説明

海産物油の脱臭および安定化

本発明は、脱臭および安定化された食用海産物油の調製方法であって、海産物油を規則充填物を含む薄膜塔において向流水蒸気蒸留(CCSD)に付すことと、所望によりこうして得られた食用海産物油に酸化防止剤を添加することとによる方法ならびに食品/飼料、化粧品および/または医薬品産業におけるこれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、海産物油(marine oil)を脱臭および安定化する方法ならびにこうして得られた海産物油に関する。
【0002】
海産物油は多価不飽和脂肪酸(PUFA)の供給源として大きな注目を集めており、特にエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)(天然グリセリド形態だけでなくエチルエステル形態にあるPUFAエステルを含む)は食事において重要な意味を持つ。しかし、海産物油は、これらの起源、これらの不純物除去の度合い、および天然の副産物に加えて分解生成物の除去に応じて、呈味性および安定性という意味での品質が大きく変化する。PUFAには炭素−炭素二重結合が幾つか含まれているため、大気条件下で酸化を受けて魚味や魚臭を生じやすい。
【0003】
現在では、これらの化合物を多く摂取することによって健康に有益な効果が得られ、血圧、アテローム性動脈硬化症、および血栓形成作用を介した冠動脈性心疾患による死亡率を低下させることができるという数多くの確かな証拠が得られている。
【0004】
これらの化合物への関心が高まったことにより、海産物油を酸化および異風味(off−flavor)の発生に対し安定化させる方法の探索が急務となった。
【0005】
最近では、海産物油およびPUFAの安定化において安定化物質を添加することにより多くの改善が見られるようになった。
【0006】
ハミルトン(Hamilton)らによるJ.Am.Oil Chem.Soc.(JAOCS)、第75巻、第7号、pp.813〜822(1998)には、魚油の自動酸化を防ぐための非常に優れた三成分系添加剤混合物(δ−トコフェロール2%、パルミチン酸アスコルビル0.1%、レシチン0.5%)が開示されている。この混合物を添加した後に精製された魚油は20℃で6ケ月の期間を経ても顕著な過酸化を示さないが、この混合物は、異味(off−taste)および異臭(off−smell)の防止においてはさほど成果が見られなかった。異風味は3週間以内に発生した。
【0007】
欧州特許第340635A号明細書には、EPAおよびDHAを含む油、特に魚油を処理する方法であって、温和な条件(30℃〜150℃、好ましくは60〜100℃で2〜5時間)下で減圧水蒸気蒸留を行うことにより沸点が低く極性がより低い揮発性の風味化合物を低減させ、そして、上記油を吸着剤、例えばシリカゲルと接触させることにより沸点が高く極性がより高い揮発性風味化合物を低減させることによる方法が記載されている。特定の実施形態においては、こうして不純物除去された油がローズマリー抽出物である酸化防止剤と混合される。しかし、このような油は魚臭い異味および異臭の発生が大幅に低減されているが、ローズマリー抽出物特有の味および臭いがあるため、多くの食品、特に乳製品用途には適さない。
【0008】
欧州特許出願612346号明細書(国際公開第93/10207号パンフレット)に記載の手順に従い、シリカで処理し、穏やかな減圧水蒸気蒸留(140〜210℃)に付し、そしてレシチン、パルミチン酸アスコルビル(AP)、およびアルファトコフェロールの混合物で安定化された精製海産物油は、ランシマット安定性が改善されており(実施例1〜8(100℃で4.9〜14時間)による)、主として健康補助食品への適用性が高い。しかしながら、特に臭いを感じやすいヨーグルトや乳飲料等の乳製品用途においては、依然として許容できない不快味や不快臭が生じる状況があることも認められていた。
【0009】
欧州特許第999259号明細書(米国特許出願第2003/161918A1号明細書)には、海産物油をシリカで処理することと、これを、ローズマリーまたはセージ抽出物の存在下に、所望によりパルミチン酸アスコルビルおよび混合トコフェロールを添加して、150℃〜190℃の温度で回分式減圧水蒸気脱臭に2時間付すこととを含む方法による、PUFA含有食用海産物油の調製および安定化が記載されている。この手順により、臭気および呈味特性が極めて優れ、ランシマット誘導時間値が4.1〜6.2時間である安定化された食用海産物油が得られる。この油はこれまでに得られた中でも最高の品質を有しているため、乳製品、例えば、乳やヨーグルトを始めとした様々な食品用途に適したものとなっている。
【0010】
PUFAを含有する高品質の食用油の必要性が高まる一方であることを鑑みると、量的な観点でより効率が高くより短時間で実施される製造方法が望ましい。本発明は、このような方法および対応する生成物を提供するものである。
【0011】
ウルマン工業化学百科事典(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry)、第5版、第A10巻、p.204〜206(1967)によれば、より効率の高いストリッピングおよび熱回収を行うことによって水蒸気が節減されるという理由から、回分式脱臭装置に替えて半連続式および連続式脱臭システムが用いられつつある。ステンレス鋼のトレイが取り付けられた鉄の胴部からなる半連続式および連続式脱臭装置の例およびその供給業者の例が述べられている。Campro脱臭装置は、栓流と独自の薄膜ストリッピング(thin−film stripping)の概念を組み合わせた、連続した胴内トレイ(tray−in−shell)設計を有している。
【0012】
商業用脱臭システムの初期から90年代初頭までの開発については、ベイリー工業用油脂製品(Bailee’s Industrial Oil and Fat Products)、第4巻、第6章(脱臭)、Y・H・ハイ(Y.H.Hui)編、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons)、ニューヨーク(New York)、1996年、pp.339〜390に概説されている。
【0013】
米国特許第4,996,072号明細書には、脂肪および油、特に魚油または海産物油の脱臭および/またはコレステロール量の低減方法であって、この種の油を約400〜550°F(204〜288℃)の温度に加熱することと、上記加熱された油をフラッシュ蒸発させることにより予備処理された(par−treated)油液相を得、次いでこの油を1〜7mmHgの向流水蒸気1〜15重量%を用いて薄膜ストリッピングに付すこととを含む、減圧下における多段処理による方法が開示されている。こうして得られた不要物が除去された(clean)油は、コレステロール含有量が低減され、かつ出発物質のn−3不飽和脂肪酸含有量の少なくとも95%を含み、特異味や特異臭がないことを特徴とする不要物除去された油である。
【0014】
同様に、これと関連の深い米国特許第5,436,018号明細書には、油、特に魚油または海産物油のコレステロール量を低減する方法であって、この種の油を少なくとも400°F(204℃)の温度および少なくとも1mmHgの圧力で向流薄膜水蒸気ストリッパー(counter−current thin−film steam stripper)の上部に導入し、それと同時に、その下部から水蒸気を導入することを含む方法によって、脱臭されて良好な風味を呈するコレステロールが低減された油が得られることが開示されている。この方法は、油の滞留時間が5分以下と短いことを考慮すれば、有益なn−3不飽和脂肪酸の分解が最小限に抑えられることから、従来の脱臭技術よりも有利であると言われている。
【0015】
米国特許第4,810,330号明細書には、装入量が比較的少ない高沸点液体(脂肪酸、食用油、脂肪、グリセリド、他の高沸点エステル等)、特に、脂肪酸グリセリドに加えてライトエンド成分(light ends)(遊離脂肪酸、水、顔料、臭気および/または風味化合物)を約5重量%含むパーム油および他の植物油を、向流塔内においてフォーリンフ(falinf)液膜を連続ストリッピングステムと接触させることによる、連続式脱臭方法の特定の実施形態が記載されている。
【0016】
流下膜塔において向流水蒸気ストリッピングを行うことにより、高沸点食用油、脂肪、およびエステル、特に植物油および硬化魚油の揮発性不純物の除去/脱臭/物理的精製を行うための類似の方法および装置が、例えば、米国特許第4,394,221号明細書、米国特許第4,599,143号明細書、および英国特許出願公開第2176713A号明細書(独国特許出願公開第3522897A1号明細書)から周知である。
【0017】
特開2007−014263A号明細書には、トランス脂肪酸含有量が1質量%以下である魚油等の植物および動物由来の食用油脂(未精製、脱酸、脱色、脱臭、水素添加されたもの)を、積層充填材を含む薄膜式カラムとトレイ式装置とを組み合わせることによって精製することが記載されている。カラム内温度は225〜252℃であり、圧力は18hPa以下であり、油のロード値は12〜28m/m・hrであり、規則充填材の移動単位高さは1〜7mである。トレイ式装置の内部温度は210〜247℃であり、圧力は18hPa以下である。精製処理時間は15〜120分間である。
【0018】
シュウ(Xu)ら(JAOCS、第78巻、第7号、pp.715〜718(2001年7月))は、特定の構造脂質をストリッピング蒸気を用いて従来の回分式脱臭装置で蒸留することにより不純物除去する際にアシル転移が起こる原因およびその影響について調査している。その結果から、不純物除去された構造脂質の品質を改善するためにより効率的な分離技術を用いるべきであることが示唆され、蒸留温度を低下させるためには減圧を可能な限り低くすべきであり、蒸留時間を短縮するためには充填塔で薄膜原理を用いるべきであるとの結論に達している。
【0019】
アーレンズ(Ahrens)は、Fett/Lipid、第101巻、第7号、pp.230〜234(1999)、ワイリー−VCH・フェルラーク・ゲーエムベーハー(WILEY−VCH Verlag GmbH)、ヴァインハイム(Weinheim)において、種子油の薄膜脱臭の歴史について概説している。薄膜脱臭装置の開発は1970年代に開始され、1980年代中期から工業的に使用されている。最新の型式は、種子油、特にヒマワリ、大豆、および菜種油を温和かつ低費用で処理するために特別に開発された、規則充填物を備える脱臭装置であるソフトカラム(SoftColumn)(商標)である。遊離脂肪酸を極めて効果的にストリッピングすることにより、高温の減圧下における油の総保持時間がより短縮されるとともに、水蒸気の消費量が従来の脱臭装置に必要な量の3分の1に低減される。得られた油は酸性度が低く、色が薄く、味および安定性が良く、かつトランス脂肪酸の量が少ない。規則充填物の優れた蒸留効率により、ストリッピング水蒸気を単純に調節することによって、脱臭装置をトコフェロール除去またはトコフェロール保持のどちらに合わせることも可能である。食用種子油の薄膜脱臭においては、一方では、充填塔を用いた薄膜ストリッピングがトレイ式ストリッピングシステムよりも優れており、他方では、規則充填物が不規則に積まれた充填物よりも優れていることが、ステンバーグ(Stenberg)らにより既に見出されている(INFORM、第7巻、第12号、pp.1296〜1304、1996年12月)。
【0020】
国際公開第2006/1185518号パンフレットには、1つまたはそれ以上のトレイを有する塔内において、流体を、好ましくはトレイ底部の高さから導入される散気気体(水蒸気であってもよい)と接触させることにより有機または無機流体を脱臭する、半連続式または連続式方法が記載されている。
【0021】
スルザー・カンパニー(Sulzer Company)は、ホームページ(www.sulzerchemtech.com)上で、植物油から非常に低い真空度で遊離脂肪酸を除去することにより食用脂の調製および油の脱臭を行うための、規則充填物を含む充填塔を備える工場を提案している。スルザーはまた、この種の塔に有用な異なる材料を用いた様々な種類の規則充填物も提案している。
【0022】
これらの塔用規則充填物は、油液相を、気相と高度に接触して物質交換が達成されるように、広い表面上に薄膜として均一に分配させるものである。減圧向流水蒸気中でこの種の塔を用いる脱臭方法が対応する回分式方法よりもはるかに効率が高いのはこうした理由による。
【0023】
回分式脱臭方法における油相および気相の接触時間は通常数時間であるが、向流水蒸気蒸留(CCSD)法では数分の範囲である。一方、欧州特許第999259号明細書に示されるように、薬草抽出物、例えば、ローズマリーやセージ抽出物の存在下における回分式脱臭においては、この種の抽出物の脱臭および安定化有効成分は除去されない一方で、薬草の臭気および呈味成分だけでなく魚臭および魚味の発生に関与する成分は海産物油から除去される。効率がはるかに高いCCSD条件下で同様のことが起こるであろうこと、すなわち、CCSD条件下においても同様に、薬草抽出物脱臭剤および場合により酸化防止剤が添加された海産物油から、脱臭および安定化成分が、薬草の臭気および呈味成分ならびに魚臭および魚味成分と一緒に除去されないであろうことは予期されぬことであった。驚くべきことに、この種の油または海産物油を薬草抽出物脱臭剤の存在下にCCSDに付すことにより、高品質、すなわち、臭いおよび味に関する品質に非常に優れ、ランシマット誘導時間が長く、かつFAST指数が低いことを特徴とする食用油が得られることが見出された。
【0024】
したがって本発明は、脱臭および安定化された食用海産物油(組成物)の調製方法であって、海産物油を、好ましくは薬草抽出物脱臭剤の存在下に、所望により、酸化防止剤、例えば、パルミチン酸アスコルビルおよび/またはトコフェロールおよび/またはクエン酸を添加して、規則充填物を含む薄膜塔内において向流水蒸気蒸留(CCSD)に付すことを含む方法に関する。「薬草抽出物脱臭剤の存在下における海産物油」という用語には、薬草抽出物脱臭剤または薬草抽出物を含有する海産物油および薬草抽出物脱臭剤または薬草抽出物が添加された海産物油が包含される。
【0025】
本発明はまた、この方法により得られたまたは得ることができる脱臭および安定化された食用海産物油(組成物)、これらの食事療法(dietary)または健康補助剤としての使用、およびこれらの食品用途、強化食品(機能性食品)等の調製物を製造するための使用に加えて、これらの海産物油で強化された食事療法および健康補助剤ならびに食品そのものにも関する。
【0026】
本明細書において用いられる「海産物油」という用語は広く解釈すべきであり、少なくとも1種の長鎖(LC)PUFAを含む、藻類、プランクトン、魚類を含む海洋生物、好ましくは冷水魚およびアザラシ(遺伝子組換え/形質転換された生物を含む)由来の油に加えて、このような海産物油の一部または画分および成分が包含される。最も広義の「海産物油」という用語には、任意の生物から得ることができる油であって、劣化に伴い「魚臭」または他の不快な臭いおよび味の発生に関与するアルデヒドおよびケトンが発生し得る油が包含される。このような生物としては、動物、微生物(例えば、酵母)、および植物に加えて、前述したものの一部(例えば、種子)が挙げられる。
【0027】
「多価不飽和脂肪酸(PUFA)」という用語は、少なくとも2個のC−C二重結合を有するn−3、n−6、およびn−9(またはオメガ−3、オメガ−6、およびオメガ−9)脂肪酸、好ましくはn−3脂肪酸ならびにそのグリセロールまたはアルカノール、好ましくは低級アルカノール(エタノール等)とのエステルに関連する。LCn−6PUFAの例には、リノール酸(C18:2)、γ−リノレン酸(GLA、C18:3)、ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA、C20:3)、およびアラキドン酸(ARA、C20:4)がある。LCn−3PUFAの例には、α−リノレン酸(C18:3)、オクタデカテトラエン酸(C18:4;6,9,12,15)、エイコサペンタエン酸(EPA、C20:5;5,8,11,14,17)、ドコサペンタエン酸(DPA、C22:5;7,10,13,16,19)、およびドコサヘキサエン酸(DHA、C22:6;4,7,10,13,16,19)がある。特にEPAおよびDHAは、近年、食品業界からの注目を集めており、これらをグリセリルまたはアルキル(例えば、メチルまたはエチル)エステル形態、特に濃縮形態で含む海産物油は、本発明に関し好ましい興味深いものである。PUFAのグリセロールエステル(天然のものでも再構成されたものであってもよい)には、モノ−、ジ−、およびトリグリセリドが含まれ、特に後者に関心が寄せられている。メチルまたはエチルエステルは、海産物油をエステル交換することによって得られる。
【0028】
本発明の方法において出発物質として使用される海産物油またはその画分は、薬草抽出物脱臭剤、例えば、ローズマリーまたはセージ抽出物が添加された、未精製、脱ガム、脱酸、中和、部分酸化、部分精製、精製、脱色、および/または脱臭された海産物油であってもよい。好ましい出発物質は、シリカ吸着(炭素を用いるかまたは用いない)および/または短行程蒸留等の予備精製が施されたものである。CCSDの前に添加される薬草抽出物の量はその品質に応じて異なる。薬草抽出物の脱臭力に関わる成分の化学的性質およびこれらが作用する機構は現在のところ解明されていない。脱臭されたローズマリーまたはセージ抽出物を0.1〜0.4%(w/w)の範囲の量で用いると極めて優れた結果を得ることができる。しかしながら、この範囲に限定されるものではない。個々の事例に応じる原則で最適な量を決定してもよい。PUFAエチルエステルの場合は、例えば、ハーバロックス(Herbalox)が250ppmであっても依然として良好なランシマット値が得られている。
【0029】
脱臭および安定化された食用海産物油は、FAST指数(index)(商標)の数値が低い、すなわち2または1.5未満、好ましくは1〜2、1〜1.5、1〜1.3の間、より好ましくは1〜1.1の間、最も好ましくは数値が1.0であることを特徴とする。この指数は、訓練された試食パネルが示す魚臭さの尺度と正確な相関がある。頭字語「FAST」は、「脂肪酸の臭いおよび味(Fatty Acid Smell and Taste)」を表す。この方法は、臭気分子の自動化固相マイクロ抽出(SPME)とアンモニア負化学イオン化質量分析検出とを組み合わせたものである。これにより、魚味および魚臭を付与する3種類の特定の分子(4−ヘプテナール、2,6−ノナジエナール、および3,6−ノナジエナール)の濃度を測定することが可能になる。このデータを、アルゴリズムを用いて、これらの濃度を反映する評点に変換する。FAST指数(商標)は、人間の被検者が知覚する味の感度の範囲に評点1〜7が対応するように、人間の試食パネルに合わせて較正されている。評点1は、魚味が全くない(すなわち「なし」)、評点2は「ごくわずか」、評点3は「わずか」、評点4は「中程度」、評点5は「強い」、評点6は「非常に強い」ことを示し、一方、評点7は、極度に強い魚味を示す。人間の味覚は評点7またはそれよりやや上で飽和するが、FAST指数(商標)は、呈味および臭気分子を評点が数百になるまで測定することができる。米国油化学会(American Oil Chemists’ Society)の雑誌INFORM(第12巻、pp.244〜249、2001年3月)において、N・マクファーレン(N.Macfarlane)らは、魚の風味を定量化するための試験を必要としており、FAST指数(商標)の技法を説明し、分析データを評点に変換するアルゴリズムを開示している。以下に示すアルゴリズムが開発されたものである:魚味指数(Fish taste index)=1+(0.312×A)+(0.11×B)+(0.03×C)、(式中、A=2.6−ノナジエナール(ppb)、B=4−へプテナール(ppb)、C=3.6−ノナジエナール(ppb))。
【0030】
特に、2,6−ノナジエナール、3,6−ノナジエナール、および4−ヘプテナールは、海産物油の望ましくない臭いおよび/または安定性の低下に必ず関与する分子であり、FAST指数で測定されるので、これらの化合物を除去(完全にまたは高度に)することは、本発明により達成される特定の実施形態である。本方法により、これまで達成されなかった品質を象徴するFAST指数1.0の海産物油を得ることができる。
【0031】
したがって、本発明のさらなる実施形態は、これらの分子をFAST指数(商標)が1.0となる濃度まで除去または低減させることであり、ここで1.0とは、1.1未満であるが、1.01は包含されると理解すべきである。
【0032】
FAST試験で述べた3種の分子以外にも、異なる風味属性を有し、分析で確認できる量が存在した場合に異風味の一因となり得る他のアルデヒドおよびケトンが存在する。このような分子としては、アルカナール類(ペンタナール − ブルーチーズ;ヘキサナール − サヤヌカグサ;ヘプタナール − 化学物質、不快;オクタナール − 化学物質、プラスチック;ノナナール − 化学物質、プラスチック)、アルケナール類(2−ヘキセナール − 苦み;2−ヘプテナール − 苦み;2−オクテナール − 木の実の風味;2−ノネナール − 化学物質、不快)、アルカジエナール類(2,4−ヘプタジエナール − 酸敗臭;2,4−ノナジエナール − 酸敗臭)、およびケトン類(1−ペンテン−3−オン − 化学物質、プラスチック;1−オクテン−3−オン − キノコ;3,5−オクタジエン−2−オン − 金属)が挙げられる。これらを知覚限界未満まで低減することは、特異味や特異臭のない油の製造に重要であり、これらの化合物が存在するか否かを定量的に測定することは、本発明の脱臭および安定化された海産物油を先行技術の安定化/脱臭海産物油と差別化するのに役立つであろう。本食用海産物油中においては、これらの成分は検出限界まで低減されている。
【0033】
他方、海産物油の安定性は、ランシマット誘導時間(RIT)値で与えられる。この値は、油が酸敗開始に達するまでの時間間隔を時間単位で表したものである。この値は、ランシマットRTM装置(スイス国ヘリサウCH−9101のメトローム・リミテッド(Metrohm Ltd.,CH−9101 Herisau,Switzerland))を用いて100℃で測定される。高温で測定されたこの値から、より低温、例えば20℃または10℃における油の安定性を外挿により推定することができる。本発明の海産物油は、100℃におけるランシマット安定性が2を超え、好ましくは3.8を超え、より好ましくは5.2、6、または6.2を超え、最も好ましくは10.15〜20時間の範囲にあることを特徴とする。
【0034】
本発明のさらなる実施形態においては、本発明の海産物油は、周知の技法に従い、散剤、プレミックス、顆粒剤、小ビーズ(beadlet)、サプリメント形態、錠剤、丸剤、ローション剤、液剤、または乳剤にさらに加工される。
【0035】
本発明の海産物油を含む/ベースとする組成物および調製物または配合物は、食品、動物飼料、化粧品または医薬品製剤に一般的な有機担体分子をさらに含んでいてもよい。
【0036】
上述したように、安定剤/酸化防止剤を添加することによる海産物油の安定化は最新の方法であり、本発明を組み合わせることにより本発明の好ましい実施形態となる。安定剤の具体例としては、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、BHT、t−ブチル−ヒドロキノン(TBHQ)、ローズマリー抽出物、例えば、ミシガン州カラマンズーのカルセック・インコーポレーテッド(Kalsec,Inc.,Kalamazoo,Michigan)からのハーバロックス「O」、セージ抽出物、トコフェロール、レシチン、およびクエン酸が挙げられる。
【0037】
本発明はまた、安定化および脱臭された海産物油を調製するための工業的方法を飛躍的に進歩させるものである。薄膜向流技術を用いることにより、単位時間当たりの油の製造量がかなり増加する。使用される塔の寸法に応じて、1時間当たり10kgを超える量を達成することが可能である。好ましくは、生成物の収率は、1時間当たり100kgを超えるかまたは1時間当たり1000kgでさえあり、これは、海産物油または海産物油画分に関し工業的に意味のある量に相当する。好ましい梱包サイズとしては、試料が4kgを超え、好ましくは19kgを超え、より好ましくは170kgを超え、最も好ましくは900kgを超えるものが挙げられる。
【0038】
脱臭および安定化すべき海産物油の薄膜を生じさせ、それによって気相(水蒸気)と高度に接触させる規則充填物、特に非常に効率の高い規則充填物を含むあらゆる種類の薄膜塔を本発明の実施に使用することができる。この種の薄膜塔用の異なる材料を用いた多くの規則充填物が周知である。特定の一実施形態においては、波形の金属シート充填物により極めて優れた結果が得られる。本発明の方法に有用な数多くの市販の充填塔の中でも、特に以下の充填物を例として挙げる:スルザー・メラパック(Sulzer Mellapak)、スルザー・メラパック・プラス(Sulzer Mellapak Plus)、スルザー金網タイプBX、BX・プラス(BX Plus)、もしくはCY、スルザー・メラグリッド(Sulzer Mellagrid)、ナッター・グリッド(Nutter grid)、ケーニ・ロンボパック(Kuehne Rombopak)、またはZehua Sepak。これらの使用は本発明の好ましい実施形態を代表するものである。
【0039】
水蒸気との接触は様々な方法で実施してもよい。しかしながら、特に効果的な一方法においては、海産物油または海産物油画分を塔の頂部または上部から加え、水蒸気を底部または下部から加え、したがって、塔を向流方式で運転する。
【0040】
本発明は、回分式または半連続式方法で実施してもよいが、この方法は連続方式で実施することが好ましい。本発明の特に好ましい一実施形態においては、塔は、連続式向流水蒸気塔として運転され、この方法は向流水蒸気蒸留(CCSD)である。
【0041】
本発明者らは、薄膜塔における理論段数がこの方法の質に影響すると考えている。好ましい一実施形態においては、非常に効率の高い規則充填物を含む薄膜塔が、NTS(理論段数)が10超、好ましくは50超、より好ましくは約60または60〜100の間で運転される。物理的な棚段をまったく含まない塔が特に好ましいが、現在のところ、1つの物理的棚段によって本発明の方法の利点が減ることはないであろうと考えられており、2つの物理的棚段さえも許容される。
【0042】
塔頂部と塔底部との圧力差(圧力損失)が、生成する組成に影響する場合があることが認められている。したがって、本発明の好ましい実施形態においては、塔底部と塔頂部との間の圧力損失は2mバール/m未満、好ましくは0.01〜1mバール/m、より好ましくは0.8〜1.0mバール/mである。
【0043】
海産物油および水蒸気の比率によってこの方法の結果が異なることも認められている。現時点においては、幾つかの実施形態において、海産物油対水蒸気の比率(w/w)が1000:1〜10:1、好ましくは500:1〜20:1、より好ましくは200:1〜50:1、最も好ましくは160:1〜70:1で薄膜塔を運転することが好ましい。実際、比率が120:1.8で非常に良い結果が得られる。
【0044】
本方法は、原料の有効な使用法を提供するものである。これにより、廃棄物を大幅に削減できることが認められている。もちろん、原料の性質および品質が物質収支に影響することは明白である。好ましい実施形態においては、例えば、既に精製された海産物油から出発する場合は、海産物油の物質収支、すなわち水蒸気と接触させる前後の差が5重量%未満である。
【0045】
塔の測定上の寸法は、この方法の経済性に影響を与える。0.5〜20m、好ましくは1〜12m、より好ましくは2〜10m、最も好ましくは7mを超える活性規則充填物を含む塔を使用することが好ましい。海産物油と水蒸気との平均接触時間が比較的短く、その結果として、本方法による脱臭および安定化された単位海産物油当たりの製造時間が大幅に短縮されることが本発明の極めて重要な利点である。
【0046】
その1つの理由は、薄膜塔内における海産物油の滞留時間が比較的短いことにある。本発明の好ましい実施形態における塔内の液相の滞留時間は、0.5〜60分間、より好ましくは5〜30分間、2〜20分間、または5〜10分間である。特に好ましくは、気相の塔内の滞留時間は、0.5〜10秒間である。
【0047】
本発明の方法に付すことにより安定化することができる海産物油には様々なものがある。好ましい海産物油は、ニシン(menhaden herring)、イワシ(sardine)、カタクチイワシ(anchovy)、ピルチャード(pilchard)、マグロ(tuna)、メルルーサ(hake)、ナマズ(catfish)、カラフトシシャモ(capelin)、タイセイヨウアカウオ(red fish)、ホワイトフィッシュ(white fish)、サバ(mackerel)、マアジ(jack mackerel)、イカナゴ(sand eel)、ビブ(pout)、サケ(salmon)、ポラック(pollock)、タラ(cod)、オヒョウ(halibut)、マス(trout)、カラフトシシャモ(capelin)、ブルーホワイトニング(blue whitening)、スプラットイワシ(sprat)、小型のサメ(dogfish)等の魚類由来の油およびこの種の油の混合物である。
【0048】
本発明は、海洋生物から得られたそのままの全画分を含む(complete)油の安定化および脱臭のみではなく、海産物油の画分の安定化および脱臭にも関する。本方法の原料として利用可能な様々な品質の海産物油が存在し、その品質がその年齢に依存することは当業者に明らかである。本発明の方法に従い処理される前に1またはそれ以上の不純物除去ステップを既に施されたものであってもよい。したがって、本発明の方法に用いるための出発物質または原料には、不純物除去されていない未精製の海産物油、脱ガムされた海産物油、脱酸された海産物油、脱色、部分および完全精製された海産物油、中和された海産物油、脱色された海産物油、安定化および/または脱臭された海産物油、ならびにこれらの混合物が包含される。本方法の最も好ましい実施形態においては、原料にはシリカ吸着が施されており、かつ既に薬草抽出物脱臭剤を含んでいるかまたは本方法に付すほぼ直前にこの種の薬草抽出物脱臭剤が添加されている。
【0049】
本発明の特定の一実施形態においては、海産物油は食用油であり、多価不飽和脂肪酸を、その天然または再構成されたグリセリド、主としてトリグリセリドの形態で含む。この油は、80℃〜250℃、好ましくは100℃〜230℃、より好ましくは180℃〜220℃の温度で供給および処理される。
【0050】
本発明の他の実施形態においては、海産物油は、アルキルエステル、好ましくはメチルまたはエチルエステルの形態の多価不飽和脂肪酸を含み、60℃〜200℃、好ましくは80℃〜180℃、より好ましくは105℃〜150℃または120℃〜160℃の温度で供給および処理される。
【0051】
水蒸気の温度は100℃〜290℃、好ましくは140℃〜160℃である。
【0052】
本方法は常圧下で実施してもよいが、減圧下において最も良好に作用することは明らかである。したがって、好ましい実施形態においては、薄膜塔は、0.1〜10hPa、好ましくは0.5〜10hPa、より好ましくは1〜5hPaの圧力で運転される。
【0053】
本発明の方法の実施に関連して、様々なさらなる通常の工程ステップを実施してもよい。1つの好ましいステップは脱泡である。本発明の特殊な実施形態においては、本方法は、海産物油を、好ましくは水蒸気と接触させる前に、Oが1ppm(海産物油の体積による)未満、好ましくは0.5ppm未満となるまで脱泡することを含む。
【0054】
他の特殊な好ましい手段は、水分を蒸発させることである。この改良点は、海産物油を、好ましくは水蒸気と接触させる直前に、水分が50ppm(海産物油の重量を基準とする)未満、好ましくは水分が1〜50ppmとなるまで蒸発させることにある。
【0055】
水蒸気は、酸化成分、例えばOを含まないことが必要である。普通の水道水からの水蒸気で十分なことがわかっている。
【0056】
本発明の特定の実施形態においては、脱臭工程の後に、安定剤、例えば、酸化防止剤および/またはさらなる脱臭剤、例えば薬草抽出物を添加してもよい。
【0057】
本発明の海産物油は有利な官能特性および高安定性を示すという観点から、有利には、PUFA含有海産物油とそのまま置き換えても、上市されている最新技術による組成物および調製物または配合物中、栄養補助剤中、ならびに食事療法用または強化/機能性食品中において置き換えてもよい。本発明の脱臭および安定化された海産物油の主要な市場は食品市場である。しかし、飼料市場における用途にも興味深い面があることが予想される。本発明の文脈においては、ペットフード市場も対象となる。同様に、化粧品および医薬品市場においても予想される用途が幾つかある。本発明の好ましい実施形態においては、本発明の方法により得られる組成物は健康補助剤として使用することができ、これは食品用途に含めてもよい。不純物を含まない安定な海産物油の興味深い限定的な分野には、乳製品、乳幼児向け栄養製品、または離乳食製品がある。具体例としては、飲料またはシリアルが挙げられる。この組成物は、有利には、海産物油成分の酸化および劣化による味および臭いの変化に最も敏感な製品である乳、ヨーグルト、および果汁100%ジュースに適用することができる。
【0058】
したがって本発明は、本発明による脱臭および安定化された食用海産物油を含む食事療法または健康補助剤に加えて強化または機能性食品ならびにn−3PUFAに富むこの種の製品を調製する方法にも関する。
【0059】
本発明の、PUFA、特にn−3またはω−3PUFA、特にEPAおよびDHAに富む海産物油は、有利には、食事療法、健康、もしくは栄養補助剤またはn−3脂肪酸を強化した食品(機能性食品)の製造に、例えば、米国特許出願第2007/0298079号明細書に記載されているような周知の方法に従い使用してもよい。このような方法に従い、中間食品またはその成分から強化食品が製造され、これは、その中間食品またはその成分に、所望量(通常は食品1食分当たり5〜5000mg、好ましくは少なくとも16mg)のn−3脂肪酸を含む量の海産物油を、そのままの液体形態またはエマルジョンもしくはゲル形態または乾燥形態(例えばマトリックス中に封入された粉末)で添加し、これを高速混合により分散させ、所望により、こうして得られた実質的に均質なブレンド物をさらなる処理および後処理に付すことによって所望の製品を得ることによる。この中間食品は、果汁(FCまたはNFC)、例えば柑橘果汁、非柑橘果汁、乳飲料、エネルギー補給飲料、スポーツ飲料、強化/補充(enhanced)水飲料、大豆飲料、発酵飲料、炭酸飲料、このような果汁および飲料の混合物、ヨーグルト、オートミール、シリアル、ケーキ、スナックバー、プリン、チーズ、ならびにこれらの組合せであってもよい。さらなる処理および後処理は、当該技術分野において周知の方法に従い実施され、例えば、それぞれ、低温殺菌および冷却または容器および包装体への充填が含まれる。
【0060】
他の特定の実施形態においては、本発明の海産物油は、国際公開第0147377号パンフレットおよび欧州特許第1241955号明細書に記載されている種類の栄養補給および活力回復(refreshing)用液体調製物、例えば、果汁100%オレンジジュースの製造方法に使用してもよく、この文書の内容を本発明の一部を構成するものとして本明細書に組み込む。当該明細書に記載されている活力回復用調製物および類似物の質的および量的組成は、本発明の海産物油の食品用途の代表例である。
【0061】
本海産物油は、この種の油に加えて、例えば、米国特許出願第2007/0010480号明細書(この文書の内容を本発明の一部を構成するものとして本明細書に組み込む)に記載されているような減量または体重管理を目的とした低脂肪ダイエットの状況下における少なくとも1種の食物繊維(難消化性デンプン、フラクトオリゴ糖、オリゴフルクトシド(oligofructoside)、イヌリン等)を含む食事療法用組成物および食品調製物の一部であってもよく、かつその製造に有用な可能性がある。少なくとも1種のn−3脂肪酸成分が本海産物油である食事療法用組成物およびその食品調製物もまた、本発明の食事療法または健康補助剤および強化/機能性食品の代表例である。
【0062】
最後に、本発明の他の特定の実施形態は、国際公開第2006/117164号パンフレット(この文書の内容を本発明の一部を構成するものとして本明細書に組み込む)に記載の栄養補助剤および機能性食品である、n−3脂肪酸の供給源が本発明の海産物油であり、少なくとも1種の堅果油および風味担体(flavor carrier)をさらに含む、サラダドレッシング等である。
【0063】
海産物油ならびに/または海産物油画分ならびに/またはPUFAならびにPUFA(アルキル)エステルおよび(トリ)グリセリドの異臭および異味を打ち消すために柑橘風味剤を加える様々な用途が当該産業に存在することは言及に値する。本発明により得ることができる最終製品はこの種の添加剤を必要としないが、クエン酸等の柑橘風味剤を組み合わせることは包含される。実際は、柑橘風味剤は、傷んだ食品を検知する人体本来の防御機構を妨害する可能性があるため、添加しないことが好ましい。
【0064】
最後に、本発明の海産物油は、化粧品および医薬品産業において周知の方法に従いガレヌス製剤の調製に使用してもよい。
【0065】
本発明を以下の実施例によりさらに例示するが、これらに限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]
蒸留された海産物油のエチルエステル濃縮物を薄膜塔(長さ8m、直径250mm、スルザーBX金網充填物を備えたステンレス鋼塔)内において以下の運転条件で向流水蒸気蒸留に付した:
温度:150C、圧力:1〜2mバール、油供給ラテル(ratel):100kg/h、水蒸気供給量:1.8kg/h。
【0067】
このような条件下で処理された様々な海産物油のエチルエステル濃縮物は極めて優れた官能特性およびランシマット安定性を示し(表1参照)、これは、酸化防止剤を含む安定剤を添加することによってさらに向上させることができる。
【0068】
当該産業において一般的なことではあるが、得られた油の安定性をランシマットRTM装置(スイス国ヘリサウCH−9101のメトローム・リミテッド)を用いて100℃で評価した。測定値は、油が酸敗開始に達するまでの時間間隔(時間)を表している。
【0069】
【表1】



【0070】
[実施例2]
部分精製された海産物油を薄膜蒸発器において30mバールの減圧下で150℃に予備加熱した。その直後に、油を薄膜塔(長さ8m、直径250mm、スルザーBX充填物を備えたステンレス鋼塔)内において以下の条件下で向流水蒸気蒸留に付した:
温度:210℃、圧力:1〜2mバール、油供給量:100kg/h、水蒸気供給量:1.8kg/h。
【0071】
水蒸気処理の後、油を冷却し、FAST指数値を測定した(表2参照)。用いた式を以下に示す:魚味(Fish Taste)(FAST)指数=1+(0.31A)+(0.11B)+(0.03C)(A=2,6−ノナジエナール、B=4−ヘプテナール、C=3,6−ノナジエナール(ppb))。
【0072】
このモデルを用いることにより、本発明の方法に従い調製された試料および数種の市販品の感覚的なイメージ(sensory picture)をうまく描くことができる。(アルキル)エステル濃縮物よりも安定な市販の油(グリセリド)は、FAST指数値が20〜100の範囲にあり、エステル濃縮物の値は60〜2500の範囲にある。これは、たとえ酸化が数ppmを超えない場合があったとしても、これらの製品がすべて魚臭くなり得ることを意味する。このことは、n−3サプリメントで「後味」現象がよく起こる理由ならびにこれらの製品の処理および消費において多くの問題が起こる理由の説明となる。
【0073】
【表2】



【0074】
実施例2からの材料を酸化防止剤と混合することによりこれらの生成物の酸化安定性を改善してさらなる実験を実施した。その結果のうちの幾つかを以下に記載する。この選択が本発明の範囲を限定するものではないことは当業者に明らかである。
【0075】
TBHQが強力な酸化防止剤であることはかなり以前から知られている。予期せぬ事に、本発明者らは、これがローズマリー油の強力な相乗剤であることを見出した。ローズマリー抽出物0.2%、パルミチン酸アスコルビル200ppm、および混合トコフェロール1000ppmを含むロプファ(Ropufa)(登録商標)食用油のランシマット誘導時間は100℃で5.4時間である。トコフェロールをTBHQ200ppmで置き換えると、誘導時間は増加して100℃で10時間を超える。薬草由来のフェノール類(herb phenolics)およびTBHQの異なる組合せを含むロプファ(登録商標)食用油の酸化安定性の結果を以下の表3に示す。どの場合においても、ランシマット誘導時間(RIT)は4時間を超えている。
【0076】
【表3】



【0077】
[実施例3]
(A)ロプファ「30」n−3食用油用のオランダ国のSmit&Zoonからの海産物油系DHAは以下の規格値を有する:
外観:黄色油
色数(ガードナー):11以下
味:許容可能
臭い:非常に微かな魚臭
酸価:0.5以下(mgKOH/g油)
過酸化物価:5.0以下(mEq/kg油)
p−アニシジン価:30以下
不けん価物:2.0%以下
DPA含有量:1.0%以下
EPA含有量:10.5%以上
DHA含有量:16.0%以上
総n−3脂肪酸:30.0%以上
総n−3長鎖PUFA(DPA+EPA+DHA):25.0%以上
ビタミンA:100IU/ml以下
ビタミンD3:50IU/ml以下
コレステロール:0.5%以下
【0078】
(B)上の海産物油は完全に精製(標準的な油精製手順により脱ガム、脱色、および脱臭)されている。しかしながら、人間が消費するための特異味や特異臭のない安定化された海産物油の製造を目的とする場合は、これは粗精製と称され、食品用途に適したものとするためにさらなる段階を経なければならない。
【0079】
[(C1)シリカ吸着]
原料の海産物油500kgを、窒素中、1000Lの槽に供給した。これにシリカ(Silika)5%(w/w)を添加し、撹拌を開始した。槽内を40hPaに減圧した。100hPaに到達したらすぐに槽の内容物を70℃に加熱した。撹拌、温度、および圧力を5時間維持した。次いで、槽の内容物を40℃に冷却し、まず(firdt)10マイクロバッグフィルター、続いて1マイクロキャンドルフィルターで濾過した。濾過された油の半量にハーバロックスを2000ppm加えた。
【0080】
[(C2)シリカおよび炭素吸着]
原料の海産物油500kgを、窒素中、1000Lの槽に供給した。これにシリカ5%(w/w)を添加し、撹拌を開始した。槽内を40hPaに減圧した。100hPaに到達したらすぐに槽の内容物を70℃に加熱した。撹拌、温度、および圧力を2時間維持した。次いで、圧力を常圧に設定し、活性炭2%を添加した。槽内を再び40hPaに減圧した。撹拌、70℃の温度、および圧力をさらに3時間維持した。次いで、槽の内容物を40℃に冷却し、まず10マイクロバッグフィルター、続いて1マイクロキャンドルフィルターで濾過した。濾過された油の半量にハーバロックス2000ppmを添加した。
【0081】
[(D)向流脱臭]
PUFA油を連続向流水蒸気蒸留(CCSD)により脱臭した。油を脱臭塔に供給する前に、油を、温度140℃、圧力40hPaの脱泡装置で脱泡した。脱泡した後、油をさらに熱交換器で210℃の温度まで予備加熱し、次いで、脱臭塔の塔頂部に供給した。脱臭塔は、内径が50mmであり、規則充填物(型式:ケーニ(Kuehni)・ロンボパックS6M)を備えるものとした。塔内の規則充填物の長さは4mとした。塔内の充填物の下側に、標準的な水蒸気発生装置からの水蒸気を連続供給した。水蒸気の圧力を約4バール(4000hPa)とし、温度を約144℃とした。塔自体の内部は、3段真空ポンプ装置を用いて非常に低い真空度に維持した。塔頂部の圧力を2hPaに調節した。油液相および水蒸気気相の向流流れにより、付臭成分を油から除去した。油のマスフローン(mass flown)を全体で11kg/hとし、水蒸気の質量流量を全体で0.1kg/hとした。脱臭された油を80℃に冷却し、最後に、3種の異なる酸化防止剤を添加した(トコフェロール:1000ppm、パルミチン酸アスコルビル:250ppm、クエン酸:25ppm)。
【0082】
[(E)食用油の乳への適用(0.2%)]
[調製]
− アスコルビン酸ナトリウムを乳の一部に溶解
− 乳に食用油を添加
− 均質化(2回、150および50バール)
− 乳を200mlの瓶に充填
− 低温殺菌(80℃、カーネル(kernel)で1分間)
− 冷蔵庫で2週間保管
【0083】
【表4】



【0084】
[(F)ナチュラルヨーグルト(Natural Yoghurt)(撹拌タイプ)への食用油の適用]
[調製]
− 乳を30℃に加熱
− 脱脂粉乳、安定剤、および糖の混合物を添加
− 混合
− 65℃に加熱
− 食用油を添加
− 均質化(65℃、200kg/cm、2分間)
− 低温殺菌(90℃、15分間)
− 15℃に冷却
− ナチュラルヨーグルトを添加し混合
− 45℃で3〜4時間(pH4.3)発酵
− 冷却し短時間で激しく撹拌
− 全量をカップに充填し、封止
− 5℃以下の温度で保管
【0085】
【表5】



【0086】
[官能評価]
官能法としてプロファイルテストを実施した。官能検査は、消費者が臭いおよび味に基づきその食品を受け容れるかどうかに関連する、最も重要な情報が得られるものである。この方法は非常に感度が高く、風味の安定性に関する情報が得られるものである。
【0087】
すべての試料を訓練された試食パネルに供した。異なる属性の観点から見た内部尺度を用いた記述的分析により官能分析を実施した。内部尺度は6つの間隔からなり、「感じない」に属するレベル1から始まり、「極めて強い」のレベル7まである。有意差があるかどうかを確認するために分散分析(ANOVA)を実施した。有意水準5%の最小有意差検定(L.S.D.)を用いて多重比較を実施した。
【0088】
【表6】



【0089】
[実施例4]
実施例3に記載した方法と同様にして、カナダ国のオーシャン・ニュートリション(Ocean Nutrition,Canada)(ONC)からのエステル交換された海産魚油(marine fish oil)を脱臭した。ONCからのEE75魚油エチルエステルの規格を以下に示す:
外観:黄色油
色数(ロビボンド(Lovibond)赤5・1/4インチ):0.5以下
酸価:3.0以下(mgKOH/g油)
過酸化物価:5.0以下(mEq/kg油)
p−アニシジン価:20以下
EPA含有量:42.0%以上
DHA含有量:22.0%以上
総n−3脂肪酸:75.0%以上

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱臭および安定化された食用海産物油の調製方法であって、規則充填物を含む薄膜塔内において海産物油を向流水蒸気蒸留(CCSD)に付すことと、所望により酸化防止剤を添加することとを含む方法。
【請求項2】
前記海産物油が、薬草抽出物脱臭剤の存在下に前記CCSDに付される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
連続式向流水蒸気蒸留である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記薬草抽出物脱臭剤が、ローズマリーおよび/またはセージ抽出物である、請求項2または請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化防止剤が、パルミチン酸アスコルビルおよび/またはトコフェロールおよび場合によりクエン酸を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記海産物油が、少なくとも1種のPUFA(多価不飽和脂肪酸)を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記海産物油が、PUFAを含む食用油またはアルキルエステル、好ましくはエチルエステル濃縮物である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記蒸留が、0.1〜10hPa、好ましくは0.5〜10hPa、より好ましくは1〜5hPaの減圧下で実施される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法により得られた脱臭および安定化された食用海産物油。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法により得ることができる脱臭および安定化された食用海産物油。
【請求項11】
FAST指数(商標)が1.5未満、好ましくは1.3〜1、より好ましくは1.1〜1、最も好ましくは1.0であることを特徴とする、脱臭および安定化された食用海産物油。
【請求項12】
ランシマット誘導時間値が6.2時間を超えることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の海産物油。
【請求項13】
ランシマット誘導時間が10.15〜20時間の範囲にあることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の海産物油。
【請求項14】
食事療法または健康補助剤、強化食品および飼料(機能性食品/飼料)に加えて化粧品または医薬品製剤の製造における、請求項9〜13のいずれか一項に記載の脱臭および安定化された食用海産物油の使用。
【請求項15】
請求項9〜13のいずれか一項に記載の脱臭および安定化された食用海産物油を含む食事療法または健康補助剤。
【請求項16】
請求項9〜13のいずれか一項に記載の脱臭および安定化された食用海産物油を含む強化/機能性食品。
【請求項17】
請求項9〜13のいずれか一項に記載の脱臭および安定化された食用海産物油を含む化粧品。
【請求項18】
請求項9〜13のいずれか一項に記載の脱臭および安定化された食用海産物油を含む医薬品製剤。
【請求項19】
請求項9〜13のいずれか一項に記載の脱臭および安定化された食用海産物油の製造における、規則充填物が充填された薄膜蒸留塔の使用。
【請求項20】
請求項15および16に記載のn−3PUFAに富む食事療法、健康、もしくは栄養補助剤または強化/機能性食品を、中間食品またはその成分から製造する方法であって、それ/それらに、所望量のn−3脂肪酸を含む量の、そのままの液体形態またはエマルジョンもしくはゲル形態または乾燥形態の前記海産物油を加え、これを高速混合することにより分散させ、所望により、こうして得られたブレンド物をさらなる処理および後処理に付すことにより所望の製品にすることを特徴とする、方法。

【公表番号】特表2010−526896(P2010−526896A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506862(P2010−506862)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003782
【国際公開番号】WO2008/138575
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】