説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】クリーニング時におけるインクの排出量を低減すること。
【解決手段】液体が噴射されるノズル開口が複数設けられたノズルプレートと、前記ノズルプレートのうち前記液体の噴射方向の下流側の面に設けられ、前記ノズル開口の周囲が前記液体に対して撥液性を有する第一状態となるように形成された絶縁部と、複数の前記ノズル開口のうち所定の前記ノズル開口から前記液体を排出させる排出動作を行わせると共に、前記絶縁部のうち所定の前記ノズル開口の周囲に配置されるノズル周縁部分に対して電圧を印加し前記ノズル周縁部分を前記液体に対して親液性を有する第二状態とすることで前記液体を前記ノズル周縁部分に保持させて所定の前記ノズル開口を保湿させる保湿動作を行わせる制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インク滴をインクジェットヘッドのノズルから記録紙(媒体)に対して噴射する液体噴射装置として、インクジェット式プリンター(以下、「プリンター」と記す。)が広く知られている。このようなプリンターにおいて、インクジェットヘッドのノズルの噴射特性を維持する又は回復させるべく、ノズルからインクを排出するクリーニング処理を行うようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−221798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、クリーニング時に排出するインクが多くなりがちになる、という問題があった。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明は、クリーニング時におけるインクの排出量を低減することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液体噴射ヘッドは、液体が噴射されるノズル開口が複数設けられたノズルプレートと、前記ノズルプレートのうち前記液体の噴射方向の下流側の面に設けられ、前記ノズル開口の周囲が前記液体に対して撥液性を有する第一状態となるように形成された絶縁部と、前記液体と前記ノズル開口の周縁部との間に電圧を印加することで前記ノズル開口周縁の前記絶縁部を前記液体に対し親液性を有する第二状態とする電極と、を有し、複数の前記ノズル開口のうち所定の前記ノズル開口から前記液体を排出させる排出動作を行わせると共に、前記所定のノズル開口周縁の前記絶縁体部を前記第二状態とすることで前記所定のノズル開口周縁の前記絶縁体部表面に前記液体を保持させて前記所定のノズル開口を保湿させる保湿動作を行うことを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、複数のノズル開口のうち所定のノズル開口から液体を排出させる排出動作を行わせると共に、前記所定のノズル開口周縁の前記絶縁体部を前記第二状態とすることで前記所定のノズル開口周縁の前記絶縁体部表面に前記液体を保持させて前記所定のノズル開口を保湿させる保湿動作を行うこととしたので、インクの排出量を抑制しつつ、ノズル開口の噴射特性を維持する又は回復させることができる。これにより、クリーニング時におけるインクの排出量を低減することができる。
【0008】
上記の液体噴射ヘッドにおいて、複数の前記ノズル開口のうち非噴射期間が所定期間を超えた前記ノズル開口を前記所定のノズル開口として前記保湿動作を行うことが好ましい。
本発明によれば、複数のノズル開口のうち非噴射期間が所定期間を超えたノズル開口を所定のノズル開口として保湿動作が行われるので、非噴射期間が所定期間を超えたノズル開口の噴射特性を維持する又は回復させることができる。
【0009】
上記の液体噴射ヘッドにおいて、複数のノズル開口は、一方向に並んで配置されており、複数の前記ノズル開口のうち前記一方向の端部に配置される前記ノズル開口を前記所定のノズル開口として前記保湿動作を行うことが好ましい。
複数のノズル開口が一方向に並んで配置されている場合において、一方向の端部に配置されるノズルについては、噴射頻度が低くなる場合がある。本発明によれば、複数のノズル開口のうち一方向の端部に配置されるノズル開口を所定のノズル開口として保湿動作が行われるので、一方向の端部に配置されるノズル開口の噴射頻度が低くなる場合であっても、当該ノズル開口の噴射特性を維持する又は回復させることができる。
【0010】
上記の液体噴射ヘッドにおいて、複数の前記ノズル開口の一部から前記液体が噴射されるときに、複数の前記ノズル開口のうち前記液体が噴射される前記ノズル開口とは異なる前記ノズル開口を前記所定のノズル開口として前記保湿動作を行うことが好ましい。
本発明によれば、複数のノズル開口の一部から液体が噴射されるときに、複数のノズル開口のうち液体が噴射されるノズル開口とは異なるノズル開口を所定のノズル開口として保湿動作が行われるので、噴射動作で用いられないノズル開口の噴射特性を維持する又は回復させることができる。
【0011】
上記の液体噴射ヘッドにおいて、前記制御部は、キャップ部によって複数の前記ノズル開口が覆われているときに、前記キャップに覆われた前記ノズル開口を前記所定のノズル開口として前記保湿動作を行うことが好ましい。
本発明によれば、キャップ部によって複数のノズル開口が覆われているときに、保湿動作を行われることとしたので、複数のノズル開口のうち所定のノズル開口を効率的に保湿することができる。
【0012】
上記の液体噴射ヘッドにおいて、前記所定のノズル開口によって前記液体の噴射が行われる場合に、前記液体の噴射に先立って、前記電極を介して印加した前記電圧を解除し前記所定のノズル開口周縁の前記絶縁体部を前記第一状態に戻すことで前記絶縁体部表面に保持させた前記液体を除去させることが好ましい。
本発明によれば、所定のノズル開口によって液体の噴射が行われる場合に、液体の噴射に先立って、電極を介して印加した電圧を解除し所定のノズル開口周縁の絶縁体部を第一状態に戻すことで絶縁体部表面に保持させた液体を除去させることとしたので、噴射特性が十分に維持され又は回復された状態のノズル開口を用いて液体の噴射を行うことができる。これにより、噴射特性を向上させることができる。
【0013】
本発明に係る液体噴射装置は、上記の液体噴射ヘッドを備える。
本発明によれば、クリーニング時におけるインクの排出量を低減することができる液体噴射ヘッドを備えるので、ランニングコストを低減することが可能な液体噴射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係るプリンターの構成を示す図。
【図2】ヘッドの内部構成を示す断面図
【図3】(a)ノズルプレートの噴射面の要部を示す図。(b)(a)のA−A線矢視断面図。
【図4】インク供給系の構造を示す図。
【図5】プリンターの電気的な構成を示すブロック図。
【図6】(a)〜(c)はノズルプレートの作用の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図においては、各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各部材毎に縮尺を異ならせている。
【0016】
図1は本発明の液体噴射装置の一実施形態の概略構成を示す図であり、図1中符号100は液体噴射装置としてのインクジェット方式のプリンターである。このプリンター100は、例えば紙、プラスチックシートなどのシート状の媒体Mを搬送しつつ印刷処理を行う装置である。プリンター100は、筐体101と、インクを吐出するインクジェット機構102と、該インクジェット機構102にインクを供給するインク供給機構103と、媒体Mを搬送する搬送機構104と、インクジェット機構102の保全動作を行うメンテナンス機構105と、これら各機構を制御する制御装置(制御部)106とを備えている。
【0017】
以下、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を適宜参照しつつ各構成要素の位置関係を説明する。本実施形態では、液体の噴射方向をZ方向とし、ヘッドの移動方向をY方向とし、Z方向とY方向とに直交する方向をX方向とした。
【0018】
筐体101は、Z方向から見るとY方向を長手とするように形成されている。筐体101には、前記のインクジェット機構102、インク供給機構103、搬送機構104、メンテナンス機構105及び制御装置106の各部が設けられている。また、筐体101には、プラテン13が設けられている。プラテン13は、媒体Mを支持する支持部材であり、筐体101内のX方向中央部に配置されている。プラテン13は、+Z方向に向けられた平坦面(図示せず)を有しており、この平坦面は、媒体Mを支持する支持面として用いられる。
【0019】
搬送機構104は、搬送ローラーや該搬送ローラーを駆動するモーターなどを有して構成されている。この搬送機構104は、筐体101の−X側から該筐体101の内部に媒体Mを搬送し、該筐体101の+X側から該筐体101の外部に排出する。また、搬送機構104は、筐体101の内部において、媒体Mがプラテン13上を通過するように該媒体Mを搬送する。さらに、搬送機構104は、制御装置106によって搬送のタイミングや搬送量などが制御されるようになっている。
【0020】
インクジェット機構102は、ヘッド110及びヘッド移動機構107を有している。ヘッド110は、インクを吐出する動作を行う。ヘッド110からインクIが吐出される動作について、「噴射」と「排出」とがある。「噴射」は、印刷を行う際に媒体Mに対してインクを吐出する動作を意味する。一方、「排出」は、メンテナンス動作など、印刷(噴射)以外の目的でヘッド110からインクを吐出する動作を意味するものとする。ヘッド移動機構107は、該ヘッド110を保持して移動させる。ここで、ヘッド110から吐出されるインクは、本実施形態では電解質を含有した導電性で水性のものである。
【0021】
ヘッド110は、本発明の液体噴射ヘッドの一実施形態となるもので、図2に示すようにヘッドケース18、流路ユニット19及びアクチュエータユニット20を備えている。
【0022】
ヘッドケース18は、中空部を有するように箱型に形成されている。ヘッドケース18の下端面には、流路ユニット19が接合されている。ヘッドケース18の内部に形成された中空部37内には、アクチュエータユニット20が収容されている。ヘッドケース18の内部には、高さ方向を貫通してケース流路25が設けられている。
【0023】
ケース流路25の上端は、図1に示したサブタンク2に接続されている。ケース流路25の下端は、流路ユニット19内の共通液体室44に連通されている。このような構成によって図1に示したインクカートリッジ6からのインクは、図2に示すケース流路25を通って共通液体室44側に供給される。
【0024】
アクチュエータユニット20は、櫛歯状に配置された複数の圧電振動子38と、該圧電振動子38を保持する固定板39と、圧電振動子38に対して制御装置106からの駆動信号を供給するフレキシブルケーブル40とを有している。圧電振動子38は、図2中下側端部が固定板39の下端面から突出するように固定されている。固定板39のうち圧電振動子38の固定された面とは異なる面が中空部37を区画するケース内壁面に接着されている。
【0025】
流路ユニット19は、振動板41、流路基板42及びノズルプレート43を有している。振動板41、流路基板42及びノズルプレート43は、積層された状態で接着されている。流路ユニット19は、共通液体室44から液体供給口45、圧力室46を通り、ノズルプレート43に形成されたノズル47に至るまでの一連の液体流路を構成している。圧力室46は、ノズル47の配列方向(ノズル列方向)に対して直交する方向が長手方向となるように形成されている。
【0026】
ノズルプレート43は、ヘッド110の吐出面110aを形成するもので、本実施形態では該ノズルプレート43の吐出面110aの要部を示す図3(a)に示すように、多数のノズル47が一列に整列配置されてなるノズル列48を形成している。ノズル47は、ノズルプレート43の吐出面110aに、インク(液体)を吐出するための開口(ノズル開口)47aを有している。ノズル開口47aは、例えば20〜30μm程度の径に形成されている。また、ノズルプレート43のうち各ノズル開口47aの周縁部には、テーパー状の傾斜部47b(図3(b)参照)が形成されている。傾斜部47bは、当該ノズル開口47aに近づくにつれて径が小さくなるように形成されている。
【0027】
また、このノズルプレート43には、図3(a)におけるA−A側断面図である図3(b)に示すように、吐出面110aに絶縁層(絶縁部)50が形成されている。絶縁層50は、ノズルプレート43の吐出面110aにおいて、ノズル開口47aと、ノズル開口47aの脇に設けられた第一電極52の露出部と、を除いたほぼ全面に形成されている。
【0028】
絶縁層50は、絶縁性を有しているとともに、電圧を印加していない状態(第一状態)においては、導電性を有し水性であるインクに対して撥液性を有している。したがって、絶縁層50は、当該第一状態においては、インクの濡れ性が低く、インクの接触角が大きくなるようになっている。このような絶縁層50としては、例えばテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂膜や、化学蒸着法で形成されるパレリン膜等が用いられる。
【0029】
傾斜部47bには、第一電極52が絶縁層50から露出した状態に設けられている。第一電極52の露出部は、ノズル開口47aの脇に形成されたもので、点状であってもノズル開口47aを囲む輪状であってもよく、線幅が例えば数十μm〜数百μm程度に形成されている。第一電極52は、後述するようにインクと直接接触することから、耐腐食性の高い金属、例えば金、白金、銀、チタン等によって形成されているのが好ましい。なお、これら第一電極52は、それぞれ配線(図示せず)を介して後述する制御部に接続され、さらに該制御部を介して電源(電圧印加手段)に接続されている。
【0030】
なお、本実施例では第一電極52はノズル開口47aの脇に形成されるものとしたが、ノズル開口47aから少量のインクが押し出された際に第一電極52の露出部がわずかでもインクに接する事が出来る構成であれば良く、例えば、ノズル47内のインク流路に対して露出するように設けても良い。
【0031】
また、ノズル列48の周囲には、第二電極53が形成されている。第二電極53は、絶縁層50の内面側、すなわちヘッド110の吐出面110aと反対の面側にて、該絶縁層50に当接して設けられている。なお、第二電極53は、絶縁層50のうちノズル開口47aの周囲に形成されたノズル周縁部分55に当接されており、絶縁層50を含む絶縁体により周囲から電気的に絶縁された状態になっている。
【0032】
また、これら第二電極53も、それぞれ配線(図示せず)を介して後述する制御部に接続され、さらに該制御部を介して電源(電圧印加手段)に接続されている。また、これら第二電極53も、例えば第一電極52と同様に金等の金属からなっている。
【0033】
このような構成のもとに第二電極53と前記第一電極52との間には、制御部を介して接続される電源によって所定の電圧が印加されるようになっている。所定電圧としては、第一電極52と第二電極53との電位差が後述する現象を生じさせるのに必要な大きさとなるように設定され、例えば220Vとされる。
【0034】
なお、第一電極52、第二電極53の形成法としては、例えば蒸着法やスパッタ法等の薄膜形成法と、エッチング等によるパターニング法とが好適に採用される。薄膜形成法によって金等の金属膜を形成した後、エッチングによって第一電極52及びこれに接続する配線パターン(図示せず)と、第二電極53及びこれに接続する配線パターン(図示せず)とをそれぞれ形成する。その後、これらを覆って絶縁層50を形成し、エッチングによって第一電極52を露出させることで、絶縁層50と、絶縁層50から露出した第一電極52と、絶縁層50の内面に当接する第二電極53とを、それぞれ形成することができる。
【0035】
図1に示すようにヘッド移動機構107は、キャリッジ4を有しており、該キャリッジ4には前記ヘッド110が固定されている。キャリッジ4は、筐体101の長手方向(Y方向)に架けられたガイド軸8に当接されている。ヘッド110及びキャリッジ4は、プラテン13の上方(+Z方向)に配置されている。
【0036】
ヘッド移動機構107は、キャリッジ4の他、パルスモーター9と、該パルスモーター9によって回転駆動される駆動プーリー10と、駆動プーリー10とは筐体101の幅方向の反対側に設けられた遊転プーリー11と、駆動プーリー10と遊転プーリー11との間に掛け渡されてキャリッジ4に接続されたタイミングベルト12とを有している。
【0037】
キャリッジ4は、タイミングベルト12に接続されており、該タイミングベルト12の回転に伴ってY方向に移動可能に設けられている。Y方向へ移動する際、キャリッジ4は、ガイド軸8によって案内されるようになっている。
【0038】
インク供給機構103は、ヘッド110にインクを供給するためのものである。インク供給機構103には、複数のインクカートリッジ6が収容されている。本実施形態のプリンター100は、インクカートリッジ6がヘッド110とは異なる位置に収容される構成(オフキャリッジ型)である。インク供給機構103は、ヘッド110とインクカートリッジ6とを接続する供給チューブTBを有している。インク供給機構103は、該供給チューブTBを介してインクカートリッジ6内に貯留されるインクをヘッド110に供給する、ポンプ機構(図示せず)を有している。
【0039】
メンテナンス機構105は、ヘッド110のホームポジションに配置されている。このホームポジションは、媒体Mに対して印刷が行われる領域から外れた領域に設定されている。本実施形態では、プラテン13の−Y側にホームポジションが設定されている。ホームポジションは、例えばプリンター100の電源がオフである時や長時間に亘って記録が行われない時、あるいはメンテナス作業を行う際にヘッド110が待機する場所である。
【0040】
メンテナンス機構105は、ヘッド110の吐出面110aを払拭するワイピング機構111と、該吐出面110aを覆うキャッピング機構112と、ヘッド110のノズル47からインクを排出するフラッシング処理を行うためのフラッシング機構115と、を有している。
【0041】
ワイピング機構111は、ヘッド110の吐出面110aと対向可能なワイピング部材(図示せず)を備えており、ワイピング部材によって吐出面110aを拭き取ることにより、該吐出面110aに残留したインクや該吐出面110aに付着している異物を除去する。
【0042】
図1に示すようにキャッピング機構112には、例えば吸引ポンプなどの吸引機構113が接続されている。この吸引機構113によってキャッピング機構112は、ヘッド110の吐出面110aを覆いつつ、該吐出面110a上の空間を吸引できるようになっている。このように吸引を行うと、ヘッド110内のインクがノズル47を通って吸引される。その際、インクは吐出面110a全体を濡らすようになる。したがって、このような吸引動作の後、前記のワイピング機構111によって吐出面110aをワイピングする。
なお、ヘッド110からメンテナンス機構105側に排出された廃インクは、例えば廃液回収機構(図示せず)において回収されるようになっている。
【0043】
フラッシング機構115は、例えばフラッシングボックス(図示せず)を備え、ヘッド110の各ノズル47から該フラッシングボックス内に向けてインクを強制的に排出させることにより、インクが増粘することによる目詰まりを未然に防ぐようにしたものである。
【0044】
また、本実施形態に係るプリンター100は、図4に示すようにインクカートリッジ6内に設けられたインクパック6aを加圧することで、供給チューブTBを介してインクをヘッド110側に供給する供給システム300を有している。供給システム300は、膨縮することでインクパック6aを加圧可能な膨縮部材301と、ポンプ302と、ポンプ302から送られる空気を膨縮部材301に搬送する搬送チューブ303と、を備えている。なお、ポンプ302は制御装置106に電気的に接続されており、その駆動が制御装置106によって制御されるようになっている。
【0045】
ポンプ302は大気開放が可能な構成とされている。これによって供給システム300は、搬送チューブ303を介して圧縮空気を供給したことで膨らんだ膨縮部材301がインクパック6aを押圧する動作、及び大気開放によりインクパック6aを押圧する膨縮部材301が縮小する動作、を繰り返すことにより、インクパック6aから供給チューブTBを介してインクをヘッド110に効率良く圧送し、供給できるようになっている。搬送チューブ303にはバルブV1が設けられており、バルブV1は制御装置106によってその開閉動作が制御されるようになっている。
【0046】
制御装置106は、インクパック6aからヘッド110にインクを供給する際、前記バルブV1を開いた状態でポンプ302を駆動するようになっている。
【0047】
また、制御装置106は、プリンター100の電源(図示せず)に接続されている。さらに、図1に示すように制御装置106は、ヘッド110に設けられた第一電極52と第二電極53との間に所定の電圧を印加するための電源(電圧印加手段)の、オンオフ制御を行う。
【0048】
なお、第一電極52と第二電極53との間に所定の電圧を印加するための電源(電圧印加手段)は、プリンター100の電源から得るようになっている。
【0049】
図5は、プリンター100の電気的な構成を示すブロック図である。プリンター100は、プリンター100全体の動作を制御する制御装置106を備えている。制御装置106には、プリンター100の動作に関する各種情報を入力する入力装置IP、プリンター100の動作に関する各種情報を記憶した記憶装置MRなどが接続されており、前述した搬送機構104や、ヘッド移動機構107、メンテナンス機構105等が接続されている。また、制御装置106は前述したようにヘッド110の第一電極52と第二電極53との間への電圧の印加のオンオフや、メンテナンス機構105のワイピング機構111、キャッピング機構112等を制御するようになっている。
【0050】
次に、前記構成のプリンター100のヘッド110のメンテナンス動作を説明する。
本実施形態では、ヘッド110のメンテナンス動作として、ワイピング機構111を用いてヘッド110の吐出面110aを払拭するワイピング動作、キャッピング機構112を用いて当該吐出面110aを覆うキャッピング動作、複数のノズル開口47aからキャッピング機構112などに対してインクを排出させるクリーニング動作、ノズル開口47aを保湿させる保湿動作などがある。
【0051】
以下、ノズル開口47aの保湿動作について説明する。この動作においては、まず、制御装置106によってヘッド110の第一電極52と第二電極53との間に所定電圧を印加しておく。
【0052】
すると、図6(a)に示すようにヘッド110の吐出面110aは、第一電極52が例えば負の電位となり、第二電極53がその逆の電位、すなわち正の電位となる。
【0053】
このような状態のもとで供給システム300によってインクをノズル開口47aから排出させると、インクは絶縁層50のノズル周縁部分55を濡らすようになる。すると、図6(b)に示すようにノズル周縁部分55を濡らしたインクIは、その一部が露出した第一電極52に接触することで、全体が負の電位となる。これにより、インクIは、第二電極53に当接する絶縁層50上に濡れ拡がり、ここに良好に保持される。
【0054】
このようにノズル周縁部分55にインクIが保持されることにより、ノズル開口47aをインクで覆うことになり、ノズル47内でのインクI(液体)の増粘が抑制される。このようにして、ノズル47の保湿動作が行われる。なお、ノズル開口47aから増粘したインクを排出させるクリーニング動作については、保湿動作によりノズル47内のインクの増粘が抑制されるため、これを省略し、またはその頻度を従来に比べ少なくすることができる。
【0055】
ここで、保湿動作時に起きる現象について説明する。絶縁膜によって電極が導電性を有する液体から絶縁されている際に、電極と液体との間に電圧を印加すると、電極と液体との間に電位差が存在しない場合と比べて、絶縁膜表面と液体との間の接触角が小さくなる現象が起きる。
つまり、電極(第二電極53)と液体(インクI)との間に電圧を印加すると、電極53と液体Iとの間に電位差が存在しない場合と比べて、見かけ上、絶縁膜(絶縁層50)表面の撥液性が低下し、濡れ性が高くなる。この濡れ性が高くなった状態を、親液性を有する状態と呼ぶ。
【0056】
よって、ノズル周縁部分55に濡れているインクIが絶縁層50から露出している第一電極52と接触して負の電位になると、第二電極53に当接する絶縁層50との間で電位差が生じ、これによって該絶縁層50表面はその撥液性が見かけ上低下し、濡れ性が高くなって親液性となる。これにより、ノズル周縁部分55に濡れたインクIは、第二電極53に当接する絶縁層50に良好に保持されるようになる。なお、このような現象は、第一電極52を正の電位にし、第二電極53を負の電位にしても、同様に起こる。
【0057】
また、本実施形態では、ヘッド110の吐出面110aのうちノズル周縁部分55が当該ノズル開口47a側に傾斜する構成となっているため、各ノズル開口47aから排出されたインクを傾斜部分に収容させることができる。このため、隣接するノズル開口47aへインクが流出するのを防ぐことができる。このように、ノズル開口47aごとに加圧することにより個別にインクを排出させる構成において、1つ1つのノズル開口47aについて、個別に保湿動作を行わせることができる。
【0058】
一方、第一電極52と第二電極53との間における電圧の印加を解除すると、上記現象が起きないため、該絶縁層50は撥液性の状態に維持され、インクIの接触角が大きくなる。すると、吐出面110aが下方に向いていることから、図6(c)に示すように、インクIが下方に垂れたり、ノズル周縁部分55の傾斜に沿って移動したりする。
【0059】
したがって、保湿動作を終了させる場合には、まず、第一電極52と第二電極53との間における電圧の印加を解除する。この動作により、ノズル周縁部分55に保持されたインクIは、上記のように下方に垂れたり、あるいはノズル周縁部分55の傾斜に沿って移動したりする。その後、例えばワイピング機構111などによって吐出面110aを払拭することにより、当該吐出面110aからインクIが除去される。
【0060】
なお、制御装置106は、上記の保湿動作を行う対象となるノズル開口(所定のノズル開口)47aを設定することができる。例えば、制御装置106は、ノズル開口47aのうち非噴射期間(インクの噴射が行われない期間)が所定期間を超えたノズル開口47aについて上記の保湿動作を行わせるようにしても良い。非噴射期間が所定期間を超えたノズル開口47aについては、ノズル47においてインクIが増粘している場合がある。そこで、このようなノズル開口47aに対して保湿動作を行うことにより、ノズル開口47aの噴射特性を維持する又は回復させることができる。所定期間については、例えば一日以上の期間に設定することができる。
【0061】
また、制御装置106は、複数のノズル開口47aのうち、配列方向(一方向)の端部に配置されるノズル開口47aについては、他のノズル開口47aに比べて噴射頻度が低くなる場合がある。そこで、配列方向の端部に配置されるノズル開口47aに対して保湿動作を行うことにより、当該端部に配置されるノズル開口47aの噴射頻度が低くなっても、当該ノズル開口47aの噴射特性を維持する又は回復させることができる。
【0062】
また、制御装置106は、ヘッド110に設けられた複数のノズル開口47aのうち一部のノズル開口47aを用いて媒体Mに対して噴射動作を行う場合、インクの噴射に用いられるノズル開口47aとは異なるノズル開口47aに対して保湿動作を行うようにしても良い。この場合、噴射動作で用いられないノズル開口47aの噴射特性を維持する又は回復させることができる。
【0063】
また、制御装置106は、キャッピング機構112を用いて、ヘッド110の吐出面110aを覆う場合に、キャッピング機構112によって複数のノズル開口47aが覆われているときに保湿動作を行わせることができる。この場合、ノズル周縁部分55に保持されたインクによってキャッピング機構112と吐出面110aとの間が保湿されることになるため、効率的な保湿が可能となる。
【0064】
また、制御装置106は、保湿動作が行われた状態のノズル開口47aを用いて噴射動作を行おうとする場合、噴射に先立って、ノズル周縁部分55に印加された電圧を解除してノズル周縁部分を第一状態(電圧が印加されていない状態)に戻すことで、ノズル周縁部分55に保持させたインクを除去させるようにする。この動作により、噴射特性が十分に維持され又は回復された状態のノズル開口47aを用いて液体の噴射を行うことができる。これにより、噴射特性を向上させることができる。そして、制御装置106は、インクを除去させた後、ノズル開口47aから媒体Mに対してインクを噴射させて印刷動作を行う。
【0065】
以上のように、本実施形態によれば、制御装置106において、複数のノズル開口47aのうち所定のノズル開口47aからインクを排出させる排出動作を行わせると共に、絶縁層50のうち所定のノズル開口47aの周囲のノズル周縁部分55に対して電圧を印加しノズル周縁部分55をインクに対して親液性を有する第二状態とすることでインクをノズル周縁部分55に保持させて所定のノズル開口47aを保湿させる保湿動作を行わせることとしたので、インクの排出量を抑制しつつ、ノズル開口47aの噴射特性を維持する又は回復させることができる。これにより、クリーニング時におけるインクの排出量を低減することができる。
【0066】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態においては、ヘッド110の吐出面110aの形状について、ノズル開口47aの周縁部分をノズル開口47aへ向けて傾斜させる構成としたが、これに限られることは無く、平坦に形成しても構わない。この場合、例えば第二電極53をノズル開口47aごとに個別に形成することにより、ノズル開口47aごとに保湿動作を行わせることができる。
【0067】
また、上記実施形態においては、保湿動作を行う際に、第二電極53に対して一様に電圧を印加する構成を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、ノズル開口47aからの距離(径方向の距離)に応じて、印加される電圧が異なるように調整できる構成としても良い。これにより、保湿動作の際のインクの保持量を調整することができる。
【0068】
また、上記実施形態において、制御装置106は、プリンター100の置かれる環境やインクの種類などに応じて、保湿動作を行うノズル開口47aを適宜変更しても構わない。例えば、高温下又は乾燥雰囲気下においては、保湿動作を行うための非噴射期間の所定期間を通常の環境下よりも短く設定することができる。また、制御装置106は、ブラックインクとカラーインクとの間で、上記所定期間を異なる値に設定することができる。また、インクの溶媒の種類に応じて上記値を設定することもできる。
【0069】
また、上記実施形態においては、液体噴射装置として、シリアル型のプリンター100を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、例えばライン型のプリンターにおいても、本発明の適用は可能である。ライン型のプリンターにおいては、ノズル開口の数が多くなるため、ノズル開口を個別に保湿することの利点は大きくなる。
【符号の説明】
【0070】
100…プリンター 47a…ノズル開口 48…ノズル列 50…絶縁層 52…第一電極 53…第二電極 55…ノズル周縁部分 101…筐体 102…インクジェット機構 103…インク供給機構 104…搬送機構 105…メンテナンス機構 106…制御装置 107…ヘッド移動機構 110…ヘッド 110a…吐出面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が噴射されるノズル開口が複数設けられたノズルプレートと、
前記ノズルプレートのうち前記液体の噴射方向の下流側の面に設けられ、前記ノズル開口の周囲が前記液体に対して撥液性を有する第一状態となるように形成された絶縁部と、
前記液体と前記ノズル開口の周縁部との間に電圧を印加することで前記ノズル開口周縁の前記絶縁部を前記液体に対し親液性を有する第二状態とする電極と、
を有し、
複数の前記ノズル開口のうち所定の前記ノズル開口から前記液体を排出させる排出動作を行わせると共に、前記所定のノズル開口周縁の前記絶縁体部を前記第二状態とすることで前記所定のノズル開口周縁の前記絶縁体部表面に前記液体を保持させて前記所定のノズル開口を保湿させる保湿動作を行うことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
複数の前記ノズル開口のうち非噴射期間が所定期間を超えた前記ノズル開口を前記所定のノズル開口として前記保湿動作を行う
請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
複数のノズル開口は、一方向に並んで配置されており、
複数の前記ノズル開口のうち前記一方向の端部に配置される前記ノズル開口を前記所定のノズル開口として前記保湿動作を行う
請求項1又は請求項2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
複数の前記ノズル開口の一部から前記液体が噴射されるときに、複数の前記ノズル開口のうち前記液体が噴射される前記ノズル開口とは異なる前記ノズル開口を前記所定のノズル開口として前記保湿動作を行う
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
キャップ部によって複数の前記ノズル開口が覆われているときに、前記キャップに覆われた前記ノズル開口を前記所定のノズル開口として前記保湿動作を行う 請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記所定のノズル開口によって前記液体の噴射が行われる場合に、前記液体の噴射に先立って、前記電極を介して印加した前記電圧を解除し前記所定のノズル開口周縁の前記絶縁体部を前記第一状態に戻すことで前記絶縁体部表面に保持させた前記液体を除去させる
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−91174(P2013−91174A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233052(P2011−233052)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】