説明

洗浄方法及び洗浄装置

【課題】 被洗浄物に噴射する液滴の大きさを均一に小さくし、被洗浄物の表面に形成された素子等を破壊することなく、洗浄物の表面に付着している異物等を除去できるようにする。
【解決手段】 噴射用のガスと液体とを混合して液滴を形成し、この形成された液滴を噴射して被洗浄物を洗浄する洗浄方法であって、前記液体に予め気泡発生用のガスを溶解させて過飽和状態の液体とするようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄方法及び洗浄装置に関し、例えば、半導体ウエハや半導体マスク等に付着した不純物を洗浄するための洗浄方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程においてシリコンウエハやフォトマスク等に付着した異物(パーティクル)を除去する方法として高圧ジェット洗浄やメガソニック洗浄を用いる方法が知られている。また、ジェットノズル内部に加圧したガスと液体とを混合する混合部を持ち、ここで発生させた微細な液滴(ミスト)を洗浄対象物に噴射して異物を高効率で洗浄し、かつ、洗浄対象物に設けられているパターン等の損傷を防ぐ2流体ジェット洗浄が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、洗浄対象物に噴射するミストの液滴径を均一にするための技術も知られており(特許文献2)、さらに、圧力を安定させて均一な液滴を供給するとともに噴射用ガスの使用量を抑えるために、ノズル内部に液体とガスのバッファ室を有する2流体ノズルを用いる洗浄方法が知られている(特許文献3参照)。
【0004】
また、単純な純水洗浄や純水リンス処理、高圧ジェット洗浄を行う場合に、純水の比抵抗が高いことで被洗浄物表面で発生する静電破壊やパーティクルの付着を防止するために、純水の比抵抗を下げて静電気がたまらないように、純水に二酸化炭素を溶解したり、電解質を添加したりする2流体ジェット洗浄方法が知られている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特許3315611号
【特許文献2】特開2002−208579号
【特許文献3】特開2003−145064号
【特許文献4】特開2003−22994号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高圧ジェット洗浄の場合は、半導体基板等に付着した1.0μm以下のパーティクルに対する除去率が低く、また、メガソニック洗浄の場合は、半導体基板等に対する物理的な力の影響が非常に大きいため、LSIやMEMSなどの微小構造体のパターンを有している基板が損傷してしまうという問題がある。
【0006】
また、洗浄対象物にミストを噴射する際にラバーズノズルを持った加速管等を使用すると、ノズル内部での圧力を発生させるため大量の加速ガスが必要となり、コストが増えるという問題がある。また、この場合には、ノズル内部に加速管を配設する必要があるため、ノズル自体が大きくなり、洗浄装置全体が大きくなるという問題がある。
また、ミストを発生させるための液体を供給する配管が、噴射用ガスの流れを妨げるように配置されている場合には、ガスが全体的に均一な圧力で液体と接することができないため、液滴の径の均一化を図ることができず、その結果、大きなミストが発生して洗浄対象物であるウエハ基板に損傷を与えるという問題がある。
【0007】
また、ノズル内部に液体とガスのバッファ室を設ける構成とすると、構造上の理由から、バッファ室から液滴(ミスト)噴射口までの間に開閉バルブを設けることができないため、バッファ室内の残留圧力の影響によりミストの供給・停止の制御を正確に行うことが困難であるという問題がある。
【0008】
さらには、ノズルの内部形状に起因してノズルの内部に液滴の残存が生じると、ミストを再供給する際に、残存している液滴と再供給された液滴とが混合して、流径の大きな液滴が発生する。すなわち、発生した大きな液滴によって、洗浄対象物の表面に設けられたパターン等が破壊されてしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上述の点を考慮し、被洗浄物を洗浄する際に、内部に特別な構造を設けた2流体ノズルを用いることなく、微細で均一な液滴を形成することができる洗浄方法及び洗浄装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る洗浄方法は、噴射用のガスと液体とを混合して液滴を形成し、この形成された液滴を噴射して被洗浄物を洗浄する洗浄方法であって、前記液体に予め気泡発生用のガスを溶解させて過飽和状態の液体とするものである。
【0011】
好ましくは、液体に溶解させる気泡発生用のガスとして二酸化炭素を用いるようにすることが適当である。
さらに好ましくは、噴射用のガスの種類と、前記気泡発生用のガスの種類とを異ならせるようにすることが適当である。
さらに好ましくは、液体に前記気泡発生用のガスを溶解させる際の温度を、前記噴射用のガスと前記過飽和状態の液体とを混合して液滴を形成する際の温度よりも低くするようにすることが適当である。
【0012】
本発明に係る洗浄装置は、気泡発生用のガスを供給して液体を過飽和状態とするガス溶解部と、前記過飽和状態の液体を供給する過飽和液体供給部と、噴射用のガスを供給する噴射ガス供給部と、前記噴射用のガスと前記過飽和状態の液体とを混合し、液滴を形成する液滴発生部と、前記液滴を被洗浄物へ噴射する加速部とを具備した構成とする。
【0013】
本発明の洗浄方法及び洗浄装置では、液体に予め気泡発生用のガスを溶解させて過飽和状態とした液体を用いることにより、噴射用のガスとの混合付近において、急激な圧力変化によって液体内部の溶解ガスが均一に気化し発泡して液体が細かく分散され、噴射用のガスとの共動によって均一な液滴が形成される。このように、微細で均一な液滴を形成できるので、洗浄対象物に損傷を与えることなく、効率よくパーティクル等の異物を除去することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る洗浄方法によれば、被洗浄物に噴射する液滴の大きさを均一に小さくできるので、被洗浄物の表面に形成された素子等を破壊することなく、洗浄物の表面に付着している異物等を除去することができる。
【0015】
本発明に係る洗浄方法によれば、純水の比抵抗を下げるので、静電気による異物の付着や被洗浄物表面に形成されている素子等を破壊することを防止することができる。
本発明に係る洗浄方法によれば、液滴内に残留している気泡発生用のガスを効率よく気体化することができる。
本発明に係る洗浄方法によれば、効率よく気泡発生用のガスを液体に溶解することができる。
【0016】
本発明に係る洗浄装置によれば、被洗浄物に噴射する液滴の大きさを均一に小さく形成することができるので、被洗浄物の表面に形成された素子等を破壊することなく、洗浄物の表面に付着している異物等を除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施の形態は、被洗浄物に噴射(噴霧)する液体に噴霧状態(通常は常温(25℃前後)、常圧(1気圧))の状態で過飽和なガスを溶解させておき、その過飽和ガスを含んだ液体を2流体ジェットノズルに供給して、その液体を噴霧する方法を用いる。
過飽和ガス(少なくとも噴霧環境の温度、圧力条件に対してガス溶解量が過飽和の状態)を含んだ液体が、2流体ジェットノズルの液体供給口(ガスによって微細粒子(ミスト)に噴霧される部分)付近で、液体の圧力が低下すると、液体内部で溶解されていたガスが気化する。液体中の溶解ガスは、液体内で均一の濃度になっているため、急激な環境(圧力)変化によって、液体内部では均一に気化し、均一な分布で気泡を形成し始める。
この状態で、別に供給される噴射用のガスによって噴霧されることで、微細な粒子に噴霧することができる。微細粒子を形成した後も、ノズル内部で次第に外部の圧力と同じ圧力(通常大気圧)になるように圧力が低下する段階で、液体内に残存しているガスが液体内部で気化し、液滴内部の気泡が液滴の細分化のきっかけとなり分裂し、更に細かい微粒子に変化する。
また、小さな液滴に比較すると大きな液滴はその表面積が体積に比較して小さいため、液滴の液体内部の過飽和ガスが気化する場合、液滴表面からガスが外部に放出されにくくなるので、内部に残存するガスの量が多くなり、内部で気泡を形成しやすくなる。従って、大きな液滴ほど微細化されやすくなり、その結果、大きな液滴が減少することで、微細な液滴のみが得られることとなる。
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る洗浄装置1の概略構成を示したものである。この洗浄装置1は、被洗浄物、本形態では半導体ウエハ7の表面上に付着しているゴミや埃等の微小不純物粒子(パーティクル)を除去するものである。この洗浄装置1は、加圧された噴射用のガスと供給された液体とを混合して形成した液滴(ミスト)を気中に噴射して、半導体ウエハ7の表面に衝突させることによりパーティクルの洗浄を行う2流体ジェットノズル2を備えている。2流体ジェットノズル2には、高い圧力が加えられた噴射用のガスを供給する噴射ガス供給部4が、噴射ガス供給管14を介して接続されている。また、2流体ジェットノズル2には、後述する方法で生成される過飽和状態のガスを含んだ液滴生成用の液体(以下、過飽和液体という。)を供給する過飽和液体生成部3が、過飽和液体供給パイプ36を介して接続されている。また、この洗浄装置1は、半導体ウエハ7を保持するステージ8と、ステージ8を回転させるモータ9と、2流体ジェットノズル2を保持して移動させるロボットアーム11とを備えている。
【0019】
図2は、洗浄装置1に用いられる2流体ジェットノズル2の断面と、過飽和液体生成部3の構造を示した図である。この2流体ジェットノズル2は、噴射用のガス17と供給される液体とを混合して形成した液滴10を、半導体ウエハ7の表面に噴射して洗浄を行うものである。この2流体ジェットノズル2は、液滴10を発生させる液滴発生部5と、ノズル先端の部分で液滴10の加速を図る加速ノズル16を設けた加速部6とを備えている。液滴発生部5は、図1に示す噴射ガス供給部4から噴射ガス供給管14を通じて、噴射ガス供給口13から供給される噴射ガス17と、過飽和液体供給パイプ36を通って供給される過飽和液体35と、を混合して液滴10を形成する混合管15を備えている。この混合管15には、噴射ガス17の流入口である噴射ガス供給口13と、過飽和液体35の流入口である過飽和液体供給口12とが設けられている。また、加速ノズル16の先端には、半導体ウエハ7へ液滴10を噴射するための開口が設けられている。混合管15は、その管内の断面積が、噴射ガス供給管14及び加速ノズル16の断面積よりも大きくなるように形成されている。
【0020】
過飽和液体生成部3は、気泡発生用のガス37を液体に溶解させて過飽和な状態の液体(過飽和液体)を生成して、2流体ジェットノズル2に供給するものである。
過飽和液体生成部3には、ガス溶解部Xが設けられている。ガス溶解部Xは、混合部v、本形態ではガス溶解モジュール30と、液体供給部xと、気泡発生用ガス供給部yと、過飽和液体搬送部zとからなる。混合部vとしてのガス溶解モジュール30は、気泡発生用のガス37と液体38とを混合して過飽和液体35を生成する。液体供給部xは、液体38をガス溶解モジュール30に供給する部分であり、本形態では、液体供給パイプ33と液体加圧ポンプ34とからなる。気泡発生用ガス供給部yは、ガスをガス溶解モジュール30に供給する部分であり、本形態では、ガス供給パイプ31とガス加圧ポンプ32とからなる。過飽和液体搬送部wは、ガス溶解モジュール30で生成した過飽和液体35を液滴発生部5へ搬送する部分であり、本形態では過飽和液体供給パイプ36である。
【0021】
ガス溶解モジュール30には、過飽和液体35を生成するための液体38を、ガス溶解モジュール30に供給するための液体供給パイプ33が接続されている。この液体供給パイプ33には、液体に圧力を加えてガス溶解モジュール30に送り込むための液体加圧ポンプ34が設けられている。さらにガス溶解モジュール30には、過飽和状態の液体を生成するための気泡発生用のガス37を、モジュール内部に供給するためのガス供給パイプ31が接続されている。このガス供給パイプ31には、ガスに所定の圧力を加えて、ガス37を液体38に溶解させるためのガス加圧ポンプ32が設けられている。生成されたガス過飽和液体35は、ガス溶解モジュール30に満たされる。このガス溶解モジュール30には、生成したガス過飽和液体35を、2流体ジェットノズル2の液滴発生部5へ供給するための過飽和液体供給パイプ36が接続されている。過飽和液体については、後述定義する。
【0022】
次に、本発明に係る洗浄装置1を用いて半導体ウエハ7を洗浄する方法について説明する。
【0023】
図1に示すように、まず、半導体ウエハ7の洗浄面が2流体ジェットノズル2に対向するように、半導体ウエハ7をステージ8上に設置する。次に、半導体ウエハ7が水平状態で回転するようにステージ8を回転させる。本実施の形態では、ステージ8を約300rpmで回転させる。洗浄を行う際には、必要に応じて、モータ9の回転数を制御して、洗浄処理中のステージ8の回転数を変更したり、2流体ジェットノズル2を支持するアーム11を移動して、ノズル先端の位置を変更してもよい。
半導体ウエハ7の洗浄処理が終了した後に、必要に応じて純水等で半導体ウエハのリンスを行い、半導体ウエハ7を乾燥して全ての洗浄処理が終了する。なお、本実施の形態では、2流体ジェットノズル2のみを用いる半導体ウエハ7の洗浄処理について説明したが、2流体ジェットノズル2を用いない他の洗浄処理を適宜加えて洗浄処理を行うようにしてもよい。
【0024】
次に、図2に基づいて、過飽和液体生成部3で生成される過飽和液体の生成手順について説明する。
過飽和液体生成部3における液体供給部xでは、過飽和液体35を生成するために使用する液体38、本実施の形態では常温(25℃)の純水を、液体加圧ポンプ34等を用いて、液体供給パイプ33を通じてガス溶解モジュール30に送る。本実施の形態では、液体加圧ポンプ34により、10気圧の圧力を純水に加えて、純水をガス溶解モジュール30へ圧送する。
なお、過飽和液体の生成に使用する液体は、純水以外の液体でも良く、オゾン水(オゾンガスを純水に溶解した液体)、フッ酸水溶液やアンモニア水、アンモニア水と過酸化水素水の混合液、フッ酸と過酸化水素水の混合液など酸、アルカリ溶液などや、これらの液体に、界面活性剤、キレート剤を混合したものを使用してもよい。
【0025】
次に、気泡発生用ガス供給部yにおいては、ガス加圧ポンプ32により、純水に溶解させる気泡発生用のガス37を加圧し、純水をガス供給パイプ31を通じて溶解モジュール30へ送る。本実施の形態では、純水に溶解させるガスとして、常温の二酸化炭素ガス(CO2)を用いる。また、気泡発生用ガス供給部yから供給されるガス量と、ガス加圧ポンプ32によりガスに加えられる圧力とをコントロールすることにより、溶解モジュール30内のガス圧を一定の圧力に保つことができる。本実施の形態では、二酸化炭素ガスの圧力を10気圧に保つようにする。
【0026】
ここで、二酸化炭素は、純水と反応すると酸となるので、pH値を低下させて純水の電気伝導度を高めるという性質を有している。また、二酸化炭素は純水への溶解度が高いので、純水を用いた場合に過飽和溶液を容易に生成することができる。
【0027】
従って、純水に溶解させるガスとして二酸化炭素を用いた場合は、純水の電気伝導度が低下するので、ウエハ7が帯電することを防止することができる。すなわち、単純な純水を用いた場合に発生するウエハ7へのパーティクル付着や静電破壊、半導体ウエハ表面に形成された素子への影響などを低減することができる。
【0028】
なお、pH値が下がることや炭酸水の影響を考慮して、溶解させるガスとして二酸化炭素ガス以外のガスを用いてもよく、例えば不活性ガスや窒素ガス、酸素ガス、水素ガスなどを単独あるいは複数(例えば空気)で用いてもよい。
【0029】
ここで、二酸化炭素等の水との反応がないガス種を選択した場合には、ガス種の液体に対する溶解度はヘンリーの法則に従う。すなわち、ガスを液体に溶解する際のガスの圧力(分圧)に比例して、ガスの液体に対する溶解度が増加するので、ガスを液体に溶解する際には、ガス加圧ポンプ等によりガスへ加える圧力を高めることが望ましい。
各ガス種の20℃、1気圧の状態での水への溶解度は以下の通りである。
Ar :3.37 mL /100mL
2 :1.6mL/100mL
O2 :3.1mL/100mL
CO2 :88mL/100mL
He :0.86mL/100mL
Kr :5.94mL/100mL
H2 :1.82mL/100mL
【0030】
ガス溶解部Xでは、混合部としての溶解モジュール30に供給された純水と二酸化炭素ガス(炭酸ガス)は、溶解モジュール30の内部で接触混合することで、炭酸ガスが純水中に溶解し、過飽和液体35としての炭酸水となる。本実施の形態では、ガス溶解モジュール30として、ガスと液体の共存できる耐圧製の箱を用いる。
【0031】
純水中の炭酸ガス濃度は、溶解モジュール30の構造や大きさ、溶解方法、純水の流量等の要因によって変化する。また、これらの要因を適宜変更することで、炭酸ガスの純水に対する溶解度を調整することができるので、液滴発生部5で発生する液滴の量を調整することができる。本実施の形態では、炭酸水を、10気圧下における炭酸ガスの純水に対する溶解度に合致した濃度となるように調整する。
【0032】
従って、従来はガス流量やノズルの形状によって調整していた液滴の発生量を、液体に溶解させる炭酸ガスの量で調整することができるので、従来の場合に比較して、液滴発生部5で液滴を発生させる際に使用する噴射用のガスの量を削減することができる。
【0033】
混合部でガスを純水に溶解させる方法としては、本実施の形態で用いる接触混合方式のほかに、供給するガスに対する圧力を高くしてガスを純水に溶解させるバブリング式溶解方法や、ガス透過膜を使用する膜式溶解方法などを用いてもよい。
【0034】
常温(25℃)かつ10気圧の条件下における純水中の炭酸ガスの状態は、常温かつ常圧(1気圧)における溶解濃度に比較すると、非常に多くの炭酸ガスが純水に溶け込んでいる状態となる。
ここで、純水中に溶解度以上の炭酸ガスが溶けている状態を過飽和状態という。ガス溶解モジュール30内で生成された10気圧の状態の炭酸水を、常圧(1気圧)状態の2流体ジェットノズル2内部の液滴発生部5で戻した場合には、炭酸ガスは純水中で過飽和の状態となる。本実施の形態では、過飽和状態の炭酸ガスが溶解している状態の炭酸水(液体)を、過飽和液体と定義する。つまり、本実施の形態の洗浄装置1で使用する過飽和な液体とは、少なくとも液滴発生部5の温度、圧力条件において、液体に対するガス溶解量が過飽和の状態なガスが溶解されている液体をいう。
【0035】
なお、一般にガスに加える圧力が高いほど、ガスの液体への溶解度が高くなるので、ガスに加える圧力を高く設定することが好ましいが、この際には、耐圧容器や配管、2流体ジェットノズルの耐圧などやガスの液化、加圧装置大型化などの他の条件を考慮して、ガスを液体に溶解させる条件を決める必要がある。
【0036】
また、混合部vにおいてガスを純水に溶解する場合には、溶解モジュール30内の温度を、高温とするよりも常温(25℃)として溶解させた方が、ガスの純水に対する溶解量が増加する。そこで、本実施の形態では、溶解モジュール30内でガスを純水に溶解させる際の温度を常温よりも低く、すなわち液滴発生部5で液滴を発生させる際の温度よりも低く設定する。
【0037】
この場合は、液滴発生部5における温度を上昇させることで、液滴発生部5で液体の過飽和状態を起こりやすくすることできる。たとえば、赤外線ヒータ等の加熱手段によって、2流体ジェットノズル2の液滴発生部5を加熱して過飽和液体35を加熱するようにしたり、赤外線ヒータなどを用いて直接過飽和液体を加熱するようにしてもよい。また、加熱した液体や水蒸気を液滴発生部5へ供給する装置を別個に設けて、液滴発生部5で過飽和液体35と加熱する装置を設けて、加圧して送り込まれる高温の液体もしくは水蒸気を、過飽和液体35に混合するようにしてもよい。また、別途にヒータ等の加熱手段を設けて、噴射ガス17の温度をあらかじめ高くしてもよい。
【0038】
つぎに、ガス溶解モジュール30で、炭酸ガスが溶解された純水(過飽和液体)の流量を調整して、過飽和液体搬送部zとしての過飽和液体供給パイプ36を通じて、2流体ジェットノズル2の過飽和液体供給口12から液滴発生部5に供給する。供給する過飽和液体35の流量は、2流体ジェットノズル2の形状等によって異なるが、本実施の形態での流量は100〜300ml/min.程度とする。
【0039】
噴射ガス供給部4から供給される高い圧力が加えられた噴射ガス17を、2流体ジェットノズル2の吐出軸上に設けられた噴射ガス供給口13を通じて、液滴発生部5へ供給する。本実施の形態では、噴射用のガス17として窒素ガスを用い、約200〜300l/min.(常圧) の流量で液滴発生部5へ供給する。なお、本実施の形態では、噴射用のガスとして窒素ガスを用いたが、窒素ガス以外の不活性ガスや空気、二酸化炭素などを用いてもよい。
【0040】
また、過飽和液体35である炭酸水を、噴射ガス17が供給される方向と垂直な位置になるように混合管15に設けられた過飽和液体供給口12を通じて、液滴発生部5へ供給する。
2流体ジェットノズルに供給された過飽和液体(炭酸水)は、2流体ジェットノズル2の液滴発生部5で、噴射ガス供給部4から高圧ガス供給管14を通じて供給される噴射用ガス17と混合する。過飽和液体35は、供給された噴射用ガス17により液滴状に細分化し、ガス中に分散する。
【0041】
また、本実施の形態では、純水に溶解させる気泡発生用の炭酸ガスとは種類の異なる窒素ガスを噴射用ガスとして用いるようにしたので、2流体ジェットノズル2の内部での炭酸ガスの割合を少なくし、液滴10に残存している炭酸ガスの分圧を下げることで、液滴内部での気泡を生じやすくすることができる。従って、液滴発生部5において、より多くの微細な液滴を発生させることができる。
【0042】
2流体ジェットノズルの液体供給口12、すなわち液滴発生部5付近で、過飽和液体35(炭酸水)の圧力が低下すると、純水に溶解していた二酸化炭素が気化する。つまり、液滴発生部5の圧力(1気圧)は、混合部の圧力である10気圧よりも低いので、純水中の二酸化炭素が過飽和状態になり気体化する。すなわち、炭酸水にかかる圧力が10気圧から1気圧へ急激に減圧されることで、純水中に溶解していた二酸化炭素は発泡して急激に体積が膨張する。この二酸化炭素の体積膨張によって、純水は分裂し、微細な液滴が生成される。さらに、噴射ガス供給部4から供給される高圧ガス17も、純水を分裂させて液滴とする機能を有しているので、二酸化炭素の気泡により形成された液滴をさらに微細化することができる。
なお、純水内で溶解している二酸化炭素の濃度は、純水の内部で均一の濃度に保たれているので、二酸化炭素は、純水内部で均一に気化して均一な分布で気泡を形成する。
【0043】
また、2流体ジェットノズル2に設けられた過飽和液体供給口12の径、すなわち過飽和液体供給パイプ36の径を、供給される炭酸水の流量に対して十分に小さくなる構成とすると、炭酸水に加えられた圧力を、液滴発生部5に供給される直前まで10気圧に維持できるので、液滴発生部5に至る前に純水に溶解している二酸化炭素が、気体となり発泡してしまうことを抑制することができる。
【0044】
液滴発生部5の圧力は、2流体ジェットノズル2外の大気圧と比較すると若干高くなっているので、液滴発生部5で形成された微細な液滴10の周りの圧力は、液滴10が加速部6における加速ノズル16を通りノズル先端から噴射されるまでの間に、徐々に低下する。
また、上述したように、ノズルに設けられた加速部6内のガスの割合は、噴射用の窒素ガスが大半を占めるため、液滴内に溶解している気泡発生用の二酸化炭素のガス分圧は非常に低いので、液滴10に残留している二酸化炭素はさらに気体化し、この気体化による体積の膨張に伴い、液滴10はさらに分裂し微細化する。
【0045】
特に大きな液滴の場合、小さな液滴に比較すると、体積に対する表面積の割合が小さいため、表面付近の二酸化炭素ガスが外部へ放出された後であっても、内部に残留している二酸化炭素ガスの量は、小さな液滴に比較して多い。このため、大きな液滴の場合は、圧力が低くなることに伴い、多くの二酸化炭素による気泡が発生する。すなわち、図3に示すように、ノズル16の先端部に近づくにつれて大きな液滴10’は微細化され、小さい液滴となるので、ノズルの先端部では、均一で微細な液滴を得ることができる。
【0046】
従って、2流体ジェットノズル2の加速部6内の圧力を、液滴発生部5の圧力よりも小さくすることで、効率よく均一で微細な液滴を得ることができる。また、加速部内6の圧力を、混合部vの圧力よりも小さくすることで、混合部5では、所定量の二酸化炭素ガスを純水に溶解させることができるとともに、加速部6内では、均一で微細な液滴を発生させることができる。
【0047】
ノズルの先端で形成された均一で微細な液滴10は、加速部6に設けられた加速ノズル16内で速度が加速され、ノズルの先端から半導体ウエハ7へ噴射されて、半導体表面に付着したパーティクル等の異物を除去する。
【0048】
従って、本発明に係る洗浄方法及び洗浄装置によれば、均一で微細な液滴を効率よく形成することができるので、半導体ウエハ7の表面に形成されている素子等を破壊することなく、半導体ウエハ7の表面等に付着している異物等を洗浄することができる。
【0049】
なお、本発明の実施に用いる2流体ジェットノズル2の構造等及び本発明に使用する発泡用のガスを液体に溶解する機構は上記の構造に限定されるものではない。また、本発明に係る洗浄装置を用いる洗浄は、半導体ウエハや半導体用マスク、液晶パネル等の洗浄にも適応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る洗浄装置の実施の形態を示す概略構成図である。
【図2】本発明に係る洗浄装置に用いられる2流体ジェットノズルの構造及び過飽和液体生成部の概略構成図である。
【図3】2流体ジェットノズル内における液滴の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・洗浄装置、2・・2流体ジェットノズル、3・・過飽和液体生成部、4・・噴射ガス生成部、5・・液滴発生部、6・・加速部、7・・ウエハ、8・・ステージ、9・・モータ、10・・液滴(ミスト)、11・・アーム、12・・過飽和液体供給口、13・・噴射ガス供給口、14・・噴射ガス供給管、15・・混合管、16・・加速ノズル、17・・ 噴射ガス、30・・ガス溶解モジュール、31・・ガス供給パイプ、32・・ガス加圧ポンプ、33・・液体供給パイプ、34・・液体加圧ポンプ、35・・ガス過飽和液体、36・・過飽和液体供給パイプ、37・・気泡発生用ガス、38・・液体、x・・液体供給部、y・・気泡発生用ガス供給部、z・・過飽和液体搬送部、w・・過飽和液体供給部、v・・混合部、X・・ガス溶解部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射用のガスと液体とを混合して液滴を形成し、この形成された液滴を噴射して被洗浄物を洗浄する洗浄方法であって、前記液体に予め気泡発生用のガスを溶解させて過飽和状態の液体とすることを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記液体に溶解させる気泡発生用のガスとして、二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記噴射用のガスの種類と、前記気泡発生用のガスの種類とを異ならせることを特徴とする請求項2記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記液体に前記気泡発生用のガスを溶解させる際の温度を、前記噴射用のガスと前記過飽和状態の液体とを混合して液滴を形成する際の温度よりも低くすることを特徴とする請求項3記載の洗浄方法。
【請求項5】
気泡発生用のガスを供給して液体を過飽和状態とするガス溶解部と、
前記過飽和状態の液体を供給する過飽和液体供給部と、
噴射用のガスを供給する噴射ガス供給部と、
前記噴射用のガスと前記過飽和状態の液体とを混合し、液滴を形成する液滴発生部と、
前記液滴を被洗浄物へ噴射する加速部と、
を備えたことを特徴とする洗浄装置。
【請求項6】
前記ガス溶解部は、
液体を供給する液体供給部と、
前記液体に溶解させるガスを供給する溶解ガス供給部と、
前記液体と前記溶解ガスとを混合して過飽和状態の液体を形成する混合部と、
形成された過飽和状態の液体を前記液滴発生部へ搬送する過飽和液体搬送部と、
を備えていることを特徴とする請求項5記載の洗浄装置。
【請求項7】
前記加速部の圧力が、前記混合部の圧力よりも小さいことを特徴とする請求項6記載の洗浄装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−223995(P2006−223995A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41060(P2005−41060)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】