説明

流体軸受装置及びその製造方法

【課題】クランパ装着用の廻り止め穴を有する樹脂製のディスクハブの強度及び耐久性の向上を図る
【解決手段】廻り止め穴10a20が、射出ゲート跡24aの除去により形成される。これにより、ディスクハブ10の成形金型に廻り止め穴10a20を形成するための成形部を設ける必要がない。従って、キャビティ25内における溶融樹脂の流動性が確保され、キャビティ25の端部まで樹脂が充填されるため、ディスクハブ10を高い寸法精度で成形することができる。また、ゲート跡24aの除去加工と、廻り止め穴10a20の形成とを同一工程で行うことができるため、工程数が削減され、生産効率の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受隙間に生じる潤滑膜で、軸部材を回転自在に支持する流体軸受装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の流体軸受装置は、情報機器、例えばHDD等の磁気ディスク駆動装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク駆動装置、MD、MO等の光磁気ディスク駆動装置等のスピンドルモータ用、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、あるいはプロジェクタのカラーホイールとして好適に使用可能である。
【0003】
例えば、特許文献1の図3に示されている流体軸受装置では、軸部材と、軸部材に外径方向へ突出して設けたディスクハブとを備え、軸部材の外周面が面するラジアル軸受隙間の潤滑膜で軸部材及びディスクハブが回転自在に支持されている。ディスクハブにはディスクが載置され、このディスクを軸部材の上端部にねじ結合したクランパで固定している。
【0004】
また、特許文献2の図5には、ディスクハブが芯金をインサート部品とした樹脂の射出成形品である流体軸受装置が示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−105390号公報(第3図)
【特許文献2】特開2005−337342号公報(第5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の軸受装置において、ディスクを固定するためのクランパを軸部材にねじ結合する際、ねじの回転と共にディスクハブ及び軸部材が回転すると、ねじを締め付けることができない。このため、ディスクハブの上面にはクランパ装着時の廻り止めとして機能する穴(以下、「廻り止め穴」と称す)が設けられることがある。
【0007】
このような廻り止め穴は、例えばディスクハブの射出成形と同時に形成することができる。図8(a)に、ディスクハブを成形する金型の一例を示す。この金型は、可動型121と固定型122とからなり、可動型121に廻り止め穴を形成するための成形部としての突起部126が形成される。固定型122は、軸心に軸部材127を挿入するための固定穴123を備えると共に、成形面の外径端付近にゲート124を備える。この可動型121と固定型122とで形成されるキャビティ125内に、ゲート124を介して溶融樹脂が射出される。ゲート124から射出された溶融樹脂は、キャビティ125内を図中の矢印で示すように流動する。
【0008】
このとき、成形部126がキャビティ125に突出して設けられることにより、樹脂の流動性が悪化する。特に、ディスクハブに芯金がインサートされる場合、キャビティ内に芯金が配されることにより溶融樹脂の流路面積が狭くなるため、樹脂の流動性がさらに悪化し、キャビティの端部まで樹脂が充填されない恐れがある。例えば、軸部材127と接する内径端まで樹脂が充填されないと、軸部材127と間に隙間が形成されるため、軸部材127とディスクハブとの固定強度が低下したり、この隙間から軸受内部の油が漏れ出したりする恐れがある。
【0009】
また、成形部126により、以下のような不具合を生じる恐れもある。図8(b)に、突起部126付近の軸直交平面における溶融樹脂の流れを示す。矢印で示すように、射出された樹脂は、突起部126を回り込んでキャビティの内径端へ向けて流動する。このとき、突起部126の外径側(図中右側)で二手に分かれた樹脂が、突起部126の内径側(図中左側)で合流する際、この合流部分Aでウェルドラインが形成される。このウェルドラインの形成により、ディスクハブの強度が低下し、軸受装置の耐久性が低下する恐れがある。
【0010】
本発明は、クランパ装着用の廻り止め穴を有する樹脂製のディスクハブの成形性を高めることにより、ディスクハブの寸法精度、強度及び耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明は、軸部材と、軸部材に外径方向へ突出して設けられ、ディスク搭載面を有し、且つ樹脂で射出成形されたディスクハブとを備え、軸部材の外周面が面するラジアル軸受隙間の潤滑膜で軸部材を回転自在に支持する流体軸受装置において、ディスクハブが、ディスクを固定するクランパ装着用の廻り止め穴を有し、この廻り止め穴が、樹脂成形部の射出ゲート跡を除去して形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、上記の目的を達成するために、本発明は、軸部材と、軸部材に外径方向へ突出して設けられ、ディスク搭載面を有し、且つ樹脂で射出成形されたディスクハブとを備え、軸部材の外周面が面するラジアル軸受隙間の潤滑膜で軸部材を回転自在に支持する流体軸受装置を製造するための方法であって、ディスクハブに形成された射出ゲート跡の除去加工でディスクを固定するクランパ装着用の廻り止め穴を形成することを特徴とする。
【0013】
このように、本発明では、廻り止め穴を射出ゲート跡の除去加工で形成するため、ディスクハブの成形金型に廻り止め穴を形成するための成形部を設ける必要がない。従って、キャビティ内における溶融樹脂の流動性が確保され、ディスクハブの端部まで確実に樹脂を充填することができるため、ディスクハブの寸法精度を高めることができる。また、成形部を省略することにより、樹脂が成形部を回り込むことによるウェルドラインの形成が回避されるため、ディスクハブの強度及び耐久性を高めることができる。
【0014】
ディスクハブが芯金をインサート部品とした樹脂の射出成形品である場合、すなわち、ディスクハブを成形するキャビティ内に芯金が配される場合、本発明を適用してキャビティ内の溶融樹脂の流動性を確保することが特に有効となる。
【0015】
また、本発明の製造方法では、ゲート跡の除去加工と、廻り止め穴の形成とを同一工程で行うことができるため、軸受装置の製造工程数を削減し、生産効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によると、クランパ装着用の廻り止め穴を有する樹脂製のディスクハブの成形性を高めることができるため、ディスクハブの寸法精度、強度及び耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明が適用される流体軸受装置1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2及びディスクハブ10を相対回転自在に非接触支持する流体軸受装置(動圧軸受装置)1と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、ブラケット6とを備えている。ステータコイル4はブラケット6の外径側内周面に取付けられ、ロータマグネット5は、ディスクハブ10の外径側に設けられたヨーク12に固定されている。流体軸受装置1は、ブラケット6の内周に固定される。また、ディスクハブ10には、情報記録媒体としてのディスクDがクランパ3により固定される。このように構成されたスピンドルモータにおいて、ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する励磁力でロータマグネット5が回転し、これに伴って、ディスクハブ10およびディスクハブ10に保持されたディスクDが軸部材2と一体に回転する。尚、図2では、ディスクハブ10にディスクDが1枚固定されているが、これに限らず、複数枚のディスクDを固定する場合もある。
【0019】
図2は、流体軸受装置1を示している。この流体軸受装置1は、軸部材2と、軸部材2に外径方向へ突出して設けたディスクハブ10と、内周に軸部材2を挿入した軸受スリーブ8と、内周に軸受スリーブ8を保持したハウジング9と、ハウジング9の一端を閉口する蓋部材11とを主に備える。なお、説明の便宜上、軸方向両端に形成されるハウジング9の開口部のうち、蓋部材11で閉口される側を下側、閉口側と反対の側を上側として以下説明する。
【0020】
この流体軸受装置1では、軸部材2の外周面2aと軸受スリーブ8の内周面8aとの間に、ラジアル軸受部R1、R2が軸方向に離隔して設けられる。また、軸受スリーブ8の下側端面8bと軸部材2のフランジ部2bの上側端面2b1との間に第1スラスト軸受部T1が設けられると共に、ハウジング9の上端面9aとディスクハブ10の円盤部10aの下側端面10a1との間に第2スラスト軸受部T2が設けられる。
【0021】
軸受スリーブ8は、例えば銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成され、ハウジング9の内周面9cに、接着(ルーズ接着を含む)、圧入(圧入接着を含む)、溶着(超音波溶着を含む)等、適宜の手段で固定される。
【0022】
軸受スリーブ8の内周面8aの全面又は一部円筒領域には、図3に示すように、複数の動圧溝8a1、8a2をヘリングボーン形状に配列した領域が軸方向に離隔して形成される。また、軸受スリーブ8の下側端面8bの全面又は一部環状領域には、図4に示すように、複数の動圧溝8b1をスパイラル状に配列した領域が形成される。
【0023】
ハウジング9は、金属材料又は樹脂材料で軸方向両端を開口した略円筒状に形成され、その一端側の開口部を蓋部材11で封口している。ハウジング9の上端面9aの全面または一部環状領域には、図5に示すように、複数の動圧溝9a1をスパイラル形状に配列した領域が形成される。ハウジング9の上方部外周には、上方に向かって漸次拡径する第1テーパ面9bが形成される。ハウジング9の下方部外周には円筒面9eが形成され、この円筒面9eがブラケット6の内周に、接着、圧入、溶着等の手段で固定される。ハウジング9の下端側を封口する蓋部材11は、金属あるいは樹脂で形成され、ハウジング9の下端内周側に設けられた段部9dに、接着、圧入、溶着、あるいは溶接等の手段で固定される。
【0024】
軸部材2は、例えば金属で形成される。軸部材2の下端には、抜止めとしてフランジ部2bが別体に設けられる。フランジ部2bは金属製で、例えばねじ結合や接着等の手段により軸部材2に固定される。軸部材2の上端にはディスクハブ10が設けられ、これらの界面は、一端が軸受内部の潤滑剤で満たされた空間に面すると共に、他端が大気に開放している。
【0025】
ディスクハブ10は、金属部としての芯金13と、樹脂成形部14とからなり、その形状は、ハウジング9の上端開口部を覆う円盤部10aと、円盤部10aの外周部から軸方向下方に延びる筒状部10bと、筒状部10bから外径側に突出する鍔部10cとを備える。鍔部10cの上側端面には、ディスク搭載面10dが形成されると共に、円盤部10aの上側端面10a2には、後述するクランパ13装着用の廻り止め穴10a20が形成される。廻り止め穴10a20の形成箇所や数は、上側端面10a2上であれば特に限定されず、例えば上側端面10a2の径方向中央部の円周方向等間隔の3箇所に形成される。
【0026】
ディスクハブ10には、ディスクDが固定される。詳しくは、ディスクDを円盤部10aの外周に外嵌すると共に、ディスク搭載面10dに載置し、さらにその上に載置したクランパ3をねじ7で軸部材2の上端部に設けたねじ穴に締め付けることにより、ディスクDを固定する。この際、図2に点線で示す治具Gを、クランパ3に形成された貫通穴3aを介して、ディスクハブ10に設けられた廻り止め穴10a20に挿入する。これにより、クランパ3及びディスクハブ10の相対回転が規制されるので、ねじ7を確実に締め付けることができる。また、上記のように、ディスクハブ10が芯金13を有することによりディスクハブ10の強度が高められるため、クランパ3の締め付け力によるディスクハブ10の変形を防止できる。
【0027】
ディスクハブ10の円盤部10aの下側端面10a1は、ハウジング9の上端面9aの動圧溝形成領域とスラスト軸受隙間を介して対向する。これらの面は、軸受装置の起動、停止時等の低速回転時に接触摺動するため、高い耐摩耗性が要求される。本実施形態では、ディスクハブ10の円盤部10aの下側端面10a1に芯金13が露出することにより、樹脂と比べて耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0028】
筒状部10bの内周面のうち、ハウジング9の外周上端に設けられた第1テーパ面9bと対向する部分には、上方へ向けて拡径した第2テーパ面10b1が形成される。この第2テーパ面10b1の軸方向に対するテーパ角は、第1テーパ面9bのテーパ角よりも小さく設定される。これにより、第1テーパ面9bと第2テーパ面10b1との間に、径方向寸法が上方に向かって漸次縮小するテーパ状のシール空間Sが形成される。このシール空間Sは、ディスクハブ10(軸部材2)の回転時、スラスト軸受部T2のスラスト軸受隙間の外径側と連通する。後述する潤滑油を流体軸受装置1内部に充満させた状態では、潤滑油は毛細管力によりシール空間Sの幅狭側に引き込まれるため、油面は常時シール空間Sの範囲内に保持される。また、シール空間Sの外周部が第2テーパ面10b1で形成されることで、シール空間S内の潤滑油に遠心力が加わった際、潤滑油がテーパ面10b1により上方へ向けて押し込まれるため、より確実に潤滑油をシール空間Sの内部に保持することができる。
【0029】
上記のような構成を有する流体軸受装置1の内部に、潤滑流体として例えば潤滑油が充満される。具体的には、シール空間Sよりも軸受内部側の空間が全て潤滑油で満たされ、油面は常にシール空間S内に保持される。この潤滑油としては、種々のものが使用可能であるが、HDD等のディスク駆動装置用の流体軸受装置に提供される潤滑油には、その使用時あるいは輸送時における温度変化を考慮して、低蒸発率及び低粘度性に優れたエステル系潤滑油、例えばジオクチルセバケート(DOS)、ジオクチルアゼレート(DOZ)等を基油として使用した潤滑油が好適に使用可能である。
【0030】
上記構成の流体軸受装置1において、軸部材2の回転時、軸受スリーブ8の内周面8aに形成された動圧溝8a1、8a2形成領域は、対向する軸部材2の外周面2aとの間にラジアル軸受隙間を形成する。そして、軸部材2の回転に伴い、上記ラジアル軸受隙間の潤滑油が動圧溝8a1、8a2の軸方向中心側に押し込まれ、その圧力が上昇する。このように、ラジアル軸受部R1、R2に形成された動圧溝8a1、8a2によって生じる潤滑油の動圧作用によって、軸部材2をラジアル方向に非接触支持する。
【0031】
これと同時に、軸受スリーブ8の下側端面8bの動圧溝8b1形成領域とフランジ部2bの上側端面2b1との間、およびハウジング9の上端面9aの動圧溝9a1形成領域とディスクハブ10の下側端面10a1との間に、それぞれスラスト軸受隙間が形成される。これらのスラスト軸受隙間に形成される潤滑油膜の圧力が、第1スラスト軸受部T1及び第2スラスト軸受部T2に形成された動圧溝8b1、9a1の動圧作用により高められることにより、軸部材2及びディスクハブ10を両スラスト方向に非接触支持する。
【0032】
また、この実施形態では、軸受スリーブ8の外周面8dに軸方向溝8d1が形成される。これにより、軸受内部に充満された潤滑油を循環させることが可能となり、局所的な負圧の発生に伴う気泡の生成等を回避できる。具体的には、ディスクハブ10の円盤部10aの下側端面10a1と軸受スリーブ8の上側端面8cとの間の隙間、第1、第2ラジアル軸受部R1、R2の軸受隙間、および第1スラスト軸受部T1の軸受隙間にそれぞれ充填された潤滑油が循環可能となる。この実施形態では、軸受スリーブ8の内周面8aに形成された動圧溝8a1が軸方向で上下非対称に形成される。具体的には、図3に示すように、動圧溝8a1のうち、軸方向中間部に形成された環状の平滑部よりも上側の溝が、下側の溝よりも長く形成される。これにより、軸部材2の回転時には、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間の潤滑油が下方へ押し込まれ、軸受内部の潤滑油を強制的に循環させることができる。尚、このような強制的な循環が特に必要なければ、動圧溝8a1を軸方向で上下対称に形成してもよい。
【0033】
以下、ディスクハブ10の形成工程を、図6を用いて説明する。
【0034】
ディスクハブ10に配される芯金13は、例えばステンレス鋼の塑性加工(例えばプレス加工)で略円盤状に形成される。この芯金13の内周面13aを、軸部材2の外周面2aに固定する(図6(a)参照)。具体的には、芯金13の内周面13aと軸部材2とを圧入嵌合し、さらにこの嵌合面を溶接することにより両者が固定される。
【0035】
上記のようにして固定された芯金13及び軸部材2をインサートして樹脂で射出成形することにより、ディスクハブ10の樹脂成形部14が形成される。樹脂成形部14は、例えば液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の結晶性樹脂や、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)等の非晶性樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形で成形される。また、炭素繊維やガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカ状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、各種金属粉等の繊維状または粉末状の導電性充填材を、目的に応じて上記ベース樹脂に適量配合したものを使用することもできる。
【0036】
樹脂成形部14を形成するため成形金型を図6(a)に示す。この金型は、可動型21と固定型22とからなる。固定型22の軸心には、軸部材2を挿入するための固定穴23が設けられる。可動型21は、ディスクハブ10の円盤部10aの上側端面10a2を成形する成形面21aと、成形面21aに設けられたゲート24とを有する。ゲート24は、円周方向等間隔の3箇所に配された点状ゲートであり、後に形成される廻り止め穴10a20の形成予定位置、すなわち成形面21aの所定位置に設けられる。このゲート24を介して、可動型21及び固定型22で形成されるキャビティ25に溶融樹脂が射出される。
【0037】
キャビティ25内に充填した溶融樹脂が固化した後、成形金型を型開きして軸部材2と一体に成形したディスクハブ10を取り出す(図6(b)参照)。型開きに伴い、ゲート24内に形成されたゲート固化部が自動的に切断され(あるいはゲートカット機構によってゲート固化部が切断され)、ディスクハブ10のゲート対応位置にゲート固化部の一部がゲート跡24aとして残る。
【0038】
このゲート跡24aは機械加工により除去され、このゲート跡24aの除去加工と同時に廻り止め穴10a20が形成される。具体的には、例えば、図6(c)に示すように、フライス盤(図示せず)に取付けたエンドミル26を回転させ、その状態で下降させてディスクハブ10の円盤部10aの上側端面10a2の所定位置を削ることにより、ゲート跡24aを除去する。その後、さらにエンドミル26を下降させ、エンドミル26が芯金13と接触したとき、若しくは接触する直前でエンドミル26の下降を停止する。これにより、樹脂成形部14に軸方向の廻り止め穴10a20が形成される。このように、ゲート跡の除去加工と廻り止め穴10a20の形成とを同一工程で行うことにより、工程数が削減され、ディスクハブ10の形成が簡略化される。尚、廻り止め穴10a20は、必ずしも図2のように樹脂成形部14を貫通させる必要はなく、クランパ装着時の廻り止めとして機能する深さを有していれば良い。
【0039】
尚、固定型22のうち、ディスクハブ10の円筒部10bの内周面に第2テーパ面10b1を成形する成形面22aは、成形品の脱型方向へ向けて縮径したいわゆるアンダーカット形状を呈する。このため、樹脂の固化後に成形品を脱型する際、ディスクハブ10の第2テーパ面10b1と固定型22の成形面22aとが干渉し、第2テーパ面10b1が損傷する恐れがある。しかし、第2テーパ面10b1のテーパ角の大きさは微小であるため、第2テーパ面10b1と成形面22aとの干渉は極僅かである。従って、無理抜きによりディスクハブ10を脱型しても、樹脂材料のすべり性及び弾性により第2テーパ面10b1が損傷することはない。
【0040】
このように本実施形態では、ディスクハブ10に形成される廻り止め穴10a20を、ディスクハブ10の成形後のゲート跡24aの除去加工で形成する。従って、ディスクハブ10の成形金型に廻り止め穴を形成するための成形部を設ける必要がないため、キャビティに射出された溶融樹脂の流動性を確保することができる。これにより、図6(a)に示すように、キャビティ25に芯金13が配される場合でも、キャビティ25の端部まで確実に樹脂が充填されるため、ディスクハブ10を高い寸法精度で成形することができる。よって、ディスクハブ10と軸部材2との固定強度が高められると共に、両者の界面の密着性も向上するため、この界面からの油の漏れ出し等の不具合を確実に防止することができる。また、溶融樹脂が成形部を回りこむことによるウェルドラインの形成も回避できるため、ディスクハブ10の強度及び耐久性を向上させることができる。
【0041】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明する。尚、以下の説明において、上記の実施形態と同様の構成、機能を有する箇所には同一符号を付し、説明を省略する。
【0042】
上記の実施形態では、軸部材2の下端に設けられたフランジ部2bで軸部材2の抜け止めを行っていたが、これに限られない。例えば、図7に示す流体軸受装置1では、ディスクハブ10の内周に抜け止め部材15を固定し、この抜け止め部材15とハウジングとが軸方向で係合することにより、軸部材2及びディスクハブ10の抜け止めが行われる。この抜け止め部材15は、例えば金属材料のプレス加工で断面略L字型に形成され、ディスクハブ10の筒状部10bの内周面の上端に設けられた段部10eに固定される。抜け止め部材15の内周面15aは、対向するハウジング9の外周面上方の第1テーパ面9bとの間にシール空間Sを形成する。この内周面15aは、上方へ向けて拡径したテーパ状に形成され、上記実施形態の第2テーパ面10b1と同様の機能を果たす。
【0043】
この流体軸受装置1では、スラスト軸受部は一箇所のみに設けられ、具体的には、ディスクハブ10の円盤部10aの下側端面10a1とハウジング9の上端面9aとの間にスラスト軸受部Tが設けられる。ハウジング9はコップ状に形成され、その内底面9fには、径方向溝9f1が設けられる。この径方向溝9f1と、軸受スリーブ8の外周面8dに設けられた軸方向溝8d1とで、軸部材2の下端面2cとハウジング9の内底面9fとの間の隙間と、ディスクハブ10の円盤部10aの下側端面10a1と軸受スリーブ8の上側端面8cとの間の隙間とを連通している。尚、図7に示す流体軸受装置1において、ディスクD、クランパ3、及びねじ7の図示は省略している。
【0044】
以上の実施形態では、ディスクハブ10が金属部をインサートした樹脂成形品である場合を示したが、これに限らず、ディスクハブ10全体を樹脂の射出成形で形成してもよい。この場合、廻り止め穴10a20はディスクハブ10を貫通しない深さに形成される。
【0045】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2、及びスラスト軸受部T1、T2(あるいはスラスト軸受部T、以下省略)として、へリングボーン形状やスパイラル形状の動圧溝により潤滑油の動圧作用を発生させる構成を例示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
例えば、ラジアル軸受部R1、R2として、図示は省略するが、軸方向の溝を円周方向の複数箇所に形成した、いわゆるステップ状の動圧発生部、あるいは、円周方向に複数の円弧面を配列し、対向する軸部材2の真円状外周面2aとの間に、くさび状の径方向隙間(軸受隙間)を形成した、いわゆる多円弧軸受を採用してもよい。
【0047】
あるいは、軸受スリーブ8の内周面8aを、動圧発生部としての動圧溝や円弧面等を設けない真円内周面とし、この内周面8aと対向する軸部材2の真円状外周面2aとで、いわゆる真円軸受を構成することができる。
【0048】
また、第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2の一方又は双方は、同じく図示は省略するが、動圧発生部が形成される領域(例えば軸受スリーブ8の下側端面8b、ハウジング9の上端面9a)に、複数の半径方向溝形状の動圧溝を円周方向所定間隔に設けた、いわゆるステップ軸受、あるいは波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等で構成することもできる。
【0049】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2が軸方向で離隔して設けられているが、これに限らず、これらを軸方向で連続的に設けても良い。あるいは、ラジアル軸受部R1、R2の何れか一方のみを設けても良い。
【0050】
また、以上の実施形態では、軸受スリーブ8の側にラジアル動圧発生部(動圧溝8a1、8a2)が、また、軸受スリーブ8やハウジング9の側にスラスト動圧発生部(動圧溝8b1、9a1)がそれぞれ形成される場合を説明したが、これら動圧発生部が形成される領域は、例えばこれらに対向する軸部材2の外周面2aやフランジ部2bの上側端面2b1、あるいはディスクハブ10の下側端面10a1の側に設けることもできる。
【0051】
また、以上の説明では、流体軸受装置1の内部に充満し、ラジアル軸受隙間や、スラスト軸受隙間に動圧作用を生じる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に動圧作用を発生可能な流体、例えば空気等の気体や、磁性流体、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
【0052】
また、上記の実施形態では、ディスクハブ10にディスクを載置し、流体軸受装置1をHDD等のディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータとして使用しているが、これに限られない。例えば、ディスクハブ10にポリゴンミラーを装着し、流体軸受装置1をレーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータの回転軸支持用に使用することもできる。あるいは、ディスクハブ10にカラーホイールを装着し、流体軸受装置1をプロジェクタのカラーホイールの回転軸支持用に使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】流体軸受装置1を組込んだスピンドルモータの断面図である。
【図2】流体軸受装置1の断面図である。
【図3】軸受スリーブ8の断面図である。
【図4】軸受スリーブ8の下面図である。
【図5】ハウジング9の上面図である。
【図6】ディスクハブ10の射出成形工程を示す断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態を示す流体軸受装置1の断面図である。
【図8】(a)は、従来のディスクハブの射出成形工程を示す断面図である。(b)はその拡大平面図である。
【符号の説明】
【0054】
1 流体軸受装置
2 軸部材
3 クランパ
7 ねじ
8 軸受スリーブ
9 ハウジング
10 ディスクハブ
10a 円盤部
10a20 廻り止め穴
10b 筒状部
10c 鍔部
10d ディスク搭載面
11 蓋部材
12 ヨーク
13 芯金
14 樹脂部
21 可動型
22 固定型
24 ゲート
25 キャビティ
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S シール空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と、軸部材に外径方向へ突出して設けられ、ディスク搭載面を有し、且つ樹脂で射出成形されたディスクハブとを備え、軸部材の外周面が面するラジアル軸受隙間の潤滑膜で軸部材を回転自在に支持する流体軸受装置において、
ディスクハブが、ディスクを固定するクランパ装着用の廻り止め穴を有し、この廻り止め穴が、樹脂成形部の射出ゲート跡を除去して形成されていることを特徴とする流体軸受装置。
【請求項2】
ディスクハブが、芯金をインサート部品とした樹脂の射出成形品である請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項3】
軸部材と、軸部材に外径方向へ突出して設けられ、ディスク搭載面を有し、且つ樹脂で射出成形されたディスクハブとを備え、軸部材の外周面が面するラジアル軸受隙間の潤滑膜で軸部材を回転自在に支持する流体軸受装置を製造するための方法であって、
ディスクハブに形成された射出ゲート跡の除去加工でディスクを固定するクランパ装着用の廻り止め穴を形成することを特徴とする流体軸受装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−130208(P2008−130208A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−317342(P2006−317342)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】