説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】振動板の剛性を向上して耐久性を向上すると共に信頼性を向上した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】ノズル開口21に各々連通する複数の圧力発生室12と、圧力発生室12の間の壁部11の両側の振動板側に設けられた切欠部16とを具備する流路形成基板10と、流路形成基板10の他方面側の表面から切欠部16の内壁上に亘って連続して設けられて、圧力発生室12と切欠部16とを区画する振動板と、振動板を振動させる駆動部320とを具備し、圧力発生室12の短手方向の内壁を切欠部16の内壁Aよりも内側で、且つ切欠部16の内壁上に設けられた振動板の表面Bよりも外側となる位置で設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドとしては、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させる圧電素子の撓み振動モードのアクチュエータ装置を使用したものが知られている。
【0003】
このようなインクジェット式記録ヘッドは、ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された流路形成基板と、流路形成基板の圧力発生室に相対向する領域に振動板となる絶縁膜を介して下電極膜、圧電体層及び上電極膜を積層形成した圧電素子とで構成されている。
【0004】
また、流路形成基板の剛性を向上してクロストークの発生を防止すると共に、解像度を向上させるインクジェット式記録ヘッドとして、流路形成基板に、一方面側に開口する圧力発生室と、他方面側に圧力発生室に相対向する領域に設けられた切欠部とを設け、この流路形成基板の溝内に振動板を設けるようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−181010号公報(第7〜9頁、第3〜9図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような構成では、圧電素子を撓み変形させた際に、振動板の屈曲された領域、特に、振動板の切欠部を画成する隔壁の角部に相対向する領域に応力が集中して、振動板に亀裂が生じてしまうという問題や剥離が生じてしまうという問題がある。
【0007】
また、特許文献1の構成のインクジェット式記録ヘッドを形成する際には、流路形成基板の一方面に切欠部を形成してから流路形成基板に振動板及び圧電素子を形成し、その後、流路形成基板の他方面側から異方性エッチングすることにより圧力発生室を形成するが、このとき、圧力発生室が、流路形成基板の結晶ずれや異方性エッチングの誤差等によって切欠部よりも幅広に形成されてしまう虞があり、これにより振動板の屈曲した部分が宙に浮いた状態となって、振動板の屈曲した部分の剛性が低下し、亀裂等の破壊が生じてしまうという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献1には、圧力発生室の幅を切欠部の幅よりも幅狭に設けたものが開示されているものの、特許文献1では、切欠部の内壁上に設けられた振動板上にも圧電素子(能動部)が形成されているため、振動板の屈曲した部分に応力が集中し易く破壊が生じ易いという問題がある。
【0009】
なお、このような問題はインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0010】
また、このような問題は、振動板を振動させる駆動部として撓み振動モードの圧電素子(圧電体能動部)を用いたものに限定されるものではなく、撓み振動モードの圧電素子以外の駆動部によって振動板を振動させる液体噴射ヘッドであっても同様に存在する。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑み、振動板の剛性を向上して耐久性を向上すると共に信頼性を向上した液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に各々連通する複数の圧力発生室が設けられた流路形成基板と、前記流路形成基板に振動板を介して設けられて当該振動板を振動させる駆動部とを具備し、前記複数の圧力発生室の間の壁部には、前記振動板側で当該壁部の幅方向両側に切欠部が設けられていると共に、前記振動板が、前記流路形成基板の前記振動板側の表面から前記切欠部の内壁上に亘って連続して設けられて、当該振動板が前記圧力発生室と前記切欠部とを区画しており、前記圧力発生室の短手方向の内壁が、前記切欠部の内壁よりも内側で、且つ前記切欠部の前記内壁上に設けられた前記振動板の表面よりも外側となる位置で設けられていると共に、前記駆動部が前記圧力発生室に相対向する領域に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0013】
また、言い換えると、本発明の態様は、液体を噴射するノズル開口に各々連通する複数の圧力発生室が設けられた流路形成基板と、前記流路形成基板に振動板を介して設けられて当該振動板を振動させる駆動部とを具備し、前記流路形成基板の前記振動板側は、前記複数の圧力発生室の間の壁部と、前記壁部から前記振動板側へ凸状に突き出している凸壁部とを備え、前記振動板は、前記圧力発生室の一方の壁となる天井部と、前記凸壁部に沿った凸形状である凸板部とを備え、前記壁部の外壁の位置が、前記凸板部の側壁の厚さ方向における内側であることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、流路形成基板の厚さを厚くすることができ、流路形成基板の剛性、特に圧力発生室の幅方向を画成する隔壁の剛性を向上して、クロストークを防止して高解像度とすることができる。また、圧力発生室の内壁を規定することで、切欠部と圧力発生室との間に段差部を形成し、振動板をこの段差部に沿って屈曲させて設けることができるため、圧電素子の変位によって振動板が変位した際に、振動板の屈曲された領域に応力集中が発生するのを低減して、振動板に亀裂や剥離などが生じるのを防止することができる。さらに、振動板を段差部に沿って屈曲して設けることにより、切欠部内に設けられた振動板を流路形成基板の厚さ方向及び表面の面方向に密着させることができる。これにより振動板の流路形成基板へのアンカー効果が向上されて、圧電素子を変位させた際に振動板が流路形成基板から剥離するのを確実に防止することができる。
【0014】
ここで、前記振動板が、前記流路形成基板側に設けられた弾性膜と、該弾性膜上に設けられた絶縁体膜とを含むことが好ましい。これによれば、振動板を所定の構成としても、振動板の破壊を防止することができる。
【0015】
また、前記流路形成基板が、表面の結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板からなると共に、前記圧力発生室及び前記切欠部の側面が表面に対して垂直な(111)面で形成されていることが好ましい。これによれば、高精度で高密度な圧力発生室及び切欠部を形成することができる。
【0016】
また、前記振動板の前記流路形成基板側の最下層が、前記流路形成基板をエッチングするエッチング液に対して耐性を有するものであることが好ましい。これによれば、流路形成基板を異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより圧力発生室を容易に且つ高精度に形成することができる。
【0017】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、高解像度で且つ信頼性を向上した液体噴射装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの平面図及びそのA−A′断面図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの要部拡大断面図である。
【0019】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では、表面の結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板からなる。
【0020】
この流路形成基板10には、一方面側に開口するように複数の壁部11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に複数並設されている。また、流路形成基板10の複数の圧力発生室12の間の壁部11には、詳しくは後述する振動板側で当該隔壁11の両側に切欠部16が設けられている。すなわち、流路形成基板10の圧力発生室12が開口する一方面とは反対の他方面には、圧力発生室12に相対向する領域に設けられて圧力発生室12と連通し、且つ当該流路形成基板10の他方面側に開口する切欠部16が設けられている。
【0021】
また、図2に示すように、圧力発生室12は、その短手方向の内壁が、切欠部16の内壁Aよりも内側で、且つ切欠部16の内壁A上に設けられた詳しくは後述する振動板の表面Bよりも外側となる位置に配置されている。すなわち、圧力発生室12は、その短手方向の幅が、切欠部16の幅よりも幅狭となるように設けられ、圧力発生室12と切欠部16との間には、段差部17が設けられている。なお、圧力発生室12の幅については、詳しくは後述する。
【0022】
言い換えると、流路形成基板10には、複数の圧力発生室12の間の壁部11aと、壁部11aから詳しくは後述する振動板側に凸状に突き出している凸壁部11bとが設けられており、壁部11aと凸壁部11bとからなる壁部11によって、圧力発生室12及び切欠部16の幅方向(短手方向)両側が画成されている。
【0023】
さらに、流路形成基板10の切欠部16が設けられた他方面側には、二酸化シリコンからなる厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。この弾性膜50が、本実施形態では、振動板の最下層を構成している。
【0024】
このような弾性膜50は、流路形成基板10の表面から切欠部16の内壁上に亘って連続して設けられ、切欠部16と圧力発生室12とを区画している。すなわち、弾性膜50は、流路形成基板10の他方面側の表面から切欠部16の内壁上に亘って設けられ、さらに切欠部16の内壁上から段差部17に沿って屈曲して設けられている。
【0025】
また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、インク供給路14と連通路15とが壁部11によって区画されている。また、連通路15の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15からなる液体流路が設けられている。
【0026】
インク供給路14は、圧力発生室12の長手方向一端部側に連通し且つ圧力発生室12より小さい断面積を有する。例えば、本実施形態では、インク供給路14は、リザーバ100と各圧力発生室12との間の圧力発生室12側の流路を幅方向に絞ることで、圧力発生室12の幅より小さい幅で形成されている。
【0027】
すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12と、圧力発生室12の短手方向の断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の短手方向の断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが複数の壁部11により区画されて設けられている。
【0028】
このような圧力発生室12、切欠部16、連通部13、インク供給路14及び連通路15は、流路形成基板10を異方性エッチングすることによって形成することができる。
【0029】
ここで、流路形成基板10に圧力発生室12、切欠部16等を形成する異方性エッチングは、結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。本実施形態では、流路形成基板10が面方位(110)のシリコン単結晶基板からなるため、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と70.5度の角度をなし且つ上記(110)面に垂直な第2の(111)面とが出現する。かかる異方性エッチングにより二つの平行する面である第1の(111)面と二つの平行する面である第2の(111)面とで形成される平行四辺形状を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12、切欠部16等を高密度に配列することができる。
【0030】
また、流路形成基板10の圧力発生室12が開口する面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
【0031】
一方、このような流路形成基板10の切欠部16側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部320という。
【0032】
本実施形態では、下電極膜60を複数の圧電素子300に亘って設けることで、下電極膜60を複数の圧電素子300の共通電極とし、圧電体層70及び上電極膜80を各圧電素子300毎に設けることで上電極膜80を各圧電素子300の個別電極としている。なお、本実施形態では、下電極膜60を複数の圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を各圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室12毎に圧電体能動部320が形成されていることになる。
【0033】
また、図2に示すように、本実施形態では、下電極膜60は、複数の圧電素子300に亘って設けられているが、当該下電極膜60の圧力発生室12の長手方向に相当する方向を長手方向とし、圧力発生室12の幅方向に相当する方向を下電極膜60の短手方向(幅方向)とする。そして、下電極膜60の長手方向の端部を圧力発生室12に相対向する領域、すなわち、切欠部16内に設けることで、圧電素子300の実質的な駆動部となる圧電体能動部320の長手方向の端部(長さ)を規定している。また、圧電素子300の短手方向である上電極膜80の短手方向の端部を圧力発生室12に相対向する領域内、すなわち、切欠部16内に設けることで、圧電体能動部320の短手方向の端部(幅)を規定している。すなわち、圧電体能動部320は、パターニングされた下電極膜60及び上電極膜80によって、圧力発生室12に相対向する領域である切欠部16内にのみ設けられていることになる。さらに、圧電体層70及び上電極膜80は、圧電素子300の長手方向で、下電極膜60の両端部の外側まで延設されて設けられている。
【0034】
なお、本実施形態では、圧電体層70及び上電極膜80が、図2に示すように、上電極膜80側の幅が狭くなるようにパターニングされ、その側面は傾斜面となっている。
【0035】
ここで、圧電素子300を所定の基板上(流路形成基板10上)に設け、当該圧電素子300を駆動させた装置をアクチュエータ装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び下電極膜60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、下電極膜60のみが振動板として作用するようにしてもよい。
【0036】
そして、流路形成基板10の圧力発生室12は、その短手方向の内壁が、切欠部16の内壁Aよりも内側で、且つ切欠部16の内壁上に設けられた振動板の表面、すなわち、下電極膜60の表面Bよりも外側となる位置に配置されている。すなわち、圧力発生室12は、切欠部16の短手方向の幅よりも幅狭で、且つ切欠部16の内壁上に設けられた振動板の間の幅よりも幅広となるように設けられている。
【0037】
このように圧力発生室12の内壁を規定することで、切欠部16と圧力発生室12との間には段差部17が設けられ、振動板はこの段差部17に沿って屈曲されて設けられていることになる。言い換えると、振動板は、圧力発生室12の一方の壁となる天井部150と、凸壁部11bに沿った凸状である凸板部151とを備え、壁部11aの外壁の位置が、凸板部151の側壁の厚さ方向における内側(図2のA−Bの範囲)となっている。
【0038】
これにより、圧電素子300の変位によって振動板が変位した際に、振動板の屈曲された領域に応力集中が発生するのを防止して、振動板の破壊を防止することができる。すなわち、例えば、圧力発生室12を切欠部とを同一の幅で形成すると、振動板の屈曲された領域、特に壁部11の角部に相対向する領域に応力集中が生じ、振動板が破壊されてしまう。本実施形態では、上述のように圧力発生室12と切欠部16との間に段差部17を設け、この段差部17によって、振動板を補強することができるため、振動板の屈曲された領域に応力が集中するのを防止して、振動板の圧力発生室12に相対向する領域のみを選択的に振動させて、振動板の破壊を防止することができる。
【0039】
また、振動板は段差部17に沿って設けられているため、切欠部16内に設けられた振動板は、流路形成基板10に流路形成基板10の厚さ方向及び表面の面方向に密着されていることになる。したがって、振動板の流路形成基板10へのアンカー効果が向上されて、圧電素子300を変位させた際に振動板が流路形成基板10から剥離するのを確実に防止することができる。
【0040】
さらに、流路形成基板10に圧力発生室12と切欠部16とを設けることで、流路形成基板10の剛性、特に壁部11の剛性を向上して、クロストークを防止して高解像度とすることができる。
【0041】
なお、圧電体層70は、下電極膜60上に形成される電気機械変換作用を示す強誘電性セラミックス材料からなるペロブスカイト構造の結晶膜である。圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電材料や、これに酸化ニオブ、酸化ニッケル又は酸化マグネシウム等の金属酸化物を添加したもの等が好適である。具体的には、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO3)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO3)ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O3)又は、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O3)等を用いることができる。圧電体層70の厚さについては、製造工程でクラックが発生しない程度に厚さを抑え、且つ十分な変位特性を呈する程度に厚く形成する。例えば、本実施形態では、圧電体層70を1〜2μm前後の厚さで形成した。
【0042】
さらに、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0043】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、下電極膜60、弾性膜50及びリード電極90上には、リザーバ100の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。
【0044】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。
【0045】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0046】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
【0047】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0048】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0049】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0050】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図3〜図5を参照して説明する。なお、図3〜図5は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの製造方法を示す圧力発生室の短手方向の断面図である。まず、図3(a)に示すように、表面の結晶面方位が(110)面のシリコンウェハからなる流路形成基板用ウェハ110の一方面に切欠部16を形成する。切欠部16は、流路形成基板用ウェハ110上に開口部を有するマスク(図示なし)を形成した後、流路形成基板用ウェハ110をマスクを介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより形成することができる。
【0051】
このように形成された切欠部16は、その内壁が流路形成基板用ウェハ110の(110)面に対して垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と70.5度の角度をなし且つ上記(110)面に垂直な第2の(111)面とで形成される。
【0052】
なお、この工程により、上述した凸壁部11bが形成される。
【0053】
次に、図3(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110に弾性膜50を構成する二酸化シリコン(SiO2)からなるシリコン酸化膜51を形成する。本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110を加熱することにより、熱酸化により二酸化シリコン膜51(弾性膜50)を形成した。
【0054】
次いで、図3(c)に示すように、弾性膜50(シリコン酸化膜51)上に、酸化ジルコニウムからなる絶縁体膜55を形成する。
【0055】
次いで、図3(d)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。なお、下電極膜60は、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とを積層したものに限定されず、これらを合金化させたものを用いるようにしてもよい。また、下電極膜60として、白金(Pt)とイリジウム(Ir)の何れか一方の単層として用いるようにしてもよく、さらに、これらの材料以外の金属又は金属酸化物等を用いるようにしてもよい。
【0056】
次に、図4(a)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウムからなる上電極膜80とを流路形成基板10の一方面に形成後、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。圧電素子300を構成する圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料や、これにニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等が用いられる。また、圧電体層70の形成方法は、本実施形態では、金属有機物を溶媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて圧電体層70を形成した。なお、圧電体層70の形成方法は、特に限定されず、例えば、MOD法やスパッタリング法等を用いるようにしてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、圧電素子300の実質的な駆動部である圧電体能動部320が、圧力発生室12に相対向する領域となるように圧電素子300をパターニングして形成している。
【0058】
次に、特に図示しないが、リード電極90を形成する。リード電極90は、例えば、流路形成基板用ウェハ110の一方面に亘って金(Au)からなるリード電極90を形成した後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して各圧電素子300毎にパターニングすることで形成される。
【0059】
次に、図4(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側に、シリコンウェハであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハ130を接着剤35を介して接合する。なお、この保護基板用ウェハ130は、例えば、400μm程度の厚さを有するため、保護基板用ウェハ130を接合することによって流路形成基板用ウェハ110の剛性は著しく向上することになる。
【0060】
次いで、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の他方面側に設けられたシリコン酸化膜51をパターニングして、開口部52を形成する。開口部52は、圧力発生室12が形成される領域に形成する。このため、開口部52の幅方向の開口縁部は、切欠部16の壁面Aよりも内側で、且つ切欠部16上に形成された振動板である下電極膜60の表面Bよりも外側となる位置に形成する。なお、特に図示していないが、開口部52は、圧力発生室12以外の連通部13、インク供給路14及び連通路15が形成される領域にも開口するように形成されている。
【0061】
そして、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をシリコン酸化膜51を介してKOH等のアルカリ溶液を用いた異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧電素子300に対応する圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15等を形成する。
【0062】
このとき、圧力発生室12の短手方向の幅は、シリコン酸化膜51の開口部52の開口幅によって規定されて形成される。したがって、圧力発生室12は、その短手方向の幅が、切欠部16の壁面Aよりも内側で、且つ切欠部16上に形成された振動板である下電極膜60の表面Bよりも外側となる位置に形成される。
【0063】
これにより、圧力発生室12が切欠部16よりも幅広に形成されて、振動板が流路形成基板用ウェハ110から浮いた位置で屈曲するのを防止することができる。すなわち、例えば、圧力発生室12の幅を切欠部16と同一位置となるように形成しようとしても、流路形成基板用ウェハ110の結晶方位のずれ(結晶基板のオリエンテーションフラットで規定される結晶方位と実際の結晶方位のずれ)や開口部52の位置ずれ、さらにオーバーエッチング等によって圧力発生室12が切欠部16よりも幅広に形成されてしまう。これに対して、開口部52を予め切欠部16の幅よりも幅狭に形成しておくことで、上記位置ずれやオーバーエッチング等が発生しても、圧力発生室12を切欠部16よりも幅狭に形成することができる。したがって、圧電素子300を駆動させた際に振動板の屈曲された領域、特に壁部11の角部に相対向して圧電素子300側に凸状の屈曲した領域に応力が集中するのを減少させて、振動板の破壊を防止することができる。ちなみに、壁部11の角部に相対向する領域は、成膜方向に向かって凸状になっているため、成膜の付き回りが悪く、他の領域に比べて薄く形成されたとしても、圧力発生室12及び切欠部16を上記構造とすることで、薄く形成された振動板の屈曲した領域の破壊を防止することができる。
【0064】
その後は、流路形成基板用ウェハ110及び保護基板用ウェハ130の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ110の保護基板用ウェハ130とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ130にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ110等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIとする。
【0065】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1では、保護基板30に圧電素子保持部32を設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、切欠部16が圧電素子300の厚さよりも深く、且つ圧電素子300の変位が確保される程度の深さを有する場合には、保護基板30に圧電素子保持部32を設けないようにしてもよい。これにより、保護基板30の製造コストを減少させることができる。
【0066】
さらに、上述した実施形態1では、振動板を振動させる駆動部として、薄膜型(撓み振動型)の圧電素子300(圧電体能動部320)を例示したが、振動板を振動させる駆動部としては、特にこれに限定されるものではない。駆動部の他の例としては、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電素子(圧電体能動部)や、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子や、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を振動させるいわゆる静電式アクチュエータが挙げられる。
【0067】
なお、このようなインクジェット式記録ヘッドIは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置IIに搭載される。図6は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図6に示すように、インクジェット式記録ヘッドIを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0068】
そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
【0069】
なお、上述した実施形態1では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの要部拡大断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る記録装置の概略図である。
【符号の説明】
【0071】
I インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 II インクジェット式記録装置、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 13 連通部、 14 インク供給路、 15 連通路、 16 切欠部、 17 段差部、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 リザーバ部、 32 圧電素子保持部、 40 コンプライアンス基板、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 300 圧電素子、 320 圧電体能動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に各々連通する複数の圧力発生室が設けられた流路形成基板と、前記流路形成基板に振動板を介して設けられて当該振動板を振動させる駆動部とを具備し、
前記複数の圧力発生室の間の壁部には、前記振動板側で当該壁部の幅方向両側に切欠部が設けられていると共に、前記振動板が、前記流路形成基板の前記振動板側の表面から前記切欠部の内壁上に亘って連続して設けられて、当該振動板が前記圧力発生室と前記切欠部とを区画しており、
前記圧力発生室の短手方向の内壁が、前記切欠部の内壁よりも内側で、且つ前記切欠部の前記内壁上に設けられた前記振動板の表面よりも外側となる位置で設けられていると共に、前記駆動部が前記圧力発生室に相対向する領域に設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
液体を噴射するノズル開口に各々連通する複数の圧力発生室が設けられた流路形成基板と、前記流路形成基板に振動板を介して設けられて当該振動板を振動させる駆動部とを具備し、
前記流路形成基板の前記振動板側は、前記複数の圧力発生室の間の壁部と、前記壁部から前記振動板側へ凸状に突き出している凸壁部とを備え、
前記振動板は、前記圧力発生室の一方の壁となる天井部と、前記凸壁部に沿った凸形状である凸板部とを備え、前記壁部の外壁の位置が、前記凸板部の側壁の厚さ方向における内側であることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記振動板が、前記流路形成基板側に設けられた弾性膜と、該弾性膜上に設けられた絶縁体膜とを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記流路形成基板が、表面の結晶面方位が(110)面のシリコン単結晶基板からなると共に、前記圧力発生室及び前記切欠部の側面が表面に対して垂直な(111)面で形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記振動板の前記流路形成基板側の最下層が、前記流路形成基板をエッチングするエッチング液に対して耐性を有するものであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−29019(P2009−29019A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195518(P2007−195518)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】