説明

治療用化合物

式(I):


(式中、Xは、HまたはFである)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグは、麻酔薬として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年5月9日に出願された米国仮特許出願第60/928,345号および2007年5月9日に出願された米国仮特許出願第60/928,416号の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0002】
プロポフォール(2,6−ジイソプロピルフェノール)は、全身麻酔の導入および維持、重症患者の鎮静ならびに手順上の鎮静(例えば内視鏡検査)のために広範に使用される静脈内用の鎮静/催眠剤である。Langly,M.S.およびHeel,R.C.、Drugs、1988、35、334〜372ページを参照。プロポフォールは、水に対してごくわずかな溶解性を示し、非経口栄養摂取用に使用される製剤に似た10%大豆油ベースの脂質エマルションの形で広く販売されている。
【0003】
プロポフォールは、中枢神経系中の複数のGABA受容体サブタイプ(細胞膜を越えて塩素陰イオンを輸送するイオン・チャネルである)を活性化するGABA作動薬である。プロポフォールはアキラルであるが、いくつかのジアルキルフェノールのラセミ混合物は、GABA受容体の公知の作動薬である(Jamesら、J.Med.Chem.、23、1350ページ、1980;Krasowskiら、J.Pharmacol.& Exp.Therapeutics、297、338ページ、2001)。Jamesらは、プロポフォールはその総合的なプロファイルにおいて、評価した他の類似体よりすぐれているという知見を報告している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プロポフォールは、そのすぐれた薬物動態プロファイル、薬力学的プロファイル、覚醒および回復のプロファイルから、多くの臨床家により好まれる。しかしながら、治療用量またはその前後の用量において望ましくない副作用(例えば、呼吸抑制、ICU症候群、注射痛および血行力学的効果)が生じることから、多様な臨床現場においてその利用は大きく制限される。とりわけ懸念されるのは、血行力学的効果である。プロポフォールを、とりわけボーラス形態で投与すると、心拍数の代償性増加を伴わずに血圧低下が生じることがよくある。望ましくない、および有害な可能性のある血行力学的な結果が生じるため、様々な臨床状態が、プロポフォールの使用と適合しない。そのような状態の例としては、冠動脈疾患、心筋症、虚血性心疾患、弁膜性心疾患および先天性心疾患などの心血管疾患が挙げられる。その血行力学的特性から、慢性高血圧症、脳血管疾患、脳傷害および高齢は、プロポフォールの使用を困難な、または問題の多いものにする可能性がある。急性の失血、脱水または重度の感染(出血性ショック、循環血液量減少性ショックまたは敗血症性ショックを伴うものなど)状態にある患者は、プロポフォールを用いた場合には、過剰な危険にさらされる恐れがある。プロポフォールは、その血行力学的特性により、脊髄麻酔、硬膜外麻酔または血管作動性の薬物適用など、他の薬物適用または治療を受けている患者における使用が制限されることがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、プロポフォールと比較して同様または向上した薬理活性と共に、向上した血行力学的プロファイルを示す治療用化合物を提供する。したがって、一実施形態では、本発明は、式(I):
【化1】

(式中、Xは、HまたはFである)
の(−)立体異性体またはその塩もしくはプロドラッグを提供する。
【0006】
本発明は、さらに、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグと、薬学上許容される担体とを含む医薬組成物も提供する。
【0007】
本発明は、さらに、動物における悪心、嘔吐、偏頭痛、神経系の神経変性状態(例えば、フリードリッヒ病、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、ピック病など)、中枢神経系への外傷(例えば、頭蓋骨骨折およびその結果生じる浮腫、震盪、挫傷、脳出血、せん断傷害(shearing lesion)、硬膜下および硬膜外の血腫、ならびに脊髄傷害(例えば、脊髄の圧迫または屈曲による機械的傷害))、発作(例えば、てんかん性発作)またはフリーラジカル関連の疾患(例えば、虚血性再灌流傷害、炎症性疾患、全身性エリテマトーデス、心筋梗塞、脳卒中、外傷性出血、白内障形成、ブドウ膜炎、気腫、胃潰瘍、腫瘍症、放射線宿酔など)を治療する方法であって、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグを該動物に投与することを含む方法も提供する。
【0008】
本発明は、さらに、動物において全身麻酔を導入または維持する方法であって、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグを該動物に投与することを含む方法も提供する。
本発明は、さらに、動物において鎮静を促進する方法であって、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグを該動物に投与することを含む方法も提供する。
本発明は、さらに、動物において偏頭痛を治療する方法であって、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグを該動物に投与することを含む方法も提供する。
【0009】
本発明は、さらに、動物において不眠症を治療する方法であって、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグを該動物に投与することを含む方法も提供する。
本発明は、さらに、動物において抗不安効果を促進する方法であって、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグを該動物に投与することを含む方法も提供する。
本発明は、さらに、動物において嗜癖の禁断症状を治療する方法であって、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグを該動物に投与することを含む方法も提供する。
【0010】
本発明は、さらに、動物において制吐効果を促進する方法であって、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグを該動物に投与することを含む方法も提供する。
本発明は、さらに、GABA受容体にアゴニスト作用を及ぼす方法であって、該受容体を、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩と接触させる(in vitroまたはin vivoで)ことを含む方法も提供する。
本発明は、さらに、動物においてGABA受容体にアゴニスト作用を及ぼす方法であって、有効量の式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグを該動物に投与することを含む方法も提供する。
本発明は、さらに、医学療法において使用するための式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグも提供する。
【0011】
本発明は、さらに、動物における悪心、嘔吐、偏頭痛、神経系の神経変性状態(例えば、フリードリッヒ病、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)、ピック病など)、中枢神経系への外傷(例えば、頭蓋骨骨折およびその結果生じる浮腫、震盪、挫傷、脳出血、せん断傷害、硬膜下および硬膜外の血腫、ならびに脊髄傷害(例えば、脊髄の圧迫または屈曲による機械的傷害))、発作(例えば、てんかん性発作)またはフリーラジカル関連の疾患(例えば、虚血性再灌流傷害、炎症性疾患、全身性エリテマトーデス、心筋梗塞、脳卒中、外傷性出血、白内障形成、ブドウ膜炎、気腫、胃潰瘍、腫瘍症、放射線宿酔など)を治療するための医薬を調製するための、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの使用も提供する。
【0012】
本発明は、さらに、動物において全身麻酔を導入または維持するための医薬を調製するための、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの使用も提供する。
本発明は、さらに、動物において鎮静を促進するための医薬を調製するための、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの使用も提供する。
本発明は、さらに、動物において偏頭痛を治療するための医薬を調製するための、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの使用も提供する。
【0013】
本発明は、さらに、動物において不眠症を治療するための医薬を調製するための、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの使用も提供する。
本発明は、さらに、動物において抗不安効果を促進するための医薬を調製するための、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの使用も提供する。
本発明は、さらに、動物において嗜癖の禁断症状を治療するための医薬を調製するための、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの使用も提供する。
【0014】
本発明は、さらに、動物において制吐効果を促進するための医薬を調製するための、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの使用も提供する。
本発明は、さらに、動物においてGABA受容体にアゴニスト作用を及ぼすための医薬を調製するための、式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの使用も提供する。
本発明は、さらに、式(I)の(−)立体異性体またはその塩もしくはプロドラッグの調製に有用な、本明細書中で開示する合成方法および中間体も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ブタの試験において3mg/kgで投薬した式(I)(式中、XはHである)の(−)立体異性体の血行力学的効果を示すグラフである。
【図2】ブタの試験において6mg/kgで投薬したプロポフォールの血行力学的効果を示すグラフである。
【図3】式(I)(式中、XはHである)の(−)立体異性体のIV注入後のブタにおける平均動脈血圧(mmHg)に及ぶ影響を、プロポフォールとの比較で示すグラフである。
【図4】式(I)(式中、XはHである)の(−)立体異性体のIV注入後のブタにおける心拍数(1分当たりの拍動)に及ぶ影響を、プロポフォールとの比較で示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、上に定義したとおりの式(I)の(−)立体異性体またはその塩もしくはプロドラッグを提供する。
当該立体異性体の絶対配置は、(R)であることが同定された。
【0017】
一実施形態では、XはHである。XがHであるとき、この立体異性体を、(R)−(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの名称で呼ぶこともある。
プロポフォールと比較すると、(R)−(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールは、麻酔薬として驚くほど向上した総合的な活性プロファイルを示すことが見出された。より詳細には、この化合物は、麻酔活性に及ぼす、より強力な効果を生み出し、より高い治療指数を呈し、匹敵する薬物動態プロファイルを保持する(例えば、同様のクリアランス速度を呈する)ことが見出された。この化合物は、さらに、平均動脈圧および心拍数に及ぼす効果の強度を低下させることもできる。さらに、臨床試験では、この化合物が、プロポフォールより注射時に引き起こす痛みが少ないことが実証されるであろうとも考えられる。プロポフォールに伴う注射痛は、その脂質エマルションビヒクルの水相中のプロポフォールの濃度に相関があった。まったく同様の脂質エマルションの形で製剤した場合、(R)−(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの水相濃度は、プロポフォールと比較して著しく低下(70%超)していることが見出された。
【0018】
さらに、2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの他方の鏡像異性体である(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールも、予想外にも、プロポフォールと比較して向上した血行力学的プロファイルと共に、同様または向上した薬理活性を示すことが見出された。
したがって、本発明による化合物は、患者における全身麻酔の導入もしくは維持、または鎮静の促進にとってとりわけ有用である。この化合物は、血行力学的効果に対する感受性が高まっている患者に麻酔をかけることにとってとりわけ有用である。そのような患者としては、以下が挙げられる:冠動脈疾患、心筋症、虚血性心疾患、弁膜性心疾患および先天性心疾患などの心血管疾患に罹患している患者;慢性高血圧症、脳血管疾患または脳傷害に罹患している患者;高齢の患者(例えば、50歳超、60歳超、70歳超または80歳超);急性の失血、脱水または重度の感染(出血性ショック、循環血液量減少性ショックまたは敗血症性ショックを伴うものなど)状態にある患者;脊髄麻酔、硬膜外麻酔または血管作動性の薬物適用を受けている患者;例えば、Reich DLら、2005、Anesth Analg、101、622ページを参照。例えば、患者は、アメリカ麻酔科学会(ASA)の身体状態が少なくとも3である患者であってもよい。本発明は、さらに、本発明による化合物を、注射時の痛みのための前投与を受けていない患者に投与することも企図している。
【0019】
本明細書で使用する場合、用語「薬学上許容される担体」は、希釈剤、佐剤、賦形剤またはビヒクルを包含する。
用語「動物」は、例えば、ヒト、伴侶動物、動物園動物および家畜などの哺乳動物を包含する。
【0020】
疾患もしくは障害を「治療すること」という用語は、1)疾患もしくは障害を改善すること(すなわち、疾患もしくは障害、またはその臨床症状のうち少なくとも1つの進行を抑止もしくは軽減すること)、2)少なくとも1つの身体パラメーター(患者が認識できないこともある)を改善すること、3)疾患もしくは障害を阻害(物理的に(例えば、認識できる症状の安定化)、生理学的に(例えば、身体パラメーターの安定化)もしくはその両方のいずれかであってもよい)すること、または4)疾患もしくは障害の発症を遅らせることを包含する。
【0021】
本明細書に記載の化合物およびプロドラッグの立体異性体純度は、当業者に周知の従来の分析法により確定してもよい。例えば、キラルなNMRシフト試薬の使用、キラル・カラムを用いたガス・クロマトグラフィー分析、キラル・カラムを用いた高圧液体クロマトグラフィー分析、旋光分析、同位体希釈、熱量測定、酵素的方法、キラル・ゲル上でのキャピラリー電気泳動法、キラルな試薬との反応によるジアステレオマー誘導体の形成、および、確立された分析法による従来の分析を用いて、特定の立体異性体の立体化学的純度を確定してもよい。あるいは、公知の立体化学的に富化された出発物質を使用した合成を用いて、本明細書に記載の化合物の立体化学的純度を確定してもよい。立体化学的な均一性を実証するための他の分析法は、当技術分野で公知である。
【0022】
本発明は、式(I)中において「*」で印を付けた中心部分において非ラセミ(すなわち、鏡像異性体富化された)形態の式(I)の立体異性体またはその塩もしくはプロドラッグを提供する。したがって、本発明は、富化混合物形態の式(I)の立体異性体であって、該混合物が、示してある式(I)の当該化合物の他方の鏡像異性体またはその塩もしくはプロドラッグを45%以下含有する立体異性体を包含する。追って記載の実施例2において単離する(−)鏡像異性体は、本発明独自の化合物である。本発明のいくつかの実施形態では、富化混合物は、式(I)の化合物の他方の鏡像異性体またはその塩もしくはプロドラッグを約40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下または1%以下含有する。本発明の別の実施形態では、富化混合物は、式(I)の化合物の他方の鏡像異性体またはその塩もしくはプロドラッグを約1%未満含有する。
【0023】
式(I)の化合物を調製する方法
一般に、式(I)の化合物は、少なくとも3つの異なるアプローチにより調製できる。1つのアプローチでは、ラセミ混合物を、従来の有機合成法を用いて調製するか、または商業的供給源から購入して、例えば、分別結晶化、キラル・カラムによる分離、誘導体の形成およびその分離または速度論的分割など、当業者に公知の方法を用いてこの混合物を分割させて、実質的に純粋な式(I)の鏡像異性体または式(I)の化合物の鏡像異性体富化混合物を得る。あるいは、不斉合成を用いて式(I)の化合物を調製してもよい。公知のキラルな前駆体を使用して、公知の方法を用いることにより実質的に純粋な式(I)の鏡像異性体または式(I)の化合物の鏡像異性体富化混合物を調製してもよい。他の方法としては、例えば、不斉水素化、還元、および/または炭素−炭素結合形成を用いたキラルな中間体の調製も挙げられる。さらに、プロキラルな酢酸前駆体の酵素的切断などを用いて式(I)の化合物を作製することもできる。
【0024】
鏡像異性体富化された式(I)の化合物またはその塩を調製する方法を、本発明のさらなる実施形態として提供し、以下の手順により例証する。
式(I)の化合物は、キラルな補助的、結晶学的な、および/またはクロマトグラフィーによる分割に続き加水分解を用いることにより、ラセミ(I)から調製できる。一方法では、式(I)の立体異性体は、キラルなイソシアネートを使用してカルバメートのジアステレオマー混合物を形成することにより調製でき、この混合物を分離して、カルバメート残留物の加水分解後に式(I)の所望のジアステレオマーを得ることができる。限定するものではないが具体的には、R−(+)1−フェニルエチルイソシアネートから誘導されるキラルなカルバメートを採用できる。別の方法では、式(I)の化合物は、キラルなアニリンをジアゾ化することにより調製できる。さらに別の方法では、式(I)の化合物は、キラルなアルケンを還元することにより調製できる。
【0025】
したがって、別の態様によれば、本発明は、式(I)の(−)立体異性体またはその塩もしくはプロドラッグを調製する方法であって、
(a)下記式:
【化2】

(式中、Rはキラルなアミノ基を表す)
のカルバミン酸(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェニルエステルのジアステレオ異性体を加水分解すること、
【0026】
(b)下記式:
【化3】

の対応する(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルアニリンをジアゾ化すること、または
【0027】
(c)下記式:
【化4】

の対応する2−(1−メチルアリル)−6−イソプロピルフェノールを還元し、その後、必要に応じ、遊離フェノールまたはその塩(薬学上許容される塩など)もしくはプロドラッグを形成すること、を含む方法を提供する。
【0028】
工程(a)による加水分解は、カルバメートを塩基(例えば、カリウムまたは水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物)と反応させることにより達成でき、これにより式(I)の(−)立体異性体の塩(アルカリ金属塩など)が得られる。遊離フェノールは、この塩を塩酸などの酸で処理することにより得てもよい。キラルなアミノ基は、例えば、キラルな1−アリールエチルアミノ基、例えば、(R)−1−フェニルエチルアミノなどの(R)−1−アリールエチルアミノ基であってもよい。
カルバメート出発物質は、対応する2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールのラセミ混合物をキラルなイソシアネートと反応させて、カルバミン酸(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェニルエステルのジアステレオ異性体を含むジアステレオ異性体混合物を得ることと、式(II)の対応するカルバミン酸(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェニルエステルのジアステレオ異性体を分離することとにより調製してもよい。
【0029】
キラルなイソシアネートは、例えば、キラルな1−アリールエチルイソシアネート、例えば、(R)−(+)−1−フェニルエチルイソシアネートなどの(R)−1−アリールエチルイソシアネートであってもよい。その結果生じる生成物は、対応する1−アリールエチルカルバミン酸2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェニルエステルのジアステレオ異性体混合物である。所望のジアステレオ異性体は、例えば、固定相としてのシリカを用いたクロマトグラフィーにより、または結晶化により分離できる。
驚くべきことに、上記の方法において(R)−(+)−1−フェニルエチルイソシアネートを使用すると、(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの立体異性体の良好な分離がもたらされることが見出された。
【0030】
ラセミ2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールは、実施例1に記載の方法に従って2−イソプロピルフェノールから調製してもよい。
ジアゾ化工程(b)は、銅触媒(CuOなど)と銅(II)塩(硫酸銅など)との存在下で、アニリンを亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸アルカリ金属と反応させることにより、便利に実施される。
式(III)のキラルなアニリンは、本明細書中の実施例3に記載の方法に従って調製してもよい。
還元工程(c)は、炭素上のパラジウムなどの(VIII)群金属触媒の存在下で、水素化により便利に実施される。
式(IV)の化合物は、ラセミフェノールから調製してもよく、その調製については本明細書中の実施例1に記載してある。
【0031】

化合物が十分に酸性である場合、式(I)の化合物の塩は、式(I)の化合物またはその富化混合物を単離または精製するための中間体として有用なことがある。加えて、薬学上許容される塩としての式(I)の化合物の投与は、適切な場合がある。薬学上許容される塩の例としては、当技術分野で周知の標準的な手順を用いて、例えば、十分に酸性の式(I)の化合物を、生理学的に許容される陽イオンを生じさせる適当な塩基と反応させることにより得られる塩が挙げられる。例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウムまたはリチウム)またはアルカリ土類金属(例えばカルシウム)の塩を作製できる。
【0032】
医薬組成物
本明細書中で開示する医薬組成物は、患者に対する適切な投与のための形態とするために、本明細書中で開示する式(I)の化合物を、適当な量の薬学上許容される担体と共に含む。式(I)の化合物は、医薬組成物として製剤し、選んだ投与経路に適合させた様々な形態で、すなわち、経口的に、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、局所的に、または皮下に、患者に投与してもよい。
したがって、式(I)の化合物は、不活性な希釈剤または食用担体などの薬学上許容される担体と組み合わせて全身投与できる。そのような組成物および調製物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含有してもよい。組成物と調製物との比率(%)は、当然ながら変化させることができ、好都合なことに、所与の単位剤形の重量の約0.1%から約60%の間とすることができる。そのような治療に有用な組成物中の活性化合物の量は、有効用量レベルが得られるような量である。
【0033】
本明細書に記載の式(I)の化合物は、静脈内投与に適した医薬組成物として典型的に製剤される。式(I)の化合物は、水中で比較的難溶性であってもよい。したがって、静脈内投与の場合、式(I)の化合物は、1つまたは複数の水非混和性溶媒および1つまたは複数の乳化剤または界面活性剤を用いて水性媒体中で典型的に製剤される。個々の製剤は、安定化剤、等張化剤、pHを調節するための塩基または酸、および可溶化剤などの1つまたは複数の添加成分を含むことができる。この製剤は、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)またはメタ重亜硫酸ナトリウムなどの保存剤を場合により含有してもよい。EDTAなど、本明細書に記載の化合物と併せて使用できる保存剤を含有する有用な水中油エマルションは、米国特許第5,908,869号、同第5,714,520号、同第5,731,356号および同第5,731,355号中に記載されている。
【0034】
本明細書に記載の医薬組成物中では、広範な水非混和性溶媒が使用できる。水非混和性溶媒は、例えば、大豆、ベニバナ、綿実、トウモロコシ、ヒマワリ、ラッカセイ、ヒマまたはオリーブの油などの植物油であってもよい。あるいは、水非混和性溶媒は、例えば、モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリドなどの中鎖もしくは長鎖脂肪酸のエステル、中鎖および長鎖脂肪酸の組合せのエステル、または、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソプロピルパルミレート(palmirate)、グリセロールエステル、ポリオキシルまたは水素化ヒマシ油など化学的に改変もしくは製造された物質であってもよい。水非混和性溶媒は、さらに、例えばタラの肝臓または別の魚由来の油などの水産油であってもよい。他の適当な溶媒としては、例えば、分画されたココナッツ油または改変された大豆油などの分画油が挙げられる。水非混和性溶媒は、「構造化脂質」を含んでいてもよい。(例えば、Lipid Biotechnology、T.M.KuoおよびH.W.Gardner(編)、Marcel Dekker,Inc.、New York、NYを参照)。多くの構造化脂質が、Danisco A/S、Copenhagen、デンマークおよびS&J Lipids、Ostrander、OHなどの商業的供給者から入手できる。
【0035】
本明細書に記載の医薬組成物は、乳化剤を含有することもできる。適当な乳化剤としては、例えば、エトキシ化エーテル、エトキシ化エステル、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックコポリマーおよびリン脂質などの非イオン性の合成乳化剤が挙げられる。卵または大豆のリン脂質など天然に存在するリン脂質、および、改変もしくは人工的に操作されたリン脂質またはその混合物を使用することもできる。いくつかの実施形態では、乳化剤は、卵リン脂質および大豆リン脂質である。卵黄リン脂質としては、ホスファチジルコリン、レシチンおよびホスファチジルエタノールアミンが挙げられる。
本明細書に記載の医薬製剤は、式(I)の化合物の約0.1%から約5%(w/w)を構成する脂質エマルション、約5から約25%(w/w)の水非混和性溶媒および約40%から約90%(w/w)の水を含むことができる。好ましい製剤は、約0.5%から約2%(w/w)の式(I)の化合物を含む。一実施形態では、医薬製剤は、約0.5%から約5%(w/w)の式(I)の化合物と、約0%から約50%(w/w)の水非混和性溶媒とを含む。
【0036】
本明細書に記載の医薬製剤は、安定化剤を含んでもよい。陰イオン性安定化剤としては、例えば、ポリエチレングリコールとコンジュゲートされたホスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)およびホスファチジルグリセロール(その具体例は、ジミリストルホスファチジルギルセロール(dimyristolphosphatidylgylcerol)(DMPG)である)が挙げられる。追加的な安定化剤としては、オレイン酸およびそのナトリウム塩、コール酸およびデオキシコール酸およびそのそれぞれの塩、ステアリルアミンおよびオレイルアミンなどの陽イオン性脂質、ならびに3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書に記載の医薬組成物は、適当な等張化剤を組み込むことにより血液と等張なものとすることができる。グリセロールは、等張化剤として最も頻繁に使用される。代替的な等張化剤としては、キシリトール、マンニトールおよびソルビトールが挙げられる。この医薬組成物は、生理的に中性のpH、典型的には6.0〜8.5の範囲のpHになるように典型的に製剤される。pHは、塩基(例えば、NaOHまたはNaHCO)の、または場合によっては酸(HClなど)の添加により調節できる。
式(I)の化合物は、植物油、ホスファチド乳化剤、典型的には卵レシチンまたは大豆レシチン、および、例えば、Liposyn(登録商標)IIおよびLiposyn(登録商標)III(Abbott Laboratories、North Chicago、IL)およびIntralipid(登録商標)(Fresenius Kabi AB、Uppsala、スウェーデン)などの等張化剤を含む薬学上安全な油−水エマルション、または他の類似の油−水エマルションを用いて製剤できる。
【0038】
式(I)の化合物は、少なくとも1つの中鎖長(C〜C12)脂肪酸のエステルを含むトリグリセリドの形で製剤することもできる。いくつかの実施形態では、このトリグリセリドは、C〜C10脂肪酸のエステルである。式(I)の化合物の製剤に適したトリグリセリドとしては、Miglyol(登録商標)(Condea Chemie GmbH(Witten、ドイツ)が挙げられるが、これに限定されない。例えば、Miglyol(登録商標)810または812(カプリル酸(C10)/カプリン酸(C)グリセリド)は、式(I)の化合物の製剤にとって有用である。
加えて、本明細書に記載の式(I)の化合物は、例えば、米国特許第4,056,635号、同第4,452,817号および同第4,798,846号に記載のようなプロポフォールの医薬組成物に類似させて製剤できる。
本発明における使用に適したさらに他の製剤は、例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences、Philadelphia、Pa.、第19版(1995)において見つけることができる。
【0039】
治療的/予防的投与および用量。
式(I)の化合物および/またはその医薬組成物は、単独で、または、本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物を含めた他の医薬品と組み合わせて投与してもよい。本明細書中で開示する化合物は、それ自体で、または医薬組成物として投与または施用してもよい。具体的な医薬組成物は、当業者に周知のように、所望の投与様式に依存する。
【0040】
本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物は、静脈内ボーラス注射、静脈内への連続注入、経口用錠剤、経口用カプセル、経口用溶液、筋肉内注射、皮下注射、経皮吸収、頬側口腔吸収、鼻腔内吸収、吸入、舌下に、脳内に、膣内に、経直腸的に、局所的に、とりわけ耳、鼻、目もしくは皮膚に、または、当業者に公知の他の任意の好都合な方法により対象に投与してもよい。いくつかの実施形態では、本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物は、経口用の持続放出剤形などの持続放出剤形により送達される。投与は、全身投与でも局所投与でもよい。本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物の送達に使用できる多様な送達系が公知である(例えば、リポソーム、微小粒子、微小カプセル、カプセル、「患者管理鎮痛法」用の薬物送達系中への封入など)。
【0041】
有効と考えられる本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物の量は、当技術分野で公知の標準的な臨床手法により決定できる。本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物の投与量は、当然ながら、他の因子の中でも、治療されている対象、対象の体重、対象の年齢、対象の状態、化合物の意図される効果、投与様式および処方医師の判断に依存することとなる。例えば、全身麻酔をもたらすための式Iの(R)−(−)または(−)立体異性体の投薬量レベルは、約1から約10mg/kgの範囲であってもよい。導入のための好ましい用量は、約1から約3mg/kgの範囲である。維持のための好ましい用量は、1時間当たり約1から約20mg/kgの範囲である。鎮静効果をもたらすために好ましい用量は、1時間当たり約0.3から約8mg/kgの範囲である。
【0042】
併用療法
特定の実施形態では、本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物は、少なくとも1つの他の治療剤との併用療法の形で使用できる。本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物と治療剤とは、相加的に、またはより好ましくは相乗的に作用できる。いくつかの実施形態では、本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物は、別の治療剤の投与と同時に投与されるが、そのような治療剤としては、例えば、他の鎮静催眠剤(例えば、エトミデート、チオペンタール、ミダゾラム、デクスメデトミジン、ケタミン)、麻酔剤(例えば、デスフルラン、セボフルラン、イソフルラン、亜酸化窒素)、鎮痛薬(例えば、レミフェンタニル、モルヒネ、メペリジン、ヒドロモルホン、メタドン、フェンタニル、スルフェンタニルもしくはアルフェンタニルなどのオピオイド、または、ケトロラック、ガパペンチン(gapapentin)、リドカインもしくはケタミンなどの非オピオイド性鎮痛薬)、ロクロニウム、シスアトラクリウム、ベクロニウムまたは臭化パンクロニウムなどの麻痺剤、制吐薬(例えば、オンダンセトロン、ドラセトロン、ドロペリドール)、心血管剤(例えば、メトプロロール、プロプラノロール、エスモロール、クロニジン、フェニレフリン、エフェドリン、エピネフリン、ノルエピネプリン(norepineprine)、ドパミン、ジルチアゼム、アトロピン、グリコピロレート、リシノプリル、ニトログリセリン、ナトリウムニトロプルシド、ジゴキシン、ミルリノン)、ステロイド(例えば、デキサメタゾン、ヒドロコルトゾン(hydrocortosone)、メチルプレドニゾロン)、抗感染剤(例えば、セファゾリン、バンコマイシン)、利尿薬(例えば、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、スピロノラクトン)、気分変調薬(例えば、フルオキセチン、アリピプラゾール)、または、ニコチンもしくはシチシンなどの刺激薬などがある。
例えば、本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物は、他の治療剤と一緒に投与してもよい。他の実施形態では、本明細書中で開示する化合物および/またはその医薬組成物は、他の治療剤の投与に先立ち、またはそれに続いて投与される。
【0043】
プロドラッグ
用語「プロドラッグ」は、本明細書で使用する場合、in vivoで代謝または変換されて式(I)の化合物となることができる化合物を指す。典型的には、プロドラッグは、in vivoで代謝または変換されて対応する式(I)の化合物となることができる対応する化合物をもたらすように、式(I)の化合物中のフェノール基を変化させることにより調製される化合物を包含する。フェノール性化合物のプロドラッグならびにその調製の方法は、これまでに報告されている。例えば、米国特許出願公開第20070015716号、同第20060287525号、同第20060205969号、同第20060041011号、同第20050239725号および同第20050107385号を参照。
【0044】
他の適当なプロドラッグ群は、以下の国際特許出願公開および米国特許出願公開:WO2005023204、US2005107385、US2005004381、WO2004092187、WO2004032971、US2006100163、WO2006033911、WO2004033424、US2005267169、WO2003086413、US2002370213、WO2003057153、US2001342755、US2002099013、WO2002034237、US2004127397、WO2002013810、WO2000048572、US2006166903、WO200008033、US2001025035、WO9958555およびUS199875356;ならびに、他の以下の刊行物:Krasowski,M.D.、Current Opinion in Investigational Drugs(Thompson Scientific)、(2005)、6(1)、90〜98ページ;Fechner,J.ら、Anesthesiology、2004、101、3、626〜639ページ;Altomare C.ら、European Journal of Pharmaceutical Sciences、2003、20、1、17〜26ページ;Sagara,Y.ら、Journal of Neurochemistry、1999、73、6、2524〜2530ページおよびTrapani,G.ら、International Journal of Pharmaceuticals、1998、175、2、195〜204ページの中で述べられている。
【0045】
上記のように、2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの他方の鏡像異性体である(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールも、プロポフォールと比較して、向上した血行力学的プロファイルと共に、同様または向上した薬理活性を示すことが見出された。したがって、本発明は、さらに、麻酔薬として使用するための、この異性体、そのパラフルオロ誘導体、ならびに薬学上許容されるその塩およびプロドラッグ、ならびにその医薬組成物も提供する。
【0046】
式(I)の(S)−(+)または(+)立体異性体、その塩およびそのプロドラッグは、対応する(−)立体異性体の調製について記載された一般的な方法に従ってそれぞれ調製してもよい。例えば、2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの(S)−(+)または(+)立体異性体は、対応する2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールのラセミ混合物をキラルなイソシアネートと反応させてカルバメートのジアステレオマー混合物を得ることにより調製してもよく、この混合物を分離して、カルバメート残留物の加水分解後に式(I)の所望のジアステレオマーを得ることができる。この(S)−(+)または(+)立体異性体の調製には、(S)−(+)−1−フェニルエチルイソシアネートなどの(S)−1−アリールエチルイソシアネートを有利に使用できる。したがって、本発明は、さらに、式(II)(式中、Rは、(S)−1−アリールエチルアミノ基などのキラルなアミノ基を表す)のカルバミン酸(S)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェニルエステルのジアステレオ異性体も提供する。立体異性体はすべて、例えば、本明細書中の実施例2に記載のようなキラル相クロマトグラフィーによりラセミ化合物から分離してもよい。
【0047】
式(I)の(S)−(+)または(+)立体異性体は、(R)−(−)または(−)立体異性体について本明細書中に記載および例示するように存在し、製剤され、および患者に投与されてもよい。この(S)−(+)または(+)立体異性体の場合、全身麻酔をもたらすための投薬量レベルは、約1から約12mg/kgの範囲であってもよい。導入のための好ましい用量は、約1.2から約4mg/kgの範囲であってもよい。維持のための好ましい用量は、1時間当たり約1.5から約30mg/kgの範囲である。鎮静効果をもたらすための好ましい用量は、1時間当たり約0.5から約12mg/kgの範囲である。
【0048】
次に、以下の非限定的な実施例により本発明を例証する。
本発明の化合物が鎮静または催眠効果をもたらす能力は、当技術分野に周知の標準的な薬理学モデルを用いて定量できる。本発明の化合物の催眠効力を、ラットにおける正向反射消失アッセイ(下のテストA中に記載のとおり)を用いて実証した。このアッセイを用いて、本発明の化合物の効力を、プロポフォールの効力と比較した。
【0049】
テストA.正向反射消失アッセイ
オスのSprague Dawleyラットをホルダー中で拘束して、注射用のテスト化合物を尾静脈中に注射した(体重1kg当たりのテスト化合物(mg)に基づく)。投与後、ラットを加熱毛布上に仰臥位で置いた。正向反射(RR(Righting−Reflex):ラットが自分で正しい位置に戻ることができること)の消失が生じる時間を記録し、RRの消失の持続時間も同様に記録した。実施例2において調製した式(I)の化合物は、テストAにおいてプロポフォールより強力であることが見出された。1%製剤の(R)−(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールを7mg/kgボーラス投与されたラットは、14.9分の麻酔状態を呈したが、これに対し、同じ用量および製剤の1%プロポフォールを投与されたラットについては7.1分であった。
【0050】
本発明の化合物の血行力学的プロファイルは、当技術分野に周知の標準的な薬理学的モデルを用いて定量できる。本発明の化合物の血行力学的プロファイルおよび麻酔プロファイルを、麻酔をかけられたブタモデルを用いて同時に評価した(下のテストB中に記載のとおり)。このアッセイでは、本発明の化合物の血行力学的プロファイルを等麻酔用量のプロポフォールのものと比較した。
【0051】
テストB.麻酔をかけられたブタモデル
麻酔導入は、Koら(Koら、Lab Anim Sci、1993、43、476〜80ページ)により記載された手法の改変形を用いてブタについて実施する(筋肉内注射として投与されるTelazol、キシラジンおよびケタミン)。導入に有効な最低用量および気管挿管を使用する。動物が横臥したら、酸素を8mL/分でマスクにより投与し、耳静脈中に通常の生理食塩水を70mL/時で通すことでIVを開始する。ブタの気管には、およそ35mmHgの動脈PCO2を維持するために、挿管および機械的な換気を実施する。
【0052】
心臓の活動をモニターするために、第II誘導の形を用いてECG電極を配置する。血圧をモニターするために、右大腿動脈中に動脈カテーテルを配置する。心拍出量、肺毛細血管楔入圧および中心静脈圧を測定するための右頚静脈を経由して肺動脈カテーテルを配置する。カテーテルは、採血用に、左大腿動脈を経由して腹部大動脈中にも配置する。
大脳半球の前頭および後頭領域全体におよそ50mm離して正中線から20mmの位置に配置された低インピーダンス表面電極を用いて、2極脳波計のリードを配置する。接地電極を、前頭領域と後頭領域との間の正中線に配置する。あるいは、脳波分析器(Aspect Medical)と適合する集積電極センサー・アレイ(Aspect Medical)を適用してもよい。安定化期間中は、平均動脈血圧を100mmHgに保つように調節されたイソフルランを用いて麻酔を維持し、筋弛緩には静脈内用のパンクロニウムを必要に応じて投与する。
【0053】
動物への最初の器具配置が完了した後(通常およそ2〜3時間を要する)、安定化およびベースライン・データ収集の(また、麻酔導入薬の効果のほぼ完全な消失を確実なものとするための)期間としては、さらに1時間15分あれば十分であろう。イソフルラン吸入は、試験中を通して継続しても停止してもよく、テスト化合物の投与に先立ち15分間イソフルランを「ウォッシュアウト」させてもよい。
安定化期間後、末梢IVカテーテルを通した20分間の注入により、本薬剤またはプロポフォールを静脈内投与する。各薬剤について適切な注入用量を確定するために、パイロット用量設定試験を実施する。このパイロット試験では、投薬間は少なくとも90分あけて、複数回用量(合計で最大5注入)を各ブタに投与してもよい。血液試料(各1mL)は、投薬前時点および最初の注入開始後2、4、6、8、10、12、15、20、22、22、25、35、50、65および80分時点で薬物動態学的な目的のために採取してもよく、EEGは、主要な薬力学的エンドポイントとして継続的に記録する。
【0054】
注入開始後2、4、6、8、10、11、12、13、14、15、17.5、20、25、30、45、60、90、120および180分の時点で、腹部大動脈から動脈血試料(各1mL)を採取する。注入開始に先立ち、対照試料も採取する。
EEG信号をBIS分析器(Aspect Medical)に送るが、この分析器は、処理したEEGデータを連続的に出力するものである。出力は、100(完全に意識がある)と0(等電の)との間の範囲で、脳の活動を示す、独自のアルゴリズムにより計算される「BIS」数から成る。
薬物に曝露される期間にわたる傾向性を評価するために、血行力学的データを記録しプロットする。BIS、心拍数(HR)、平均動脈血圧(MAP)および心拍出量に及ぼす効果について、各薬剤のデータをプロポフォールと比較する。
実施例2に記載の用量で調製した(R)−(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(テスト化合物)の血行力学的データおよびプロポフォールのデータを、それぞれ図1および2に示す。このデータにより、本発明のこの化合物が等麻酔用量でプロポフォールに対し向上した血行力学的プロファイル(具体的には血圧低下に関する)を呈することが実証される。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
ラセミ2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(化合物c)の合成
【化5】

【0056】
アリルエーテル(a)の合成:反応器(容量約200L)中の乾燥CHCl(40L)の溶液に2−イソプロピルフェノール(2.5Kg、18.38mol)を加えた。この混合物を0℃から−10℃に冷却した。クロチルアルコール(1.9L、22mol)を反応混合物に加えてから、トリフェニルホスフィン(6Kg、22mol)を5時間かけて少しずつ加えた。これに、DIAD(4.5L、22.1mol)を4時間かけて滴加した。この混合物を室温にして一晩攪拌した。TLCによる判断で出発物質が消えた後、この混合物をジクロロメタン(25L)で希釈し、水(50L×2)および鹹水(50L)で洗浄した。この有機層を無水のNaSO(5Kg)上で乾燥させ、濾過してから乾燥するまで濃縮した。次に、石油エーテル(50L)を加え、この混合物を室温で1時間攪拌した。沈殿した白色の固体(酸化トリフェニルホスフィン)を濾過して取り除き、石油エーテル(10L×2)で洗浄した。濾液を合わせたもの(約80L)を濃縮して黄色の粘稠性の液体(約5Kg)を得た。溶出溶媒として石油エーテル中の5%酢酸エチルを用いたシリカ・ゲル(60〜120メッシュ、約30Kg)・カラム・クロマトグラフィーにより、この粗物質を精製した。純粋画分を合わせ、溶媒を濃縮して1.5Kg(43%)の純粋な物質を得た。
【0057】
ホモスチリル(homostyryl)フェノール(b)の合成:アリルエーテルa(250g、1.28mol)を窒素雰囲気下で270℃にて約25時間加熱した。次に、この反応混合物をEtOAc(2L)で希釈し、水(3L)および鹹水(1L)で洗浄した。それを無水のNaSO(100g)上で乾燥させ、濾過してから、乾燥するまで蒸発させて240gの生成物を得た。
【0058】
2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(c)の合成:0℃の乾燥MeOH(5L)中の化合物b(500g、2.57mol)の溶液にPd¥C(50g、10mol%)を加えた。次に、この混合物をオートクレーブ中で5Kgの水素圧下で一晩水素化させた。次に、celite(登録商標)を通してこの反応混合物を濾過してから、蒸発させて400gの粗生成物を得、溶出溶媒として石油エーテル中の2%酢酸エチルを使用したシリカ・ゲル・カラム・クロマトグラフィーによりこれを精製した。精製した画分を合わせて濃縮して、273gの生成物を得た。
【0059】
(実施例2)
式(I)の立体異性体を得るための、キラルなカルバメート形成を経由したラセミ2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの結晶学的な分割
【化6】

【0060】
ラセミ2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールのR−(+)−1−フェニルエチル)カルバメート(1a)の合成:ラセミ2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(1.92g、10mmol)、R−(+)−1−フェニルエチルイソシアネート(1.47g、10mmol)および4−(ジメチルアミノ)ピリジン(0.06g、0.5mmol)の混合物を乾燥ピリジン(10ml)中で80℃にて一晩加熱した。この反応混合物を、回転式蒸発装置を用いて濃縮した。次に、その結果得られた残留物を分液漏斗中の酢酸エチル(75ml)および1M HCl水溶液(100ml)の間で分けた。有機層を1M HCl水溶液(2×100mL)、鹹水(100ml)で洗浄してから、無水のMgSO上で乾燥させた。濾過に次いで溶媒を蒸発させると、固体としてのカルバメート(1)(3.1g、90%)を得た。
【0061】
(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(3):2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(1)のR−(+)−(1−フェニル)エチルカルバメート(100g、294mmol)を約2.5Lの熱ヘキサン中で溶解させた。この溶液を室温で24〜48時間維持して、完全に結晶化させた。結果として得られた結晶を濾過し、冷ヘキサン(約200ml)で洗浄した。この手順を7回繰り返した(これに伴いヘキサン体積は減少した)。この結晶を真空下で乾燥させて、2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの、ジアステレオマー富化された結晶性のR−(+)−1−フェニルエチル)カルバメート(17g、34%)を得た。結果として得られたカルバメート混合物を、ジオキサン:1M NaOH水溶液の1:1混合物中で100℃にて1〜2分間加水分解させた。次に、この反応混合物をエーテルで希釈し、希薄なHCl水溶液で中和してから、鹹水で洗浄した。次に、エーテル層を無水のMgSO上で乾燥させ、濾過してから蒸発させて、(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールを得た(9.6g、約100%)。真空蒸留(約1〜2mm)を実施した。画分(105〜110℃)を回収して、(3)、すなわち(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールを得た(7.5g、78%、キラルHPLCにより定量した場合の鏡像異性体比は19:1)。旋光度:α20=−7.1
6°。1H NMR (250 MHz, クロロホルム-d1) δ 0.84-0.90 (t. 3H), δ 1.21-1.26 (m. 11H), δ 2.85-2.89 (m. 1H), δ 3.11-3.16 (m. 1H), δ 4.74 (s, 1H), δ 6.87-6.90 (t, 1H) δ 6.987-7.05(m 2H).
【0062】
キラル・クロマトグラフィーによる光学純度の分析:2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(1)のR(+)−(1−フェニル)エチルカルバメートの分析を、定組成モードのCHIRALCEL OD−Hカラム(4.6×250mm)、移動相は1%イソプロパノールを含有するn−ヘキサン、流速1ml/分、20分、検出270nmの条件で実施した。試料はヘキサン中で溶解させた。
【0063】
ラセミ2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールのS−(−)−1−フェニルエチル)カルバメート(1b)の合成:ラセミ2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(1.92g、10mmol)、S−(−)−1−フェニルエチルイソシアネート(1.47g、10mmol)および4−(ジメチルアミノ)ピリジン(0.06g、0.5mmol)の混合物を乾燥ピリジン(10ml)中で80℃にて一晩加熱した。この反応混合物を、回転式蒸発装置を用いて濃縮した。次に、結果として得られた残留物を、分液漏斗中の酢酸エチル(75ml)および1M HCl水溶液(100ml)の間で分けた。有機層を1M HCl水溶液(2×100mL)、鹹水(100ml)で洗浄してから、無水のMgSO上で乾燥させた。濾過に次いで溶媒を蒸発させると、固体としてのカルバメート(1b)を得た。
【0064】
(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(3):2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールのS−(−)−(1−フェニル)エチルカルバメート(1b)(100g、294mmol)を約2.5Lの熱ヘキサン中で溶解させた。この溶液を室温で24〜48時間維持して、完全に結晶化させた。結果として得られた結晶を濾過し、冷ヘキサン(約200ml)で洗浄した。この手順を7回繰り返した(これに伴いヘキサン体積は減少した)。この結晶を真空下で乾燥させて2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの、ジアステレオマー富化された結晶性のS−(−)−1−フェニルエチル)カルバメートを得た。結果として得られたカルバメート混合物を、ジオキサン:1M NaOH水溶液の1:1混合物中で100℃にて1〜2分間加水分解させた。次に、この反応混合物をエーテルで希釈し、希薄なHCl水溶液で中和してから、鹹水で洗浄した。次に、エーテル層を無水のMgSO上で乾燥させ、濾過してから蒸発させて、鏡像異性体富化された2−secブチル−6−イソプロピルフェノールを得た。真空蒸留(約1〜2mm)を実施した。画分(105〜110℃)を回収して、(3)、すなわち鏡像異性体富化された2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールを得た(キラルHPLCにより定量した場合の鏡像異性体比は19:1)。旋光度:α20=+5.95°。1H NMR (250 MHz, クロロホルム-d1) δ 0.84-0.90 (t. 3H), δ 1.21-1.26 (m. 11H), δ 2.85-2.89 (m. 1H), δ 3.11-3.16 (m. 1H), δ 4.74 (s, 1H), δ 6.87-6.90 (t, 1H) δ 6.987-7.05(m 2H).
【0065】
(実施例3)
(−)−2−sec−ブチルアニリンを経由した(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール
【化7】

【0066】
結晶学的な分割(−)−2−sec−ブチルアニリン(1):2−Sec−ブチルアニリン(1.49g、10mmol)および(S)−(+)−マンデル酸(1.52g、10mmol)を、穏やかに加熱しながらエーテル20ml中で溶解させた。この溶液を4℃に冷却し、4℃で2時間維持した。結晶性物質を濾過し、冷エーテルで洗浄してから乾燥させた(1.5g、50%)。この塩を酢酸エチル−ヘキサンから再結晶化させた(1g、33%、異性体比19:1)。キラル・クロマトグラフィーにより2−sec−ブチルアニリンの光学純度を定量した。この塩のエーテル溶液を1M NaOHで処理することにより、(−)−2−sec−ブチルアニリン(1)を抽出した(0.4g、26.5%)。
【0067】
キラル・クロマトグラフィーによる光学純度の分析:2−sec−ブチルアニリンの分析を、定組成モードのCHIRALCEL OD−Hカラム(4.6×250mm)、移動相は1%イソプロパノールを含有するn−ヘキサン、流速1ml/分、20分、検出270nmの条件で実施した。試料は、ヘキサン中で溶解させた。ヘキサンと3M NaOH水溶液との混合物でマンデル酸塩を予備処理した。ヘキサン層を直接カラム上に載せた。
【0068】
(−)−2−sec−ブチル−6−ブロモアニリン(2)の合成:(−)−2−Sec−ブチルアニリン(1)(6.7g、45mmol)をベンゼン240ml中で溶解させ、次いでN−ブロモスクシンイミド(8g、45mmol)を加えた。この反応混合物を室温で一晩攪拌した。次に、溶媒を減圧下で除去した。シリカ・ゲル・クロマトグラフィー(CombiFlash、120gカラム、ヘキサン−DCM)により所望の生成物を精製した。画分1:3.1g(30%、純粋な(−)−2−sec−ブチル−4−ブロモアニリン)、画分2:6.2g((−)−2−sec−ブチル−6−ブロモと(−)−2−sec−ブチル−4,6−ジブロモアニリンとの60%混合物)。画分2を蒸留し、(115〜127℃、5mmで(−)−2−sec−ブチル−6−ブロモアニリンを回収した)(4.9g、48%)。
【0069】
(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルアニリン(3)の合成:(−)−2−Sec−ブチル−6−ブロモアニリン(2)(0.684g、3mmol)、イソプロペニルボロン酸ピナコールエステル(1g、6mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.035g、0.03mmol)、MeCN10mlおよびKCO(5ml、1M溶液)を160℃の電子レンジ中で400秒間加熱した。この反応混合物を水(75ml)で希釈した。生成物を酢酸エチル(50ml)で抽出した。有機層を5% NaHCO、鹹水で洗浄し、無水のMgSO上で乾燥させた。溶媒を減圧下で除去し、シリカ・ゲル・クロマトグラフィー(CombiFlash、30gカラム、ヘキサン−酢酸エチル)により化合物を精製した。次に、5%Pd/C(約0.3g)上のMeOH(40ml)中、水素圧60psiで一晩、還元を実施した(0.48g、72%)。
【0070】
(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノール(4)の合成:(−)−2−Sec−ブチル−6−イソプロピルアニリン(3)(1.92g、10mmol)を、60℃の15% HSO 20ml中で溶解させてから0℃に冷却した。水8ml中のNaNO(0.76g、11mmol)溶液を、温度を0℃未満に保ち激しく攪拌しながら反応混合物に速やかに(約30秒)加えた。この溶液をさらに2分間攪拌してから、水性のCuSO×5HO(220ml中10g)中のCuO(1.5g)の懸濁液に、50℃で激しく攪拌しながら一度に加えた。反応混合物を30分攪拌し、室温に冷却した。この反応を同規模で5回繰り返し(合計9.13gのアニリンを使用した)、すべての反応混合物を合わせた。エーテル(400ml)で有機物質を2回抽出した。溶媒を蒸発させ、シリカ・ゲル・クロマトグラフィーにより化合物を精製した。CombiFlashクロマトグラフィー(ヘキサン/EtAc)を実施し、最終生成物を蒸留した(105〜110C/約3mm)(4.1g(45%)。旋光度:α20=−7.58°(c=5、ペンタン)。1H NMR (250 MHz, クロロホルム-d1) δ 0.84-0.90 (t. 3H), δ 1.21-1.26 (m. 11H), δ 2.85-2.89 (m. 1H), δ 3.11-3.16 (m. 1H), δ 4.74 (s, 1H), δ 6.87-6.90 (t, 1H) δ 6.987-7.05(m 2H).
【0071】
(実施例4)
処方
以下は、治療に使用するための式(I)の化合物を含有する代表的な剤形を例証するものである。
【表1】

【0072】
(実施例5)
処方
以下は、治療に使用するための式(I)の化合物を含有する代表的な剤形を例証するものである。
【表2】

【0073】
(実施例6)
処方
以下は、治療に使用するための式(I)の化合物を含有する代表的な剤形を例証するものである。
【表3】

【0074】
生物学的テスト
(R)−(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの薬理学的プロファイルを、以下の実施例中に記載のテストにおいてプロポフォールとの比較で評価した。この実施例では、(R)−(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールを化合物1と呼ぶ。
【0075】
(実施例7)
注射時の痛み−水相濃度
プロポフォール投与時によくみられる問題である注射痛は、脂質エマルションの水相中に存在するプロポフォールにより引き起こされると考えられる(例えば、Klement Wら、1991、Br J Anaesth、67、281ページを参照)。いくつかの試験により、プロポフォールの水相濃度をDIPRIVANの水相中のプロポフォールの量と比較して低くしたとき、注射時の痛みが著しく減少することが報告されている(例えば、Doenicke AWら、1996、Anesth Analg、82、472ページ;Ueki Rら、2007、J Anesth、21、325ページを参照)。
脂質エマルション製剤の水相中の化合物1の濃度(水相濃度)を定量した。この水相濃度を、同じ製剤形態で製剤されたプロポフォールのものおよびDIPRIVAN(登録商標)(AstraZeneca、Wilmington、DE、USA)のものと比較した。
【0076】
実施例5に従い、化合物1の1パーセント(1%)製剤を製剤した(化合物1は実施例2に記載の要領で調製されている)。1%プロポフォール製剤を同様の様式で製剤した。DIPRIVAN(1%プロポフォールの注射用エマルション)は、AstraZenecaから購入したままの状態で使用した。
Teagarden DLら、1988、Pharmaceutical Research、5、482ページにより記載された限外濾過法を用いて、化合物1およびプロポフォールの水相濃度を定量した。手短に言えば、化合物1の1%製剤0.4mlの試料4つ、1%プロポフォール製剤0.4mlの試料4つ、およびDIPRIVANの0.4試料2つをUltrafree(登録商標)−MC微量遠心フィルター(Millipore、Billerica、MA)中に置き、15分間5000rpmの微量遠心分離により、脂質相から水相を分離した。内部参照標準としてチモールを用いた、化合物1およびプロポフォールの検量線に対する液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC/MS/MS)により、それぞれの水相中の化合物1およびプロポフォールの濃度を定量化した(分析はAlturas Analytics,Inc.、Moscow、IDにより実施)。
【0077】
化合物1の1%製剤中の化合物1の水相濃度は、1.78±0.17μg/mlであった。1%プロポフォール製剤中のプロポフォールの水相濃度は、6.28±0.41μg/mlであった。DIPRIVAN中のプロポフォールの水相濃度は、4.1μg/mlであった。
これらの結果から、まったく同様の製剤中のプロポフォールの水相濃度と比較して化合物1の水相濃度は72%低下しており、DIPRIVAN中のプロポフォールの水相濃度と比較して化合物1の水相濃度は57%低下していることが実証された。
【0078】
(実施例8)
薬物動態学的試験
化合物1の薬力学的効果を評価し、当該効果をプロポフォールの効果と比較するために、飼いならされたブタにおいて薬物動態学的(PK:Pharmacokinetic)試験を行った。
実施例2に記載の要領で調製し実施例6に従って製剤した化合物1の0.5%製剤を、1分当たり0.6mg/kgで20分(総用量12mg/kg)の静脈内(IV)注入により、6匹のブタに投与した。化合物1の血漿濃度を同様のプロトコールにより得られた既存のプロポフォールのデータと比較した(このプロトコールでは、化合物1と同じ様式で製剤した1%プロポフォール製剤を、1分当たり0.750mg/kgで10分(総用量7.5mg/kg)のIV注入により、5匹のブタに投与した)。
【0079】
この試験のデータは、化合物1はブタモデルにおいてプロポフォールと同様の薬物動態プロファイルを呈することを示すものであった。化合物1およびプロポフォールのデータは、3コンパートメント・モデルにより最もよく説明された。化合物1のクリアランスは、プロポフォールと同様、肝臓の推定血流速度を超えた。化合物1は、さらに、ヒトにおけるプロポフォールのものと同様の代謝経路も、ブタにおいて呈した。すなわち、4位がヒドロキシル化されると1位においてグルクロン酸化が生じ、次いでグルクロニドとスルフェートとのコンジュゲートが生じる。イヌにおける用量漸増試験により、化合物1およびプロポフォールについては、ウォッシュアウト時に同様の血漿濃度が示されたが、このことから、当該種においてもクリアランス速度は同様であることが示唆された。
【0080】
(実施例9)
ラットにおける麻酔効果
化合物1のボーラスIV注射の麻酔用量応答を、プロポフォールとの比較で、ラットにおいて試験した。
認可された全身麻酔の齧歯動物モデル(Hill−Venning Cら、1996、Neuropharmacology、35、1209ページ;Lingamaneni Rら、2001、Anesthesiology、94、1050ページを参照)を使用して、正向反射消失(LORR:Loss of Righting Reflex)および回復時間(正向反射の回復からラットがスチール枠を握ったり登ったり正常に歩き回ることができるようになるまでの時間間隔)により示されるものとして、麻酔の発現および持続時間の測定を行った。さらに、LORRを達成する最小用量および最大耐量(MTD)も測定した。
【0081】
実施例2に記載の用量で調製し実施例5に従って製剤した化合物1の1%製剤またはDIPRIVANを、2.5ml/分のボーラスIV注射により、下記用量の投与に要する時間をかけて、用量群当たり6匹のオスのSprague−Dawleyラット(200〜300g)に投与した。50%のラットに正向反射を消失させるのに要する用量(HD50)および7分の麻酔をもたらすのに要する用量(HD7分)を定量することにより、相対効力を評価した。試験した用量の範囲は、化合物1については2、3、4、7、14および21mg/kg、DIPRIVANについては3.5、4.0、7.0および14.0mg/kgであった。
【0082】
結果は、化合物1のボーラスIV投与はラットにおいて用量依存的な麻酔の持続時間をもたらしたことを示した。それぞれの薬剤を、化合物1については3mg/kg以上の用量、プロポフォールについては7.0mg/kg以上の用量で投与した場合、LORRの開始は、15秒未満であった。化合物1は、3mg/kg以上のすべての用量でLORRを生じさせた。プロポフォールは、3.5mg/kgでテストしたラット6匹のうち4匹においてLORRを生じさせなかったが、それ以外の試験したすべての用量では事実、LORRを生じさせた。表1は、化合物1およびプロポフォールについてHD50、HD7分、MTDおよび治療指数(TI;本明細書においては、MTD対HD7分の比率と定義)の結果を比較したものである。DIPRIVANを14mg/kg投与すると、1匹のラットが死亡した。化合物1を21mg/kg投与すると、3匹のラットが死亡した。回復時間は、用量にはほとんど関係ないことが示された。
【0083】
表1.ラットにボーラスIVで投与された化合物1及びプロポフォールのHD50、HD7min、MTD及びTIの結果の比較
【表4】

【0084】
まとめると、化合物1は、プロポフォールより低い用量で効力を示し、さらには、プロポフォールと比較してより高いMTDおよび向上したTIも示した。
このテストでは、実施例2に従って調製した(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールも、4、5、6、7、14、21、28および35mg/kgの用量で評価した。表1aは、この化合物についてのHD50、HD7分、MTDおよびTIの結果を示すものである。(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールを28mg/kg投与すると、ラット6匹のうち1匹が死亡した。
【0085】
表1a. ラットにボーラスIVで投与された(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールのHD50、HD7min、MTD及びTIの結果
【表5】

まとめると、(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールの効力は、プロポフォールと同様であった。(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールは、プロポフォールと比較してより高いMTDおよび向上したTIを呈した。
【0086】
(実施例10)
ビーグル犬における麻酔効果および血行力学的効果
化合物1のボーラスIV投与の麻酔効果および血行力学的効果をプロポフォールとの比較で実証するために、イヌにおいて用量漸増試験を行った。
この試験のエンドポイントは、麻酔の導入、持続時間、深度および質、ならびに、化合物1またはプロポフォールのボーラスIV投与の血行力学的効果についての用量関係であった。実施例2に記載の用量で調製し実施例5に従って製剤した化合物1の1%製剤と、同じ様式で製剤した1%プロポフォール製剤とを使用した。
【0087】
二波長指数(BIS)を用いて、麻酔深度の脳波(EEG)測定値を測定したが、BISは、麻酔薬が脳に及ぼす効果を測定し鎮静または麻酔のレベルの変化を追跡するために用いられるいくつかのシステムのうちの1つである。BISは、EEGのデータを分析する数学アルゴリズムであり、出力は、100(完全に意識がある)から0(等電のEEG)までの単一の数である。他の評価には、鎮静スコア、臨床観察、血圧、心電図(ECG)および酸素飽和が含まれた。
ビーグル犬(オス、2〜4歳、8〜10kg)に血管アクセス・ポートを埋め込んだ。埋込み手術の時点で、イヌの頭の毛を刈り、EEG電極設置のために印を付け、BOTOX(登録商標)(Allergan,Inc.、Irvine、CA、ボツリヌス毒素A型を精製した神経毒複合体)を注射した。すなわち、額を通した5回の筋肉内(IM)注射の形で、イヌ1匹当たり合計40単位を投与した。この注射は、筋肉の動き、および、BIS信号による筋電図(EMG)の干渉を抑制することを意図したものであった。
【0088】
この試験は、クロスオーバー計画であった。各イヌには、化合物1またはプロポフォールの、漸増するボーラスIV投薬(60秒かけて注射)を2から4回、少なくとも30分(またはイヌが目覚めるまで)離して実施し、MTDが達成されるまでこれを続けた。MTDは、平均動脈血圧(MAP)を50%または水銀50ミリメートル(mmHgまたはmm Hg)未満まで下げた用量として定義した。すべての動物は、酸素補給、および、必要に応じて、無呼吸の4分後に補助換気を受けた。
睫毛反射の有無、眉間の叩打ちまたは聴覚刺激、足先をつまむことに対する応答および呼吸の有無を評価することにより、麻酔深度を定量した。各サインが存在する場合を1、各サインが存在しない場合を0として評点を付けた。これにより、投薬間の30分にわたる複数の時点における累積鎮静スコアの計算が可能になった(5=目覚めている、0=無呼吸/深い麻酔)。導入のスムーズさ、筋緊張の質的評価および不随意運動の存在を書き留めることにより、麻酔の質を評価した。不随意運動のエピソード出現(例えば覚醒中に)については、各用量についての観察期間を通して存在するまたはしないとして評点を付けた。2元ANOVAを用い、次いで時間および用量の効果の多重比較のためのボンフェローニ補正を用いたt検定を実施することで、BISおよび血行力学的効果を分析した。
【0089】
A.麻酔効果
前投薬していない自発呼吸するビーグル(1投薬当たり5〜30mg/kg、化合物1の投薬についてイヌ3〜6匹、プロポフォールの投薬についてイヌ1〜5匹においてボーラスIVにより投与された化合物1およびプロポフォールが用量依存的な麻酔を達成する能力を表2に示す。プロポフォールを15mg/kg投与されたイヌ3匹のうち2匹は、15mg/kgでMTDに達した。したがって、30mg/kgプロポフォール投薬は1匹のイヌのみに行った。
【0090】
表2.イヌへのボーラスIV投与後の化合物1およびプロポフォールについての、用量依存的な麻酔の持続時間(睡眠時間)
【表6】

【0091】
データは、さらに、化合物1およびプロポフォールのすべての用量において、麻酔が1分以内に導入されたことも示した。睡眠時間により測定した麻酔の持続時間は、化合物1およびプロポフォールの大半の用量において同様であった。累積鎮静スコアは、プロポフォールおよび化合物1の両方について5mg/kg超と、およそ等効力の麻酔深度を示した。化合物1を10mg/kgで、またはプロポフォールを10mg/kgもしくは15mg/kgで投与されたイヌのBIS値間には有意差はなかった。化合物1は、15mg/kg以上の用量ではBISに対する効果が大きくなったが、これらの用量は非常に高く、臨床的に適切でない可能性がある。化合物1の麻酔の質(導入のスムーズさ、筋緊張の質的評価、不随意運動の存在)は、プロポフォールと同様であった。
この試験では、実施例2に従って作製した(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールも評価した。表2aは、この化合物についての用量依存的な麻酔の持続時間(睡眠時間)を示すものである。
【0092】
表2a.イヌへのボーラスIV投与後の(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールおよびプロポフォールについての用量依存的な麻酔の持続時間(睡眠時間)
【表7】

このデータは、麻酔の持続時間が化合物1およびプロポフォールについて同様であったことを示した。
【0093】
B.血行力学的効果:血圧
平均動脈圧(MAP)などの血行力学的データを、ベースライン、1、2、4、8、15、20および30分時点で記録した。化合物1を、5、10、15および30mg/kgで、それぞれ6、4、3および3匹のイヌに投与した。プロポフォールを、同じ用量でそれぞれ3、5、5および1匹のイヌに投与した。30mg/kgプロポフォールは1匹のイヌのみに投与したが、その理由は、2匹の動物において15mg/kgでMTD基準に達したからであった。2元ANOVAを用い、次いで多重比較のためのボンフェローニ補正を用いたt検定を実施することで、データを分析した。
データの比較により、プロポフォールは、化合物1が及ぼすより著しく大きい効果をMAPに及ぼしたことが示された。表3は、平均動脈圧%(MAP%)の、ベースラインから、10、15または30mg/kgの化合物1のボーラスIV投与の4分後の変化を同じ用量のプロポフォールにより達成されたMAP%の変化と比較してある例を提供するものである。
【0094】
表3.ベースラインから、化合物1またはプロポフォールのボーラスIV投与の4分後のMAP%の変化として測定した用量依存的な平均動脈圧変化
【表8】

*2匹のイヌがすでに15mg/kgプロポフォールでMTD基準に到達していたことを考慮して、30mg/kgプロポフォールでは1匹のイヌのみをテストした。
【0095】
この試験では、実施例2に従って作製した(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールも評価した。データの比較により、プロポフォールは、(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールが及ぼしたより著しく大きい効果をMAPに及ぼしたことが示された。表3aは、ベースラインから4分時点でのMAP%の変化を比較してある例を提供するものである。
表3a.ベースラインから、(S)−(+)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェノールのイヌへのボーラスIV投与の4分後のMAP%の変化として測定した用量依存的な平均動脈圧変化
【表9】

【0096】
(実施例11)
ブタにおける麻酔効果および血行力学的効果
実施例2に記載の要領で調製し実施例6に従って製剤した化合物1の0.5%製剤、またはDIPRIVAN(1%プロポフォール注射用エマルション)をIV注入した、麻酔をかけられ換気されているブタにおいて、化合物1およびプロポフォールの麻酔効果および血行力学的効果を比較した。評価には、BIS、薬物動態、血圧、ECG、心拍数、心拍出量、体温および酸素飽和を用いての麻酔深度のEEG測定値が含まれた。
実験は、商業的に農場で飼育された両性のブタ(平均体重33.6kg)に対して実施した。イソフルランを用いて麻酔を導入した。耳静脈から血管内へのアクセスを得た。各ブタには、挿管し機械的に換気を行った。舌の上に配置した連続式のパルス酸素濃度計を用いて、組織への酸素供給をモニターした。酸素、二酸化炭素および強力な吸入薬剤濃度を測定する吸気/呼気分析器を用いて、換気をモニターした。換気装置の設定は、安定した状態を維持するために必要に応じて調節した。
【0097】
イソフルラン、および、パンクロニウムの注入(10mg/時間)を用いて、継続的な麻酔レベルが達成された。試験期間を通してECGをモニターした。カニューレを挿入した左大腿動脈を通して動脈血圧をモニターした。MAP、収縮期および拡張期の動脈圧および心拍数を5秒毎に収集した。心拍出量および血液温度の熱希釈測定用に、内部の頚静脈に肺動脈カテーテルをカニューレ挿入した。体温は37℃に維持した。EEGモニター用の器具配置は、前頭〜後頭領域にわたり粘着性の電極アレイを用いて達成した(Aspect Medical、Norwood、MA、USA)。
【0098】
実験デザインには、30分の安定化期間、次いで化合物1(1分当たり0.6mg/kg×20分)またはプロポフォール(1分当たり0.750mg/kg×10分)のIV注入が含まれた。それぞれの注入に180分のウォッシュアウト期間が続いた。薬物動態分析用の血液力学的測定値および血液試料を、注入前、化合物1またはプロポフォールの注入中に2分毎、およびウォッシュアウト期間中は頻繁に得た。化合物1およびプロポフォールの注入の時間および速度は、注入期間中にBISが最大に低下(<10)するように予め決めておいた。pH、pO2、pCO2、グルコース、カリウムおよび乳酸を定量するための動脈血試料は、化合物1またはプロポフォールの注入前のベースライン時点、注入中、および、注入後1時間毎に測定した。
【0099】
A.麻酔効果
化合物1およびプロポフォールは、1分当たり0.6mg/kgの化合物1を17.3±1.9分、1分当たり0.750mg/kgのプロポフォールを9.4±1.9分、それぞれIV注入した場合に、BISが最大に抑制(<10)された。EEGに及ぼす効果は可逆的であり、60分以内にベースラインに戻った。
【0100】
B.血行力学的効果
化合物1(1分当たり0.6mg/kg、ブタ6匹)およびプロポフォール(1分当たり0.750mg/kg、ブタ6匹)のIV注入およびウォッシュアウトを通して、平均動脈圧および心拍数を周期的に測定した。結果をそれぞれ図3および4に示す。化合物1を注入したブタの動脈血ガス試料を採取し、血液ガスおよび血清化学値について分析した。
ベースラインでのMAPおよびHR値は、化合物1とプロポフォールとの間で差がなかった。両方の化合物ともMAPは低下したが、プロポフォールは、化合物1より著しく大きくMAPが低下した。プロポフォールについて測定した最低HRは、化合物1について測定した最低HRより著しく低かった。化合物1またはプロポフォールの注入の中止後は、HRおよびMAPは両方ともベースラインに戻った。
動脈血ガスおよび血清化学値は正常限度内であった。化合物1は、代謝性アシドーシスまたは乳酸増加などの顕著な代謝変化を一切生じさせなかった。
【0101】
(実施例12)
制吐活性
フェレットにおける制吐の可能性について化合物1をテストし、プロポフォールのものと比較した。
頚静脈中に血管アクセス・ポートを設置された体重1.0〜1.5kgのオスの臭腺除去済みのフェレットを、制御された温度下での12/12時間の明/暗サイクル、食餌および水は自由に与えられる、という条件で収容した。各試験日には、投薬の1時間前にフェレットに食餌を与えた。投薬前に速やかに食餌および水を片付けた。実施例2に記載の要領で調製し実施例5に従って製剤した化合物1の1%製剤またはDIPRIVANを、IV注入によりフェレットに投与した;Wynn RLら、1993、Eur J Pharmacol、241、42 re DIPRIVAN administration in ferretsを参照。化合物1またはDIPRIVANの投与後、動物を清潔な透明のケージ(蓋付き)中に置き、投与された具体的な処置について知らされていない観察者による45分間の観察期間のために無拘束状態で放置した。
【0102】
フェレットにおける催吐は、胃腸管から固体または液体の物質が経口的に排出されること(すなわち嘔吐)または物質の通過を伴わない動作(すなわち催吐)のいずれかを伴う律動的な腹部の収縮が特徴である。催吐および/または嘔吐のエピソードは、催吐および/または嘔吐の間の間隔が5秒を超えたとき、別のエピソードとみなした。
以下のように、1薬剤当たり6匹のフェレットにおいて化合物1またはプロポフォールの催吐促進活性を試験した:イソフルラン吸入によりフェレットに麻酔をかけた。1分当たり1mg/kgを15分間のIV注入により、化合物1またはプロポフォールを投与した。注入終了後、フェレットを継続的に45分間観察し、嘔吐および催吐の回数を数えた。
【0103】
以下のように、1薬剤当たり6匹のフェレットにおいて化合物1またはプロポフォールの制吐活性を試験した:イソフルランでフェレットに麻酔をかけ、1分当たり1mg/kgでの15分のIV注入により化合物1またはプロポフォールを投与した。注入終了後、0.5mg/kgの硫酸モルヒネを皮下投与し、上述の要領でフェレットを45分間モニターした。さらなる6匹のフェレットには、0.5mg/kgの硫酸モルヒネのみを皮下投与した。
硫酸モルヒネ(0.5mg/kg)単独では、フェレットにおいて催吐が促進され、嘔吐15回および催吐157回のエピソードが発生した。化合物1は、単独投与の際は嘔吐または催吐のエピソードを一切生じさせなかった。モルヒネの存在下で化合物1を投与されたフェレットは、嘔吐1回および催吐47回を呈した。プロポフォールおよび硫酸モルヒネを投与されたフェレットは、嘔吐3回および催吐47回を呈した。したがって、化合物1およびプロポフォールは両方とも、モルヒネの存在下での嘔吐および催吐の発生頻度を低下させた。
【0104】
すべての刊行物、特許および特許文書は、参照により個々に組み込まれる場合と同様に、参照により本明細書に組み込まれる。多様な具体的で好ましい実施形態および手法を参照しながら本発明を記載してきた。しかしながら、本発明の精神および範囲内に留まりながら多くの変形および改変が成される可能性があることは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、Xは、HまたはFである)
の(−)立体異性体またはその塩もしくはプロドラッグ。
【請求項2】
式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(I)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩である、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
XがHである、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の化合物と、薬学上許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項6】
静脈内投与用に製剤される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
脂質エマルションとして製剤される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
動物において全身麻酔を導入または維持する方法であって、式(I):
【化2】

(式中、Xは、HまたはFである)
の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの有効量を前記動物に投与することを含む方法。
【請求項9】
XがHである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
式(I)(式中、XはHである)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩の有効量を前記動物に投与することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
動物において鎮静を促進する方法であって、式(I):
【化3】

(式中、Xは、HまたはFである)
の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩もしくはプロドラッグの有効量を前記動物に投与することを含む方法。
【請求項12】
XがHである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
式(I)(式中、XはHである)の(−)立体異性体または薬学上許容されるその塩の有効量を前記動物に投与することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
医学療法で使用するための、請求項2から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項15】
動物において全身麻酔を導入または維持するための、請求項2から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項16】
動物において鎮静を促進するための、請求項2から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項17】
請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物を調製する方法であって、
(a)式:
【化4】

(式中、Rはキラルなアミノ基を表す)
のカルバミン酸(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェニルエステルのジアステレオ異性体を加水分解すること、
(b)式:
【化5】

の対応する(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルアニリンをジアゾ化すること、または
(c)式:
【化6】

の対応する2−(1−メチルアリル)−6−イソプロピルフェノールを還元し、その後、必要に応じ、遊離フェノールまたはその塩もしくはプロドラッグを形成すること、を含む方法。
【請求項18】
式:
【化7】

(式中、Rはキラルなアミノ基を表す)
のカルバミン酸(−)−2−sec−ブチル−6−イソプロピルフェニルエステルのジアステレオマー。
【請求項19】
が(R)−1−アリールエチルアミノ基である、請求項18に記載のジアステレオマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−526827(P2010−526827A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507667(P2010−507667)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2008/063088
【国際公開番号】WO2008/141099
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509308986)ファーマコフォア,インク. (4)
【氏名又は名称原語表記】PHARMACOFORE,INC.
【Fターム(参考)】