を巻き付ける集中巻方式の永久磁石型電動機では、例えば、電動機の2相を使用して着磁をする作業において1つのスロット内の隣り合うティースに巻かれた巻線に流れる着磁電流の向きは、其々、同じ向きとなる。従って、スロット内で隣り合う巻線が着磁と同時に強く引き付けあい瞬間的にぶつかり巻線の被膜を傷つけレアー不良の原因となっている。この場合、1つのスロット内で隣り合う巻線の間に絶縁フィルム等により絶縁を施しているが、この絶縁が電動機の運転中の振動等で脱落しないように縛り紐等により固定しなくてはならず余分な工数が係っている。
【0035】
図1の本実施例の形態では、固定子1aのティース部2aの1つを跨ぐように巻線挿入機により巻線輪9a、9bを挿入しているため最初にスロット8aに巻線9aを挿入した後、絶縁フィルム等で形成した相間絶縁紙12を装着し、この相間絶縁紙12の上から直に次の巻線輪9bが装着されるため、新に別工程で相間絶縁紙12を固定する必要もなくなる。また、固定子のティース部に巻き付けた集中巻方式のスロットに比べてノズルが挿入されない分、巻線を多く巻くことができ、尚且つ、スロット内の隣り合う巻線間の隙間がなくなる為、着磁時の着磁電流に伴う巻線の動きも必然的に押さえられることになり、レア−不良を低減し品質も向上させることができる。
【0036】
しかしながら、着磁時の固定子の巻線には大きな直流電流が流れるため、特に巻線の周長部分で吸引反発がおこり固定子内径側に巻線が倒れ込んだり、また、固定子の内径側には磁性材である回転子が存在するため巻線がこの磁性材の回転子に吸引され固定子内径側に倒れ込み、電動機運転中、回転子に接触し焼損事故の原因となる。
【0037】
従って、本発明の実施例のように、予め巻型等により巻いた巻線輪9a、9bを巻線挿入機により固定子1aのティース部2aの1つを跨ぐようにスロット8aに挿入させ、固定子1aの端面からの巻線輪9a、9bの飛び出し長さを、巻線挿入機により最初に固定子1aのスロット8aに挿入させた巻線輪9aより、順次挿入させる巻線輪(本実施例では、巻線輪9b)を段階的に短くすることにより着磁時の巻線の固定子1aの内径側へ倒れ込もうとする動きを極力少なくすることができる。
【0038】
ここで、実施形態を図4で説明する。図4は図1のA−A’断面図であり固定子1aのスロット8aにスロット絶縁10aを装着し巻線輪9a、9bが挿入され固定子1aの端面から巻線が飛び出した状態を示している。固定子1aの外径側の巻線輪9aの飛び出し長さをGとし、永久磁石6aを有した永久磁石型回転子5aに面した内径側の巻線輪9bの飛び出し長さをFとした場合、最初に挿入した巻線輪9aの飛び出し長さGより順次挿入される巻線輪9bの飛び出し長さFを段階的に短くすることにより、固定子1aの外径側の巻線輪9aを固定子1aのスロット8aの外周側へ大きく倒すことができ、次に挿入させる巻線輪9bを挿入し易くしている。従って、固定子1aの内径側に面した最内径側の巻線輪9bは次に挿入される巻線輪がないため最小寸法で巻くことができる。
【0039】
これにより永久磁石型回転子5aの着磁時、固定子1aの内径側へ倒れ込もうとする巻線輪9bの固定子1aの端部からの飛び出し部分を最も短くすることができ、固定子1aの内径側に倒れ込もうとする巻線輪9bの動く量を極力少なくすることができる。また、最初に挿入された巻線輪9aの長さから段階的に順次、短くすることにより巻線の挿入性が上がりレア−不良等の発生を防ぐことができる。また、巻線の挿入性が上がるため固定子1aのスロット8aに多くの巻線を挿入することができるため電動機の性能も向上させることができ、更に、段階的に巻線輪を小さく形成しているため、銅損も低減することができる。
【0040】
尚、図5は本実施例の別の実施形態を示している。固定子1bのヨーク部3bから、図示していない永久磁石型回転子と対向する方向に突出するティース部2bを有する固定子であって、固定子1bのスロット8bの数が9スロットで三相6極を形成している。この場合、前記した図1では巻線挿入機によって1つの固定子1aのティース部2aを跨ぐようにスロット8aに挿入する巻線輪の挿入回数は2回で済むが、図4では巻線挿入回数は3回となる。図中の巻線輪9cを最初に固定子1bのスロット8bに挿入し、巻線輪9dは巻線輪9cの次に挿入され、巻線輪9eは巻線輪9dの次に挿入される。その結果、巻線輪9dはスロット内で外層側及び内層側の両方に配置されることとなる。この場合、巻線輪9dの固定子1bの端部からの飛び出し長さは、巻線挿入機によりスロット8bに挿入されるため、当然であるが9c>9d>9eの順に短く設定されることとなる。
【0041】
また、固定子の磁束密度の低い位置に切欠部を設ける場合、図6の関係図より最適な箇所に切欠部を設けることができる。以下図6の関係図から固定子の磁束密度の低い、磁気飽和しない領域で使用することができる最適な位置を設定することができる。
ここで、図1に示す固定子1aにおいて、ティース部の幅をT、ヨーク部の幅をYとし、ティース部2aの幅Tとヨーク部3aの幅Yとの比[Y/T]に対する磁束密度を求めたところ、図6に示すような結果が得られた。尚、図6の横軸は[Y/T]であり、縦軸は磁束密度である。また、図6において、丸を付した特性曲線はティース部2aの磁束密度を示し、三角を付した特性曲線はヨーク部3aの磁束密度を示している。
【0042】
図6に示す関係図から、[Y/T]が約0.5の時にティース部2aの磁束密度とヨーク部3aの磁束密度がほぼ等しくなっていることが理解できる。また、[Y/T]が小さくなると、ヨーク部3aの磁束密度が高くなるとともにティース部2aの磁束密度が低くなり、逆に、[Y/T]が大きくなると、ヨーク部3aの磁束密度が低くなるとともにティース部2aの磁束密度が高くなることが理解できる。
【0043】
また、通常、永久磁石電動機の電磁鋼板としては、例えば、JIS規格の35A300(板厚0.35mm)以上のものや、50A350(板厚0.5mm)以上のものが用いられる。また、鉄損W15/50(周波数50Hz時、最大磁束密度1.5Tの鉄損値)が、例えば、3.5w/kg以下のものが用いられる。
【0044】
また、前述した電磁鋼板は、磁束密度が、磁気的に飽和する直前の磁束密度である1.6〜1.7テスラ程度の領域で用いられることが多い。
そこで、[Y/T]を、0.4〜0.6の範囲内に設定すると、ティース部2aの磁束密度及びヨーク部3aの磁束密度の双方を低く保つことができる(例えば、1.7テスラ以下に保つことができる)。
すなわち、ヨーク部3aの幅Yとティース部2aの幅Tとの比[Y/T]が、[0.4≦Y/T≦0.6]の条件を満足するように構成することによって、ティース部2aの電磁鋼板及びヨーク部3aの電磁鋼板の双方において磁束が飽和しない領域で使用することができる。これにより、電磁鋼板の磁気的な飽和による鉄損が減少し、永久磁石型電動機の効率が向上する。また、電磁鋼板の磁気的な飽和により生じる電磁振動が減少し、騒音も減少する。
【0045】
また、通常、磁石収容孔に永久磁石を収容した回転子を有する永久磁石型電動機では、回転子は、マグネットトルクとリラクタンストルクを加算した総合トルクによって運転される。このため、マグネットトルクとリラクタンストルクを加算した総合トルクが大きいほど永久磁石型電動機の性能がよくなる。
【0046】
ここで、図1に示す固定子1aにおいて、ティース部先端部20a(20b)の根元寸法をB、ティース部2aの幅をTとし、ティース部先端部20a(20b)の根元寸法Bとティース部2aの幅Tとの比[B/T]に対するトルクを求めたところ、図7に示すような結果が得られた。図7の横軸は[B/T]であり、縦軸はトルクである。また、図7において、丸を付した特性曲線はマグネットトルクを示し、四角を付した特性曲線はリラクタンストルクを示し、三角を付した特性曲線はマグネットトルクとリラクタンストルクとを加算した総合トルクを示している。
【0047】
尚、図7に示す結果は、ティース部先端部20a(20b)の根元寸法Bを、ティース部先端部20a(20b)とティース部2aの接続部と固定子1aの軸中心を通る直線上におけるティース部先端部20a(20b)の長さとした場合のものである。ティース部先端部20a(20b)の根元寸法Bを、ティース部先端部20a(20b)とティース部2aの接続部を通り、ティース部2aの中心軸線と平行な直線上におけるティース部先端部20a(20b)の長さとした場合でもほとんど変化はない。
【0048】
図7に示す関係図から、マグネットトルクとリラクタンストルクの和である総合トルクは、[B/T]が0.3〜0.4位でピークになっていることが理解できる。
また、[B/T]を大きくすると、マグネットトルクが小さくなるとともにリラクタンストルクが大きくなり、逆に、[B/T]を小さくすると、マグネットトルクが大きくなるとともにリラクタンストルクが小さくなることが理解できる。
この場合、[B/T]を0.5より大きくすると、図8に示すように、永久磁石収容孔50aに収容された永久磁石60a、永久磁石収容孔50bに収容された永久磁石60b及びティース部200を介する短絡磁路の磁束量が増大する。これにより、マグネットトルクが低下し、それにともなって総合トルクも低下するため、永久磁石型電動機の性能が低下する。
【0049】
また、[B/T]を0.2より小さくすると、図9に示すように、ティース部先端部210aの根元部210cの幅が狭くなるため、ティース部先端部210aから流出入する磁束が磁気的に飽和し、リラクタンストルクを低下させている。それにともなって総合トルクも低下するため、永久磁石型電動機の性能が低下する。
したがって、ティース部先端部20a(20b)の根元寸法Bとティース部2aの幅Tとの比[B/T]が、[0.2≦B/T≦0.5]の条件を満足するように構成することによって、マグネットトルクとリラクタンストルクの和である総合トルクの低下を防止することができ、永久磁石型電動機の性能を向上させることができる。
【0050】
また、固定子のスロット数が3n(nは自然数)であり極数が2nである永久磁石型電動機において、例えば、予め巻型等により巻いた巻線輪を巻線挿入機により固定子ティース部の1つを跨ぐようにスロットに挿入させた固定子や、固定子ティース部に直接巻線を巻き付ける集中巻方式の固定子において、磁束密度の影響が少ない個所に切欠部を設けようとすると、固定子コアの強度を保つことができなくなり音、振動が発生することになる。従って、切欠部に固定子外径側より内側に位置する継鉄部により切欠部を塞ぐように橋状の閉路を形成することにより固定子コア強度を上げることができる。
【0051】
特に、予め巻型等により巻いた巻線輪を巻線挿入機により固定子ティース部の1つを跨ぐようにスロットに挿入させた固定子とすることにより、固定子端面から飛び出る巻線輪の長さを短くすることができるため電動機性能を上げることができる。また、固定子端面から飛び出る巻線輪の長さを短くすることにより着磁時の固定子内径側への巻線輪の倒れ込みを少なくすることができる。三相4極6スロットや三相6極9スロット、三相8極12スロット等に効果は絶大である。
【0052】
尚、本発明における永久磁石型電動機の回転子構造は、回転子コアの表面に永久磁石を張り付け非磁性材料のSUS等にて覆った永久磁石型回転子や永久磁石を回転子コアの収容孔に挿入させた永久磁石型回転子等であり、例えば永久磁石を回転子コアの収容孔に円弧状、平板状、V字状、凹字状、逆円弧状、蒲鉾状、逆蒲鉾状等に配置させたものである。
【符号の説明】
【0053】
1、 1a,1b・・・固定子、2,2a,2b,200,210・・・ティース部、3,3a,3b・・・ヨーク部、4,4a・・・切欠部、5,5a,5b・・・永久磁石型回転子、6,6a,6b,60a,60b・・・永久磁石、7,50a,50b・・・永久磁石収容孔、8,8a,8b・・・スロット、9・・・巻線、9a〜9e・・・巻線輪、10,10a,10b・・・スロット絶縁、11・・・継鉄部、12・・・相間絶縁紙、13・・・スロット開口部、20a,20b,210a・・・ティース部先端部、210C・・・ティース部根元部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を有する回転子と、ヨーク部及びヨーク部から回転子と対向する方向に突出するティース部を有する固定子とを備える永久磁石電動機であって、
前記固定子外径のヨーク部には冷却用通路または冷媒用通路として切欠部が設けられており、前記切欠部は前記固定子の磁束密度の低い箇所に設けられ、前記切欠部は前記固定子外径側より内側に位置する継鉄部により閉路となっていることを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項2】
永久磁石を有する回転子と、ヨーク部及びヨーク部から回転子と対向する方向に突出するティース部を有する固定子とを備える永久磁石電動機であって、
前記固定子の巻線は、予め巻型等により巻いた巻線輪であり、前記巻線輪を巻線挿入機により固定子ティース部の1つを跨ぐようにスロットに挿入させた固定子であって、前記巻線輪の固定子端面からの飛び出し長さが、前記巻線挿入機により固定子のスロットに最初に挿入される巻線輪より順次段階的に挿入される巻線輪を短くしたことを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項3】
前記固定子のヨーク部の幅をY、ティース部の幅をTとしたとき、0.4≦Y/T≦0.6であることを特徴とする請求項1項または2項に記載の永久磁石電動機。
【請求項4】
前記固定子のティース部先端部の根元寸法をBとしたとき、0.2≦B/T≦0.5であることを特徴とする請求項1項及至請求項3項のいずれか記載の永久磁石電動機。
【請求項5】
固定子のスロット数が3n(nは自然数)であり極数が2nであることを特徴とする請求項1項及至4項のいずれか記載の永久磁石電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−50246(P2011−50246A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274165(P2010−274165)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【分割の表示】特願2001−212361(P2001−212361)の分割
【原出願日】平成13年7月12日(2001.7.12)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】