説明

流路構造体およびその製造方法

【課題】微細な流路を詰まりにくくした流路構造体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】この流路構造体1は、上面(第1の接合面)2aに流路用溝20を有する流路基板(第1の板状部材)2と、上面2aに接合された下面(第2の接合面)3aを有する蓋基板(第2の板状部材)3とを備え、流路用溝20の開放側が蓋基板3で閉塞されることにより流路21が形成され、流路21の壁面に複数の親水性微粒子4を層状に担持している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流路直径0.5mm以下の微小流路(マイクロチャンネルともいう。)内は、層流となるため、混合、合成、分離等の反応を効率的に行えるというメリットがあることから、近年、微小流路を用いて液体を混合させるマイクロミキサー、2種類の液体を合成させるマイクロリアクタ等の微小流路構造体が注目されている。
【0003】
しかし、長期の使用においては、供給した流体の成分やその反応生成物が流路壁面に付着堆積して新たな反応の阻害要因となり、また既に付着堆積していたものが剥離や再溶解して不純物となる等の悪影響を及ぼす場合も発生する。また、側壁に意図しない材料、副生成物や残留物の付着が流路を詰まらせる場合もある。
【0004】
これらの問題点を光触媒の強い酸化作用に基づいて、防汚作用、防曇作用、抗菌作用、減菌作用、浄化作用等を発揮させ、流路壁面に易洗浄性を付与したマイクロチャンネルチップが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このマイクロチャンネルチップは、シリコンウェハからなる基板の主面に溝による流路用溝を形成し、基板の主面側に光触媒活性を有する二酸化チタンからなる光触媒膜を成膜し、研磨によって流路用溝以外の光触媒膜を除去し、シリコンウェハの流路側の面に硼酸ガラス板を静電接合(温度480℃)によって接合したものである。
【特許文献1】特開2004−202336
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、微細な流路を詰まりにくくした流路構造体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するため、以下の流路構造体およびその製造方法を提供する。
【0008】
[1]流路を有する部材と、前記流路の壁面に層状に担持され、親水性化が可能な材料から形成された複数の微粒子とを備えた流路構造体。
【0009】
[2]前記微粒子は、光触媒である前記[1]に記載の流路構造体。
【0010】
[3]前記光触媒は、TiO、ZnO、あるいはSrTiOのいずれか1種を含む材料から形成された前記[2]に記載の流路構造体。
【0011】
[4]前記光触媒は、光照射によって親水性化される材料から形成された前記[2]に記載の流路構造体。
【0012】
[5]前記部材は、清浄化された第1の接合面と前記第1の接合面に形成された流路用溝とを有する第1の板状部材と、清浄化された第2の接合面を有し、前記第1の板状部材の前記第1の接合面と前記第2の接合面とを直接接触させて接合された第2の板状部材とを備えた前記[1]に記載の流路構造体。
【0013】
[6]流路を有する部材を準備し、光触媒微粒子を溶媒中に分散させた光触媒微粒子分散溶液を前記流路中に流通させた後、前記部材を加熱して前記光触媒微粒子を前記流路の壁面に層状に担持させる流路構造体の製造方法。
【0014】
[7]前記光触媒微粒子を前記流路の壁面に担持させた後、光を照射して前記光触媒微粒子を親水性化させる前記[6]に記載の流路構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る流路構造体によれば、微細な流路を詰まりにくくすることができる。
【0016】
請求項2に係る流路構造体によれば、本構成を採用しない場合と比べて、光触媒を簡単に親水性化させることができる。
【0017】
請求項3に係る流路構造体によれば、他の材料と比べて光触媒の材料の入手が容易となる。
【0018】
請求項4に係る流路構造体によれば、本構成を採用しない場合と比べて、光触媒を簡単に親水性化させることができる。
【0019】
請求項5に係る流路構造体によれば、本構成を採用しない場合と比べて、部材及び流路の変形を抑制することができる。
【0020】
請求項6に係る流路構造体の製造方法によれば、微細な流路を詰まりにくくすることができる。
【0021】
請求項7に係る流路構造体の製造方法によれば、本構成を採用しない場合と比べて、光触媒微粒子を簡単に親水性化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る流路構造体の分解斜視図及び斜視図、図2は、図1のA−A断面図、図3は、図1のB−B断面図である。
【0023】
この流路構造体1は、上面(第1の接合面)2aに流路用溝20を有する流路基板(第1の板状部材)2と、流路基板の上面2aに下面(第2の接合面)3aが接合された蓋基板(第2の板状部材)3とを備え、流路用溝20の開放側が蓋基板3で閉塞されることにより流路21が形成されている。
【0024】
また、流路構造体1は、流路21の壁面を構成する流路用溝20の側面20a,20bおよび底面20cと流路用溝20に対応する蓋基板3の壁面構成面3bに複数の親水性微粒子4を層状に担持している。
【0025】
蓋基板3は、流体として液体が導入される導入口30と、液体が排出される排出口31が形成されている。導入口30は、流路基板2に形成された流路用溝20の一方の端部に対応する位置に形成され、排出口31は、流路基板2に形成された流路用溝20の他方の端部に対応する位置に形成されている。
【0026】
流路基板2および蓋基板3の材料として、Al,Ni、Cu等の金属や、セラミックス、シリコン、誘電体、ガラス等の非金属等を用いることができる。流路基板2および蓋基板3は、同じ材料からなる基板の他に、異なる材料からなる基板を用いてもよい。本実施の形態では、流路基板2および蓋基板3は、ともにガラス基板を用いる。
【0027】
流路20の幅及び高さのサイズは、500μm以下のマイクロチャンネルである。
【0028】
親水性微粒子4は、親水性化が可能な材料から形成されたものであり、当初から親水性を有するものでもよく、光照射によって親水性化されるものでもよい。このような親水性微粒子4として、例えば、フッ素系樹脂からなる微粒子や、TiO、ZnO、あるいはSrTiOのいずれか1種を含む材料から形成された光触媒を用いることができる。本実施の形態では、TiOからなる微粒子を用いる。ここで「親水性」とは、物質の表面が水をはじかず、なじんだ状態になりやすい性質をいう。
【0029】
(製造方法)
次に、本実施の形態に係る流路構造体の製造方法の一例を説明する。まず、流路基板2となるガラス基板の表面に、半導体製造方法に用いるフォトリソグラフィー法を用いて流路パターンを形成してエッチングを行い、幅200μm、深さ200μmの流路用溝20を形成し、流路基板2を作製する。エッチングには、化学薬品を用いて被加工物を溶かし込むウエットエッチングや、イオンを利用して被加工物を気化して取り除くドライエッチング等を用いることができる。本実施の形態では、フッ化水素酸でエッチングを行うウエットエッチングを用いる。
【0030】
一方、蓋基板3となるガラス基板にエッチング、レーザ加工等により導入口30及び排出口31を形成して蓋基板3を作製する。
【0031】
流路基板2および蓋基板3を対向させて常温接合により接合する。すなわち、流路基板2および蓋基板3を真空槽内に配置し、真空槽内を排気して高真空状態または超真空状態にする。本実施の形態では、真空度1×10−4Paの高真空状態とする。次に、流路基板2および蓋基板3の接合面2a,3aに1.2kV/10mAでAr原子ビームを照射して表面を清浄化し、荷重を加えて流路基板2と蓋基板3を接合する。
【0032】
ここで「常温接合」とは、清浄化した接合面同士を常温(例えば、15〜25℃)雰囲気中で直接接触させ、原子同士を直接結合させる接合方法をいい、表面活性化接合ともいう。接合の際は、無荷重でもよい。なお、常温接合の他に、清浄化された接合面同士を、例えば、100℃以下で加熱して接合してもよい。
【0033】
次に、親水性微粒子4としてTiOからなる微粒子を溶媒に分散させたTiO微粒子分散溶液を導入口30から流路21内に流し、排出口31から排出した後、流路構造体1を加熱し、TiO微粒子を焼成して親水性微粒子4を流路21の壁面に担持させる。
【0034】
次に、流路基板2又は蓋基板3を介して流路21に担持されている親水性微粒子4に紫外線を照射して親水性微粒子4を親水性化させる。これにより、後述する保水性を発揮することができる。また、親水性微粒子4に紫外線を照射すると、光触媒機能を発揮するようになる。TiOは、n型半導体であるため、そのバンドギャップに相当する波長380nm以下の波長の紫外線が照射されると、正孔が生成されて表面に移動する。正孔は強い酸化力を持つので表面に吸着されている有機物が酸化分解される。
【0035】
図4(a)は、流体の流れる様子を示す断面図、図4(b)は、流速分布を示す図である。
【0036】
導入口30から流体5を導入して流路21に流通させると、流体5の一部は親水性微粒子4間に入り込み、親水性微粒子4間に保水され、リブレット効果を発揮する。このリブレット効果により、親水性微粒子4が保水された保水部5aの表面付近における流速が、図3(b)に示すように、速くなり、流体5に含まれていた不純物6が保水部5aに付着しにくくなる。
【0037】
これに対し、流路21の壁面に何も担持させていない図3(b)に示す比較例1の場合は、図3(b)のCで示す壁面(20a,20b,20c,3b)付近における流速が遅いため、不純物6が壁面に付着しやすくなり、流路21がつまるおそれがある。また、流路21の壁面に親水性の無い微粒子を担持させた図3(b)に示す比較例2の場合は、親水性の無い微粒子の表面付近における流速が遅くなり、やはり不純物6が微粒子の表面に付着しやくなる。
【実施例1】
【0038】
次に、本発明の実施例1について説明する。流路21は、深さ及び幅ともに200μmとし、長さを30mmとした。親水性粒子4として、流路21の内壁に直径10nm〜30nmの酸化チタン微粒子を付着した。
【0039】
(製造方法)
2つのSiO基板を準備する。一方の基板に流路用溝20を形成して流路基板2を作製する。他方の基板に導入口30と排出口31を形成して蓋基板3を形成する。
【0040】
次に、流路基板2と蓋基板3とを真空度1×10−4Paの真空槽に配置し、流路基板2の接合面2aと蓋基板3の接合面3aに1.2kV/10mAでAr原子ビームを照射し、常温接合により流路基板2と蓋基板3とを接合した。
【0041】
次に、エタノールの溶媒に親水性微粒子4としてTiO微粒子を分散させたTiO微粒子分散溶液を流速1ml/minで流通させた後、窒素および酸素の混合気体を流路21に流通させながら450℃焼成して、流路21の側壁にTiO微粒子を担持させる。ここで用いるTiO微粒子分散溶液は、チタンイソプロポキシド7g、エタノール20ml、水0.4g、硝酸0.55gを窒素中、室温で混合し、2時間窒素中で放置した後、ポリアクリル酸2.5gを加えて加水分解したものにTiO微粒子P−25(日本アエロジル社製)を加え、48時間撹拌して調製したものをエタノールで10倍に希釈したものである。
【0042】
次に、流路21に流速2ml/minで水10分間を流通させる。流通中にキセノンランプでTiOが付着した流路21の部分に光を照射する。
【0043】
その後、続けて直径2μmのポリスチレン微粒子を水に分散された分散液を流路21に流速17ml/minで流通させたところ、作製した分散液500mlをすべてを詰まることなく30分で流すことができた。
【0044】
(比較例1)
本実施例1と同様に流路基板と蓋基板とを作製し、両者を温度600℃の下で陽極接合して貼り合せた。流路にスチレン微粒子分散液を流すと側壁の応力により発生する流速分布によって時間につれてスチレン微粒子は側壁に付着していき、500mlの分散液に対して100ml流し終えた時点で詰まった。
【0045】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、その発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々と変形実施が可能である。
【0046】
上記実施の形態では、流体として液体を用いた場合について説明したが、気体でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る流路構造体の斜視図である。
【図2】図2は、図1のA−A断面図である。
【図3】図3は、図1のB−B断面図である。
【図4】図4(a)は、流体の流れる様子を示す断面図、図4(b)は、流速分布を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1 流路構造体、2 流路基板、2a 上面、3 蓋基板、3a 下面、
3b 壁面構成面、4 親水性微粒子、5 流体、5a 保水部、6 不純物、
20 流路用溝、20a,20b 側面、20c 底面、21 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を有する部材と、
前記流路の壁面に層状に担持され、親水性化が可能な材料から形成された複数の微粒子とを備えた流路構造体。
【請求項2】
前記微粒子は、光触媒である請求項1に記載の流路構造体。
【請求項3】
前記光触媒は、TiO、ZnO、あるいはSrTiOのいずれか1種を含む材料から形成された請求項2に記載の流路構造体。
【請求項4】
前記光触媒は、光照射によって親水性化される材料から形成された請求項2に記載の流路構造体。
【請求項5】
前記部材は、清浄化された第1の接合面と前記第1の接合面に形成された流路用溝とを有する第1の板状部材と、清浄化された第2の接合面を有し、前記第1の板状部材の前記第1の接合面と前記第2の接合面とを直接接触させて接合された第2の板状部材とを備えた請求項1に記載の流路構造体。
【請求項6】
流路を有する部材を準備し、
光触媒微粒子を溶媒中に分散させた光触媒微粒子分散溶液を前記流路中に流通させた後、前記部材を加熱して前記光触媒微粒子を前記流路の壁面に層状に担持させる流路構造体の製造方法。
【請求項7】
前記光触媒微粒子を前記流路の壁面に担持させた後、光を照射して前記光触媒微粒子を親水性化させる請求項6に記載の流路構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−136819(P2009−136819A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318073(P2007−318073)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】