説明

流調弁装置

【課題】定差圧弁の絞り部が流路を大きく絞った状態の下でも正確な定差圧動作を行い得、流量調節を正確に行うことのできる流調弁装置を提供する。
【解決手段】流調弁18と、流調弁18における主弁20の1次側圧力Pと2次側圧力Pとの差圧を一定に保つ定差圧弁64とを有する流調弁装置15において、定差圧弁64における弁体66の絞り部94を径方向に張り出した形のフランジ部にて形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は流量調節を行う流調弁装置に関し、詳しくは定差圧弁を備えた流調弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、弁又はオリフィスを通過する水の流量を定差圧弁の作用で弁又はオリフィスの水の通過部の流路面積に対応した流量で一定に保つ流調弁装置が公知である。
例えば下記特許文献1にこの種流調弁装置が開示されている。
【0003】
図9はその具体例を示している。
図において200は流調弁装置における本体ボデーで、その内部の流路上に流調弁(流量調節弁)202における主弁204が設けられている。
206は、主弁204に対して上流側流路となる1次側流路で、この1次側流路206を通じて送られた水は主弁204を通過して、詳しくは主弁体212と主弁座214との間の隙間(この隙間は可変のオリフィスと考えることもできる)を通過して2次側流路208へと流れ、更に出側流路210を流れて外部に流出する。
【0004】
216は、流調弁202における電磁パイロット弁で、この電磁パイロット弁216は、プランジャ式のパイロット弁体218をパイロット弁座220に着座させ、パイロット流路222を閉鎖することで圧力室224の圧力を増大せしめ、そしてその圧力の増大によって主弁204を閉弁させる。
また一方、パイロット弁体218をパイロット弁座220から図中上向きに離間させることで、パイロット流路222を圧力室224に開放し、圧力室224の圧力を低下させて主弁204を開弁させる。
【0005】
本体ボデー200内部且つ2次側流路208には、1次側流路206の1次側圧力Pと2次側流路208の2次側圧力Pとの差圧ΔP=(P−P)を一定とする定差圧弁226が設けられている。
【0006】
228は、その主体をなすダイヤフラム式の弁体で円筒部230を有しており、その円筒部230において本体ボデー200の嵌合孔232内に上下に水密且つ摺動可能に嵌合されている。
弁体228の図中下側には1次圧室234が形成されており、そこに連通路236を通じて1次側流路206の1次側圧力Pが導入されている。
【0007】
弁体228は、その下面が1次側流路206の1次側圧力Pを図中上向きに受ける1次側受圧面238を成しており、また上面(円筒部230の上面を含む)が2次側流路208の2次側圧力Pを図中下向きに受ける2次側受圧面240を成している。
この弁体228に対しては、コイルばね242の付勢力が2次側圧力Pの作用方向と同じ方向に作用せしめられている。
【0008】
この定差圧弁226では、弁体228に対して図中上向きに加わる1次側圧力Pと、反対方向の図中下向きに加わる2次側圧力P及びコイルばね242の付勢力とをバランスさせるように弁体228が図中上下方向に移動する。
詳しくは、給水圧の変動等によって1次側流路206の1次側圧力Pが増大すると、定差圧弁226の弁体228がその増大した1次側圧力Pによって図中上向きに押し上げられる。
【0009】
すると円筒部230の上端にて形成される絞り部244がシート面246に接近して、それら絞り部244とシート面246とによる2次側流路208に対する絞りが大となり、2次側流路208の2次側圧力Pが増大する。
そして弁体228は、その移動により上昇した2次側圧力Pと1次側圧力Pとが釣合う位置で移動停止する。
【0010】
また逆に1次側圧力Pが低下すると、相対的に増大した2次側圧力Pにて弁体228が図中下向きに移動し、そして1次側圧力Pと2次側圧力Pとが釣合う位置で弁体228が停止する。
そのようにして弁体228は、1次側圧力Pと2次側圧力Pとの差圧ΔPを常に一定に保つように動作する。
【0011】
この流調弁装置においては、主弁204を通過する水の流量は主弁204の開度に応じて一定流量となる。
具体的には、主弁体212と主弁座214との間の隙間の流路面積をaとしたとき、主弁204を通過して流れる水の流量は次の式(1)で示す流量Qとなる。
【0012】
【数1】

但し式(1)中cは定数で、ΔPはPとPとの差圧,ρは水の比重である。
【0013】
式(1)に示すようにΔPは定差圧弁226によって一定に保たれるため、主弁204を通過して流れる水の流量Qは一定流量に保たれる。
また主弁204の開度が変化したときには変化した後の開度、即ち変化した後の上記の流路面積aに応じて流量が一定流量に保たれる。
【0014】
即ちこの流調弁装置では、主弁204の開度を変化させることで流路を流れる水の流量が調節されるが、調節された流量は1次側圧力Pの変動にも拘らず定差圧弁226の作用によって一定流量に保たれる。
【0015】
上記流調弁装置における定差圧弁226は、円筒部230の上端にて形成される絞り部244の図中上面、即ちシート面246に対向する上面に対して2次側圧力Pが作用した状態で本来の定差圧動作を行うことができる。
【0016】
ところが、図10に示しているように絞り部244がシート面246に接近し、流路を絞ったときには、絞り部244とシート面246との間を流れる水の流速が速くなるためにそこでの圧力降下によって、絞り部244の図中上面に対して2次側圧力Pよりも低い圧力Pが作用してしまう。即ち圧力Pの作用部位においては圧力差が(P−P)でなく(P−P)となってしまう。
【0017】
そうすると、絞り部244の上面に作用する圧力が本来の2次側圧力Pよりも(P−P)だけ弱くなってしまい、その結果弁体228が本来の正しい制御位置よりも図中上方に多く移動して2次側圧力Pを高めてしまい、差圧ΔP=(P−P)を小さくして水流量を本来の流量よりも少なくしてしまう。
即ち定差圧弁226の定差圧動作、特に1次側圧力Pが高いときほど(P−P)の差圧が大きくなって定差圧動作が不正確となり、ひいては流調弁装置における流調動作が不正確となってしまう。
【0018】
上記の例は開閉可能な弁に対する1次側圧力Pと2次側圧力Pとを定差圧弁で定差圧化する場合の例であるが、上記の弁に代えて流路面積が固定且つ一定のオリフィスを設けた場合においても事情は同様である。
【0019】
尚、本発明に対する先行技術として下記特許文献2に開示されたものがある。
但し特許文献2に開示のものでは本発明の課題を解決することはできず、特許文献2に開示のものは本発明とは別異のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2009−24780号公報
【特許文献2】特開2003−56443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は以上のような事情を背景とし、定差圧弁の絞り部が流路を大きく絞った状態の下でも正確な定差圧動作を行い得、従って流量調節を正確に行うことのできる流調弁装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
而して請求項1のものは、(イ)弁又はオリフィスと、(ロ)(a)嵌合孔内に摺動可能に嵌合され、該弁又はオリフィスに対する1次側流路の1次側圧力Pを一方の1次側受圧面で受け、2次側流路の2次側圧力Pを該1次側受圧面とは反対側の他方の2次側受圧面で受ける弁体、及び(b)該弁体に対して該2次側圧力Pの作用方向に付勢力を作用させるばねを有し、該弁体の移動により該弁体の先端側に備えた絞り部と、該絞り部を当接可能なシート面とで流路に対する絞りを変化させることで、前記1次側圧力Pと2次側圧力Pとの差圧を一定に保つ定差圧弁と、を有し、前記弁又はオリフィスを通過する水の流量を該定差圧弁の作用で該弁又はオリフィスの水の通過部の流路面積に対応した流量で一定に保つ流調弁装置において、前記絞り部を、前記嵌合孔に嵌合する外面の位置から前記シート面に沿って径方向外方に張り出した形のフランジ部にて形成してあることを特徴とする。
【0023】
請求項2のものは、請求項1において、前記弁体を、前記絞り部を含むリング状の先端部と、該弁体における本体部とに分割して、それら先端部と本体部とを軸方向に嵌合状態に組み付けてあることを特徴とする。
【0024】
請求項3のものは、請求項2において、前記先端部と本体部とを弾性体から成る環状の弾性リングを介して、該弾性リングを弾性圧縮する状態に嵌合してあることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0025】
以上のように本発明は、定差圧弁における弁体の絞り部を、嵌合孔内に嵌合する外面の位置からシート面に沿って径方向外方に張り出した形のフランジ部にて形成したものである。
【0026】
本発明によれば、絞り部を形成するフランジ部の上面即ちシート面と対向する側の面に加わる圧力と、フランジ部下面即ちシート面とは反対側に位置するフランジ部下面に対して上記とは逆向きに加わる圧力とを互いに相殺し、キャンセルすることができる。
【0027】
従って絞り部に加わる圧力が定差圧弁の動作に影響を及ぼしてしまうのを防ぐことができ、定差圧弁を正確に定差圧動作させることができる。従って流調弁装置における正確な流調動作を確保することができる。
【0028】
本発明においては、請求項2に従って弁体を絞り部を含むリング状の先端部と本体部とに分割して、それら先端部と本体部とを軸方向に嵌合状態に組み付けておくことができる。
【0029】
弁体の外面が先端に到るまで軸方向(嵌合孔の軸線の方向)にストレート形状をなしている場合には、弁体をその先端側から嵌合孔内に嵌め込み、組み付けることが可能であるが、本発明に従って弁体の絞り部即ちフランジ部を嵌合孔に嵌合する外面の位置よりも径方向外方に張り出した形で設けた場合、上記のようにして弁体を先端側から嵌合孔に嵌め込み、組み付けるといったことができなくなる。
この場合流調弁装置の本体ボデーを分割構造とすることによって、弁体を組付可能とすることも考えられるが、この場合には装置の部品点数が増加し、組付けのために手間が多くかかってしまう。
【0030】
しかるに請求項2に従って定差圧弁の弁体を、フランジ部にて形成される絞り部を含むリング状の先端部と、弁体における本体部とに分割しておけば、絞り部の下流側の流路を通じてリング状の先端部を嵌合孔に対峙する位置まで挿入しておき、その状態で弁体の本体部をその先端側から嵌合孔に嵌め込むことでリング状の先端部と本体部とを軸方向に容易に嵌合し、本体ボデーに対する弁体の組付けを行うことができる。
この場合、本体ボデーを弁体組付けのために分割する必要が無いので部品点数を少なく抑えることができ、コスト的にも有利である。
【0031】
上記のリング状の先端部と弁体における本体部とは、弾性体から成る環状の弾性リングを介して、弾性リングを弾性圧縮する状態に嵌合し、組み付けておくことができる(請求項3)。
【0032】
このようにしておけば、分割により別体構造となしたリング状の先端部と本体部との間を環状リングによってシールすることが可能であり、また弾性リングの弾性反発力に基づく大きな摩擦力に基づいてリング状の先端部と本体部とを抜け防止することが可能となる。
【0033】
この場合において先端部と本体部との一方の、他方に対する嵌合側の面に環状溝を設けてそこに弾性リングを嵌め込み、また他方の一方に対する嵌合側の面には、弾性リングに対して抜け方向に係合する係合部を設けておくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態の流調弁装置を自動水栓に適用した場合の図である。
【図2】図1の流量弁装置における定差圧弁の要部を拡大して示した図である。
【図3】本発明の他の実施形態の要部の図である。
【図4】同実施形態の要部を分解して示した図である。
【図5】本発明の更に他の実施形態の図である。
【図6】本発明の更に他の実施形態の図である。
【図7】同実施形態の動作の説明図である。
【図8】同実施形態の流調弁装置を便器の洗浄バルブに適用した場合の図である。
【図9】従来の流調弁装置を示す図である。
【図10】従来の流調弁装置の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は自動水栓の吐水部で、12は吐水部10に備えられた吐水口である。
14は吐水部10に向けて給水を行うための流路で、この流路14上に本実施形態の流調弁装置15が設けられている。
【0036】
16は流調弁装置15における本体ボデーで、内部流路上に流調弁(流量調節弁)18における主弁20が設けられている。
主弁20は、硬質樹脂からなる保持部材22と、この保持部材22にて保持されたゴム製のダイヤフラム膜26とからなるダイヤフラム式の主弁体26、及びこれを着座させる主弁座28を有している。
ここで主弁座28は、図中上向きに起立する円筒部30の上端部にて構成されている。
【0037】
32は、主弁20に対して上流側流路となる1次側流路で、この1次側流路32を通じて送られた水は主弁20を通過して、詳しくは主弁体26と主弁座28との間の隙間S(この隙間Sは可変のオリフィスと考えることもできる)を通過して、円筒部30の内側の流路及びこれに続く流路からなる2次側流路34へと流れ、更に出側流路36を通じて上記の吐水部10へと供給される。
【0038】
38は、主弁体26の背後に形成された圧力室で、この圧力室38は内部の圧力を主弁体26に対し閉弁方向の押圧力として作用させる。
主弁体26には、これを貫通して1次側流路32と圧力室38とを連通させる導入小孔40が設けられている。
この導入小孔40は、1次側流路32の水を圧力室38へと導き入れて圧力室38の圧力を増大させる。
【0039】
本体ボデー16には、この圧力室38と主弁20の下流側、ここでは後述の2次圧室80とを連通させる水抜き流路としてのパイロット流路42が設けられている。
ここでパイロット流路42は、圧力室38内の水を下流側に抜いて圧力室38の圧力を低下させる。
【0040】
このパイロット流路42上には、主弁20とともに流調弁18を構成するパイロット弁(電磁パイロット弁)44が設けられている。
このパイロット弁44は、プランジャ式のパイロット弁体46と、これを着座させるパイロット弁座47,通電により電磁力を発生させてパイロット弁体46を開弁させる電磁コイル48,パイロット弁体46を図中下向きに付勢してこれを閉弁状態に保持するばね50を有している。
【0041】
このパイロット弁44は、パイロット弁体46の先端部のゴムシール部52をパイロット弁座47に着座させることで、パイロット流路42を連通遮断し、またパイロット弁体46をパイロット弁座47から図中上向きに離間させることで、パイロット流路42を連通状態とする。
【0042】
本実施形態において、流調弁18は上記のようにパイロット弁44を閉弁させることでパイロット流路42を遮断する。
すると主弁体26を貫通する導入小孔40を通じて圧力室38に導かれる水により圧力室38の圧力が上昇し、主弁体26に対する閉弁方向の押圧力を高める。ここにおいて主弁体26が主弁座28に着座して閉弁状態となる。
【0043】
一方パイロット弁体46を開弁させると、パイロット流路42が連通状態となることによって、圧力室38内の水がパイロット流路42を通じて下流側に抜かれ、ここにおいて圧力室38の圧力が低下して、主弁体26が1次側流路32の給水の圧力によって図中上向きに押し上げられ開弁する。
ここにおいて1次側流路32の水が主弁20を通過して下流側へと流れ、吐水部10へと供給される。
【0044】
尚、上記吐水部10には差し出された手を感知する(人体感知する)センサ54が設けられており、このセンサ54及び上記のパイロット弁44の電磁コイル48が、コントローラ56に電気的に接続されている。
そしてセンサ54が人体感知すると、コントローラ56の制御の下にパイロット弁44が開弁させられる。即ちこのパイロット弁44とともに流調弁18を構成している主弁20が開弁させられる。
また一方センサ54が人体非感知状態となると、パイロット弁44が閉弁させられ、ここにおいて主弁20が閉弁させられて、吐水部10への給水が停止される。即ち吐水口12からの吐水が停止される。
【0045】
本体ボデー16には、主弁20における主弁体26の開弁時の開度を調節することによって、通水流量を調節する流量調節軸(流量調節部材)58が設けられている。
流量調節軸58は、本体ボデー16に設けられた挿入孔59内に挿入され、そして雄ねじ軸部60において本体ボデー16の雌ねじ部に、図中上下方向即ち軸方向に進退移動可能に螺合されている。
【0046】
この流量調節軸58は、本体ボデー16から図中上向きに突き出した部分の上面に工具係合用の係合溝61が設けられている。流量調節軸58は、この係合溝61に工具を係合させ回転させることでねじ込み量が調節され、その下端の位置を上下に変化させる。
【0047】
この実施形態では、主弁体26の開弁時における開弁位置、即ち上昇位置が、流量調節軸58の上下位置によって決定される。即ち主弁体26は、開弁時の上昇位置が流量調節軸58の上下方向の進退移動に追従して決定される。
【0048】
この実施形態では、流量調節軸58を一定の位置に維持した状態でパイロット弁44をオン・オフさせると、主弁体26がこれに応じてオン・オフ動作する。このときの主弁体26の開度は主弁体26が、詳しくは中央部に設けた突出部62が流量調節軸58の下端に当ることによって決定される。即ち流量調節軸58の位置によって決定される。従って流量調節軸58の位置が上方にあれば主弁体26の開度が大となって、主弁20を通過して流れる水の流量が大となる。
一方流量調節軸58の位置が下方にあると、主弁体26の開度が小となって、主弁20を通過する水の流量が小となる。
従ってこの実施形態では、流量調節軸58の位置を上下に調節することで、主弁20の開弁時における水の流量を変化させることができる。
【0049】
本体ボデー16内部且つ上記の2次側流路34には、1次側流路32の1次側圧力Pと2次側流路34の2次側圧力Pとの差圧ΔP=P−Pを一定とする定差圧弁64が設けられている。
【0050】
66は、その主体をなすダイヤフラム式の弁体で、ゴム製のダイヤフラム膜68と、これを保持する硬質の樹脂製の保持部材70とを有している。
弁体66は、図中上部に円筒部72を有しており、その円筒部72において本体ボデー16の円形の嵌合孔74内に図中上下方向に摺動可能に嵌合されている。
【0051】
弁体66の図中下側には1次圧室76が形成されており、そこに連通路78を通じて1次側流路32の1次側圧力Pが導入されている。
弁体66は、図中下面がその1次側圧力Pを図中上向きに受ける1次側受圧面79を成している。
【0052】
80は、弁体66周りに形成された2次圧室で、この2次圧室80に、円筒部72内の軸方向通路82及び嵌合孔74の下側の径方向通路84を通じて2次側圧力Pが導入されている。
弁体66は、円筒部72を含む上面の全体が2次側圧力Pを図中下向きに受ける2次側受圧面86を成している(但し後述のフランジ部にて形成される絞り部94を除く)。
【0053】
2次圧室80にはコイルばね88が収容されており、弁体66に対してこのコイルばね88の付勢力が図中下向き、即ち2次側圧力Pの作用方向と同じ方向に及ぼされている。
尚、コイルばね88は図中下端が弁体66に当接され、また上端が2次圧室80内において本体ボデー16に図中上向きに当接せしめられている。
【0054】
弁体66は、円筒部72とこれよりも大径をなす下側の大径部90との間に環状の溝を有しており、そこにドーナツ環状のゴム膜(弾性を有する他の材質から成る膜であっても良い)92が軸方向、即ち図中上下方向に微小ストローク相対移動可能に嵌装されている。
このゴム膜92は、2次圧室80と上記の出側流路36側の圧力との差圧によって図中上向きに押し付けられ、円筒部72と嵌合孔74との間の隙間を通じて2次圧室80の圧力が漏れるのを防ぐ働きをなしている。
【0055】
弁体66は、先端側(図中上端側)に絞り部94を有しており、この絞り部94と、本体ボデー16側のシート面96(このシート面96は絞り部94を当接可能な面である)との間で流路の流れを絞る作用をなし、その作用に基づいて1次側圧力Pと2次側圧力Pとの差圧ΔP=P−Pを一定に保持する働きをなす。
【0056】
詳しくは、給水圧の変動等によって1次側流路32の1次側圧力Pが増大すると、定差圧弁64の弁体66がその増大した1次側圧力Pによって図中上向きに押し上げられる。
すると絞り部94とシート面96とによる2次側流路34に対する絞りが大となって、2次側流路34の2次側圧力Pが増大する。そして弁体66はその移動により上昇した2次側圧力Pと1次側圧力Pとが釣合う位置で移動停止する。
【0057】
また逆に1次側圧力Pが低下すると、相対的に増大した2次側圧力Pにて弁体66が図中下向きに移動し、そして1次側圧力Pと2次側圧力Pとが釣合う位置で弁体66が停止する。
そのようにして弁体66は、1次側圧力Pと2次側圧力Pとの差圧ΔPを常に一定に保つように動作する。
従って上記式(1)から導かれるように、主弁20を通過する水の流量は主弁20の開度に応じて一定流量となる。
従ってこの実施形態では、吐水部10のセンサ54前方に手を差し出して吐水口12から吐水させたとき、主弁20の開度に応じた一定流量で吐水口12から吐水させることができる。
【0058】
図2に、上記絞り部94及び周辺の構成が詳しく示してある。
図に示しているようにこの実施形態では、弁体66の先端側に、弁体66における嵌合孔74に嵌合する外面98からシート面96に沿って、シート面96と平行に径方向外方に張り出すフランジ部が一体に設けられており、そのフランジ部によって絞り部94が形成されている。
具体的には、弁体66とシート面96との間の間隔はフランジ部から成る絞り部94の部分において最も狭く、流路の絞りの大小はこの絞り部94とシート面96との間の間隔によって定まる。
【0059】
尚、弁体66における先端面(図中上端面)の、絞り部94よりも径方向内側の部分は、絞り部94から図中左向きに即ち弁体66の軸心に向って離れるにつれ、シート面96から離間するテーパ面100をなしており、弁体66先端面における絞り部94よりも径方向内側の部分は図中下向きに凹んだ凹形状をなしている。
【0060】
従って絞り部94をシート面96の直近に位置させた状態で弁体66が流路の流れを大きく絞ったとき、圧力低下は絞り部94の部分で生じ、弁体66の先端面且つ外面98よりも内側の部分には2次側圧力Pが図中下向きに作用する。
【0061】
一方、絞り部94の上面に対しては2次側圧力Pよりも低い圧力Pが図中下向きに作用するが、このフランジ部から成る絞り部94の図中下面に対しては同じ圧力Pが上向きに作用し、それらの圧力が互いに相殺され、キャンセルされる。
従って弁体66の先端面に対しては2次側圧力Pだけが下向きに作用し、圧力Pの作用は排除される。
【0062】
本実施形態においては、絞り部94に加わる圧力が定差圧弁64の動作に影響を及ぼすことを防ぐことができ、定差圧弁64を正確に定差圧動作させることができる。従って流調弁装置15における正確な流調動作を確保することができる。
【0063】
尚上記のようにして弁体66に径方向外向きに張り出したフランジ部を設けて、そのフランジ部にて絞り部94を形成するようになした場合、絞り部94を弁体66に一体に構成しておくと、弁体66を図1において嵌合孔74に対し先端側から上向きに嵌め込んで組み付けるといったことができなくなる。
【0064】
この場合、絞り部94を含むリング状の先端部を、弁体66における本体部から分割して、それらをねじ結合するといったことも考えられるが、その場合リング状の先端部と本体部とをねじ結合する作業に困難を伴う。
【0065】
図3及び図4は、この問題を解決する一手段を示したもので、ここでは絞り部94を含むリング状の先端部102と、弁体66における本体部104とを分割し、そしてそれら先端部102と本体部104とを、ゴム等の弾性体から成る環状の弾性リング(ここではOリング)106を介して、弾性リング106を弾性圧縮する状態に嵌合して、それらを組み付けるようになしている。
尚、リング状をなす先端部102は高さ寸法(軸方向寸法)が、出側流路36の図中右側の図示を省略する開口を通じて嵌合孔74の図中上側(奥側)の位置まで挿入可能な寸法となしてある。
【0066】
ここで本体部104には、全周に亘って円環状の環状溝108が設けられており、そこに弾性リング106が嵌込状態に保持されるようになっている。
また一方、リング状をなす先端部102には、この弾性リング106に対して抜け方向に係合する係合部110が径方向内方に突出状態に設けてある。
【0067】
尚この係合部110には、係合部110が弾性リング106を乗り越えてその下側位置まで容易に移動できるようにテーパ面をなすガイド面112が設けてある。
ここで係合部110の上面は、図中下方に漸次小径化するテーパ面111とされている。
一方、環状溝108の側には段付部114が設けられ、その段付部114の下面が図中下方に漸次小径化するテーパ面115とされている。
【0068】
この例によれば、リング状をなす先端部102を、出側流路36を通じて本体ボデー16内部、詳しくは図3(B)に示しているように嵌合孔74の図中上側位置に挿入し、また弁体66における本体部104の環状溝108に弾性リング106を保持させた状態で、本体部104を本体ボデー16の嵌合孔74に図中下側から上向きに嵌め込むことで、本体部104と先端部102とを弾性リング106を介して嵌合状態に組み付けることができ、同時に弁体66を本体ボデー16に対して組み付けることが可能となる。
【0069】
このとき、互いに嵌合状態となった本体部104とリング状の先端部102とは、弾性リング106を径方向に弾性圧縮し、その弾性反力に基づく大きな摩擦力によって抜け防止される。
加えて先端部102の側には、弾性リング106に対して抜け方向に係合する係合部110が設けてあるため、物理的な係合力によって本体部104からの先端部102の抜けがより確実に防止される。
【0070】
また本体部104のテーパ面115と先端部102のテーパ面111とで、弾性リング106を弾性圧縮状態に挟み込むことで、先端部102に対してこれを図中下向き、即ち本体部104の支持面117に押え付ける向きの力、つまり抜け方向とは反対向きの力が加えられる。
【0071】
この図3及び図4の実施形態によれば、互いに分割した先端部102と本体部104とを簡単に組み付けることができ、更に弁体66における本体部104を本体ボデー16側に簡単に組み付けることができる。
【0072】
また弁体66の組付用に、本体ボデー16を複数の部品に分割する必要もないので、本体ボデー16を構成する部品点数が多くなり、また組付けに多くの手間を要するといった不都合を回避でき、更にコスト的にも安価となすことができる。
更に、互いに分割したリング状の先端部102と本体部104との間を、弾性リング106にてシールすることができる利点が得られる。
【0073】
本発明では、上記流調弁18に代えて、図5に示すように流路面積が固定且つ一定のオリフィス116を設けて、流調弁装置15を構成するといったことも可能である。
尚図5において、他の部分は上記実施形態と基本的に同様である。
【0074】
図6及び図7は本発明の更に他の実施形態を示している。
この実施形態では、図7に示しているように主弁体26の中心部において、これを軸方向(図中上下方向)に貫通する貫通孔が設けられ、その貫通孔の内面と、そこに挿入された駆動軸118の外面との間にパイロット流路42が形成されている。
【0075】
駆動軸118には、パイロット弁体120が一体に構成され、また主弁体26の側には、貫通孔周りに円環状をなすパイロット弁座122が構成され、そのパイロット弁座122にシール部材124が保持されている。
【0076】
図7(A)は、パイロット弁体120がパイロット弁座122のシール部材124に水密に弾性嵌合してパイロット流路42を閉鎖し、主弁体26を主弁座28に対して着座させた状態、即ち主弁体26を閉弁させた状態を示している。
【0077】
この状態からパイロット弁体120が駆動軸118とともに図中上向きに引き上げられ、パイロット弁体120とシール部材124との間に隙間を生じると(図7(B)の状態)、ここにおいてパイロット流路42が圧力室38に連通した状態となって、圧力室38内の水がパイロット流路42を通じて2次側流路34へと流出する。
すると圧力室38の圧力が低下し、主弁体26が1次側流路32の1次側圧力Pによって図中上向きに押し上げられる。
【0078】
主弁体26が上向きに押し上げられ、パイロット弁体120とパイロット弁座122のシール部材124との間の間隙が小さくなると、圧力室38からパイロット流路42を通じて流出する水の流量が少なくなる。
その結果圧力室38の圧力が増加し、そして圧力増加した圧力室38の圧力と、1次側圧力P及び2次側圧力Pとの圧力が釣合ったところで、主弁体26の移動が停止する。
図7(C)はこのときの状態を表している。
図7(C)に示す状態では、主弁体26は主弁座28から上向きに離間して開弁状態となり、ここにおいて1次側流路32から2次側流路34へと水が流通する。
尚このとき、パイロット弁体120とパイロット弁座122のシール部材124との間には一定の微小な間隙(追従間隙)が保持される。
【0079】
以後、主弁体26はこの一定の追従間隙を維持しつつ、パイロット弁体120の図中上向きの移動に追従して同方向に移動し、主弁座28との間の間隔を大きくする。即ち弁開度を大きくする。
これに伴って1次側流路32から2次側流路34への水の流量が増大する。
【0080】
一方、上記とは逆にパイロット弁体120が図中下向きに移動すると、上記の微小な一定の追従間隙を維持しながら、主弁体26がパイロット弁体120の移動に追従して閉弁方向に移動し、主弁20を通過する水の流量を減少させて行く。
【0081】
そして最終的に図7(A)に示すようにパイロット弁体120がパイロット弁座122のシール部材124に弾性嵌合し、パイロット弁126が閉弁すると、ここにおいて主弁20も閉弁状態となり、1次側流路32と2次側流路34とを遮断して、1次側流路32から2次側流路34への水の流れを停止させる。
【0082】
図6において、130は駆動源となる電動モータ(ここではステッピングモータ)128の駆動力を上記の駆動軸118、即ちパイロット弁体120に伝達して、これを図中上下方向に移動させる駆動機構で、この駆動機構130は、電動モータ128の出力軸131と一体に回転する円筒状の回転体132を有している。
【0083】
回転体132は、内周面に雌ねじ部134を有しており、この雌ねじ部134に対して、進退部材136の外周面の雄ねじ部138が螺合されている。
ここで進退部材136は、コイルばね140によって図中上向きに付勢されている。
進退部材136には、上記の駆動軸118の上端部がねじ結合され、駆動軸118が進退部材136と一体に図中上下方向に移動するようになっている。
【0084】
この実施形態では、電動モータ128により回転体132を回転させると、進退部材136がねじ送りで図中上下方向に進退移動し、そしてこれとともに駆動軸118、つまりパイロット弁体120が図中上下方向に進退移動する。
そしてこのパイロット弁体120の進退移動に伴って、主弁体26がこれに追従して図中上下方向に進退移動し、弁開度を増減変更させて、主弁体26と主弁座28との間の隙間Sを大きく又は小さく変化させ、流路を流れる水の流量の調節を行う。
尚これら図6及び図7に示す実施形態において、他の部分については基本的に上記実施形態の構成と同様である。
【0085】
この実施形態の流調弁装置15は、電動モータ128によって主弁20の弁開度を連続的に且つ微妙に調整可能であり、尚且つ1次側圧力Pに拘らず、主弁20の弁開度に応じた流量で水の流量を調整し且つ定差圧弁の働きでその流量を一定に保つことができる。
従ってこの実施形態の流調弁装置15は、例えば図8に示す便器の洗浄バルブとして好適に適用可能である。
【0086】
例えば便器のリムに洗浄水を供給して便器をリム洗浄するリム洗浄バルブ142として、或いはジェットノズルから洗浄水を排水トラップに向けてジェット噴射し、便器洗浄するジェット洗浄バルブ144として好適に適用可能である。
この場合、給水圧の変動に拘らず或いは給水圧の低い設置現場においても、設定した流量で安定して洗浄水を流すことができ、且つその洗浄水の水量を、電動モータ128による主弁体26の移動によってきめ細かく変化させ、水量調節することができる。
【0087】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明の流調弁装置は上記の自動水栓以外の他の種々の給水設備における流調弁装置として適用することが可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0088】
15 流調弁装置
18 流調弁(流量調節弁)
32 1次側流路
34 2次側流路
50 ばね
64 定差圧弁
66 弁体
74 嵌合孔
79 1次側受圧面
86 2次側受圧面
94 絞り部
96 シート面
98 外面
102 先端部
104 本体部
106 弾性リング
108 環状溝
110 係合部
116 オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)弁又はオリフィスと、(ロ)(a)嵌合孔内に摺動可能に嵌合され、該弁又はオリフィスに対する1次側流路の1次側圧力Pを一方の1次側受圧面で受け、2次側流路の2次側圧力Pを該1次側受圧面とは反対側の他方の2次側受圧面で受ける弁体、及び(b)該弁体に対して該2次側圧力Pの作用方向に付勢力を作用させるばねを有し、該弁体の移動により該弁体の先端側に備えた絞り部と、該絞り部を当接可能なシート面とで流路に対する絞りを変化させることで、前記1次側圧力Pと2次側圧力Pとの差圧を一定に保つ定差圧弁と、を有し、前記弁又はオリフィスを通過する水の流量を該定差圧弁の作用で該弁又はオリフィスの水の通過部の流路面積に対応した流量で一定に保つ流調弁装置において、
前記絞り部を、前記嵌合孔に嵌合する外面の位置から前記シート面に沿って径方向外方に張り出した形のフランジ部にて形成してあることを特徴とする流調弁装置。
【請求項2】
請求項1において、前記弁体を、前記絞り部を含むリング状の先端部と、該弁体における本体部とに分割して、それら先端部と本体部とを軸方向に嵌合状態に組み付けてあることを特徴とする流調弁装置。
【請求項3】
請求項2において、前記先端部と本体部とを弾性体から成る環状の弾性リングを介して、該弾性リングを弾性圧縮する状態に嵌合してあることを特徴とする流調弁装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−37012(P2012−37012A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179854(P2010−179854)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】