流量調節弁
【課題】制御流体の粘性変化の影響を少なくした流量調節弁を提供する。
【解決手段】軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸30および摺動円筒面21aと摺動軸を移動する移動機構40を有し、摺動軸30表面に形成された三角形状テーパ溝33と摺動円筒面21aとの間で流体の制御を行う。また、前記三角形状テーパ溝33は所定関数に従って漸減または漸増する形状とし、移動機構40の駆動軸30と摺動円筒面21aとを互いに熱膨張係数の異なる材料により構成し、温度変化による流路区間の変化と粘性抵抗の変化での流量変化量とが打ち消し合うよう構成の流量調節弁。
【解決手段】軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸30および摺動円筒面21aと摺動軸を移動する移動機構40を有し、摺動軸30表面に形成された三角形状テーパ溝33と摺動円筒面21aとの間で流体の制御を行う。また、前記三角形状テーパ溝33は所定関数に従って漸減または漸増する形状とし、移動機構40の駆動軸30と摺動円筒面21aとを互いに熱膨張係数の異なる材料により構成し、温度変化による流路区間の変化と粘性抵抗の変化での流量変化量とが打ち消し合うよう構成の流量調節弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体、ガス等の流体の流量を制御する調節弁に関し、特に流量を精密かつ広範囲に調節でき、かつ長期の使用に耐える信頼性の高い流量調節弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、流体の流量を精密に制御できる調節弁として、精密ニードル弁が知られている。図12は従来より実用されている、精密ニードル弁の概要を示す構成断面図である。このような構成のニードル弁は、ノブ201を回すことにより先端付近をテーパ状に形成された軸(ニードル)202が円筒状の穴203に挿入され、テーパ軸202と、ハウジング204に設けられた穴203との間に生じるリング状の隙間の大きさが変化する。
【0003】
その結果、流体入口205から流入し、この隙間を通って流体出口206から流出する流体に対する流路抵抗が変わるので、流量を調節することができる。
【0004】
図13にこのような従来のニードルバルブの流量調節特性を示す。ここで、サンプルb1〜サンプルb5は、代表的な従来のニードルバルブの特性を示したものであり、所定の流量範囲ではリニア特性に近い特性を示している。なお、バルブ開度が10%以下の領域では、バルブ操作の回転角度に対する流量変化率が大きくなり、流量設定が難しくなるため、通常はフルスケールの10%から90%程度の範囲で使用している。因みに、サンプルaは、本発明の弁の特性を参考に示したものである。
【0005】
ところで、サンプルaとの比較からもわかるように、図12に示すような従来のニードル弁の流量調節範囲は狭く、市販されている製品は、各社毎に流量範囲に応じて数種類から20種類以上までにもなる。そして、バルブ使用者は所望の流量範囲に応じてカタログに記載されている多数のバルブの中から最適なものを選定する必要があった。このため、設計変更があったり、流体が変わるなどして、流れる流量や流体抵抗の範囲が変更されたり、流量の予測や選定を誤るなどすれば、再度、別の流量範囲のものを購入し直さなければならず、不経済かつ不便であった。
【0006】
また、従来のテーパ軸を穴に挿入するタイプのニードル弁ではテーパ軸と穴の隙間をゼロになるまで押し付けるため、その部分の表面が磨耗し、使用を重ねるうちに変形して流量調整が不安定になったり、流量を完全にゼロにすることができなくなるという欠点があった。
【0007】
また、温度変化により構成材料が膨張または収縮し、その結果流量が変化して流量誤差を生じてしまうという問題があった。すなわち、全く温度補償をしていないニードル弁の場合には、1℃あたりの温度変化による誤差は約0.4%程度あり、温度補償をしているとして市販されているニードル弁においても、1℃あたりの誤差は0.3%程度にしか改善されていなかった。ほとんどすべての用途において、この誤差は小さいことが望ましく、温度補償としては、少なくとも、誤差を1℃あたり0.1%以下に抑えることが望ましい。
【0008】
特開2000−179748号公報(特許文献1)には、一元式で加圧供給される潤滑油を、機械の潤滑すべき多数の箇所に定量分配または比例分配するための抵抗弁であって、流体抵抗度の大きな新規な絞り弁を提供することを目的として、流体通路の有効断面積を制限するための抵抗子を具備する機構において、通路部材の穴の内周面に雌螺子を形成するとともに抵抗子の要部外周面には前記雌螺子に嵌合する雄螺子を形成し、さらに前記雌螺子または雄螺子のいずれか一方のねじ山を定められた寸法にカットし、前記のねじ山のカット部分を流体通路として形成してなる、抵抗弁の構造が開示されている。
【0009】
しかし、この文献の構造では、雌螺子と雄螺子がピッタリと隙間の無い状態で噛み合っていないと、流体が谷と山の隙間を通って直接軸方向に流れてしまう。このため、雄螺子と雌螺子はピッタリとしたハメアイ構造になっている必要があり、精度の極めて高い加工が必要とされ、製作が極めて困難であるばかりか、高価になり、しかも流体が漏れる危険もあった。
【0010】
またこの文献の絞り弁も、流体通路としてねじ螺合の隙間の有効断面積を変化させて絞り開度に変化を与えるものであるが、温度変化による流量の変化については補償するものではなかった。
【0011】
ところで、従来の多くの流量計の誤差は、フルスケールに対して±E%という形で規定されており、フルスケール付近では、±E%での測定が可能であるが、例えばフルスケールの10%程度の小さな流量を測定しようとすると、誤差は読取り値の±10×E%と、10倍もの大きな誤差を見込まなければならなくなる。
【0012】
数十年程前から、「質量流量計」あるいは「マスフローメータ」と呼ばれる流量計が広く普及するようになっており、この流量計を使った、マスフローコントローラーが、半導体産業を始め、今日のハイテク産業を支える重要な技術になっている。マスフローメータも、他の原理の流量計と同じように、誤差規定はフルスケールの±何%という形になっている。従って、フルスケールに対して、10%以下といった小さい流量になると誤差が大きくなる。
【0013】
マスフローメータでは、流体に熱を加え、僅かな温度上昇を測定することにより流量を測定している。流量に関与した信号を得ることは可能であるが、センサとして信号を取り出す部分の現象は極めて複雑で、明快な理論式は存在しない。流体により、熱伝導率、比熱などの物性が異なるため、マスフローメータは、1種類の流体専用になっていることが多い。内部プログラムにより数種類の流体に対応可能としたものもあるが、多くの場合、例えば空気用のマスフローメータをアルゴン、ヘリウムなど、違うガス種の流体に使うことは困難であった。また、面積式流量計でも、テーパ状のガラス管の中の球体が重力と下からのガスの動圧とが釣り合う位置で流量を読み取ることが可能であるが、球体の前後での流体の流れは複雑になり、単純な理論式は存在せず、「流量係数」といった係数を、導入して説明しているだけであり、同じ流量計では1種類の流体にしか使えないといった問題があった。
【0014】
これに対し、本発明者は特開2006−138399号公報(特許文献2)において、温度変化があっても流量が変化せず、どの位置でも回転角度に対する流量変化率が一定である流量調節弁を提供することを目的として、操作軸12と、外周面にテーパー溝14が形成された補助スリーブ18と、操作軸および補助スリーブに嵌合されたハウジング20とを備える流量調節弁を提案した。この流量調節弁は、ハウジングの他端に開けた一方の流体出入口22とハウジングの側面に開けた他方の流体出入口24との間に、テーパー溝14を通じて流体通路が形成されている。
【0015】
すなわち、円筒軸の外周に断面が正三角形のスパイラル状の溝を設け、この軸が円筒の中に挿入された時にできるスパイラル状の流路の位置を変化させることにより、流量変化を達成している。そしてこの溝の深さを、エクスポーネンシャルに変化させることにより、非常に大きな流量変化が得られるようにしている。
【0016】
しかし、この文献の手法では、流路を構成する細い溝が1本だけであり、この流路に微細な異物が入ると、流量が不連続に著しく低下してしまうという問題があった。つまり、流量が異物の部分で急に小さくなり、その流量付近でそれより小さい流量の微調節が不可能になるという問題があった。
【0017】
このように、流路を構成する溝が1本だけの場合、摺動磨耗によって生じた磨耗粉や、流体に含まれて外部から侵入する微粒子が流路の溝に堆積すると、局部的に抵抗が大きくなり、流量がその位置で急激に小さくなってしまう。図6に、このような流量調節弁に異物が詰まったときの特性例を示す。図6のサンプルc2が、横軸の移動距離7mm付近(摺動軸の本体ボディ内部での全閉状態からの移動距離)で流量が50mL/min程度になったまま階段状になっている。この部分の溝に異物が存在していることが原因である。なお、サンプルc1は異物が詰まっていないときの特性である。
【0018】
また、操作用のノブを回転した時、テーパー溝が付けられた摺動軸も回転するため、摺動面が円筒形の内面を持つスリーブとの摩擦で磨耗粉を発生し、これがスパイラルの溝に付着して流量抵抗を大きくするという欠点があった。
【特許文献1】特開2000−179748号公報
【特許文献2】特開2006−138399号公報
【非特許文献1】小林清志、飯田嘉宏共著,「新版 移動論」,第22刷,株式会社朝倉書店,1997年10月,p.30、p.48
【非特許文献2】Technical University of Denmark, MIC : Department of Micro and Nanotechnology, Dr. Henric Bruus, TheoreticaL microfluidics, Lecture notes second edition, fall 2005,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上のように、広範囲に流量を変化させることが可能で、耐久性に優れ繰り返しの使用で不具合が生じにくく、締め切り時に確実に流量をゼロにすることができ、かつ構造が単純なバルブの実現が従来から望まれていた。
【0020】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、操作ノブの回転に従って、流量が広範囲にかつ単調に増加または減少する流量調節弁で、内部磨耗を生じにくくし、また万一磨耗粉もしくは流体中の異物が流路に存在しても、著しい特性の劣化を生じることがなく、かつ締め切りでの流量が確実にゼロになる流量調節弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的のうち、繰り返し使用での耐久性を実現するために、2つの手段を提案した。第1の手段は異物があっても、特性に大きな障害を生じさせない手法であり、第2の手段は調節弁の内部摩擦による磨耗粉の発生を抑制する手段である。先ず第1の異物の存在による障害を生じにくくする手段は、弁体の深さが漸増する三角テーパー溝の流体通路を、複数本としたものである。
【0022】
すなわち、溝の数を1本ではなく、2本以上の複数本の溝を摺動軸の外周等に形成することにより、上記欠点を劇的に改善した。流体が複数本の溝の束に分散して流れるため、最悪の場合として、1本の溝が閉塞しても、他の溝が流路流路として流れ、流量がゼロになることはない。
【0023】
この状態を数値モデルで検討した結果を図7のグラフに示す。図7の横軸はバルブの開度を表し、縦軸は流量を対数目盛で表している。このモデルは、以下に詳述するような指数関数的に溝の深さを変化させた流路を持つバルブで、その溝が1本のサンプルe1の場合、バルブ開度を100%から下げていった時、例えばバルブ開度38%の溝位置Xに異物があり、そこでの流路抵抗により流量が約1/17になったと仮定する。
【0024】
その場合、さらにバルブを閉めても、流量は異物の位置の流路抵抗で決まり、約0.25mL/minの流量が約0.015mL/minと約1/17以下になったままになってしまい、バルブ開度が16%程度になって初めて流量調節ができるようになるが、ここに至るまでの区間の流量調節ができなくなる不都合がある。
【0025】
そこから、異物がテーパー溝の流体抵抗区間からはずれて流路抵抗が1/17になるところまでは流量変化が無いため、特性は図のサンプルe1に示すような階段状になってしまう。
【0026】
このように、図7における溝の数が1本のサンプルe1は、バルブ開度約18%―38%の間では、流量の設定が全くできないことがわかる。溝を2本としたサンプルe2では、1本の溝に異物が入っても第2の流路の流量が当初の特性を保持して流れるため、合成した流量としては特性は大きく改善されることがわかる。3本のサンプルe3ではさらに改善されている。これら、サンプルe2,e3は、理想特性を示すサンプルe0と比較しても遜色がないことがわかる。溝が複数本あると、流体は他の流路にも流れているため、局部的な流量の低下があっても、全体としての見かけの流量変化は、深刻なものにならない。
【0027】
この例では極端な場合として、1箇所に非常に大きな異物が詰まって、流量が1/17になる場合を考えたが、実際には、異物はもっと小さい場合が多いので、複数溝にすることにより、異物が入っても、実際の障害は非常に小さく押さえることが可能となる。なお、実際に溝を3本にし、しかも以下に詳述するノブの回転が摺動軸に伝達されないように改良したものの耐久試験後のデータを取得して評価したが、操作軸を全閉から全開まで100回以上往復させた耐久試験後でも、ほとんど初期の特性が維持されていることがわった。
【0028】
次に、バルブ内部での摺動による磨耗粉の発生を抑制する手段について述べる。磨耗体積は、構成材料が決まっている場合にはアーチャードの法則(Archard's law)により、面圧と摩擦距離に比例する。従って摺動面の相対的な移動をできるだけ小さくすることが望ましい。そこで、摺動軸をスリーブの円筒内周面に対して移動させるとき、操作軸の回転は伝達せずに、直進動作のみを伝達させることとした。
【0029】
従来のテーパ軸を前進後退させるタイプのニードル弁で操作軸の回転運動を直進運動にしているものがある。これらは、内部で回転を拘束し直進運動しかできない構造にしている。この場合には構造が複雑になり、製造コストが高くなる欠点があった。本発明では、操作軸と弁の中心軸を回転トルクが伝達しないように結合した連結部を持ち、摺動軸の回転は拘束せず、シールのためのO−リングの抵抗などで回転を最小化するものである。
【0030】
このことにより、回転を拘束しなくても、実際には摺動軸はほとんど回転せずに動作するので、機構の大幅な簡素化が実現された。シールのためのO―リングは、1箇所でも良いが、よりシール性を高めるために2個以上のO-リングを用いても良く、この場合、摺動軸の回転防止効果も高まる効果が同時に達成され好都合である。
【0031】
図13に本発明のテーパー溝タイプの流量調節弁と、従来のテーパ軸を前進後退させるタイプのニードルバルブ(流量調節弁)のバルブ開度と流量の関係を示す。図13でわかるように発明サンプルaの流量調節弁は、1個の弁で、サンプルb1〜サンプルb5までの5種類のバルブよりさらに広い流量範囲を調節できることがわかる。
【0032】
上述したように、テーパー溝タイプの流量調節弁は、非常に広い範囲の流量が調節できるため、バルブ選定作業が極めて容易で、選定を誤るおそれも少なくなる。また、1個のバルブで広い範囲の流量調節が行えるので、従来は複数のバルブを組み合わせて併用しなければならない場合でも、1個のバルブで済むという効果を発揮するものである。
【0033】
また、流体が流れる溝の数を複数個とすることにより、小さな異物が1個溝に入っただけで、その部分で流量調節が不可能になっていたものが、調節可能となった。また、バルブ内の摺動磨耗による微細粉の発生も、回転トルクを伝達しない連結部を採用することで、劇的に低減させることができた。
【0034】
さらに、本発明の他の目的である、確実に締め切りで流量をゼロとするために、摺動軸の2箇所にO―リングを装着し、スリーブとの間で確実にシールできる構造とした。
【0035】
また、図は省略しているが、テーパー溝の深さが深い摺動軸の先端に近い側の軸の形状を、従来のテーパ軸方式のニードル弁と同様に、先端側の直径が小さくなるようにテーパ状にすることにより、最大流量をさらに大きくすることが可能である。すなわち、大流量領域は従来のテーパ軸方式とし、中、少流量域をテーパー溝方式とすることにより、スパイラル単独の場合より、さらに広い範囲の流量調節が可能となる。
【0036】
すなわち、上記目的は以下の本発明の構成により実現することができる。
(1) 互いに軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、
前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定領域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は断面が正三角形であり、長さ方向に沿って深さが関数に従って漸減または漸増する形状であり、
前記関数は、全長がLの流路に、粘性係数がμの流体が流れたときの、区間x−Lからxまでの抵抗Rを表す下記式(8)であり、
【数1】
(8)
前記移動機構の駆動軸と摺動円筒面とを、互いに熱膨張係数の異なる材料により構成し、
前記テーパー溝は、温度変化による前記材料の膨張または収縮で前記テーパー溝の流体通路の区間が変化して流量が変化する量と、温度変化による流体の粘性抵抗の変化で流量が変化する量とが打ち消し合うような形状に形成されている流量調節弁。
(2) 前記テーパー溝は、スパイラル状に形成されている上記(1)の流量調節弁。
(3) 前記移動機構は、回転動作を直線状の動作に変換するためのねじ部を有し、軸を回転させることにより前記摺動軸を移動させる操作軸と、前記操作軸の回転動作が前記摺動軸に伝達されないように両者を連結する連結部とを有する上記(1)または(2)の流量調節弁。
(4) 前記移動機構は、制御可能な直線状の動作を行う駆動機構により構成されている上記(1)〜(3)のいずれかの流量調節弁。
(5) 前記摺動円筒面は、本体に形成された縮径部により構成されている上記(1)〜(4)のいずれかの流量調節弁。
(6) 前記摺動円筒面は、本体とは別に設けられた補助スリーブにより構成されている上記(1)〜(5)のいずれかの流量調節弁。
(7) 前記摺動軸には、締め切り用のシール部材が設けられている上記(1)〜(6)のいずれかの流量調節弁。
(8) 互いに軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、
前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定領域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は長さ方向に沿って流路抵抗が漸減または漸増する形状になっている流量調節弁。
(9) 前記テーパー溝は、流量抵抗が所定の関数に従って漸減または漸増するように形成されている上記(8)の流量調節弁。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、操作ノブの回転に従って、流量を広範囲にかつ単調に増加または減少させることができ、内部磨耗が生じにくく、また万一磨耗粉もしくは流体中の異物が流路に存在しても、著しい特性の劣化を生じないうえ、締め切りで確実に流量をゼロとすることが可能な流量調節弁を提供することができる。
また、操作軸の回転が摺動軸に伝わらないようにしたので、内部磨耗が生じにくい。
また、バルブ開度のどの位置でも、回転角度に対する流量変化率がほぼ一定になるように設計・製作できるので、流量設定が容易である。
また、非常に広い流量範囲を1つのバルブで調節できるので、バルブの選定や管理が容易である。
さらに、市販の部品を用いることもできるので、安価に実現でき、保守上も便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明の流量調節弁は、互いに軸方向に摺動可能に密着対向配置されて嵌合状態にある摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定流域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は長さ方向、つまり流体通路の一端から他端方向に沿って流路抵抗が漸減または漸増する形状になっている。
【0039】
このように、流体の流量調節をテーパー溝により行うことで、広範囲に正確な流量調節を行うことができる。また、摺動軸および摺動円筒面の材料を適当なものに選定し、かつテーパー溝の形状を調整することで温度変化による誤差を極めて小さなものとすることもできる。
【0040】
従来の可変絞りは、上記図12に示されるように丸穴にテーパ円筒棒を挿入して、円環状の隙間の大きさを少しずつ小さく変えて、流路抵抗を増加させている。これに対し、本発明の流量調節弁は、溝で構成される流路の断面の大きさを少しずつ小さくしている。円筒状の摺動軸の外周面もしくは穴の内周面である摺動円筒面に正三角形状などの溝を直線あるいはスパイラル状等として設け、前記外周面に密接する内径の穴である摺動円筒面に挿入する。そして、溝の深さが漸増または漸減するように形成し、摺動軸および摺動円筒面の一方の一部の領域と他方の一部の領域とが密着・嵌合することで、その特定領域の溝の部分だけが流路になるようにしている。このため、摺動軸が動くことで特定領域が移動し、溝の流体抵抗が変化し、流量を調節することができる。
【0041】
この溝は、必要とされる流体抵抗の変化率に従って任意に高精度で形成することができ、加工も比較的容易である。また、溝の長さや大きさを任意に設定することで、可変範囲や変化率も任意に、しかも広範囲に変化させることができる。このため、簡単な構造で、広範囲に高精度の流量調節を行うことができる。テーパー溝は1本より多い、複数の本数であれば特に限定されるものではないが、特性の劣化を防止する観点からは3本以上が望ましい。しかし、あまり本数が増えすぎると製造コストが増大し、小型化が困難になり、精度が劣化するなどの弊害が生じる。このため、通常の使用形態であれば5ないし6本以下が好ましい。
【0042】
次に、図を参照しつつ本発明の構成について説明する。図1は本発明の流量調節弁の原理を示す一部断面図である。図1において、流体はハウジング321の流体入口301から入り、流体出口302から出てゆく。テーパー溝が形成されている摺動軸(以下「摺動軸」と呼ぶ)330は、ハウジング321の内周面に設けられた縮径部321aの摺動円筒面によって一部が閉塞され、残部が露出されている。
【0043】
摺動軸330の摺動部332の外周の摺動面は、ハウジング321の中央の縮径部321aの摺動円筒面に密接した嵌合状態になっているため、入口301から流入した流体は、摺動軸330のテーパー溝333の中を通って、出口302から流出する。ガイド部331を介して摺動軸330を軸方向に動かすことによりテーパー溝333の三角溝の大きさが変化し、結果として流路抵抗が変化するので、流量を変化させることが可能になる。
【0044】
図2は三角形断面を持ち溝の深さが幾何級数的に変化する流路の立体図である。図1の溝333は図2のように深さが幾何級数的に変化する正三角形の溝403が、円筒面に加工されたものである。流体は流体入口402から正三角形の溝内に流入し、流体出口401から流出する。図1の摺動軸330が軸方向に移動するにつれて、区間404が移動し、流路抵抗が変化する。
【0045】
ハーゲン・ポアズイユ(Hagen-Poiseuille)の法則により、層流状態の円管内の流れでは流量は通常直径の4乗に比例して大きくなる。非円形流路の場合にも、その流路形状に応じた「水力学的相当直径」により、流量はその相当直径の4乗に比例することが知られている。(非特許文献1参照)従って、三角溝の深さが10分の1になると、流量は10のマイナス4乗すなわち1万分の1に小さくなる。三角形の溝の深さを指数関数的に減少させて軸の外周に成形することにより、指数関数的に流量を少なくすることが可能である。
【0046】
例えば溝の深さが平均1.5mmの区間と溝の深さが平均で10分の1の0.15mmの区間での流量を考えると、深さが10分の1になることから、流量は10000の1になる。つまり、溝の深さが平均1.5mmの区間で流量が1L/minの条件の場合、溝の深さが0.15mmの区間では、0.1mL/minということになる。正確には、指数関数になっている区間につき、三角形の流路の管路抵抗で積分計算を行って計算する必要がある。
【0047】
ここで、ハーゲン・ポアズイユの法則を用いた流体抵抗の求め方についてより詳細に説明する。なお、ハーゲン・ポアズイユの式は、一般的な流体工学の教科書等に記載されているので、詳細についてはそれらを参照されたい。ここで、半径r、長さLの円管内を粘性係数μの流体が差圧Δpで流れるときの、層流状態の流量Qは、下記(1)のハーゲン・ポアズイユの式で表され、流路の抵抗Rは(2)式になる。
Q=RΔp (1)
R=8μL/πr4 (2)
【0048】
次に、流路の形状が1辺の長さaの正三角形の場合について考察する。三角形の流路における流量は、デンマーク大学(Technical University of Denmark)マイクロ&ナノテクノロジー学部(MIC : Department of Micro and Nanotechnology)Dr. Henric Bruusの"Lecture notes second edition, fall 2005, TheoreticaL microfluidics", p35(非特許文献2)のセクション2.4.4において、Fig2.6(c)に示される断面三角形の流路について検討されている。このセクションで示されている流量(flow rate)Qを求める式2.37から上記に従って流路抵抗Rを求めると下記式(3)式が導き出される。
【0049】
【数2】
(3)
ここで、正三角形の高さをhとすると、
【0050】
【数3】
(4)
(3) (4)式より、高さの正三角形流路の抵抗は次式になる。
【0051】
【数4】
(5)
【0052】
次に、長手方向に深さが漸減する場合の流路抵抗を求める。
正三角形溝の深さが、長手方向に指数関数的に漸減する場合を考えた場合、L=xとすると、溝の深さは次式で表される。
【0053】
【数5】
(6)
(5)、(6)式から、長手方向のある微小区間での抵抗は
【0054】
【数6】
(7)
となり、長手方向に、区間x−Lからxまでの抵抗は、上式を積分すると、
【0055】
【数7】
(8)
となる。
【0056】
この(8)式は、長手方向に深さが漸減する断面形状が正三角形で全長がLの流路に、粘性係数がμの流体が流れたときの、流体の流体抵抗を求める計算式である。この式から、流路長Lや流体のμと流体抵抗・流量との関係を算出できる。
【0057】
このように、テーパー溝の断面形状は上記式に従って求めることができるが、実際に溝を形成したモデルで検証したデータ等を基に溝形状を決定してもよい。溝の断面形状を具体的にどのようなものにするかは、求められる流量調節弁の性能や、仕様、仕様環境、流体の種類などにより最適なものに調整すればよい。
【0058】
本発明ではテーパー溝の一部の領域が流路を構成するように摺動軸および摺動円筒面の長さを決定する。つまり、摺動軸が摺動円筒面を摺動することで、摺動軸と摺動円筒面の密着している部分の領域が変化し、この部分にある特定領域のテーパー溝だけが流路となる。そして、この特定領域の溝部分が変化すると流体抵抗も変化するので流量が調節される。つまり、溝の特定位置には特定の流体抵抗が対応するので、流路を構成する溝の位置を変えれば流体抵抗も変化する。
【0059】
摺動軸と摺動円筒面が密着嵌合する領域は、図1のように一方が他方に対して短くなるようにして他方の一部分だけに密着・嵌合するようにしてもよいし、入れ子状に端部同士が密着・嵌合する状態から徐々に全体が密着・嵌合する状態に移行するような構造でもよい。ここで、”密着・嵌合”とは、円筒状ないし円柱状の摺動軸の外周面が円筒状のハウジング内周面である摺動円筒面に隙間なく密接して、テーパー溝以外に流体が存在できない領域をいう。従って、溝全体の流体抵抗を決定する部分は、摺動軸が摺動円筒面と密着・嵌合している領域から密着・嵌合していない部分に移行する開放端に相当する部分のうち、流体抵抗が大きい側である。摺動軸および摺動円筒面の大きさや長さも、形成する溝や流量調節弁の性能や、仕様、仕様環境、流体の種類などにより最適なものに調整すればよい。
【0060】
テーパー溝の断面形状は、上記例に限らず何れの形状も選択することができる。つまり、上記式などに従い流体抵抗が漸増または漸減することが可能な形状であれば、四角形や三角形、あるいは半円形など、どのような形状でもよい。しかしながら、加工の容易性や流体抵抗を算出する作業の容易性を考慮すると、上記のような正三角形が最も好ましい。また、テーパー溝を長手方向、つまり流路の一端から他端までをどのような形状で形成するかも任意でよく、直線状でもスパイラル状でも、ジグザグや蛇行したような形態でもよい。主にコストや目詰まり防止の観点からは直線状が好ましく、調整範囲を広くとりたい場合にはスパイラル状など湾曲したリ、蛇行した形状が好ましい。スパイラルは、この中でも加工が容易な形状として推奨される。また、摺動軸と摺動円筒面に雄ねじと雌ねじを形成し、このねじの一部、例えば雄ねじのねじ山の一部を除去することで、雌ねじの谷が溝を構成するようにしてもよい。
【0061】
摺動軸および摺動円筒面の材質としては、特に限定されるものではなく、流量調節弁に通常使用されている材料を使用すればよい。また、求められる流量調節弁の性能や、仕様、仕様環境、流体の種類などにより最適なものにすればよい。耐薬品性や加工のし易さ、温度特性などの観点からは、フッ化エチレン樹脂、ナイロン樹脂等も好ましく、特にナイロン66、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化エチレン樹脂が好適に用いられる。また、本体ボディや操作軸などの構成材料は真鍮、ステンレス鋼等の金属で構成してもよい。
【0062】
本発明の流量調節弁は、材料や溝構造の設定により、積極的な温度補正を行わせることができる。気体の粘度は温度上昇に伴って増加し、気体の流量抵抗が大となる。このため、温度上昇に伴って流体調節弁を流れる気体の流量が減少する。一方、温度上昇したときに、流体通路の長さを短尺化し気体の流量抵抗が小さくなるようにすれば、気体の流量を増加することができる。
【0063】
また、液体の粘度は温度上昇に伴って減少し、液体の流量抵抗が小となる。このため、温度上昇に伴って流体調節弁を流れる液体の流量が増加する。一方、温度上昇したときに、液体通路の長さを長尺化し液体の流量抵抗が大きくなるようにすれば、液体の流量を減少することができる。
【0064】
このように、気体と液体の粘度が温度変化に対して反対の性質を持っているが、逆向きの補正動作を適宜行わせることにより、温度変化があっても流量が変化しない流量調節弁を得ることが可能である。
【0065】
すなわち、溝の形状を、温度変化により、溝の流体通路の区間(位置)が変化することによる流量変化量と流体の粘性抵抗が変化することによる流量変化量とが打ち消し合うように設定すればよい。溝の流体通路の長さが一定のままでも、抵抗要素になる区間(位置)を変化させれば、溝の深さが変化するので流量抵抗を変えることができる。このようにした場合には流量の温度依存性をなくす効果が得られる。
【0066】
具体的には、テーパー溝の横断面形状を、長手方向に沿って深さが指数関数的に漸減する正三角形とした場合、摺動軸を移動させる移動機構の駆動軸ないし操作軸を金属などで構成し、摺動円筒面を有するスリ−ブや本体ボディを構成する材料を樹脂材料で構成すると両者の間に熱膨張係数の差が生じる。例えば、真鍮とナイロン樹脂との熱膨張係数の差は7×10-5/℃である。また、空気の動粘性係数μは、摂氏0度から摂氏100度に温度上昇すると、1.73倍になる。上記式から、動粘性係数が1.73倍に増えると、流量は1.73分の1に減少する。一方、摂氏0度から摂氏100度に温度上昇すると、流体通路の部分での操作軸とハウジングの相対的な位置ずれ量が生じる。このとき、テーパー溝による流体通路は相対的に移動し、流路での流体抵抗は減少する。こうして、動粘係数の増加分を打ち消すような溝の形状を設定することで温度補償が行われる。
【0067】
流量の温度補償は、ハウジングと移動機構の操作軸の各熱膨張による長手方向の変位差を利用しているが、テーパー溝を有す摺動円筒面の外面に接する部分、すなわち摺動軸と、このテーパー溝を設けた部分である摺動円筒面部分、すなわちハウジングとは同じ熱膨張係数の材料で構成することが好ましい。また、本体ボディの材料が異なる場合には補助スリーブを設けてもよい。こうすることによって、両者の隙間が径方向に広がって流量が大きく変化したり、同隙間が径方向に減少しすぎて操作軸が動かなくなること等を防止できる。
【0068】
次に、本発明の応用例として、流体の粘性係数が未知の場合における1点校正による特定流量でのダイヤル位置決定の手法について説明する。
【0069】
粘性係数が未知の流体や、混合ガス等2種以上の混合物等において、粘性係数を計算で求める煩雑さを回避したい場合がある。このようなとき、ある圧力条件のもとで、あるダイヤル回転位置での流量を測定することによって、そのダイヤル位置に測定した流量を、導きだし「1点校正」することにより、ダイヤルの回転位置を決定することが可能である。
【0070】
圧力条件と粘性のどちらか、または両方とも未知の場合でも、あるダイヤル回転数の位置での流量が分かれば、差圧と流体の粘性係数が変化しない限り、それ以外のバルブのダイヤル位置での流量は比例関係にあり、一義的に決まるからである。このような「1点校正」の手法により、ある狭い範囲の流量計しか持ち合わせていない場合でも、その流量計の測定範囲以外の範囲の流量でも、使用した流量計と「同程度」の誤差で流量を設定することが可能となる。
【0071】
温度、圧力によって、粘性係数が変化することがあっても、上記の「1点校正」の手法を用いるにより、どんな流体でも、流れが粘性流である限り、広範囲な流量が設定可能である。1点校正した流量の精度に応じて見込まれる精度により、広範囲な流量の設定が可能となるのである。
【0072】
広い範囲の流量を高精度で設定したい時には、マスフローメータの精度がよいフルスケール付近で流量を測定し、ダイヤル位置を決定することにより、圧力・温度を大幅に変えない限りマスフローでは測定できない微少流量まで、ダイヤル位置で流量を設定することが可能である。
【0073】
次に、本発明のより具体的な実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0074】
図3は本発明の実施の形態に係る流量調節弁の第1の実施例の構成を示す縦断面図である。この流量調節弁は、本体ボディ10、スリーブ20、摺動軸30、移動機構40、ノブ50およびOリング61〜65等から構成されている。
【0075】
ノブ50は流量調節弁の流量を調整する際に操作するもので、移動機構40の操作軸42に固定されている。移動機構40は、ノブ50により軸を回転させることにより摺動軸30を軸方向に移動させる操作軸42と、操作軸42の回転が伝わらないように操作軸42と摺動軸30を連結する連結部41とから構成される。操作軸42は、そのねじ部43を介して本体ボディ10のねじ部10aと螺合される。
【0076】
連結部41は、図4に示すように、袋ナット41a、座金41b、子ねじ41c、長ナット41dおよび接着剤41eからなり、操作軸42の回転が摺動軸30に伝わらないように操作軸42とテーパー溝付摺動軸30とを連結する。操作軸42と袋ナット41aとはねじ部が接着されるなどして互いに回転できないように固定される。なお、この連結部41は操作軸42の回転トルクが摺動軸30に伝わらないように操作軸42とテーパー溝付摺動軸30とを連結する構造であれば、図示例に限定されることなく他の周知な機械構造を用いてよい。
【0077】
子ねじ41cは袋ナット41a内に頭が保持され、袋ナット41aの貫通穴を介して足が41dの長ナット41dに螺合された上で接着されており、さらに長ナット41dは、摺動軸30のねじ穴に圧入され、接着剤41eで固定されている。子ねじ41cの頭と袋ナット41a間、および袋ナット41aと長ナット41dの間の部分には、フッ化エチレン樹脂などの摩擦抵抗の小さい座金41bが挟まれており、操作軸42の回転に伴う袋ナット41aの回転が子ねじ41cに伝達されにくくしている。なお、これらの部材の一部を省略することも可能である。
【0078】
摺動軸30は、図3に示されるガイド部31、摺動部32、テーパー溝33および保持部34から構成される。ガイド部31は上部の長ナット41dのねじ穴を介して子ねじ41cと接続され、外周部に2つのO−リング溝が設けられ、外周部が本体ボディ10の内側の面に沿って軸方向に移動可能となっている。
【0079】
上記2つのO−リング溝には摺動軸シール用O−リング61,62が取り付けられ、中央部の段付き部に締切り用O−リング63が装着される。摺動部32には、外周部に流体通路を形成する深さが長さ方向に沿って漸減又は漸増し、並行した複数本の溝からなるテーパー溝33が形成されている。摺動部32に続く、摺動軸30の先端付近には締切用O−リング64を取り付けるための保持部34が設けられている。
【0080】
スリーブ20は、円筒形状の一端(上部)が開口し、他端(底部)が閉じた形状となっており、摺動軸30と反対の方向、すなわち下方から本体ボディ10の内側に取り付けられ、スリーブ円筒部21の内周に形成された摺動円筒面21aが、摺動軸30と互いに軸方向に摺動可能に嵌合される。
【0081】
スリーブ20の長手方向中央部の外径部分には、O−リング溝が設けられ、該O−リング溝内にO−リング65が設けられて、本体ボディ10の内周面でシールすることにより、流体が入口側から出口側へリークすることを防止する。スリーブ20の中央部下方のスリーブ穴底部23の段穴部分には、テーパー溝33により形成される流体通路から流れてきた流体を本体ボディ10の出口14に導くために、外径から半径方向にスリーブ出口穴24が設けられている。
【0082】
ここで、テーパー溝33により形成される流体通路とは、テーパー溝33の全長のうち、スリーブ20の先端側の摺動円筒面21aが摺動軸30の摺動部32と嵌合した部分(図1の縮径部321aに相当)によりテーパー溝33の開口面が閉塞されている部分をいう。
【0083】
また、スリーブ円筒部21の外周面と本体ボディ10の内周面の間には、本体ボディ10の入口11から流入して入口底穴12を経由した流体を、テーパー溝33により形成される前記流体通路に導くための流路空間が形成されている。
【0084】
次に、図3の流量調節弁の動作について説明する。本体ボディ10の流体入口11から流入した流体は、入口底穴12および、スリーブ円筒部21の外周面と本体ボディ10の内周面の間の流路空間を通り、3本の溝からなるテーパー溝33により形成される流体通路の部分を通過し、スリーブ穴底部23およびスリーブ出口穴24を経由した後、流体出口14から外部に流出する。ノブ50を正転あるいは逆転することにより、摺動軸30を本体ボディ10に対して軸方向に往復移動させることにより、テーパー溝33の大きさを変化させて、流量を調節する。
【0085】
ノブ50を持って操作軸42を回転すると、操作軸42と共に摺動軸30が図面垂直方向である長手方向に移動し、テーパー溝33を持つ摺動部30の外面がスリーブ20の摺動円筒面21aの縮径部に沿って摺動する。操作軸42を回転したとき、摺動軸30は追従して回転することなく、長手方向に移動するが、その動作の詳細を次に示す。
【0086】
ノブ50と摺動軸30の間にはノブ50の回転を摺動軸30に伝達しないようにするための、連結部41を介在させている。ノブ50の回転操作を行うと、操作軸42は操作軸ねじ部43と本体ボディ10のねじ部を介してねじ結合しているため、本体ボディ10に対して前進・後退をし、これに伴い摺動軸30を前進・後退させるが、操作軸42の回転動作は、連結部41でトルクが伝達されないので、O−リング61,62の摩擦抵抗などにより、摺動軸30は回転せずに前進・後退を行う。
【0087】
以上の結果、摺動軸30の外周とスリーブ円筒部21の摺動円筒面との間の摩擦距離は、回転方向が無くなり、前進・後退動作だけになるので、大幅に少なくなる。例えば直径8mmで1回転のπ・d=3.14x8≒25mmからねじのピッチ=0.8mmへと大幅に減少し、約31分の1になる。このことにより、磨耗は劇的に減少する。
【0088】
ところで、流量調節バルブは締め切りの状態では流量がゼロになることが望ましい。このため、摺動軸は締め切り用のシール部材を有することが好ましい。具体的には、図3に示すように、摺動軸30はその先端部にO−リング64を、中央部の段付き部にO−リング63を装着しており、それぞれがバルブ締め切り状態で、スリーブの底とスリーブの上端の2箇所でシールを機能するようになっている。すなわち、締め切りの状態で2重シールを実現しているので、完全な流量ゼロを実現することができる。
【0089】
また、図1の流量調節弁では、テーパー溝33により形成される流体通路は流体入口から流体出口に向かって徐々に三角溝の大きさが大きくなるので、流体中の異物が流体通路内で詰まりにくい構造となっている。なお、上記の実施例では溝の数が3本の場合を示したが、これに限らず、任意の複数本の溝を設けることができる。
【0090】
また、これら2箇所のO−リング63,64は、どちらか1方を省略しても良好な締め切り機能を持つので、1個とすることも可能である。
【実施例2】
【0091】
上記の図3に示すような構造で溝の数を3本とし、ノブの回転が摺動軸に伝達されない流量調節バルブを作成した。この流量調節弁を、供給圧力10KPa(サンプルd1)、供給圧力100kPa(サンプルd2)、供給圧力600kPa(サンプルd3)において、バルブ締め切りから全開までの操作を10回繰り返し行う耐久試験を行った後、ノブ回転数と流量の特性を測定した。結果を図5に示す。また、比較サンプルとして溝が1本で回転トルクを伝達しない連結部が無い流量調節弁を作成し、供給圧力を100KPaとした以外は同様の試験を行い、初期特性サンプルc1と耐久試験後の特性サンプルc2を測定した。結果を図6に示す。
【0092】
図5から明らかなように、本発明サンプルd1−d3は、何れの圧力条件下でも、ノブを多数回転する繰り返し試験によっては、ほとんど流量特性が変化していない(初期特性は省略している)。これに対し、図6の比較サンプルでは、耐久試験後のサンプルc2に異物が溝に付着して、流量特性が階段状になってしまっていることがわかる。以上の結果から、本発明の流量調節弁によれば、テーパー溝が複数本の溝から構成されているので、万一磨耗粉又は流体中の異物が流路に存在しても、著しい特性の劣化を生じないことがわかる。
【0093】
これは、1つにはバルブ内の摺動磨耗による微細粉の発生が、連結部に回転トルクを伝達しない構造を採用することで、摺動を少なくすることにより、劇的に低減させることができたことによるものと推測される。したがって、長期の使用においても、磨耗の発生による流量特性の劣化を防止することができることがわかる。
【0094】
さらに、本発明の流量調節バルブの供給圧力100kPaにおけるダイヤル回転数5−6、ダイヤル回転数10−11、およびダイヤル回転数15−16の間でダイヤルを1/25回転づつ開けた時の窒素ガス流量特性を、それぞれ図8,9,10に示す。さらに、同圧力条件下で、ダイヤル回転数5回転目と10回転目を交互に移動したときの繰り返し再現性を測定した窒素ガス流量特性を図11に示す。
【0095】
図8,9,10から明らかなように、何れのダイヤル回転数の位置でも、ダイヤル回転と窒素流量とは、略直線状に近い特性を示していることがわかる。また、図11からは繰り返し試験を19回程度行った場合でも安定した特性を維持していることがわかる。
【0096】
上記の実施例に示したバルブは、いわゆる「イコールパーセント」特性を示し、バルブ開度のどの位置でも、回転角度に対する流量変化率がほぼ一定になるように設計・製作されているので、流量設定が容易である。また、非常に広い流量範囲を1つのバルブで調節できるので、バルブの選定や管理が容易である。
【0097】
また、流量が広範囲にかつ単調に増加または減少するのでバルブの操作が容易である。また、操作軸の回転が摺動軸に伝わらないようにしたので、内部磨耗が生じにくい。また、テーパー溝が複数本の溝から構成されているので、万一磨耗粉もしくは流体中の異物が流路に存在しても、著しい特性の劣化を生じない。
【0098】
また、市販の部品、例えばノブや本体、ダイヤルゲージなど市販の弁部材の一部を用いるこで、部品コストを安価にすることもでき、保守上も便利である。
【0099】
なお、実施例1と実施例2ではノブ50を回転操作することにより摺動軸30を摺動円筒部21,121の摺動円筒面21a,121aに対してそれぞれ移動させているが、本発明における摺動軸移動機構は、これに限定されるものではない。図示を省略したが、操作軸42をスリーブ円筒部21の摺動円筒面21aに対して摺動可能に支持し、エアシリンダや電動モータ駆動等によるリニアアクチュエータ等の外部の往復駆動装置により操作軸42を軸方向に往復動させるような構成も含む。
【0100】
また、上記の各実施例では溝の数が3本の場合を示したが、これに限らず、1つより多い任意の複数本の溝を設けることができる。また、上記の各実施例では溝が三角形断面を持つ場合を示したが、これに限らず、任意の溝形状をとることができる。
【0101】
また、連結部の構成は実施例の構成に限定されず、操作軸の回転が摺動軸に伝達されないようにする、任意の構成手段を用いることができる。また、摺動軸30の摺動軸シール用O−リングは2箇所に限らず、必要に応じて任意の数用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、液体、気体等のあらゆる流体に応用することができる。また、可変調節範囲が極めて広いため、1つの流量調節弁で広範囲の流量をカバーすることができ、応用範囲が広く、汎用性が極めて高い。1つの種類で多くのケースに対応できることから、量産効果が高く、低コスト化が期待できる。また、医療、半導体、精密加工、高機能材料等にも有用であり、高い耐薬品性、低汚染性、高精度の用途に有用である。
また、流体の流路形状が比較的平坦かつ滑らかで、突起などが少ない構造であるため、流れの乱れも少なく、泡が生じ難いといった特性も有し、半導体用途など、泡の発生を嫌う用途にも有用である。
【0103】
本発明の流量調節弁は、基本的に流れが粘性流となっているため、ハーゲンポアズイユの式と実測値が近い値になり、明確な理論に従って各パラメータを制御することができる。このことから、任意の条件の1点で流量とニードルバルブの回転位置を測定し、ダイヤル回転位置を決めれば、あとはどんな流体でも、温度圧力条件さえ保持すればそのまま使用することができる。
【0104】
また、圧力が変化した場合には、粘性流の流量は、差圧に比例するので、簡単に補正が可能である。上記の校正を行うことにより、混合ガスでも、成分未知のガスでも、1点で、体積流量を測定すれば、広範囲の流量が設定可能になる。以上のように本発明は、流体の流量制御の分野での応用範囲が極めて広く、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明のテーパー溝を用いた流量調節弁の動作原理を示す概略断面図である。
【図2】テーパー溝を用いた流量調節弁の断面三角形の溝の形状例を示す模式図である。
【図3】本発明の流量調節弁の第1の実施例を示す構成縦断面図である。
【図4】連結部の内部構造図を示した一部断面図である。
【図5】本発明の流量調節弁の耐久試験後の流量特性を示すグラフである。
【図6】従来の流量調節弁の耐久試験前後の流量特性を示すグラフである。
【図7】溝が単独の場合と複数本の場合を数値モデルで検討した結果を示したグラフである。
【図8】本発明の流量調節バルブのダイヤル回転数5−6の間でダイヤルを1/25回転づつ開けた時の窒素ガス流量特性を示すグラフである。
【図9】本発明の流量調節バルブのダイヤル回転数10−11の間でダイヤルを1/25回転ずつ開けた時の窒素ガス流量特性を示すグラフである。
【図10】本発明の流量調節バルブのダイヤル回転数15−6の間でダイヤルを1/25回転ずつ開けた時の窒素ガス流量特性を示すグラフである。
【図11】本発明サンプルのダイヤル回転数5回転目と10回転目を交互に移動したときの繰り返し再現性を測定した窒素ガス流量特性を示すグラフである。
【図12】従来の精密ニードル弁の概要を示す構成断面図である
【図13】従来のニードルバルブの流量調節特性を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体、ガス等の流体の流量を制御する調節弁に関し、特に流量を精密かつ広範囲に調節でき、かつ長期の使用に耐える信頼性の高い流量調節弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、流体の流量を精密に制御できる調節弁として、精密ニードル弁が知られている。図12は従来より実用されている、精密ニードル弁の概要を示す構成断面図である。このような構成のニードル弁は、ノブ201を回すことにより先端付近をテーパ状に形成された軸(ニードル)202が円筒状の穴203に挿入され、テーパ軸202と、ハウジング204に設けられた穴203との間に生じるリング状の隙間の大きさが変化する。
【0003】
その結果、流体入口205から流入し、この隙間を通って流体出口206から流出する流体に対する流路抵抗が変わるので、流量を調節することができる。
【0004】
図13にこのような従来のニードルバルブの流量調節特性を示す。ここで、サンプルb1〜サンプルb5は、代表的な従来のニードルバルブの特性を示したものであり、所定の流量範囲ではリニア特性に近い特性を示している。なお、バルブ開度が10%以下の領域では、バルブ操作の回転角度に対する流量変化率が大きくなり、流量設定が難しくなるため、通常はフルスケールの10%から90%程度の範囲で使用している。因みに、サンプルaは、本発明の弁の特性を参考に示したものである。
【0005】
ところで、サンプルaとの比較からもわかるように、図12に示すような従来のニードル弁の流量調節範囲は狭く、市販されている製品は、各社毎に流量範囲に応じて数種類から20種類以上までにもなる。そして、バルブ使用者は所望の流量範囲に応じてカタログに記載されている多数のバルブの中から最適なものを選定する必要があった。このため、設計変更があったり、流体が変わるなどして、流れる流量や流体抵抗の範囲が変更されたり、流量の予測や選定を誤るなどすれば、再度、別の流量範囲のものを購入し直さなければならず、不経済かつ不便であった。
【0006】
また、従来のテーパ軸を穴に挿入するタイプのニードル弁ではテーパ軸と穴の隙間をゼロになるまで押し付けるため、その部分の表面が磨耗し、使用を重ねるうちに変形して流量調整が不安定になったり、流量を完全にゼロにすることができなくなるという欠点があった。
【0007】
また、温度変化により構成材料が膨張または収縮し、その結果流量が変化して流量誤差を生じてしまうという問題があった。すなわち、全く温度補償をしていないニードル弁の場合には、1℃あたりの温度変化による誤差は約0.4%程度あり、温度補償をしているとして市販されているニードル弁においても、1℃あたりの誤差は0.3%程度にしか改善されていなかった。ほとんどすべての用途において、この誤差は小さいことが望ましく、温度補償としては、少なくとも、誤差を1℃あたり0.1%以下に抑えることが望ましい。
【0008】
特開2000−179748号公報(特許文献1)には、一元式で加圧供給される潤滑油を、機械の潤滑すべき多数の箇所に定量分配または比例分配するための抵抗弁であって、流体抵抗度の大きな新規な絞り弁を提供することを目的として、流体通路の有効断面積を制限するための抵抗子を具備する機構において、通路部材の穴の内周面に雌螺子を形成するとともに抵抗子の要部外周面には前記雌螺子に嵌合する雄螺子を形成し、さらに前記雌螺子または雄螺子のいずれか一方のねじ山を定められた寸法にカットし、前記のねじ山のカット部分を流体通路として形成してなる、抵抗弁の構造が開示されている。
【0009】
しかし、この文献の構造では、雌螺子と雄螺子がピッタリと隙間の無い状態で噛み合っていないと、流体が谷と山の隙間を通って直接軸方向に流れてしまう。このため、雄螺子と雌螺子はピッタリとしたハメアイ構造になっている必要があり、精度の極めて高い加工が必要とされ、製作が極めて困難であるばかりか、高価になり、しかも流体が漏れる危険もあった。
【0010】
またこの文献の絞り弁も、流体通路としてねじ螺合の隙間の有効断面積を変化させて絞り開度に変化を与えるものであるが、温度変化による流量の変化については補償するものではなかった。
【0011】
ところで、従来の多くの流量計の誤差は、フルスケールに対して±E%という形で規定されており、フルスケール付近では、±E%での測定が可能であるが、例えばフルスケールの10%程度の小さな流量を測定しようとすると、誤差は読取り値の±10×E%と、10倍もの大きな誤差を見込まなければならなくなる。
【0012】
数十年程前から、「質量流量計」あるいは「マスフローメータ」と呼ばれる流量計が広く普及するようになっており、この流量計を使った、マスフローコントローラーが、半導体産業を始め、今日のハイテク産業を支える重要な技術になっている。マスフローメータも、他の原理の流量計と同じように、誤差規定はフルスケールの±何%という形になっている。従って、フルスケールに対して、10%以下といった小さい流量になると誤差が大きくなる。
【0013】
マスフローメータでは、流体に熱を加え、僅かな温度上昇を測定することにより流量を測定している。流量に関与した信号を得ることは可能であるが、センサとして信号を取り出す部分の現象は極めて複雑で、明快な理論式は存在しない。流体により、熱伝導率、比熱などの物性が異なるため、マスフローメータは、1種類の流体専用になっていることが多い。内部プログラムにより数種類の流体に対応可能としたものもあるが、多くの場合、例えば空気用のマスフローメータをアルゴン、ヘリウムなど、違うガス種の流体に使うことは困難であった。また、面積式流量計でも、テーパ状のガラス管の中の球体が重力と下からのガスの動圧とが釣り合う位置で流量を読み取ることが可能であるが、球体の前後での流体の流れは複雑になり、単純な理論式は存在せず、「流量係数」といった係数を、導入して説明しているだけであり、同じ流量計では1種類の流体にしか使えないといった問題があった。
【0014】
これに対し、本発明者は特開2006−138399号公報(特許文献2)において、温度変化があっても流量が変化せず、どの位置でも回転角度に対する流量変化率が一定である流量調節弁を提供することを目的として、操作軸12と、外周面にテーパー溝14が形成された補助スリーブ18と、操作軸および補助スリーブに嵌合されたハウジング20とを備える流量調節弁を提案した。この流量調節弁は、ハウジングの他端に開けた一方の流体出入口22とハウジングの側面に開けた他方の流体出入口24との間に、テーパー溝14を通じて流体通路が形成されている。
【0015】
すなわち、円筒軸の外周に断面が正三角形のスパイラル状の溝を設け、この軸が円筒の中に挿入された時にできるスパイラル状の流路の位置を変化させることにより、流量変化を達成している。そしてこの溝の深さを、エクスポーネンシャルに変化させることにより、非常に大きな流量変化が得られるようにしている。
【0016】
しかし、この文献の手法では、流路を構成する細い溝が1本だけであり、この流路に微細な異物が入ると、流量が不連続に著しく低下してしまうという問題があった。つまり、流量が異物の部分で急に小さくなり、その流量付近でそれより小さい流量の微調節が不可能になるという問題があった。
【0017】
このように、流路を構成する溝が1本だけの場合、摺動磨耗によって生じた磨耗粉や、流体に含まれて外部から侵入する微粒子が流路の溝に堆積すると、局部的に抵抗が大きくなり、流量がその位置で急激に小さくなってしまう。図6に、このような流量調節弁に異物が詰まったときの特性例を示す。図6のサンプルc2が、横軸の移動距離7mm付近(摺動軸の本体ボディ内部での全閉状態からの移動距離)で流量が50mL/min程度になったまま階段状になっている。この部分の溝に異物が存在していることが原因である。なお、サンプルc1は異物が詰まっていないときの特性である。
【0018】
また、操作用のノブを回転した時、テーパー溝が付けられた摺動軸も回転するため、摺動面が円筒形の内面を持つスリーブとの摩擦で磨耗粉を発生し、これがスパイラルの溝に付着して流量抵抗を大きくするという欠点があった。
【特許文献1】特開2000−179748号公報
【特許文献2】特開2006−138399号公報
【非特許文献1】小林清志、飯田嘉宏共著,「新版 移動論」,第22刷,株式会社朝倉書店,1997年10月,p.30、p.48
【非特許文献2】Technical University of Denmark, MIC : Department of Micro and Nanotechnology, Dr. Henric Bruus, TheoreticaL microfluidics, Lecture notes second edition, fall 2005,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
以上のように、広範囲に流量を変化させることが可能で、耐久性に優れ繰り返しの使用で不具合が生じにくく、締め切り時に確実に流量をゼロにすることができ、かつ構造が単純なバルブの実現が従来から望まれていた。
【0020】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、操作ノブの回転に従って、流量が広範囲にかつ単調に増加または減少する流量調節弁で、内部磨耗を生じにくくし、また万一磨耗粉もしくは流体中の異物が流路に存在しても、著しい特性の劣化を生じることがなく、かつ締め切りでの流量が確実にゼロになる流量調節弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的のうち、繰り返し使用での耐久性を実現するために、2つの手段を提案した。第1の手段は異物があっても、特性に大きな障害を生じさせない手法であり、第2の手段は調節弁の内部摩擦による磨耗粉の発生を抑制する手段である。先ず第1の異物の存在による障害を生じにくくする手段は、弁体の深さが漸増する三角テーパー溝の流体通路を、複数本としたものである。
【0022】
すなわち、溝の数を1本ではなく、2本以上の複数本の溝を摺動軸の外周等に形成することにより、上記欠点を劇的に改善した。流体が複数本の溝の束に分散して流れるため、最悪の場合として、1本の溝が閉塞しても、他の溝が流路流路として流れ、流量がゼロになることはない。
【0023】
この状態を数値モデルで検討した結果を図7のグラフに示す。図7の横軸はバルブの開度を表し、縦軸は流量を対数目盛で表している。このモデルは、以下に詳述するような指数関数的に溝の深さを変化させた流路を持つバルブで、その溝が1本のサンプルe1の場合、バルブ開度を100%から下げていった時、例えばバルブ開度38%の溝位置Xに異物があり、そこでの流路抵抗により流量が約1/17になったと仮定する。
【0024】
その場合、さらにバルブを閉めても、流量は異物の位置の流路抵抗で決まり、約0.25mL/minの流量が約0.015mL/minと約1/17以下になったままになってしまい、バルブ開度が16%程度になって初めて流量調節ができるようになるが、ここに至るまでの区間の流量調節ができなくなる不都合がある。
【0025】
そこから、異物がテーパー溝の流体抵抗区間からはずれて流路抵抗が1/17になるところまでは流量変化が無いため、特性は図のサンプルe1に示すような階段状になってしまう。
【0026】
このように、図7における溝の数が1本のサンプルe1は、バルブ開度約18%―38%の間では、流量の設定が全くできないことがわかる。溝を2本としたサンプルe2では、1本の溝に異物が入っても第2の流路の流量が当初の特性を保持して流れるため、合成した流量としては特性は大きく改善されることがわかる。3本のサンプルe3ではさらに改善されている。これら、サンプルe2,e3は、理想特性を示すサンプルe0と比較しても遜色がないことがわかる。溝が複数本あると、流体は他の流路にも流れているため、局部的な流量の低下があっても、全体としての見かけの流量変化は、深刻なものにならない。
【0027】
この例では極端な場合として、1箇所に非常に大きな異物が詰まって、流量が1/17になる場合を考えたが、実際には、異物はもっと小さい場合が多いので、複数溝にすることにより、異物が入っても、実際の障害は非常に小さく押さえることが可能となる。なお、実際に溝を3本にし、しかも以下に詳述するノブの回転が摺動軸に伝達されないように改良したものの耐久試験後のデータを取得して評価したが、操作軸を全閉から全開まで100回以上往復させた耐久試験後でも、ほとんど初期の特性が維持されていることがわった。
【0028】
次に、バルブ内部での摺動による磨耗粉の発生を抑制する手段について述べる。磨耗体積は、構成材料が決まっている場合にはアーチャードの法則(Archard's law)により、面圧と摩擦距離に比例する。従って摺動面の相対的な移動をできるだけ小さくすることが望ましい。そこで、摺動軸をスリーブの円筒内周面に対して移動させるとき、操作軸の回転は伝達せずに、直進動作のみを伝達させることとした。
【0029】
従来のテーパ軸を前進後退させるタイプのニードル弁で操作軸の回転運動を直進運動にしているものがある。これらは、内部で回転を拘束し直進運動しかできない構造にしている。この場合には構造が複雑になり、製造コストが高くなる欠点があった。本発明では、操作軸と弁の中心軸を回転トルクが伝達しないように結合した連結部を持ち、摺動軸の回転は拘束せず、シールのためのO−リングの抵抗などで回転を最小化するものである。
【0030】
このことにより、回転を拘束しなくても、実際には摺動軸はほとんど回転せずに動作するので、機構の大幅な簡素化が実現された。シールのためのO―リングは、1箇所でも良いが、よりシール性を高めるために2個以上のO-リングを用いても良く、この場合、摺動軸の回転防止効果も高まる効果が同時に達成され好都合である。
【0031】
図13に本発明のテーパー溝タイプの流量調節弁と、従来のテーパ軸を前進後退させるタイプのニードルバルブ(流量調節弁)のバルブ開度と流量の関係を示す。図13でわかるように発明サンプルaの流量調節弁は、1個の弁で、サンプルb1〜サンプルb5までの5種類のバルブよりさらに広い流量範囲を調節できることがわかる。
【0032】
上述したように、テーパー溝タイプの流量調節弁は、非常に広い範囲の流量が調節できるため、バルブ選定作業が極めて容易で、選定を誤るおそれも少なくなる。また、1個のバルブで広い範囲の流量調節が行えるので、従来は複数のバルブを組み合わせて併用しなければならない場合でも、1個のバルブで済むという効果を発揮するものである。
【0033】
また、流体が流れる溝の数を複数個とすることにより、小さな異物が1個溝に入っただけで、その部分で流量調節が不可能になっていたものが、調節可能となった。また、バルブ内の摺動磨耗による微細粉の発生も、回転トルクを伝達しない連結部を採用することで、劇的に低減させることができた。
【0034】
さらに、本発明の他の目的である、確実に締め切りで流量をゼロとするために、摺動軸の2箇所にO―リングを装着し、スリーブとの間で確実にシールできる構造とした。
【0035】
また、図は省略しているが、テーパー溝の深さが深い摺動軸の先端に近い側の軸の形状を、従来のテーパ軸方式のニードル弁と同様に、先端側の直径が小さくなるようにテーパ状にすることにより、最大流量をさらに大きくすることが可能である。すなわち、大流量領域は従来のテーパ軸方式とし、中、少流量域をテーパー溝方式とすることにより、スパイラル単独の場合より、さらに広い範囲の流量調節が可能となる。
【0036】
すなわち、上記目的は以下の本発明の構成により実現することができる。
(1) 互いに軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、
前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定領域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は断面が正三角形であり、長さ方向に沿って深さが関数に従って漸減または漸増する形状であり、
前記関数は、全長がLの流路に、粘性係数がμの流体が流れたときの、区間x−Lからxまでの抵抗Rを表す下記式(8)であり、
【数1】
(8)
前記移動機構の駆動軸と摺動円筒面とを、互いに熱膨張係数の異なる材料により構成し、
前記テーパー溝は、温度変化による前記材料の膨張または収縮で前記テーパー溝の流体通路の区間が変化して流量が変化する量と、温度変化による流体の粘性抵抗の変化で流量が変化する量とが打ち消し合うような形状に形成されている流量調節弁。
(2) 前記テーパー溝は、スパイラル状に形成されている上記(1)の流量調節弁。
(3) 前記移動機構は、回転動作を直線状の動作に変換するためのねじ部を有し、軸を回転させることにより前記摺動軸を移動させる操作軸と、前記操作軸の回転動作が前記摺動軸に伝達されないように両者を連結する連結部とを有する上記(1)または(2)の流量調節弁。
(4) 前記移動機構は、制御可能な直線状の動作を行う駆動機構により構成されている上記(1)〜(3)のいずれかの流量調節弁。
(5) 前記摺動円筒面は、本体に形成された縮径部により構成されている上記(1)〜(4)のいずれかの流量調節弁。
(6) 前記摺動円筒面は、本体とは別に設けられた補助スリーブにより構成されている上記(1)〜(5)のいずれかの流量調節弁。
(7) 前記摺動軸には、締め切り用のシール部材が設けられている上記(1)〜(6)のいずれかの流量調節弁。
(8) 互いに軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、
前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定領域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は長さ方向に沿って流路抵抗が漸減または漸増する形状になっている流量調節弁。
(9) 前記テーパー溝は、流量抵抗が所定の関数に従って漸減または漸増するように形成されている上記(8)の流量調節弁。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、操作ノブの回転に従って、流量を広範囲にかつ単調に増加または減少させることができ、内部磨耗が生じにくく、また万一磨耗粉もしくは流体中の異物が流路に存在しても、著しい特性の劣化を生じないうえ、締め切りで確実に流量をゼロとすることが可能な流量調節弁を提供することができる。
また、操作軸の回転が摺動軸に伝わらないようにしたので、内部磨耗が生じにくい。
また、バルブ開度のどの位置でも、回転角度に対する流量変化率がほぼ一定になるように設計・製作できるので、流量設定が容易である。
また、非常に広い流量範囲を1つのバルブで調節できるので、バルブの選定や管理が容易である。
さらに、市販の部品を用いることもできるので、安価に実現でき、保守上も便利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
本発明の流量調節弁は、互いに軸方向に摺動可能に密着対向配置されて嵌合状態にある摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定流域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は長さ方向、つまり流体通路の一端から他端方向に沿って流路抵抗が漸減または漸増する形状になっている。
【0039】
このように、流体の流量調節をテーパー溝により行うことで、広範囲に正確な流量調節を行うことができる。また、摺動軸および摺動円筒面の材料を適当なものに選定し、かつテーパー溝の形状を調整することで温度変化による誤差を極めて小さなものとすることもできる。
【0040】
従来の可変絞りは、上記図12に示されるように丸穴にテーパ円筒棒を挿入して、円環状の隙間の大きさを少しずつ小さく変えて、流路抵抗を増加させている。これに対し、本発明の流量調節弁は、溝で構成される流路の断面の大きさを少しずつ小さくしている。円筒状の摺動軸の外周面もしくは穴の内周面である摺動円筒面に正三角形状などの溝を直線あるいはスパイラル状等として設け、前記外周面に密接する内径の穴である摺動円筒面に挿入する。そして、溝の深さが漸増または漸減するように形成し、摺動軸および摺動円筒面の一方の一部の領域と他方の一部の領域とが密着・嵌合することで、その特定領域の溝の部分だけが流路になるようにしている。このため、摺動軸が動くことで特定領域が移動し、溝の流体抵抗が変化し、流量を調節することができる。
【0041】
この溝は、必要とされる流体抵抗の変化率に従って任意に高精度で形成することができ、加工も比較的容易である。また、溝の長さや大きさを任意に設定することで、可変範囲や変化率も任意に、しかも広範囲に変化させることができる。このため、簡単な構造で、広範囲に高精度の流量調節を行うことができる。テーパー溝は1本より多い、複数の本数であれば特に限定されるものではないが、特性の劣化を防止する観点からは3本以上が望ましい。しかし、あまり本数が増えすぎると製造コストが増大し、小型化が困難になり、精度が劣化するなどの弊害が生じる。このため、通常の使用形態であれば5ないし6本以下が好ましい。
【0042】
次に、図を参照しつつ本発明の構成について説明する。図1は本発明の流量調節弁の原理を示す一部断面図である。図1において、流体はハウジング321の流体入口301から入り、流体出口302から出てゆく。テーパー溝が形成されている摺動軸(以下「摺動軸」と呼ぶ)330は、ハウジング321の内周面に設けられた縮径部321aの摺動円筒面によって一部が閉塞され、残部が露出されている。
【0043】
摺動軸330の摺動部332の外周の摺動面は、ハウジング321の中央の縮径部321aの摺動円筒面に密接した嵌合状態になっているため、入口301から流入した流体は、摺動軸330のテーパー溝333の中を通って、出口302から流出する。ガイド部331を介して摺動軸330を軸方向に動かすことによりテーパー溝333の三角溝の大きさが変化し、結果として流路抵抗が変化するので、流量を変化させることが可能になる。
【0044】
図2は三角形断面を持ち溝の深さが幾何級数的に変化する流路の立体図である。図1の溝333は図2のように深さが幾何級数的に変化する正三角形の溝403が、円筒面に加工されたものである。流体は流体入口402から正三角形の溝内に流入し、流体出口401から流出する。図1の摺動軸330が軸方向に移動するにつれて、区間404が移動し、流路抵抗が変化する。
【0045】
ハーゲン・ポアズイユ(Hagen-Poiseuille)の法則により、層流状態の円管内の流れでは流量は通常直径の4乗に比例して大きくなる。非円形流路の場合にも、その流路形状に応じた「水力学的相当直径」により、流量はその相当直径の4乗に比例することが知られている。(非特許文献1参照)従って、三角溝の深さが10分の1になると、流量は10のマイナス4乗すなわち1万分の1に小さくなる。三角形の溝の深さを指数関数的に減少させて軸の外周に成形することにより、指数関数的に流量を少なくすることが可能である。
【0046】
例えば溝の深さが平均1.5mmの区間と溝の深さが平均で10分の1の0.15mmの区間での流量を考えると、深さが10分の1になることから、流量は10000の1になる。つまり、溝の深さが平均1.5mmの区間で流量が1L/minの条件の場合、溝の深さが0.15mmの区間では、0.1mL/minということになる。正確には、指数関数になっている区間につき、三角形の流路の管路抵抗で積分計算を行って計算する必要がある。
【0047】
ここで、ハーゲン・ポアズイユの法則を用いた流体抵抗の求め方についてより詳細に説明する。なお、ハーゲン・ポアズイユの式は、一般的な流体工学の教科書等に記載されているので、詳細についてはそれらを参照されたい。ここで、半径r、長さLの円管内を粘性係数μの流体が差圧Δpで流れるときの、層流状態の流量Qは、下記(1)のハーゲン・ポアズイユの式で表され、流路の抵抗Rは(2)式になる。
Q=RΔp (1)
R=8μL/πr4 (2)
【0048】
次に、流路の形状が1辺の長さaの正三角形の場合について考察する。三角形の流路における流量は、デンマーク大学(Technical University of Denmark)マイクロ&ナノテクノロジー学部(MIC : Department of Micro and Nanotechnology)Dr. Henric Bruusの"Lecture notes second edition, fall 2005, TheoreticaL microfluidics", p35(非特許文献2)のセクション2.4.4において、Fig2.6(c)に示される断面三角形の流路について検討されている。このセクションで示されている流量(flow rate)Qを求める式2.37から上記に従って流路抵抗Rを求めると下記式(3)式が導き出される。
【0049】
【数2】
(3)
ここで、正三角形の高さをhとすると、
【0050】
【数3】
(4)
(3) (4)式より、高さの正三角形流路の抵抗は次式になる。
【0051】
【数4】
(5)
【0052】
次に、長手方向に深さが漸減する場合の流路抵抗を求める。
正三角形溝の深さが、長手方向に指数関数的に漸減する場合を考えた場合、L=xとすると、溝の深さは次式で表される。
【0053】
【数5】
(6)
(5)、(6)式から、長手方向のある微小区間での抵抗は
【0054】
【数6】
(7)
となり、長手方向に、区間x−Lからxまでの抵抗は、上式を積分すると、
【0055】
【数7】
(8)
となる。
【0056】
この(8)式は、長手方向に深さが漸減する断面形状が正三角形で全長がLの流路に、粘性係数がμの流体が流れたときの、流体の流体抵抗を求める計算式である。この式から、流路長Lや流体のμと流体抵抗・流量との関係を算出できる。
【0057】
このように、テーパー溝の断面形状は上記式に従って求めることができるが、実際に溝を形成したモデルで検証したデータ等を基に溝形状を決定してもよい。溝の断面形状を具体的にどのようなものにするかは、求められる流量調節弁の性能や、仕様、仕様環境、流体の種類などにより最適なものに調整すればよい。
【0058】
本発明ではテーパー溝の一部の領域が流路を構成するように摺動軸および摺動円筒面の長さを決定する。つまり、摺動軸が摺動円筒面を摺動することで、摺動軸と摺動円筒面の密着している部分の領域が変化し、この部分にある特定領域のテーパー溝だけが流路となる。そして、この特定領域の溝部分が変化すると流体抵抗も変化するので流量が調節される。つまり、溝の特定位置には特定の流体抵抗が対応するので、流路を構成する溝の位置を変えれば流体抵抗も変化する。
【0059】
摺動軸と摺動円筒面が密着嵌合する領域は、図1のように一方が他方に対して短くなるようにして他方の一部分だけに密着・嵌合するようにしてもよいし、入れ子状に端部同士が密着・嵌合する状態から徐々に全体が密着・嵌合する状態に移行するような構造でもよい。ここで、”密着・嵌合”とは、円筒状ないし円柱状の摺動軸の外周面が円筒状のハウジング内周面である摺動円筒面に隙間なく密接して、テーパー溝以外に流体が存在できない領域をいう。従って、溝全体の流体抵抗を決定する部分は、摺動軸が摺動円筒面と密着・嵌合している領域から密着・嵌合していない部分に移行する開放端に相当する部分のうち、流体抵抗が大きい側である。摺動軸および摺動円筒面の大きさや長さも、形成する溝や流量調節弁の性能や、仕様、仕様環境、流体の種類などにより最適なものに調整すればよい。
【0060】
テーパー溝の断面形状は、上記例に限らず何れの形状も選択することができる。つまり、上記式などに従い流体抵抗が漸増または漸減することが可能な形状であれば、四角形や三角形、あるいは半円形など、どのような形状でもよい。しかしながら、加工の容易性や流体抵抗を算出する作業の容易性を考慮すると、上記のような正三角形が最も好ましい。また、テーパー溝を長手方向、つまり流路の一端から他端までをどのような形状で形成するかも任意でよく、直線状でもスパイラル状でも、ジグザグや蛇行したような形態でもよい。主にコストや目詰まり防止の観点からは直線状が好ましく、調整範囲を広くとりたい場合にはスパイラル状など湾曲したリ、蛇行した形状が好ましい。スパイラルは、この中でも加工が容易な形状として推奨される。また、摺動軸と摺動円筒面に雄ねじと雌ねじを形成し、このねじの一部、例えば雄ねじのねじ山の一部を除去することで、雌ねじの谷が溝を構成するようにしてもよい。
【0061】
摺動軸および摺動円筒面の材質としては、特に限定されるものではなく、流量調節弁に通常使用されている材料を使用すればよい。また、求められる流量調節弁の性能や、仕様、仕様環境、流体の種類などにより最適なものにすればよい。耐薬品性や加工のし易さ、温度特性などの観点からは、フッ化エチレン樹脂、ナイロン樹脂等も好ましく、特にナイロン66、四フッ化エチレン樹脂、三フッ化エチレン樹脂が好適に用いられる。また、本体ボディや操作軸などの構成材料は真鍮、ステンレス鋼等の金属で構成してもよい。
【0062】
本発明の流量調節弁は、材料や溝構造の設定により、積極的な温度補正を行わせることができる。気体の粘度は温度上昇に伴って増加し、気体の流量抵抗が大となる。このため、温度上昇に伴って流体調節弁を流れる気体の流量が減少する。一方、温度上昇したときに、流体通路の長さを短尺化し気体の流量抵抗が小さくなるようにすれば、気体の流量を増加することができる。
【0063】
また、液体の粘度は温度上昇に伴って減少し、液体の流量抵抗が小となる。このため、温度上昇に伴って流体調節弁を流れる液体の流量が増加する。一方、温度上昇したときに、液体通路の長さを長尺化し液体の流量抵抗が大きくなるようにすれば、液体の流量を減少することができる。
【0064】
このように、気体と液体の粘度が温度変化に対して反対の性質を持っているが、逆向きの補正動作を適宜行わせることにより、温度変化があっても流量が変化しない流量調節弁を得ることが可能である。
【0065】
すなわち、溝の形状を、温度変化により、溝の流体通路の区間(位置)が変化することによる流量変化量と流体の粘性抵抗が変化することによる流量変化量とが打ち消し合うように設定すればよい。溝の流体通路の長さが一定のままでも、抵抗要素になる区間(位置)を変化させれば、溝の深さが変化するので流量抵抗を変えることができる。このようにした場合には流量の温度依存性をなくす効果が得られる。
【0066】
具体的には、テーパー溝の横断面形状を、長手方向に沿って深さが指数関数的に漸減する正三角形とした場合、摺動軸を移動させる移動機構の駆動軸ないし操作軸を金属などで構成し、摺動円筒面を有するスリ−ブや本体ボディを構成する材料を樹脂材料で構成すると両者の間に熱膨張係数の差が生じる。例えば、真鍮とナイロン樹脂との熱膨張係数の差は7×10-5/℃である。また、空気の動粘性係数μは、摂氏0度から摂氏100度に温度上昇すると、1.73倍になる。上記式から、動粘性係数が1.73倍に増えると、流量は1.73分の1に減少する。一方、摂氏0度から摂氏100度に温度上昇すると、流体通路の部分での操作軸とハウジングの相対的な位置ずれ量が生じる。このとき、テーパー溝による流体通路は相対的に移動し、流路での流体抵抗は減少する。こうして、動粘係数の増加分を打ち消すような溝の形状を設定することで温度補償が行われる。
【0067】
流量の温度補償は、ハウジングと移動機構の操作軸の各熱膨張による長手方向の変位差を利用しているが、テーパー溝を有す摺動円筒面の外面に接する部分、すなわち摺動軸と、このテーパー溝を設けた部分である摺動円筒面部分、すなわちハウジングとは同じ熱膨張係数の材料で構成することが好ましい。また、本体ボディの材料が異なる場合には補助スリーブを設けてもよい。こうすることによって、両者の隙間が径方向に広がって流量が大きく変化したり、同隙間が径方向に減少しすぎて操作軸が動かなくなること等を防止できる。
【0068】
次に、本発明の応用例として、流体の粘性係数が未知の場合における1点校正による特定流量でのダイヤル位置決定の手法について説明する。
【0069】
粘性係数が未知の流体や、混合ガス等2種以上の混合物等において、粘性係数を計算で求める煩雑さを回避したい場合がある。このようなとき、ある圧力条件のもとで、あるダイヤル回転位置での流量を測定することによって、そのダイヤル位置に測定した流量を、導きだし「1点校正」することにより、ダイヤルの回転位置を決定することが可能である。
【0070】
圧力条件と粘性のどちらか、または両方とも未知の場合でも、あるダイヤル回転数の位置での流量が分かれば、差圧と流体の粘性係数が変化しない限り、それ以外のバルブのダイヤル位置での流量は比例関係にあり、一義的に決まるからである。このような「1点校正」の手法により、ある狭い範囲の流量計しか持ち合わせていない場合でも、その流量計の測定範囲以外の範囲の流量でも、使用した流量計と「同程度」の誤差で流量を設定することが可能となる。
【0071】
温度、圧力によって、粘性係数が変化することがあっても、上記の「1点校正」の手法を用いるにより、どんな流体でも、流れが粘性流である限り、広範囲な流量が設定可能である。1点校正した流量の精度に応じて見込まれる精度により、広範囲な流量の設定が可能となるのである。
【0072】
広い範囲の流量を高精度で設定したい時には、マスフローメータの精度がよいフルスケール付近で流量を測定し、ダイヤル位置を決定することにより、圧力・温度を大幅に変えない限りマスフローでは測定できない微少流量まで、ダイヤル位置で流量を設定することが可能である。
【0073】
次に、本発明のより具体的な実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0074】
図3は本発明の実施の形態に係る流量調節弁の第1の実施例の構成を示す縦断面図である。この流量調節弁は、本体ボディ10、スリーブ20、摺動軸30、移動機構40、ノブ50およびOリング61〜65等から構成されている。
【0075】
ノブ50は流量調節弁の流量を調整する際に操作するもので、移動機構40の操作軸42に固定されている。移動機構40は、ノブ50により軸を回転させることにより摺動軸30を軸方向に移動させる操作軸42と、操作軸42の回転が伝わらないように操作軸42と摺動軸30を連結する連結部41とから構成される。操作軸42は、そのねじ部43を介して本体ボディ10のねじ部10aと螺合される。
【0076】
連結部41は、図4に示すように、袋ナット41a、座金41b、子ねじ41c、長ナット41dおよび接着剤41eからなり、操作軸42の回転が摺動軸30に伝わらないように操作軸42とテーパー溝付摺動軸30とを連結する。操作軸42と袋ナット41aとはねじ部が接着されるなどして互いに回転できないように固定される。なお、この連結部41は操作軸42の回転トルクが摺動軸30に伝わらないように操作軸42とテーパー溝付摺動軸30とを連結する構造であれば、図示例に限定されることなく他の周知な機械構造を用いてよい。
【0077】
子ねじ41cは袋ナット41a内に頭が保持され、袋ナット41aの貫通穴を介して足が41dの長ナット41dに螺合された上で接着されており、さらに長ナット41dは、摺動軸30のねじ穴に圧入され、接着剤41eで固定されている。子ねじ41cの頭と袋ナット41a間、および袋ナット41aと長ナット41dの間の部分には、フッ化エチレン樹脂などの摩擦抵抗の小さい座金41bが挟まれており、操作軸42の回転に伴う袋ナット41aの回転が子ねじ41cに伝達されにくくしている。なお、これらの部材の一部を省略することも可能である。
【0078】
摺動軸30は、図3に示されるガイド部31、摺動部32、テーパー溝33および保持部34から構成される。ガイド部31は上部の長ナット41dのねじ穴を介して子ねじ41cと接続され、外周部に2つのO−リング溝が設けられ、外周部が本体ボディ10の内側の面に沿って軸方向に移動可能となっている。
【0079】
上記2つのO−リング溝には摺動軸シール用O−リング61,62が取り付けられ、中央部の段付き部に締切り用O−リング63が装着される。摺動部32には、外周部に流体通路を形成する深さが長さ方向に沿って漸減又は漸増し、並行した複数本の溝からなるテーパー溝33が形成されている。摺動部32に続く、摺動軸30の先端付近には締切用O−リング64を取り付けるための保持部34が設けられている。
【0080】
スリーブ20は、円筒形状の一端(上部)が開口し、他端(底部)が閉じた形状となっており、摺動軸30と反対の方向、すなわち下方から本体ボディ10の内側に取り付けられ、スリーブ円筒部21の内周に形成された摺動円筒面21aが、摺動軸30と互いに軸方向に摺動可能に嵌合される。
【0081】
スリーブ20の長手方向中央部の外径部分には、O−リング溝が設けられ、該O−リング溝内にO−リング65が設けられて、本体ボディ10の内周面でシールすることにより、流体が入口側から出口側へリークすることを防止する。スリーブ20の中央部下方のスリーブ穴底部23の段穴部分には、テーパー溝33により形成される流体通路から流れてきた流体を本体ボディ10の出口14に導くために、外径から半径方向にスリーブ出口穴24が設けられている。
【0082】
ここで、テーパー溝33により形成される流体通路とは、テーパー溝33の全長のうち、スリーブ20の先端側の摺動円筒面21aが摺動軸30の摺動部32と嵌合した部分(図1の縮径部321aに相当)によりテーパー溝33の開口面が閉塞されている部分をいう。
【0083】
また、スリーブ円筒部21の外周面と本体ボディ10の内周面の間には、本体ボディ10の入口11から流入して入口底穴12を経由した流体を、テーパー溝33により形成される前記流体通路に導くための流路空間が形成されている。
【0084】
次に、図3の流量調節弁の動作について説明する。本体ボディ10の流体入口11から流入した流体は、入口底穴12および、スリーブ円筒部21の外周面と本体ボディ10の内周面の間の流路空間を通り、3本の溝からなるテーパー溝33により形成される流体通路の部分を通過し、スリーブ穴底部23およびスリーブ出口穴24を経由した後、流体出口14から外部に流出する。ノブ50を正転あるいは逆転することにより、摺動軸30を本体ボディ10に対して軸方向に往復移動させることにより、テーパー溝33の大きさを変化させて、流量を調節する。
【0085】
ノブ50を持って操作軸42を回転すると、操作軸42と共に摺動軸30が図面垂直方向である長手方向に移動し、テーパー溝33を持つ摺動部30の外面がスリーブ20の摺動円筒面21aの縮径部に沿って摺動する。操作軸42を回転したとき、摺動軸30は追従して回転することなく、長手方向に移動するが、その動作の詳細を次に示す。
【0086】
ノブ50と摺動軸30の間にはノブ50の回転を摺動軸30に伝達しないようにするための、連結部41を介在させている。ノブ50の回転操作を行うと、操作軸42は操作軸ねじ部43と本体ボディ10のねじ部を介してねじ結合しているため、本体ボディ10に対して前進・後退をし、これに伴い摺動軸30を前進・後退させるが、操作軸42の回転動作は、連結部41でトルクが伝達されないので、O−リング61,62の摩擦抵抗などにより、摺動軸30は回転せずに前進・後退を行う。
【0087】
以上の結果、摺動軸30の外周とスリーブ円筒部21の摺動円筒面との間の摩擦距離は、回転方向が無くなり、前進・後退動作だけになるので、大幅に少なくなる。例えば直径8mmで1回転のπ・d=3.14x8≒25mmからねじのピッチ=0.8mmへと大幅に減少し、約31分の1になる。このことにより、磨耗は劇的に減少する。
【0088】
ところで、流量調節バルブは締め切りの状態では流量がゼロになることが望ましい。このため、摺動軸は締め切り用のシール部材を有することが好ましい。具体的には、図3に示すように、摺動軸30はその先端部にO−リング64を、中央部の段付き部にO−リング63を装着しており、それぞれがバルブ締め切り状態で、スリーブの底とスリーブの上端の2箇所でシールを機能するようになっている。すなわち、締め切りの状態で2重シールを実現しているので、完全な流量ゼロを実現することができる。
【0089】
また、図1の流量調節弁では、テーパー溝33により形成される流体通路は流体入口から流体出口に向かって徐々に三角溝の大きさが大きくなるので、流体中の異物が流体通路内で詰まりにくい構造となっている。なお、上記の実施例では溝の数が3本の場合を示したが、これに限らず、任意の複数本の溝を設けることができる。
【0090】
また、これら2箇所のO−リング63,64は、どちらか1方を省略しても良好な締め切り機能を持つので、1個とすることも可能である。
【実施例2】
【0091】
上記の図3に示すような構造で溝の数を3本とし、ノブの回転が摺動軸に伝達されない流量調節バルブを作成した。この流量調節弁を、供給圧力10KPa(サンプルd1)、供給圧力100kPa(サンプルd2)、供給圧力600kPa(サンプルd3)において、バルブ締め切りから全開までの操作を10回繰り返し行う耐久試験を行った後、ノブ回転数と流量の特性を測定した。結果を図5に示す。また、比較サンプルとして溝が1本で回転トルクを伝達しない連結部が無い流量調節弁を作成し、供給圧力を100KPaとした以外は同様の試験を行い、初期特性サンプルc1と耐久試験後の特性サンプルc2を測定した。結果を図6に示す。
【0092】
図5から明らかなように、本発明サンプルd1−d3は、何れの圧力条件下でも、ノブを多数回転する繰り返し試験によっては、ほとんど流量特性が変化していない(初期特性は省略している)。これに対し、図6の比較サンプルでは、耐久試験後のサンプルc2に異物が溝に付着して、流量特性が階段状になってしまっていることがわかる。以上の結果から、本発明の流量調節弁によれば、テーパー溝が複数本の溝から構成されているので、万一磨耗粉又は流体中の異物が流路に存在しても、著しい特性の劣化を生じないことがわかる。
【0093】
これは、1つにはバルブ内の摺動磨耗による微細粉の発生が、連結部に回転トルクを伝達しない構造を採用することで、摺動を少なくすることにより、劇的に低減させることができたことによるものと推測される。したがって、長期の使用においても、磨耗の発生による流量特性の劣化を防止することができることがわかる。
【0094】
さらに、本発明の流量調節バルブの供給圧力100kPaにおけるダイヤル回転数5−6、ダイヤル回転数10−11、およびダイヤル回転数15−16の間でダイヤルを1/25回転づつ開けた時の窒素ガス流量特性を、それぞれ図8,9,10に示す。さらに、同圧力条件下で、ダイヤル回転数5回転目と10回転目を交互に移動したときの繰り返し再現性を測定した窒素ガス流量特性を図11に示す。
【0095】
図8,9,10から明らかなように、何れのダイヤル回転数の位置でも、ダイヤル回転と窒素流量とは、略直線状に近い特性を示していることがわかる。また、図11からは繰り返し試験を19回程度行った場合でも安定した特性を維持していることがわかる。
【0096】
上記の実施例に示したバルブは、いわゆる「イコールパーセント」特性を示し、バルブ開度のどの位置でも、回転角度に対する流量変化率がほぼ一定になるように設計・製作されているので、流量設定が容易である。また、非常に広い流量範囲を1つのバルブで調節できるので、バルブの選定や管理が容易である。
【0097】
また、流量が広範囲にかつ単調に増加または減少するのでバルブの操作が容易である。また、操作軸の回転が摺動軸に伝わらないようにしたので、内部磨耗が生じにくい。また、テーパー溝が複数本の溝から構成されているので、万一磨耗粉もしくは流体中の異物が流路に存在しても、著しい特性の劣化を生じない。
【0098】
また、市販の部品、例えばノブや本体、ダイヤルゲージなど市販の弁部材の一部を用いるこで、部品コストを安価にすることもでき、保守上も便利である。
【0099】
なお、実施例1と実施例2ではノブ50を回転操作することにより摺動軸30を摺動円筒部21,121の摺動円筒面21a,121aに対してそれぞれ移動させているが、本発明における摺動軸移動機構は、これに限定されるものではない。図示を省略したが、操作軸42をスリーブ円筒部21の摺動円筒面21aに対して摺動可能に支持し、エアシリンダや電動モータ駆動等によるリニアアクチュエータ等の外部の往復駆動装置により操作軸42を軸方向に往復動させるような構成も含む。
【0100】
また、上記の各実施例では溝の数が3本の場合を示したが、これに限らず、1つより多い任意の複数本の溝を設けることができる。また、上記の各実施例では溝が三角形断面を持つ場合を示したが、これに限らず、任意の溝形状をとることができる。
【0101】
また、連結部の構成は実施例の構成に限定されず、操作軸の回転が摺動軸に伝達されないようにする、任意の構成手段を用いることができる。また、摺動軸30の摺動軸シール用O−リングは2箇所に限らず、必要に応じて任意の数用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、液体、気体等のあらゆる流体に応用することができる。また、可変調節範囲が極めて広いため、1つの流量調節弁で広範囲の流量をカバーすることができ、応用範囲が広く、汎用性が極めて高い。1つの種類で多くのケースに対応できることから、量産効果が高く、低コスト化が期待できる。また、医療、半導体、精密加工、高機能材料等にも有用であり、高い耐薬品性、低汚染性、高精度の用途に有用である。
また、流体の流路形状が比較的平坦かつ滑らかで、突起などが少ない構造であるため、流れの乱れも少なく、泡が生じ難いといった特性も有し、半導体用途など、泡の発生を嫌う用途にも有用である。
【0103】
本発明の流量調節弁は、基本的に流れが粘性流となっているため、ハーゲンポアズイユの式と実測値が近い値になり、明確な理論に従って各パラメータを制御することができる。このことから、任意の条件の1点で流量とニードルバルブの回転位置を測定し、ダイヤル回転位置を決めれば、あとはどんな流体でも、温度圧力条件さえ保持すればそのまま使用することができる。
【0104】
また、圧力が変化した場合には、粘性流の流量は、差圧に比例するので、簡単に補正が可能である。上記の校正を行うことにより、混合ガスでも、成分未知のガスでも、1点で、体積流量を測定すれば、広範囲の流量が設定可能になる。以上のように本発明は、流体の流量制御の分野での応用範囲が極めて広く、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明のテーパー溝を用いた流量調節弁の動作原理を示す概略断面図である。
【図2】テーパー溝を用いた流量調節弁の断面三角形の溝の形状例を示す模式図である。
【図3】本発明の流量調節弁の第1の実施例を示す構成縦断面図である。
【図4】連結部の内部構造図を示した一部断面図である。
【図5】本発明の流量調節弁の耐久試験後の流量特性を示すグラフである。
【図6】従来の流量調節弁の耐久試験前後の流量特性を示すグラフである。
【図7】溝が単独の場合と複数本の場合を数値モデルで検討した結果を示したグラフである。
【図8】本発明の流量調節バルブのダイヤル回転数5−6の間でダイヤルを1/25回転づつ開けた時の窒素ガス流量特性を示すグラフである。
【図9】本発明の流量調節バルブのダイヤル回転数10−11の間でダイヤルを1/25回転ずつ開けた時の窒素ガス流量特性を示すグラフである。
【図10】本発明の流量調節バルブのダイヤル回転数15−6の間でダイヤルを1/25回転ずつ開けた時の窒素ガス流量特性を示すグラフである。
【図11】本発明サンプルのダイヤル回転数5回転目と10回転目を交互に移動したときの繰り返し再現性を測定した窒素ガス流量特性を示すグラフである。
【図12】従来の精密ニードル弁の概要を示す構成断面図である
【図13】従来のニードルバルブの流量調節特性を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、
前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定領域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は断面が正三角形であり、長さ方向に沿って深さが関数に従って漸減または漸増する形状であり、
前記関数は、全長がLの流路に、粘性係数がμの流体が流れたときの、区間x−Lからxまでの抵抗Rを表す下記式(8)であり、
(8)
前記移動機構の駆動軸と摺動円筒面とを、互いに熱膨張係数の異なる材料により構成し、
前記テーパー溝は、温度変化による前記材料の膨張または収縮で前記テーパー溝の流体通路の区間が変化して流量が変化する量と、温度変化による流体の粘性抵抗の変化で流量が変化する量とが打ち消し合うような形状に形成されている流量調節弁。
【請求項2】
前記テーパー溝は、スパイラル状に形成されている請求項1の流量調節弁。
【請求項3】
前記移動機構は、回転動作を直線状の動作に変換するためのねじ部を有し、軸を回転させることにより前記摺動軸を移動させる操作軸と、前記操作軸の回転動作が前記摺動軸に伝達されないように両者を連結する連結部とを有する請求項1または2の流量調節弁。
【請求項4】
前記移動機構は、制御可能な直線状の動作を行う駆動機構により構成されている請求項1〜3のいずれかの流量調節弁。
【請求項5】
前記摺動円筒面は、本体に形成された縮径部により構成されている請求項1〜4のいずれかの流量調節弁。
【請求項6】
前記摺動円筒面は、本体とは別に設けられた補助スリーブにより構成されている請求項1〜5のいずれかの流量調節弁。
【請求項7】
前記摺動軸には、締め切り用のシール部材が設けられている請求項1〜6のいずれかの流量調節弁。
【請求項8】
互いに軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、
前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定領域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は長さ方向に沿って流路抵抗が漸減または漸増する形状になっている流量調節弁。
【請求項9】
前記テーパー溝は、流量抵抗が所定の関数に従って漸減または漸増するように形成されている請求項8の流量調節弁。
【請求項1】
互いに軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、
前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定領域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は断面が正三角形であり、長さ方向に沿って深さが関数に従って漸減または漸増する形状であり、
前記関数は、全長がLの流路に、粘性係数がμの流体が流れたときの、区間x−Lからxまでの抵抗Rを表す下記式(8)であり、
(8)
前記移動機構の駆動軸と摺動円筒面とを、互いに熱膨張係数の異なる材料により構成し、
前記テーパー溝は、温度変化による前記材料の膨張または収縮で前記テーパー溝の流体通路の区間が変化して流量が変化する量と、温度変化による流体の粘性抵抗の変化で流量が変化する量とが打ち消し合うような形状に形成されている流量調節弁。
【請求項2】
前記テーパー溝は、スパイラル状に形成されている請求項1の流量調節弁。
【請求項3】
前記移動機構は、回転動作を直線状の動作に変換するためのねじ部を有し、軸を回転させることにより前記摺動軸を移動させる操作軸と、前記操作軸の回転動作が前記摺動軸に伝達されないように両者を連結する連結部とを有する請求項1または2の流量調節弁。
【請求項4】
前記移動機構は、制御可能な直線状の動作を行う駆動機構により構成されている請求項1〜3のいずれかの流量調節弁。
【請求項5】
前記摺動円筒面は、本体に形成された縮径部により構成されている請求項1〜4のいずれかの流量調節弁。
【請求項6】
前記摺動円筒面は、本体とは別に設けられた補助スリーブにより構成されている請求項1〜5のいずれかの流量調節弁。
【請求項7】
前記摺動軸には、締め切り用のシール部材が設けられている請求項1〜6のいずれかの流量調節弁。
【請求項8】
互いに軸方向に摺動可能に嵌合された摺動軸および摺動円筒面と、前記摺動軸を軸方向に移動させる移動機構とを有し、
前記摺動軸および摺動円筒面の少なくとも一方の摺動面にはその特定領域が流体通路となる複数のテーパー溝が形成され、このテーパー溝は長さ方向に沿って流路抵抗が漸減または漸増する形状になっている流量調節弁。
【請求項9】
前記テーパー溝は、流量抵抗が所定の関数に従って漸減または漸増するように形成されている請求項8の流量調節弁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−162384(P2009−162384A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47619(P2009−47619)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【分割の表示】特願2008−124487(P2008−124487)の分割
【原出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(508114915)株式会社フロント (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【分割の表示】特願2008−124487(P2008−124487)の分割
【原出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(508114915)株式会社フロント (4)
【Fターム(参考)】
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