説明

治療的血管新生および脈管形成におけるニコチン

【課題】冠状動脈または末梢動脈の疾患のような虚血性症候群の治療における、ニコチン又は他のニコチン受容体アゴニストの投与による治療的血管新生において使用することができる方法の提供。
【解決手段】血管新生を誘導するニコチンまたは他のニコチン受容体アゴニストを、虚血性組織の内部または隣接する領域に対して行われる投与、さらに一酸化窒素の合成または活性を増強する物質やプロスタサイクリンの合成または活性を増強する物質を投与することを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は概して、血管新生および脈管形成の調節の分野、特に新たな脈管構造の発達を促進するための血管新生の誘導に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血管新生および脈管形成は、血管の発達に関連した過程である。血管新生は、既存の毛細血管から新たな血管が形成される過程であり、脈管形成は内皮前駆細胞に由来する血管の発達を伴う。血管新生および脈管形成、ならびにこれらの過程を調節する因子は、胚発生、炎症および創傷治癒において重要であり、かつ腫瘍増殖、糖尿病性網膜症、慢性関節リウマチおよび慢性炎症疾患のような病態の一因である(例えば、米国特許第5,318,957号(特許文献1);Yancopoulosら、Cell、93:661-4(1998)(非特許文献1);Folkmanら、Cell、87:1153-5(1996)(非特許文献2);および、Hanahanら、Cell、86:353-64(1996)(非特許文献3)を参照のこと)。
【0003】
血管新生および脈管形成は両者とも、内皮細胞の増殖を伴う。内皮細胞は血管壁の内部を覆い;毛細血管はほぼ全て内皮細胞から構成される。血管新生過程は、増大された内皮細胞の増殖を伴うだけでなく、更に内皮細胞によるプロテアーゼ分泌、基底膜の破壊、周辺マトリックスを通過しての移動、増殖、整列、管状構造への分化および新たな基底膜の合成を含む連続的な追加事象も含む。脈管形成は、間葉細胞の動員およびその血管芽細胞への分化を伴い、血管芽細胞はその後新規血管の内皮細胞にする(例えば、Folkmanら、Cell、87:1153-5(1996)(非特許文献2)を参照のこと)。
【0004】
異なる特性および作用機序をもつ血管新生性および/または脈管形成性の物質がいくつか、当技術分野において周知である。例えば、酸性および塩基性線維芽細胞成長因子(FGF)、トランスフォーミング成長因子アルファ(TGF-α)およびベータ(TGF-β)、腫瘍壊死因子(TNF)、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、ならびにアンジオジェニンが、強力かつ性質がよく知られている血管新生促進物質である。加えて、一酸化窒素およびプロスタグランジン(プロスタサイクリンアゴニスト)の両方が、VEGFおよびbFGFのような様々な血管新生成長因子の介在物質であることが示されている。しかし、これらの化合物のいくつかでは、特に全身作用性物質としての治療的適用が、様々な細胞種に対する強力な多面的作用により限られている。
【0005】
血管新生および脈管形成の過程は治療上の利用に活用することができるので、強い関心の的となってきた。血管新生および/または脈管形成を刺激することによって、創傷治癒、皮膚移植片の脈管形成、および血管閉塞または狭窄が存在する側副循環の増強を促進することができる(例えば、冠状動脈、頸動脈、または末梢動脈の閉塞性疾患による閉塞周辺に「バイオバイパス」が形成される)。被験者の許容性が良好であり、血管新生および/または脈管形成の刺激作用に高い効力がある因子に強い関心が寄せられている。
【0006】
関連技術
Villablanca(「ニコチンはインビトロで血管内皮細胞のDNA合成および増殖を刺激する」、J. Appl. Physiol.、84:2O89-98(1998))(非特許文献4)は、インビトロにおけるウシ肺動脈内皮細胞の培養物を用い、内皮のDNA合成、DNA修復、増殖、および細胞毒性に対するニコチンの効果を調べた。
【0007】
Cartyらの文献(「ニコチンおよびコチニンは、塩基性線維芽細胞成長因子の分泌を刺激し、かつ培養したヒト平滑筋細胞におけるマトリックスメタロプロテアーゼの発現に作用する」、J Vasc Surg、24:927-35(1996))(非特許文献5)には、ニコチンは血管の平滑筋細胞を刺激して線維芽細胞成長因子を産生させ、かつさらにいくつかのマトリックスメタロプロテアーゼの発現をアップレギュレートすると記述されている。この研究者らは、これらのデータは喫煙がアテローム性動脈硬化症および動脈瘤を惹起し得る作用機序を説明すると提唱している。
【0008】
Belluardoらの文献(「短期間の間欠的ニコチン処置は、ラットの終脳および間脳における塩基性線維芽細胞成長因子のmRNAおよびタンパク質を局所的に増加させる」、Neuroscience、83:723-40(1998))(非特許文献6)は、ニコチンがラット脳において線維芽細胞成長因子-2の発現を刺激すると報告しており、この研究者らは、この結果はラット脳におけるニコチンの神経保護的作用を説明すると提唱している。
【0009】
Moffettら(「チロシンリン酸化の増加および新規シス-作用性エレメントは、ニコチン性アセチルコリン受容体による線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)遺伝子の活性化を媒介する。細胞発生および可塑性の経シナプス調節の新規機序」、Mol Brain Res、55:293-305)(非特許文献7)は、ニコチンがチロシンリン酸化を必要とする独特の転写経路を利用して、神経堤由来の副腎のクロム親和性細胞において線維芽細胞成長因子-2の発現を刺激すると報告している。この筆者らは、これらの発見はニコチン受容体の活性化が神経発生に関与し得ることを示すと提唱している。
【0010】
Cucinaら(「ニコチンは、内皮細胞における塩基性線維芽細胞成長因子およびトランスフォーミング成長因子β1の産生を調節する」、Biochem Biophys Res Commun、257:302-12(1999))(非特許文献8)は、ニコチンが、内皮細胞からのbFGF放出を増加し、TGFβ1放出を減少させ、かつ内皮細胞の有糸分裂誘発を増大させると報告している。この執筆者らは、これらの作用が、アテローム性動脈硬化症の発生および進行において重要な役割を果たし得ると結論している。
【0011】
Volmら(「扁平上皮性肺癌における血管新生およびタバコの喫煙:28症例の免疫組織化学的研究」、Anticancer Res、19(1A):333-6(1999))(非特許文献9)は、肺腫瘍内の血管新生が患者の喫煙習慣と関連していると報告している。
【0012】
Mackilnら(「ヒト血管内皮細胞は、機能的ニコチン性アセチルコリン受容体を発現する」、J. Pharmacol. Exper. Therap.、287:435-9(1998))(非特許文献10)は、内皮細胞が機能的ニコチン性(神経型)およびムスカリン性アセチルコリン受容体の両方を発現すると報告している。
【0013】
米国特許第5,318,957号(特許文献1);第5,866,561号(特許文献2);および第5,869,037号(特許文献3)は、血管新生に作用する様々な化合物(ハプトグロビンおよびエストロゲン)ならびに方法(脂肪細胞のアデノウイルス媒介型遺伝子治療)の使用を記載している。
【0014】
血管新生および脈管形成の分野における最新の総説としては、例えばYancopoulosら、Cell、93:661-4(1998)(非特許文献1);Folkmanら、Cell、87:1153-5(1996)(非特許文献2);およびHanahanら、Cell、86:353-64(1996)(非特許文献3)を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,318,957号
【特許文献2】米国特許第5,866,561号
【特許文献3】米国特許第5,869,037号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Yancopoulosら、Cell、93:661-4(1998)
【非特許文献2】Folkmanら、Cell、87:1153-5(1996)
【非特許文献3】Hanahanら、Cell、86:353-64(1996)
【非特許文献4】Villablanca(「ニコチンはインビトロで血管内皮細胞のDNA合成および増殖を刺激する」、J. Appl. Physiol.、84:2O89-98(1998))
【非特許文献5】Cartyらの文献(「ニコチンおよびコチニンは、塩基性線維芽細胞成長因子の分泌を刺激し、かつ培養したヒト平滑筋細胞におけるマトリックメタロプロテアーゼの発現に作用する」、J Vasc Surg、24:927-35(1996))
【非特許文献6】Belluardoらの文献(「短期間の間欠的ニコチン処置は、ラットの終脳および間脳における塩基性線維芽細胞成長因子のmRNAおよびタンパク質を局所的に増加させる」、Neuroscience、83:723-40(1998))
【非特許文献7】Moffettら(「チロシンリン酸化の増加および新規シス-作用性エレメントは、ニコチン性アセチルコリン受容体による線維芽細胞成長因子-2(FGF-2)遺伝子の活性化を媒介する。細胞発生および可塑性の経シナプス調節の新規機序」、Mol Brain Res、55:293-305)
【非特許文献8】Cucinaら(「ニコチンは、内皮細胞における塩基性線維芽細胞成長因子およびトランスフォーミング成長因子β1の産生を調節する」、Biochem Biophys Res Commun、257:302-12(1999))
【非特許文献9】Volmら(「扁平上皮性肺癌における血管新生およびタバコの喫煙:28症例の免疫組織化学的研究」、Anticancer Res、19(1A):333-6(1999))
【非特許文献10】Mackilnら(「ヒト血管内皮細胞は、機能的ニコチン性アセチルコリン受容体を発現する」、J. Pharmacol. Exper. Therap.、287:435-9(1998))
【発明の概要】
【0017】
発明の要約
本発明は、ニコチンまたは他のニコチン受容体アゴニストの投与による血管新生の誘導方法を特徴とする。本発明の方法による血管新生の誘導は、例えば冠状動脈および末梢動脈の疾患のような虚血性症候群の処置における治療的血管新生において使用することができる。
【0018】
本発明のひとつの目的は、限定的な有害作用を伴うかまたは有害作用を伴わずに血管新生を制御する、特に増強する方法を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、心筋梗塞および脳梗塞、腸間膜虚血または四肢虚血、創傷、ならびに血管閉塞または狭窄のような、血管新生を伴う疾患および刺激を治療および予防する方法を提供することである。
【0020】
本発明のさらに別の目的は、創傷治癒、または皮膚移植片、筋皮弁もしくは他の外科的に移植された組織の血管新生を促進するため;または、外科的に形成された吻合の治癒を促進するために、血管新生を増強する方法を提供することである。
【0021】
本発明のこれらおよび他の目的、利点および特徴は、以下に十分詳述した本発明の方法およびそこで使用される組成物の詳細を読了することにより、当業者には明らかであると思われる。
【0022】
好ましい態様の詳細な説明
本発明を説明する前に、本発明は記載する特定の方法論(例えば投与様式)または特異的組成物に限定されるものではなく、当然それらは変更し得ることは理解されるべきである。本発明の範囲は添付された特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書において使用する用語法は、特定の態様についてのみ説明するために用い、限定的であることを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0023】
特に記さない限り、本明細書において使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する分野の業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書において記載するものと同様または同等のあらゆる方法および材料を、本発明の実施または試験において使用することができるが、本明細書には好ましい方法および材料を記載する。本明細書において言及する全ての刊行物は、開示への参照として本明細書に組み入れられており、その刊行物の引用に関連する方法および/または材料を記載している。
【0024】
本明細書および添付された特許請求の範囲において使用される、単数形「一つの(a)」、「および(and)」および「その(the)」は、文脈が特に明確に指示しない限りは、複数の対象を含む。従って、例えば「あるニコチン受容体アゴニスト」は、そのような複数のアゴニストを含み、かつ「そのニコチン受容体」は、1個以上の受容体および当業者に公知のそれらの同等物などを含む。
【0025】
本明細書において記載された刊行物は、本出願の出願日に先立って開示されたもののみが提供される。本明細書には、本発明は先行する発明により、そのような刊行物に先行する権利が与えられないことの容認として解釈されるべき内容は一切記載していない。さらに提供された公開の日付は、実際の公開日とは異なることがあり、個別に確認する必要がある。
【0026】
定義
「ニコチン受容体アゴニスト」という用語は、ニコチン(ニコチン誘導体および類似化合物を含むと理解される)ならびに実質的にニコチン受容体に特異的に結合し、例えば血管新生の誘導のような薬理学的作用を提供するその他の化合物を包むことを意味する。「ニコチン受容体アゴニスト」は、天然に存在する化合物(低分子、ポリペプチド、ペプチドなど、特に天然に存在する植物アルカロイド、および類似物を含むが、これらに限定されない)、内因性リガンド(例えば天然資源から精製されたもの、組換えにより産生されたものまたは合成されたもの、およびこのような内因性リガンドの誘導体および変種をさらに含む)、ならびに合成的に産生された化合物(例えば低分子、ペプチドなど)を包む。
【0027】
「ニコチン」という用語は、化学名S-3-(1-メチル-2-ピロリジニル)ピリジンを有するニコチンとして知られ、自然から単離および精製されるかまたはいずれかの方法により合成的に産生され得る、天然に存在するアルカロイドを指すと意図されている。この用語はさらに、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩または重硫酸塩、リン酸塩または酸性リン酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩または酸性クエン酸塩、酒石酸塩または重酒石酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、サッカリン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、樟脳塩およびパモエート塩などの、薬理学的に許容される陰イオンを含む一般に存在する塩類を包むことも意図されている。ニコチンは無色から淡黄色、強アルカリ性、油状揮発性の吸湿性液体であり、分子量162.23および図1に示した式を有する。
【0028】
特に記さない限りは、「ニコチン」という用語はさらに、ニコチンに類似した薬物療法学的性質を示すような、薬理学的に許容されるニコチンの誘導体または代謝産物も含む。このような誘導体、代謝産物、および代謝産物の誘導体は、当技術分野において公知であり、さらにコチニン、ノルコチニン、ノルニコチン、ニコチンN-オキシド、コチニンN-オキシド、3-ヒドロキシコチニンおよび5-ヒドロキシコチニンまたはそれらの薬学的に許容される塩を含むが、これらに必ずしも限定されない。多くの有用なニコチン誘導体が、「ハリソン内科学(Harrison's Principles of Internal Medicine)」だけでなく、「内科医参考書(Physician's Desk Reference)」(最新版)にも開示されている。
【0029】
「ニコチン受容体アゴニスト」における「ニコチン受容体」という用語は、ニコチンまたは他のニコチン受容体アゴニスト(例えば、ムスカリン性アセチルコリン受容体)への結合時に血管新生を刺激するニコチン結合部位を含むあらゆるタンパク質だけでなく、ニコチン受容体の古典的五量体タンパク質(中心のイオンチャネルの周囲に対称的に配置されたサブユニットにより形成されている)も包むことを意味する。「ニコチン受容体アゴニスト」という表現における「ニコチン受容体」という用語の使用は、本発明をニコチンまたは他のニコチン受容体アゴニストが血管新生を刺激する、理論化された作用機序(例えば、ニコチン受容体の結合)に限定することを意味するものではなく、むしろこれは血管新生の刺激を促進するために使用することができる、本発明により意図される化合物の種類を記述する手段である。
【0030】
「処置」、「治療する」および類似の用語は、本明細書においては一般に、望ましい薬理学的および/または生理的作用、例えば血管新生および/または脈管形成の刺激を得ることを意味するように使用される。この作用は、その疾患または症状を完全にまたは部分的に防ぐことにより予防的であり、および/または疾患および/またはその疾患に寄与する有害作用を部分的または完全に治療することにより治療的であり得る。本明細書で使用される「治療」は、哺乳類、特にヒトにおける疾患のあらゆる処置に及び、以下の段階を含む:(a)ある疾患に対する素因を持つがその疾患に罹患しているとは診断されていない被験者において、疾患または状態が生じるのを防ぐ段階(例えば、不適切な血管新生による皮膚移植片または再付着させた四肢の喪失を防ぐ段階);(b)疾患を阻害する、例えばその進行を阻止する段階;もしくは、(c)疾患を軽減する段階(例えば臓器への血流を改善するために、閉塞した血管の周囲における「バイオバイパス」の形成を促進する段階)。本発明では、血管新生および/または脈管形成の刺激は、血管分布の増加および血流の増加による処置を受け入れることのできる疾患または状態を有する被験者に適用される。
【0031】
「ニコチン受容体アゴニストの治療に有効な量」とは、望ましい治療効果の促進、例えば望ましい程度の血管新生および/または脈管形成の刺激の促進に効果があるニコチン受容体アゴニストの量を意味する。正確な望ましい治療効果は、治療される状況によって変動すると思われる。
【0032】
「単離された」とは、化合物が、天然にそれに付随する成分の全部または一部から分離されることを意味する。
【0033】
「実質的に純粋なニコチン受容体アゴニスト」とは、ニコチン受容体アゴニストが、天然に付随する成分から分離されていることを意味する。概して、ニコチン受容体アゴニストは、天然ではそれと結合している天然の有機分子が少なくとも質量で60%除かれている場合は、実質的に純粋である。好ましくは、この試料は、少なくとも75%質量、より好ましくは少なくとも90%質量、さらに最も好ましくは少なくとも99%質量のニコチン受容体アゴニストである。実質的に純粋なニコチン受容体アゴニストは、例えば天然資源(例えばタバコ)からの抽出、化合物の化学的合成、または精製および化学修飾の併用により得ることができる。純度は、いずれか適当な方法、例えばクロマトグラフィー、質量分光法、HPLC分析などにより測定することができる。
【0034】
ニコチン受容体アゴニストは、天然の状態では付随している混入物から分離される場合は、天然では結合している成分を実質的に含まない。従って、それが天然に由来する細胞とは異なる細胞系において化学的に合成または産生されたニコチン受容体アゴニストは、実質的にその天然では結合している成分を含まないと考えられる。
【0035】
発明の概要
本発明は、ニコチンが血管新生を誘導するという驚くべき発見を基にしている。本発明者らの最初の研究は、喫煙者が冠状動脈または末梢動脈の閉塞後に不完全な側副血管の発生を有することが多いという臨床所見を基にしており、すなわち本発明者らは、ニコチンが血管新生の阻害において役割を果たしているのではないだろうかと疑った。従って本発明者らは、ディスク血管新生システム(DAS)におけるニコチンの局所作用に関する試験を開始した。思いがけず本発明者らは、ニコチンが、Del1(Pentaら、J. Biol Chem、274(16):11101-9(1999))およびbFGFを含む、本システムにおいて試験したあらゆる増殖因子と同等またはそれよりもより強力な血管新生物質であることを発見した。追加試験は、ニコチンの強力な血管新生作用が、一部シクロオキシゲナーゼカスケードの産物により、かつ一部はNO合成酵素経路により媒介されることを明らかにした。ディスク血管新生システムを使用する試験は、ニコチンが治療的血管新生に有効であることを示唆した。しかし血管新生は複雑な過程であるので、物質が治療的血管新生への利用性を有する原理の証拠を明らかにするために、治療のために血管新生を必要とする疾患の動物モデルにおいて該物質を試験した。従って、動脈閉塞の動物モデルにおいて試験を行った(マウス後肢虚血モデル)。本発明者らは、この動脈閉塞モデルを使用し、ニコチンが治療的血管新生を誘導することの説得力のある証拠を得た。
【0036】
その結果、本発明者らは、タバコの煙の成分であるニコチンが、冠状動脈、末梢動脈、または他の閉塞性動脈疾患の治療における血管新生を増強するため;並びに、創傷治癒の増強および外科的に移植された組織または器官(例えば皮膚移植片または再付着された四肢)の改善された脈管形成のための、新規治療法の基本を提供することを発見した。その他の従来の血管新生物質と比べ、それと同様のまたは相対的に増加した血管新生能の観点において、ニコチンは、治療的血管新生の基本として現時点の候補物質に勝る顕著な利点を有する。さらに、ニコチンの薬学および薬物速度論は、喫煙の状況において(例えば、禁煙を促進する努力において)すでに良く特徴付けられており、かつ緩徐な放出および局所的送達に関する方法がこれまでに集中的に研究されている。ニコチンおよびニコチンアゴニストの製造法も良く特徴付けられている。さらに、これらの低分子は、複合血管新生性ペプチドよりもはるかに容易に合成されかつ貯蔵される。
【0037】
従って本発明は、ニコチン受容体アゴニストの投与による血管新生および/または脈管形成を刺激する方法および組成物を包含している。特に興味深いのは、虚血部位の内側、隣接する部位または周囲の血流の増加、増加した毛細血管密度、および/または増加した血管分布に作用するための、インビボにおける血管新生および/または脈管形成の刺激である。
【0038】
ニコチンおよび他のニコチン受容体アゴニスト
本発明の血管新生を刺激する方法は、ニコチン受容体アゴニスト、特にニコチン、ニコチン代謝産物、またはニコチン誘導体の投与により実現される。ニコチン誘導体および類似体の生成法は、当技術分野において周知である。例えば米国特許第4,590,278号;第4,321,387号;第4,452,984号;第4,442,292号;および第4,332,945号を参照のこと。
【0039】
さらなる対象となるニコチン受容体アゴニストは、天然の植物アルカロイド(例えば、ロベリン、ロベリン誘導体など)を含むが、これらに限定されるものではなく、この植物由来の化合物が、生薬調製物(例えば、乾燥タバコ葉の形状、貼布剤中、植物調製物中など)、単離された形状(例えば、天然にそれに伴っている材料から分離または一部分離される)、または実質的に精製された形状で提供され得る。他のニコチン受容体アゴニストは、コリンエステラーゼ阻害剤(例えば、アセチルコリンの局所濃度を上昇するもの)、ニコチン様受容体神経型に特異的に結合し(ムスカリン様受容体への結合は低い)かつ有害な副作用が減少しているようなエピバチジン誘導体(例えば、Epidoxidine、ABT-154、ABT-418、ABT-594;Abbott Laboratories社(Damajら、J. Pharmacol Exp. Ther.、284:1058-65(1998)、これは、効能は同等であるがニコチン様受容体神経型への高い特異性を有するいくつかのエピバチジン類似体を説明している)を含む。更なる対象となるニコチン受容体アゴニストは、コリンのN-メチルカルバミルエステルおよびN-メチルチオ(thi-O)-カルバミルエステル(例えば、トリメチルアミノエタノール)(Aboodら、Pharmacol. Biochem. Behav.、30:403-8(1988));アセチルコリン(ニコチン受容体の内因性リガンド);などを含むが、これらに限定される必要はない。
【0040】
ニコチン受容体アゴニストは、当技術分野において周知の方法を用いて容易に同定することもできる。例えば、候補ニコチン受容体アゴニストの能力は、インビトロにおけるニコチン受容体への結合についてスクリーニングすることができ、かつ候補物質の血管新生および/または脈管形成を刺激する能力は、インビボにおいて評価することができる(例えば、ディスク血管新生システム(DAS)の使用、後肢虚血モデルなど)。
【0041】
薬学的組成物
本明細書を読む際に、当業者は、本明細書に説明されたニコチン受容体アゴニストを含有する薬学的組成物は広範な製剤において提供することができることを理解すると思われる。より詳細には、このニコチン受容体アゴニストは、適当な、薬学的に許容される担体または希釈剤と組合せることにより薬学的組成物に製剤化することができ、かつ固形、半固形(例えばゲル)、液体または気体の形状の調製物、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、および噴霧剤などに製剤化することができる。ニコチン受容体アゴニストが天然の化合物である場合、この薬学的組成物はさらに、生薬調製物として提供することもできる(例えば、タバコ葉の形状、植物性物質の貼布剤として、植物調製物中など)。
【0042】
使用されるニコチン受容体アゴニスト製剤は、治療されるべき病態または疾患、投与経路、投与されるニコチン受容体アゴニストの量、およびその他の当業者により容易に予想される変数に応じて変動すると思われる。総体的に、そして以下により詳細に説明するように、ニコチン受容体アゴニストの投与は、全身的または局所的のいずれかであることができ、かつ非経口的、静脈内、動脈内、心膜内、筋肉内、腹腔内、経皮的(transdermal)、経表皮的(transcutaneous)、皮下、皮内、肺内などの経路による投与を含むが、これらに限定される必要はない、様々な方法で実現することができる。
【0043】
薬学的剤形において、ニコチン受容体アゴニストは、それらの薬学的に許容される塩の形状で投与することができるか、またはこれらは単独で、もしくは他の薬学的活性のある化合物との適当な会合、さらには組合せにおいても使用することができる。下記の方法および賦形剤は単に例示するためのものであり、これらに限定されることはない。
【0044】
ニコチン受容体アゴニストは、例えば植物油または他の同様の油、合成脂肪族酸グリセリド、高級脂肪酸またはプロピレングリコールのエステルなどの水性または非水性溶媒中にそれらを溶解、懸濁または乳化することにより;ならびに望ましいならば、常用の添加剤、例えば可溶化剤、等張化剤、懸濁化剤、乳化剤、安定剤および保存剤と共に、注射用に製剤化することができる。
【0045】
例えば創傷に直接的にニコチン受容体アゴニストを投与するための局所的、経表皮的、および経皮的投与に適した製剤は、適当な懸濁化剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および保存剤の使用により同様に調製することができる。局所製剤はさらに、例えば徐放型放出用ペレットまたは放出制御型貼布剤への混入により、ニコチンまたは他のニコチン受容体アゴニストの連続投与を提供する手段を利用することもできる。
【0046】
さらにニコチン受容体アゴニストは、生体適合性ゲル中に製剤化することができ、このゲルは、局所塗布(例えば創傷治癒を促進するため)または移植(例えば体内の治療部位におけるニコチン受容体アゴニストの徐放型放出を提供するため)することができる。適当なゲルおよび該ゲルを用いる送達にとって望ましい化合物の製剤法は、当技術分野において周知である(例えば米国特許第5,801,033号;第5,827,937号;第5,700,848号;およびMATRIGEL(登録商標)を参照のこと)。
【0047】
経口用調製物について、ニコチン受容体アゴニストは、単独で、または錠剤、散剤、顆粒剤またはカプセル剤を製造するための適当な添加剤、例えば常用の添加剤、例として乳糖、マンニトール、コーンスターチまたはジャガイモデンプンなどと共に;結晶セルロース、セルロース誘導体、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤と共に;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、またはカルボキシメチルセルロースナトリウムのような崩壊剤と共に;タルクまたはステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤と共に;および望ましいならば、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、保存剤および香味剤と共に組合わせて使用することができる。
【0048】
このニコチン受容体アゴニストは、吸入により投与されるエアゾール製剤において利用することができる。本発明の化合物は、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などの加圧された許容される噴射剤へ製剤化することができる。
【0049】
さらに、前述のニコチン受容体アゴニストは、乳化基剤または水溶性基剤のような様々な基剤と混合することにより、坐剤を製造することができる。本発明の化合物は、坐剤により経直腸的に投与することができる。坐剤は、ココアバター、カーボワックスおよびポリエチレングリコールのような体温で融解するが、室温では固化されているような担体を含有することができる。
【0050】
シロップ剤、エリキシル剤および懸濁剤のような経口または経直腸的投与のための単位剤形は、例えば茶さじ一杯、テーブルスプーン一杯、錠剤または坐剤のような各用量単位が1種以上の阻害剤を含有する該組成物を予め決定された量含有するように提供される。同様に、注射または静脈内投与用の単位剤形は、組成物中の該1つまたは複数の阻害剤を滅菌水、通常の生理食塩水または他の薬学的に許容される担体中の溶液として含有することができる。
【0051】
本明細書で使用される「単位剤形」という用語は、ヒトおよび/または動物の被験者への単位用量として適した物理的に独立したユニットを意味し、各ユニットは、薬学的に許容される希釈剤、担体または溶剤と関連して望ましい血管新生性および/または脈管形成作用を生じるのに十分量として計算された予め決定された量のニコチン受容体アゴニストを含有する。本発明の単位剤形に関する詳細は、使用される具体的化合物および達成されるべき作用、ならびに宿主において各化合物に関連した薬力学に応じて変動する。
【0052】
薬学的に許容される賦形剤、例えば溶剤、アジュバント、担体または希釈剤は、容易に公に入手される。さらに薬学的に許容される副成分、例えばpH調節剤および緩衝剤、等張化剤、安定剤、湿潤剤なども容易に公に入手される。
【0053】
1種以上のニコチン受容体アゴニストに加えて、本発明の薬学的製剤は、一酸化窒素(NO)レベル(例えば、NO合成酵素活性の増強、NO放出の増強などによる)またはプロスタサイクリンレベル(例えば、プロスタサイクリン合成酵素活性の増強、プロスタサイクリン放出の増強などによる)を増大することにより血管新生を増強するような物質を含有するかまたは同時に投与することができる。NOレベル増強剤の例は、NOの基質として利用することができるL-アルギニン、L-リジン、およびこれらのアミノ酸が豊富なペプチド;酸化防止剤のようなNO活性を保存する物質(例えばトコフェロール、アスコルビン酸、ユビキノン)または酸化防止酵素(例えばスーパーオキシドジスムターゼ);ならびに、NO合成酵素活性を増強することができる物質(例えばテトラヒドロビオプテリン、またはテトラヒドロビオプテリン前駆体(例としてセピアプテリン));などを含むが、これらに限定される必要はない。プロスタサイクリンレベルを増強する物質の例は、プロスタサイクリン前駆体、例えばエイコサペンタエン酸およびドコサヘキサエン酸;およびプロスタノイド、例えばプロスタグランジンE1およびその類似体;などを含むが、これらに限定される必要はない。
【0054】
代替的または付加的には、本発明の薬学的組成物は、加えてニコチン受容体以外の経路により作用する血管新生-誘導性および/または脈管形成-誘導性物質(例えば、VEGF、FGF(例えば、aFGF、bFGF)、Del1など)を含む。
【0055】
特にニコチン受容体アゴニストが、例えば筋肉内経路により局所適用のために送達される場合は、ニコチン受容体アゴニストを、例えば内皮細胞管腔形成によるマトリックスへの血管細胞の遊走および増殖のような、血管新生を支援することができるような、ゲルまたはマトリックス内に提供することが望ましい。従ってゲルまたはマトリックスは、新規血管形成時に、少なくとも最初の基質を提供することができる。例えば、ゲルまたはマトリックスは、虚血性領域に押出され、該領域において閉塞のバイパス形成のための新規血管形成の経路を作成することができる。
【0056】
インビボにおける血管新生の誘導
インビボにおける血管新生を刺激するために(例えば、治療的血管新生の状況において)、ニコチンまたは他のニコチン受容体アゴニストは、いずれか適当な方法で、好ましくは薬学的に許容される担体と共に、投与することができる。当業者は、本発明の状況におけるニコチンまたは他のニコチン受容体アゴニストの被験者への投与に適した様々な方法が利用できること、およびひとつより多い経路を具体的化合物の投与に使用することができるにもかかわらず、特定の経路で、その他の経路よりもより迅速で、より効果的でおよび/または比較的少ない副作用に関連しているものを提供することができることを容易に理解すると思われる。概して、ニコチン受容体アゴニストは、本発明の方法に従い、例えば非経口、静脈内、動脈内、心膜内、筋肉内、腹腔内、経皮的、経表皮的、皮下、皮内、または肺内経路により、投与することができる。
【0057】
全身性のニコチンに関連した副作用を避けるために、ニコチンを局所的に投与することが好ましいことがある(単独でまたはNO合成酵素もしくはプロスタサイクリン合成酵素経路の活性を増強する物質と共に)。局所投与は、例えば所望の治療部位への直接注射(例えば筋肉内注射)により、所望の治療部位の近傍へのニコチン受容体アゴニスト製剤の静脈内導入により(例えば、治療部位に流れる血管または毛細血管への導入)、動脈内または心膜内導入により、治療部位内または隣接部の生体適合性ゲルまたはカプセル中へのニコチン受容体アゴニスト製剤の導入(例えば注射または他の移植法による)により、増加した血流および/または増加した血管分布が望ましいような筋肉または他の組織への直接注射により、該製剤の直腸導入(例えば、腸の一部の切断後に外科的に形成された吻合部の血管形成を促進するため、坐剤の形状で)によるなどで、実現することができる。
【0058】
対象となる特定の用途において、ニコチン受容体アゴニスト製剤は、「バイオバイパス」法において使用することができ、ここで冠状動脈バイパス手術のようなより侵襲的手技を行う代わりに、ニコチン受容体アゴニスト製剤が、ブロックされた領域の周囲に新規血管の増殖を誘導するために投与される。この態様において、ニコチン受容体アゴニスト製剤は、血管新生を刺激するために、虚血性組織の領域および/またはその近傍に投与することができる。
【0059】
いくつかの態様において、ニコチン受容体アゴニストを直接血管壁に送達することが望ましいことがある。血管壁投与法のひとつの例は、薬物送達カテーテルの使用、特に血管壁への送達を促進することができるような膨張可能なバルーンを備えている薬物送達カテーテルの使用に関連している。従って、ある態様において、本発明の方法は、バルーンカテーテルの膨張による、ニコチン受容体アゴニストの血管壁への送達を含み、ここでこのバルーンは、バルーンの実質的部分を被覆しているニコチン受容体アゴニスト製剤を含有している。このニコチン受容体アゴニスト製剤は、血管壁に対する位置に保持され、血管壁を通じた吸収を促進する。ある例において、このカテーテルは、ニコチン受容体アゴニストを血管壁に対して比較的長い吸収時間保持されながら、カテーテルを通じて血液灌流を可能にするような、灌流型バルーンカテーテルである。ニコチン受容体アゴニストの適用に適したカテーテルの例は、米国特許第5,558,642号;同第5,554,119号;同第5,591,129号などに開示されている。
【0060】
対象となる別の態様は、ニコチン受容体アゴニスト製剤が、移植することができる生体適合性ゲルの形状で送達されることである(例えば、治療部位へのまたは隣接部位への注射、治療される組織へのまたは隣接部位への押出しなどによる)。ニコチン受容体アゴニストを含有するゲル製剤は、ニコチン受容体アゴニストおよび他の活性物質の持続された期間にわたる(例えば、数時間、数日、数週間などにわたる)局所放出を促進するようにデザインすることができる。このゲルは、針または他の送達用具を用いて、治療部位へまたは近傍に注射することができる。ある態様において、このゲルは、組織へ挿入される装置の内部またはその表面に配置され、次にゆっくり引出されてゲルの痕跡(track)を残し、その結果、該装置により形成された経路に沿った血管新生の刺激を生じる。この後者の送達法は特に、バイオバイパスの経路を指示する目的のために望ましい。
【0061】
その他の態様において、例えば創傷治癒を促進するための、局所化された送達などの、ニコチン受容体アゴニスト製剤の局所的送達が望ましい。局所塗布は、貼付剤の形状で提供され得る生体適合性ゲルの使用により、またはクリーム剤、泡剤などの使用により実現することができる。創傷への塗布に適したいくつかのゲル、貼付剤、クリーム剤、泡剤などは、本発明のニコチン受容体アゴニスト製剤の送達のために修飾することができる(例えば、米国特許第5,853,749号;同第5,844,013号;同第5,804,213号;同第5,770,229号などを参照のこと)。概して局所投与は、親水コロイドのような担体または湿潤環境を提供するような他の材料を用いて実現される。あるいは、創傷治癒の目的のためには、ニコチンアゴニストを創傷に塗布することができるゲルまたはクリーム中に、他の血管新生物質を伴うまたは伴わずに供給することができる。このような塗布の例は、ニコチンアゴニストならびに保存剤および安定剤と共に他の活性成分を含有する、生体の負担が低いカルボキシメチルセルロースナトリウムを基剤とした局所ゲルなどであると考えられる。
【0062】
別の態様において、ニコチン受容体アゴニスト製剤は、経皮的貼付剤を用いて局所的または全身的に送達され、局所的が好ましい。いくつかの経皮的貼付剤は、禁煙を促進するためのニコチンの全身送達に関して、当技術分野において周知であり、かつこのような貼付剤は、本発明に従い血管新生を刺激するのに有効な量のニコチン受容体アゴニストの送達を提供するように変更することができる(例えば、米国特許第4,920,989号;および同第4,943,435号、NICOTROL(登録商標)貼付剤などを参照のこと)。
【0063】
他の送達法において、ニコチン受容体アゴニストは、イオン浸透技術を用いて投与することができる。イオン浸透法における使用のための方法および組成物は当技術分野において周知である(例えば、米国特許第5,415,629号;同第5,899,876号;同第5,807,306号などを参照のこと)。
【0064】
血管新生の望ましい程度は、治療される具体的病態または疾患に加えて、患者の安定性および可能性のある副作用によって決定されると考えられる。適切な用量および投与法において、本発明は、例えばほとんど発生しないから実質的に完全な発生までの、広い範囲の血管の発生を提供する。
【0065】
ニコチン受容体アゴニストの投与による血管新生および/または脈管形成の刺激は、ニコチン受容体アゴニストが媒介した血管新生刺激を妨害するような化合物の投与により制御することができる。この意味において、本発明は、血管新生過程におけるニコチンの役割を妨害することにより、血管新生を制御または阻害する手段も提供する。これは、例えばニコチンのニコチン受容体を介したその作用を媒介する能力を阻害するような物質の投与により、実現することができる(例えば、ニコチンのニコチン受容体への結合を阻害することによる)。ニコチン性受容体アンタゴニストの例は、ヘキサメトニウムおよびメカミラミン(式は図1に示す)を含む。あるいは、ニコチン受容体アゴニストが媒介した血管新生は、ニコチン受容体シグナル伝達の下流のプロセッシングの阻害剤の投与により制御または阻害することができる。例えば、一酸化窒素合成酵素および/またはプロスタサイクリンアンタゴニストの阻害剤の投与は、血管新生を阻害することができる。この血管新生阻害剤は、ヒトのような哺乳類に、ニコチン受容体アゴニストについて説明されたものと同じ方法および用量で投与することができる。
【0066】
被験者がニコチン受容体アゴニストに暴露された、特に慢性的に暴露された場合(例えば、喫煙者であるか、または以前に、特に慢性的にニコチンに全身暴露されたことがあるような被験者において)、血管新生の刺激を媒介するニコチン受容体または他のニコチン受容体アゴニスト-結合受容体は、ニコチン受容体アゴニストに過去に暴露されていないまたは慢性的に暴露されていない被験者よりも、低いレベルで存在することができる。このような被験者において、ニコチン結合-受容体の増加を刺激するためにニコチン受容体アンタゴニストの初期コースを投与することが望ましいことがある。
【0067】
投与量
本発明の状況において、被験者、特にヒトに投与されるニコチンまたは他のニコチン受容体アゴニストの投与量は、妥当な時間枠にわたり被験者において治療的血管新生反応に十分に作用しなければならない。この投与量は、使用される具体的なニコチン受容体アゴニストの効能および被験者の病態に加え、治療される被験者の体重によって決定されると考えられる。例えば、ニコチン受容体に対するニコチン受容体アゴニストのレベルもしくは親和力、またはその両方が、該化合物の血管新生活性の調節において役割を果たし得る。この投与量のサイズは、具体的化合物の投与に随伴し得る何らかの有害な副作用の存在、性質および程度によっても決定される。
【0068】
血管新生の刺激におけるニコチンまたはニコチン受容体アゴニストの有効な量の決定において、投与経路、放出システムの速度論(例えば、丸剤、ゲルまたは他のマトリックス)、および該ニコチンアゴニストの効能が、最小の有害な副作用で所望の血管新生作用を実現するように考慮される。このニコチン受容体アゴニストは典型的には、治療される被験者の臨床状態と一致して、治療される被験者に1日から数週間の期間で投与されると思われる。
【0069】
下記の用量は、ニコチン、またはニコチンと同様の効能および有効性を伴うニコチン受容体アゴニストが投与されると仮定している。当業者に容易に明らかであるように、用量は、ニコチンに対するニコチン受容体アゴニストの効能および/または有効性に従い、ニコチン受容体アゴニストについて調節される。経口的または吸引により投与される場合、その投与量は、約0.01mg〜10mgの範囲で、毎日1〜20回であり、かつ1日量の合計は最大約0.1mg〜100mgであることができる。全身作用を目的として、局所塗布する場合、貼付剤またはクリーム剤は投与量範囲約0.01mg〜10mgの全身送達を提供するようにデザインされる。局所製剤(例えばクリーム)の目的が局所的血管新生作用を提供することである場合、この投与量は恐らく約0.001mg〜1mgの範囲であると考えられる。全身作用のために注射される場合は、ニコチンアゴニストが投与されるマトリックスは、投与量範囲約0.001mg〜1mgの全身送達を提供するように設計される。局所作用を目的として注射される場合は、該マトリックスは、約0.003mg〜1mgの範囲のニコチンアゴニスト量を局所的に放出するようにデザインされる。
【0070】
投与経路とは関係なく、ニコチン受容体アゴニストの投与量は、いずれか適当な期間にわたり、例えば1〜24時間にわたり、1日から数日にわたり、投与することができる。さらに、反復投与量を、選択された期間にわたり投与することができる。適当な投与量は、特に予防的投薬法において、1日につき適当な投与量を下回って(subdose)投与することができる。正確な治療レベルは、治療される被験者の反応によって決定されるであろう。ニコチン受容体アゴニストによる数名の個体の治療において、「メガ用量(megadosing)」投薬法の採用が望ましいことがある。このような治療においては、大きい投与量のニコチン受容体アゴニストが個体に投与され、時間経過と共に該化合物が作用し、かつその後、適当な試薬、例えばニコチン受容体アンタゴニストが、活性化合物を無効とするかまたはその全身の副作用を低下するために個体に投与される。
【0071】
ニコチン受容体アゴニストが媒介した血管新生の誘導により治療されやすい病態
本発明の方法およびニコチン受容体アゴニスト-含有組成物を使用し、血管新生の刺激、脈管形成の刺激、血流の増加、および/または血管分布の増加から恩典を得るような様々な病態を治療することができる。
【0072】
本発明の方法により治療されやすい病態および疾患の例は、血管の閉塞、例えば動脈、静脈または毛細血管システムの閉塞に関連したいずれかの病態を含む。このような病態および疾患の具体例は、冠状動脈閉塞性疾患、頚動脈閉塞性疾患、動脈閉塞性疾患、末梢動脈疾患、アテローム性動脈硬化症、筋肉血管内膜過形成(myointimal hyperplasia)(例えば、血管手術またはバルーン血管再建術または血管ステント形成)、閉塞性血栓血管炎、血栓性疾患、血管炎などを含むが、これらに限定される必要はない。本発明の方法を用いて予防することができる病態または疾患の例は、心不全(心筋梗塞)または他の血管系による死、卒中、血流減少に関連した四肢の壊死または喪失などを含むが、これらに限定される必要はない。
【0073】
治療的血管新生のその他の形態は、創傷治癒または潰瘍の治癒を促進するため;皮膚移植片および再付着した四肢の機能および生存力を保持するためのそれらの血管新生を改善するため;手術による吻合(例えば、胃腸手術後の腸管の再結合部位)の治癒を改善するため;および、皮膚または毛髪の成長を改善するためのニコチン受容体アゴニストの使用を含むが、これらに限定される必要はない。
【0074】
実施例
下記の実施例は、本発明をいかに製造しかつ使用するかの完全な開示および説明を当業者に提供するために示されており、かつ発明者らがその発明とみなす範囲を限定することを意図するものではなく、下記実験は実施される実験の全てまたは一部であることを示すことを意図するものでもない。使用した数値(例えば量、温度など)に関して精度を確実にするように努力したが、若干の実験誤差および偏差は考慮されるべきであろう。特に記さない限りは、部分は重量部分であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏であり、かつ圧力は大気圧またはその近傍である。
【0075】
方法および材料
以下は、下記の具体的実施例において使用した方法および材料の説明である。
【0076】
動物
8〜10週齢の雌の野生型C57BL/6Jマウスを使用した。マウスの体重は20〜25gであり(Jackson Laboratories社、BarHarbor、ME and Department of Comparative Medicine (DCM)、スタンフォード、CA)、かつ先に記されたように飼育した(Maxwellら、Circulation 1998、98(4):369-374(1998))。
【0077】
ディスク血管新生システム(DAS)
ニコチンがインビボにおいて血管新生を誘導するかどうかを調べるために、本発明者らは、ディスク血管新生システム(DAS)を使用した(Kowalskiら、Exp. Mol. Pathol.、56(1):1-19(1992);Fajardoら、Lab Invest.、58:718-7244(1998))。
【0078】
ディスクの調製 DASは、ポリビニルアルコールスポンジで製造されたディスク(直径11mmおよび厚さ1mm)で構成された(Kanebo PVA、Rippey社、サンタクララ、CA)。両側を、スポンジディスクと同じ直径のニトロセルロース製の細胞を含浸することが可能なフィルター(ミリポアフィルター、孔径は0.45*m、Millipore社、SF、CA)で被覆し、該スポンジにをミリポア接着剤#1(xx70000.O0、Milipore社)を用いて固定した。結果的に、細胞(従って血管)は、該ディスクの縁を越えてのみ浸透または外に出ることができた(Kowalskiら、Exp. Mol. Pathol.、56(1):1-19(1992); Fajardoら、Lab. Invest.、58:718-7244(1998))。
【0079】
ニコチンの血管新生に対する局所作用を調べるために、ニコチンを、該ディスクに直接加えたペレット中に配置した。簡単に述べると、ディスク中心から、1.5mmコア(ペレット)を切り出した。ペレットおよびディスクの両方を滅菌し、その後層流フード中で集成した。ペレットを、ニコチン溶液最大20mclを負荷し、引き続き風乾した。本発明者らは、局所投与されたニコチンの作用を調べるために、このディスクペレット内に、溶剤(PBS、Sigma Chemical社、セントルイス、MO、n=5)またはニコチン(10-6M、Aldrich Chemical社、ミルウォーキー、WI、n=5)のいずれかを配置した。比較のために、一部の場合は、ニコチンよりもむしろ、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF;20mcg)またはDel-1タンパク質(0.2M)をペレットに添加した。bFGFおよびDel-1はいずれも血管新生を誘導することが既知である。その後ペレットは、ペレットからディスクへのニコチンの緩徐な放出を可能にするエチレン-酢酸ビニルコポリマー(Elvax、Dupont, Chemcentral社、シカゴ、IL)により被覆した。その後ペレットを、該ディスクに再度挿入し、その後ミリポアフィルターでディスクを密封した。
【0080】
ニコチンの全身作用を調べるために、一部の場合においては動物に、ニコチンを飲料水中で投与した(下記参照)。
【0081】
ディスクの移植 マウスを、4%抱水クロラール[腹腔内投与(i.p.)、0.1cc/体重10g]で麻酔した。側腹部および胸部後部表面を剃毛し、飽和した70%イソプロピルアルコールで洗浄した。移植部位に対し側腹部対側に2cm切開を作成した。皮下組織を通る鈍切開に溝を形成し、生理食塩水で湿らせたディスクを挿入した。皮膚を5.0絹縫合糸で縫合した(Kowalskiら、Exp. Mol. Pathol.、56(1): 1-19(1992);Fajardoら、Lab. Invest.、58:718-7244(1998))。
【0082】
ディスクの除去および調製 ディスク移植の2週間後、マウスを過量の4%抱水クロラール(i.p.)および頸部脱臼により屠殺した。移植したディスクを覆っている皮膚の隣接部を慎重に切開し、かつディスクを移植部位からゆっくり取出した。付着した組織を慎重にディスクから剥がした。ディスクを取出した後、1個のフィルターをディスクから分離した。その後、ディスクを10%ホルマリン中で固定し、かつパラフィン中に平らに包埋した。引き続き、5μm切片をディスク中心を通りかつディスク表面と平行な面で作成した。
【0083】
結果の定量 ディスク切片を、放射状増殖の光学顕微鏡検査および組織形態学的測定のためにH&Eで染色し、かつ繊維血管性増殖の総面積の定量的測定のためにトルイジンブルーで染色した。ビデオ顕微鏡およびコンピュータ画像処理システム(NIH Image 1.59b9)を用い、トルイジンブルーに染まったディスクの繊維血管性増殖の全面積を計算し、かつmm2であらわした。先の試験で説明されたように、繊維血管性増殖の総面積は、血管で占領されたディスクの総面積に正比例している(Kowalskiら、Exp. Mol. Pathol.、56(1):1-19(1992);Fajardoら、Lab. Invest.、58:718-7244(1998))。その結果、このような総面積の測定値は、血管新生の指標として用いられる(Kowalskiら、前掲(1992);Fajardoら、前掲(1998))。
【0084】
血管連続性の評価 ディスク切片中の微小血管を可視化し、かつ全身およびディスクの血管構造の間に連続性があることを確立するために、マウスを安楽死させる前に、ルコニル(leuconyl)ブルー色素を左頚動脈に注射した。動物は、4%抱水クロラールで麻酔した(i.p.、0.1cc/体重10g)。首の腹側正中線に切開部を形成した。頚動脈鞘を露出した後、左頚動脈を、神経血管束から剥離し、かつ2本の4.0絹縫合糸で結紮した。この頚動脈に切開を形成し、長さ15cmのPE10チューブ(Beckton Dickinson社、スパークス、MD)を頚動脈に挿管し、大動脈弁に遠位の上行大動脈まで進めた。その後、ルコニルブルー約1.0mlを、1ml注射器からチューブを通して胸動脈へとゆっくり注射した。ディスク中の繊維血管網の中の青色色素の存在を、光学顕微鏡で検出した。顕微鏡は、単層の内皮細胞が並んだ微小血管およびそれらの管腔内に含まれた赤血球を明らかにした。ルコニルブルー色素は、ディスクの血管全体に認められた。
【0085】
末梢動脈疾患(PAD)のマウスの後肢虚血モデル
マウスは、4%抱水クロラール(i.p.、0.1cc/10g体重)で麻酔した。両後肢の中央表面を剃毛し、次にブタジエン溶液で洗浄した。膝から鼠径靭帯まで伸びる長さ1.5cmの切開を形成した。この切開を通じて、表在性大腿動脈をその長手方向に沿って自在になるように剥離した。外腸骨動脈および表在性大腿動脈の両方の遠端を7.0(Ethicon)で結紮した後、大腿動脈を完全に切除した。別のマウスセットに、擬似手術を施した。その後切開部を、5.0絹縫合糸(Ethicon)により非連続的縫合で閉じた。外科的手技の後、アンピシリン(1mg/10g体重)の腹腔内注射を投与した。
【0086】
組織学的試験
組織調製 手術の3週間後、マウスを過量の4%抱水クロラール(i.p)および頸部脱臼により安楽死させ、かつ内転筋および半膜様筋を毛細血管密度の評価のために収集した。簡単に述べると、中央大腿に長手方向の切開を形成し、後肢の筋肉全体を露出した。内転筋および半膜様筋を取出し、直ぐにOCT中で凍結した。引き続き、横断方向に5μmの切片を、各筋肉の中央領域から採取した。これらの切片を風乾し、かつアセトンで固定した。
【0087】
毛細血管密度測定 内皮細胞を同定するために、免疫組織化学的検査を、アルカリホスファターゼアッセイ法を用いて行った。エオシン対比染色を用いて、筋細胞を識別した。毛細血管および筋細胞を、光学顕微鏡(20X)を用いて、同定しかつ数を計測した。各切片について、4種の異なる視野を選択肢、かつ1視野当りの毛細血管および筋細胞の総数を決定した。これらの値の平均を算出し、各実験肢についての毛細血管密度を決定した。毛細血管密度の値が筋萎縮のために過剰算出されていないか、または間隙性浮腫のために過少算出されていないことを確証するために、毛細血管密度を、同一視野に存在する毛細血管の筋細胞に対する比で表した。
【0088】
データ解析
全てのデータは、平均±SEMで示した。統計学的有意性は、群間比較のために、対のない両側t検定を用いて検定した。統計学的有意性はp<0.05で認めた。
【0089】
実施例1:インビボ血管新生におけるニコチンの全身作用
全身的に処置したマウスにおけるニコチンの作用を試験するために、ニコチン(60mcg/ml、n=5)を、飲料水に希釈した。ニコチンが誘導した血管新生の機序を、局所処置した(DAS内部のニコチン)および全身処置した(飲料水中に希釈したニコチン)の両方で移植したDASを有するマウスに、インドメタシン(20mcg/ml、Sigma社、n=5)および/またはLNNA(6mg/ml、Sigma社、n=5)を経口的に補充投与することにより試験した。ニコチン、インドメタシンおよびLNNAの濃度は、マウスモデルにおけるこれらの物質を経口的に添加して試験することにより決定した(Maxwellら、Circulation 1998、98(4):369-374(1998);Fultonら、Int. J. Cancer、26(5):669-73(1980);Rowellら、J. Pharmacological Methods、9:249-261(1983))。
【0090】
基礎的状態下で(未処理の水、溶剤-処理したディスク)、ディスクへの繊維血管性増殖が生じた。血管が、ディスクへと増殖しているのが認められた。これらの血管は、ルコニル色素の全身投与後の、該色素のディスク血管構造への流入により表されるように、全身循環へと連続していた。基礎的状態でのディスクへの繊維血管増殖の面積は、10mm2を若干上回った(図2)。ニコチンの全身投与により、面積35 mm2の繊維血管増殖の劇的な増加があった(図2)。ニコチンの作用は、NO合成酵素阻害剤L-ニトロ-アルギニン(LNNA)により、インドメタシン同様にブロックされ、これは一酸化窒素およびプロスタサイクリンの両方の合成がニコチンの血管新生作用には必要であることを示唆している。
【0091】
実施例2:インビボ血管新生におけるニコチンの局所作用
L-アルギニンの局所作用が血管新生の誘導に有効であるかどうかを決定するために、数匹の動物において、ニコチンを、ディスク血管新生システム(前述)に挿入したペレット内で配置した。ニコチンをディスク内に配置した場合(実施例1に説明したように、水に入れて動物に投与した場合よりも)には、類似した作用が認められた。基礎的状態下での繊維血管増殖(約10mm2)は、約20mm2に増加した(図3)。同じく、インドメタシンまたはLNNAは、ニコチンの作用をブロックした。これらの試験は、ニコチンの全身または局所投与が血管新生を誘導することを示している。
【0092】
実施例3:ニコチンと他の血管新生物質の作用の比較
ニコチンのこの作用を、血管新生性物質であるbFGFおよびDel1と比較した。ヒトにおける治療的血管新生に関して、bFGFは既に臨床試験されているので、bFGFとの比較は特に重要である。溶剤と比較して、bFGF、Del1、およびニコチンは各々同程度で血管新生を増加した。全身投与は、血管新生を、bFGFおよびDel-1の局所投与よりもはるかに大きく増加した(図4)。逆説的に、ニコチンの全身投与は疑いなくディスクにおいてより低い局所レベルを生じるにもかかわらず、ニコチン全身投与の作用は、ニコチン局所投与よりも大きかった。この逆説は、筋肉内投与されたニコチンの中間投与量が最大効果を有することが認められるような、以下に示された実験により説明されるであろう。ニコチンの筋肉内投与量が高くなると、認められる血管新生は減少した。
【0093】
実施例4:末梢動脈疾患のマウス後肢虚血モデルにおける血管新生の誘導
ニコチンの治療的血管新生作用に関するより説得力のある証拠を提供するために、マウスの虚血性後肢の動脈閉塞性疾患モデル(前記)においてニコチンの血管新生作用を試験した。ニコチン溶液または溶剤を、毎日の筋肉内注射により、3週間投与した(50μl)。5群の動物に、ニコチン0、3、30、300または3200ng/kgを、毎日の筋肉内注射により投与した(図6および図7において、1X(生理食塩水50μl中ニコチン0.0811ng (= 0.003μg/kg)、10X (生理食塩水50μl中ニコチン0.811ng (= 0.03μg/kg)、100X (生理食塩水50μl中ニコチン8.11ng (= 0.3μg/kg)、および1000X (生理食塩水50μl中ニコチン81.1ng (= 3.2μg/kg)として示される)。図5に示されたように、処置後3週間で、毛細血管密度(毛細血管/筋肉細胞)は、処置した肢(虚血性)において、処置しない肢(非虚血性)と比べて増加し、これは虚血に対する基礎的血管新生の反応と一致した。
【0094】
図6および図7に示したように、ニコチンは、対照と比べ、虚血に対する血管新生反応を増強した。溶剤対照では、虚血肢において0.35毛細血管/筋肉細胞が検出された。中間投与量0.03μg/kgでは、ニコチンは血管新生反応をほぼ倍加した(0.67毛細血管/筋細胞まで)。ニコチンの最高投与量では、血管新生は増大しなかった:この投与量では実際に間隙性浮腫および筋細胞壊死の徴候を伴う若干の毒性が認められた。血管新生作用は、非虚血後肢では検出されなかったので、この血管新生作用は、ニコチン注射部位に局所的に留まっていた(図6)。従って、ニコチンのこれらの投与量での局所的筋肉内投与は、全身の血管新生作用を生じなかった。
【0095】
これらの試験は、ニコチンが、ヒト末梢動脈疾患のマウスモデルにおいて血管新生を増強すること、および治療的血管新生にニコチン受容体アゴニストが有用であることを示している。
【0096】
本発明はその具体的態様に関して説明されているが、当業者は、本発明の真の精神および範囲から逸脱しない限りは、様々な変更を行うことができ、かつ同等物と置き換えることができることを理解するべきである。加えて、目的とする本発明の精神および範囲に対し、特定の状況、材料、物質組成物、方法、単独または複数の処理工程が適応するように、多くの変更を行うことができる。このような変更は全て、添付された特許請求の範囲の範囲内であることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】ニコチン受容体アゴニストであるニコチン、エピバチジン、およびABT-154、並びにニコチン受容体アンタゴニストであるヘキサメトニウムおよびメカミラミンの化学構造を提供する。
【図2】動物モデルにおける繊維血管性増殖に対する経口ニコチンの作用を説明するグラフである。
【図3】ディスク血管新生システムを使用する動物モデルにおける繊維血管性増殖に対する局所投与されたニコチンの作用を説明するグラフである。
【図4】局所または全身投与したニコチンによる血管形成促進因子であるDel-1およびbFGFの相対的血管新生能の比較を説明するグラフである。
【図5】非虚血(対照;「非虚血」)、後肢虚血モデルにおける虚血四肢(「虚血」)における相対的毛細血管密度を説明するグラフである。
【図6】虚血動物モデルにおける毛細血管密度に対する筋肉内投与されたニコチンの作用を説明するグラフである。
【図7】図6の動物の未処置の非虚血四肢における毛細血管密度に対する筋肉内投与されたニコチンの作用を説明するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類における血管新生を刺激する方法であり、哺乳類にニコチン受容体アゴニストを血管新生の刺激に有効な量投与することを含む方法。
【請求項2】
ニコチン受容体アゴニストがニコチンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
投与が、静脈内、動脈内、または心膜内である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
投与が局部的である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
投与が全身性である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
投与が筋肉内である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
投与が吸入による、請求項1記載の方法。
【請求項8】
投与が局所的である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
投与が経皮的である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
投与が、術後の血管新生を刺激するためである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
投与が、吻合部位、縫合線、または外科的創傷に対して行われる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
ニコチン受容体アゴニストの適用による投与が、虚血性組織の内部または隣接する領域に対して行われる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
一酸化窒素の合成または活性を増強する物質を投与することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
物質が、一酸化窒素基質、酸化防止剤、および一酸化窒素合成酵素補因子からなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
物質が、L-アルギニン、L-リジン、トコフェロール、アスコルビン酸、ユビキノン、スーパーオキシドジスムターゼ、テトラヒドロビオプテリン、およびセピアプテリンからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項16】
プロスタサイクリンの合成または活性を増強する物質をある量投与することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項17】
物質が、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、プロスタグランジンE1、およびプロスタグランジンE1類似体からなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項18】
狭窄した血管領域に近接する虚血性組織への血流を増加する方法であり、該狭窄した領域に近接する、狭窄の程度が軽い血管領域に、血管新生を刺激するのに有効な量のニコチン受容体アゴニストを適用する段階を含む方法。
【請求項19】
適用が、カテーテルの使用による、請求項18記載の方法。
【請求項20】
カテーテルが、バルーンカテーテルである、請求項19記載の方法。
【請求項21】
適用が、ニコチン受容体アゴニストを前記領域の血管壁へ注射によって行われる、請求項18記載の方法。
【請求項22】
薬学的に許容される担体および血管新生を刺激するのに有効な量のニコチン受容体アゴニストを含有する、薬学的組成物。
【請求項23】
ニコチン受容体アゴニストがニコチンである、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項24】
組成物がL-アルギニンをさらに含有する、請求項22記載の薬学的組成物。
【請求項25】
組成物がプロスタサイクリンアゴニストをさらに含有する、請求項22記載の薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−43094(P2010−43094A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220049(P2009−220049)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【分割の表示】特願2001−513414(P2001−513414)の分割
【原出願日】平成12年7月28日(2000.7.28)
【出願人】(501243030)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー (17)
【Fターム(参考)】