説明

流体排出方法および液滴吐出装置

【課題】液滴吐出ヘッド内の気泡排出性を向上させることのできる流体排出方法および液滴吐出装置を提供する。
【解決手段】インク排出方法は、液滴吐出ヘッドのノズル形成面にキャップを当接させ、液滴吐出ヘッドのノズルからインクを排出させるためのインク排出方法であって、吐出ノズルからインクを排出させる動作中に、インクの排出流量を高速P1から低速P2に連続的に変化させる期間を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体排出方法および液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット装置において、インクパックやキャリッジ交換の際にはインクを供給するインク流路の繋ぎ直しが発生するため、インク流路内に気泡が入ってしまうことがある。この気泡は液滴吐出ヘッドの噴射特性を低下させるおそれがある。このため、吐出ノズルからインクを吸引してインク流路内の気泡をインクとともに排出させる方法がとられている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−284291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のような吸引方法では、ノズルプレートを封止するキャップに接続された吸引ポンプ(圧力変化手段)を一定の出力のもとで所定時間駆動させることによりインクを吸引している。高速でインクを吸引すれば流路内の比較的大きな気泡はインクとともに排出されるものの、インク流路の中央部とその周囲との間で生じる流速の差によってインク流路の内壁に付着した微小な気泡はなかなか排出されず、流路内に残留してしまうことが多い。このような残留気泡(微小気泡)を排出するためには吸引ポンプの出力を低くしてインクを低速で吸引する必要があるが、吸引量が少ないために処理時間が長くなってしまうことが問題であった。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、液滴吐出ヘッド内の気泡排出性を向上させることのできる流体排出方法および液滴吐出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の流体排出方法は、上記課題を解決するために、液滴吐出ヘッドのノズル形成面にキャップを当接させ、液滴吐出ヘッドのノズルから流体を排出させるための流体排出方法であって、ノズルから流体を排出させる動作中に、流体の排出流量を第1の流量から第2の流量に連続的に変化させる期間を有している。
【0006】
本発明によれば、液滴吐出ヘッドのノズル形成面にキャップを当接させた状態で液滴吐出ヘッドのノズルから流体を排出させる動作中に、流体の排出流量を第1の流量から第2の流量に連続的に変化させる期間を有しているので、液滴吐出ヘッド内に混入した気泡の排出性を向上させることが可能である。つまり、流量を変化させながら流体を排出させることで液滴吐出ヘッド内に残留しやすい微小気泡までも排出させることが可能となる。本発明のように、一度の排出動作でインクの排出流量を連続的に変化させて行うことで気泡の排出性を向上させることが可能である。このため、処理時間が短縮されて排出処理の効率化が図れるとともに、液滴吐出ヘッドの良好な吐出特性を確保できる。
【0007】
また、キャップに、キャップ内を減圧する流体吸引手段が接続されており、ノズルから流体を排出させる動作中に、流体吸引手段の吸引圧力を第1の吸引圧力から第2の吸引圧力に連続的に変化させる期間を有している。
【0008】
本発明によれば、液滴吐出ヘッドのノズル形成面にキャップを当接させた状態で液滴吐出ヘッドのノズルから流体を排出させる動作中に、キャップ内を減圧する流体吸引動作の吸引圧力を第1の吸引力から第2の吸引力に連続的に変化させる期間を有しているので、液滴吐出ヘッド内に混入した気泡の排出性を向上させることが可能である。つまり、吸引流量を変化させながら流体を吸引することで液滴吐出ヘッド内に残留しやすい微小気泡までも排出させることが可能となる。
【0009】
また、液滴吐出ヘッドに、ノズルに連通する流路に流体を供給する流体圧送手段が接続されており、ノズルから流体を排出させる動作中に、流体圧送手段の搬送圧力を第1の搬送圧力から第2の搬送圧力に連続的に変化させる期間を有している。
【0010】
本発明によれば、液滴吐出ヘッドのノズル形成面にキャップを当接させた状態で液滴吐出ヘッドのノズルから流体を排出させる動作中に、流体供給手段の搬送圧力を第1の搬送圧力から第2の搬送圧力に連続的に変化させる期間を有しているので、液滴吐出ヘッド内に混入した気泡の排出性を向上させることが可能である。つまり、搬送流量を変化させながら流体を排出させることで液滴吐出ヘッド内に残留しやすい微小気泡までも排出させることが可能となる。
【0011】
また、排出流量を第2の流量から第3の流量に連続的に変化させる期間を有することが好ましい。
本発明によれば、第1の流量から第2の流量に連続的に変化させる期間に加え、さらに第2の流量から第3の流量に連続的に変化させる期間を有することによって、流体に脈動を付与することができるので、気泡の排出効率が一層向上する。
【0012】
また、排出流量を一定速度で変化させることが好ましい。
本発明のように流体の排出流量を一定速度で変化させることによって、流体吸引手段あるいは流体圧送手段の制御が容易となる。
【0013】
また、排出流量を断続的に変化させることが好ましい。
本発明によれば、流体の排出流量を断続的に変化させることによって、流体に細かな脈動を付与することができ、気泡の排出性を向上できる。
【0014】
また、前記排出流量を、流体の種類または粘度に応じて変化させることが好ましい。
本発明によれば、排出流量を、流体の種類や粘度に応じて変化させることによって、液滴吐出ヘッド内の気泡を効率よく排出させることが可能である。
【0015】
また、前記排出流量を、キャップ内の圧力を検出する圧力検出センサからの信号に基づいて変化させることが好ましい。
本発明によれば、排出流量を、圧力検出センサからの信号に基づいて変化させることにより、適正な吸引シーケンスで効率の良い吸引処理を実施できる。
【0016】
また、流体が界面活性剤を含むインクであることが好ましい。
本発明によれば、界面活性剤を含むインクであればインクとともに気泡も排出されやすくなり、液滴吐出ヘッド内に残留する気泡を低減できる。
【0017】
また、流体吸引手段あるいは流体圧送手段として用いるポンプの回転数を連続的に変化させることが好ましい。
本発明によれば、所望の排出流量で流体を排出させることができる。また、ポンプの制御が容易である。
【0018】
本発明の液滴吐出装置は、液滴を吐出するノズルを有する液滴吐出ヘッドと、液滴吐出ヘッドのノズル形成面に当接可能に設けられたキャップと、ノズル形成面に当接させたキャップ内に流体を排出する動作を制御する制御装置と、を備え、制御装置は、ノズルから流体を排出させる動作中に、流体の排出流量を第1の流量から第2の流量に連続的に変化させる動作を実行する。
【0019】
本発明によれば、液滴吐出ヘッドのノズル形成面にキャップを当接させた状態で液滴吐出ヘッドのノズルから流体を排出させる動作中に、流体の排出流量を第1の流量から第2の流量に連続的に変化させる期間を有しているので、液滴吐出ヘッド内に混入した気泡の排出性を向上させることが可能である。つまり、流量を変化させながら流体を排出させることで液滴吐出ヘッド内に残留しやすい微小気泡までも排出させることが可能となる。本発明のように、一度の排出動作でインクの排出流量を連続的に変化させて行うことにより、気泡の排出性を向上させることが可能である。このため、処理時間が短縮されて排出処理の効率化が図れるとともに、液滴吐出ヘッドの良好な吐出特性を確保できる。
【0020】
また、キャップに接続され、キャップ内を減圧する流体吸引手段を備え、制御装置は、流体を排出させる動作中に、流体吸引手段の吸引圧力を第1の吸引力から第2の吸引力に連続的に変化させる動作を実行することが好ましい。
本発明によれば、液滴吐出ヘッド内に混入した気泡の排出性を向上させることが可能である。つまり、吸引流量を変化させながら流体を吸引することで液滴吐出ヘッド内に残留しやすい微小気泡までも排出させることが可能となる。
【0021】
また、キャップに、キャップ内の圧力を検出する圧力検出センサが設けられており、制御装置は、圧力検出センサの出力に基づいて流体吸引手段あるいは流体圧送手段を制御することが好ましい。
本発明によれば、圧力検出センサによるキャップ内の圧力の検出結果に応じて流体吸引手段あるいは流体圧送手段の駆動を制御することができるので、適正な吸引シーケンスで効率の良い吸引処理が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0023】
〔液滴吐出装置〕
図1は、本発明の一実施形態による液滴吐出装置の概略構成を示す斜視図である。尚、以下の説明においては、必要であれば図中にXYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。XYZ直交座標系は、XY平面が水平面に平行な面に設定され、Z軸が鉛直上方向に設定される。また、本実施形態では液滴吐出ヘッド20の移動方向がX方向に設定され、ステージSTの移動方向がY方向に設定されている。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の液滴吐出装置IJは、ベース10と、ベース10上でガラス基板等の基板Pを支持するステージSTと、ステージSTの上方(+Z方向)において支持され、基板Pに対して所定の液滴を吐出可能な液滴吐出ヘッド20とを含んで構成されている。ベース10とステージSTとの間には、ステージSTをY方向に移動可能に支持する第1移動装置12が設けられている。また、ステージSTの上方には、液滴吐出ヘッド20をX方向に移動可能に支持する第2移動装置14が設けられている。
【0025】
液滴吐出ヘッド20には、流路18を介して液滴吐出ヘッド20から吐出される液滴の溶媒(液状体)を貯蔵するインクタンク16が接続されている。
【0026】
ベース10上には、キャッピングユニット22とクリーニングユニット24とが配置されている。これらキャッピングユニット22およびクリーニングユニット24と、ステージSTの側方に設置された吸引ポンプ(流体吸引手段)21とでメンテナンス装置19が構成されている。吸引ポンプ15の下流側には廃インクタンク17が配置されている。
【0027】
制御装置26は、液滴吐出装置IJの各部(例えば、第1移動装置12、第2移動装置14、およびメンテナンス装置19等)を制御して液滴吐出装置IJの全体の動作を制御する。
【0028】
第1移動装置12は、ベース10の上に設置されており、Y軸方向に沿って位置決めされている。この第1移動装置12は、例えばリニアモータによって構成され、ガイドレール12a,12aと、このガイドレール12aに沿って移動可能に設けられているスライダー12bとを備えている。このリニアモータ形式の第1移動装置12のスライダー12bは、ガイドレール12aに沿ってY軸方向に移動して位置決め可能である。
【0029】
スライダー12bは、Z軸回り(θZ)用のモータ12cを備えている。このモータ12cは、例えばダイレクトドライブモータであり、モータ12cのロータはステージSTに固定されている。これにより、モータ12cに通電することでロータとステージSTとは、θZ方向に沿って回転してステージSTをインデックス(回転割り出し)することができる。すなわち、第1移動装置12は、ステージSTをY軸方向及びθZ方向に移動可能である。ステージSTは基板Pを保持し、所定の位置に位置決めするものである。
【0030】
ステージSTは、不図示の吸着保持装置を有しており、この吸着保持装置が作動することによってステージSTに設けられた不図示の吸着穴を通して基板PをステージSTの上に吸着して保持する。
【0031】
第2移動装置14は、支柱28a,28aを用いてベース10に対して立てて取り付けられており、ベース10の後部10aにおいて取り付けられている。この第2移動装置14はリニアモータによって構成され、支柱28a,28aに固定されたコラム28bに支持されている。第2移動装置14は、コラム28bに支持されているガイドレール14aと、ガイドレール14aに沿ってX軸方向に移動可能に支持されているスライダー14bとを備えている。スライダー14bはガイドレール14aに沿ってX軸方向に移動して位置決め可能である。上記の液滴吐出ヘッド20はスライダー14bに取り付けられている。
【0032】
液滴吐出ヘッド20は、揺動位置決め装置としてのモータ30,32,34,36を有している。モータ30を駆動すれば液滴吐出ヘッド20をZ方向に沿って上下動させることができ、任意のZ方向の位置で液滴吐出ヘッド20を位置決めすることができる。モータ32を駆動すれば、液滴吐出ヘッド20をY軸回りのβ方向に沿って揺動させることができ、液滴吐出ヘッド20の角度を調整することができる。モータ34を駆動すれば、液滴吐出ヘッド20をX軸回りのγ方向に沿って揺動させることができ、液滴吐出ヘッド20の角度を調整することができる。モータ36を駆動すれば、液滴吐出ヘッド20をZ軸回りのα方向に沿って揺動させることができ、液滴吐出ヘッド20の角度を調整することができる。
【0033】
このように、図1に示す液滴吐出ヘッド20は、Z方向に直線移動可能であって、α方向、β方向、及びγ方向に沿って揺動して角度を調整することができるようにスライダー14bに支持されている。液滴吐出ヘッド20の位置及び姿勢は、ステージST側の基板Pに対するノズル形成面20aの位置又は姿勢が所定の位置又は所定の姿勢となるように、制御装置26によって正確に制御される。尚、液滴吐出ヘッド20のノズル形成面20aには液滴を吐出する複数の吐出ノズルNZ(図2(a))が設けられている。
【0034】
上述の液滴吐出ヘッド20から吐出される液滴としては、着色材料を含有するインク、金属微粒子等の材料を含有する分散液、PEDOT:PSS等の正孔注入材料や発光材料等の有機EL物質を含有する溶液、液晶材料等の高粘度の機能性液体、マイクロレンズの材料を含有する機能性液体、たんぱく質や核酸等を含有する生体高分子溶液等の種々の材料を含有する液滴が採用される。
【0035】
図2は、本実施形態の液滴吐出装置が備える液滴吐出ヘッドの概略図である。図2(a)は概略断面図を示し、図2(b)は液滴を吐出する面(下面)の構成を示す説明図であり、図2(c)は複数の液滴吐出ヘッドで構成するキャリッジの概略図である。
【0036】
図2(a)に示す液滴吐出ヘッド20は、複数の吐出ノズルNZを備えたマルチノズルタイプの液滴吐出ヘッドである。複数の吐出ノズルNZは、液滴吐出ヘッド20の下面に一方向に並んで一定間隔で設けられている。液滴吐出ヘッド20の吐出ノズルNZから吐出される液滴の一滴の量は、1〜300ナノグラム程度である。
【0037】
本実施形態では、液滴吐出ヘッド20には電気機械変換式の吐出技術を採用したものを用いる。本方式では、液状体を収容する液体室161に隣接して圧電素子PZが設置されている。液体室161には、液状体を収容する材料タンクを含む液状体供給系163を介して液状体が供給される。圧電素子PZは駆動回路164に接続されており、この駆動回路164を介して圧電素子PZに電圧を印加し、圧電素子PZを変形させることにより、液体室161が変形して内圧が高まり、吐出ノズルNZから液状体の液滴が吐出される。この場合、印加電圧の値を変化させることにより、圧電素子PZの歪み量を制御し、液状体の吐出量を制御する。
【0038】
図2(b)に示すように、液滴吐出ヘッド20は、その下面に吐出ノズルNZが整列配置した、例えば180個の吐出ノズルNZ(NZ1〜NZ180)からなるノズル列170を備えている。ここでは、平面視略矩形の液滴吐出ヘッド20の下面の長軸方向と並行に、吐出ノズルNZが配列している。なお、図では吐出ノズルNZが1列に配列されているものとしているが、例えば千鳥状に2列配列されたものであってもよく、3列以上配列されたものであってもよい。また、ノズル列170を構成する吐出ノズルNZの数についても、特に限定はない。
【0039】
なお、複数の液滴吐出ヘッド20を搭載してキャリッジ構成されている。図2(c)では、キャリッジ21が搭載する液滴吐出ヘッド20の数は3つとなっているが、これに限るものではない。また、ここでは3つの液滴吐出ヘッド20は、吐出ノズルNZが配列する長軸方向に、連続して1列に配列しているが、複数の液滴吐出ヘッド20が例えば千鳥状に2列配列されたものであっても良く、3列以上配列されたものであってもよい。
【0040】
図3は、メンテナンス装置19の概略構成を示す断面図である。
図3に示すように、キャッピングユニット22の構成要素であるキャップ23は、キャップホルダ23aとキャップ部材23bとを含んでいる。キャップホルダ23aは、上側が開口した箱状に形成されており、この開口面が液滴吐出ヘッド20のノズル形成面20aを向くように配設されている。キャップ部材23bは、エラストマ等の可撓性材質からなり、キャップホルダ23aの内壁面によって支持されている。このキャップ部材23bは、その上端縁がキャップホルダ23aの上端縁よりも上方に突出している。
【0041】
キャップ部材23b内には、スポンジ材等からなるシート状のインク吸収材(流体吸収材)Sが2つ収容されている。このインク吸収体Sは、液滴吐出ヘッド20から吐出されるインクを受け止めて吸収する。
また、キャップ部材23bにはさらに圧力検出センサ29が接続されており、液滴吐出ヘッド20のノズル形成面20aを封止するキャップ23の内部圧力の検出が可能である。
【0042】
また、キャップホルダ23aの底面には、インク排出口25が貫通形成され、キャップホルダ23aの下面には、排出チューブ27が接続されている。これらのインク排出口25と排出チューブ27内の流路とは互いに連通されて配設されている。キャップ23内に吐出されたインクは、このインク排出口25を介して、排出チューブ27内の流路に流入する。
【0043】
排出チューブ27の他端側(キャップ23と反対側)に吸引ポンプ15が接続されている。この吸引ポンプ15は、吐出ノズルNZ内のインク等をキャップ23内に排出させるためのものである。メンテナンス処理は、プリンタが長期間印刷を休止した後、印刷を再開するとき等、プリンタの制御装置26により実行命令が送出された際に行われる。その際、キャリッジ21がホームポジションに移動されて、液滴吐出ヘッド20がキャップ23の上方に配置される。
【0044】
また、キャップ23の底面には、不図示の大気連通口が貫通形成されており、この大気連通口には大気連通チューブ41を介して大気開放バルブ42が設けられている。大気開放バルブ42を開状態にすると、ノズル形成面20aとキャップ23との間に形成された空間(以下、密閉空間Kと称する。)は大気連通チューブ41を介して大気開放される。
【0045】
このようなキャッピングユニット22は、液滴吐出ヘッド20のインクの噴射特性を回復或いは維持するための吸引動作、或いはフラッシング動作において用いられる。また、キャッピングユニット22は、キャップ23がノズル形成面20aを封止した際、ノズル形成面20aとキャップ23との間の密閉空間Kに吸収したインクの溶媒を揮発させることで吐出ノズルNZの乾燥を防止することもできる。
【0046】
ところで、インクタンク16やキャリッジ21の交換の際に流路18の繋ぎ直しが発生するため、流路18中に気泡が入ってしまうことがある。この気泡は液滴吐出ヘッド20の吐出不良を引き起こすおそれがあることから印字前には排出させておく必要がある。従来は高速(単位時間当たりの吸引流量は一定)でインクを吸引することによって気泡を排出させていた。しかしながら、インクタンク16に接続された流路18や液滴吐出ヘッド20内でインクが流動する流路(以下、単にインク流路という。)の中央とその周囲との間で生じる流速の差によって、流路18や液滴吐出ヘッド20の内壁に付着した微小な気泡は排出されにくく残留していた。
【0047】
このような不具合を解消すべく、本実施形態においては、インクの再充填時などにおいて吐出ノズルNZから液滴吐出ヘッド20内のインクを吸引することによって気泡を排出している。以下に、本発明に係るインク吸引方法(流体排出方法)の各実施例について説明する。
【0048】
[実施例1]
図4は、実施例1のインク吸引方法における吸引シーケンスを示す図であって、縦軸が吸引ポンプ15による吸引圧P(KPa)、横軸が経過時間(sec)を表している。
【0049】
本実施例では、まず、キャリッジ21を降下させ、液滴吐出ヘッド20をキャップ23に当接させることによりノズル形成面20aを封止しておく。
【0050】
キャップ23によって液滴吐出ヘッド20のノズル形成面20aを封止した状態において、吸引ポンプ15を第1出力で駆動させてノズル形成面20aとキャップ23との間に形成される密閉空間Kに所定の吸引圧P1(第1の吸引圧力)を印加し、吐出ノズルNZからキャップ23内にインクを高速(第1の流量)で排出させる(S1:第1排出工程)。この工程により、流路18や液滴吐出ヘッド20内に混入している気泡がインクとともにある程度排出される。
【0051】
次に、吸引ポンプ15の出力を第1出力から第2出力まで除々に低下させていくことで、密閉空間Kに印加する吸引圧P1を吸引圧P2(第2の吸引力)まで変化させ、インクの吸引速度(流量)を高速(第1の流量)から低速(第2の流量)に変化させる(S2:流量変化工程)。本実施形態では、第1排出工程における処理時間と略同程度の時間をかけて吸引ポンプ15の出力を第1出力から第2出力へと変化させる。このようにして、インクが流動する流路(インク流路)の中央とその周囲との間で生じる流速の差を除々になくしていく。つまり、インクの流動に変化を与えることでインク流路内に残留した微小気泡を動かして、微小気泡同士の集結成長を促す。
【0052】
次に、吸引ポンプ15の出力を第2出力に変化させてその状態に維持し、密閉空間Kに対して吸引圧P1よりも低い吸引圧P2を所定時間印加することによって吐出ノズルNZからインクを低速(第2の流量)で排出させる(S3:第2排出工程)。低速インク吸引を所定時間実施することで、微小気泡をさらに集結成長させてインクとともに排出する。微小気泡が他の気泡と一体となってある程度の大きさに成長すればインクとともに排出されやすくなる。同工程では、例えば極めて小さな気泡を自然消滅させる作用も含まれる。
【0053】
また、低速でインクを吸引していくことで、インクの泡立ちを防止しながら吐出ノズルNZに噴射準備のためのメニスカスを形成する。
その後、吸引ポンプ15の駆動を停止して大気開放バルブ42を開弁することで密閉空間Kを大気開放し、一連の処理を終了する(S4)。
【0054】
本実施例では、各工程において吸引ポンプ15の出力をインクの種類や粘度、および圧力検出センサ29によるキャップ23内の圧力検出結果等に応じて適宜制御している。
【0055】
本実施形態のインク排出方法では、処理中における吸引ポンプ15の出力、すなわちその回転数を連続的に変化させて密閉空間Kに対して連続的に負圧を付与し、液滴吐出ヘッド20から排出するインクの排出流量を連続的に変化させている。液滴吐出ヘッド20からインクを排出させる動作中にインクの排出流量を連続的に変化させることによって、液滴吐出ヘッド20内に混入した気泡の排出性を向上させることが可能である。つまり、インクの吸引流量を連続的に変化させることによって流路18や液滴吐出ヘッド20内に残留しやすい微小気泡までも排出させることが可能となる。従来のようにインクを一定の流量で吸引するよりも、一度の吸引処理でインクの吸引流量を連続的に変化させることで微小気泡の集結成長化が進み、インクとともに排出されやすくなる。
【0056】
したがって、本実施例においては、液滴吐出ヘッド20からインクを排出させる動作中に、インクの排出流量を連続的に変化させる流量変化工程(S2)を有することから、液滴吐出ヘッド20内の気泡を効率良く排出させることができ、その結果、液滴吐出ヘッド20のインク排出特性を良好に維持することが可能である。
【0057】
また、従来において、インクの排出動作を複数回に分けてそれぞれ一定の流量で断続的に吸引を行う方法がある。例えば、インクの高速吸引工程と低速吸引工程とをそれぞれ一定の圧力で所定時間ずつ断続的に実施することによってインクを排出し気泡を除去していた。具体的にこの方法では、高速吸引工程と低速吸引工程との間でキャップによるノズル形成面の封止を一旦解除していたことから、キャップの移動や、再吸引時に密閉空間内の圧力が安定化するまでの待ち時間が長くなるなどの問題が生じていた。
【0058】
これに対して本実施形態では、一連の吸引動作をキャップ23によってノズル形成面20aを封止した状態のまま処理を行っており、従来のように処理中にキャップ23を移動させることがない。このため、キャップ23の移動時間や密閉空間K内の圧力が安定するまでの待機時間が削減されて処理時間を短縮することができるので、吸引処理の効率化を図ることが可能である。
【0059】
なお、吸引シーケンスは図4に限られたものではなく、インクの種類や粘度、圧力検出センサ29によるキャップ23内の圧力の検出結果に応じて吸引ポンプ15の駆動を制御することによって、適正な吸引シーケンスで効率の良い吸引処理が行える。ここで例えば、インクの種類や粘度に応じたテーブルを予め用意しておいてもよい。これにより、液滴吐出ヘッド20内の気泡を効率よく排出させることができる。また、界面活性剤を含むインクを用いればインクとともに気泡も排出されやすくなり液滴吐出ヘッド20内に残留する気泡を低減できる。
【0060】
[実施例2]
図5は、実施例2のインク吸引方法における吸引シーケンスを示す図であって、縦軸が吸引ポンプ15による吸引圧P(KPa)、横軸が経過時間(sec)を表している。なお、先の実施例と同様の工程については説明を簡単にする。
【0061】
図3に示したようにキャップ23により液滴吐出ヘッド20のノズル形成面20aを封止した後、まず吸引ポンプ15を第2出力で駆動させ、密閉空間Kに対して吸引圧P2を所定時間印加する(S11)。最初にインクを低速(第1の流量)で所定時間吸引することで流路18や液滴吐出ヘッド20内のインクを流動させ、例えば流路18や液滴吐出ヘッド20におけるインク流路の内壁に付着した気泡や圧力室などに引っ掛かった気泡をインクとともに流動させる。
【0062】
次に、吸引ポンプ15の出力を除々に高めていき(S12:流量変化工程)、密閉空間Kに対する印加圧力を吸引圧P2からそれよりも高い吸引圧P1に変化させる。吸引ポンプ15を第1出力に所定時間維持し(S13)、流動していたインクを高速(第2の流量)で一気に吸引する。
【0063】
その後、吸引ポンプ15の出力を第2出力まで除々に低下させて密閉空間Kに対する印加圧力を吸引圧P1から吸引圧P2まで変化させる(S14:流量変化工程)。その後、吸引ポンプ15を第2出力で所定時間駆動させることによって再びインクを低速(第3の流量)で吸引する(S15)、密閉空間Kに対して吸引圧P2を所定時間印加する。
【0064】
このように、インクの吸引速度を低速、高速、低速の順で連続的に変化させることによってインクの流動に脈動を与えることができ、気泡をより効率よく排出させることが可能である。予めインク流路内のインクを低速で流動させておいた上で、その後除々に流速を高めていくことによってインク流路内の微小気泡同士の集結成長をさらに助長させることが可能である。
【0065】
したがって、本実施例においては、液滴吐出ヘッド20からインクを排出させる動作中に、インクの排出流量を連続的に変化させる流量変化工程(S12,S14)を有することから、液滴吐出ヘッド20内の気泡を効率良く排出させることができ、その結果、液滴吐出ヘッド20のインク排出特性を良好に維持することが可能である。
なお、吸引シーケンスは図5に示すものに限ったものではなく、適宜変更可能である。
【0066】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもなく、上記各実施形態を組み合わせても良い。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0067】
なお、例えば先の実施形態では各流量変化工程(S2,S12,S14)においてインクの排出流量を一定速度で変化させているが、インクの排出流量が複数の段階を踏んで連続的に変化するように吸引ポンプ15の出力を制御することによってインクに対して細かな脈動を付与するようにしてもよい。これにより、インクが微振動して残留気泡をより効果的に排出させることが可能となる。
【0068】
また、吸引ポンプ15に代えてエジェクタを用いてもよく、その場合には、制御装置26によりエジェクタの設定値を各工程を通して連続的に変化させることによってインクの吸引流量を変化させる。
【0069】
また、先の実施形態における気泡除去処理において、吐出ノズルNZの目詰まりを解消するための作用を付与することも可能である。
【0070】
また、インクタンク16と液滴吐出ヘッド20とを繋ぐ流路18上に加圧ポンプ(流体圧送手段)を配置してもよい。先の実施形態では、メンテナンス装置19の吸引ポンプ15の作用によって液滴吐出ヘッド20からインクを吸引しているが、加圧ポンプの作用によって流路18内のインクを搬送することによって液滴吐出ヘッド20からインクを強制的に排出するようにしても良い。このときの加圧ポンプによるインク排出のためのシーケンスは、実施例1および実施例2における上記吸引ポンプ15によるシーケンスを適用することができる。例えば、流量変化工程における加圧ポンプのインクの搬送圧力を第1の搬送圧力(例えば、図4における吸引圧P1に対応)から第2の搬送圧力(図4における吸引圧P2に対応)に連続的に変化させることによって、インクの排出流量を連続的に変化させる。
【0071】
また、各工程における加圧ポンプによるインクの搬送圧力や吸引時間をインクの種類や粘度に応じて適宜変化させることによって、液滴吐出ヘッド20内のインク(気泡)を効率よく排出させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本実施形態に係る液滴吐出装置の全体を示す概略図。
【図2】本実施形態に係る液滴吐出ヘッドの概略図。
【図3】本実施形態に係るメンテナンス装置の概略図。
【図4】実施例1におけるインク排出方法の吸引シーケンス。
【図5】実施例2におけるインク排出方法の吸引シーケンス。
【符号の説明】
【0073】
IJ…液滴吐出装置、20…液滴吐出ヘッド、NZ…吐出ノズル、20a…ノズル形成面、23…キャップ、15…吸引ポンプ(流体吸引手段)、29…圧力検出センサ、26…制御装置、P1…吸引圧(第1の吸引圧力)、P2…吸引圧(第2の吸引圧力)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴吐出ヘッドのノズル形成面にキャップを当接させ、前記液滴吐出ヘッドのノズルから流体を排出させるための流体排出方法であって、
前記ノズルから前記流体を排出させる動作中に、前記流体の排出流量を第1の流量から第2の流量に連続的に変化させる期間を有する
ことを特徴とする流体排出方法。
【請求項2】
前記キャップに、前記キャップ内を減圧する流体吸引手段が接続されており、
前記ノズルから前記流体を排出させる動作中に、前記流体吸引手段の吸引圧力を第1の吸引圧力から第2の吸引圧力に連続的に変化させる期間を有する
ことを特徴とする請求項1記載の流体排出方法。
【請求項3】
前記液滴吐出ヘッドに、前記ノズルに連通する流路に前記流体を供給する流体圧送手段が接続されており、
前記ノズルから前記流体を排出させる動作中に、前記流体圧送手段の搬送圧力を第1の搬送圧力から第2の搬送圧力に連続的に変化させる期間を有する
ことを特徴とする請求項1記載の流体排出方法。
【請求項4】
前記排出流量を前記第2の流量から第3の流量に連続的に変化させる期間を有する
ことを特徴とする請求項1記載の流体排出方法。
【請求項5】
前記排出流量を一定速度で変化させる
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の流体排出方法。
【請求項6】
前記排出流量を断続的に変化させる
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の流体排出方法。
【請求項7】
前記排出流量を、前記流体の種類または粘度に応じて変化させる
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の流体排出方法。
【請求項8】
前記排出流量を、前記キャップ内の圧力を検出する圧力検出センサからの信号に基づいて変化させる
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の流体排出方法。
【請求項9】
前記流体が界面活性剤を含むインクである
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の流体排出方法。
【請求項10】
前記流体吸引手段あるいは前記流体圧送手段として用いるポンプの回転数を連続的に変化させる
ことを特徴とする請求項2または3記載の流体排出方法。
【請求項11】
液滴を吐出するノズルを有する液滴吐出ヘッドと、
前記液滴吐出ヘッドのノズル形成面に当接可能に設けられたキャップと、
前記ノズル形成面に当接させた前記キャップ内に前記流体を排出する動作を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記ノズルから前記流体を排出させる動作中に、前記流体の排出流量を第1の流量から第2の流量に連続的に変化させる動作を実行する
ことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項12】
前記キャップに接続され、前記キャップ内を減圧する流体吸引手段を備え、
前記制御装置は、前記流体を排出させる動作中に、前記流体吸引手段の吸引圧力を第1の吸引力から第2の吸引力に連続的に変化させる動作を実行する
ことを特徴とする請求項11記載の液滴吐出装置。
【請求項13】
前記液滴吐出手段に接続され、前記ノズルに連通する流路に前記流体を供給する流体圧送手段を備え、
前記制御装置は、前記流体を排出させる動作中に、前記流体圧送手段の搬送圧力を第1の搬送圧力から第2の搬送圧力に連続的に変化させる動作を実行する
ことを特徴とする請求項11記載の液滴吐出装置。
【請求項14】
前記キャップに、前記キャップ内の圧力を検出する圧力検出センサが設けられており、前記制御装置は、前記圧力検出センサの出力に基づいて前記流体吸引手段あるいは前記流体圧送手段を制御する
ことを特徴とする請求項11ないし13のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−142738(P2010−142738A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323319(P2008−323319)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】