説明

液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置

【課題】液体噴射面を確実に保護すると共に液体噴射不良を防止した液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体を噴射する複数のノズル開口21が開口する液体噴射面Aを有する液体噴射ヘッド2と、該液体噴射面Aに接合されて前記液体噴射ヘッド2を保持する保持部材250と、前記液体噴射ヘッド2の前記液体噴射面Aを払拭する払拭部材と、を具備し、前記保持部材250は、前記液体噴射面Aの複数のノズル開口21の周囲に亘って設けられた接合部252と、該接合部252により画成された複数のノズル開口21を露出する露出開口部251とを具備し、前記接合部252の前記液体噴射ヘッド2の前記液体噴射面Aと前記保持部材250の液体噴射面との間に、前記露出開口部251と外部とを連通する空間を画成する空洞部255を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドを具備する液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドユニット及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録ヘッドユニット(以下、ヘッドユニットとも言う)としては、インクを吐出するノズル開口が開口する液体噴射面を有するインクジェット式記録ヘッドと、インクジェット式記録ヘッドの液体噴射面に接着剤を介して接着される固定板等の保持部材とを具備するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、液体噴射面を保護するヘッドカバー(保持部材)に切り欠き部を設け、払拭手段によって液体噴射面を払拭した際に、インクが切り欠き部から排出されるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−96419号公報
【特許文献2】特開2004−74676号公報
【特許文献3】特開2000−190513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ヘッドカバーなどの保持部材にインクジェット式記録ヘッドの液体噴射面を払拭手段によって払拭する際にインクが排出される切り欠き部を設けると、切り欠き部によって液体噴射面が露出されてしまい保護されず、紙ジャムなどによって紙などの記録用紙が液体噴射面に接触し、液体噴射面が変形するなどの問題や液体噴射面に傷が付くなどの問題がある。
【0006】
特に、インクジェット式記録ヘッドに比較的厚さの薄いノズルプレートを設けた場合、紙ジャムによってノズルプレートが変形し易いという問題がある。
【0007】
また、特許文献2及び3のように、保持部材に切り欠き部を設けると、ワイパーブレード等の払拭手段に付着したインクを除去することができず、払拭手段に付着したインクが増粘し、次の払拭の際に増粘したインクがノズル開口に付着してインク吐出不良等が発生してしまうという問題がある。また、払拭手段に付着したインクを除去する除去手段が別途必要で、高コストになってしまうという問題がある。
【0008】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドユニットに限定されず、インク以外の他の液体を噴射する液体噴射ヘッドユニットにおいても同様に存在する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、液体噴射面を確実に保護すると共に液体噴射不良を防止した液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射する複数のノズル開口が開口する液体噴射面を有する液体噴射ヘッドと、該液体噴射面に接合されて前記液体噴射ヘッドを保持する保持部材と、前記液体噴射ヘッドの前記液体噴射面を払拭する払拭部材と、を具備し、前記保持部材は、前記液体噴射面の複数のノズル開口の周囲に亘って設けられた接合部と、該接合部により画成された複数のノズル開口を露出する露出開口部とを具備し、前記接合部には、前記液体噴射ヘッドの前記液体噴射面と前記保持部材の液体噴射面との間に、前記露出開口部と外部とを連通する空間を画成する空洞部が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニットにある。
かかる態様では、払拭部材による液体噴射面の払拭によって当該液体噴射面に付着した液体を空洞部を介して外部に排出することができるため、液体噴射面に残留した液体によって保持部材が液体噴射面から剥がれたり、液体噴射面に残留した液体が増粘して、増粘した液体がノズル開口に付着することによる液体噴射不良などが発生するのを防止することができる。また、保持部材と液体噴射面との間に空洞部を設けることによって、液体噴射面は保持部材によって覆われていることになり、液体噴射面を確実に保護することができる。
【0011】
ここで、前記液体噴射ヘッドを複数具備すると共に、前記保持部材には前記露出開口部が複数設けられて、各露出開口部から各液体噴射ヘッドの前記液体噴射面の複数のノズル列が露出され、前記空洞部が、前記露出開口部毎に且つ複数のノズル開口の並設方向の一方側に設けられていることが好ましい。これによれば、液体噴射面をノズル開口の並設方向に払拭した際に、払拭した液体が空洞部を介して外部に確実に排出させることができる。また、露出開口部毎に空洞部が設けられているので、隣り合う空洞部との間に液体が滞留して増粘過剰になることによる払拭不能という不具合が発生しない。
【0012】
また、前記空洞部の内面には、撥液膜が設けられていることが好ましい。これによれば、撥液膜によって空洞部内の液体を外部に排出し易くすることができる。
【0013】
また、前記液体噴射面には、前記ノズル開口の周囲に撥液膜が設けられた撥液領域と、該撥液膜が設けられていない非撥液領域とが設けられていると共に、前記保持部材が前記液体噴射ヘッドの非撥液領域に接合されていることが好ましい。これによれば、保持部材と液体噴射面との接合強度を向上して耐久性を向上することができる。
【0014】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドユニットを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。かかる態様では、液体噴射特性が劣化しない液体噴射装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置を示す概略図である。図1に示すように、液体噴射装置の一例であるインクジェット式記録装置Iは、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドを有するインクジェット式記録ヘッドユニット1(以下、ヘッドユニット1とも言う)を有し、ヘッドユニット1には、インク供給手段を構成するインクカートリッジ1A及び1Bがそれぞれ着脱可能に設けられている。そして、インクカートリッジ1A及び1Bが搭載されたインクジェット式記録ヘッドユニット1は、キャリッジ3に搭載されている。
【0016】
インクジェット式記録ヘッドユニット1を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。なお、ヘッドユニット1は、例えば、インクカートリッジ1A及び1Bにそれぞれ貯留されたブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0017】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、ヘッドユニット1を搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0018】
なお、インクジェット式記録装置Iには、プラテン8に並設されてヘッドユニット1の液体噴射面を払拭するゴム等の弾性部材からなるブレードを有する払拭部材9が設けられている。この払拭部材9によってヘッドユニット1のインク(液体)が噴射される液体噴射面を払拭することで、液体噴射面に付着したインク(液体)を拭き取ることができる。なお、払拭部材9による液体噴射面の払拭方向については詳しくは後述する。
【0019】
ここで、本実施形態の液体噴射ヘッドユニットの一例であるインクジェット式記録ヘッドユニット1について詳細に説明する。なお、図2は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドユニットを示す分解斜視図であり、図3は、インクジェット式記録ヘッドユニットの組立斜視図である。
【0020】
図示するように、本発明のインクジェット式記録ヘッドユニット1を構成するカートリッジケース210は、インク供給手段であるインクカートリッジ1A、1B(図1参照)がそれぞれ装着されるカートリッジ装着部211を有する。例えば、本実施形態では、インクカートリッジは、ブラック及び3色のカラーインクが充填された別体で構成され、カートリッジケース210には、各色のインクカートリッジがそれぞれ装着される。なお、カートリッジケース210の底面には、図示しないが、一端が各カートリッジ装着部211に開口し、他端が後述するヘッドケース側に開口する複数のインク連通路が設けられている。また、カートリッジ装着部211のインク連通路の開口部分には、インクカートリッジのインク供給口に挿入されるインク供給針213が、インク内の気泡や異物を除去するためにインク連通路に形成されたフィルタ(図示なし)を介して固定されている。
【0021】
また、このようなカートリッジケース210の底面側には、複数のインクジェット式記録ヘッド2が固定されている。
【0022】
インクジェット式記録ヘッド2は、インクカートリッジ1A、1B(図1参照)のインク色毎に対応して複数設けられている。本実施形態では、1つのインクジェット式記録ヘッドユニット1に4つのインクジェット式記録ヘッド2が設けられている。
【0023】
ここで、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド2について詳細に説明する。図4は、インクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図5はインクジェット式記録ヘッドの要部断面図であり、図6は、固定板とインクジェット式記録ヘッドとを示す平面図及びそのA−A′断面図である。図4及び図5に示すように、インクジェット式記録ヘッド2は、ヘッド本体220と、ヘッド本体220の液体噴射面Aとは反対側に設けられたヘッドケース230とを具備する。
【0024】
ヘッド本体220を構成する流路形成基板10は、本実施形態では、シリコン単結晶基板からなり、その一方面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。この流路形成基板10には、その他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁によって区画された圧力発生室12が、幅方向に並設された列が2列形成されている。また、各列の圧力発生室12の長手方向外側には、後述するリザーバ形成基板30に設けられるリザーバ部31と連通し、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成する連通部13が形成されている。また、連通部13は、インク供給路14を介して各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれ連通されている。すなわち、本実施形態では、流路形成基板10に形成された液体流路として、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14が設けられている。
【0025】
また、流路形成基板10の開口面側には、ノズル開口21が形成されたノズルプレート20が接着剤400を介して固着されている。具体的には、複数のヘッド本体220に対応するように複数のノズルプレート20が設けられており、当該ノズルプレート20は後で詳述する固定板250の露出開口部251よりも若干広い面積を有して固定板250と重畳する領域で接着剤401によって固定されている。なお、ノズルプレート20のノズル開口21は、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通する位置に穿設されている。本実施形態では、流路形成基板10に圧力発生室12が並設された列を2列設けたため、1つのヘッド本体220にノズル開口21の並設されたノズル列21Aが2列設けられている。そして、本実施形態では、このノズルプレート20のノズル開口21が開口する面が液体噴射面Aとなっている。このようなノズルプレート20としては、例えば、シリコン単結晶基板やステンレス鋼(SUS)等の金属基板などが挙げられる。
【0026】
また、図5に示すように、ノズルプレート20のノズル開口21が開口する液体噴射面Aには、撥液膜22が設けられている。撥液膜22は、インクに対して撥水性を有するものであれば特に限定されず、例えば、フッ素系高分子を含む金属膜や、撥液性を有する金属アルコキシドの分子膜などを用いることができる。
【0027】
なお、フッ素系高分子を含む金属膜からなる撥液膜22は、例えば、ノズルプレート20の液体噴射面Aに直接、共析メッキを施すことにより形成することができる。
【0028】
また、撥液膜22として金属アルコキシドの分子膜を用いる場合には、例えば、ノズルプレート20側にプラズマ重合膜からなる下地膜を設けることで、分子膜からなる撥液膜とノズルプレート20との密着性を向上することができる。なお、プラズマ重合膜からなる下地膜は、例えば、シリコーンをアルゴンプラズマガスにより重合させて形成することができる。また、金属アルコキシドの分子膜からなる撥液膜22は、例えば、アルコキシラン等のシランカップリング剤をシンナー等の溶媒と混合して金属アルコキシド溶液を形成し、この金属アルコキシド溶液にノズルプレート20を浸漬することで、金属アルコキシドの重合した分子膜を形成することができる。ちなみに、撥液膜22として、金属アルコキシドの分子膜を用いた場合には、下地層を設けたとしても、共析メッキにより形成したフッ素系高分子を含む金属膜からなる撥液膜よりも薄く形成できると共に、ヘッド面をクリーニングする際にワイピングによって液体噴射面Aが拭かれることによっても撥液性が劣化しない「耐擦性」、及び撥液性を向上できるという利点を有する。勿論、「耐擦性」、「撥液性」は劣るが、フッ素系高分子を含む金属膜からなる撥液膜を用いることもできる。
【0029】
このような撥液膜22は、本実施形態では、ノズルプレート20の液体噴射面Aの中央部のみに形成されている。すなわち、ノズルプレート20の液体噴射面Aのノズル開口21が開口する領域を含む中央部は、撥液膜22が設けられた撥液領域25となっている。また、ノズルプレート20の液体噴射面Aには、液体噴射面Aの四方の外周に沿って撥液膜22が設けられていない非撥液領域26が設けられている。なお、撥液膜22として、金属アルコキシドの分子膜を用いる場合には、プラズマ重合膜からなる下地膜は、撥液膜に比べて撥液性が劣り接合強度に影響を与えないため、下地膜を非撥液領域26に設けてもよく、また、設けなくてもよい。
【0030】
そして、このようなノズルプレート20の液体噴射面Aの非撥液領域26には、インクジェット式記録ヘッド2を保持する保持部材である固定板250が接着剤401を介して接合されている。
【0031】
具体的には、固定板250は、図2及び図6に示すように、平板からなり、ノズル開口21を露出する露出開口部251と、露出開口部251を画成すると共にヘッド本体220の液体噴射面Aのノズル列21Aの両端部側に接合される接合部252とを具備する。
【0032】
接合部252は、本実施形態では、複数のインクジェット式記録ヘッド2に亘って液体噴射面Aの外周に沿って設けられた固定用枠部253と、隣接するインクジェット式記録ヘッド2の間に延設されて露出開口部251を分割する固定用梁部254とで構成され、固定用枠部253及び固定用梁部254からなる接合部252が複数のインクジェット式記録ヘッド2の液体噴射面Aに同時に接合されている。
【0033】
また、図6に示すように、固定板250の接合部252の接着面側には、インクジェット式記録ヘッド2の液体噴射面Aと固定板250の液体噴射面との間に露出開口部251と外部とを連通する空間を画成する空洞部255が各インクジェット式記録ヘッド2の露出開口部251毎に設けられている。このような構成とすることで、空洞部255を全露出開口部251に亘って連続して形成することに比べて、隣り合う空洞部255の間に液体(インク)が滞留して増粘過剰になることによる払拭部材9による払拭不能という不具合が発生しない。また、本実施形態では、空洞部255として、固定板250の接合部252の接着面側の表面に開口する溝状に形成した。すなわち、固定板250は、インクジェット式記録ヘッド2の液体噴射面Aを露出開口部251のみで露出させており、液体噴射面Aの周縁部は、固定板250の接合部252によって覆われている。なお、保持部材である固定板250の液体噴射面とは、固定板250の液体噴射面Aに接合される面とは反対側の紙等の記録媒体側の面のことであり、空洞部255は、インクジェット式記録ヘッド2の液体噴射面Aと固定板250の液体噴射面との間に設けられていればよいため、本実施形態のように、固定板250の接着面側の表面に開口する溝状に設けなくてもよい。すなわち、空洞部255として、接合部252の厚さ方向の途中に接着面の面方向に貫通する貫通孔を設けるようにしてもよい。このような構成にすることで、ノズルプレート20の液体噴射面Aと空洞部255との間に小さな段差が設けられるものの、固定板250の液体噴射面Aと接着される接着面積を広げて接合強度を向上することができる。
【0034】
また、本実施形態では、空洞部255を、露出開口部251の幅(ノズル列21Aの並列方向)と同一幅で、且つ外側に向かって幅が漸小するように設けた。つまり、露出開口部251の幅(ノズル列21Aの並列方向)と同一幅とすることで、液体噴射面Aのインクを空洞部255に確実に導くことができると共に、外側に向かって幅が漸小するように設けることで、互いに隣接する空洞部255の間の領域の剛性を向上させることができるので、ノズルプレート20と固定板250とを確実に接着することができる。
【0035】
また、空洞部255の内面には、撥液膜256が設けられている。撥液膜256は、上述した撥液膜22と同様にフッ素系高分子を含む金属膜や、撥液性を有する金属アルコキシドの分子膜などを用いることができる。
【0036】
さらに、液体噴射面Aの空洞部255に相対向する領域は、撥液膜22が設けられた撥液領域となっている。すなわち、液体噴射面Aは、固定板250が接着される領域のみが、撥液膜22が設けられていない非撥液領域となっている。
【0037】
ここで、払拭部材9による液体噴射面Aの払拭方法について、図7を参照して説明する。なお、図7は、液体噴射面の払拭方法を示す断面図である。
【0038】
インクジェット式記録ヘッド1のノズル開口21からインクを吐出した際に液体噴射面Aに付着したインク500を拭き取るには、図7(a)に示すように、払拭部材9のブレード9aの先端を液体噴射面Aに当接させ、図7(b)に示すように、ブレード9aをノズル開口21の並設方向に向かって摺接させることで行う。なお、ブレード9aは、露出開口部251の幅と略同一幅を有するものである。
【0039】
そして、ブレード9aが液体噴射面Aを払拭したインク500は、空洞部255内に排出される。すなわち、ブレード9aは、空洞部255が設けられていないノズル開口21の並設方向の端部側から、空洞部255側に向かって空洞部255が下流側となるように液体噴射面Aを払拭する。
【0040】
このとき、固定板250には、空洞部255が設けられているため、払拭部材9によって払拭された液体噴射面Aのインク500は、固定板250の露出開口部251の開口縁部に滞留することなく、空洞部255内に排出される。したがって、露出開口部251の開口縁部にインクが滞留することがなく、露出開口部251により露出された液体噴射面Aのインクが確実に除去されるため、固定板250とインクジェット式記録ヘッド2とを接着する接着剤401がインクにより侵食されて固定板250とインクジェット式記録ヘッド2との接合強度が低下するのを確実に防止することができる。
【0041】
また、図7(c)に示すように、ブレード9aが液体噴射面Aを払拭した後は、ブレード9aは、空洞部255が設けられた接合部252に摺接する。このため、ブレード9aに付着したインク500が接合部252によって剥ぎ取られ、剥ぎ取られたインクは空洞部255内に排出される。したがって、ブレード9aには、液体噴射面Aを払拭した際のインク500が付着することがなく、ブレード9aに付着したインクが増粘し、次の払拭の際に増粘したインク500がノズル開口21に付着して目詰まり等のインク吐出不良が発生するのを防止することができる。また、ブレード9aに付着したインク500を除去する手段を別途設ける必要がないため、インクジェット式記録装置Iのコストを低減することができる。
【0042】
なお、本実施形態では、空洞部255の内面に撥液膜256を設けると共に、液体噴射面Aの空洞部255に相対向する領域にも撥液膜22を設けるようにしたため、空洞部255内のインク500は、空洞部255及び液体噴射面A等に付着することなく、外部に容易に排出される。
【0043】
また、ブレード9aによって空洞部255内に排出されたインク500は、固定板250に付着することなく、外部に排出される。ちなみに、空洞部255内のインク500は、ブレード9aの移動速度によって、その勢いにより外部に排出されると共に、次の払拭動作の際に払拭したインク500によって押し出されることで、外部に排出される。
【0044】
このように、空洞部255を設けることにより、払拭部材9により液体噴射面Aを払拭した際に、液体噴射面Aにインクが残留することなく、外部に排出することができる。また、固定板250に切り欠き部を設けるのではなく、空洞部255を設けることによって、紙ジャムなどが発生した際に、紙が液体噴射面Aに直接接触するのを防止することができる。すなわち、固定板250によって液体噴射面Aを保護することができるため、紙ジャムなどにより液体噴射面A(ノズルプレート20)の変形や傷が付くのを確実に防止できる。
【0045】
さらに、本実施形態では、ノズルプレート20の固定板250が接着される接着面を非撥液領域26とすることで、接着剤401とノズルプレート20との接着強度を向上することができる。
【0046】
なお、本実施形態では、ノズルプレート20と流路形成基板10とは接着剤400を介して接着されている。このため、ノズルプレート20の流路形成基板10との接着領域も同様に非撥液領域27となっている。本実施形態では、ノズルプレート20の液体噴射面Aとは反対側の面の全面を非撥液領域27とした。
【0047】
一方、図5に示すように、流路形成基板10の開口面とは反対側には、弾性膜50上に、金属からなる下電極膜と、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層と、金属からなる上電極膜とを順次積層することで形成された圧電素子300が形成されている。このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有するリザーバ形成基板30が接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、リザーバ形成基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0048】
また、リザーバ形成基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。
【0049】
さらに、リザーバ形成基板30上には、各圧電素子300を駆動するための駆動IC110が設けられている。この駆動IC110の各端子は、図示しないボンディングワイヤ等を介して各圧電素子300の個別電極から引き出された引き出し配線と接続されている。そして、駆動IC110の各端子には、フレキシブルプリント基板(FPC)等の外部配線111を介して外部と接続され、外部から外部配線111を介して印刷信号等の各種信号を受け取るようになっている。
【0050】
また、このようなリザーバ形成基板30上には、コンプライアンス基板40が接合されている。コンプライアンス基板40のリザーバ100に対向する領域には、リザーバ100にインクを供給するためのインク導入口44が厚さ方向に貫通することで形成されている。また、コンプライアンス基板40のリザーバ100に対向する領域のインク導入口44以外の領域は、厚さ方向に薄く形成された可撓部43となっており、リザーバ100は、可撓部43により封止されている。この可撓部43により、リザーバ100内にコンプライアンスを与えている。
【0051】
また、各ヘッド本体220の液体噴射面Aとは反対側の面、すなわち、コンプライアンス基板40上には、ヘッドケース230が固定されている。
【0052】
ヘッドケース230は、インク導入口44に連通すると共にカートリッジケース210のインク連通路に連通して、カートリッジケース210からのインクをインク導入口44に供給するインク供給連通路231が設けられている。このヘッドケース230には、コンプライアンス基板40の可撓部43に対向する領域に溝部232が形成され、可撓部43の撓み変形が適宜行われるようになっている。また、ヘッドケース230には、リザーバ形成基板30上に設けられた駆動IC110に対向する領域に厚さ方向に貫通した駆動IC保持部233が設けられており、外部配線111は、駆動IC保持部233を挿通して駆動IC110と接続されている。
【0053】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッド2は、インクカートリッジからのインクをインク連通路及びインク供給連通路231を介してインク導入口44から取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動IC110からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの圧電素子300に電圧を印加し、弾性膜50及び圧電素子300をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0054】
なお、上述したヘッド本体220は、1枚のシリコンウェハ上に多数のチップを同時に形成し、ノズルプレート20及びコンプライアンス基板40を接着して一体化し、その後、図4に示すような1つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することによってヘッド本体220となる。
【0055】
このようなインクジェット式記録ヘッド2は、カートリッジケース210の底面に4つ固定されている。本実施形態では、4つのインクジェット式記録ヘッド2は、ノズル列21Aの並び方向に所定の間隔となるように配置されている。すなわち、本実施形態の1つのインクジェット式記録ヘッド2には、ノズル列21Aが8列設けられていることになる。このように複数のインクジェット式記録ヘッド2を用いて並設されたノズル開口21からなるノズル列21Aの多列化を図ることで、1つのインクジェット式記録ヘッド2にノズル列21Aを多列形成するのに比べて歩留まりの低下を防止することができる。また、ノズル列21Aの多列化を図るために複数のインクジェット式記録ヘッド2を用いることで、1枚のシリコンウェハから形成できるヘッド本体220(インクジェット式記録ヘッド2)の取り数を増大させることができ、シリコンウェハの無駄な領域を減少させて製造コストを低減することができる。
【0056】
また、このような4つのインクジェット式記録ヘッド2は、上述したように、複数のインクジェット式記録ヘッド2の液体噴射面Aの非撥液領域26に接着剤401を介して接着された保持部材である固定板250によって位置決めされて保持されている。
【0057】
さらに、インクジェット式記録ヘッドユニット1には、図2及び図3に示すように、固定板250のインクジェット式記録ヘッド2とは反対側に、複数のインクジェット式記録ヘッド2を覆うような箱形状を有するカバーヘッド240が設けられている。このカバーヘッド240は、固定板250の露出開口部251に対応して開口部241が設けられた固定部242と、ヘッド本体220のインク滴吐出面の側面側に、固定板250の外周に亘って屈曲するように設けられた側壁部245とを具備する。
【0058】
固定部242は、本実施形態では、固定板250の固定用枠部253に対応して設けられた枠部243と、固定板250の固定用梁部254に対応して設けられて開口部241を分割する梁部244とで構成されている。また、このような枠部243及び梁部244からなる固定部242は、固定板250の接合部252に接合されている。
【0059】
なお、カバーヘッド240の固定部242には、図2に示すように、カバーヘッド240をカートリッジケース210に位置決め固定するための固定孔247が設けられた支持部246が設けられている。この支持部246は、側壁部245から液滴吐出面の面方向と同一方向に突出するように屈曲して設けられている。そして、本実施形態では、カバーヘッド240は、カートリッジケース210に固定されている。すなわち、カートリッジケース210には、液体噴射面A側に突出して、カバーヘッド240の固定孔247に挿入される突起部215が設けられており、この突起部215をカバーヘッド240の固定孔247に挿入すると共に、突起部215の先端部を加熱してかしめることで、カートリッジケース210にカバーヘッド240が固定されている。
【0060】
このように、インクジェット式記録ヘッド2の液体噴射面Aとカバーヘッド240との間が固定板250を介して隙間なく接合されているため、この隙間に記録媒体が入り込むのを防止してカバーヘッド240の変形及び紙ジャムを防止することができる。また、カバーヘッド240の側壁部245が、複数のインクジェット式記録ヘッド2の外周縁部を覆うことで、インクジェット式記録ヘッド2の側面へのインクの回り込みを確実に防止することができる。
【0061】
なお、側壁部245と固定板250の側面との間には隙間が形成されるようにすれば、側壁部245によって空洞部255が閉塞されることがなく、空洞部255を介して排出されたインクを、側壁部245と固定板250との間を介して外部に排出させることができる。もちろん、カバーヘッド240に側壁部245を設けないようにしてもよく、また、カバーヘッド240に空洞部255に連通する連通孔を設けるようにしてもよい。
【0062】
また、上述した例では、カバーヘッド240を固定板250のヘッド本体220とは反対側の面に接合するようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、カバーヘッド240を固定板250に接合せずに、所定の間隔となるように設けるようにしてもよく、当接するように設けるようにしてもよい。
【0063】
(実施形態2)
図8は、本発明の実施形態2に係る固定板とインクジェット式記録ヘッドとを示す平面図及びそのB−B′断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0064】
図示するように、本実施形態では、固定板250の各露出開口部251に対して、2つの空洞部255Aが設けられている。
【0065】
空洞部255Aは、払拭部材9が液体噴射面Aを払拭する下流側で、且つ露出開口部251の一対の角部に連通するようにそれぞれ独立して設けられている。
【0066】
このような構成としても、払拭部材9によって液体噴射面Aを払拭した際に、インクを空洞部255Aから外部に排出することができ、液体噴射面Aにインクが残留するのを防止することができると共に、固定板250によって液体噴射面Aを保護することができる。
【0067】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1及び2では、インクジェット式記録ヘッド2として、ノズル開口21が設けられたノズルプレート20を具備する構成を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドとして、流路形成基板にノズル開口が形成された構成、すなわち、流路形成基板とノズルプレートとが一体的に形成されたものであっても本発明は適用できる。
【0068】
また、上述した実施形態1及び2では、複数のインクジェット式記録ヘッド2を固定板250に接着剤401を介して接着するようにしたが、固定板250を設けずに、複数のインクジェット式記録ヘッド2をカバーヘッド240に接着するようにしてもよい。すなわち、カバーヘッド240をインクジェット式記録ヘッド2の液体噴射面Aを保持する保持部材としてもよい。勿論、本実施形態では、固定板250やカバーヘッド240などの保持部材に4つのインクジェット式記録ヘッド2を接合するようにしたが、保持部材に接合されるインクジェット式記録ヘッド2の数は特にこれに限定されず、保持部材に1つのインクジェット式記録ヘッド2を接合する、すなわち、インクジェット式記録ヘッドユニット1が1つのインクジェット式記録ヘッド2を具備するようにしてもよい。
【0069】
そして、上述した実施形態1及び2では、固定板250やカバーヘッド240などの保持部材が、ノズルプレート20の非撥液領域26と接着された構成を例示したが、この際に当該保持部材がノズルプレート20の撥液領域25にかかるように形成されていてもよい。これは、例えば、保持部材とノズルプレート20との接着ずれなどによって、ノズルプレート20の非撥液領域26が保持部材に形成された露出開口部251から露出されるのを防ぐためである。
【0070】
また、上述した実施形態1及び2では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生手段として、薄膜型の圧電素子300を有するアクチュエータ装置を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のアクチュエータ装置や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型のアクチュエータ装置などを使用することができる。また、圧力発生手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエータなどを使用することができる。
【0071】
なお、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドを一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッドを具備する液体噴射ヘッドユニットを対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施形態1に係るインクジェット式記録装置を示す概略図である。
【図2】実施形態1に係るヘッドユニットの分解斜視図である。
【図3】実施形態1に係るヘッドユニットの組立斜視図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの要部断面図である。
【図6】実施形態1に係る固定板と記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図7】実施形態1に係る払拭方法を示す断面図である。
【図8】実施形態2に係る固定板と記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【符号の説明】
【0073】
I 液体噴射装置、 A 液体噴射面、 1 インクジェット式記録ヘッドユニット(液体噴射ヘッドユニット)、 2 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 9 払拭部材、 9a ブレード、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート(ノズル形成部材)、 21 ノズル開口、 22 撥液膜、 100 リザーバ、 210 カートリッジケース、 220 ヘッド本体、 230 ヘッドケース、 240 カバーヘッド、 250 固定板(保持部材)、 255、255A 空洞部、 300 圧電素子、 400、401 接着剤、 500 インク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズル開口が開口する液体噴射面を有する液体噴射ヘッドと、
該液体噴射面に接合されて前記液体噴射ヘッドを保持する保持部材と、
前記液体噴射ヘッドの前記液体噴射面を払拭する払拭部材と、を具備し、
前記保持部材は、前記液体噴射面の複数のノズル開口の周囲に亘って設けられた接合部と、該接合部により画成された複数のノズル開口を露出する露出開口部とを具備し、前記接合部には、前記液体噴射ヘッドの前記液体噴射面と前記保持部材の液体噴射面との間に、前記露出開口部と外部とを連通する空間を画成する空洞部が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項2】
前記液体噴射ヘッドを複数具備すると共に、前記保持部材には前記露出開口部が複数設けられて、各露出開口部から各液体噴射ヘッドの前記液体噴射面の複数のノズル列が露出され、前記空洞部が、前記露出開口部毎に且つ複数のノズル開口の並設方向の一方側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッドユニット。
【請求項3】
前記空洞部の内面には、撥液膜が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッドユニット。
【請求項4】
前記液体噴射面には、前記ノズル開口の周囲に撥液膜が設けられた撥液領域と、該撥液膜が設けられていない非撥液領域とが設けられていると共に、前記保持部材が前記液体噴射ヘッドの非撥液領域に接合されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドユニット。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドユニットを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−34830(P2009−34830A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−198835(P2007−198835)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】